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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 2項進歩性  B22F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
管理番号 1366086
異議申立番号 異議2020-700424  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-17 
確定日 2020-09-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6623266号発明「分散液及び導電性接合部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6623266号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6623266号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?16に係る特許についての出願は、平成30年9月12日に出願され、令和1年11月29日にその特許権の設定登録がされ、令和1年12月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その全ての請求項に係る特許に対し、令和2年6月17日に特許異議申立人中村光代(以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?16の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?16に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と、有機溶媒(S)とを含み、かつ、
B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が、1000Pa以上3000Pa以下の範囲であることを特徴とする、被接合体同士の接合材料として使用するための分散液。
【請求項2】
前記金属微粒子(P)の平均一次粒子径が10nm以上500nm以下である、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記金属微粒子(P)が、銅、銀、金、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1種の微粒子である、請求項1または2に記載の分散液。
【請求項4】
前記有機溶媒(S)が、温度20℃において1mPa・s以上100mPa・s以下の粘度を有する、請求項1乃至3までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項5】
前記有機溶媒(S)が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセロール、1,2,4-ブタントリオール及び1,2,6-ヘキサントリオールからなる群から選択される多価アルコールである、請求項1乃至4までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項6】
前記有機溶媒(S)に対する前記金属微粒子(P)の重量比(P/S)が、55/45?75/25の範囲である、請求項1乃至5までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項7】
前記被接合体が電子部品である、請求項1乃至6までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項8】
前記電子部品が、半導体素子、回路基板の電極端子及び導電性基板からなる群から選択される、請求項7に記載の分散液。
【請求項9】
有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と有機溶媒(S)とを含み、かつ、B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が1000Pa以上3000Pa以下の範囲である分散液を、第1の被接合体上に印刷塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗布工程後、該塗膜内に残存する前記有機溶媒(S)を除去する乾燥工程と、
前記乾燥工程後、前記塗膜上に第2の被接合体を載せ、前記塗膜を焼結することにより形成される導電性接合部材を介して、前記第1の被接合体と前記第2の被接合体とを接合する接合工程と、
を含むことを特徴とする導電性接合部材の製造方法。
【請求項10】
前記金属微粒子(P)の平均一次粒子径が10nm以上500nm以下である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記金属微粒子(P)が、銅、銀、金、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1種の微粒子である、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記有機溶媒(S)が、温度20℃において1mPa・s以上100mPa・s以下の粘度を有する、請求項9乃至11までのいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記有機溶媒(S)が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセロール、1,2,4-ブタントリオール及び1,2,6-ヘキサントリオールからなる群から選択される多価アルコールである、請求項9乃至12までのいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記有機溶媒(S)に対する前記金属微粒子(P)の重量比(P/S)が、55/45?75/25の範囲である、請求項9乃至13までのいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記乾燥工程が、大気雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中で、90℃以上150℃以下の温度、かつ60秒以上300秒以下の熱処理により行われる、請求項9乃至14までのいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記第1の被接合体が、半導体素子、回路基板の電極端子、又は導電性基板であり、
前記第2の被接合体が、半導体素子、回路基板の電極端子、又は導電性基板である、請求項9乃至15までのいずれか1項に記載の製造方法。」


第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、次の甲第1号証?甲第4号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由1?4により、本件発明1?16に係る特許を取り消すべきものである旨、主張している。

甲第1号証(甲1):特許第6118192号公報
甲第2号証(甲2):特開2009-99518号公報
甲第3号証(甲3):「レオロジー用語解説」、p.5?7、URL:http://www.tokisangyo.co.jp/pdf/paper/rheology_words.pdf、出力日:令和2年6月10日、掲載者:東機産業株式会社
甲第4号証(甲4):「レオロジー入門講座」、p.38?39、発行日:1991年5月、発行者:日本プラスチック加工技術協会

1 申立理由1(新規性)
本件発明1?3、7、8は、甲1に記載された発明であり、本件特許の請求項1?3、7、8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

2 申立理由2(進歩性)
本件発明1?16は、甲1に記載された発明に基いて、または、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、請求項1?16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

3 申立理由3(実施可能要件)
本件発明1、9では、「B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が」「1000Pa以上3000Pa以下の範囲である」と特定している。しかしながら、本件特許の明細書において、具体的な組成が示されているのは、ポリビニルピロリドンで被覆された銅粒子とエチレングリコール又はジエチレングリコールとを65/35の重量比で含む場合のみである(実施例1?4)。このため、当業者は、上記とは異なる有機保護膜、金属微粒子、有機溶媒の種類や配合比を用いようとする際に、どのようにすれば、B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が、1000Pa以上3000Pa以下の範囲に調整することができるのかを理解できるとはいえない。また、上記範囲に調整できるとしても、本件特許の明細書に記載された実施例1?4と比較例1、2の比較のみによっては、有機保護膜、金属微粒子、有機溶媒の種類や配合比が異なる場合に、焼結による接合部分の割れの発生を抑制し、印刷塗布において良好な印刷性が得られるという効果を実際に達成できるのかを理解できるとはいえない。
そうすると、出願時の技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明は、当業者が、本件発明1、9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。本件発明2?8、10?16についても同様である。
したがって、本件特許の請求項1?16に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

4 申立理由4(サポート要件)
本件発明1、9では、「有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と」「有機溶媒(S)とを含み」と特定している。しかしながら、本件特許の明細書において実際に効果が実証されているのは、ポリビニルピロリドンで被覆された銅粒子とエチレングリコール又はジエチレングリコールとを65/35の重量比で含む場合のみである(実施例1?4)。有機保護膜、金属微粒子、有機溶媒の種類や配合比が上記とは異なる場合であっても、焼結による接合部分の割れの発生を抑制し、印刷塗布において良好な印刷性が得られるという作用効果を奏することができることは、本件特許の明細書の記載により裏付けられていない。
そうすると、本件発明1、9は、明細書に開示された範囲を超えるものである。本件発明2?8、10?16についても同様である。
したがって、本件特許の請求項1?16に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
以下に述べるように、申立理由1?4によっては,本件特許の請求項1?16に係る特許を取り消すことはできない。

1 各甲号証の記載事項

(1)甲1について

ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がなされている(下線は当審が付したもの。また、「・・・」は省略を示す。以下同様)。

