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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1366107
異議申立番号 異議2020-700231  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-02 
確定日 2020-09-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6584321号発明「接着剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6584321号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6584321号(請求項の数5。以下、「本件特許」という。)は、平成26年11月28日(優先権主張:平成25年12月2日、日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和1年9月13日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和1年10月2日である。)。
その後、令和2年4月2日に、本件特許の請求項1?5に係る特許に対して、特許異議申立人である東條直人(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 特許請求の範囲の記載
特許第6584321号の特許請求の範囲の記載は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?5に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1?5に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)

「【請求項1】
ポリエステル樹脂組成物と有機溶剤とを含有する接着剤であって、
ポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)と、テルペン系樹脂(Q)および/またはロジン系樹脂(R)からなる樹脂(B)とを含有し、
前記ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分における、テレフタル酸の含有量が30?80モル%であり、イソフタル酸の含有量が20?70モル%であり、
前記ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸成分として、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸からなる群から選ばれる多価カルボン酸(X)を含有するか、または、グリコール成分として、ポリテトラメチレングリコールを含有し、多価カルボン酸成分における多価カルボン酸(X)の含有量またはグリコール成分におけるポリテトラメチレングリコールの含有量が3?45モル%であり、
前記ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が-40?70℃であり、
前記樹脂(B)の軟化点が90?120℃であり、
ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)との質量比(A/B)が60/40?90/10であることを特徴とする接着剤。
【請求項2】
ポリエステル樹脂組成物がさらに硬化剤(C)を含有することを特徴とする請求項1記載の接着剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の接着剤にて形成されてなる樹脂層。
【請求項4】
請求項3記載の樹脂層を含有する積層体。
【請求項5】
請求項4記載の積層体を用いてなるフレキシブルフラットケーブル。」

第3 申立理由の概要及び証拠方法
申立人がした申立ての理由の概要は、以下に示すとおりである。
1 申立理由の概要
(1)申立理由1
本件発明1?4は、本件優先日前に頒布された以下の刊行物である甲第1?5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?4の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

(2)申立理由2
本件明細書の発明の詳細な説明は、下記の点で、当業者が本件発明1?5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1?5の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

ア 本件発明1の接着剤は、有機溶剤を必須の構成とするところ、発明の詳細な説明に記載された実施例において有機溶剤を含む例は、実施例37及び38のみである。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ 本件発明1の接着剤が含有するポリエステル樹脂(A)は、ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸として、具体的に特定された多価カルボン酸(X)を含有するところ、実施例は、それらの中の一部の多価カルボン酸(X)の例にすぎない。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

ウ 本件発明1の接着剤が含有するポリエステル樹脂(A)は、ポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分として、ポリテトラメチレングリコールを3?45モル%含有するところ、実施例は、グリコール成分として50モル%以上のエチレングリコールと35モル%以上のネオペンチルグリコールを含み、これらの含有量より少ないポリテトラメチレングリコールを含む具体例にすぎない。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

エ 発明の詳細な説明は、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?5についても、上記ア?ウと同じ理由を有する。

(3)申立理由3
本件の特許請求の範囲の請求項1?5の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1?5の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

ア 本件発明1の接着剤は、有機溶剤を必須の構成とするところ、発明の詳細な説明に記載された実施例において有機溶剤を含む例は、実施例37及び38のみである。
したがって、本件発明1は、本件発明1にわたり課題を解決できると認識できるとはいえない。

イ 本件発明1の接着剤が含有するポリエステル樹脂(A)は、ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸として、具体的に特定された多価カルボン酸(X)を含有するところ、実施例は、それらの中の一部の多価カルボン酸(X)の例にすぎず、発明の詳細な説明には、本件発明1にわたり課題を解決できると認識できる作用機序の説明はない。
したがって、本件発明1は、本件発明1にわたり課題を解決できると認識できるとはいえない。

ウ 本件発明1の接着剤が含有するポリエステル樹脂(A)は、ポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分として、ポリテトラメチレングリコールを3?45モル%含有するところ、実施例は、グリコール成分として50モル%以上のエチレングリコールと35モル%以上のネオペンチルグリコールを含み、これらの含有量より少ないポリテトラメチレングリコールを含む具体例にすぎない。
したがって、本件発明1は、本件発明1にわたり課題を解決できると認識できるとはいえない。

エ 本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?5も同じ理由を有する。

2 証拠方法
甲第1号証:特開2001-216492号公報
甲第2号証:特開2004-210893号公報
甲第3号証:特開2006-328255号公報
甲第4号証:特開2007-270050号公報
甲第5号証:特開2009-7419号公報
甲第6号証:芳香族変性テルペン樹脂、ヤスハラケミカル株式会社のホームページ、2020年3月23日印刷(https://www.yschem.co.jp/products/resin/aromatic_modified_terpene.html)
甲第7号証:国際公開第99/29797号
甲第8号証:ハイトレル_(R)(原本は、○の中にR)ポリエステル・エラストマー 総合カタログ、東レ・デュポン株式会社、2017年5月
甲第9号証:製品情報 超淡色ロジン誘導体[パインクリスタル]、荒川化学工業株式会社のホームページ、2020年3月23日印刷(https://www.arakawachem.co.jp/jp/products/adhesive/12.html)
甲第10号証:製品情報 ロジンエステル[エステルガム][ペンセル]、荒川化学工業株式会社のホームページ、2020年3月23日印刷(https://www.arakawachem.co.jp/jp/products/adhesive/09.html)
(以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。)

第4 特許異議申立ての理由についての当審の判断
1 申立理由1について
(1)各甲号証の記載
ア 甲1
甲1には以下の事項が記載されている。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】電子部品を実装するICカード用回路基板を、少なくとも1枚の樹脂シートで積層接着してなる樹脂積層型非接触式ICカードであって、接着剤として、(A)飽和共重合ポリエステル樹脂並びに(B)芳香族環及び/又はヒドロキシル基を1分子当たり1個以上持ち、R&B軟化点が100?180℃である粘着性付与樹脂からなるホットメルト接着剤組成物を用いることを特徴とする樹脂積層型非接触式ICカード。
【請求項2】 飽和共重合ポリエステル樹脂(A)100重量部当たり、上記(B)の粘着性付与樹脂が3?50重量部からなるホットメルト接着剤組成物を用いることを特徴とする請求項1記載の樹脂積層型非接触式ICカード。」

(1b)「【0009】
【発明の実施の形態】○(A)飽和共重合ポリエステル樹脂
本発明の飽和共重合ポリエステル樹脂を構成する共重合モノマーである酸成分およびポリオール成分は限定されるものではないが、以下各成分が使用できる。酸成分としては、芳香族二塩基性酸、脂肪族二塩基性酸および脂環式二塩基性酸等が使用できる。芳香族二塩基性酸の具体的例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、α-ナフタレンジカルボン酸、β-ナフタレンジカルボン酸、及び、そのエステル形成体等がある。
【0010】脂肪族二塩基性酸の具体例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ウンデシレン酸、ドデカン二酸、及びそのエステル形成体等がある。また脂環式二塩基性酸の具体例としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。かかる酸成分のうち、テレフタル酸及びそのエステル形成体が、接着強度の点で好ましく、テレフタル酸の含有割合は、全酸成分に対して30モル%以上であることが好ましい。テレフタル酸成分が30モル%に満たないときは、樹脂の凝集力や硬さが不足し、接着強度やねじ切り強度が低くなる。また、酸成分として、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸もポリエステル合成時のゲル化や接着強度を損なわない範囲内で併用することが可能であり、全酸成分に対して5モル%以下の範囲で使用することができる。」

(1c)「【0015】○(B)芳香族環及び/またはヒドロキシル基を1分子当たり1個以上持ち、R&B軟化点が100?180℃以下の粘着性付与樹脂
一方(B)樹脂である芳香族環及びまたはヒドロキシル基を1分子当たり1個以上持ち、R&B軟化点が100?180℃の粘着性付与樹脂としては、エポキシ樹脂(例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)、芳香族変性テルペン樹脂、フェノキシ樹脂、クマロン・インデン樹脂,スチレン樹脂(スチレンおよびスチレンと共重合可能な重合性モノマーからなるスチレン系共重合樹脂を含む),αメチルスチレン樹脂、不均化反応ロジン樹脂等の芳香族環及び又はヒドロキシル基を含有する樹脂のうち、R&B軟化点が100?180℃である樹脂が挙げられる。」

(1d)「【0018】○添加剤
本発明において用いられる接着剤組成物には、溶融粘度の調整や接着耐久性の向上など種々の目的で、粘着性付与樹脂以外の樹脂、無機充填剤、各種安定剤等を、本発明の性能を損なわない範囲内で配合することが可能である。粘着性付与樹脂以外の樹脂としては、例えばポリウレタン樹脂、石油樹脂等が使用できる。無機充填剤としては、粒径10μm以下の炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、タルク、クレー、フュームドシリカ等の粉末を用いることができ、その配合量は、ポリエステル樹脂100重量部に対して、30重量部以下が好ましい。」

(1e)「【0026】
【実施例】以下、本発明の実施例について、比較例とともに祥述する。なお、実施例等の説明に先立ち、以下に記載する物性値の測定方法及び評価方法について述べる。
・・・
【0029】[実施例1]
○ポリエステル樹脂の合成
撹拌装置、窒素導入管、留出管、温度計を備えた四ツ口フラスコに、テレフタル酸ジメチル0.6モル,1,4-ブタンジオール1.6モル,1,6ヘキサンジオール0.2モル及び、触媒としてテトラ-n-ブチルチタネート0.2×10-2モルを仕込み、窒素を導入しながら昇温し、130?200℃でメタノールを留出させた後、イソフタル酸0.15モル及びセバチン酸0.25モルを加えて、200?240℃で水を留出させた後、引き続き、徐々に減圧にしながら、250℃で1mmHgの減圧下で3時間反応を続けた。得られたポリエステル樹脂(以下、これをポリエステル樹脂aという)の物性は、融点が135℃、ガラス転移点が-18℃,メルトフローレートが80g/10minであった。また、NMR分析によってこのポリエステル樹脂のモノマー組成を分析したところ、モル比でテレフタル酸/イソフタル酸/セバチン酸/1,4-ブタンジオール/1,6-ヘキサンジオール=60/15/25/80/20であった。
【0030】○接着剤組成物の調製
上記で得たポリエステル樹脂a100重量部に対し、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエピコート1010(R&B軟化点156℃、油化シェルエポキシ(株)製、以下エポキシ樹脂aとする)15重量部,加水分解防止剤(ポリカルボジイミド)1部を攪拌器付きの1Lフラスコ内で溶融混合した後、この混合物から150℃の加熱プレスを用いて厚み100μmのフィルムを作成した。
○接着性能
このフィルム状接着剤を用いて、前記の接着方法によりPETを積層したカードを作成し、表面平滑性を評価し、接着性能を測定した。
【0031】[実施例2?5]実施例1において、粘着性付与樹脂としてエポキシ樹脂aの代わりに、表1に記載したように、実施例2では油化シェルエポキシ(株)性のビスフェノールA型エポキシ樹脂エピコート1007(EP1007)、実施例3ではNUC社製のフェノキシ樹脂PKHH、実施例4ではヤスハラケミカル(株)製の芳香族テルペン樹脂であるYSレジンTO105、実施例5では理化ハーキュレス社製のαメチルスチレン樹脂(製品名 クリスタレックス3100)を使用した以外は、実施例1と同様にして接着剤組成物を調製し、実施例1と同様な方法で接着、積層したカードを作成した。表面平滑性,接着性能の評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】[実施例6?8]実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂aの代わりに、表2に記載したモノマー組成からなる3種のポリエステル樹脂を合成し、その樹脂物性(メルトフローレート)を測定した。実施例1において、ポリエステル樹脂aの代わりに表2に記載した3種のポリエステル樹脂を用いた他は実施例1と全く同様の方法で接着剤組成物を調製し、更にこの接着剤を用いてPET樹脂カードを作成し、その表面平滑性,接着性能を評価した結果を、表2に示した。
【0034】
【表2】



イ 甲2
甲2には以下の事項が記載されている。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中に水酸基を2個以上有するポリオール化合物(c)とを含有する成型用樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、前記タッキファイヤー(b)を1?50重量部含有し、前記ポリオール化合物(c)を1?50重量部含有することを特徴とする請求項1に記載の成型用樹脂組成物。
・・・
【請求項5】
前記芳香族ポリエステル(a)として、テレフタル酸とイソフタル酸とを含有する酸成分と、エチレングリコールとネオペンチルグリコールとを含有する水酸基成分とを反応させて得られるポリエステルAと、
テレフタル酸とイソフタル酸とを含有する酸成分と、1,4-ブタンジオールとポリテトラメチレンエーテルグリコールとを含有する水酸基成分とを反応させて得られるポリエステルBと
を含有することを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項6】
前記芳香族ポリエステル(a)として、さらに、テレフタル酸とイソフタル酸とセバシン酸とを含有する酸成分と、1,4-ブタンジオールを含有する水酸基成分とを反応させて得られるポリエステルCを含有することを特徴とする請求項5記載の成型用樹脂組成物。
・・・
【請求項13】
請求項1?12のいずれかに記載の成型用樹脂組成物を用いて電子機器端部に防水保護被覆を形成する防水保護被覆の製造方法であって、
上記成型用樹脂組成物を溶融する溶融工程と、該溶融工程後の溶融した成型用樹脂組成物を電子機器端部に5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布する吐出成型・塗布工程とを具備することを特徴とする防水保護被覆の製造方法。」

(2b)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、成型用樹脂組成物、該組成物を用いた防水保護被覆の製造方法、および該製造方法により形成される防水保護被覆に関する。さらに詳しくは、芳香族ポリエステルを含有する成型用樹脂組成物、該組成物を成型用ホットメルト(HM)材として用いた防水保護被覆の製造方法、および該製造方法により形成されるホットメルト塗布製品の防水保護被覆に関する。
・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、上記問題を解決するために、本発明は、芳香族ポリエステルを含有し成型用ホットメルト樹脂組成物として用いることができる成型用樹脂組成物を提供し、さらに、コネクタ・ハーネス等の導線の端子、または基板全体を該成型用樹脂組成物で封止することで防水・止水を可能とする防水保護被覆の製造方法、ならびに該製造方法により形成される防水保護被覆を提供することを目的とする。」

