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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B23K
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B23K
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 一部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  B23K
審判 一部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1366945
異議申立番号 異議2019-700864  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-05 
確定日 2020-08-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6521160号発明「はんだ合金、はんだ粉末、はんだペースト、およびこれらを用いたはんだ継手」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6521160号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5-10〕について訂正することを認める。 特許第6521160号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6521160号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成30年7月20日に出願され、令和1年5月10日にその特許権の設定登録がされ、同年5月29日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その特許に対し、同年11月5日に特許異議申立人関谷裕子(以下、「申立人A」という。)によって、請求項1?6に係る特許について特許異議の申立て(以下、「申立てA」という。)がなされ、同年11月15日に特許異議申立人星晃子(以下、「申立人B」という。)によって、請求項1?7に係る特許について特許異議の申立て(以下、「申立てB」という。)がなされた。
その後の主な手続きの経緯は、以下のとおりである。

令和 2年 2月 4日付け 取消理由通知
同 年 4月 2日 訂正請求書及び意見書の提出
(以下、本訂正請求書による訂正請求を 「本件訂正請求」と いう。)
同 年 6月 1日 申立人Aによる意見書の提出

なお、当審は、申立人Bに対して、期間を指定し、意見書を提出する機会を与えたが,指定された期間内に意見書は提出されなかった。



第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の【請求項5】を下記のように訂正する(請求項5を直接的又は間接的に引用する請求項6乃至10においても同様に訂正する。)。
下線部は訂正箇所を示す。
【請求項5】
更に、前記合金組成は、Ag:0?4質量%およびCu:0?0.9質量%の少なくとも1種を含有する(ただし、Ag3.00質量%、Cu0.50質量%、As0.006質量%、Pb0.027質量%、Sb0.008質量%、Bi0.003質量%、Zn0.0001質量%、Fe0.002質量%、Al0.0001質量%、Cd0.0001質量%、および残部がSnである合金組成、並びにAg3.0質量%?3.000965質量%、Cu0.50193質量%、As0.00386質量%、Pb0.029915質量%、Sb0.00579質量%、Bi0.00386質量%、Zn0.000965質量%未満、Fe0.004825質量%未満、Ni0.000965質量%、Ge0.000965質量%未満、In0.000965質量%未満、Au0.000965質量%未満、Al0.000965質量%未満、Cd0.000965質量%未満、および残部がSnである合金組成を除く)請求項1?4のいずれか1項に記載のはんだ合金。


2 訂正の適否についての判断

(1)訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、請求項5に記載の「はんだ合金」から特定の合金組成のものを除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)訂正が願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであるかについて
訂正事項1に係る訂正は、請求項5に記載の「はんだ合金」から特定の合金組成のものを除くものである。
一方で、請求項5に記載の「はんだ合金」から特定の合金組成のものを除くことにより、新たな技術的意義が生じるといった事情はなく、訂正事項1は、本件明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえない。
この点で、申立人Aは、令和2年6月1日付け意見書において、次のように主張する。
「不可避的不純物(Zn、Fe、Al、Cd、Ni、Ge、In、Au)の各成分及びその含有割合までも限定して除くことは認められない。・・・不可避的不純物の各成分及びその含有割合は調整できるものではなく、意図しなくても微量は含まれてしまうものであるから・・・除く部分に示されたZn、Fe、Al、Cd、Ni、Ge、In、Auなどの各成分や含有割合までも一致しなければ実施することができず、甲A2及び甲A3に記載の発明が公知であるにもかかわらず実質的に実施することができなくなり、不合理な結果を招いてしまうものである。」(当審注:「甲A2」「甲A3」は、それぞれ申立人Aが提出した甲第2号証、甲第3号証のことである。)
しかし、申立人Aの主張は、請求項5に記載の「はんだ合金」から特定の合金組成のものを除くことにより、新たな技術的意義が生じるか否かとは関連せず、当該主張を参酌しても、訂正事項1が、本件明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。

(3)訂正が、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
訂正事項1に係る訂正は、請求項5に記載の「はんだ合金」から特定の合金組成のものを除くものにすぎず、発明の解決すべき課題や作用効果に変更はなく、第三者の予測可能性を害するものともいえないので、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(4)独立特許要件について
訂正事項1は、(1)で示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、請求項5?7に対しては、特許異議の申立てがされているので、請求項5?7については、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。
一方で、請求項8?10については、特許異議の申立てがされていないから、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
そして、訂正後の請求項8、9は、訂正後の請求項7を引用するものであり、訂正後の請求項10は、訂正後の請求項1?5を引用するものであるところ、後述のとおり、訂正後の請求項1?5、7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によって取り消されるべきものではなく、訂正後の請求項1?5、7に係る発明は、上記理由によって独立して特許を受けることができないものであるということはできない。
そうすると、訂正後の請求項8?9に係る発明は、訂正後の請求項7に係る発明をさらに限定するものであり、訂正後の請求項10に係る発明は、訂正後の請求項1?5に係る発明をさらに限定するものであるから、訂正後の請求項8?10に係る発明は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によって独立して特許を受けることができないものであるということはできない。
また、他に訂正後の請求項8?10に係る発明が特許を受けることができないとする理由も発見しない。
したがって、訂正後の請求項8?10に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項6?10は、本件訂正前の請求項5を引用するものであるから、本件訂正前の請求項5?10は一群の請求項である。そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項の規定及び同条第9項において準用する同法第126条第5項?第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、令和2年4月2日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5?10〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件特許の請求項1?10の特許に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
As:25?300質量ppm、Pb:0質量ppm超え5100質量ppm以下、並びにSb:0質量ppm超え3000質量ppm以下、およびBi:0質量ppm超え10000質量ppm以下の少なくとも1種、並びに残部がSnからなる合金組成を有し、下記(1)式および(2)式を満たすことを特徴とするはんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb (1)
0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)
上記(1)式および(2)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【請求項2】
更に、前記合金組成は下記(1a)式を満たす、請求項1に記載のはんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb≦25200 (1a)
上記(1a)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【請求項3】
更に、前記合金組成は下記(1b)式を満たす、請求項1に記載のはんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb≦5300 (1b)
上記(1b)式中、As、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【請求項4】
更に、前記合金組成は下記(2a)式を満たす、請求項1?3のいずれか1項に記載のはんだ合金。
0.31≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00(2a)
上記(2a)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【請求項5】
更に、前記合金組成は、Ag:0?4質量%およびCu:0?0.9質量%の少なくとも1種を含有する(ただし、Ag3.00質量%、Cu0.50質量%、As0.006質量%、Pb0.027質量%、Sb0.008質量%、Bi0.003質量%、Zn0.0001質量%、Fe0.002質量%、Al0.0001質量%、Cd0.0001質量%、および残部がSnである合金組成、並びにAg3.0質量%?3.000965質量%、Cu0.50193質量%、As0.00386質量%、Pb0.029915質量%、Sb0.00579質量%、Bi0.00386質量%、Zn0.000965質量%未満、Fe0.004825質量%未満、Ni0.000965質量%、Ge0.000965質量%未満、In0.000965質量%未満、Au0.000965質量%未満、Al0.000965質量%未満、Cd0.000965質量%未満、および残部がSnである合金組成を除く)請求項1?4のいずれか1項に記載のはんだ合金。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載のはんだ合金を有するはんだ粉末。
【請求項7】
請求項6に記載のはんだ粉末を有するはんだペースト。
【請求項8】
更に、酸化ジルコニウム粉末を有する、請求項7に記載のはんだペースト。
【請求項9】
前記酸化ジルコニウム粉末を前記はんだペーストの全質量に対して0.05?20.0質量%含有する、請求項8に記載のはんだペースト。
【請求項10】
請求項1?5のいずれか1項に記載のはんだ合金を有するはんだ継手。」


第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由通知の概要

1 申立てAについて
申立人Aは、証拠方法として、次の甲第1号証?甲第6号証(以下、「甲A1」等という。)を提出し、以下の申立理由A-1、A-2により、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証(甲A1):特表2016-537206号公報
甲第2号証(甲A2):特開2006-181636号公報
甲第3号証(甲A3):特開2006-212660号公報
甲第4号証(甲A4):特開2015-98052号公報(後出甲B6と同じ。)
甲第5号証(甲A5):特開2002-224881号公報(後出甲B3と同じ。)
甲第6号証(甲A6):JIS Z 3282:2017 はんだ-化学成分及び形状、表紙、裏表紙、目次、まえがき、第1?8頁、奧付(後出甲B4と同じ。)

(1)申立理由A-1(新規性進歩性:取消理由として一部採用)
請求項1、2、5、6に係る発明は、甲A1?甲A5のいずれかに記載された発明であるか、または甲A1?甲A5のいずれかに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1、2、5、6に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)申立理由A-2(新規性進歩性:取消理由として不採用)
請求項3、4に係る発明は、甲A1?甲A4のいずれかに記載された発明であるか、または甲A1?甲A4のいずれかに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項3、4に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。


2 申立てBについて
申立人Bは、証拠方法として、次の甲第1号証?甲第7号証(以下、「甲B1」等という。)を提出し、以下の申立理由B-1?B-7により、請求項1?7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証(甲B1):大阪地方裁判所平成18年(ワ)第6162号特許権侵害差止等請求事件「無鉛はんだ合金」判決書 平成20年3月3日判決言渡
甲第2号証(甲B2):JIS Z 3910:2017 はんだ分析方法
甲第3号証(甲B3):特開2002-224881号公報(前出甲A5と同じ。)
甲第4号証(甲B4):JIS Z 3282:2017 はんだ-化学成分及び形状、表紙、裏表紙、目次、まえがき、第1?20頁、奧付(前出甲A6と同じ。)
甲第5号証(甲B5):表1(甲B4の内容に申立人Bが付記したもの)
甲第6号証(甲B6):特開2015-98052号公報(前出甲A4と同じ。)
甲第7号証(甲B7):表2(甲B6の内容に申立人Bが付記したもの)

(1)申立理由B-1(明確性:取消理由として不採用)
本件特許の請求項1は、As、Pb、Sb及びBiの4元素と残部を占めるSn以外の元素成分を含有しない合金組成であることが認められる。
他方、本件特許の請求項5は、請求項1が規定する元素に加えてAgおよびCuの少なくとも1種を含有する合金組成のものであるから、当該請求項1とは異なる合金組成のはんだ合金であり、当該請求項1の下位概念に該当するものではない。
にもかかわらず、本件特許の請求項5は、本件特許の請求項1に従属する記載となっているから、整合しておらず、発明が不明確である。
よって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(2)申立理由B-2(明確性:取消理由として不採用)
本件特許の請求項1と本件特許の請求項5は、全く同一の(1)式および(2)式を規定しており、合金組成の全く異なる両者の必要条件が全く同一の(1)式および(2)式となることは、技術常識から到底理解することができない。少なくとも、(1)式および(2)式の下限値または上限値が異なることは明らかである。
よって、本件特許の請求項1における(1)式および(2)式、または、本件特許の請求項5における(1)式および(2)式は、技術的に不明確であり、請求項1に係る発明または請求項5に係る発明は発明が不明確である。
よって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(3)申立理由B-3(サポート要件:取消理由として不採用)
請求項1に係る発明のPb、Sb及びBiの各含有量は、不可避不純物と通常認められる含有量を含んでいる。
本件明細書の実施例を見ると、Pbについて25質量ppm以上、Sbについては25ppm以上、Biについては25ppm以上の組成について効果を示すことが示されている反面、この数値未満については示されておらず、本件特許発明の課題を解決できることが示されていない。
はんだ合金は、金属製品の特性に影響を及ぼさない不可避不純物を含むことは技術常識として認識されているところであるから、Pb:25質量ppm未満、Sb:25質量ppm未満、Bi:25質量ppm未満の組成については、技術常識に照らせば、本件特許発明の課題を解決できるとは認められない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、請求項1?7に係る発明は、サポート要件違反に該当する。
よって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(4)申立理由B-4(新規性進歩性:取消理由として不採用)
請求項1?7に係る発明は、甲B3に記載された発明であるか、または甲B3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1?7に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(5)申立理由B-5(新規性進歩性:取消理由として不採用)
請求項1?7に係る発明は、甲B4に記載された発明であるか、または甲B4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1?7に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(6)申立理由B-6(新規性進歩性:取消理由として不採用)
請求項1?7に係る発明は、甲B6に記載された発明であるか、または甲B6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1?7に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(7)申立理由B-7(実施可能要件、サポート要件:取消理由として不採用)
本件明細書に示された表1?表6の(1)式、(2)式の数値は、小数点2桁まで完全に一致しているが、技術常識からするとあり得ない。
特に、表1?6に示された各元素の含有量が、実際に製造したはんだ合金の分析値であるとすれば、25ppmという極めて微量のSb、Bi、Pbをどのように測定したのか不明であり、請求項1?7に係る発明を当業者が理解して実施することはできない。
他方、仮に製造した原料の量であるとするならば、25ppmという極めて微量のSb、Bi、Pbをどのように正確に含有させたのかが不明であり、請求項1?7に係る発明を当業者が実施することはできない。
また、仮に製造した際の原料の量であるとすると、そもそも含有量とは認められないから、請求項1に係る発明が規定する各元素の含有量のサポートにはなっていない。
よって、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

3 取消理由通知について
当審は、上記申立理由A-1の一部を採用し、令和2年2月4日付けで取消理由を通知したが、その概要は、以下のとおりである。

請求項5に係る発明は、甲A2に記載された発明であるか、甲A3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。