「【請求項1】
平均一次粒子径1?50nmの銀微粒子と平均一次粒子径0.5?4μmの銀粒子と溶剤と分散剤を含む銀ペーストからなる接合材において、銀微粒子の含有量が5?30質量%、銀粒子の含有量が58?90質量%、銀微粒子と銀粒子の合計の含有量が90質量%以上であり、分散剤が酸系分散剤とリン酸エステル系分散剤とからなることを特徴とする、接合材。」
「【請求項7】
前記溶剤がアルコールとトリオールとからなることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の接合材。
【請求項8】
前記銀微粒子が炭素数8以下の有機化合物で被覆されていることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の接合材。
「【請求項 10】
前記銀粒子が有機化合物で被覆されていることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれかに記載の接合材。」
「【請求項13】
前記接合材の粘度をレオメーターにより25℃において6.4rpmで測定したときの粘度が100Pa・s以下であることを特徴とする、請求項1乃至12のいずれかに記載の接合材。」
「【0001】
本発明は、接合材およびそれを用いた接合方法に関し、特に、銀微粒子を含む銀ペーストからなる接合材およびそれを用いて被接合物同士を接合する方法に関する。」
「【0013】
また、上記の接合材を被接合物間に介在させて加熱することにより、接合材中の銀を焼結させて銀接合層を介して被接合物同士を接合したときに、銀接合層の接合面の面積に対してボイドが占める面積の割合が10%未満であるのが好ましい。また、上記の接合材の粘度をレオメーターにより25℃において6.4rpmで測定したときの粘度が100Pa・s以下であるのが好ましい。」
「【0022】
溶剤は、アルコールとトリオールとからなるのが好ましく、アルコールとして、1-オクタノールや1-デカノールなどを使用することができる。アルコールの量は、銀ペーストに対して3?7質量%であるのが好ましく、4?6質量%であるのがさらに好ましい。トリオールの量は、銀ペーストに対して0.3?1質量%であるのが好ましく、0.4?0.6質量%であるのがさらに好ましい。」
「【0024】
また、この接合材の粘度をレオメーター(粘弾性測定装置)により25℃において6.4rpmで測定したときの粘度が100Pa・s以下であるのが好ましい。」
「【0026】
具体的には、上記の接合材を2つの被接合物の少なくとも一方に塗布し、接合材が被接合物間に介在するように配置させ、60?200℃、好ましくは80?170℃で加熱することにより接合材を乾燥させて予備乾燥膜を形成した後、210?400℃、好ましくは230?300℃で加熱することにより、銀ペースト中の銀を焼結させて銀接合層を形成し、この銀接合層によって被接合物同士を接合する。なお、加熱の際に、被接合物間に圧力を加える必要はないが、圧力を加えてもよい。また、窒素雰囲気などの不活性雰囲気中で加熱しても、被接合物同士を接合することができるが、大気中で加圧しても、被接合物同士を接合することができる。」
「【0028】
[実施例1]
ヘキサン酸で被覆された平均一次粒子径20nmの銀微粒子(DOWAエレクトロニクス株式会社製のDP-1)9.3質量%と、オレイン酸で被覆された平均一次粒子径0.8μmの銀粒子(DOWAハイテック株式会社製のAG2-1C)83.7質量%と、焼成助剤(添加剤)としてのジグリコール酸(DGA)(ジカルボン酸)0.067質量%と、酸系分散剤(三洋化成工業株式会社製のビューライトLCA-25NH)(非リン酸エステル系分散剤)1質量%と、リン酸エステル系分散剤(Lubrizol社製のSOLPLUSD540)0.08質量%と、溶剤としての1-デカノール(アルコール)5.353質量%およびトリオール(日本テルペン化学株式会社製のIPTL-A)0.5質量%とを含む銀ペーストからなる接合材を用意した。
【0029】
この接合材(銀ペースト)の粘度をレオメーター(粘弾性測定装置)(Thermo社製のHAAKERheostress 600、使用コーン:C35/2°)により求めたところ、25℃において0.6rpm(2.1s^(-1))で202.9(Pa・s)、1rpmで150.5(Pa・s)、2rpmで82.92(Pa・s)、5rpmで37.71(Pa・s)、6.4rpm(20.1s^(-1))で30.98(Pa・s)、25℃で測定した5rpmの粘度に対する1rpmの粘度の比(1rpmの粘度/5rpmの粘度)(Ti値)(以下、このTi値を「Ti1」という)は4、25℃で測定した20s^(-1)の粘度に対する2s^(-1)の粘度の比(2s^(-1)の粘度/20s^(-1)の粘度)(Ti値)(以下、このTi値を「Ti2」という)は6.5であり、接合材(銀ペースト)の印刷性(印刷適性)は良好であった。」
「【0037】
[実施例3]
ヘキサン酸で被覆された銀微粒子の量を27.9質量%、オレイン酸で被覆された銀粒子の量を65.1質量%とした以外は、実施例1と同様の銀ペーストからなる接合材を用意した。
【0038】
この接合材(銀ペースト)の粘度を実施例1と同様の方法により求めたところ、25℃において0.6rpm(2.1s^(-1))で547.1(Pa・s)、1rpmで426(Pa・s)、2rpmで222(Pa・s)、5rpmで83.37(Pa・s)、6.4rpm(20.1s^(-1))で55.49(Pa・s)、25℃で測定した5rpmの粘度に対する1rpmの粘度の比(Ti1)は5.1、25℃で測定した20s^(-1)の粘度に対する2s^(-1)の粘度の比(Ti2)は9.9であり、接合材(銀ペースト)の印刷性(印刷適性)は良好であった。」
「【0055】
[実施例6]
リン酸エステル系分散剤の量を0.04質量%にした以外は、実施例2と同様の銀ペーストからなる接合材を用意した。
【0056】
この接合材(銀ペースト)の粘度を実施例1と同様の方法により求めたところ、25℃において0.6rpm(2.1s^(-1))で230.6(Pa・s)、1rpmで372.8(Pa・s)、2rpmで255.3(Pa・s)、5rpmで114.2(Pa・s)、6.4rpm(20.1s^(-1))で57.31(Pa・s)、25℃で測定した5rpmの粘度に対する1rpmの粘度の比(Ti1)は3.3、25℃で測定した20s^(-1)の粘度に対する2s^(-1)の粘度の比(Ti2)は4.0であり、接合材(銀ペースト)の印刷性(印刷適性)は良好であった。」
「【0067】
[実施例9]
ヘキサン酸で被覆された銀微粒子の量を20.108質量%、オレイン酸で被覆された銀粒子の量を73.392質量%、焼成助剤(添加剤)としてのジグリコール酸(DGA)(ジカルボン酸)の量を0.062質量%、酸系分散剤の量を0.929質量%、リン酸エステル系分散剤の量を0.074質量%、溶剤としてトリオールの量を0.464質量%とし、アルコール溶剤としての1-デカノール5.353質量%の代わりに、1-デカノール2.485質量%とテルペン系のアルコール(日本テルペン化学株式会社製のTOE-100)2.485質量%を使用した以外は、実施例2と同様の銀ペーストからなる接合材を用意した。
【0068】
この接合材(銀ペースト)の粘度を実施例1と同様の方法により求めたところ、25℃において0.6rpm(2.1s^(-1))で602.4(Pa・s)、1rpmで497.1(Pa・s)、2rpmで232.6(Pa・s)、5rpmで79.26(Pa・s)、6.4rpm(20.1s^(-1))で56.78(Pa・s)、25℃で測定した5rpmの粘度に対する1rpmの粘度の比(Ti1)は6.3、25℃で測定した20s^(-1)の粘度に対する2s^(-1)の粘度の比(Ti2)は10.6であり、接合材(銀ペースト)の印刷性(印刷適性)は良好であった。」
「【0070】
[実施例10]
ヘキサン酸で被覆された銀微粒子の量を20.215質量%、オレイン酸で被覆された銀粒子の量を73.785質量%、焼成助剤(添加剤)としてのジグリコール酸(DGA)(ジカルボン酸)の量を0.057質量%、酸系分散剤の量を0.857質量%、リン酸エステル系分散剤の量を0.069質量%、溶剤としてトリオールの量を0.429質量%とし、アルコール溶剤としての1-デカノール5.353質量%の代わりに、1-デカノール2.295質量%とテルペン系のアルコール(日本テルペン化学株式会社製のTOE-100)2.295質量%を使用した以外は、実施例2と同様の銀ペーストからなる接合材を用意した。
【0071】
この接合材(銀ペースト)の粘度を実施例1と同様の方法により求めたところ、25℃において0.6rpm(2.1s^(-1))で794(Pa・s)、1rpmで651.7(Pa・s)、2rpmで350.7(Pa・s)、5rpmで98.11(Pa・s)、6.4rpm(20.1s^(-1))で50.12(Pa・s)、25℃で測定した5rpmの粘度に対する1rpmの粘度の比(Ti1)は6.6、25℃で測定した20s^(-1)の粘度に対する2s^(-1)の粘度の比(Ti2)は15.8であり、接合材(銀ペースト)の印刷性(印刷適性)は良好であった。」
「【0076】
【表3】



