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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
管理番号 1366994
異議申立番号 異議2020-700362  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-26 
確定日 2020-10-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6612038号発明「複合体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6612038号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6612038号(請求項の数4。以下、「本件特許」という。)は、平成27年2月23日を出願日とする出願であって、令和1年11月8日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和1年11月27日である。)。
その後、令和2年5月26日に、本件特許の請求項1?4に係る特許に対して、特許異議申立人である増子尚道(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 特許請求の範囲の記載
特許第6612038号の特許請求の範囲の記載は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?4に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1?4に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)

「【請求項1】
アニオン変性セルロースナノファイバーとエチレン性不飽和単量体からなる重合体または共重合体を含有する複合体の製造方法であって、該アニオン変性セルロースナノファイバー分散液中でエチレン性不飽和単量体を乳化重合法で重合または共重合させること、及び、アニオン変性セルロースナノファイバーの配合量がエチレン性不飽和単量体100重量部に対し、乾燥重量分で5?60重量部であることを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項2】 前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、アニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾重量に対して、カルボキシル基の量が0.6mmol/g?2.0mmol/gである酸化セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項3】 前記アニオン変性セルロースナノファイバーが、アニオン変性セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01?0.50であるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項4】 前記エチレン性不飽和単量体が、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、アクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種以上が用いられることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の複合体の製造方法。」

第3 申立理由の概要及び証拠方法
申立人がした申立ての理由の概要は、以下に示すとおりである。
1 申立理由の概要
(1)申立理由1
本件発明1?4は、本件出願日前に頒布された以下の刊行物である甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第7号証の1に記載された技術事項に基づいて、甲第6号証の1に記載された発明及び甲第1号証?甲第5号証に記載された技術事項に基づいて、又は、甲第8号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第7号証の1に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?4の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

(2)申立理由2
本件の特許請求の範囲の請求項1、2及び4の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1?4の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(3)申立理由3
本件明細書の発明の詳細な説明は、下記の点で、当業者が本件発明1、2及び4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1?4の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

ア 特許請求の範囲の請求項1には、「アニオン変性セルロースナノファイバー」と記載されている。ここで、アニオン性基としては、カルボキシル基、カルボキシアルキル基、リン酸基、スルホン酸基があるといえるところ、本件明細書において本件発明の課題である「セルロースナノファイバーがゴムや樹脂中に均一に分散し、高い強度を発現するセルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体または共重合体との複合体の製造方法を提供すること」が解決できると認識できるものは、アニオン性基としてカルボキシル基とカルボキシメチル基のみであり、エステル化によりリン酸基が導入されたアニオン性セルロールナノファイバーについては、課題を解決できると認識できない。本件発明4についても同様である。
また、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1及び4を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

イ 特許請求の範囲の請求項2には、「アニオン変性セルロースナノファイバーが、アニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾重量に対して、カルボキシル基の量が0.6mmol/g?2.0mmol/gである酸化セルロースナノファイバーであること」と記載されている。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明のうち実施例1?4には、カルボキシル基の量の記載はないから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、本件発明2が課題を解決できると認識できるとはいえない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明2を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

2 証拠方法
甲第1号証:特開2014-105217号公報
甲第2号証:特開2008-1728号公報
甲第3号証:磯貝明著、TEMPO酸化セルロースシングルナノファイバー複合材料、日本ゴム協会紙、第85巻 第12号、2012年発行、第388?393頁
甲第4号証:国際公開第2013/047218号
甲第5号証:特開2011-57749号公報
甲第6号証の1:Irina Kalashnikova 外4名著、Cellulosic nanorods of various aspect ratios for oil in water Pickering emulsions、Soft Matter、RSC Publishing、9、2013年発行、第952?959頁
甲第6号証の2:甲第6号証の1の部分翻訳文
甲第7号証の1:Hongxia Liu 外5名著、Study of Pickering emulsion stabilized by sulfonated cellulose nanowhiskers extracted from sisal fiber、Colloid Polym Sci、293、2015年発行、第963?974頁
甲第7号証の2:甲第7号証の1の部分翻訳文
甲第8号証:特開2009-67817号公報
以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。

第4 特許異議申立ての理由についての当審の判断
1 申立理由1について
(1)各甲号証の記載
ア 甲1
甲1には以下の事項が記載されている。
(1a)「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項3】
重合性化合物とセルロースナノファイバーとを溶媒に分散させた分散液中で、前記重合性化合物を重合させることにより、複合樹脂組成物を得る、複合樹脂組成物の製造方法。」

(1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のセルロースナノファイバーと樹脂とを複合化させた複合樹脂組成物では、セルロースナノファイバーの樹脂中での分散性が低いことがある。また、疎水性が比較的高い樹脂を用いた場合には、セルロースナノファイバーの樹脂中での分散性が特に低くなりやすい。
・・・
【0008】
本発明の目的は、セルロースナノファイバーの樹脂中での分散性を高めることができる複合樹脂組成物及び複合樹脂組成物の製造方法を提供することである。」

(1c)「【発明の効果】
【0013】
・・・
【0014】
本発明に係る複合樹脂組成物の製造方法は、重合性化合物とセルロースナノファイバーとを溶媒に分散させた分散液中で、上記重合性化合物を重合させるので、得られる複合樹脂組成物において、セルロースナノファイバーの樹脂中での分散性を高めることができる。」

(1d)「【0017】
本発明に係る複合樹脂組成物及び本発明に係る複合樹脂組成物の製造方法では、上述した構成が備えられているので、セルロースナノファイバーの樹脂中での分散性を高めることができる。セルロースナノファイバーの樹脂中での分散性を高めることができる結果、複合樹脂組成物の機械的物性を高めることができる。具体的には、複合樹脂組成物の引張強度を高めることができ、かつ引張伸びを高めることもできる。
【0018】
また、本発明に係る複合樹脂組成物及び本発明に係る複合樹脂組成物の製造方法では、上記重合性化合物の重合物(樹脂)の疎水性が比較的高くても、上記重合性化合物を重合させる際の合一及び分離などの過程で、セルロースナノファイバーが樹脂中に均一に取り込まれる。従って、本発明では、疎水性が比較的高い上記重合性化合物の重合物(樹脂)中であっても、セルロースナノファイバーの分散性を十分に高めることができる。
【0019】
上記重合性化合物としては、重合後に熱可塑性樹脂となる重合性化合物が好適に用いられる。上記重合性化合物の重合物は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。上記重合性化合物の重合物として熱可塑性樹脂を得ることが好ましい。上記熱可塑性樹脂としては特に限定されず、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂及びポリ(メタ)アクリル樹脂等が挙げられる。
【0020】
上記熱可塑性樹脂を得るための上記重合性化合物としては、塩化ビニル、酢酸ビニル及びメタクリル酸メチル等が挙げられる。これら以外の重合性化合物を用いてもよい。上記重合性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0021】
上記セルロースナノファイバーは、ミクロフィブリル状のセルロース繊維であることが好ましい。上記セルロースナノファイバーの平均直径は、1nm以上、1000nm未満であることが好ましい。上記セルロースナノファイバーの平均直径は好ましくは3nm以上、好ましくは400nm以下である。」

(1e)「【0023】
重合性化合物とセルロースナノファイバーとを溶媒に分散させた分散液中で、重合が行われれば、上記重合性化合物の重合方法は特に限定されない。重合方法としては、水懸濁重合法、乳化重合法及び塊状重合法などの公知の重合方法を採用可能である。重合の制御が容易であり、かつ得られる複合樹脂組成物の取り扱い性及び成形性を良好にする観点からは、乳化重合法又は水懸濁重合法が好ましい。上記重合方法は、乳化重合法であることが好ましく、水懸濁重合法であることも好ましい。重合は、ランダム共重合であってもよく、ブロック共重合であってもよく、ランダム共重合とブロック共重合との併用であってもよい。
・・・
【0025】
上記重合性化合物100重量部に対して、上記セルロースナノファイバーの含有量は好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上、好ましくは100重量部以下、より好ましくは50重量部以下、更に好ましくは30重量部以下である。」

(1f)「【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【0039】
(実施例1)
実施例1では、乳化重合法を用いた。
【0040】
ガラス容器に、撹拌翼、窒素ガスフロー管、冷却管及び熱電対を取り付けた。ガラス容器に、重合性化合物100重量部に対して、水(溶媒)700重量部と、含水セルロース(セルロースナノファイバー、ダイセルファインケム社製「セリッシュKY-100G 1%」)100重量部(セルロースナノファイバー1重量部)と、乳化剤(第一工業製薬社製「NF08-20%」)10.8重量部(固形分2.16重量部)と、メタクリル酸メチル(重合性化合物)10重量部と、重合開始剤(ADEKA社製「APS」)0.4重量部とを入れて、撹拌した。また、容器内を窒素雰囲気とした。
【0041】
ウォーターバス中でガラス容器中の配合物を撹拌しながら60℃に昇温した。昇温後に、撹拌しながら配合物を0.5時間重合反応させた。0.5時間の重合反応の後に、メタクリル酸メチル(重合性化合物)90重量部を0.5時間かけて滴下した。滴下後に、撹拌しながら配合物を4時間重合反応させた。重合反応後に、室温(23℃)まで冷却した。冷却後に70℃で3時間乾燥させて、複合樹脂組成物を得た。
【0042】
(比較例1)
含水セルロースを用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0043】
(比較例2)
比較例2では、三菱レイヨン社製PMMA「MD001」とセルロースナノファイバーとを複合化させた。
【0044】
プラスト混練することにより、複合樹脂組成物を得た。
【0045】
(評価)
(1)分散性
得られた複合樹脂組成物において、セルロースナノファイバーの樹脂中での分散性を確認した。この結果、実施例1の複合樹脂組成物では、比較例2の複合樹脂組成物よりも、セルロースナノファイバーの樹脂中での分散性に優れていた。
【0046】
(2)引張強度
JIS 7139に準拠して、引張試験装置(SHIMADZU社製「AG-100kNG」)を用いて、得られた複合樹脂組成物及び樹脂組成物の23℃での引張強度を測定した。具体的な測定条件としては、試験ダンベル7139タイプA2、引張速度50mm/secで測定した。
【0047】
実施例1及び比較例1,2の複合樹脂組成物及び樹脂組成物の23℃での引張強度は以下の値を示した。
【0048】
実施例1:40.2MPa
比較例1:28.2MPa
比較例2:37.8MPa
【0049】
(3)引張伸び
JIS 7139に準拠して、引張試験装置(SHIMADZU社製「AG-100kNG」)を用いて、得られた複合樹脂組成物及び樹脂組成物の23℃での引張伸びを測定した。具体的な測定条件としては、試験ダンベル7139タイプA2、引張速度50mm/secで測定した。
【0050】
実施例1及び比較例1,2の複合樹脂組成物及び樹脂組成物の23℃での引張伸びは以下の値を示した。
【0051】
実施例1:5.1%
比較例1:3.1%
比較例2:2.7%」

