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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1366999
異議申立番号 異議2020-700461  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-07 
確定日 2020-10-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6630025号発明「半導体製造用部品、複合体コーティング層を含む半導体製造用部品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6630025号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6630025号の請求項1?15に係る特許についての出願は,2017年12月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年12月20日:韓国)を国際出願日とする出願であって,令和元年12月13日にその特許権の設定登録がされ,令和2年1月15日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,令和2年7月7日に特許異議申立人古川興輝(以下「申立人」という。)は,特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6630025号の請求項1?15の特許に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明15」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
SiC及びCを含む複合体を含み,
前記複合体のうちSi:Cの原子比は,1:1.1?1:1.3である半導体製造用部品。
【請求項2】
前記半導体製造用部品は,フォーカスリング,電極部,及びコンダクターからなる群より選択される少なくともいずれか1つを含むプラズマ処理装置部品である,請求項1に記載の半導体製造用部品。
【請求項3】
前記複合体のうち前記Cは,前記SiCの間に存在する,請求項1に記載の半導体製造用部品。
【請求項4】
前記複合体のうち前記Cは,熱分解炭素として存在する,請求項1に記載の半導体製造用部品。
【請求項5】
半導体製造用部品と,
前記半導体製造用部品の少なくとも一面に形成されたSiC及びCを含む複合体コーティング層と,
を含み,
前記複合体のうちSi:Cの原子比は,1:1.1?1:1.3である,複合体コーティング層を含む半導体製造部品。
【請求項6】
前記半導体製造用部品は,グラファイト,SiC又はこの2つを含む,請求項5に記載の複合体コーティング層を含む半導体製造部品。
【請求項7】
前記複合体コーティング層を含む半導体製造用部品は,フォーカスリング,電極部,及びコンダクターからなる群より選択される少なくともいずれか1つを含むプラズマ処理装置部品である,請求項5に記載の複合体コーティング層を含む半導体製造部品。
【請求項8】
前記複合体コーティング層の平均的な厚さは,1mm?3mmである,請求項5に記載の複合体コーティング層を含む半導体製造部品。
【請求項9】
グラファイト,SiC又はこの2つを含む母材に,Si前駆体及びC前駆体ソースを用いた化学的気相蒸着法によってSiC及びCを含む複合体を形成するステップを含み,前記複合体のうちSi:Cの原子比は,1:1.1?1:1.3である,半導体製造用部品の製造方法。
【請求項10】
前記SiC及びCを含む複合体を形成するステップは,1000℃?1900℃の温度で行われる,請求項9に記載の半導体製造用部品の製造方法。
【請求項11】
前記SiC及びCを含む複合体を形成するステップの前に,Si前駆体及びC前駆体を混合するステップを含む,請求項9に記載の半導体製造用部品の製造方法。
【請求項12】
半導体製造用部品を備えるステップと,
前記半導体製造用部品の少なくとも一面にSi前駆体及びC前駆体を用いて化学的気相蒸着法によってSiC及びCを含む複合体コーティング層を形成するステップと,
を含み,前記複合体のうちSi:Cの原子比は,1:1.1?1:1.3である,複合体コーティング層を含む半導体製造用部品の製造方法。
【請求項13】
前記半導体製造用部品は,グラファイト,SiC又はこの2つを含む,請求項12に記載の複合体コーティング層を含む半導体製造用部品の製造方法。
【請求項14】
前記SiC及びCを含む複合体コーティング層を形成するステップは,1000℃?1900℃の温度で行われる,請求項12に記載の複合体コーティング層を含む半導体製造用部品の製造方法。
【請求項15】
前記SiC及びCを含む複合体コーティング層を形成するステップの前に,Si前駆体及びC前駆体を混合するステップを含む,請求項12に記載の複合体コーティング層を含む半導体製造用部品の製造方法。」


第3 申立理由の概要
申立人は,主たる証拠として下記の甲第1号証及び甲第2号証を,従たる証拠として下記の甲第3号証ないし甲第8号証を提出し,以下の(1),(2)の旨主張する。
(1)本件特許の請求項1?15に係る発明は,特許法29条1項3号に該当し,同法同条1項の規定に違反して特許されたものであるから,本件の請求項1?15に係る特許は取り消すべきものである。
(2)本件特許の請求項1?15に係る発明は,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであるから,本件の請求項1?15に係る特許は取り消すべきものである。
また,申立人は以下の(3),(4)の旨主張する。
(3)本件の請求項1?15に係る特許は,特許法36条4項1号の要件に適合しない特許出願に対してされたものであるから,取り消すべきものである。
(4)本件の請求項1?15に係る特許は,特許法36条6項2号の要件に適合しない特許出願に対してされたものであるから,取り消すべきものである。