イ 甲1に記載された発明
上記アより、甲1には、実施例3に関し、次の発明が記載されている。

[甲1発明]
「ヘキサン酸で被覆された平均一次粒子径20nmの銀微粒子(DOWAエレクトロニクス株式会社製のDP-1)27.9質量%と、オレイン酸で被覆された平均一次粒子径0.8μmの銀粒子(DOWAハイテック株式会社製のAG2-1C)65.1質量%と、焼成助剤(添加剤)としてのジグリコール酸(DGA)(ジカルボン酸)0.067質量%と、酸系分散剤(三洋化成工業株式会社製のビューライトLCA-25NH)(非リン酸エステル系分散剤)1質量%と、リン酸エステル系分散剤(Lubrizol社製のSOLPLUSD540)0.08質量%と、溶剤としての1-デカノール(アルコール)5.353質量%およびトリオール(日本テルペン化学株式会社製のIPTL-A)0.5質量%とを含む銀ペーストからなり、
粘度をレオメーター(粘弾性測定装置)(Thermo社製のHAAKERheostress 600、使用コーン:C35/2°)により求めると、25℃において0.6rpm(2.1s^(-1))で547.1(Pa・s)、1rpmで426(Pa・s)、2rpmで222(Pa・s)、5rpmで83.37(Pa・s)、6.4rpm(20.1s^(-1))で55.49(Pa・s)である、接合材。」

(2)甲2について
甲2には、以下の記載がなされている。

「【0065】
[分散媒]
分散媒としては、前記金属コロイド粒子(又は金属ナノ粒子)との組み合わせにより、ペーストにおいて十分な粘度を生じさせる溶媒であれば特に限定されず、汎用の溶媒が使用できる。分散媒(分散溶媒)としては、例えば、アルコール類{例えば、脂肪族アルコール類(例えば、ヘプタノール、オクタノール(1-オクタノール、2-オクタノールなど)、デカノール(1-デカノールなど)、ラウリルアルコール、テトラデシルアルコール、セチルアルコール、オクタデシルアルコール、ヘキサデセノール、オレイルアルコールなどの飽和又は不飽和C_(6-30)脂肪族アルコール、好ましくは飽和又は不飽和C_(8-24)脂肪族アルコールなど)、脂環族アルコール類[例えば、シクロヘキサノールなどのシクロアルカノール類;テルピネオール、ジヒドロテルピネオールなどのテルペンアルコール類(例えば、モノテルペンアルコールなど)など]、芳香脂肪族アルコール(例えば、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなど)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの(ポリ)C_(2-4)アルキレングリコールなどのグリコール類;グリセリンなどの3以上のヒドロキシル基を有する多価アルコールなど)など}、グリコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテルなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル;2-フェノキシエタノールなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアリールエーテルなど)、グリコールエステル類(例えば、酢酸カルビトールなどの(ポリ)アルキレングリコールアセテートなど)、グリコールエーテルエステル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート)、炭化水素類[例えば、脂肪族炭化水素類(例えば、テトラデカン、オクタデカン、ヘプタメチルノナン、テトラメチルペンタデカンなどの飽和又は不飽和脂肪族炭化水素類)、芳香族炭化水素類(例えば、トルエン、キシレンなど)など]、エステル類(例えば、酢酸ベンジル、酢酸イソボルネオール、安息香酸メチル、安息香酸エチルなど)などの極性溶媒(極性基を有する溶媒)が挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。」
「【0068】
金属ナノ粒子ペーストにおいて、分散媒の割合は、例えば、金属コロイド粒子(他の金属コロイド粒子を含む場合には金属コロイド粒子の総量)100質量部に対して、例えば、0.1?100質量部、好ましくは1?80質量部、さらに好ましくは2?50質量部、特に3?30質量部(例えば、5?20質量部)程度であってもよい。」

(3)甲3について
甲3には、以下の記載がなされている。なお、掲載頁は、記載内容より見て、目次に掲載されているものに対応する。



」(第5頁)


」(第6頁)


」(第7頁)

(4)甲4について
甲4には、以下の記載がなされている。



」(第38頁)


」(第39頁)

2 取消理由1、2(新規性進歩性)について

(1)本件発明1について

ア 本件発明1と甲1発明との対比

(ア)甲1発明の「ヘキサン酸で被覆された平均一次粒子径20nmの銀微粒子(DOWAエレクトロニクス株式会社製のDP-1)」及び「オレイン酸で被覆された平均一次粒子径0.8μmの銀粒子(DOWAハイテック株式会社製のAG2-1C)」は、本件発明1の「有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)」に相当する。
(イ)甲1発明の「1-デカノール(アルコール)」及び「トリオール(日本テルペン化学株式会社製のIPTL-A)」は、本件発明1の「有機溶媒(S)」に相当する。
(ウ)甲1発明は、「銀ペースト」からなるものであって、「ヘキサン酸で被覆された平均一次粒子径20nmの銀微粒子(DOWAエレクトロニクス株式会社製のDP-1)」及び「オレイン酸で被覆された平均一次粒子径0.8μmの銀粒子(DOWAハイテック株式会社製のAG2-1C)」が「1-デカノール(アルコール)」及び「トリオール(日本テルペン化学株式会社製のIPTL-A)」に分散した分散液の状態となっていると認められる。
また、甲1発明は「接合材」であるから、「被接合体同士の接合体として使用する」ものであることは明らかである。
したがって、甲1発明の「接合材」は、本件発明1の「被接合体同士の接合材料として使用するための分散液」に相当する。
(エ)甲1発明においては、レオメーター(粘弾性測定装置)により求めた、25℃かつせん断速度2s^(-1)、20s^(-1)での粘度は特定されているが、B型粘度計による、25℃かつせん断速度4s^(-1)での粘度は特定されていないから、せん断速度4s^(-1)のせん断応力である本件発明1の「降伏せん断応力」を特定することはできない(下記「ウ 申立て人の主張について」も参照)。
(オ)したがって、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、次の相違点で相違する。

[一致点]
「有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と、有機溶媒(S)とを含む、被接合体同士の接合材料として使用するための分散液。」

[相違点]
本件発明1は、「B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が、1000Pa以上3000Pa以下の範囲である」のに対し、甲1発明は、せん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が不明な点。

