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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03F
管理番号 1366079
異議申立番号 異議2019-700529  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-04 
確定日 2020-07-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6447242号発明「感放射線性樹脂組成物、絶縁膜及びその製造方法、並びに有機EL素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6447242号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔6?12〕、〔13?18〕について訂正することを認める。 特許第6447242号の請求項6に係る特許を取り消す。 特許第6447242号の請求項1?5、7?18に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6447242号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成27年3月2日(先の出願に基づく優先権主張 平成26年5月15日)に特許出願され、平成30年12月14日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月9日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許について、令和元年7月4日に特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和元年9月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和元年12月2日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、さらに、令和2年2月13日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である令和2年3月30日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がなされたものである。
なお、令和元年12月2日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
また、令和元年12月6日付け及び令和2年4月6日付けで、特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知を送付したが、指定した期間内に特許異議申立人からの意見書の提出はなされなかった。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨
本件訂正の請求の趣旨は、「特許第6447242号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項6?18について訂正することを求める。」というものである。
なお、本件訂正請求は、本件訂正前の請求項6及び請求項6の記載を直接又は間接的に引用していた請求項7?12について請求されたものであるから、本件訂正前の一群の請求項である請求項〔6?12〕について請求されたものである。また、特許権者は、「引用関係の解消の求め」として、訂正の請求項13?18を、請求項6?12とは別途訂正することを求めている。そして、訂正後の請求項は、請求項6?12からなる一群の請求項と、請求項13?18からなる一群の請求項に分けることができる。
そこで、以下では、一群の請求項ごとである請求項6?12及び請求項13?18に分けて、訂正の適否について判断する。

2 請求項6?12に係る訂正について
(1)訂正の内容
請求項6?12に係る訂正の訂正内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項6に
「(B)感放射線性酸発生剤と、」
と記載されているのを、
「(B)キノンジアジド化合物である感放射線性酸発生剤と、」
に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項8?12も同様に訂正する。)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7に
「請求項5または6に記載の感放射線性樹脂組成物。」
と記載されているのを、
「請求項5に記載の感放射線性樹脂組成物。」
に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8?12も同様に訂正する。)。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9に
「請求項1?8のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物」
と記載されているのを、
「請求項1?5、7?8のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物」
に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10?12も同様に訂正する。)。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10に
「請求項1?9のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物」
と記載されているのを、
「請求項1?5、7?9のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物」
に訂正する(請求項10の記載を引用する請求項12も同様に訂正する。)。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項11に
「請求項1?9のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物」
と記載されているのを、
「請求項1?5、7?9のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物」
に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12も同様に訂正する。)。

(2)訂正の目的の適否
ア 訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、感放射線性酸発生剤について「キノンジアジド化合物である」とする限定を付加する訂正である(請求項6の記載を引用する請求項8?12も同様である。)。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものといえる。

イ 訂正事項2?5について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項7に係る発明が訂正前の請求項5又は6の記載を引用していたところ、請求項6の記載を引用しないものとするものである。また、訂正事項3?5による訂正も、訂正前の請求項9、10及び11のそれぞれについて、請求項6の記載を引用しないものとするものである。
したがって、訂正事項2?5による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる事項を目的とするものといえる。

(3)新規事項の有無
ア 訂正事項1について
本件特許の明細書段落【0058】に、「感放射線性酸発生剤(B)としては、キノンジアジド化合物、オキシムスルホネート化合物、オニウム塩、スルホン酸エステル化合物が好ましく、キノンジアジド化合物、オキシムスルホネート化合物がより好ましく、キノンジアジド化合物が特に好ましい。」と記載されている。当該記載に基づけば、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるといえる。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

イ 訂正事項2?5について
訂正事項2?5による訂正は、訂正前の請求項6の記載を引用しないものとするものであるから、新規事項を追加するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項2?5による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、限定を付加する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2?5について
訂正事項2?5による訂正は、訂正前の請求項6の記載を引用しないものとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項2?5による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

3 請求項13?18に係る訂正について
(1)訂正の内容
請求項13?18に係る訂正の訂正内容は、以下のとおりである。

ア 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に
「ノボラック樹脂(C)が、フェノール性水酸基を有する縮合多環式芳香族基を有する構造単位を含む樹脂である請求項5または6に記載の感放射線性樹脂組成物。」
と記載されているもののうち、請求項6の記載を引用するものについて、
「(A)式(A1)で表される構造単位を有するポリイミド、および
前記ポリイミドの前駆体
から選択される少なくとも1種の重合体と、
(B)感放射線性酸発生剤と、
(G1)式(G1-1)で表される化合物、および
式(G1-2)で表される化合物
から選択される少なくとも1種の溶剤と、
(C)ノボラック樹脂と
を含有し、
ノボラック樹脂(C)が、フェノール性水酸基を有する縮合多環式芳香族基を有する構造単位を含む樹脂である、感放射線性樹脂組成物。
【化7】

[式(A1)中、R^(1)は水酸基を有する2価の基であり、Xは4価の有機基である。]
【化8】

[式(G1-1)中、R^(G1)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または前記炭化水素基における少なくとも1つの炭素-炭素結合間に-O-を挿入してなる基であり、2つのR^(G1)は互いに結合して窒素原子とともに環を形成していてもよく、R^(G2)はメチレン基またはカルボニル基であり、R^(G3)は水素原子または炭素数1?18の炭化水素基であり、R^(G4)は炭素数1?12のアルキル基または炭素数2?10のアルコキシアルキル基である。
式(G1-2)中、X^(G1)はそれぞれ独立にC-Hまたは窒素原子であり、ただし少なくとも1つのX^(G1)は窒素原子であり、X^(G2)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または炭素数2?18のアルコキシアルキル基であり、ただし「2つのX^(G1)がそれぞれC-HおよびN原子であり、N原子に結合したX^(G2)がメチル基であり、炭素原子に結合したX^(G2)が水素原子である場合」を除く。]」
と訂正し、新たな請求項13とする。

イ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に
「ノボラック樹脂(C)が、式(C2-1)で表される構造単位および式(C2-2)で表される構造単位から選択される少なくとも1種を有する樹脂である請求項5?7のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物。
【化6】

[式(C2-1)?式(C2-2)中、R^(2)は、メチレン基、炭素数2?30のアルキレン基、炭素数4?30の2価の脂環式炭化水素基,炭素数7?30のアラルキレン基または-R^(3)-Ar-R^(3)-で表される基(Arは2価の芳香族基であり、R^(3)はそれぞれ独立にメチレン基または炭素数2?20のアルキレン基である)であり;a、b、cおよびeはそれぞれ独立に0?3の整数であり、dは0?2の整数であり、但し、aおよびbが共に0である場合はなく、c?eの全てが0である場合はない。]」
と記載されているもののうち、請求項8が請求項7の記載を介して請求項6の記載を引用するものについて、
「ノボラック樹脂(C)が、式(C2-1)で表される構造単位および式(C2-2)で表される構造単位から選択される少なくとも1種を有する樹脂である請求項13に記載の感放射線性樹脂組成物。
【化9】

[式(C2-1)?式(C2-2)中、R^(2)は、メチレン基、炭素数2?30のアルキレン基、炭素数4?30の2価の脂環式炭化水素基,炭素数7?30のアラルキレン基または-R^(3)-Ar-R^(3)-で表される基(Arは2価の芳香族基であり、R^(3)はそれぞれ独立にメチレン基または炭素数2?20のアルキレン基である)であり;a、b、cおよびeはそれぞれ独立に0?3の整数であり、dは0?2の整数であり、但し、aおよびbが共に0である場合はなく、c?eの全てが0である場合はない。]」に訂正し、新たな請求項14とする。

ウ 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に
「(D)架橋剤
をさらに含有する請求項1?8のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物。」
と記載されているもののうち、請求項7又は請求項8の記載を介して請求項6の記載を引用するものについて、
「(D)架橋剤
をさらに含有する請求項13または14に記載の感放射線性樹脂組成物。」に訂正し、新たな請求項15とする。

エ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に
「請求項1?9のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物から形成される、有機EL素子用絶縁膜。」
と記載されているもののうち、請求項7?9の記載を介して請求項6の記載を引用するものについて、
「請求項13?15のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物から形成される、有機EL素子用絶縁膜。」に訂正し、新たな請求項16とする。

オ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11に
「請求項1?9のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物を用いて基板上に塗膜を形成する工程、前記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程、前記放射線が照射された塗膜を現像する工程、および前記現像された塗膜を加熱する工程を有する、有機EL素子用絶縁膜の製造方法。」
と記載されているもののうち、請求項7?9の記載を介して請求項6の記載を引用するものについて、
「請求項13?15のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物を用いて基板上に塗膜を形成する工程、前記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程、前記放射線が照射された塗膜を現像する工程、および前記現像された塗膜を加熱する工程を有する、有機EL素子用絶縁膜の製造方法。」に訂正し、新たな請求項17とする。

カ 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項12に
「請求項10に記載の絶縁膜を備える有機EL素子。」
と記載されているもののうち、請求項10の記載及び請求項7?9の記載を介して請求項6の記載を引用するものについて、
「請求項16に記載の絶縁膜を備える有機EL素子。」に訂正し、新たな請求項18とする。

(2)訂正の目的の適否
ア 訂正事項6について
訂正事項6による訂正は、請求項6の記載を引用する請求項7の記載を、請求項6の記載を引用しないものとする訂正である。
したがって、訂正事項6による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる事項を目的とするものといえる。

イ 訂正事項7?11について
訂正事項7?11による訂正は、請求項7の記載を介して請求項6の記載を間接的に引用する請求項8の記載を、請求項6の記載を引用しないものとする訂正である。また、訂正事項5?8による訂正も、同様に、請求項6の記載を間接的に引用する請求項9?12の記載を、請求項6の記載を引用しないものとする訂正である。
したがって、訂正事項7?11による訂正も、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる事項を目的とするものといえる。

(3)新規事項の有無
訂正事項6?11による訂正は、請求項6の記載を引用しないものとするものであるから、新規事項を追加するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項6?11による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6?11による訂正は、請求項6の記載を引用しないものとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項6?11による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12〕、〔13?18〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求は、前記第2のとおり、認められることとなったので、本件特許の請求項1?18に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明18」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(A)式(A1)で表される構造単位を有するポリイミド、および
前記ポリイミドの前駆体
から選択される少なくとも1種の重合体と、
(B)感放射線性酸発生剤と、
(G1)式(G1-1)で表される化合物、および
式(G1-2)で表される化合物
から選択される少なくとも1種の溶剤と、
(G2)グリコール系溶剤と
を含有する感放射線性樹脂組成物。
【化1】

[式(A1)中、R^(1)は水酸基を有する2価の基であり、Xは4価の有機基である。]
【化2】

[式(G1-1)中、R^(G1)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または前記炭化水素基における少なくとも1つの炭素-炭素結合間に-O-を挿入してなる基であり、2つのR^(G1)は互いに結合して窒素原子とともに環を形成していてもよく、R^(G2)はメチレン基またはカルボニル基であり、R^(G3)は水素原子または炭素数1?18の炭化水素基であり、R^(G4)は炭素数1?12のアルキル基または炭素数2?10のアルコキシアルキル基である。
式(G1-2)中、X^(G1)はそれぞれ独立にC-Hまたは窒素原子であり、ただし少なくとも1つのX^(G1)は窒素原子であり、X^(G2)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または炭素数2?18のアルコキシアルキル基であり、ただし「2つのX^(G1)がそれぞれC-HおよびN原子であり、N原子に結合したX^(G2)がメチル基であり、炭素原子に結合したX^(G2)が水素原子である場合」を除く。]
【請求項2】
式(A1)におけるR^(1)が、式(a1)で表される2価の基である請求項1に記載の感放射線性樹脂組成物。
【化3】

[式(a1)中、R^(2)は、単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、カルボニル基、メチレン基、ジメチルメチレン基またはビス(トリフルオロメチル)メチレン基であり;R^(3)は、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基、アシル基またはアルキル基であり、ただし、R^(3)の少なくとも1つは水素原子であり;n1およびn2は、それぞれ独立に0?2の整数であり、ただし、n1およびn2の少なくとも一方は1または2である。]
【請求項3】
前記溶剤(G1)が、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ヘキシルオキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、イソプロポキシ-N-イソプロピル-プロピオンアミド、n-ブトキシ-N-イソプロピル-プロピオンアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-エチル-2-ピロリドン、N-(n-プロピル)-2-ピロリドン、N-イソプロピル-2-ピロリドン、N-(n-ブチル)-2-ピロリドン、N-(t-ブチル)-2-ピロリドン、N-(n-ペンチル)-2-ピロリドン、N-メトキシプロピル-2-ピロリドン、N-エトキシエチル-2-ピロリドンおよびN-メトキシブチル-2-ピロリドンから選択される少なくとも1種の溶剤を含む請求項1または2に記載の感放射線性樹脂組成物。
【請求項4】
グリコール系溶剤(G2)が、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネート、およびトリエチレングリコールジアルキルエーテルから選択される少なくとも1種の溶剤を含む請求項1?3のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物。
【請求項5】
(C)ノボラック樹脂
をさらに含有する請求項1?4のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物。
【請求項6】
(A)式(A1)で表される構造単位を有するポリイミド、および
前記ポリイミドの前駆体
から選択される少なくとも1種の重合体と、
(B)キノンジアジド化合物である感放射線性酸発生剤と、
(G1)式(G1-1)で表される化合物、および
式(G1-2)で表される化合物
から選択される少なくとも1種の溶剤と、
(C)ノボラック樹脂と
を含有する感放射線性樹脂組成物。
【化4】

[式(A1)中、R^(1)は水酸基を有する2価の基であり、Xは4価の有機基である。]
【化5】

[式(G1-1)中、R^(G1)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または前記炭化水素基における少なくとも1つの炭素-炭素結合間に-O-を挿入してなる基であり、2つのR^(G1)は互いに結合して窒素原子とともに環を形成していてもよく、R^(G2)はメチレン基またはカルボニル基であり、R^(G3)は水素原子または炭素数1?18の炭化水素基であり、R^(G4)は炭素数1?12のアルキル基または炭素数2?10のアルコキシアルキル基である。
式(G1-2)中、X^(G1)はそれぞれ独立にC-Hまたは窒素原子であり、ただし少なくとも1つのX^(G1)は窒素原子であり、X^(G2)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または炭素数2?18のアルコキシアルキル基であり、ただし「2つのX^(G1)がそれぞれC-HおよびN原子であり、N原子に結合したX^(G2)がメチル基であり、炭素原子に結合したX^(G2)が水素原子である場合」を除く。]
【請求項7】
ノボラック樹脂(C)が、フェノール性水酸基を有する縮合多環式芳香族基を有する構造単位を含む樹脂である請求項5に記載の感放射線性樹脂組成物。
【請求項8】
ノボラック樹脂(C)が、式(C2-1)で表される構造単位および式(C2-2)で表される構造単位から選択される少なくとも1種を有する樹脂である請求項5?7のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物。
【化6】

