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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1366065
異議申立番号 異議2019-700564  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-19 
確定日 2020-07-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6454981号発明「半導体積層体および受光素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6454981号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6454981号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第6454981号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成26年4月24日に出願され、平成30年12月28日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月23日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和元年 7月19日 :特許異議申立人 角田朗(以下「申立人」とい
う。)による特許異議の申立て
令和元年 9月20日付け:取消理由通知書(以下「取消理由」という。)
令和元年11月21日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和元年12月25日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和2年 1月20日付け:取消理由通知書(決定の予告。以下「取消理由
(決定の予告)」という。)
令和2年 3月17日 :特許権者による意見書の提出

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア及びイのとおりである。
ア 特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりに訂正する(以下「訂正事項1」という。)。
特許請求の範囲の請求項1の「前記不純物の活性化率は30%以上であり」との記載を、「前記不純物の活性化率は80%以上であり」に訂正する。

イ 請求項1の記載を引用する請求項2?6も同様に訂正する(以下「訂正事項2」という。)。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項1は、請求項1において、「不純物の活性化率」について、訂正前に「30%以上」であったものを、「80%以上」に限定することで、特許請求の範囲を減縮するものであるから、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、発明特定事項である「不純物の活性化率」を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(ウ)新規事項の有無
訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願明細書等」という。)に基づいて導き出される構成であり、当該不純物の活性化率を限定することによる作用効果も、本願明細書等に記載されたものであるから、当該訂正事項1は、本願明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

イ 訂正事項2
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正事項1と同じ訂正であるから、上記「ア」「(ア)」と同じ理由により、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、訂正事項1と同じ訂正であるから、上記「ア」「(イ)」と同じ理由により、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(ウ)新規事項の有無
訂正事項2は、訂正事項1と同じ訂正であるから、上記「ア」「(ウ)」と同じ理由により、当該訂正事項2は、許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

(3)訂正前の請求項1ないし6については、特許異議の申立てがされているため、訂正前の請求項1ないし6に係る訂正事項1及び2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件を要しない。

(4)一群の請求項
訂正事項1及び2に係る訂正前の請求項1ないし6は、当該訂正事項1を含む請求項1の記載を訂正前の請求項2ないし6がそれぞれ引用しているものであるから、これらに対応する訂正後の請求項〔1?6〕は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許第6454981号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

3.本件訂正発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれを「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明6」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
InPからなる基板と、
前記基板上に配置され、III-V族化合物半導体からなる半導体層と、を備え、
前記基板の、多数キャリアを生成する不純物であるSの濃度は1×10^(17)cm^(-3)以上2×10^(20)cm^(-3)以下であり、前記不純物の活性化率は80%以上であり、
前記基板の導電型はn型である、半導体積層体。
【請求項2】
前記半導体層は量子井戸層を含む、請求項1に記載の半導体積層体。
【請求項3】
前記量子井戸層の厚みは1μm以上である、請求項2に記載の半導体積層体。
【請求項4】
前記量子井戸層はIn_(x)Ga_(1-x)As(0.38≦x≦1)層とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦1)層とが交互に積層された構造、またはGa_(1-u)In_(u)N_(v)As_(1-v)(0.4≦u≦0.8、0<v≦0.2)層とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦0.62)層とが交互に積層された構造を有している、請求項2または請求項3に記載の半導体積層体。
【請求項5】
前記半導体層は有機金属気相成長法により形成されている、請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の半導体積層体。
【請求項6】
請求項1?請求項5のいずれか1項に記載の半導体積層体と、
前記半導体積層体の前記基板の、前記半導体層とは反対側の主面上に形成された電極と、を備えた、受光素子。」

4.特許異議の申立ての概要について
(1)本件特許発明1は、後記の申立人提出の甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許発明1についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。

(2)本件特許発明1ないし6は、後記の申立人提出の甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項から容易に想到し得るものであるから、本件特許発明1ないし6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)本件特許発明1ないし6は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件特許発明1ないし6についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(4)本件特許発明1ないし6は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許発明1ないし6についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

5.取消理由通知に記載した取消理由について
訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が令和元年9月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)[理由1](サポート要件)
特許第6454981号(以下「本件特許」という。)は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)[理由2](実施可能要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)[理由3](新規性)
請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された後記甲1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(4)[理由4](進歩性)
請求項1ないし6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された後記甲1ないし6に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

6.甲号証に記載された事項及び甲号証に記載された発明
6-1 甲各号証は次のとおりである。
(1)甲1:「High Quality InP Substrates Grown by the VCZ Method」Proceedings of 8th International Conference on Indium Phosphide and Related Materials, PP.35-38, 1996(申立人提出の甲第1号証)
(2)甲2:国際公開第2011/016309号(申立人提出の甲第2号証)
(3)甲3:特開2008-78261号公報(申立人提出の甲第3号証)
(4)甲4:特開2012-38766号公報(申立人提出の甲第4号証)
(5)甲5:国際公開第2006/030565号(申立人提出の甲第5号証)

6-2 甲1ないし甲5には、下記(1)ないし(5)に摘記した事項が記載され、下記に示した発明ないし記載された事項が記載されていると認められる。
(1)甲1について
ア 本願出願の出願前に頒布された甲1には、下記の事項が記載されている(訳は当審が作成した。下線は当審が付した。以下同じ。)。
(ア)「InP single crystals have been used as the substrates for optical devices such as LDs, LEDs and PDs and for electronic devices such as HEMTs, HBTs and OEICs. 」(1頁左下欄2?5行)
(訳:InP単結晶は、レーザーダイオード、発光ダイオード及びフォトダイオードなどの光学デバイス、および、高電子移動度トランジスタ、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ及び光電子集積回路などの電子デバイスの基板として使用されてきた。)

(イ)「Experimental
・・・
The crystals were pulled in a <100> direction at a rate of 4-6mm/H. For S-doped InP, the S concentration was in the range of 2-6×10^(18)cm^(-3)and for Fe-doped InP, the Fe concentration was in the range of 1-6×10^(16)cm^(-3).」(1頁右下欄1行、12?16行)
(訳:実験
・・・
結晶は、4?6mm/時の速度で<100>方向に引き上げられた。SドープInPの場合、Sの濃度は2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲であり、FeドープInPの場合、Feの濃度は1?6×10^(16)cm^(-3)の範囲であった。)

(ウ)「Results and discussions
・・・
Fig.3 shows the low EPD area of S-doped crystals as a function of carrier concentration.」(2頁左下欄10行、右下欄9?11行)
(訳:結果と考察
・・・
図3は、キャリア濃度の関数としてのSドープ結晶の低EPD面積を示している。)

(エ)Fig.3は次のものである。
[Fig.3]

(訳
[図3]

図3 SドープInPのキャリア濃度の関数としての低EPD面積)

(オ)上記(ア)ないし(ウ)の記載を踏まえて、上記(エ)の図3を見ると、VCZ(Vapor pressure controlled Czochralski/蒸気圧制御チョクラルスキー)法による基板のSキャリア濃度は、図3の上の図で3?6×10^(18)cm^(-3)の範囲、図3の下の図で3?5×10^(18)cm^(-3)の範囲であることが見てとれる。

イ 上記アによれば、甲1には、下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「VCZ(蒸気圧制御チョクラルスキー)法により、<100>方向に4?6mm/時の速度で引き上げられたSドープInP単結晶であって、
Sの濃度を2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲とした前記SドープInP単結晶のSキャリア濃度は、3?5×10^(18)cm^(-3)の範囲であり、
前記SドープInP単結晶を基板として使用したレーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオードである光デバイス。」

