• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1366987
異議申立番号 異議2020-700004  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-08 
確定日 2020-10-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6540502号発明「燃料電池用アノードおよび燃料電池単セル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6540502号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6540502号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成27年12月25日を出願日とする特願2015-254005号であって、令和 1年 6月21日にその特許権の設定登録がなされ、同年 7月10日にその特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許について、令和 2年 1月 8日差出で、特許異議申立人馬場資博(以下、「申立人」という。)により、請求項1?9(全請求項)に係る本件特許に対して特許異議の申立てがなされ、令和 2年 4月24日付けで当審から取消理由(以下、「取消理由」という。)と審尋(以下、「審尋」という。)が通知され、令和 2年 7月 2日付けで特許権者から意見書(以下、「意見書」という。)と回答書(以下、「回答書」という。)が提出されたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」という。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、本願の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】
固体電解質層(41)を有する燃料電池単セル(4)に用いられ、
(11-1)面(20a)と(110)面(20b)とを結晶面(20)に含むNi結晶粒子(2)を有する、燃料電池用アノード(1)。
【請求項2】
さらに、固体電解質粒子(3)を有する、請求項1に記載の燃料電池用アノード。
【請求項3】
[11-2]方位から見たNi結晶粒子の輪郭部に表れた上記(11-1)面に対応する表面線の長さL_(11-1)は、上記輪郭部に表れた上記(110)面に対応する表面線の長さL_(110)以上である、請求項1または2に記載の燃料電池用アノード。
【請求項4】
上記L_(11-1)/上記L_(110)の比が、2/1?1/1の範囲にある、請求項3に記載の燃料電池用アノード。
【請求項5】
[11-2]方位から見たNi結晶粒子の輪郭部に表れた上記(110)面に対応する表面線の長さL_(110)は、上記輪郭部に表れた上記(11-1)面に対応する表面線の長さL_(11-1)以上である、請求項1または2に記載の燃料電池用アノード。
【請求項6】
上記L_(110)/上記L_(11-1)の比が、2/1?1/1の範囲にある、請求項5に記載の燃料電池用アノード。
【請求項7】
上記(11-1)面および上記(110)面以外の結晶面で上記Ni結晶粒子同士が連結している、請求項1?6のいずれか1項に記載の燃料電池用アノード。
【請求項8】
上記(110)面に上記固体電解質粒子が接触している、請求項2に記載の燃料電池用アノード。
【請求項9】
請求項1?8のいずれか1項に記載の燃料電池用アノードを有する、燃料電池単セル(4)。」

第3 申立人及び特許権者の主張
1. 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、インターネットから取得された甲第4号証を除き、いずれも本願の出願日前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1?7号証を提出して、以下の申立理由1?4により、請求項1?9に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(新規性)
本件発明1、2、7?9は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)

(2)申立理由2(進歩性)
本件発明1?9は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)

(3)申立理由3(サポート要件)
本件の特許請求の範囲の記載には不備があるから、本件発明3?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。(取消理由として一部採用)

(4)申立理由4(実施可能要件)
本件の発明の詳細な説明の記載には不備があるから、本件発明1?9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)

<証拠方法>
甲第1号証:特開2008-34305号公報
甲第2号証:国際公開第2011/125197号
甲第3号証:D.FLONER外2名,“ELECTROCATALYTIC OXIDATION OF HYDROGEN ON POLYCRYSTAL AND SINGLE-CRYSTAL NICKEL ELECTRODES”,Surface Science, 234(1990),p87-97
甲第4号証:「ミラー指数(面) 崎間@物理のかぎプロジェクト」、[online]、平成16年4月30日、
< http://hooktail.sub.jp/solid/millerIndex1/>
甲第5号証:特許第5605888号公報
甲第6号証:特許第5605889号公報
甲第7号証:特許第5605890号公報

なお、上記甲第1号証?甲第7号証をそれぞれ「甲1」?「甲7」ということがある。

2.特許権者の主張の概要
特許権者は、意見書において、証拠方法として下記乙第1?4号証を提出して、下記第4の取消理由1によっては、本件発明1?9を取り消すことができない旨主張している。

<証拠方法>
乙第1号証:特開2006-147334号公報
乙第2号証:浦野靖久 外2名“面心立方格子金属の表面エネルギーの計算”,J.Chem.Software,Vol.3,No.2,1996,p91-96
乙第3号証:JOEL S.HIRSCHHORN 外1名,“ADVANCED EXPERIMENTAL TECHNIQUES IN POWDER METALLURGY”,SPRINGER US,2013年5月22日,p41-43
乙第4号証:津島将司 外1名“燃料電池の原理と特徴”,高温学会誌,第35巻,第5号,2009年9月,p224?230

なお、乙第1号証?乙第4号証をそれぞれ、乙1?乙4ということがある。

第4 審尋と取消理由の概要
1.令和 2年 4月24日付けで当審から通知した審尋の概要は以下のとおりである。
ア 本件特許明細書の段落【0024】には、本件発明の燃料電池用アノードの製造方法が記載されており、「金属ニッケル粒子または酸化ニッケル粒子を含むアノード材料を、還元雰囲気下にて、昇温速度20?100℃/分で常温から500℃?900℃まで加熱した後、常温まで降温する」工程(以下、「還元加熱工程」という。)を行うことにより、本件発明の燃料電池用アノードに適用されるNi結晶粒子を得ることができるとされている。

イ しかしながら、上記段落【0024】に記載の上記還元加熱工程は、燃料電池単セルの製造方法の全工程のうち、(i)酸化ニッケル粒子を含むアノード材料からアノードを形成するための焼成工程について説明したものであるのか、(ii)燃料電池単セルを製造した後にアノードに含まれる酸化ニッケル粒子をニッケル粒子に還元する後処理工程について説明したものであるか、(iii)上記(i)及び(ii)とは別の段階で行うものであるか判然としない。

ウ そこで、上記還元加熱工程が、上記(i)(ii)(iii)のいずれに該当するのか、また、仮に(iii)であるなら、それはどのような段階で行う工程であるのかについて説明されたい。

2.令和 2年 4月24日付けで当審から通知した取消理由の概要は以下のとおりである。なお、下記取消理由1は上記申立理由3の一部を採用したものである。

取消理由1(サポート要件)
ア 本件発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)とは、本件特許明細書の段落【0005】?【0006】の記載によれば、「金属Ni粒子が形態変化しにくく耐久性を向上させることができ、Niの触媒活性を高めることにより電池反応を促進させることができる燃料電池用アノードを提供すること」であると認められる。

イ そして、同段落【0009】には、本件発明のアノードは、(11-1)面と(110)面とを結晶面に含むNi結晶粒子を有しており、上記(11-1)面は、形態変化し難く、形態安定性が高いため、(11-1)面を含むNi結晶粒子の形態変化を抑制することができ、また、上記(110)面は、触媒活性が高いため、結晶面に(110)面を含むNi結晶粒子を有することで、燃料電池用アノードにおける電池反応を促進させることができるものである、と本件発明の機序について記載されている。

ウ また、同段落【0024】には、金属ニッケル粒子または酸化ニッケル粒子を含むアノード材料を、還元雰囲気下にて、昇温速度20?100℃/分で常温から500℃?900℃まで加熱した後、常温まで降温することにより、本件発明の燃料電池用アノードに適用されるNi結晶粒子を得ることができ、このとき、昇温速度20?50℃/分の範囲で徐々に昇温すれば、(11-1)面20aの成長が優勢とすることができ、また、昇温速度100?200℃/分の範囲で急速に昇温すれば、(110)面20bが優勢とすることができる、と本件発明の燃料電池用アノードの製造方法について記載されている。

