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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
管理番号 1366968
異議申立番号 異議2019-700416  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-22 
確定日 2020-09-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6433948号発明「ガスセンサの電極形成用材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6433948号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6433948号の請求項1、3ないし6に係る特許を維持する。 特許第6433948号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6433948号の請求項1-6に係る特許についての出願は、平成28年7月20日に出願され、平成30年11月16日にその特許権の設定登録がされ、同年12月5日に特許掲載公報が発行された。その後の本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和元年5月22日 : 特許異議申立人 橋本清(以下、単に「特許異議申立人」という。)による特許異議の申立て
令和元年7月26日付け: 取消理由通知
令和元年9月30日 : 特許権者による意見書(以下、「特許権者意見書1」という。)の提出及び訂正請求(以下、「先の訂正請求」という。また、その訂正を「先の訂正」という。)
令和元年10月24日 : 特許権者による上申書(以下、単に「上申書1」という。)の提出
令和元年11月12日 : 特許権者による手続補正書の提出
令和元年12月25日 : 特許異議申立人による意見書(以下、「申立人意見書1」という。)の提出
令和2年1月27日付け: 取消理由通知(決定の予告)
令和2年3月31日 : 特許権者による意見書(以下、「特許権者意見書2」という。)の提出及び訂正請求
令和2年4月8日 : 特許権者による上申書(以下、単に「上申書2」という。)の提出
令和2年6月10日 : 特許異議申立人による意見書(以下、「申立人意見書2」という。)の提出

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和2年3月31日にされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。また、その訂正を「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-6について訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項1-6からなる(下線は、請求人が付したものである。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である請求項1-6について請求されている。また、先の訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「該セラミックス粒子の表面の少なくとも一部を被覆する酸化アルミニウムとから構成されている、ガスセンサの電極形成用材料。」と記載されているのを、「該セラミックス粒子の表面の少なくとも一部を被覆する酸化アルミニウムとから構成されており、前記複合セラミックス粒子における前記酸化アルミニウムの含有量が、2質量%以上20質量%以下であり、前記セラミックス粒子の平均一次粒子径が、0.05μm以上0.3μm以下である、ガスセンサの電極形成用材料。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3?6も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または請求項2に記載の電極形成用材料。」と記載されているのを、「請求項1に記載の電極形成用材料。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3の何れか一つに記載の電極形成用材料。」と記載されているのを、「請求項1または3に記載の電極形成用材料。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「前記コアとなるセラミックス粒子は、ジルコニア系酸化物を含む、請求項1?4の何れか一つに記載の電極形成用材料。」と記載されているのを、「前記コアとなるセラミックス粒子は、ジルコニア系酸化物を含み、平均一次粒子径が0.1μm以上0.2μm以下である、請求項1、3、4の何れか一つに記載の電極形成用材料。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5の何れか一つに記載の電極形成用材料。」と記載されているのを、「請求項1、3?5の何れか一つに記載の電極形成用材料。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否等
(1) 訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項1は、複合セラミックス粒子における酸化アルミニウムの含有量、及び、セラミックス粒子の平均一次粒子径は特定されていなかったところ、訂正事項1に係る訂正により、訂正後の請求項1では、複合セラミックス粒子における酸化アルミニウムの含有量が「2質量%以上20質量%以下で」あること、及び、セラミックス粒子の平均一次粒子径が「0.05μm以上0.3μm以下である」ことが特定され、請求項1が減縮される。また、請求項1を引用する請求項3-6においても同様である。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
複合セラミックス粒子における酸化アルミニウムの含有量に関して、本件特許の願書に添付した明細書等の【0027】には、「複合セラミックス粒子20における酸化アルミニウムの含有量(被覆量)は特に限定されないが、・・・酸化アルミニウムの含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、特に好ましくは8質量%以上である。また、酸化アルミニウムの含有量の上限は特に限定されないが、概ね20質量%以下にすることが適当であり、製造容易性やセンサ応答性を高める等の観点から、好ましくは18質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下である。」と記載されている。また、セラミックス粒子の平均一次粒子径に関して、本件特許の願書に添付した明細書等の【0024】には、「ここに開示される技術は、セラミックス粒子22の平均一次粒子径D_(y)が0.05μm以上0.3μm以下(好ましくは0.1μm以上0.2μm以下)である態様で好ましく実施され得る。」と記載されている。
よって、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、本件特許の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「本件特許明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものでない。また、請求項1を引用する請求項3-6においても同様である。
したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、請求項1において、「前記複合セラミックス粒子における前記酸化アルミニウムの含有量が、2質量%以上20質量%以下であり、前記セラミックス粒子の平均一次粒子径が、0.05μm以上0.3μm以下である」という発明特定事項を付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、訂正事項1は、請求項1を引用する請求項3-6において、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項2を削除するものであり、当該訂正は特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものにも該当しない。

(3)訂正事項3-4,6
訂正事項3-4,6は、それぞれ、択一的に引用する請求項を削除する訂正であるから、いずれも、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものにも該当しない。

(4)訂正事項5
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項5は、セラミックス粒子の平均一次粒子径は特定されていなかったところ、訂正事項5に係る訂正により、訂正後の請求項5では、セラミックス粒子の平均一次粒子径が「0.1μm以上0.2μm以下である」ことが特定され、請求項1が減縮される。
また、訂正前の請求項5は、請求項1?4の何れか一つを引用していたところ、訂正事項5に係る訂正により、訂正後の請求項5では、「請求項1、3、4の何れか一つ」を引用するものとなり、請求項1が減縮される。
したがって、訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
セラミックス粒子の平均一次粒子径に関して、本件特許明細書の【0024】には、「ここに開示される技術は、セラミックス粒子22の平均一次粒子径D_(y)が0.05μm以上0.3μm以下(好ましくは0.1μm以上0.2μm以下)である態様で好ましく実施され得る。」と記載されている。
また、「請求項1、3、4の何れか一つ」を引用するものとする点に関して、この訂正事項は択一的に引用する請求項を削除する訂正であるから、新規事項の追加に該当しない。
よって、訂正事項5は、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものでない。
したがって、訂正事項5は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、請求項5において、「前記コアとなるセラミックス粒子は、・・・、平均一次粒子径が0.1μm以上0.2μm以下である」という発明特定事項を付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(5)独立特許要件について
本件では、訂正前の請求項1-6について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1-6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。