[式(C2-1)?式(C2-2)中、R^(2)は、メチレン基、炭素数2?30のアルキレン基、炭素数4?30の2価の脂環式炭化水素基,炭素数7?30のアラルキレン基または-R^(3)-Ar-R^(3)-で表される基(Arは2価の芳香族基であり、R^(3)はそれぞれ独立にメチレン基または炭素数2?20のアルキレン基である)であり;a、b、cおよびeはそれぞれ独立に0?3の整数であり、dは0?2の整数であり、但し、aおよびbが共に0である場合はなく、c?eの全てが0である場合はない。]
【請求項9】
(D)架橋剤
をさらに含有する請求項1?5、7?8のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1?5、7?9のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物から形成される、有機EL素子用絶縁膜。
【請求項11】
請求項1?5、7?9のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物を用いて基板上に塗膜を形成する工程、前記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程、前記放射線が照射された塗膜を現像する工程、および前記現像された塗膜を加熱する工程を有する、有機EL素子用絶縁膜の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の絶縁膜を備える有機EL素子。
【請求項13】
(A)式(A1)で表される構造単位を有するポリイミド、および
前記ポリイミドの前駆体
から選択される少なくとも1種の重合体と、
(B)感放射線性酸発生剤と、
(G1)式(G1-1)で表される化合物、および
式(G1-2)で表される化合物
から選択される少なくとも1種の溶剤と、
(C)ノボラック樹脂と
を含有し、
ノボラック樹脂(C)が、フェノール性水酸基を有する縮合多環式芳香族基を有する構造単位を含む樹脂である、感放射線性樹脂組成物。
【化7】

[式(A1)中、R^(1)は水酸基を有する2価の基であり、Xは4価の有機基である。]
【化8】

[式(G1-1)中、R^(G1)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または前記炭化水素基における少なくとも1つの炭素-炭素結合間に-O-を挿入してなる基であり、2つのR^(G1)は互いに結合して窒素原子とともに環を形成していてもよく、R^(G2)はメチレン基またはカルボニル基であり、R^(G3)は水素原子または炭素数1?18の炭化水素基であり、R^(G4)は炭素数1?12のアルキル基または炭素数2?10のアルコキシアルキル基である。
式(G1-2)中、X^(G1)はそれぞれ独立にC-Hまたは窒素原子であり、ただし少なくとも1つのX^(G1)は窒素原子であり、X^(G2)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または炭素数2?18のアルコキシアルキル基であり、ただし「2つのX^(G1)がそれぞれC-HおよびN原子であり、N原子に結合したX^(G2)がメチル基であり、炭素原子に結合したX^(G2)が水素原子である場合」を除く。]
【請求項14】
ノボラック樹脂(C)が、式(C2-1)で表される構造単位および式(C2-2)で表される構造単位から選択される少なくとも1種を有する樹脂である請求項13に記載の感放射線性樹脂組成物。
【化9】

[式(C2-1)?式(C2-2)中、R^(2)は、メチレン基、炭素数2?30のアルキレン基、炭素数4?30の2価の脂環式炭化水素基,炭素数7?30のアラルキレン基または-R^(3)-Ar-R^(3)-で表される基(Arは2価の芳香族基であり、R^(3)はそれぞれ独立にメチレン基または炭素数2?20のアルキレン基である)であり;a、b、cおよびeはそれぞれ独立に0?3の整数であり、dは0?2の整数であり、但し、aおよびbが共に0である場合はなく、c?eの全てが0である場合はない。]
【請求項15】
(D)架橋剤
をさらに含有する請求項13または14に記載の感放射線性樹脂組成物。
【請求項16】
請求項13?15のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物から形成される、有機EL素子用絶縁膜。
【請求項17】
請求項13?15のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物を用いて基板上に塗膜を形成する工程、前記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程、前記放射線が照射された塗膜を現像する工程、および前記現像された塗膜を加熱する工程を有する、有機EL素子用絶縁膜の製造方法。
【請求項18】
請求項16に記載の絶縁膜を備える有機EL素子。」


第4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
1 甲第1号証の記載事項
先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証(特開2013-50696号公報)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。以下の引用文献においても同様である。

(1)「【請求項1】
(a)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂、及び
(b)活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物
を含有する感光性樹脂組成物。
【化1】

上記一般式(1)中、
R^(1)は、4価の有機基を表す。複数のR^(1)は互いに同一であっても異なっていてもよい。
R^(2)は、2価の有機基を表す。複数のR^(2)は互いに同一であっても異なっていてもよい。
但し複数のR^(2)のうち少なくとも1つは脂環基を有する2価の有機基である。
R^(3)は、各々独立に、水素原子又は有機基を表す。
但し複数の-CO_(2)R^(3)のうち少なくとも1つは、酸の作用により分解しアルカリ可溶性基を生じる基である。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂(a)が、下記一般式(2)で表される繰り返し単位と、下記一般式(3)で表される繰り返し単位とを有する樹脂である、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【化2】

上記一般式(2)中、
R^(1)’は、前記一般式(1)におけるR^(1)と同義である。
R^(3)’は、前記一般式(1)におけるR^(3)と同義である。
但し複数の-CO_(2)R^(3)’のうち少なくとも1つは、酸の作用により分解しアルカリ可溶性基を生じる基である。
R^(4)は、脂環基を有する2価の有機基である。
上記一般式(3)中、
R^(1)”は、前記一般式(1)におけるR^(1)と同義である。
R^(3)”は、前記一般式(1)におけるR^(3)と同義である。
但し複数の-CO_(2)R^(3)”のうち少なくとも1つは、酸の作用により分解しアルカリ可溶性基を生じる基である。
R^(5)は、R^(4)とは異なる2価の有機基である。

(中略)

【請求項19】
請求項1?16のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物により形成される感光性膜。

(中略)

【請求項21】
(ア)請求項19に記載の感光性膜を基板上に形成する工程、
(イ)該感光性膜を活性光線又は放射線で露光する工程、
(ウ)該感光性膜の露光された部分を水性アルカリ現像液で除去するように現像する工程、及び
(エ)得られたレリーフパターンを加熱処理する工程
を有する硬化レリーフパターンの製造方法。」

(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置の表面保護膜、層間絶縁膜、表示デバイス用の層間絶縁膜として使用されるポジ型高耐熱性感光性樹脂組成物、該ポジ型高耐熱性感光性樹脂組成物を用いた耐熱性を有する硬化レリーフパターンの製造方法及びレリーフパターンを含有する半導体装置に関するものである。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、解像性及び感度に優れたリソグラフィー性能を有し、300℃以下(好ましくは250℃以下)の低温での硬化、いわゆる低温キュアにおいて、応力が低いことによりウエハ反りを防止する硬化レリーフパターンを形成することができる感光性樹脂組成物、該感光性樹脂組成物を用いる、レリーフパターン形成材料、感光性膜、ポリイミド膜、硬化レリーフパターン、その製造方法、及び該硬化レリーフパターンを含む半導体装置を提供することを目的とする。

(中略)

【発明の効果】
【0021】
本発明の感光性樹脂組成物は、解像性及び感度に優れたリソグラフィー性能を有し、いわゆる低温キュアにおいて、応力が低いことによりウエハ反りを防止する硬化レリーフパターンを形成することができる。
本発明によれば、解像性及び感度に優れたリソグラフィー性能を有し、いわゆる低温キュアにおける低応力特性に優れ、ウエハ反りを防止する硬化レリーフパターンを形成することができる、レリーフパターン形成材料、感光性膜、ポリイミド膜、硬化レリーフパターン、その製造方法、及び該硬化レリーフパターンを含む半導体装置を提供することができる。」

(3)「【0023】
本発明の感光性樹脂組成物は、(a)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂、及び
(b)活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物
を含有する。
【0024】
【化7】

【0025】
上記一般式(1)中、
R^(1)は、4価の有機基を表す。複数のR^(1)は互いに同一であっても異なっていてもよい。
R^(2)は、2価の有機基を表す。複数のR^(2)は互いに同一であっても異なっていてもよい。
但し複数のR^(2)のうち少なくとも1つは脂環基を有する2価の有機基である。
R^(3)は、各々独立に、水素原子又は有機基を表す。
但し複数の-CO_(2)R^(3)のうち少なくとも1つは、酸の作用により分解しアルカリ可溶性基を生じる基である。」

(4)「【0027】
(a)一般式(1)の繰り返し単位を有する樹脂
前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂(a)は、酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解度が増大する樹脂である。一般式(1)の繰り返し単位を有する樹脂は、好ましくはアルカリ現像液に不溶又は難溶性である。

(中略)

【0042】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂(a)は、熱硬化させてポリイミドとした際に、直線性及び剛直性を向上させ低応力を達成しウエハ反りを防止する観点、基板との接着性を高める観点、露光後のアルカリ溶解性を高める観点などから、下記一般式(2)で表される繰り返し単位と、下記一般式(3)で表される繰り返し単位とを有する樹脂であることが好ましい。
【0043】
【化11】

【0044】
上記一般式(2)中、
R^(1)’は、前記一般式(1)におけるR^(1)と同義である。
R^(3)’は、前記一般式(1)におけるR^(3)と同義である。
但し複数の-CO_(2)R’^(3)(合議体注:「-CO_(2)R’^(3)」は「-CO_(2)R^(3)’」の誤記である。)のうち少なくとも1つは、酸の作用により分解しアルカリ可溶性基を生じる基である。
R^(4)は、脂環基を有する2価の有機基である。
上記一般式(3)中、
R^(1)”は、前記一般式(1)におけるR^(1)と同義である。
R^(3)”は、前記一般式(1)におけるR^(3)と同義である。
但し複数の-CO_(2)R^(3)”のうち少なくとも1つは、酸の作用により分解しアルカリ可溶性基を生じる基である。
R^(5)は、R^(4)とは異なる2価の有機基である。

(中略)

【0125】
これらの特性を満たす上記一般式(1)にて示される構造単位を有するポリアミド酸エステルは、適切なモノマーを選択することにより、芳香環π共役長が抑えられ、剛直でかつ直線な主鎖を形成可能な構造を有することになる。
また、本発明において、樹脂(a)は、1種で使用してもよいし、複数併用してもよい。さらに、樹脂(a)以外の樹脂を併用してもよい。」

(5)「【0126】
(b)活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物
本発明の組成物は活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物(「光酸発生剤」又は「(b)成分」ともいう)を含有する。これらは2種以上を併用して用いることもできる。また、感度調整のために、増感剤などを併用して用いることもできる。
【0127】
(b1)光酸発生剤
光酸発生剤としては、光カチオン重合の光開始剤、光ラジカル重合の光開始剤、色素類の光消色剤、光変色剤、あるいはマイクロレジスト等に使用されている活性光線又は放射線の照射により酸を発生する公知の化合物及びそれらの混合物を適宜に選択して使用することができる。
【0128】
たとえば、ジアゾニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、イミドスルホネート、オキシムスルホネート、ジアゾジスルホン、ジスルホン、o-ニトロベンジルスルホネートを挙げることができる。
【0129】
また、活性光線又は放射線の照射により酸を発生する基、あるいは化合物をポリマーの主鎖又は側鎖に導入した化合物、たとえば、米国特許第3,849,137号、独国特許第3914407号、特開昭63-26653号、特開昭55-164824号、特開昭62-69263号、特開昭63-146038号、特開昭63-163452号、特開昭62-153853号、特開昭63-146029号等に記載の化合物を用いることができる。」

(6)「【0235】
(c)塩基性化合物
本発明に係る組成物は、露光から加熱までの経時による性能変化を低減するために、塩基性化合物を含有することが好ましい。」

(7)「【0351】
(f)密着促進剤
本発明におけるポジ型感光性樹脂組成物には、必要により密着性付与のための有機ケイ素化合物、シランカップリング剤、レベリング剤等の密着促進剤を添加してもよい。」

(8)「【0352】
(g)溶剤
溶剤は本発明の組成物を溶解できるものであれば特に限定されないが、塗布時に溶剤が必要以上に蒸発して塗布時に組成物の固形分が析出しないようにするため、100℃以上の沸点の溶剤が好ましい。
例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテルカルボキシレート、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、乳酸アルキルエステル、アルコキシプロピオン酸アルキル、環状ラクトン(好ましくは炭素数4?10)、環を含有しても良いモノケトン化合物(好ましくは炭素数4?10)、アルキレンカーボネート、アルコキシ酢酸アルキル、ピルビン酸アルキル、アミド系溶媒等の有機溶剤を挙げることができる。
【0353】
アルキレングリコールモノアルキルエーテルカルボキシレートとしては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートが好ましく挙げられる。
アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルを好ましく挙げられる。

(中略)

【0355】
環状ラクトンとしては、例えば、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、β-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-オクタノイックラクトン、α-ヒドロキシ-γ-ブチロラクトンが好ましく挙げられる。

(中略)

【0357】
アルキレンカーボネートとしては、例えば、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネートが好ましく挙げられる。
アルコキシ酢酸アルキルとしては、例えば、酢酸-2-メトキシエチル、酢酸-2-エトキシエチル、酢酸-2-(2-エトキシエトキシ)エチル、酢酸-3-メトキシ-3-メチルブチル、酢酸-1-メトキシ-2-プロピルが好ましく挙げられる。
ピルビン酸アルキルとしては、例えば、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピルが好ましく挙げられる。
アミド系溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが好ましく挙げられる。
その他、ジメチルスルホキシド、スルホランが好ましく挙げられる。
上記の中で、更に好適な溶剤として、N-メチルピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン(GBL)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンなどが挙げられる。更に好ましくは、γ-ブチロラクトン及びN-メチルピロリドン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンである。
これら溶媒は、単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
本発明の感光性樹脂組成物中の全固形分濃度は、一般的には10?40質量%、より好ましくは10?30質量%、更に好ましくは15?30質量%である。」

(9)「【0358】
〔レリーフパターン製造方法〕
本発明の感光性樹脂組成物を用いて、レリーフパターンを製造する方法としては、(a)本発明の感光性樹脂組成物を適当な基板上にコートし感光性膜を形成し、(b)コートされたこの基板をベーキングし(プリベーク)、(c)活性光線又は放射線で露光し、(d)水性現像剤で現像し、そして(e)硬化することにより、硬化されたレリーフパターンを形成することができる。前記コートされた感光性膜の露光された部分においては、前記一般式(1)における-CO2R3について酸の作用により分解しアルカリ可溶性基が生じ、水性アルカリ現像液で除去するように現像することからポジ型の硬化されたレリーフパターンが得られる。
【0359】
コートされ、露光された基板を、現像に先立って、高温でベーキングすることもできる(ポストエクスポージャーベーク)。また、現像された基板を、硬化前にリンスしてもよい。
【0360】
このように、本発明の感光性樹脂組成物により、加熱硬化後の厚みが所定厚み(例えば0.1?30μm)になるように、半導体素子上に塗布し、プリベーク、露光、現像、加熱硬化して半導体装置を製造できる。」

