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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A61M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61M |
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管理番号 | 1366942 |
異議申立番号 | 異議2019-700879 |
総通号数 | 251 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-11-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-11-08 |
確定日 | 2020-08-18 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6509237号発明「固定装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6509237号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-10〕について訂正することを認める。 特許第6509237号の請求項1ないし4、6ないし10に係る特許を維持する。 特許第6509237号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6509237号(以下、「本件特許」という。)の請求項1-10に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)3月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年3月21日 (GB)英国)を国際出願日とする出願であって、平成31年4月12日にその特許権の設定登録がされ、令和1年5月8日に特許掲載公報が発行された。 これに対し、令和1年11月8日付けで特許異議申立人佐藤一彬(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和2年1月16日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和2年4月20日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和2年6月12日に意見書を提出した。 2 訂正の適否についての判断 1)請求項1-6に係る訂正 (1)訂正の内容 請求項1-6に係る訂正の内容は、以下のア-ウのとおりである。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を「固定構造部材を人工的気道デバイスの気道チューブに対して着脱可能に固定するための固定装置であって、 前記固定装置が、この固定装置の解除状態においては、前記気道チューブの外表面に対しての係留的な軸線方向移動が可能とされ、 前記固定装置が、この固定装置の固定状態においては、前記気道チューブに対しての軸線方向移動が阻止され、 前記固定装置が、前記固定装置が前記固定状態とされたときには前記気道チューブの前記外表面の面積部分に対して圧縮負荷を印加する圧縮手段を具備し、 前記固定装置が、さらに、前記気道チューブの前記外表面上において前記圧縮負荷を集中させるための径方向負荷集中手段を具備しており、 前記径方向負荷集中手段が、少なくとも2つの組をなす、互いに近接して離間配置された複数のリッジを有しており、 互いに近接して離間配置された前記複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている、 ことを特徴とする固定装置。」に訂正する(請求項1の記載を引用する訂正後の請求項2-4、6も同様に訂正する。)。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項6を「請求項1?4のいずれか1項に記載の固定装置において、 前記固定装置が、1つまたは複数の固定ストラップを具備している、ことを特徴とする固定装置。」に訂正する。 (2)一群の請求項について 訂正前の請求項2-6は、訂正請求の対象である訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用するから、請求項1-6は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項を構成するものであり、請求項1-6に係る訂正は、当該一群の請求項ごとに訂正の請求がされたものである。 (3)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1 訂正事項1は、訂正前の請求項1の発明特定事項である「少なくとも2つの組をなす、互いに近接して離間配置された複数のリッジ」について、「互いに近接して離間配置された前記複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている」との限定を付するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、当該限定事項は、本件特許請求の範囲の訂正前の請求項5に記載されており、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 イ 訂正事項2 訂正事項2は、訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ 訂正事項3 訂正事項3は、訂正前の請求項6が請求項1?5のいずれか1項の記載を引用していたものを、記載が削除された請求項5を引用しないように訂正するもの、すなわち請求項の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、訂正事項3は、新規事項を追加するものでなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。 (4)小括 以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、さらに同法第120条の5第4項の規定に適合する。 