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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21F |
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管理番号 | 1366927 |
審判番号 | 不服2019-17244 |
総通号数 | 251 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-11-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-12-20 |
確定日 | 2020-10-08 |
事件の表示 | 特願2014-253240号「放射性廃液処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年6月23日出願公開、特開2016-114472号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年12月15日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年 8月10日付け:拒絶理由通知書 平成30年10月19日 :意見書、手続補正書の提出 平成31年 2月20日付け:拒絶理由通知書(最後) 平成31年 4月26日 :意見書、手続補正書の提出 令和元年 9月 3日付け:平成31年4月26日になされた手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定(謄本送達日 同年同月24日 以下「原査定」という。) 令和元年12月20日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和元年12月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和元年12月20日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2の記載は、次のとおり、補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載のとおりに補正された(下線部は、補正前の請求項2に対しての補正箇所である。)。 「【請求項1】 放射性廃液に、無機系材料からなる粉末吸着剤を添加し、前記放射性廃液と前記粉末吸着剤とを混合することにより、前記放射性廃液中の放射性物質を前記粉末吸着剤に吸着させる吸着ステップと、 前記吸着ステップの後に、前記放射性廃液に対して固液分離を施すことで、前記放射性廃液から前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤を分離させる固液分離ステップと、 前記固液分離ステップの後に、前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤を無機系の固化材を用いて固化させる固化ステップと、 前記固化ステップの前に、前記固液分離ステップで前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤が分離された前記放射性廃液を無機系材料からなるフィルタに通水させるフィルタ通水ステップとを含み、 前記粉末吸着剤の粒径は、0.003mm以上0.3mm未満である放射性廃液処理方法。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、平成30年10月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 放射性廃液に、無機系材料からなる粉末吸着剤を添加し、前記放射性廃液と前記粉末吸着剤とを混合することにより、前記放射性廃液中の放射性物質を前記粉末吸着剤に吸着させる吸着ステップと、 前記吸着ステップの後に、前記放射性廃液に対して固液分離を施すことで、前記放射性廃液から前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤を分離させる固液分離ステップと、 前記固液分離ステップの後に、前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤を無機系の固化材を用いて固化させる固化ステップと、を含み、 前記粉末吸着剤の粒径は、0.003mm以上0.3mm未満である放射性廃液処理方法。 