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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  E04H
管理番号 1366070
異議申立番号 異議2019-700839  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-23 
確定日 2020-08-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6504999号発明「駐車装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6504999号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6504999号の請求項4に係る特許を維持する。 特許第6504999号の請求項1ないし3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6504999号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成27年11月6日に出願され、平成31年4月5日にその特許権の設定登録がされ、平成31年4月24日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和1年10月23日 :特許異議申立人中村修(以下「申立人」という 。)による請求項1ないし4に係る特許に対す る特許異議の申立て
令和1年12月12日付け:取消理由通知書
令和2年 2月13日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年 4月 2日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和2年 4月24日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和2年 7月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

なお、令和2年2月13日に行った訂正請求は、その後、令和2年7月5日に行った訂正請求によって、取り下げられたものとみなす。(特許法第120条の5第7項)

また、申立人は令和2年4月2日提出の意見書の「意見書提出希望の有無」の欄において、「希望する。」としているものの、上記令和2年7月5日に提出された訂正請求書による特許請求の範囲に係る訂正は、実質的に、令和2年2月13日に行った訂正請求により訂正された請求項4のみに限定する訂正であり、既に申立人に意見書の提出の機会が与えられたものであるから、特許法第120条の5第5項ただし書に規定される「特別の事情があるとき」にあたることから、申立人に意見書を提出する機会を与える必要はないものである。


2 訂正の適否
(1)訂正の内容
令和2年7月5日提出の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

エ 訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項4が請求項1を引用していたところ、これを独立請求項とし、さらに、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2の「前記待避箇所誘導装置は、照明により光を照射して前記待避箇所を明示する」ことを特定し、照明により光を照射する対象が「待避箇所」であることを特定して、
「外部と出入口ドアを介して連通し、乗員が駐車車両から乗り降りする入出庫室と、前記駐車車両を格納可能な複数の格納部を有する格納室と、前記入出庫室と前記格納室間で前記駐車車両を移動する移動装置とを備えた駐車装置において、
前記入出庫室の床に、乗員が入出庫室にいる状態で出入り口ドアが閉扉し、乗員が入出庫室に閉じ込められた時に前記乗員が待避するマーキングにより示された待避箇所を設け、前記待避箇所に照明により光を照射して前記待避箇所を明示する待避箇所誘導装置を設け、
前記待避箇所誘導装置は、前記出入口ドアの閉扉時に前記入出庫室内の乗員を検出する人体検出センサを備え、この人体検出センサによる乗員の検出時に前記待避箇所の明示動作を行う、
ことを特徴とする駐車装置。」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(イ)新規事項の追加について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。
(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2
(ア)訂正の目的について
訂正事項2に係る訂正は、請求項2を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(イ)新規事項の追加について
訂正事項2に係る訂正は、請求項2を削除する訂正であるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2に係る訂正は、請求項2を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項3
(ア)訂正の目的について
訂正事項3に係る訂正は、請求項3を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(イ)新規事項の追加について
訂正事項3に係る訂正は、請求項3を削除する訂正であるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項3に係る訂正は、請求項3を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

工 訂正事項4
(ア)訂正の目的について
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1を引用するものであったところ、訂正前の請求項1の発明特定事項及び訂正前の請求項4の発明特定事項を全て含む独立形式請求項へ改めるとともに、さらに、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2の「前記待避箇所誘導装置は、照明により光を照射して前記待避箇所を明示する」ことを特定し、照明により光を照射する対象が「待避箇所」であることを特定するための訂正である。
そうすると、上記訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、同第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
(イ)新規事項の追加について
a 訂正事項4に係る訂正のうち、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1を引用するものであったところ、訂正前の請求項1の発明特定事項及び訂正前の請求項4の発明特定事項を全て含む独立形式請求項へ改めるとともに、さらに、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2の「前記待避箇所誘導装置は、照明により光を照射して前記待避箇所を明示する」ことを特定する訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
b また、訂正事項4に係る訂正のうち、照明により光を照射する対象が「待避箇所」であることを特定するための訂正は、本件特許明細書の【0022】に、「そして、本実施例では、待避箇所10a、10bを光により明示する待避箇所誘導装置が設けられている。この待避箇所誘導装置は、例えば、待避箇所10aに光を照射する照明14や、待避箇所10b周縁に施されたマーキング11bに沿って床8に埋設されたLED15を備えている。」と記載されているから、待避箇所10aに照明により光を照射して、それにより待避箇所10a、10bを光により明示することは記載されていたといえる。
c そうすると、訂正事項4に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。
(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項4に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、他の請求項との引用関係を解消することを目的とする訂正であり、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正事項1ないし4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし4は、請求項2ないし4が、訂正前の請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし4に対応する訂正後の請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
よって、訂正事項1ないし4の訂正は、一群の請求項〔1-4〕に対して請求されたものである。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。