第5 当審の判断

1 甲各号証に記載された事項及び甲各号証に記載された発明
(1)甲A1について

ア 甲A1の記載事項(下線は当審による。「・・・」は、省略を示す。以下、同様。)
「【請求項1】
0.001重量%?0.800重量%の銅;
0.080重量%?0.120重量%のビスマス;
0.030重量%?0.050重量%のニッケル;
0.008重量%?0.012重量%のリン;及び
残部であるスズを、不可避の不純物と共に含むことを特徴とする鉛フリー且つ銀フリーのはんだ合金。」
「【0012】
はんだ合金は、好ましくは、0.001重量%?0.800重量%の銅を含む。銅は、スズと共晶を形成し、融点を低下させて合金の強度を増大させる。過共晶範囲の銅の含有量は、液相温度を上昇させるが、合金の強度を更に高める。銅は、更に融点を低下させ、銅及び他の基材に対するはんだの濡れ性を向上させる。」
「【0014】
ニッケルは、金属間化合物の成長調整剤及び結晶成長抑制剤として作用することができる。例えば、理論に束縛されるものではないが、スズ及び銅の代替物と金属間化合物を形成してCuNiSnの金属間化合物を形成すると考えられている。ニッケルはまた、ビスマスと金属間化合物を形成することができる。合金中のニッケルの存在は、プリント回路基板上の薄い銅層の溶解速度を低下させる有利な効果を有することが見出されている。場合によっては、はんだによって濡れた大面積の裸銅が存在すると、この特性は、はんだ組成物の安定性を維持して銅レベルの過度の蓄積を防止するために有用である。これは、はんだ槽の組成変化(例えば、銅レベルの増加)により問題が生じる可能性が低減されるため、例えば、ホットエアはんだレベリングにおいて特に価値がある。これらの理由から、本開示の合金は、好ましくは、少なくとも0.030重量%のニッケル、例えば0.030重量%?0.050重量%のニッケルを含む。
【0015】
リンは、はんだの開放タンクの上部に形成されるドロス(うきかす)の量を低減させるように作用するので、例えば、ウェーブはんだ槽に添加する価値がある。幾つかの実施形態では、リンをゲルマニウム(Ge)で置換してもよい。一実施形態では、はんだ合金は、0.008重量%?0.012重量%のリンを含有する。」
「【0022】
本開示の合金は、列挙した元素から本質的に構成することができる。従って、提供される組成物中には、必須の元素(即ち、スズ、銅、ビスマス、ニッケル、及びリン)に加え・・・」
「【0031】
これらのはんだ合金は、実験室での試験、及び様々な分野の試験において、許容可能なはんだ付け性能及び信頼性を提供することが示されている。はんだ合金は、粒子、粉末、プリフォーム、ペースト、ソリッドワイヤ、コアードワイヤ、固形棒、ペレット、又はインゴット等の様々な形態で販売することができるが、これらに限定されるものではない。はんだ合金は、リフローはんだ付け、ウェーブはんだ付け、めっき、手はんだ付け等の様々な電子アセンブリのはんだ付けプロセスにおいて使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
一実施形態では、はんだ合金は、以下の合金特性を有する。
液相温度(℃):229
固相温度(℃):227
CTE 30℃?100℃(μm/m℃):23.8
CTE 100℃?180℃(μm/m℃):24.3
密度(g/cm^(3)):7.3
衝撃エネルギー(ジュール):51.2
硬度(HV0.2):9.4」
「【0035】
はんだ合金は、信頼性、収率、銅溶食、ドロス生成、及びはんだフィレット面等の性能特性を改善するために採用してもよい。その結果、はんだ合金は、低材料費、高収率、及び低ドロス生成による所有者の総コスト低減、優れた機械的信頼性、高速の濡れ速度による改善されたはんだ濡れ性、組立の信頼性を向上させる再加工時の銅めっき溶食の低減、含銀合金と比較してはんだポットに対して調和性が高く非侵食的である点、及び別のはんだ付けプロセスにまで及ぶ良好な性能等の、性能上の利点を達成することができる。本開示のはんだ合金を組込んだプロセスは、はんだからの酸化物の除去を向上させ、はんだブリッジ等の欠陥を低減することができる。」
「【0041】
実施例2
別の実施形態では、以下の成分を含有する鉛フリー且つ銀フリーのはんだ合金を試験した。
元素:詳述
スズ(Sn):残部
銅(Cu):0.743%
ビスマス(Bi):0.0881%
ニッケル(Ni):0.0384%
リン(P):0.0110%
銀(Ag):<0.0001%
鉛(Pb):0.0320%
アンチモン(Sb):0.0110%
ヒ素(As):0.0156%
カドミウム(Cd):0.0003%
亜鉛(Zn):0.0010%
鉄(Fe):0.0040%
アルミニウム(Al):0.0006%
インジウム(In):0.0023%
金(Au):0.0002%」
「【0044】
実施例3
別の実施形態では、以下の成分を含有する鉛フリー且つ銀フリーのはんだ合金を試験した。
元素:詳述
スズ(Sn):残部
銅(Cu):0.0267%
ビスマス(Bi):0.119%
ニッケル(Ni):0.0379%
リン(P):0.0092%
銀(Ag):0.00083%
鉛(Pb):0.0329%
アンチモン(Sb):0.0126%
ヒ素(As):0.0112%
カドミウム(Cd):0.00015%
亜鉛(Zn):0.00057%
鉄(Fe):0.00429%
アルミニウム(Al):<0.00005%
インジウム(In):0.0019%
金(Au):0.00012%
酸化防止剤:0.0092%」


イ 甲A1に記載された発明
上記アで摘記した、【0041】、【0044】より、甲A1には、実施例2、3に関し、以下の発明が記載されていると認められる。

[甲A1実施例2発明]
「スズ(Sn):残部
銅(Cu):0.743%
ビスマス(Bi):0.0881%
ニッケル(Ni):0.0384%
リン(P):0.0110%
銀(Ag):<0.0001%
鉛(Pb):0.0320%
アンチモン(Sb):0.0110%
ヒ素(As):0.0156%
カドミウム(Cd):0.0003%
亜鉛(Zn):0.0010%
鉄(Fe):0.0040%
アルミニウム(Al):0.0006%
インジウム(In):0.0023%
金(Au):0.0002%
である、はんだ合金。」

[甲A1実施例3発明]
「スズ(Sn):残部
銅(Cu):0.0267%
ビスマス(Bi):0.119%
ニッケル(Ni):0.0379%
リン(P):0.0092%
銀(Ag):0.00083%
鉛(Pb):0.0329%
アンチモン(Sb):0.0126%
ヒ素(As):0.0112%
カドミウム(Cd):0.00015%
亜鉛(Zn):0.00057%
鉄(Fe):0.00429%
アルミニウム(Al):<0.00005%
インジウム(In):0.0019%
金(Au):0.00012%
酸化防止剤:0.0092%
である、はんだ合金。」


(2)甲A2について
ア 甲A2の記載事項
「【0041】
本実施例では、はんだ中に含まれるAsの界面反応に及ぼす影響を検討するため、表1に示すように、JISZ3282に定められたはんだ化学成分においてAs上限値の二倍程度に相当する0.073%のAs及び規定値内の0.006%のAsをそれぞれ含有したSn-3.0%Ag-0.5%Cu(組成は全てmass%)はんだ(1),(2)を作製し、これを使用した。
【0042】



イ 認定事項
【0042】の表1においては、「はんだ(1)」、「はんだ(2)」との記載がいずれも左列の組成の上部に位置しており、左列の組成、右列の組成と、「はんだ(1)」、「はんだ(2)」との対応関係が十分明らかでない。
そこで、【0041】を参照すると、「As上限値の二倍程度に相当する0.073%のAs及び規定値内の0.006%のAsをそれぞれ含有したSn-3.0%Ag-0.5%Cu(組成は全てmass%)はんだ(1),(2)を作製し、」と記載されているところ、表1の右列は、0.006%のAsを含むから、【0041】の上記記載より、左列が「はんだ(1)」の組成であり、右列が「はんだ(2)」の組成であると認められる。

ウ 甲A2に記載された発明
上記摘示及び認定事項のうち、特に「はんだ(2)」に関する部分から、甲A2には、以下の甲A2発明が記載されていると認められる。

[甲A2発明]
「Pb 0.027mass%、Sb 0.008mass%、Cu 0.50mass%、Bi 0.003mass%、Zn 0.0001mass%、Fe 0.002mass%、Al 0.0001mass%、As 0.006mass%、Ag 3.00mass%、Cd 0.0001mass%、Sn Bal.の化学組成を有するSn-3.0%Ag-0.5%Cuはんだ。」


(3)甲A3について
ア 甲A3の記載事項
「【発明の効果】
【0014】
この発明によると、現在使用されている鉛フリーはんだ合金の組成において、150ppm?900ppmの極微量のPb、Bi、Agのうち1種以上を含有させることにより、所要箇所に形成した当該組成のはんだ継手は、低温並びに極低温の使用環境でいわゆる錫ペストが発生することなく、はんだとして要求される性能、強度や脆性、形態の安定性が長期的に維持される作用効果を奏する。」
「【0016】
この発明の実験に使用した錫は、純度99.9%Sn(3NSnと表記)と純度99.99%Sn(4NSnと表記)である。その不純物元素とその含有量を表1に示す。表2に本研究で使用した試料合金の配合組成を示す。
【0017】
表2の配合組成になるように各原料を秤量した。秤量後、それらの原材料を黒鉛ルツボ中で溶解し、450℃でステンレス製の鋳型に鋳込んだ。試料鋳塊の鋳込み面を旋盤で切削加工した。サンプルの形状、条件については図1に示す。旋盤加工のまま(1)、旋盤加工の後、厚さ方向に50%圧縮加工(2)、粉末状のαSnをシャーレに敷き詰め、その上に旋盤加工材(1)を静置する(3)、の3条件とした。」
「【0019】
表3に各種鉛フリーはんだを180日間、-45℃で保持したときの結果を示す。4NSnで作製した4NSnZn試料は条件(3)において錫ペストの発生が確認された。その写真を図2に示す。αSnに接触している面でのみ変態が見られた。」
「【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】



イ 認定事項
(ア)甲A3の表2に記載の「3NSAC」は、表1に記載の「3NSn」に3.0%のAgと0.5%のCuを加えたものであるから、「3NSn」を96.5%含む。
(イ)したがって、「3NSAC」の組成は、表1の「3NSn」欄に記載の各成分の含有量に96.5%をかけたものに、3.0%のAgと0.5%のCuを加えたものとなる。
(ウ)【0016】より、「3NSn」は、純度99.9%のSnであり、表2に記載の各成分は不純物元素であるから、「3NSn」から表2に記載の各元素を除いた残部はSnである。
(エ)上記(イ)、(ウ)を考慮して、「3NSAC」の成分の組成を計算すると、以下のとおりとなる。
Cu:0.002%×0.965+0.5%=0.50193%、
Pb:0.031%×0.965=0.029915%、
Ag:表1より、「3NSn」が含有するAgは、<0.001すなわち
0.001未満であって、「3NSAC」が含有するAgの含有量
の上限は、0.001%×0.965+3.0%=3.00096
5%となり、Agの含有量の下限は、0%+3.0%=3.0%と
なることから、3.0%?3.000965%、
Sb:0.006%×0.965=0.00579%、
Bi:0.004%×0.965=0.00386%、
Zn:表1の<0.001%との記載より、含有量の上限は、
0.001%×0.965=0.000965%であるから、
<0.000965%、
Fe:表1の<0.005%との記載より、含有量の上限は、
0.005%×0.965=0.004825%であるから、
<0.004825%、
Cd:表1の<0.001%との記載より、含有量の上限は、
0.001%×0.965=0.000965%であるから、
<0.000965%、
Ni:0.001%×0.965=0.000965%、
Ge:表1の<0.001%との記載より、含有量の上限は、
0.001%×0.965=0.000965%であるから、
<0.000965%、
In:表1の<0.001%との記載より、含有量の上限は、
0.001%×0.965=0.000965%であるから、
<0.000965%、
Au:表1の<0.001%との記載より、含有量の上限は、
0.001%×0.965=0.000965%であるから、
<0.000965%、
Al:表1の<0.001%との記載より、含有量の上限は、
0.001%×0.965=0.000965%であるから、
<0.000965%、
As:0.004%×0.965=0.00386%
Sn:残部
(オ)表2、3の表題から、表2、3に記載の「%」は、「mass%」を意味 する。
(カ)【0016】、表2より、「3NSAC」は試料合金であり、【0019】、表3より、「3NSAC」は鉛フリーはんだの一種でもある。

ウ 甲A3に記載された発明
上記摘示及び認定事項、特に「3NSAC」に関する部分から、甲A3には、以下の甲A3発明が記載されていると認められる。

[甲A3発明]
「Cu:0.50193mass%、Pb:0.029915mass%、Ag:3.0mass%?3.000965mass%、Sb:0.00579mass%、Bi:0.00386mass%、Zn:<0.000965mass%、Fe:<0.004825mass%、Cd:<0.000965mass%、Ni:0.000965mass%、Ge:<0.000965mass%、In:<0.000965mass%、Au:<0.000965mass%、Al:<0.000965mass%、As:0.00386mass%、Sn:残部の含有量である、鉛フリーはんだである試料合金3NSAC。」


(4)甲A4(甲B6)について
ア 甲A4の記載事項
「【0012】
本発明が提案する半田合金は、Snを主成分とするSn系半田合金に微量のAs(砒素)を含有させることで、半田ペースト作製後の粘度上昇を抑制することができるようにしたものである。」
「【0014】
<本半田合金>
本実施形態の一例に係る半田合金(「本半田合金」と称する)は、Snを主成分とし、微量のAs(砒素)を含有していれば、他の構成元素は、半田として機能し得る金属原料の組合せからなるものであれば特に限定するものではない。」
「【0022】
(製造方法)
本半田合金の製法は、特に限定するものではない。あらかじめAsを微量含有する半田合金原料を溶融した後、微粉化処理することが好ましい。この際、微粉化処理としては、例えばガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法、水アトマイズ法、油アトマイズ法、真空アトマイズ法、回転電極法、回転冷却流体法、遠心噴霧法、超音波噴霧法など、溶融物を用いて乾式法或いは湿式法により微粉化された半田合金を用いることができる。」
「【0038】
<実施例・比較例による半田粉の作製>
表1の組成となるように、それぞれ塊状の純金属である純Sn(3N)、純Ag(3N)、純Cu(3N)、純Bi(3N)、純In(3N)及び純As(4N)を秤量して混合し、アルミナ坩堝を用いてAr雰囲気下で熔解させた。熔解後、遠心噴霧によって、D50を約25μmとした半田粉(サンプル)を作製した。
なお、作製した半田粉についてICP分析を行い、表1の組成になったことを確かめた。また、不可避不純物である鉄(Fe)、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、ニッケル(Ni)及びアルミニウム(Al)の含有量はそれぞれ10ppm未満であることを同時に確認した。」
「【0045】
【表1】



イ 甲A4に記載された発明
甲A4には、上記アで摘記した、【0038】、【0045】より、実施例1、3、4、8?10、比較例2に関し、以下の発明が記載されていると認められる。

[甲A4実施例1発明]
「As含有量が31ppmであり、はんだ組成がSnAg3Cu0.5である、はんだ粉。」

[甲A4実施例3発明]
「As含有量が79ppmであり、はんだ組成がSnAg3Cu0.5である、はんだ粉。」

[甲A4実施例4発明]
「As含有量が85ppmであり、はんだ組成がSnAg3Cu0.5である、はんだ粉。」

[甲A4実施例8発明]
「As含有量が45ppmであり、はんだ組成がSnCu0.7である、はんだ粉。」

[甲A4実施例9発明]
「As含有量が84ppmであり、はんだ組成がSnCu0.7である、はんだ粉。」

[甲A4実施例10発明]
「As含有量が40ppmであり、はんだ組成がSnAg1Cu0.7である、はんだ粉。」

[甲A4比較例2発明]
「As含有量が103ppmであり、はんだ組成がSnAg3Cu0.5である、はんだ粉。」


(5)甲A5(甲B3)について
ア 甲A5の記載事項
「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は、鉛フリーはんだボールの界面反応に関わる問題を検討し、濡れ性の確保に必要な厚さの金属間化合物は形成するが、一度形成した界面金属間化合物の成長が従来の鉛フリーはんだボールに比べて遅いはんだボールの組成を鋭意検討した。その結果、従来のSn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Bi系はんだ合金およびこれらを組み合わせたSn基の合金系において、極微量のAsの添加により、目的にかなう界面反応の制御が可能となることを見出した。さらに、このはんだボールは、エレクトロニクス部品の接続端子の界面破壊によって引き起こされる耐衝撃特性低下の問題を大きく改善できることを見いだし本発明に到達した。
【0006】すなわち本発明は、質量%で(5.0%以下のAg、1.0%以下のCu、2.0%以下のBi)から選ばれる一種または二種以上を含有し、且つ0.005%以上、0.05%以下のAsを含有し、残部が実質的にSnからなるはんだボールである。」
「【0012】
【実施例】(実施例1)純度4NのSn、Ag、Pb、Cu、Bi及びAsを出発原料とし、真空誘導溶解炉を用いて表1に示す各種の合金のインゴットを作製した。
【0013】
【表1】


「【0021】
【発明の効果】本発明によれば鉛フリーはんだ合金の耐衝撃特性を飛躍的に改善することができ、Sn-Pb共晶合金に取って替わる鉛フリーはんだ合金の実用化にとって欠くことのできない技術となる。」

