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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E04B
審判 全部申し立て 発明同一  E04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  E04B
審判 全部申し立て 特29条特許要件(新規)  E04B
管理番号 1366975
異議申立番号 異議2019-700971  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-29 
確定日 2020-10-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6523352号発明「耐火材およびその巻回体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6523352号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6523352号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成28年2月5日(以下「優先日」という。)に出願された特願2016-20513号(以下「優先基礎出願」という。)を基礎とする特許法第41条に基づく優先権(以下「国内優先権」という。)の主張を伴い、平成29年2月3日(以下「現実の出願日」という。)に出願され、令和1年5月10日にその特許権の設定登録がされ、同年5月29日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は以下のとおりである。

令和 1年11月29日 特許異議申立人佐藤恭彦(以下「申立人」と
いう。)による請求項1ないし8に係る発明
の特許に対する特許異議の申立て
令和 2年 2月10日付け 取消理由通知
同年 4月 9日 特許権者による意見書の提出

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」といい、全体を「本件特許発明」と総称する。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される、つぎのとおりのものである。

「【請求項1】
ポリ塩化ビニル樹脂と熱膨張性黒鉛と可塑剤とを含有する樹脂組成物からなる耐火シートを備え、
前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記熱膨張性黒鉛を10?350重量部、前記可塑剤を20?200重量部含有し、
1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃間のtanδピークの最大値が1.25以下であり、
60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率が5%以下である耐火材。
【請求項2】
前記耐火シートに繊維シートがさらに接着されている請求項1に記載の耐火材。
【請求項3】
組成が同じ、または、異なる2枚の前記耐火シートが前記繊維シートを介して接着されていることを特徴とする請求項2に記載の耐火材。
【請求項4】
前記耐火シートの片面又は両面に前記繊維シートが接着されていることを特徴とする請求項2または3に記載の耐火材。
【請求項5】
融点温度が50℃以上の結晶性樹脂を含有する請求項1?4のいずれか一項に記載の耐火材。
【請求項6】
ガラス転移温度が50℃以上の樹脂を含有する請求項1?4のいずれか一項に記載の耐火材。
【請求項7】
ポリ塩化ビニル樹脂が耐火シートの35質量%以下であることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の耐火材。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか一項に記載の耐火材を巻回してなる巻回体。」

第3 特許異議申立理由の概要及び証拠
1.特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立理由を主張するとともに、証拠方法として、以下の「2」に示す各甲号証(以下、各甲号証をそれぞれ「甲1」等、各甲号証に記載された発明をそれぞれ「甲1発明」等ということがある。)を提出している。

(1)特許法第29条第1項第3号(新規性)
ア.本件特許発明1及び5ないし7は、甲第1号証又は甲第2号証に記載の発明に該当し、新規性を有さない。
イ.本件特許発明8は甲第2号証に記載の発明に該当し、新規性を有さない。

(2)特許法第29条第2項(進歩性)
ア.本件特許発明1及び5ないし7は、甲第1号証又は甲第2号証に記載の発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ.本件特許発明2ないし4は、甲第1号証及び甲第4号証に記載の発明、甲第2号証及び甲第4号証に記載の発明、甲第1号証及び甲第5号証に記載の発明、又は、甲第2号証及び甲第5号証に記載の発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ.本件特許発明8は、甲第2号証及び甲第6号証に記載の発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)特許法第29条の2(拡大先願)
本件特許発明1、2及び4ないし7は、先願である甲第3号証に記載の発明と差異はなく、特許法第29条の2に該当する。

(4)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
本件特許発明1ないし8は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、サポート要件を満たさない。

(5)特許法第36条第6項第2号(明確性)
本件特許発明1ないし8は、特許請求の範囲で規定する要件の構成が明確でない。

(6)特許法第29条第1項柱書(発明該当性)
本件特許発明1ないし8は、特許法第2条第1項に定義される発明に該当せず、特許法第29条第1項柱書で規定する発明ではない。

2.申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証:特許第5992589号公報
(特願2015-175216号の特許掲載公報)
甲第2号証:特開2006-348228号公報
甲第3号証:特許第6228658号公報
(特願2016-256315号の特許掲載公報)
甲第4号証:特開2000-318112号公報
甲第5号証:特開2000-159903号公報
甲第6号証:特開2000-153965号公報

第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要及び証拠

令和2年2月10日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要は以下のとおりである。

1.(サポート要件)本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

2.(新規性)本件特許の請求項1及び5ないし7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

3.(進歩性)本件特許の請求項1及び5ないし7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基いて、また、本件特許の請求項2ないし4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証及び甲第4号証、甲第1号証及び甲第5号証、甲第2号証及び甲第4号証、又は、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて、また、本件特許の請求項8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に例示される周知技術(以下「周知技術」という。)、又は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきものである。

4.(拡大先願)本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行がされた甲第3号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1、2及び4に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきものである。

第5 取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断

1.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
(1)取消理由の概要
取消理由通知に記載した特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る取消理由の概要は以下のとおりである。

ア.本件特許発明1の課題は、明細書の記載からみて、「耐火シートの巻回体の製造工程で熱を加えると収縮による剥がれが生じたり、寸法が足りなくなるという問題があった」(段落【0004】)ことを前提として、「熱収縮率が低減されたポリ塩化ビニル系の耐火材およびその巻回体を提供すること」(段落【0005】)であると認められる。

イ.本件特許明細書の記載を総合すると、本件特許発明1の課題を解決するための手段として認識し得るのは、実施例1ないし18及び20に記載された、ポリ塩化ビニル樹脂、熱膨張性黒鉛、可塑剤及びその他の成分を上記各実施例に記載された量配合したもののみであるところ、請求項1にはポリ塩化ビニル樹脂、熱膨張性黒鉛、可塑剤の配合量が上記各実施例に記載された以外のものや、ポリ塩化ビニル樹脂、熱膨張性黒鉛及び可塑剤以外の成分の配合量を特定しないものが含まれており、これらについては、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであると認められる。
本件特許発明2ないし8についても、同様である。
そうすると、本件特許発明1ないし8は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。

(2)取消理由についての判断
ア.本件特許の請求項1に係る発明は、(A)「ポリ塩化ビニル樹脂と熱膨張性黒鉛と可塑剤とを含有する樹脂組成物からなる耐火シートを備え」ること、及び、(B)「前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記熱膨張性黒鉛を10?350重量部、前記可塑剤を20?200重量部含有」することを発明特定事項とするのみならず、(C)「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃ 間のtanδピークの最大値が1.25以下であ」ること、及び(D)「60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率が5%以下である」ことをも発明特定事項とするものである。