(10)「【実施例】
【0368】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

(中略)

【0370】
<樹脂の合成例>
〔P-1の合成〕
ポリアミック酸の合成
温度計、攪拌器、窒素導入管を備えた5000mLフラスコ中にtrans-1,4-シクロヘキサンジアミン(岩谷瓦斯(株)製)123.42gを入れ、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)2399.4gに溶解した後、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物(三菱化学(株)製)300.00gを添加した。60℃で4時間攪拌し、その後室温(25℃)まで放冷した。次いで無水フタル酸30.27gを添加し、室温で10時間攪拌して無色透明のポリアミック酸溶液を得た。得られた溶液をGPCで分析すると、Mw=1.68×10^(4)、Mn=0.62×10^(4)、Mw/Mn=2.71であった。
【0371】
ポリアミック酸エステルの合成
このポリアミック酸溶液132.01gを温度計、攪拌器、窒素導入管を備えた500mLフラスコ中に加え、NMP111.0gを加え冷却し、0℃以下でクロロメチルメチルエーテル12.56g、続いてN,N-ジイソプロピルエチルアミン16.12gを添加した。0℃以下で4時間反応させた後、反応液をメタノール1175gに加え、析出固体を濾取、乾燥し、白色固体の目的物(樹脂P-1)24.6gを得た。得られた樹脂をGPCで分析すると、Mw=2.00×10^(4)、Mw/Mn=1.91であった。固体を重DMSOに溶解して^(1)H-NMRスペクトルを測定し、カルボン酸エステルとカルボン酸のピーク積分比から保護率を算出したところ100%であった。

(中略)

【0472】
その他の樹脂も同様にして合成した。これら合成した樹脂の、4価の有機基R^(1)周辺構造が由来するモノマー構造、2価の有機基R^(2)周辺のジアミンモノマー、R^(1)周辺構造を形成するモノマーと、R^(2)周辺のジアミンモノマーとの仕込みモル比、R^(3)についての酸の作用により分解しアルカリ可溶性基を生じる基(併用する場合は各々のモル比)、該基によるカルボキシル基の保護率、末端封止剤、合成法、質量平均分子量、及び分散度(Mw/Mn)は、下記表1?4の通りであった。

(中略)

【0475】
【表3】

(中略)

【0477】
表中の略号を下記に表す。
【0478】
【化110】

【0479】
【化111】

【0480】
【化112】

(中略)

【0483】
【化115】

【0484】
〔感光性樹脂組成物の調製〕
下記表に示す成分を同表に示す溶媒に溶解させ、全固形分濃度25質量%とし、孔径0.1μmのポリテトラフルオロエチレン製カセット型フィルターにてろ過を行い、感光性樹脂組成物を調製した。表中において、各成分の固形分含有量を質量%として表す。

(中略)

【0489】
〔膜特性評価〕
調製した感光性樹脂組成物を、4インチシリコンウエハ上にスピンコートし、ホットプレート上にて120℃3分間の予備乾燥を行い、膜厚5.0μmのフィルムを得た。次いで窒素条件下250℃60分間加熱硬化させポリイミド膜を得た。
<応力>
キュア後の膜を薄膜ストレス測定装置(テンコール社製、FLX-2320型)にて、25℃における応力を測定した。応力の値が小きい程、ウェハ反り量が少ないことを意味する。
下記表中、溶剤を併用する場合のかっこ内の数値は質量比を表す。

(中略)

【0492】
【表7】

(中略)

【0494】
表中の略号を下記に表す。
〔酸発生剤〕
【0495】
【化116】

(中略)

【0500】
〔塩基性化合物〕
DIA:2,6-ジイソプロピルアニリン
PEA:N-フェニルジエタノールアミン
DBU:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン

(中略)

【0502】
〔界面活性剤〕
F176:メガファックF176(大日本インキ化学工業(株)製)
F475:メガファックF-475(大日本インキ化学工業(株)製)
PF6320:(OMNOVA社製、フッ素系)
BYK307:(ビックケミー社製)
【0503】
〔密着促進剤〕
GPTMS:3-グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン
MAPTMS:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
TESPEC:トリエトキシシリルプロピルエチルカーバメート
〔溶剤〕
GBL:γ-ブチロラクトン
NMP:N-メチルピロリドン
CX:シクロヘキサノン
CP:シクロヘプタノン
DMI:1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン」

2 甲第1号証に記載された発明
前記1の記載事項(3)及び記載事項(10)に基づけば、甲第1号証には、実施例83の感光性樹脂組成物として、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「以下に示す成分を以下に示す溶媒に溶解させ、全固形分濃度25質量%とし、孔径0.1μmのポリテトラフルオロエチレン製カセット型フィルターにてろ過を行い、調製した感光性樹脂組成物。

樹脂 :P-83 87質量%
一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、

4価の有機基R^(1)周辺構造に由来するモノマー構造がCB
DA

2価の有機基R^(2)周辺のジアミンモノマーがCHDA及び
bis-APAF

R^(1)周辺構造を形成するモノマーと、R^(2)周辺のジアミン
モノマーとの仕込みモル比が、48.8/39.3/11.
9
R^(3)についての酸の作用により分解しアルカリ可溶性基を
生じる基がES2-4、

該基によるカルボキシル基の保護率が100
末端封止剤がPEPA

質量平均分子量が1.98×10^(4)
分散度(Mw/Mn)は2.00
酸発生剤 :PAG-1 5質量%

密着促進剤 :GPTMS(3-グリシジロキシプロピルトリメトキシシラ
ン)
7.0質量%
塩基性化合物:DBU
(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン
) 0.5質量%
界面活性剤 :F475(メガファックF-475) 0.5質量%
溶剤 :DMI(1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)」

3 甲第2号証の記載事項
先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第2号証(特開2004-54254号公報)には、以下の記載事項がある。

(1)「【請求項1】
(a)一般式(1)で表される構造を有する樹脂と、(b)感光剤と、(c)大気圧下における沸点が100℃以上140℃以下の有機溶媒とを含有し、かつ、(c)成分の含有量が有機溶媒全量に対して50重量%以上100重量%以下である感光性樹脂組成物。
【化1】

(式中R^(1)は2個以上の炭素原子を有する2価から8価の有機基、R^(2)は2個以上の炭素原子を有する2価から6価の有機基、R^(3)およびR^(4)は同じでも異なっていてもよく、水素原子または炭素数1から20までの有機基を示す。nは5から100000までの範囲、pおよびqは、それぞれ0から4までの範囲、rおよびsは、それぞれ0から2までの範囲である。p+q>0である。)」

(2)「【0059】
本発明における(c)成分は、大気圧下における沸点が100℃以上140℃以下の有機溶媒である。(c)成分の沸点が100℃未満の場合、スリットダイコート法で塗布する際に、溶媒の蒸発が進行しすぎること、および(a)成分の樹脂の溶解性が乏しいことから、塗布口金に固形分が析出しやすくなり異物発生の原因になるという問題、および、塗布膜にスジ状の厚みむらが現れる、いわゆるスジ引きが発生しやすいという問題があり好ましくない。また(c)成分の沸点が140℃を越えた場合、溶媒の揮発性が不十分となり、加熱乾燥工程において転写痕が発生しやすくなり好ましくない。本発明において用いる有機溶媒全量に対する(c)成分の割合は、50重量%以上100重量%以下が好ましく、60重量%以上100重量%以下がより好ましく、70重量%以上100重量%以下がさらに好ましい。このような溶媒を用いることにより、転写痕もスジ引きもない、高品位の絶縁層を得ることができるので好ましい。
【0060】
本発明の(c)成分として用いる沸点が100℃以上140℃以下の有機溶媒としては、本発明の(a)成分の樹脂を溶解するものが好ましい。具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピルアセテート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート等のアルキルアセテート類、アセチルアセトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン等のケトン類、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられる。特に、プロピレングリコールモノメチルエーテルまたはプロピレングリコールモノエチルエーテルが好ましい。」

4 甲第3号証の記載事項
先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第3号証(特開2008-231255号公報)には、以下の記載事項がある。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位、及び下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含む、水酸基を有するポリイミド重合体と、
(B)下記(B)群から選択される少なくとも一種の特定溶媒を含む溶剤と、
を含有する樹脂組成物。
(B)群:エチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、脂肪族アルコール類、乳酸エステル類、脂肪族カルボン酸エステル類、アルコキシ脂肪族カルボン酸エステル類、ケトン類
【化1】

(前記一般式(1)中、Xは4価の芳香族又は脂肪族炭化水素基を示し、Aは水酸基を有する2価の基を示す)
【化2】

(前記一般式(2)中、Xは4価の芳香族又は脂肪族炭化水素基を示し、Bは炭素数2?20の置換若しくは非置換のアルキレン基、又は下記一般式(3)で表される2価の基を示す)
【化3】

(前記一般式(3)中、Zは炭素数2?20の置換又は非置換のアルキレン基を示す)」

(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の層間絶縁膜(パッシベーション膜)、表面保護膜(オーバーコート膜)、及び高密度実装基板用絶縁膜等に用いられる樹脂組成物、及びそれを含有する感光性樹脂組成物に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、塗布時の面内均一性が良好で、高膜厚塗布及びアルカリ現像が可能であるとともに、解像度の高い硬化物を得ることが可能な、表面保護膜、層間絶縁膜、及び高密度実装基板用絶縁膜用途に適した樹脂組成物、及びそれを含有する感光性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成とすることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下に示す樹脂組成物、及び感光性樹脂組成物が提供される。
【0009】
[1](A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位、及び下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含む、水酸基を有するポリイミド重合体と、(B)下記(B)群から選択される少なくとも一種の特定溶媒を含む溶剤と、を含有する樹脂組成物。
【0010】
(B)群:エチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、脂肪族アルコール類、乳酸エステル類、脂肪族カルボン酸エステル類、アルコキシ脂肪族カルボン酸エステル類、ケトン類

(中略)

【発明の効果】
【0026】
本発明の樹脂組成物、及び感光性樹脂組成物は、塗布時の面内均一性が良好で、高膜厚塗布及びアルカリ現像が可能であるとともに、解像度の高い硬化物を得ることが可能であるといった効果を奏するものである。このため、本発明の樹脂組成物は、表面保護膜、層間絶縁膜、及び高密度実装基板用絶縁膜用途に適したものである。」

(3)「【0028】
1.樹脂組成物:
((A)ポリイミド重合体)
本発明の樹脂組成物に含有される(A)ポリイミド重合体(以下、「(A)重合体」ともいう)は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位と、前記一般式(2)で表される繰り返し単位を含む、水酸基を有する重合体である。このように、その分子構造中に水酸基を有する(A)重合体を含有する本発明の樹脂組成物は、特に塗布性が良好なものである。このため、基板等の表面上に塗布した場合、形成される膜面の面内均一性が良好であり、均質な塗膜を形成することが可能である。」

(4)「【0059】
((B)溶剤)
本発明の樹脂組成物に含有される(B)溶剤には、下記(B)群から選択される少なくとも一種の特定溶媒が含まれる。この特定溶媒と前述の(A)重合体を併用することにより、塗布時の面内均一性が良好で、高膜厚塗布及びアルカリ現像が可能であるとともに、解像度の高い硬化物を得ることが可能となる。また、(B)溶剤を用いることにより、樹脂組成物の取り扱い性が向上するとともに、粘度や保存安定性を適宜調節することができる。なお、特定溶媒としては、常圧における沸点が100℃以上のものを用いることが好ましい。
(B)群:エチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、脂肪族アルコール類、乳酸エステル類、脂肪族カルボン酸エステル類、アルコキシ脂肪族カルボン酸エステル類、ケトン類」

(5)「【0068】
2.感光性樹脂組成物:
((C)光酸発生剤)
本発明の感光性樹脂組成物には、前述の樹脂組成物と、(C)光酸発生剤とが含有される。(C)光酸発生剤は、放射線の照射(以下、「露光」ともいう)により酸を発生する化合物である。このような性質を有する(C)光酸発生剤としては、ヨードニウム塩化合物、スルホニウム塩化合物、スルホン化合物、スルホン酸エステル化合物、ハロゲン含有化合物、スルホンイミド化合物、ジアゾメタン化合物等の化学増幅系の光酸発生剤;ジアゾケトン化合物等のナフトキノンジアジド(NQD)系の光酸発生剤がある。

(中略)

【0076】
また、ジアゾケトン化合物としては、1,3-ジケト-2-ジアゾ化合物、ジアゾベンゾキノン化合物、ジアゾナフトキノン化合物等を挙げることができる。好ましいジアゾケトン化合物の具体例としては、フェノール類の1,2-ナフトキノンジアジド-4-スルホン酸エステル化合物を挙げることができる。」

(6)「【0079】
((D)架橋剤)
本発明の感光性樹脂組成物には、通常、その使用に際して(D)架橋剤が含有される。(D)架橋剤は、熱や酸の作用により、樹脂等の配合組成物や他の架橋剤分子との結合を形成する化合物である。(D)架橋剤の具体例としては、多官能(メタ)アクリレート化合物、エポキシ化合物、ヒドロキシメチル基置換フェノール化合物、アルコキシアルキル化されたアミノ基を有する化合物等を挙げることができる。これらのうち、アルコキシアルキル化されたアミノ基を有する化合物が好ましい。なお、これらの(D)架橋剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。」

(7)「【0092】
(その他の重合体(樹脂))
本発明の感光性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上述の(A)重合体以外のその他の重合体(樹脂)を更に含有させることができる。含有させることのできる「その他の重合体(樹脂)」は、特に限定されないが、アルカリ可溶性のものが好ましく、更には、フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(以下、「フェノール樹脂」ともいう)を含有させることが、解像性が良好となるためにより好ましい。
【0093】
含有させることのできるフェノール樹脂としては、ノボラック樹脂、ポリヒドロキシスチレン及びその共重合体、フェノール-キシリレングリコールジメチルエーテル縮合樹脂、クレゾール-キシリレングリコールジメチルエーテル縮合樹脂、フェノール-ジシクロペンタジエン縮合樹脂等を挙げることができる。
【0094】
ノボラック樹脂としては、具体的には、フェノール/ホルムアルデヒド縮合ノボラック樹脂、クレゾール/ホルムアルデヒド縮合ノボラック樹脂、フェノール-ナフトール/ホルムアルデヒド縮合ノボラック樹脂等を挙げることができる。
【0095】
ノボラック樹脂は、フェノール類とアルデヒド類を、触媒の存在下で縮合させることにより得ることができる。この際に使用されるフェノール類としては、例えば、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、p-エチルフェノール、o-ブチルフェノール、m-ブチルフェノール、p-ブチルフェノール、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール、2,3,5-トリメチルフェノール、3,4,5-トリメチルフェノール、カテコール、レゾルシノール、ピロガロール、α-ナフトール、β-ナフトール等を挙げることができる。また、アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等を挙げることができる。」