イ 甲A5に記載された発明
(ア)上記アで摘記した【0012】には、「純度4NのSn、Ag、Pb、Cu、Bi及びAsを出発原料とし、真空誘導溶解炉を用いて表1に示す各種の合金のインゴットを作製した」と記載されているが、上記アで摘記した【0013】の【表1】において、「Ag、Pb、Cu、Bi」の含有量が「-」となっている成分については、出発原料として添加していないことが明らかである。
(イ)上記(ア)の事項及び上記アで摘記した【0012】、【0013】より、甲A5には、本発明例7?9に関し、以下の発明が記載されていると認められる。

[甲A5本発明例7発明]
「純度4NのSn、Ag、Bi及びAsを出発原料とし、真空誘導溶解炉を用いて作成され、Asが0.021mass%、Biが0.95mass%、Agが2.05mass%、SnがBal.である、合金のインゴット。」

[甲A5本発明例8発明]
「純度4NのSn、Cu、Bi及びAsを出発原料とし、真空誘導溶解炉を用いて作成され、Asが0.018mass%、Biが0.88mass%、Cuが0.66がmass%、SnがBal.である、合金のインゴット。」

[甲A5本発明例9発明]
「純度4NのSn、Ag、Cu、Bi及びAsを出発原料とし、真空誘導溶解炉を用いて作成され、Asが0.022mass%、Biが0.55mass%、Cuが0.45mass%、Agが1.07mass%、SnがBal.である、合金のインゴット。」


(6)甲A6(甲B4)について
ア 甲A6の記載事項
(ア)第4頁、表1




(イ)第5頁、表2




イ 甲A6に記載された発明
(ア)表2の注記1に「範囲指定のない化学成分値は、上限値を示す」と記載されているから、表2の「化学成分 %(質量分率)」欄に記載の数値のうち、単独の数値が記載されている部分は、0以上当該記載の数値以下の範囲を示すと認められる。
(イ)上記(ア)を考慮すると、上記アで摘記した表2の記号1欄が「Sn99.3Cu0.7」で記号2欄が「C7」である例より、甲A6には、以下の発明が記載されていると認められる。

[甲A6発明]
「Pbが0%以上0.07%以下、Sbが0%以上0.20%以下、Biが0%以上0.10%以下、Cuが0.5?0.9%、Auが0%以上0.05%以下、Inが0%以上0.10%以下、Agが0%以上0.10%以下、Alが0%以上0.001%以下、Asが0%以上0.03%以下、Cdが0%以上0.002%以下、Feが0%以上0.02%以下、Niが0%以上0.01%以下、Znが0%以上0.001%以下であり、残部がSnである、鉛フリーはんだ。」


2 申立理由A-1、A-2、B-4?B-6(新規性進歩性)について

(1)甲A1に記載された発明を引用発明とした場合について

ア 甲A1実施例2発明を引用発明とした場合について

(ア)本件訂正発明1について
a 本件訂正発明1と甲A1実施例2発明との対比
(a)上記1(1)アで摘記した甲A1の請求項1にて重量%が用いられていることを考慮すると、甲A1実施例2発明の「%」は重量%を指す。そして、重量%は質量%と同じであって、甲A1実施例2発明の「%」の値を10^(4)倍することで、質量ppmに換算可能であるから、甲A1実施例2発明のAs、Pb、Sb、Biの各成分の含有量を質量ppmに換算すると、Asが156質量ppm、Pbが320質量ppm、Sbが110質量ppm、Biが881質量ppmとなる。したがって、甲A1実施例2発明と本件訂正発明1とは、「As:156質量ppm、Pb:320質量ppm、Sb:110質量ppm、Bi:881質量ppm」において一致する。
(b)上記(a)より、甲A1実施例2発明における2As+Sb+Bi+Pbを計算すると、1623となり、本件訂正発明1の(1)式を満たす。
(c)上記(a)より、甲A1実施例2発明における(2As+Sb)/(Bi+Pb)を計算すると、約0.351となり、本件訂正発明1の(2)式を満たす。
(d)甲A1実施例2発明の「スズ(Sn):残部」と本件訂正発明1の「残部がSn」は、残部がSnであることを示す点では共通するが、本件訂正発明1の「残部がSn」とは、As、Pb、Sb、Biを除いた残部を指すのに対し、甲A1実施例2発明の「スズ(Sn):残部」は、As、Pb、Sb、Biに加えて、Ni、P、Ag、Cd、Zn、Fe、Al、In、Auを除いた残部を指すから、甲A1実施例2発明の「スズ(Sn):残部」と本件訂正発明1の「残部がSn」とは同一の内容を指すとはいえない。
したがって、甲A1実施例2発明の「スズ(Sn):残部」と本件訂正発明1の「残部がSn」とは、Snを含有する点においてのみ、一致する。
(e)甲A1実施例2発明の「はんだ」は、本件訂正発明1の「はんだ合金」に相当する。
(f)したがって、本件訂正発明1と甲A1実施例2発明とは、以下の一致点A1-1において一致し、以下の相違点A1-1において相違する。

[一致点A1-1]
「As:156質量ppm、Pb:320質量ppm、Sb:110質量ppm、Bi:881質量ppm、並びにSnを含有する合金組成を有し、下記(1)式および(2)式を満たすはんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb (1)
0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)
上記(1)式および(2)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。」

[相違点A1-1]
本件訂正発明1は、As、Pb、Sb、Biの残部がSnであるのに対し、甲A1実施例2発明は、As、Pb、Sb、Bi以外に、銅(Cu)を0.743%、ニッケル(Ni)を0.0384%、リン(P)を0.0110%、銀(Ag)を<0.0001%、カドミウム(Cd)を0.0003%、亜鉛(Zn)を0.0010%、鉄(Fe):0.0040%、アルミニウム(Al)を0.0006%、インジウム(In)を0.0023%、金(Au)を0.0002%の含有量で含有し、Snがこれらの成分の残部である点。


b 相違点A1-1についての判断
(a)相違点A1-1が実質的な相違点であるか否かについて
本件明細書の【0054】を参照すると、「(5)残部:Sn 本発明のはんだ合金の残部はSnである。前述の元素の他に不可避的不純物を含有してもよい。」と記載されているから、本件訂正発明1は、As、Pb、Sb、Bi、Sn以外に不可避的不純物を含み得ることが認められる。
したがって、甲A1実施例2発明に含まれるが、本件訂正発明1が含まない成分である、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、リン(P)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、金(Au)の各成分が不可避的不純物である場合には、上記相違点A1-1は実質的な相違点ではないこととなるので、これらの成分が不可避的不純物といえるかにつき、以下に検討する。
上記1(1)アで摘記した、甲A1の【0022】の「本開示の合金は、列挙した元素から本質的に構成することができる。従って、提供される組成物中には、必須の元素(即ち、スズ、銅、ビスマス、ニッケル、及びリン)に加え・・・」との記載より、「銅(Cu)」、「ニッケル(Ni)」、「リン(P)」は、甲A1実施例2発明における必須の成分と認められるから、少なくとも、これらの成分が不可避的不純物とはいえない。
したがって、その他の成分について検討するまでもなく、相違点A1-1は、実質的な相違点である。

(b)相違点A1-1の容易想到性について
上記(a)で述べたとおり、「銅(Cu)」、「ニッケル(Ni)」、「リン(P)」は、甲A1実施例2発明における必須の成分であるから、甲A1実施例2発明において、これらの成分を除去することには、阻害要因がある。
また、本件明細書の【0021】に記載のように、本件訂正発明1は、特定の組成とすることで「優れた増粘抑制効果、濡れ性およびΔTの狭窄化」の効果を奏するものであるが、甲A1には当該効果について何ら記載はなく、さらに本件訂正発明1の組成により当該効果が奏されることが技術常識であったともいえないから、甲A1実施例2発明の組成を変更して本件訂正発明1の範囲の組成とした場合に当該効果が奏されることは、当業者が予測し得ることではない。
したがって、甲A1実施例2発明において、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、リン(P)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、金(Au)のうち、不可避的不純物ではない成分を含有しないものとして、As、Pb、Sb、Biの残部がSnであるとの事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

c 小括
よって、本件訂正発明1は、甲A1実施例2発明ではなく、甲A1実施例2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(イ)本件訂正発明2?4について
本件訂正発明2?4は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1と同様に、甲A1実施例2発明ではなく、甲A1実施例2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(ウ)本件訂正発明5について
a 本件訂正発明5と甲A1実施例2発明との対比
(a)本件訂正発明5は、本件訂正発明1に「Ag:0?4質量%およびCu:0?0.9質量%」を含む点を追加し、一部の合金組成を除いたものであるが、甲A1実施例2発明は、「銅(Cu)を0.743%」、「銀(Ag)を<0.0001%」含むものであるから、本件訂正発明5と甲A1実施例2発明とは、「Ag:0.0001質量%未満およびCu:0.743質量%」を含む点で一致する。また、甲A1実施例2発明は、本件訂正発明5で除かれた合金組成には該当しない。
(b)そして、上記(a)を考慮して、上記(ア)aと同様にして、本件訂正発明5と甲A1実施例2発明とを対比すると、両者は、以下の一致点A1-2において一致し、以下の相違点A1-2において相違する。

[一致点A1-2]
「As:156質量ppm、Pb:320質量ppm、Sb:110質量ppm、Bi:881質量ppm、並びにSnを含有する合金組成を有し、下記(1)式および(2)式を満たし、更に、前記合金組成は、Ag:0.0001質量%未満およびCu:0.743質量%を含有する(ただし、Ag3.00質量%、Cu0.50質量%、As0.006質量%、Pb0.027質量%、Sb0.008質量%、Bi0.003質量%、Zn0.0001質量%、Fe0.002質量%、Al0.0001質量%、Cd0.0001質量%、および残部がSnである合金組成、並びにAg3.0質量%?3.000965質量%、Cu0.50193質量%、As0.00386質量%、Pb0.029915質量%、Sb0.00579質量%、Bi0.00386質量%、Zn0.000965質量%未満、Fe0.004825質量%未満、Ni0.000965質量%、Ge0.000965質量%未満、In0.000965質量%未満、Au0.000965質量%未満、Al0.000965質量%未満、Cd0.000965質量%未満、および残部がSnである合金組成を除く)はんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb (1)
0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)
上記(1)式および(2)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。」

[相違点A1-2]
本件訂正発明5は、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cuの残部がSnであるのに対し、甲A1実施例2発明は、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cu以外に、ニッケル(Ni)を0.0384%、リン(P)を0.0110%、カドミウム(Cd)を0.0003%、亜鉛(Zn)を0.0010%、鉄(Fe):0.0040%、アルミニウム(Al)を0.0006%、インジウム(In)を0.0023%、金(Au)を0.0002%の含有量で含有し、Snがこれらの成分の残部である点。

b 相違点A1-2についての判断
上記(ア)bにて示したとおり、「ニッケル(Ni)」、「リン(P)」は、甲A1実施例2発明における必須の成分であるから、少なくともこれらの成分が不可避的不純物とはいえないし、甲A1実施例2発明において、これらの成分を除去することには阻害要因があるといえる。
また、上記(ア)bにて示した本件訂正発明1の効果と同様の本件訂正発明5の効果は、当業者が予測し得るものではない。
したがって、甲A1実施例2発明において、ニッケル(Ni)、リン(P)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、金(Au)のうち、不可避的不純物でない成分を含有しないものとして、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cuの残部がSnであるとの事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

c 小括
よって、本件訂正発明5は、甲A1実施例2発明ではなく、甲A1実施例2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(エ)本件訂正発明6について
本件訂正発明6は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むか、または、本件訂正発明5の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1、5と同様に、甲A1実施例2発明ではなく、甲A1実施例2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


イ 甲A1実施例3発明を引用発明とした場合について

(ア)本件訂正発明1について
a 本件訂正発明1と甲A1実施例3発明との対比
(a)甲A1実施例3発明は、甲A1実施例2発明の各成分の具体的な含有量を変更したものであり、上記ア(ア)aと同様にして、本件訂正発明1と甲A1実施例3発明とを対比すると、両者は、以下の一致点A1-3において一致し、以下の相違点A1-3において相違する。

[一致点A1-3]
「As:112質量ppm、Pb:329質量ppm、Sb:126質量ppm、Bi:1190質量ppm、並びにSnを含有する合金組成を有し、下記(1)式および(2)式を満たすはんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb (1)
0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)
上記(1)式および(2)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。」

[相違点A1-3]
本件訂正発明1は、As、Pb、Sb、Biの残部がSnであるのに対し、甲A1実施例3発明は、As、Pb、Sb、Bi以外に、銅(Cu)を0.0267%、ニッケル(Ni)を0.0379%、リン(P)を0.0092%、銀(Ag)を0.00083%、カドミウム(Cd)を0.00015%、亜鉛(Zn)を0.00057%、鉄(Fe)を0.00429%、アルミニウム(Al)を0.00005%未満、インジウム(In)を0.0019%、金(Au)を0.00012%、酸化防止剤を0.0092%の含有量で含有し、Snがこれらの成分の残部である点。

b 相違点A1-3について
上記ア(ア)bにて示したとおり、「銅(Cu)」、「ニッケル(Ni)」、「リン(P)」は、甲A1実施例3発明における必須の成分であるから、少なくともこれらの成分が不可避的不純物とはいえないし、甲A1実施例3発明において、これらの成分を除去することには阻害要因があるといえる。
また、上記ア(ア)bにて示したとおり、本件訂正発明1の効果は、当業者が予測し得るものではない。
したがって、甲A1実施例3発明において、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、リン(P)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、金(Au)、酸化防止剤のうち、不可避的不純物でない成分を含有しないものとし、As、Pb、Sb、Biの残部がSnであるとの事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

c 小括
よって、本件訂正発明1は、甲A1実施例3発明ではなく、甲A1実施例3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(イ)本件訂正発明2?4について
本件訂正発明2?4は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1と同様に、甲A1実施例3発明ではなく、甲A1実施例3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(ウ)本件訂正発明5について
a 本件訂正発明5と甲A1実施例3発明との対比
(a)上記ア(ウ)aと同様にして、本件訂正発明5と甲A1実施例3発明とを対比すると、両者は、以下の一致点A1-4において一致し、以下の相違点A1-4において相違する。

[一致点A1-4]
「As:112質量ppm、Pb:329質量ppm、Sb:116質量ppm、Bi:119質量ppm、並びにSnを含有する合金組成を有し、下記(1)式および(2)式を満たし、更に、前記合金組成は、Ag:0.0001質量%未満およびCu:0.743質量%を含有する(ただし、Ag3.00質量%、Cu0.50質量%、As0.006質量%、Pb0.027質量%、Sb0.008質量%、Bi0.003質量%、Zn0.0001質量%、Fe0.002質量%、Al0.0001質量%、Cd0.0001質量%、および残部がSnである合金組成、並びにAg3.0質量%?3.000965質量%、Cu0.50193質量%、As0.00386質量%、Pb0.029915質量%、Sb0.00579質量%、Bi0.00386質量%、Zn0.000965質量%未満、Fe0.004825質量%未満、Ni0.000965質量%、Ge0.000965質量%未満、In0.000965質量%未満、Au0.000965質量%未満、Al0.000965質量%未満、Cd0.000965質量%未満、および残部がSnである合金組成を除く)はんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb (1)
0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)
上記(1)式および(2)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。」