エ しかしながら、本件特許明細書には、本件発明の燃料電池用アノードを有する燃料電池単セルを実際に製造したときに、当該セルにおいて、Ni結晶粒子が形態変化しにくく耐久性が向上すること、及び、Niの触媒活性が高められており、電池反応が促進することについて確認する実験は一切行われていないから、本件発明の燃料電池用アノードが上記アの課題を解決することができるものであるか不明である。
また、この点について、上記イに記載した、(11-1)面は、形態変化し難く、形態安定性が高いため、(11-1)面を含むNi結晶粒子の形態変化を抑制することができる点、及び、(110)面は、触媒活性が高いため、結晶面に(110)面を含むNi結晶粒子を有することで、燃料電池用アノードにおける電池反応を促進させることができる点について、本願の出願時、燃料電池の技術分野における技術常識であったといえる証拠が提示されているわけではなく、また、Ni結晶粒子の(11-1)面は形態変化し難く、同(110)面は触媒活性が高いという性質があることを、理論的に説明しているわけでもない。

オ したがって、本件発明1?9は、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないので、請求項1?9に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第5 当審の判断
1.取消理由1(サポート要件)について
(1)乙号証の記載
乙第1?4号証には以下の事項が記載されている(なお、「…」は記載の省略を表し、下線は当審が付与したものである。以下同様。)。

ア 乙第1号証の記載事項
「【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」という。)は、電解質として酸素イオン導電性を示す固体電解質を用いた燃料電池である。SOFCの基本的な要素は、燃料極、固体電解質、空気極であり、これら3つの要素を順に積層して接合した接合体が単セルとなる。通常、この単セルを複数用いて集合体とし、この集合体が発電装置として用いられる。

【0006】
従来、このような性質を満たす燃料極用材料としては、ニッケル粉末または酸化ニッケル粉末(酸化ニッケルは、高温の還元雰囲気に曝されることによりニッケルとなる)が多用されてきたが、ニッケル粉末または酸化ニッケル粉末のみでは、高温で長時間使用するとニッケル粒子同士が焼結して多孔組織が維持し難くなるといった問題があった。
【0007】
そこで、近年では、例えば、ニッケル粒子同士の焼結を抑制するため、ニッケル粉末または酸化ニッケル粉末とイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などの固体電解質粉末との混合粉末(混合粉末の焼結体をサーメットと呼ぶ)が多く用いられている。
【0008】
また例えば、特許文献1には、ニッケルの焼結による燃料極の経時劣化によって生じるSOFCの発電性能の低下を防ぐため、表層部は金属ニッケルでその内部に酸化チタンが不規則な形状の核として存在する表面改質粉を燃料極用材料として用いる点記載されている。」

イ 乙第2号証の記載事項
「パソコンを用いて、面心立方格子金属の各種結晶面の挿入原子法による表面エネルギーの計算を行い、文献値と比較した。」(第91頁上部)

「2.低指数面の表面エネルギー
低指数面の原子配列を作り、表面エネルギーを計算した結果を表1に示す。比較に用いた文献値[7]は、液体金属の表面張力から見積もられたもので、絶対零度での固体の高指数面を含む面の平均値に相当するものである。計算結果は文献値よりも低い値となったが、このような傾向は、挿入原子法を用いた他の計算結果[8]でもみられている。このことは、挿入原子法のパラメータの値が適当でないためとも考えられ、パラメータの修正が今後の検討課題であり、表面の特性をパラメータの決定に反映させた表面挿入原子法[9]というものも開発されている。


」(第93頁下から7行?第94頁上部)

ウ 乙第3号証の記載事項



」(第41頁14行?第43頁11行)
(当審訳:・・・固体における焼結メカニズムを決定するために度々実施された実験手法とは、焼結中に二つの同様な粒体の間に形成される、ネックの成長率の測定であった。もし、これらの粒体が正規の幾何学的形状(球や円筒形など)であるなら、ネックの成長を引き起こしている物質の輸送メカニズムは、絶対的な成長率のデータと、成長率定数の温度依存性から推定することができる。

ネックの成長率方程式

この研究における目的のために考慮することが必要な唯一の粒子の幾何学は、共に焼結している二つの球として、図1に示されている。クチンスキーは、x≦0.3aでρ?x^(2)/2aのときに、ネックの曲率半径xの変化は、時間をtとすると、次の式で記述できることを示した。







」(当審訳:図1 焼結のための二球体モデルの幾何学)




」(当審訳:ネックの成長メカニズムの推定
K(T)は温度Tと質量輸送メカニズムの関数である。質量流れメカニズムの特定は、log(time)に対して、log(x)又はlog(x/a)をプロットして、指数nを評価することで達成される。
特に、クチンスキーによれば、
粘性流体に対しては n=2
蒸発凝縮に対しては n=3
体積拡散に対しては n=5
表面拡散に対しては n=7
となる。・・・)




」(第43頁20?31行)
(当審訳:クチンスキーによって与えられた、体積拡散によるネックの成長を支配する関係式は次のとおりである。


ここで、γは表面張力、Ωoは原子体積、Dvは自己拡散係数、aは格子面間隔、kはボルツマン定数である。)

エ 乙第4号証の記載事項



」(第227頁左欄27行?右欄下から5行)

(2)取消理由1についての当審の判断
上記取消理由1に対して、特許権者が提出した意見書を参照すれば、乙1?乙3と甲3の記載を根拠として次のことがいえる。

(2-1) Ni結晶粒子の(11-1)面の形態安定性について
ア 乙1に記載されているように、SOFC(固体酸化物形燃料電池)の燃料極(アノード)に使用されるニッケル粉末は、高温下で長時間使用すると、ニッケル粒子同士が焼結、すなわち、粒成長することによりSOFCの発電性能が低下する。

イ ここで、乙2の表1には、面心立方格子金属の表面エネルギーを計算した結果が示されており、特にNiの表面エネルギーに注目すると、Ni(111)面の表面エネルギーは、Ni(110)面の表面エネルギーよりも低く、Ni(111)面とNi(11-1)面とはエネルギー的に等価であるから、Ni(11-1)面は、Ni(110)面に比べて表面エネルギーが低い。したがって、(11-1)面が表面にあるNi結晶粒子は、(110)面が表面にあるNi結晶粒子に比べて、高温下で粒成長し難く、形態変化し難いといえる。

ウ また、乙3の記載からも同様の結果が導かれる。すなわち、乙3によれば、粒成長のメカニズムは、体積拡散によるネックの成長によって説明することができる。具体的には、クチンスキーによるネック成長モデルによれば、ネックの曲率半径xの変化は、時間tに対して、以下の式で表される。



ここで、γは表面張力、Ωoは原子体積、Dvは自己拡散係数、aは格子面間隔、kはボルツマン定数である。
上記(2)の式から、材料が同じであれば、格子面間隔aが小さいほど、ネックの曲率半径xの変化が小さい、つまり、ネックの成長速度が遅く、そのため、高温下での粒成長が遅いといえる。

エ ここで、面心立方格子(fcc)構造のNi結晶粒子において、(11-1)面の格子面間隔a_(11-1)は、(110)面の格子面間隔a_(110)よりも小さいことは技術常識である。