(8)「【実施例】
【0113】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。

(中略)

【0119】
(合成例1)
容量500mLのセパラブルフラスコに、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(モノマー「MA-1」)41.1g(50mol%)、1,10-デシレンジアミン(モノマー「MB-1」)19.4g(50mol%)、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)195gを加えた。室温下で撹拌してそれぞれのモノマーが溶解した後、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物(モノマー「MC-2」)44.5g(100mol%)を仕込んだ。窒素下で120℃、5時間撹拌した後、180℃に昇温させて5時間脱水反応を行った。反応終了後、反応混合物を水中に投じ、生成物を再沈、ろ過、真空乾燥をすることによって、91gの重合体(A-1)を得た。得られた重合体(A-1)の重量平均分子量Mwは23100であった。また、IR分析を行い、イミドを示す1778cm^(-1)の吸収があることを確認した。
【0120】
(合成例2?6)
表1に示す配合処方でそれぞれのモノマー及びNMPを配合したこと以外は、前述の合成例1と同様にして重合体(A-2)?(A-6)を得た。得られた重合体の収量(g)及び重量分子量Mwを表1に示す。また、得られたいずれの重合体についても、イミドを示す1778cm^(-1)の吸収があることをIR分析により確認した。なお、合成例1?6で用いたモノマーの構造を以下に示す。
【0121】
【化18】

【0122】
【化19】

【0123】
【化20】

【0124】
【表1】

【0125】
(合成例7:フェノール樹脂(P-1))
m-クレゾールとp-クレゾールを60:40の割合(モル比)で混合し、これにホルマリンを加え、シュウ酸触媒を用いて常法により縮合して、重量平均分子量Mw:8,700のクレゾールノボラック樹脂(フェノール樹脂(P-1))を得た。得られたフェノール樹脂(P-1)のOH当量は122g/eqであった。
【0126】
(実施例1)
重合体(A-1)100部、光酸発生剤(C-1)1部、架橋剤(D-1)30部、化合物(E-1)5部、及び溶剤(EL)180部を混合することにより、感光性樹脂組成物(実施例1)を得た。得られた感光性樹脂組成物の混合性の評価は「良好」、塗布性の評価は「優良」、面内均一性の評価は「優良」、及びパターニング性の評価は「良好」であった。
【0127】
(実施例2?6、比較例1?3)
表2に示す配合処方とすること以外は、前述の実施例1と同様にして樹脂組成物又は感光性樹脂組成物(実施例2?6、比較例1?3)を得た。得られた樹脂組成物又は感光性樹脂組成物の混合性、塗布性、面内均一性、及びパターニング性の評価結果を表3に示す。なお、表2中の略号の意味は以下に示す通りである。
【0128】
<(B)溶剤>
EL:乳酸エチル
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
【0129】
<(C)光酸発生剤>
C-1:スチリル-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン
【0130】
<(D)架橋剤(アルコキシアルキル化されたアミノ基を有する架橋剤)>
D-1:ヘキサメトキシメチルメラミン(商品名「サイメル300」、サイテックインダストリーズ社製)
D-2:テトラメトキシメチルグルコールウリル(商品名「サイメル1174」、サイテックインダストリーズ社製)
【0131】
<(E)化合物>
E-1:オルト蟻酸トリエチル
【0132】
<その他の樹脂>
P-1:合成例7で得たクレゾールノボラック樹脂(フェノール樹脂(P-1))
P-2:フェノール・キシリレングリコールジメチルエーテル縮合樹脂(商品名「ミレックス(登録商標)XLC-3L」、三井化学社製)
【0133】
【表2】



5 甲第4号証の記載事項
先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第4号証(特開2013-205801号公報)には、以下の記載事項がある。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ可溶性樹脂(A)と、光酸発生剤(B)と、少なくとも下記式(C1)で表される化合物及び下記式(C2)で表される化合物を共重合して得られる含フッ素共重合体(C)と、ケイ素化合物(D)と、溶剤(E)を含有する感光性樹脂組成物。
CH_(2)=C(R^(31))-COO-(CH_(2))_(P)-N(R^(32))-SO_(2)-C_(Q)F_(2Q+1) (C1)
(式(C1)中のR^(31)は、水素又は分岐してもよい炭素数1?6の炭化水素基から選ばれる基であり、R^(32)は、分岐していてもよい炭素数1?6の炭化水素基から選ばれる基である。Pは1以上10以下の整数であり、Qは1以上7以下の整数である。)
CH_(2)=C(R^(33))-COO-(CR^(34)R^(35)-CR^(36)R^(37)-O-)_(J)-(CR^(38)R^(39)-CR^(40)R^(41)-O-)_(K)-R^(42) (C2)
(式(C2)中のR^(33)?R^(41)は、水素又は分岐していてもよい炭素数1?6の炭化水素基から選ばれる基であり、R^(42)は、分岐していてもよい炭素数1?6の炭化水素基から選ばれる基である。Jは0以上30以下の整数であり、Kは0以上30以下の整数であり、JとKが同時に0になることは無い。)

(中略)

【請求項8】
更に、架橋剤(F)を含有する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項9】
前記アルカリ可溶性樹脂(A)は、ポリアミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂、ポリイミド前駆体樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、並びにスチレンとヒドロキシスチレンおよびその誘導体の共重合体、からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂を含むものである請求項1乃至8のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。

(中略)

【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物を、12インチウエハーに吐出し、硬化することによって得られる硬化膜。

(中略)

【請求項13】
請求項11に記載の硬化膜で構成されている絶縁膜。」

(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂組成物、その硬化膜、保護膜及び絶縁膜、並びに当該硬化膜、保護膜及び絶縁膜を有する半導体装置及び表示体装置に関するものである。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、優れた密着性と塗布時の異常が少なく、環境への負荷も小さい硬化膜、ならびに硬化膜を形成できる感光性樹脂組成物を提供するものである。

(中略)

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた密着性を有し、塗布時の異常が少なく、環境への負荷も小さい硬化膜、ならびに硬化膜を形成できる感光性樹脂組成物を提供できる。」

(3)「【0016】
[アルカリ可溶性樹脂(A)]
本発明の感光性樹脂組成物に用いるアルカリ可溶性樹脂としては、アルカリ水溶液に可溶となる樹脂であれば用いることができ、フェノール性水酸基やカルボキシル基を有する樹脂が好適に用いられる。具体的には、ポリアミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体、ポリイミド樹脂前駆体、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、並びにスチレンとヒドロキシスチレンおよびその誘導体の共重合体などが挙げられる。
【0017】
本発明において、ポリアミド樹脂とは、ベンゾオキサゾール前駆体構造および/またはイミド前駆体構造を有する樹脂であり、ベンゾオキサゾール前駆体構造、イミド前駆体構造、ベンゾオキサゾール前駆体構造の一部が閉環反応することにより生じるベンゾオキサゾール構造、イミド前駆体構造の一部が閉環反応することにより生じるイミド構造を有していてもよく、また、アミド酸エステル構造を有していてもよい。また、前記ポリイミド樹脂前駆体は、ポリイミド酸構造及びポリアミド酸エステル構造の共重合構造を用いることができる。

(中略)

【0020】
これらポリアミド樹脂の中でも、本発明の感光性樹脂組成物の硬化物の耐熱性の観点から、下記一般式(6)で表される繰り返し単位を有するポリアミド樹脂が好ましい。
【0021】
【化2】

(式中、X、Yは、有機基である。R^(2)は、水酸基、-O-R^(4)、アルキル基、アシルオキシ基又はシクロアルキル基であり、複数有する場合、同一であっても異なっても良い。R^(3)は、水酸基、カルボキシル基、-O-R^(4)又は-COO-R^(4)であり、複数有する場合、同一であっても異なっても良い。R^(2)及びR^(3)におけるR^(4)は、炭素数1?15の有機基である。ここで、式(6)において、R^(2)が、水酸基がない場合は、R^(3)の少なくとも1つはカルボキシル基である。また、R^(3)が、カルボキシル基がない場合は、R^(2)の少なくとも1つは水酸基である。mは0?8の整数、nは0?8の整数である。)

(中略)

【0047】
また、アルカリ可溶性樹脂におけるフェノール樹脂としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂及びレゾール樹脂などの、フェノール類とアルデヒド類との縮合反応によって合成される樹脂を使用することができる。
【0048】
本発明においてアルカリ可溶性樹脂(A)は、上記ポリアミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂、ポリイミド前駆体樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、並びにスチレンとヒドロキシスチレンおよびその誘導体の共重合体、からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂を用いることができる。また、これらの共重合体の構造となっていてもよく、例えばポリベンゾオキサゾール前駆体の構造とポリイミド前駆体から選ばれるポリマーであってもよい。これらの中でも、金属配線を形成した後に除去するフォトレジストと異なり、永久膜に必要とされる優れた機械特性と低環境負の点から、ポリアミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂、ポリイミド前駆体樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリイミド樹脂、を少なくとも1種類含むことが更に好ましい。また、同一の種類の樹脂においては、異なる構造を有する樹脂を2つ以上含んでいてもよく、例えば、異なる構造を有するポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂の併用や異なる構造を有するポリイミド前駆体樹脂の併用などが挙げられる。
さらに、特性を損なわない範囲で、メタクリル酸樹脂、メタクリル酸エステル樹脂等のアクリル系樹脂などをアルカリ可溶性樹脂として使用することができる。」

(4)「【0049】
[光酸発生剤(B)]
本発明の感光性樹脂組成物に用いる光酸発生剤としては、紫外線等の照射によって酸性基を発生させる事でアルカリ水溶液への溶解性を向上させ、紫外線等の未照射部分との溶解度の差異を設けるために添加される。これによりパターンを形成でき、基材上にパターン付きの硬化膜を形成することが可能となる。
前記光酸発生剤としては、オニウム塩やキノンジアジド化合物などが挙げられるが、キノンジアジド化合物が信頼性の点から好ましい。」

(5)「【0072】
[溶剤(E)]
本発明の感光性樹脂組成物に用いる溶剤は、前記アルカリ可溶性樹脂(A)と、光酸発生剤(B)と、含フッ素共重合体(C)、などを溶解させてワニス状にし、基板上にコーティングできるようにすることを目的として使用するものである。
例えば、N-メチル-2-ピロリドン(以下NMP)、γ-ブチロラクトン、N,N′-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、メチル-1,3-ブチレングリコールアセテート、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル及びメチル-3-メトキシプロピオネート等が挙げられ、単独でも2種類以上混合して用いても良い。」

(6)「【0074】
[架橋剤(F)]
本発明の感光性樹脂組成物には、さらに架橋剤を用いることができる。このような架橋剤は、金属配線を形成した後に除去するフォトレジストと異なり、前記アルカリ可溶性樹脂(A)に対する架橋剤として作用することで、永久膜に必要とされる機械特性を向上させることを目的として添加するものである。また、膜において樹脂が架橋されて強固になるためと考えられるが、封止樹脂との密着性が向上する。高架橋剤という作用上、2官能以上を有するアルキロール化合物やメチロール化合物やアクリレート化合物などが好ましい。」

(7)「【0088】
本発明の感光性樹脂組成物を用いて形成される硬化膜は、半導体素子等の半導体装置用途のみならず、TFT(Thin Film Transistor)型液晶や有機EL(Electro-Luminescence)等の表示体装置用途、多層回路の層間絶縁膜やフレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜や液晶配向膜としても有用である。

(中略)

【0090】
表示体装置用途の例としては、表示体素子上に本発明の感光性樹脂組成物の硬化膜を形成してなる保護膜、TFT素子やカラーフィルター用等の絶縁膜または平坦化膜、MVA(Multi-domein Vertical Alignment)型液晶表示装置用等の突起、有機EL素子陰極用等の隔壁等を挙げることができる。
【0091】
表示体装置における本発明の感光性樹脂組成物の使用方法は、半導体装置用途に準じ、表示体素子やカラーフィルターを形成した基板上にパターン化された感光性樹脂組成物層を、上記の方法で形成することによるものである。表示体装置用途、特に絶縁膜や平坦化膜用途では、高い透明性が要求されるが、本発明の感光性樹脂組成物の塗膜の硬化前に、後露光工程を導入することにより、透明性に優れた樹脂層が得られることもでき、実用上さらに好ましい。
【0092】
なお、前記半導体装置とは、上記絶縁膜、α線遮断膜、平坦化膜、突起(樹脂ポスト)、隔壁などが形成された半導体装置である。
前記表示体装置とは、上記硬化膜、保護膜、絶縁膜、平坦化膜、突起、などが形成された、TFT素子、カラーフィルター、MVA(Multi-domein Vertical Alignment)型液晶表示装置、有機EL素子陰極などである。」

6 甲第4号証に記載された発明
前記5の記載事項(1)の請求項9には、アルカリ可溶性樹脂(A)が、ポリアミド樹脂を含むものであることが記載されている。
したがって、甲第4号証の記載事項(1)に基づけば、甲第4号証には、請求項1の記載を引用する請求項9に係る発明として、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリイミド樹脂を含むアルカリ可溶性樹脂(A)と、光酸発生剤(B)と、少なくとも下記式(C1)で表される化合物及び下記式(C2)で表される化合物を共重合して得られる含フッ素共重合体(C)と、ケイ素化合物(D)と、溶剤(E)を含有する感光性樹脂組成物。
CH_(2)=C(R^(31))-COO-(CH_(2))_(P)-N(R^(32))-SO_(2)-C_(Q)F_(2Q+1) (C1)
(式(C1)中のR^(31)は、水素又は分岐してもよい炭素数1?6の炭化水素基から選ばれる基であり、R^(32)は、分岐していてもよい炭素数1?6の炭化水素基から選ばれる基である。Pは1以上10以下の整数であり、Qは1以上7以下の整数である。)
CH_(2)=C(R^(33))-COO-(CR^(34)R^(35)-CR^(36)R^(37)-O-)_(J)-(CR^(38)R^(39)-CR^(40)R^(41)-O-)_(K)-R^(42) (C2)
(式(C2)中のR^(33)?R^(41)は、水素又は分岐していてもよい炭素数1?6の炭化水素基から選ばれる基であり、R^(42)は、分岐していてもよい炭素数1?6の炭化水素基から選ばれる基である。Jは0以上30以下の整数であり、Kは0以上30以下の整数であり、JとKが同時に0になることは無い。)」

