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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C25B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C25B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C25B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C25B
管理番号 1367004
異議申立番号 異議2020-700529  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-28 
確定日 2020-10-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第6637556号発明「アルカリ水電解用隔膜,アルカリ水電解装置,水素の製造方法及びアルカリ水電解用隔膜の製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6637556号の請求項1?20に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6637556号(請求項の数20。以下,「本件特許」という。)は,2016年(平成28年)3月18日(優先権主張:平成27年3月18日)を国際出願日とする特許出願(特願2017-506230号)の一部を,平成30年8月20日に新たな出願とした特許出願(特願2018-154030号)に係るものであって,令和1年12月27日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和2年1月29日である。)。
その後,令和2年7月28日に,本件特許の請求項1?20に係る特許に対して,特許異議申立人である小野敦史(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?20に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜を有し,
前記高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下であり,
周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上であり,
前記高分子多孔膜の両表面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合が,前記キャビテーション試験前後において,10%以上であり,
前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下である,アルカリ水電解用隔膜。
【請求項2】
前記高分子多孔膜の断面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合が,前記キャビテーション試験前後において,10%以上である,請求項1に記載のアルカリ水電解用隔膜。
【請求項3】
前記高分子多孔膜の両表面又は断面における前記親水性無機粒子の存在割合の,前記キャビテーション試験による減少度が0.20未満である,請求項1又は2に記載のアルカリ水電解用隔膜。
【請求項4】
前記高分子樹脂が,ポリスルホン,ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む,請求項1?3のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜。
【請求項5】
前記高分子多孔膜の厚みが,300μm以上600μm以下である,請求項1?4のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜。
【請求項6】
前記親水性無機粒子が,酸化ジルコニウムを含む,請求項1?5のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜。
【請求項7】
多孔性支持体をさらに含む,請求項1?6のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜。
【請求項8】
前記多孔性支持体が,メッシュ,不織布,織布,及び,不織布と前記不織布に内在する織布とを含む複合布からなる群より選ばれるいずれか1種である,請求項7に記載のアルカリ水電解用隔膜。
【請求項9】
前記多孔性支持体が,ポリフェニレンサルファイドを含む,請求項7又は8に記載のアルカリ水電解用隔膜。
【請求項10】
陽極と,
陰極と,
前記陽極と前記陰極との間に配置された,請求項1?9のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜と,
を備える,アルカリ水電解装置。
【請求項11】
請求項10に記載のアルカリ水電解装置に対して,変動電源を用いて電圧を印加することにより,アルカリ水を電解する工程を含む,水素の製造方法。
【請求項12】
(A)前記高分子樹脂と,当該高分子樹脂を溶解する溶媒と,前記親水性無機粒子とを含有する溶液を調製する工程と,
(B)前記溶液を基材に塗工し,当該基材上に塗膜を形成する工程と,
(C)前記塗膜の基材とは反対側の表面を,前記高分子樹脂の貧溶媒の蒸気を含む気体に晒す工程と,
(D)基材上の塗膜を,前記高分子樹脂の貧溶媒を含む凝固浴に浸漬させ,高分子多孔膜を形成する工程と,
を含む,請求項1?9のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜の製造方法。
【請求項13】
前記凝固浴中の前記貧溶媒が,更に前記溶媒を含む,請求項12に記載のアルカリ水電解用隔膜の製造方法。
【請求項14】
前記凝固浴中の溶媒の濃度が,30?70質量%である,請求項12又は13に記載のアルカリ水電解用隔膜の製造方法。
【請求項15】
前記溶媒が,N-メチル-2-ピロリドンを含む,請求項12?14のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜の製造方法。
【請求項16】
(E)前記高分子樹脂と,当該高分子樹脂を溶解する溶媒と,前記親水性無機粒子とを,得られる分散溶液の相分離温度よりも高い温度で混合して均一な分散溶液を得る工程と,
(F)前記分散溶液を分散溶液の相分離温度よりも高い温度で押出して成形して押出成形物を得る工程と,
(G)前記(F)工程で得た押出成形物を分散溶液の相分離温度以下に冷却して凝固させる工程と,
(H)前記(G)工程で得た押出成形物から溶媒を抽出して高分子多孔膜を得る工程と,
を含む,請求項1?9のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜の製造方法。
【請求項17】
さらに延伸工程を含む,請求項16に記載のアルカリ水電解用隔膜の製造方法。
【請求項18】
(I)高分子樹脂及び親水性無機粒子を含む混合物をペースト押出する工程と,
(J)押出されたペーストを圧延してシート状多孔質膜を得る工程と,
(K)得られたシート状多孔質膜をさらに縦方向及び/又は横方向に延伸する工程と,
を含む,請求項1?9のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜の製造方法。
【請求項19】
アルカリ水電解用隔膜を用いて水素を製造するための方法であって,
前記アルカリ水電解用隔膜が,高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜を有し,
前記高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下であり,
前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下であり,
前記高分子多孔膜の平均孔径に対する前記親水性無機粒子のモード粒径の比(モード粒径/平均孔径)が,2.0以上であり,
前記高分子多孔膜の両表面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合が,周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験前後において,10%以上である,水素の製造方法。
【請求項20】
アルカリ水電解用隔膜を用いて水素を製造するための方法であって,
前記アルカリ水電解用隔膜が,高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜を有し,
前記高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下であり,
周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上であり,
前記高分子多孔膜の両表面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合が,前記キャビテーション試験前後において,10%以上であり,
前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下である,水素の製造方法。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1?20に係る特許は,下記1?5のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は,下記6の甲第1号証?甲第16号証(以下,単に「甲1」等という。)である。