(2c)
「【0021】
<芳香族ポリエステル(a)>
上記芳香族ポリエステル(a)は、脂肪酸とグリコールとの縮合反応から得られる芳香族ポリエステルであることが好ましい。上記芳香族ポリエステル(a)としては、具体的には、例えば、テレフタル酸および/またはイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール(以下、EGと略す)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、ネオペンチルグリコール(以下、NPGと略す)および1,4-ブタンジオール(以下、1,4-BDと略す)からなる群より選択される少なくとも1種を含有する水酸基成分とを反応させて得られるポリエステルを含有する芳香族ポリエステルが挙げられ、より具体的には、下記に示すポリエステルA?Dを含有する芳香族ポリエステルが好適に例示される。
【0022】
上記ポリエステルAは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸との混合物を用い、水酸基成分としてNPGとEGとの混合物を用いて、縮合反応により得られるポリエステルである。該ポリエステルAの190℃での粘度は、0.5?2Pa・sであることが好ましく、0.7?1.5Pa・sであることがより好ましい。
同様に、上記ポリエステルBは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸との混合物を用い、水酸基成分としてPTMGと1,4-BDとの混合物を用いて、縮合反応により得られるポリエステルである。該ポリエステルBの溶融状態における流動性を示す尺度である溶融指数(メルトインデックス)(以下、MIと略す)が、200℃において10以上であることが好ましく、13?50であることがより好ましい。上記ポリエステルBのMIがこの範囲であると成型時の粘度を低く保ち、成型後の耐熱性が優れるため好ましい。ここで、上記PTMGは1,4-BDを重合させて得られる重合体であれば特に限定されず、数平均分子量が2000以上であることが好ましく、市販品として三菱化学社製のH-283を用いることができる。
また、上記ポリエステルCは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸とセバシン酸との混合物を用い、水酸基成分として1,4-BDを用いて、縮合反応により得られるポリエステルである。該ポリエステルCの190℃での粘度は200?700Pa・sであることが好ましく、400?600Pa・sであることがより好ましい。
上記ポリエステルDは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸とε-カプロラクトンとの混合物を用い、水酸基成分として1,4-BDを用いて、縮合反応により得られるポリエステルである。該ポリエステルDの190℃での粘度は100?300Pa・sであることが好ましく、150?200Pa・sであることがより好ましい。
【0023】
上記芳香族ポリエステル(a)は、上記ポリエステルA、B、CおよびDからなる群より選択させる少なくとも2種を含有していることが好ましく、上記ポリエステルAと上記ポリエステルBとを含有していることがより好ましい。これは、柔軟性、耐熱性、耐薬品性、耐油性および延伸性に優れたポリエステルBと、低粘度で成型性に優れているポリエステルAとを含有させることにより、得られる成型用樹脂組成物の成型時における粘度を低く保ち、さらに成型後の固化物に柔軟性を与えるという理由からである。また、同様の理由から、上記芳香族ポリエステル(a)は、上記ポリエステルAとポリエステルBと、ポリエステルCおよび/またはポリエステルDとを含有していることが好ましい。
【0024】
上記芳香族ポリエステル(a)における上記ポリエステルA、B、CおよびDの含有割合は、該芳香族ポリエステル(a)の総重量に対して、上記ポリエステルAを10?50重量%、上記ポリエステルBを10?50重量%、上記ポリエステルCを0?30重量%、上記ポリエステルDを0?30重量%含有していることが好ましく、上記ポリエステルAを25?45重量%、上記ポリエステルBを20?40重量%、上記ポリエステルCを0?20重量%、上記ポリエステルDを0?25重量%含有していることがより好ましく、上記ポリエステルAを30?40重量%、上記ポリエステルBを25?35重量%、上記ポリエステルCを0?15重量%、上記ポリエステルDを0?20重量%含有していることがさらに好ましい。
上記ポリエステルA、B、CおよびDの含有割合がこの範囲であると、得られる成型用樹脂組成物の成型時の粘度を低く保ちながら成型後の固化物に柔軟性を与えることが可能であり、成型後の固化物が耐油性、耐ガソリン性に優れるため好ましい。さらに、成型後の硬化時間が短く、養生の必要性がないことからも好ましい。
また、このような性質を有する本発明の第1の態様に係る成型用樹脂組成物は、耐ヒートショック性に優れ、ヒートサイクル時の被着体の膨張収縮に追従することが可能であるため成型用ホットメルト材として用いることが好ましい。」

(2d)「【0025】
<タッキファイヤー(b)>
上記タッキファイヤー(b)は、従来公知のタッキファイヤー(粘着付与剤)を用いることができ、具体的には、ロジン系タッキファイヤー、テルペン系タッキファイヤー、石油樹脂系タッキファイヤーが例示される。
上記ロジン系タッキファイヤーとしては、松ヤニや松根油中のアビエチン酸を主成分とするロジン酸とグリセリンやペンタエリスリトールとのエステル、および、それらの水添物、不均化物が挙げられ、具体的には、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、変性ロジン、ロジンエステル等が好適に例示される。
テルペン系タッキファイヤーとしては、松に含まれるテルピン油やオレンジの皮などの含まれる天然のテルペンを重合したものが挙げられ、具体的には、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペン樹脂等が好適に例示される。
石油樹脂系タッキファイヤーとしては、石油を原料とした脂肪族、脂環族、芳香族系の樹脂が挙げられ、具体的には、C_(5)系石油樹脂、C_(9)系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂、スチレン系石油樹脂等が好適に例示される。
これらのうち、タッキファイヤー(b)としては、上記ロジン系タッキファイヤーを用いることが好ましく、具体的には、ロジンエステルであるロジンジオールを用いることが得られる成型性樹脂組成物の延伸性およびポリ塩化ビニル(PVC)や金属に対する接着性が向上し、さらに耐熱性と柔軟性のバランス、耐ガソリン性が良好となる理由からより好ましい。
また、上記タッキファイヤー(b)は、上記芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、1?50重量部含有しており、10?40重量部含有していることが好ましい。」

(2e)「【0027】
また、本発明の第1の態様に係る成型用樹脂組成物は、上記タッキファイヤー(b)とポリオール化合物(c)とを含有するため、上述したように、延伸性およびポリ塩化ビニル(PVC)や金属に対する接着性が向上し、耐熱性と柔軟性のバランス、さらに、溶融時に起こる分離が防止され、タッキファイヤー(b)を単独で添加する場合では低下する耐油性、特に耐ガソリン性が良好となる。
これは、水酸基を2個以上有するポリオール化合物(c)を添加することで、タッキファイヤー(b)が芳香族ポリエステル(a)の非結晶部分に優先的にとり込まれるためであると考えられる。
ここで、上記溶融時に起こる分離とは、成型用樹脂組成物において、芳香族ポリエステル(a)とタッキファイヤー(b)との分離のことである。
したがって、本発明の第1の態様に係る成型用樹脂組成物は、後述する実施例に示すように、耐ガソリン浸漬後、500および800サイクルの長期のヒートショック試験後、振動を加えた老化試験(振動試験)後においてもエアー漏れを起こすことがないため、コネクタ・ハーネス等の端部の封止剤・防水保護剤として有用であり、また、ポッティング材(電気回路を衝撃、振動もしくは湿気等から守るために、電気回路全体に埋め込まれる充填材)としても有用である。
・・・
【0030】
本発明の第2の態様に係る防水保護被覆の製造方法は、上記第1の態様に係る成型用樹脂組成物を用いて電子機器端部に防水保護被覆を形成する防水保護被覆の製造方法であって、
上記第1の態様に係る成型用樹脂組成物を溶融する溶融工程と、該溶融工程後の溶融した成型用樹脂組成物を電子機器端部に5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布する吐出成型・塗布工程とを具備することを特徴とする防水保護被覆の製造方法である。ここで、上記吐出成型時または塗布時の圧力は、0.2?1.0MPaであることが好ましく、0.3?0.5MPaであることがより好ましい。
上記溶融工程は、第1の態様に係る成型用樹脂組成物を溶融する工程であり、具体的には、該成型性樹脂組成物を160?230℃、好ましくは180?210℃に加熱して溶融させる工程である。
上記吐出成型・塗布工程は、上記溶融工程により溶融した成型用樹脂組成物を電子機器端部に5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布する工程である。
具体的には、上記吐出成型は、溶融した成型用樹脂組成物を、電子機器端部を入れたモールド内に、5MPa未満、好ましくは1?4MPaの圧力で、ホットメルトガン、ホットメルトアプリケータ等を用いて吐出し、該モールド内で成型する工程である。またはホットメルトガン、ホットメルトアプリケータで吐出し、ポッティングする工程である。
また、上記塗布は溶融した成型用樹脂組成物を、電子機器端部に、5MPa未満、好ましくは1?4MPaの圧力で、ホットメルトガンスプレー等を用いて塗布する工程である。
一般的な射出成型では、圧力が40?120MPa、溶融温度が250?300℃と高いのに対し、上記第1の態様に係る成型用樹脂組成物を用いた防水保護被覆の製造方法を用いれば、圧力が0.3?0.5MPa、溶融温度が180?230℃で使用できるため非常に優れている。
したがって、本発明の第2の態様に係る製造方法を用いれば、このような低温・低圧力での成型が可能であるため、図1の(A)?(D)に示すように、剥離部1を有するPVC被覆導線2の封止は、アルミ製のモールド3およびゴムパッキン4を用いた製造装置の使用が可能となり、成型上のコストダウンも図られるため好ましい。具体的には、(C)で示すモールドの形状(アルミ製のモールド3とゴムパッキン4で密閉された状態)で、注入部5(矢印方向)からHM材料を注入し、該HM材料を注入経路6に通し、HM成型用鋳型7に移行させる。その後、該HM材料をHM成型用鋳型7にて成型させ、脱型させることで(D)で示す成型部8を有する成型品の形状となる。
また、低温・低圧での成型が可能であるため、基板上の電子部品等を傷つけることなく成型できるため、基板全体を防水することができ、かつ、一液型のシリコーン樹脂組成物などのように基板および電子部品をケースで覆う必要がないため、製品のコストダウンも図られるため好ましい。」

(2f)「【0034】
【実施例】
以下実施例を用いて、本発明について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
(ポリエステルA?D)
ポリエステルは、目的の酸成分およびグリコール成分が含まれていればよく、ポリエステルAとしてユニチカ社製のエリーテルUE3320、ポリエステルBとして東レ・デュポン社製のハイトレル4057、ポリエステルCとしてユニチカ社製のエリーテルUE3410、ポリエステルDとしてユニチカ社製のエリーテルUE3800を使用した。ポリエステルA?Dの酸成分およびグリコール成分のモル比を下記表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
(実施例1?6、比較例1?5)
下記表2に示す組成成分(重量部)でポリエステル(A)?(D)を含有する芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、下記表2に示す組成成分(重量部)で、タッキファイヤー(b)であるロジン系タッキファイヤー、テルペン系タッキファイヤーまたは石油油脂、ポリオール化合物(c)であるプラクセルHIPまたはプラクセルCD220、および老化防止剤をニーダを用いて混合し、成型用樹脂組成物とした。
なお、上記組成成分のニーダによる混合は、200℃下において、4Lのニーダにポリエステル(A)?(D)および老化防止剤を粘度が高い順にニーダに投入して行った。2回目以降の投入は、先に投入された組成成分が溶融したことを確認した後に行った。ポリエステル(A)?(D)および老化防止剤を全て投入した後に、ポリオール化合物(c)およびタッキファイアー(b)をこの順で投入した。30分で全ての組成成分を投入し、1時間後に混練物を取り出し、本発明の成型用樹脂組成物を得た。
【0037】
上記各組成成分として、以下に示す化合物を用いた。
ロジン系タッキファイヤーとしてパインクリスタルKE-6011(荒川化学工業社製)、テルペン系タッキファイヤーとしてYSレジンTO115(ヤスハラケミカル社製)、石油油脂としてアルコンP-115(荒川化学工業社製)を用いた。
ポリオール化合物(c)としては、ポリカプロラクトンであるプラクセルHIP(ダイセル化学工業社製)、ポリカーボネートジオール(商品名:プラクセルCD220、ダイセル化学工業社製)を用いた。
また、老化防止剤としてイルガノックス1010(チバスペシャルティケミカルズ社製-ヒンダードフェノール系酸化防止剤)を用いた。
・・・
【0046】
【表3】



ウ 甲3
甲3には以下の事項が記載されている。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中に水酸基を2個以上有するポリオール化合物(c)と、液状ポリエーテルポリエステル(d)とを含有し、
前記液状ポリエーテルポリエステル(d)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して、1?50質量部である、成型用樹脂組成物。
【請求項2】
前記タッキファイヤー(b)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して、1?50質量部である、請求項1に記載の成型用樹脂組成物。
・・・
【請求項6】
前記芳香族ポリエステル(a)として、テレフタル酸とイソフタル酸とを含有する酸成分と、エチレングリコールとネオペンチルグリコールとを含有する水酸基成分とを反応させて得られるポリエステルA、および、テレフタル酸とイソフタル酸とを含有する酸成分と、1,4-ブタンジオールとポリテトラメチレンエーテルグリコールとを含有する水酸基成分とを反応させて得られるポリエステルBを含有する、請求項1?5のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項7】
前記芳香族ポリエステル(a)として、更に、テレフタル酸とイソフタル酸とセバシン酸とを含有する酸成分と、1,4-ブタンジオールを含有する水酸基成分とを反応させて得られるポリエステルCを含有する、請求項6に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項8】
前記芳香族ポリエステル(a)として、更に、テレフタル酸とイソフタル酸とε-カプロラクトンとを含有する酸成分と、1,4-ブタンジオールを含有する水酸基成分とを反応させて得られるポリエステルDを含有する、請求項6または7に記載の成型用樹脂組成物。
・・・
【請求項14】
請求項1?13のいずれかに記載の成型用樹脂組成物を用いて電子機器端部に防水保護被覆を形成する防水保護被覆の製造方法であって、
前記成型用樹脂組成物を溶融する溶融工程と、該溶融工程により溶融した成型用樹脂組成物を5MPa未満の圧力で電子機器端部に吐出成型または塗布する吐出成型・塗布工程とを具備する、防水保護被覆の製造方法。」

(3b)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの成型用樹脂組成物は、成型後の硬度がHA80程度と低く、柔軟性に優れるものの、振動が激しいセンサー等の封止、接着に用いるには、硬度を更に低減(具体的には、H_(A)70以下に)させる必要が生じる場合があった。
これに対し、本発明者は、フタル酸ジオクチル(DOP:Dioctyl Phthalate)等の可塑剤を添加して硬度の低減を試みたが、可塑剤が添加後に表面にブリードアウトしたり、可塑剤添加後に溶融させた際に芳香族ポリエステルとタッキファイヤーとが分離したりして、ポリ塩化ビニル(PVC)に対する接着性を保持しつつ、硬度をH_(A)70以下に低減させることは困難であった。更に、液状ポリイソプレン(LIR)を添加した場合には、添加後の組成物の粘度が非常に高くなるという問題があることも明らかとなった。
【0007】
そこで、本発明は、ポリ塩化ビニル(PVC)に対する接着性を保持しつつ、硬度がH_(A)70以下となる、成型用ホットメルト材として好適に用いることができる成型用樹脂組成物を提供し、該成型用樹脂組成物でコネクタ・ハーネス等の導線の端子または基板全体を封止することで防水・止水を可能とする防水保護被覆の製造方法および該製造方法により形成される防水保護被覆を提供することを課題とする。」

(3c)「【0012】
<芳香族ポリエステル(a)>
上記芳香族ポリエステル(a)は、芳香族酸とグリコールとの縮合反応から得られる芳香族ポリエステルであることが好ましい。
このような芳香族ポリエステル(a)としては、具体的には、例えば、テレフタル酸および/またはイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール(以下、「EG」と略す。)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、「PTMG」と略す。)、ネオペンチルグリコール(以下、「NPG」と略す。)および1,4-ブタンジオール(以下、「1,4-BD」と略す。)からなる群より選択される少なくとも1種を含有する水酸基成分とを反応させて得られるポリエステルを含有する芳香族ポリエステルが挙げられ、1種単独であってもよく、2種以上を併用するものであってもよい。
より具体的には、下記に示すポリエステルA?Dを併用(含有)する芳香族ポリエステルが好適に例示される。
【0013】
ポリエステルAとは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸との混合物を用い、水酸基成分としてNPGとEGとの混合物を用いて、縮合反応により得られるポリエステルをいい、このポリエステルAの190℃での粘度は、0.5?2Pa・sであることが好ましく、0.7?1.5Pa・sであることがより好ましい。
ポリエステルBとは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸との混合物を用い、水酸基成分としてPTMGと1,4-BDとの混合物を用いて、縮合反応により得られるポリエステルをいい、このポリエステルBの溶融状態における流動性を示す尺度である溶融指数(メルトインデックス)(以下、「MI」と略す)は、200℃において10以上であることが好ましく、13?50であることがより好ましい。ポリエステルBのMIがこの範囲であると、成型時の粘度を低く保ち、成型後の耐熱性が優れる。ここで、上記PTMGは1,4-BDを重合させて得られる重合体であれば特に限定されず、数平均分子量が2000以上であることが好ましく、市販品として三菱化学社製のH-283を用いることができる。
ポリエステルCとは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸とセバシン酸との混合物を用い、水酸基成分として1,4-BDを用いて、縮合反応により得られるポリエステルをいい、このポリエステルCの190℃での粘度は200?700Pa・sであることが好ましく、400?600Pa・sであることがより好ましい。
ポリエステルDとは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸とε-カプロラクトンとの混合物を用い、水酸基成分として1,4-BDを用いて、縮合反応により得られるポリエステルをいい、このポリエステルDの190℃での粘度は100?300Pa・sであることが好ましく、150?200Pa・sであることがより好ましい。
【0014】
本発明においては、上記芳香族ポリエステル(a)は、上記ポリエステルA、B、CおよびDからなる群より選択される少なくとも2種を併用していることが好ましく、上記ポリエステルAと上記ポリエステルBとを併用していることがより好ましい。これは、柔軟性、耐熱性、耐薬品性、耐油性および延伸性に優れたポリエステルBと、低粘度で成型性に優れているポリエステルAとを併用することにより、得られる本発明の樹脂組成物の成型時における粘度を低く保ち、更に成型後の固化物により高い柔軟性を与えるという理由からである。また、同様の理由から、上記芳香族ポリエステル(a)は、上記ポリエステルAとポリエステルBと、ポリエステルCおよび/またはポリエステルDとを併用していることが好ましい。
【0015】
また、本発明においては、上記芳香族ポリエステル(a)における上記ポリエステルA、B、CおよびDの含有割合は、芳香族ポリエステル(a)の総質量に対して、上記ポリエステルAを10?50質量%、上記ポリエステルBを10?50質量%、上記ポリエステルCを0?30質量%、上記ポリエステルDを0?30質量%含有していることが好ましく、上記ポリエステルAを25?45質量%、上記ポリエステルBを20?40質量%、上記ポリエステルCを0?20質量%、上記ポリエステルDを0?25質量%含有していることがより好ましく、上記ポリエステルAを30?40質量%、上記ポリエステルBを25?35質量%、上記ポリエステルCを0?15質量%、上記ポリエステルDを0?20質量%含有していることが更に好ましい。
上記ポリエステルA、B、CおよびDの含有割合がこの範囲であるのが、得られる本発明の樹脂組成物の成型時の粘度を低く保ちながら成型後の固化物により高い柔軟性を与えることが可能であり、成型後の固化物の耐油性、耐ガソリン性がより向上するため好ましい。更に、成型後の硬化時間が短く、養生の必要性がないことからも好ましい。
【0016】
本発明においては、このような芳香族ポリエステル(a)を含有することにより、得ら
れる本発明の樹脂組成物が、成型後において柔軟性、硬度、成型性および耐水性に優れ、更に耐ヒートショック性に優れ、ヒートサイクル時の被着体の膨張収縮に追従することが可能となる。」