[相違点A1-4]
本件訂正発明5は、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cuの残部がSnであるのに対し、甲A1実施例3発明は、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cu以外に、ニッケル(Ni)を0.0379%、リン(P)を0.0092、カドミウム(Cd)を0.00015%、亜鉛(Zn)を0.00057%、鉄(Fe)を0.00429%、アルミニウム(Al)を0.00005%未満、インジウム(In)を0.0019%、金(Au)を0.00012%、酸化防止剤を0.0092%の含有量で含有し、Snがこれらの成分の残部である点。

b 相違点A1-4についての判断
上記(ア)bにて示したとおり、「ニッケル(Ni)」、「リン(P)」は、甲A1実施例3発明における必須の成分であるから、少なくともこれらの成分が不可避的不純物とはいえないし、甲A1実施例3発明において、これらの成分を除去することには阻害要因があるといえる。
また、上記(ア)bにて示した本件訂正発明1の効果と同様の本件訂正発明5の効果は、当業者が予測し得るものではない。
したがって、甲A1実施例3発明において、ニッケル(Ni)、リン(P)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、金(Au)、酸化防止剤のうち、不可避的不純物でない成分を含有しないものとし、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cuの残部がSnであるとの事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

c 小括
よって、本件訂正発明5は、甲A1実施例3発明ではなく、甲A1実施例3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(エ)本件訂正発明6、7について
本件訂正発明6、7は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むか、または、本件訂正発明5の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1、5と同様に、甲A1実施例3発明ではなく、甲A1実施例3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(2)甲A2発明を引用発明とした場合について

ア 本件訂正発明1について

(ア)本件訂正発明1と甲A2発明との対比
a 甲A2発明の「mass%」は質量%と同義であり、質量%を10^(4)倍することで、質量ppmに換算可能であるところ、甲A2発明のAs、Pb、Sb、Biの各成分の含有量を質量ppmに換算すると、Asが60質量ppm、Pbが270質量ppm、Sbが80質量ppm、Biが30質量ppmであるから、甲A2発明と本件訂正発明1とは、「As:60質量ppm、Pb:270質量ppm、Sb:80質量ppm、Bi:30質量ppm」において一致する。
b 上記aより、甲A2発明における2As+Sb+Bi+Pbを計算すると、500となり、本件訂正発明1の(1)式を満たす。
c 上記aより、甲A2発明における(2As+Sb)/(Bi+Pb)を計算すると、約0.667となり、本件訂正発明1の(2)式を満たす。
d 甲A2発明の「Sn Bal.」と本件訂正発明1の「残部がSn」は、残部がSnであることを示す点では共通するが、本件訂正発明1の「残部がSn」とは、As、Pb、Sb、Biを除いた残部を指すのに対し、甲A2発明の「Sn Bal.」は、As、Pb、Sb、Biに加えて、Ag、Cu、Zn、Fe、Al、Cdを除いた残部を指すから、甲A2発明の「Sn Bal.」と本件訂正発明1の「残部がSn」とは同一の内容を指すとはいえない。
したがって、甲A2発明の「Sn Bal.」と本件訂正発明1の「残部がSn」 とは、Snを含有する点においてのみ、一致する。
e 甲A2発明の「Sn-3.0%Ag-0.5%Cuはんだ」は、本件訂正発明1の「はんだ合金」に相当する。
f したがって、本件訂正発明1と甲A2発明とは、以下の一致点A2-1において一致し、以下の相違点A2-1において相違する。

[一致点A2-1]
「As:60質量ppm、Pb:270質量ppm、Sb:80質量ppm、Bi:30質量ppm、並びにSnを含有する合金組成を有し、下記(1)式および(2)式を満たすはんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb (1)
0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)
上記(1)式および(2)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。」

[相違点A2-1]
本件訂正発明1は、As、Pb、Sb、Biの残部がSnであるのに対し、甲A2発明は、As、Pb、Sb、Bi以外に、Agを3.0%、Cuを0.5%、Znを0.0001mass%、Feを0.002mass%、Alを0.0001mass%、Cdを0.0001mass%の含有量で含有し、Snがこれらの成分の残部である点。

(イ)相違点A2-1についての判断
a 相違点A2-1が実質的な相違点であるか否かについて
本件明細書の【0054】を参照すると、「(5)残部:Sn 本発明のはんだ合金の残部はSnである。前述の元素の他に不可避的不純物を含有してもよい。」と記載されているから、本件訂正発明1は、As、Pb、Sb、Bi、Sn以外に不可避的不純物を含み得ることが認められる。
したがって、甲A2発明に含まれるが、本件訂正発明1が含まない成分である、Ag、Cu、Zn、Fe、Al、Cdの各成分が不可避的不純物である場合には、上記相違点A2-1は実質的な相違点ではないこととなるので、これらの成分が不可避的不純物といえるかにつき、以下に検討する。
甲A2発明は、「Sn-3.0%Ag-0.5%Cuはんだ」であるから、Ag及びCuは、意図的に添加されたものであり、明らかに不可避的不純物ではない。
したがって、その他の成分について検討するまでもなく、相違点A2-1は、実質的な相違点である。

b 相違点A2-1の容易想到性について
「Sn-3.0%Ag-0.5%Cuはんだ」である甲A2発明から、あえてAg、Cuを除去する動機はなく、甲A2発明をAg、Cuを含まないものとすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。
さらに、本件明細書の【0021】に記載のように、本件訂正発明1は、特定の組成とすることで「優れた増粘抑制効果、濡れ性およびΔTの狭窄化」の効果を奏するものであるが、甲A2には当該効果について何ら記載はなく、さらに本件訂正発明1の組成により当該効果が奏されることが技術常識であったともいえないから、甲A2発明の組成を変更して本件訂正発明1の範囲の組成とした場合に当該効果が奏されることは、当業者が予測し得ることではない。
したがって、甲A2発明において、Ag、Cu、Zn、Fe、Al、Cdのうち、不可避的不純物でない成分を含有しないものとし、As、Pb、Sb、Biの残部がSnであるとの事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(ウ)小括
よって、本件訂正発明1は、甲A2発明ではなく、甲A2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


イ 本件訂正発明2?4について
本件訂正発明2?4は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1と同様に、甲A2に記載された発明ではなく、甲A2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


ウ 本件訂正発明5について
(ア)本件訂正発明5と甲A2発明との対比
a 甲A2発明の「mass%」は質量%と同義であるから、甲A2発明の「Pb 0.027mass%、Sb 0.008mass%、Cu 0.50mass%、Bi 0.003mass%、Zn 0.0001mass%、Fe 0.002mass%、Al 0.0001mass%、As 0.006mass%、Ag 3.00mass%、Cd 0.0001mass%、Sn Bal.の化学組成」は、本件訂正発明5から除かれた合金組成の一方である、「Ag3.00質量%、Cu0.50質量%、As0.006質量%、Pb0.027質量%、Sb0.008質量%、Bi0.003質量%、Zn0.0001質量%、Fe0.002質量%、Al0.0001質量%、Cd0.0001質量%、および残部がSnである合金組成」に相当する。したがって、甲A2発明と本件訂正発明5とは、各成分の含量では相違するものの、「As」、「Pb」、「Sb」、「Bi」、「Ag」および「Cu」を含む点、及び、本件訂正発明5から除かれた合金組成の他方である、「Ag3.0質量%?3.000965質量%、Cu0.50193質量%、As0.00386質量%、Pb0.029915質量%、Sb0.00579質量%、Bi0.00386質量%、Zn0.000965質量%未満、Fe0.004825質量%未満、Ni0.000965質量%、Ge0.000965質量%未満、In0.000965質量%未満、Au0.000965質量%未満、Al0.000965質量%未満、Cd0.000965質量%未満、および残部がSnである合金組成」に該当しない点では一致する。
b 上記ア(ア)bで示したとおり、甲A2発明における2As+Sb+Bi+Pbを計算すると、500となり、本件訂正発明5の(1)式を満たす。
c 上記ア(ア)cで示したとおり、甲A2発明における(2As+Sb)/(Bi+Pb)を計算すると、約0.667となり、本件訂正発明5の(2)式を満たす。
d 甲A2発明の「Sn Bal.」と本件訂正発明5の「残部がSn」は、残部がSnであることを示す点では共通するが、本件訂正発明5の「残部がSn」とは、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cuを除いた残部を指すのに対し、甲A2発明の「Sn Bal.」は、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cuに加えて、Zn、Fe、Al、Cdを除いた残部を指すから、甲A2発明の「Sn Bal.」と本件訂正発明5の「残部がSn」とは同一の内容を指すとはいえない。
したがって、甲A2発明の「Sn Bal.」と本件訂正発明5の「残部がSn」 とは、Snを含有する点においてのみ、一致する。
e 甲A2発明の「Sn-3.0%Ag-0.5%Cuはんだ」は、本件訂正発明5の「はんだ合金」に相当する。
f したがって、本件訂正発明5と甲A2発明とは、以下の一致点A2-2において一致し、以下の相違点A2-2、A2-3において相違する。

[一致点A2-2]
「As、Pb、Sb、Bi、並びにSnを含有する合金組成を有し、下記(1)式および(2)式を満たし、更に、前記合金組成は、AgおよびCuを含有する(ただし、Ag3.0質量%?3.000965質量%、Cu0.50193質量%、As0.00386質量%、Pb0.029915質量%、Sb0.00579質量%、Bi0.00386質量%、Zn0.000965質量%未満、Fe0.004825質量%未満、Ni0.000965質量%、Ge0.000965質量%未満、In0.000965質量%未満、Au0.000965質量%未満、Al0.000965質量%未満、Cd0.000965質量%未満、および残部がSnである合金組成を除く)はんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb (1)
0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)
上記(1)式および(2)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。」

[相違点A2-2]
本件訂正発明5は、「Ag3.00質量%、Cu0.50質量%、As0.006質量%、Pb0.027質量%、Sb0.008質量%、Bi0.003質量%、Zn0.0001質量%、Fe0.002質量%、Al0.0001質量%、Cd0.0001質量%、および残部がSnである合金組成」が除かれたものであるのに対し、甲A2発明は、本件訂正発明5から除かれた組成を有する点。

[相違点A2-3]
本件訂正発明5は、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cuの残部がSnであるのに対し、甲A2発明は、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cu以外に、Znを0.0001mass%、Feを0.002mass%、Alを0.0001mass%、Cdを0.0001mass%の含有量で含有し、Snがこれらの成分の残部である点。


(イ)相違点A2-2についての判断
上記1(2)アで摘記した甲A2の【0041】、【0042】に記載のとおり、甲A2発明は、「はんだ中に含まれるAsの界面反応に及ぼす影響を検討するため」の「溶解試験」において用いられた「Sn-3.0%Ag-0.5%Cuはんだ」であり、当該はんだ自体で何らかの課題を解決しようとするものでなく、甲A2発明の組成で当該「溶解試験」の実施に何ら不都合はないのであるから、甲A2発明の組成に変更を加える動機はない。
また、本件明細書の【0021】に記載のように、本件訂正発明5は、特定の組成とすることで「優れた増粘抑制効果、濡れ性およびΔTの狭窄化」の効果を奏するものであるが、甲A2には当該効果について何ら記載はなく、さらに本件訂正発明5の組成により当該効果が奏されることが技術常識であったともいえないから、甲A2発明の組成を変更して本件訂正発明5の範囲の組成とした場合に当該効果が奏されることは、当業者が予測し得ることではない。
したがって、甲A2発明の合金組成を変更して、「Ag3.00質量%、Cu0.50質量%、As0.006質量%、Pb0.027質量%、Sb0.008質量%、Bi0.003質量%、Zn0.0001質量%、Fe0.002質量%、Al0.0001質量%、Cd0.0001質量%、および残部がSnである合金組成」でない合金組成とすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。


(ウ)小括
よって、相違点A2-3について判断するまでもなく、本件訂正発明5は、甲A2発明ではなく、甲A2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


エ 本件訂正発明6、7について
本件訂正発明6、7は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むか、または、本件訂正発明5の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1、5と同様に、甲A2に記載された発明ではなく、甲A2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(3)甲A3を主たる引用文献とした場合について
ア 本件訂正発明1について
(ア)本件訂正発明1と甲A3発明との対比
a 甲A3発明の「mass%」は質量%と同義であり、10^(4)倍して質量ppmに換算可能であるところ、甲A3発明のAs、Pb、Sb、Biの各成分の含有量を質量ppmに換算すると、Asが38.6質量ppm、Pbが299.15質量ppm、Sbが57.9質量ppm、Biが38.6質量ppmであるから、甲A3発明と本件訂正発明1とは、「As:38.6質量ppm、Pb:299.15質量ppm、Sb:57.9質量ppm、Bi:38.6質量ppm」において一致する。
b 上記aより、甲A3発明における2As+Sb+Bi+Pbを計算すると、472.85となり、本件訂正発明1の(1)式を満たす。
c 上記aより、甲A3発明における(2As+Sb)/(Bi+Pb)を計算すると、0.4となり、本件訂正発明1の(2)式を満たす。
d 甲A3発明の「Sn:残部」と本件訂正発明1の「残部がSn」は、残部がSnであることを示す点では共通するが、本件訂正発明1の「残部がSn」とは、As、Pb、Sb、Biを除いた残部を指すのに対し、甲A3発明の「Sn:残部」は、As、Pb、Sb、Biに加えて、Ag、Cu、Zn、Fe、Cd、Ni、Ge、In、Au、Alを除いた残部を指すから、甲A3発明の「Sn:残部」と本件訂正発明1の「残部がSn」とは同一の内容を指すとはいえない。
したがって、甲A3発明の「Sn:残部」と本件訂正発明1の「残部がSn」とは、Snを含有する点においてのみ、一致する。
e 甲A3発明の「鉛フリーはんだである試料合金3NSAC」は、本件訂正発明1の「はんだ合金」に相当する。
f したがって、本件訂正発明1と甲A3発明とは、以下の一致点A3-1において一致し、以下の相違点A3-1において一見相違する。

[一致点A3-1]
「As:38.6質量ppm、Pb:299.15質量ppm、Sb:57.9質量ppm、Bi:38.6質量ppm、並びにSnを含有する合金組成を有し、下記(1)式および(2)式を満たすはんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb (1)
0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)
上記(1)式および(2)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。」

[相違点A3-1]
本件訂正発明1は、As、Pb、Sb、Biの残部がSnであるのに対し、甲A3発明は、As、Pb、Sb、Bi以外に、Cu:0.50193mass%、Ag:3.0mass%?3.000965mass%、Zn:<0.000965mass%、Fe:<0.004825mass%、Cd:<0.000965mass%、Ni:0.000965mass%、Ge:<0.000965mass%、In:<0.000965mass%、Au:<0.000965mass%、Al:<0.000965mass%を含有し、Snがこれらの成分の残部である点。

(イ)相違点A3-1についての判断
a 相違点A3-1が実質的な相違点であるか否かについて
上記(2)ア(イ)aで示したとおり、本件訂正発明1は、As、Pb、Sb、Bi、Sn以外に不可避的不純物を含み得ることが認められる。
したがって、甲A3発明に含まれるが、本件訂正発明1が含まない成分である、Ag、Cu、Zn、Fe、Cd、Ni、Ge、In、Au、Alの各成分が不可避的不純物である場合には、上記相違点A3-1は実質的な相違点ではないこととなるので、これらの成分が不可避的不純物といえるかにつき、以下に検討する。
甲A3発明において、Ag及びCuは、上記1(3)アで摘記した【0017】に「表2の配合組成となるように各原料を秤量した」と記載され、【表2】の「3NSAC」欄に「3NSn+3.0%Ag+0.5%Cu」と記載されていることから理解されるように、意図的に添加されたものであり、明らかに不可避的不純物ではない。
したがって、その他の成分について検討するまでもなく、相違点A3-1は、実質的な相違点である。

b 相違点A3-1の容易想到性について

本件明細書の【0021】に記載のように、本件訂正発明1は、特定の組成とすることで「優れた増粘抑制効果、濡れ性およびΔTの狭窄化」の効果を奏するものであるが、甲A3には、上記1(3)アで摘記した【0014】において、「はんだとして要求される性能、強度や脆性、形態の安定性が長期的に維持される作用効果」が記載されるのみで、本件明細書の【0021】に記載の前記効果について何ら記載はなく、さらに本件訂正発明1の組成により当該効果が奏されることが技術常識であったともいえないから、仮に、甲A3発明の組成を本件訂正発明1の組成に変更し得るとしても、その場合に、本件訂正発明1の効果を奏することは,当業者が予測し得ることではない。
したがって、甲A3発明において、Cu、Ag、Zn、Fe、Cd、Ni、Ge、In、Au、Alを含有しないものとし、As、Pb、Sb、Biの残部がSnであるとの事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(ウ)小括
よって、本件訂正発明1は、甲A3発明ではなく、甲A3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


