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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 一部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1366095
異議申立番号 異議2020-700422  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-18 
確定日 2020-09-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第6621262号発明「ホットメルト接着性樹脂フィルムおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6621262号の請求項1ないし5及び7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6621262号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年8月6日の出願であって、令和元年11月29日にその特許権の設定登録がされ、同年12月18日に特許掲載公報が発行された。その後、令和2年6月18日に特許異議申立人松井伸一(以下、単に「申立人」ともいう。)が、請求項1?5及び7に係る特許に対して特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6621262号の請求項1?5、7の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明7」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5、7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1表面層、第1中間層、耐熱性を有する基材層、第2中間層、第2表面層をこの順に積層してなり、
前記第1表面層および前記第2表面層は、酸変性ポリオレフィンとエポキシ基含有樹脂とを有する組成物、または、酸変性ポリオレフィンとオキサゾリン基含有樹脂とを有する組成物を含有し、
前記第1中間層および前記第2中間層は、プロピレンと1-ブテンとの共重合体をマレイン酸変性した樹脂を含有し、
前記基材層を構成する樹脂は、ポリエステル樹脂、環状オレフィンポリマーおよびメチルペンテンポリマーからなる群から選択される少なくとも1種以上を含有し、
前記ポリエステル樹脂は、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレートであることを特徴とするホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項2】
前記第1表面層および前記第2表面層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を80質量部?99.9質量部と、オレフィン化合物とエポキシ基含有ビニルモノマーとを含むモノマーを共重合させて得られる主鎖、および、前記主鎖に結合した側鎖を有し、かつ、融点が80℃?120℃であるエポキシ基含有ポリオレフィン樹脂(B)を0.1質量部?20質量部を含有することを特徴とする請求項1に記載のホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項3】
前記第1表面層および前記第2表面層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を90質量部?99.9質量部と、常温で固体であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂(C)を 0.1質量部?10質量部を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項4】
前記第1表面層および前記第2表面層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を90質量部?99.9質量部と、数平均分子量が5万?25万のオキサゾリン基含有スチレン系樹脂(D)を0.1?20質量部を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項5】
前記第1中間層および前記第2中間層が、前記プロピレンと1-ブテンとの共重合体をマレイン酸変性した樹脂を含む溶液の塗布および乾燥により設けられた層であって、乾燥後の膜厚が1μm?5μmであることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のホットメルト接着性樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載のホットメルト接着性樹脂フィルムを製造する方法であって、
前記基材層の一方の面および他方の面に、前記プロピレンと1-ブテンの共重合体をマレイン酸変性した樹脂を含む溶液を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させて前記第1中間層および前記第2中間層を形成する工程と、
溶融製膜法により、酸変性ポリオレフィンとエポキシ基含有樹脂とを有する組成物、または、酸変性ポリオレフィンとオキサゾリン基含有樹脂とを有する組成物を含み、前記第1表面層および前記第2表面層となるフィルムを形成する工程と、
前記基材層の一方の面および他方の面に形成された前記第1中間層および前記第2中間層のそれぞれに、前記フィルムを貼り合わせる工程と、を有することを特徴とするホットメルト接着性樹脂フィルムの製造方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、下記4の甲第1?11号証を提出し、次の1?3の点について主張している(以下、甲各号証は、単に「甲1」などと記載する。)。
1 特許法第29条第2項(同法第113条第2項)に関する申立理由
(1)本件発明1について
本件発明1は、甲1又は甲5、並びに甲2に記載の発明及び/又は周知技術(甲6?甲10)から当業者が容易に発明できたものである。
(2)本件発明2について
本件発明2は、甲1又は甲5、甲3?甲4、並びに甲2に記載の発明及び/又は周知技術(甲6?甲10)から当業者が容易に発明できたものである。
(3)本件発明3について
本件発明3は、甲1及び甲5記載の発明、並びに甲2に記載の発明及び/又は周知技術(甲6?甲10)から当業者が容易に発明できたものであるか、甲5の発明、並びに甲2に記載の発明及び/又は周知技術(甲6?甲10)から当業者が容易に発明できたものである。
(4)本件発明5について
本件発明5は、甲1又は甲5に記載の発明、並びに甲2証記載の発明及び/又は周知技術(甲6?甲10)から当業者が容易に発明できたものである。
(5)本件発明7について
本件発明7は、甲1又は甲5に記載の発明、並びに甲2記載の発明及び/又は周知技術(甲6?甲10)から当業者が容易に発明できたものである。