【請求項2】 前記固化ステップの前に、前記固液分離ステップで前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤が分離された前記放射性廃液をフィルタに通水させるフィルタ通水ステップを含む請求項1に記載の放射性廃液処理方法。」 2.補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項2に記載された発明を特定するために必要な事項である「フィルタ」ついて、「無機系材料からなる」との限定を付加するものであって、補正前の請求項2に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記「1.」「(1)」に記載したとおりの次のものである(なお、A?Fは、本件補正発明を分説するために当審で付したものである。)。 「A 放射性廃液に、無機系材料からなる粉末吸着剤を添加し、前記放射性廃液と前記粉末吸着剤とを混合することにより、前記放射性廃液中の放射性物質を前記粉末吸着剤に吸着させる吸着ステップと、 B 前記吸着ステップの後に、前記放射性廃液に対して固液分離を施すことで、前記放射性廃液から前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤を分離させる固液分離ステップと、 C 前記固液分離ステップの後に、前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤を無機系の固化材を用いて固化させる固化ステップと、 D 前記固化ステップの前に、前記固液分離ステップで前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤が分離された前記放射性廃液を無機系材料からなるフィルタに通水させるフィルタ通水ステップとを含み、 E 前記粉末吸着剤の粒径は、0.003mm以上0.3mm未満である F 放射性廃液処理方法。」 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平5-34497号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。 (a)「【産業上の利用分野】本発明は原子力発電所や原子燃料再処理工場から発生する放射性廃液の処理方法に係り、とくに、アルカリ廃液から放射性核種を吸着除去する方法に関する。」(2頁1欄27行、及び、同頁2欄1?3行) (b)「【課題を解決するための手段】本発明では吸着剤として、珪素と酸素で構成されるシロキサン結合と珪素と酸素と水素で構成されるシラノール基を持つ珪素化合物、もしくは、珪素と酸素とアルミニウムで構成されるアルミノシリケートを主成分とする無機物を使用し、本吸着剤を充填した吸着装置にアルカリ廃液をそのまま通水し、含有する放射性核種を吸着除去することを特徴とする。」(2頁2欄15?22行) (c)「【実施例】本実施例は放射性セシウムを含む廃液(中性、アルカリ性)を処理した結果について示す。実施方法は廃液11に吸着剤粉末を50g添加し、約一時間撹拌した後、遠心分離で吸着剤と廃液を分離した。廃液中の放射性セシウムの吸着処理前後の比を除染係数と定義して、表1に示す。 【表1】 表1のように本発明の吸着剤はアルカリ廃液でも十分に高い除染係数を示し、吸着処理の前段のpH調整操作が不要であることが判った。本実施例は図1に示すような吸着装置1に廃液を通水することによって実施することができる。ここで、使用済みの吸着剤はセメントペーストと混合し、固化容器内に安定に固形化され、最終処分可能な固化体となる。」(2頁2欄29行?3頁3欄5行、及び、2頁1欄50行) (イ)上記(ア)によれば、下記の事項が記載されていると認められる。 (a)「吸着剤として、珪素と酸素で構成されるシロキサン結合と珪素と酸素と水素で構成されるシラノール基を持つ珪素化合物、もしくは、珪素と酸素とアルミニウムで構成されるアルミノシリケートを主成分とする無機物を使用し、本吸着剤を充填した吸着装置にアルカリ廃液をそのまま通水し、含有する放射性核種を吸着除去する」(上記「(ア)」「(b)」)ことを、「廃液11に吸着剤粉末を50g添加し、約一時間撹拌した後、遠心分離で吸着剤と廃液を分離し」(上記「(ア)」「(c)」)て行う「放射性廃液の処理方法に係り、とくに、アルカリ廃液から放射性核種を吸着除去する方法」(上記「(ア)」「(a)」)であるから、放射性廃液であるアルカリ廃液に、無機物を使用した吸着剤粉末を添加し、撹拌した後、遠心分離で吸着剤と廃液を分離することにより、前記放射性廃液であるアルカリ廃液から放射性核種を吸着除去するステップを備える放射性廃液の処理方法であるといえる。 (b)「廃液11に吸着剤粉末を50g添加し、約一時間撹拌した後、遠心分離で吸着剤と廃液を分離」(上記「(ア)」「(c)」)する「放射性廃液の処理方法」(上記「(ア)」「(a)」)であるから、上記(a)の吸着除去するステップの後に、放射性廃液を遠心分離で吸着剤と放射性廃液とに分離することで、前記放射性廃液から前記吸着剤を分離させるステップを備える放射性廃液の処理方法であるといえる。 (c)「廃液11に吸着剤粉末を50g添加し、約一時間撹拌した後、遠心分離で吸着剤と廃液を分離した。・・・使用済みの吸着剤はセメントペーストと混合し、固化容器内に安定に固形化され、最終処分可能な固化体となる」(上記「(ア)」「(c)」)する「放射性廃液の処理方法」(上記「(ア)」「(a)」)であるから、上記(b)の分離させるステップの後に、前記吸着剤をセメントペーストと混合し、、固化容器内に安定に固形化され、最終処分可能な固化体となすステップを備える放射性廃液の処理方法であるといえる。 (ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる(なお、a、b、c及びfは、構成A、B、C及びFに対応させて当審が付した)。 「a 放射性廃液であるアルカリ廃液に、無機物を使用した吸着剤粉末を添加し、撹拌した後、遠心分離で吸着剤と廃液を分離することにより、前記放射性廃液であるアルカリ廃液から放射性核種を吸着除去するステップと、 b 前記吸着除去するステップの後に、前記吸着剤粉末を添加した放射性廃液であるアルカリ廃液を、遠心分離で吸着剤と放射性廃液とに分離することで、前記吸着剤粉末を添加した放射性廃液であるアルカリ廃液から前記吸着剤を分離させるステップと、 c 前記分離させるステップの後に、前記吸着剤をセメントペーストと混合し、固化容器内に安定に固形化され、最終処分可能な固化体となすステップとを含む、 f 放射性廃液の処理方法。」 イ 引用文献2 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2013-246144号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。 (a)「【技術分野】 【0001】 本発明は、放射性ストロンチウムを含む放射性排水から、効率的に放射性ストロンチウムを除去する方法及び装置に関する。」 (b)「【0027】 本発明においては、放射性ストロンチウム含有排水(以下、「原水」と称す場合がある。)に粉末状チタン酸アルカリ金属塩を添加して、撹拌機付き反応槽で撹拌混合することにより、排水と粉末状チタン酸アルカリ金属塩とを固液接触させて排水中の放射性ストロンチウムを粉末状チタン酸アルカリ金属塩に吸着させて除去する。その後は、放射性ストロンチウムを吸着した粉末状チタン酸アルカリ金属塩を固液分離することにより、放射性ストロンチウムが高度に除去された処理水を得ることができる。・・・ 【0030】 排水に添加する粉末状チタン酸アルカリ金属塩としては、平均粒子径が1?1000μm、特に1?100μm、とりわけ5?50μmであるものが好ましい。粉末状チタン酸アルカリ金属塩の平均粒子径が小さ過ぎると取り扱い性が悪くなり、大き過ぎると比表面積が小さくなって放射性ストロンチウムの吸着能が低下する傾向にある。平均粒子径は、例えばレーザー回折粒度分布測定装置により測定することができる。」 (イ)上記(ア)よれば、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されているものと認められる。 「放射性ストロンチウム含有排水に粉末状チタン酸アルカリ金属塩を添加して、撹拌機付き反応槽で撹拌混合することにより、排水と粉末状チタン酸アルカリ金属塩とを固液接触させて排水中の放射性ストロンチウムを粉末状チタン酸アルカリ金属塩に吸着させて除去する方法において、粉末状チタン酸アルカリ金属塩の平均粒子径が小さ過ぎると取り扱い性が悪くなり、大き過ぎると比表面積が小さくなって放射性ストロンチウムの吸着能が低下する傾向にあるから、排水に添加する粉末状チタン酸アルカリ金属塩としては、平均粒子径が1?1000μm、特に1?100μm、とりわけ5?50μmであるものが好ましいこと。」 ウ 引用文献3 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2014-102085号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。 (a)「【技術分野】 【0001】 本発明は、放射性物質に汚染された廃水やガスから放射性物質を分離回収し、環境の除染に活用することが可能な放射性物質吸着剤、それを用いた放射性物質の回収方法及び回収装置に関する。」 (b)「【0032】 尚、凝集沈降が進行する間に、水性液に含まれるマグネシウムやナトリウム等の金属イオンによって吸着剤中の放射性物質が再度置換されて放出される可能性があるが、これは、水性液のpHが6?10である状態で凝集処理を行うことによって防止可能である。従って、凝集沈降処理を施す前に、水性液のpHを確認し、上記範囲にない場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強塩基性水溶液、又は、硫酸ニッケル、硫酸第一鉄等の強酸性水溶液を用いてpHを調整すると良い。このように適正なpHに調整された水性液に凝集剤を添加すれば、放射性物質を再放出することなく、吸着剤のフロックが良好に形成されて沈降し、固液分離によって吸着剤を容易に除去することができる。従って、除染された水性液を効率よく得ることができ、放射性物質は吸着剤と共に回収される。固液分離によって得られた上澄みの水性液を、更にフィルターによって濾過すれば、吸着剤の除去が確実になるので好ましい。」 (イ)上記(ア)よれば、引用文献3には、次の事項(以下「引用文献3に記載された事項」という。)が記載されているものと認められる。 「放射性物質に汚染された廃水から放射性物質を分離回収することが可能な放射性物質吸着剤を用いた放射性物質の回収方法において、固液分離によって得られた上澄みの水性液を、更にフィルターによって濾過すれば、吸着剤の除去が確実になるので好ましいこと。」 (3)対比・判断 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「無機物を使用した吸着剤粉末」、「放射性核種」及び「吸着除去するステップ」は、本件補正発明の「無機系材料からなる粉末吸着剤」、「放射性物質」及び「吸着ステップ」にそれぞれ相当するから、引用発明の「放射性廃液であるアルカリ廃液に、無機物を使用した吸着剤粉末を添加し、撹拌した後、遠心分離で吸着剤と廃液を分離することにより、前記放射性廃液であるアルカリ廃液から放射性核種を吸着除去するステップ」(構成a)は、本件補正発明の「放射性廃液に、無機系材料からなる粉末吸着剤を添加し、前記放射性廃液と前記粉末吸着剤とを混合することにより、前記放射性廃液中の放射性物質を前記粉末吸着剤に吸着させる吸着ステップ」(構成A)に相当する。 (イ)引用発明の「前記吸着剤粉末を添加した放射性廃液であるアルカリ廃液を、遠心分離で吸着剤と放射性廃液とに分離すること」は、本件補正発明の「放射性廃液に対して固液分離を施すこと」に相当するとともに、前記吸着剤粉末を添加した放射性廃液であるアルカリ廃液から分離した前記吸着剤が放射性核種を吸着した吸着剤を含むことは明らかであるから、引用発明の「前記吸着除去するステップの後に、前記吸着剤粉末を添加した放射性廃液であるアルカリ廃液を、遠心分離で吸着剤と放射性廃液とに分離することで、前記吸着剤粉末を添加した放射性廃液であるアルカリ廃液から前記吸着剤を分離させるステップ」(構成b)は、本件補正発明の「前記吸着ステップの後に、前記放射性廃液に対して固液分離を施すことで、前記放射性廃液から前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤を分離させる固液分離ステップ」(構成B)に相当する。 (ウ)セメントペーストが無機系の固化材であることは明らかであるから、引用発明の「吸着剤をセメントペーストと混合し、固化容器内に安定に固形化され、最終処分可能な固化体となす」ことは、本件補正発明の「粉末吸着剤を無機系の固化材を用いて固化させる」ことに相当する。 また、前記吸着剤粉末を添加した放射性廃液であるアルカリ廃液から分離した前記吸着剤が放射性核種を吸着した吸着剤を含むことは明らかである。 したがって、引用発明の「前記分離させるステップの後に、前記吸着剤をセメントペーストと混合し、固化容器内に安定に固形化され、最終処分可能な固化体となすステップ」(構成c)は、本件補正発明の「前記固液分離ステップの後に、前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤を無機系の固化材を用いて固化させる固化ステップ」(構成C)に相当する。 (エ)引用発明の「放射性廃液の処理方法」(構成f)は、本件補正発明の「放射性廃液処理方法」(構成F)に相当する。 (オ)以上によれば、本件補正発明と引用発明は、 「A 放射性廃液に、無機系材料からなる粉末吸着剤を添加し、前記放射性廃液と前記粉末吸着剤とを混合することにより、前記放射性廃液中の放射性物質を前記粉末吸着剤に吸着させる吸着ステップと、 B 前記吸着ステップの後に、前記放射性廃液に対して固液分離を施すことで、前記放射性廃液から前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤を分離させる固液分離ステップと、 C 前記固液分離ステップの後に、前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤を無機系の固化材を用いて固化させる固化ステップと、を含む、 F 放射性廃液処理方法。」 の点で一致するとともに、下記各点で相違すると認められる (相違点1) 本件補正発明は、「固化ステップの前に、前記固液分離ステップで前記放射性物質を吸着した前記粉末吸着剤が分離された前記放射性廃液を無機系材料からなるフィルタに通水させるフィルタ通水ステップとを含」むのに対して、引用発明はこのようなステップを含むと特定されない点。 (相違点2) 粉末吸着剤が、本件補正発明は、「粒径は、0.003mm以上0.3mm未満である」と特定されるのに対して、引用発明は粒径が特定されない点。 イ 判断 (ア)上記相違点1について検討する。 引用文献1は、「原子力発電所や原子燃料再処理工場から発生する放射性廃液の処理方法に係り、とくに、アルカリ廃液から放射性核種を吸着除去する方法に関する」(上記「(2)」「ア」「(ア)」「(a)」)ものであるところ、原子力発電所や原子燃料再処理工場から発生する放射性廃液中の放射性核種はできるだけ多く吸着除去すべきものであることは、本願出願当時の技術常識である。 これに対して、引用文献3には、「放射性物質に汚染された廃水から放射性物質を分離回収することが可能な放射性物質吸着剤を用いた放射性物質の回収方法において、固液分離によって得られた上澄みの水性液を、更にフィルターによって濾過すれば、吸着剤の除去が確実になるので好ましいこと。」(引用文献3に記載された事項)が記載されていて、「固液分離によって得られた上澄みの水性液を、更にフィルターによって濾過すれば、吸着剤の除去が確実になるので好ましいこと」ことが公知の事項であるといえる。 また、原子力施設の廃液処理に関する技術において、無機系材料からなるフィルターが耐熱性、耐放射線性等の点で優れていることは本願出願当時の周知の技術的事項にすぎない(例えば、後記周知文献1?3参照。)から、放射性物質に汚染された廃水から放射性物質を分離回収するに際して用いるフィルターとして特に無機系材料からなるフィルターを採用することは当業者が容易に想到し得ることである。 ここで、「固液分離によって得られた上澄みの水性液を、更にフィルターによって濾過して」得られた「放射性核種を吸着した吸着剤」も適宜最終処分しなければならないものであることは明らかである。 また、フィルターによって濾過して得られた放射性核種を吸着した吸着剤と、遠心分離で得られた放射性核種を吸着した吸着剤は、同じ吸着剤であるから両者の最終処分を異なる処分とすべき理由はなく、両者をあわせて最終処分とすることは当業者が発明を実施するに際して当然に考慮する事項にすぎない。 そして、フィルターによって濾過して得られた放射性核種を吸着した吸着剤と遠心分離で得られた放射性核種を吸着した吸着剤とあわせて最終処分とするためには、当該濾過するステップを最終処分可能な固化体となすステップの前に行うことは当然のことである。 したがって、引用発明において、「分離させるステップ」(構成b)の後であって、「固化体となすステップ」(構成c)の前に、引用文献3に記載された事項及び上記周知の技術的事項を踏まえて、「分離させるステップ」によって得られた上澄みの水性液を、更に無機系材料からなるフィルターによって濾過する構成となし、引用発明において上記相違点1に係る本件補正発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。 (イ)上記相違点2について検討する。 引用発明は、「無機物を使用した吸着剤粉末」(構成a)を用いる発明であるから、発明を実施するに際しては、「無機物を使用した吸着剤粉末」の粒径を適宜定める必要があることは明らかである。 これに対して、引用文献2には、「放射性ストロンチウムを含む放射性排水から、効率的に放射性ストロンチウムを除去する方法において、粉末状チタン酸アルカリ金属塩の平均粒子径が小さ過ぎると取り扱い性が悪くなり、大き過ぎると比表面積が小さくなって放射性ストロンチウムの吸着能が低下する傾向にあるから、排水に添加する粉末状チタン酸アルカリ金属塩としては、平均粒子径が1?1000μm、特に1?100μm、とりわけ5?50μmであるものが好ましいこと。」