3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件訂正特許発明1」ないし「本件訂正特許発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

(1)本件訂正特許発明1
「【請求項1】 削除」

(2)本件訂正特許発明2
「【請求項2】 削除」

(3)本件訂正特許発明3
「【請求項3】 削除」

(4)本件訂正特許発明4
「【請求項4】
外部と出入口ドアを介して連通し、乗員が駐車車両から乗り降りする入出庫室と、前記駐車車両を格納可能な複数の格納部を有する格納室と、前記入出庫室と前記格納室間で前記駐車車両を移動する移動装置とを備えた駐車装置において、
前記入出庫室の床に、乗員が入出庫室にいる状態で出入り口ドアが閉扉し、乗員が入出庫室に閉じ込められた時に前記乗員が待避するマーキングにより示された待避箇所を設け、前記待避箇所に照明により光を照射して前記待避箇所を明示する待避箇所誘導装置を設け、
前記待避箇所誘導装置は、前記出入口ドアの閉扉時に前記入出庫室内の乗員を検出する人体検出センサを備え、この人体検出センサによる乗員の検出時に前記待避箇所の明示動作を行う、
ことを特徴とする駐車装置。」


4 取消理由通知に記載した取消理由について
令和2年2月13日に行った訂正請求により訂正された請求項2及び3に係る特許に対して、当審が令和2年4月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
請求項2及び3に係る発明は、甲第1号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明であるから、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
しかしながら、本件訂正請求により請求項1ないし3は削除されており、これにより、請求項2及び3に係る特許についての本件取消理由は、本件訂正によってその対象となる請求項が存在しないものとなった。


5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)証拠
・甲第1号証:特開2017-48533号公報(特願2015-170701号の公開公報)
・甲第2号証:機械式駐車装置の安全機能に関する認証基準(26年12月5日)公益社団法人立体駐車場工業会、表紙、目次、第1?45頁
・甲第3号証:特開平8-93255号公報
・甲第4号証:特開昭51-42268号公報
・甲第5号証:実公昭49-3738号公報

ア 甲第1号証
(ア)甲第1号証の記載
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願の日前の他の特許出願であって本件特許の出願後に出願公開がされた特許出願に係る甲第1号証には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下、他の証拠についても同様。)。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式駐車装置の安全装置、機械式駐車装置、並びに機械式駐車装置の安全確認方法及び機械式駐車装置の非常停止方法に関するものである。」

b 「【0035】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本第1実施形態に係る機械式駐車装置(以下「立体駐車装置」という。)1の縦断面図である。なお、本発明は、図1に示されるようなエレベータ式の立体駐車装置に限らず、複数の駐車スペースに搬送機で駐車車両を入出庫させる機械式駐車装置であれば、他の様々な形式のものにも幅広く適用することができる。
【0036】
立体駐車装置1は、複数の車両2を収容可能なタワー型の駐車塔3を備えている。駐車塔3の一階部分には車両2を入出庫させる入出庫口4が開設されており、その外側上部に雨よけの庇5が設けられている。入出庫口4には上下スライド式の入出庫扉4aが設けられている。
【0037】
駐車塔3の地上階は図2にも示す乗降室7(乗一階ともいう。)となっている。乗降室7では、車両格納棚17へ搬送されるパレット18に車両2が載置され、運転者がパレット18に載置された車両2に乗降可能とされる。乗降室7の床面には車両2の方向を転換させるターンテーブル8が設置されている。ターンテーブル8は、乗降室7の床面に形成された凹状のピット9内に旋回板10と旋回駆動部11が設けられた構成である。
【0038】
駐車塔3の中心部には垂直な昇降通路13が形成されており、この中にリフト14(エレベータ状のパレット搬送機)が上下に昇降可能に設けられている。リフト14は、例えば駐車塔3の上部に設けられた図示しないウインチから下方に延びる4組のワイヤロープ15に四隅を吊持され、上記ウインチが起動することにより昇降通路13内を上下に昇降することができる。
【0039】
一方、昇降通路13の両側には車両格納棚17が設けられている。この車両格納棚17は、昇降通路13を挟むようにして上下に多階層状に設けられており、それぞれの車両格納棚17には車両2を積載するためのパレット18が1枚ずつ収容されている。なお、車両格納棚17の支柱等は図示が省略されている。
【0040】
リフト14と車両格納棚17の床面には、両者14,17の床面の高さが一致した時に、空荷のパレット18、または車両2が積載されたパレット18を、リフト14から車両格納棚17に、または車両格納棚17からリフト14に、スムーズに受け渡すことができる図示しない受渡機構が設けられている。
【0041】
車両2の入庫時は、まず空のパレット18が収容されている車両格納棚17から、リフト14によって空のパレット18が乗降室7に降ろされ、このパレット18に車両2が乗り上げて、そのままパレット18ごとターンテーブル8によって90°方向転回された後、リフト14で昇降通路13を上昇し、車両格納棚17に収容される。
【0042】
また、出庫時は、出庫する車両2が収容されている車両格納棚17の高さまでリフト14が上昇し、パレット18ごと出庫車両がリフト14に引き取られ、そのままパレット18はリフト14によって乗降室7に降ろされ、出庫車両が入出庫口4から出庫する。」