オ したがって、上記エのモデルと上記オの技術常識に基づけば、格子面間隔a_(11-1)が小さいNiの(11-1)面は、格子面間隔a_(110)が大きい(110)面よりも粒成長が抑えられているので、Ni結晶粒子の(11-1)面は高温下で形態変化し難いといえる。

カ 上記ア?オの検討によれば、Ni結晶粒子の(11-1)面は、形態変化し難く形態安定性が高い面であるから、(11-1)面を含むNi結晶粒子とすることでその形態変化を抑制することができるといえる。

(2-2) Ni結晶粒子の(110)面の触媒活性について
ア 特許異議申立書に添付された下記甲2のアブストラクトには、Ni(110)面は、他の面に比べて最も活性な構造であると記載されていることから、Ni結晶粒子の(110)面は、水素の電気触媒酸化に対して触媒活性が高い面であることがわかる。

イ Ni結晶粒子の(110)面は触媒活性が高い面であるから、結晶面に(110)面を含むNi結晶粒子を有すると、(110)面の触媒活性の高さによって電池反応が促進されることは明らかである。

(2-3)小括
以上のとおり、いずれも本願出願日前に公知となった、乙1?乙3と甲2の記載を根拠として、Ni結晶粒子の(11-1)面は形態変化し難く、同(110)面は触媒活性が高いという性質があることが、本願の出願時の技術常識であったということができるから、「(11-1)面(20a)と(110)面(20b)とを結晶面(20)に含むNi結晶粒子(2)を有する、燃料電池用アノード(1)」を発明の特定事項として含む本件発明1?9は、いずれも、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、当業者が上記第4の2.アに記載した課題を解決することができると認識できる範囲内のものである、ということができる。
したがって、取消理由1によって、本件発明1?9を取り消すことはできない。

2.取消理由として採用しなかった申立理由1、2(甲1を主たる引用例とする新規性進歩性)についての判断

(1)甲1に記載された事項と発明
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。
1ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池のアノード還元法に関し、より詳しくは固体酸化物形燃料電池のアノード中の触媒金属の酸化物を還元する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(以下、適宜“SOFC”と言う。〕には平板型、円筒型、一体積層型、横縞型、その他各種あるが、これらは原理的には同じである。その単電池すなわちセルは、固体酸化物電解質を挟んでアノード及びカソードが配置され、アノード/固体酸化物電解質/カソードの三層構造で構成される。

1イ 「【0007】
アノードの構成材料としては、触媒金属(Ni、Co、Ru)を含む材料、Niを主成分とする材料、NiとYSZ〔(Y_(2)O_(3))_(X)(ZrO_(2))_(1-X)(式中、x=0.05?0.15)〕との混合物つまりそのコンポジット材料などが用いられる。その作製時に構成材料にグラファイト粉末などを混入して焼結することで多孔質とされる。
【0008】
ところで、アノードは、そのように多孔質構造を持つ層であり、その成分のうちNi等の金属がメタンの改質反応と電気化学反応に寄与する。これを、NiとYSZを例に説明すると、NiはSOFCの作製時には酸化状態、すなわちNiO(酸化ニッケル)の状態にあり、セルのアノードとして機能させるためには、一旦金属Niに還元しておく必要がある。
【0009】
図3は、支持膜式のSOFCセルを例にして、その作製工程例を説明する図である。図3中、アノード、電解質及びカソードの構成原料例を併記している。図3のとおり、アノード原料として酸化ニッケル(NiO)粉末、YSZ粉末、グラファイト粉末を混合した後、造粒し、次いでプレス成形によりグリーン基板を作製する。この基板がセルにおいてアノードとなり、電解質を支持することになる。グラファイト粉末は、成形を容易にするとともに、焼結時にアノードを多孔質とするための補助材である。
【0010】
次いで、そのグリーン基板上に電解質材料を塗布、成膜した後、共焼結する。より具体的には、電解質原料としてYSZ粉末、バインダー等を混合した後、解砕し、これを水性スラリーとし、スクリーン印刷等によりグリーン基板上に塗布、成膜した後、共焼結する。そして、共焼結体のうち、電解質の膜面上にカソード材料、例えばLSCFをスクリーン印刷等により塗布した後、焼成し、アノード/電解質/カソードの三層ユニットからなるSOFCセルを作製する。
【0011】
ここで、以上のような工程で作製される三層ユニットのうちアノード層に着目すると、原料である酸化ニッケル(NiO)は、その作製過程で共焼結、焼成の工程を経るが、そのまま酸化状態、すなわちNiOの状態にあることから、アノード層はYSZとNiOのコンポジット層となっている。しかしNiOのままであると、メタンの改質反応も電気化学反応も起こせないので、これをアノードとして機能させるためには、NiOを一旦Niに還元しておく必要がある。」

1ウ 「【0012】
〈従来のアノード還元法〉
アノード層中のNiOを還元するために、従来法では、上述のように作製したセルを例えば電気炉内に配置し、水素等の還元性ガスをアノード側に供給し、高温状態で化学的に還元する方法がとられている。NiOの還元反応は下記のとおりである。
【化1】
NiO+H_(2) → Ni+H_(2)O

【0013】
この還元反応は、ある程度高温にならないと起こらないので、600℃程度以上の温度に昇温し、その状態で水素を供給して還元を行う。ただし、カソードにも還元性ガスが供給されるとカソードが分解する恐れがあるために、カソードにはきちんと空気などの酸化剤ガスを供給し、また、アノードに供給する水素などの還元性ガスがカソード側まで回り込まないようにシールを行っておくことも必要である。
【0014】
図4?5は、平板型SOFCスタックを例に、従来法によるアノード還元法を説明する図である。図4はそのための装置構成の概略である。NiOを高温状態で化学的に還元するために、SOFCスタックを電気炉内に設置する。そして、アノード側流路に還元性ガスを流し、カソード側流路に空気などの酸化剤ガスを流しながら昇温し、600℃程度以上の温度で還元処理を行う。なお、還元性ガス及び酸化剤ガスは、それぞれ、供給管から、分配機構を介して各セルのアノード側及びカソード側に供給されるが、図示は省略している。この点、後述図6についても、還元性ガスがパージガスとなる点を除き、同じである。

【0016】
しかし、NiOの還元反応速度は決して高くない。このため、NiOの還元を完全に完了させるためには、多量の還元性ガスを投入する必要がある。その一方で、一度に多量の還元性ガスを投じると、上記のとおり、そのオフガスの処理が大変となる。例えば、アノード側からのオフガスを空気と混合させて燃焼させる場合、大量のオフガスがあると、燃焼温度が上昇し過ぎるなどの問題が発生する。
【0017】
しかも、アノードをその厚さ方向に見た場合、最初に還元されるのは燃料流路に近い部分であり、電解質とアノードの界面部分が最も遅く還元されることになる。」

イ 上記1ア、1イによれば、従来の固体酸化物形燃料電池(SOFC)の製造方法が記載されており、具体的には、アノード原料である、酸化ニッケル(NiO)粉末、YSZ粉末、グラファイト粉末を混合し、造粒し、プレス成形することによってグリーン基板を作製し、そのグリーン基板上に電解質材料を塗布、成膜し、共焼結する。そして、その共焼結体のうち電解質の膜面上にカソード材料を塗布、焼成することによって、アノード/電解質(固体酸化物電解質)/カソードの三層ユニットからなるSOFCセルを作製する。ここで、上記三層ユニットのアノードに注目すると、原料の酸化ニッケル(NiO)はそのまま酸化状態にあるので、アノードとして機能させるためには、酸化ニッケル(NiO)をニッケル(Ni)に還元する必要がある。