(引用文献2に記載された事項)が記載されていて、「無機物を使用した吸着剤粉末」は、「平均粒子径が小さ過ぎると取り扱い性が悪くなり、大き過ぎると比表面積が小さくなって・・・吸着能が低下する傾向にある」ことが公知の事項であるといえる。 したがって、「無機物を使用した吸着剤粉末」の粒径を定めて引用発明を実施するに際し、平均粒子径が小さ過ぎると取り扱い性が悪くなり、大き過ぎると比表面積が小さくなって吸着能が低下する傾向にあることを踏まえて、使用する無機物の種類に応じて適宜定めることは当業者が容易に想到し得たことであり、その際に、粒径を0.003mm以上0.3mm未満とすることに格別の困難性は認められない。 また、本件補正発明において、粒径を0.003mm以上0.3mm未満とすることに臨界的意義は認められない。 よって、引用文献2に記載された事項に基づいて、引用発明において上記相違点2に係る本件補正発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。 ウ 周知文献 (ア)周知文献1(特開平4-156909号公報) (a)「(産業上の利用分野) 本発明は原子力施設の液体処理、特に廃液処理や復水系の水処理に用いるセラミックフィルタ濾過器に関する。 (従来の技術) 原子力施設、特に核燃料を処理する再処理工場では強い放射能を持つ金属酸化物が発生するので、これを除去する必要がある。かかる金属酸化物の除去手段として、有機高分子材料を用いた中空糸膜フィルタが知られているが、金属酸化物の強い放射能のため中空糸膜フィルタの劣化が著しく、長期間の使用は不可能であった。 また、原子力発電所復水系のヒータードレン等の比較的温度の高い(60?90℃)系統では有機高分子からなる中空糸膜フィルタを用いることは耐熱性に問題があった。」(1頁左欄11行?同頁右欄7行) (b)「(課題を解決するための手段) 本発明は上記目的を達成するために、セラミックフィルタ濾過器本体内にセラミックフィルタを収納すると共に前記濾過器本体と前記セラミックフィルタの空隙部に無機イオン交換体を充填したことを特徴とする。」(2頁左上欄5?10行) (イ)周知文献2(特開平3-232521号公報) (a)「(産業上の利用分野) 本発明は、電解質溶液が浸蝕性で、かつ高温でも透析することができ、かつ再処理しても寿命の長い電解質溶液のイオン成分除去方法に関する。 (従来の技術) 原子カプラントで発生する種々の放射性廃液は、放射能を帯びたクラッド・・・の他に、Ca^(2+)、Mg^(2)+、Cl^(-)などのイオン成分を含む。すなわち、このような放射性廃液は一種の電解質溶液である。そして、この放射性廃液を再使用する場合は、これらクラッドやイオン成分を第3図に示す放射性廃棄物処理システムで除去する。」(1頁左欄10行?同頁右欄8行) (b)「(作用) 本発明による電解質溶液のイオン成分除去方法においては、電解質溶液を導電性セラミックスフィルタで電気透析する。すなわち、フィルタの素材となるセラミックスは、これまでフィールタの材料となっていた有機高分子に比べ、耐熱性、耐薬品性、耐バクテリア性に優れ、洗浄・再使用する場合でも耐用年限が長いという特長を有する。」(3頁右上欄10?17行) (ウ)周知文献3(特開2013-202513号公報) (a)「【技術分野】 【0001】 本発明は、放射性物質含有水等の処理方法と装置に関し、さらに詳しくは、耐水性・耐酸性・耐アルカリ性・耐熱性・耐放射線性を有するゼオライト膜を用いて、放射性物質等を含有する廃水を処理して実質的に該放射性物質を含まない除染・浄化水を取得回収すると共に、該放射性物質を濃縮するプロセスと装置、およびゼオライト膜を用いて温度の高い放射性物質等含有水の冷却や定温維持を図ると共に、実質的に該放射性物質を含まない除染・浄化水を取得回収するプロセスと装置に関する。」 (b)「【0037】 (微細ろ過装置) 本発明では、上述のとおり、微細ろ過装置を装備することを特徴としている。 しかし、既往の逆浸透プロセスにおいては、多くの場合この目的で高分子製フィルターや高分子製の精密ろ過膜(MF)などが利用されているが、放射性物質等を含む高温の廃水等を被処理水とすることが多い本発明のプロセスにおいては、耐熱性と耐放射線性が必要不可欠な特性であるため、アルミナなど無機酸化物や金属の粉末を焼結して作製するセラミックス製や金属製の多孔質ろ過体の利用が望ましい。特に、金属線を金属製支持体の周囲に捻りながら巻くことにより形成された線と線の間の微細な隙間を利用する金属製フィルターや、細い金属繊維を圧縮成型して微細な網目状の隙間を利用する金属製フィルター等を用いた全金属製の微細ろ過装置の利用が好ましい。