1 申立理由1(新規性)
本件発明1?10,12?15及び20は,甲1?4のいずれかに記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?10,12?15及び20に係る特許は,同法113条2号に該当する。
2 申立理由2(進歩性)
本件発明1?18及び20は,甲1?4のいずれかに記載された発明及び甲1?15に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?18及び20に係る特許は,同法113条2号に該当する。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件発明1?20については,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?20に係る特許は,同法113条4号に該当する。
4 申立理由4(サポート要件)
本件発明1?20については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?20に係る特許は,同法113条4号に該当する。
5 申立理由5(明確性要件)
本件発明1?20については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?20に係る特許は,同法113条4号に該当する。
6 証拠方法
・甲1 "The influence of manufacturing parameters on the properties of macroporous Zirfon^(○R) separators",Journal of Porous Materials,2008,15,p.259-264
・甲2 特開2014-129563号公報
・甲3 特開2009-185333号公報
・甲4 特表2011-525417号公報
・甲5 欧州特許出願公開第0241995号明細書
・甲6 特開2011-25110号公報
・甲7 "Microstructures in phase-inversion membranes. Part1. Formation of macrovoids",Journal of Membrane Science,1992,73,p.259-275
・甲8 特開2011-138761号公報
・甲9 特開2013-28822号公報
・甲10 国際公開第2010/044425号
・甲11 特開2011-225659号公報
・甲12 特開2006-169457号公報
・甲13 特開2005-314593号公報
・甲14 特開2009-269941号公報
・甲15 「国際化学物質簡潔評価文書 No.35 N-メチル-2-ピロリドン」,国立医薬品食品衛生研究所安全情報部,2007年,8-10頁
・甲16 「改訂5版 化学便覧 基礎編II」,日本化学会編,平成16年2月20日,II-149-II-157頁

第4 当審の判断
以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?20に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性)
(1)各証拠に記載された発明
ア 甲1
甲1の記載(259頁左欄15?20行,右欄4?6行,右欄19?28行,261頁左欄26?31行,左欄下から2行?右欄5行,右欄11?19行,表2)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「親水性ZrO_(2)粉末/ポリスルホン(PSF)の比が80wt%/20wt%であり,気孔率が59%であり,バブルポイント圧力(B.P.)が0.5MPaである,アルカリ水電解用セパレータ。」(以下,「甲1発明」という。)

イ 甲2
甲2の記載(請求項1,6,【0033】,【0051】?【0054】)によれば,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。

「シート状の多孔性支持体と,有機高分子樹脂を含む単層の微多孔膜と,を備え,
前記多孔性支持体の片面又は両面に前記微多孔膜が積層され,
前記多孔性支持体と接する前記微多孔膜の膜表面を表面Bとし,
前記表面Bと反対側の前記微多孔膜の膜表面を表面Aとし,
前記微多孔膜の,表面A及び表面Bに平行な断面を断面Cとし,
表面Aにおける平均孔径をPa,表面Bにおける平均孔径をPb,断面Cにおける平均孔径をPcとしたときに,
以下の式(i)を満たす断面Cが存在し,
Pc<PaかつPc<Pb・・・(i)
Pa:0.5?2μm,Pb:0.5?2μmであり,
表面又は前記微多孔膜内に配置された親水性酸化ジルコニウム粒状体を有する,アルカリ水電解用隔膜。」(以下,「甲2発明」という。)