甲第1号証:平井敏雄,外2名,「化学気相析出法による炭化ケイ素の合成」,窯業協会誌,1983年11月,第91巻,第502?509頁
甲第2号証:特開2010-53380号公報
甲第3号証:特開2001-107239号公報
甲第4号証:特開2005-19724号公報
甲第5号証:特開2009-161858号公報
甲第6号証:特開平11-228233号公報
甲第7号証:韓国公開特許第10-2011-0026969号公報
甲第8号証:韓国公開特許第10-2014-0074531号公報


第4 甲号証の記載
1.甲第1号証の記載及び甲1発明
(1)甲第1号証の記載
甲第1号証には次の記載がある。(下線は当審による。以下同じ。)
ア「炭化ケイ素 (SiC) は, 高温でも耐酸化性, 耐クリープ, 耐熱衝撃に優れ, 更に高硬度, 高強度であるため, 高温での構造用材料として有望であると考えられている。 またSiCは, 低原子番号 (low Z) 材料であるため, プラズマ汚染が少なく, 放射線による照射損傷を受け難いなどの理由で, 核融合炉第1壁材料として検討が進められている^(1))。SiCの諸性質を調べるにはできるだけ高純度, 高密度で, また厚い試料が必要である。 SiC成形体を得るには種々の方法, 例えば反応焼結法, 再結晶法, ホットプレス法, CVD法等がある。 これらの方法の中で, 高純度, 高密度のSiCを合成するにはCVD法が適当である。」(第503頁左欄第2行?第13行)

イ「そこで本研究では, SiCl_(4)+C_(3)H_(8)+H_(2)を原料ガスとし, 厚さ数mmの板状のSiCが生成するCVD条件を明らかにすることを目的とした。 本報文には, 高密度のSiCが得られるCVD条件, SiCの密度, 表面組織, 生成速度について調べた結果を示し, 更に, 生成機構と表面組織との関係についても言及する。」(第503頁右欄第11行?第16行)

ウ「図4及び図5に, T_(dep)=1300°?1800℃での炭素濃度とFR(C_(3)H_(8)) の関係を示す。いずれのT_(dep), P_(tot)でも, FR(C_(3)H_(8))=10?40 cm^(3)/minでは, 炭素濃度は約30wt%であった。この値はSiC中のCの化学量論組成 (30.01wt%) によく一致する。FR(C_(3)H_(8))=55cm^(3)/min以上では, 炭素濃度は30?50wt%の範囲で変化した。
図6及び図7に, T_(dep)=1300°?1800℃での密度とFR(C_(3)H_(8)) の関係を示す。 いずれのT_(dep), P_(tot)でも, FR(C_(3)H_(8))=10?40cm^(3)/minでは密度は約3.2g/cm^(3)であった。 この値はSiCの理論密度^(8))にほぼ一致する。 FR(C_(8)H_(8))=55cm^(3)/min以上では, 密度は3.2?2.4g/cm^(3)の範囲で変化した。
X線回折による構造解析から, 炭素濃度が約30wt%, 密度が約3.2g/cm^(3)の試料はいずれもβ-SiCであり, 遊離Siあるいは遊離Cの存在は認められなかった。 一方, 炭素濃度が30wt%よりも多く密度が3.2g/cm^(3)よりも小さい試料は, いずれもβ-SiCとCの混合物であることが確認された。」(第505頁左欄第8行?右欄第14行)

エ「SiCl_(4)+C_(3)H_(8)+H_(2)ガスを原料とし, CVD法を用いて, T_(dep)=1300°?1800℃, P_(tot)=30?760Torr, FR(C_(3)H_(8))=10?90cm^(3)/minの条件でSiCの合成を試み, 以下の結果を得た。
(1) 上記の条件で得られる析出物の形状は "plate", "island", "granule", の3種類に分類することができ, P_(tot)が高いほどplate状の析出物が得られる範囲は広い。
(2) いずれのT_(dep)及びP_(tot)でも, FR(C_(3)H_(8))=10?40cm^(3)/minでβ-SiCが得られ,FR(C_(3)H_(8))=70cm^(3)/min以上ではβ-SiCとCの混合物が得られた。 また, FR(C_(3)H_(8))=55cm^(3)/minが遊離Cの生成し始める境界条件であることが分った。
(3) β-SiCの密度は約3.2g/cm^(3)であり, 炭素濃度は約30wt%であった。 これらの値はβ-SiCのそれぞれの理論値とよく一致する。 β-SiCとCの混合物の密度は3.2?2.4g/cm^(3), 炭素濃度は30?50wt%の範囲で変化した。 また, β-SiCとCの混合物には多くの気孔が含まれることが分った。
(4) β-SiCの表面組織は低P_(tot)でファセットの発達したピラミッド状, 高P_(tot)でコーン状であった。
(5) β-SiCの生成速度はいずれのT_(dep)及びP_(tot)でも, FR(C_(3)H_(8)) の増加とともに増大し, T_(dep)=1600℃, P_(tot)=30Torr, FR(C_(3)H_(8))=25cm^(3)/minで最高1.4mm/hに達した。 β-SiCの生成の活性化エネルギーは, P_(tot)=30Torrで12?26 kcal/mol, P_(tot)=760Torrで10?12kcal/molであった。」(第508頁左欄第25行?右欄第17行)