3 小括
上記2のとおり、訂正事項1-6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1-6に係る発明(以下、「本件発明1」-「本件発明6」といい、また、「本件発明」と総称することがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1-6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
ガスセンサの多孔質電極を形成するための材料であって、
白金族に属するいずれか一種または二種以上の金属元素を含む導電性粒子と、
コア部と表面部とが質的に異なる複合セラミックス粒子と
を含み、
前記複合セラミックス粒子は、酸素イオン伝導性を有するコアとなるセラミックス粒子と、該セラミックス粒子の表面の少なくとも一部を被覆する酸化アルミニウムとから構成されており、
前記複合セラミックス粒子における前記酸化アルミニウムの含有量が、2質量%以上20質量%以下であり、
前記セラミックス粒子の平均一次粒子径が、0.05μm以上0.3μm以下である、
ガスセンサの電極形成用材料。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記導電性粒子100質量部に対して、前記複合セラミックス粒子の含有量が1質量部以上20質量部以下である、請求項1に記載の電極形成用材料。
【請求項4】
前記導電性粒子は、白金および/またはパラジウムを含む、請求項1または3に記載の電極形成用材料。
【請求項5】
前記コアとなるセラミックス粒子は、ジルコニア系酸化物を含み、平均一次粒子径が0.1μm以上0.2μm以下である、請求項1、3、4の何れか一つに記載の電極形成用材料。
【請求項6】
さらに、分散媒とバインダとを含み、ペースト状に調製されたことを特徴とする、請求項1、3?5の何れか一つに記載の電極形成用材料。」

第4 当審の判断
1 取消理由の概要
先の訂正による請求項1、3?6に係る発明に対して、当審が令和2年1月27日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明の課題は、YSZのような酸素イオン伝導性を示すセラミックス材料は、耐熱性が低く、例えば一般的な構成のガスセンサの焼結温度である1400?1600℃の温度域では耐熱性不足によって熱収縮が生じ、電極の緻密化が進行するため、電極の多孔質状態を維持できず、電極内部に三相界面が十分に形成されなくなり、所望の電極活性が得られない虞があったところ、セラミックス粒子の耐熱性を高めて焼結時の緻密化を防ぎ、高度に多孔質化した電極を形成し得る、ガスセンサの電極形成用材料を提供することである。
ここで、複合セラミックス粒子における酸化アルミニウムの被覆が極微量であれば、YSZのセラミックス粒子の耐熱性を高めて焼結時の緻密化を防ぐことができず、上記課題を解決することができない。また、酸化アルミニウムによる過剰な被覆は、三相界面形成の妨げとなり、上記課題を解決することができない。
そして、粒状の物体における単位質量(単位体積)あたりの表面積は粒径に反比例することは技術常識であるから、複合セラミックス粒子における酸化アルミニウムの含有量が一定であっても、コアとなるセラミックス粒子の粒径に応じて、酸化アルミニウムにより被覆状態(厚さ、範囲)は異なるものと認められる。そうすると、酸化アルミニウムの被覆が極微量である場合や過剰である場合を避けることにより、本件発明の課題を解決するためには、酸化アルミニウムの含有量に加え、コアとなるセラミックス粒子の平均一次粒子径として適切なものを選択する必要があるといえる。
本件特許明細書に記載された実施例1-5及び上申書1の実施例A、B(以下、実施例1-5及び実施例A、Bをまとめて、「本件実施例」という。)では、いずれも、【0044】に記載の平均一次粒子径が0.1μm?0.2μmであるセラミックス粒子をコアとした複合セラミックス粒子粉末を用いた電極用ペーストを用いて作成したサンプルについて、電極抵抗(Ω)とピークトップ(Hz)を測定することにより、課題が解決できることを示している。
すると、コアとなるセラミックス粒子の平均一次粒子径が0.2μmよりも大きい場合、実施例で示されている場合よりもコア粒子全体の質量あたりの表面積は小さくなり、一粒あたりの酸化アルミニウムの含有量は実施例で示されているものより多くなる。その結果、酸化アルミニウムによる被覆が過剰となり、三相界面が十分に形成されない可能性があるから、本件実施例によって課題が解決することが示されているとはいえない。
また、コアとなるセラミックス粒子の平均一次粒子径が0.1μmよりも小さい場合、実施例で示されている場合よりもコア粒子全体の質量あたりの表面積は大きくなり、一粒あたりの酸化アルミニウムの含有量は実施例で示されているものよりも少なくなる。その結果、酸化アルミニウムによる被覆が極微量となり、YSZのセラミックス粒子の耐熱性を高めて焼結時の緻密化を防ぐことができない可能性があるから、本件実施例によって課題が解決することが示されているとはいえない。
他方、本件特許明細書段落【0024】-【0025】には、コアとなるセラミックス粒子の好ましい平均一次粒子径について、0.1μmよりも小さい値や、0.2μmよりも大きい値も記載されている。しかしながら、当該記載は、粒径に適した酸化アルミニウムの含有量を示すものではなく、本件発明の課題を解決することが可能である、コアとなるセラミックス粒子の平均一次粒子径について示すものではない。
ここで、先の訂正による請求項1に係る発明(以下「先の訂正発明1」という。)について検討すると、先の訂正発明1では、「酸素イオン伝導性のコアとなるセラミックス粒子」の粒子径について何ら特定されていないため、先の訂正発明1は、あらゆる粒子径の「酸素イオン伝導性のコアとなるセラミックス粒子」を包含するものとなっている。してみると、先の訂正発明1は、酸化アルミニウムの含有量が極微量であったり過剰であるような、上記課題を解決することができない被覆を包含しているといえる。
また、先の訂正による請求項3-6に係る発明も、「酸素イオン伝導性のコアとなるセラミックス粒子」の粒子径について何ら特定されていないため、酸化アルミニウムの含有量が極微量であったり過剰であるような、上記課題を解決することができない被覆を包含しているといえる。
そして、先の訂正による請求項3-6に係る発明は、先の訂正による請求項1を引用する発明であり、被覆についての特定を付加するものではないから、先の訂正による請求項1に係る発明と同様に、先の訂正による請求項3-6に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