(3d)「【0017】
<タッキファイヤー(b)>
タッキファイヤー(b)は、従来公知のタッキファイヤー(粘着付与剤)を用いることができ、具体的には、ロジン系タッキファイヤー、テルペン系タッキファイヤー、石油樹脂系タッキファイヤーが例示される。
上記ロジン系タッキファイヤーとしては、例えば、松ヤニや松根油中のアビエチン酸を主成分とするロジン酸とグリセリンやペンタエリスリトールとのエステル、および、それらの水添物、不均化物が挙げられ、具体的には、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、変性ロジン、ロジンエステル等が好適に例示される。
テルペン系タッキファイヤーとしては、例えば、松に含まれるテルピン油やオレンジの皮などの含まれる天然のテルペンを重合したものが挙げられ、具体的には、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペン樹脂等が好適に例示される。
石油樹脂系タッキファイヤーとしては、例えば、石油を原料とした脂肪族、脂環族、芳香族系の樹脂が挙げられ、具体的には、C_(5)系石油樹脂、C_(9)系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂、スチレン系石油樹脂等が好適に例示される。
【0018】
これらのうち、タッキファイヤー(b)としては、上記ロジン系タッキファイヤーを用いることが好ましい。具体的には、ロジンエステルであるロジンジオールを用いることが、得られる本発明の樹脂組成物の延伸性およびポリ塩化ビニル(PVC)や金属に対する接着性がより向上し、更に耐熱性と柔軟性のバランス、耐ガソリン性がより良好となるためより好ましい。
【0019】
本発明においては、上記タッキファイヤー(b)の含有量は、上記芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して、1?50質量部であるのが好ましく、10?40質量部であるのがより好ましい。」

(3e)「【0032】
本発明の第2の態様に係る防水保護被覆の製造方法は、上述した本発明の第1の態様に係る成型用樹脂組成物を用いて電子機器端部に防水保護被覆を形成する防水保護被覆の製造方法であって、第1の態様に係る成型用樹脂組成物を溶融する溶融工程と、該溶融工程により溶融した成型用樹脂組成物を5MPa未満の圧力で電子機器端部に吐出成型または塗布する吐出成型・塗布工程とを具備することを特徴とする防水保護被覆の製造方法である。
【0033】
上記溶融工程は、第1の態様に係る成型用樹脂組成物を溶融する工程であり、具体的には、該成型性樹脂組成物を160?230℃、好ましくは180?210℃に加熱して溶融させる工程である。
【0034】
上記吐出成型・塗布工程は、上記溶融工程により溶融した成型用樹脂組成物を電子機器端部に5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布する工程である。
具体的には、上記吐出成型は、溶融した成型用樹脂組成物を、電子機器端部を入れたモールド内に、5MPa未満、好ましくは1?4MPaの圧力で、ホットメルトガン、ホットメルトアプリケータ等を用いて吐出し、該モールド内で成型する工程である。またはホットメルトガン、ホットメルトアプリケータで吐出し、ポッティングする工程である。
また、上記塗布は、溶融した成型用樹脂組成物を、電子機器端部に、5MPa未満、好ましくは1?4MPaの圧力で、ホットメルトガンスプレー等を用いて塗布する工程である。
【0035】
一般的な射出成型では、圧力が40?120MPa、溶融温度が250?300℃と高いのに対し、本発明の樹脂組成物を用いた本発明の防水保護被覆の製造方法を用いれば、圧力が5MPa未満(例えば、0.3?0.5MPa程度)、溶融温度が180?230℃で使用できるため非常に優れている。
したがって、本発明の第2の態様に係る防水保護被覆の製造方法を用いれば、低温・低圧力での成型が可能であるため、図1の(A)?(D)に示すように、剥離部1を有するPVC被覆導線2の封止は、アルミ製のモールド3およびゴムパッキン4を用いた製造装置の使用が可能となり、成型上のコストダウンも図られるため好ましい。具体的には、(C)で示すモールドの形状(アルミ製のモールド3とゴムパッキン4で密閉された状態)で、注入部5(矢印方向)からHM材料を注入し、該HM材料を注入経路6に通し、HM成型用鋳型7に移行させる。その後、該HM材料をHM成型用鋳型7にて成型させ、脱型させることで(D)で示す成型部8を有する成型品の形状となる。
【0036】
本発明の第2の態様に係る防水保護被覆の製造方法は、用いる本発明の樹脂組成物が低温・低圧での成型が可能であるため、基板上の電子部品等を傷つけることなく成型できるため、基板全体を防水することができ、かつ、一液型のシリコーン樹脂組成物などのように基板および電子部品をケースで覆う必要がないため、製品のコストダウンも図られるため好ましい。」

(3f)「【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
(ポリエステルA?D)
ポリエステルは、目的の酸成分および水酸基成分が含まれていればよく、ポリエステルAとしてユニチカ社製のエリーテルUE3320、ポリエステルBとして東レ・デュポン社製のハイトレル4057、ポリエステルCとしてユニチカ社製のエリーテルUE3410、ポリエステルDとしてユニチカ社製のエリーテルUE3800を使用した。ポリエステルA?Dの酸成分および水酸基成分のモル比を下記表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例1?6、比較例1?5)
下記表2に示す組成成分(質量部)でポリエステルA?Dを含有する芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して、下記表2に示す組成成分(質量部)で、タッキファイヤー(b)であるロジン系タッキファイヤー、ポリオール化合物(c)であるポリカーボネート、液状ポリエーテルポリエステル(d)ならびに老化防止剤および加硫剤をニーダを用いて混合し、成型用樹脂組成物とした。
なお、上記組成成分のニーダによる混合は、200℃下において、4LのニーダにポリエステルA?Dおよび老化防止剤を粘度が高い順にニーダに投入して行った。2回目以降の投入は、先に投入された組成成分が溶融したことを確認した後に行った。ポリエステルA?Dおよび老化防止剤を全て投入した後に、ポリオール化合物(c)およびタッキファイアー(b)をこの順で投入した。30分で全ての組成成分を投入し、1時間後に混練物を取り出し、成型用樹脂組成物を得た。
【0044】
上記各組成成分として、以下に示す化合物を用いた。
タッキファイヤー(b)として、ロジン系タッキファイヤー(パインクリスタルKE-6011、荒川化学工業社製)を用いた。
・・・
【0055】
【表3】



エ 甲4
甲4には以下の事項が記載されている。
(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が-45?+20℃のポリエステル系樹脂、及び、アルキッド系樹脂の群から選ばれた一種又は二種以上の有機高分子(A)と、軟化点が70?180℃の樹脂成分(B)を含有し、有機高分子(A)の連続層中に、樹脂成分(B)が分散した状態で存在する非水液状体であることを特徴とする感熱圧性接着剤。
・・・
【請求項3】
樹脂成分(B)が、ロジン、クマロン・インデン樹脂、α-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、テルペン樹脂、テルペン・フェノール樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂、石油系炭化水素樹脂、水素添加炭化水素樹脂、又は、テレピン系樹脂の群から選ばれた一種又は二種以上の混合物である請求項1又は2に記載の感熱圧性接着剤。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の感熱圧性接着剤が、熱可塑性樹脂製の基材の片面又は両面に、気泡を含まないように塗着されてなることを特徴とする感熱圧性接着シート。」

(4b)「【0016】
有機高分子(A)としては、ポリエステル系樹脂、あるいは、アルキッド系樹脂が使用される。
【0017】
ポリエステル系樹脂の製法としては、一般に採用されている方法を採用することができ、例えばジカルボン酸成分(a)とグリコール成分(b)とを直接反応させて重収縮を行なう直接エステル化法あるいは上記ジカルボン酸成分のジメチルエステルとグリコール成分とを反応させてエステル交換を行なうエステル交換法などの調製法が利用される。また調製は回分式及び連続式のいずれかの方法で行なわれてもよい。
【0018】
ジカルボン酸成分(a)としては、特に制限されることなく2価以上の酸であればよいが、脂肪族ジカルボン酸(a-1)、及び芳香族ジカルボン酸(a-2)が好適に使用される。脂肪族ジカルボン酸(a-1)としては、炭素数2?20の直鎖もしくは分岐脂肪族ジカルボン酸、炭素数8?10脂環族ジカルボン酸が挙げられ、具体的には、シュウ酸,マロン酸,コハク酸,グルタール酸,アジピン酸,アゼライン酸,セパシン酸,ピメル酸,スベリン酸,ウンデカン酸,ドデカンジカルボン酸,ブラシリン酸,テトラデカンジカルボン酸,タプシン酸,ノナデカンジカルボン酸,ドコサンジカルボン酸ダイマー酸の水添物、1-ブチルヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸及びその置換体4,4′-ジカルボキシシクロヘキサン等の脂環族ジカルボン酸及びその置換体等が挙げられ、中でもドデカンジカルボン酸、セバシン酸、アゼライン酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸(a-2)としては、例えばテレフタル酸,イソフタル酸,フタル酸,2,6-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸類、4,4′-ジカルボキシビフェニール等のジカルボキシビフェニール類、5-第3級ブチルイソフタル酸等の置換フタル酸類、2,2,6,6-テトラメチルビフェニール-4,4′-ジカルボン酸等の置換ジカルボキシルビフェニール類、1,1,3-トリメチル-3-フェニルインデン-4,5-ジカルボン酸及びその置換体、1,2-ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸及びその置換体等が使用できる。コスト面や反応性の観点で、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。これらは単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。」

(4c)「【0032】
本発明における感熱圧接着剤中に含有される有機高分子(A)及び樹脂成分(B)の割合は、有機高分子(A)及び樹脂成分(B)の合計100重量%として、有機高分子(A)30?95重量%、特には40?90重量%、及び、樹脂成分(B)70?5重量%、特には60?10重量%であるのが好ましい。有機高分子(A)の含有割合が上限値以下であれば、得られる接着剤の粘着力や曲面粘着性が不十分となることがないので好ましく、下限値以上であれば、接着剤の凝集力が不足することがないので好ましい。
【0033】
本発明における有機高分子(A)には、必要に応じて有機溶媒が添加される。有機溶媒としては、ケトン、エーテル、セロソルブ、アルコール、芳香族系炭化水素、直鎖状炭化水素等を用いることができる。」

(4d)「【実施例】
【0047】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明の内容をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。なお、本発明の接着剤および粘着シートの試験用シートの作成方法、粘着力、気泡抜け性、及びフィルム表面の凹凸の測定方法は次の通りである。
・・・
【0053】
(実施例1)
冷却管、撹拌機および窒素導入管の付いた反応容器中に、樹脂成分(B)としてα-ピネン樹脂「ピコライトA115」[商品名:双日ケミカル(株)製]100重量部、ジカルボン酸成分(a)であるドデカンジカルボン酸(DDA)14重量部、テレフタル酸(TPA)36重量部、グリコール成分(b)であるブチルエチルプロパンジオール(BEPG)14重量部、低分子量ポリオレフィン系ポリオール「ポリテールHA」(HA)「商品名:三菱化学(株)製」33.5重量部、エイレングリコール(EG)2.5重量部を混合溶解し、窒素雰囲気下230℃で8時間反応し、さらに10?15mmHgの減圧で5時聞反応した後、酢酸エチル(EAc)150重量部を加えて希釈し、固形分約40重量%、粘度2,000mPaS(B型回転粘度型、30℃、10rpm)の、有機高分子(A)を生成して溶解成分を形成して、樹脂成分(B)を分散成分とする半透明の非水樹脂分散液を得た。
【0054】
得られた分散液100重量部に、架橋剤(D)としてイソシアネート化合物「コロネートL55E」[商品名:日本ポリウレタン(株)製]1重量部を撹拌混合した後、乾燥後の厚さが25μmになるように、厚さ50μmのポリエステルフィルムに塗布し100℃にて5分間乾燥して剥離フィルムを積層し粘着シートを得た。得られた粘着シートを使用し、各種粘着物性を測定した。接着剤の形成に使用した有機高分子(A)の共重合組成、粘度、固形分、Mw及びTg、及び、樹脂成分(B)の種類及び軟化点、(A)成分と(B)成分との含有割合、架橋剤の種類及び量を表1に、接着特性測定結果を表2に示した。
【0055】
(実施例2?4、比較例1)
実施例1において、合成有機高分子(A)と樹脂成分(B)との割合を変え、または樹脂成分(B)を用いない以外は実施例1と同様にして非水樹脂分散液を調製し、その結果を表1に示した。また、粘着シートを作成しシートを評価した。その結果を表2に示した。
【0056】
(実施例5?6、比較例2)
実施例1において、DDA、TPA、BEPG、HA及びEGの使用割合を変え、または、ネオペンチルグリコール(NPG)を用いる以外は実施例1と同様にして非水樹脂分散液を調整し、その結果を表1に示した。以下同様にして粘着シートを作成し、シートの評価結果を表2に示した。
【0057】
(実施例7?9、比較例3)
実施例1において、「ピコライトA-115」を用いる代わりにスチレン型樹脂「FTR6100」[商品名:三井化学(株)製]、もしくは、特殊ロジンエステル樹脂「スーパーエステルA-75」[商品名:荒川化学工業(株)製]、テルペンフェノール樹脂「タマノル803L」[商品名:荒川化学工業(株)製]、キシレン樹脂「ニカノールH」[商品名:三菱ガス化学(株)製]を用いた以外は実施例1と同様にして非水樹脂分散液を調整し、その結果を表1に示した。また、粘着シートを作成しシートを評価した。その結果を表2に示した。
【0058】
(実施例10)
実施例1において、添加剤(C)として安息香酸トリメチロールプロパンエステル(軟化点:85℃)25重量部を追加添加した以外は実施例1と同様にして非水樹脂分散液を調整し、その結果を表-1に示した。以下同様にして粘着シートを作成し、シートの評価結果を表2に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】



オ 甲5
甲5には以下の事項が記載されている。
(5a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が-80?0℃の範囲である、側鎖に水酸基及び/またはカルボキシル基を有し、芳香環構造を5?50mol%含有するポリエステル系樹脂(D)、環式ジテルペン化合物(E)及び前記樹脂(D)中の水酸基及び/またはカルボキシル基と反応し得る反応性化合物(F)を含むことを特徴とする感圧式接着剤組成物。
【請求項2】
側鎖に水酸基及び/またはカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂(D)100重量部に対して環式ジテルペン化合物(E)0.1?80.0重量部及び反応性化合物(F)0.001?20重量部を含むことを特徴とする請求項1記載の感圧式接着剤組成物。
【請求項3】
側鎖に水酸基及び/またはカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂(D)が、水酸基を有しない二塩基酸系成分(A)と、カルボキシル基を有しないジオール(B)と、3価以上の多価アルコール(c1)、3価以上の多価カルボン酸(c2)、分子内に環状エーテル基を2個有する化合物(c3)、一分子中に水酸基2個とカルボキシル基1個以上とを有するジオキシカルボン酸(c4)及び一分子中にカルボキシル基2個と水酸基1個以上を有するオキシジカルボン酸(c5)からなる群より選ばれる少なくとも一種の側鎖官能基導入用成分(C)とを反応させてなるポリエステル系樹脂(D1)であることを特徴とする請求項1又は2記載の感圧式接着剤組成物。
・・・
【請求項6】
反応性化合物(F)がポリエステル系樹脂(D)中の側鎖官能基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有することを特徴とする請求項1ないし5いずれか記載の感圧式接着剤組成物。
【請求項7】
シート状基材の一方の面に、請求項1ないし6いずれかに記載の感圧式接着剤組成物から形成される感圧式接着剤層が積層されてなる片面感圧式接着シート。」