(2)甲1発明
上記イ,エの記載から,甲第1号証には,CVD法によりβ-SiCとCの混合物を含む析出物を得たことが記載されていると理解できる。
また,上記ウ,エの記載から,甲第1号証には,得られたβ-SiCとCの混合物の炭素濃度が30?50wt%であることが記載されていると理解できる。
ここで,Siの原子量28,Cの原子量を12として上記のwt%を原子比に換算すると,炭素濃度が30wt%のとき,C原子量は0.3/12=0.025,Si原子量は0.7/28=0.025から,Si:Cの原子比は1:1となる。同様に,炭素濃度が50wt%のとき,C原子量は0.5/12=0.042,Si原子量は0.5/28=0.018から,Si:Cの原子比は1:2.3となる。
そうすると,甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「β-SiCとCを含む混合物を含み,前記混合物のうちSi:Cの原子比は1:1?1:2.3である析出物。」

2.甲第2号証の記載及び甲2発明
(1)甲第2号証の記載
甲第2号証には次の記載がある。
「【0001】
本発明は,切削工具,金型,耐摩耗部品,光ディスクや磁気ディスクのような記憶媒体の保護膜等に用いられる,硬質薄膜材料の一つであるアモルファス炭化ケイ素(a-SiC_(x):H)膜の形成方法に関する。」
「【0005】
本発明は,このような現状に鑑み,切削工具等のコーティング材料として必要な硬度を有するアモルファス炭化ケイ素(a-SiC_(x):H)膜を,簡単な工程で効率良く低コストで形成する方法を提供することを目的とする。」
「【0012】
本発明によれば,アモルファス炭化ケイ素膜の硬度が30-70GPaと,従来の結晶性或いはアモルファス炭化ケイ素により構成された硬質膜では実現することができなかった,硬質のアモルファス炭化ケイ素膜を得ることができる。本発明により得られるアモルファス炭化ケイ素膜のケイ素に対する炭素の原子比[C]/[Si]は1.1-1.8程度であると思われる。」
「【0018】
この計測の際には,装置に付属したArエッチング装置を作動させることにより,薄膜の表面がAr^(+)イオンによりエッチングされて薄膜の組成が変化する。したがって,表1にはAr^(+)イオンによるエッチングを行う前と後の測定値を記載した。なお,-V_(RF)=0Vは,基板に負の高周波バイアス電圧を印加していない対照例である。 元素分析の結果,アモルファス炭化ケイ素(a-SiC_(x):H)膜のxの値は1.06-1.73の範囲にあった。-V_(RF)= 100Vのxの値は-V_(RF)= 0Vの値に比べてやや大きい結果となった。Arイオンによるエッチングの前後でxは減少する傾向にあったが,減少の大きさは-V_(RF)= 0Vの場合には0.26であったのに対し,-V_(RF)= 100Vでは0.47と大きな値を示した。このことから,-V_(RF)= 100Vでは-V_(RF)= 0Vに比べ,膜表面近傍にC原子の割合が高い層が形成されることが示唆された。
【0019】
-V_(RF)=0V,50V及び100Vで形成した薄膜について,超微小押し込み硬さ測定器(Fisher H-100)を用いて膜の硬度を測定した結果を図3に示す。この測定では,Berkovitch圧子を用い,最大で7mNの荷重をかけて,最大の押し込み深さから膜硬度を決定した。 図3中,(a),(b),(c)はそれぞれ-V_(RF)= 0,50,100Vに対応する。□が荷重を増加させたとき(荷重曲線),◇が荷重を減少させたとき(除荷曲線)に対応する。最大押し込み深さは(a)409nm,(b)112nm,(c)62nm,であった。これらの値を膜硬度に換算すると(a)1.6GPa,(b)21GPa,(c)69GPaであった。単結晶のSiCの硬度は20-25GPaとされているので,本発明の(c)で得られた硬度はこれを遥かに上回っている。この原因については検討中であるが,元素分析の結果等を考慮すると,高周波バイアスを印加した条件下で作成されたa-SiC_(x):H薄膜は,表面近傍に結晶性は示さないもののC原子を多く含む層が形成されて,本来のSiCよりも高い硬度を示したと推定される。」

(2)甲2発明
以上の記載から,甲第2号証には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「表面近傍にC原子を多く含む層が形成され,
ケイ素に対する炭素の原子比[C]/[Si]が1.1?1.8であるアモルファス炭化ケイ素膜」