イ.このうち、上記「(C)及び(D)」の発明特定事項に関して、明細書には以下の記載がある。

「【0053】
ポリ塩化ビニル樹脂と熱膨張性黒鉛とを含有する樹脂組成物からなる耐火シートを備えた本発明の耐火材2は、60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率が5%以下である。60℃,6時間の加熱処理における熱収縮率の程度は、耐火材2の使用時の温度に対する対耐性を評価するための指標となる。この構成によれば、耐火シートの巻回体の製造工程で熱を加えても、収縮による剥がれや、寸法の不足が抑制される。」

「【0057】
また好ましくは、本発明の耐火材2は1Hzで温度分散での動的粘弾性を測定した際の0?140℃間のtanδピークの最大値が1.25以下である。この構成によれば、tanδの値が低い程、弾性成分が強いため、耐火材製造の際に生じる残留歪が小さい傾向にあり、その結果収縮による剥がれや、寸法の不足が抑制される。」

ウ.明細書の上記記載によれば、本件特許発明1は、ポリ塩化ビニル樹脂、熱膨張性黒鉛、可塑剤の配合量が本件特許明細書の各実施例に記載された以外のものや、ポリ塩化ビニル樹脂、熱膨張性黒鉛及び可塑剤以外の成分の配合量を特定しないものであっても、上記「(A)及び(B)」の発明特定事項に加えて、上記「(C)」の発明特定事項を備えることにより「耐火材製造の際に生じる残留歪が小さい傾向にあり、その結果収縮による剥がれや、寸法の不足が抑制される」との効果を奏するとともに、上記「(D)」の発明特定事項を備えることにより「耐火シートの巻回体の製造工程で熱を加えても、収縮による剥がれや、寸法の不足が抑制される」との効果を奏するものであって、当該効果により上記「(1)ア.」で示した「耐火シートの巻回体の製造工程で熱を加えると収縮による剥がれが生じたり、寸法が足りなくなるという問題があった」ことを前提とする「熱収縮率が低減されたポリ塩化ビニル系の耐火材およびその巻回体を提供する」との課題を解決し得るものであると認められる。

エ.そうすると、請求項1の上記「(A)及び(B)」の発明特定事項に、ポリ塩化ビニル樹脂、熱膨張性黒鉛、可塑剤の配合量が明細書の各実施例に記載された以外のものや、ポリ塩化ビニル樹脂、熱膨張性黒鉛及び可塑剤以外の成分の配合量を特定しないものが含まれていることのみを以て、請求項1において、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるとまでいうことはできない。
本件特許発明2ないし8についても、同様である。

2.新規性進歩性及び拡大先願
(1)国内優先権主張の効果について
ア.本件特許に係る出願は、特願2016-20513号を基礎とする国内優先権の主張を伴うものであるところ、当該国内優先権主張の効果について検討する。

イ.請求項1について
(ア)本件特許発明1は、「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃間のtanδピークの最大値が1.25以下であり」との発明特定事項を備えるものである。

(イ)一方、優先基礎出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「優先基礎出願当初明細書等」という。)には、「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れるtanδピークの値が1.25以下である」(【請求項4】、段落【0009】)、「また好ましくは、本発明の耐火材2は1Hzで温度分散での動的粘弾性を測定した際のtanδピークの値が1.25以下である。」(段落【0051】)等の記載がある。

(ウ)しかしながら、上記「ア.」に示した本件特許発明1の発明特定事項、特に「tanδピーク」の値が「0?140℃間」のものである点は、優先基礎出願当初明細書等には記載されていない。

(エ)特許権者は、令和2年4月9日提出の意見書(以下「意見書」という。)において、「0?140℃の温度範囲については、ポリ塩化ビニル樹脂系の測定の経験に基づき測定温度範囲を単に設定したものであり、tanδピークが発現する温度範囲を単に明確化したものにすぎません。」(第12ページ下から4行ないし下から2行)と主張している。
しかしながら、仮に「0?140℃の温度範囲」が特許権者の測定の経験に基づく測定温度範囲であったとしても、当業者であれば、優先基礎出願当初明細書等に具体的な温度範囲が示されていなくても、当該測定温度範囲が0?140℃であると理解するといえる根拠は何ら示されていない。
そうすると、特許権者の上記主張を採用することはできない。

ウ.請求項7について
(ア)本件特許発明7は、「ポリ塩化ビニル樹脂が耐火シートの35質量%以下である」との発明特定事項を備えるものである。

(イ)一方、優先基礎出願当初明細書等には、「耐火シート」における「ポリ塩化ビニル樹脂」等の配合に関して、「上記の耐火性樹脂組成物は、前記樹脂成分100重量部に対し、熱膨張性層状無機物を10?350重量部および無機充填剤を30?400重量部の範囲で含むものが好ましい。」(段落【0033】)、「また、熱膨張性層状無機物および前記無機充填剤の合計は、樹脂成分100重量部に対し、50?600重量部の範囲が好ましい。」(段落【0034】)、「上記可塑剤の使用量は、樹脂成分100重量部に対して、好ましくは20?200重量部であり、より好ましくは30?100重量部である」(段落【0038】)、「耐火シート3の樹脂成分の含有量は、例えば耐火シートを構成する樹脂成分中のポリ塩化ビニル樹脂が95重量%?50重量%であり、結晶性樹脂が5重量%?45重量%である。」(段落【0046】)、耐火シート3の樹脂成分の含有量は、例えば耐火シートを構成する樹脂成分中のポリ塩化ビニル樹脂が95重量%?5量%であり、ガラス転移温度が50℃以上である樹脂が5重量%?45重量%である。」(段落【0047】)等の記載があり、【表1】に実施例1ないし5として「塩ビ樹脂」が特定の割合で配合された「耐火性シート」が記載されている。

(ウ)しかしながら、上記「(ア)」に示した本件特許発明7の発明特定事項は、優先基礎出願当初明細書等には記載されていないし、また、上記「(イ)」の記載事項を含む優先基礎出願当初明細書等の記載事項を総合することにより導き出せるものでもない。

(エ)特許権者は、意見書において、「本件発明1にかかる特許請求の範囲の請求項1の記載は、そもそも耐火性シートに対するポリ塩化ビニル樹脂の含有量について特定していないことから、上記(イ)の記載(当審注:本決定における上記「(ア)」の事項)は、特許請求の範囲の減縮に相当するものです。」、「段落0034の記載からみて、ポリ塩化ビニル樹脂、熱膨張性黒鉛及び無機充填剤の合計質量に対するポリ塩化ビニル樹脂の好ましい割合は、14質量%?67質量%と算出できますから、上記(イ)にかかる「ポリ塩化ビニル樹脂が耐火性シートの35質量%以下である」範囲を意味包含するものです。」、「上記具体例(当審注:優先基礎出願当初明細書等記載の実施例1ないし5)の配合組成から、耐火シート中のポリ塩化ビニル樹脂の含有量が、25?26質量%であることは明らかです。」、「そうすると、上記具体例と比べて、上記(イ)にかかる「35質量%以下」との範囲が格別のものであり、又は、認容できない程度にまで広範に過ぎる、とは到底いえません。」(第12ページ最下行ないし第13ページ最下行)と主張している。
しかしながら、優先基礎出願当初明細書等に35質量%を含む数値範囲が示されているとしても、35質量%を境界値とする数値範囲が記載されているとまでは認められない。
そうすると、特許権者の上記主張を採用することはできない。