(2)甲2について
ア 本願出願の出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2には、下記の事項が記載されている。
(ア)「技術分野
[0001] 本発明は、III-V族の半導体素子およびその製造方法であって、より具体的には、能率よく製造することができる、近赤外の長波長域にまで受光感度を持つ高品質の多重量子井戸構造を含む、半導体素子およびその製造方法に関するものである。
[0002] III-V族化合物半導体であるInP基板上に、InGaAs/GaAsSbのタイプIIの多重量子井戸構造を形成することで、カットオフ波長2μm以上を得ることができるフォトダイオードが開示されている(非特許文献1)。
またInP基板上に、InGaAs-GaAsSbのタイプII型量子井戸構造を活性層として形成し、発光波長2.14ミクロンとなるLEDの開示もなされている(非特許文献2)。
さらに、GaInNAsSb量子井戸構造を有する半導体レーザー素子の開示がなされている(特許文献1)。このGaInNAsSb量子井戸構造は、単一量子井戸構造(すなわち、ペア数=1)である。」

(イ)「[0015] 多重量子井戸構造に、In_(x)Ga_(1-x)As(0.38≦x≦0.68)とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦0.62)のペア、または、Ga_(1-u)In_(u)N_(v)As_(1-v)(0.4≦u≦0.8、0<v≦0.2)とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦0.62)のペア、で構成されるタイプII型の多重量子井戸構造を備えることができる。
これによって、エネルギバンドギャップから決まる波長が2μm?5μmとなる半導体素子を、不純物濃度を低く、かつ良好な結晶性を保持した上で、能率良く、大量に製造することができる。
[0016] 半導体素子が受光素子であり、該受光素子は、受光層に、In_(x)Ga_(1-x)As(0.38≦x≦0.68)とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦0.62)のペア、または、Ga_(1-u)In_(u)N_(v)As_(1-v)(0.4≦u≦0.8、0<v≦0.2)とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦0.62)のペア、で構成されるタイプII型の多重量子井戸構造を備えることができる。これによって、2μm?5μmの波長領域に受光感度を持つフォトダイオード等を、良好な結晶性を保持した上で、能率良く、大量に製造することができる。」

(ウ)「[0037] (実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における半導体素子の製造方法によって製造された多重量子井戸構造を示す断面図である。多重量子井戸構造3は、Sをドープしたn型InP基板1の上に、InGaAsバッファ層2を介在させて形成されている。多重量子井戸構造3における量子井戸のペアは、厚み5nmのGaAsSb3aと、厚み5nmのInGaAs3bとからなる。いずれも、ノンドープである。GaAsSb3aが、InGaAsバッファ層に、直接、接して形成される。本実施の形態では、多重量子井戸構造3は、250ペアの量子井戸を備えている。本実施の形態では、250ペアの量子井戸からなる多重量子井戸構造3が、全有機MOVPE法で形成された点に特徴がある。」

(エ)「[0046] (実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2における半導体素子を示す断面図である。この半導体素子10は、フォトダイオードの受光素子である。n型InP基板1/バッファ層2/タイプIIの多重量子井戸構造3(InGaAs3a/GaAsSb3b)、の段階までは、実施の形態1の図1の構造と同じである。タイプIIの多重量子井戸構造3の上には、あとで詳しく説明する拡散濃度分布を調整する作用を担うInGaAs層4が位置し、そのInGaAs層4の上にInP窓層5が位置している。InP窓層5の表面から、所定領域にp型不純物のZnが導入されてp型領域15が設けられ、その先端部にpn接合またはpi接合が形成される。このpn接合またはpi接合に、逆バイアス電圧を印加して空乏層を形成して、光電子変換による電荷を捕捉して、電荷量に画素の明るさを対応させる。p型領域15またはpn接合もしくはpi接合は、画素を構成する主要部である。p型領域15にオーミック接触するp側電極11は画素電極であり、共通の接地電位にされるn側電極(図示せず)との間で、上記の電荷を画素ごとに読み出す。p型領域15の周囲の、InP窓層表面は絶縁保護膜9によって被覆される。
多重量子井戸構造を形成したあと、InP窓層5の形成まで、全有機MOVPE法によって同じ成膜室または石英管35の中で成長を続けることが、一つのポイントになる。すなわち、InP窓層5の形成の前に、成膜室からウエハ10aを取り出して、別の成膜法によってInP窓層5を形成することがないために、再成長界面を持たない点が一つのポイントである。すなわち、InGaAs層4とInP窓層5とは、石英管35内において連続して形成されるので、界面17は再成長界面ではない。このため、酸素および炭素の濃度がいずれも所定レベル以下であり、p型領域15と界面17との交差線において電荷リークが生じることはない。」

(オ)図5は次のものである。
[図5]


イ 上記アによれば、甲2には、下記の事項(以下「甲2に記載された事項」という。)が記載されている。
「InP基板上に、InGaAs/GaAsSbのタイプIIの多重量子井戸構造を形成したフォトダイオードであって([0002])、
多重量子井戸構造は、In_(x)Ga_(1-x)As(0.38≦x≦0.68)とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦0.62)のペア、または、Ga_(1-u)In_(u)NvAs_(1-v)(0.4≦u≦0.8、0<v≦0.2)とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦0.62)のペア、で構成され([0015])、
Sをドープしたn型InP基板の上の多重量子井戸構造における量子井戸のペアは、厚み5nmのGaAsSbと、厚み5nmのInGaAsとからなり、250ペアの量子井戸であって、前記250ペアの量子井戸からなる多重量子井戸構造が、全有機MOVPE法で形成され([0037])、
n型InP基板/バッファ層/タイプIIの多重量子井戸構造(InGaAs/GaAsSb)、前記多重量子井戸構造の上には、InGaAs層が位置し、そのInGaAs層の上にInP窓層が位置し、前記InP窓層の表面から、所定領域にp型不純物のZnが導入されてp型領域が設けられ、前記p型領域にオーミック接触する画素電極であるp側電極が設けられ、共通の接地電位にされるn側電極との間で、電荷を画素ごとに読み出すフォトダイオード([0046])。」

(3)甲3について
ア 本願出願の出願前に頒布された甲3には、下記の事項が記載されている(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体受光素子およびその製造方法に関し、より具体的には光通信用の長波長域の半導体受光素子およびその製造方法に関するものである。」

(イ)「【実施例】
【0023】
(実施例1)
図3は、実施例1における本発明例の半導体受光素子を説明するためのエピタキシャル積層構造を示す図である。MBE成長により図3のようなフォトダイオード用エピタキシャル積層結晶を形成した。基板は、(001)面を有する2インチのSドープInP基板11を用いた。エピタキシャル成長の原料には、固体Ga,In,Al,As,Siと、ECR窒素ラジカルを用いた。各層の成長温度は470℃で、成長速度は1.4μm/時間とした。バッファ層には、上記したようにInGaAs層12を使用した。InGaAs層12の膜厚は1.5μmであり、成長時にSiを供給してn導電型とした。キャリア濃度は5×10^(16)cm^(-3)とした。組成については、このあと説明する。
【0024】
次に、GaInNAs(Ga_(y)In_(1-y)N_(z)As_(w))からなる受光層13を成長した。受光層13の膜厚は2.5μmとした。Ga組成は17%(y=0.17)、In組成は83%(1-y=0.83)、N組成は10%(z=0.1)、As組成は90%(w=0.9)とし、InP基板に格子整合させている。ドーピングは行っていない。次に、(Al_(x)In_(1-x)As)からなる窓層14を成長した。膜厚は0.6μmとし、In組成は52%(1-x=0.52)で、InP基板に格子整合させている。InGaAsバッファ層12には表面側にN含有InGaAs層12aが形成される。」

イ 上記アによれば、甲3には、下記の事項(以下「甲3に記載された事項」と
いう。)が記載されている。
「SドープInP基板を用い、GaInNAs(Ga_(y)In_(1-y)N_(z)As_(w))からなる受光層を成長した半導体受光素子。」

(4)甲4について
ア 本願出願の出願前に頒布された甲4には、下記の事項が記載されている
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、画素等の電極が配列された受光素子アレイと、その電極から電荷を読み出す読み出し電極が配列された読み出し回路とが結合された検出装置、受光素子アレイ、半導体チップおよび光学センサ装置、並びに、検出装置、受光素子アレイおよび読み出し回路の製造方法に関するものである。」