イ 本件訂正発明2?4について
本件訂正発明2?4は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1と同様に、甲A3に記載された発明ではなく、甲A3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


ウ 本件訂正発明5について
(ア)本件訂正発明5と甲A3発明との対比
a 甲A3発明の「mass%」は質量%と同義であるから、甲A3発明の「Cu:0.50193mass%、Pb:0.029915mass%、Ag:3.0mass%?3.000965mass%、Sb:0.00579mass%、Bi:0.00386mass%、Zn:<0.000965mass%、Fe:<0.004825mass%、Cd:<0.000965mass%、Ni:0.000965mass%、Ge:<0.000965mass%、In:<0.000965mass%、Au:<0.000965mass%、Al:<0.000965mass%、As:0.00386mass%、Sn:残部の含有量である」との組成は、本件訂正発明5から除かれた組成の一方である、「Ag3.0質量%?3.000965質量%、Cu0.50193質量%、As0.00386質量%、Pb0.029915質量%、Sb0.00579質量%、Bi0.00386質量%、Zn0.000965質量%未満、Fe0.004825質量%未満、Ni0.000965質量%、Ge0.000965質量%未満、In0.000965質量%未満、Au0.000965質量%未満、Al0.000965質量%未満、Cd0.000965質量%未満、および残部がSnである合金組成」に相当する。したがって、甲A3発明と本件訂正発明5とは、各成分の含量では相違するものの、「As」、「Pb」、「Sb」、「Bi」、「Ag」および「Cu」を含む点、及び、本件訂正発明5から除かれた合金組成の他方である、「Ag3.00質量%、Cu0.50質量%、As0.006質量%、Pb0.027質量%、Sb0.008質量%、Bi0.003質量%、Zn0.0001質量%、Fe0.002質量%、Al0.0001質量%、Cd0.0001質量%、および残部がSnである合金組成」に該当しない点では一致する。
b 上記ア(ア)bで示したとおり、甲A3発明における2As+Sb+Bi+Pbを計算すると、472.85となり、本件訂正発明5の(1)式を満たす。
c 上記ア(ア)cで示したとおり、甲A3発明における(2As+Sb)/(Bi+Pb)を計算すると、0.4となり、本件訂正発明5の(2)式を満たす。
d 甲A3発明の「Sn:残部」と本件訂正発明5の「残部がSn」は、残部がSnであることを示す点では共通するが、本件訂正発明5の「残部がSn」とは、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cuを除いた残部を指すのに対し、甲A3発明の「Sn:残部」は、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cuに加えて、Zn、Fe、Cd、Ni、Ge、In、Au、Alを除いた残部を指すから、甲A3発明の「Sn:残部」と本件訂正発明5の「残部がSn」とは同一の内容を指すとはいえない。
したがって、甲A3発明の「Sn:残部」と本件訂正発明5の「残部がSn」とは、Snを含有する点においてのみ、一致する。
e 甲A3発明の「鉛フリーはんだである試料合金3NSAC」は、本件訂正発明5の「はんだ合金」に相当する。
f したがって、本件訂正発明5と甲A3発明とは、以下の一致点A3-2において一致し、以下の相違点A3-2、A3-3において一見相違する。

[一致点A3-2]
「As:38.6質量ppm、Pb:299.15質量ppm、Sb:57.9質量ppm、Bi:38.6質量ppm、並びにSnを含有する合金組成を有し、下記(1)式および(2)式を満たし、更に、前記合金組成は、Ag:3.00?3.000965質量%およびCu:0.50193質量%を含有する(ただし、Ag3.00質量%、Cu0.50質量%、As0.006質量%、Pb0.027質量%、Sb0.008質量%、Bi0.003質量%、Zn0.0001質量%、Fe0.002質量%、Al0.0001質量%、Cd0.0001質量%、および残部がSnである合金組成を除く)はんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb (1)
0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)
上記(1)式および(2)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。」

[相違点A3-2]
本件訂正発明5は、「Ag3.0質量%?3.000965質量%、Cu0.50193質量%、As0.00386質量%、Pb0.029915質量%、Sb0.00579質量%、Bi0.00386質量%、Zn0.000965質量%未満、Fe0.004825質量%未満、Ni0.000965質量%、Ge0.000965質量%未満、In0.000965質量%未満、Au0.000965質量%未満、Al0.000965質量%未満、Cd0.000965質量%未満、および残部がSnである合金組成」が除かれたものであるのに対し、甲A3発明は、本件訂正発明5から除かれた組成を有する点。

[相違点A3-3]
本件訂正発明5は、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cuの残部がSnであるのに対し、甲A3発明は、As、Pb、Sb、Bi、Ag、Cu以外に、Zn:<0.000965mass%、Fe:<0.004825mass%、Cd:<0.000965mass%、Ni:0.000965mass%、Ge:<0.000965mass%、In:<0.000965mass%、Au:<0.000965mass%、Al:<0.000965mass%を含有し、Snがこれらの成分の残部である点。

(イ)相違点A3-2についての判断

本件明細書の【0021】に記載のように、本件訂正発明5は、特定の組成とすることで「優れた増粘抑制効果、濡れ性およびΔTの狭窄化」の効果を奏するものであるが、甲A3には、上記1(3)アで摘記した【0014】において、「はんだとして要求される性能、強度や脆性、形態の安定性が長期的に維持される作用効果」が記載されるのみで、本件明細書の【0021】に記載の前記効果について何ら記載はなく、さらに本件訂正発明5の組成により当該効果が奏されることが技術常識であったともいえないから、仮に、甲A3発明の組成を本件訂正発明5の組成に変更し得るとしても、その場合に、本件訂正発明5の効果を奏することは,当業者が予測し得ることではない。
したがって、甲A3発明の合金組成を変更して、「Ag3.0質量%?3.000965質量%、Cu0.50193質量%、As0.00386質量%、Pb0.029915質量%、Sb0.00579質量%、Bi0.00386質量%、Zn0.000965質量%未満、Fe0.004825質量%未満、Ni0.000965質量%、Ge0.000965質量%未満、In0.000965質量%未満、Au0.000965質量%未満、Al0.000965質量%未満、Cd0.000965質量%未満、および残部がSnである合金組成」でない合金組成とすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(ウ)小括
よって、相違点A3-3について判断するまでもなく、本件訂正発明5は、甲A3発明ではなく、甲A3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


エ 本件訂正発明6、7について
本件訂正発明6、7は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むか、または、本件訂正発明5の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1、5と同様に、甲A3に記載された発明ではなく、甲A3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(4)甲A4(甲B6)を主たる引用文献とした場合について

ア 甲A4実施例4発明を主たる引用文献とした場合について
甲A4の実施例4のみが、申立てA、申立てBの双方において引用されているから、まず、甲A4実施例4発明について検討する。

(ア)本件訂正発明1について

a 本件訂正発明1と甲A4実施例4発明との対比
(a)甲A4実施例4発明と本件訂正発明1とは、「As:85質量ppm」において一致する。
(b)甲A4実施例4発明と本件訂正発明1とは、「Sn」を含有する点で一致する。
(c)甲A4実施例4発明の「はんだ粉」は、本件訂正発明1の「はんだ合金」に相当する。
(d)したがって、本件訂正発明1と甲A4実施例4発明とは、以下の一致点A4-1において一致し、以下の相違点A4-1、A4-2において相違する。

[一致点A4-1]
「As:85質量ppm、並びにSnを含有する合金組成を有するはんだ合金。」

[相違点A4-1]
本件訂正発明1は、「Pb:0質量ppm超え5100質量ppm以下」であり、「Sb:0質量ppm超え3000質量ppm以下、およびBi:0質量ppm超え10000質量ppm以下の少なくとも1種」を含み、「275≦2As+Sb+Bi+Pb(1)」、「0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)」を満たすものであるのに対し、甲A4実施例4発明は、Pb、Sb、Biを含むものではない点。

[相違点A4-2]
本件訂正発明1は、Ag、Cuを含有しないものであるのに対し、甲A4実施例4発明は、Ag、Cuを含有する点。

b 相違点A4-1についての判断
(a)相違点A4-1の容易想到性について
上記1(4)アで摘記した甲A4の【0014】には、「本実施形態の一例に係る半田合金(「本半田合金」と称する)は、Snを主成分とし、微量のAs(砒素)を含有していれば、他の構成元素は、半田として機能し得る金属原料の組合せからなるものであれば特に限定するものではない」と記載されているから、甲A4実施例4発明においては、「半田として機能し得る」限りにおいて、「As」を所定範囲含有する範囲において、その他の各種成分の含量は適宜調整し得ると認められる。
一方で、本件明細書の【0021】に記載のように、本件訂正発明1は、特定の組成とすることで「優れた増粘抑制効果、濡れ性およびΔTの狭窄化」の効果を奏するものであるが、甲A4には、【0012】に「半田ペースト作製後の粘度上昇を抑制すること」は記載されているものの、As以外の成分と粘度上昇抑制との関係や濡れ性、ΔTについて記載はなく、本件明細書の【0021】に記載の前記効果について記載されているとはいえず、さらに本件訂正発明1の組成により当該効果が奏されることが技術常識であったともいえないから、甲A4実施例4発明の組成を変更して本件訂正発明1の範囲の組成とした場合に当該効果が奏されることは、当業者が予測し得ることではない。
したがって、甲A4実施例4発明が「Pb:0質量ppm超え5100質量ppm以下」であり、「Sb:0質量ppm超え3000質量ppm以下、およびBi:0質量ppm超え10000質量ppm以下の少なくとも1種」を含み、「275≦2As+Sb+Bi+Pb(1)」、「0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)」を満たすとの事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(b)申立人の意見について
申立人Aは、申立てAに係る異議申立書第23?25頁のウ(オ)において、甲4実施例4発明が、甲6の第5頁に記載の鉛フリーはんだの不純物の含有量の範囲の上限値でPb、Sb、Biを含むとすれば、上記相違点4-1に係る事項を備える旨、主張するが、甲4実施例4発明が、甲6に記載の不純物の範囲の上限値でPb、Sb、Biを含むとする根拠がない。
また、不純物は通常は少ない方がよいのであって、あえて不純物を増加させる理由もないから、甲4実施例4発明において、甲6に記載の範囲の上限値でPb、Sb、Biを含有させることが、当業者が容易に想到し得ることであるともいえない。
したがって、申立人Aの上記主張は採用できない。
また、申立人Bの申立てBに係る異議申立書第6、7頁(ト)における主張は、上記申立人Aの主張と概ね同じ主張であるから、同様に採用できない。

c 相違点A4-2についての判断
(a)相違点A4-2が実質的な相違点であるか否かについて
本件明細書の【0054】を参照すると、「(5)残部:Sn 本発明のはんだ合金の残部はSnである。前述の元素の他に不可避的不純物を含有してもよい。」と記載されているから、本件訂正発明1は、As、Pb、Sb、Bi、Sn以外に不可避的不純物を含み得ることが認められる。
したがって、甲A4実施例4発明に含まれるが、本件訂正発明1が含まない成分である、Ag、Cuの各成分が不可避的不純物である場合には、上記相違点A4-2は実質的な相違点ではないこととなるので、これらの成分が不可避的不純物といえるかにつき、以下に検討する。
甲A4実施例4発明は、「はんだ組成がSnAg3Cu0.5である」から、Ag及びCuは、意図的に添加されたものであり、明らかに不可避的不純物ではない。
したがって、相違点A4-2は、実質的な相違点である。

(b)相違点A4-2の容易想到性について
上記b(a)で示したとおり、甲A4実施例4発明においては、「半田として機能し得る」限りにおいて、「As」を所囲含有する範囲において、その他の各種成分の含量は適宜調整し得ると認められる。
一方で、上記b(a)で示した本件訂正発明1の範囲の組成としたことの効果は、当業者が予測し得るものではない。
したがって、甲A4実施例4発明がAg、Cuを含有しないようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

d 小括
よって、本件訂正発明1は、甲A4実施例4発明ではなく、甲A4実施例4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(イ)本件訂正発明2?4について
本件訂正発明2?4は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1と同様に、甲A4実施例4発明ではなく、甲A4実施例4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(ウ)本件訂正発明5について
a 本件訂正発明5と甲A4実施例4発明との対比
(a)本件訂正発明5は、本件訂正発明1に「Ag:0?4質量%およびCu:0?0.9質量%」を含む点を追加し、一部の組成を除いたものであるが、甲A4発明は、「Ag3」、「Cu0.5」を含むものであるから、本件訂正発明5と甲A4実施例4発明とは、「Ag:3質量%およびCu:0.5質量%」を含む点で一致する。また、甲A4実施例4発明は、本件訂正発明5で除かれた組成には該当しない。
(b)そして、上記(a)を考慮して、上記(ア)aと同様にして、本件訂正発明5と甲A4実施例4発明とを対比すると、両者は、以下の一致点A4-2において一致し、上記相違点A4-1において相違する。

[一致点A4-2]
「As:85質量ppm、並びにSnを含有する合金組成を有し、さらに、前記合金組成は、Ag:3質量%およびCu:0.5質量%を含有する(ただし、Ag3.00質量%、Cu0.50質量%、As0.006質量%、Pb0.027質量%、Sb0.008質量%、Bi0.003質量%、Zn0.0001質量%、Fe0.002質量%、Al0.0001質量%、Cd0.0001質量%、および残部がSnである合金組成、並びにAg3.0質量%?3.000965質量%、Cu0.50193質量%、As0.00386質量%、Pb0.029915質量%、Sb0.00579質量%、Bi0.00386質量%、Zn0.000965質量%未満、Fe0.004825質量%未満、Ni0.000965質量%、Ge0.000965質量%未満、In0.000965質量%未満、Au0.000965質量%未満、Al0.000965質量%未満、Cd0.000965質量%未満、および残部がSnである合金組成を除く)、はんだ合金。」

b 相違点A4-1についての判断
相違点A4-1については、上記(ア)bで述べたとおりであり、甲A4実施例4発明が上記相違点A4-1に係る事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

c 小括
よって、本件訂正発明5は、甲A4実施例4発明ではなく、甲A4実施例4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(エ)本件訂正発明6、7について
本件訂正発明6、7は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むか、または、本件訂正発明5の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1、5と同様に、甲A4実施例4発明ではなく、甲A4実施例4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


イ 甲A4実施例1発明、甲A4実施例3発明、甲A4実施例8発明、甲A4実施例9発明、甲A4実施例10発明、甲A4比較例2発明を引用発明とした場合について

甲A4実施例1発明、甲A4実施例3発明、甲A4実施例8発明、甲A4実施例9発明、甲A4実施例10発明、甲A4比較例2発明は、甲A4実施例4発明とAs、Ag、Cuの含有量が異なるのみであるから、アで示した理由と同様の理由で、本件訂正発明1?7は、甲A4実施例1発明、甲A4実施例3発明、甲A4実施例8発明、甲A4実施例9発明、甲A4実施例10発明、甲A4比較例2発明ではなく、甲A4実施例1発明、甲A4実施例3発明、甲A4実施例8発明、甲A4実施例9発明、甲A4実施例10発明、甲A4比較例2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(5)甲A5(甲B3)を主たる引用文献とした場合について