したがって、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正を認める。 2)請求項7-10に係る訂正 (1)訂正の内容 請求項7-10に係る訂正の内容は、以下のアのとおりである。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項7を「患者内に気道を確立するに際して使用するための人工的気道デバイスであって、 気道チューブと、固定構造部材を前記気道チューブに対して着脱可能に固定するための固定装置と、を具備してなり、 前記固定装置が、この固定装置の解除状態においては、前記気道チューブの外表面に対しての係留的な軸線方向移動が可能とされ、 前記固定装置が、この固定装置の固定状態においては、前記気道チューブに対しての軸線方向移動が阻止され、 前記固定装置が、前記固定装置が前記固定状態とされたときには前記気道チューブの前記外表面の面積部分に対して圧縮負荷を印加する圧縮手段を具備し、 前記固定装置が、さらに、前記気道チューブの前記外表面上において前記圧縮負荷を集中させるための径方向負荷集中手段を具備しており、 前記径方向負荷集中手段が、少なくとも2つの組をなす、互いに近接して離間配置された複数のリッジを有しており、 互いに近接して離間配置された前記複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている、 ことを特徴とする人工的気道デバイス。」に訂正する(請求項7の記載を引用する訂正後の請求項8-10も同様に訂正する。)。 (2)一群の請求項について 訂正前の請求項8-10は、訂正請求の対象である訂正前の請求項7を直接的または間接的に引用するから、請求項7-10は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項を構成するものであり、請求項7-10に係る訂正は、当該一群の請求項ごとに訂正の請求がされたものである。 (3)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1 訂正事項1は、訂正前の請求項7の発明特定事項である「少なくとも2つの組をなす、互いに近接して離間配置された複数のリッジ」について、「互いに近接して離間配置された前記複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている」との限定を付するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、当該限定事項は、本件特許請求の範囲の訂正前の請求項5に記載されており、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)小括 以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、さらに同法第120条の5第4項の規定に適合する。 したがって、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔7-10〕について訂正を認める。 3 特許異議の申立てについて (1)本件発明 上記2のとおり、本件訂正請求は認められるから、本件特許の請求項1-4、6-10の特許に係る発明(以下、「本件発明1」-「本件発明4」、「本件発明6」-「本件発明10」という。また、本件発明1-4、6-10をまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1-4、6-10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 固定構造部材を人工的気道デバイスの気道チューブに対して着脱可能に固定するための固定装置であって、 前記固定装置が、この固定装置の解除状態においては、前記気道チューブの外表面に対しての係留的な軸線方向移動が可能とされ、 前記固定装置が、この固定装置の固定状態においては、前記気道チューブに対しての軸線方向移動が阻止され、 前記固定装置が、前記固定装置が前記固定状態とされたときには前記気道チューブの前記外表面の面積部分に対して圧縮負荷を印加する圧縮手段を具備し、 前記固定装置が、さらに、前記気道チューブの前記外表面上において前記圧縮負荷を集中させるための径方向負荷集中手段を具備しており、 前記径方向負荷集中手段が、少なくとも2つの組をなす、互いに近接して離間配置された複数のリッジを有しており、 互いに近接して離間配置された前記複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている、 ことを特徴とする固定装置。 【請求項2】 請求項1記載の固定装置において、 前記固定装置が、貫通穴を規定するコレットと、コレットナットと、を具備している、ことを特徴とする固定装置。 【請求項3】 請求項2記載の固定装置において、 前記圧縮手段が、前記コレット上に設けられた複数の弾性アームを有し、 前記コレットナットの回転によって前記弾性アームが前記コレットナットの貫通穴内へと収容された際には、これら弾性アームの漸次的な径方向圧縮が引き起こされ、これにより、前記コレットの前記貫通穴の直径が漸次的に低減され、これにより、前記固定状態が得られる、ことを特徴とする固定装置。 【請求項4】 請求項3記載の固定装置において、 前記コレットナットの内表面、および、前記弾性アームの外表面が、互いに係合するネジ山を有している、ことを特徴とする固定装置。」 「【請求項6】 請求項1?4のいずれか1項に記載の固定装置において、 前記固定装置が、1つまたは複数の固定ストラップを具備している、ことを特徴とする固定装置。 