3.甲第3?8号証の記載
(1)甲第3号証の記載
甲第3号証には次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,耐食性に優れたCVD-SiCおよびそれを用いた耐食性部材,ならびに処理装置に関する。本発明のCVD-SiCが適用される耐食性が要求される部材としては,CVD装置等に用いられるサセプタ,シールドリング,シャワーヘッド,クランプリング,デポシールドリング等を挙げることができる。また,このような耐食性部材が適用される本発明の処理装置としては,上述のCVD装置の他,エッチング装置,RTP(Rapid Thermal Process)装置や,レジスト塗布・現像処理を行う際に用いられる加熱装置等を挙げることができる。
【0002】
【従来の技術】半導体デバイスの製造においては,半導体ウエハ上に例えばpoly-Si層や,Al,W,Cu等のメタル層を形成する工程があり,これらの形成方法の一つとしてCVD(Chemical Vapor Deposition)が用いられている。
【0003】半導体ウエハに枚葉式CVDにより所定の膜を形成する際には,半導体ウエハはチャンバー内に配置されたサセプタ上に載置される。また,サセプタに載置された半導体ウエハの外側にはシールドリングが設けられる。これらサセプタやシールドリングとしては,従来,アモルファスカーボン,焼結SiC,基材をCVD-SiCで被覆したものが多用されている。」
「【0036】そこで,ClF_(3)等のハロゲン含有ガスに対する耐食性が高いCVD-SiCを得るために研究を重ねた結果,β-SiCの表面の(220)面および(311)面の存在比率が高くなると,ClF_(3)等のハロゲン含有ガスに対する耐食性が良好になるということが判明した。
【0037】つまり,従来のβ-SiCは,(111)面および(222)面が主要な面であるが,本発明では(220)面および(311)面の存在比率が0.15以上となるようにβ-SiCを配向させることにより,ClF_(3)等のハロゲン含有ガスに対する耐食性が高くなるのである。なお,本発明のCVD-SiCは,全てがこのようなβ-SiC結晶で構成されていなくてもよい。」
「【0054】このCVD成膜装置1において,サセプタ3,シールドリング5,シャワーヘッド9が基材上に本発明のCVD-SiCが被覆されて構成されている。このためこれらの部材はClF_(3)ガス等のハロゲン含有ガスに対する耐食性が高い。したがって,処理ガスによる成膜処理の後,ClF_(3)ガスからなる洗浄ガスに切り換えて洗浄ガスをチャンバー2内に導入し,チャンバー2内をin-situクリーニングする際に,これらの部材はエッチングされ難い。
【0055】また,図2は,チャンバー2’内に抵抗加熱タイプのサセプタ21を支持部材22で支持した状態で設け,このサセプタ21上にクランプリング24によりウエハWを固定して,図1の場合と同様に成膜処理およびクリーニングを行うCVD成膜装置1’を示す。サセプタ21内にはPG(Pyrolytic graphite)ヒーター23が埋設されている。このCVD成膜装置1’のサセプタ21およびクランプリング24も基材上に本発明のCVD-SiCを被覆されて構成されている。このため,これら部材はClF_(3)ガス等のハロゲン含有ガスに対する耐食性が高い。したがって,同様にクリーニング処理を行う際に,これらの部材はエッチングされ難い。」
「【0065】このプラズマエッチング装置50において,チャンバー52内に配置された部材である,サセプタ53,フォーカスリング57,上部電極60の電極板61,シールドリング70,デポシールド72が基材上に本発明のCVD-SiCが被覆されて構成されている。」

(2)甲第4号証の記載
甲第4号証には次の記載がある。
「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は半導体熱処理用部材に係わり,特にSiC被覆カーボンを用いた半導体熱処理用部材に関する。
【0002】
【従来の技術】 一般にSiC被覆カーボンを用いたエピタキシャル成長用サセプタは,任意の形状に加工したカーボン基材にSiC膜を被覆して製造される。サセプタの耐食性能は,SiC膜の結晶性に大きく影響される。すなわち耐食性を高めるためには,表面が結晶性の良好なSiC膜のファセット,結晶軸,格子点で覆われている状態が好適である。一方,SiC結晶が非常に発達したサセプタでは,表面粗さが粗くなり,半導体ウェーハの裏面に傷を付け易く,スリップ発生の重大な要因の一つとなっていた。」