(イ)「【0027】
図3(a),(b)は、図2(a)に示した検出装置10を構成する受光素子アレイ50などを具体的に示す図である。図3(a)において、受光素子アレイ50は、n型InP基板1/n型InPバッファ層またはn型InGaAsバッファ層2/受光層(光吸収層)3/InPキャップ層4、のエピタキシャル積層体7に形成されている。画素Pには、InPキャップ層4からp型不純物の亜鉛(Zn)が選択拡散されて受光層3に届くp型領域6が形成され、p型領域6の先端部にpn接合15が形成されている。p型領域6は受光層3にまで届き、pn接合15は受光層3内に位置している。画素Pを構成する受光素子の主体をなすp型領域6は、隣り合うp型領域とは選択拡散されていない領域によって隔てられている。このためメサ構造などを形成することなく簡単な構造により、暗電流の低い受光素子アレイ50を得ることができる。
p型領域6には、p側電極11すなわち画素電極11がオーミック接触しており、画素電極11と接合バンプ9とは導電接続している。画素電極11は、InPキャップ層4にオーミック接触する電極部11aとそれを被覆する被覆金属11bとで構成される。バンプ9は被覆金属11b上に形成される。p型領域6/画素電極11を含む領域からなる単位の受光素子が、画素Pに対応する部分である。画素電極11に対して共通のグランド(接地)電位を与えるn側電極12は、n型InP基板1の裏面にオーミック接触されている。
光が入射される入射面となるInP基板1の裏面にはSiON膜の反射防止膜35が配置されている。また、p型領域6を形成する選択拡散に用いられたSiNの選択拡散マスクパターン36は、そのまま残されている。その選択拡散マスクパターン36の開口部またはInPキャップ層4の表面、および当該選択拡散マスクパターン36を被覆するパッシベーション膜43が設けられている。
一方、ROICを構成するCMOS70では、画素電極11に対応する位置に、パッド71aと被覆金属71bとで構成される読み出し電極71が形成されている。画素電極11上のバンプ9と、読み出し電極71上のバンプ39とが、圧着されることで、接合されたバンプ9,39が形成される。
【0028】
図3(a)において、受光素子アレイ50の受光層3は波長1μm?3μmのいずれかの波長域に受光感度を持てば、どのような受光層でもよい。たとえばInGaAsNP、InGaAsNSb、およびInGaAsNのうちのいずれかとすることができる。
また、とくに上記の波長域の長波長側に感度を持たせる場合は、受光層3をタイプ2のMQWで構成するのがよい。受光層3がタイプ2のMQWの場合には、p型不純物である亜鉛(Zn)を拡散するとき、良好な結晶性を確保するためMQWにおけるZn濃度を所定レベル以下に抑制するのがよい。このために、図示しない拡散濃度分布調整層をInPキャップ層4の側に設ける。図3(a)において、受光層3をMQWとする場合には、拡散濃度分布調整層が受光層3内のInPキャップ層4の側に含まれていると考えるのがよい。受光層3とキャップ層4との間に、図示しない拡散濃度分布調整層を挿入する場合、拡散濃度分布調整層はバンドギャップエネルギが比較的低いために不純物濃度が低い厚み部分(受光層側の所定厚み部分)があっても電気抵抗が大きくなりにくいInGaAsで形成するのがよい。この拡散濃度分布調整層の挿入によって、結晶性に優れたタイプ2MQWを得ることができる。MQWには、GaAsSb/InGaAs、GaAsSb/InGaAsN、GaAsSb/InGaAsNP、GaAsSb/InGaAsNSb、などを用いるのがよい。これらのタイプ2MQWは、サブバンドを含めバンドギャップ波長が1.65μm以上3μm以下にあり、上記の長波長域に受光感度を持つ。」

イ 上記アによれば、甲4には、下記の事項(以下「甲4に記載された事項」という。)が記載されている。
「n型InP基板/n型InPバッファ層またはn型InGaAsバッファ層/受光層(光吸収層)/InPキャップ層、のエピタキシャル積層体に形成されている受光素子アレイであって、前記受光素子アレイ50の受光層3のMQWには、GaAsSb/InGaAs、GaAsSb/InGaAsN、GaAsSb/InGaAsNP、GaAsSb/InGaAsNSbを用いる点。」

(5)甲5について
ア 本願出願の出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5には、下記の事項が記載されている。
(ア)「技術分野
[0001] 本発明は、化合物半導体からなるエピタキシャル結晶の成長方法に関し、特に、所望のキャリア濃度を有するエピタキシャル結晶を成長させるときのドーピング条件を容易に設定する技術に関する。

背景技術
[0002] 従来、発光素子や受光素子等の半導体素子の用途には、InP基板上にInP等のI-V族系化合物半導体層をエピタキシャル成長させた半導体ウェハが広く用いられている。この化合物半導体のエピタキシャル層は、例えば、有機金属気相成長法(以下、MOCVD法と称する)により形成される。」

(イ)「[0029] これらのInP基板を用いて、MOCVD法により該基板上に所定の流量でドーパントとしてH_(2)S(硫化水素)を添加しながらエピタキシャル結晶を成長させ、該エピタキシャル結晶のキャリア濃度及びヘイズを測定した。
(1)Sドープ濃度が4×10^(18)cm^(-3)、350mm厚のInPジャスト基板を用い、MOCVD法によりInPエピタキシャル結晶層を1μm形成した。このとき、ドーパント流量は110sccmとした。得られたエピタキシャル結晶層は、ヘイズが3.87ppmで、キャリア濃度が1.2×10^(18)cm^(-3)であった。」

イ 上記アによれば、甲5には、下記の事項(以下「甲5に記載された事項」という。)が記載されている。
「Sドープ濃度が4×10^(18)cm^(-3)、350mm厚のInPジャスト基板を用い、有機金属気相成長法(MOCVD法)によりInPエピタキシャル結晶層を1μm形成する点。」

7.当審の判断
7-1 取消理由の[理由1](上記「5.」「(1)」)、申立人の理由(上記「4.」「(4)」))について
(1)本件訂正発明1は、半導体積層体を構成するInPからなる基板における「多数キャリアを生成する不純物であるS」について、「濃度は1×10^(17)cm^(-3)以上2×10^(20)cm^(-3)以下であり」、「活性化率は80%以上であ」ることを発明特定事項とするものである。

(2)上記(1)の発明特定事項に関して、本件の発明の詳細な説明には、下記の記載がある(下線は当審が付した。)。
(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、上記受光素子に対しては、感度の向上や消費電力の低減などの要求がある。しかし、上述のようなキャリア濃度を規定する対応では、十分な感度を確保しつつ消費電力を低減することが難しい場合がある。
【0006】
そこで、受光素子の十分な感度を確保しつつ消費電力を低減することを可能とする半導体積層体および受光素子を提供することを目的の1つとする。・・・
【0011】
本発明者らは、受光素子に十分な感度を付与しつつ消費電力を低減する方策について検討を行い、以下のような知見を得た。III-V族化合物半導体からなる基板上にIII-V族化合物半導体からなる動作層としての半導体層を形成した構造を有し、キャリアが基板の厚み方向に移動することにより光を検出する受光素子においては、基板のキャリア濃度が消費電力に大きな影響を及ぼす。すなわち、基板のキャリア濃度(多数キャリアの濃度)を高くすることにより、受光素子の消費電力を低減することができる。一方、基板のキャリア濃度を高くすると、受光素子の感度が低下する。これは、キャリア濃度を高くすることにより、基板における自由キャリア吸収が大きくなるためである。そうすると、基板のキャリア濃度を適切に調整することにより、十分な感度を確保しつつ消費電力を低減することが可能であるとも考えられる。
【0012】
しかし、本発明者らの検討によれば、基板のキャリア濃度が同等であっても、受光素子の感度にばらつきがある。具体的には、基板のキャリア濃度が同等であっても、基板内の多数キャリアを生成する不純物の活性化率が低い場合、受光素子の感度は低下する。また、基板の多数キャリアを生成する不純物の濃度が同等であっても、受光素子の感度にばらつきがある。具体的には、基板の多数キャリアを生成する不純物の濃度が同等であっても、基板内の多数キャリアを生成する不純物の活性化率が低い場合、受光素子の感度は低下する。この理由は、たとえば以下のようなものが考えられる。活性化率が低い場合、同等のキャリア濃度を得るために高い不純物濃度が必要となる。そして、不純物濃度が高くなることにより自由キャリア吸収が大きくなる。さらに、活性化していない不純物原子は結晶中において適切な場所に位置しない。そのため、基板の多数キャリアを生成する不純物の濃度が同等であっても活性化率が低い場合、基板の結晶性が低下し、受光素子の感度がさらに低下する。つまり、受光素子に十分な感度を付与しつつ消費電力を低減するためには、基板の多数キャリアを生成する不純物濃度を消費電力の低減が可能なキャリア濃度を確保できる程度に設定するとともに、活性化率を所定値以上に設定して感度低下の原因となる活性化していない不純物を低減することが重要であるといえる。」