イ 甲2
甲2には以下の事項が記載されている。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大繊維径が1000nm以下かつ数平均繊維径が2?150nmのセルロース繊維であって、セルロースの水酸基の一部がカルボキシル基およびアルデヒド基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基に酸化されており、且つセルロースI型結晶構造を有することを特徴とする微細セルロース繊維。
【請求項2】
カルボキシル基とアルデヒド基の量の総和がセルロース繊維の重量に対し、0.1?2.2mmol/gであることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維。
【請求項3】
最大繊維径が500nm以下かつ数平均繊維径が2?100nmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微細セルロース繊維。
【請求項4】
最大繊維径が30nm以下かつ数平均繊維径が2?10nmであることを特徴とする請求項3に記載の微細セルロース繊維。
【請求項5】
カルボキシル基の量がセルロース繊維の重量に対し、0.1?2.2mmol/gであることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載した微細セルロース繊維が媒体中に分散していることを特徴とする微細セルロース繊維の分散体。
【請求項7】
請求項6に記載した微細セルロース繊維の分散体の製造方法であって、天然セルロースを原料とし、水中においてN-オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより該天然セルロースを酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、不純物を除去して水を含浸させた反応物繊維を得る精製工程、および水を含浸させた反応物繊維を溶媒に分散させる分散工程を有することを特徴とする微細セルロース繊維の分散体の製造方法。
【請求項8】
N-オキシル化合物が2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシルであることを特徴とする請求項7に記載の微細セルロース繊維の分散体の製造方法。
【請求項9】
共酸化剤が次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、及び過有機酸からなる群から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項7または8に記載の微細セルロース繊維の分散体の製造方法。
【請求項10】
分散工程が、高速回転下でのホモミキサー処理、高圧ホモジナイザー処理、超高圧ホモジナイザー処理、超音波分散処理、ビーター処理、ディスク型レファイナー処理、コニカル型レファイナー処理、ダブルディスク型レファイナー処理、およびグラインダー処理のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項7?9のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維の分散体の製造方法。
【請求項11】
請求項1?5のいずれか1項に記載した微細セルロース繊維の製造方法であって、請求項7?10のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維の分散体の製造方法に加え、該分散体から溶媒を乾燥する工程を含むことを特徴とする微細セルロース繊維の製造方法。」

(2b)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、数平均繊維径が150nm以下の微細セルロース繊維を提供することを目的とする。また、該セルロース繊維及びその分散体をミクロフィブリルのナノファイバー性を利用して効率的に製造する方法を提供することを目的とする。」

(2c)「【0019】
本発明の微細なセルロース繊維は、上述した理由により、セルロースに存在するカルボキシル基とアルデヒド基の量の総和が多いほうがより微小な繊維径として安定に存在し得る。たとえば木材パルプや綿パルプの場合、本発明の微細なセルロース繊維に存在するカルボキシル基とアルデヒド基の量の総和がセルロース繊維の重量に対し、0.2?2.2mmol/g、好ましくは0.5?2.2mmol/g、さらに好ましくは0.8?2.2mmol/gであるとナノファイバーとしての安定性に優れた繊維として提供することができる。また、BCやホヤからの抽出セルロースのような比較的ミクロフィブリルの繊維径が太いセルロースの場合(平均径が数10nmのオーダー)には、該総和量は0.1?0.8mmol/g、好ましくは0.2?0.8mmol/gであるとナノファイバーとしての安定性に優れた繊維として提供できる。該総和量が0.1mmol/gよりも小さい場合には、従来知られている微細化されたセルロース繊維との物性上の差異(例えば、分散体における分散安定化効果)も小さくなると同時に、微小な繊維径の繊維として得られ難くなるため、好ましくない。
【0020】
さらに、ノニオン性の置換基であるアルデヒド基に対し、カルボキシル基が導入されることにより、電気的な反発力が生まれ、ミクロフィブリルが凝集を維持せずにばらばらになろうとする傾向が増大するため、ナノファイバーとしての安定性はより増大する。たとえば木材パルプや綿パルプの場合、本発明の微細なセルロース繊維に存在するカルボキシル基の量がセルロース繊維の重量に対し、0.2?2.2mmol/g、好ましくは0.4?2.2mmol/g、さらに好ましくは0.6?2.2mmol/gであるとナノファイバーとしての極めて安定性に優れた繊維として提供することができる。また、BCやホヤからの抽出セルロースのような比較的ミクロフィブリルの繊維径が太いセルロースの場合には、カルボキシル基の量は0.1?0.8mmol/g、好ましくは0.2?0.8mmol/gであるとナノファイバーとしての安定性に優れた繊維として提供できる。」

(2d)「【0022】
以上の条件を満たす本発明の微細セルロース繊維は、他材料との混合性に優れ、水などの親水性媒体中で極めて高い分散安定効果を示すばかりでなく、例えば、水や親水性の有機溶媒中に分散させることにより高いチキソトロピー性を発現し、条件によってはゲル状となるため、ゲル化剤としても有効である。また、本発明が例えば最大繊維径が30nm以下かつ数平均繊維径が3?10nmのような極めて微小な繊維として提供される場合には、水や親水性の有機溶媒中への分散体は透明となる場合もある。また、本発明の微細なセルロース繊維は、抄紙法やキャスト法により製膜することにより、高強度で耐熱性にも優れ、かつ極めて低い熱膨張性を有する材料となる。製膜の際の原液として使用する本発明の微細なセルロース繊維の分散体が透明である場合には、得られる膜も透明なものとなる。該膜は親水性付与を目的としたコーティング層としても有効に機能する。
【0023】
さらに、本発明の微細なセルロース繊維を例えば樹脂材料などの他材料と複合化する際には、他材料中での分散性に優れるため、好適な場合には透明性に優れた複合体を提供することができる。該複合体においては、本発明の微細なセルロース繊維は補強フィラーとしても機能し、複合体中で繊維が高度にネットワークを形成するような場合には、使用した樹脂単体に比べ、著しく高強度を示すようになると同時に著しい熱膨張率の低下を誘引することもできる。この他にも本発明の微細なセルロース繊維は、セルロースのもつ両親媒的性質も併せ持つため、例えば乳化剤や分散安定剤としても機能する。特に繊維中にカルボキシル基を有することで、表面電位の絶対値が大きくなるため、等電点(イオン濃度が増大した際に凝集が起こり始める濃度)が低pH側にシフトすることが期待される。これによって、より広範なイオン濃度条件で分散安定化効果が期待できる。さらに、カルボキシル基は金属イオンと対イオンを形成するため、金属イオンの捕集剤等としても有効である。」

ウ 甲3
甲3には以下の事項が記載されている。
(3a)「TEMPO酸化セルロースシングルナノファイバー複合材料」(第388頁表題)

(3b)「当研究室では多糖類のグリーンケミストリープロセス(有機溶剤を用いず,水系常温常圧で進む環境負荷の小さい化学的物質変換手法)による効率的および位置選択的な化学構造変換方法を検討してきた.その過程でセルロースを水に分散させ,TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカルの略称)による触媒的酸化処理を行うことにより,元の植物セルロースの結晶構造,結晶化度,結品輻サイズを変化させることなく,その高結晶性のセルロースミクロフィブリル表面に露出しているC6位の1級ヒドロキシ基のみ,位置選択的にカルボキシ基に変換できることを見出した.」(第388頁右欄第6行?第389頁左欄第5行)

(3c)「3. TEMPO酸化セルロースシングルナノファイバーの調製と特性
木材セルロースから得られるTEMPO酸化セルロースの場合には,カルボキシ基量が約1.2 m mol/g以上であり,未乾燥状態で保存しておけば,再度水に分散させ,軽微な解繊処理(例えば,高速回転ミキサー,二重円筒型ホモジナイザー,超音波ホモジナイザー処理等)することで,白色のTEMPO酸化セルロース繊維/水分散液が透明高粘度溶液に変化する(Figure 2)^(3,4)).この透明溶液を希釈して乾燥させ,透過型電子顕微鏡(TEM)あるいは原子間力顕微鏡(AFM)で観察すると,木材セルロース由来の場合には3?4nmと均一超極細幅で,長さ数μmに至るTEMPO酸化セルロースシングルナノファイバー(TOCN)であることが確認できる.「シングル」とは「完全に1本l本に分離したナノ分散状態」を意味している.
TEMPO触媒酸化反応によって,セルロースミクロフィブリル表面にマイナス荷電を有するC6カルボキシ基のNa塩を高密度で生成することにより,木材セルロースミクロフィブリル間に水中で強大な静電的斥力と浸透圧効果が作用する.その結果,軽微な解繊処理でもミクロフィブリル単位までの完全ナノ分散化が可能となる.モデル構造から計算すると(Figure1),TOCN表面には1.7 カルボキシ基/nm^(2)と高密度でマイナス荷電が存在し,表面荷電の目安であるゼータ電位-80mVとマイナスの値が極めて大きい^(3,4)).」(第389頁右欄第29行?第390頁左欄第22行)