(3)甲第5号証の記載
甲第5号証には次の記載がある。
「【0001】
本発明は,半導体製造工程におけるエピタキシャル成長装置や,インラインクリーニングがなされる化学気相蒸着(Chemical Vapor Deposition,以下,CVDという)装置の治具として用いられる,金属やクリーニングガスに対して耐食性に優れた耐食性CVD-SiCによって基材表面が被覆された耐食性CVD-SiC被覆材及びこれを用いたCVD装置用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より,半導体製造工程における各種装置の構成部品や,治具等には,SiC単独のものや,黒鉛等の炭素質材料やセラミックス等からなる基材表面をSiCで被覆したSiC被覆材が広く利用されている。」
「【0011】
本発明者らは,表面に形成されているβ-SiCの(111)面が,形成される主な結晶面中に占める比率が0.5以下であるときに,インラインクリーニングに使用されるClF,ClF_(3) ,ClF_(5) ,NF_(3) ,HCl,Cl_(2) ,HF等のガスに対する耐エッチング性が優れていること,また,Al,Cr,Fe,Co,Ni,Cu等の金属のうち1若しくはこれら2以上からなる合金に対して耐食性を有することを見いだし,本発明を完成させた。」
「【0023】
図6にLPCVD装置の反応室の断面概略図を示す。LPCVD装置とは,Low Pressure CVD装置の略であり,図に示すように,ウェハー14を載置するSiC製のボート13と,SiC製の均熱管12とから構成されており,減圧下でCVD処理が行われ,ウェハー14に多結晶シリコン膜や窒化ケイ素膜等の形成や拡散に使用される。ここで,本発明に係る治具はボート13と,均熱管12である。
【0024】
図7にはRTPCVD装置の反応室の断面概略図を示す。RTPCVD装置とは,Rapid Thermal Processing CVD装置の略であり,図に示すように,ウェハー23を載置するSiC製のサセプター22と,サセプター22を載置するSiC製の治具24とから構成されており,ハロゲンランプによる昇温加熱がなされ,局所加熱的に酸化やCVDが行える装置であり,多結晶シリコン膜や窒化ケイ素膜の形成に使用される。ここで,本発明に係る治具はサセプター22,サセプター22を載置するSiC製の治具24とである。」

(4)甲第6号証の記載
甲第6号証には次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,高純度で耐熱性や強度特性に優れ,特に光不透過性に優れ,例えば半導体製造用装置の熱処理装置用遮蔽体,均熱リング等の各種耐熱部材など,あるいは半導体製造用装置の拡散炉装置,エッチング装置,CVD装置などに用いられるダミーウエハや各種部材として好適に用いることのできるSiC成形体及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】SiCは耐熱性,耐蝕性,強度特性等の材質特性が優れており,各種工業用の部材として有用されている。特に,CVD法(化学的気相蒸着法)を利用して作製したSiC成形体(CVD-SiC成形体)は,緻密で高純度であるため半導体製造用の各種部材をはじめ高純度が要求される用途分野において好適に用いられている。
【0003】このCVD-SiC成形体は,原料ガスを気相反応させて基材面上にSiCの結晶粒を析出させ,結晶粒の成長により被膜を形成したのち基材を除去することにより得られるもので,材質的に緻密,高純度で組織の均質性が高いという特徴がある。」
「【0010】
【発明が解決しようとする課題】そこで,本発明者らはCVD-SiC成形体の性状と光特性との関係について研究した結果,SiC成形体の材質組織として光を散乱・反射させる層が存在すると光透過性を低くできることを見出した。本発明はこの知見に基づいて開発されたものであり,その目的は高純度で耐熱性や強度特性に優れ,特に光不透過性に優れ,例えば遮蔽体やダミーウエハ等の半導体製造用の各種部材,あるいは熱処理装置用の各種耐熱部材等として好適に用いることのできる高純度なβ型結晶からなるCVD-SiC成形体及びその製造方法を提供することにある。」
「【0016】例えば,平均粒子径が大きいSiC層から平均粒子径が小さいSiC層へ光が通過する場合,界面において複雑な光の散乱,屈折,反射等が起こって光透過性が低下する。また,平均粒子径が小さいSiC層から平均粒子径が大きいSiC層へ光が通過する場合も同様に光透過性が低下する。本発明のSiC成形体は,この粒子性状の異なるSiC層を成形体の内部あるいは表面部に少なくとも1層設けることにより光の散乱,屈折,反射等の光特性を変化させて低透過率としたものである。すなわち,異なる粒子性状のSiC層を設けることにより結晶組織に乱れが生じ,光透過率が低下する。」

(5)甲第7号証の記載
甲第7号証には次の記載がある。(和訳は当審による。)


(和訳:[0031]すなわち,半導体基板やフラットパネルディスプレイ基板を移送する移送軸の軸受に本発明のシリコンカーバイド複合体を使用する場合には,シリコンカーバイドの合成及び耐熱性の特徴と共にそのシリコンカーバイド粒の間に熱分解カーボンが充填され,摩擦力が減少するため,軸受の寿命を延長するとともに,異物の発生を防止して半導体又は平板ディスプレイ製造工程の信頼性をより向上させることができる。
[0032]また,透過度が低い熱分解炭素が粒間に充填されてシリコンカーバイドの透過度を減少させることにより,半導体の拡散工程等に使用されるSiCダミーウェハーにより使用が可能となる。上記SiCダミーウェハーをSiC素材のみに使用する場合,透過度が高く,移送ロボットの感知が不可能にして使用が困難になる。)