c 「【0045】
乗降室7の内部には、中央部にパレット18が設置されるスペースがあり、入出庫口4の正面の壁には車両2の位置をドライバーが確認するための鏡24と、「前進」、「停車」、「後退」の指示を行う電光式の停車位置指示灯25が設けられている。また、乗降室7の両側面の壁には、車両2の大きさや前後位置を検知するための人感・車両センサ26,27や、非常停止ボタン28等が設けられている。停車位置指示灯25は、人感・車両センサ26,27により検知される車両位置のデータに基づいて、車両2のドライバーに車両位置の指示を行う。」

d 「【0074】
図9は、本第1実施形態に係る乗降室7の上面図である。乗降室7には、退避スペース75(退避場所)が設けられている。退避スペース75は、ターンテーブル8等の可動装置が設置されている場所を避け、可動装置から離れた安全な領域に設けられている。なお、図9では、図2に示される構成の一部を省略している。
図10は、退避スペース75に設置される安全確認部78の外観図である。
【0075】
本第1実施形態に係る乗降室7内には、複数の退避スペース75が設けられ、図9の例では、乗降室7の四隅に設けられている(退避スペース75_1?75_4)。しかし、これに限らず、退避スペース75は、例えば、対向する2隅のみや乗降室7の4辺の中央等、複数であれば他の領域に設けられてもよい。また、各退避スペース75には、利用者が退避スペース75の場所を認識しやすいように、退避スペース75の識別番号(文字又は数字等)を示した表記79(図10参照)がされている。
【0076】
一方、図9における円状ライン76内は、立体駐車装置1が運転状態の場合に、パレット18が搬送され、ターンテーブル8が回転する領域であるため、危険エリアとされている。
【0077】
退避スペース75は、ライン(以下「退避ライン」という。)77によって、退避スペース75の内外が区切られる。退避ライン77は、例えば白線であるが、退避ライン77に沿って例えば発光手段(蛍光灯や複数のLED)が床面に設置されてもよい。この発光手段が例えば明滅することによって、利用者は退避スペース75の場所を容易に認識できる。」

e 「【0089】
さらに、本第1実施形態に係る安全装置85は、利用者に乗降室7内における安全確認の手順を報知する報知手段を備えてもよい。報知手段は、例えば、スピーカーであり、利用者に対して乗降室7の4隅に設置されている退避スペース75に順次移動することを音声により報知(以下「音声案内」という。)する。
また、報知手段として退避ライン77に沿った発光手段を明滅させてもよい。具体的には、車両2が右ハンドルの場合、車両右側前方の退避スペース75に対応する発光手段を明滅させて利用者の移動を促す。この退避スペース75に利用者が移動してリモコン送信機50からリモコン照合信号を送信させた後、車両右側後方の退避スペース75に対応する発光手段を明滅させる。さらに、その後、車両左側後方、車両左側前方というように、順次退避ライン77に沿った発光手段を明滅させる。このとき、音声案内が同時に行われてもよい。
【0090】
一方、車両2が左ハンドルの場合は、例えば、車両左側前方、車両左側後方、車両右側後方、車両右側前方の順に発光手段が明滅する。
なお、車両2のハンドル位置は、場内制御部86が人感・車両センサ26,27の検知信号に基づいて判断する。すなわち、車両2が右ハンドルの場合は、運転者が右側から降りるので、車両右側の人感・車両センサ26,27が検知信号を出力する。一方、車両2が左ハンドルの場合は、運転者が左側から降りるので、車両左側の人感・車両センサ26,27が検知信号を出力する。」