(3d)「5.TOCN複合材料の調製と特性
COONa型のTOCNは水あるいはDMSO中でのナノ分散化が可能であり,COOH型のTOCNはDMF,DM Ac等が高沸点非プロトン性有機溶剤中でのナノ分散化が可能である^(14)). したがって,TOCN-COONa 型ナノファイバーは水を共媒体としてPVAのような水可溶性の高分子^(15)),あるいは乳化重合スチレン-ブタジエンゴム等のような水系エマルション高分子とのナノ複合化が可能となる.また,TOCN-COOH型ナノファイバーはポリスチレン等のDMFに可溶な汎用高分子とのナノ複合化を検討することができる.」(第391頁右欄第15?25行)

(3e)「5.3 TOCNとポリスチレンとのナノ複合化フィルム
TOCN-COOH型ナノファイバーはDMF中でのナノ分散が可能であるため,DMFに可溶なポリスチレン(PS)を基材として,TOCNをナノフィラーとした複合材料化が可能である.」(第392頁右欄第3?7行)

エ 甲4
甲4には以下の事項が記載されている。
(4a)「請求の範囲
[請求項1]
加水分解処理した後にクラフト蒸解を行なうことにより得られるパルプを準備する工程(A)、
該パルプを(1)N-オキシル化合物、及び、(2)臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化して酸化セルロースを調製する工程(B)、及び、
該酸化セルロースを解繊及び分散してセルロースナノファイバーを製造する工程(C)
を含むセルロースナノファイバーの製造方法。」

(4b)「発明が解決しようとする課題
[0008]
・・・
[0010] よって、粘度が低く、流動性に優れたセルロースナノファイバー分散液を製造することが望まれる。本発明は、高濃度であっても低い粘度を有し、流動性に優れたセルロースナノファイバー分散液を提供することを目的とする。」

オ 甲5
甲5には以下の事項が記載されている。
(5a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均繊維径が2?150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6?2.2mmol/gであるセルロース繊維を含有することを特徴とする、水系塗料組成物。」

(5b)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水溶性セルロースエーテルは水溶性であるため、該水系塗料組成物から得られる塗膜の耐水性を低下させるという問題があった(特許文献1)。
また、特許文献2に開示された微細セルロースは水溶性ではないため、特許文献1のような問題は解消される。
しかしながら、ほぼ例外なく天然物から得られるセルロースは、ミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーが繊維方向に集束してより大きな単位の繊維を形成しており、セルロース分子間およびナノファイバー表面間で主に水素結合を介した結合力によって強く集束していることが知られており、セルロースをそのままで微細化するには、多大なエネルギーとコストが必要であるという問題があった。
このような理由から、従来知られる微細セルロースは、完全にミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーにまで微細化されていないため、レオロジーコントロール剤としての粘度発現が不十分であり、添加量を多くしなければレオロジーコントロール機能が発現できないという問題があり、改良の余地があった。
すなわち、水系塗料のレオロジーコントロール剤として、塗膜の体水性を低下させることがなく、少量の添加でレオロジーコントロール効果を発現するセルロース系のレオロジーコントロール剤が求められていた。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、少量で効果を発現するレオロジーコントロール剤により塗膜の耐水性に優れた水系塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、数平均繊維径が2?150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6?2.2mmol/gであるセルロース繊維を含有することを特徴とする水系塗料組成物を第一の要旨とする。
【0007】
すなわち、本発明者らは、少量で効果を発現するレオロジーコントロール剤により塗膜の耐水性に優れた水系塗料組成物を得るために、鋭意研究を重ねた。その過程で、数平均繊維径が2?150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6?2.2mmol/gであるセルロース繊維を用いると、完全にミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーにまで容易にセルロース繊維を分散させることが可能であり、該セルロース繊維を用いると少量でレオロジーコントロール機能を発現し、そのことにより塗膜の耐水性に優れた水系塗料組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水系塗料組成物は、上記セルロース繊維が低濃度であっても高い粘性を示し、かつ、セルロースに固有の高いチキソトロピーインデックスを示すため、塗料のレオロジーコントロール剤として、従来の微細セルロースより少量でレオロジーコントロール効果を発揮することにより、塗料製造時の顔料分散性向上、塗料保管時の沈降・分離防止、沈降した顔料の再分散性向上、塗料のタレ防止効果の優れた効果を発揮する。
また、上記セルロース繊維の分散物は、一見すると透明に見えるが、ナノサイズにまで微細化された繊維の分散物であって、溶解しているわけではないため、塗料塗膜の耐水性を低下させる恐れがない。」

カ 甲6の1
甲6の1には以下の事項が記載されている。
なお、甲6の1の記載は、その日本語訳である甲6の2を参考にして合議体が作成した。
(6a)「水中油型のピッカリングエマルションのためのさまざまなアスペクト比のセルロースナノロッド」(第952頁表題)

(6b)「異なる起源のセルロースコロイドナノロッドを使用して、ピカリングエマルジョン特性の油水界面に吸着されたさまざまな長尺形状の影響を調査した。セルロースの加水分解により、長さが185nmから4mmのナノクリスタルが得られた3つの異なる生物学的起源のミクロフィブリル:綿(CCN)、バクテリアセルロース(BCN) およびクラドフォラ(ClaCN)は、13から160の範囲のアスペクト比となった。これらのナノクリスタルは不可逆的に吸着され、油と水の界面で超安定エマルジョンを形成する。」(第952頁上段の要約部分)

(6c)「この研究では、3つのセルロース源、すなわち綿、バクテリアセルロース(Gluconacetobacter xylinus)、緑藻(Cladophora rupestris)を使用して、安定した水中油型エマルジョンを生成する能力に対するアスペクト比の影響と安定化のメカニズムを調査した。その結果、ナノメートルから数マイクロメートルまで長さが異なる分離されたセルロースナノクリスタルを製造し、制御されたエマルジョンを得た。」(第953頁左欄第23?30行)

(6d)「方法
細菌セルロースナノクリスタル(BCN)の準備
・・・
BCNは、Gilkesらの方法を使用して、還流下で約1時間30分加熱した2.5M HCl中での加水分解によって生成された。」(第953頁左欄下から11?1行)

(6e)「綿セルロースナノクリスタル(CCN)の準備
プロトコルはRevolらによった。40%(v/v)硫酸中の綿リンターを、40分間攪拌しながら70℃にした。」(第953頁右欄7?10行)

(6f)「クラドホラセルロースナノクリスタル(C_(LA)CN)の準備
・・・ClaCNは、還流下で約1時間加熱された2.5M HCl中での加水分解によって生成された。」(第953頁右欄第17?33行)

(6g)「表1 綿花(CCN)、バクテリアセルロース(BCN)、およびクラドホラ(ClaCN)から得られたナノクリスタルの寸法、縦方向アスペクト比(長さを断面の対角線で割ったものから計算)および表面電荷密度特性

例 長さ 幅 厚さ アスペクト比 ・・・
(nm) (nm) (nm) ・・・
CCN 189(±51) 13(±4) 6(±2) 13 ・・・
BCN 855(±215) 17(±5) 7(±3) 47 ・・・
ClaCN ?4000 20(±5) 15(±5) 160 ・・・
」(第954頁左欄上段)

(6h)「走査型電子顕微鏡(SEM)・・・いくつかの水中スチレンエマルジョンが調製され、重合された。ヘキサデカンとスチレンには同様の表面張力(それぞれ27mN m^(-1)と32mN m^(-1))を光学顕微鏡で確認したところ、平均直径が同じで安定したエマルジョンを生成できることがわかった。したがって、0.15mLのスチレン-AIBN混合物(比率100:1w/w)を、50mM NaCl水溶液に分散した1.35mLのセルロースナノクリスタルと混合し、窒素ガスで10分間脱気した。 エマルジョンを超音波処理により作製し、窒素ガスで10分間再び脱気し、一晩撹拌せずに50℃で重合させた。得られたビーズを遠心分離を繰り返すことにより洗浄した。」(第954頁右欄第15?28行)

(6i)「結果
セルロース系材料
・・・
さらに、綿繊維は非常に密度が高いため、硫酸を使用して加水分解し、表面のスルホン基が生成され、バクテリアセルロースと藻類クラドホラは、塩酸を使用して加水分解され、カルボキシル基が生成された。」(第954頁右欄第31行?第955頁左欄第9行)

(6j)「エマルジョンの形成
・・・
導入するナノクリスタルの重量を変えることにより、エマルジョンを調製した。3つのタイプの結晶は、BCNで既に得られたものと同様のナノクリスタルの量で直径変動のプロファイルを示した。すでに説明したように、液滴直径の急激な減少は、癒着阻止原理に基づいて、導入された安定化ナノクリスタルの量とともに現れた。この減少は、導入されたナノクリスタル量に関係なく、3つのサンプル(図示せず)の液滴サイズが6±2μmに安定するまで観察された。さらに、すべてのケースで、液滴の平均直径は24時間後と1か月後に2回測定され、実験室の温度でも、サンプルを4℃、40℃、80℃で最大2時間に保った場合でも、液滴のサイズに変化は見られず、エマルジョンが一旦安定化したら、さらなる癒着が起きないことを確認した。」(第955頁左欄第17?44行)

(6k)「被覆状態の分析
・・・
結晶ナノセルロースの異なる形状の界面での組織を比較するために、走査型電子顕微鏡(SEM) を使用して詳細な表面を視覚化した(図5)。ヘキサデカン-水エマルジョンはSEM分析では描写できないため、スチレン-水エマルジョンを形成し、固体ビーズを視覚化するためにスチレンを重合した。図5は、ヘキサデカンのCN mL^(-1)が約2および12mgに対応する、水相に1と5gL^(-1)の2つの異なる濃度で調製された、各タイプのナノ結晶でコーティングされたポリスチレンビーズのSEM画像を示している。このアプローチは、計算方法によって得られた結果を認確するために実行された。3つのサンプルの場合、界面は液滴の周りに曲げられたナノ結晶で均ーに覆われています。」(第956頁左欄第1?28行)

(6l)「

図5 2つの異なるナノ結晶濃度でCCN(a、d、g)、BCN(b、e、h)、ClaCN(c、f、i)で安定化され重合スチレン-水エマルジョンのSEM画像:5gL^(-1)(d-f)、及び1gL^(-1)(g及びh) -ナノクリスタルの濃度と長さの関数としてカバレッジの変動を明らかにする。」(第956頁右欄上段)