(6)甲第8号証の記載
甲第8号証には次の記載がある。(和訳は当審による。)


(和訳:[0001]本発明は,プラズマ処理装置のシリコンカーバイド構造物に関し,より詳細には,シリコンカーバイド構造物の性能を向上させ寿命を延長させることができるプラズマ処理装置のシリコンカーバイド構造物に関する。)


(和訳:[0016]図1を参照すると,本発明の好ましい実施形態に係るプラズマエッチング装置のSiC構造物であるエッチングガスを供給する電極(10)は,通常,プラズマエッチング装置(1)の内部の上部側に位置することになる。)


(和訳:[0039]図8を参照してSiC構造物であるフォーカスリング(20)は,プラズマエッチング装置(1)の内部下側に位置する。図面では具体的に示していないが,処理対象物である基板の外縁に位置することになる。)

第5 当審の判断
1.特許法29条1項3号について
1.1.本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明における「β-SiCとCを含む混合物」は,本件発明1における「SiCおよびCを含む複合体」に相当する。
イ 本件発明1は「Si:Cの原子比は,1:1.1?1:1.3」であり,甲1発明は「Si:Cの原子比は1:1?1:2.3」であるから,両者はともに,「所定の範囲のSi:Cの原子比」である点で共通する。
ウ 本件発明1の「半導体製造用部品」と甲1発明の「析出物」は,「物」である点で共通する。
以上ア?ウから,本件発明1と甲1発明との一致点,相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「SiC及びCを含む複合体を含み,
前記複合体のうちSi:Cの原子比は,所定の範囲の原子比である物。」
<相違点1-1>
本件発明1では,「Si:Cの原子比は,1:1.1?1:1.3」の範囲であるのに対し,甲1発明では,「Si:Cの原子比は1:1?1:2.3」の範囲である点。
<相違点1-2>
本件発明1は「半導体製造用部品」であるのに対し,甲1発明は「析出物」である点。
(2)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
ア 本件特許明細書の段落[0035]には,次の記載がある。
「【0035】
本発明の一例によれば,前記複合体のうち前記Cは,前記SiCの間に存在するものであってもよい。ここで,C原子は,優れる耐プラズマ特性を有するSiC粒子の間に充填されてSiC及びCを含む複合体を形成するための物理的な結合を行う役割を果たす。このような結合により,さらに緻密な結晶界面が形成されることで,本発明に係る半導体製造用部品は優れる耐プラズマ特性を有することになる。」
また,本件特許明細書の段落[0048]には,次の記載がある。
「【0048】
本発明の一例によれば,前記SiC及びCを含む複合体を形成するステップは,1000℃?1900℃の温度で行われる。SiC及びCを含む複合体を形成するステップが1000℃未満の温度で行われる場合,蒸着速度が遅くなって生産性が低下し,結晶成長の過程で非晶質化又は結晶性が低下する問題が生じ,1900℃超過の温度で行われる場合,微細構造の緻密性が低下して気孔が発生したりクラックが発生する確率が高まる問題が生じる。」
これらの記載によれば,本件発明1の「SiC及びCを含む複合体」とは,例えばSiC粒子の間にC原子が充填されたものであり,非晶質SiCは好ましくないことが理解できる。
一方,上記第4の2.(1)で摘記した甲第2号証の記載,例えば「高周波バイアスを印加した条件下で作成されたa-SiC_(x):H薄膜は,表面近傍に結晶性は示さないもののC原子を多く含む層が形成されて」(段落[0019])との記載からみて,甲2発明における「表面近傍にC原子を多く含む層」は,少なくともSiC粒子の間にC原子が充填された状態ではなく,その意味で本件発明1の「複合体」には該当しないものといえる。
そうすると,本件発明1における「SiC及びCを含む複合体」と甲2発明の「表面近傍にC原子を多く含む層」は,「SiC及びCを含む層」である点で共通する。
イ 本件発明1は「前記複合体のうちSi:Cの原子比は,1:1.1?1:1.3である」のに対し,甲2発明は「ケイ素に対する炭素の原子比[C]/[Si]が1.1?1.8である」から,両者はともに,「所定の範囲のSi:Cの原子比」である点で共通する。
ウ 本件発明1の「半導体製造用部品」と甲2発明の「アモルファス炭化ケイ素膜」は,ともに「物」である点で共通する。
以上ア?ウから,本件発明1と甲2発明の一致点,相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「SiC及びCを含む層を含み,
前記層のうちSi:Cの原子比は,所定の範囲の原子比である物。」
<相違点2-1>
本件発明1では「SiC及びCを含む複合体」であるのに対し,甲2発明では「表面近傍にC原子を多く含む層」が「複合体」であると特定されていない点。
<相違点2-2>
本件発明1では「Si:Cの原子比は,1:1.1?1:1.3」の範囲であるのに対し,甲2発明では,「Si:Cの原子比は1:1.1?1:1.8」の範囲である点。
<相違点2-3>
本件発明1は「半導体製造用部品」であるのに対し,甲2発明は「アモルファス炭化ケイ素膜」である点。