2 取消理由についての判断
(1) 本件特許明細書の記載について
本件特許明細書には、以下に摘記する事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

(本a)「【0005】
上記のような白金材料およびYSZのような酸素イオン伝導性を示すセラミックス材料からなる電極は、ガスセンサのガス検出のための反応が白金と酸素イオン伝導性セラミックスと被測定ガス(気相)とが接する三相界面において生じ得る。このため、典型的には電極の構造を多孔質とし、電極の内部に白金/セラミックス/気相の三相界面を多く形成することで、電極活性を高めることが必要とされている。
しかしながら、YSZのような酸素イオン伝導性を示すセラミックス材料は、耐熱性が低く、例えば一般的な構成のガスセンサの焼結温度である1400?1600℃の温度域では耐熱性不足によって熱収縮が生じ、電極の緻密化が進行する。その結果、電極の多孔質状態を維持できず、電極内部に三相界面が十分に形成されなくなり、所望の電極活性が得られない虞があった。
【0006】
本発明はかかる課題を解決すべく創出されたものであり、その主な目的は、セラミックス粒子の耐熱性を高めて焼結時の緻密化を防ぎ、高度に多孔質化した電極を形成し得る、ガスセンサの電極形成用材料を提供することである。」

(本b)「【0021】
(複合セラミックス粒子20)
ここに開示される電極形成用材料1は、上述した導電性粒子10に加えて、複合セラミックス粒子20を含む。複合セラミックス粒子20は、前述のように、コアとなるセラミックス粒子22と、該セラミックス粒子22の表面を酸化アルミニウムで被覆したシェル24とから構成されている。
【0022】
コアとなるセラミックス粒子22としては、酸素イオン伝導性を示す各種セラミックス材料の粉末を用いることができる。そのようなセラミックス材料としては、特定の構成元素のものに限られないが、ジルコニア系酸化物やセリア系酸化物が好ましい。ジルコニア系酸化物としては、ジルコニア(ZrO_(2))や安定化剤としての酸化物が添加されて安定化された安定化ジルコニア(典型的にはZrO_(2)-M_(2)O_(3)固溶体またはZrO_(2)-MO固溶体:ここでMはY、Sc、Ca、Yb、GdおよびMgのうちの一種または二種以上の元素である。)が好ましく用いられる。例えば、イットリア(Y_(2)O_(3))で安定化したジルコニア(YSZ)、カルシア(CaO)で安定化したジルコニア(CSZ)等が挙げられる。なかでもYSZが好適である。例えば、全体の1モル%?10モル%(好ましくは3モル%?8モル%)となる量のイットリアまたはカルシアを固溶させた安定化ジルコニアが特に好ましい。また、セリア系酸化物としては、希土類元素がドープされたセリウム酸化物(典型的にはCeO_(2)-M_(2)O_(3)固溶体またはCeO_(2)-MO固溶体:ここでMはY、SmおよびGdのうちの一種または二種以上の元素である。)が好ましく用いられる。希土類元素がドープされたセリウム酸化物としては、サマリアがドープされたセリア(SDC)、イットリアがドープされたセリア(YDC)、ガドリニアがドープされたセリア(GDC)等が挙げられる。また、好適な希土類元素のドープ量は、5モル%?20モル%(好ましくは5モル%?15モル%)程度である。あるいは、ランタンガリウムネート(LaGaO_(3))系、ランタンコバルトネート(LaCoO_(3))系、ランタンマンガネート(LaMnO_(3))系等の酸素イオン伝導性を示すペロブスカイト型酸化物を使用してもよい。ここに開示される技術における電極形成用材料1は、このような酸素イオン伝導性を示すセラミックス材料の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのセラミックス材料は、酸素イオン伝導性に優れるため、電極活性に優れた電極を形成し得る点で好ましい。また、これらのセラミックス材料を用いることで、形成(焼成)された電極と固体電解質層との間の界面の密着性を高めることができる。
【0023】
コアとなるセラミックス粒子22の性状は特に限定されない。例えば、セラミックス粒子22の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなすセラミックス粒子22の具体例としては、板状、針状、紡錘状等が挙げられる。
【0024】
コアとなるセラミックス粒子22としては、その平均一次粒子径(以下、単に「D_(y)」と表記することがある。)が0.01μm以上のものを好ましく採用することができる。平均一次粒子径D_(y)が0.01μm以上のセラミックス粒子22によると、電極の多孔質化がより高いレベルで実現され得る。セラミックス粒子22の平均一次粒子径D_(y)は、好ましくは0.03μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.07μm以上、特に好ましくは0.08μm以上である。セラミックス粒子22の平均一次粒子径D_(y)の上限は特に限定されないが、概ね1μm以下にすることが適当であり、好ましくは0.8μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。例えばセラミックス粒子22の平均一次粒子径D_(y)は、0.3μm以下であってもよく、典型的には0.2μm以下であってもよい。ここに開示される技術は、セラミックス粒子22の平均一次粒子径D_(y)が0.05μm以上0.3μm以下(好ましくは0.1μm以上0.2μm以下)である態様で好ましく実施され得る。
【0025】
好ましい一態様では、コアとなるセラミックス粒子22の平均一次粒子径D_(y)は、導電性粒子10の平均一次粒子径D_(x)よりも小さい(すなわちD_(y)<D_(x))。例えば、D_(x)とD_(y)との関係が0.01≦(D_(y)/D_(x))≦0.8を満たすことが好ましく、0.02≦(D_(y)/D_(x))≦0.6を満たすことがより好ましく、0.04≦(D_(y)/D_(x))≦0.5を満たすことがさらに好ましい。導電性粒子10とセラミックス粒子22とを特定の平均一次粒子径比となるように組み合わせて用いることにより、固体電解質上に形成される電極の緻密化をより効果的に防ぐことができる。結果、電極の多孔質化がより高いレベルで実現され得る。ここに開示される技術は、例えば、D_(x)とD_(y)との関係が、0.06≦(D_(y)/D_(x))≦0.4、より好ましくは0.08≦(D_(y)/D_(x))≦0.3、さらに好ましくは0.1≦(D_(y)/D_(x))≦0.2である態様で好ましく実施され得る。
【0026】
セラミックス粒子22の表面を被覆するシェル24は、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))を主成分として構成されている。ここで、酸化アルミニウムを主成分とするシェル24とは、該シェル24の80質量%以上(通常は90質量%以上、典型的には95質量%以上、例えば98質量%以上)が酸化アルミニウムから構成されたものであり得る。
【0027】
複合セラミックス粒子20における酸化アルミニウムの含有量(被覆量)は特に限定されないが、複合セラミックス粒子20の全質量(すなわちコアとなるセラミックス粒子と酸化アルミニウムとの合計質量)に対して、通常は1質量%以上である。酸化アルミニウムの含有量が1質量%以上の複合セラミックス粒子20によると、電極の多孔質化がより高いレベルで実現され得る。その結果、電極活性が向上し、電極抵抗をより良く下げることができる。酸化アルミニウムの含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、特に好ましくは8質量%以上である。また、酸化アルミニウムの含有量の上限は特に限定されないが、概ね20質量%以下にすることが適当であり、製造容易性やセンサ応答性を高める等の観点から、好ましくは18質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下である。例えば、酸化アルミニウムの含有量が1質量%以上20質量%以下(好ましくは5質量%以上12質量%以下)である複合セラミックス粒子20を好ましく採用し得る。」