(イ)「【0032】
そして、上記基板20の、多数キャリアを生成する不純物の濃度は1×10^(17)cm^(-3)以上2×10^(20)cm^(-3)以下であり、当該不純物の活性化率は30%以上である。具体的には、たとえば基板20を構成するIII-V族化合物半導体としてInPを採用することができる。そして、基板20の多数キャリアを生成する不純物として、たとえばS(硫黄)を採用することができる。これにより、基板20の導電型はn型となる。基板20の導電型はp型であってもよいが、n型とすることで基板20の多数キャリアが電子となり、多数キャリアが正孔である場合に比べて受光素子の動作速度を速くすることができる。
【0033】
そして、基板20に不純物として添加されるSの濃度が1×10^(17)cm^(-3)以上2×10^(20)cm^(-3)以下とされ、活性化率が30%以上とされる。これにより、基板20において消費電力低減が達成可能なキャリア濃度が確保されるとともに、感度低下の原因となる活性化していない不純物が低減される。その結果、本実施の形態の半導体積層体10によれば、これを用いて受光素子を作製した場合における十分な感度の確保と消費電力の低減とを達成することができる。
【0034】
なお、不純物の活性化率は、(キャリア濃度)/(多数キャリアを生成する不純物の濃度)×100(%)と定義される。また、多数キャリアを生成する不純物の濃度は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry;二次イオン質量分析法)やGDMS(Glow Discharge Mass Spectrometry;グロー放電質量分析)により求めることができる。SIMSやGDMSによる多数キャリアを生成する不純物濃度の測定に際しては、半導体積層体10をスパッタ法により掘り進めることにより目的の部位を分析することができる。このとき、スパッタ法により半導体層の表面(コンタクト層50の主面50A)から基板20に到達するまで掘り進め、基板20の多数キャリアを生成する不純物の濃度を測定してもよいし、基板20の主面20B側から掘り進めることにより基板20の多数キャリアを生成する不純物の濃度を測定してもよい。また、半導体層(バッファ層30、量子井戸層40およびコンタクト層50)をエッチングにより除去した後、基板20を表面から掘り進めることにより、基板20の多数キャリアを生成する不純物の濃度を測定してもよい。
【0035】
キャリア濃度は、C-V(静電容量-電圧)測定やホール測定により求めることができる。C-V測定に際しては、ショットキーコンタクトに電解液を用いてもよいし、金属を用いてもよい。ショットキーコンタクトに電解液を用いる場合、エッチングにより半導体層の表面(コンタクト層50の主面50A)から基板20に到達するまで半導体層を掘り進め、C-V測定を行ってもよいし、基板20の主面20B側からC-V測定を行ってもよい。また、半導体層(バッファ層30、量子井戸層40およびコンタクト層50)をエッチングにより除去した後、基板20のC-V測定を行ってもよい。また、半導体積層体10に電圧をかけ、空乏層を基板20にまで広げた状態でC-V測定を行ってもよい。ショットキーコンタクトに金属を用いる場合、半導体層の表面(コンタクト層50の主面50A)および基板20の主面20Bのそれぞれにショットキーコンタクトが可能な金属からなる電極をつけて測定してもよいし、半導体層をエッチングによって除去した後、基板20に電極をつけることで測定してもよい。また、ホール測定は、半導体層(バッファ層30、量子井戸層40およびコンタクト層50)をエッチングにより除去した後、In、Au-Zn(金-亜鉛)、Ti/Alなど、基板20とオーミックコンタクト可能な金属からなる電極を基板につけて測定を行うことができる。」

(ウ)「【実施例】
【0056】
基板の厚み方向にキャリア(電子)が移動することにより、基板側から入射した赤外線を検出する実験用赤外線受光素子を作製し、基板の多数キャリアを生成する不純物の濃度および不純物の活性化率と、感度および消費電力との関係を調査する実験を行った。実験の手順は以下の通りである。・・・
【0059】
上記構造を有する実験用赤外線受光素子2において、基板20の不純物濃度(Sの濃度)および当該不純物の活性化率を変化させて、基板20のキャリア濃度が異なる複数の実験用赤外線受光素子2を作製した。基板20の不純物濃度はSIMSにより確認した。キャリア濃度はC-V特性を調査することにより確認した。そして、各実験用赤外線受光素子2の基板20側から波長2μmの赤外線を入射させて感度を調査するとともに、消費電力を調査した。実験結果を表1および2、ならびに図9に示す。
【0060】

【0061】

表1は、基板20の活性化率を一定とし、多数キャリアを生成する不純物の濃度を変化させた場合の感度(波長2μmの光に対する感度)および消費電力を示している。表1の実験において、活性化率は80%である。表2は、一定の多数キャリアを生成する不純物の濃度の基板20において、活性化率を変化させた場合の感度を示している。表1および表2の感度の表記において、Aは十分な感度が得られたこと、A+はAよりもさらによい感度を得られたこと、B+はAに比べて劣るものの許容可能な感度が得られたこと、BはB+に比べて劣るものの許容可能な感度が得られたこと、Cは不十分な感度であったことをそれぞれ表している。また、図9において横軸は基板の多数キャリアを生成する不純物の濃度を示しており、縦軸は消費電力を示している。図9は、表1の多数キャリアを生成する不純物の濃度と消費電力との関係を図示したものである。
【0062】
表1および図9を参照して、多数キャリアを生成する不純物の濃度が1×10^(18)cm^(-3)以上の場合、消費電力は十分に低い値、具体的には4mW以下となっている。また、多数キャリアを生成する不純物の濃度が1×10^(17)cm^(-3)の場合の消費電力は10mWとなり、やや上昇するものの許容可能な範囲に維持されている。しかし、多数キャリアを生成する不純物の濃度が1×10^(17)cm^(-3)未満になると消費電力は急激に上昇している。つまり、消費電力の観点からは、基板20における多数キャリアを生成する不純物の濃度は1×10^(17)cm^(-3)以上とすることが好ましく、1×10^(18)cm^(-3)以上とすることがより好ましいといえる。次に、表1の感度に着目すると、同じ活性化率であっても多数キャリアを生成する不純物の濃度が2×10^(20)cm^(-3)を超える3×10^(20)cm^(-3)の場合、感度は不十分(評価C)となっているのに対し、多数キャリアを生成する不純物の濃度が2×10^(20)cm^(-3)の場合、許容可能な感度が得られている(評価B)。また、多数キャリアを生成する不純物の濃度が1×10^(20)cm^(-3)以下の場合は感度の向上が見られ(評価A以上)、1×10^(19)cm^(-3)以下の場合はさらに感度の向上が見られた(評価A+)。このことから、十分な感度を得るためには多数キャリアを生成する不純物の濃度は2×10^(20)cm^(-3)以下とする必要があり、十分な感度をより確実に得るためには、基板の多数キャリアを生成する不純物の濃度は1×10^(20)cm^(-3)以下とすることが好ましく、1×10^(19)cm^(-3)以下とすることがより好ましいといえる。
【0063】
一方、多数キャリアを生成する不純物の濃度が同等であっても感度にばらつきがあるという本発明者らの知見を確認するため、活性化率の影響について表2を参照して説明する。表2に示すように、活性化率が30%未満である20%の場合、感度が不十分(評価C)となっている。一方、活性化率を30%以上とすることにより、許容可能な感度が得られている(評価B+以上)。このことから、活性化率は30%以上とする必要があるといえる。さらに、表2を参照して、多数キャリアを生成する不純物の濃度が同じであっても活性化率が50%以上になると感度の向上がみられ(評価A)、活性率が80%以上になると50%の感度に比べてよりよい感度が得られた(評価A+)。このことから、基板の多数キャリアを生成する不純物の活性化率は50%以上とすることが好ましく、80%以上とすることがより好ましいといえる。
【0064】
以上の実験結果より、基板の多数キャリアを生成する不純物の濃度を1×10^(17)cm^(-3)以上2×10^(20)cm^(-3)以下とし、かつ当該不純物の活性化率を30%以上とすることにより、受光素子の十分な感度を確保しつつ消費電力を低減できることが確認される。」