エ.国内優先権主張の効果についてのまとめ
以上のとおりであるから、上記「イ.」の点で、本件特許発明1及び請求項1を引用する本件特許発明2ないし8について優先権主張の効果は認められず、上記「ウ.」の点で、本件特許発明7及び請求項7を引用する本件特許発明8について優先権主張の効果は認められない。
そして、本件特許発明1ないし8については、本件特許に係る出願の現実の出願日である平成29年2月3日が、特許法第29条及び第29条の2の規定の適用についての基準日となる。

(2)甲各号証について
ア.甲第1号証
(ア)本件特許に係る出願の現実の出願日前に発行された甲第1号証には、つぎの記載がある。

a.「【請求項1】
塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180?240℃である膨張性黒鉛(当審注:「熱膨張性黒鉛」の誤記と認める。)と難燃材と、更に前記膨張開始温度における前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進するための脱塩酸触媒とを含有してなる、火焔初期の延焼防止のための熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料であり、
前記脱塩酸触媒は、前記塩化ビニル系樹脂として、平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、前記可塑剤として、フタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質であり、且つ、
該物質の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量が、前記平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、前記フタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内であり、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に、前記熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で含み、
前記難燃材が、ポリリン酸アンモニウム系化合物であり、
更に、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上であることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料。」
(中略)
【請求項7】
その形状が、シート状であり、且つ、厚みが0.5mm?2.0mmである請求項1?6のいずれか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料。」

b.「【0010】
また、本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物の好ましい形態としては、;前記脱塩酸触媒が酸化亜鉛であって、その添加量が塩化ビニル樹脂100に対して2.5質量%以上であること;前記脱塩酸触媒が金属亜鉛粉末であって、その添加量が、塩化ビニル樹脂100に対して4.5質量%以上であること;前記脱塩酸触媒が塩化亜鉛であって、その添加量が、塩化ビニル樹脂100に対して10.0質量%以上であること;これらに加えて、更に、前記塩化ビニル系樹脂、前記膨張性黒鉛及び前記難燃材が、以下の割合で含有されていることが挙げられる。
塩化ビニル系樹脂:100質量部、
熱膨張性黒鉛:50?150質量部、
難燃材:50?150質量部、」

c.「【0038】
上記した可塑剤の添加量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、10?100質量部程度であり、好ましくは20?80質量部程度である。この添加量が10質量部未満であると、溶融粘度が高く、シート状の製品を形成する場合の成形性が悪くなり、また、成形体が脆くて壊れ易くなるので好ましくない。一方、この添加量が100質量部を超えると、成形体の難燃性が低下するとともに、燃焼時の発煙量が多くなるので好ましくない。」

d.「【0048】
(改質剤)
また、本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物を用いて熱膨張性シートを形成する際の、成形性や物性を向上させるために、組成物中に、アクリル系の加工助剤、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)、アクリル系ポリマー、塩素化ポリエチレン等の改質剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。」

e.「【0060】
実施例及び比較例で使用した主な成分は以下の通りである。脱塩酸触媒に該当するか否かに用いた物質は、いずれも試薬として販売されているものである。
・塩化ビニル系樹脂
塩化ビニル系樹脂には、平均重合度が1,650の、東ソー社製のリューロンペースト772A(商品名)を用いた。以下、PVCと略記する場合がある。
・可塑剤
塩化ビニル系樹脂の可塑剤であるフタル酸ジオクチル(新日本理化社製、サンソサイザーDOP(商品名))を用いた。以下、DOPと略記する場合がある。
・熱膨張性黒鉛
熱膨張性黒鉛には、膨張開始温度が180℃、平均粒径が180μmの三洋貿易社製のSYZR802(商品名)を用いた。
・難燃材
難燃材には、CBC社製のポリリン酸アンモニウム系化合物であるテラージュC-70(商品名)を用いた。
・熱安定剤
熱安定剤には、Zn/Caの複合系のものを使用した。具体的には、大協化成(株)製のLX-550を用いた。」

f.「【0076】



(イ)甲第1号証の記載からはつぎのことがいえる。
a.段落【0076】の表7には、「PVC(重合度 1650)」を「100」、「DOP」を「78.6」、「熱膨張性黒鉛」を「83.9」の比率で配合した塩化ビニル系樹脂化合物が記載されている。
そして、上記「(ア)e.」の記載を参照すると、上記記載のうち、「PVC」は「塩化ビニル系樹脂」であり、「DOP」は「フタル酸ジオクチル」であって「可塑剤」であることが分かる。
また、表7における「部数」との記載や、甲第1号証全体にわたって配合が質量部で示されていることを考慮すると、上記記載の比率は質量部によるものであると解するのが自然である。

b.段落【0076】の表7に記載された「塩化ビニル系樹脂組成物」は「合計」が「100.0」部であるのに対して、「PVC(重合度 1650)」が「28.0」部であるから、塩化ビニル系樹脂組成物における塩化ビニル系樹脂は28.0質量パーセントであるといえる。

(ウ)以上を総合すると、甲第1号証にはつぎの2の発明が記載されている。

「塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、熱膨張性黒鉛とを含有してなる、火焔初期の延焼防止のための熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料であり、
その形状が、シート状であり、
塩化ビニル系樹脂100に対して、熱膨張性黒鉛が50?150質量部、可塑剤が10?100質量部程度であり、
アクリル系の加工助剤、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)、アクリル系ポリマー、塩素化ポリエチレン等の改質剤等を添加した
熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料。」(以下「甲1-1発明」という。)

「塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、熱膨張性黒鉛とを含有してなる、火焔初期の延焼防止のための熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料であり、
その形状が、シート状であり、
塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤を78.6質量部、熱膨張性黒鉛を83.9質量部の比率で配合し、
塩化ビニル系樹脂組成物における塩化ビニル系樹脂は28.0質量パーセントであり、
アクリル系の加工助剤、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)、アクリル系ポリマー、塩素化ポリエチレン等の改質剤等を添加した
熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料。」(以下「甲1-2発明」という。)