イ 相違点についての判断
甲1には、上記1(1)で摘記した、請求項13、【0013】、【0024】において、「レオメーター(粘弾性測定装置)により25℃において6.4rpmで測定したときの粘度が100Pa・s以下」とすることが記載され、さらに【0029】、【0038】、【0056】、【0068】、【0071】において、「25℃で測定した5rpmの粘度に対する1rpmの粘度の比(Ti1)」、「25℃で測定した20s^(-1)の粘度に対する2s^(-1)の粘度の比(Ti2)」を所定の値とすることで、「接合材(銀ペースト)の印刷性(印刷適性)は良好であった」ことが記載されている。
しかし、それら以外には、所定のせん断速度における粘度やせん断応力を調整することについては記載されていない。
そうすると、甲1発明においては、せん断速度4s^(-1)におけるせん断応力を所定の範囲に調整する特段の動機は存在しない。
また、本件特許の明細書の【0035】には、「B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が、1000Pa以上3000Pa以下の範囲である」ことの効果として、「焼結による接合部分の割れの発生を抑制することができ、さらには印刷塗布において、形状保持性、印刷欠陥等、良好な印刷性を示すことが可能となる」ことが記載されている。
しかし、「B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)」との特定のせん断速度におけるせん断応力と印刷性や焼結部分の割れとの関連が本件特許の出願時に技術常識であったともいえず、本件発明1において、「B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が、1000Pa以上3000Pa以下の範囲である」との事項を採用したことの効果が、当業者に予測し得たものともいえない。
さらに、甲2?甲4を参照しても、せん断速度4s^(-1)におけるせん断応力を所定の範囲に調整すべきことは記載されていないし、上記効果についても何ら記載されていない。
したがって、甲1発明において、「B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が、1000Pa以上3000Pa以下の範囲である」との事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、異議申立書第23?24頁において、甲1の実施例3に関し、「後述するように、甲第3号証に記載の式を用いて回転数をせん断速度に変換すると、1rpmは3s^(-1)に相当し、2rpmは7s^(-1)に相当することがわかる」ことを前提として、本件発明1の「B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が、1000Pa以上3000Pa以下の範囲である」との事項が満たされる蓋然性が高いことを主張するので、以下に検討する。
申立人が異議申立書第23、24頁において主張する、甲1の実施例3におけるせん断速度の認定についての主張は、以下のとおりである。
「甲第3号証には、コーン・プレート型粘度計(円すい-平板型回転粘度計)について、せん断速度(ずり速度)D(単位:s^(-1))、回転数N(単位:rpm)及びコーンの角度Φ(単位:rad)の関係を示す下記式が記載されている。

・・・
以上のように、回転数は、コーンの角度が分かれば、せん断速度に変換可能である。ここで、甲1発明で使用されているThermo社製のHAAKE Rheostress 600は、甲第1号証の【0029】の記載から、粘度測定に使用したコーンの角度が2°(=0.03rad)であることが読み取れる。このコーンの角度Φ・・・として0.03radを代入し、回転数Nとして0.6rpmを代入すると、せん断速度Dは2.1s^(-1)となり、甲第1号証の【0029】に記載された回転数0.6rpmに対応するせん断速度の値と一致することが確認できる。同様にして、回転数Nとして1rpmを代入すると、せん断速度Dは3s^(-1)となり、回転数Nとして2rpmを代入すると、せん断速度Dは7s^(-1)となり、実施例3の接合材(銀ペースト)のせん断降伏応力値の算出に用いた上記2つのせん断速度が得られる。」
しかしながら、甲1の実施例3におけるせん断速度の認定についての申立人の上記主張は、以下の(ア)、(イ)の理由で採用できない。
(ア)甲1の【0029】には、6.4rpmにおけるせん断速度が20.1s^(-1)であることが記載されているが、申立人が0.6rpmにおけるせん断速度を計算した方法と同様に、回転数6.4rpm、コーンの角度0.03radを甲3におけるコーン・プレート型の式に代入すると、せん断速度D=0.1047×6.4/0.03=22.3s^(-1)となり、甲1の【0029】に記載の6.4rpmにおけるせん断速度20.1s^(-1)と一致しない。
(イ)2°は、約0.0349radであるが、甲1の【0029】において、せん断速度が有効数字2桁で記載されていることからみて、2°をradでの数値に変換する際に0.03radとの有効数字1桁の概数に丸めるとは考えがたく、2°を0.03radに換算することの根拠が十分でない。
したがって、上記(ア)、(イ)より、甲1の実施例3において、申立人が主張するような方法でせん断速度が求め得るかどうかは不明であり、甲1において、どのような方法でせん断速度を求め得るのかを特定することはできないから、甲1の実施例3において、せん断速度(s^(-1))が明記されていない1rpm、2rpmのせん断速度を認定することはできない。
そうすると、「甲第3号証に記載の式を用いて回転数をせん断速度に変換すると、1rpmは3s^(-1)に相当し、2rpmは7s^(-1)に相当することがわかる」ことを前提とした、申立人の上記主張は採用できない。
また、申立人は、異議申立書第24?25頁において、甲1の実施例6、9、10についても、甲1の実施例3についての主張と同様の主張を行っているが、実施例6、9、10についても、実施例3と同様の理由により、せん断速度が4s^(-1)のときのせん断応力(せん断降伏応力)を特定することができないから、実施例6、9、10についての主張も、実施例3に基づく主張と同様に採用することができない。

エ 小括
よって、本件発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明、甲2?4に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。

(2)本件発明2?16について
本件発明2?16は、いずれも、本件発明1と同様に、「B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が、1000Pa以上3000Pa以下の範囲である」との事項を備えるから、甲1発明と相違点1と同様の相違点で相違する。
したがって、本件発明2?16は、本件発明1と同様に、甲1発明ではなく、甲1発明、甲2?4に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。

(3)まとめ
よって、請求項1?16に係る特許は特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものでなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。