ア 甲A5本発明例7発明を主たる引用文献とした場合について

(ア)本件訂正発明1について

a 本件訂正発明1と甲A5本発明例7発明との対比
(a)甲A5本発明例7発明の「mass%」は質量%と同義であり、質量%を10^(4)倍することで、質量ppmに換算可能であるところ、甲A5本発明例7発明のAs、Biの各成分の含有量を質量ppmに換算すると、Asが210質量ppm、Biが9500質量ppmであるから、甲A5本発明例7発明と本件訂正発明1とは、「As:210質量ppm」、「Bi:9500質量ppm」において一致する。
(b)本件訂正発明1は「Pb」を含むものであり、本件訂正発明1の「式(1)」、「式(2)」は、「Pb」を含むことを前提として計算されるものであるから、他の成分の含量によらず、Pbを含むものではない甲A5本発明例7発明は、「式(1)」、「式(2)」を満たすとはいえない。
(c)甲A5本発明例7発明の「SnがBal.」と本件訂正発明1の「残部がSn」は、残部がSnであることを示す点では共通するが、本件訂正発明1の「残部がSn」とは、As、Pb、Sb、Biを除いた残部を指すのに対し、甲A5本発明例7発明の「SnがBal.」は、As、Bi、Agを除いた残部を指すから、甲A5本発明例7発明の「SnがBal.」と本件訂正発明1の「残部がSn」とは同一の内容を指すとはいえない。
したがって、甲A5本発明例7発明の「SnがBal.」と本件訂正発明1の「残部がSn」とは、Snを含有する点においてのみ、一致する。
(d)甲A5本発明例7発明の「合金のインゴット」は、本件訂正発明1の「はんだ合金」に相当する。
(e)したがって、本件訂正発明1と甲A5本発明例7発明とは、以下の一致点A5-1において一致し、以下の相違点A5-1、A5-2において相違する。

[一致点A5-1]
「As:210質量ppm、Bi:9500質量ppm、並びにSnを含有する合金組成を有するはんだ合金。」

[相違点A5-1]
本件訂正発明1は、「Pb:0質量ppm超え5100質量ppm以下」を含み、「275≦2As+Sb+Bi+Pb(1)」、「0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)」を満たすものであるのに対し、甲A5本発明例7発明は、Pbを含むものではない点。

[相違点A5-2]
本件訂正発明1は、Agを含有しないものであるのに対し、甲A5本発明例7発明は、Agを含有する点。

b 相違点A5-1についての判断
(a)相違点A5-1の容易想到性について
上記1(5)アで摘記した甲A5の【0021】の記載からみて、甲A5本発明例7発明は、「鉛フリーはんだ合金」に関する発明であるから、甲A5本発明例7発明において、あえて鉛(Pb)を添加することには、阻害要因があるといえる。
また、本件明細書の【0021】に記載のように、本件訂正発明1は、特定の組成とすることで「優れた増粘抑制効果、濡れ性およびΔTの狭窄化」の効果を奏するものであるが、甲A5には、【0012】に「半田ペースト作製後の粘度上昇を抑制すること」は記載されているものの、As以外の成分と粘度上昇抑制との関係や濡れ性、ΔTについて記載はなく、本件明細書の【0021】に記載の前記効果について記載されているとはいえず、さらに本件訂正発明1の組成により当該効果が奏されることが技術常識であったともいえないから、甲A5本発明例7発明の組成を変更して本件訂正発明1の範囲の組成とした場合に当該効果が奏されることは、当業者が予測し得ることではない。
したがって、甲A5本発明例7発明が「Pb:0質量ppm超え5100質量ppm以下」を含み、「275≦2As+Sb+Bi+Pb(1)」、「0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)」を満たすとの事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(b)申立人の主張について
(b-1)申立人Aの令和2年6月1日付け意見書での主張について
申立人Aは、上記意見書の第3?7頁に記載の(2)において、
「ウ.本発明例7?9は、『純度4NのSn、Ag、Pb、Cu、Bi及びAsを出発原料とし、真空誘導溶解炉を用いて表1に示す各種の合金のインゴットを作製した』(段落【0012】)ものである。
・・・
甲A3・・・の表1(段落【0030】)によれば、純度4NのSnは、Pb0.0014mass%、Sb0.0018mass%を含有するものである。
・・・
甲A5の表1には、Pb、Sbの成分値は記載されていないが、本発明例7?9には、少なくとも4NSn由来のPb、Sbは含有するものと解される。」
と主張するともに、甲5における「純度4NのSn」が甲A3の表1における「4NSn」の含有量でPb、Sbを有することを前提として、甲5の本発明例7?9が、本件訂正発明1の組成及び「式(1)」、「式(2)」を満たすことを主張している。
しかしながら、4NのSn自体が、合計100ppm以下の不純物を含有することは確かであるものの、全ての4NのSnの不純物が同じ組成であるとする根拠はなく、甲A5における「純度4NのSn」が甲A3の表1における「4NSn」の含有量と同一の含有量でPb、Sbを有するとはいえないし、そもそも甲A5における「純度4NのSn」がPb、Sbを必ず含有すると断定することもできない。
したがって、申立人Aの上記主張は、甲5の本件訂正発明例7?9が、本件訂正発明1の組成及び「式(1)」、「式(2)」を満たすような含有量で、Pb、Sbを含有するというには十分なものではなく、採用することができない。

(b-2)申立人Bの異議申立てBに係る異議申立書第5、6頁(ホ)における主張について
申立人Bは、異議申立てBに係る異議申立書第5、6頁(ホ)において、「はんだ合金のJISでは、Pbについて0.005質量%未満(50質量ppm未満)は不純物として表示しないことが規定されている。逆に言えば、当該JISは、たとえ表示されていなくても、どのはんだ合金も、0.005質量%未満(50ppm未満)のPbを含んでいることを示唆しているといえる。よって、・・・本件特許発明と引用発明(特会2002-224881号公報)とは、Pbの有無という点で異なるとは認めるべきではない」と主張している。
しかしながら、上記1(5)アで摘記した甲5の【0013】の【表1】を参照すると、Pbは「-」として含まれていないことが記載されているから、甲5においては、Pbについて表示されていないのではなく、含まれていないことが明記されているといえる。
したがって、Pbについて明記されていないことを前提とした上記申立人Bの主張は採用できない。
また、JISにおいて、0.005質量%未満のPbについて表示しなくてもよいことが規定されていたとしても、Pbが表示されていない場合にもPbが必ず含まれることを示す訳ではないから、JISにしたがってPbの表示がない場合においても、Pbの有無は不明といえるに過ぎず、Pbを含むということはできない。
したがって、甲A5におけるPbの含量についての「-」との表記が、仮に、JISにしたがって、Pbについて表記しなかった場合にあたるとしても、甲A5発明がPbを必ず含むと断定することはできず、上記申立人Bの主張は採用できない。

c 小括
よって、相違点A5-2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲A5本発明例7発明ではなく、甲A5本発明例7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(イ)本件訂正発明2?4について
本件訂正発明2?4は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1と同様に、甲A5本発明例7発明ではなく、甲A5本発明例7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(ウ)本件訂正発明5について
a 本件訂正発明5と甲A5本発明例7発明との対比
(a)本件訂正発明5は、本件訂正発明1に「Ag:0?4質量%およびCu:0?0.9質量%」を含む点を追加し、一部の組成を除いたものであるが、甲A5本発明例7発明は、「Agが2.05mass%」含まれるものであるから、本件訂正発明5と甲A5本発明例7発明とは、「Ag:2.05質量%」を含む点で一致する。また、甲A5本発明例7発明は、本件訂正発明5で除かれた組成には該当しない。
(b)そして、上記(a)を考慮して、上記(ア)aと同様にして、本件訂正発明5と甲A5本発明例7発明とを対比すると、両者は、以下の一致点A5-2において一致し、上記相違点A5-1において相違する。

[一致点A5-2]
「As:210質量ppm、Bi:9500質量ppm、並びにSnを含有する合金組成を有し、さらに、前記合金組成は、Ag:3質量%およびCu:0.5質量%を含有する(ただし、Ag3.00質量%、Cu0.50質量%、As0.006質量%、Pb0.027質量%、Sb0.008質量%、Bi0.003質量%、Zn0.0001質量%、Fe0.002質量%、Al0.0001質量%、Cd0.0001質量%、および残部がSnである合金組成、並びにAg3.0質量%?3.000965質量%、Cu0.50193質量%、As0.00386質量%、Pb0.029915質量%、Sb0.00579質量%、Bi0.00386質量%、Zn0.000965質量%未満、Fe0.004825質量%未満、Ni0.000965質量%、Ge0.000965質量%未満、In0.000965質量%未満、Au0.000965質量%未満、Al0.000965質量%未満、Cd0.000965質量%未満、および残部がSnである合金組成を除く)、はんだ合金。」

b 相違点A5-1についての判断
相違点A5-1については、上記(ア)bで述べたとおりであり、甲A5本発明例7発明が上記相違点A5-1に係る事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

c 小括
よって、本件訂正発明5は、甲A5本発明例7発明ではなく、甲A5本発明例7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(エ)本件訂正発明6、7について
本件訂正発明6、7は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むか、または、本件訂正発明5の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1、5と同様に、甲A5本発明例7発明ではなく、甲A5本発明例7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


イ 甲A5本発明例8発明、甲A5本発明例9発明を引用発明とした場合について

甲A5本発明例8発明、甲A5本発明例9発明は、甲A5本発明例7発明とAs、Bi、Ag、Cuの含有量が異なるのみであるから、アで示した理由と同様の理由で、本件訂正発明1?7は、甲A5本発明例8発明、甲A5本発明例9発明ではなく、甲A5本発明例8発明、甲A5本発明例9発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(6)甲A6(甲B4)を主たる引用文献とした場合について

ア 本件訂正発明1について

(ア)本件訂正発明1と甲A6発明との対比
a 本件訂正発明1と甲A6発明とは、各成分の具体的な含有量は異なるが、「As」、「Pb」、「Sb」、「Bi」を含み得る点で一致する。
b 甲A6発明の「残部がSn」と本件訂正発明1の「残部がSn」は、残部がSnであることを示す点では共通するが、本件訂正発明1の「残部がSn」とは、As、Pb、Sb、Biを除いた残部を指すのに対し、甲A6発明の「Sn Bal.」は、As、Pb、Sb、Biに加えて、Cu、Au、In、Ag、Al、As、Cd、Fe、Ni、Znのうち含有量が0%でないものを除いた残部を指すから、甲A6発明の「残部がSn」と本件訂正発明1の「残部がSn」とは同一の内容を指すとはいえない。
したがって、甲A6発明の「残部がSn」と本件訂正発明1の「残部がSn」 とは、Snを含有する点においてのみ、一致する。
c 甲A6発明の「鉛フリーはんだ」は、本件訂正発明1の「はんだ合金」に相当する。
d したがって、本件訂正発明1と甲A6発明とは、以下の一致点A6-1において一致し、以下の相違点A6-1において相違する。

[一致点A6-1]
「As、Pb、Sb、Biを含み得るものであり、Snを含有する合金組成を有するはんだ合金。」

[相違点A6-1]
本件訂正発明1は、「As:25?300質量ppm、Pb:0質量ppm超え5100質量ppm以下、並びにSb:0質量ppm超え3000質量ppm以下、およびBi:0質量ppm超え10000質量ppm以下の少なくとも1種、並びに残部がSnからなる合金組成」を有し、「275≦2As+Sb+Bi+Pb(1)」及び「0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)」を満たすものであるのに対し、甲A6発明は、「Pbが0%以上0.07%以下、Sbが0%以上0.20%以下、Biが0%以上0.10%以下、Cuが0.5?0.9%、Auが0%以上0.05%以下、Inが0%以上0.10%以下、Agが0%以上0.10%以下、Alが0%以上0.001%以下、Asが0%以上0.03%以下、Cdが0%以上0.002%以下、Feが0%以上0.02%以下、Niが0%以上0.01%以下、Znが0%以上0.001%以下であり、Snがこれらの成分の残部である」点。

(イ)相違点A6-1についての判断
上記1(6)アで摘記した甲A6の表1、表2は、鉛フリーはんだの種類を示す表であって、甲A6には、当該表に記載の組成から特定の組成を選択する動機となり得るような事項についての記載はなされていないから、甲A6発明に含まれる組成のうちから、相違点A6-1に係る事項を満たす特定の組成を選択する特段の動機は存在しない。
また、本件明細書の【0021】に記載のように、本件訂正発明1は、特定の組成とすることで「優れた増粘抑制効果、濡れ性およびΔTの狭窄化」の効果を奏するものであるが、甲A6には、本件明細書の【0021】に記載の前記効果について記載されておらず、さらに本件訂正発明1の組成により当該効果が奏されることが技術常識であったともいえないから、甲A6発明から特定の組成のものを選択して本件訂正発明1の範囲の組成とした場合に当該効果が奏されることは、当業者が予測し得ることではない。
したがって、甲A6発明が「As:25?300質量ppm、Pb:0質量ppm超え5100質量ppm以下、並びにSb:0質量ppm超え3000質量ppm以下、およびBi:0質量ppm超え10000質量ppm以下の少なくとも1種、並びに残部がSnからなる合金組成」を有し、「275≦2As+Sb+Bi+Pb(1)」及び「0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)」を満たすとの事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(ウ)小括
よって、本件訂正発明1は、甲A6発明ではなく、甲A6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


イ 本件訂正発明2?4について
本件訂正発明2?4は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1と同様に甲A6発明ではなく、甲A6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


ウ 本件訂正発明5について
(ア)本件訂正発明5と甲A6発明との対比
a 本件訂正発明5は、本件訂正発明1に「Ag:0?4質量%およびCu:0?0.9質量%」を含む点を追加し、一部の組成を除いたものであるが、甲A6発明は、「Cuが0.5?0.9%」、「Agが0%以上0.10%以下」含まれるものであるから、本件訂正発明5と甲A6発明とは、「Ag:0?0.10質量%およびCu:0.5?0.9質量%」を含む点で一致する。また、甲A6発明は、本件訂正発明5で除かれた組成には該当しない。
b そして、上記aを考慮して、上記ア(ア)と同様にして、本件訂正発明5と甲A6発明とを対比すると、両者は、以下の一致点A6-2において一致し、以下の相違点A6-2において相違する。

[一致点A6-2]
「As、Pb、Sb、Biを含み得るものであり、Snを含有する合金組成を有し、更に、前記合金組成は、Ag:0?0.10質量%およびCu:0.5?0.9質量%を含有する(ただし、Ag3.00質量%、Cu0.50質量%、As0.006質量%、Pb0.027質量%、Sb0.008質量%、Bi0.003質量%、Zn0.0001質量%、Fe0.002質量%、Al0.0001質量%、Cd0.0001質量%、および残部がSnである合金組成、並びにAg3.0質量%?3.000965質量%、Cu0.50193質量%、As0.00386質量%、Pb0.029915質量%、Sb0.00579質量%、Bi0.00386質量%、Zn0.000965質量%未満、Fe0.004825質量%未満、Ni0.000965質量%、Ge0.000965質量%未満、In0.000965質量%未満、Au0.000965質量%未満、Al0.000965質量%未満、Cd0.000965質量%未満、および残部がSnである合金組成を除く)はんだ合金。」