イ.甲第2号証
(ア)本件特許に係る出願の現実の出願日前に発行された甲第2号証には、つぎの記載がある。

a.「【請求項1】
(A)塩化ビニル系樹脂: 100質量部、
(B)可塑剤: 10?100質量部、
(C)滑剤: 0.1?5質量部、
(D)無機充填剤: 5?200質量部、
(E)熱膨張性黒鉛: 10?300質量部、ならびに
(F)下記一般式(1):
HO(HPO_(3))_(n)H (1)
(式中、nは2以上の整数である。)
で表されるポリリン酸とメラミンとの塩、および/または前記一般式(1)で表されるポリリン酸とピペラジンとの塩: 10?300質量部
を含有してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物を加熱溶融成形してなる成形体。」

b.「【0037】
また、成形性および/または物性を向上させるためにアクリル系の加工助剤、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)、アクリル系ポリマー、塩素化ポリエチレン等の改質剤等の添加も可能である。」

c.「【0041】
[成形体]
こうして得られた成形体は、例えば、ガスバーナー等による炎、熱風等によって膨張温度(通常、200℃)以上に加熱することにより膨張する。膨張した成形体は、それ自体で形状を保持できるだけでなく、火炎と煙を遮断するのに十分な機械的強度を有する。したがって、この成形体を住宅、ビル等の建物の窓枠(例えば、サッシと壁との間)等に用いることで、火災等の際にも成形体は燃焼せずに窓ガラスを保持し、火炎が裏面に伝播することを防止することができる。その他にも、防火戸等の隙間等の耐火性が必要とされる用途または防火に必要な場所に用いることができる。」

d.「【0043】
<実施例1?6、比較例1?4>
-塩化ビニル系樹脂コンパウンドの作製-
表1および表2に示した種類・配合量で、上記の(A)?(F)成分および熱安定剤を、容量20Lのミキサーで撹拌・混合し、ミキサー内の混合物の温度が120℃に達した時点で排出し、得られた混合物を50℃まで冷却して、コンパウンドを得た。
-成形体(押出成形シート)の作製-
上記のコンパウンドを20mmφ単軸押出成形機を用いて混練し、T-ダイ金型を用いて押出成形を行い、押出成形シート(厚さ:約1.7mm)を作製した。金型部温度は170℃であった。」

(イ)甲第2号証の記載からはつぎのことがいえる。
a.段落【0048】の【表1】の「実施例2」には、「塩化ビニル系樹脂」を「100」質量部、「可塑剤」を「80」質量部、「熱膨張性黒鉛」を「100」質量部の比率で配合した塩化ビニル系樹脂コンパウンドが記載されている。

b.段落【0048】の【表1】の「実施例2」からは、各成分を合計すると塩化ビニル系樹脂コンパウンドの総量が353.8質量部であり、これに対して「塩化ビニル系樹脂」は「100」質量部であるから、塩化ビニル系樹脂コンパウンドにおける塩化ビニル系樹脂は約28.3質量パーセントであるといえる。

(ウ)以上を総合すると、甲第2号証にはつぎの2の発明が記載されている。

「塩化ビニル系樹脂100質量部、可塑剤10?100質量部、熱膨張性黒鉛10?300質量部を含有してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物からなる成形体であって、
アクリル系の加工助剤、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)、アクリル系ポリマー、塩素化ポリエチレン等の改質剤等を添加し、
押出成形シートとして作製され、
耐火性が必要とされる用途に用いることができる
成形体。」(以下「甲2-1発明」という。)

「塩化ビニル系樹脂100質量部、可塑剤80質量部、熱膨張性黒鉛100質量部を含有してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物からなる成形体であって、
アクリル系の加工助剤、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)、アクリル系ポリマー、塩素化ポリエチレン等の改質剤等を添加し、
押出成形シートとして作製され、
耐火性が必要とされる用途に用いることができ、
塩化ビニル系樹脂コンパウンドにおける塩化ビニル系樹脂は約28.3質量パーセントである
成形体。」(以下「甲2-2発明」という。)

ウ.甲第3号証
(ア)甲第3号証に係る出願であって、本件特許に係る出願の現実の出願日前に出願され、当該現実の出願日後に特許掲載公報が発行された特願2016-256315号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「甲3当初明細書等」という。)には、つぎの記載がある。

a.「【請求項1】
塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180?240℃である熱膨張性黒鉛と、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸触媒と、脱塩酸抑制化合物とを含む熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料であって、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に、前記熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で含み、
前記脱塩酸触媒は、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質であり、且つ、
前記脱塩酸触媒の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量が、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内であり、
前記脱塩酸抑制化合物が、加熱された初期の160?240℃の温度で、前記脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつ、アミノ基及び/又はアンモニウム基を有する化合物であり、
800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上であることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
(中略)
【請求項8】
その形状が、シート状であり、且つ、厚みが0.5mm?2.0mmである請求項1?7のいずれか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。」

b.「【0062】
(熱膨張性シート)
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料によって得られる熱膨張性シートは、上述の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料をコンマコート成形することによって容易に得ることができる。本発明の熱膨張性シートは、例えば、ガスバーナー等による炎、熱風等によって膨張温度(通常、180℃)以上に加熱することにより膨張する。熱によって膨張した膨張体は、それ自体で形状を保持することができるだけでなく、火炎と煙とを遮断するのに十分な機械的強度を有する。従って、本発明の熱膨張性シートを住宅、ビル等の建物の窓枠(例えば、サッシと壁との間)等に用いることで、火災等の際にも成形体は燃焼せずに窓ガラスを保持し、火炎が裏面に伝播することを防止することができる。本発明の熱膨張性シートは、その他、防火戸等の隙間等の耐火性が必要とされる用途又は防火に必要な場所に用いることができる。」

c.「【0065】
検討例、実施例及び比較例で使用した主な成分は以下の通りである。脱塩酸触媒に用いた酸化亜鉛及び塩化鉄は、いずれも試薬として販売されているものである。脱塩酸抑制化合物に該当するか否かに用いた物質については後述する。
・塩化ビニル系樹脂
塩化ビニル系樹脂には、平均重合度が1,650の、東ソー社製のリューロンペースト772A(商品名)を用いた。以下、PVCと略記する場合がある。
・可塑剤
塩化ビニル系樹脂の可塑剤であるフタル酸ジオクチル(新日本理化社製、サンソサイザーDOP(商品名))を用いた。以下、DOPと略記する場合がある。
・熱膨張性黒鉛
熱膨張性黒鉛には、膨張開始温度が180℃、平均粒径が180μmの三洋貿易社製のSYZR802(商品名)を用いた。」

d.「【0072】



e.「【0075】
表2に示した基本配合Cで、本発明で規定する脱塩酸抑制化合物を見出すための検討対象の化合物の種類を変えた液をそれぞれ調製し、得られた各液を離型紙上に、厚み1.5?1.6mmになるようにコートした。更に、コート液の表面に密度450g/m^(2)のポリエステル不織布を軽くラミネートした。次に、190?195℃の熱風乾燥炉中で3?5分間加熱して、熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料とポリエステル不織布とが積層してなる積層体をそれぞれに作製し、離型紙を剥離して試験用の試料とした。」