7 甲第5号証の記載事項
先の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された引用文献である甲第5号証(国際公開2013/125595号)には、以下の記載事項がある。

(1)「技術分野
[0001] 本発明は、ポリイミド膜の形成に用いられる組成物、液晶表示素子の製造において用いられる液晶配向処理剤、この液晶配向処理剤から得られる液晶配向膜及びこの液晶配向膜を使用した液晶表示素子に関する。

(中略)

発明が解決しようとする課題
[0005] しかしながら、貧溶媒は、ポリアミド酸や溶媒可溶性ポリイミドを溶解させる能力に劣るため、大量に混合すると樹脂の析出が起こる問題がある。
加えて、近年用いられている、スマートフォンや携帯電話等、モバイル用途の液晶表示素子では、できるだけ多くの表示面を確保するため、液晶表示素子の基板間を接着させるために用いるシール剤が、液晶配向膜の端部に近接した位置に存在する。そのため、液晶配向膜の端部の塗膜性が低下する場合、すなわち、液晶配向膜の端部が直線ではない場合、あるいはその端部が盛り上がっている状態である場合、液晶配向膜とシール剤との接着効果が低くなり、液晶表示素子の表示特性や信頼性を低下させてしまう。
本発明の目的は、上記の事情に鑑みなされたものであり、ポリイミド膜を形成するために、塗膜性に優れた組成物を提供することである。また、本発明の組成物を液晶配向処理剤として用いることにより、基板への塗布溶液の濡れ拡がり性が高く均一な塗膜性を得て、端部の塗膜性にも優れる液晶配向膜を得ることである。特に、側鎖を有するジアミン化合物を使用して得られるポリアミド酸や溶媒可溶性ポリイミドを用いた液晶配向処理剤においても、これら特性に優れる液晶配向膜を提供すること、さらに、上記の液晶配向膜を有する液晶表示素子を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0006] 本発明者は、鋭意研究を行った結果、特定構造を有する溶媒と、ポリイミド前駆体及びポリイミド前駆体をイミド化したポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体とを含有する組成物が、上記の目的を達成するために極めて有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の要旨を有するものである。
(1)下記の成分(A)及び成分(B)を含有する組成物。
成分(A):下記の式[1]で示される溶媒。

(式[1]中、X_(1)は炭素数1?3のアルキル基を示す。)
成分(B):ポリイミド前駆体及びポリイミド前駆体をイミド化したポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体。

(中略)

発明の効果
[0013] 本発明の、特定構造を有する溶媒と、ポリイミド前駆体及びポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体とを含有する組成物は、塗膜性に優れたポリイミド膜を形成するための組成物として提供できる。また、本発明の組成物を液晶配向処理剤として用いることで、基板への塗布溶液の濡れ拡がり性が高く均一な塗膜性が得られ、さらには、液晶配向膜の端部の塗膜性にも優れる液晶配向膜を提供することができる。特に、側鎖を有するジアミン化合物を使用して得られるポリアミド酸や溶媒可溶性ポリイミドを用いた液晶配向処理剤であっても、これら特性に優れる液晶配向膜を提供することができる。加えて、上記の液晶配向膜を有する液晶表示素子、上記の液晶配向膜を提供することのできる液晶配向処理剤を提供することができる。」

(2)「[0067] 本発明の組成物又はそれを用いた液晶配向処理剤中の有機溶媒は、塗布により均一な樹脂被膜を形成するという観点から、有機溶媒の含有量が70?99.9質量%であることが好ましく、70?98質量%がより好ましい。この含有量は、目的とするポリイミド膜又は液晶配向膜の膜厚によって適宜変更することができる。その際の有機溶媒としては、本発明の重合体を溶解させる有機溶媒であれば特に限定されない。その具体例を以下に挙げる。
例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンなどである。
なかでも、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン又はγ-ブチルラクトン(以上、成分(C)ともいう)を用いることが好ましい。
これら成分(C)は、組成物又はそれを用いた液晶配向処理剤に含まれる有機溶媒全体の20?90質量%であることが好ましい。なかでも、30?80質量%が好ましい。より好ましいのは40?80質量%であり、さらに好ましくは、40?70質量%である。」

(3)「実施例
[0091] 以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、これらに限定して解釈されるものではない。
実施例で用いた化合物等の略号は、以下のとおりである。

(中略)

[0095](特定溶媒(成分(A)))
下記の式[1a]で示されるジプロピレングリコールジメチルエーテル
[化42]

(成分(C))
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
NEP:N-エチル-2-ピロリドン
γ-BL:γ-ブチロラクトン
(成分(D))
BCS:エチレングリコールモノブチルエーテル
MC:ジエチレングリコールモノメチルエーテル
EC:ジエチレングリコールモノエチルエーテル

(中略)

[0111]「組成物及び液晶配向処理剤の調製」
実施例1?34、及び比較例1?8は、組成物の調製例である。また、得られた組成物は、液晶配向処理剤の各特性評価にも使用した。

(中略)

[0112]「組成物及び液晶配向処理剤の印刷性評価」
実施例及び比較例で得られた組成物を用いて印刷性評価を行った。印刷機には、簡易印刷機S15型(日本写真印刷社製)を用いた。印刷は、洗浄をしていないクロム蒸着基板上に、印刷面積が80mm×80mm、印圧が0.2mm、捨て基板が5枚、印刷から仮乾燥までの時間が90秒、仮乾燥がホットプレート上にて70℃で5分間の条件で行った。
得られたポリイミド膜のピンホールの評価、ポリイミド膜の端部の直線性の評価及びポリイミド膜の端部の盛り上がりの評価を行った。
ポリイミド膜のピンホールの評価は、ポリイミド膜をナトリウムランプの下で目視観察することで行った。具体的には、ポリイミド膜上に確認されたピンホールの数を数え、ピンホールの数が少ないものほど、本評価に優れるとした。
[0113] ポリイミド膜の端部の直線性の評価は、印刷方向に対して右側端部のポリイミド膜を光学顕微鏡で観察することにより行った。具体的には、光学顕微鏡の倍率を25倍にして観察して得られた、ポリイミド膜画像の図1中の(1)と(2)の差、すなわち、図1中のAの長さを測定した。すべてのポリイミド膜の画像は、同一倍率で得た。このAの長さが短いほど、ポリイミド膜の端部の直線性に優れるとした。
ポリイミド膜の端部の盛り上がりの評価は、印刷方向に対して右側端部のポリイミド膜を光学顕微鏡で観察することにより行った。具体的には、光学顕微鏡の倍率を25倍にして観察して得られた、ポリイミド膜画像の図2中のBの長さを測定した。すべてのポリイミド膜画像は、同一倍率で得た。このBの長さが短いほど、ポリイミド膜の端部の盛り上がりに優れるとした。
なお、実施例及び比較例で得られた組成物は、液晶配向処理剤の調製に用いることができることから、実施例及び比較例で得られたポリイミド膜の印刷性評価結果は、液晶配向膜の印刷性評価結果と同等であるとした。
表5?7には、実施例及び比較例で得られたポリイミド膜(液晶配向膜)のピンホールの数、Aの長さ及びBの長さを示す。

(中略)

[0122]<実施例2>
合成例2の合成手法で得られたポリイミド粉末(2)(2.50g)に、NMP(22.5g)を加え、70℃にて24時間攪拌して溶解させた。この溶液に[1a](8.30g)及びBCS(8.30g)を加え、50℃にて10時間攪拌して組成物(2)を得た。この組成物に、濁りや析出などの異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。なお、この組成物(2)は液晶配向処理剤(2)としても評価に用いた。
得られた組成物(2)又は液晶配向処理剤(2)を用いて、上記した条件のもとで、セルの作製や各種の評価を行った。
[0123]<実施例3>
合成例2の合成手法で得られたポリイミド粉末(2)(2.50g)に、NEP(20.4g)を加え、70℃にて24時間攪拌して溶解させた。この溶液に[1a](14.6g)及びBCS(4.20g)を加え、50℃にて10時間攪拌して組成物(3)を得た。この組成物に、濁りや析出などの異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。なお、この組成物(3)は液晶配向処理剤(3)としても評価に用いた。
得られた組成物(3)又は液晶配向処理剤(3)を用いて、上記した条件のもとで、セルの作製や各種の評価を行った。

(中略)

[0172] 上記の結果からわかるように、本発明の実施例の組成物から得られたポリイミド膜は、比較例の組成物から得られたポリイミド膜に比べて、ピンホールが発生しない均一な塗膜性を示した。さらに、形成されたポリイミド膜の端部の直線性が高く、ポリイミド膜の端部の盛り上がりが小さい結果も得られた。
また、本発明の組成物を用いた液晶配向剤から得られた液晶配向膜においても、同様の結果が得られた。特に、側鎖を有するジアミン化合物を使用して得られるポリアミド酸や溶媒可溶性ポリイミドを用いた液晶配向処理剤であっても、上記と同様に、ピンホールが発生しない均一な塗膜性を示し、ポリイミド膜の端部の直線性が高く、ポリイミド膜の端部の盛り上がりが小さい結果が得られた。
同一のポリアミド酸又はポリイミドを用いた組成物の印刷性評価における、本発明の特定溶媒を含む実施例と特定溶媒を含まない比較例との比較では、特定溶媒を含まない比較例は、ポリイミド膜にピンホールが多く発生し、ポリイミド膜の端部の直線性が低く、ポリイミド膜の端部の盛り上がりが大きい結果となった。」

8 引用文献1の記載事項
先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって、甲第1号証の段落【0129】において引用された特開昭62-69263号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。

(1)「〔発明の技術分野〕
本発明は感光性組成物に関し、更に詳しくは、アルカリ現像可能で、かつ解像性に優れたポジティブ画像を形成する感光性組成物に関する。

(中略)

〔発明の目的〕
本発明は、アルカリ現像可能で、かつ解像性に優れたポジティブ画像を形成する感光性組成物を提供することを目的とする。
〔発明の概要〕
本発明者らはこれらの点に鑑み、鋭意検討した結果、フェノール骨格を有する樹脂を含む感光性組成物において、フェノールの水酸基に置換あるいは無置換のO-ニトロベンジル基が結合した化合物を含む感光性組成物が、本目的に合致することを見い出して本発明に到った。
即ち本発明は、アルカリ溶液で現像を行なう、フェノール骨格を有する樹脂を含む感光性組成物において、フェノールの水酸基に置換あるいは無置換のO-ニトロベンジル基が結合した化合物を含むことを特徴とする感光性組成物である。」(第1頁左下欄第11行?第2頁左上欄第19行)

(2)「 本発明の感光性組成物は、感光剤としてO-ベンゾキノンジアジドスルホン酸エステル-ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物が用いられる。」(第2頁左下欄第8?11行)

9 引用文献2の記載事項
先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって、甲第1号証の段落【0129】において引用された特開昭63-163452号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。

(1)「2.特許請求の範囲
(1)(i) 支持体に、
(A) カチオン重合可能な、または遊離基により重合可能な成分、
(B) (A)のための輻射線で活性化される重合開始剤及び
(C) 輻射線で可溶化される成分を含む液体組成物の層を塗布し、
(ii) 前記(B)を活性化するものの前記(C)を実質的に活性化することのない波長を有する輻射線を前記組成物に当て、次いで所望により加熱を行ない、液体組成物の層を固化するように前記(A)を重合し、
(iii) 前記固化された層が未暴露領域よりも暴露領域が現像剤により、より一層溶解性となるように、前記固化された層を所定のパターンで、段階(ii)で使用した輻射線とは異なり、前記成分(C)を活性化する波長を有する輻射線に当て、そして
(iv) 前記暴露領域を現像剤により処理して除去することを特徴とする画像形成方法。

(中略)

(10) (C)が、O-キノンジアジド、ニトロフェニルアセタールもしくはそのポリエステル誘導体または末端をキャップした誘導体、鎖中にベンゾイン基を含む樹脂、スルホネートエステル基のα位またはβ位にカルボニル基を含む芳香族アルコールのスルホン酸エステル、芳香族N-スルホニルオキシイミドもしくは芳香族オキシムスルホネートである特許請求の範囲第1項ないし第9項のうちいずれか1項記載の方法。」(第1頁左下欄第4行?第3頁左上欄第4行)

(2)「3.発明の詳細な説明
本発明は、印刷板及び印刷回路の製造に有用な画像形成方法に関する。

(中略)

欧州特許公報No.0155231には、電着により形成した固体のポジホトレジスト層を画像露光することによりポジ画像を形成することが提案されている。この方法の要件にはごく少量の有機溶剤の使用が含まれるものの、塩形成性基を有する材料の使用が必要とされ、このため、利用性に限りがある。ここに、有機溶媒の蒸発を必要とせず、広範な利用性をもつ方法が必要とされている。
従って、本発明は、
(i) 支持体に、
(A) カチオン重合可能な、又は遊離基に上り重合可能な樹脂、
(B) (A)のための輻射線で活性化される重合開始剤、及び
(C) 輻射線で溶解性となる成分を含む液体組成物の層を塗布し、
(ii) 前記(B)を活性化するものの前記(C)を実質的に活性化することのない波長を有する輻射線を前記組成物に当て、次いで所望により加熱を行ない、液体組成物の層を固化するように前記(A)を重合し、
(iii) 前記固化された層が未暴露領域よりも暴露領域が現像剤により、より一層溶解性となるように、前記固化された層を所定のパターンで、段階(ii)で使用した輻射線とは異なり、前記成分(C)を活性化する波長を有する輻射線に当て、そして
(iv)前記暴露領域を現像剤により処理して除去することを特徴とする画像形成方法を提供するものである。」(第3頁右上欄第4行?第4頁左上欄第1行)

(3)「 成分(C)として使用することのできる好ましい光で可溶化される物質にはキノンジアジドが含まれる。
感光性o-キノンジアジド化合物は良く知られており、例としてそれぞれに水酸基又はアミノ基を有する化合物、特に芳香族化合物のo-ベンゾキノンジアジドスルホニル又はo-ナフトキノンジアジドスルホニルエステル又はアミドが挙げられる。」(第17頁左上欄第12?20行)


第5 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項6、9?12に係る特許に対して、令和2年2月13日に通知した取消理由の概要は、本件訂正前の請求項6、9?12に係る発明は、先の出願前に、日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである、というものである。
なお、甲第1号証は、主引用発明が記載された刊行物として引用されたものであり、甲第3号証は、請求項6、9?12に係る特許についての判断において、副引用文献又は周知技術を示す文献として引用されたものである。また、甲第4号証は、請求項9?12に係る特許についての判断において、周知技術を示す文献として引用されたものである。