ウ 上記1ウによれば、上記イに記載した、アノードの酸化ニッケル(NiO)をニッケル(Ni)に還元するための具体的な方法とは、この還元反応はある程度高温にならないと起こらないことを考慮して、作製したSOFCセルを、600℃程度以上の温度に昇温し、その状態で水素を供給して還元を行うことである。

エ 上記イ、ウの検討によれば、甲1には、還元処理を行った後の固体酸化物形燃料電池(SOFC)セルのアノードに注目すると、次の固体酸化物形燃料電池セルのアノードが記載されているものと認められる(以下「甲1発明」という。)。

「アノード/固体酸化物電解質/カソードの三層ユニットからなるSOFCセルのアノードであって、
アノード原料のNiO粉末は、上記三層ユニットからなるSOFCセルの作製後に、600℃以上の温度に昇温し、その状態で水素を供給して還元を行うことによりNiに還元されている、SOFC用アノード。」

(2)甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「[0002] 燃料電池は、燃料と酸化剤を電気的に接続された2つの電極に供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。火力発電とは異なり、燃料電池はカルノーサイクルの制約を受けないので、高いエネルギー変換効率を示す。燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。」
「[0035] …パラジウム微粒子の様な面心立方金属粒子の場合、一般的には図5に示すような切頭八面体形をとることが知られている。図5中の切頭八面体形100は、Pd{111}面1、Pd{100}面2及びPd{110}面3によって囲まれている。…」
「[0037] …まず、粒径が4?6nmと比較的大きい場合は、配位数9のPd{111}面が最も広い。これは、Pd{111}面が最も安定であることによる。なお、第一原理計算から得られた界面エネルギーは、Pd{111}面が1656ergs/cm^(2)、Pd{100}面が2131ergs/cm^(2)、Pd{110}面が2167ergs/cm^(2)である。…」
「[0041] コア部としては、結晶系が立方晶系であり、a=3.60?4.08Åの格子定数を有する金属結晶を含むコア部を採用することができる。このような金属結晶を形成する材料の例としては、パラジウム、銅、ニッケル、ロジウム、銀、金及びイリジウム並びにこれらの合金等の金属材料を挙げることができ、この中でも、パラジウムをコア金属材料として用いることが好ましい。…」
「[0043] 本発明のコアシェル型金属ナノ微粒子は、担体に担持されていてもよい。特に、当該コアシェル型金属ナノ微粒子を燃料電池の触媒層に使用する場合には、触媒層に導電性を付与するという観点から、担体が導電性材料であることが好ましい。…」

(3)甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。



」(第87頁上部(アブストラクト))
(囲み部の当審訳:Ni(100)と、とりわけNi(110)は最も活性な構造であり、多結晶ニッケルよりも5?6倍活性が高い。後者の振る舞いは、特に、ニッケルの溶解が生じるような低いpHにおいて、Ni(111)の振る舞いに近い。)




」(第87頁左欄12?16行)
(囲み部の当審訳:水素-酸素型の燃料電池は、30年以上、宇宙で利用する際の便利な動力源として考えられてきた。そして、燃料として水素を使用する燃料電池は、十分に研究されてきた。)



」(第96頁右欄21?24行)
(囲み部の当審訳:結果として、Ni(110)上の水素の酸化は、他の二つの結晶面上と比べて、特にNi(111)上と比べて、より低い電位で始まり、より可逆性が高くなるであろう。)

(4)甲4に記載された事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
「仮に,上の単位格子が立方晶だとすると(100),(010),(001)は等価な面です.立方体はa,b,cどの軸でも90度回せばもとにもどりますから,(100)の図をc軸の回りに90度回せば(010)の図になります.(010)の図をa軸の回りに90度回せば(001)の図になります.図にはありませんが(100)と等価な面はさらに3つあります.中括弧を使ってこれらをまとめて表すと
{100}=(100),(-100),(010),(0-10),(001),(00-1)
というふうになります.上の例では(立方晶だとして)他にも等価な面群が2セットありますね.」(第5頁1?6行)

(5)甲5に記載された事項
ア 甲5には、以下の事項が記載されている。
5ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、空気極を備える固体酸化物型燃料電池に関する。」

5イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、焼成によって空気極を形成した場合に、焼成後の空気極が剥離しやすいという問題がある。
【0006】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、空気極の剥離を抑制可能な固体酸化物型燃料電池を提供することを目的とする。」

5ウ 「【実施例】
【0056】
以下において本発明に係るセルの実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
[サンプルNo.1,11,15,23の作製]
以下のようにして、サンプルNo.1,11,15,23を作製した。
【0057】
まず、燃料極、固体電解質層及びバリア層の共焼成体を準備した。
【0058】
次に、表1に示す活性層材料のスラリーをバリア層上に塗布することによって、空気極活性層の成形体を形成した。このスラリーに用いた活性層材料粉末の平均粒径は0.2?0.5μmであり、最大粒径は1.0?1.5μmであった。また、スラリーの塗布回数を変更することによって、表1に記載するように空気極活性層の厚みを調整した。
【0059】
次に、表1に示す集電層材料のスラリーを空気極活性層の成形体上に塗布することによって、空気極集電層の成形体を形成した。【0060】
次に、空気極活性層及び空気極集電層それぞれの成形体の積層体を950?1000℃で1?20時間焼成することによって空気極を作製した。この際、昇温速度を100℃/hrとし、降温速度を100℃/hrとした。」

5エ 「【0078】
[焼成後の剥離の有無]
焼成後のサンプルNo.1?No.45の断面を顕微鏡で観察することによって、バリア層と空気極の界面における剥離の有無を確認した。確認結果を表1及び表2にまとめて示す。
表1及び表2では、空気極特性に影響を与えうる5μm以上の剥離が確認されたサンプルを“×”と評価し、5μm以下の剥離だけが確認されたサンプルを“○”と評価し、剥離が確認されなかったサンプルを“◎”と評価した。
【0079】
[熱サイクル試験後の剥離の有無]
焼成後に剥離が確認されなかったサンプルについて、還元雰囲気を維持した状態で、常温から800℃まで30分で昇温し、その後1時間で常温まで降させるサイクルを10回繰り返した。」

(6)甲6に記載された事項
ア 甲6には、以下の事項が記載されている。
6ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、空気極を備える固体酸化物型燃料電池に関する。」

6イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、焼成によって空気極を形成した場合に、焼成後の空気極が剥離しやすいという問題がある。
【0006】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、空気極の剥離を抑制可能な固体酸化物型燃料電池を提供することを目的とする。」

6ウ 「【実施例】
【0054】
以下において本発明に係るセルの実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0055】
[サンプルNo.1,11,15,23の作製]
以下のようにして、サンプルNo.1,11,15,23を作製した。
【0056】
まず、燃料極、固体電解質層及びバリア層の共焼成体を準備した。
【0057】
次に、表1に示す活性層材料のスラリーをバリア層上に塗布することによって、空気極活性層の成形体を形成した。このスラリーに用いた粉末の平均粒径は0.2?0.5μmであり、最大粒径は1.0?1.5μmであった。また、スラリーの塗布回数を変更することによって、表1に記載するように空気極活性層の厚みを調整した。
【0058】
次に、表1に示す集電層材料のスラリーを空気極活性層の成形体上に塗布することによって、空気極集電層の成形体を形成した。
【0059】
次に、空気極活性層及び空気極集電層それぞれの成形体の積層体を950?1000℃で1?20時間焼成することによって空気極を作製した。この際、昇温速度を100℃/hrとし、降温速度を100℃/hrとした。」