(3)小括
上記1.1.(1)のとおり,本件発明1と甲1発明は相違点を有するから,本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。また,上記1.1.(2)のとおり,本件発明1と甲2発明は相違点を有するから,本件発明1は甲2号証に記載された発明ではない。

1.2.本件発明2?15について
本件発明2?15は,「Si:Cの原子比は,1:1.1?1:1.3」との特定事項を含むから,本件発明1について上記で検討したのと同様に,甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではない。

1.3.特許法29条1項3号についてのまとめ
以上のとおり,本件発明1?本件発明15は,甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではないから,特許法29条1項3号に該当せず同法同条1項の規定に違反して特許された発明とはいえない。

2.特許法29条2項について
2.1.本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明との相違点に対する判断
本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は,上記1.1.(1)に記載した以下のとおりである。
<一致点>
「SiC及びCを含む複合体を含み,
前記複合体のうちSi:Cの原子比は,所定の範囲の原子比である物。」
<相違点1-1>
本件発明1では,「Si:Cの原子比は,1:1.1?1:1.3」の範囲であるのに対し,甲1発明では,「Si:Cの原子比は1:1?1:2.3」の範囲である点。
<相違点1-2>
本件発明1は「半導体製造用部品」であるのに対し,甲1発明は「析出物」である点。

上記相違点について検討する。事案に鑑み,上記相違点1-1及び上記相違点1-2についてまとめて検討する。
上記第4の3.に摘記した甲第3号証ないし甲第8号証の記載から,SiCを半導体製造用部品に適用することは周知技術であるといえる。
しかしながら,たとえ上記周知技術を甲1発明に適用したとしても,当該適用の際にSi:Cの原子比を「1:1.1?1:1.3」の範囲に特定する特段の理由は,甲第1号証及び甲第3号証ないし甲第8号証には記載も示唆もされていない。
この点について,例えば,上記第4の3.に摘記した甲第3号証の段落[0036]には,「β-SiCの表面の(220)面および(311)面の存在比率が高くなると,ClF_(3)等のハロゲン含有ガスに対する耐食性が良好になる」と記載されているが,Si:Cの原子比を「1:1.1?1:1.3」の範囲に特定することと「ハロゲン含有ガスに対する耐食性」との関係については記載されていない。甲第5号証の段落[0011]にも「表面に形成されているβ-SiCの(111)面が,形成される主な結晶面中に占める比率が0.5以下であるときに,インラインクリーニングに使用されるClF,ClF_(3) ,ClF_(5) ,NF_(3 ),HCl,Cl_(2) ,HF等のガスに対する耐エッチング性が優れていること」と記載されているが,Si:Cの原子比を「1:1.1?1:1.3」の範囲に特定することと,インラインクリーニングに使用されるガスに対する耐エッチング性との関係については記載がない。甲第4号証の段落[0002]には,サセプタの耐食性能はSiCの結晶性に影響されることが記載され,甲第6号証の段落[0002]にはSiCが耐蝕性に優れていることが記載されているものの,Si:Cの原子比を「1:1.1?1:1.3」の範囲に特定すること関する記載や示唆は見当たらない。
そして,本件発明1はSi:Cの原子比を「1:1.1?1:1.3」の範囲に特定することにより,Si対比のプラズマエッチング比率が大きく向上する(本件特許の明細書段落[0055]?[0058]及び図3を参照。)という顕著な効果が得られるものである。
したがって,本件発明1は,甲1発明及び甲第3号証ないし甲第8号証から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(2)本件発明1と甲2発明との相違点に対する判断
本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点は,上記1.1.(2)に記載した以下のとおりである。
<一致点>
「SiC及びCを含む層を含み,
前記層のうちSi:Cの原子比は,所定の範囲の原子比である物。」
<相違点2-1>
本件発明1では「SiC及びCを含む複合体」であるのに対し,甲2発明では「表面近傍にC原子を多く含む層」が「複合体」であると特定されていない点。
<相違点2-2>
本件発明1では「Si:Cの原子比は,1:1.1?1:1.3」の範囲であるのに対し,甲2発明では,「Si:Cの原子比は1:1.1?1:1.8」の範囲である点。
<相違点2-3>
本件発明1は「半導体製造用部品」であるのに対し,甲2発明は「アモルファス炭化ケイ素膜」である点。