甲第1号証:特開2013-50696号公報
甲第3号証:特開2008-231255号公報
甲第4号証:特開2013-205801号公報

2 当審の判断
(1)本件特許発明6について/甲第1号証、甲第3号証
ア 対比
本件特許発明6と甲1発明とを対比する。

(ア)感放射線性樹脂組成物
甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、技術的にみて、本件特許発明6の「感放射線性樹脂組成物」に相当する。

(イ)ポリイミド
甲1発明の「感光性樹脂組成物」を構成する成分である、樹脂「P-83」は、その一般式(1)の「2価の有機基R^(2)」が、水酸基を有する「bis-APAF」に由来するモノマー構造を含んでいる。そうすると、甲1発明の樹脂「P-83」は、本件特許発明6の式(A1)における「水酸基を有する2価の基」である「R^(1)」で表される構造単位を有している。
また、甲1発明の樹脂「P-83」は、その一般式(1)の「4価の有機基R^(1)周辺構造に由来するモノマー構造」が「CBDA」に由来するモノマー構造である。そうすると、甲1発明の樹脂「P-83」は、本件特許発明6の式(A1)における「4価の有機基」である「X」で表される構造単位を有している。
そして、甲1発明の樹脂「P-83」は、その化学構造からみて、本件特許発明6の「式(A1)で表される構造単位を有するポリイミド」であるといえる。
したがって、甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、本件特許発明6の「(A)式(A1)で表される構造単位を有するポリイミド、および前記ポリイミドの前駆体から選択される少なくとも1種の重合体」を含有するといえる。

(ウ)感放射線性酸発生剤
甲1発明の「感光性樹脂組成物」を構成する成分である、酸発生剤「PAG-1」は、技術的にみて、「感放射線性酸発生剤」であるといえる。
したがって、甲1発明の「感光性樹脂組成物」と本件特許発明6の「(B)キノンジアジド化合物である感放射線性酸発生剤」とは、「(B)感放射線性酸発生剤」である点で共通する。

(エ)溶剤
甲1発明の「感光性樹脂組成物」を構成する成分である、溶剤「DMI(1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)」は、その化学構造からみて、本件特許発明6の「式(G1-2)で表される化合物」に相当する。
そして、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンは、「2つのX^(G1)がそれぞれC-HおよびN原子であり、N原子に結合したX^(G2)がメチル基であり、炭素原子に結合したX^(G2)が水素原子である場合」には該当しない。
したがって、甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、本件特許発明6の「(G1)式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤」を含有するといえる。

(オ)以上より、本件特許発明6と甲1発明とは、
「(A)式(A1)で表される構造単位を有するポリイミド、および
前記ポリイミドの前駆体
から選択される少なくとも1種の重合体と、
(B)感放射線性酸発生剤と、
(G1)式(G1-1)で表される化合物、および
式(G1-2)で表される化合物
から選択される少なくとも1種の溶剤と、
を含有する感放射線性樹脂組成物。
【化4】

[式(A1)中、R^(1)は水酸基を有する2価の基であり、Xは4価の有機基である。]
【化5】

[式(G1-1)中、R^(G1)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または前記炭化水素基における少なくとも1つの炭素-炭素結合間に-O-を挿入してなる基であり、2つのR^(G1)は互いに結合して窒素原子とともに環を形成していてもよく、R^(G2)はメチレン基またはカルボニル基であり、R^(G3)は水素原子または炭素数1?18の炭化水素基であり、R^(G4)は炭素数1?12のアルキル基または炭素数2?10のアルコキシアルキル基である。
式(G1-2)中、X^(G1)はそれぞれ独立にC-Hまたは窒素原子であり、ただし少なくとも1つのX^(G1)は窒素原子であり、X^(G2)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または炭素数2?18のアルコキシアルキル基であり、ただし「2つのX^(G1)がそれぞれC-HおよびN原子であり、N原子に結合したX^(G2)がメチル基であり、炭素原子に結合したX^(G2)が水素原子である場合」を除く。]」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]感放射線性酸発生剤が、本件特許発明6は「キノンジアジド化合物」であるのに対し、甲1発明は「PAG-1」である点。
[相違点2]本件特許発明6は「(C)ノボラック樹脂」を含有するのに対し、甲1発明はノボラック樹脂を含有しない点。

イ 判断
(ア)[相違点1]について
甲第1号証の記載事項(5)には、光酸発生剤について、「光酸発生剤としては、光カチオン重合の光開始剤、光ラジカル重合の光開始剤、色素類の光消色剤、光変色剤、あるいはマイクロレジスト等に使用されている活性光線又は放射線の照射により酸を発生する公知の化合物及びそれらの混合物を適宜に選択して使用することができる。」(段落【0127】)、「また、活性光線又は放射線の照射により酸を発生する基、あるいは化合物をポリマーの主鎖又は側鎖に導入した化合物、たとえば、・・・、特開昭62-69263号、・・・、特開昭63-163452号、・・・等に記載の化合物を用いることができる。」(段落【0129】)と記載されている。
そして、甲第1号証に列記された特開昭62-69263号(引用文献1)には、記載事項(2)に「感光剤としてO-ベンゾキノンジアジドスルホン酸エステル-ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物が用いられる。」と記載されており、特開昭63-163452号(引用文献2)には、記載事項(3)に「成分(C)として使用することのできる好ましい光で可溶化される物質にはキノンジアジドが含まれる。」と記載されている。そうすると、甲第1号証には、光酸発生剤として、「キノンジアジド化合物」を用いることが示唆されていたといえる。また、甲第3号証の記載事項(5)にも、感光性樹脂組成物に含有される光酸発生剤について、「(C)光酸発生剤は、放射線の照射(以下、「露光」ともいう)により酸を発生する化合物である。このような性質を有する(C)光酸発生剤としては、・・・、スルホンイミド化合物、・・・ジアゾケトン化合物等のナフトキノンジアジド(NQD)系の光酸発生剤がある。」と記載されている。これらの記載に基づけば、光酸発生剤としてスルホンイミド化合物の代わりにキノンジアジド化合物を用いることが知られていたといえる。
したがって、甲1発明において、酸発生剤として、PAG-1の替わりに、キノンジアジド化合物を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

相違点1に関して、特許権者は、令和2年3月30日付けの意見書において、令和元年12月2日付けで提出した意見書に記載した意見を援用するとしている。そして、特許権者は、令和元年12月2日付けの意見書において、「甲第1号証の化学増幅系ポジ型感光性樹脂組成物では、「酸の作用により分解しアルカリ可溶性基を生じる基」において(エステルの加水分解反応を利用して)保護基を脱離できる、強酸を発生させる酸発生剤が必要とされる。弱酸のカルボン酸が発生する溶解促進型のキノンジアジド化合物は、甲第1号証のような化学増幅系ポジ型感光性樹脂組成物では通常は使用されない。例えば甲第1号証の段落[0126]以降に光酸発生剤の説明があるが、キノンジアジド化合物は何ら記載されていない。」と主張している。
しかし、甲第1号証は、「化学増幅系ポジ型感光性樹脂組成物」について、背景技術について記載した段落【0002】に、「他方、感光性と未露光部の不溶性の機能を分離する技術として、半導体フォトレジストの分野では露光で触媒量の酸を発生させ、引き続く加熱プロセスにより組成物中のアルカリ不溶の基を露光で発生した酸を触媒とする化学反応でアルカリ可溶の基に変換する化学増幅型の感光性組成物が数多く適用されている。本技術分野に於いても、化学増幅型の感光性組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。特に、高解像性、高感度等の観点から、酸分解性の特定の保護基で保護されたポリイミド前駆体を含有する化学増幅型の感光性樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献3、4参照)。」と記載されているのみである。当該記載は、「化学増幅系ポジ型感光性樹脂組成物」が従来知られていたことを紹介するものであるから、甲第1号証に記載された発明が、すべて「化学増幅系ポジ型感光性樹脂組成物」に限られると理解することはできない。また、既に述べたように、甲第1号証の段落【0129】には、「キノンジアジド化合物」を用いた文献も列記されていることからも、甲第1号証に記載された発明が、化学増幅系に限定されたものということはできない。
以上のとおりであるから、特許権者の主張は採用できない。

(イ)[相違点2]について
甲第1号証には、記載事項(2)に、「本発明は半導体装置の表面保護膜、層間絶縁膜、表示デバイス用の層間絶縁膜として使用されるポジ型高耐熱性感光性樹脂組成物、該ポジ型高耐熱性感光性樹脂組成物を用いた耐熱性を有する硬化レリーフパターンの製造方法及びレリーフパターンを含有する半導体装置に関するものである。」(段落【0001】)、「本発明は、解像性及び感度に優れたリソグラフィー性能を有し、300℃以下(好ましくは250℃以下)の低温での硬化、いわゆる低温キュアにおいて、応力が低いことによりウエハ反りを防止する硬化レリーフパターンを形成することができる感光性樹脂組成物、該感光性樹脂組成物を用いる、レリーフパターン形成材料、感光性膜、ポリイミド膜、硬化レリーフパターン、その製造方法、及び該硬化レリーフパターンを含む半導体装置を提供することを目的とする。」(段落【0006】)と記載されている。上記記載に基づけば、甲1発明は、半導体装置の表面保護膜、層間絶縁膜、表示デバイス用の層間絶縁膜として使用されるポジ型高耐熱性感光性樹脂組成物に関する発明であって、解像性に優れたリソグラフィー性能を有する感光性樹脂組成物を提供することを目的とするものといえる。また、甲第1号証には、記載事項(4)に、「(a)一般式(1)の繰り返し単位を有する樹脂」について、「さらに、樹脂(a)以外の樹脂を併用してもよい。」(段落【0125】)との記載がある。
一方、甲第3号証には、記載事項(2)に「本発明は、半導体素子の層間絶縁膜(パッシベーション膜)、表面保護膜(オーバーコート膜)、及び高密度実装基板用絶縁膜等に用いられる樹脂組成物、及びそれを含有する感光性樹脂組成物に関する。」(段落【0001】)、「[1](A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位、及び下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含む、水酸基を有するポリイミド重合体と、(B)下記(B)群から選択される少なくとも一種の特定溶媒を含む溶剤と、を含有する樹脂組成物。」(段落【0009】及び請求項1)と記載されており、一般式(1)及び一般式(2)は以下のとおりのものである。


ここで、一般式(1)中、Xは4価の芳香族又は脂肪族炭化水素基を示し、Aは水酸基を有する2価の基を示すものであり、一般式(2)中、Xは4価の芳香族又は脂肪族炭化水素基を示し、Bは炭素数2?20の置換若しくは非置換のアルキレン基、又は以下の一般式(3)で表される2価の基を示し、一般式(3)中、Zは炭素数2?20の置換又は非置換のアルキレン基を示すものである。

そうすると、甲第3号証に記載された樹脂組成物は、甲1発明の感光性樹脂組成物と共通する技術分野に属するものである。そして、甲第3号証に記載された樹脂組成物に含まれるポリイミド重合体も、甲1発明の感光性樹脂組成物の成分である樹脂P-83と、一般式が共通するものである。
そして、甲第3号証には、さらに、記載事項(7)に、「本発明の感光性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上述の(A)重合体以外のその他の重合体(樹脂)を更に含有させることができる。含有させることのできる「その他の重合体(樹脂)」は、特に限定されないが、アルカリ可溶性のものが好ましく、更には、フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(以下、「フェノール樹脂」ともいう)を含有させることが、解像性が良好となるためにより好ましい。」(段落【0092】)、「含有させることのできるフェノール樹脂としては、ノボラック樹脂、ポリヒドロキシスチレン及びその共重合体、フェノール-キシリレングリコールジメチルエーテル縮合樹脂、クレゾール-キシリレングリコールジメチルエーテル縮合樹脂、フェノール-ジシクロペンタジエン縮合樹脂等を挙げることができる。」(段落【0093】)と記載されており、ポリイミド重合体とノボラック樹脂とを併用した実施例2?4も開示されている。
したがって、甲1発明において、さらに解像性に優れたリソグラフィー性能を有するものとするために、ノボラック樹脂を更に含有させることは、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明6は、甲1発明及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件特許発明9?12について
本件特許発明9?12は、本件訂正により訂正された結果、請求項6の記載を直接引用せず、請求項8の記載を介して引用するものに減縮された。
そして、本件特許発明8は、令和2年2月13日付けで通知した取消理由の対象とされていない。

(3)本件特許発明13?18について
本件特許発明13は、前記第2の3(1)ア及び(2)アに記載したとおり、本件訂正前の請求項6の記載を引用する請求項7の記載を、請求項6の記載を引用しないものとしたものである。また、本件発明14?18も、前記第2の3(1)イ?カ及び(2)イに記載したとおり、本件訂正前の請求項8?12の記載を、請求項6の記載を引用しないものとしたものである。
そして、本件訂正前における、請求項7及び請求項6の記載を引用しない請求項8?12に係る発明は、令和2年2月13日付けで通知した取消理由の対象とされていないから、本件特許発明13?18も、令和2年2月13日付けで通知した取消理由の対象ではない。

(4)小括
以上より、本件特許発明6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
また、本件訂正により訂正された本件特許発明9?18は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、その発明に係る特許を取り消すことができない。


第6 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由の概要
取消理由に採用しなかった特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。
なお、特許異議申立人が提示した証拠は、次のとおりである。

甲第1号証:特開2013-50696号公報
甲第2号証:特開2004-54254号公報
甲第3号証:特開2008-231255号公報
甲第4号証:特開2013-205801号公報
甲第5号証:国際公開2013/125595号

(1)甲第1号証を主たる証拠とする進歩性欠如(特許法第29条第2項)
甲第1号証を主たる証拠とし、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証を従たる証拠として、本件特許発明1?5、及び、本件特許発明1?5のいずれかの記載を引用する本件特許発明9?12は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?5、9?12に係る特許を取り消すべきである。

(2)甲第4号証を主たる証拠とする進歩性欠如(特許法第29条第2項)
甲第4号証を主たる証拠とし、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証を従たる証拠として、本件特許発明1?6、9?12は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?6、9?12に係る特許を取り消すべきである。

(3)記載不備(特許法第36条第6項第1号)
本件特許発明1は、発明の詳細な説明に開示された範囲を超えており、本件特許発明1の記載を引用する本件特許発明2?12も同様であるから、本件特許発明1?12に係る特許を取り消すべきである。

2 甲第1号証を主たる証拠とする進歩性欠如についての当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と前記第4の2に記載した甲1発明とを対比する。

(ア)感放射線性樹脂組成物
甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、技術的にみて、本件特許発明1の「感放射線性樹脂組成物」に相当する。