【請求項7】 患者内に気道を確立するに際して使用するための人工的気道デバイスであって、 気道チューブと、固定構造部材を前記気道チューブに対して着脱可能に固定するための固定装置と、を具備してなり、 前記固定装置が、この固定装置の解除状態においては、前記気道チューブの外表面に対しての係留的な軸線方向移動が可能とされ、 前記固定装置が、この固定装置の固定状態においては、前記気道チューブに対しての軸線方向移動が阻止され、 前記固定装置が、前記固定装置が前記固定状態とされたときには前記気道チューブの前記外表面の面積部分に対して圧縮負荷を印加する圧縮手段を具備し、 前記固定装置が、さらに、前記気道チューブの前記外表面上において前記圧縮負荷を集中させるための径方向負荷集中手段を具備しており、 前記径方向負荷集中手段が、少なくとも2つの組をなす、互いに近接して離間配置された複数のリッジを有しており、 互いに近接して離間配置された前記複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている、 ことを特徴とする人工的気道デバイス。 【請求項8】 請求項7記載の人工的気道デバイスにおいて、 前記人工的気道デバイスが、前記気道チューブとして気管内チューブを具備している、ことを特徴とする人工的気道デバイス。 【請求項9】 請求項7記載の人工的気道デバイスにおいて、 前記人工的気道デバイスが、前記気道チューブとして気管カニューレを具備している、ことを特徴とする人工的気道デバイス。 【請求項10】 請求項7?9のいずれか1項に記載の人工的気道デバイスにおいて、 前記気道チューブが、壁内管腔を有したものとして構成されている、 ことを特徴とする人工的気道デバイス。」 (2)当審の取消理由 ア 取消理由の概要 特許権者に通知した令和2年1月16日付け取消理由の要旨は、以下ア-ウのとおりである。 なお、申立人が申し立てた全ての申立理由が通知された。 (ア)取消理由1 本件発明1-4、6-10は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3、4号証にみられるような周知技術に基いて、本願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、本件発明1-4、6-10は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (イ)取消理由2 本件発明1-4、6-10は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。 (ウ)取消理由3 本件発明1-4、6-10は、明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。 イ 甲号証及びその記載事項 甲第1号証:実用新案登録第2523580号公報 甲第3号証:特開平2-239873号公報 甲第4号証:特表2009-541001号公報 甲第1号証(特に、2欄13行-15行、4欄31行ー5欄33行、第1A図-第4図参照。)には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「弾性フランジ5を気管切開チューブ6に対して着脱可能に固定するための固定具1であって、 前記固定具1が、この固定具1の固定を解いた状態においては、前記気管切開チューブ6上を摺動可能とされ、 前記固定具1が、この固定具1の固定状態においては、前記気管切開チューブ6に対して固定され、 前記固定具1が、前記固定具1が前記固定状態とされたときには前記気管切開チューブ6を締め付ける爪部16を具備している固定具1。」 甲第3号証(特に、2頁左下欄18行-3頁右上欄16行、全図参照。「3個の円周方向リブ16」が3つの組をなしている点参照。)、甲第4号証(特に、[0010]-[0015]、全図参照。「4つのリング30」によって1つの組が、「3つのリング34」によって他の1つの組がなされている点参照。)にみられるように、 「気道チューブの外表面上において圧縮負荷を集中させるための径方向負荷集中手段を具備しており、前記径方向負荷集中手段が、少なくとも2つの組をなす、互いに近接して離間配置された複数のリッジを有している気道チューブの固定装置。」 は、本件特許の優先日前の周知技術であるといえる。 (3)当審の判断 ア 取消理由に記載した取消理由について (ア)取消理由1について 本件発明1と引用発明とを対比すると、後者の「弾性フランジ5」は前者の「固定構造部材」に相当し、以下同様に、「気管切開チューブ6」は「人工的気道デバイスの気道チューブ」及び「気道チューブ」に、「固定具1」は「固定装置」に、「固定を解いた状態」は「解除状態」に、「気管切開チューブ6上を摺動可能とされ」は「気道チューブの外表面に対しての係留的な軸線方向移動が可能とされ」に、「気管切開チューブ6に対して固定され」は「気道チューブに対しての軸線方向移動が阻止され」に、「気管切開チューブ6を締め付ける爪部16」は「気道チューブの外表面の面積部分に対して圧縮負荷を印加する圧縮手段」に、それぞれ相当する。 よって、両者は、 「固定構造部材を人工的気道デバイスの気道チューブに対して着脱可能に固定するための固定装置であって、 前記固定装置が、この固定装置の解除状態においては、前記気道チューブの外表面に対しての係留的な軸線方向移動が可能とされ、 前記固定装置が、この固定装置の固定状態においては、前記気道チューブに対しての軸線方向移動が阻止され、 前記固定装置が、前記固定装置が前記固定状態とされたときには前記気道チューブの前記外表面の面積部分に対して圧縮負荷を印加する圧縮手段を具備している固定装置。」 という点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点] 本件発明1は、固定装置が、さらに、気道チューブの外表面上において圧縮負荷を集中させるための径方向負荷集中手段を具備しており、前記径方向負荷集中手段が、少なくとも2つの組をなす、互いに近接して離間配置された複数のリッジを有しており、互いに近接して離間配置された前記複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されているのに対し、引用発明は、固定具1が、そのような径方向負荷集中手段を有していない点。 これに対し、甲第3、4号証からは、「気道チューブの外表面上において圧縮負荷を集中させるための径方向負荷集中手段を具備しており、前記径方向負荷集中手段が、少なくとも2つの組をなす、互いに近接して離間配置された複数のリッジを有している」点については周知技術であるといえるものの、「互いに近接して離間配置された複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている」点まで含めて周知技術であるとはいえないし、甲第3、4号証にも記載されていない。 