(イ)甲3当初明細書等の記載からはつぎのことがいえる。
a.段落【0072】の表2には、「PVC(重合度 1650)」を「100.0」、「DOP」を「95.6」、「熱膨張性黒鉛」を「84.1」の比率で配合した塩化ビニル系樹脂化合物が記載されている。
そして、上記「(ア)c.」の記載を参照すると、上記記載のうち、「PVC」は「塩化ビニル系樹脂」であり、「DOP」は「フタル酸ジオクチル」であって「可塑剤」であることが分かる。
また、表2における「部数」との記載や、甲3当初明細書等全体にわたって配合が質量部で示されていることを考慮すると、上記表2記載の比率は質量部によるものであると解するのが自然である。

b.段落【0072】の表2に記載された「塩化ビニル系樹脂組成物」は「合計」が「100.0」部であるのに対して、「PVC(重合度 1650)」が「27.0」部であるから、塩化ビニル系樹脂組成物における塩化ビニル系樹脂は27.0質量パーセントであるといえる。

(ウ)以上を総合すると、甲3当初明細書等にはつぎの発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。

「塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、熱膨張性黒鉛とを含む熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料であって、
その形状が、シート状であり、
塩化ビニル系樹脂100.0質量部に対して、可塑剤を95.6質量部、熱膨張性黒鉛を84.1質量部の比率で配合し、
塩化ビニル系樹脂組成物における塩化ビニル系樹脂は27.0質量パーセントであり、
耐火性が必要とされる用途に用いることができる
熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料とポリエステル不織布とが積層してなる積層体。」

エ.甲第4号証
(ア)本件特許に係る出願の現実の出願日前に発行された甲第4号証には、つぎの記載がある。

a.「【請求項1】 柔軟性を有するシートAと非伸縮性のシートBとを、1対のラミネートロール間を通過させて積層し複合シートを製造する際に、上記シートAを供給部からラミネートロール前に設置した1対のテンションロールまでの間を実質的に無張力状態で搬送し、かつ該テンションロールとラミネートロールとの間を張力1?10kg/mで搬送し、さらにラミネートロール間隙をシートAとシートBとの厚みの和の50?95%に設定することを特徴とする複合シートの製造方法。」

b.「【0043】上記非伸縮性のシートBとしては、例えば、鉄、アルミニウム、銅等の金属シート;坪量の大きな不織布などが挙げられる。
【0044】上記シートAとシートBとを積層して複合シートを得る場合、上記樹脂組成物の樹脂分としてブチルゴムを使用すると自己粘着力により、接着剤を使用せずにシートAとシートBとを積層することができる。上記シートAに粘着力がない場合は、エポキシ系接着剤等の接着剤を使用して積層してもよい。」

c.「【0046】シートAの作製(当審注:元来付されていた下線は省略した。)
ブチルゴム(エクソン化学社製「ブチルゴム#065」)40重量部、ポリブテン(出光石油化学社製「ポリブテン100R」)50重量部、粘着付与樹脂(トーネックス社製「エスコレッツ5320」)10重量部、ポリリン酸アンモニウム(クラリアント社製「AP422」)50重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛(東ソー社製「GREP-EG」)30重量部、水酸化アルミニウム(昭和電工社製「ハイジライトH-31」)50重量部、及び、炭酸カルシウム(備北粉化社製「ホワイトンBF300」)150重量部を、ニーダー(モリヤマ社製「加圧型ニーダーDS20」)に投入、混練して、耐火性樹脂組成物を得た後、この耐火性樹脂組成物を一軸押出機の金型から押出成形して2mm厚×800mm幅のシートAを作製した。」

(イ)以上を総合すると、甲第4号証にはつぎの発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。

「耐火性樹脂組成物を押出成形して作製した柔軟性を有するシートと不織布からなる非伸縮性のシートとを接着剤を使用して積層して得た複合シート。」

オ.甲第5号証
(ア)本件特許に係る出願の現実の出願日前に発行された甲第5号証には、つぎの記載がある。

a.「【請求項1】 熱可塑性樹脂及び/又はゴム系樹脂、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛、含水無機物、ならびに、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、周期表IIa族に属する金属の金属塩及び周期表III 族に属する金属の金属塩から選ばれる少なくとも1種を含有する耐火性樹脂組成物よりなる樹脂シートであって、該樹脂シートを50kW/m^(2)の加熱条件下で完全燃焼させた際に、加熱前の厚み(D_(0))と加熱後の厚み(D_(1))との比(D_(1)/D_(0))が1.1?20であり、かつ、完全燃焼後の燃焼残渣に直径0.25cm^(2)の円形圧子を接触させて0.1cm/秒の速度で荷重をかけた際の変位荷重曲線において、連続した最大荷重と最小荷重との差が0.01kg/cm^(2)以上であることを特徴とする耐火性樹脂シート。
【請求項2】 請求項1記載の耐火性樹脂シート(A)層と、JIS Z0208に準拠して40℃、90%RHで測定される透湿度が10g/m^(2)・24h未満である樹脂シート(B)層とが積層されてなる耐火性樹脂シート積層体であって、該樹脂シート(A)層の厚みが0.5?10mm、該樹脂シート(B)層の厚みが0.01?2mmであり、かつ、該樹脂シート(A)層の厚みと該樹脂シート(B)層の厚みとの比〔樹脂シート(A)層/樹脂シート(B)層〕が1?1,000であることを特徴とする耐火性樹脂シート積層体。」

b.「【0047】上記樹脂シート(B)としては、例えば、紙、織布、不織布、フィルム、金属箔、金属薄板、蒸着フィルム、金属箔と樹脂フィルムの複合シート、上記樹脂分からなる樹脂シート、上記樹脂分に無機充填剤が添加された樹脂シート;無機繊維シート等が用いられる。
【0048】上記紙としては、クラフト紙、和紙、Kライナー紙等などが挙げられる。水酸化アルミニウムや炭酸カルシウムを高充填した不燃紙、難燃剤が配合又は塗布された難燃紙として用いてもよい。また、ロックウール、セラミックウール、ガラス繊維等の無機繊維、炭素繊維等を用いることにより、耐火性をさらに向上させることも出来る。
【0049】上記不織布としては、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、セルロース繊維等からなる湿式不織布、長期不織布等を用いることが出来る。不織布の秤量は8?500g/m^(2)のものが好ましく、より好ましくは10?400g/m^(2)である。成形体の厚みによっても異なるが、秤量が8g/m^(2)未満であると破断しやすくなる。」

c.「【0064】上記樹脂シート(A)層及び(B)層の成形方法は、特に制限がなく、通常の樹脂シートを成形する方法ならいずれの方法も採用可能であり、例えば、押出成形、カレンダー成形、熱プレス成形等が挙げられる。また、上記樹脂シート(A)層と(B)層とが積層された耐火性樹脂シート積層体を得るには、一段階で積層体として押出し成形してもよく、樹脂シート(A)層と(B)層とを別々に成形した後熱プレスで圧着するか、施工時に貼合わせて積層してもよい。施工時の貼合わせには、アクリル系の粘着剤やエポキシ系の接着剤等が用いられる。」