キ 甲7の1
甲7の1には以下の事項が記載されている。
なお、甲7の1の記載は、その日本語訳である甲7の2を参考にして合議体が作成した。
(7a)「サイザル麻繊維から抽出されたスルホン化セルロースナノウィスカーにより安定化されたピッカリングエマルションの研究」(第963頁表題)

(7b)「この論文では、サイザル麻繊維から抽出された微結晶セルロースの硫酸加水分解によって、スルホン化セルロースナノウィスカー(スルホン化CNW)を作製した。スルホン化CNWによって安定化されたピッカリングエマルジョンの挙動を調査した。ピッカリングエマルジョンの特性に対するさまざまな条件(CNW濃度、油/水比、油の種類、および水相のpH値)の影響が広範囲にわたって調査された。特に、様々な疎水性を有する油が、ピッカリングエマルジョンを形成するために使用された。さらに興味深いことに、生体適合性および生分解性のスルホン化CNW被覆PMMAミクロスフェアは、溶媒揮発法の実施後に得られた。これらのPMMA@スルホン化CNW複合ミクロスフェアは、食品、化粧品、ドラッグデリバリー、生体組織工学などに役立つ可能性がある。」(第964頁右欄第4?17行)

(7c)「PMMA@SCNW複合ミクロスフェアの調製
エピクロロヒドリン/水エマルジョンの作製と同様に、PMMAのジクロロメタン溶液を最初に調製し、超音波処理によってpH?3.0のスルホン化CNW水性懸濁液と混合した。混合後、安定したo/wエマルションが得られた。続いて、エマルジョンを40℃の水浴に移して、蒸発によりジクロロメタンを除去した。得られたミクロスフェアを3回の遠心分離/再分散サイクルで精製し、デカンテーションした各上清を脱イオン水で置き換え、続いて45℃で12時間真空で一晩乾燥させた。」(第965頁左欄第24行?右欄第3行)

(7d)「スルホン化CNWの構造と形態
図1及び2でそれぞれ報告されたCNWのAFMおよびTEM画像1及び2は、CNWの形態を示している。CNWの平均の長さおよび直径は、それぞれ約100?200mn及び6?10nmであった。図1では、CNWが基板上に個別に分布しており、硫酸加水分解後の親水性が良好であることを示している。SFMCCの硫酸加水分解は、不均ーなプロセスである。 それは、セルロース繊維への酸の拡散とそれに続くグリコシド結合の切断を含み、最後に、得られたCNWの表面に-SO_(3)^(2-)基を導入できる。一方、測定されたCNWのゼータ電位-40mVも、その表面に-SO_(3)^(2-)基の存在を示した。したがって、-SO_(3)^(2-)基の存在と含有量は、スルホン化CNWによって安定化されたピッカリングエマルションの形成プロセスで重要な役割を果たす。」(第966頁左欄第2?17行)

(7e)「スルホン化CNWsによって安定化されたピソカリングエマルションの油の種類の影響
・・・安定したエピクロロヒドリン/水、酢酸エチル/水、およびメタクリル酸メチル/水エマルジョンの液滴が形成され、水相によく分散していることがはっきりとわかった。・・・つまり、スルホン化されたCNWは、水と弱い親水性の油の表面に吸収される傾向があった。」(第966頁左欄第25行?右欄第20行)

(7f)「スルホン化CNWにより安定化されたピカリングエマルションに対する水相のpH値の影響
・・・
これらの有機溶媒またはモノマーの溶解度は、水相pHの値を変更するときに、スルホン化CNWによって安定化されたピカリングエマルジョンの形成中に依然として重要な役割を果たすことがわかった。」(第967頁左欄第5行?右欄第18行)

(7g)「スルホン化CNWにより安定化されたピッカリングエマルジョンに対する水相中のスル ホン化CNW 濃度の影響
・・・スルホン化CNWの濃度がそれぞれ0.025、0.05、0.1、0.2、および0.5%に増加すると、スルホン化CNWによって安定化されたピッカリングエマルジョンが得られ、数か月間非常に安定であった。・・・所定の範囲内でのスルホン化CNW 濃度の増加により、液液界面に集合するスルホン化CNWの総表面積が増加し、より安定性の高いピッカリングエマルジョンの形成が促進された。」(第968頁右欄第1行?第970頁右欄第18行)

(7h)「スルホン化CNWにより安定化されたピッカリングエマルジョンに対する水/油の体積比の影響
・・・水/油の体積比の増加(油相の体積分率の減少)とともに、エマルジョンの液滴サイズが減少し、そのサイズ分布が狭くなることが非常に明確であった。」(第970頁右欄第27行?第971頁右欄第3行)

(7i)「PMMA@CNW 複合ミクロスフェア
生体適合性及び生分解性のスルホン化CNWでコーティングされたPMMA 複合ミクロスフェアは、分子界面活性剤および溶媒揮発法によることなく、スルホン化CNWで安定化されたピッカリングエマルジョンの複合化システムを介して製造された。」(第971頁右欄第4?9行)

ク 甲8
甲8には以下の事項が記載されている。
(8a)「【請求項1】
マトリックス材料(B)中にセルロース繊維(A)を含有する繊維強化複合材料であって、上記セルロース繊維(A)は、その表面が、水系における重合性成分のグラフト重合により、グラフト修飾されていることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項2】
上記セルロース繊維(A)の平均繊維径が、4?200nmである請求項1に記載の繊維強化複合材料。
【請求項3】
上記マトリックス材料(B)の主成分が、熱可塑性樹脂である請求項1または2に記載の繊維強化複合材料。
【請求項4】
セルロース含有率が繊維強化複合材料全体の10?70重量%である場合において、50μm厚の繊維強化複合材料の波長500nmにおける可視光透過率(JIS K 7361-1に準じる)が、67?90%に設定されている請求項1?3のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料を製造する方法であって、セルロース繊維に重合性成分を水系でグラフト重合させることによりグラフト修飾されたセルロース繊維(A)を得る工程と、上記セルロース繊維(A)を液状のマトリックス材料に含浸または混合する工程とを備えたことを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料を製造する方法であって、セルロース繊維に重合性成分を水系でグラフト重合させることによりグラフト修飾されたセルロース繊維(A)を得る工程と、上記セルロース繊維(A)をマトリックス材料と溶融混練する工程とを備えたことを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。」

(8b)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
・・・
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、マトリックス材料中でのセルロース繊維の分散性を向上させ、成形性、物理物性の向上、並びに透明複合材料においては透明性を改善する繊維強化複合材料およびその製造方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
・・・
【0010】
また、本発明は、上記繊維強化複合材料を製造する方法であって、セルロース繊維に重合性成分を水系でグラフト重合させることによりグラフト修飾されたセルロース繊維(A)を得る工程と、上記セルロース繊維(A)を液状のマトリックス材料に含浸または混合する工程とを備えた繊維強化複合材料の製造方法を第2の要旨とする。
・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明は、マトリックス材料(B)中にセルロース繊維(A)を含有する繊維強化複合材料であって、上記セルロース繊維(A)は、その表面が、水系における重合性成分のグラフト重合により、グラフト修飾されている繊維強化複合材料である。このように、セルロース繊維は重合性成分でグラフト修飾されているため、セルロース繊維とマトリックス材料の親和性が高まり、得られる繊維強化複合材料の物理物性や透明性を高めることができる。さらに、このグラフト修飾は、セルロース繊維から水分を除去することなく、水系でグラフト重合を行うことによりなされるため、グラフト修飾物が障害物となって、セルロース繊維表面の水酸基に起因する、水素結合等によるセルロース繊維同士の凝集を抑制できる。よって、マトリックス材料中でのセルロース繊維の分散性を向上させることができ、これに伴い、得られる繊維強化複合材料の成形性、物理物性をさらに向上させ、透明複合材料においては透明性が改善され向上する。」

(8c)「【0021】
[セルロース繊維]
本発明に係るセルロース繊維は、特に限定されるものではないが、植物細胞壁の基本骨格成分であるセルロースのミクロフィブリルまたはこれの構成繊維をいう。繊維同士が独立した単繊維であっても、繊維同士が絡み合った単繊維の集合体であってもよいが、単繊維の集合体の場合には、単繊維が引き揃えられることなく、かつ相互間にマトリックス材料が入り込むように充分に離隔している方がよい。
・・・
【0031】
本発明に係るセルロース繊維の平均繊維径としては、特に制限されるものではないが、4?200nmであることが好ましく、より好ましくは4?100nm、さらに好ましくは4?80nmである。平均繊維径が上記上限値を超えると、可視光波長領域に近づくために、マトリックス材料との界面での屈折が生じやすくなり透明性が低下する傾向がみられるからである。また、平均繊維径4nm未満のセルロース繊維は、その製造が困難であり、バクテリアが産出するバクテリアセルロースの単繊維径は4nmであることから、本発明で用いるセルロース繊維の平均繊維径の下限は4nmとする。」

(8d)「【0046】
[マトリックス材料(B成分)] 本発明の繊維強化複合材料に係るマトリックス材料(B)は、本発明の繊維強化複合材料の母材となる材料であり、本発明の要旨を超えない範囲であれば、特に制限されるものではないが、特に有機高分子化合物が好ましい。
【0047】
上記有機高分子化合物としては、天然高分子化合物や合成高分子化合物があげられる。天然高分子化合物としては、例えば、セロハンやトリアセチルセルロース等の再生セルロース系高分子化合物があげられる。また、合成高分子化合物としては、例えば、ビニル系樹脂、重縮合系樹脂、重付加系樹脂、付加縮合系樹脂、開環重合系樹脂等があげられる。
【0048】
上記ビニル系樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等の汎用樹脂等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。」