したがって、甲第1、3、4号証のいずれにも、本件発明1-4、6-10の径方向負荷集中手段が、「互いに近接して離間配置された複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている」点は記載されていない。 そして、本件発明1-4、6-10は、「単一のリッジの場合には、コレットナット8を締め過ぎた際に、気道チューブの外表面上の狭い面積に、径方向圧縮力を集中させ過ぎてしまう」(明細書【0022】)ことを抑制し、「繊細な気道チューブ構造を損傷させることなくなおかつ臨床的な設定時に精密な操作を必要とすることなく安定的な固定が確保されるような、安全なタイプの手法を提供する。」(明細書【0022】)との格別の効果を奏するものである。 以上より、本件発明1-4、6-10は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3、4号証にみられるような周知技術に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、その発明に係る特許は、取消理由1によっては取り消すことができない。 (イ)取消理由2について 取消理由2は、本件発明1-4、6-10のリッジがなす「少なくとも2つの組」に関し、発明の詳細な説明には、「リッジの一方の組と他方の組とは・・・長手方向軸線に沿って、互いに離間されている」([0018])とのみ記載されている。しかしながら、本件発明1-4、6-10は、「少なくとも2つの組」の配置、特に離間の方向が特定されておらず、発明の詳細な説明に記載されていないものを含んでいるから、本件発明1-4、6-10は、発明の詳細な説明に記載されたものではない、というものである。 しかしながら、上記2のとおり本件訂正が認められたことによって、本件発明の「少なくとも2つの組」は、「互いに近接して離間配置された前記複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている」ものとなり、「少なくとも2つの組」の配置、特に離間の方向は発明の詳細な説明に記載したものとなった。 よって、本件発明1-4、6-10は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するから、その発明に係る特許は、取消理由2によっては取り消すことができない。 (ウ)取消理由3について 取消理由3は、本件発明1-4、6-10の「径方向負荷集中手段が、少なくとも2つの組をなす、互いに近接して離間配置された複数のリッジを有している」という技術的事項に関し、複数のリッジによって1つの組をなすものを特定しているのか、1つのリッジによって1つの組をなすものも含んでいるのか明確でない、というものである。 しかしながら、上記2のとおり本件訂正が認められたことによって、本件発明の「少なくとも2つの組」は、「互いに近接して離間配置された前記複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている」ものとなり、複数のリッジによって1つの組をなすものを特定していることが明確となった。 よって、本件発明1-4、6-10は、明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するから、その発明に係る特許は、取消理由3によっては取り消すことができない。 イ 申立人の意見について 申立人は、令和2年6月12日提出の意見書において、訂正の請求により特定された「互いに近接して離間配置された前記複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている」点は、新たに提示した参考資料(特許第2575277号公報)に記載されたような周知技術であり、本件発明1、7は、引用文献1ないし4(当審注:甲第1号証ないし甲第4号証のことと認められる。)及び参考文献から当業者であれば容易に想到するものである、と主張する。 しかしながら、上記ア(ア)、イのとおり、甲第1-4号証には、「互いに近接して離間配置された前記複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている」点は記載されていない。そして、当該技術的事項は、上記イに記載のとおり、訂正前の請求項5に記載された技術的事項であるから、新たに提出された参考資料は実質的に新たな証拠の提示ともいえるが、念のため以下検討する。 参考資料に記載の技術は、「カテーテル管のようなチューブを患者に固着する固定器具」(【0001】)に関するものであり、本件発明や甲第1号証記載の発明の気道チューブのための固定具とは、技術分野が異なる。また、そのように技術分野が異なるから、参考資料記載の固定器具は、本件発明や甲第1号証記載の発明と比較して、軸方向に一定程度長尺なものとなっており、軸方向長尺だからこそ、互いに近接して離間配置された複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されているという技術的事項をなし得たといえる。技術分野を異にするそのような技術的事項を、軸方向短尺な甲第1号証記載の発明の気管切開チューブ用固定具に採用しようという積極的な動機付けがあるとはいえない。さらにいえば、本件発明1-4、6-10は、軸方向短尺な気道チューブのための固定具において、当該技術的事項を採用したことによって、組内の各リッジ間が密となり、1つのリッジに係る径方向圧縮力が分散されるから、「単一のリッジの場合には、コレットナット8を締め過ぎた際に、気道チューブの外表面上の狭い面積に、径方向圧縮力を集中させ過ぎてしまう」(明細書【0022】)ことを抑制するという効果を奏するものと認められるが、参考資料に記載の固定器具は、上記のとおり軸方向に一定程度長尺なものとなっているから、リッジ(「リブ、又はスタッド60b、62b」、「リブ、又は同様の突起78a」が相当する。)が組内においてある程度離間されて設けられており、上記効果を期待できるものでもない。 よって、甲第1号証に記載された発明に参考資料に記載された技術を採用する動機付けはなく、また、本件発明1-4、6-10が奏する効果も自明なものとはいえない。 