2 同法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号(同法第113条第4号)に関する申立理由
(1)請求項1?4及び7について
本件明細書は、次のア?エの点で、本件発明1?4及び7を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していないから、本件明細書の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満さない。また、本件発明1?4及び7は、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明とは言えないから、本件請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。
ア 請求項1及び7について
請求項1及び7の「酸変性ポリオレフィン」は、具体例として、実施例で「(A)無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点140℃)」が1種用いられているに過ぎないので、実施例の開示に比して広範に過ぎ、当業者が実施可能に開示されているとは言えず、また、発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含するものである。
また、請求項1及び7の「エポキシ基含有樹脂」は、具体例として、実施例で接着剤成分(B)?(D)が各1種用いられているに過ぎないので、実施例の開示に比して広範に過ぎ、当業者が実施可能に開示されているとは言えず、また、発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含するものである。
イ 請求項2について
請求項2の「エポキシ基含有ポリオレフィン樹脂(B)」は、具体例として、実施例で接着剤成分(B)「モディパーA4100」(商品名、日油社製)(エチレンーグリシジルメタクリレート共重合体と、ポリスチレンとのグラフト重合体;主鎖中の全モノマーに対するグリシジルメタクリレートモノマーの割合=30質量%;融点97℃)が1種用いられているに過ぎないので、実施例の開示に比して広範に過ぎ、当業者が実施可能に開示されているとは言えず、また、発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含するものである。
ウ 請求項3について
請求項3の「フェノールノボラック型エポキシ樹脂(C)」は、具体例として、実施例で接着剤成分(C)「jER157S70」(商品名、三菱化学社製)(ビスフェノールA構造を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂;粘度=80;エポキシ当量=210)が1種用いられているに過ぎないので、実施例の開示に比して広範に過ぎ、当業者が実施可能に開示されているとは言えず、また、発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含するものである。
エ 請求項4について
請求項4の「オキサゾリン基含有スチレン系樹脂(D)」は、具体例として、実施例で接着剤成分(D)「エポクロス RPS-1005」(商品名、日本触媒社製)(スチレンと2-イソプロペニル-2-オキサゾリンとを共重合させて得られた樹脂;数平均分子量=7万)が1種用いられているに過ぎないので、実施例の開示に比して広範に過ぎ、当業者が実施可能に開示されているとは言えず、また、発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含するものである。

3 同法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)に関する申立理由
(1)請求項2について
請求項2は、次の点で、特許を受けようとする発明が明確に記載されていないから、本件特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満さない。
請求項2の「前記主鎖に結合した側鎖を有し」の文言は、側鎖の構造が如何なるものであるか特定されておらず不明であり、特許請求の範囲の記載が不明確である。例えば、甲3に記載の構造式(I)のR1?R4は得られた共重合体の側鎖に位置するので、「前記主鎖に結合した側鎖を有し」の要件を充足すると考えられる。

4 甲1?11
甲1:特開2013-91702号公報
甲2:特開2014-240174号公報
甲3:特開2014-208810号公報
甲4:特開2015-105345号公報
甲5:特開2014-218633号公報
甲6:国際公開第2013/164976号
甲7:国際公開第2014/088015号
甲8:特開平4-114072号公報
甲9:特開平4-320469号公報
甲10:特開平4-363372号公報
甲11:本件特許第1回拒絶理由通知書(平成31年3月12日起案)