(5b)「【0030】
側鎖に水酸基やカルボキシル基を有するポリエステル樹脂(D)は種々の方法で得ることができる。
例えば、水酸基を有しない二塩基酸系成分(A)と、カルボキシル基を有しないジオール(B)とを反応させ、ポリエステル樹脂を得る際に、3価以上の多価アルコール(c1)、3価以上の多価カルボン酸(c2)、分子内に環状エーテル基を2個有する化合物(c3)、一分子中に水酸基2個とカルボキシル基1個以上とを有するジオキシカルボン酸(c4)及び一分子中にカルボキシル基2個と水酸基1個以上を有するオキシジカルボン酸(c5)からなる群より選ばれる少なくとも一種の側鎖官能基導入用成分(C)を利用することにより、ポリエステル樹脂(D)の側鎖に水酸基やカルボキシル基を導入することができる。
【0031】
本発明に用いられる水酸基を有しない二塩基酸系成分(A)としては、公知のジカルボン酸類やそれらの酸無水物類、さらにジカルボン酸類や酸無水物類とメタノールやエタノール等のモノアルコールとのエステル化物類が挙げられる。
例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、スベリン酸、マレイン酸、クロロマレイン酸、フマル酸、ドデカン二酸、ピメリン酸、シトラコン酸、グルタル酸、イタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸類;
【0032】
例えば、o-フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,5-ジメチルテレフタル酸、4,4-ビフェニルジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ジフェニルメタン-4,4´-ジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類;
・・・
【0036】
これらのジカルボン酸類、その酸無水物類、あるいはそれらのエステル化物類は、それぞれを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」

(5c)「【0112】
本発明の感圧式接着剤組成物は、ポリエステル樹脂(D)の溶液に、環式ジテルペン化合物(E)及び反応性化合物(F)を配合し、得ることもできる。あるいはポリエステル樹脂(D)と環式ジテルペン化合物(E)とを軟化ないし熔融状態で混合し、冷却後有機溶剤と反応性化合物(F)とを配合し、塗工可能な溶液状態の感圧式接着剤組成物を得ることもできる。
また、本発明の感圧式接着剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で有れば、各種樹脂、シランカップリング剤、軟化剤、染料、顔料、酸化防止剤、可塑剤、充填剤および老化防止剤等を配合しても良い。」

(5d)「【実施例】
【0123】
以下に、この発明の具体的な実施例を比較例と併せて説明するが、この発明は、下記実施例に限定されない。また、下記実施例および比較例中、「部」および「%」は、特にことわらない限りそれぞれ「重量部」および「重量%」を表す。
【0124】
<ポリエステル(D)の製造>
(合成例1)
重合槽、攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管を備えた重合反応装置の重合槽及び滴下装置に、下記、水酸基を有しない二塩基酸系成分(A)、カルボキシル基を有しないジオール(B)と、側鎖官能基導入用成分(C)とをそれぞれ下記の比率で仕込んだ。
【0125】
[重合槽]
トリメチロールプロパン(c1) 2.5部
ネオペンチルグリコール(B) 57部
1,4-ブタンジオール(B) 30部
1,6-ヘキサンジオール(B) 26部
イソフタル酸(A) 116部
セバシン酸(A) 61部
【0126】
重合槽内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しながら窒素雰囲気下、100℃に昇温した。100℃で1時間保持した後、約8時間かけて徐々に180?240℃に上げて脱水反応を行った。次いで、酸価が15以下になったら、触媒としてテトラブチルチタネート0.1部を加えて、徐々に減圧し、1?3トール、260℃で5時間反応を行い、徐々に冷却して、トルエン/酢酸エチル混合溶液(重量比=1/3)に溶解して反応を終了した。
この反応溶液は淡黄色透明で不揮発分50.1重量%、粘度4,700mPa・sであり、ポリエステル樹脂の酸価0.3mgKOH/g、水酸基価10.2mgKOH/g、ガラス転移温度-30℃、重量平均分子量90,000、数平均分子量30,000、分散度3であった。
・・・
【0150】
【表1】

【0151】
(実施例1)
合成例1で得られたポリエステル樹脂(D)の溶液(固形分約50%)100部に対して、環式ジテルペン化合物(E)としてペンセルD-125(アビエチン酸のエステル化物の二量体:酸価13mgKOH/g、荒川化学工業株式会社製)を25部、及びトルエン25部を加え、更に反応性化合物(F)として、TDI/TMP(トルレンジイソシネートのトリメチロールプロパンアダクト体)2.5重量部を加えてよく撹拌して、本発明の感圧式接着剤組成物を得た。
得られた感圧式接着剤組成物について後述する方法で、ポットライフ、塗工性を評価した。
また、得られた感圧式接着剤組成物から形成される感圧式接着剤層について、後述する方法で120℃における貯蔵弾性率(G’)を求めた。
さらに、得られた感圧式接着剤組成物を剥離処理されたポリエステルフィルム上に乾燥後の厚みが65μmになるように塗工し、80℃で5分間乾燥させ、接着剤層を形成した。乾燥後、接着剤層に、厚み8mmのウレタン系発泡体シートの片面を貼り合せ、「剥離性フィルム/接着剤層/発泡体シート」なる構成の積層体を得た。次いで、得られた積層体を温度23℃相対湿度50%の条件で1週間熟成(暗反応)させて、接着剤層の反応を進行させ、接着加工した制振材料(積層体)を得、後述する方法に従って、ステンレス板に対する接着力(初期及び湿熱老化後)、保持力、及びポリプロピレン(PP)板に対する定加重保持力を評価した。結果を表2に示す。
・・・
【0173】
【表2】



(2)各甲号証に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
甲1には、その特許請求の範囲の請求項1に、「電子部品を実装するICカード用回路基板を、少なくとも1枚の樹脂シートで積層接着してなる樹脂積層型非接触式ICカードであって、接着剤として、(A)飽和共重合ポリエステル樹脂並びに(B)芳香族環及び/又はヒドロキシル基を1分子当たり1個以上持ち、R&B軟化点が100?180℃である粘着性付与樹脂からなるホットメルト接着剤組成物を用いることを特徴とする樹脂積層型非接触式ICカード」が記載され(摘記(1a))、そのホットメルト接着剤の具体例として、実施例1に、融点が135℃、ガラス転移点が-18℃、メルトフローレートが80g/10minで、モル比でテレフタル酸/イソフタル酸/セバチン酸/1,4-ブタンジオール/1,6-ヘキサンジオール=60/15/25/80/20をモノマー組成としてなるポリエステル樹脂aを100重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエピコート1010(R&B軟化点156℃、油化シェルエポキシ(株)製、以下エポキシ樹脂aとする)を15重量部、加水分解防止剤(ポリカルボジイミド)を1部からなるホットメルト接着剤が記載され(摘記(1e))、実施例4として、実施例1において、粘着性付与樹脂としてエポキシ樹脂aの代わりに、表1に記載した、ヤスハラケミカル(株)製の芳香族テルペン樹脂であるYSレジンTO105を15重量部使用したホットメルト接着剤が記載されている(摘記(1e))。

そうすると、甲1には、実施例4に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「融点が135℃、ガラス転移点が-18℃、メルトフローレートが80g/10minで、モル比でテレフタル酸/イソフタル酸/セバチン酸/1,4-ブタンジオール/1,6-ヘキサンジオール=60/15/25/80/20をモノマー組成としてなるポリエステル樹脂aを100重量部、芳香族テルペン樹脂であるYSレジンTO105(ヤスハラケミカル(株)製)を15重量部、加水分解防止剤(ポリカルボジイミド)を1部からなるホットメルト接着剤」(以下「甲1発明A」という。」)

また、甲1には、実施例6として、メルトフローレートが70g/10minで、モル比でテレフタル酸/イソフタル酸/アジピン酸/1,4-ブタンジオール=45/30/25/100をモノマー組成としてなるポリエステル樹脂を100重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエピコート1010(R&B軟化点156℃、油化シェルエポキシ(株)製)を15重量部、加水分解防止剤(ポリカルボジイミド)を1部からなるホットメルト接着剤が記載されている。

そうすると、甲1には、実施例6に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「メルトフローレートが70g/10minで、モル比でテレフタル酸/イソフタル酸/アジピン酸/1,4-ブタンジオール=45/30/25/100をモノマー組成としてなるポリエステル樹脂を100重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエピコート1010(R&B軟化点156℃、油化シェルエポキシ(株)製)を15重量部、加水分解防止剤(ポリカルボジイミド)を1部からなるホットメルト接着剤」(以下「甲1発明B」という。」)

さらに、甲1には、実施例7として、メルトフローレートが60g/10minで、モル比でテレフタル酸/イソフタル酸/アジピン酸/1,4-ブタンジオール/エチレングリコール=60/20/20/55/45をモノマー組成としてなるポリエステル樹脂を100重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエピコート1010(R&B軟化点156℃、油化シェルエポキシ(株)製)を15重量部、加水分解防止剤(ポリカルボジイミド)を1部からなるホットメルト接着剤が記載されている。

そうすると、甲1には、実施例7に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「メルトフローレートが60g/10minで、モル比でテレフタル酸/イソフタル酸/アジピン酸/1,4-ブタンジオール/エチレングリコール=60/20/20/55/45をモノマー組成としてなるポリエステル樹脂を100重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエピコート1010(R&B軟化点156℃、油化シェルエポキシ(株)製)を15重量部、加水分解防止剤(ポリカルボジイミド)を1部からなるホットメルト接着剤」(以下「甲1発明C」という。」)

イ 甲2に記載された発明
甲2には、その特許請求の範囲の請求項1に、「芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中に水酸基を2個以上有するポリオール化合物(c)とを含有する成型用樹脂組成物。」が記載され(摘記(2a))、同請求項2に、「前記芳香族ポリエステル(a)100重量部に対して、前記タッキファイヤー(b)を1?50重量部含有し、前記ポリオール化合物(c)を1?50重量部含有することを特徴とする請求項1に記載の成型用樹脂組成物。」が記載されており(摘記(2a))、その具体例として、実施例3には、ポリエステルAを40重量部、ポリエステルBを15重量部、ポリエステルCを15重量部、ポリエステルDを30重量部、テルペン系タッキファイアーを20重量部、プラクセルCD220を5重量部及び老化防止剤を0.5重量部含む成形用樹脂組成物が記載されている(摘記(2f))。

そうすると、甲2には、実施例3に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「ポリエステルAを40重量部、ポリエステルBを15重量部、ポリエステルCを15重量部、ポリエステルDを30重量部、テルペン系タッキファイアーを20重量部、プラクセルCD220を5重量部及び老化防止剤を0.5重量部含む成形用樹脂組成物」(以下「甲2発明」という。」)

ウ 甲3に記載された発明
甲3には、その特許請求の範囲の請求項1に、「芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中に水酸基を2個以上有するポリオール化合物(c)と、液状ポリエーテルポリエステル(d)とを含有し、前記液状ポリエーテルポリエステル(d)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して、1?50質量部である、成型用樹脂組成物。」が記載され(摘記(3a))、同請求項2に、「前記タッキファイヤー(b)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して、1?50質量部である、請求項1に記載の成型用樹脂組成物。」が記載されており(摘記(3a))、その具体例として、実施例1には、ポリエステルAを30重量部、ポリエステルBを40重量部、ポリエステルCを15重量部、ポリエステルDを15重量部、ロジン系タッキファイアーを20重量部、ポリカーボネートを5重量部、液状ポリエーテルエステル(d)として、RS-735を10重量部及び老化防止剤を0.5重量部含む成形用樹脂組成物が記載されている(摘記(3f))。

そうすると、甲3には、実施例1に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「ポリエステルAを30重量部、ポリエステルBを40重量部、ポリエステルCを15重量部、ポリエステルDを15重量部、ロジン系タッキファイアーを20重量部、ポリカーボネートを5重量部、液状ポリエーテルエステル(d)として、RS-735を10重量部及び老化防止剤を0.5重量部含む成形用樹脂組成物」(以下「甲3発明」という。」)

エ 甲4に記載された発明
甲4の特許請求の範囲の請求項1には、「ガラス転移点が-45?+20℃のポリエステル系樹脂、及び、アルキッド系樹脂の群から選ばれた一種又は二種以上の有機高分子(A)と、軟化点が70?180℃の樹脂成分(B)を含有し、有機高分子(A)の連続層中に、樹脂成分(B)が分散した状態で存在する非水液状体であることを特徴とする感熱圧性接着剤。」と記載され、同請求項3には、「樹脂成分(B)が、ロジン、クマロン・インデン樹脂、α-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、テルペン樹脂、テルペン・フェノール樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂、石油系炭化水素樹脂、水素添加炭化水素樹脂、又は、テレピン系樹脂の群から選ばれた一種又は二種以上の混合物である請求項1又は2に記載の感熱圧性接着剤。」と記載されている。
そうすると、請求項1を引用した請求項3に記載された事項を書きくだすと、甲4には、以下の発明が記載されていると認められる。
「ガラス転移点が-45?+20℃のポリエステル系樹脂、及び、アルキッド系樹脂の群から選ばれた一種又は二種以上の有機高分子(A)と、軟化点が70?180℃の樹脂成分(B)を含有し、樹脂成分(B)がロジン、クマロン・インデン樹脂、α-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、テルペン樹脂、テルペン・フェノール樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂、石油系炭化水素樹脂、水素添加炭化水素樹脂、又は、テレピン系樹脂の群から選ばれた一種又は二種以上の混合物であって、有機高分子(A)の連続層中に、樹脂成分(B)が分散した状態で存在する非水液状体であることを特徴とする感熱圧性接着剤。」(以下「甲4発明」という。」)

オ 甲5に記載された発明
甲5の特許請求の範囲の請求項1には、「ガラス転移温度が-80?0℃の範囲である、側鎖に水酸基及び/またはカルボキシル基を有し、芳香環構造を5?50mol%含有するポリエステル系樹脂(D)、環式ジテルペン化合物(E)及び前記樹脂(D)中の水酸基及び/またはカルボキシル基と反応し得る反応性化合物(F)を含むことを特徴とする感圧式接着剤組成物。」と記載され、同請求項2には、「側鎖に水酸基及び/またはカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂(D)100重量部に対して環式ジテルペン化合物(E)0.1?80.0重量部及び反応性化合物(F)0.001?20重量部を含むことを特徴とする請求項1記載の感圧式接着剤組成物。」と記載され、同請求項3には、「側鎖に水酸基及び/またはカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂(D)が、水酸基を有しない二塩基酸系成分(A)と、カルボキシル基を有しないジオール(B)と、3価以上の多価アルコール(c1)、3価以上の多価カルボン酸(c2)、分子内に環状エーテル基を2個有する化合物(c3)、一分子中に水酸基2個とカルボキシル基1個以上とを有するジオキシカルボン酸(c4)及び一分子中にカルボキシル基2個と水酸基1個以上を有するオキシジカルボン酸(c5)からなる群より選ばれる少なくとも一種の側鎖官能基導入用成分(C)とを反応させてなるポリエステル系樹脂(D1)であることを特徴とする請求項1又は2記載の感圧式接着剤組成物。」と記載されている。
そうすると、請求項1を引用した請求項2を引用した請求項3に記載された事項を書きくだすと、甲5には、以下の発明が記載されていると認められる。
「ガラス転移温度が-80?0℃の範囲である、側鎖に水酸基及び/またはカルボキシル基を有し、芳香環構造を5?50mol%含有するポリエステル系樹脂(D)100重量部、環式ジテルペン化合物(E)0.1?80.0重量部及び前記樹脂(D)中の水酸基及び/またはカルボキシル基と反応し得る反応性化合物(F)0.001?20重量部を含むことを特徴とする感圧式接着剤組成物であって、側鎖に水酸基及び/またはカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂(D)が、水酸基を有しない二塩基酸系成分(A)と、カルボキシル基を有しないジオール(B)と、3価以上の多価アルコール(c1)、3価以上の多価カルボン酸(c2)、分子内に環状エーテル基を2個有する化合物(c3)、一分子中に水酸基2個とカルボキシル基1個以上とを有するジオキシカルボン酸(c4)及び一分子中にカルボキシル基2個と水酸基1個以上を有するオキシジカルボン酸(c5)からなる群より選ばれる少なくとも一種の側鎖官能基導入用成分(C)とを反応させてなるポリエステル系樹脂(D1)であることを特徴とする感圧式接着剤組成物」(以下「甲5発明」という。」)