[相違点A6-2]
本件訂正発明5は、Ag、Cu以外に、「As:25?300質量ppm、Pb:0質量ppm超え5100質量ppm以下、並びにSb:0質量ppm超え3000質量ppm以下、およびBi:0質量ppm超え10000質量ppm以下の少なくとも1種、並びに残部がSnからなる合金組成」を有し、「275≦2As+Sb+Bi+Pb(1)」及び「0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)」を満たすものであるのに対し、甲A6発明は、「Pbが0%以上0.07%以下、Sbが0%以上0.20%以下、Biが0%以上0.10%以下、Cuが0.5?0.9%、Auが0%以上0.05%以下、Inが0%以上0.10%以下、Agが0%以上0.10%以下、Alが0%以上0.001%以下、Asが0%以上0.03%以下、Cdが0%以上0.002%以下、Feが0%以上0.02%以下、Niが0%以上0.01%以下、Znが0%以上0.001%以下であり、Snがこれらの成分の残部である」点。

(イ)相違点A6-2についての判断
上記ア(イ)にて示した理由と同様の理由により、甲A6発明の各成分の含量の範囲から、相違点A6-2に係る事項を満たす特定の組成を選択する特段の動機は存在しない。
また、上記ア(イ)にて示した本件訂正発明1の効果と同様の本件訂正発明5の効果は、当業者が予測し得るものではない。
したがって、甲A6発明が「As:25?300質量ppm、Pb:0質量ppm超え5100質量ppm以下、並びにSb:0質量ppm超え3000質量ppm以下、およびBi:0質量ppm超え10000質量ppm以下の少なくとも1種、並びに残部がSnからなる合金組成」を有し、「275≦2As+Sb+Bi+Pb(1)」及び「0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)」を満たすとの事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(ウ)小括
よって、本件訂正発明5は、甲A6発明ではなく、甲A6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(エ)本件訂正発明6、7について
本件訂正発明6、7は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むか、または、本件訂正発明5の発明特定事項を全て含むから、本件訂正発明1、5と同様に、甲A1実施例2発明ではなく、甲A1実施例2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


(7)まとめ
よって、本件訂正発明1?7は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものではない。


3 申立理由B-1、B-2(明確性)について

(1)申立理由B-1について

ア 申立人Bの主張

申立人Bは、上記第4 2(1)に申立理由B-1として記載のとおり、以下のような主張をしている。

「本件特許の請求項1は、As、Pb、Sb及びBiの4元素と残部を占めるSn以外の元素成分を含有しない合金組成であることが認められる。
他方、本件特許の請求項5は、請求項1が規定する元素に加えてAgおよびCuの少なくとも1種を含有する合金組成のものであるから、当該請求項1とは異なる合金組成のはんだ合金であり、当該請求項1の下位概念に該当するものではない。
にもかかわらず、本件特許の請求項5は、請求項1が規定する元素に加えてAgおよびCuの少なくとも1種を含有する合金組成のものであるから、当該請求項1とは異なる合金組成のはんだ合金であり、当該請求項1の下位概念に該当するものではない。にもかかわらず、本件特許の請求項5は、本件特許の請求項1に従属する記載となっているから、整合しておらず、発明が不明確である。」

イ 当審の判断
他の請求項を引用する請求項に係る発明が、常に、当該他の請求項に係る発明の下位概念にあたるものでなければならない理由はなく、本件訂正発明5は、本件訂正発明1の「As」、「Pb」、「Sb」、「Bi」に加えて、「Ag」と「Cu」を含有し、「As」、「Pb」、「Sb」、「Bi」、「Ag」、「Cu」の残部を「Sn」とするものと合理的に理解することができるから、本件訂正発明5が、申立理由B-1により不明確であるとはいえない。


(2)申立理由B-2について

ア 申立人Bの主張

(ア)上記(1)のとおり、本件訂正発明1と本件訂正発明5とは、はんだ合金の組成が異なるものであるが、両者とも請求項1に記載の「式(1)」、「式(2)」を満たすもので、その式に違いはない。

(イ)そして、申立人Bは、この点につき、上記申立理由B-2として、「合金組成の全く異なる両者の必要条件が全く同一の(1)式および(2)式となることは、技術常識から到底理解することができない。少なくとも、(1)式および(2)式の下限値または上限値が異なることは明らかである」と主張する。

イ 当審の判断
請求項1に記載の「式(1)」、「式(2)」自体は、明確である。
また、本件明細書の【0017】には、「そこで、本発明者らは、Asの他に増粘抑制効果を発揮する元素を添加する必要があることに思い至り、種々の元素を調査したところ、偶然にも、Sb、BiおよびPbがAsと同様の効果を発揮する知見を得た。この理由は定かではないが、以下のように推察される。」と記載され、【0022】、【0023】に【0017】に記載の当該「知見」から、請求項1記載の「式(1)」、「式(2)」が得られたことが記載されており、その意味も理解できる。
よって、本件訂正発明1、本件訂正発明5は、明確である。
そして、本件訂正発明1と本件訂正発明5とで、「式(1)」、「式(2)」が同じだからといって、そのことのみで、「式(1)」、「式(2)」が明確でないとはいえない。
したがって、申立理由B-2により、本件訂正発明1、本件訂正発明5が不明確であるとはいえない。

(3)他の理由について
他に、本件訂正発明1?7が明確でないとする理由を発見しない。

(4)小括
よって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、同法第113条第4号に該当することにより取り消されるべきものではない。


4 申立理由B-3、B-7(実施可能要件、サポート要件)について

(1)本件明細書の記載
本件明細書には、以下の記載がある。

「【0013】
本発明の課題は、ペーストの経時変化を抑制し、濡れ性に優れ、液相線温度と固相線温度との温度差が小さく高い機械的特性を有するはんだ合金、はんだ粉末、はんだペースト、およびこれらを用いたはんだ継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ペーストの経時変化の抑制と優れた濡れ性が同時に改善される際、高い活性力を有するフラックスの使用とAs含有量の増加による悪循環を避ける必要がある。本発明者らは、はんだ粉末の合金組成に着目し、フラックスの種類によらず、ペーストの経時変化の抑制と優れた濡れ性の両立を図るために鋭意検討を行った。
・・・
【0016】
はんだペーストの粘度が経時的に上昇する理由は、はんだ粉末とフラックスが反応するためであると考えられる。そして、特許文献1の表1実施例4と比較例2の結果を比較すると、As含有量が100質量ppmを超えた方が粘度上昇率が低い結果を示している。これらを鑑みると、ペーストの経時変化を抑制する効果(以下、適宜、「増粘抑制効果」と称する。)に着目した場合、As含有量をさらに増加させてもよいと考えた。As含有量を増加した場合、As含有量に伴い増粘抑制効果がわずかに増加するものの、As含有量が多すぎると、はんだ合金のぬれ性が悪化することが確認された。
【0017】
そこで、本発明者らは、Asの他に増粘抑制効果を発揮する元素を添加する必要があることに思い至り、種々の元素を調査したところ、偶然にも、Sb、BiおよびPbがAsと同様の効果を発揮する知見を得た。この理由は定かではないが、以下のように推察される。
【0018】
増粘抑制効果はフラックスとの反応を抑制することにより発揮されることから、フラックスとの反応性が低い元素として、イオン化傾向が低い元素が挙げられる。一般に、合金のイオン化は、合金組成としてのイオン化傾向、すなわち標準電極電位で考える。例えば、Snに対して貴なAgを含むSnAg合金はSnよりもイオン化し難い。このため、Snよりも貴な元素を含有する合金はイオン化し難いことになり、はんだペーストの増粘抑制効果が高いと推察される。
・・・
【0020】
本発明者らは、増粘抑制効果として知見したBiおよびPbについて詳細に調査した。BiおよびPbははんだ合金の液相線温度を下げるため、はんだ合金の加熱温度が一定である場合、はんだ合金の濡れ性を向上させる。ただ、含有量によっては固相線温度が著しく低下するため、液相線温度と固相線温度との温度差であるΔTが広くなりすぎる。ΔTが広くなりすぎると凝固時に偏析が生じてしまい、機械的強度等の機械的特性の低下に繋がってしまう。ΔTが広がる現象は、BiおよびPbを同時に添加した場合に顕著に表れることから、厳密な管理が必要であることも知見した。
【0021】
さらに、本発明者らは、はんだ合金の濡れ性を向上させるため、Bi含有量およびPb含有量を再調査したが、これらの元素の含有量が増加するとΔTが広くなった。そこで、本発明者らは、イオン化傾向がSnに対して貴な元素であるとともにはんだ合金の濡れ性を改善する元素としてSbを選択してSb含有量の許容範囲を定めた上で、Sbを含めたAs、Bi、Pb、およびSbの各々の含有量に関する関係を詳細に調査した結果、偶然にも、これらの元素の含有量が所定の関係式を満たす場合、優れた増粘抑制効果、濡れ性、およびΔTの狭窄化のすべてにおいて実用上問題ない程度である知見を得て、本発明を完成した。
【0022】
これらの知見により得られた本発明は次の通りである。
(1)As:25?300質量ppm、Pb:0質量ppm超え5100質量ppm以下、並びにSb:0質量ppm超え3000質量ppm以下、およびBi:0質量ppm超え10000質量ppm以下の少なくとも1種、並びに残部がSnからなる合金組成を有し、下記(1)式および(2)式を満たすことを特徴とするはんだ合金。
【0023】
275≦2As+Sb+Bi+Pb (1)
0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)
上記(1)式および(2)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々合金組成での含有量(質量ppm)を表す。」
「 【0034】
1. 合金組成
(1) As:25?300ppm
Asは、はんだペーストの粘度の経時変化を抑制することができる元素である。Asは、フラックスとの反応性が低く、またSnに対して貴な元素であるために増粘抑制効果を発揮することができると推察される。Asが25ppm未満であると、増粘抑制効果を十分に発揮することができない。As含有量の下限は25ppm以上・・・である。一方、Asが多すぎるとはんだ合金の濡れ性が劣化する。As含有量の上限は300ppm以下・・・である。
【0035】
(2) Pb:0質量ppm超え5100質量ppm以下、並びにSb:0質量ppm超え3000質量ppm以下、およびBi:0質量ppm超え10000質量ppm以下の少なくとも1種
Sbは、フラックスとの反応性が低く増粘抑制効果を示す元素である。本発明に係るはんだ合金がSbを含有する場合、Sb含有量の下限は0ppm超え・・・である。一方、Sb含有量が多すぎると、濡れ性が劣化するため、適度な含有量にする必要がある。Sb含有量の上限は3000ppm以下であり、好ましくは1150ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下である。
【0036】
BiおよびPbは、Sbと同様に、フラックスとの反応性が低く増粘抑制効果を示す元素である。また、BiおよびPbは、はんだ合金の液相線温度を下げるとともに溶融はんだの粘性を低減させるため、Asによる濡れ性の劣化を抑えることができる元素である。
【0037】
Pb、ならびにSb、およびBiの少なくとも1元素が存在すれば、Asによる濡れ性の劣化を抑えることができる。本発明に係るはんだ合金がBiを含有する場合、Bi含有量の下限は0ppm超えであり、・・・である。Pb含有量の下限は0ppm超え・・・である。
【0038】
一方、これらの元素の含有量が多すぎると、固相線温度が著しく低下するため、液相線温度と固相線温度との温度差であるΔTが広くなりすぎる。ΔTが広すぎると、溶融はんだの凝固過程において、BiやPbの含有量が少ない高融点の結晶相が析出するために液相のBiやPbが濃縮される。その後、さらに溶融はんだの温度が低下すると、BiやPbの濃度が高い低融点の結晶相が偏析してしまう。このため、はんだ合金の機械的強度等が劣化し、信頼性が劣ることになる。特に、Bi濃度が高い結晶相は硬くて脆いため、はんだ合金中で偏析すると信頼性が著しく低下する。
【0039】
このような観点から、本発明に係るはんだ合金がBiを含有する場合、Bi含有量の上限は10000ppm以下・・・である。Pb含有量の上限は5100ppm以下・・・である。
【0040】
(3) (1)式
本発明に係るはんだ合金は、下記(1)式を満たす必要がある。
【0041】
275≦2As+Sb+Bi+Pb (1)
上記(1)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【0042】
As、Sb、BiおよびPbは、いずれも増粘抑制効果を示す元素である。増粘抑制これらの合計が275ppm以上である必要がある。(1)式中、As含有量を2倍にしたのは、AsがSbやBiやPbと比較して増粘抑制効果が高いためである。
【0043】
(1)式が275未満であると、増粘抑制効果が十分に発揮されない。(1)式の下限は275以上であり、・・・」
「 【0046】
(4) (2)式
本発明に係るはんだ合金は、下記(2)式を満たす必要がある。
【0047】
0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)
上記(2)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【0048】
AsおよびSbは含有量が多いとはんだ合金の濡れ性が劣化する。一方、BiおよびPbは、Asを含有することによる濡れ性の劣化を抑制するが、含有量が多すぎるとΔTが上昇してしまうため、厳密な管理が必要である。特に、BiおよびPbを同時に含有する合金組成では、ΔTが上昇しやすい。これらを鑑みると、BiおよびPbの含有量を増加させて過度に濡れ性を向上させようとするとΔTが広がってしまう。一方、AsやSbの含有量を増加させて増粘抑制効果を向上させようとすると濡れ性が劣化してしまう。そこで、本発明では、AsおよびSbのグループ、BiおよびPbのグループに分け、両グループの合計量が適正な所定の範囲内である場合に、増粘抑制効果、ΔTの狭窄化、および濡れ性のすべてが同時に満たされるのである。
【0049】
(2)式が0.01未満であると、BiおよびPbの含有量の合計がAsおよびPbの含有量の合計と比較して相対的に多くなるため、ΔTが広がってしまう。(2)式の下限は0.01以上・・・である。一方、(2)式が10.00を超えると、AsおよびSbの含有量の合計がBiおよびPbの含有量の合計より相対的に多くなるため、濡れ性が劣化してしまう。(2)の上限は10.00以下・・・である。」
「 【0054】
(5)残部:Sn
本発明に係るはんだ合金の残部はSnである。前述の元素の他に不可避的不純物を含有してもよい。・・・」
「【0071】
(4)はんだペーストの製造方法
本発明に係るはんだペーストは、当業界で一般的な方法により製造される。まず、はんだ粉末の製造は、溶融させたはんだ材料を滴下して粒子を得る滴下法や遠心噴霧する噴霧法、バルクのはんだ材料を粉砕する方法等、公知の方法を採用することができる。滴下法や噴霧法において、滴下や噴霧は、粒子状とするために不活性雰囲気や溶媒中で行うことが好ましい。そして、上記各成分を加熱混合してフラックスを調製し、フラックス中に上記はんだ粉末や、場合によっては酸化ジルコニウム粉末を導入し、攪拌、混合して製造することができる。」
「【実施例】
【0076】
・・・
【0077】
ロジンが42質量部、グリコール系溶剤が35質量部、チキソ剤が8質量部、有機酸が10質量部、アミンが2質量部、ハロゲンが3質量部で調整したフラックスと、表1?表6に示す合金組成からなりJIS Z 3284-1:2014における粉末サイズの分類(表2)において記号4を満たすサイズ(粒度分布)のはんだ粉末とを混合してはんだペーストを作製した。フラックスとはんだ粉末との質量比は、フラックス:はんだ粉末=11:89である。各はんだペーストについて、粘度の経時変化を測定した。また、はんだ粉末の液相線温度および固相線温度を測定した。さらに、作製直後のはんだペーストを用いて濡れ性の評価を行った。詳細は以下のとおりである。
・・・
【0081】
評価した結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
【表5】

【0087】
【表6】

【0088】
表1?6に示すように、実施例は、いずれの合金組成においても本発明の要件をすべて満たすため、増粘抑制効果、ΔTの狭窄化、および優れた濡れ性を示すことがわかった。」