第4 甲1、2及び5の記載
1 甲1には、次の記載がある。
(1)「【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2つ以上有し、且つ、水酸基を1分子中に10以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物。
(中略)
【請求項8】
基材の少なくとも片面に、請求項1?6のいずれかに記載の接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が積層されてなる、接着性樹脂積層体。」
(2)「【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体に対して、優れた接着力を有しており、単純な組成からなり、容易に製造可能な接着性樹脂組成物、接着性樹脂成形体、及び接着性樹脂積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2つ以上有し、且つ、水酸基を1分子中に10以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物を提供する。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)の水酸基とが、グラフト重合されて得られるグラフト共重合体(G)を含有することが好ましい。
接着性樹脂組成物の固形分100重量部中に、前記エポキシ樹脂系化合物(B)が1?15重量部の範囲内で含有することが好ましい。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が、酸変性ポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)とが、溶融グラフト重合されてなることが好ましい。
接着性樹脂組成物の固形分100重量部中に、熱可塑性エラストマー樹脂(C)が1?15重量部の範囲内で含有するように、さらに、添加してなることが好ましい。
また、本発明は、前記接着性樹脂組成物から形成される、フィルムまたはシートからなる、接着性樹脂成形体を提供する。
また、本発明は、基材の少なくとも片面に、前記接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が積層されてなる、接着性樹脂積層体を提供する。」
(3)「【0030】
〔被着体〕
本発明の接着性樹脂組成物を用いて接着することが可能な被着体としては、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体が挙げられる。被着体の形状は、特に限定されるものではなく、フィルム、シート、板、パネル、トレイ、ロッド(棒状体)、箱体、筐体等が挙げられる。
金属としては、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、ニッケル、クロムやその合金などが挙げられる。また、表面に金属メッキ層を有する複合材料にも適用でき、その場合のメッキの下地材は、メッキが可能な限り、特に限定されず、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の材質であってもよい。
ガラスとしては、アルカリガラス、無アルカリガラス、石英ガラスなどが挙げられる。
プラスチックとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体などのポリアミド系樹脂;ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレートテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル系樹脂;ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体)、ポリメタクリレート系樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチルなどのポリニトリル系樹脂;酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体などのポリビニル系樹脂;などが挙げられる。」
(4)「【0033】
〔接着性樹脂積層体〕
本発明の接着性樹脂積層体は、基材の少なくとも片面に、本発明の接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が積層されてなるものである。前記接着性樹脂層が、基材の片面または両面に設けられることにより、前記接着性樹脂層を用いて、被着体と接着することができる。基材としては、基材自体に接着性を有する必要はなく、前記接着性樹脂層と接着可能なものが好ましい。上述の被着体として例示したものと同様に、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の基材が挙げられる。」
(5)「【0035】
本発明の接着性樹脂積層体が、基材の片面のみに前記接着性樹脂層を有する場合は、例えば、上記の(1)または(2)に挙げるような方法で、被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である。
また、本発明の接着性樹脂積層体が、基材の両面に前記接着性樹脂層を有する場合は、例えば、上記の(1)?(4)に挙げるような方法で、被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である。」