(本c)「【0044】
<実施例1>
(複合セラミックス粒子の作製)
平均一次粒子径0.1μm?0.2μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア(8mol%Y_(2)O_(3)‐ZrO_(2);YSZ)粉末と、Alを構成元素とする有機金属化合物を溶媒に溶解させた有機金属化合物溶液とを所定の配合比で混合し、スラリーを調製した。このスラリーを乾燥した後、得られた混合粉末を700℃で熱処理することより、YSZからなるセラミックス粒子の表面が酸化アルミニウムで被覆(コーティング)された複合セラミックス粒子粉末を得た。本例では、YSZ粉末と酸化アルミニウムとの合計質量を100質量%とした場合における酸化アルミニウムの含有量(以下、「Al_(2)O_(3)量」と表記する。)は2.0質量%とした。
【0045】
(電極形成用ペーストの調製)
上記得られた複合セラミックス粒子粉末と、導電性粒子としてのPt粉末(平均一次粒子径0.8μm?1μm)と、バインダと、気孔形成剤と、分散媒体とを攪拌・混合することによって電極形成用ペーストを調製した。ここでは、電極形成用ペーストに占めるPt粉末の割合を48質量%とした。また、Pt粉末100質量部に対する複合セラミックス粒子粉末の使用量を10質量%とし、Pt粉末100質量部に対するバインダの使用量を13質量%とした。このようにして本例に係る電極形成用ペーストを調製した。
【0046】
<実施例2?4>
実施例2?4では、複合セラミックス粒子における酸化アルミニウムの含有量(Al_(2)O_(3)量)を5質量%?12質量%の範囲で変更したこと以外は、実施例1と同じ手順で複合セラミックス粒子および電極形成用ペーストを調製した。
【0047】
<実施例5>
実施例5では、導電性粒子として、Pt粉末に代えて、Pt粉末とPd粉末(平均一次粒子径0.3μm?0.5μm)との混合粉末を用いたこと以外は、実施例1と同じ手順で複合セラミックス粒子および電極形成用ペーストを調製した。Pt粉末とPd粉末との混合比率は80:20とした。
【0048】
<比較例1>
比較例1では、複合セラミックス粒子粉末に代えて、酸化アルミニウムで被覆されていないセラミックス粉末(すなわちコアのYSZ粉末)を用いたこと以外は、実施例1と同じ手順で電極形成用ペーストを調製した。
【0049】
<比較例2?6>
比較例2?6では、複合セラミックス粒子粉末に代えて、酸化アルミニウムで被覆されていないセラミックス粉末(すなわちコアのYSZ粉末)を使用し、かつ、酸化アルミニウム粉末を電極形成用ペーストに添加したこと以外は、実施例1と同じ手順で電極形成用ペーストを調製した。各例のYSZ粉末と酸化アルミニウムとの合計質量を100質量%とした場合における酸化アルミニウムの含有量(以下、「Al_(2)O_(3)量」と表記する。)は、表1に示すとおりである。
【0050】
【表1】