3 取消理由3、4(実施可能要件、サポート要件)について

(1)本件特許の明細書の記載について
本件特許の明細書には、以下の記載がなされている。

「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、例えば、電子部品等の被接合体同士の接合材料として用いる際に、焼結による接合部分の割れの発生を抑制し、さらには印刷塗布において良好な印刷性を示す金属微粒子を含む分散液、並びにこれを用いた導電性接合部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、金属ペーストとして、有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と有機溶媒(S)とを含む分散液を用いて、印刷塗布により塗膜を形成する際、印刷初期のせん断速度の非常に小さい領域における分散液の粘性が非常に重要であるとの知見を得た。そして、せん断速度が非常に小さい領域における分散液の粘性を表す物性値として、分散液のせん断降伏応力を特定の範囲に制御することにより、印刷塗布において良好な印刷性を示し、さらには、焼結による接合部分の割れの発生をも抑制することができることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と、有機溶媒(S)とを含み、かつ、 B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が、1000Pa以上3000Pa以下の範囲である分散液。」
「【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と、有機溶媒(S)とを含む分散液が、B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が1000Pa以上3000Pa以下の範囲に制御された粘性パラメータを有している。このような特定の粘性パラメータを有する金属微粒子(P)を含む分散液を、例えば、電子部品等の被接合体同士の接合材料として用いることにより、焼結による接合部分の割れの発生を抑制することができ、さらには印刷塗布において良好な印刷性を示すことが可能となる。」
「【0033】
[分散液]
本発明に従う分散液は、有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と、有機溶媒(S)とを含んでいる。このような分散液は、例えば、有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)を有機溶媒(S)に添加し、3本ロールミル、遠心混練、超音波発生機(超音波ホモジナイザー)等の分散機を用いて分散処理を行うことで均一分散させ、さらにペースト状になるまで混練することにより得ることができる。そのため、本発明に係る分散液は金属ペーストとして使用される。
【0034】
金属ペーストとしての分散液は、例えば、クリーム、マヨネーズのような軟塑性体に相当する。このような軟塑性体は、そのまま放置した場合には固体と同じように流動しないが、比較的小さな外力を加えることによって容易に流動させることができる性質を有する。本発明に従う分散液は、特定の粘性パラメータを有しており、具体的には、B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が1000Pa以上3000Pa以下の範囲である粘性パラメータを有している。ここで、せん断降伏応力値とは、このような性質を有する金属ペーストが流動し始める応力の限界値を意味する。せん断降伏応力値を得るため、まず、B型粘度計により室温(25℃)でせん断速度をゼロから連続的に一定の速度で増加させ、次いでゼロまで連続的に減少させることで分散液のせん断応力を測定する。さらに、温度25℃でのせん断速度に対してせん断応力の値をプロットし、せん断速度4s^(-1)でのせん断応力の値をせん断降伏応力値とする。
【0035】
金属微粒子と有機溶媒を含んだ分散液の特性は、金属微粒子と有機溶媒との相互作用により、分散液の粘性に影響されることが多い。そのため、分散液の粘性の制御は重要なファクターである。例えば、金属ペーストとしての分散液の場合、分散液の印刷塗布時には粘度が低下して塗布し易くなり、一方で分散液の印刷塗布後は形状(塗膜の形状)を保持することが可能な分散液が理想的である。上記の条件下で測定されるせん断降伏応力値が1000Pa未満では、分散液の粘性が十分ではないため、分散液を印刷した後、時間の経過に伴い形成された塗膜の厚さに分布が生じ、印刷の形状保持性が劣ってしまう。そのため、各被接合体との接合時に焼結の粗密が発生し、割れ等の接合欠陥を発生しやすくなる。一方、せん断降伏応力値が3000Paを超えると、印刷の形状保持性には優れるものの、分散液の粘性が高すぎるため、分散液の印刷において未充填部が発生しやすい。そのため、分散液の未充填部において印刷欠陥が発生するだけでなく、各被接合体との接合時に未充填部の周辺においても焼結密度の低い領域が発生する。さらに、その領域を起点として、割れ等の接合欠陥をもたらしやすくなる。また、せん断降伏応力値は、2000Pa以上3000Pa以下の範囲であることが好ましく、これにより、形状保持性及び緻密性をより向上させることができる。このように、分散液の粘性パラメータとして、せん断降伏応力値を1000Pa以上3000Pa以下の範囲を適切に制御することにより、焼結による接合部分の割れの発生を抑制することができ、さらには印刷塗布において、形状保持性、印刷欠陥等、良好な印刷性を示すことが可能となる。
【0036】
本発明の分散液は、上記のような作用を有するため、被接合体同士の接合材料として使用に有益である。その際、被接合体は電子部品であることが好ましく、半導体素子、回路基板の電極端子及び導電性基板からなる群から選択される電子部品であることがより好ましい。
【0037】
<金属微粒子>
金属微粒子(P)は、特に限定されるものではないが、銅、銀、金、白金、及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも1種の微粒子であることが好ましい。金属微粒子(P)は、これらの金属元素のうち1種の元素で構成されている微粒子であってもよく、又はこれらの金属元素のうち2種以上の元素で構成されている合金の微粒子であってもよい。また、このような微粒子は、これらの酸化物又は水酸化物等であってもよい。さらに、金属微粒子(P)を、1種単独で使用してもよく、又は2種以上の併用であってもよい。
【0038】
金属微粒子(P)の平均一次粒子径は、10nm以上500nm以下であることが好ましく、20nm以上100nm以下であることがより好ましい。平均一次粒子径を適切に制御することにより、得られる分散液の粘性パラメータも厳密に制御することが可能になる。また、金属微粒子(P)の平均一次粒子径が、10nm以上500nm以下である場合には、後述する金属微粒子(P)の焼結を行う過程(焼結過程)で有機溶媒(S)の加水分解反応を行う際、金属微粒子(P)が触媒として作用し得る。これにより、加水分解反応の進行速度を向上させ、金属微粒子(P)の焼結を促進させる作用が期待できる。金属微粒子(P)の平均一次粒子径が10nm未満である場合には、金属微粒子(P)が酸化されやすくなる他、凝集しやすくなるため、均一に分散され難く、粘度の保存安定性を低下させるおそれがある。一方、金属微粒子(P)の平均一次粒子径が500nmを超える場合には、金属微粒子(P)の焼結を行う過程(焼結過程)で、焼結温度を上げなければならず、緻密性の高い(割れが少ない)均質な導電性接合部材を形成することができないおそれがある。」
「 【0040】
(有機保護膜)
有機保護膜は、金属微粒子(P)の表面を被覆して、金属微粒子(P)の凝集を防止できる化合物であれば特に限定されるものではない。ここで「被覆」とは、金属微粒子(P)の表面の少なくとも一部を覆うものであってもよいし、金属微粒子(P)の表面の全体を覆うものであってもよい。
【0041】
有機保護膜を構成する化合物は、金属微粒子(P)の表面を好適に被覆させる観点から、カルボニル基、ヒドロキシル基及び窒素原子からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を分子中に有する化合物であることが好ましい。このような化合物として、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、デンプン及びゼラチン等の高分子が挙げられ、これらの中から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0042】
有機保護膜を構成する化合物として、上述した高分子が使用される場合、その高分子の数平均分子量(Mn)は、3,000?5,000であることが好ましい。数平均分子量(Mn)が3,000未満である場合には、金属微粒子(P)の金属の表面を好適に被覆させることができず、金属微粒子(P)の粒子径がナノサイズよりも大きくなるおそれがあり、これにより、金属微粒子(P)のサイズの制御による焼結促進の作用が期待できなくなる。一方、数平均分子量(Mn)が5,000を超える場合には、金属微粒子(P)の焼結を行う過程(以下、「焼結過程」ともいう)で、焼結した塗膜(以下、「焼結膜」ともいう)内に高分子が残留し、電気抵抗を高めるおそれがある。」
「 【0047】
<有機溶媒>
有機溶媒(S)は、特に限定されるものではないが、温度20℃において1mPa・s以上100mPa・s以下の粘度を有する化合物であることが好ましく、10mPa・s以上50mPa・s以下の粘度を有する化合物であることがより好ましい。このような有機溶媒(S)は、多価アルコールであることが好ましく、特に二価アルコール、三価アルコール又はその混合物であることが好ましい。多価アルコールの有機溶媒(S)を用いることで、焼結過程で、有機溶媒(S)がガス成分と水分子(H_(2)O)とに好適に分解される。
【0048】
また、上記のような有機溶媒(S)は、緻密性の高い均質な焼結膜を形成する観点から、焼結膜を形成する温度(以下、「焼結温度」ともいう)よりも高い沸点を有していることが好ましく、焼結温度よりも40?50℃高い沸点を有していることがより好ましく、250℃以上高い沸点を有していることがさらに好ましい。有機溶媒(S)の沸点が、焼結温度よりも低い場合には、焼結過程において焼結温度に達する前に有機溶媒(S)が気化して枯渇してしまうおそれがある。
【0049】
上記のような有機溶媒(S)は、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセロール、1,2,4-ブタントリオール及び1,2,6-ヘキサントリオールからなる群から選択される多価アルコールであることが好ましい。これらの中から選択される多価アルコールを、単独で使用してもよく、又は2種以上の併用であってもよい。
【0050】