f 「【0095】
入出庫扉4aが開かれると、利用者は空パレットに車両2を停車させ(S200)、車両2から降りる(S202)。人感・車両センサ26,27が利用者の降車を検知すると、主制御部30は、音声案内として「退避スペース1に移動してください」と報知する(S302)。この音声案内によって、利用者は退避スペース75_1へ移動する(S204)。利用者が退避スペース75_1へ移動すると、ユーザー検知部82_1が利用者を検知する(S206)。この検知信号の出力を受けて、主制御部30は、音声案内として「無人を確認してください」と報知する(S304)。これにより、利用者は、退避スペース75_1から乗降室7内の無人を確認する。
・・・(中略)・・・
【0103】
利用者は、退避スペース75_4での無人確認を完了すると、乗降室7から退出し(S220)、操作盤22へ移動する(S222)。そして、利用者は、操作盤22の操作画面35に表示される安全確認ボタンを押す(S106)。主制御部30は、リモコンIDの確認を行うため(S324)、操作盤22に設置されているLF送信アンテナ46からリモコン照合信号を送信させる(S108)。
操作盤22前の利用者が所持するリモコン送信機50がリモコン照合信号を受信すると、リモコン送信機50は、リモコンID信号を返信する(S110)。主制御部30は、受信したリモコンID信号が現在の利用者のリモコンIDと同じであること確認すると、操作盤22における無人確認(安全確認)の実施が完了されたと判定する(S326)。そして、立体駐車装置1は、入出庫扉4aを閉じて(S404)、車両2が載置されたパレット18を車両格納棚17へ格納する。」

g 「【0104】
次に、本第1実施形態に係る立体駐車装置1の非常停止について説明する。
【0105】
安全装置85は、立体駐車装置1が運転状態の場合に非常停止モードとなる。立体駐車装置1が運転状態の場合とは、入出庫扉4aが閉まる、ターンテーブル8の回転開始、又はリフト14の昇降が開始する等した場合である。すなわち、入出庫扉4aが開いている場合は、立体駐車装置1は少なくとも運転状態ではない。
【0106】
そして、非常停止モードにおいて、場内RFアンテナ83がリモコン送信機50から送信されるリモコンID信号を受信した場合に、立体駐車装置1の運転状態を停止状態とする。
立体駐車装置1が運転状態となる場合とは、通常であれば乗降室7内に人は居ないはずである。しかしながら、安全装置85では、非常停止モードの場合において乗降室7内に人が居ても、リモコン送信機50を所持した人が退避スペース75へ入ることでリモコン送信機50からID信号が送信され、場内RFアンテナ83で受信されるので、迅速に立体駐車装置1が停示される。
【0107】
図14は、本第1実施形態に係る立体駐車装置1において、非常停止の流れを示すフローチャートである。
【0108】
入出庫扉4aが閉まり(S406)、車両2が載置されたパレット18が格納待ちの状態(S408)の場合において、乗降室7内に他の利用者が残っている(S224)。
このような場合、他の利用者は、退避スペース75_1?75_4の何れかへ移動することとなる(S226)。具体的には、入出庫扉4aが閉まると全ての退避ライン77の発光手段が明滅することで、乗降室7内に取り残された利用者は退避スペース75への移動が促される。」

h 「【0109】
利用者が退避スペース75の何れかへ移動すると、移動先のユーザー検知部82が利用者を検知する(S228)。この検知信号の出力を受けて、主制御部30からの信号に基づいて立体駐車装置1は、運転を停止する非常停止を作動させる(S410)。なお、非常停止とは、一例として、ターンテーブル8の回転を停止させる、又はリフト14の昇降を停止させる等である。」

i 上記dに摘記した事項を踏まえると、図10から、退避スペース75は、乗降室7の床面に設けられることが看て取れる。


j 上記bにおける【0041】と【0042】の記載からみて、リフト14は、車両が乗り上げるパレット18を昇降することによって、乗降室7と車両格納棚17との間で前記車両2を移動しているから、リフト14は、前記乗降室7と前記車両格納棚17との間で前記車両2を移動するリフト14であるといえる。

(イ)甲第1号証に記載された発明
上記(ア)の記載からみて、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「車両2を入出庫させる入出庫口4に上下スライド式の入出庫扉4aが設けられ、運転者がパレット18に載置された車両2に乗降可能とされる乗降室7と、昇降通路13を挟むようにして上下に多階層状に設けられ、前記車両2を積載するための前記パレット18が1枚ずつ収容されている車両格納棚17と、前記乗降室7と前記車両格納棚17との間で前記車両2を移動するリフト14とを備えた立体駐車装置1において、
前記乗降室7の床面に退避スペース75を設け、当該退避スペース75は、退避ライン77によって、前記退避スペース75の内外が区切られるものであり、前記退避ライン77は、退避ライン77に沿って発光手段(蛍光灯や複数のLED)が床面に設置され、前記発光手段が明滅することによって、利用者は退避スペース75の場所を容易に認識でき、入出庫扉4aが閉まると全ての退避ライン77の発光手段が明滅することで、乗降室7内に取り残された利用者は退避スペース75への移動が促されるようにした安全装置85を設けた立体駐車装置1。」