(イ)以上を総合すると、甲第5号証にはつぎの発明(以下「甲5発明」という。)が記載されている。

「耐火性樹脂シート層と、織布、不織布、ロックウール、セラミックウール、ガラス繊維等の無機繊維、炭素繊維が用いられる樹脂シート層とが接着剤で貼合わせて積層されてなる耐火性樹脂シート積層体。」

カ.甲第6号証
(ア)本件特許に係る出願の現実の出願日前に発行された甲第6号証には、つぎの記載がある。

a.「【0002】
【従来の技術】熱可塑性樹脂及び/又は合成ゴム、燐化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛、無機充填材の混合物からなる耐火膨張性シートは、ロール状に巻取って巻重体として輸送、保管されるが、作業効率、輸送効率等を考慮すると、長尺に巻取るのが好ましい。」

(イ)以上を総合すると、甲第6号証には従来の技術として、つぎの技術事項(以下「甲6技術事項」という。)が記載されている。

「耐火膨張性シートをロール状に巻取った巻重体。」

(3)甲第1号証に基づく場合
ア.請求項1
(ア)甲1-1発明に基づく場合
a.本件特許発明1と甲1-1発明とを対比する。

(a)甲1-1発明の「塩化ビニル系樹脂」、「熱膨張性黒鉛」及び「可塑剤」は、本件特許発明1の「ポリ塩化ビニル樹脂」、「熱膨張性黒鉛」及び「可塑剤」にそれぞれ相当する。

(b)甲1-1発明の「その形状が、シート状であ」る「火焔初期の延焼防止のための熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料」は、本件特許発明1の「樹脂組成物からなる耐火シート」に相当するとともに、「耐火材」にも相当する。

(c)甲1-1発明の「塩化ビニル系樹脂100に対して、熱膨張性黒鉛が50?150質量部、可塑剤が10?100質量部程度であ」る点と、本件特許発明1の「前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記熱膨張性黒鉛を10?350重量部、前記可塑剤を20?200重量部含有し」た点とは、「ポリ塩化ビニル樹脂」、「熱膨張性黒鉛」及び「可塑剤」の配合比の範囲が重複しており、その重複する範囲において配合比が一致する。

(d)そうすると、両者はつぎの点で相違し、その余の点で一致する。

(相違点1)
本件特許発明1が「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃間のtanδピークの最大値が1.25以下であり、60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率が5%以下である」のに対して、甲1-1発明においてはtanδピークの最大値及び熱収縮率が不明である点。

b.上記相違点1について検討する。
(a)「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃間のtanδピークの最大値」及び「60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率」について、本件特許明細書には以下の記載がある。

「【0035】
上記の耐火性樹脂組成物は、前記樹脂成分100重量部に対し、熱膨張性黒鉛を10?350重量部および無機充填剤を30?400重量部の範囲で含むものが好ましい。
(中略)
【0041】
上記可塑剤の使用量は、樹脂成分100重量部に対して、好ましくは20?200重量部であり、より好ましくは30?100重量部である。可塑剤の使用量が20重量部以上であると、充分な耐衝撃性が得られ、200重量部以下であると、難燃性が発揮される。
(中略)
【0053】
ポリ塩化ビニル樹脂と熱膨張性黒鉛とを含有する樹脂組成物からなる耐火シートを備えた本発明の耐火材2は、60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率が5%以下である。60℃,6時間の加熱処理における熱収縮率の程度は、耐火材2の使用時の温度に対する対耐性を評価するための指標となる。この構成によれば、耐火シートの巻回体の製造工程で熱を加えても、収縮による剥がれや、寸法の不足が抑制される。
(中略)
【0055】
なお、耐火材2の熱収縮率は、ポリ塩化ビニル樹脂に対する熱膨張性黒鉛、リン化合物、可塑剤、および無機充填剤の量を適宜選択することにより当業者には実現可能である。(後略)」
(中略)
【0057】
また好ましくは、本発明の耐火材2は1Hzで温度分散での動的粘弾性を測定した際の0?140℃間のtanδピークの最大値が1.25以下である。この構成によれば、tanδの値が低い程、弾性成分が強いため、耐火材製造の際に生じる残留歪が小さい傾向にあり、その結果収縮による剥がれや、寸法の不足が抑制される。」

(b)上記段落【0055】に「適宜選択することにより当業者には実現可能である」と記載され、また、段落【0057】に「また好ましくは」と記載されていること等から見て、本件特許発明1は、本件特許発明1の発明特定事項であり、本件特許明細書の上記段落【0035】及び【0041】に記載された「ポリ塩化ビニル樹脂と熱膨張性黒鉛と可塑剤とを含有する樹脂組成物からなる耐火シートを備え、前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記熱膨張性黒鉛を10?350重量部、前記可塑剤を20?200重量部含有し」との事項を備えさえすれば、ただちに「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃間のtanδピークの最大値が1.25以下」となり、「60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率が5%以下」となるものではなく、「ポリ塩化ビニル樹脂と熱膨張性黒鉛と可塑剤とを含有する樹脂組成物からなる耐火シートを備え、前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記熱膨張性黒鉛を10?350重量部、前記可塑剤を20?200重量部含有」することに加えて、さらに「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃間のtanδピークの最大値が1.25以下であり、60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率が5%以下である」との事項をも備えることにより、「耐火シートの巻回体の製造工程で熱を加えると収縮による剥がれが生じたり、寸法が足りなくなるという問題があった」(段落【0004】)ことを前提に、「熱収縮率が低減されたポリ塩化ビニル系の耐火材およびその巻回体を提供する」(段落【0005】)との課題を解決するものであると解される。
そして、このような解釈は、本件特許明細書の段落【0066】ないし【0074】における実施例1ないし20及び比較例1について記載、とりわけ、段落【0073】に「実施例1?20の耐火材ではMD収縮率が5%以下と低く、比較例1の耐火材では5%を超えていた。また、実施例1?20の耐火材ではtanδピークの最大値が1.25以下であった。」と記載されていることとも整合する。

(c)一方、甲第1号証には、動的粘弾性を測定した際のtanδピークの最大値や熱収縮率の数値については何ら記載がない。また、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証にも、tanδピークの最大値及び熱収縮率については記載されておらず、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項が周知技術であるともいえる根拠もない。
さらに、甲第1号証には、「シートを冷却した際の収縮の問題」(段落【0057】)の抑制についての言及はあるものの、「耐火シートの巻回体の製造工程で熱を加えると収縮による剥がれが生じたり、寸法が足りなくなるという問題があった」ことを前提に、「熱収縮率が低減されたポリ塩化ビニル系の耐火材およびその巻回体を提供する」という課題についての記載や示唆もないから、甲1発明においてこのような課題を解決するために、tanδピークの最大値や熱収縮率に着目してその数値を好適化することが、当業者が適宜なし得る設計的事項であるということもできない。