有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と有機溶媒(S)とを含む分散液において、有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)の含有量は、分散液の全量100重量%に対して、55重量%以上75重量%以下であることが好ましく、60重量%以上70重量%以下であることがより好ましい。また、有機溶媒(S)の含有量は、分散液の全量100重量%に対して、25重量%以上45重量%以下であることが好ましく、30重量%以上40重量%以下であることがより好ましい。すなわち、有機溶媒(S)に対する有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)の重量比(P/S)は、55/45?75/25の範囲であることが好ましい。有機溶媒(S)に対する有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)の重量比(P/S)が、55/45未満である場合には、有機溶媒(S)の割合が多過ぎるため、金属微粒子(P)の分散液を接合材料として使用するのに適した粘度よりも低く、液だれしやすいおそれがある。また、焼結過程で、有機溶媒(S)がガス成分と水分子(H_(2)O)とに好適に分解されないおそれがある。一方、上記重量比(P/S)が、75/25を超える場合には、有機溶媒(S)の割合が少な過ぎ、金属微粒子(P)のを接合材料として使用するのに適した粘度よりも高く、印刷塗布が制限されるおそれがある。また、焼結過程で焼結温度に達する前に有機溶媒(S)が枯渇してしまう(気化してしまう)おそれがある。」
「【0052】
[導電性接合部材の製造方法]
本発明に係る導電性接合部材の製造方法は、上述した分散液を、第1の被接合体上に印刷塗布して塗膜を形成する塗布工程と、塗布工程後、塗膜内に残存する有機溶媒(S)を除去する乾燥工程と、乾燥工程後、塗膜上に第2の被接合体を載せ、塗膜を焼結することにより形成される導電性接合部材を介して、第1の被接合体と第2の被接合体とを接合する接合工程と、を含んでいる。
【0053】
<塗布工程>
塗布工程では、上述した分散液、すなわち、有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と有機溶媒(S)とを含み、かつ、B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が1000Pa以上3000Pa以下の範囲である分散液を、第1の被接合体上に印刷塗布して塗膜を形成する。分散液を第1の被接合体上に印刷塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、スキージ印刷、スクリーン印刷、マスク印刷、インクジェット印刷、ディスペンサー印刷等が挙げられる。この中でも、安価で印刷面の様々な大きさに対応可能な観点から、スキージ印刷であることが好ましい。
【0054】
<乾燥工程>
乾燥工程では、塗布工程後、塗膜内に残存する有機溶媒(S)を除去する。このような乾燥工程は、例えば、大気雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中で、90℃?150℃の温度、好ましくは100℃?120℃の温度で、かつ30秒?600秒、好ましくは60秒?300秒の熱処理により行われることが好ましい。本発明に係る分散液は金属ペーストであり、ハンダのように溶融しない。そのため、この乾燥工程において塗膜に空隙、割れ等の欠陥が発生すると、その後の接合工程でもその欠陥が残留してしまうおそれがある。したがって、乾燥条件を適切に制御することにより、焼結後の導電性接合部材に反映される接合欠陥の発生をより確実に抑制することができる。
【0055】
<接合工程>
接合工程では、乾燥工程後、塗膜上に第2の被接合体を載せ、塗膜を焼結することにより形成される導電性接合部材を介して、第1の被接合体と第2の被接合体とを接合する。この接合工程において、乾燥工程後の塗膜をさらに焼結することにより、接合材料として使用されている本発明に係る分散液から導電性接合部材を作製することができる。焼結条件として、例えば、焼結温度は、200℃?500℃の温度であることが好ましく、250℃?350℃の温度であることがより好ましい。また、焼結時間は、5分?120分であることが好ましく、30分?60分であることがより好ましい。焼結温度が、200℃未満である場合には、焼結温度が低過ぎるため、金属微粒子(P)の分散溶液の焼結を有効に進行させることが困難となる場合がある。そのため、緻密性の高い均質な焼結膜を形成することができないおそれがある。焼結温度が、500℃を超える場合には、焼結温度が高過ぎるため、使用可能なデバイスおよび基板の選定が狭くなるおそれがある。また、焼結時間が、5分未満である場合には、焼結時間が短過ぎるため、金属微粒子(P)の分散溶液の焼結が不十分になり得るだけではなく、同様に緻密性の高い均質な焼結膜が形成されないおそれがある。焼結時間が、120分を超える場合には、焼結時間が長過ぎるため、粒子同士の焼結が過剰になり、収縮割れが起りやすくなるおそれがある。尚、塗膜上
に第2の被接合体を載せる際に、必要に応じて位置合わせを行うことが好ましい。
【0056】
焼結処理は加圧下で行ってもよい。加圧下の焼結処理は、導電性接合部材を介した各被接合体間の接合をより確実に行うことができるとともに、導電性接合部材の接合面と各被接合体の接合面との接合面積が大きくなり、接合信頼性を一層向上させることができる。加圧条件は、特に限定されるものではないが、各被接合体間の接合をより確実にすると共に、各被接合体の破損を防ぐ観点から、0.5?15MPaの範囲内であることが好ましい。」
「【実施例】
【0060】
次に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
[実施例1?4、比較例1?2]
<金属微粒子(P)の分離・回収工程>
金属微粒子(P)の原料として酢酸第二銅((CH_(3)COO)_(2)Cu・1H_(2)O)0.2gを蒸留水10mlに溶解させ、酢酸第二銅水溶液10mlを調製した。また、金属イオン還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH_(4))を、濃度が5.0mol/lとなるように蒸留水に混合し、水素化ホウ素ナトリウム水溶液100mlを調製した。
【0062】
次に、上記調製した水素化ホウ素ナトリウム水溶液100mlに、有機保護膜を構成する化合物としてポリビニルピロリドン(PVP、数平均分子量(Mn):約3,500)0.1g(金属微粒子(P)の全量に対して0.5重量%)を添加して攪拌溶解させた。続いて、窒素ガス雰囲気中で、上記調製した酢酸第二銅水溶液10mlをこの溶液に滴下し、金属微粒子の混合溶液を調製した。
【0063】
次に、上記調製した金属微粒子の混合溶液に、凝集促進剤としてクロロホルム(CHCl_(3))5mlを添加して数分間攪拌した。さらに数分間静置した後、沈殿した固形分を含む混合溶液を遠心分離機に供給し、有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)を分離、回収した。
【0064】
ここで、上記分離・回収した金属微粒子(P)の一部を採取し有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)の一次粒子径を下記の方法により測定し、平均一次粒子径を算出した。
【0065】
<金属微粒子(P)の分散液を得る工程>
上記金属微粒子(P)の分離・回収工程で回収された金属微粒子(P)を、下記表1に示す有機溶媒(S)に所定の含有量になるように有機溶媒(S)に添加して、超音波発生機(超音波ホモジナイザー)による分散処理を30分間行い、金属微粒子の分散液を作製した。尚、表1中に示す有機溶媒(S)の粘度(mPa・s)は、三協化学株式会社のSDSシート(安全データシート:Safety Data Sheet)に記載の文献値に基づく値である。
【0066】
<導電性接合部材の作製>
上記で得られた金属微粒子(P)の分散液を、無酸素銅基板(C1020、厚さ1.2mm)上に、スキージ印刷(マスク厚150μm、10mm角パターン)により印刷し、塗膜(厚さ:150μm)を形成した。次いで、この塗膜を大気雰囲気中で下記表1に示す乾燥工程の条件下で乾燥し、塗膜中に残存する溶媒を除去した。さらに、塗膜上に半導体チップとしてのシリコンチップ(サイズ7×7×0.23mm)を載せ、窒素ガス雰囲気中、下記表1に示す接合工程の条件下で塗膜を焼結した。これにより、銅基板と半導体チップとが金属微粒子含有焼結体を介して接合された導電性接合部材を作製した。
【0067】
<せん断降伏応力値の測定>
温度25℃の環境で、B型粘度計(ブルックフィールド社製)を用いて回転数(せん断速度)をゼロから連続的に一定の速度で増加させ、次いでゼロまで連続的に減少させることで分散液のせん断応力を測定した。次いで、得られた測定値に基づき、回転数(せん断速度)をX軸、せん断応力をY軸にプロットし、回転数0.1rpm(せん断速度4s^(-1))の時のせん断応力をせん断降伏応力値として読み取った。
【0068】
<平均一次粒子径の測定>
走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジー社製、製品名:SU8020)を用いて、加速電圧3kV、倍率20万倍の条件下で観察し、測定対象となる金属微粒子(P)のSEM画像を取得した。取得したSEM画像の中から、任意に20個の金属微粒子(P)の一次粒子を選定した。選定した金属微粒子(P)の一次粒子について、最長となる直径をそれぞれ測定し、各測定値の平均を算出して平均一次粒子径を求めた。
【0069】
<印刷性の評価>
(形状保持性)
スキージ印刷により分散液を印刷した後、レーザ変位形により、印刷直後と印刷後5分経過した後に印刷パターン幅及び印刷厚さをそれぞれ測定した。印刷直後と印刷後5分経過した後に、幅又は厚さのいずれが変化した割合が、10%を超える場合を「×」、5%以上かつ10%以下である場合を「○」、5%未満である場合を「◎」として評価した。
【0070】
(印刷欠陥)
スキージ印刷により分散液を印刷した後、得られた印刷体の断面について透過X線観察を行い、未充填部(空隙)の存在について観察した。空隙の存在については、透過X線観察により得られた画像を画像処理し、印刷体がマスク及び空気と接する界面全域において、印刷体がこれらと接していない部分の割合を算出した。この割合(空隙率)が3%以上である場合を「×」、1%を越え、3%未満である場合を「○」、1%以下である場合を「◎」として評価した。
【0071】
<導電性接合部材の評価>
(ポーラス部率)
金属微粒子(P)の焼結過程で得られた焼結膜を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて500倍率で観察した。焼結膜に発生した空隙の大きさを画像処理ソフトで2値化し、所定の単位面積当たり50%以上の空隙を有する部分をボイド(ポーラス部)とみなし、焼結膜に発生したボイドの含有率(ポーラス部率(%))を算出した。
【0072】
(緻密性)
作製した導電性接合部材を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、導電性接合部材の断面を1000倍で観察した。導電性接合部材に発生した割れについて、導電性接合部材全体で割れが観察された場合を「×」、導電性接合部材の中央部には割れは観察されず、端部のみに割れが観察された場合を「○」、導電性接合部材の中央部、端部共に割れが観察されかなった場合を「◎」として評価した。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、実施例1?4では、形状保持性、印刷欠陥及び緻密性の評価がいずれも「○」以上であり、印刷性、緻密性共に良好であった。特に、実施例1?3では、優れた形状保持性及び緻密性を示していた。
【0075】
一方、分散液のせん断降伏応力値が40Paである比較例1では、分散液の粘性が十分ではないため、印刷の形状保持性が劣っており、割れ等の接合欠陥も発生していた。また、分散液のせん断降伏応力値が5000Paである比較例2では、印刷の形状保持性には優れるものの、分散液の粘性が高すぎるため、分散液の未充填部において印刷欠陥が発生しており、割れ等の接合欠陥も発生していた。」