(エ)図9は次のものである


(3)上記(2)の記載を踏まえて、図9のグラフに表1の結果及び段落【0062】(特に下線部)の記載事項を合わせて、基板の多数キャリアを生成する不純物の濃度と当該不純物の活性化率の関係のグラフを作成すると下記の参考図1のグラフとなる。また、同様に、図9のグラフに表2の結果及び段落【0063】(特に下線部)の記載事項を合わせて、基板の多数キャリアを生成する不純物の濃度と当該不純物の活性化率の関係のグラフを作成すると下記の参考図2のグラフとなる(参考図1、2は図9、表1、表2及び段落【0061】?【0063】の記載をもとに当審が作成した。)。

次に、参考図1及び参考図2の内容を合わせた上で、上記(1)の発明特定事項で特定する範囲をグラフに表記すると、下記参考図3のとおりとなる。

さらに、参考図3において、表1から得られた感度Aの領域と表2から得られた感度Aの領域とを線Aで結び、同様に、表1から得られた感度Bの領域と表2から得られた感度B+の領域とを線Bで結び、表1から得られた感度Cの領域と表2から得られた感度Cの領域とを線Cで結ぶと下記参考図4のとおりとなる。


(4)上記「(2)」「(ア)」段落【0012】の「不純物の活性化率が低い場合、受光素子の感度は低下する」との知見を踏まえた上で参考図4を見ると、線Aより上側の領域は感度Aとなる蓋然性が高いといえる。
そして、不純物の活性化率が80%の領域は、全て線Aより上側の領域であるから、感度Aとなる蓋然性が高いと解される。
したがって、上記「(2)」「(ウ)」段落【0061】の「表1および表2の感度の表記において、Aは十分な感度が得られたこと、A+はAよりもさらによい感度を得られたこと、B+はAに比べて劣るものの許容可能な感度が得られたこと、BはB+に比べて劣るものの許容可能な感度が得られたこと、Cは不十分な感度であったことをそれぞれ表している。」との記載を踏まえると、「感度A」は「十分な感度が得られた」とされるから、Sの濃度が1×10^(17)cm^(-3)以上2×10^(20)cm^(-3)以下の範囲における、当該線Aより上側の領域のみを範囲とする不純物の活性化率が80%の領域は、上記「(2)」「(ア)」【発明が解決しようとする課題】の段落【0006】の「受光素子の十分な感度を確保しつつ消費電力を低減することを可能とする半導体積層体および受光素子を提供すること」ができるものと解される。

(5)以上の検討によれば、「受光素子の十分な感度を確保しつつ消費電力を低減することを可能とする半導体積層体および受光素子を提供すること」ができる「感度A」の蓋然性が高い範囲のみを発明特定事項とする本件訂正発明1は、本願発明が解決しようとする課題が解決できる、本願の発明の詳細な説明に記載された発明であると認められる。
よって、本件訂正発明1は、特許法第36条第6項第1号に基づく取消事由を有するとはいえない。
本件訂正発明2ないし6についても同様である。

7-2 取消理由の[理由2](上記「5.」「(2)」)、申立人の理由(上記「4.」「(3)」))について
(1)上記7-1で検討したとおり、本件訂正発明1ないし6は、上記「(2)」「(ア)」【発明が解決しようとする課題】の段落【0006】の「受光素子の十分な感度を確保しつつ消費電力を低減することを可能とする半導体積層体および受光素子を提供すること」ができる蓋然性が高いと解される範囲のみを発明特定事項とすると認められるから、発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題を解決できる発明を当業者が実施できるように記載されていると認められる。

(2)発明の詳細な説明では、感度の評価をA+?Cで示しているところ、実験状況、使用態様、単位、数値、グラフ等、客観的な事項が記載されておらず、感度の評価基準が明らかではない。
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0059】には、「各実験用赤外線受光素子2の基板20側から波長2μmの赤外線を入射させて感度を調査するとともに、消費電力を調査した。」と記載され、また、段落【0002】には、「たとえば通信用、生体検査用、夜間撮像用などの受光素子の開発を目的として、III-V族化合物半導体からなる基板および動作層を備えた受光素子について、種々の検討がなされている。」と記載されていることに照らせば、「通信用、生体検査用、夜間撮像用などの受光素子」が「波長2μmの赤外線」に対して求められる感度を表す評価基準として、当業者が技術常識に基づいて適宜定め得る程度のものと解される。
さらに、当該「感度の評価基準」が明らかではないことにより、本件訂正発明1ないし6が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができない発明であるとまではいえないと認められる。

(3)よって、本願の発明の詳細な説明は、経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものと認められるから、特許法第36条第4項第1号に基づく取消事由を有するとはいえない。

7-3 取消理由の[理由3](上記「5.」「(3)」)、申立人の理由(上記「4.」「(1)」)、及び、取消理由の[理由4](上記「5.」「(4)」)、申立人の理由(上記「4.」「(2)」))について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「レーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオードである光デバイス」は、「SドープInP単結晶を基板として使用」するから、当該基板は「SドープInP単結晶」からなる「基板」といえる。
したがって、「SドープInP単結晶を基板として使用したレーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオードである光デバイス」の「基板」は、本件訂正発明1の「InPからなる基板」に相当する。

(イ)甲1発明の「SドープInP単結晶を基板として使用したレーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオードである光デバイス」が、「SドープInP単結晶」からなる「基板」の上に「レーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオード」となすための「半導体からなる半導体層」を備えることは明らかである。
したがって「SドープInP単結晶を基板として使用したレーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオードである光デバイス」の「レーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオード」となすための「半導体からなる半導体層」は、本件訂正発明1の「前記基板上に配置され、III-V族化合物半導体からなる半導体層」と「前記基板上に配置され、半導体からなる半導体層」の点で一致する。

(ウ)甲1発明の「SドープInP単結晶」からなる「基板」の「S」が、多数キャリアを生成する不純物であることは明らかであるところ、「Sの濃度を2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲とした前記SドープInP単結晶のSキャリア濃度は、3?5×10^(18)cm^(-3)の範囲であ」るから、本件訂正発明1の「前記基板の、多数キャリアを生成する不純物であるSの濃度は1×10^(17)cm^(-3)以上2×10^(20)cm^(-3)以下であ」る点と、「前記基板の、多数キャリアを生成する不純物であるSの濃度は2×10^(18)cm^(-3)以上6×10^(18)cm-3以下であ」る点で一致する。
しかしながら、甲1発明の「SドープInP単結晶」からなる「基板」の不純物「S」の活性化率は明記されていない。
したがって、甲1発明の「SドープInP単結晶」からなる「基板」が、「Sの濃度を2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲とした前記SドープInP単結晶のSキャリア濃度は、3?5×10^(18)cm^(-3)の範囲であ」ることは、本件訂正発明1の「多数キャリアを生成する不純物であるSの濃度は1×10^(17)cm^(-3)以上2×10^(20)cm^(-3)以下であり、前記不純物の活性化率は80%以上であ」ることと、「多数キャリアを生成する不純物であるSの濃度は2×10^(18)cm^(-3)以上6×10^(18)cm^(-3)以下であ」ることの点で一致する。