(8e)「【0056】
[繊維強化複合材料の製造]
上述のようにして得られたグラフト修飾されたセルロース繊維(A)から、本発明のセルロース繊維強化複合材料を製造する方法としては、大別して、(I)グラフト修飾されたセルロース繊維(A)を、液状のマトリックス材料に含浸または混合する方法、(II)マトリックス材料と併せて溶融混練する方法の2通りがあげられる。
【0057】
まず、上記(I)グラフト修飾されたセルロース繊維(A)を、液状のマトリックス材料に含浸または混合する方法としては、具体的には、下記に示す、「1.懸濁または乳化による複合方法」、「2.含浸による複合方法」等があげられる。
【0058】
「1.懸濁または乳化による複合方法」
水系でグラフト修飾されたセルロース繊維(A)を、マトリックス形成材料であるモノマー類と懸濁または乳化重合し、水分を除去することにより、複合材料が得られる。また、例えば、水溶性高分子化合物等の、水に親和性のある高分子化合物をマトリックス材料として用い、マトリックス材料自体を、グラフト修飾されたセルロース繊維(A)と混合して複合することも可能である。」

(8f)「【0067】
本発明の繊維強化複合材料における、セルロース含有率としては、1?90重量%であることが好ましく、より好ましくは5重量%以上、70重量%以下である。このセルロース含有率におけるセルロースとは、グラフト部分を除くセルロース繊維をいう。」

(8g)「【実施例】
【0069】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0070】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備または製造した。
【0071】
〔セルロースa:パルプ〕
針葉樹溶解パルプ。
【0072】
〔セルロースb:ナノMFC〕
(製造例1)
針葉樹溶解パルプ(セルロースa)を水に充分分散させ、固形分1重量%の水懸濁液を調製する。この水懸濁液を、グラインダー(増幸産業社製:スーパーマスコロイダーMKZA10-15)に通すことによって、ナノMFCを製造する。具体的には、ほぼ接触させた状態で回転(回転数:1800rpm)するディスク間を、中央から外に向かって通過させ、その操作を20回行うことにより、ナノMFC(平均繊維径50nm)を製造する。
・・・
【0077】
〔グラフト修飾されたセルロース繊維:グラフト修飾パルプMFC(A成分)〕
(製造例3)
前記針葉樹溶解パルプ(セルロースa)10gを、2Lの四つ口フラスコに入れ、蒸留水990gを加えた。脱気、窒素置換した後、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.3gと、重合性成分であるメタクリル酸メチル(MMA)1gを加え、30℃の温度下で、4時間反応させた。冷却後、ろ過して、水洗およびメタノール洗浄を行い乾燥させた。また、得られたグラフト修飾パルプを、製造例1の方法にしたがってフィブリル化し、グラフト修飾パルプMFC(平均繊維径は約50nm)を製造した。
【0078】
(製造例4?6)
また、重合性成分や、重合性成分/セルロースaの配合割合等を変えて、様々なグラフト修飾パルプMFC(A成分)を得るため、下記表1に示す重合性成分、および重合性成分/セルロース繊維a(重量比)の配合割合で、上記製造例3の方法にしたがって、製造例4?6のグラフト修飾パルプMFCを製造した。
【0079】
上記製造例3?6の方法により得られたグラフト修飾パルプMFC(A成分)の重量増加率、変換率、グラフト率を、下記の式(1)?(3)の計算により求め、下記表1に併せて示す。
【0080】
(1)重量増加率(%)=グラフト後全重量/セルロース重量×100
(2)変換率(%)=グラフト後全重量/モノマー添加量×100
(3)グラフト率(%)=(グラフト後全重量-セルロース重量)/セルロース重量×100
【0081】
【表1】

【0082】
〔グラフト修飾されたセルロース繊維:グラフト修飾ナノMFC〕
(製造例7:A成分)
製造例1で得られたナノMFC(セルロースb)を水に分散させ、固形分1重量%の水懸濁液を調製する。この調製された水懸濁液1000gを、2Lの四つ口セパラブルフラスコに入れ、脱気、窒素置換を行い、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.3gと、重合性成分であるメタクリル酸メチル(MMA)1gを加え、30℃の温度下で、4時間反応させた。冷却後、ろ過と水洗、およびメタノール洗浄を行い、60℃の温度下で、10時間減圧乾燥して、グラフト修飾ナノMFCを得た。
【0083】
(製造例8?12:A成分)
また、重合性成分や、重合性成分/セルロースbの配合割合等を変えて、様々なグラフト修飾ナノMFC(A成分)を得るため、下記の表2に示す重合性成分、および重合性成分/セルロースb(重量比)の配合割合で、上記製造例7の方法にしたがって、製造例8?12のグラフト修飾ナノMFCを製造した。
・・・
【0086】
【表2】

・・・
【0109】
3.懸濁重合により複合化した繊維強化複合材料
〔実施例19〕
製造例5で得られたスチレングラフト修飾ナノMFCに、蒸留水を加え、セルロース換算で1重量%水懸濁液になるように調製した。この水懸濁液を脱気、窒素置換後、80℃で加熱撹拌しながら、後記の表6に示した組成比になるように、開始剤を溶解させたスチレンモノマー(マトリックス材料c)を60分間かけて滴下して重合させた。冷却後、ろ過により生成物を分離し、50℃で10時間乾燥させた。得られた乾燥物を200℃で5分間溶融混練し、200℃,50MPaで5分間熱プレスして成形、硬化させて繊維強化複合材料を作製した。
【0110】
〔実施例20?22、比較例11,12〕
下記の表6に示す各セルロース繊維およびマトリックス材料cを、同表に示すセルロース含有率で配合し、実施例19と同様の方法で、実施例20?22および比較例11,12の繊維強化複合材料を作製した。
【0111】
このようにして得られた実施例19?22および比較例11,12の各繊維強化複合材料を用い、前記した試験方法にしたがって、各種物性の測定および評価をした。これらの結果を、下記の表6に併せて示す。【0112】
【表6】

【0113】
上記表6の結果から、実施例19?22において、曲げ強度、曲げ弾性、引張強度および光透過率の全てにおいてバランスの取れた良好な結果が得られた。これに対し、比較例12においては、セルロース含有率が同じ実施例に比べて、全ての特性に劣る結果となった。なお、比較例11は、修飾セルロース繊維を含有しないブランク樹脂であるため、光透過率に優れるものの、他の物性に劣る結果となった。」

(2)各甲号証に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
甲1には、その特許請求の範囲の請求項3に、「重合性化合物とセルロースナノファイバーとを溶媒に分散させた分散液中で、前記重合性化合物を重合させることにより、複合樹脂組成物を得る、複合樹脂組成物の製造方法。」が記載され(摘記(1a))、その具体例として、実施例1に、乳化重合法を用いたこと、ガラス容器に、撹拌翼、窒素ガスフロー管、冷却管及び熱電対を取り付けた。ガラス容器に、重合性化合物100重量部に対して、水(溶媒)700重量部と、含水セルロース(セルロースナノファイバー、ダイセルファインケム社製「セリッシュKY-100G 1%」)100重量部(セルロースナノファイバー1重量部)と、乳化剤(第一工業製薬社製「NF08-20%」)10.8重量部(固形分2.16重量部)と、メタクリル酸メチル(重合性化合物)10重量部と、重合開始剤(ADEKA社製「APS」)0.4重量部とを入れて、撹拌した。また、容器内を窒素雰囲気としたこと、ウォーターバス中でガラス容器中の配合物を撹拌しながら60℃に昇温した。昇温後に、撹拌しながら配合物を0.5時間重合反応させた。0.5時間の重合反応の後に、メタクリル酸メチル(重合性化合物)90重量部を0.5時間かけて滴下した。滴下後に、撹拌しながら配合物を4時間重合反応させた。重合反応後に、室温(23℃)まで冷却した。冷却後に70℃で3時間乾燥させて、複合樹脂組成物を製造したことが記載されている(摘記(1f))。

そうすると、甲1には、実施例1に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「ガラス容器に、撹拌翼、窒素ガスフロー管、冷却管及び熱電対を取り付け、ガラス容器に、重合性化合物100重量部に対して、水(溶媒)700重量部と、含水セルロース(セルロースナノファイバー、ダイセルファインケム社製「セリッシュKY-100G 1%」)100重量部(セルロースナノファイバー1重量部)と、乳化剤(第一工業製薬社製「NF08-20%」)10.8重量部(固形分2.16重量部)と、メタクリル酸メチル(重合性化合物)10重量部と、重合開始剤(ADEKA社製「APS」)0.4重量部とを入れて、撹拌し、容器内を窒素雰囲気とし、ウォーターバス中でガラス容器中の配合物を撹拌しながら60℃に昇温し、昇温後に、撹拌しながら配合物を0.5時間、乳化重合法により重合反応させ、0.5時間の重合反応の後に、メタクリル酸メチル(重合性化合物)90重量部を0.5時間かけて滴下し、滴下後に、撹拌しながら配合物を4時間重合反応させ、重合反応後に、室温(23℃)まで冷却し、冷却後に70℃で3時間乾燥させた複合樹脂組成物の製造方法」(以下「甲1発明」という。)

イ 甲6の1に記載された発明
甲6の1は、「水中油型のピッカリングエマルションのためのさまざまなアスペクト比のセルロースナノロッド」と題する論文であって(摘記(6a))、塩酸で処理されたカルボキシル基を有する細菌セルロースナノクリスタル(以下「BCN」という。)(摘記(6d)(6i))、硫酸で処理されたスルホン基を有する綿セルロースナノクリスタル(以下「CCN」という。)(摘記(6e)(6i))及び塩酸で処理されたカルボキシル基を有するクラドホラセルロースナノクリスタル(以下「CLACN」という。)(摘記(6f)(6i))の3種類のセルロースナノクリスタルを準備し(摘記(6d))、0.15mlのスチレン-AIBN混合物(比率100:1w/w)を、50mM NaCl水溶液に分散し、1.35mlの上記3種類のいずれかのセルロースナノクリスタルと混合し、窒素ガスで10分間脱気し、エマルジョンを超音波処理し、窒素ガスで10分間再び脱気し、一晩撹拌せずに50℃で重合させポリスチレンを製造したことが記載されている(摘記(6h))。