【0051】
(電極の形成)
各例に係る電極形成用ペーストを用いて電極を作製した。すなわち、ジルコニア(YSZ)を主体とする固体電解質層材料からなる円板状のグリーンシートの両面に電極形成用ペーストをスクリーン印刷した。その後、1500℃で1時間の焼成を行い、YSZの両面にPt粒子および複合セラミックス粒子が焼結して成る薄膜状の電極(直径10mm、厚さ10μm?15μm)を形成した。
【0052】
(SEM観察)
上記得られた各例に係る電極について、表面および断面のSEM像を観察した。結果を図3?図10に示す。図3は比較例1の表面SEM像、図4は比較例1の断面SEM像、図5は比較例5の断面SEM像、図6は比較例6の断面SEM像、図7は実施例2の表面SEM像、図8は実施例2の断面SEM像、図9は実施例3の表面SEM像、図10は実施例3の断面SEM像である。なお、各SEM像の電極における黒色箇所は空隙、灰色箇所はYSZ、白色箇所は白金を示している。
【0053】
図3?図10に示すように、YSZ粒子の表面を酸化アルミニウムで被覆した複合セラミックス粒子を用いた実施例2、3のサンプルは、酸化アルミニウムで被覆していないYSZ粒子を用いた比較例1、5、6に比べて、電極中の空隙の量が多く、より高度に多孔質化されていた。この結果から、YSZ粒子の表面を酸化アルミニウムで被覆した複合セラミックス粒子を用いることにより、高度に多孔質化した電極を形成し得ることが確認できた。
【0054】
(電極抵抗の測定)
また、各例の電極の電極活性を評価するため、各電極の電極抵抗を交流インピーダンス法にて下記条件で測定した。そして、応答電流から得られたインピーダンス(Z)を複素平面上にプロットしたナイキストプロット(Cole-Coleプロット)から電極抵抗を求めた。また、横軸の周波数に対して縦軸に位相差(θ)をプロットしたボードプロットから、電極抵抗のピークトップの周波数(位相差が極大になるときの周波数)を求めた。このピークトップ周波数が大きいほど、ガスセンサの応答性が良好であることを示唆している。結果を表1、図11および図12に示す。図11はAl_(2)O_(3)量と電極抵抗との関係を示すグラフである。図12はAl_(2)O_(3)量とピークトップ周波数との関係を示すグラフである。
【0055】
<交流インピーダンス測定条件>
測定装置:周波数応答アナライザ Solartron社製 1260型
測定温度:720℃
測定周波数:0.1?10^(6)Hz
AC amp:100mV
測定雰囲気:air
【0056】
表1および図11に示すように、YSZ粒子の表面を酸化アルミニウムで被覆した複合セラミックス粒子を用いた実施例1?5のサンプルは、酸化アルミニウムで被覆していないYSZ粒子を用いた比較例1?4、6に比べて、電極抵抗がより低く、電極活性が良好であった。また、実施例1?5サンプルは、比較例1?6に比べて、ピークトップの周波数が大きく、センサ応答性が良好であった。この結果から、酸素イオン伝導性を有するセラミックス粒子の表面を酸化アルミニウムで被覆した複合セラミックス粒子を用いることにより、ガスセンサのセンシング特性を向上し得ることが確認された。」

(2) 本件発明の課題及び解決手段について
上記本件特許明細書の摘記事項からすると、本件発明の課題は、YSZのような酸素イオン伝導性を示すセラミックス材料は、耐熱性が低く、例えば一般的な構成のガスセンサの焼結温度である1400?1600℃の温度域では耐熱性不足によって熱収縮が生じ、電極の緻密化が進行するため、電極の多孔質状態を維持できず、電極内部に三相界面が十分に形成されなくなり、所望の電極活性が得られない虞があったところ、セラミックス粒子の耐熱性を高めて焼結時の緻密化を防ぎ、高度に多孔質化した電極を形成し得る、ガスセンサの電極形成用材料を提供することである。
ここで、複合セラミックス粒子における酸化アルミニウムの被覆が極微量であれば、YSZのセラミックス粒子の耐熱性を高めて焼結時の緻密化を防ぐことができず、上記課題を解決することができない。また、酸化アルミニウムによる過剰な被覆は、三相界面形成の妨げとなり、上記課題を解決することができない。
そして、粒状の物体における単位質量(単位体積)あたりの表面積は粒径に反比例することは技術常識であるから、複合セラミックス粒子における酸化アルミニウムの含有量が一定であっても、コアとなるセラミックス粒子の粒径に応じて、酸化アルミニウムにより被覆状態(厚さ、範囲)は異なるものと認められる。そうすると、酸化アルミニウムの被覆が極微量である場合や過剰である場合を避けることにより、本件発明の課題を解決するためには、酸化アルミニウムの含有量に加え、コアとなるセラミックス粒子の平均一次粒子径として適切なものを選択する必要があるといえる。
先の訂正による請求項1、3?6に係る発明に対して、当審が令和2年1月27日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)では、コアとなるセラミックス粒子の平均一次粒子径が0.1μmよりも小さい場合、及び、0.2μmよりも大きい場合は、本件特許の課題を解決することができないとしている。
これに対し特許権者は、本件訂正により本件発明1に「前記セラミックス粒子の平均一次粒子径が、0.05μm以上0.3μm以下である」という記載を付加し、さらに上申書2にて、コアとなるセラミックス粒子の平均一次粒子径が0.05μmである実施例C?Eと、コアとなるセラミックス粒子の平均一次粒子径が0.3μmである実施例F?Hについて、電極用ペーストを用いて作成したサンプルの電極抵抗(Ω)とピークトップ(Hz)の実証データを示して課題が解決できることを主張している。
なお、上申書1,2において追加された各実施例のデータは下表のとおりである。


また、実施例1?5,A?H、及び比較例1?6により得られる電極について測定された電極抵抗及びピークトップの値の分布をグラフにすると、下図のようになる(グラフは当審で作成した。)。

上表及び上図から、上申書2にて追加された実施例C?Hを含めた各実施例について、電極抵抗の値を低く抑えつつ高いピークトップの値を実現していることが理解できる。
すなわち、上申書2にて追加された実施例C?Hは本件発明の課題を解決することができるものであり、そのため、本件発明1、3?6は本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものと認められる。