(エ)甲1発明の「SドープInP単結晶」からなる「基板」の導電型は特定されないが、SドープしたInP単結晶の導電型がn型であることは本願出願当時の技術常識である。
したがって、甲1発明の「基板」が「SドープInP単結晶」である点は、本件訂正発明1の「前記基板の導電型はn型である」点に相当する。

(オ)甲1発明の「SドープInP単結晶を基板として使用したレーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオードである光デバイス」は、上記(イ)での検討を踏まえれば、本件訂正発明1の「半導体積層体」に相当する。

(カ)上記(ア)ないし(オ)での検討によれば、本件訂正発明1と甲1発明とは、
「InPからなる基板と、
前記基板上に配置され、半導体からなる半導体層と、を備え、
前記基板の、多数キャリアを生成する不純物であるSの濃度は2×10^(18)cm^(-3)以上6×10^(18)cm^(-3)以下であり、
前記基板の導電型はn型である、半導体積層体。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。

〔相違点1〕
基板上に配置される半導体からなる半導体層が、本件訂正発明1は「III-V族化合物半導体」と特定されるのに対して、甲1発明は、このような半導体からなると特定されない点。

〔相違点2〕
不純物の活性化率が、本件訂正発明1は「80%以上であ」ると特定されるのに対して、甲1発明は、このような構成であるのか否か定かでない点。

イ 判断
(ア)上記相違点1について
甲1発明の「SドープInP単結晶を基板として使用したレーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオードである光デバイス」が、「SドープInP単結晶」からなる「基板」の上に「レーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオード」となすための「半導体からなる半導体層」を備えることは明らかであるところ、「レーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオード」となすための「半導体からなる半導体層」に「III-V族化合物半導体」(III属は例えばB、Al、Ga、In、V属は例えばN、P、As、Sb)を用いることは、甲2に記載された事項、甲3に記載された事項、甲4に記載された事項及び甲5に記載された事項に見られるとおり本願出願当時周知の技術的事項である。
したがって、甲1発明の「SドープInP単結晶を基板として使用したレーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオードである光デバイス」の「SドープInP単結晶」からなる「基板」の上に設ける「レーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオード」となすための「半導体からなる半導体層」を「III-V族化合物半導体」となすことは、発明を実施するに際して、当業者が適宜選択する事項にすぎない。
そうすると、甲1発明と本件訂正発明1は相違点1に関して実質的に相違するところはない。
また、そこまではいえないとしても、甲1発明に上記周知の技術的事項を適用して、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。

(イ)上記相違点2について
a 甲1発明は、活性化率を特定しないが、活性化率は、(Sキャリア濃度)/(Sの濃度)で求めることができるから、「Sの濃度を2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲とした前記SドープInP単結晶のSキャリア濃度は、3?5×10^(18)cm^(-3)の範囲であ」ると特定する甲1発明は、実体的には活性化率も特定し得る発明であると認められる。

b ここで、「Sの濃度を2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲」とすることに関して、甲1に具体的な測定方法が記載されていないが、Sの濃度は適宜の周知技術で測定できる数値にすぎない。
また、甲1において「Results and discussions」(2頁左欄10行)の項目の中で、Fig.3の説明がなされているところ、「Results and discussions」(結果と考察)の前提となる「Experimental」(実験。1頁右下欄1行)の項目において「結晶は、4?6mm/時の速度で<100>方向に引き上げられた。SドープInPの場合、Sの濃度は2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲・・・であった。」(上記「6.」「6-2」「(1)」「ア」「(イ)」)と記載され、他に「Sの濃度」に係る記載は見当たらないから、「Results and discussions」(結果と考察)のFig.3で用いられている「SドープInP」の「結晶」は、「Sの濃度を2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲」の「SドープInP」の「結晶」であると解するのが相当である。
したがって、Fig.3の各データ点に対応する試料のSの濃度はFig.3には明記されていないが、「Sの濃度を2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲」としたものであることは、甲1全体から見て明確である。

c また、Sドープした1つのInPのインゴット中においては、Sの濃度にばらつきがあることは周知の技術事項であるから、Fig.3の各データ点に対応する試料のSの濃度も2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲でばらついていたといえる。
そうすると、Fig.3の各データ点に対応する試料のSの濃度として3?3.75×10^(18)cm^(-3)の範囲のものも当然存在していたことは明らかである。

d そこで、甲1発明の「Sの濃度を2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲とした前記SドープInP単結晶のSキャリア濃度は、3?5×10^(18)cm^(-3)の範囲であ」るとの発明特定事項に基づいて、甲1発明の当該発明特定事項の範囲での活性化率を求めると、下記参考図5のとおりとなる。
(参考図5において、横軸をSの濃度とし、縦軸をSキャリア濃度とし、活性化率=(Sキャリア濃度)/(Sの濃度)とした。なお、活性化率が100%以下であることは、本願出願当時の技術常識である。また、活性化率100%の点を線Mで結び、活性化率約80%の点を線Nで結び、その間の領域を領域Pとした。)
【参考図5】


e そうすると、上記参考図5において、領域Pは、「多数キャリアを生成する不純物であるSの濃度は2×10^(18)cm^(-3)以上6×10^(18)cm^(-3)以下であり、前記不純物の活性化率は80?100%であ」る領域といえるから、本件訂正発明1の「多数キャリアを生成する不純物であるSの濃度は1×10^(17)cm^(-3)以上2×10^(20)cm^(-3)以下であり、前記不純物の活性化率は80%以上であ」ることと、「多数キャリアを生成する不純物であるSの濃度は2×10^(18)cm^(-3)以上6×10^(18)cm^(-3)以下であり、前記不純物の活性化率は80?100%であ」る点で一致する。
したがって、Fig.3の各データ点に対応する試料のSの濃度として3?3.75×10^(18)cm^(-3)の範囲のものが存在していたことは明らかであるところ、当該範囲においては、活性化率が80%以上である。
よって、出願前公知の甲1には甲1発明が記載されていることは明らかといえるから、「多数キャリアを生成する不純物であるSの濃度は2×10^(18)cm^(-3)以上6×10^(18)cm^(-3)以下であり、前記不純物の活性化率は80?100%であ」る点において、相違点2は実質的な相違点ではない。

ウ 特許権者の主張
a 特許権者は、令和元年11月21日提出の意見書の「5 意見の内容」「5-2.取消理由について」「(4-3)本件発明1?6と甲1?5号証に開示された発明との対比」において
「甲1号証では、VCZ法によるSドープInPインゴットの製造および当該インゴットから得られる基板の特性(基板の欠陥密度等)が議論されています。甲1号証の『Experimental』の項には、Sの濃度が2?6×10^(18)cm^(-3)であることが開示されています。また、Fig.3には、キャリア濃度が3?6(または3?5)×10^(18)cm^(-3)であることが開示されています。
しかし、甲1号証の『Experimental』の項に記載のS濃度とFig.3のキャリア濃度から活性化率を算出すると、たとえばSの濃度が2×10^(18)cm^(-3)である場合、キャリア濃度が下限値の3×10^(18)cm^(-3)であっても、活性化率は150%という技術的に起こりえない数値となります。このことから明らかなように、甲1号証の『Experimental』の項に記載のS濃度とFig.3のキャリア濃度から算出される活性化率が甲1号証に開示されているとまではいえず、少なくとも活性化率が80%以上であることは甲1に開示されていません。
また、甲1号証には、活性化率を80%以上とすることについて示唆する上記(4-2)のような技術思想は開示されていません。また、甲2?5号証にも、基板における不純物の活性化率を80%以上とすることについて、開示も示唆もされていません。したがいまして、仮に甲1?5号証のそれぞれに開示された発明を組み合わせることができたとしても、活性化率が80%以上である訂正後の構成Bを含む本件発明1に想到することは、当業者において容易ではありません。このように、訂正後の本件発明1に係る特許は、理由3および4により取り消されるべきものではありません。」
と主張する。