そうすると、甲6の1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「0.15mlのスチレン-AIBN混合物(比率100:1w/w)を、50mM NaCl水溶液に分散し、1.35mlのセルロースナノクリスタルであるBCN、CCNまたはCLACNと混合し、窒素ガスで10分間脱気し、エマルジョンを超音波処理し、窒素ガスで10分間再び脱気し、一晩撹拌せずに50℃で重合させたポリスチレンの製造方法」(以下「甲6発明」という。)

ウ 甲8に記載された発明
甲8には、その特許請求の範囲の請求項1に、「マトリックス材料(B)中にセルロース繊維(A)を含有する繊維強化複合材料であって、上記セルロース繊維(A)は、その表面が、水系における重合性成分のグラフト重合により、グラフト修飾されていることを特徴とする繊維強化複合材料。」が記載され(摘記(8a))、同請求項5には、その製造方法として、「請求項1?4のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料を製造する方法であって、セルロース繊維に重合性成分を水系でグラフト重合させることによりグラフト修飾されたセルロース繊維(A)を得る工程と、上記セルロース繊維(A)を液状のマトリックス材料に含浸または混合する工程とを備えたことを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。」が記載されている(摘記(8a))。
また、甲8には、製造方法として、懸濁または乳化による複合方法が記載され(摘記(8e))、懸濁重合により複合化した繊維強化複合材料の具体例として、実施例19?22が記載され(摘記(8g)の段落【0109】?【0113】を参照。)、上記4つの実施例で使用されるグラフト修飾されたセルロース繊維は、製造例3の方法にしたがった製造例5及び6、並びに製造例7の方法に従った製造例11及び12によって製造されたことが記載されている(摘記(8g)の段落【0109】?【0112】を参照。)。

そうすると、甲8には、実施例19に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「針葉樹溶解パルプ(セルロースa)10gを、2Lの四つ口フラスコに入れ、蒸留水990gを加え、脱気、窒素置換した後、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.3gと、重合性成分であるスチレン1gを加え、30℃の温度下で、4時間反応させ、冷却後、ろ過して、水洗およびメタノール洗浄を行い乾燥させ、得られたグラフト修飾パルプを、水に充分分散させ、固形分1重量%の水懸濁液を調製し、この水懸濁液を、グラインダー(増幸産業社製:スーパーマスコロイダーMKZA10-15)に通し、ほぼ接触させた状態で回転(回転数:1800rpm)するディスク間を、中央から外に向かって通過させ、その操作を20回行い、得られたスチレングラフト修飾ナノMFCに、蒸留水を加え、セルロース換算で1重量%水懸濁液になるように調製し、この水懸濁液を脱気、窒素置換後、80℃で加熱撹拌しながら、開始剤を溶解させたスチレンモノマー(マトリックス材料c)を60分間かけて滴下して懸濁重合させセルロース含有率が10重量%とし、冷却後、ろ過により生成物を分離し、50℃で10時間乾燥させ、得られた乾燥物を200℃で5分間溶融混練し、200℃,50MPaで5分間熱プレスして成形、硬化させた繊維強化複合材料の製造方法」(以下「甲8発明1」という。)

また、甲8の実施例20に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「針葉樹溶解パルプ(セルロースa)10gを、2Lの四つ口フラスコに入れ、蒸留水990gを加え、脱気、窒素置換した後、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.3gと、重合性成分であるスチレン10gを加え、30℃の温度下で、4時間反応させ、冷却後、ろ過して、水洗およびメタノール洗浄を行い乾燥させ、得られたグラフト修飾パルプを、水に充分分散させ、固形分1重量%の水懸濁液を調製し、この水懸濁液を、グラインダー(増幸産業社製:スーパーマスコロイダーMKZA10-15)に通し、ほぼ接触させた状態で回転(回転数:1800rpm)するディスク間を、中央から外に向かって通過させ、その操作を20回行い、得られたスチレングラフト修飾ナノMFCに、蒸留水を加え、セルロース換算で1重量%水懸濁液になるように調製し、この水懸濁液を脱気、窒素置換後、80℃で加熱撹拌しながら、開始剤を溶解させたスチレンモノマー(マトリックス材料c)を60分間かけて滴下して懸濁重合させセルロース含有率が10重量%とし、冷却後、ろ過により生成物を分離し、50℃で10時間乾燥させ、得られた乾燥物を200℃で5分間溶融混練し、200℃,50MPaで5分間熱プレスして成形、硬化させた繊維強化複合材料の製造方法」(以下「甲8発明2」という。)

さらに、甲8の実施例21に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「針葉樹溶解パルプ(セルロースa)を水に充分分散させ、固形分1重量%の水懸濁液を調製し、この水懸濁液を、グラインダー(増幸産業社製:スーパーマスコロイダーMKZA10-15)に通し、ほぼ接触させた状態で回転(回転数:1800rpm)するディスク間を、中央から外に向かって通過させ、その操作を20回行い、得られたスチレングラフト修飾ナノMFCを水を分散させ、固形分1重量%の水懸濁液を調製し、この調製された水懸濁液1000gを、2Lの四つ口セパラブルフラスコに入れ、脱気、窒素置換を行い、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.3gと、重合性成分であるスチレン1gを加え、30℃の温度下で、4時間反応させ、冷却後、ろ過と水洗、およびメタノール洗浄を行い、60℃の温度下で、10時間減圧乾燥して、得られたスチレングラフト修飾ナノMFCに、蒸留水を加え、セルロース換算で1重量%水懸濁液になるように調製し、この水懸濁液を脱気、窒素置換後、80℃で加熱撹拌しながら、開始剤を溶解させたスチレンモノマー(マトリックス材料c)を60分間かけて滴下して懸濁重合させセルロース含有率が10重量%とし、冷却後、ろ過により生成物を分離し、50℃で10時間乾燥させ、得られた乾燥物を200℃で5分間溶融混練し、200℃,50MPaで5分間熱プレスして成形、硬化させた繊維強化複合材料の製造方法」(以下「甲8発明3」という。)

加えて、甲8の実施例22に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「針葉樹溶解パルプ(セルロースa)を水に充分分散させ、固形分1重量%の水懸濁液を調製し、この水懸濁液を、グラインダー(増幸産業社製:スーパーマスコロイダーMKZA10-15)に通し、ほぼ接触させた状態で回転(回転数:1800rpm)するディスク間を、中央から外に向かって通過させ、その操作を20回行い、得られたスチレングラフト修飾ナノMFCを水を分散させ、固形分1重量%の水懸濁液を調製し、この調製された水懸濁液1000gを、2Lの四つ口セパラブルフラスコに入れ、脱気、窒素置換を行い、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.3gと、重合性成分であるスチレン10gを加え、30℃の温度下で、4時間反応させ、冷却後、ろ過と水洗、およびメタノール洗浄を行い、60℃の温度下で、10時間減圧乾燥して、得られたスチレングラフト修飾ナノMFCに、蒸留水を加え、セルロース換算で1重量%水懸濁液になるように調製し、この水懸濁液を脱気、窒素置換後、80℃で加熱撹拌しながら、開始剤を溶解させたスチレンモノマー(マトリックス材料c)を60分間かけて滴下して懸濁重合させセルロース含有率が10重量%とし、冷却後、ろ過により生成物を分離し、50℃で10時間乾燥させ、得られた乾燥物を200℃で5分間溶融混練し、200℃,50MPaで5分間熱プレスして成形、硬化させた繊維強化複合材料の製造方法」(以下「甲8発明4」という。)

(3)対比・判断
ア 本件発明1
(ア)甲1を主引用発明とする場合について
a 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明のセルロースナノファイバーは、本件発明1のアニオン変性セルロースナノファイバーと、セルロースナノファイバーの限りにおいて一致する。
甲1発明の重合性化合物であるメタクリル酸メチルは、本件発明1のエチレン性不飽和単量体に相当する。
甲1発明は、水溶媒700重量部とセルロースナノファイバーを1%含む含水セルロース100重量部とを含んでいるから、これは本件発明1のセルロースナノファイバーの分散液に相当する。
甲1発明は、水溶媒700重量部とセルロースナノファイバーを1%含む含水セルロース100重量部とを含む中で、メタクリル酸メチルを乳化重合法により重合反応させているから、これは、本件発明1のセルロースナノファイバー分散液中でエチレン性不飽和単量体を乳化重合法で重合させることに相当する。
甲1発明の複合樹脂組成物の製造方法は、本件発明1の複合体の製造方法に相当することは明らかである。

そうすると、本件発明1と甲1発明とでは、
「セルロースナノファイバーとエチレン性不飽和単量体からなる重合体または共重合体を含有する複合体の製造方法であって、該セルロースナノファイバー分散液中でエチレン性不飽和単量体を乳化重合法で重合または共重合させることを特徴とする複合体の製造方法」で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)本件発明1では、アニオン変性セルロースナノファイバーであるのに対し、甲1発明ではセルロースナノファイバーである点