6エ 「【0068】
[焼成後の剥離の有無]
焼成後のサンプルNo.1?No.25の断面を顕微鏡で観察することによって、バリア層と空気極の界面における剥離の有無を確認した。確認結果を表1にまとめて示す。
表1では、空気極特性に影響を与えうる5μm以上の剥離が確認されたサンプルを“×”と評価し、5μm以下の剥離だけが確認されたサンプルを“○”と評価し、剥離が確認されなかったサンプルを“◎”と評価した。
【0069】
[熱サイクル試験後の剥離の有無]
焼成後に剥離が確認されなかったサンプルについて、還元雰囲気を維持した状態で、常温から800℃まで30分で昇温し、その後1時間で常温まで降させるサイクルを10回繰り返した。」

(7)甲7に記載された事項
ア 甲7には、以下の事項が記載されている。
7ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、空気極を備える固体酸化物型燃料電池に関する。」

7イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、焼成によって空気極を形成した場合に、焼成後の空気極が剥離しやすいという問題がある。
【0006】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、空気極の剥離を抑制可能な固体酸化物型燃料電池を提供することを目的とする。」

7ウ 「【実施例】
【0055】
以下において本発明に係るセルの実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0056】
[サンプルNo.1,11,15,23の作製]
以下のようにして、サンプルNo.1,11,15,23を作製した。
【0057】
まず、燃料極、固体電解質層及びバリア層の共焼成体を準備した。
【0058】
次に、表1に示す活性層材料のスラリーをバリア層上に塗布することによって、空気極活性層の成形体を形成した。このスラリーに用いた粉末の平均粒径は0.2?0.5μmであり、最大粒径は1.0?1.5μmであった。また、スラリーの塗布回数を変更することによって、表1に記載するように空気極活性層の厚みを調整した。
【0059】
次に、表1に示す集電層材料のスラリーを空気極活性層の成形体上に塗布することによって、空気極集電層の成形体を形成した。
【0060】
次に、空気極活性層及び空気極集電層それぞれの成形体の積層体を950?1000℃で1?20時間焼成することによって空気極を作製した。この際、昇温速度を100℃/hrとし、降温速度を100℃/hrとした。」

7エ 「【0069】
[焼成後の剥離の有無]
焼成後のサンプルNo.1?No.25の断面を顕微鏡で観察することによって、バリア層と空気極の界面における剥離の有無を確認した。確認結果を表1にまとめて示す。
表1では、空気極特性に影響を与えうる5μm以上の剥離が確認されたサンプルを“×”と評価し、5μm以下の剥離だけが確認されたサンプルを“○”と評価し、剥離が確認されなかったサンプルを“◎”と評価した。
【0070】
[熱サイクル試験後の剥離の有無]
焼成後に剥離が確認されなかったサンプルについて、還元雰囲気を維持した状態で、常温から800℃まで30分で昇温し、その後1時間で常温まで降させるサイクルを10回繰り返した。」

(2)本件発明1と甲1発明の対比
ア 甲1発明の「SOFCセル」は、「アノード/固体酸化物電解質/カソードの三層ユニット」中に「固体酸化物電解質」を有するものであるから、本件発明1の「固体電解質層(41)を有する燃料電池単セル(4)」に相当する。

イ 甲1発明の「アノード原料のNiO粉末」が「SOFCセルの作製後に、600℃以上の温度に昇温し、その状態で水素を供給して還元」された「Ni」は、「NiO粉末」が焼結され多孔質構造(【0008】)になったものが還元されたものであって、焼結の過程において原料時の粒子形状がある程度維持されているものと考えられるから、本件発明の「Ni結晶粒子(2)」とは、「Ni粒子」である点で共通している。

ウ 甲1発明の「SOFC用アノード」は、本件発明1の「燃料電池用アノード(1)」に相当する。

エ そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「固体電解質層を有する燃料電池単セルに用いられ、
Ni粒子を有する、燃料電池用アノード。」の点。

<相違点1>
「Ni粒子」が、本件発明1では、「(11-1)面(20a)と(110)面(20b)とを結晶面(20)に含むNi結晶粒子(2)」であると特定されているのに対して、甲1発明では、「Ni粒子」が結晶粒子であるか不明であり、仮に結晶粒子であるとしてどのような結晶状態を有するものであるか不明である点。

(3) 相違点1についての判断
ア 本件特許明細書には、燃料電池用アノードの製造方法について次の記載がある(下線は当審が付した。以下同様。)。
「【0023】
上記燃料電池用アノード1は、例えば、以下のようにして製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0024】
金属ニッケル粒子または酸化ニッケル粒子を含むアノード材料を、還元雰囲気下にて、昇温速度20?100℃/分で常温から500℃?900℃まで加熱した後、常温まで降温することにより、上記燃料電池用アノード1に適用されるNi結晶粒子2を得ることができる。この際、昇温速度を変化させることにより、結晶面20に含まれる(11-1)面20aおよび(110)面20bの面積割合を変化させることができる。例えば、昇温速度20?50℃/分の範囲で徐々に昇温し、低温域を長く保持することにより、結晶面20に含まれる(11-1)面20aの成長が優勢となるように結晶面20を制御することができる。また、例えば、昇温速度100?200℃/分の範囲で急速に昇温することにより、結晶面20に含まれる(11-1)面20aの成長を抑制し、(110)面20bが優勢となるように結晶面20を制御することができる。」
また、実験例について次の記載がある。
「【0042】
(実験例)
NiO粉末(平均粒子径:0.8μm)を、水素還元雰囲気にて、表1に示される昇温速度で所定温度まで加熱し、当該温度で保持することなく室温まで徐冷することにより、各試料のNi結晶粒子を得た。
【0043】
【表1】



イ 上記アの記載によれば、本件発明の燃料電池用アノードを製造するために、「酸化ニッケル粒子を含むアノード材料を、還元雰囲気下にて、昇温速度20?100℃/分で常温から500℃?900℃まで加熱し、当該加熱した温度で保持することなく室温まで徐冷する工程」(以下「還元加熱工程」という。)を行うものであるが、当該還元加熱工程が、(i)酸化ニッケルを含むアノード原料からアノードを形成するための焼成工程について説明したものであるのか、(ii)燃料電池単セルを製造した後にアノードに含まれる酸化ニッケル粒子をニッケル粒子に還元する後処理工程について説明したものであるか、(iii)それ以外であるのか、判然としない。

ウ 上記イの点に関して、当審から特許権者に審尋(第4の1.参照)を通知したところ、その回答書によって、上記還元加熱工程は、上記(ii)で示される、燃料電池単セルを製造した後にアノードに含まれる酸化ニッケル粒子をニッケル粒子に還元する後処理工程に該当するものであることが明らかになった。
そこで、上記還元加熱工程が、上記(ii)の燃料電池単セルを製造した後のアノード中の酸化ニッケル粒子の還元工程であることを踏まえて、上記相違点1について検討する。