b また、特許権者は、令和2年3月17日提出の意見書の「5 意見の内容」「(2)訂正発明1と甲1発明との対比」において
「しかし、甲第1号証(”High Quality InP Substrates Grown by the vcz Method”)の1頁右下欄12?16行には「S濃度は2?6×10^(18)cm^(-3)」との記載があるのみで、その測定方法等は記載されていません。甲第1号証では、他の評価値に関して比較的詳細に測定方法が記載されていること等を考慮すると、上記S濃度は実際に測定されたものではなく、狙い値等の何らかの目安の数値であると考えられます。また、この「2?6×10^(18)cm^(-3)」との数値自体も、1つのインゴット中のばらつきを示しているのか、複数のインゴット間での範囲であるのかも不明です。そして、Fig.3の各データ点に対応する試料のS濃度も不明です。このようにS濃度について詳細な記載が無いのは、甲第1号証が公開された1996年当時の技術常識において、不純物の活性化率が重視されていなかったためであると考えられます。
より具体的には、1996年当時は、InP基板においてデバイスの作製が可能な低い欠陥密度(たとえば低EPD)を維持しつつ、十分なキャリア濃度を確保することが容易ではなく、甲第1号証ではこれが達成可能であることを示すため、高いキャリア濃度と低EPDとの両立がFig.3に示されています。このとき、デバイスの特性に直接影響するキャリア濃度については試料ごとに測定して低EPD領域との関係を検討しているものの、当時は活性化率が重要であることが認識されていなかったため、当該試料に対応するS濃度は特定されていません。
このように、Fig.3の各データ点に対応するSの濃度が不明確であるところ、たとえばキャリア濃度が3×10^(18)cm^(-3)のデータ点(試料)については、対応するS濃度3?3.75×10^(18)cm^(-3)という狭い範囲であった場合にのみ、活性化率が80%以上であったことになり、これ以外の範囲であった場合には活性化率は80%未満であったことになります。このように、甲第1号証の開示内容に基づいてFig.3の各データ点に対応する活性化率を算出することは困難であり、少なくとも構成Aが甲第1号証に開示されているとまではいえません。」
と主張する。

c 上記aにおける特許権者の主張について
上述したように活性化率が100%以下であることは本願出願当時の技術常識であるから、甲1発明の当該発明特定事項の範囲での活性化率は100%以下の範囲において特定されると解すべきものである。
たしかに、甲1号証には、「活性化率」についての記載はなく、「活性化率を80%以上とする」という方向性についての示唆はなく、技術思想が開示されているとまではいえないが、甲1発明は、「Sの濃度を2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲とし」、「Sキャリア濃度は、3?5×10^(18)cm^(-3)の範囲であ」るとしているのであるから、実質的に、「不純物の活性化率は80?100%であ」る領域を含む点で、本件訂正発明1と相違せず、上記特許権者の意見書における主張は採用できない。

d 上記bにおける特許権者の主張について
上記「イ」「(イ)」で検討したとおりであって、「Sの濃度を2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲」とすることに関して、甲1に具体的な測定方法が記載されていないことをもって、「S濃度が実際に測定されたものではな」いとまではいえず、適宜の周知技術で測定した数値であってよい。
また、甲1において「Results and discussions」(2頁左欄10行)の項目の中で、Fig.3の説明がなされているところ、「Results and discussions」(結果と考察)の前提となる「Experimental」(実験。1頁右下欄1行)の項目において「結晶は、4?6mm/時の速度で<100>方向に引き上げられた。SドープInPの場合、Sの濃度は2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲・・・であった。」(上記「6.」「6-2」「(1)」「ア」「(イ)」)と記載され、他に「Sの濃度」に係る記載は見当たらないから、「Results and discussions」(結果と考察)のFig.3で用いられている「SドープInP」の「結晶」は、「Sの濃度を2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲」の「SドープInP」の「結晶」であると解するのが相当である。
したがって、Fig.3の各データ点に対応する試料のSの濃度はFig.3には明記されていないが、「Sの濃度を2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲」としたものであることは、甲1全体から見て明確である。
また、Sドープした1つのInPのインゴット中においては、Sの濃度にばらつきがあることは周知の技術事項であるから、Fig.3の各データ点に対応する試料のSの濃度も2?6×10^(18)cm^(-3)の範囲でばらついていたといえる。
そうすると、Fig.3の各データ点に対応する試料のSの濃度として3?3.75×10^(18)cm^(-3)の範囲のものも当然存在していたことは明らかであり、当該範囲においては、活性化率が80%以上であったこととなる。
よって、出願前公知の甲1には甲1発明が記載されていることは明らかといえるから、この点において甲1発明は本件訂正発明1と相違せず、上記特許権者の意見書における主張は採用できない。

(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2は、本件訂正発明1に「前記半導体層は量子井戸層を含む」との発明特定事項を付加するものである。
ここで、甲1発明の「SドープInP単結晶を基板として使用したレーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオードである光デバイス」の「SドープInP単結晶」からなる「基板」の上に設ける「レーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオード」となすための「半導体からなる半導体層」として「量子井戸層」を設けることは、甲2に「InP基板上に、InGaAs/GaAsSbのタイプIIの多重量子井戸構造を形成したフォトダイオード」(甲2に記載された事項)と記載されているとおり公知の技術的事項である。
したがって、本件訂正発明2は、甲1発明に甲2に記載された事項を適用することにより当業者が容易に想到し得たものである。

(3)本件訂正発明3について
本件訂正発明2を引用する本件訂正発明3は、本件訂正発明2に「前記量子井戸層の厚みは1μm以上である」との発明特定事項を付加するものである。
ここで、甲1発明の「SドープInP単結晶を基板として使用したレーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオードである光デバイス」の「SドープInP単結晶」からなる「基板」の上に設ける「レーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオード」となすための「半導体からなる半導体層」としての「量子井戸層」の厚みに関して、甲2に「Sをドープしたn型InP基板の上の多重量子井戸構造における量子井戸のペアは、厚み5nmのGaAsSbと、厚み5nmのInGaAsとからなり、250ペアの量子井戸であって、前記250ペアの量子井戸からなる多重量子井戸構造」(甲2に記載された事項)と記載されていて、(5nm+5nm)×250=2.5μmであるから、「量子井戸層」の厚みを2.5μ以上とすること甲2に記載された事項に見られるとおり公知の技術的事項である。
そして、当該「量子井戸層」の厚みは発光させる波長等に応じて、発明を実施するに際して適宜定められる事項にすぎない。
したがって、本件訂正発明3は、甲1発明に甲2に記載された事項を適用することにより当業者が容易に想到し得たものである。

(4)本件訂正発明4について
本件訂正発明2または3を引用する本件訂正発明4は、本件訂正発明2または3に「前記量子井戸層はIn_(x)Ga_(1-x)As(0.38≦x≦1)層とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦1)層とが交互に積層された構造、またはGa_(1-u)In_(u)N_(v)As_(1-v)(0.4≦u≦0.8、0<v≦0.2)層とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦0.62)層とが交互に積層された構造を有している」との発明特定事項を付加するものである。
ここで、甲1発明の「SドープInP単結晶を基板として使用したレーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオードである光デバイス」の「SドープInP単結晶」からなる「基板」の上に設ける「レーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオード」となすための「半導体からなる半導体層」として「量子井戸層」に関して、甲2に「多重量子井戸構造は、In_(x)Ga_(1-x)As(0.38≦x≦0.68)とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦0.62)のペア、または、Ga_(1-u)In_(u)N_(v)As_(1-v)(0.4≦u≦0.8、0<v≦0.2)とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦0.62)のペア、で構成され」(甲2に記載された事項)ることが記載され、このような組成の層と層を交互に積層(ペアで構成)することは本願出願当時公知の技術的事項である。
そして、当該「量子井戸層」の各層の元素の具体的比率は発光させる波長等に応じて発明を実施するに際して適宜定められる事項にすぎない。
したがって、本件訂正発明4は、甲1発明に甲2に記載された事項を適用することにより当業者が容易に想到し得たものである。