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。

(3)実施可能要件、サポート要件について

ア 当審の判断

(ア)実施可能要件について

a 実施可能要件を検討する観点について
物の発明における発明の実施とは、そのものの生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、特許法第36条第4項第1号が定める実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明が、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造し、使用することができる程度にその発明が記載されたものでなければならないと解される。
よって、この観点に立って、本件訂正発明1?7の実施可能要件について検討する。

b 本件訂正発明1?7について
本件訂正発明1は、請求項1に記載の所定の組成を有し、請求項1に記載の(1)式、(2)式を満たすはんだ合金の発明であるが、本件特許の明細書においては、はんだ合金を製造する方法についての具体的な記載はなされていない。
一方で、原料となる金属(Sn、As、Sb、Pb、Bi等)を所望のはんだ合金の組成に応じて混合する等により所定の組成のはんだ合金を製造し得ることは明らかであり、また、(1)式、(2)式の値は、はんだ合金の組成によって一義的に決まるものであるから、本件特許の明細書において、はんだ合金を製造する方法についての具体的が記載はなくとも、当業者であれば、過度の試行錯誤や複雑高度な実験を行うことなく、請求項1に記載の所定の組成を有し、請求項1に記載の(1)式、(2)式を満たす本件訂正発明1のはんだ合金を製造することができると認められる。
また、請求項2?4には、(1)式、(2)式をさらに限定した(1a)式、(1b)式、(2a)式が記載され、請求項5には、さらに、所定量のAg、Cuを含有することが記載されているが、本件訂正発明2?5に係るはんだ合金についても、本件訂正発明1と同様に、当業者であれば、過度の試行錯誤や複雑高度な実験を行うことなく、製造することができるものである。
また、【0071】、【0077】には、はんだ粉末、はんだペーストの製造方法についても具体的に記載されており、本件訂正発明6に係るはんだ粉末、本件訂正発明7に係るはんだペーストを、当業者が製造し得ることも明らかである。
さらに、はんだ合金、はんだ粉末及びはんだペーストをはんだ付けに使用可能であることは明らかであるから、本件訂正発明1?7を当業者がどのように使用できるかを理解し得ることは明らかである。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1?7について、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造し、使用することができる程度に記載されたものである。

c まとめ
よって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1?7を実施することができる程度に記載されたものであるから、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでなく、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものでない。


(イ)サポート要件について

a サポート要件を検討する観点について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、上記の観点に立って、本件特許の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについて検討する。

b 本件特許における発明が解決しようとする課題について
上記(1)で摘記した本件特許の明細書の【0013】に記載のとおり、本件特許における発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、「ペーストの経時変化を抑制し、濡れ性に優れ、液相線温度と固相線温度との温度差が小さく高い機械的特性を有するはんだ合金、はんだ粉末、はんだペースト、およびこれらを用いたはんだ継手を提供すること」である。

c 発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲について

(a)Asの含有量について
上記(1)で摘記した【0034】には、「Asは、はんだペーストの粘度の経時変化を抑制することができる元素であ」り、「Asが25ppm未満であると、増粘抑制効果を十分に発揮することができない」こと、「Asが多すぎるとはんだ合金の濡れ性が劣化する」ため、「As含有量の上限は300ppm以下」であることが記載されている。
したがって、上記課題を解決するためには、「As:25?300ppm」とすることが必要と認められる。

(b)Sb、Bi、Pbの含有量について
上記(1)で摘記した【0035】?【0039】には、「Sbは、フラックスとの反応性が低く増粘抑制効果を示す元素であ」り、「BiおよびPbは、Sbと同様に、フラックスとの反応性が低く増粘抑制効果を示す元素であ」り、「Pb、ならびにSb、およびBiの少なくとも1元素が存在すれば、Asによる濡れ性の劣化を抑えることができる」こと、「Pb、ならびにSb、およびBi」は、含有される場合には、下限は、「0ppm超え」であればよいことが記載されている。
また、上記(1)で摘記した【0035】?【0039】には、「Sb含有量が多すぎると、濡れ性が劣化するため」、「Sb含有量の上限は3000ppm以下であ」ること、「Bi」、「Pb」の「含有量が多すぎると、固相線温度が著しく低下するため、液相線温度と固相線温度との温度差であるΔTが広くなりすぎる」ため、「Bi含有量の上限は10000ppm以下」であること、「Pb含有量の上限は5100ppm以下」であることが記載されている。
したがって、上記課題を解決するためには、「Pb:0質量ppm超え5100質量ppm以下、並びにSb:0質量ppm超え3000質量ppm以下、およびBi:0質量ppm超え10000質量ppm以下の少なくとも1種」を備えることが必要と認められる。

(c)(1)式について
上記(1)で摘記した【0040】?【0043】より、「(1)式」として示された「275≦2As+Sb+Bi+Pb」を満たさない場合には、十分な増粘抑制効果を発揮し得ないことが認められる。
したがって、上記課題を解決するためには「(1)式」として示された「275≦2As+Sb+Bi+Pb」との式を満たすことが必要と認められる。

(d)(2)式について
上記(1)で摘記した【0046】?【0049】には、「(2)式」として「0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00」が示されているが、【0048】には、「AsおよびSbは含有量が多いとはんだ合金の濡れ性が劣化する。一方、BiおよびPbは、Asを含有することによる濡れ性の劣化を抑制するが、含有量が多すぎるとΔTが上昇してしまうため、厳密な管理が必要であ」り、「AsおよびSbのグループ、BiおよびPbのグループに分け、両グループの合計量が適正な所定の範囲内である場合に、増粘抑制効果、ΔTの狭窄化、および濡れ性のすべてが同時に満たされる」ことが記載されているから、「(2)式」は、「AsおよびSbのグループ、BiおよびPbのグループに分け、両グループの合計量が適正な所定の範囲内である」ように設定されたものであることが認められる。
そして、【0049】の記載から、「(2)式」の範囲について、「(2)式が0.01未満であると、BiおよびPbの含有量の合計がAsおよびPbの含有量の合計と比較して相対的に多くなるため、ΔTが広がってしまう」こと、「(2)式が10.00を超えると、AsおよびSbの含有量の合計がBiおよびPbの含有量の合計より相対的に多くなるため、濡れ性が劣化してしまう」ことが認められる。
したがって、上記課題を解決するためには、「(2)式」として示された「0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00」との式を満たすことが必要と認められる。

(e)実施例の記載について
上記(1)で摘記した【0076】?【0088】に記載の実施例のうち、実施例1、4?11、13?16、18は、Ag、Cuを含まず、上記(a)?(d)を満たす範囲内、すなわち、本件訂正発明1に含まれる範囲内で、合金組成、(1)式、(2)式の値を変化させた例である。そして、【0082】の【表1】には、実施例1、4?11、13?16、18において、ペーストの経時変化が抑制され、濡れ性に優れ、液相線温度と固相線温度との温度差(ΔT)が小さい結果が得られたことが示され、また、本件訂正発明1の範囲外の具体的である比較例1?13においては、ペーストの経時変化の抑制、濡れ性、またはΔTのいずれかにおいて効果が得られないことが示されている。さらに、実施例19、22?29、31?34、36、37、40?47、49?52、54、55、58?65、67?70。72、73、76?83、85?88、90、91、94?101、103?106、108、比較例14?78は、Ag、Cuの少なくとも一方を含み、本件訂正発明5に関連する実施例、比較例であるが、これらの実施例、比較例においても、実施例1、4?11、13?16、18、比較例1?13と同様の結果が得られたことが示されている。
したがって、本件特許の明細書の実施例の記載は、上記(a)?(d)の事項を備えるものであれば、上記課題を解決できることを裏付けるものである。

(f)よって、上記(a)?(d)の事項を備えるものであれば、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであると認められる。

d 本件訂正発明と発明の詳細な説明に記載された発明との対比
本件訂正発明1?7は、上記cで示した(a)?(d)の事項を全て備えるものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲に含まれると認められる。
したがって、本件訂正発明1?7は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲を超えるものではない。

e まとめ
よって、本件訂正発明1?7は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでなく、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものでない。

イ 申立人Bの主張について

(ア)申立理由B-3(申立てBに係る異議申立書の第4?5頁に記載された(4)(ニ))について
a 申立人Bは、申立理由B-3において、
「本件訂正発明1は、Pb、Sb及びBiの各含有量は、不可避不純物と通常認められる含有量を含んでいる。
本件特許明細書の実施例を見ると、Pbについて25質量ppm以上、Sbについては25ppm以上、Biについては25ppm以上の組成について効果を示すことが示されている反面、この数値未満については示されておらず、本件特許発明の課題を解決できることが示されていない。
はんだ合金は、金属製品の特性に影響を及ぼさない不可避不純物を含むことは技術常識として認識されているところであるから、Pb:25質量ppm未満、Sb:25質量ppm未満、Bi:25質量ppm未満の組成については、技術常識に照らせば、本件特許発明の課題を解決できるとは認められない。
したがって、本件訂正発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件訂正発明1?7は、サポート要件違反に該当する。」と主張している。
b しかしながら、本件特許の明細書の【0040】?【0050】に記載のように、本件特許においては、式(1)、式(2)において、増粘抑制効果等の所定の効果を奏するようにAs、Pb、Sb、Biの各成分の合計量やバランスが規定されているから、As、Pb、Sb、Biのうちの特定の成分の含有量が25ppm未満といった少量であったとしても、他の成分により所定の効果が奏されるような、各成分の含有量、バランスが保たれるといえる。
c したがって、As、Pb、Sb、Biのうちの特定の成分の含有量が25ppm未満といった少量となり得る場合があるということのみでは、本件訂正発明がサポートされていないことの根拠とはならず、上記申立人Bの主張は採用できない。
d また、合金に含まれる成分のうち、どの成分がどの範囲の含有量であれば不可避的不純物となるかは、合金の目的、製法、特性への影響等によって異なるのであって、含有量のみによって一義的に決まるものではないところ、本件特許において、Pb、Sb、Biはペーストの経時変化の抑制等の目的で積極的に添加されるものであって、その含有量によらず、不可避的不純物にあたらないことは明らかであるから、25ppm未満のPb、Sb、Biが不可避的不純物であることを前提とした、上記申立人Bの主張は採用できない。

(イ)申立理由B-7(申立てBに係る異議申立書の第7頁に記載された(4)(チ))について
a 申立人Bは、申立理由B-7において、「本件特許明細書に示された表1?表6の(1)式、(2)式の数値は、小数点2桁まで完全に一致しているが、技術常識からするとあり得ない。」と主張している。
b しかしながら、(1)式、(2)式の値は、組成によって一義的に決まるものであり、原料の比率の調整等によりはんだ合金の組成を任意に調整し得ることは明らかであるから、組成が異なるが(1)式、(2)式の値が同一となる複数の実施例を準備することは不可能ではなく、(1)式、(2)式の値が同一の値となる実施例が複数存在することが技術常識に反するとはいえない。したがって、申立人Bの上記主張は採用できない。
c また、申立人Bは、申立理由B-7において、「特に、表1?6に示された各元素の含有量が、実際に製造したはんだ合金の分析値であるとすれば、25ppmという極めて微量のSb、Bi、Pbをどのように測定したのか不明であり、本件訂正発明1?7を当業者が理解して実施することはできない。
他方、仮に製造した原料の量であるとするならば、25ppmという極めて微量のSb、Bi、Pbをどのように正確に含有させたのかが不明であり、本件訂正発明1?7を当業者が実施することはできない。
また、仮に製造した際の原料の量であるとすると、そもそも含有量とは認められないから、本件訂正発明1が規定する各元素の含有量のサポートにはなっていない。」とも主張している。
d しかしながら、例えば、上記1(1)アで摘記した、甲A1の【0041】、【0044】、上記1(2)アで摘記した、甲A2の【0042】、上記1(3)アで摘記した、甲A3の【0030】、上記1(4)アで摘記した、甲A4の【0045】において、はんだ合金の成分として、25ppmよりも小さい含有量の成分が記載されていることからも理解されるように、25ppm未満となるような微量の成分をはんだ合金に含み得ること、当該微量の成分の含有量を具体的に特定し得ることは技術常識であるから、本件特許において、どのようにして、表1?6に記載の含有量でPbやSbを含有させるのかを当業者が理解し得ないとはいえない。
また、原料における組成とはんだ合金の組成は、通常は、ほぼ同一と認められるから、表1?6に記載の実施例が本件訂正発明1が規定する各元素の含有量をサポートしないとはいえない。
したがって、申立人Bの上記主張は採用できない。

エ 小括
よって、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでもないから、同法第113条第4号に該当することにより取り消されるべきものではない。


第7 むすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は適法である。そして、本件訂正後の請求項1?7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由A-1、A-2、B-1?B-7によっては、取り消すことができない。
また、他に本件訂正後の請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
As:25?300質量ppm、Pb:0質量ppm超え5100質量ppm以下、並びにSb:0質量ppm超え3000質量ppm以下、およびBi:0質量ppm超え10000質量ppm以下の少なくとも1種、並びに残部がSnからなる合金組成を有し、下記(1)式および(2)式を満たすことを特徴とするはんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb (1)
0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2)
上記(1)式および(2)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【請求項2】
更に、前記合金組成は下記(1a)式を満たす、請求項1に記載のはんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb≦25200 (1a)
上記(1a)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【請求項3】
更に、前記合金組成は下記(1b)式を満たす、請求項1に記載のはんだ合金。
275≦2As+Sb+Bi+Pb≦5300 (1b)
上記(1b)式中、As、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【請求項4】
更に、前記合金組成は下記(2a)式を満たす、請求項1?3のいずれか1項に記載のはんだ合金。
0.31≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00 (2a)
上記(2a)式中、As、Sb、Bi、およびPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【請求項5】
更に、前記合金組成は、Ag:0?4質量%およびCu:0?0.9質量%の少なくとも1種を含有する(ただし、Ag3.00質量%、Cu0.50質量%、As0.006質量%、Pb0.027質量%、Sb0.008質量%、Bi0.003質量%、Zn0.0001質量%、Fe0.002質量%、Al0.0001質量%、Cd0.0001質量%、および残部がSnである合金組成、並びにAg3.0質量%?3.000965質量%、Cu0.50193質量%、As0.00386質量%、Pb0.029915質量%、Sb0.00579質量%、Bi0.00386質量%、Zn0.000965質量%未満、Fe0.004825質量%未満、Ni0.000965質量%、Ge0.000965質量%未満、In0.000965質量%未満、Au0.000965質量%未満、Al0.000965質量%未満、Cd0.000965質量%未満、および残部がSnである合金組成を除く)請求項1?4のいずれか1項に記載のはんだ合金。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載のはんだ合金を有するはんだ粉末。
【請求項7】
請求項6に記載のはんだ粉末を有するはんだペースト。
【請求項8】
更に、酸化ジルコニウム粉末を有する、請求項7に記載のはんだペースト。
【請求項9】
前記酸化ジルコニウム粉末を前記はんだペーストの全質量に対して0.05?20.0質量%含有する、請求項8に記載のはんだペースト。
【請求項10】
請求項1?5のいずれか1項に記載のはんだ合金を有するはんだ継手。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-08-03 
出願番号 特願2018-136542(P2018-136542)
審決分類 P 1 652・ 841- YAA (B23K)
P 1 652・ 536- YAA (B23K)
P 1 652・ 113- YAA (B23K)
P 1 652・ 537- YAA (B23K)
P 1 652・ 121- YAA (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川口 由紀子  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 井上 猛
北村 龍平
登録日 2019-05-10 
登録番号 特許第6521160号(P6521160)
権利者 千住金属工業株式会社
発明の名称 はんだ合金、はんだ粉末、はんだペースト、およびこれらを用いたはんだ継手  
代理人 剱物 英貴  
代理人 剱物 英貴  
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