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)甲1に記載された発明との対比・判断
a 甲1発明Aとの対比・判断
(a)対比
本件発明1と甲1発明Aとを対比する。
甲1発明Aのホットメルト接着剤は、接着剤の一種類であるから、本件発明1の接着剤に相当する。
甲1発明Aのポリエステル樹脂aは、ジカルボン酸成分である「テレフタル酸/イソフタル酸/セバチン酸」のモル比が「60/15/25」であり、合計が100であるから、モル比の値はそのままモル%であるといえる。
そうすると、甲1発明Aのポリエステル樹脂aがテレフタル酸を60モル%有することは、本件発明1のポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分におけるテレフタル酸の含有量が30?80モル%に相当し、同じく、甲1発明Aのポリエステル樹脂aがセバチン酸を25モル%有することは、本件発明1のポリエステル樹脂(A)の多価カルボン酸としてセバシン酸が3?45モル%であることに相当する。また、甲1発明Aのポリエステル樹脂aがイソフタル酸を15モル%有することは、本件発明1のポリエステル樹脂(A)がイソフタル酸を含有する限りで一致する。
甲1発明Aの「芳香族テルペン樹脂であるYSレジンTO105」は、本件発明1のテルペン系樹脂(Q)に相当することは明らかである。
そして、甲1発明Aのポリエステル樹脂aを100重量部、芳香族テルペン樹脂であるYSレジンTO105を15重量部は、本件発明1の「ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)との質量比(A/B)が60/40?90/10であること」に相当することは明らかである。

そうすると、本件発明1と甲1発明Aとでは、
「ポリエステル樹脂組成物を含有する接着剤であって、
ポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂と、テルペン系樹脂(Q)および/またはロジン系樹脂(R)からなる樹脂(B)とを含有し、
前記ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分における、テレフタル酸の含有量が30?80モル%であり、イソフタル酸を含有し、
前記ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸成分として、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸からなる群から選ばれる多価カルボン酸(X)を含有するか、または、グリコール成分として、ポリテトラメチレングリコールを含有し、多価カルボン酸成分における多価カルボン酸(X)の含有量またはグリコール成分におけるポリテトラメチレングリコールの含有量が3?45モル%であり、
前記ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が-40?70℃であり、
ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)との質量比(A/B)が60/40?90/10であることを特徴とする接着剤」で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)接着剤が、本件発明1では、有機溶剤を含有しているのに対し、甲1発明Aでは有機溶剤を含有していない点

(相違点2)接着剤に含有するポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸のうち、イソフタル酸の含有量が、本件発明1では、20?70モル%であるのに対し、甲1発明Aでは15モル%である点

(相違点3)樹脂(B)の軟化点が、本件発明1では、90?120℃であるのに対して、甲1発明Aでは明らかでない点

(b)判断
i 相違点1について
本件発明1の接着剤は、ポリエステル樹脂(A)と、テルペン系樹脂(Q)および/またはロジン系樹脂(R)からなる樹脂(B)とを含有するポリエステル樹脂組成物と有機溶剤とを含有する接着剤である。一方、甲1発明Aの接着剤はホットメルト型の接着剤であって、接着剤の形態は固体である。そして、有機溶剤を含む接着剤は液状の接着剤として使用され、ホットメルト型の接着剤は固体の接着剤として使用されることは、技術常識から明らかである。
そうすると、甲1発明Aのホットメルト接着剤は、固体のホットメルト接着剤として使用されるものであって、この固体の接着剤を使用方法が異なる有機溶剤を含む液状の接着剤とするとはいえないから、甲1発明Aにおいて有機溶剤を含有させることに動機づけがあるとはいえない。
よって、相違点1を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

ii 相違点2について
甲1には、飽和共重合ポリエステル樹脂を構成する共重合モノマーのうち、芳香族二塩基性酸の具体例として、テレフタル酸、イソフタル酸が記載されている(摘記(1b))ところ、酸成分のうちテレフタル酸は接着強度の点から30モル%以上が好ましいことが記載されている(摘記(1b))がイソフタル酸の使用割合についての記載はない。
また、甲1の実施例6では、二塩基性酸として、テレフタル酸が45モル%、イソフタル酸が30モル%、アジピン酸が25モル%からなり、グリコールとして、1,4-ブタンジオールが100モル%からなる飽和共重合ポリエステル樹脂が記載され、同実施例7では、二塩基性酸として、テレフタル酸が60モル%、イソフタル酸が20モル%、アジピン酸が20モル%、グリコールとして、1,4-ブタンジオールが55モル%、エチレングリコールが45モル%からなる飽和共重合ポリエステル樹脂が記載されており(摘記(1e))、イソフタル酸の使用割合に着目すれば、本件発明1の20?70モル%と重複するといえる。
しかしながら、甲1発明Aである実施例1や同じく実施例6及び7は、それぞれ、甲1に記載された飽和共重合ポリエステル樹脂の具体例として、使用する二塩基性酸の種類を決めて、そして、それぞれの二塩基性酸の含有量を特定量としたものであり、この上で、甲1に記載されたホットメルト接着剤組成物の剥離強度や積層物の破壊状況を評価したものであり、甲1のホットメルト接着剤に配合される飽和共重合ポリエステル樹脂として個々に用いられるものである。
そうすると、いくら甲1の具体例に本件発明1で特定されるイソフタル酸の含有量の範囲と同じものが記載されていたとしても、他の具体例で使用される飽和共重合ポリエステル樹脂のうちのイソフタル酸の含有量だけに着目して甲1発明Aで使用されるイソフタル酸の含有量に適用することはできず、甲1発明Aにおいて、相違点2を本件発明1で特定することにする動機づけはない。
よって、相違点2を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

iii 小括
よって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明A及び甲1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

b 甲1発明Bとの対比・判断
(a)対比
本件発明1と甲1発明Bとを対比する。
甲1発明Bのホットメルト接着剤は、接着剤の一種類であるから、本件発明1の接着剤に相当する。
甲1発明Bのポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分である「テレフタル酸/イソフタル酸/アジピン酸」のモル比は「45/30/25」であり、合計が100であるから、モル比の値はそのままモル%であるといえる。
そうすると、甲1発明Bのポリエステル樹脂がテレフタル酸を45モル%有することは、本件発明1のポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分におけるテレフタル酸の含有量が30?80モル%に相当し、また、甲1発明Bのポリエステル樹脂がイソフタル酸を30モル%有することは、本件発明1のポリエステル樹脂(A)がイソフタル酸の含有量が20?70モル%に相当し、さらに、甲1発明Bのポリエステル樹脂がアジピン酸を25モル%有することは、本件発明1のポリエステル樹脂(A)の多価カルボン酸としてアジピン酸が3?45モル%であることに相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明Bとでは、
「ポリエステル樹脂組成物を含有する接着剤であって、
ポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)を含有し、
前記ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分における、テレフタル酸の含有量が30?80モル%であり、イソフタル酸の含有量が20?70モル%であり、
前記ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸成分として、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸からなる群から選ばれる多価カルボン酸(X)を含有するか、または、グリコール成分として、ポリテトラメチレングリコールを含有し、多価カルボン酸成分における多価カルボン酸(X)の含有量またはグリコール成分におけるポリテトラメチレングリコールの含有量が3?45モル%であることを特徴とする接着剤」で一致し、次の点で相違する。

(相違点4)接着剤が、本件発明1では、有機溶剤を含有しているのに対し、甲1発明Bでは、有機溶剤を含有していない点

(相違点5)ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が、本件発明1では、-40?70℃であるのに対し、甲1発明Bでは明らかでない点

(相違点6)本件発明1では、テルペン系樹脂(Q)および/またはロジン系樹脂(R)からなる樹脂(B)を含有しているのに対して、甲1発明BではビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエピコート1010(R&B軟化点156℃、油化シェルエポキシ(株)製)を含有する点

(相違点7)本件発明1では、テルペン系樹脂(Q)および/またはロジン系樹脂(R)からなる樹脂(B)の軟化点が90?120℃であり、また、ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)との質量比(A/B)が60/40?90/10であるのに対し、甲1発明Bでは、軟化点は特定されておらず、また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエピコート1010(R&B軟化点156℃、油化シェルエポキシ(株)製)を15重量部含有する点

(b)判断
i 相違点4について
上記a(b)iで述べたとおり、甲1発明Bのホットメルト接着剤は、固体のホットメルト接着剤として使用されるものであって、この固体の接着剤を使用方法が異なる有機溶剤を含む接着剤とするとはいえないから、甲1発明Bにおいて有機溶剤を含有させることに動機づけがあるとはいえない。
よって、相違点4を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

ii 相違点6について
甲1には、請求項1に記載された(B)芳香族環及び/又はヒドロキシル基を1分子当たり1個以上持ち、R&B軟化点が100?180℃である粘着性付与樹脂の具体例として、エポキシ樹脂(例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)、芳香族変性テルペン樹脂、不均化反応ロジン樹脂が記載されている(摘記(1c))。
また、この(B)の粘着性付与樹脂として、甲1発明Bである実施例6では、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が用いられており、甲1の実施例4では、芳香族変性テルペンTO-105を用いることが記載されており(摘記(1e))、粘着性付与樹脂として、本件発明1のテルペン系樹脂(Q)に相当する樹脂を使用した具体例は記載されているといえる。
しかしながら、甲1発明Bである実施例6や同じく実施例4は、それぞれ、甲1に記載されたホットメルト接着剤組成物に配合される(B)粘着性付与樹脂の具体例として、(A)飽和共重合ポリエステルに対応して使用する具体的な樹脂が決められたものであり、この上で、甲1に記載されたホットメルト接着剤組成物の剥離強度や積層物の破壊状況を評価したものであり、それぞれの具体例として個々に用いられるものである。
そうすると、いくら甲1の具体例に本件発明1で特定されるテルペン系樹脂が記載されていたとしても、他の具体例で使用されるホットメルト接着剤のうちのテルペン系樹脂だけを甲1発明Bにおいて使用されるビスフェノールA型エポキシ樹脂に代えて適用することはできず、甲1発明Bにおいて、相違点6をテルペン系樹脂とすることにする動機づけはない。
よって、相違点6を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

iii 小括
よって、相違点5及び7について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明B及び甲1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

c 甲1発明Cとの対比・判断
(a)対比
本件発明1と甲1発明Cとを対比する。
甲1発明Cのホットメルト接着剤は、接着剤の一種類であるから、本件発明1の接着剤に相当する。
甲1発明Cのポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分である「テレフタル酸/イソフタル酸/アジピン酸」のモル比は「60/20/20」であり、合計が100であるから、モル比の値はそのままモル%であるといえる。
そうすると、甲1発明Cのポリエステル樹脂がテレフタル酸を60モル%有することは、本件発明1のポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分におけるテレフタル酸の含有量が30?80モル%に相当し、また、甲1発明Cのポリエステル樹脂がイソフタル酸を20モル%有することは、本件発明1のポリエステル樹脂(A)がイソフタル酸の含有量が20?70モル%に相当し、さらに、甲1発明Cのポリエステル樹脂がアジピン酸を20モル%有することは、本件発明1のポリエステル樹脂(A)の多価カルボン酸としてアジピン酸が3?45モル%であることに相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明Cとでは、
「ポリエステル樹脂組成物を含有する接着剤であって、
ポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)を含有し、
前記ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分における、テレフタル酸の含有量が30?80モル%であり、イソフタル酸の含有量が20?70モル%であり、
前記ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸成分として、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸からなる群から選ばれる多価カルボン酸(X)を含有するか、または、グリコール成分として、ポリテトラメチレングリコールを含有し、多価カルボン酸成分における多価カルボン酸(X)の含有量またはグリコール成分におけるポリテトラメチレングリコールの含有量が3?45モル%であることを特徴とする接着剤」で一致し、次の点で相違する。

(相違点8)接着剤が、本件発明1では、有機溶剤を含有しているのに対し、甲1発明Cでは、有機溶剤を含有していない点

(相違点9)ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が、本件発明1では、-40?70℃であるのに対し、甲1発明Cでは明らかでない点

(相違点10)本件発明1では、テルペン系樹脂(Q)および/またはロジン系樹脂(R)からなる樹脂(B)を含有しているのに対して、甲1発明CではビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエピコート1010(R&B軟化点156℃、油化シェルエポキシ(株)製)を含有する点

(相違点11)本件発明1では、テルペン系樹脂(Q)および/またはロジン系樹脂(R)からなる樹脂(B)の軟化点が90?120℃であり、また、ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)との質量比(A/B)が60/40?90/10であるのに対し、甲1発明Cでは、軟化点は特定されておらず、また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエピコート1010(R&B軟化点156℃、油化シェルエポキシ(株)製)を15重量部含有する点

(b)判断
i 相違点8について
上記a(b)iで述べたとおり、甲1発明Cのホットメルト接着剤は、固体のホットメルト接着剤として使用されるものであって、この固体の接着剤を使用方法が異なる有機溶剤を含む接着剤とするとはいえないから、甲1発明Cにおいて有機溶剤を含有させることに動機づけがあるとはいえない。
よって、相違点8を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

ii 相違点10について
上記b(b)iiで述べたとおりであるから、甲1発明Cにおいて、相違点10をテルペン系樹脂とすることにする動機づけはない。
よって、相違点10を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

iii 小括
よって、相違点9及び11について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明C及び甲1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

d まとめ
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(イ)甲2発明との対比・判断
a 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
本件発明1の接着剤は、ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物という限りにおいて甲2発明の成形用樹脂組成物に相当する。
甲2の段落【0034】には、甲2発明のポリエステルBは、東レ・ディポン社製のハイトレル4057であり、【表1】に、ポリエステルBの酸成分のモル比は、テレフタル酸は1.0、イソフタル酸は0.46であること、グリコール成分のモル比は、1,4-BGは1.0、PTMGは0.34であることが記載されている(摘記(2f))。
そうすると、甲2発明のテレフタル酸の含有量は、68モル%(=1.0/(1.0+0.46)×100)であり、イソフタル酸の含有量は、32モル%(=0.46/(1.0+0.46)×100)であるから、このことは、本件発明1の「ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分における、テレフタル酸の含有量が30?80モル%であり、イソフタル酸の含有量が20?70モル%であり、」に相当する。また、甲2発明のPTMGの含有量は、25モル%(=0.34/(1.0+0.34)×100)であるから、これは、本件発明1の「ポリエステル樹脂(A)」における「グリコール成分におけるポリテトラメチレングリコールの含有量が3?45モル%であり、」に相当する。
甲2発明のテルペン系タッキファイアーは、本件発明1の樹脂(B)であるテルペン系樹脂(Q)に相当することは明らかである。

そうすると、本件発明1と甲2発明とでは、
「ポリエステル樹脂組成物を含有する樹脂組成物であって、
ポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)と、テルペン系樹脂(Q)および/またはロジン系樹脂(R)からなる樹脂(B)とを含有し、
前記ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分における、テレフタル酸の含有量が30?80モル%であり、イソフタル酸の含有量が20?70モル%であり、
前記ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸成分として、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸からなる群から選ばれる多価カルボン酸(X)を含有するか、または、グリコール成分として、ポリテトラメチレングリコールを含有し、多価カルボン酸成分における多価カルボン酸(X)の含有量またはグリコール成分におけるポリテトラメチレングリコールの含有量が3?45モル%であることを特徴とする樹脂組成物」で一致し、次の点で相違する。

(相違点12)樹脂組成物が、本件発明1では接着剤であるのに対し、甲2発明では成形用樹脂組成物である点

(相違点13)本件発明1では、有機溶剤を含有しているのに対し、甲2発明では有機溶剤を含有していない点

(相違点14)ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が、本件発明1では、-40?70℃であるのに対し、甲2発明では明らかでない点