エ まず、甲1の記載を参照する。甲1の上記1ウの段落【0013】に記載されているように、甲1に記載された従来のアノード還元法における還元反応は、ある程度高温にならないと起こらないので、作製したSOFCセルを600℃程度以上の温度に昇温し、その状態で水素を供給して還元を行うものである。したがって、当該記載によれば、上記還元を行う工程において、上記600℃程度以上の温度までの昇温速度は記載されておらず不明であるし、当該昇温時には温度が低いため水素がNiOとは反応しないので、水素が供給されずに大気雰囲気中で昇温しているものと解される。
また、同段落【0016】?【0017】には、NiOの還元反応速度は決して高くなく、アノードの厚さ方向で還元速度に差があることが記載されていることから、上記600℃程度以上の所定温度で水素が供給される状態が、還元反応が終了するまで一定の時間保持されているものと解される。

オ したがって、甲1においてSOFCセルのアノードの還元工程は、大気中で昇温され、昇温速度が不明であり、600℃程度以上の所定温度で水素が供給される状態が還元反応が終了するまで一定時間保持されるのに対して、本件発明の燃料電池用アノードを製造するための還元加熱工程は、還元雰囲気中で、昇温速度20?100℃/分で常温から500℃?900℃まで加熱し、当該加熱温度で保持することなく室温まで徐冷する工程であるから、両者の工程は、昇温速度、昇温環境、加熱保持時間のいずれの点においても相違しているので、甲1において作製されたアノード中の「Ni粒子」が、本件発明1の「Ni粒子」と同様の、「(11-1)面(20a)と(110)面(20b)とを結晶面(20)に含むNi結晶粒子(2)」となっているとはいえない。
よって、相違点1は実質的な相違点である。

カ なお、甲1の上記1ウの段落【0014】には、還元工程について、「アノード側流路に還元性ガスを流し、カソード側流路に空気などの酸化剤ガスを流しながら昇温し、600℃程度以上の温度で還元処理を行う。」とも記載されており、昇温時にも還元性ガスを流していると解釈できる記載があるので、昇温環境については相違点ではないと解する余地があるが、そのように解したとしても、昇温速度が記載されておらず、一定の加熱保持時間が設定されていることについては同様であり、甲1の還元工程は、少なくとも、昇温時間及び加熱保持時間の点で、上記還元加熱工程と相違しており、アノードのNi粒子の結晶状態が本件発明と同一であるとはいえないから、この場合においても、相違点1は実質的な相違点である。

キ そこで、上記相違点1について甲1?甲7を参照して検討するに、当該甲号証のいずれにおいても、アノードに含まれる「Ni粒子」を「(11-1)面(20a)と(110)面(20b)とを結晶面(20)に含むNi結晶粒子(2)」とすることを明示的に記載しているものはないし、アノードに含まれる酸化ニッケルの還元を行う条件として、「還元雰囲気下で、昇温速度20?100℃/分で常温から500℃?900℃まで加熱し、当該加熱した温度で保持することなく室温まで徐冷する」ことについても記載されていないから、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易になし得ることであるということはできない。

ク なお、甲5?甲7には、同一特許権者(日本碍子株式会社)による一連の発明が記載されており、甲5の上記5エの段落【0079】、甲6の上記6エの段落【0069】、甲7の上記7エの段落【0070】には、いずれにも「還元雰囲気を維持した状態で、常温から800℃まで30分で昇温し、その後1時間で常温まで降させるサイクルを10回繰り返」す工程について記載されているところ、当該工程の昇温速度は、800℃/30分≒26.6℃/分であるから、上記還元加熱工程における昇温速度の条件を満たしているものではある。
しかしながら、上記工程は、焼成後の固体酸化物型燃料電池セルについて、バリア層と空気層の界面における剥離の有無を確認する試験として行われる、熱サイクルの加熱条件を規定するものであって、固体酸化物型燃料電池セルのアノードに含まれる酸化ニッケル粒子をニッケル粒子に還元する後処理工程について記載したものではないから、甲5?甲7の上記記載は、甲1発明のアノードを製造するための酸化ニッケルの還元工程における昇温速度についての知見を与えるものではない。

ケ したがって、甲1発明において、アノードに含まれるNi粒子の結晶状態について、相違点1に係る本件発明の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

コ 以上のとおり、本件発明1は甲1発明と相違点1において相違しているから、本件発明1は甲1に記載された発明ではなく、また、甲1発明において、甲1?甲7の記載に基いて、相違点1に係る本件発明1の特定事項を備えたものとすることが、当業者にとって容易になし得ることであるということもできない。
また、本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備えている本件発明2、7?9は、甲1発明と少なくとも相違点1において相違しているから、本件発明2、7?9も甲1に記載された発明ではない。
また、本件発明1を引用することによって、相違点1に係る本件発明1の特定事項を備えている本件発明2?9についても、甲1発明において、甲1?甲7の記載に基いて、相違点1に係る本件発明1の特定事項を備えたものとすることが、当業者にとって容易になし得ることであるということはできない。

3.取消理由として採用しなかった申立理由3(サポート要件)についての判断

(1)申立人の主張
申立人は次の主張をしている。
ア 本件発明3の「上記(11-1)面に対応する表面線の長さL_(11-1)は、上記輪郭部に表れた上記(110)面に対応する表面線の長さL_(110)以上である」との特定事項(この特定事項を「表面線長さL_(11-1)≧表面線長さL_(110)」という。)について、本件特許明細書の段落【0022】によれば、「表面線長さL_(11-1)」と「表面線長さL_(110)」は、それぞれ、3つのサンプルの表面線長さ(「l_(11-1)」と「l_(110)」)の測定値の平均値である。

イ そのため、本件発明3は、次の二つの形態を含んでいる。
<形態3-1>3つのサンプルの全てについて「表面線長さl_(11-1)≧表面線長さl_(110)」の関係が成立しており、その結果、それらの平均についても「表面線長さL_(11-1)≧表面線長さL_(110)」の関係が成立している形態。
<形態3-2>3つのサンプルのうち、少なくとも1つについて「表面線長さl_(11-1)≧表面線長さl_(110)」の関係が成立していないが、それらの平均をとると「表面線長さL_(11-1)≧表面線長さL_(110)」の関係が成立している形態。

ウ ここで、上記形態3-2について検討すると、あるNi結晶粒子では「表面線長さl_(11-1)≧表面線長さl_(110)」の関係が成立しているが、他のNi結晶粒子では「表面線長さl_(11-1)≧表面線長さl_(110)」の関係が成立していないため、当該関係が成立していないNi結晶粒子については、「Ni結晶粒子2の形態変化の抑制効果が大きく」なる(段落【0017】)という効果は得られず、そのため、形態3-2においても上記効果が得られるとは、到底理解できない。

エ したがって、本件発明3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を越えるものであるため、サポート要件を満たさない。

オ 本件発明4?6についても、「表面線長さL_(11-1)」と「表面線長さL_(110)」の大きさの関係を規定しており、これらの表面線長さはやはり3つのサンプルの平均値であるから、本件発明3と同様の理由で、本願発明の効果が得られるとはいえない。
したがって、本件発明4?6についても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を越えるものであるため、サポート要件を満たさない。