イ 甲第2号証
(ア)甲第2号証の記載
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。
「6.5 照明及び照度
a)前庭及び乗降領域
前庭及び乗降領域は,告示第13条(照明装置)の照度を維持しなければならないが,次の要件を満たすように可能な限り30lx以上の平均照度とするのがよい。なお,乗降領域に接する駐車搬送領域に人が侵入するおそれのある駐車設備では,駐車・搬送領域にも本項を適用する。
・・・(中略)・・・
b)自動点灯照明
照明を自動点灯式とする場合は,出入口扉が開く前に自動点灯し,出入口扉が閉じた後は一定時間(60秒以上を推奨)経過してから自動消灯するものとする。」(第10頁第20?31行)

(イ)第2号証に記載された技術的事項
上記(ア)の記載からみて、甲第2号証には、以下の技術的事項(以下「甲2技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「出入口扉が閉じられた後は、一定時間が経過するまで照明を点灯させた状態を維持しなければならない点。」

ウ 甲第3号証
(ア)甲第3号証の記載
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。
a 「【0031】さらに、本実施例においては、車両入退室110内の人の存在を検知するための前配置右側人検知センサ15、後配置右側人検知センサ16、前配置左側人検知センサ17、後配置左側人検知センサ18、右配置全体人検知センサ19および左配置全体人検知センサ20が設けられている。」

b 「【0043】次に、図7を参照して、車両の入庫時の制御方法について説明する。まず、立体駐車装置のドア手前で車両を停止させる。次に車両入退室のドアが閉まっていることを確認する。
【0044】次に、リモートコントロール操作を行なうため、送信器4を用いて、信号および暗証番号を送信する。この暗証番号が正しい場合は、パレットを車両入退室内に着床させ、車両入退室のドアを開く。
【0045】次に、車両を、パレットに載置し、車両の入庫を行なう。このとき、車両の進入により、車両入退室チェック光電管11が作動する。その後、パレット22の所定の位置に車両が載置された場合、実車検知光電管13のみが作動し、後部車長制限光電管12および前部車長制限光電管14は作動しない。
【0046】次に、車両が右ハンドルの場合、運転者が前配置右側人検知センサ15および後配置右側人検知センサ16の検知エリアに車両から降りる。その後、前配置右側人検知センサ15および後配置右側人検知センサ16が運転者を検知して、プログラマブルコントローラ2に信号を伝え、立体駐車装置が起動しないように処理する。
【0047】次に、運転者が車両入退室より退室し、前配置右側人検知センサ15および後配置右側人検知センサ16が作動しなくなる。その後、運転者が車両入退室内の安全を確認した後、操作盤7で安全確認ボタンを押す。
【0048】そのとき、前配置右側人検知センサ15、後配置右側人検知センサ16、前配置全体人検知センサ17、後配置左側人検知センサ18、右配置全体人検知センサ19および左配置全体人検知センサ20が作動していなければ、立体駐車装置が起動できるようにプログラマブルコントローラ2で処理を行なう。
【0049】その後、運転者が操作盤7で車両入退室のドア閉ボタンを押し、ドアを閉める。これにより車両の立体駐車装置への入庫が完了する。」

(イ)甲第3号証に記載された技術的事項
上記(ア)の記載からみて、甲第3号証には、以下の技術的事項(以下「甲3技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「車両入退室のドアを開いてから、前配置右側人検知センサ15および後配置右側人検知センサ16が運転者を検知して、プログラマブルコントローラ2に信号を伝え、立体駐車装置が起動しないように処理し、運転者が車両入退室より退室し、前配置右側人検知センサ15および後配置右側人検知センサ16が作動しなくなり、その後、運転者が車両入退室内の安全を確認した後、操作盤7で安全確認ボタンを押し、ドアを閉める点。」

エ 甲第4号証
(ア)甲第4号証の記載
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。
a 「この発明は機械式駐車設備の搬出入口における人に対する安全装置に関する。」(第1頁右下欄第12?13行)

b 「この発明は以上の説明で明らかなように一度人が一番出入口に近い光電ビームPH-4以外の光電ビームを切ると、再び光電ビームPH-4を遮断しなければドアを閉じることができないので、単に光電ビームPH-4を入(当審注:「人」の誤記であると認める。)の出入りで必ず2回遮断することを利用したものよりも安全である。即ち、2人以上の人が内部に入つて1人の人が出て来ても内部にいる人が光電ビームPH-4以外の光電ビームを遮断すれば再びドア閉じはできなくなり人の閉じ込めは起きなくなる。」(第3頁右下欄第18行?第4頁左上欄第7行)