(相違点15)樹脂(B)の軟化点が、本件発明1では、90?120℃であるのに対して、甲2発明では明らかでない点

(相違点16)ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)との質量比(A/B)が、本件発明1では、60/40?90/10であるのに対し、甲2発明では15/20である点

b 判断
(a)相違点12について
まず、相違点12が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲2発明の成形用樹脂組成物は、甲2の段落【0001】、【0030】をみると、この成形用樹脂組成物を溶融させ、電子機器端部を入れたモールド内に吐出し成型するか、電子機器端部に塗布することにより、電子機器端部に防水保護被膜を形成するための樹脂組成物であるといえる(摘記(2b)(2e))。
ここで、接着剤とは、2つの部材を接着するための材料であるといえるところ、甲2に記載された成形用樹脂組成物は、水と接触させないため、電子機器端部を覆うための樹脂組成物であって、2つの部材を接着するための材料ではないから、接着剤ではない。
よって、相違点12は、実質的な相違点である。

次に、相違点12の容易想到性について検討する。
上記したとおり、甲2発明は、あくまで、電子機器の端部を覆うための成形用樹脂組成物であり、甲2には、この成形用樹脂組成物を接着剤として使用することについては何も記載されていない。また、甲2発明の成形用樹脂組成物を接着剤として使用することが技術常識であるともいえない。
よって、当業者であったとしても、相違点12を本件発明1のとおりに構成することは容易であるとはいえない。

(b)相違点13について
甲2発明は、成形用樹脂組成物であって、溶融してそのまま電子機器端部に適用するものであり、有機溶剤を含むものとする技術常識はない。よって、甲2発明において、有機溶剤を含有させることに動機づけがあるとはいえない。
よって、相違点13を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

(c)相違点16について
甲2発明は、請求項1に記載された芳香族ポリエステル(a)の具体例として、ポリエステルAを40重量部、ポリエステルBを15重量部、ポリエステルCを15重量部、ポリエステルDを30重量部含む実施例3である。そして、甲2には、これらポリエステルA?Dの含有割合は、上記ポリエステルAを10?50重量%、上記ポリエステルBを10?50重量%、上記ポリエステルCを0?30重量%、上記ポリエステルDを0?30重量%含有していることが好ましい、という記載はある(摘記(2c))。
しかしながら、この実施例3は、あくまで請求項1に記載された芳香族ポリエステル(a)の成分を、具体的に4種類のポリエステルの混合物とすることを特定して、4種類のポリエステルの配合割合を特定量とした例であり、この上で、タッキファイヤー(b)としてテルペン系タッキファイヤーを20重量部、ポリオール化合物(c)としてプラクセルCD220を5重量部含有させ、粘度等の種々の性質を評価したものである。
そうすると、いくら発明の詳細な説明に芳香族ポリエステル(a)を構成する4種類のポリエステルの好ましい配合割合が記載されていたとしても、実施例3で用いられているポリエステルA?Dの配合割合のうち、ポリエステルBの配合割合に着目しこの配合割合だけを増加させ本件発明1とする動機づけがあるとはいえない。
よって、相違点16を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

(d)申立人の主張の検討
申立人は、申立書第52頁第2?13行において、本件明細書の段落【0037】を参照すれば、本件発明1の接着剤には、コーティング剤及び封止剤も含まれる旨を主張し、上記相違点12は実質的な相違点ではない旨の主張をする。
しかしながら、上記段落【0037】には、「本発明の樹脂組成物や接着剤は、基材への接着性に優れているため、各種用途での接着剤やコーティング剤として用いられ、」と記載されており、接着剤にはコーティング剤が含まれるとは記載されていない。また、同段落には、「光学材料分野での接着剤として、電球、LEDを用いた各種照明、表示灯、ディスプレイ等の部品の接着、封止に用いることができる。」と記載されているところ、「封止」という技術的な意味における具体的な記載なないが、この「電球、LEDを用いた各種照明、表示灯、ディスプレイ等の部品の接着、封止」という記載からみれば、封止とは、あくまで、ある部材と他の部材とを接着することによる封止であると解することが自然であり、甲2に記載されたような露出した部分を成形用樹脂組成物で覆うような封止を意味するものとまではいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(e)小括
よって、相違点14及び15について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)甲3発明との対比・判断
a 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
本件発明1の接着剤は、ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物という限りにおいて甲3発明の成形用樹脂組成物に相当する。
甲3の段落【0041】及び【0042】には、甲3発明のポリエステルBは、東レ・ディポン社製のハイトレル4057であり、【表1】に、ポリエステルBの酸成分のモル比は、テレフタル酸は1.0、イソフタル酸は0.46であること、グリコール成分のモル比は、1,4-BGは1.0、PTMGは0.34であることが記載されている(摘記(3f))。
そうすると、甲3発明のテレフタル酸の含有量は、68モル%(=1.0/(1.0+0.46)×100)であり、イソフタル酸の含有量は、32モル%(=0.46/(1.0+0.46)×100)であるから、これらは、本件発明1のポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分における、テレフタル酸の含有量が30?80モル%であり、イソフタル酸の含有量が20?70モル%であり、に相当する。また、甲3発明のPTMGの含有量は、25モル%(=0.34/(1.0+0.34)×100)であるから、これは、本件発明1のポリエステル樹脂(A)は、グリコール成分におけるポリテトラメチレングリコールの含有量が3?45モル%であり、に相当する。
甲3発明のロジン系タッキファイアーは、本件発明1の樹脂(B)であるロジン系樹脂(R)に相当することは明らかである。
甲3発明のポリエステル樹脂Bとロジン系タッキファイアーとの質量比は、40/20であり、これは、67/33であるといえるから、これは、本件発明1のポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)との質量比(A/B)が60/40?90/10に相当する。

そうすると、本件発明1と甲3発明とでは、
「ポリエステル樹脂組成物を含有する樹脂組成物であって、
ポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)と、テルペン系樹脂(Q)および/またはロジン系樹脂(R)からなる樹脂(B)とを含有し、
前記ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分における、テレフタル酸の含有量が30?80モル%であり、イソフタル酸の含有量が20?70モル%であり、
前記ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸成分として、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸からなる群から選ばれる多価カルボン酸(X)を含有するか、または、グリコール成分として、ポリテトラメチレングリコールを含有し、多価カルボン酸成分における多価カルボン酸(X)の含有量またはグリコール成分におけるポリテトラメチレングリコールの含有量が3?45モル%であり、
ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)との質量比(A/B)が60/40?90/10であることを特徴とする樹脂組成物」で一致し、次の点で相違する。

(相違点17)樹脂組成物が、本件発明1では接着剤であるのに対し、甲3発明では成形用樹脂組成物である点

(相違点18)本件発明1では、有機溶剤を含有しているのに対し、甲3発明では有機溶剤を含有していない点

(相違点19)ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が、本件発明1では、-40?70℃であるのに対し、甲3発明では明らかでない点

(相違点20)樹脂(B)の軟化点が、本件発明1では、90?120℃であるのに対して、甲3発明では明らかでない点

b 判断
(a)相違点17について
まず、相違点17が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲3発明の成形用樹脂組成物は、甲3の段落【0006】、【0007】及び【0032】?【0036】をみると、この成形用樹脂組成物を溶融させ、電子機器端部を入れたモールド内に吐出し成型するか、電子機器端部に塗布することにより、電子機器端部に防水保護被膜を形成するための樹脂組成物であるといえる(摘記(3b)(3e))。
ここで、接着剤とは、2つの部材を接着するための材料であるといえるところ、甲3に記載された成形用樹脂組成物は、水と接触させないため、電子機器端部を覆うための樹脂組成物であって、2種の部材を接着するための材料ではないから、接着剤ではない。
よって、相違点17は、実質的な相違点である。

次に、相違点17の容易想到性について検討する。
上記したとおり、甲3発明は、あくまで、電子機器の端部を覆うための成形用樹脂組成物であり、甲3には、この成形用樹脂組成物を接着剤として使用することについては何も記載されていない。また、甲3発明の成形用樹脂組成物を接着剤として使用することが技術常識であるともいえない。
よって、当業者であったとしても、相違点17を本件発明1のとおりに構成することは容易であるとはいえない。

(b)相違点18について
甲3発明は、成形用樹脂組成物であって、溶融してそのまま電子機器端部に適用するものであり、有機溶剤を含むものとする技術常識はない。よって、甲3発明において、有機溶剤を含有させることに動機づけがあるとはいえない。
よって、相違点18を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

(c)申立人の主張の検討
申立人の申立書第52頁第2?13行における主張については、上記(イ)b(d)で述べたとおりであり、申立人の主張は採用できない。

(d)小括
よって、相違点19及び20について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(エ)甲4発明との対比・判断
a 対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「感熱圧性接着剤」は接着剤の1種であるから、本件発明1の接着剤に相当する。
甲4発明の「ガラス転移点が-45?+20℃のポリエステル系樹脂」は、ポリエステル樹脂の限りにおいて本件発明1のポリエステル樹脂(A)と一致する。
甲4発明の「ガラス転移点が-45?+20℃のポリエステル系樹脂」と「樹脂成分(B)を含有」する感熱圧性接着剤は、本件発明1のポリエステル樹脂組成物を含有する接着剤に相当する。
そうすると、本件発明1と甲4発明とでは、
「ポリエステル樹脂組成物を含有する接着剤であって、
ポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)を含有する接着剤」で一致し、次の点で相違する。

(相違点21)接着剤が、本件発明1では、有機溶剤を含有しているのに対し、甲4発明では明らかでない点

(相違点22)ポリエステル樹脂組成物が、本件発明1では、テルペン系樹脂(Q)および/またはロジン系樹脂(R)からなり、軟化点が90?120℃である樹脂(B)を含有しているのに対し、甲4発明では、ロジン、クマロン・インデン樹脂、α-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、テルペン樹脂、テルペン・フェノール樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂、石油系炭化水素樹脂、水素添加炭化水素樹脂、又は、テレピン系樹脂の群から選ばれた一種又は二種以上の混合物であり、軟化点が70?180℃である樹脂成分(B)を含有する点

(相違点23)ポリエステル樹脂(A)が、本件発明1では、多価カルボン酸成分における、テレフタル酸の含有量が30?80モル%であり、イソフタル酸の含有量が20?70モル%であり、多価カルボン酸成分として、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸からなる群から選ばれる多価カルボン酸(X)を含有するか、または、グリコール成分として、ポリテトラメチレングリコールを含有し、多価カルボン酸成分における多価カルボン酸(X)の含有量またはグリコール成分におけるポリテトラメチレングリコールの含有量が3?45モル%であり、ガラス転移温度が-40?70℃であるのに対し、甲4発明では、ガラス転移点が-45?+20℃である点

(相違点24)ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)との質量比(A/B)が、本件発明1では、60/40?90/10であるのに対し、甲4発明では明らかでない点

b 判断
(a)相違点23について
事案に鑑み、まず、相違点23を検討する。
甲4には、ポリエステル系樹脂の多価カルボン酸成分として、脂肪族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸が好適に使用されることが記載され(摘記(4b))、脂肪族ジカルボン酸として、本件発明1で特定される多価カルボン酸(X)と同じ脂肪族ジカルボン酸の具体例が例示の一部として記載され(摘記(4b))、また、芳香族ジカルボン酸として、テレフタル酸及びイソフタル酸が例示の一部として記載されている(摘記(4b))。
しかしながら、甲4には、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸及びイソフタル酸を本件発明1と同じ割合で組み合わせて使用すること、脂肪族ジカルボン酸として、本件発明1で特定される多価カルボン酸(X)と同じ化合物を本件発明1と同じ割合で使用することについては記載されていない。
また、甲1の実施例6及び実施例7、甲2のポリエステルB並びに甲3のポリエステルBは、本件発明1で特定されるポリエステル樹脂(A)と同じポリエステルであるということはできる。
しかしながら、甲1の実施例6及び実施例7に記載されたポリエステルは、ホットメルト接着剤として使用するポリエステルであり、甲4発明である感熱圧性接着剤とは、その使用方法が異なるといえ、また、甲2及び甲3に記載されたポリエステルBは、成形用樹脂組成物として使用するポリエステルの1成分であり接着剤ではない。そうすると、甲1?甲3に記載されたポリエステルは、甲4に記載された接着剤とその使用形態が異なるといえるから、甲4発明において、甲1?甲3に記載されたポリエステルを適用する動機づけがあるとはいえない。
よって、相違点23を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になしえたとはいえない。

(b)小括
よって、相違点21、22及び24について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(オ)甲5発明との対比・判断
a 対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「感熱式接着剤組成物」、本件発明1の接着剤に相当することは明らかである。
甲5発明の「ガラス転移温度が-80?0℃の範囲である、側鎖に水酸基及び/またはカルボキシル基を有し、芳香環構造を5?50mol%含有するポリエステル系樹脂(D)」は、ポリエステル樹脂の限りにおいて本件発明1のポリエステル樹脂(A)と一致する。
甲5発明の「環式ジテルペン化合物(E)」は、本件発明1のテルペン系樹脂(Q)からなる樹脂(B)に相当する。

そうすると、本件発明1と甲5発明とでは、
「ポリエステル樹脂組成物を含有する接着剤であって、
ポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)と、テルペン系樹脂(Q)および/またはロジン系樹脂(R)からなる樹脂(B)とを含有する接着剤」で一致し、次の点で相違する。

(相違点25)接着剤が、本件発明1では、有機溶剤を含有しているのに対し、甲5発明では明らかでない点

(相違点26)ポリエステル樹脂(A)が、本件発明1では、多価カルボン酸成分における、テレフタル酸の含有量が30?80モル%であり、イソフタル酸の含有量が20?70モル%であり、多価カルボン酸成分として、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸からなる群から選ばれる多価カルボン酸(X)を含有するか、または、グリコール成分として、ポリテトラメチレングリコールを含有し、多価カルボン酸成分における多価カルボン酸(X)の含有量またはグリコール成分におけるポリテトラメチレングリコールの含有量が3?45モル%であり、ガラス転移温度が-40?70℃であるのに対し、甲5発明では、ガラス転移温度が-80?0℃の範囲である、側鎖に水酸基及び/またはカルボキシル基を有し、芳香環構造を5?50mol%含有するポリエステル系樹脂であって、水酸基を有しない二塩基酸系成分(A)と、カルボキシル基を有しないジオール(B)と、3価以上の多価アルコール(c1)、3価以上の多価カルボン酸(c2)、分子内に環状エーテル基を2個有する化合物(c3)、一分子中に水酸基2個とカルボキシル基1個以上とを有するジオキシカルボン酸(c4)及び一分子中にカルボキシル基2個と水酸基1個以上を有するオキシジカルボン酸(c5)からなる群より選ばれる少なくとも一種の側鎖官能基導入用成分(C)とを反応させてなるポリエステル系樹脂(D1)である点

(相違点27)本件発明1では、樹脂(B)の軟化点が90?120℃であるのに対し、甲5発明では明らかでない点

(相違点28)ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)との質量比(A/B)が、本件発明1では、60/40?90/10であるのに対し、甲5発明では、ポリエステル樹脂(D)100重量部に対して環式ジテルペン樹脂(E)が0.1?80重量部である点

b 判断
(a)相違点26について
事案に鑑み、まず、相違点26を検討する。
甲5には、水酸基を有しない二塩基酸系成分(A)として、脂肪族ジカルボン酸類や芳香族ジカルボン酸の具体例が記載され(摘記(5b))、脂肪族ジカルボン酸として、本件発明1で特定される多価カルボン酸(X)と同じ脂肪族ジカルボン酸類の具体例が例示の一部として記載され(摘記(5b))、また、芳香族ジカルボン酸類として、テレフタル酸及びイソフタル酸が例示の一部として記載されている(摘記(5b))。
しかしながら、甲5には、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸及びイソフタル酸を本件発明1と同じ割合で組み合わせて使用すること、脂肪族ジカルボン酸として、本件発明1で特定される多価カルボン酸(X)と同じ化合物を本件発明1と同じ割合で使用することについては記載されていない。
また、甲1の実施例6及び実施例7、甲2のポリエステルB並びに甲3のポリエステルBは、本件発明1で特定されるポリエステル樹脂(A)と同じポリエステルであるということはできる。
しかしながら、甲1の実施例6及び実施例7に記載されたポリエステルは、ホットメルト接着剤として使用するポリエステルであり、甲5発明である感熱式接着剤とは、その使用方法が異なるといえ、また、甲2及び甲3に記載されたポリエステルBは、成形用樹脂組成物として使用するポリエステルの1成分であり接着剤ではない。そうすると、甲1?甲3に記載されたポリエステルは、甲5に記載された接着剤とその使用形態が異なるといえるから、甲5発明において、甲1?甲3に記載されたポリエステルを適用する動機づけがあるとはいえない。
よって、相違点26を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になしえたとはいえない。