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。

(3)実施可能要件について

実施可能要件を検討する観点について
物の発明における発明の実施とは、そのものの生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、特許法第36条第4項第1号が定める実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明が、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造し、使用することができる程度にその発明が記載されたものでなければならないと解される。
よって、この観点に立って、本件発明1?16の実施可能要件について検討する。

イ 本件発明1?8について
本件発明1?8は、「有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)」と「有機溶媒(S)」とを含み、請求項1に記載の所定の「せん断降伏応力値」を有する「分散液」に関する発明である。
そして、上記(1)で摘記した、【0037】、【0038】、【0040】?【0042】、【0047】?【0050】には、「分散液」において使用し得る「金属微粒子」、「有機保護膜」、「有機溶媒(S)」の材料について具体的に記載されている。
また、上記(1)で摘記した、【0038】、【0047】、【0050】の記載を参照すると、本件発明1における「分散液」の粘度は、「金属微粒子(P)の平均一次粒子径」、「有機溶媒(S)」の種類、「有機溶媒(S)に対する有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)の重量比(P/S)」により調整し得ることが認められる。
ここで、甲3によれば、せん断応力=粘度×せん断速度であり、せん断速度4s^(-1)のせん断応力が本件発明1の「せん断降伏応力」であることから、粘度の調整を通じて「せん断降伏応力」を調整し得ることは明らかであって、当業者であれば、本件特許の明細書の上記記載に基づいて、「分散液」の「せん断降伏応力」を、「金属微粒子(P)の平均一次粒子径」、「有機溶媒(S)」の種類、「有機溶媒(S)に対する有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)の重量比(P/S)」により、所望の範囲に調整し得ることを理解し得ると認められる。
さらに、上記(1)で摘記した、【0061】?【0074】には、実施例1?4として、本件発明1?8の具体例が、具体的な材料、処理条件とともに示されている。
そうすると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?8について、明細書及び図面の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造し、使用することができる程度に記載されたものと認められる。

ウ 本件発明9?16について
本件発明9?16は、本件発明1?8と同様の「分散液」を塗布する「塗布工程」、「乾燥工程」及び「接合工程」を有する「接合部材」の製造方法に関する発明である。
そして、「分散液」については、イで示したとおりであり、さらに、本件特許の明細書の【0052】?【0056】には、各工程について具体的に説明されており、また、上記(1)で摘記した、【0061】?【0074】には、実施例1?4として、本件発明9?16の具体例も具体的な材料、処理条件とともに示されている。
そうすると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件発明9?16について、その方法を使用できるように記載されているといえる。

エ まとめ
よって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?16を実施することができる程度に記載されたものであるから、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでなく、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものでない。

(4)サポート要件について

ア サポート要件を検討する観点について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、上記の観点に立って、本件特許の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについて検討する。

イ 本件特許における発明が解決しようとする課題について
上記(1)で摘記した本件特許の明細書の【0011】に記載のとおり、本件特許における発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、「電子部品等の被接合体同士の接合材料として用いる際に、焼結による接合部分の割れの発生を抑制し、さらには印刷塗布において良好な印刷性を示す金属微粒子を含む分散液、並びにこれを用いた導電性接合部材の製造方法を提供すること」である。