(3)特許異議申立人の主張等について
特許異議申立人は、申立人意見書2にて、下記ア、イの2点について主張を行っている。そこで、それぞれの主張について検討する。

ア 「令和2年4月8日付け提出の上申書の表Bで新たに追加された実施例C、D、E、F、G、Hのうち実施例EとHについては、本件発明の効果を奏さないものであり、本件発明の課題を解決できる実施例とはいえません。
・・・
この記載(当審注:本件特許明細書の【0056】の記載)から、本件発明の実施例は比較例に比べて電極抵抗がより低く、ピークトップ周波数が大きいことがわかります。
・・・
上記記載および主張(当審注:特許権者意見書2第4頁第19?20行の「実施例の何れにおいても、電極抵抗とピークトップとが高いレベルで両立する」及び上申書2第3頁第1?3行の「実施例C?実施例Hは、何れも、電極抵抗(Ω)が十分に低く、かつ、ピークトップ周波数(Hz)が高くなるという結果が得られました。」という主張)に基づくと、電極抵抗とピークトップの双方を高いレベルで「両立する」ものが本件発明の課題である「焼結時の緻密化を防ぎ高度に多孔質化した電極を形成」を解決できている実施例であり、電極抵抗とピークトップの双方を高いレベルで「両立しない」ものは本件発明の課題を解決できない比較例であるといえます。
・・・
表1の実施例1?5はいずれも、電極抵抗が1.4Ω以上1.7Ω以下の範囲にあり、ピークトップが1000Hz以上1436Hz以下の範囲にあることがわかります。電極抵抗の閾値を1.7Ωとし、ピークトップの閾値を1000Hzとすれば、電極抵抗が1.7Ω以下でかつピークトップが1000Hz以上の範囲が「両立する」ものであると考えることができます。
本件明細書には、具体的にどの数値が本件発明の効果を奏するか、奏さないかの閾値となるかは明記されていません。しかし、Al_(2)O_(3)量が2質量%以上20質量%以下を本件発明の閾値としているため、電極抵抗の閾値を1.7Ω以下とすることが妥当であると考えます。
・・・新たに追加された実施例AとBについても電極抵抗が1.7Ω以下かつピークトップが1000Hz以上です。したがって、実施例AとBはいずれも「両立する」ものです。
・・・実施例C、D、F、Gについては電極抵抗が1.7Ω以下かつピークトップが1000Hz以上です。したがって、実施例C、D、F、Gはいずれも「両立する」ものです。一方、実施例Eの電極抵抗は2.0Ωであり、実施例Hの電極抵抗1.8Ωでありますから、実施例EとHはいずれも閾値である1.7Ωより大きいものであります。したがって、実施例EとHはいずれも「両立しない」ものであり、本件発明の課題を解決できない「比較例」であります。
・・・
このように本件発明1は、本件発明が解決しようとする課題を解決することができないものを包含していますので、本件発明1は本件明細書に記載されたものではありません。」

しかしながら、本件発明は電極抵抗及びピークトップが特定の閾値以上又は以下でなければ課題を解決しないというものではなく、電極抵抗の値を低く抑えつつ大きいピークトップ値を実現できていれば電極抵抗とピークトップを「両立する」ものであり、本件発明の効果を奏するものと認められる。例えば、本件明細書に記載の比較例5は電極抵抗1.4Ωであり実施例1(1.7Ω)、実施例2(1.6Ω)よりも低い電極抵抗を有するが、ピークトップが794Hzと実施例1,2(ともに1000Hz)よりも低い値であり、両者の値を総合的にみてそれぞれの例が実施例、比較例に分けられているといえる。そうすると実施例1よりも電極抵抗が大きいものの、実施例1よりも更に大きいピークトップを実現できている実施例E、Hもまた、本件発明の課題を解決するものといえる。

イ 「また、表Bは、表1及び表Aと同じく、導電性粒子として、白金のみまたは白金とパラジウムとを含む形態を開示しているに止まり、それら以外の導電性粒子であっても本件発明の効果を奏すると認められ得る根拠に欠けます。さらに、表Bは、表1及び表Aと同じく、コアとなるセラミック粒子として、ジルコニア系酸化物を開示しているに止まり、それ以外のセラミック粒子であっても本件発明の効果を奏すると認められ得る根拠に欠けます。このような観点からも本件発明1は本件明細書に記載されたものではありません。」

(ア)まず、イについての特許異議申立人の主張は、新たな取消理由を主張するものである。また、当該主張は本件訂正請求とは無関係に、特許異議申立の際に主張できたことであるから、訂正の請求に付随して生じた事項とは認められない。
したがって、イについては、特許異議申立書の要旨を変更するものであるから、新たな取消理由として採用されない。
また、仮に採用したとしても、以下の(イ)に述べるように、特許異議申立人の主張は採用できない。

(イ)本件発明1には「白金族に属するいずれか一種または二種以上の金属元素を含む導電性粒子」及び「酸素イオン伝導性を有するコアとなるセラミックス粒子」という、導電性粒子の材料及びセラミックス粒子の特性を限定する記載がある。
また、本件特許の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(下線は当審で付した。)。
「【0017】
(導電性粒子10)ここに開示される導電性粒子10としては、白金族に属するいずれか一種または二種以上の金属元素を含む各種金属材料の粉末を一種または二種以上組み合わせて用いることができる。白金族に属する金属元素としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)などが挙げられる。これら白金族に属する金属元素は、導電性に優れかつ触媒活性が高いため、電気的特性や電極活性に優れた電極を形成し得る点で好ましい。・・・
【0021】
(複合セラミックス粒子20)ここに開示される電極形成用材料1は、上述した導電性粒子10に加えて、複合セラミックス粒子20を含む。複合セラミックス粒子20は、前述のように、コアとなるセラミックス粒子22と、該セラミックス粒子22の表面を酸化アルミニウムで被覆したシェル24とから構成されている。
【0022】
コアとなるセラミックス粒子22としては、酸素イオン伝導性を示す各種セラミックス材料の粉末を用いることができる。そのようなセラミックス材料としては、特定の構成元素のものに限られないが、ジルコニア系酸化物やセリア系酸化物が好ましい。・・・これらのセラミックス材料は、酸素イオン伝導性に優れるため、電極活性に優れた電極を形成し得る点で好ましい。また、これらのセラミックス材料を用いることで、形成(焼成)された電極と固体電解質層との間の界面の密着性を高めることができる。」