(b)小括
よって、相違点25、27及び28について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明及び甲1?甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(カ)本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は、甲1?甲5に記載された発明及び甲1?甲5に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2?4は、上記「ア」で示した理由と同じ理由により、甲1?甲5に記載された発明及び甲1?甲5に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2について
(1)特許法第36条第4項第1号の考え方について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
よって、この観点に立って、本件の実施可能要件の判断をする。

(2)特許請求の範囲の記載
上記「第2」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(a)「【0006】
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1?3の方法によって、すなわち、ガラス転移温度の高いポリエステル樹脂をブレンドすることによって、また結晶性を有するポリエステル樹脂を用いることによって、ポリエステル樹脂の耐熱性を向上させることはできるが、同時に、ポリエステル樹脂は、基材に対する接着性が低下することがあった。
本発明は、ポリエステル樹脂が本来有する接着性を損なうことなく、耐熱性を向上させたポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
・・・
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接着性を損なうことなく、耐熱性を向上させたポリエステル樹脂組成物が得られる。本発明のポリエステル樹脂組成物より得られる接着剤は、各種用途の接着剤として用いることができ、特に、耐熱性が要求されるフレキシブルフラットケーブル等の製造用の接着剤として適用可能である。」

(b)「【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)とを含有するものであり、前記ポリエステル樹脂(A)はガラス転移温度が-40?70℃であり、前記樹脂(B)は、テルペン系樹脂(Q)および/またはロジン系樹脂(R)からなり、軟化点が80?145℃であり、質量比(A/B)が50/50?95/5である。
【0011】
本発明で用いるポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸成分とグリコール成分とか
ら構成されるものである。ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が-40?70℃であれば、ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分やグリコール成分は、特に限定はされない。
【0012】
ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分として、得られるポリエステル樹脂(A)の耐熱性、接着性、溶剤溶解性をバランスの良いものとするために、テレフタル酸、イソフタル酸を混合して用いることが好ましい。
テレフタル酸、イソフタル酸を混合して用いる場合、多価カルボン酸成分におけるテレフタル酸の含有量は、30?80モル%であることが好ましく、35?75モル%であることがより好ましく、40?70モル%であることがさらに好ましい。テレフタル酸の含有量が30モル%未満では、ポリエステル樹脂(A)は、耐熱性、基材への接着性がともに劣るものとなり、80モル%を超えると、ポリエステル樹脂(A)は溶剤溶解性が劣ることがある。
一方、イソフタル酸の含有量は、20?70モル%であることが好ましく、30?60モル%であることがより好ましく、40?50モル%であることがさらに好ましい。イソフタル酸の含有量が20モル%未満では、ポリエステル樹脂(A)は溶剤溶解性に劣るものとなり、70モル%を超えると、ポリエステル樹脂(A)は、耐熱性、靱性が劣るものとなることがある。
【0013】
また、ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分として、得られるポリエステル樹脂組成物の接着性を向上させるために、上記テレフタル酸やイソフタル酸に加えて、多価カルボン酸(X)を含有することが好ましい。
多価カルボン酸(X)は、アジピン酸(ADA)、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸(AZA)、セバシン酸(SEA)、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸からなる群から選ばれる多価カルボン酸である。なかでも、基材への接着性向上効果が高い点で、アジピン酸(ADA)、アゼライン酸(AZA)またはセバシン酸(SEA)が好ましい。
ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分における多価カルボン酸(X)の含有量は、3?45モル%であることが好ましく、5?40モル%であることがより好ましい。
・・・
【0015】
ポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分も、特に限定はされないが、エチレングリコールや、側鎖を持った脂肪族グリコールを含有することが好ましい。
エチレングリコールを含有する場合、その含有量は、グリコール成分の30?70モル%であることが好ましく、35?65モル%であることがより好ましく、40?60モル%であることがさらに好ましい。
側鎖を持った脂肪族グリコールとしては、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ブチルエチルプロパンジオール等が挙げられ、溶剤溶解性の観点から、特にネオペンチルグリコール、
2-メチル-1,3-プロパンジオールが好ましい。側鎖を持った脂肪族グリコールを含有する場合、その含有量はグリコール成分の30?60モル%であることが好ましく、35?55モル%であることがより好ましく、40?50モル%であることがさらに好ましい。側鎖を持った脂肪族グリコールの含有量が30モル%未満では、溶剤溶解性に劣ることがあり、含有量が60モル%を超えると、耐熱性に劣ることがある。
【0016】
また、ポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分として、得られるポリエステル樹脂組成物の接着性を向上させるために、グリコール(Y)を含有することが好ましい。
グリコール(Y)は、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールからなる群から選ばれるグリコールである。なかでも、接着性向上の効果が高い点で、1,6-ヘキサンジオールまたはポリテトラメチレングリコールが好ましい。
ポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分におけるグリコール(Y)の含有量は、3?45モル%であることが好ましく、4?40モル%であることがより好ましい。
【0017】
ポリエステル樹脂(A)を構成するグリコールとして、上記のグリコール以外に、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール、ダイマージオール、1,2-プロパンジオールなどが挙げられる。
・・・
【0020】
本発明のポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、-40?70℃であることが必要であり、-10?60℃であることが好ましく、0?50℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が-40℃未満であると、得られるポリエステル樹脂組成物は、耐熱性が劣り、耐熱エージング試験等において、基材上に形成された樹脂層が融けて流れ出すことがある。一方、70℃を超えると、基材上に形成された樹脂層は他基材への接着性が劣ったり、耐熱エージング試験を行った際の寸法安定性が不足する。」

(c)「【0021】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)とともに、テルペン系樹脂(Q)および/またはロジン系樹脂(R)からなる樹脂(B)を含有するものである。
【0022】
上記テルペン系樹脂(Q)としては、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテンなどのテルペン単量体をそれぞれ単独で重合したポリテルペン樹脂や、テルペン単量体と芳香族単量体とを共重合した芳香族変性テルペン樹脂や、テルペン単量体とフェノール類とを共重合したテルペンフェノール樹脂や、これらの樹脂に水素添加処理をした水添系のものが挙げられる。上記芳香族単量体としては、スチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられ、フェノール類としては、フェノール、クレゾールなどが挙げられる。テルペン系樹脂(Q)は、中でも、得られるポリエステル樹脂組成物の接着性向上の観点から、ポリテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂が好ましく、芳香族変性テルペン樹脂がより好ましい。市販のテルペン系樹脂として、例えば、ヤスハラケミカル社製の「YSレジン」「クリアロン」「YSポリスター」などが挙げられる。
【0023】
上記ロジン系樹脂(R)としては、ロジン単量体であるアビエチン酸などを、グリセリンエステルやペンタエリストールエステルなどにエステル化した後、不均化した不均化ロジンエステルや、共重合した重合ロジンエステルや、水素添加処理をした水添ロジンエステルなどが挙げられる。中でも、得られるポリエステル樹脂組成物の接着性向上の観点から、不均化ロジンエステル、重合ロジンエステルが好ましい。市販のロジン系樹脂として、例えば、ハリマ化成社製のものが挙げられる。
【0024】
本発明において、樹脂(B)の軟化点は、80?145℃であることが必要であり、85?130℃であることが好ましく、90?120℃であることがより好ましく、100?115℃であることがさらに好ましい。樹脂(B)の軟化点が80℃未満であると、得られるポリエステル樹脂組成物は、耐熱性が劣るものとなる。一方、樹脂(B)の軟化点が145℃より高いと、形成された樹脂層は、他基材への接着性が劣ったり、接着したとしても、耐熱エージング試験等で剥離しやすい傾向がある。」

(d)「【0025】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)の質量比(A/B)が、50/50?95/5であることが必要であり、60/40?90/10であることが好ましく、70/30?85/15であることがより好ましい。ポリエステル樹脂(A)の質量比が50質量%未満であると、形成された樹脂層は、他基材への接着性が劣るばかりか、基材から剥がれたり、融けて流れ出すことがある。一方、ポリエステル樹脂(A)の質量比が95質量%を超えると、ポリエステル樹脂組成物は、接着性、耐熱性が劣るものとなり、形成された樹脂層が、基材から剥がれたり、融けて流れ出すことがある。」

(e)「【0033】
本発明の接着剤は、ポリエステル樹脂(A)および樹脂(B)を含有するポリエステル樹脂組成物と、有機溶剤とを含有するものである。その製造方法としては、[1]ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)の所定量を一括して有機溶剤に溶解する方法や、[2]予めポリエステル樹脂(A)を溶解した有機溶剤溶液と、樹脂(B)を溶解した有機溶剤溶液とを混合する方法や、[3]ポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)を一旦溶融混練した後、得られた樹脂組成物を有機溶剤に溶解する方法等が挙げられ、[1]の方法が好ましい。
接着剤を構成する有機溶剤としては、特に限定はされず、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ソルベッソなどの芳香族系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ノルマルブチルなどのエステル系溶剤;セロソルブアセテート、メトキシアセテートなどのアセテート系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0034】
本発明の接着剤は、固形分濃度が5?60質量%であることが好ましく、10?50質量%であることがより好ましく、20?40質量%であることがさらに好ましい。固形分濃度が5質量%未満であると、接着剤を十分な塗工量で基材に塗布できないことがある。一方、固形分濃度が60質量%を超えると、接着剤の粘度が高くなり過ぎるため、基材に塗布して得られた樹脂層は、厚さの精度が低下することがある。」

(f)「【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
・・・
【0042】
(4)ポリエステル樹脂組成物の溶解性
ポリエステル樹脂組成物に、トルエン8質量部とメチルエチルケトン2質量部とからなる混合溶剤を、固形分濃度が30質量%となるように加えて、溶液を調製し、ポリエステル樹脂組成物の溶解性および溶液の外観を目視で判断した。
○:均一で透明であった。
△:白濁するも均一であった。
×:層分離または不溶であり、不均一であった。
【0043】
(5)ポリエステル樹脂組成物の取扱性
実施例1?36、比較例1?7で得られた樹脂組成物を温度150℃で溶融し、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)に厚みが20μmになるように押し出して樹脂層を形成し積層体を作製した。
また実施例37?38で得られた接着剤を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)に塗布し、120℃で60秒間熱処理することで、乾燥時の厚みが20μmである樹脂層を形成して、積層体を作製した。
ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度、接着剤の溶液粘度、樹脂層の厚み精度とから、樹脂組成物の取扱性を評価した。
○:溶融粘度または溶液粘度が高過ぎず、取扱性が良好であった。
△:樹脂層の厚みの制御はできたが、溶融粘度または溶液粘度が高く、取扱性が低かった。
×:溶融粘度または溶液粘度が高く、樹脂層の厚みを精度よく制御できなかった。
【0044】
(6)積層体樹脂層の基材に対する接着性
前記(5)で作製した積層体を2枚用い、樹脂層形成面どうしを重ね合わせ、エアー式プレス機(林機械製作所社製)を用いて、温度180℃、圧力0.2MPaの条件下、60秒間熱圧着して、熱圧着フィルムを得た。
得られた熱圧着フィルムを、短冊状(長さ100×巾15mm)に切り出し、試験片とした。この試験片について、引張試験機(インテスコ社製精密万能材料試験機2020型)を用い、引張速度50mm/分、引張角度180度の条件で、剥離強度を測定した。測定は5回おこない、その平均値を剥離強度として、下記の基準で接着性を評価した。
◎:剥離強度が15N/15mm以上である。
○:剥離強度が10N/15mm以上、15N/15mm未満である。
△:剥離強度が5N/15mm以上、10N/15mm未満である。
×:剥離強度が5N/15mm未満である。
また、剥離界面を目視で観察し、剥離界面が樹脂層/フィルム間であるものを「Ad/F」、樹脂層凝集破壊であるものを「Ad凝集」、フィルム切れであるものを「F切れ」と表記した。
【0045】
(7)積層体樹脂層の銅板に対する接着性
前記(5)で作製した積層体の樹脂層形成面と、銅板(縦150×横100×厚さ0.3mm)とを重ね合わせ、エアー式プレス機(林機械製作所社製)を用い、温度180℃、圧力0.2MPaの条件下、60秒間熱圧着して、熱圧着板を得た。
得られた熱圧着板を、短冊状(長さ100×巾15mm)に切り出し、試験片とした。この試験片について、引張試験機(インテスコ社製精密万能材料試験機2020型)を用い、引張速度50mm/分、引張角度180度の条件で、剥離強度を測定した。
測定は5回おこない、その平均値を剥離強度として、下記の基準で接着性を評価した。
◎:剥離強度が15N/15mm以上である。
○:剥離強度が10N/15mm以上、15N/15mm未満である。
△:剥離強度が5N/15mm以上、10N/15mm未満である。
×:剥離強度が5N/15mm未満である。
また、剥離界面を目視で観察し、剥離界面が樹脂層/銅板間であるものを「Ad/Cu」、樹脂層凝集破壊であるものを「Ad凝集」と表記した。
【0046】
(8)フレキシブルフラットケーブルの耐熱エージング特性
(i)樹脂層の剥がれ
前記(5)で作製した積層体を2枚用い、それぞれの樹脂層形成面で、間隔が1mmとなるよう平行に配置した2本の錫メッキ銅線(巾0.6mm、厚さ30μm)を挟み込んで、エアー式プレス機(林機械製作所社製)を用い、温度180℃、圧力0.2MPaの条件下、60秒間熱圧着し、フレキシブルフラットケーブル(長さ100×巾15mm、厚さ約0.1mm)を得た。
得られたフレキシブルフラットケーブルを、0.1MPaの荷重がかかるようにクラン
プし、温度が85℃に設定されたオーブン中で240時間熱処理した。室温まで十分に冷却したフレキシブルフラットケーブルを目視で観察し、下記の基準で樹脂層の剥がれを評価した。
◎:積層体の剥がれが見られなかった。
○:積層体全面積の5%未満で剥がれが確認された。
△:積層体全面積の5?10%の範囲で剥がれが確認された。
×:積層体全面積の10%を超える範囲で剥がれが確認された。
【0047】
(ii)樹脂流れ
前記(8)-(i)での評価において、2枚の積層体に挟み込まれた樹脂層から、樹脂が融けて流れ出したか否かを目視で観察し判断した。
〇:樹脂の流れ出しが全くない。
△:樹脂の流れ出しがあるが、その量は樹脂全体量の10%未満である。
×:樹脂の流れ出しがあり、その量は樹脂全体量の10%以上である。
【0048】
(iii)収縮率
前記(8)-(i)で得られたフレキシブルフラットケーブルについて、2本の錫メッキ銅線に囲まれた範囲の長さ方向の長さを、熱処理後に測定し、次式により収縮率を算出した。なお、フレキシブルフラットケーブルの原長は100mmであり、錫メッキ銅線自体は熱処理によっても伸縮しない。また、前記(8)-(i)または(ii)において、評価結果が×のものは、長さの測定を行わなかった。
収縮率(%)=(原長-熱処理後長)/(原長)×100
収縮率が大きいほど、(i)の測定において剥がれ易くなる傾向がある。
【0049】
2.原料
(1)テルペン系樹脂(Q)
・Q-1:芳香族変性テルペン樹脂(ヤスハラケミカル社製「YSレジンTO105」、軟化点105℃)
・Q-2:テルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル社製「YSポリスターT80」、軟化点80℃)
・Q-3:ポリテルペン樹脂(ヤスハラケミカル社製「YSレジンPX1000」、軟化点100℃)
・Q-4:芳香族変性テルペン樹脂水素添加品(ヤスハラケミカル社製「クリアロンP105」、軟化点105℃)
・Q-5:芳香族変性テルペン樹脂(ヤスハラケミカル社製「YSレジンTO115」、軟化点115℃)
・Q-6:テルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル社製「YSポリスターT130」、軟化点130℃)
・Q-7:テルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル社製「YSポリスターT145」、軟化点145℃)
・Q-8:テルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル社製「YSポリスターT30」、軟化点30℃)
・Q-9:テルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル社製「YSポリスターT160」、軟化点160℃)
【0050】
(2)ロジン系樹脂(R)
・R-1:水素添加ロジンエステル(ハリマ化成社製「F105」、軟化点102℃)
・R-2:ロジンエステル(ハリマ化成社製「2520」、軟化点87℃)
・R-3:不均化ロジンエステル(ハリマ化成社製「FK100」、軟化点99℃)
・R-4:重合ロジンエステル(ハリマ化成社製「PCJ」、軟化点123℃)
【0051】
(3)硬化剤(C)
・S-1:4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート[MDI](三井化学社製汎用ポリメリックMDI)
・S-2:ヘキサメチレンジイソシアネート[HDI](旭化成ケミカルズ社製TPA-100)
【0052】
(4)ポリエステル樹脂(A)の調製
調製例1
テレフタル酸83g(50モル%)、イソフタル酸83g(50モル%)、エチレングリコール42g(67モル%)、ネオペンチルグリコール66g(63モル%)、ポリテトラメチレングリコール63g(5モル%)および重合触媒としてテトラブチルチタネート0.1gを反応器に仕込み、系内を窒素に置換した。そして、これらの原料を1000rpmで撹拌しながら、反応器を245℃で加熱し、溶融させた。反応器内温度が245℃に到達してから、3時間エステル化反応を進行させた。3時間経過後、系内の温度を240℃にし、系内を減圧した。系内が高真空(圧力:0.1?10^(-5)Pa)に到達してから、さらに3時間重合反応を行って、ポリエステル樹脂(P-1)を得た。
【0053】
調製例2?20
使用するモノマーの種類とその組成および重合反応時間を表1のように変更した以外は、調製例1と同様にし、ポリエステル樹脂(P-2)?(P-20)を得た。
【0054】
なお、表1における略語は、それぞれ以下のものを示す。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
ADA:アジピン酸
AZA:アゼライン酸
SEA:セバシン酸
SUA:コハク酸
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
PTMG:ポリテトラメチレングリコール(分子量:1000)
HD:1,6-ヘキサンジオール
BAEO:ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物
【0055】
ポリエステル樹脂(P-1)?(P-20)の調製時の仕込組成、最終樹脂組成および特性値を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例1
ポリエステル樹脂(P-1)とテルペン系樹脂(Q-1)とを、質量比が(P-1)/(Q-1)=80/20となるように、混練温度140℃、スクリュー回転150rpm、吐出量15kg/hの条件下、溶融混練して樹脂組成物を得た。各種評価を行った結果を表2に示す。
【0058】
実施例2?4、6?13、16?17、20、23?25、28?36、比較例1?7、参考例1?9
ポリエステル樹脂、テルペン系樹脂およびロジン系樹脂の種類および質量部を表2?3記載のように変更する以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。なお、実施例35、36は、さらに硬化剤を含有させて樹脂組成物を得た。各種評価を行った結果を表2?3に示す。
【0059】
実施例37
実施例1で得られた樹脂組成物を固形分濃度が30質量%となるように、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤(トルエン/メチルエチルケトン=8/2、質量比)に溶解させて、接着剤を得た。得られた接着剤を用いて各種評価を行った。その結果を表3に示す。
【0060】
実施例38
ポリエステル樹脂(P-1)とテルペン系樹脂(Q-1)とを、質量比が(P-1)/(Q-1)=80/20、固形分濃度が30質量%となるように、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤(トルエン/メチルエチルケトン=8/2、質量比)に溶解させて、接着剤を得た。得られた接着剤を用いて各種評価を行った。その結果を表3に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
【表3】