2 甲2には、次の記載がある。
(1)「【要約】
【課題】基材層の上に特定組成のプライマー層を設けることで、環状ポリオレフィン樹脂コート剤の各種基材に対する塗れ性と、環状ポリオレフィン樹脂コート層の各種基材に対する密着性とが改善でき、しかも使用環境での環状ポリオレフィン樹脂コート層のひび割れも抑制できる積層体と、その積層体の好ましい製造方法とを提供すること。
【解決手段】基材層/プライマー層/環状ポリオレフィン樹脂コート層が少なくともこの順に積層されてなる積層体であって、該プライマー層が、不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1?10質量%である酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体から得られる塗膜であることを特徴とする積層体、並びにその積層体の製造方法。」
(2)【請求項1】
基材層/プライマー層/環状ポリオレフィン樹脂コート層が少なくともこの順に積層されてなる積層体であって、該プライマー層が、不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1?10質量%である酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体から得られる塗膜であることを特徴とする積層体。
(中略)
【請求項7】
基材層が、ポリエステル樹脂基材、ポリカーボネート樹脂基材、ポリメタクリル酸メチル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂及びセルロースエステル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?6いずれかに記載の積層体。」
(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題を解決するもので、基材層の上に特定組成のプライマー層を設けることで、環状ポリオレフィン樹脂コート剤の各種基材に対する塗れ性と、環状ポリオレフィン樹脂コート層の各種基材に対する密着性とが改善でき、しかも使用環境での環状ポリオレフィン樹脂コート層のひび割れも抑制できる積層体と、その積層体の好ましい製造方法とを提供することを目的とする。」
(4)「【0009】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0010】
(1)基材層/プライマー層/環状ポリオレフィン樹脂コート層が少なくともこの順に積層されてなる積層体であって、該プライマー層が、不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1?10質量%である酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体から得られる塗膜であることを特徴とする積層体。
(2)水性分散体が、さらに架橋剤を含有していること特徴とする(1)記載の積層体。
(3)架橋剤が、多価オキサゾリン化合物、多価カルボジイミド化合物及び多価ヒドラジド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(2)記載の積層体。
(4)水性分散体が、さらにポリウレタン樹脂を含有していること特徴とする(1)?(3)いずれかに記載の積層体。
(5)プライマー層の厚みが、0.01?5μmの範囲であることを特徴とする(1)?(4)いずれかに記載の積層体。
(6)環状ポリオレフィン樹脂コート層の厚みが、0.1?30μmの範囲であることを特徴とする(1)?(5)いずれかに記載の積層体。
(7)基材層が、ポリエステル樹脂基材、ポリカーボネート樹脂基材、ポリメタクリル酸メチル樹脂及び環状ポリオレフィン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)?(6)いずれかに記載の積層体。
(8)全光線透過率が80?97%の範囲の光学フィルムであることを特徴とする(1)?(7)いずれかに記載の積層体。
(9)積層体における環状ポリオレフィン樹脂コート層の密着性を、JIS K5400-8.5(碁盤目試験)に準じ評価した際の、碁盤目100枡中の環状ポリオレフィン樹脂コート層の剥離しなかった升数が、70枡以上であることを特徴とする(1)?(8)いずれかに記載の積層体。
(10)不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1?10質量%である酸変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体を基材層にコートして、プライマー層を形成する工程と、環状ポリオレフィン樹脂を含有するコート剤を該プライマー層の上にコートして環状ポリオレフィン樹脂コート層を形成する工程とを、具備することを特徴とする(1)?(9)いずれかに記載の積層体の製造方法。」
(5)「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の積層体における基材層は、使用する用途や目的などに応じて任意で選択されるものである。基材層の材料としては、例えば、金属、ガラス、樹脂、ゴム、木材、合成紙、紙など材料が挙げられる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂、ポリグリコール酸樹脂やポリ乳酸樹脂などのポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66やナイロン46などのポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、環状オレフィンポリマー(COP)や環状オレフィンコポリマー(COC)などの環状ポリオレフィン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂などのアクリル樹脂、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートなどのセルロースエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ABS樹脂などが挙げられる。これらは単独でも複数の複合体であってもよい。これらの中でも、プライマー層との密着性や透明性などの観点から、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、セルロースエステル樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂の場合はなかでもポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレート樹脂がより好ましい。セルロースエステル樹脂の場合はなかでもセルローストリアセテートが好ましい。」
(6)「【0023】
酸変性ポリオレフィン樹脂の具体例としては、エチレン-アクリル酸エチル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸ブチル-(無水)マレイン酸共重合体などのエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体などが挙げられ、中でもエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体が最も好ましい。共重合体の形態はランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などのいずれでもよいが、入手が容易という点でランダム共重合体、グラフト共重合体が好ましい。」
(7)「【0035】
本発明の接着性樹脂積層体が、基材の片面のみに前記接着性樹脂層を有する場合は、例えば、上記の(1)または(2)に挙げるような方法で、被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である。
また、本発明の接着性樹脂積層体が、基材の両面に前記接着性樹脂層を有する場合は、例えば、上記の(1)?(4)に挙げるような方法で、被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である。」
(8)「【0059】
本発明におけるプライマー層は、上記のような酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体を基材層にコートして得られる塗膜である。詳しくは、基材層の少なくとも一部に、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体をコートした後、コートした水性分散体中の水性媒体の一部又は全てを乾燥により気化させることで得られる塗膜である。」