すなわち、本件特許の発明の詳細な説明には、「白金族に属するいずれか一種または二種以上の金属元素」として白金以外の金属元素を用いても効果を奏する点、及び、「酸素イオン伝導性を有するコアとなるセラミックス粒子」としてジルコニア系酸化物以外のセラミックス粒子を用いても効果を奏する点が記載されている。
上記記載を考慮すると、「導電性粒子」が白金属に属する金属元素を含み、「コアとなるセラミックス粒子」が酸素イオン伝導性を有していれば本件発明の効果を奏すると認められる。

ウ 小括
したがって、特許異議申立人の主張を考慮しても、なお本件発明1、3?6は本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。

(4)結論
上述のとおりであるから、本件発明1、3?6は本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものであり、その特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものということはできない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人の主張について
1 特許異議申立書に記載されているもの
(1)特許異議申立人は、特許異議申立書で、本件訂正前の特許請求の範囲に関し、本件特許発明1-6は、甲第1-4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである旨、主張している(特許異議申立書の第7頁-第19頁参照)。
そこで、本件特許発明が、甲第1-4号証から容易に想到し得るものであるかについて、以下検討する。なお、各甲号証について、認定の根拠となった参照箇所を、括弧書きで示した。

(2)甲号証の記載
ア 甲第1号証について
甲第1号証(国際公開第2013/088674号)には、
「ガスセンサに用いる多孔質電極を形成するための電極ペーストであって、([0035])
Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osの1種以上からなる貴金属粒子2と、([0035]、[0038])
安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアからなる酸素イオン導電性のセラミックである第1セラミックス粒子4と、からなる電極ペーストに対して、([0035]、[0036])
Al_(2)O_(3)、MgO、La_(2)O_(3)、スピネル、ジルコン、ムライト及びコージェライトの群から選ばれる1種以上からなる第2セラミックス粒子を添加した、([0036]、[0038])、
電極ペースト」
が記載されている。

イ 甲第2号証について
甲第2号証(特開昭58-167472号公報)には、
「中心部(コア部)が酸化ジルコニウム、外殻部(シエル部)が酸化アルミニウムで形成されていることを特徴とする二重構造複合セラミック粉体(第2頁左上欄第7行-第11行)」
が記載されている。
また、甲第2号証には、「生成する微粒子は非常に微少であるために、高機能で高強度のセラミックスを製造するための原料粉体としての用途に適する(第2頁右上欄第2-5行)」ことも記載されている。

ウ 甲第3号証について
甲第3号証(特開2014-145607号公報)には、
「ガスセンサー電極形成用の金属ペーストであって、(【0013】)
Pt又はPt合金からなる導電性粒子と、(【0013】、【0014】)
ジルコニア(ZrO_(2))にAl_(2)O_(3)等の他の酸化物を混合したセラミックからなるセラミック粒子と、(【0013】、【0017】)
アルミナ(Al_(2)O_(3))、マグネシア(MgO)の少なくともいずれかよりなる無機酸化物粒子と、(【0013】、【0020】)を含む、
ガスセンサー電極形成用の金属ペースト。」
が記載されている。

エ 甲第4号証について
甲第4号証(特開2014-66547号公報)には、
「センサー電極形成用の金属ペーストであって、(【0022】)
Pt又はPt合金からなるコア粒子と、前記コア粒子の少なくとも一部を覆うセラミックからなるシェルとからなるコア/シェル構造を有する導電性粒子と、(【0022】)
ZrO_(2)にAl_(2)O_(3)等の他の酸化物を混合したセラミックからなるセラミック粉末と、(【0018】、【0022】)
が溶剤に分散してなる、(【0022】)
センサー電極形成用の金属ペースト。」
が記載されている。

(3)判断
甲第1号証に記載された上記発明(以下、「甲1発明」という。)では、電極ペーストに第1セラミックス粒子4と第2セラミックス粒子の双方を含むものの、第2セラミックス粒子が第1セラミックス粒子4を被覆していることは特定されていないから、本件発明の「酸素イオン伝導性を有するコアとなるセラミックス粒子と、該セラミックス粒子の表面の少なくとも一部を被覆する酸化アルミニウムとから構成され」る「複合セラミックス粒子」は記載されていない。

また、そのような複合セラミックス粒子は、甲第3号証及び甲第4号証のいずれにも記載されていない。

したがって、甲1発明に甲第3号証、甲第4号証に記載される技術を組み合わせても、当業者が本件発明1、3-6を容易に想到することはできない。

一方、甲第2号証における「中心部(コア部)」に形成される「酸化ジルコニウム」は酸素イオン伝導性を有するといえるから、甲第2号証には、「酸素イオン伝導性を有するコアとなるセラミックス粒子と、該セラミックス粒子の表面の少なくとも一部を被覆する酸化アルミニウムとから構成され」る「複合セラミックス粒子」が記載されているといえる。しかしながら、甲第2号証には、「二重構造複合セラミック粉体」(本件発明1の「複合セラミックス粒子」に相当するもの)が「高機能で高強度のセラミックスを製造するための原料粉体としての用途に適する」ことが示されているが、「二重構造複合セラミック粉体」をガスセンサの電極形成に用いることは記載されていない。したがって、当業者が、甲第2号証に記載されている「二重構造複合セラミック粉体」(複合セラミックス粒子)を、甲1発明に適用する動機付けがあるとはいえない。