ウ 甲3
甲3の記載(請求項1,2,4,【0040】)によれば,甲3には,以下の発明が記載されていると認められる。

「アルカリ水電解に用いられる多孔質構造を有するイオン透過性隔膜であって,
ポリサルフォン,ポリプロピレン及びフッ化ポリビニリデンからなる群より選ばれる少なくとも1種である有機結合材料が溶解した有機溶剤に,所定の粒径を有する微粉末である親水性無機材料を分散させてなる懸濁液と,有機繊維布を接触させ,前記有機結合材料のガラス転移点以上であって融点以下の温度条件下で加圧して製造した,多孔質構造を有するイオン透過性隔膜。」(以下,「甲3発明」という。)

エ 甲4
甲4の記載(【0001】,【0102】?【0118】,表1?8)によれば,特に,【0106】,【0107】,【0109】のほか,表1に示されるドープ2を用いた実施例6(表6?8)に着目すると,甲4には,以下の発明が記載されていると認められる。

「ジルコニア-Iを52.6wt%,ポリスルホン(P-1800NT11)を9.3wt%,グリセロールを1.0wt%,N-エチルピロリドンを37.1wt%を含むドープ2を細長い多孔性ウエブ(PP0445/51PW)に塗布し,溶媒を除くための60℃の温度での水浴における浸漬による反転,凝析及び洗浄によって相反転が実現され,その後すすぎ洗浄が行われ,最後に40℃で60分間乾燥することによって製造されたイオン透過性ウエブ強化セパレータであって,多孔性が47.8%であり,泡立ち点が8.83barである,水素が水の電気分解によって製造される現地での水素発生器において使用される,イオン透過性ウエブ強化セパレータ。」(以下,「甲4発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 甲1発明との対比
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「親水性ZrO_(2)粉末」,「ポリスルホン(PSF)」は,それぞれ,本件発明1における「親水性無機粒子」,「高分子樹脂」に相当する。
甲1発明における「親水性ZrO_(2)粉末/ポリスルホン(PSF)の比が80wt%/20wt%」で,「気孔率が59%」である「アルカリ水電解用セパレータ」は,ポリスルホン(PSF)を含む多孔質のものであり,また,甲1の「ポリスルホンなどのポリマー溶液中のZrO_(2)粉末の懸濁液は,支持材料上にキャストされ,セパレータは,非溶媒中へのウェットフィルムの浸漬を通して溶媒を抽出することにより形成される。」(259頁右欄19?24行)との記載によれば,膜状であることが明らかであるから,本件発明1における「高分子樹脂と親水性無機粒子を含」み,「気孔率が30%以上60%以下」である「高分子多孔膜を有」する「アルカリ水電解用隔膜」に相当する。
以上によれば,本件発明1と甲1発明とは,
「高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜を有し,前記高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下である,アルカリ水電解用隔膜。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1-1
本件発明1では,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であるのに対して,甲1発明では,「バブルポイント圧力(B.P.)が0.5MPa」であるものの,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であるかどうか不明である点。
・相違点1-2
本件発明1では,「前記高分子多孔膜の両表面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合が,前記キャビテーション試験前後において,10%以上」であるのに対して,甲1発明では,「前記高分子多孔膜の両表面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合が,前記キャビテーション試験前後において,10%以上」であるかどうか不明である点。
・相違点1-3
本件発明1では,「前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下」であるのに対して,甲1発明では,「前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下」であるかどうか不明である点。