3 甲5には、次の記載がある。
(1)「【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2個以上有し、且つ、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と反応する官能基を、1分子中に5個以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物。
(中略)
【請求項9】
基材の少なくとも片面に、請求項1?7のいずれかに記載の接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が積層されてなる、接着性樹脂積層体。」
(2)「【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体に対して、優れた接着力を有しており、単純な組成からなり、容易に製造可能な接着性樹脂組成物、接着性樹脂成形体、及び接着性樹脂積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2個以上有し、且つ、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と反応する官能基を、1分子中に5個以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物を提供する。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)の官能基とが、グラフト重合されて得られるグラフト共重合体(G)を含有することが好ましい。
前記エポキシ樹脂系化合物(B)の有する官能基が、エポキシ基及び水酸基、又はエポキシ基のみであることが好ましい。
接着性樹脂組成物の固形分100重量部中に、前記エポキシ樹脂系化合物(B)が1?15重量部の範囲内で含有することが好ましい。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が、酸変性ポリプロピレン系樹脂、又は酸変性ポリエチレン系樹脂であることが好ましい。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)とが、溶融グラフト重合されてなることが好ましい。
接着性樹脂組成物の固形分100重量部中に、熱可塑性エラストマー樹脂(C)が1?15重量部の範囲内で含有するように、さらに、添加してなることが好ましい。
また、本発明は、前記接着性樹脂組成物から形成される、フィルムまたはシートからなる、接着性樹脂成形体を提供する。
また、本発明は、基材の少なくとも片面に、前記接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が積層されてなる、接着性樹脂積層体を提供する。」
(3)「【0032】
〔被着体〕
本発明の接着性樹脂組成物を用いて接着することが可能な被着体としては、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体が挙げられる。被着体の形状は、特に限定されるものではなく、フィルム、シート、板、パネル、トレイ、ロッド(棒状体)、箱体、筐体等が挙げられる。
金属としては、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、ニッケル、クロムやその合金などが挙げられる。また、表面に金属メッキ層を有する複合材料にも適用でき、その場合のメッキの下地材は、メッキが可能な限り、特に限定されず、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の材質であってもよい。
ガラスとしては、アルカリガラス、無アルカリガラス、石英ガラスなどが挙げられる。
プラスチックとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体などのポリアミド系樹脂;ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレートテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル系樹脂;ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体)、ポリメタクリレート系樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチルなどのポリニトリル系樹脂;酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体などのポリビニル系樹脂;などが挙げられる。」
(4)「【0037】
本発明の接着性樹脂積層体が、基材の片面のみに前記接着性樹脂層を有する場合は、例えば、上記の(1)または(2)に挙げるような方法で、被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である。
また、本発明の接着性樹脂積層体が、基材の両面に前記接着性樹脂層を有する場合は、例えば、上記の(1)?(4)に挙げるような方法で、被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である。」

第5 甲1及び甲5に記載された発明(甲1発明及び甲5発明)
1 甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の請求項1を引用する請求項8(上記第4 1(1))には、「基材の少なくとも片面に、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2つ以上有し、且つ、水酸基を1分子中に10以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が積層されてなる、接着性樹脂積層体」が記載されていると認められる。
また、【0035】(同(5))には、「前記接着性樹脂層が、基材の片面または両面に設けられることにより、前記接着性樹脂層を用いて、被着体と接着することができる。」と記載されていることから、上記請求項8に記載された「接着性樹脂積層体」には、基材の両面に接着性樹脂層が設けられた態様が含まれるといえる。
そうすると、甲1の請求項1を引用する請求項8には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「基材の両面に、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2つ以上有し、且つ、水酸基を1分子中に10以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が積層されてなる、接着性樹脂積層体」

2 甲5に記載された発明(甲5発明)
甲5の請求項1を引用する請求項9(上記第4 3(1))には、「基材の少なくとも片面に、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2個以上有し、且つ、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と反応する官能基を、1分子中に5個以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が積層されてなる、接着性樹脂積層体。」が記載されていると認められる。
また、【0037】(同(4))には、「前記接着性樹脂層が、基材の片面または両面に設けられることにより、前記接着性樹脂層を用いて、被着体と接着することができる。」と記載されていることから、上記請求項9に記載された「接着性樹脂積層体」は、基材の両面に接着性樹脂層が設けられた態様が含まれるといえる。
そうすると、甲5の請求項1を引用する請求項9には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「基材の両面に、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2個以上有し、且つ、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と反応する官能基を、1分子中に5個以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が積層されてなる、接着性樹脂積層体。」