(相違点2)本件発明1では、アニオン変性セルロースナノファイバーの配合量がエチレン性不飽和単量体100重量部に対し、乾燥重量分で5?60重量部であるのに対し、甲1発明では、セルロースナノファイバーの配合量がメタクリル酸メチル合計100重量部に対し、1重量部である点

b 判断
(a)相違点1について
甲1には、使用するセルロースナノファイバーとしてアニオン変性セルロースナノファイバーは記載されていない。
甲2には、その請求項1に、概略、最大繊維径が1000nm以下かつ数平均繊維径が2?150nmのセルロース繊維であって、セルロースの水酸基の一部がカルボキシル基およびアルデヒド基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基に酸化されている微細セルロース繊維が記載され、水などの親水性媒体中で極めて高い分散安定効果を示すことが記載され(摘記(2d))、また、樹脂材料などの他材料と複合化する際には、他材料中での分散性に優れるため、透明性に優れたり、著しく高強度を示すようになると同時に著しい熱膨張率の低下を示す複合体を提供することができることが記載されている(摘記(2d))。しかしながら、アニオン変性されたといえる甲2に記載のカルボキシル基を有する微細セルロース繊維を分散液とし、その中でエチレン性不飽和単量体を乳化重合することは記載されていない。
甲3には、TEMPO酸化セルロースシングルナノファイバーは、セルロース中の6位のヒドロキシル基がカルボキシル基に変換されることが記載され(摘記(3b))、COONa型TEMPO酸化セルロースシングルナノファイバーは、PVAや乳化重合スチレン-ブタジエンゴムとナノ複合化が可能であること、COOH型TEMPO酸化セルロースシングルナノファイバーは、ポリスチレンとナノ複合化が可能であることは記載されている(摘記(3d)(3e))が、このTEMPO酸化セルロースシングルナノファイバーを分散液とし、その中でエチレン性不飽和単量体を乳化重合することは記載されていない。
甲4には、その請求項1に、概略、パルプを(1)N-オキシル化合物、及び、(2)臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて酸化して酸化セルロースを調製し、該酸化セルロースを解繊及び分散してセルロースナノファイバーを製造するセルロースナノファイバーの製造方法が記載され(摘記(4a))、低い粘度であることが記載されている(摘記(4b))が、この酸化セルロースナノファイバーを分散液とし、その中でエチレン性不飽和単量体を乳化重合することは記載されていない。
甲5には、その請求項1に、概略、数平均繊維径が2?150nmのセルロース繊維であって、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されているセルロース繊維を含有する水系塗料組成物が記載され(摘記(5a))、少量でレオロジーコントロール機能を発現することが記載されている(摘記(5b))が、このカルボキシル変性されているセルロース繊維を分散液とし、その中でエチレン性不飽和単量体を乳化重合することは記載されていない。
甲6の1及び甲7の1には、スルホン変性、カルボキシル変性したセルロースナノ繊維をピッカリングエマルジョンに使用することは記載されているが、このセルロース繊維の分散液中でエチレン性不飽和単量体を乳化重合することは記載されていない。

このように、甲1?甲7の1には、アニオン変性セルロースナノファイバーを分散液とし、その中でエチレン性不飽和単量体を乳化重合することは記載されていないから、乳化重合によりエチレン性不飽和単量体を重合する甲1発明において、アニオン変性セルロースナノファイバーとすることに動機づけがあるとはいえない。
よって、相違点1を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

c 小括
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1?甲7の1の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(イ)甲6の1を主引用発明とする場合について
a 対比
本件発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明のセルロースナノクリスタルであるBCN、CCNまたはCLACNは、幅が13?20nmであり、アスペクト比が13?160と記載されている(摘記(6g))から、セルロースナノファイバーであるといえ、また、それぞれカルボキシル基、スルホン基、カルボキシル基を有するから、本件発明1のアニオン変性セルロースナノファイバーに相当する。
甲6発明のスチレンは、本件発明1のエチレン性不飽和単量体に相当する。
甲6発明の「スチレン」を「重合させた」は、本件発明1のエチレン性不飽和単量体を重合させることに相当する。
そうすると、本件発明1と甲6発明とでは、
「アニオン変性セルロースナノファイバーとエチレン性不飽和単量体からなる重合体または共重合体を含有する製造方法であって、エチレン性不飽和単量体を重合または共重合させることを特徴とする製造方法」で一致し、次の点で相違する。

(相違点3)アニオン変性セルロースナノファイバーとエチレン性不飽和単量体からなる重合体または共重合体を含有する製造方法が、本件発明1では、複合体の製造方法としているのに対し、甲1発明では明らかでない点

(相違点4)エチレン性不飽和単量体の重合が、本件発明1では、アニオン変性セルロースナノファイバー分散液中で行うのに対し、甲1発明では明らかでない点

(相違点5)重合が、本件発明1では、乳化重合法であるのに対し、甲1発明では明らかでない点

(相違点6)アニオン変性セルロースナノファイバーの配合量が、本件発明1では、エチレン性不飽和単量体100重量部に対し、乾燥重量分で5?60重量部であるのに対し、甲1発明では明らかでない点

b 判断
事案に鑑み、相違点5から検討する。
甲6には、安定した水中油型ピッカリングエマルションのために3種類のセルロースナノロッドをそれぞれ使用することが記載され(摘記(6c))、その具体例として甲6発明であるスチレン、AIBN、NaCl水溶液及びいずれかのセルロースナノロッドからなるピッカリングエマルションを作製後、重合することが記載されており、AIBNは、アゾビスイソブチロニトリルであることが技術常識であって、乳化剤を用いていないことからすると、この重合は、乳化重合法でないことは明らかである。そして、甲6発明は上記した水中油型ピッカリングエマルションにおける重合であることからすれば、当業者であったとしても、水中油型ピッカリングエマルションにおける重合をあえて、乳化剤を用いた乳化重合法とすることに動機づけがあるとはいえない。
よって、相違点5を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

c 小括
したがって、相違点3、4及び6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)甲8を主引用発明とする場合について
a 対比
甲8発明1?甲8発明4は、いずれも、スチレングラフト修飾ナノMFCの水懸濁液にスチレンモノマーを滴下して懸濁重合させ、繊維強化複合材料を製造しており、スチレングラフト修飾ナノMFCの含有率が10重量%であるから、以下では、甲8発明1?甲8発明4をあわせて本件発明1と対比する。(以下、「甲8発明1」?「甲8発明4」を「甲8発明」という。)

甲8発明のスチレングラフト修飾ナノMFCは、本件発明1のアニオン変性セルロースナノファイバーと、セルロースナノファイバーの限りにおいて一致することは明らかである。
甲8発明のスチレンモノマーは、本件発明1のエチレン性不飽和単量体に相当する。
甲8発明は、スチレングラフト修飾ナノMFCに蒸留水を加えスチレングラフト修飾ナノMFC1%水懸濁液とし、この懸濁液にスチレンモノマーを滴下して重合させているから、これは、本件発明1のセルロースナノファイバー分散液中でエチレン性不飽和単量体を重合させることに相当する。
甲8発明の繊維強化複合材料の製造方法は、本件発明1の複合体の製造方法に相当することは明らかである。

そうすると、本件発明1と甲8発明とでは、
「セルロースナノファイバーとエチレン性不飽和単量体からなる重合体または共重合体を含有する複合体の製造方法であって、該セルロースナノファイバー分散液中でエチレン性不飽和単量体を重合または共重合させることを特徴とする複合体の製造方法」で一致し、次の点で相違する。

(相違点7)本件発明1では、アニオン変性セルロースナノファイバーであるのに対し、甲8発明ではスチレングラフト修飾ナノMFCである点

(相違点8)本件発明1では、アニオン変性セルロースナノファイバーの配合量がエチレン性不飽和単量体100重量部に対し、乾燥重量分で5?60重量部であるのに対し、甲8発明では、スチレングラフト修飾ナノMFCの含有率が10重量%である点

(相違点9)重合が、本件発明1では、乳化重合法であるのに対し、甲8発明では懸濁重合法である点

b 判断
(a)相違点7について
甲8には、その特許請求の範囲の請求項1に、セルロース繊維は、その表面が、水系における重合性成分のグラフト重合により、グラフト修飾されていることが記載されており、その具体例として甲8発明ではスチレングラフト修飾ナノMFCを使用しているといえる。
そして、上記(ア)b(a)で述べたように、甲2?甲7の1には、アニオン変性セルロースナノファイバーの分散液中でエチレン性不飽和単量体を乳化重合することは記載されていないから、甲8発明において、スチレングラフト修飾ナノMFCをアニオン変性セルロースナノファイバーとすることに動機づけがあるとはいえない。
よって、相違点7を本件発明1のとおりに構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

c 小括
よって、相違点8及び9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲8に記載された発明及び甲2?甲7の1の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件発明2?4
本件発明2?4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2?4は、上記「ア」で示した理由と同じ理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2及び3について
(1)特許法第36条第6項第1号の考え方について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点に立って検討する。

(2)特許法第36条第4項第1号の考え方について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の製造方法の発明では、その物を製造すること、その方法により生産した物の利用について具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造することができる程度にその発明が記載されてなければならないと解される。
よって、この観点に立って、本願の実施可能要件の判断をする。

(3)特許請求の範囲の記載
上記「第2」に記載したとおりである。

(4)発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(a)「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0005】
そこで、本発明は、セルロースナノファイバーが、ゴムや樹脂中に均一に分散し、高い強度を発現する、セルロースナノファイバーと樹脂(エチレン不飽和単量体の共重合体)との複合体の製造方法を提供することを目的とする。」

(b)「【0009】
<セルロースナノファイバー>
(セルロースナノファイバー)
本発明において、セルロースナノファイバー(CNF)は、繊維幅が4?500nm程度、アスペクト比が100以上の微細繊維であり、化学処理(カチオン化、アニオン化:カルボキシル化(酸化)、カルボキシメチル化、エステル化、その他機能性官能基導入)したセルロースを解繊することによって得ることができる。
・・・
【0011】 (カルボキシメチル化) 本発明において、化学変性セルロースとして、カルボキシメチル化したセルロースを用いる場合、カルボキシメチル化したセルロースは、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより得てもよいし、市販品を用いてもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01?0.50となるものが好ましい。そのようなカルボキシメチル化したセルロースを製造する方法の一例として次のような方法を挙げることができる。セルロースを発底原料にし、溶媒として3?20質量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用する。なお、低級アルコールを混合する場合の低級アルコールの混合割合は、60?95質量%である。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5?20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0?70℃、好ましくは10?60℃、かつ反応時間15分?8時間、好ましくは30分?7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05?10.0倍モル添加し、反応温度30?90℃、好ましくは40?80℃、かつ反応時間30分?10時間、好ましくは1時間?4時間、エーテル化反応を行う。
【0012】
(カルボキシル化)
本発明において、化学変性セルロースとしてカルボキシル化(酸化)したセルロースを用いる場合、カルボキシル化セルロース(酸化セルロースとも呼ぶ)は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより得ることができる。特に限定されるものではないが、カルボキシル化の際には、アニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、カルボキシル基の量が0.6?2.0mmol/gとなるように調整することが好ましく、1.0mmol/g?2.0mmol/gになるように調整することがさらに好ましい。
・・・
【0026】
(エステル化)
本発明において、化学変性セルロースとして、リン酸基を導入したセルロースを用いる場合、セルロース原料に、リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種、あるいは2種以上を併用してリン酸基を導入することができる。」