(イ)相違点1-1の検討
a まず,相違点1-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
(a)甲1発明においては,バブルポイント圧力(B.P.)が0.5MPa(500kPa)である,すなわち,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験」(以下,「本件キャビテーション試験」という。)の前において,バブルポイント圧力(B.P.)が0.5MPa(500kPa)であるといえるものの,測定された温度は不明であり,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるかどうかは不明である。
また,甲1発明においては,本件キャビテーション試験の後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるかどうかも不明である。
そして,甲1発明のアルカリ水電解用セパレータであれば,必ず,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上となることが,技術常識であるともいえない。
以上によれば,相違点1-1は実質的な相違点である。
(b)申立人は,本件明細書の実施例及び比較例から,高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下であり,両表面の平均孔径が0.5μm以上2.0μm以下である膜においては,90℃で測定されるバブルポイントは,本件キャビテーション試験の前が100kPa以上であるものは,本件キャビテーション試験の後でも100kPa以上であること,また,本件明細書のガス遮断性試験の結果から,上記の気孔率及び平均孔径の条件を満たす高分子多孔膜においては,25℃で測定されるバブルポイントが500kPa以上であれば,90℃で測定されるバブルポイントは100kPa以上となることを指摘した上で,甲1には,上記の気孔率及び平均孔径の条件を満たすセパレータにおいて,室温におけるバブルポイントが0.5MPaであることが記載されているから,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるとの条件を満たしている蓋然性が高いと主張する(申立書50?51頁)。
しかしながら,本件明細書の記載(【0010】?【0012】,【0049】)によれば,本件発明1における「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験」(本件キャビテーション試験)は,風力や太陽光などの再生可能エネルギーによる変動電源で電圧を印加した電解において,隔膜が受ける振動や差圧によるストレスを加速的に再現するものであり,このようなキャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上である隔膜は,長期の変動電源下での電解において,安定して性能を維持することが可能なものであり,親水性無機粒子が欠落することなく多孔膜中に保持されるため,多孔膜表面の親水性が維持され,イオン透過性が維持されるものと解される。
そして,本件明細書の記載(【0030】,【0047】,【0049】)によれば,上記のような隔膜は,高分子多孔膜の孔径と親水性無機粒子のモード粒径とを制御したり,親水性無機粒子の二次粒子自体を樹脂で結着させることにより強固な凝集体にしたりすることによって,得ることができるものである。
そうすると,本件明細書の実施例及び比較例からは,単に,高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下であり,両表面の平均孔径が0.5μm以上2.0μm以下である膜において,90℃で測定されるバブルポイントが,本件キャビテーション試験の前において100kPa以上であれば,当然に,本件キャビテーション試験の後でも100kPa以上であるなどということはできない。
同様に,本件明細書のガス遮断性試験の結果からは,単に,上記の気孔率及び平均孔径の条件を満たす高分子多孔膜において,25℃で測定されるバブルポイントが500kPa以上であれば,当然に,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上となるなどということもできない。
甲1には,高分子多孔膜の孔径と親水性無機粒子のモード粒径とを制御したり,親水性無機粒子の二次粒子自体を樹脂で結着させることにより強固な凝集体にしたりするなどして,親水性無機粒子が欠落することなく多孔膜中に保持されるようにすることについては,何ら記載されていないから,仮に,甲1に,申立人が主張するような上記の気孔率及び平均孔径の条件を満たすセパレータが記載されているとしても,そのセパレータが,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるとの条件を満たしているということはできない。
よって,申立人の主張は,前提において失当であり,採用できない。
(c)申立人は,甲1には,本件発明1のアルカリ水電解用隔膜の製造方法と同様の工程が記載されているから,甲1に記載のセパレータは,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるとの条件を満たす蓋然性が高いと主張する(申立書53頁)。
確かに,本件明細書には,本件発明1のアルカリ水電解用隔膜の製造方法として,非溶媒誘起相分離法によるもの(【0073】?【0093】)が記載されている。
しかしながら,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるとの条件を満たす隔膜は,上記(b)で述べたとおり,高分子多孔膜の孔径と親水性無機粒子のモード粒径とを制御したり,親水性無機粒子の二次粒子自体を樹脂で結着させることにより強固な凝集体にしたりすることによって,得ることができるものである。
この点,本件明細書には,親水性無機粒子の焼結温度を変えることによって,親水性無機粒子のモード粒径を制御することができ(【0045】),また,非溶媒誘起相分離法における各種の条件を制御することによって,高分子多孔膜の孔径を制御したり,親水性無機粒子を樹脂で結着させてより強固にしたりすることができる(【0082】,【0084】,【0085】,【0089】,【0090】)ことが記載されているが,甲1には,そのような記載は見当たらない。
そうすると,甲1に,本件発明1のアルカリ水電解用隔膜の製造方法と同様の工程が記載されているとしても,そのことのみをもって,甲1に記載のセパレータが,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるとの条件を満たすということはできない。
よって,申立人の主張は採用できない。
(d)したがって,相違点1-2及び1-3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。