(4)判断
発明の詳細な説明には、特許請求の範囲に記載されたポリエステル樹脂組成物を構成するポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)の具体的な記載がされており(摘記(b)?(d))、また、有機溶剤に関する具体的な記載もある(摘記(e))。さらに、実施例では、本件発明1のポリエステル樹脂(A)の具体例であるP-1、P-2、P-4、P-6?P-13、P-16及びP-17が記載され、本件発明1のポリエステル樹脂組成物の具体例である実施例1、2、4、6?13、16、17、20、23?25、28、30、32?38が記載されており、接着剤としての特性の評価データが記載されている(摘記(f))。
これらの実施例のうち、実施例37及び38は、ポリエステル樹脂組成物と混合溶剤(トルエン/メチルエチルケトン=8/2、質量比)とを含有する接着剤であるから(摘記(f)段落【0059】及び【0060】)、本件発明1の具体例であるということができ、ポリエステル樹脂組成物の溶解性及び取扱性の評価に加えて、これらの接着剤をポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、120℃で60秒間熱処理して乾燥させ、厚みが20μmである樹脂層を形成して、この積層体の接着特性が具体的なデータとともに記載されている(摘記(f)段落【0043】?【0048】、【0056】)。
一方、実施例1、2、4、6?13、16、17、20、23?25、28、30は、得られた樹脂組成物に有機溶剤を添加せず、そのままポリエチレンテレフタレートフィルムに厚みが20μmになるように押し出して樹脂層を形成し積層体を作製し、この積層体の接着特性を評価したことが記載されている(摘記(f)段落【0043】?【0048】)。
しかしながら、実施例1、2、4、6?13、16、17、20、23?25、28、30においてもポリエステル樹脂組成物の溶解性という特性の評価では、ポリエステル樹脂組成物をトルエン8質量部とメチルエチルケトン2質量部とからなる混合溶剤に固形分濃度が30質量%となるように加えて、溶液を調製していることが記載されている(摘記(f)段落【0042】)。
そうすると、実施例1、2、4、6?13、16、17、20、23?25、28、30の場合も、ポリエステル樹脂組成物と有機溶剤とを含有する具体例であるということができる。

以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の具体的な記載がされ、実施例のうち、実施例37及び38では、本件発明1の接着剤の具体例が記載され、その接着剤としての特性等が具体的なデータとともに記載されており、当業者であれば、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、本件発明1の接着剤を作り、その物を使用することができる程度に本件発明1が記載されているといえる。また、実施例のうち実施例1、2、4、6?13、16、17、20、23?25、28、30も、本件発明1のポリエステル樹脂組成物と有機溶剤とを含有する具体例であるということができ、これらの実施例の記載からも、発明の詳細な説明には、本件発明1を作り、使用することができることを記載しているということができる。

(5)申立人がする申立理由について
ア 申立人がする申立理由
申立人がする申立理由は、上記「第3 1(2)」で述べたとおりであり、以下再掲する。なお、見出しの「ア」?「エ」は、「(ア)」?「(エ)」と記載した。

(ア)本件発明1の接着剤は、有機溶剤を必須の構成とするところ、発明の詳細な説明に記載された実施例において有機溶剤を含む例は、実施例37及び38のみである。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(イ)本件発明1の接着剤が含有するポリエステル樹脂(A)は、ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸として、具体的に特定された多価カルボン酸(X)を含有するところ、実施例は、それらの中の一部の多価カルボン酸(X)の例にすぎない。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(ウ)本件発明1の接着剤が含有するポリエステル樹脂(A)は、ポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分として、ポリテトラメチレングリコールを3?45モル%含有するところ、実施例は、グリコール成分として50モル%以上のエチレングリコールと35モル%以上のネオペンチルグリコールを含み、これらの含有量より少ないポリテトラメチレングリコールを含む具体例にすぎない。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(エ)発明の詳細な説明は、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?5についても、上記ア?ウと同じ理由を有する。

イ 申立人がする申立理由の検討
(ア)について
上記(4)で述べたとおり、発明の詳細な説明の具体的な記載や実施例37及び38の記載をみれば、当業者であれば本件発明を容易に実施できるといえる。また、実施例1、2、4、6?13、16、17、20、23?25、28、30も、本件発明1のポリエステル樹脂組成物及び有機溶剤を含有する具体例であるといえ、これらの記載をみても、当業者であれば本件発明を容易に実施できるといえる。一方、申立人は、具体的な反証を挙げた上で発明を実施することができないことを主張している訳ではない。
よって、申立人がする理由(ア)は採用できない。

(イ)について
上記(4)で述べたとおり、発明の詳細な説明の具体的な記載をみると、実施例で使用した多価カルボン酸(X)以外の具体例が記載されており(摘記(b))、この記載をみた当業者であれば本件発明を容易に実施できるといえる。一方、申立人は、具体的な反証を挙げた上で発明を実施することができないことを主張している訳ではない。
よって、申立人がする理由(イ)は採用できない。

(ウ)について
上記(4)で述べたとおり、発明の詳細な説明の具体的な記載をみると、本件発明のポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分のうち、ポリテトラメチレングリコール以外の具体例が記載されており(摘記(b))、この記載をみた当業者であれば本件発明を容易に実施できるといえる。一方、申立人は、具体的な反証を挙げた上で発明を実施することができないことを主張している訳ではない。
よって、申立人がする理由(ウ)は採用できない。

(エ)について
上記(ア)?(ウ)で述べたとおりであるから、申立人がする理由(エ)は採用できない。

(6)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由2によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由3について
(1)特許法第36条第6項第1号の考え方について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点に立って検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
上記「第2」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、上記「2(3)」で示した事項が記載されている。

(4)本件発明の課題について
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】及び発明の詳細な説明全体の記載からみて、本件発明1及び2の課題は、接着性を損なうことなく耐熱性を向上させた接着剤を提供することであり、また、本件発明3の課題は、接着性を損なうことなく耐熱性を向上させた接着剤にて形成された樹脂層を提供することであり、さらに、本件発明4の課題は、接着性を損なうことなく耐熱性を向上させた接着剤にて形成された樹脂層を含有する積層体を提供することであり、加えて、本件発明5の課題は、接着性を損なうことなく耐熱性を向上させた接着剤にて形成された樹脂層を含有する積層体を用いてなるフレキシブルフラットケーブルを提供することであると認める。

(5)判断
発明の詳細な説明には、特許請求の範囲に記載されたポリエステル樹脂組成物を構成するポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)の具体的な記載がされており(摘記(b)?(d))、ポリエステル樹脂(A)の多価カルボン酸としてテレフタル酸及びイソフタル酸を混合すると、耐熱性、接着性のバランスがよい旨の記載がされ(摘記(b)段落【0012】)また、ポリエステル樹脂(A)の多価カルボン酸として多価カルボン酸(X)を含有すると、接着性が向上する旨の記載がされている(摘記(b)【0013】)。さらに、ポリエステル樹脂(A)のグリコール成分として、種々の具体的なグリコール化合物を挙げた上で、接着性の点でポリテトラメチレングリコールが好ましいことが記載されている。加えて、有機溶剤に関する具体的な記載もある(摘記(e))。そして、実施例では、本件発明1のポリエステル樹脂(A)の具体例であるP-1、P-2、P-4、P-6?P-13、P-16及びP-17が記載され、本件発明1のポリエステル樹脂組成物の具体例である実施例1、2、4、6?13、16、17、20、23?25、28、30、32?38が記載されており、接着剤としての特性の評価データが記載されている(摘記(f))。
これらの実施例のうち、実施例37及び38は、ポリエステル樹脂組成物と混合溶剤(トルエン/メチルエチルケトン=8/2、質量比)とを含有する接着剤であるから(摘記(f)段落【0059】及び【0060】)、本件発明1の具体例であるということができ、ポリエステル樹脂組成物の溶解性及び取扱性の評価に加えて、これらの接着剤をポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、120℃で60秒間熱処理して乾燥させ、厚みが20μmである樹脂層を形成して、この積層体の接着特性が具体的なデータとともに記載され(摘記(f)段落【0043】?【0048】)、課題を解決できることが確認できる。
一方、実施例1、2、4、6?13、16、17、20、23?25、28、30は、得られた樹脂組成物に有機溶剤を添加せず、そのままポリエチレンテレフタレートフィルムに厚みが20μmになるように押し出して樹脂層を形成し積層体を作製し、この積層体の接着特性を評価したことが記載されている(摘記(f)段落【0043】?【0048】)。しかしながら、実施例1、2、4、6?13、16、17、20、23?25、28、30においてもポリエステル樹脂組成物の溶解性という特性の評価では、ポリエステル樹脂組成物をトルエン8質量部とメチルエチルケトン2質量部とからなる混合溶剤に固形分濃度が30質量%となるように加えて、溶液を調製していることが記載されている(摘記(f)段落【0042】)。そうすると、実施例1、2、4、6?13、16、17、20、23?25、28、30の場合も、ポリエステル樹脂組成物と有機溶剤とを含有する具体例であるということができる。

以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の具体的な記載がされ、実施例のうち、実施例37及び38では、本件発明1の接着剤の具体例が記載され、その接着剤としての特性等が具体的なデータとともに記載されており、本件発明1の全般にわたり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。また、実施例のうち実施例1、2、4、6?13、16、17、20、23?25、28、30も、本件発明1のポリエステル樹脂組成物と有機溶剤とを含有する具体例であるということができ、これらの実施例の記載からも、本件発明1の全般にわたり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(6)申立人がする申立理由について
ア 申立人がする申立理由
申立人がする申立理由は、上記「第3 1(3)」で述べたとおりであり、以下再掲する。なお、見出しの「ア」?「エ」は、「(ア)」?「(エ)」と記載した。

(ア)本件発明1の接着剤は、有機溶剤を必須の構成とするところ、発明の詳細な説明に記載された実施例において有機溶剤を含む例は、実施例37及び38のみである。
したがって、本件発明1は、本件発明1にわたり課題を解決できると認識できるとはいえない。

(イ)本件発明1の接着剤が含有するポリエステル樹脂(A)は、ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸として、具体的に特定された多価カルボン酸(X)を含有するところ、実施例は、それらの中の一部の多価カルボン酸(X)の例にすぎず、発明の詳細な説明には、本件発明1にわたり課題を解決できると認識できる作用機序の説明はない。
したがって、本件発明1は、本件発明1にわたり課題を解決できると認識できるとはいえない。

(ウ)本件発明1の接着剤が含有するポリエステル樹脂(A)は、ポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分として、ポリテトラメチレングリコールを3?45モル%含有するところ、実施例は、グリコール成分として50モル%以上のエチレングリコールと35モル%以上のネオペンチルグリコールを含み、これらの含有量より少ないポリテトラメチレングリコールを含む具体例にすぎない。
したがって、本件発明1は、本件発明1にわたり課題を解決できると認識できるとはいえない。

(エ)本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?5も同じ理由を有する。

イ 申立人がする申立理由の検討
(ア)について
上記(5)で述べたとおり、本件発明1の全般にわたり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。また、実施例1、2、4、6?13、16、17、20、23?25、28、30も、本件発明1のポリエステル樹脂組成物及び有機溶剤を含有する具体例であるといえ、これらの記載をみても、本件発明1の全般にわたり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。一方、申立人は、具体的な反証を挙げた上でサポート要件を満たさないことを主張している訳ではない。
よって、申立人がする理由(ア)は採用できない。

(イ)について
上記(5)で述べたとおり、発明の詳細な説明の具体的な記載をみると、実施例で使用した多価カルボン酸(X)以外の具体例が記載され、発明の課題を解決できることが記載されているから(摘記(b))、本件発明1の全般にわたり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。一方、申立人は、具体的な反証を挙げた上で発明を実施することができないことを主張している訳ではない。
よって、申立人がする理由(イ)は採用できない。

(ウ)について
上記(5)で述べたとおり、発明の詳細な説明の具体的な記載をみると、本件発明のポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分のうち、ポリテトラメチレングリコール以外の具体例が記載され、発明の課題を解決できることが記載されているから(摘記(b))、本件発明1の全般にわたり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。一方、申立人は、具体的な反証を挙げた上で発明を実施することができないことを主張している訳ではない。
よって、申立人がする理由(ウ)は採用できない。

(エ)について
上記(ア)?(ウ)で述べたとおりであるから、申立人がする理由(エ)は採用できない。

(7)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由3によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-08-31 
出願番号 特願2015-551485(P2015-551485)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大木 みのり岡谷 祐哉  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 佐藤 健史
橋本 栄和
登録日 2019-09-13 
登録番号 特許第6584321号(P6584321)
権利者 ユニチカ株式会社
発明の名称 接着剤  
代理人 特許業務法人森本国際特許事務所  

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