(イ)甲第4号証に記載された技術的事項
上記(ア)の記載からみて、甲第4号証には、以下の技術的事項(以下「甲4技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「機械式駐車設備の搬出入口における人に対する安全装置において、一度人が一番出入口に近い光電ビームPH-4以外の光電ビームを切ると、再び光電ビームPH-4を遮断しなければドアを閉じることができない点。」

オ 甲第5号証
(ア)甲第5号証の記載
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。
「機械式駐車場の出入口に無人にして自動車を搬出入する装置を設けたものにおいて、前記出入口に光電ビームを通し、そのビームを遮断したことを記憶して扉閉じ装置及び搬出入装置が動作をしない装置を設け、出入口の脇に設置した扉閉じ解除装置の操作により前記装置を動作せしめてなることを特徴とする駐車場の安全装置。」(第4欄第12?18行)

(イ)甲第5号証に記載された技術的事項
上記(ア)の記載からみて、甲第5号証には、以下の技術的事項(以下「甲5技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「機械式駐車場の出入口に無人にして自動車を搬出入する装置を設けたものにおいて、前記出入口に光電ビームを通し、そのビームを遮断したことを記憶して扉閉じ装置及び搬出入装置が動作をしない点。」

(2)対比・判断
ア 対比
本件訂正特許発明4と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明における「車両2を入出庫させる入出庫口4に上下スライド式の入出庫扉4aが設けられ」ることは、車両2を入出庫口4を介して入出庫させるのだから入出庫口4の外部と入出庫口4の内部とを連通するように上下スライド式の入出庫扉4aが設けられることは明らかである。
そうすると、甲1発明における「車両2を入出庫させる入出庫口4に上下スライド式の入出庫扉4aが設けられ、運転者がパレット18に載置された車両2に乗降可能とされる乗降室7」は、本件訂正特許発明4の「外部と出入口ドアを介して連通し、乗員が駐車車両から乗り降りする入出庫室」に相当する。

(イ)甲1発明における「昇降通路13を挟むようにして上下に多階層状に設けられ、前記車両2を積載するための前記パレット18が1枚ずつ収容されている車両格納棚17」、「前記乗降室7と前記車両格納棚17との間で前記車両2を移動するリフト14」、「立体駐車装置1」は、それぞれ本件訂正特許発明4の「前記駐車車両を格納可能な複数の格納部を有する格納室」、「前記入出庫室と前記格納室間で前記駐車車両を移動する移動装置」、「駐車装置」に相当する。

(ウ)甲1発明における「前記乗降室7の床面」は、本件訂正特許発明4における「前記入出庫室の床」に相当する。

(エ)甲1発明における「退避スペース75」は、「退避ライン77によって、前記退避スペース75の内外が区切られるものであり、前記退避ライン77は、退避ライン77に沿って発光手段(蛍光灯や複数のLED)が床面に設置され、前記発光手段が明滅することによって、利用者は退避スペース75の場所を容易に認識でき」るものである。そうすると、甲1発明における「退避ライン77によって、前記退避スペース75の内外が区切られる」「退避スペース75」は、本件訂正特許発明4における「マーキングにより示された待避箇所」に相当する。
また、甲1発明における「入出庫扉4aが閉まると全ての退避ライン77の発光手段が明滅することで、乗降室7内に取り残された利用者は退避スペース75への移動が促される」「退避スペース75」は、本件訂正特許発明4における「乗員が入出庫室にいる状態で出入り口ドアが閉扉し、乗員が入出庫室に閉じ込められた時に前記乗員が待避する」「待避箇所」に相当する。
そうすると、甲1発明は「前記乗降室7の床面に退避スペース75を設け、当該退避スペース75は、退避ライン77によって、前記退避スペース75の内外が区切られるもの」であるところ、「退避ライン77」によって区切られた「乗降室7の床面」の「退避スペース75」は、本件訂正特許発明4における「入出庫の床」に設けた「マーキングにより示された待避箇所」に相当し、また、甲1発明は、「前記退避ライン77は、退避ライン77に沿って発光手段(蛍光灯や複数のLED)が床面に設置され、前記発光手段が明滅することによって、利用者は退避スペース75の場所を容易に認識でき、入出庫扉4aが閉まると全ての退避ライン77の発光手段が明滅することで、乗降室7内に取り残された利用者は退避スペース75への移動が促される」ものであるから、本件訂正特許発明4における「前記入出庫室の床に、乗員が入出庫室にいる状態で出入り口ドアが閉扉し、乗員が入出庫室に閉じ込められた時に前記乗員が待避するマーキングにより示された待避箇所を設け」る構成を備えるものである。