(c)「【0037】
〔実施例1〕
<TEMPO酸化セルロースナノファイバーの製造>
針葉樹由来の漂白済み未叩解サルファイトパルプ(日本製紙社)5g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム754mg(7.4mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)18ml添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応した後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで酸化パルプを得た。酸化パルプに0.1Nの塩酸水溶液を加えて(塩酸の添加量:パルプ絶乾質量に対して0.1質量%)、pH2.8の5%(w/v)パルプスラリーを調製し、90℃で2時間酸加水分解処理した。酸加水分解処理した酸化パルプを水洗し、0.1N水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、超高圧ホモジナイザー(140MPa)で10回処理したところ、透明なゲル状分散液が得られた。得られた1.5%(w/v)のカルボキシル化セルロースナノファイバー分散液を次の乳化重合に供した。なお、得られたセルロースナノファイバーは、平均繊維系が4nm、アスペクト比が150であった。
【0038】
(カルボキシル基量の測定方法)
カルボキシル化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出した:
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシル化セルロース質量〔g〕。
【0039】
(平均繊維径、アスペクト比の測定方法)
アニオン変性CNFの平均繊維径および平均繊維長は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析した。なおアスペクト比は下記の式により算出した:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径。
【0040】
<乳化重合>
攪拌機、温度計、冷却管、窒素導入管を取り付けた500mlの反応容器に上記のセルロースナノファイバー分散液(固形分1.5%)を667部、エチルアクリレート単量体 100部、アニオン性乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ 5部を仕込み、常温で、ゆっくり攪拌しながら5分間窒素パージを行った。次に、ウォータバスにて反応容器内の液温が70℃になるまで昇温させた後、少量の水に溶解した過硫酸アンモニウム1部を開始剤として投入し、120分間反応を行い、重合率90%以上の乳化物を得た。
【0041】
(重合率)
得られた乳化物の一部を105℃、2時間の条件で乾燥し、乾燥操作前後の重量差から算出した値であり、モノマーの内、重合したものは固形分として残り、未反応のモノマーは乾燥操作時に揮発して除去されることを応用したものである。
重合率(%)=(乾燥後の重量/乾燥前の重量)×100
【0042】
〔実施例2〕
乳化重合に供した単量体がエチルアクリレートから、ブチルアクリレートに変わった以外は実施例1と同様の方法で乳化重合を行い、重合率90%以上の乳化物を得た。乳化物の状態の評価、分散状態の評価共に良好であった。
【0043】
〔実施例3〕
乳化重合に供した単量体がエチルアクリレートから、メチルメタクリレートに変わった以外は実施例1と同様の方法で乳化重合を行い、重合率90%以上の乳化物を得た。
【0044】
〔実施例4〕
乳化重合に供した単量体がエチルアクリレートから、スチレンに変わった以外は実施例1と同様の方法で乳化重合を行い、重合率80%以上の乳化物を得た。反応速度が実施例1?3に比べると遅いため、反応時間は6時間を要した。
【0045】
〔比較例1〕
実施例1に記載の方法で、セルロースナノファイバーを配合しないエチルアクリレートの乳化物と、実施例1に記載の方法でセルロースナノファイバーを別々に作成し、両者を易回流の条件でコールドブレンドして、複合材料を得た。両者の混合は、常温にて攪拌中のセルロースナノファイバー分散液にゆっくりとエチルアクリレートの乳化物を添加して得た。
【0046】
〔実施例5〕
下記の方法で作製されたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーに変更した以外は実施例1と同様の乳化重合操を行い、重合率90%の乳化物を得た。
【0047】
<カルボシキシメチル化セルロースナノファイバーの製造>
パルプを混ぜることができる攪拌機に、パルプ(LBKP、日本製紙(株)製)を乾燥重量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥重量で88g加え、パルプ固形分濃度が15%になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後に70℃まで昇温し、モノクロロ酢酸ナトリウムを117g(有効成分換算)添加した。1時間反応した後に、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.05のアニオン変性されたセルロースを得た。その後、アニオン変性したパルプを固形濃度1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、140MPaの圧力で5回処理し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの分散液を得た。なお、得られたセルロースナノファイバーは、平均繊維径が16nm、アスペクト比が40であった。
【0048】
<グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定方法>
カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにした。水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5?2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうした。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定した。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式Aによって算出した。
【0049】
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター。
【0050】
<評価>
【0051】
(乳化物の状態評価)
得られた乳化物を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:エマルションの流動状態が良く、凝固物の生成がない状態
△:エマルションがやや増粘、または少量の粒状凝固物が生成している状態
×:エマルションが著しく増粘、または塊状の凝固物が多数生成している状態
【0052】
(乳化物におけるセルロースナノファイバーの分散状態の評価)
得られた乳化物の一部を採取し、水で大希釈したのち、デジタルマイクロスコープ(ハイロックス社製 KH-8700)で200倍に拡大して観察(以下CCD観察)し、状態を以下の基準で目視評価した。
○:繊維の凝集体がほとんど観察されない状態。
△:複数の繊維が絡み合った凝集体がCCD観察画面内に散見される状態。
×:CCD観察画面に必ず繊維の凝集体が観察される状態。
【0053】
(樹種中におけるセルロースナノファイバーの分散状態の評価)
乳化物をオーブン(105℃)で加熱乾固させた後、熱プレス(180℃)で厚さ1mm以下のシート状に成形したものをサンプルとして用いた。成形したサンプルの一部をデジタルマイクロスコープ(ハイロックス社製 KH-8700)で200倍に拡大して観察し、状態を以下の基準で目視評価した。
○:樹脂薄膜は均一で、繊維の凝集体は観察されない状態。
△:樹脂薄膜は概ね均一だが、繊維の凝集粒が散見される状態。
×:観察画面の至る所に繊維の凝集粒が観察される状態。
【0054】
(複合材料の強度特性評価)
乳化物をオーブン(105℃)で加熱乾固させた後、熱プレス(200℃)で厚さ1mm以下のシート状に成形したものをサンプルとして用いた。シート状のサンプルをダンベル型(測定部の幅約5mm、厚さ約1mm)に打ち抜いて、引張試験機(エー・アンド・デイ社 テンシロン万能試験機 RTG-1210)に供して引張試験を行った(引張速度5mm/min)。



(5)本件発明の課題について
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】及び発明の詳細な説明全体の記載からみて、本件発明1?4の課題は、セルロースナノファイバーが、ゴムや樹脂中に均一に分散し、高い強度を発現する、セルロースナノファイバーと樹脂(エチレン不飽和単量体の共重合体)との複合体の製造方法を提供することであると認める。

(6)判断
ア 申立理由2及び3のアについて
(ア)サポート要件について
特許請求の範囲の請求項1には、「アニオン変性セルロースナノファイバー」と記載されているところ、発明の詳細な説明には、本発明におけるセルロースナノファイバーは、化学処理したセルロースを解繊することに得ることができ、化学処理としてアニオン化が記載され(摘記(b)の段落【0009】を参照)、アニオン化の具体例として、カルボキシルメチル化、カルボキシル化及びリン酸基を導入することが記載されている(摘記(b)の段落【0011】、【0012】及び【0026】を参照)。そして、実施例1?5として、カルボキシル化セルロースナノファイバー及びカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを使用した複合体の製造方法の具体例が記載され、樹脂中におけるセルロースナノファイバーの分散状態について、繊維の凝集体は観察されず優れていること、複合材料の引張強度が高いことが具体的なデータとともに示されている。
このように、本件明細書の発明の詳細な説明には、アニオン化セルロースナノファイバーが記載され、本件発明1のうちの具体例として、本件発明1の課題が解決できたことが記載されているから、具体的に記載がないアニオン化セルロースを用いる場合においても、発明の詳細な説明の記載に基づき、発明の課題が解決できることが当業者に認識できるということができる。
これに対して、申立人は、具体的な反証を挙げた上で、本件発明の全体にわたり本件発明の課題が解決できるといえないことを主張している訳ではない。
したがって、本件発明1及び4が発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。

(イ)実施可能要件について
上記(ア)で述べたとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明である複合体を製造することが記載されているから、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、本件発明1及び4の複合体を製造することができる程度にその発明が記載されているといえる。

イ 申立理由2及び3のイについて
(ア)サポート要件について
特許請求の範囲の請求項2には、「アニオン変性セルロースナノファイバーが、アニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾重量に対して、カルボキシル基の量が0.6mmol/g?2.0mmol/gである酸化セルロースナノファイバーであること」が記載されているところ、本件明細書の発明の詳細な説明のうち実施例1?4には、カルボキシル基の量の記載はない。

しかしながら、上記ア(ア)で述べたように、本件発明1の「アニオン変性セルロースナノファイバー」のうち、カルボキシル化セルロースナノファイバーに関し、具体例として実施例に本件発明1の課題が解決できたことがデータとともに記載されている。ここで、実施例1?4に具体的なカルボキシル基の量の記載がないとはいえ、発明の詳細な説明の段落【0012】には、「カルボキシル基の量が0.6?2.0mmol/gとなるように調整することが好ましく」と記載されている(摘記(b))から、当業者であれば本件発明2についても課題が解決できると認識できるということができる。
これに対して、申立人は、具体的な反証を挙げた上で、本件発明2について課題が解決できるといえないことを主張している訳ではない。
したがって、本件発明2が発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。

(イ)実施可能要件について
上記(ア)で述べたとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2のカルボキシル化セルロースの具体例が記載され、その製造方法は周知技術であるといえるから、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、本件発明2の複合体を製造することができる程度にその発明が記載されているといえる。

(7)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由2及び3によっては、本件発明1、2及び4に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-09-28 
出願番号 特願2015-33116(P2015-33116)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08F)
P 1 651・ 536- Y (C08F)
P 1 651・ 121- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 杉江 渉
特許庁審判官 安田 周史
佐藤 健史
登録日 2019-11-08 
登録番号 特許第6612038号(P6612038)
権利者 日本製紙株式会社
発明の名称 複合体の製造方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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