(d)そうすると、上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲第1号証に記載された甲1-1発明であるということはできない。
また、本件特許発明1は甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(イ)甲1-2発明に基づく場合
a.本件特許発明1と甲1-2発明とを対比すると、上記「(ア)a.(a)ないし(c)」での対比と同様のことがいえる。
さらに、甲1-2発明の「塩化ビニル樹脂100質量部に対して、可塑剤を78.6質量部、熱膨張性黒鉛を83.9質量部の比率で配合した」点は、本件特許発明1の「前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記熱膨張性黒鉛を10?350重量部、前記可塑剤を20?200重量部含有し」たとの事項により特定される配合比の範囲に含まれるから、両者の配合比は一致するといえる。

そうすると、両者はつぎの点で相違し、その余の点で一致する。

(相違点2)
本件特許発明1が「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃間のtanδピークの最大値が1.25以下であり、60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率が5%以下である」のに対して、甲1-2発明においてはtanδピークの最大値及び熱収縮率が不明である点。

b.上記相違点2は上記「(ア)a.(d)」の相違点1と同様の点であって、当該相違点1については、上記「(ア)b.」で検討したとおりである。
そうすると、上記相違点2は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲第1号証に記載された甲1-2発明であるということはできない。
また、本件特許発明1は、甲1-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ.請求項2ないし8
本件特許発明2ないし8は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであり、本件特許発明1については上記「ア.」で検討したとおりである。
そうすると、本件特許発明2ないし4は、上記「ア」と同様の理由で、甲1-1発明及び甲4発明、甲1-2発明及び甲4発明、甲1-1発明及び甲5発明、又は、甲1-2発明及び甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
同様に、本件特許発明5ないし7は、甲第1号証に記載された甲1-1発明又は甲1-2発明ではなく、また、甲1-1発明又は甲1-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
同様に、本件特許発明8は、甲1-1発明及び周知技術、又は、甲1-2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)甲第2号証に基づく場合
ア.請求項1
(ア)甲2-1発明に基づく場合
a.本件特許発明1と甲2-1発明とを対比する。

(a)甲2-1発明の「塩化ビニル系樹脂」、「熱膨張性黒鉛」及び「可塑剤」は、本件特許発明1の「ポリ塩化ビニル樹脂」、「熱膨張性黒鉛」及び「可塑剤」にそれぞれ相当する。

(b)甲2-1発明の「押出成形シートとして作製された」「耐火性が必要とされる用途に用いることができる」「熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物からなる成形体」は、本件特許発明1の「樹脂組成物からなる耐火シート」に相当するとともに、「耐火材」にも相当する。

(c)甲2-1発明の「塩化ビニル系樹脂100質量部、可塑剤10?100質量部、熱膨張性黒鉛10?300質量部を含有してなる」点と、本件特許発明1の「前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記熱膨張性黒鉛を10?350重量部、前記可塑剤を20?200重量部含有し」た点とは、「ポリ塩化ビニル樹脂」、「熱膨張性黒鉛」及び「可塑剤」の配合比の範囲が重複しており、その重複する範囲において配合比が一致する。

(d)そうすると、両者はつぎの点で相違し、その余の点で一致する。

(相違点3)
本件特許発明1が「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃間のtanδピークの最大値が1.25以下であり、60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率が5%以下である」のに対して、甲2-1発明においてはtanδピークの最大値及び熱収縮率が不明である点。

b.上記相違点3について検討する。
上記相違点3は、上記「(3)ア.(ア)a.(d)」の相違点1と同様の点であるから、上記「(3)ア.(ア)b.(a)及び(b)」と同様のことがいえる。
そして、甲第2号証には、動的粘弾性を測定した際のtanδピークの最大値や熱収縮率の数値については何ら記載がない。また、甲第1号証及び甲第4号証ないし甲第6号証にも、tanδピークの最大値及び熱収縮率については記載されておらず、上記相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項が周知技術であるともいえる根拠もない。
さらに、甲第2号証には「耐火シートの巻回体の製造工程で熱を加えると収縮による剥がれが生じたり、寸法が足りなくなるという問題があった」ことを前提に、「熱収縮率が低減されたポリ塩化ビニル系の耐火材およびその巻回体を提供する」という課題についての記載や示唆もないから、甲2発明においてこのような課題を解決するために、tanδピークの最大値や熱収縮率に着目してその数値を好適化することが、当業者が適宜なし得る設計的事項であるということもできない。

c.そうすると、上記相違点3は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲第2号証に記載された甲2-1発明であるということはできない。
また、本件特許発明1は甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(イ)甲2-2発明に基づく場合
a.本件特許発明1と甲2-2発明とを対比すると、上記「(ア)a.(a)ないし(c)」での対比と同様のことがいえる。
さらに、甲2-2発明の「塩化ビニル系樹脂100質量部、可塑剤80質量部、熱膨張性黒鉛100質量部を含有してなる」点は、本件特許発明1の「前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記熱膨張性黒鉛を10?350重量部、前記可塑剤を20?200重量部含有し」たとの事項により特定される配合比の範囲に含まれるから、両者の配合比は一致するといえる。

そうすると、両者はつぎの点で相違し、その余の点で一致する。

(相違点4)
本件特許発明1が「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃間のtanδピークの最大値が1.25以下であり、60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率が5%以下である」のに対して、甲2-2発明においてはtanδピークの最大値及び熱収縮率が不明である点。

b.上記相違点4は、上記「ア.(ア)a.(d)」の相違点3と同様の点であって、当該相違点3については、上記「ア.(ア)b.」で検討したとおりである。
そうすると、上記相違点4は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲第2号証に記載された甲2-2発明であるということはできない。
また、本件特許発明1は、甲2-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ.請求項2ないし8
本件特許発明2ないし8は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであり、本件特許発明1については上記「ア.」で検討したとおりである。
そうすると、本件特許発明2ないし4は、上記「ア」と同様の理由で、甲2-1発明及び甲4発明、甲2-2発明及び甲4発明、甲2-1発明及び甲5発明、又は、甲2-2発明及び甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
同様に、本件特許発明5ないし7は、甲第2号証に記載された甲2-1発明又は甲2-2発明ではなく、また、甲2-1発明又は甲2-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
同様に、本件特許発明8は、甲2-1発明及び周知技術、又は、甲2-2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)甲第3号証に係る出願に基づく場合
ア.請求項1
(ア)本件特許発明1と甲3発明とを対比する。