(2)当審の判断
ア 一つのNi結晶粒子において、「表面線長さl_(11-1)≧表面線長さl_(110)」の関係が成立している場合には、本件特許明細書の段落【0017】の記載によれば、当該Ni結晶粒子の結晶面に占める(11-1)面の面積割合が、(110)面の面積割合以上となるので、Ni結晶粒子の形態変化の抑制効果が大きくなり、燃料電池用アノード1の耐久性を向上させやすくなる。
また、別の一つのNi結晶粒子において、「表面線長さl_(11-1)≧表面線長さl_(110)」の関係が成立してない、すなわち、「表面線長さl_(11-1)<(又は≦)表面線長さl_(110)」の関係が成立している場合には、本件特許明細書の段落【0020】の記載によれば、当該Ni結晶粒子の結晶面に占める(110)面の面積割合が、(11-1)面の面積割合以上となるので、Ni結晶粒子の触媒活性効果が大きくなり、燃料電池用アノードにおける電池反応を促進させやすくなる。

イ つまり、一つのNi結晶粒子において、表面線長さl_(11-1)とl_(110)の大小関係は、(11-1)面と(110)面の面積割合の大小関係に対応しており、「表面線長さl_(11-1)≧表面線長さl_(110)」の関係が成立していれば、(11-1)面の面積割合が(110)面の面積割合以上となるので、(11-1)面の効果が支配的となり、Ni結晶粒子の形態変化の抑制効果が大きくなる。逆に、「表面線長さl_(11-1)<(又は≦)表面線長さl_(110)」の関係が成立していれば、(110)面の面積割合が(11-1)面の面積割合以上となるので、(110)面の効果が支配的となり、Ni結晶粒子の触媒活性効果が大きくなる。

ウ そして、3つのNi結晶粒子のサンプルの場合についても上記イと同様に考えることができ、「表面線長さL_(11-1)≧表面線長さL_(110)」が成立していると、上記3つのNi結晶粒子のサンプル全体における、(11-1)面の面積割合が(110)面の面積割合以上となるので、(11-1)面の効果が支配的になり、Ni結晶粒子の形態変化の抑制効果が大きくなるといえる。逆に、「表面線長さL_(11-1)<(又は≦)表面線長さL_(110)」が成立していると、上記3つのNi結晶粒子のサンプル全体における、(110)面の面積割合が(11-1)面の面積割合以上となるので、(110)面の効果が支配的になり、Ni結晶粒子の触媒活性効果が大きくなるといえる。

エ したがって、上記<形態3-2>のように、「表面線長さl_(11-1)≧表面線長さl_(110)」の関係が成立していないNi結晶粒子があるとしても、3つのNi結晶粒子のサンプルにおいて「表面線長さL_(11-1)≧表面線長さL_(110)」が成立していると、当該3つのNi結晶粒子のサンプル全体における(11-1)面の面積割合が(110)面の面積割合以上となり、(11-1)面の効果が支配的になって、Ni結晶粒子の形態変化の抑制効果が大きくなると考えられる。

オ よって、本件発明3?6は、いずれも、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものである、ということができるので、申立人が主張する上記(1)の理由によって、本件発明3?6を取り消すことはできない。

4.取消理由として採用しなかった申立理由4(実施可能要件)についての判断
(1)実施可能要件の判断基準
本件発明は「燃料電池用アノード」又は「燃料電池単セル」という物の発明である。物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤をすることなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきであるところ、以下、上記観点に立って検討する。(平成26年(行ケ)第10254号のP65、4(1)参照。)

(2)本件発明1について
ア 本件発明1の実施可能要件について検討するにあたり、本件特許明細書における、燃料電池用アノードの製造方法の記載について確認する。本件特許明細書には次の記載がある。
「【0023】
上記燃料電池用アノード1は、例えば、以下のようにして製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0024】
金属ニッケル粒子または酸化ニッケル粒子を含むアノード材料を、還元雰囲気下にて、昇温速度20?100℃/分で常温から500℃?900℃まで加熱した後、常温まで降温することにより、上記燃料電池用アノード1に適用されるNi結晶粒子2を得ることができる。この際、昇温速度を変化させることにより、結晶面20に含まれる(11-1)面20aおよび(110)面20bの面積割合を変化させることができる。例えば、昇温速度20?50℃/分の範囲で徐々に昇温し、低温域を長く保持することにより、結晶面20に含まれる(11-1)面20aの成長が優勢となるように結晶面20を制御することができる。また、例えば、昇温速度100?200℃/分の範囲で急速に昇温することにより、結晶面20に含まれる(11-1)面20aの成長を抑制し、(110)面20bが優勢となるように結晶面20を制御することができる。」
また、実験例について次の記載がある。
「【0042】
(実験例)
NiO粉末(平均粒子径:0.8μm)を、水素還元雰囲気にて、表1に示される昇温速度で所定温度まで加熱し、当該温度で保持することなく室温まで徐冷することにより、各試料のNi結晶粒子を得た。」

イ 上記アの記載によれば、「酸化ニッケル粒子を含むアノード材料を、還元雰囲気下にて、昇温速度20?100℃/分で常温から500℃?900℃まで加熱し、当該温度で保持することなく室温まで徐冷」する工程を行うことによって、本件発明の燃料電池用アノードを製造することができると認められる。

ウ 上記アの段落【0024】には、本件発明の「Ni結晶粒子」を得るための昇温速度について、「昇温速度20?100℃/分で常温から500℃?900℃まで加熱」すると記載がある一方で、「昇温速度100?200℃/分の範囲で急速に昇温することにより、結晶面20に含まれる(11-1)面20aの成長を抑制し、(110)面20bが優勢となるように結晶面20を制御することができる。」とも記載されており、昇温速度の上限値がそれぞれ「100℃/分」と「200℃/分」となっており、不整合な記載である。

エ 昇温速度の上限値に関して上記ウの不整合な記載があることは事実ではあるが、本件特許明細書には、「Ni結晶粒子」を製造した実験例として次の記載がある。

「【0042】
(実験例)
NiO粉末(平均粒子径:0.8μm)を、水素還元雰囲気にて、表1に示される昇温速度で所定温度まで加熱し、当該温度で保持することなく室温まで徐冷することにより、各試料のNi結晶粒子を得た。なお、上記平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定した体積基準の累積度数分布が50%を示すときの粒子径(直径)d50である。次いで、透過型電子顕微鏡を用い、各Ni結晶粒子の結晶面を特定した。その結果を表1に示す。また、図9に、試料1?試料6の代表として試料2のTEM像(図9(a))と回折像(図9(b))を示す。
【0043】
【表1】



【0044】
表1に示されるように、還元条件を変化させることにより、(11-1)面と(110)面とを結晶面に含むNi結晶粒子が得られることが確認された。また、図10に示されるように、試料3について上述した測定方法によりL_(11-1)、L_(110)を測定した。その結果L_(11-1)は0.207nm、L_(110)は0.146nm、L_(11-1)/L_(110)は1.418であった。」

オ 上記エの下線部の記載によれば、酸化ニッケル粉末を、還元雰囲気下にて、表1に示されるように、昇温速度20℃/分又は100℃/分で、常温から500℃、700℃、900℃のいずれかまで加熱し、当該温度で保持することなく室温まで徐冷する加熱工程を採用することにより、試料1?6のNi結晶粒子を得ることができ、これらのNi結晶粒子はいずれも表1に示されているように、「(11-1)面と(110)面とを結晶面に含むNi結晶粒子」であることが確認されたものである。
そして、上記昇温速度20℃/分と昇温速度100℃/分は、いずれも、上記アの段落【0024】に記載された、「Ni結晶粒子」を得るための「昇温速度20?100℃/分で常温から500℃?900℃まで加熱」するとの昇温条件を満たしており、また、それぞれ、(11-1)面20aの成長が優勢となるための「昇温速度20?50℃/分の範囲で徐々に昇温」するとの昇温条件と、(11-1)面20aの成長を抑制し、(110)面20bが優勢となるための「昇温速度100?200℃/分の範囲で急速に昇温する」との昇温条件も満たしている。