第6 異議申立て理由についての当審の判断
1 特許法第29条第2項について(甲1を主たる引用例とした場合)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「基材」は、本件発明1の「基材層」に相当する。
また、甲1発明の「接着性樹脂層」は、基材の両面に積層されていることから、その一方が、本件発明1の「第1表面層」に相当し、もう一方が、本件発明1の「第2表面層」に相当する。
そして、甲1発明の「接着性樹脂組成物」は、「酸変性ポリオレフィン樹脂(A)」と、「エポキシ樹脂系化合物(B)」とを必須成分とすることから、本件発明1の「酸変性ポリオレフィンとエポキシ基含有樹脂とを有する組成物、または、酸変性ポリオレフィンとオキサゾリン基含有樹脂とを有する組成物」に相当する。
さらに、甲1発明の「接着性樹脂積層体」は、甲1の【0037】(上記第4 3(4))の「被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である」という記載から、被着体と積層し、加熱によって軟化して接着するものであるから、甲1発明の「基材」は、耐熱性を有するものであることは明らかである。また、「接着性樹脂積層体」はフィルム状であることも明らかであって、本件発明1の「ホットメルト接着性樹脂フィルム」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「第1表面層、耐熱性を有する基材層、第2表面層を積層してなり、
前記第1表面層および前記第2表面層は、酸変性ポリオレフィンとエポキシ基含有樹脂とを有する組成物、または、酸変性ポリオレフィンとオキサゾリン基含有樹脂とを有する組成物を含有するホットメルト接着性樹脂フィルム。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1)
本件発明1は、「プロピレンと1-ブテンとの共重合体をマレイン酸変性した樹脂を含有」する「第1中間層」及び「第2中間層」を有し、「第1中間層」を第1表面層と基材層との間、「第2中間層」を基材層と第2表面層との間に備えているのに対し、甲1発明は、そのような中間層は備えていない点。
(相違点2)
基材層を構成する樹脂について、本件発明1は、「ポリエステル樹脂、環状オレフィンポリマーおよびメチルペンテンポリマーからなる群から選択される少なくとも1種以上を含有し、前記ポリエステル樹脂は、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレートである」のに対し、甲1発明の基材は、どのような材質であるのかは規定されていない点。

イ 判断
相違点について検討する。
(相違点1について)
甲2の記載について検討する。
甲2には、「基材層の上に特定組成のプライマー層を設けることで、環状ポリオレフィン樹脂コート剤の各種基材に対する塗れ性と、環状ポリオレフィン樹脂コート層の各種基材に対する密着性とが改善でき、しかも使用環境での環状ポリオレフィン樹脂コート層のひび割れも抑制できる積層体」について記載され、該積層体は、「基材層/プライマー層/環状ポリオレフィン樹脂コート層が少なくともこの順に積層されてなる積層体」(【要約】、上記第4 2(1))であることが記載されている。
また、【0010】(同(4))には、該プライマー層が、不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1?10質量%である酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体から得られる塗膜であることが記載され、【0023】(同(6))には、該酸変性ポリオレフィン樹脂として、「エチレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体」が例示されている。
そうすると、本件発明1の「第1中間層」及び「第2中間層」は、「プロピレンと1-ブテンとの共重合体をマレイン酸変性した樹脂」を含有するものであるところ、甲2の上記「エチレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体」は当該樹脂に含まれるものであって、甲2の「プライマー層」は、本件発明1の「第1中間層」及び「第2中間層」と同様な組成のものであるということができたとしても、甲2のプライマー層は、環状ポリオレフィン樹脂コート層の各種基材に対する密着性を改善するために設けられたものであって、甲2のコート層とは用途が異なる甲1発明のような「接着性樹脂組成物」と基材との密着性の改善や、甲2の環状ポリオレフィン樹脂とは組成の異なる甲1発明のような「酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2つ以上有し、且つ、水酸基を1分子中に10以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物」と基材との密着性の改善のために用いられるものであるとはいえない。
さらに、甲1には、基材と接着性樹脂層との間に、なんらかの層を介在させることについては記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明の基材と接着性樹脂層との間に、甲2に記載されたプライマー層を設ける動機付けを見いだすことはできない。
また、甲3、甲4、甲6?甲10には、本件発明1の「第1中間層」及び「第2中間層」と同様な組成のものについて記載も示唆もない。

(相違点2について)
甲1の【0033】(上記第4 1(4))には、「金属、ガラス、プラスチックなどの各種の基材が挙げられる。」と記載され、基材の材質として、金属、ガラス、プラスチックが例示されているものの、基材を用いた実施例は記載されておらず、どの材料の基材が好ましいものであるかは不明としかいうほかないところ、甲2の【0013】(上記第4 2(5))には、基材層の材料として、複数のも材料が例示され、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、環状オレフィンポリマー(COP)も例示されているものの、甲2には、甲1発明のような接着性樹脂積層体については記載されていないことから、甲1発明における基材と甲2に記載避けた基材層との関連はないというべきであって、甲2の上記【0013】に記載された複数の材料の中から、甲1発明の基材の材料として、上記相違点2に係る本件発明1において規定された基材の材料を選択する動機付けを見いだすことはできない。