a.甲3発明の「塩化ビニル系樹脂」、「熱膨張性黒鉛」及び「可塑剤」は、本件特許発明1の「ポリ塩化ビニル樹脂」、「熱膨張性黒鉛」及び「可塑剤」にそれぞれ相当する。

b.甲3発明の「その形状が、シート状であり」「耐火性が必要とされる用途に用いることができる」「塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張性黒鉛とを含む熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料」は、本件特許発明1の「樹脂組成物からなる耐火シート」に相当する。
また、これを踏まえると、甲3発明の「熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料とポリエステル不織布とが積層してなる積層体」は、本件特許発明1の「耐火材」に相当する。

c.甲3発明の「塩化ビニル系樹脂100.0質量部に対して、可塑剤を95.6質量部、熱膨張性黒鉛を84.1質量部の比率で配合し」た点は、本件特許発明1の「前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記熱膨張性黒鉛を10?350重量部、前記可塑剤を20?200重量部含有し」たとの事項により特定される配合比の範囲に含まれるから、両者の配合比は一致するといえる。

d.そうすると、両者はつぎの点で相違し、その余の点で一致する。

(相違点5)
本件特許発明1が「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃間のtanδピークの最大値が1.25以下であり、60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率が5%以下である」のに対して、甲3発明においてはtanδピークの最大値及び熱収縮率が不明である点。

(イ)上記相違点5について検討すると、上記相違点5は、上記「(3)ア.(ア)a.(d)」の相違点1と同様の点であるから、上記「(3)ア.(ア)b.(a)及び(b)」と同様のことがいえる。
そして、甲3当初明細書等には、動的粘弾性を測定した際のtanδピークの最大値や熱収縮率の数値については何ら記載がない。また、他に上記相違点5に係る本件特許発明1の発明特定事項が周知技術であるともいえる証拠もない。
そうすると、上記相違点5は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲3当初明細書等に記載された発明と同一であるということはできない。

イ.請求項2及び4
本件特許発明2及び4は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであり、本件特許発明1については上記「ア.」で検討したとおりである。
そうすると、本件特許発明2及び4は、上記「ア.」と同様の理由で、甲3当初明細書等に記載された発明と同一であるということはできない。

第6 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由についての判断

上記「第3」の特許異議申立理由のうち、取消理由通知で採用し上記「第5」で判断した以外の理由について判断する。

(1)特許法第29条第1項第3号(新規性)
「第3 1.(1)イ.」の理由について、本件特許発明8は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるところ、本件特許発明1については上記「第5 4.(1)」で判断したとおりである。
そうすると、本件特許発明8は、甲第2号証に記載された甲2-1発明又は甲2-2発明であるということはできない。

(2)特許法第29条の2(拡大先願)
「第3 1.(3)」の理由のうち本件特許発明5ないし7について、本件特許発明5ないし7は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるところ、本件特許発明1については上記「第5 5.(1)」で判断したとおりである。
そうすると、本件特許発明5ないし7は、甲3当初明細書等に記載された発明と同一であるということはできない。

(3)特許法第36条第6項第2号(明確性)
ア.特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する特許異議申立理由は、概略、実施例19(当審注:本件特許明細書の段落【0066】ないし【0074】参照。)は、本件特許発明1で規定する要件B(当審注:「前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記熱膨張性黒鉛を10?350重量部、前記可塑剤を20?200重量部含有し、」との事項。)の構成が、比較例1と完全に同一であるが、本件特許発明1で規定する要件C(当審注:「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃間のtanδピークの最大値が1.25以下であり、」との事項。)と要件D(当審注:「60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率が5%以下である」との事項。)の値は異なっているから、本件特許発明1ないし8は明確でなく、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさない、というものである(特許異議申立書第8ページ、第50ページ第17?24行)。

イ.しかしながら、本件特許発明1が「前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記熱膨張性黒鉛を10?350重量部、前記可塑剤を20?200重量部含有し」との事項を備えさえすれば、ただちに「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃間のtanδピークの最大値が1.25以下」となり、「60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率が5%以下」となるものではないことは、上記「第5 3.(1)ア.(イ)」で検討したとおりであるから、本件特許明細書に、ともに「前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記熱膨張性黒鉛を10?350重量部、前記可塑剤を20?200重量部含有し」との事項を備えるものとして記載された実施例19及び比較例1について、「1Hz下で温度分散での動的粘弾性を測定した際に現れる0?140℃間のtanδピークの最大値」及び「60℃,6時間の加熱処理の条件下での熱収縮率」が異なることのみを以て、本件特許発明1ないし8が明確でないとまではいうことはできない。

(4)特許法第29条第1項柱書(発明該当性)
ア.特許法第29条第1項柱書に関する特許異議申立理由は、概略、本件特許発明1ないし8は、公知の耐火シートについて測定すれば得られるパラメーター値を、「ポリ塩化ビニル樹脂、熱膨張性黒鉛、可塑剤の3成分を含む樹脂組成物からなる耐火シート」における固有の新規なものであるとして、物質特許として成立したものであり、本件特許発明1ないし8は、何ら新たな技術的思想を開示したものでなく、公知の耐火シートについて得られる測定値を、パラメーターとして規定したに過ぎないものであり、特許法第2条第1項の発明に該当するものではないから、本件特許発明1ないし8は、特許法第29条第1項柱書に違反して特許されたものである、というものである(特許異議申立書第9ページ、第50ページ下から3行?第52ページ下から7行)。

イ.しかしながら、特許法第29条第1項柱書は産業上利用することができる発明をした者は、その発明について特許を受けることができる旨を規定し、同法第2条第1項は発明を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と規定するものであるところ、申立人が主張する発明が「新たな技術的思想を開示したもの」か否かや、「公知」か否かは、同法第29条第1項各号や第2項の規定に係るものであって、同法第29条第1項柱書及び第2条第1項で規定する発明が産業上利用することができるものであるかや、発明が自然法則を利用したものであるかについての判断を左右するものではないから、申立人の主張は前提において失当である。
また、申立人は本件特許発明が「何ら新たな技術的思想を開示したものでなく、公知の耐火シートについて得られる測定値を、パラメーターとして規定したに過ぎないもの」である旨主張しているが、「公知の耐火シートについて得られる測定値」を何ら示していないから、当該主張は具体的根拠を欠くものであって採用することができない。

第7 むすび

以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本件特許発明1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-09-25 
出願番号 特願2017-18755(P2017-18755)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (E04B)
P 1 651・ 1- Y (E04B)
P 1 651・ 161- Y (E04B)
P 1 651・ 121- Y (E04B)
P 1 651・ 113- Y (E04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 星野 聡志  
特許庁審判長 秋田 将行
特許庁審判官 袴田 知弘
森次 顕
登録日 2019-05-10 
登録番号 特許第6523352号(P6523352)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 耐火材およびその巻回体  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 田口 昌浩  

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