(イ)ポリイミド
甲1発明の「感光性樹脂組成物」を構成する成分である、樹脂「P-83」は、その一般式(1)の「2価の有機基R^(2)」が、水酸基を有する「bis-APAF」に由来するモノマー構造を含んでいる。そうすると、甲1発明の樹脂「P-83」は、本件特許発明1の式(A1)における「水酸基を有する2価の基」である「R^(1)」で表される構造単位を有している。
また、甲1発明の樹脂「P-83」は、その一般式(1)の「4価の有機基R^(1)周辺構造に由来するモノマー構造」が「CBDA」に由来するモノマー構造である。そうすると、甲1発明の樹脂「P-83」は、本件特許発明1の式(A1)における「4価の有機基」である「X」で表される構造単位を有している。
そして、甲1発明の樹脂「P-83」は、その化学構造からみて、本件特許発明1の「式(A1)で表される構造単位を有するポリイミド」であるといえる。
したがって、甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、本件特許発明1の「(A)式(A1)で表される構造単位を有するポリイミド、および前記ポリイミドの前駆体から選択される少なくとも1種の重合体」を含有するといえる。

(ウ)感放射線性酸発生剤
甲1発明の「感光性樹脂組成物」を構成する成分である、酸発生剤「PAG-1」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(B)感放射線性酸発生剤」に相当する。
したがって、甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、本件特許発明1の「(B)感放射線性酸発生剤」を含有するといえる。

(エ)溶剤
甲1発明の「感光性樹脂組成物」を構成する成分である、溶剤「DMI(1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)」は、その化学構造からみて、本件特許発明1の「式(G1-2)で表される化合物」に相当する。
そして、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンは、「2つのX^(G1)がそれぞれC-HおよびN原子であり、N原子に結合したX^(G2)がメチル基であり、炭素原子に結合したX^(G2)が水素原子である場合」には該当しない。
したがって、甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、本件特許発明1の「(G1)式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤」を含有するといえる。

(オ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と甲1発明とは、
「(A)式(A1)で表される構造単位を有するポリイミド、および
前記ポリイミドの前駆体
から選択される少なくとも1種の重合体と、
(B)感放射線性酸発生剤と、
(G1)式(G1-1)で表される化合物、および
式(G1-2)で表される化合物
から選択される少なくとも1種の溶剤と、
を含有する感放射線性樹脂組成物。
【化1】

[式(A1)中、R^(1)は水酸基を有する2価の基であり、Xは4価の有機基である。]
【化2】

[式(G1-1)中、R^(G1)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または前記炭化水素基における少なくとも1つの炭素-炭素結合間に-O-を挿入してなる基であり、2つのR^(G1)は互いに結合して窒素原子とともに環を形成していてもよく、R^(G2)はメチレン基またはカルボニル基であり、R^(G3)は水素原子または炭素数1?18の炭化水素基であり、R^(G4)は炭素数1?12のアルキル基または炭素数2?10のアルコキシアルキル基である。
式(G1-2)中、X^(G1)はそれぞれ独立にC-Hまたは窒素原子であり、ただし少なくとも1つのX^(G1)は窒素原子であり、X^(G2)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または炭素数2?18のアルコキシアルキル基であり、ただし「2つのX^(G1)がそれぞれC-HおよびN原子であり、N原子に結合したX^(G2)がメチル基であり、炭素原子に結合したX^(G2)が水素原子である場合」を除く。]」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1-1-1]本件特許発明1は「(G2)グリコール系溶剤」を含有するのに対し、甲1発明はグリコール系溶剤を含有しない点。

イ 判断
上記[相違点1-1-1]について検討すると、甲第1号証の記載事項(8)には、「溶剤は本発明の組成物を溶解できるものであれば特に限定されないが、塗布時に溶剤が必要以上に蒸発して塗布時に組成物の固形分が析出しないようにするため、100℃以上の沸点の溶剤が好ましい。」、「例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテルカルボキシレート、・・・アミド系溶媒等の有機溶剤を挙げることができる。」(段落【0352】)と記載されている。また、上記記載事項クには、「これら溶媒は、単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。」(段落【0357】)との記載もある。
しかしながら、甲第1号証の上記記載事項(8)には、本件特許の明細書における比較例に用いられた溶媒である「N-メチルピロリドン(NMP)」、「γ-ブチロラクトン(GBL)」が、「更に好適な溶剤」(段落【0357】)として挙げられており、実施例における溶媒としても採用されてもいる。そして、これら多数列記された溶媒の中から、式(G1-1)で表される化合物および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤と、(G2)グリコール系溶剤とを組み合わせて用いた事例について、何ら記載されておらず、これらの組み合わせを採用することについて示唆もされていない。また、甲第2号証及び甲第3号証にも、式(G1-1)で表される化合物および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤と、(G2)グリコール系溶剤とを組み合わせて用いることについて何ら記載されていない。そうすると、アミド系溶媒の中から、式(G1-1)で表される化合物および式(G1-2)で表される化合物であってN-メチルピロリドンを除外した化合物から少なくとも1種の溶剤を選択し、さらに、(G2)グリコール系溶剤と組み合わせて用いることに動機付けがあるとはいえず、また、これが当業者にとって自明であったとする根拠も見いだせない。
したがって、当業者であっても、甲1発明に、さらにグリコール系溶剤を含有させて、本件特許発明1の構成とすることが容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1発明に基づいて、容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件特許発明2?5、9?12について
本件特許発明2?5は、本件特許発明1と同じ、「(G2)グリコール系溶剤」を含有するという要件を有している。また、本件特許発明1?5のいずれかの記載を引用する本件特許発明9?12も同様である。
そうすると、本件特許発明2?5、及び、本件特許発明1?5のいずれかの記載を引用する本件特許発明9?12も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1発明に基づいて、容易に発明をすることができたということができない。

(3)本件特許発明13?18について
本件特許発明13は、前記第2の3(1)ア及び(2)アに記載したとおり、本件訂正前の請求項6の記載を引用する請求項7の記載を、請求項6の記載を引用しないものとしたものである。また、本件特許発明14?18は、いずれも、本件特許発明13の要件を具備するものである。
そして、特許異議申立人は、本件補正前の請求項7に係る発明を、甲第1号証を主たる証拠とする進歩性欠如の特許異議申立理由の対象としていないから、本件特許発明13?18も、特許異議申立人が主張する、甲第1号証を主たる証拠とする進歩性欠如の特許異議申立理由の対象ではない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1?5、9?18は、当業者であっても、甲第1号証?甲第5号証の記載に基づいて、容易に発明できたものではない。
したがって、本件特許発明1?5、9?18は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、甲第1号証を主たる証拠とする進歩性欠如の特許異議申立理由によっては、本件特許発明1?5、9?18に係る特許を取り消すことはできない。

3 甲第4号証を主たる証拠とする進歩性欠如についての当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。

(ア)感放射線性樹脂組成物
甲4発明の「感光性樹脂組成物」は、技術的にみて、本件特許発明1の「感放射線性樹脂組成物」に相当する。

(イ)ポリイミド
甲4発明の「感光性樹脂組成物」が含有する「ポリイミド樹脂を含むアルカリ可溶性樹脂(A)」は、本件特許発明1の「ポリイミド」に相当する。
そうすると、甲4発明の「感光性樹脂組成物」と本件特許発明1の「感放射線性樹脂組成物」とは、「(A)ポリイミド、および前記ポリイミドの前駆体から選択される少なくとも1種の重合体」を含有する点で共通する。

(ウ)感放射線性酸発生剤
甲4発明の「感光性樹脂組成物」が含有する「光酸発生剤(B)」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(B)感放射線性酸発生剤」に相当する。
したがって、甲4発明の「感光性樹脂組成物」は、本件特許発明1の「(B)感放射線性酸発生剤」を含有するといえる。

(エ)溶剤
甲4発明の「感光性樹脂組成物」が含有する「溶剤(E)」と、本件特許発明1の「(G1)式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤と、(G2)グリコール系溶剤」とは、「溶剤」である点で共通する。
したがって、甲4発明の「感光性樹脂組成物」は、本件特許発明1と「溶剤」を含有する点で共通する。

(オ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と甲4発明とは、
「(A)ポリイミド、および
前記ポリイミドの前駆体
から選択される少なくとも1種の重合体と、
(B)感放射線性酸発生剤と、
(G)溶剤と
を含有する感放射線性樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点4-1-1]ポリイミドが、本件特許発明1では、上記式(A1)で表される構造単位を有するのに対し、甲4発明は、ポリイミドの構造単位を特定していない点。
[相違点4-1-2]溶剤が、本件特許発明1では、式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤と、(G2)グリコール系溶剤であるのに対し、甲4発明は、溶剤を特定していない点。

イ 判断
事案に鑑みて、上記[相違点4-1-2]について検討する。
甲第4号証には、溶剤について、記載事項(5)に、「例えば、N-メチル-2-ピロリドン(以下NMP)、γ-ブチロラクトン、・・・ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、・・・メチル-1,3-ブチレングリコールアセテート、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、・・・等が挙げられ、単独でも2種類以上混合して用いても良い。」と記載されている。
しかしながら、甲第4号証には、本件特許発明1の式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤と、(G2)グリコール系溶剤を混合して用いることが記載も示唆もされておらず、本件特許の明細書における比較例に用いられた溶媒である「γ-ブチロラクトン」及び「N-メチル-2-ピロリドン」も含んでいる。また、甲第4号証の実施例では、本件特許の明細書における比較例に用いられた溶媒である「γ-ブチロラクトン」及び「N-メチルピロリドン」が、それぞれ単独で用いられている。また、甲第1号証?甲第3号証にも、式(G1-1)で表される化合物および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤と、(G2)グリコール系溶剤とを組み合わせて用いることについて何ら記載されていない。そうすると、感光性樹脂組成物の溶媒として、本件特許発明1の式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤と、(G2)グリコール系溶剤を混合して用いることが、当業者にとって周知技術であったということもできない。
したがって、当業者であっても、甲4発明の溶剤として、本件特許発明1の式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤と、(G2)グリコール系溶剤を混合して用いることが容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、当業者であっても、甲4発明に基づいて、容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6と甲4発明とを対比する。

(ア)感放射線性樹脂組成物
甲4発明の「感光性樹脂組成物」は、技術的にみて、本件特許発明6の「感放射線性樹脂組成物」に相当する。

(イ)ポリイミド
甲4発明の「感光性樹脂組成物」が含有する「ポリイミド樹脂を含むアルカリ可溶性樹脂(A)」は、本件特許発明6の「ポリイミド」に相当する。
そうすると、甲4発明の「感光性樹脂組成物」と本件特許発明6の「感放射線性樹脂組成物」とは、「(A)ポリイミド、および前記ポリイミドの前駆体から選択される少なくとも1種の重合体」を含有する点で共通する。

(ウ)感放射線性酸発生剤
甲4発明の「感光性樹脂組成物」が含有する「光酸発生剤(B)」と本件特許発明6の「(B)キノンジアジド化合物である感放射線性酸発生剤」とは、「(B)感放射線性酸発生剤」である点で共通する。
したがって、甲4発明の「感光性樹脂組成物」は、本件特許発明6と「(B)感放射線性酸発生剤」を含有する点で共通する。

(エ)溶剤
甲4発明の「感光性樹脂組成物」が含有する「溶剤(E)」と、本件特許発明6の「(G1)式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤」とは、「(G)溶剤」である点で共通する。
したがって、甲4発明の「感光性樹脂組成物」は、本件特許発明1と「溶剤」を含有する点で共通する。

(オ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明6と甲4発明とは、
「(A)ポリイミド、および
前記ポリイミドの前駆体
から選択される少なくとも1種の重合体と、
(B)感放射線性酸発生剤と、
(G)溶剤と、
を含有する感放射線性樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点4-6-1]ポリイミドが、本件特許発明6では、上記式(A1)で表される構造単位を有するのに対し、甲4発明は、ポリイミドの構造単位を特定していない点。
[相違点4-6-2]感放射線性酸発生剤が、本件特許発明6では、「キノンジアジド化合物」であるのに対し、甲4発明は、キノンジアジド化合物に特定していない点。
[相違点4-6-3]溶剤が、本件特許発明6では、式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤であるのに対し、甲4発明は、溶剤を特定していない点。
[相違点4-6-4]本件特許発明6は、「(C)ノボラック樹脂」を含有するのに対し、甲4発明は、ノボラック樹脂を含有すると特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑みて、上記[相違点4-6-3]について検討する。
甲第4号証には、溶剤について、記載事項(5)に、「例えば、N-メチル-2-ピロリドン(以下NMP)、γ-ブチロラクトン、・・・等が挙げられ、単独でも2種類以上混合して用いても良い。」と記載されている。
しかしながら、甲第4号証には、本件特許発明1の式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤を用いることが記載も示唆もされておらず、本件特許の明細書における比較例に用いられた溶媒である「γ-ブチロラクトン」及び「N-メチル-2-ピロリドン」も含んでいる。また、甲第4号証の実施例では、本件特許の明細書における比較例に用いられた溶媒である「γ-ブチロラクトン」及び「N-メチルピロリドン」が用いられている。また、甲第1号証?甲第3号証にも、本件特許発明1の式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤を用いることについて記載されていない。さらに、甲第5号証の記載事項(3)には、液晶配向処理剤中の有機溶媒にN-エチル-2-ピロリドンを用いた実施例3が記載されているが、感放射線性樹脂組成物ではない。そうすると、感光性樹脂組成物の溶媒として、本件特許発明6の式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤を用いることが、当業者にとって周知技術であったということもできない。
したがって、当業者であっても、甲4発明の溶剤として、本件特許発明1の式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤を用いることが容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明6は、当業者であっても、甲4発明に基づいて、容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)本件特許発明2?5、7?12について
本件特許発明2?5、7?12は、本件特許発明1と同じ、「式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤と、(G2)グリコール系溶剤」を含有するという要件、あるいは、本件特許発明6と同じ、「式(G1-1)で表される化合物、および式(G1-2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の溶剤」を含有するという要件を有している。
そうすると、本件特許発明2?5、7?12も、本件特許発明1又は本件特許発明6と同じ理由により、当業者であっても、甲4発明に基づいて、容易に発明をすることができたということができない。

(4)本件特許発明13?18について
本件特許発明13は、前記第2の3(1)ア及び(2)アに記載したとおり、本件訂正前の請求項6の記載を引用する請求項7の記載を、請求項6の記載を引用しないものとしたものである。また、本件特許発明14?18は、いずれも、本件特許発明13の要件を具備するものである。
そして、特許異議申立人は、本件補正前の請求項7に係る発明を、甲第4号証を主たる証拠とする進歩性欠如の特許異議申立理由の対象としていないから、本件特許発明13?18も、特許異議申立人が主張する、甲第4号証を主たる証拠とする進歩性欠如の特許異議申立理由の対象ではない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1?6、9?18は、当業者であっても、甲第1号証?甲第5号証の記載に基づいて、容易に発明できたものではない。
したがって、本件特許発明1?6、9?18は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、甲第4号証を主たる証拠とする新規性欠如の特許異議申立理由によっては、本件特許発明1?6、9?18に係る特許を取り消すことはできない。