したがって、本件発明1-4、6-10は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2-4号証に記載された技術、参考資料に記載された技術に基いて、本願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。 4 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1-4、6-10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1-4、6-10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、上記2のとおり、本件訂正が認められたことによって、請求項5は削除され、請求項5に係る特許についての異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。 したがって、請求項5に係る特許についての異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 固定構造部材を人工的気道デバイスの気道チューブに対して着脱可能に固定するための固定装置であって、 前記固定装置が、この固定装置の解除状態においては、前記気道チューブの外表面に対しての係留的な軸線方向移動が可能とされ、 前記固定装置が、この固定装置の固定状態においては、前記気道チューブに対しての軸線方向移動が阻止され、 前記固定装置が、前記固定装置が前記固定状態とされたときには前記気道チューブの前記外表面の面積部分に対して圧縮負荷を印加する圧縮手段を具備し、 前記固定装置が、さらに、前記気道チューブの前記外表面上において前記圧縮負荷を集中させるための径方向負荷集中手段を具備しており、 前記径方向負荷集中手段が、少なくとも2つの組をなす、互いに近接して離間配置された複数のリッジを有しており、 互いに近接して離間配置された前記複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている、 ことを特徴とする固定装置。 【請求項2】 請求項1記載の固定装置において、 前記固定装置が、貫通穴を規定するコレットと、コレットナットと、を具備している、ことを特徴とする固定装置。 【請求項3】 請求項2記載の固定装置において、 前記圧縮手段が、前記コレット上に設けられた複数の弾性アームを有し、 前記コレットナットの回転によって前記弾性アームが前記コレットナットの貫通穴内へと収容された際には、これら弾性アームの漸次的な径方向圧縮が引き起こされ、これにより、前記コレットの前記貫通穴の直径が漸次的に低減され、これにより、前記固定状態が得られる、 ことを特徴とする固定装置。 【請求項4】 請求項3記載の固定装置において、 前記コレットナットの内表面、および、前記弾性アームの外表面が、互いに係合するネジ山を有している、 ことを特徴とする固定装置。 【請求項5】(削除) 【請求項6】 請求項1?4のいずれか1項に記載の固定装置において、 前記固定装置が、1つまたは複数の固定ストラップを具備している、 ことを特徴とする固定装置。 【請求項7】 患者内に気道を確立するに際して使用するための人工的気道デバイスであって、 気道チューブと、固定構造部材を前記気道チューブに対して着脱可能に固定するための固定装置と、を具備してなり、 前記固定装置が、この固定装置の解除状態においては、前記気道チューブの外表面に対しての係留的な軸線方向移動が可能とされ、 前記固定装置が、この固定装置の固定状態においては、前記気道チューブに対しての軸線方向移動が阻止され、 前記固定装置が、前記固定装置が前記固定状態とされたときには前記気道チューブの前記外表面の面積部分に対して圧縮負荷を印加する圧縮手段を具備し、 前記固定装置が、さらに、前記気道チューブの前記外表面上において前記圧縮負荷を集中させるための径方向負荷集中手段を具備しており、 前記径方向負荷集中手段が、少なくとも2つの組をなす、互いに近接して離間配置された複数のリッジを有しており、 互いに近接して離間配置された前記複数のリッジからなる組どうしが、組内における個々のリッジどうしの間の離間距離と比較してより大きな離間距離でもって、軸線方向において互いに離間されている、 ことを特徴とする人工的気道デバイス。 【請求項8】 請求項7記載の人工的気道デバイスにおいて、 前記人工的気道デバイスが、前記気道チューブとして気管内チューブを具備している、ことを特徴とする人工的気道デバイス。 【請求項9】 請求項7記載の人工的気道デバイスにおいて、 前記人工的気道デバイスが、前記気道チューブとして気管カニューレを具備している、ことを特徴とする人工的気道デバイス。 【請求項10】 請求項7?9のいずれか1項に記載の人工的気道デバイスにおいて、 前記気道チューブが、壁内管腔を有したものとして構成されている、 ことを特徴とする人工的気道デバイス。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-08-07 |
出願番号 | 特願2016-547872(P2016-547872) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A61M)
P 1 651・ 537- YAA (A61M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 増山 慎也 |
特許庁審判長 |
内藤 真徳 |
特許庁審判官 |
宮崎 基樹 倉橋 紀夫 |
登録日 | 2019-04-12 |
登録番号 | 特許第6509237号(P6509237) |
権利者 | インディアン オーシャン メディカル インク. |
発明の名称 | 固定装置 |
復代理人 | 阿部 達彦 |
復代理人 | 黒田 晋平 |
代理人 | 山田 哲也 |
代理人 | 五十嵐 和壽 |
代理人 | 樺澤 襄 |
復代理人 | 源田 正宏 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 樺澤 聡 |
代理人 | 村山 靖彦 |
復代理人 | 阿部 達彦 |
復代理人 | 源田 正宏 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 実広 信哉 |
復代理人 | 黒田 晋平 |