この種の全金属製フィルターは、被処理水のろ過抵抗が小さく、空気や窒素等の気体を用いて極めて容易に逆洗を行うことができるからである。なお、該金属製フィルターは、少なくとも70℃以上望ましくは100℃以上の熱水のろ過に利用可能なものの使用が好ましく、少なくとも30μm以上、好ましくは10μm以上、特に好ましくは1μm以上の微細粒子が分離除去できる性能を 有すものの使用が好ましい。」 エ 請求人の主張 (ア)請求人は、令和元年12月20日提出の審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】、「2.特許法第29条第2項について」、「(2) 本願発明と引用文献に記載の発明との対比」、「(イ)」において、「一方、いずれの引用文献にも、放射性廃液を通水させるフィルタをあえて無機系材料から構成する点については記載も示唆もされていない。そのため、引用文献1?6のいずれかに基づいて、本願発明1のように、放射性廃液を通水させるフィルタをあえて無機系材料から構成するという特徴的な構成に想到することはできず、有機系の二次廃棄物が増加してしまうことを防ぐという顕著な効果を奏することもできない。」と主張する。 (イ)しかしながら、上記イで検討したとおりであるから、上記主張は採用できない。 オ 本件補正発明の奏する作用効果について そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2、3に記載された事項及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 カ 小括 したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2、3に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.本件補正についてのむすび 以上によれば、本件補正は同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 また、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1.本願発明 令和元年12月20日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明は、平成30年10月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2」[理由]「1.」「(2)」に記載のとおりのものである。 2.請求項2に係る発明の原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項2に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開平5-34497号公報 引用文献2:特開2013-246144号公報 引用文献3:特開2014-102085号公報 3.引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3及びその記載事項は、上記「第2」[理由]「2.」「(2)」に記載したとおりである。 4.対比・判断 本願発明は、上記「第2」[理由]「2.」で検討した本件補正発明から、「フィルタ」に関して、「無機系材料からなる」との限定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2」[理由]「2.」に記載したとおり、引用発明及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-07-29 |
結審通知日 | 2020-08-04 |
審決日 | 2020-08-20 |
出願番号 | 特願2014-253240(P2014-253240) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G21F)
P 1 8・ 575- Z (G21F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤原 伸二 |
特許庁審判長 |
瀬川 勝久 |
特許庁審判官 |
松川 直樹 野村 伸雄 |
発明の名称 | 放射性廃液処理方法 |
代理人 | 伊藤 英輔 |
代理人 | 鎌田 康一郎 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 橋本 宏之 |
代理人 | 古都 智 |