b 次に,相違点1-1の容易想到性について検討する。
(a)甲1のほか,甲2?15にも,アルカリ水電解用セパレータに関し,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」とすることについては,何ら記載されていない。
また,甲2?15の記載を考慮しても,甲1発明のアルカリ水電解用セパレータであれば,必ず,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上となるかどうかは,不明である。
以上によれば,甲1発明において,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であると特定することが,動機付けられるとはいえない。
そして,本件発明1は,ガス遮断性が良好であり,長期の電解においても親水性が維持され,気泡の付着によるイオン透過性の阻害が抑制され,また,変動電源環境下においても,親水性無機粒子の欠落を抑え,維持することにより,低い電圧損失とガス遮断性を維持できる,アルカリ水電解用隔膜を提供することができるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(【0016】,【0123】?【0173】,表1?8)。
そうすると,甲1発明において,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であると特定することを,当業者が容易に想到することができたということはできない。
(b)申立人は,甲1には,アルカリ水電解用隔膜において,ガス遮断性を良好なものとするためにバブルポイントを高くすべきことについて記載され,甲2には,アルカリ水電解用隔膜のガス遮断性の評価をバブルポイントを評価指標として行うことについて記載され,甲3には,アルカリ水電解装置に使用するためのイオン透過性隔膜のバブルポイントを向上させることについて記載されているから,甲1発明において,バブルポイントを高くすることは,当業者が容易に想到し得る事項であり,相違点1-1は,アルカリ水電解用隔膜に必要とされる要求を満たすための設計的事項にすぎないと主張する(申立書109?111頁)。
また,申立人は,最大孔径とバブルポイントには,「最大孔径(m)=4γcosθ/P」(γは水の表面張力(N/m),cosθは高分子多孔膜表面と水の接触角(rad),Pはバブルポイント(Pa))との関係があり,最大孔径はバブルポイントに反比例するから,バブルポイントが大きくなれば最大孔径が小さくなり,ガス遮断性が高まることは当然のことであり,逆に,ガス遮断性に優れた膜であれば,最大孔径が小さく,25℃におけるバブルポイントが500kPa以上,90℃におけるバブルポイントが100kPa以上といった,高いバブルポイントになることも当然であり,相違点1-1におけるパラメータは設計的事項にすぎないと主張する(申立書110頁)。
しかしながら,甲1?3には,アルカリ水電解用セパレータに関し,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上とすることについては,何ら記載されていないことは,上記(a)で述べたとおりである。甲1?3に申立人が指摘する事項が記載されているとしても,甲1発明において,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であると特定することが,動機付けられるとはいえない。
よって,申立人の主張は採用できない。
(c)したがって,相違点1-2及び1-3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲1?15に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明及び甲1?15に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 甲2発明との対比
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「親水性酸化ジルコニウム粒状体」,「有機高分子樹脂」,「有機高分子樹脂を含む単層の微多孔膜」は,それぞれ,本件発明1における「親水性無機粒子」,「高分子樹脂」,「高分子多孔膜」に相当する。
甲2発明において,「前記多孔性支持体と接する前記微多孔膜の膜表面」である「表面Bにおける平均孔径」「Pb」が「0.5?2μm」であり,「前記表面Bと反対側の前記微多孔膜の膜表面」である「表面Aにおける平均孔径」「Pa」が「0.5?2μm」であることは,本件発明1において,「前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下である」ことに相当する。
以上によれば,本件発明1と甲2発明とは,
「高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜を有し,前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下である,アルカリ水電解用隔膜。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点2-1
本件発明1では,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であるのに対して,甲2発明では,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であるかどうか不明である点。
・相違点2-2
本件発明1では,「前記高分子多孔膜の両表面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合が,前記キャビテーション試験前後において,10%以上」であるのに対して,甲2発明では,「前記高分子多孔膜の両表面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合が,前記キャビテーション試験前後において,10%以上」であるかどうか不明である点。
・相違点2-3
本件発明1では,「前記高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下」であるのに対して,甲2発明では,「前記高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下」であるかどうか不明である点。

(イ)相違点2-1の検討
a まず,相違点2-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
(a)甲2には,バブルポイントは1000mbar(100kPa)以上が好ましいことが記載され(【0058】),実施例及び比較例においても,2020?2440mbar(202?244kPa)のものが示されている(表1),すなわち,本件キャビテーション試験の前において,バブルポイントが2020?2440mbar(202?244kPa)のものが示されているといえるものの,測定された温度は不明であり,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるかどうかは不明である。
また,本件キャビテーション試験の後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるかどうかも不明である。
そして,甲2発明に係るアルカリ水電解用隔膜であれば,必ず,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上となることが,技術常識であるともいえない。
以上によれば,相違点2-1は実質的な相違点である。
(b)申立人は,甲2には,本件発明1のアルカリ水電解用隔膜の製造方法と同様の工程が記載されているから,甲2に記載の微多孔膜は,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるとの条件を満たす蓋然性が高いと主張するが(申立書60?61頁),上記ア(イ)a(c)で甲1について述べたのと同様の理由により,申立人の主張は採用できない。
(c)したがって,相違点2-2及び2-3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2に記載された発明であるとはいえない。