(5)本件訂正発明5について
本件訂正発明1ないし4のいずれか1項を引用する本件訂正発明5は、本件訂正発明1ないし4のいずれか1項に「前記半導体層は有機金属気相成長法により形成されている」との発明特定事項を付加するものである。
ここで、甲1発明の「SドープInP単結晶を基板として使用したレーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオードである光デバイス」の「SドープInP単結晶」からなる「基板」の上に設ける「レーザーダイオード、発光ダイオードまたはフォトダイオード」となすための「半導体からなる半導体層」としての「量子井戸層」を有機金属気相成長法により形成することは、甲2に「Sをドープしたn型InP基板の上の多重量子井戸構造における量子井戸のペアは、厚み5nmのGaAsSbと、厚み5nmのInGaAsとからなり、250ペアの量子井戸であって、前記250ペアの量子井戸からなる多重量子井戸構造が、全有機MOVPE法で形成され」(甲2に記載された事項)、及び、甲5に「Sドープ濃度が4×10^(18)cm^(-3)、350mm厚のInPジャスト基板を用い、有機金属気相成長法(MOCVD法)によりInPエピタキシャル結晶層を1μm形成する点」(甲5に記載された事項)に見られるとおり本願出願当時周知の技術的事項である。
したがって、本件訂正発明5は、甲1発明に上記周知の技術的事項を適用することにより当業者が容易に想到し得たものである。

(6)本件訂正発明6について
本件訂正発明1ないし5のいずれか1項を引用する本件訂正発明5は、本件訂正発明1ないし5のいずれか1項に記載の「半導体積層体」に、「前記半導体積層体の前記基板の、前記半導体層とは反対側の主面上に形成された電極と、を備えた、受光素子」との発明特定事項を付加するものである。
ここで、甲1発明の「SドープInP単結晶を基板として使用した」「フォトダイオードである光デバイス」となすための「半導体からなる半導体層」「の前記基板の、前記半導体層とは反対側の主面上に形成された電極と、を備えた、受光素子」となすことは、甲2に「n型InP基板/バッファ層/タイプIIの多重量子井戸構造(InGaAs/GaAsSb)、前記多重量子井戸構造の上には、InGaAs層が位置し、そのInGaAs層の上にInP窓層が位置し、前記InP窓層の表面から、所定領域にp型不純物のZnが導入されてp型領域が設けられ、前記p型領域にオーミック接触する画素電極であるp側電極が設けられ、共通の接地電位にされるn側電極との間で、電荷を画素ごとに読み出すフォトダイオード」(甲2に記載された事項)が記載されており、このような構成とすることは本願出願当時公知の技術的事項である。
そして、フォトダイオードとして具体化するに際して、適宜の位置に電極を設けることは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
したがって、本件訂正発明6は、甲1発明に甲2に記載された事項を適用することにより当業者が容易に想到し得たものである。

7-4 申立人の意見について
(1)申立人は、令和元年12月25日付けで提出された意見書の「3 意見の内容」「イ サポート要件違反について」において、
「訂正請求書が出されて請求項1の『不純物の活性化率』が『80%以上』に限定された。本件の明細書の段落0045に『・・・このことから、基板の多数キャリアを生成する不純物の活性化率は50%以上とすることが好ましく、80%以上とすることがより好ましいといえる。』と記載されている。しかし、不純物の活性化率が80%を超える実験データ等は一切示されておらず、感度が良くなるか否かは不明である。従って、『受光素子の十分な感度を確保しつつ消費電力を低減することを可能とする半導体積層体および受光素子を提供すること』ができない『感度C』の範囲も含み得る。」と主張する。
しかしながら、上記「7.」「7-1」で検討したとおり、不純物の活性化率が80%の領域は、全て線Aより上側の領域であるから、感度Aとなる蓋然性が高いと解されるから、上記主張は採用できない。

(2)また、申立人は、令和元年12月25日付けで提出された意見書の「3 意見の内容」「ウ 実施可能要件違反について」において
「特許権者は感度の評価の基準について『受光時に検出される電流がノイズによる電流と有意差をもって区別できるかどうか(ノイズと区別可能な大きさの電流が検出されるかどうか)であることは明らか』と主張している。しかし、本件の発明の詳細な説明には、受光時に検出される電流や、ノイズによる電流についての記載はない。また、受光時に検出される電流がノイズによる電流と有意差をもって区別できるかどうかと言っているが、本件明細書には区別の基準や方法が開示されていないため区別できない。
さらに、発明の詳細な説明では、感度の評価がA+?Cで示されているが、実験状況、使用態様、単位、数値、グラフ等、何も客観的な事項は記載されておらず、感度の評価基準が全く不明である。そのため、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。」と主張する。
しかしながら、上記「7.」「7-2」で検討したとおり、「感度の評価基準」が明らかではないことにより、本願の発明の詳細な説明が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができない発明であるとまではいえないから、上記主張は採用できない。

8 むすび
(1)特許法第36条第6項第1号について(同法第113条第4号)
上記「7.」「7-1」で検討したとおり、本件訂正発明1ないし6は、特許法第36条第6項第1号に基づく取消事由を有するとはいえない。

(2)特許法第36条第4項第1号について(同法第113条第4号)
上記「7.」「7-2」で検討したとおり、本願の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に基づく取消事由を有するとはいえない。

(3)特許法第29条第1項について(同法第113条第2号)
本件訂正発明1は甲1発明であり、本件訂正発明1は、取り消されるべきものである。

(4)特許法第29条第2項について(同法第113条第2号)
本件訂正発明1ないし6は、甲1発明及び甲2ないし5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正発明1ないし6は、取り消されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
InPからなる基板と、
前記基板上に配置され、III-V族化合物半導体からなる半導体層と、を備え、
前記基板の、多数キャリアを生成する不純物であるSの濃度は1×10^(17)cm^(-3)以上2×10^(20)cm^(-3)以下であり、前記不純物の活性化率は80%以上であり、
前記基板の導電型はn型である、半導体積層体。
【請求項2】
前記半導体層は量子井戸層を含む、請求項1に記載の半導体積層体。
【請求項3】
前記量子井戸層の厚みは1μm以上である、請求項2に記載の半導体積層体。
【請求項4】
前記量子井戸層はIn_(x)Ga_(1-x)As(0.38≦x≦1)層とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦1)層とが交互に積層された構造、またはGa_(1-u)In_(u)N_(v)As_(1-v)(0.4≦u≦0.8、0<v≦0.2)層とGaAs_(1-y)Sb_(y)(0.36≦y≦0.62)層とが交互に積層された構造を有している、請求項2または請求項3に記載の半導体積層体。
【請求項5】
前記半導体層は有機金属気相成長法により形成されている、請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の半導体積層体。
【請求項6】
請求項1?請求項5のいずれか1項に記載の半導体積層体と、
前記半導体積層体の前記基板の、前記半導体層とは反対側の主面上に形成された電極と、を備えた、受光素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-05-20 
出願番号 特願2014-89743(P2014-89743)
審決分類 P 1 651・ 536- ZAA (H01L)
P 1 651・ 537- ZAA (H01L)
P 1 651・ 121- ZAA (H01L)
P 1 651・ 113- ZAA (H01L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 堀部 修平  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 近藤 幸浩
松川 直樹
登録日 2018-12-28 
登録番号 特許第6454981号(P6454981)
権利者 住友電気工業株式会社
発明の名称 半導体積層体および受光素子  
代理人 田中 勝也  
代理人 北野 修平  
代理人 田中 勝也  
代理人 北野 修平  
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