上記相違点について検討する。事案に鑑み,はじめに上記相違点2-2及び上記相違点2-3についてまとめて検討する。
上記第4の3.に摘記した甲第3号証ないし甲第8号証の記載から,SiCを半導体製造用部品に適用することは周知技術であるといえる。
しかしながら,たとえ上記周知技術を甲2発明に適用したとしても,当該適用の際にSi:Cの原子比を「1:1.1?1:1.3」の範囲に特定する特段の理由は,甲第2号証及び甲第3号証ないし甲第8号証には記載も示唆もされていない。
そして,本件発明1はSi:Cの原子比を「1:1.1?1:1.3」の範囲に特定することにより,Si対比のプラズマエッチング比率が大きく向上する(本件特許の明細書段落[0055]?[0058]及び図3を参照。)という顕著な効果が得られるものである。
したがって,上記相違点2-1について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2発明及び甲第3号証ないし甲第8号証から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(3)小括
上記2.1.(1)のとおり,本件発明1は,甲1発明及び甲第3号証ないし甲第8号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。また,上記2.1.(2)のとおり,本件発明1は,甲2発明及び甲第3号証ないし甲第8号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.2.本件発明2?15について
本件発明2?15は,「Si:Cの原子比は,1:1.1?1:1.3」との特定事項を含むから,本件発明1について上記で検討したのと同様にして,甲1発明及び甲第3号証ないし甲第8号証から,あるいは,甲2発明及び甲第3号証ないし甲第8号証から,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.3.特許法29条2項についてのまとめ
以上のとおり,本件発明1?15は,甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明,及び,甲第3号証ないし甲第8号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法29条2項の規定に違反して特許された発明とはいえない。

3.特許法36条4項1号について
特許異議申立書4.1)において申立人は,本件発明1,5,9,12においてSi:Cの原子比(C/Si比)を規定しているが,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,C/Si比を規定するために必要なC量やSi量について具体的な根拠が記載されていないこと,また,本件発明9,12において化学的気相蒸着法(CVD法)を要件としているが,本件特許明細書の発明の詳細な説明を参照しても具体的な製造条件が記載されていないことを根拠に,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1?15を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,特許法36条4項1号の規定に適合しない旨を主張している。

しかしながら,物の発明においてSi:Cの原子比が規定されていれば,必要なC量やSi量は直ちに計算可能である。また,本件発明1?15におけるSi:Cの原子比の作用効果については本件特許明細書の発明の詳細な説明の表1や本件特許の図3に示されている。さらに,方法の発明についても,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,段落[0047]にCVDで使用する前駆体ソースが開示され,段落[0048]には温度条件が記載されている。確かに,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,圧力や原料ガスの流量について記載されていないが,SiCのCVDにおいてSi原料ガス流量とC原料ガスの流量の比率を制御することでSi:Cの原子比を制御できること自体は,当業者の技術常識であるから(必要ならば甲第1号証を参照。),本件特許明細書の発明の詳細な説明にこれらの記載がないことで,本件発明の実施に当たり当業者に過度の試行錯誤を強いることになるとはいえない。
したがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,特許法36条4項1号の規定に適合するものである。上記申立人の主張は採用できない。

4.特許法36条6項2号について
特許異議申立書4.2)において申立人は次のような主張をしている。
「本件請求項1?4は,「半導体製造用部品」と規定しているのに対して,本件請求項5?8は,「半導体製造部品」と規定している。一方,本件請求項9?15は,いずれも「半導体製造用部品の製造方法」を規定しており,「半導体製造部品の製造方法」は規定していない。
そのため,用語「半導体製造用部品」と用語「半導体製造部品」の定義及び使い分けが不明確であり,また本件請求項5?8で規定された「半導体製造部品」 をどのように製造するのかも不明である。
したがって,本件請求項1?15で規定された発明特定事項の記載が不明確であり, 特許を受けようとする発明が明確でない。」

しかしながら,独立請求項はそれぞれの請求項につき個別に解釈されるべきものであるから,たとえ複数の独立請求項において同一の用語が異なる意味で用いられていたとしても,各請求項の記載全体から発明の外延が一義的に特定できていれば,各請求項に係る発明は明確であるといえる。
上記を踏まえ本件特許について検討すると,本件特許請求の範囲の請求項1,5,9及び12はいずれも独立請求項であり,各請求項の記載はそれぞれ明確であるから,本件特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号の規定に適合するものである。上記申立人の主張は採用できない。


第6 結言
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1?15に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-10-05 
出願番号 特願2019-532784(P2019-532784)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 536- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宇多川 勉  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 脇水 佳弘
小川 将之
登録日 2019-12-13 
登録番号 特許第6630025号(P6630025)
権利者 トーカイ カーボン コリア カンパニー.,リミテッド
発明の名称 半導体製造用部品、複合体コーティング層を含む半導体製造用部品及びその製造方法  
代理人 河野 登夫  
代理人 田中 伸次  
代理人 河野 英仁  

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