4 記載不備についての当審の判断
(1)溶剤についての本件特許発明1?18における特定要件
本件特許発明1は、
「(G1)式(G1-1)で表される化合物、および
式(G1-2)で表される化合物
から選択される少なくとも1種の溶剤と、
(G2)グリコール系溶剤とを含有する感放射線性樹脂組成物。」であると特定しており、
本件特許発明6は、
「(G1)式(G1-1)で表される化合物、および
式(G1-2)で表される化合物
から選択される少なくとも1種の溶剤と、」「を含有する感放射線性樹脂組成物。」であると特定しており、全溶剤中における(G1)の含有量を特定していない。本件特許発明2?5、7?18についても同様である。

(2)本件特許発明1?18が解決しようとする課題
本件特許の段落【0005】の記載に基づけば、本件特許発明1?18が解決しようとする課題は、生体への影響が懸念される「N-メチル-2-ピロリドン(NMP)」以外の溶剤を使用した感放射線性樹脂組成物を提供することにあるといえる。
さらに、本件特許の明細書の「従来の有機EL用絶縁膜の形成に使用される感放射線性樹脂組成物では、重合体としてポリイミド系重合体を使用する場合、ポリイミド系重合体の溶解性の観点から、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を使用することが多い。」(段落【0005】)との記載、「NMP以外の溶剤である、例えばγ-ブチロラクトンおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを使用した場合、塗膜にスジ状の塗布ムラが発生したり、塗膜上にポリイミド系重合体が析出して形成された異物が発生したり、感度および解像度等が低下したりする等の問題が生じることが判明した。この点についてさらに検討した結果、以下の構成を採用することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0006】)との記載、及び、「本発明によれば、NMPを使用することなく、感度および解像度に優れた樹脂組成物であって、塗布ムラが小さく、また異物含量が低減された絶縁膜を形成することが可能な、感放射線性樹脂組成物を提供することができる。」(段落【0008】)との記載に基づけば、本件特許発明1?18は、「塗膜にスジ状の塗布ムラが発生したり、塗膜上にポリイミド系重合体が析出して形成された異物が発生したり、感度および解像度等が低下したりする等の問題」が生じない感放射線性樹脂組成物を提供することも課題としているといえる。

(3)本件特許の明細書の記載
本件特許の明細書には、「溶剤(G1)を用いることで、形成される絶縁膜の塗布ムラが小さくなり、また異物含量を低減することができる。また、溶剤(G1)を用いることで、得られる樹脂組成物の、感度および解像度等の感放射線性が向上する。感放射線性が向上する理由は、プレベーク時の加熱では塗膜中に溶剤(G1)が一部残存し、溶剤(G1)が残存した状態で塗膜に対して露光・現像処理を行うことにより、現像液への露光部の溶解が速くなるためであると推定される。」(段落【0111】)と記載されている。当該記載及び上記段落【0005】及び【0006】の記載に基づけば、本件特許発明1?18における「(G1)」で表される化合物は、「ポリイミド系重合体」を溶解させるための「溶剤」であることが理解できる。そして、「(G1)」で表される化合物を、「ポリイミド系重合体」を溶解させるための「溶剤」として作用する含有量で感放射線性樹脂組成物に含有させると、「プレベーク時の加熱では塗膜中に溶剤(G1)が一部残存し、溶剤(G1)が残存した状態で塗膜に対して露光・現像処理を行うことにより、現像液への露光部の溶解が速くなる」という効果を奏することも理解できる。

(4)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において、以下の主張をしている。
「 すなわち、本件特許発明において、その課題を解決できることを具体的に確認できる例は、実施例に開示されているような、
・溶剤(G1)に関しては、26.0?53.6%の範囲のみ、
・グリコール系溶剤(G2)に関しては、46.4?74.0%の範囲のみ、
である。」(第74頁第8?12行)
「 以上より、溶剤(G1)やグリコール系溶剤(G2)の含有量に関して何ら開示も示唆もない本件特許発明1?12は、課題を解決し得ない範囲を含んでいる。」(第75頁第21?22行)
しかしながら、本件特許発明1?18は、前記(1)に記載したとおり、いずれも、「(G1)」で表される化合物を「溶剤」として用いることが特定されているのであるから、「N-メチル-2-ピロリドン(NMP)」以外の溶剤を使用した感放射線性樹脂組成物を提供するという課題を解決するものである。
また、前記(3)に記載したとおり、本件特許発明1?18の「(G1)」で表される化合物は、「ポリイミド系重合体」を溶解させるための「溶剤」であることが理解できる。そして、「(G1)」で表される化合物を「ポリイミド系重合体」を含有する感放射線性樹脂組成物の「溶剤」として用いたことにより、「塗膜にスジ状の塗布ムラが発生したり、塗膜上にポリイミド系重合体が析出して形成された異物が発生したり」という問題や、「感度および解像度等が低下したりする」という問題も、解決されると理解できる。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1?18は、本件特許が解決しようとする課題を解決できるものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものではないから、特許異議申立人が主張する記載不備の理由によっては、本件特許発明1?18に係る特許を取り消すことはできない。


第7 むすび
以上のとおり、本件特許発明6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項6に係る特許は、取り消されるべきものである。
また、特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?5、7?18に係る特許を取り消すことはできず、さらに、これらの特許を取り消すべき他の理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)式(A1)で表される構造単位を有するポリイミド、および
前記ポリイミドの前駆体
から選択される少なくとも1種の重合体と、
(B)感放射線性酸発生剤と、
(G1)式(G1-1)で表される化合物、および
式(G1-2)で表される化合物
から選択される少なくとも1種の溶剤と、
(G2)グリコール系溶剤と
を含有する感放射線性樹脂組成物。
【化1】

[式(A1)中、R^(1)は水酸基を有する2価の基であり、Xは4価の有機基である。]
【化2】

[式(G1-1)中、R^(G1)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または前記炭化水素基における少なくとも1つの炭素-炭素結合間に-O-を挿入してなる基であり、2つのR^(G1)は互いに結合して窒素原子とともに環を形成していてもよく、R^(G2)はメチレン基またはカルボニル基であり、R^(G3)は水素原子または炭素数1?18の炭化水素基であり、R^(G4)は炭素数1?12のアルキル基または炭素数2?10のアルコキシアルキル基である。
式(G1-2)中、X^(G1)はそれぞれ独立にC-Hまたは窒素原子であり、ただし少なくとも1つのX^(G1)は窒素原子であり、X^(G2)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または炭素数2?18のアルコキシアルキル基であり、ただし「2つのX^(G1)がそれぞれC-HおよびN原子であり、N原子に結合したX^(G2)がメチル基であり、炭素原子に結合したX^(G2)が水素原子である場合」を除く。]
【請求項2】
式(A1)におけるR^(1)が、式(a1)で表される2価の基である請求項1に記載の感放射線性樹脂組成物。
【化3】

[式(a1)中、R^(2)は、単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、カルボニル基、メチレン基、ジメチルメチレン基またはビス(トリフルオロメチル)メチレン基であり;R^(3)は、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基、アシル基またはアルキル基であり、ただし、R^(3)の少なくとも1つは水素原子であり;n1およびn2は、それぞれ独立に0?2の整数であり、ただし、n1およびn2の少なくとも一方は1または2である。]
【請求項3】
前記溶剤(G1)が、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ヘキシルオキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、イソプロポキシ-N-イソプロピル-プロピオンアミド、n-ブトキシ-N-イソプロピル-プロピオンアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-エチル-2-ピロリドン、N-(n-プロピル)-2-ピロリドン、N-イソプロピル-2-ピロリドン、N-(n-ブチル)-2-ピロリドン、N-(t-ブチル)-2-ピロリドン、N-(n-ペンチル)-2-ピロリドン、N-メトキシプロピル-2-ピロリドン、N-エトキシエチル-2-ピロリドンおよびN-メトキシブチル-2-ピロリドンから選択される少なくとも1種の溶剤を含む請求項1または2に記載の感放射線性樹脂組成物。
【請求項4】
グリコール系溶剤(G2)が、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネート、およびトリエチレングリコールジアルキルエーテルから選択される少なくとも1種の溶剤を含む請求項1?3のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物。
【請求項5】
(C)ノボラック樹脂
をさらに含有する請求項1?4のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物。
【請求項6】
(A)式(A1)で表される構造単位を有するポリイミド、および
前記ポリイミドの前駆体
から選択される少なくとも1種の重合体と、
(B)キノンジアジド化合物である感放射線性酸発生剤と、
(G1)式(G1-1)で表される化合物、および
式(G1-2)で表される化合物
から選択される少なくとも1種の溶剤と、
(C)ノボラック樹脂と
を含有する感放射線性樹脂組成物。
【化4】

[式(A1)中、R^(1)は水酸基を有する2価の基であり、Xは4価の有機基である。]
【化5】

[式(G1-1)中、R^(G1)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または前記炭化水素基における少なくとも1つの炭素-炭素結合間に-O-を挿入してなる基であり、2つのR^(G1)は互いに結合して窒素原子とともに環を形成していてもよく、R^(G2)はメチレン基またはカルボニル基であり、R^(G3)は水素原子または炭素数1?18の炭化水素基であり、R^(G4)は炭素数1?12のアルキル基または炭素数2?10のアルコキシアルキル基である。
式(G1-2)中、X^(G1)はそれぞれ独立にC-Hまたは窒素原子であり、ただし少なくとも1つのX^(G1)は窒素原子であり、X^(G2)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または炭素数2?18のアルコキシアルキル基であり、ただし「2つのX^(G1)がそれぞれC-HおよびN原子であり、N原子に結合したX^(G2)がメチル基であり、炭素原子に結合したX^(G2)が水素原子である場合」を除く。]
【請求項7】
ノボラック樹脂(C)が、フェノール性水酸基を有する縮合多環式芳香族基を有する構造単位を含む樹脂である請求項5に記載の感放射線性樹脂組成物。
【請求項8】
ノボラック樹脂(C)が、式(C2-1)で表される構造単位および式(C2-2)で表される構造単位から選択される少なくとも1種を有する樹脂である請求項5?7のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物。
【化6】

[式(C2-1)?式(C2-2)中、R^(2)は、メチレン基、炭素数2?30のアルキレン基、炭素数4?30の2価の脂環式炭化水素基,炭素数7?30のアラルキレン基または-R^(3)-Ar-R^(3)-で表される基(Arは2価の芳香族基であり、R^(3)はそれぞれ独立にメチレン基または炭素数2?20のアルキレン基である)であり;a、b、cおよびeはそれぞれ独立に0?3の整数であり、dは0?2の整数であり、但し、aおよびbが共に0である場合はなく、c?eの全てが0である場合はない。]
【請求項9】
(D)架橋剤
をさらに含有する請求項1?5、7?8のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1?5、7?9のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物から形成される、有機EL素子用絶縁膜。
【請求項11】
請求項1?5、7?9のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物を用いて基板上に塗膜を形成する工程、前記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程、前記放射線が照射された塗膜を現像する工程、および前記現像された塗膜を加熱する工程を有する、有機EL素子用絶縁膜の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の絶縁膜を備える有機EL素子。
【請求項13】
(A)式(A1)で表される構造単位を有するポリイミド、および
前記ポリイミドの前駆体
から選択される少なくとも1種の重合体と、
(B)感放射線性酸発生剤と、
(G1)式(G1-1)で表される化合物、および
式(G1-2)で表される化合物
から選択される少なくとも1種の溶剤と、
(C)ノボラック樹脂と
を含有し、
ノボラック樹脂(C)が、フェノール性水酸基を有する縮合多環式芳香族基を有する構造単位を含む樹脂である、感放射線性樹脂組成物。
【化7】

[式(A1)中、R^(1)は水酸基を有する2価の基であり、Xは4価の有機基である。]
【化8】

[式(G1-1)中、R^(G1)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または前記炭化水素基における少なくとも1つの炭素-炭素結合間に-O-を挿入してなる基であり、2つのR^(G1)は互いに結合して窒素原子とともに環を形成していてもよく、R^(G2)はメチレン基またはカルボニル基であり、R^(G3)は水素原子または炭素数1?18の炭化水素基であり、R^(G4)は炭素数1?12のアルキル基または炭素数2?10のアルコキシアルキル基である。
式(G1-2)中、X^(G1)はそれぞれ独立にC-Hまたは窒素原子であり、ただし少なくとも1つのX^(G1)は窒素原子であり、X^(G2)はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1?18の炭化水素基または炭素数2?18のアルコキシアルキル基であり、ただし「2つのX^(G1)がそれぞれC-HおよびN原子であり、N原子に結合したX^(G2)がメチル基であり、炭素原子に結合したX^(G2)が水素原子である場合」を除く。]
【請求項14】
ノボラック樹脂(C)が、式(C2-1)で表される構造単位および式(C2-2)で表される構造単位から選択される少なくとも1種を有する樹脂である請求項13に記載の感放射線性樹脂組成物。
【化9】

[式(C2-1)?式(C2-2)中、R^(2)は、メチレン基、炭素数2?30のアルキレン基、炭素数4?30の2価の脂環式炭化水素基,炭素数7?30のアラルキレン基または-R^(3)-Ar-R^(3)-で表される基(Arは2価の芳香族基であり、R^(3)はそれぞれ独立にメチレン基または炭素数2?20のアルキレン基である)であり;a、b、cおよびeはそれぞれ独立に0?3の整数であり、dは0?2の整数であり、但し、aおよびbが共に0である場合はなく、c?eの全てが0である場合はない。]
【請求項15】
(D)架橋剤
をさらに含有する請求項13または14に記載の感放射線性樹脂組成物。
【請求項16】
請求項13?15のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物から形成される、有機EL素子用絶縁膜。
【請求項17】
請求項13?15のいずれか1項に記載の感放射線性樹脂組成物を用いて基板上に塗膜を形成する工程、前記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程、前記放射線が照射された塗膜を現像する工程、および前記現像された塗膜を加熱する工程を有する、有機EL素子用絶縁膜の製造方法。
【請求項18】
請求項16に記載の絶縁膜を備える有機EL素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-12 
出願番号 特願2015-40106(P2015-40106)
審決分類 P 1 651・ 121- ZDA (G03F)
P 1 651・ 537- ZDA (G03F)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 高橋 純平  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
神尾 寧
登録日 2018-12-14 
登録番号 特許第6447242号(P6447242)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 感放射線性樹脂組成物、絶縁膜及びその製造方法、並びに有機EL素子  
代理人 特許業務法人SSINPAT  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

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