よって、本件請求項1、3-6に係る発明は、甲第1号証-甲第4号証に基づいて、当業者が容易に想到し得た発明であるとはいえず、本件発明1、3-6に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

2 申立人意見書1に記載されているもの
(1)申立人意見書1の(2)について
特許異議申立人は、「本件請求項1に係る発明における、セラミックス粒子の表面の少なくとも一部を被覆する酸化アルミニウムとの記載では、酸化アルミニウムで被覆された複合セラミックス粒子と酸化アルミニウムで被覆されていないセラミックス粒子とが混在した態様を包含していることになります。」、「酸化アルミニウムで被覆されていないセラミックス粒子が混在していると、電極の多孔質状態を維持できなくなるおそれがあります。そして、電極の内部に白金/セラミックス/気相の三相界面を形成できなくなる可能性があります。」、「したがって、本件請求項1に係る発明は、上記課題を解決することができるかどうか不明なペーストを包含しており、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲を超えているから、本件請求項1に係る発明は本件明細書に記載されたものではありません。」と主張している。
しかしながら、本件発明1(上記第3参照。)は、「前記複合セラミックス粒子は、酸素イオン伝導性を有するコアとなるセラミックス粒子と、該セラミックス粒子の表面の少なくとも一部を被覆する酸化アルミニウムとから構成されて」いると特定されているから、特許異議申立人の主張するように、「酸化アルミニウムで被覆されていないセラミックス粒子が混在している」と解釈することはできない。本件発明3-6も同様である。よって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

(2)申立人意見書1の(3)について
特許異議申立人は、「本件発明の複合セラミックス粒子は、Alを構成元素とする有機金属化合物を溶媒に溶解させた有機金属化合物溶液(以下[Al溶液]という)を配合したものであって、酸化アルミニウムを配合したものではないため、酸化アルミニウムの含有量を直接的には特定できないはずです。」「したがって、酸化アルミニウムの含有量は根拠のある実証データであるとはとても言い難いものです。したがって、訂正後の本件請求項1に係る発明は、根拠のないデータによって記載された発明であって、明確に把握することができない発明です。」と主張している。

ここで、「明確に把握することができない発明です。」とは、本件発明が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことを主張すると解されるところ、当初の異議申立においては、特許法第36条第6項第2号は異議申立理由とされていないから、特許異議申立人の当該主張は、特許異議申立書の要旨を変更するものであり、採用することはできない。また、仮に、特許異議申立書の要旨を変更するものとはいえない場合であっても、本件発明は、酸化アルミニウムの含有量を特定しているものであり、発明として明確である。

また、仮に、上記主張が、本件発明が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとの主張であったとしても、複合セラミックス粒子における酸化アルミニウムの含有量自体は、当業者が周知の方法で測定することが可能であるから、特許異議申立人の主張するように、「酸化アルミニウムの含有量を直接的には特定できない」とはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
よって、いずれにしても、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

(3)申立人意見書1の(4)について
特許異議申立人は、「本件請求項1に係る発明は気孔形成剤を含まないものも含むように記載されています。・・・気孔形成剤を用いなければ電極の構造を多孔質とすることができず、電極の内部に三相界面を形成することもできません。したがって、本件請求項1に係る発明は、三相界面を形成できない電極を包含することになり、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていることになるから、本件請求項1に係る発明は本件明細書に記載されたものではありません。・・・」と主張している。

しかしながら、本件発明1は、「ガスセンサの電極形成用材料」の発明であり(上記第3を参照。)、当該材料を用いてガスセンサ電極を作成するにあたり、気孔形成剤を含む他の物質を用いることを妨げるものではない。本件発明3-6も同様である。したがって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1、3ないし6に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1、3ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2は、本件訂正により削除された。その結果、請求項2に係る特許に対する特許異議申立については、対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセンサの多孔質電極を形成するための材料であって、
白金族に属するいずれか一種または二種以上の金属元素を含む導電性粒子と、
コア部と表面部とが質的に異なる複合セラミックス粒子と
を含み、
前記複合セラミックス粒子は、酸素イオン伝導性を有するコアとなるセラミックス粒子と、該セラミックス粒子の表面の少なくとも一部を被覆する酸化アルミニウムとから構成されており、
前記複合セラミックス粒子における前記酸化アルミニウムの含有量が、2質量%以上20質量%以下であり、
前記セラミックス粒子の平均一次粒子径が、0.05μm以上0.3μm以下である、ガスセンサの電極形成用材料。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記導電性粒子100質量部に対して、前記複合セラミックス粒子の含有量が1質量部以上20質量部以下である、請求項1に記載の電極形成用材料。
【請求項4】
前記導電性粒子は、白金および/またはパラジウムを含む、請求項1または3に記載の電極形成用材料。
【請求項5】
前記コアとなるセラミックス粒子は、ジルコニア系酸化物を含み、平均一次粒子径が0.1μm以上0.2μm以下である、請求項1、3、4の何れか一つに記載の電極形成用材料。
【請求項6】
さらに、分散媒とバインダとを含み、ペースト状に調製されたことを特徴とする、請求項1、3?5の何れか一つに記載の電極形成用材料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-08-21 
出願番号 特願2016-142529(P2016-142529)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (G01N)
P 1 651・ 121- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 黒田 浩一  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 磯野 光司
渡戸 正義
登録日 2018-11-16 
登録番号 特許第6433948号(P6433948)
権利者 株式会社ノリタケカンパニーリミテド
発明の名称 ガスセンサの電極形成用材料  
代理人 福富 俊輔  
代理人 安部 誠  
代理人 福富 俊輔  
代理人 安部 誠  

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