(本件発明1の効果について)
本件発明1は、上記相違点1、2に係る発明特定事項を備えることで、「基材層に耐熱性基材を設け、積層体としての強度を確保し、中間層および表面層にそれぞれポリオレフィンを含むため、中間層と表面層の密着性が良好であり、中間層がプロピレンと1-ブテンの共重合体を含むことで、中間層が基材層との密着性を向上させ、表面層に酸変性ポリオレフィンを含み、表面層の酸変性ポリオレフィンが被着体との接着性を確保する」(【0006】)という、甲1、2からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものであって、そのような作用効果は、実施例で確認されている。

(まとめ)
本件発明1は、甲1、甲2に記載の発明及び/又は周知技術(甲6?甲10)から当業者が容易に発明できたものであるとすることはできない。

(2)本件発明2、3、5及び7について
本件発明2、3、5及び7は、本件発明1を直接的又は間接的に引用しさらに限定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、当業者が容易に発明できたものであるとすることはできない。

2 特許法第29条第2項について(甲5を主たる引用例とした場合)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「基材」は、本件発明1の「基材層」に相当する。
甲5発明の「接着性樹脂層」は、基材の両面に積層されていることから、その一方が、本件発明1の「第1表面層」に相当し、もう一方が、本件発明1の「第2表面層」に相当する。
甲5発明の「接着性樹脂組成物」は、「酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2個以上有し、且つ、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と反応する官能基を、1分子中に5個以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)」とを、必須成分とすることから、本件発明1の「酸変性ポリオレフィンとエポキシ基含有樹脂とを有する組成物、または、酸変性ポリオレフィンとオキサゾリン基含有樹脂とを有する組成物」に相当する。
甲5発明の「接着性樹脂積層体」は、甲5の【0037】(上記第4 3(4))の「被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である」という記載から、被着体と積層し、加熱によって軟化して接着するものであるから、甲5発明の「基材」は、耐熱性を有するものであることは明らかである。また、「接着性樹脂積層体」はフィルム状であることも明らかであって、本件発明1の「ホットメルト接着性樹脂フィルム」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲5発明とは、
「第1表面層、耐熱性を有する基材層、第2表面層を積層してなり、
前記第1表面層および前記第2表面層は、酸変性ポリオレフィンとエポキシ基含有樹脂とを有する組成物、または、酸変性ポリオレフィンとオキサゾリン基含有樹脂とを有する組成物を含有するホットメルト接着性樹脂フィルム。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1’)
本件発明1は、「プロピレンと1-ブテンとの共重合体をマレイン酸変性した樹脂を含有」する「第1中間層」及び「第2中間層」を有し、「第1中間層」を第1表面層と基材層との間、「第2中間層」を基材層と第2表面層との間に備えているのに対し、甲5発明は、そのような中間層は備えていない点。
(相違点2’)
基材層を構成する樹脂について、本件発明1は、「ポリエステル樹脂、環状オレフィンポリマーおよびメチルペンテンポリマーからなる群から選択される少なくとも1種以上を含有し、前記ポリエステル樹脂は、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレートである」のに対し、甲5発明の基材は、どのような材質であるのか規定されていない点。

イ 判断
上記相違点1’及び2’は、上記1(1)アの相違点1及び2と同じであり、同イで述べた理由と同様な理由から、本件発明1は、甲5、甲2に記載の発明及び/又は周知技術(甲6?甲10)から当業者が容易に発明できたものであるとすることはできない。

(2)本件発明2、3、5及び7について
本件発明2、3、5及び7は、本件発明1を直接又は間接的に引用しさらに限定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、当業者が容易に発明できたものであるとすることはできない。