(オ)甲1発明における「発光手段(蛍光灯や複数のLED)」は、本件訂正特許発明4における「照明」に相当する。

(カ)甲1発明において「前記発光手段が明滅することによって、利用者は退避スペース75の場所を容易に認識でき、入出庫扉4aが閉まると全ての退避ライン77の発光手段が明滅することで、乗降室7内に取り残された利用者は退避スペース75への移動が促される」ことと、本件訂正特許発明4において、「前記待避箇所に照明により光を照射して前記待避箇所を明示する」こととは、「照明」により「待避箇所を明示する」という点で共通する。

(キ)甲1発明における「安全装置85」は、本件訂正特許発明4における「待避箇所誘導装置」に相当する。

(ク)上記(ア)ないし(キ)からみて、本件訂正特許発明4と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「外部と出入口ドアを介して連通し、乗員が駐車車両から乗り降りする入出庫室と、前記駐車車両を格納可能な複数の格納部を有する格納室と、前記入出庫室と前記格納室間で前記駐車車両を移動する移動装置とを備えた駐車装置において、
前記入出庫室の床に、乗員が入出庫室にいる状態で出入り口ドアが閉扉し、乗員が入出庫室に閉じ込められた時に前記乗員が待避するマーキングにより示された待避箇所を設け、照明により前記待避箇所を明示する待避箇所誘導装置を設けた駐車装置。」

・相違点1
「照明」により「待避箇所を明示する」にあたり、本件訂正特許発明4においては、「待避箇所に照明により光を照射して」待避箇所を明示するのに対して、甲1発明においては、発光手段(照明)の明滅によりどのようにして利用者が退避スペース75の場所を容易に認識できるようにしたか特定されていない点。

・相違点2
待避箇所誘導装置について、本件訂正特許発明4が、「前記出入ロドアの閉扉時に前記入出庫室内の乗員を検出する人体検出センサを備え、この人体検出センサによる乗員の検出時に前記待避箇所の明示動作を行う」のに対して、甲1発明においては、入出庫扉4aの閉扉時に乗降室7内の利用者を検出する人体検出センサを備えることは特定されず、この人体検出センサによる乗員の検出時に前記待避箇所の明示動作を行うことも特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。

(ア)甲1発明は、入出庫扉4aが閉まると全ての退避ライン77の発光手段が明滅するから、乗降室7内に取り残された利用者が存在するか否かにかかわらず、入出庫扉4aが閉まると発光手段が明滅するものであって、該明滅により、乗降室7内に取り残された利用者は退避スペース75への移動が促されるのである。してみると、甲1発明は、入出庫扉4aが閉まった場合に、乗降室7内に取り残された利用者が存在するか否かに応じて、発光手段を明滅させるか否かの選択を想定しているということはできない。
そして、甲第1号証には、乗降室7内に取り残された利用者を検出する人体検出センサを備え、当該人体検出センサによる乗員の検出時に退避スペース75の発光手段が明滅するように構成することを示唆する記載もない。

(イ)一方、甲第1号証には、上記(1)ア(ア)c、e及びfに摘記したように、乗降室7の両側面の壁には、車両2の大きさや前後位置を検知するための人感・車両センサ26,27が設けられることが記載されている。当該人感・車両センサ26,27についてみると、車両2のハンドル位置を、場内制御部86が人感・車両センサ26,27の検知信号に基づいて判断し、車両2が右ハンドルの場合、車両右側前方の退避スペース75に対応する発光手段を明滅させて利用者の移動を促す制御を行っているものであるから、当該制御は、利用者に対して退避スペース75から乗降室7内の無人を確認することを促すために、入出庫扉4aが開かれている間に行われる制御であって、入出庫扉4aの閉扉時に利用者を検知する人体検出センサではなく、また、閉扉時に人体を検出して退避スペース75に対応する発光手段を明滅させるものでもない。
また、甲第1号証には、上記(1)ア(ア)hに摘記したように、ユーザー検知部82を備えることが記載されている。当該ユーザー検知部82は、利用者が退避スペース75の何れかへ移動すると、移動先のユーザー検知部82が利用者を検知するものであって、入出庫扉4aの閉扉時に利用者を検知する人体検出センサではなく、また、閉扉時に利用者に退避スペース75への移動を促すために退避スペース75に対応する発光手段を明滅させるものでもない。

(ウ)そして、甲2技術的事項?甲5技術的事項を検討しても、上記相違点2に係る構成を開示しておらず、また、上記相違点2が実質的な相違点ではないことを示唆するものでもない。