カ したがって、本件発明1は、上記ウの不整合な記載にもかかわらず、当業者が、発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤をすることなく、その物を製造することができたものであるといえるから、本件発明1は実施可能要件に適合する。

(3)本件発明2、8について
ア 本件発明2、8については、本件特許明細書の段落【0025】?【0031】に実施形態2として説明されており、特にその製造方法については次のように記載されている。

「【0030】
固体電解質粒子3を構成する固体電解質としては、具体的には、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等の酸化ジルコニウム系酸化物を好適に用いることができる。固体電解質としては、イオン伝導度、機械的安定性、他の材料との両立、燃料ガス雰囲気での化学的な安定性等の観点から、イットリア安定化ジルコニアが好適である。
【0031】
Ni結晶粒子2の(110)面に20b優先的に固体電解質粒子3を接触させる方法としては、例えば、以下の方法などを例示することができる。Ni結晶粒子2の(110)面20bにアミノ基やカルボキシル基を有する化合物を付着させておく。(110)面は活性であるため、アミノ基やカルボキシル基を有する化合物は、優先的に(110)面に付着することになる。その後、アミノ基やカルボキシル基と相性の良い水酸基を有する固体電解質粒子3を近づけることで、両者が引き合い、結果としてNi結晶粒子2の(110)面20bに固体電解質粒子3を優先的に接触させることが可能となる。」

イ 上記アの記載によれば、アノード中に固体電解質粒子を有するものとするためには、アノード原料中にYSZ等の粉末を加えればよく、さらに、Ni粒子の(110)面に固体電解質粒子を優先的に接触させる方法も段落【0031】に記載されている。

ウ したがって、本件発明2、8は、当業者が、発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤をすることなく、その物を製造することができたものであるといえるから、本件発明2、8は実施可能要件に適合する。

(3)本件発明3、4について
ア 本件特許明細書の段落【0044】に記載された試料3は、昇温速度20℃/分で、常温から700℃まで加熱し、当該温度で保持することなく室温まで徐冷する加熱工程を採用することにより得られたNi結晶粒子であり、そのL_(11-1)、L_(110)を測定すると、L_(11-1)は0.207nm、L_(110)は0.146nm、L_(11-1)/L_(110)は1.418であるものである。

イ したがって、試料3のNi結晶粒子は、本件発明3の「[11-2]方位から見たNi結晶粒子の輪郭部に表れた上記(11-1)面に対応する表面線の長さL_(11-1)は、上記輪郭部に表れた上記(110)面に対応する表面線の長さL_(110)以上である」との特定事項と、本件発明4の「L_(11-1)/上記L_(110)の比が、2/1?1/1の範囲にある」との特定事項のいずれにも該当するものであるから、本件発明3と本件発明4の燃料電池用アノードは、上記アの加熱工程を採用することにより製造することができるといえる。

ウ したがって、本件発明3、4は、当業者が、発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤をすることなく、その物を製造することができたものであるといえるから、本件発明3、4は実施可能要件に適合する。

(4)本件発明5、6について
ア 本件特許明細書の段落【0043】の表1に記載された試料2、4、6は、昇温速度100℃/分で、それぞれ、常温から500℃、700℃、900℃まで加熱し、当該温度で保持することなく室温まで徐冷する加熱工程を採用することにより得られたNi結晶粒子であり、少なくとも、(11-1)面と(110)面含むNi結晶粒子であるとはいえるが、L_(11-1)、L_(110)を測定していないために、本件発明5の「[11-2]方位から見たNi結晶粒子の輪郭部に表れた上記(110)面に対応する表面線の長さL_(110)は、上記輪郭部に表れた上記(11-1)面に対応する表面線の長さL_(11-1)以上である」との特定事項と、本件発明6の「L_(110)/上記L_(11-1)の比が、2/1?1/1の範囲にある」との特定事項に該当するものであるかは、上記表1の記載のみからは判然としない。

イ しかしながら、本件特許明細書の段落【0024】には、「昇温速度20?50℃/分の範囲で徐々に昇温し、低温域を長く保持することにより、結晶面20に含まれる(11-1)面20aの成長が優勢となるように結晶面20を制御することができる。また、例えば、昇温速度100?200℃/分の範囲で急速に昇温することにより、結晶面20に含まれる(11-1)面20aの成長を抑制し、(110)面20bが優勢となるように結晶面20を制御することができる。」と記載されており、昇温速度を20?50℃/分の範囲で徐々に昇温すると(11-1)面が優勢となり、昇温速度を100?200℃/分の範囲で急速に昇温すると(110)面が優勢になることが示されている上に、上記(3)で検討したように20℃/分で徐々に昇温する場合には(11-1)面が優勢となることが実際に実験で示されていることからすると、上記段落【0024】の記載は、昇温速度の上限値に不整合な記載がある点を除けば、充分信頼に足るものであり、100℃/分で急速に昇温する場合には、実験結果が示されていないとしても、実際に100℃/分で急速に昇温すると、(110)面が優勢であるSi結晶粒子が得られる蓋然性が高いと判断される。
また、申立人は、100℃/分で急速に昇温する場合に(110)面が優勢であるSi結晶粒子が得られないとする、実験結果もしくは理論的な根拠を示していない。

ウ したがって、本件発明5、6は、当業者が、発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤をすることなく、その物を製造することができたものであるといえるから、本件発明5、6は実施可能要件に適合する。

(5)本件発明7について
ア 本件発明7については、本件特許明細書の段落【0032】?【0035】に実施形態3として説明されており、特にその製造方法については次のように記載されている。

「【0035】
なお、本例では、Ni結晶粒子2の(110)面20bにアミノ基やカルボキシル基を有する化合物を付着させておく。これにより(110)面20bが守られ、その他の結晶面20でNi結晶粒子2同士が接することになる。この際、(11-1)面20aはすでに安定化されているため、Ni結晶粒子2と接触することはできるものの、強く引き合うことはない。結果として、(11-1)面20aおよび(110)面20b以外の結晶面20でNi結晶粒子2同士を連結させることが可能となる。その他の作用効果は、実施形態1、2と同様である。」

イ 上記アの記載によれば、(11-1)面および(110)面以外の結晶面でNi結晶粒子同士が連結しているものとするためには、Ni結晶粒子の(110)面に、アミノ基やカルボキシル基を有する化合物を付着させておくという方法が記載されている。

ウ したがって、本件発明7は、当業者が、発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤をすることなく、その物を製造することができたものであるといえるから、本件発明7は実施可能要件に適合する。

(6)本件発明9について
上記(1)?(2)で検討したように、本件発明1?8の燃料電池用アノードは、実施可能要件に適合するものであるから、そのようなアノードを有する燃料電池単セルも同様に実施可能であるといえる。

第5 まとめ
以上のとおり、請求項1?9に係る本件特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由のいずれによっても、取り消すことはできない。
また、他に請求項1?9に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-09-28 
出願番号 特願2015-254005(P2015-254005)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 井上 猛
池渕 立
登録日 2019-06-21 
登録番号 特許第6540502号(P6540502)
権利者 株式会社デンソー
発明の名称 燃料電池用アノードおよび燃料電池単セル  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