3 特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号について
(1)請求項1?4及び7について
本件発明1?4及び7の課題は、「金属を初めとして、ガラス、プラスチック等の各種、平面状もしくはフィルム状の被着体に対して、各層間で剥離が起こらず、優れた接着力を有し、過酷な耐久評価においても強い耐久性を有するホットメルト接着性樹脂フィルムおよびその製造方法を提供すること」(【0005】)であると認められる。
そして、本件明細書の記載から、本件発明1?4及び7においては、「基材層に耐熱性基材を設け、積層体としての強度を確保し、中間層および表面層にそれぞれポリオレフィンを含むため、中間層と表面層の密着性が良好であり、中間層がプロピレンと1-ブテンの共重合体を含むことで、中間層が基材層との密着性を向上させ、表面層に酸変性ポリオレフィンを含み、表面層の酸変性ポリオレフィンが被着体との接着性を確保する」(【0006】)ことで、課題を解決するものが理解でき、そのような作用効果は、実施例において確認されているといえる。
そうすると、次のア?エのことがいえる。
ア 請求項1及び7の「酸変性ポリオレフィン」は、具体例として、実施例で「(A)無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点140℃)」が1種用いられているに過ぎないとしても、「酸変性ポリオレフィン」の種類によって課題を解決しないものとなるわけではないことから、請求項1及び7の記載が、実施例の開示に比して広範に過ぎるとはいえないし、当業者が実施可能に開示されていないということもできないし、発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含するものであるということもできない。
また、請求項1及び7の「エポキシ基含有樹脂」は、具体例として、実施例で接着剤成分(B)?(D)が各1種用いられているに過ぎないとしても、「エポキシ基含有樹脂」の種類によって課題を解決しないものとなるわけではないことから、請求項1及び7の記載が、実施例の開示に比して広範に過ぎるとはいえないし、当業者が実施可能に開示されていないということもできないし、発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含するものであるということもできない。
イ 請求項2の「エポキシ基含有ポリオレフィン樹脂(B)」は、具体例として、実施例で接着剤成分(B)「モディパーA4100」(商品名、日油社製)(エチレンーグリシジルメタクリレート共重合体と、ポリスチレンとのグラフト重合体;主鎖中の全モノマーに対するグリシジルメタクリレートモノマーの割合=30質量%;融点97℃)が1種用いられているに過ぎないとしても、「エポキシ基含有ポリオレフィン樹脂(B)」の種類によって課題を解決しないものとなるわけではないことから、請求項2の記載が、実施例の開示に比して広範に過ぎるとはいえないし、当業者が実施可能に開示されていないということもできないし、発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含するものであるということもできない。
ウ 請求項3の「フェノールノボラック型エポキシ樹脂(C)」は、具体例として、実施例で接着剤成分(C)「jER157S70」(商品名、三菱化学社製)(ビスフェノールA構造を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂;粘度=80;エポキシ当量=210)が1種用いられているに過ぎないとしても、「フェノールノボラック型エポキシ樹脂(C)」の種類によって課題を解決しないものとなるわけではないことから、請求項3の記載が、実施例の開示に比して広範に過ぎるとはいえないし、当業者が実施可能に開示されていないということもできないし、発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含するものであるということもできない。
エ 請求項4の「オキサゾリン基含有スチレン系樹脂(D)」は、具体例として、実施例で接着剤成分(D)「エポクロス RPS-1005」(商品名、日本触媒社製)(スチレンと2-イソプロペニル-2-オキサゾリンとを共重合させて得られた樹脂;数平均分子量=7万)が1種用いられているに過ぎないとしても、「オキサゾリン基含有スチレン系樹脂(D)」の種類によって課題を解決しないものとなるわけではないことから、請求項4の記載が、実施例の開示に比して広範に過ぎるとはいえないし、当業者が実施可能に開示されていないということもできないし、発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含するものであるということもできない。

4 同法第36条第6項第2号について
請求項2の「前記主鎖に結合した側鎖を有し」の文言は、側鎖の構造が如何なるものであるか特定されていないとしても、当該文言は、主鎖に側鎖を有しているということを規定しているものであり、特許請求の範囲の記載を不明確とするものではない。また、申立人が主張するように、「甲3に記載の構造式(I)のR1?R4は得られた共重合体の側鎖に位置するので、『前記主鎖に結合した側鎖を有し』の要件を充足すると考えられる」のであれば、甲3に記載の構造式(I)のものが、「主鎖に結合した側鎖を有」するかどうか明らかであるといえるのであるから、なおのこと、特許請求の範囲の記載が不明確である、ということはできない。

5 まとめ
以上のとおり、申立理由には、いずれも理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?5及び7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-09-09 
出願番号 特願2015-156367(P2015-156367)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C09J)
P 1 652・ 537- Y (C09J)
P 1 652・ 536- Y (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 川端 修
古妻 泰一
登録日 2019-11-29 
登録番号 特許第6621262号(P6621262)
権利者 藤森工業株式会社
発明の名称 ホットメルト接着性樹脂フィルムおよびその製造方法  
代理人 貞廣 知行  
代理人 大浪 一徳  
代理人 田▲崎▼ 聡  
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