ウ 発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲について

上記(1)で摘記した【0012】には、「本発明者らは、金属ペーストとして、有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と有機溶媒(S)とを含む分散液を用いて、印刷塗布により塗膜を形成する際、印刷初期のせん断速度の非常に小さい領域における分散液の粘性が非常に重要であるとの知見を得た。そして、せん断速度が非常に小さい領域における分散液の粘性を表す物性値として、分散液のせん断降伏応力を特定の範囲に制御することにより、印刷塗布において良好な印刷性を示し、さらには、焼結による接合部分の割れの発生をも抑制することができることを見出した。」と記載されているから、本件発明は、「金属ペーストとして、有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と有機溶媒(S)とを含む分散液を用いて、印刷塗布により塗膜を形成する際」に、「せん断速度が非常に小さい領域における分散液の粘性を表す物性値として、分散液のせん断降伏応力を特定の範囲に制御することにより、印刷塗布において良好な印刷性を示」すようにし、その結果として、「焼結による接合部分の割れの発生をも抑制することができる」ものと認められる。
また、上記(1)で摘記した【0035】には、「上記の条件下で測定されるせん断降伏応力値が1000Pa未満では、分散液の粘性が十分ではないため、分散液を印刷した後、時間の経過に伴い形成された塗膜の厚さに分布が生じ、印刷の形状保持性が劣ってしまう。そのため、各被接合体との接合時に焼結の粗密が発生し、割れ等の接合欠陥を発生しやすくなる。一方、せん断降伏応力値が3000Paを超えると、印刷の形状保持性には優れるものの、分散液の粘性が高すぎるため、分散液の印刷において未充填部が発生しやすい。そのため、分散液の未充填部において印刷欠陥が発生するだけでなく、各被接合体との接合時に未充填部の周辺においても焼結密度の低い領域が発生する。さらに、その領域を起点として、割れ等の接合欠陥をもたらしやすくなる。・・・このように、分散液の粘性パラメータとして、せん断降伏応力値を1000Pa以上3000Pa以下の範囲を適切に制御することにより、焼結による接合部分の割れの発生を抑制することができ、さらには印刷塗布において、形状保持性、印刷欠陥等、良好な印刷性を示すことが可能となる。」と記載されているから、「印刷の形状保持性」を保ち、「未充填部が発生」することを防ぐことで、「割れ等の接合欠陥の発生を抑制」するためには、「せん断降伏応力値を1000Pa以上3000Pa以下の範囲」とする必要があることが認められる。
また、上記(1)で摘記した、【0061】?【0074】には、実施例1?4として、「せん断降伏応力値を1000Pa以上3000Pa以下の範囲」とすることで、上記課題を解決し得ることが示される一方、「せん断降伏応力値を1000Pa以上3000Pa以下の範囲」外である比較例1、2では、上記課題を解決し得ないことが示されている。
したがって、上記課題を解決するためには、「金属ペーストとして、有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と有機溶媒(S)とを含む分散液」において、「せん断降伏応力値を1000Pa以上3000Pa以下の範囲」とすることが必要と認められる。

エ 本件発明と発明の詳細な説明に記載された発明との対比
本件発明1?16は、上記ウで示した「金属ペーストとして、有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と有機溶媒(S)とを含む分散液」において、「せん断降伏応力値を1000Pa以上3000Pa以下の範囲」とするとの事項を備えるものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲に含まれると認められる。
したがって、本件発明1?16は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲を超えるものではない。

オ まとめ
よって、本件発明1?16は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでなく、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものでない。

(5) 申立人の主張について

ア 申立理由3(異議申立書の第32?33頁に記載された(4)エ(ア))について
申立人は、申立理由3に関し、
『本件発明1、9では「・・・B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値が、1000Pa以上3000Pa以下の範囲である」と特定している。しかしながら、本件特許明細書において具体的な組成が示されているのは、ポリビニルピロリドンで被覆された銅粒子とエチレングリコール又はジエチレングリコールとを65/35の重量比で含む場合のみである(実施例1?4)。このため、当業者は、上記とは異なる有機保護膜、金属微粒子、有機溶媒の種類や配合比を用いようとする際に、どのようにすれば、B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値を1000Pa以上3000Pa以下の範囲に調整できるのかを理解できるとはいえない。また、上記範囲に調整できるとしても、本件特許明細書に記載された実施例1?4と比較例1、2の比較のみによっては、有機保護膜、金属微粒子、有機溶媒の種類や配合比が異なる場合に、焼結による接合部分の割れの発生を抑制し、印刷塗布において良好な印刷性が得られるという効果を実際に達成できるのかを理解できるとはいえない。』と主張している。
しかしながら、申立人は、「具体的な組成が示されているのは、ポリビニルピロリドンで被覆された銅粒子とエチレングリコール又はジエチレングリコールとを65/35の重量比で含む場合」以外の場合において、「当業者は、上記とは異なる有機保護膜、金属微粒子、有機溶媒の種類や配合比を用いようとする際に、どのようにすれば、B型粘度計により温度25℃かつせん断速度4s^(-1)で測定されるせん断降伏応力値を1000Pa以上3000Pa以下の範囲に調整できるのかを理解できるとはいえない」、「上記範囲に調整できるとしても、本件特許明細書に記載された実施例1?4と比較例1、2の比較のみによっては、有機保護膜、金属微粒子、有機溶媒の種類や配合比が異なる場合に、焼結による接合部分の割れの発生を抑制し、印刷塗布において良好な印刷性が得られるという効果を実際に達成できるのかを理解できるとはいえない。」ということができる具体的な根拠を説明しておらず、当該申立人の主張の根拠が不明である。
また、本件発明1?16を当業者が実施可能であることは、上記(3)で示したとおりである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

イ 申立理由4(異議申立書の第33頁に記載された(4)エ(イ))について
申立人は、申立理由4に関し、
『本件発明1、9では「有機保護膜で被覆された金属微粒子(P)と、有機溶媒(S)とを含み」と特定している。しかしながら、本件特許明細書において実際に効果が実証されているのは、ポリビニルピロリドンで被覆された銅粒子とエチレングリコール又はジエチレングリコールとを65/35の重量比で含む場合のみである(実施例1?4)。有機保護膜、金属微粒子、有機溶媒の種類や配合比が上記とは異なる場合であっても、焼結による接合部分の割れの発生を抑制し、印刷塗布において良好な印刷性が得られるという作用効果を奏することができることは、本件特許明細書の記載により裏付けられていない。』と主張している。
一方で、上記(4)でも述べたとおり、上記(1)で摘記した、【0012】、【0035】の記載からみて、「印刷塗布において良好な印刷性が得られる」との作用効果は、「分散液」の「せん断降伏応力」を特定の範囲とすることによる作用効果であり、「焼結による接合部分の割れの発生を抑制」するとの作用効果は、「印刷塗布において良好な印刷性が得られる」ことの結果として得られる作用効果であると認められる。
そうすると、「せん断降伏応力」を所定の範囲とすれば、上記課題を解決し得ると認められるから、有機保護膜、金属微粒子、有機溶媒の種類や配合比は、「せん断降伏応力」に影響する限りにおいて、当該作用効果に影響するに過ぎないといえる。
したがって、当業者であれば、「せん断降伏応力」が所定の範囲である限りにおいて、有機保護膜、金属微粒子、有機溶媒の種類や配合比によらず、上記課題を解決し得ることは理解し得るといえるから、申立人の上記主張は採用できない。

(6)小括
よって、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでもないから、同法第113条第4号に該当することにより取り消されるべきものではない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1?16に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由1?4によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2020-08-24 
出願番号 特願2018-170651(P2018-170651)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B22F)
P 1 651・ 121- Y (B22F)
P 1 651・ 113- Y (B22F)
P 1 651・ 537- Y (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 平塚 政宏
北村 龍平
登録日 2019-11-29 
登録番号 特許第6623266号(P6623266)
権利者 古河電気工業株式会社
発明の名称 分散液及び導電性接合部材の製造方法  
代理人 前川 純一  
代理人 上島 類  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 住吉 秀一  
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