(エ)以上を踏まえると、上記相違点2は実質的な相違点であるから、本件訂正特許発明4は甲第1号証に記載された発明ではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、上記相違点2について、下記の意見を主張している。
a 申立書における主張(申立書第9頁第2?6行)
甲1発明は、乗降室(7)内の利用者を検出する人感・車両センサ(26,27)を備え(上記構成f)、入出庫扉4aが閉まった状態で、人感・車両センサ(26,27)によって乗降室(7)内に利用者が残っていることが検知された場合には、全ての退避ライン(77)の発光手段を明滅させることで、乗降室(7)内に取り残された利用者を退避スペース(75)に誘導するように構成されている(上記構成g)。

b 令和2年4月2日の意見書における主張(第8頁第11行?第9頁第7行)
本件訂正発明4と甲1発明とを対比すると、以下の点で相違する。
相違点1:本件訂正発明4は、「F 前記待避箇所誘導装置は、前記出入ロドアの閉扉時に前記入出庫室内の乗員を検出する人体検出センサを備え」ているのに対し、甲1発明はそのような構成とされているか明らかでない点。

相違点2:本件訂正発明4は、「G この人体検出センサによる乗員の検出時に前記待避箇所の明示動作を行う」のに対し、甲1発明は「出入口扉の閉扉時」に発光手段の明滅を行う点。

<相違点1について>
当該駐車装置の技術分野において、乗降室内における物体を検知するセンサを備えることは周知の技術である(例えば、甲第3号証(特開平8-93255号公報)の図1、甲第4号証(特開昭51-42268号公報)の第1図、甲第5号証(実公昭49-3738号公報)の第1図参照)。

<相違点2について>
甲1発明は、乗降室内に利用者が閉じ込められた場合に、閉じ込められた利用者を退避スペース75に誘導することを課題解決の一つとしている。そうすると、甲1発明において、閉じ込められている利用者を退避スペース75に安全に誘導するという課題を解決するために、「出入口4aの閉扉時」に代えて、「出入口扉4aの閉扉時に人体検出センサによって物体が検知された場合」を採用し、このタイミングで退避ライン77に沿って埋設されている発光手段を明滅させるようにすることは、周知技術の転換であって、新たな効果を奏するものでもない。したがって、上記相違点2は、課題解決のための具体化手段における微差に過ぎない。」

(イ)当審の判断
a 上記(ア)aの主張に対して
甲第1号証の人感・車両センサ26,27は、入出庫扉4aが入出庫扉4aの閉扉時に利用者を検知する人体検出センサではないことは、上記イ(イ)に示したとおりである。

b 上記(ア)bの主張に対して
上記(1)ウないしオで摘記したように、甲第3号証ないし甲第5号証には、駐車装置において、「出入ロドアの閉扉時に入出庫室内の乗員を検出する人体検出センサ」は開示も示唆もされていない。
また、上記(1)イないしオで摘記したように、甲第2号証ないし甲第5号証には、「出入口扉4aの閉扉時に人体検出センサによって物体が検知された場合」に、発光手段を明滅させることを開示も示唆もないから、上記のように「出入口4aの閉扉時」に代えて、「出入口扉4aの閉扉時に人体検出センサによって物体が検知された場合」を採用することが課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。

以上のようであるから、申立人の上記の主張は採用できない。


6 むすび
以上のとおり、本件訂正特許発明4に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件訂正特許発明4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1ないし3に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項1ないし3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (削除)
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】
外部と出入口ドアを介して連通し、乗員が駐車車両から乗り降りする入出庫室と、前記駐車車両を格納可能な複数の格納部を有する格納室と、前記入出庫室と前記格納室間で前記駐車車両を移動する移動装置とを備えた駐車装置において、
前記入出庫室の床に、乗員が入出庫室にいる状態で出入り口ドアが閉扉し、乗員が入出庫室に閉じ込められた時に前記乗員が待避するマーキングにより示された待避箇所を設け、前記待避箇所に照明により光を照射して前記待避箇所を明示する待避箇所誘導装置を設け、
前記待避箇所誘導装置は、前記出入口ドアの閉扉時に前記入出庫室内の乗員を検出する人体検出センサを備え、この人体検出センサによる乗員の検出時に前記待避箇所の明示動作を行う、
ことを特徴とする駐車装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-07-20 
出願番号 特願2015-218128(P2015-218128)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (E04H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 土屋 保光  
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 西田 秀彦
秋田 将行
登録日 2019-04-05 
登録番号 特許第6504999号(P6504999)
権利者 日精株式会社
発明の名称 駐車装置  
代理人 中島 愼一  
代理人 中島 愼一  

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