b 次に,相違点2-1の容易想到性について検討する。
(a)甲2のほか,甲1,3?15にも,アルカリ水電解用隔膜に関し,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」とすることについては,何ら記載されていない。
また,甲1,3?15の記載を考慮しても,甲2発明のアルカリ水電解用隔膜であれば,必ず,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上となるかどうかは,不明である。
以上によれば,甲2発明において,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であると特定することが,動機付けられるとはいえない。
そして,本件発明1は,上記ア(イ)b(a)で述べたとおり,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると,甲2発明において,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であると特定することを,当業者が容易に想到することができたということはできない。
(b)申立人は,相違点2-1についても,甲1に関する相違点1-1について述べたのと同様の理由により,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないと主張するが(申立書118?119頁),上記ア(イ)b(b)で相違点1-1について述べたのと同様の理由により,申立人の主張は採用できない。
(c)したがって,相違点2-2及び2-3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2に記載された発明及び甲1?15に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり,本件発明1は,甲2に記載された発明であるとはいえず,また,甲2に記載された発明及び甲1?15に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 甲3発明との対比
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「所定の粒径を有する微粉末である親水性無機材料」,「ポリサルフォン,ポリプロピレン及びフッ化ポリビニリデンからなる群より選ばれる少なくとも1種である有機結合材料」は,それぞれ,本件発明1における「親水性無機粒子」,「高分子樹脂」に相当する。
甲3発明における「アルカリ水電解に用いられる多孔質構造を有するイオン透過性隔膜」は,ポリサルフォン,ポリプロピレン及びフッ化ポリビニリデンからなる群より選ばれる少なくとも1種である有機結合材料を含む多孔質の膜であるから,本件発明1における「高分子多孔膜を有」する「アルカリ水電解用隔膜」に相当する。
以上によれば,本件発明1と甲3発明とは,
「高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜を有する,アルカリ水電解用隔膜。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点3-1
本件発明1では,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であるのに対して,甲3発明では,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であるかどうか不明である点。
・相違点3-2
本件発明1では,「前記高分子多孔膜の両表面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合が,前記キャビテーション試験前後において,10%以上」であるのに対して,甲3発明では,「前記高分子多孔膜の両表面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合が,前記キャビテーション試験前後において,10%以上」であるかどうか不明である点。
・相違点3-3
本件発明1では,「前記高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下」であるのに対して,甲3発明では,「前記高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下」であるかどうか不明である点。
・相違点3-4
本件発明1では,「前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下」であるのに対して,甲3発明では,「前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下」であるかどうか不明である点。

(イ)相違点3-1の検討
a まず,相違点3-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
(a)甲3には,実施例において,イオン透過性隔膜のバブルポイントを測定するとともに,圧力を増加させたときのガスリーク量も測定したことが記載されているが(【0050】,図2),具体的なバブルポイントの値は明らかではなく,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるかどうかは不明である。
そして,甲3発明に係るイオン透過性隔膜であれば,必ず,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上となることが,技術常識であるともいえない。
以上によれば,相違点3-1は実質的な相違点である。
(b)申立人は,甲3には,本件発明1のアルカリ水電解用隔膜の製造方法と同様の工程が記載されているから,甲3に記載のイオン透過性隔膜は,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるとの条件を満たす蓋然性が高いと主張するが(申立書68?69頁),上記ア(イ)a(c)で甲1について述べたのと同様の理由により,申立人の主張は採用できない。
(c)したがって,相違点3-2?3-4について検討するまでもなく,本件発明1は,甲3に記載された発明であるとはいえない。

b 次に,相違点3-1の容易想到性について検討する。
(a)甲3のほか,甲1,2,4?15にも,アルカリ水電解用隔膜に関し,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」とすることについては,何ら記載されていない。
また,甲1,2,4?15の記載を考慮しても,甲3発明のイオン透過性隔膜であれば,必ず,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上となるかどうかは,不明である。
以上によれば,甲3発明において,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であると特定することが,動機付けられるとはいえない。
そして,本件発明1は,上記ア(イ)b(a)で述べたとおり,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると,甲3発明において,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であると特定することを,当業者が容易に想到することができたということはできない。
(b)申立人は,相違点3-1についても,甲1に関する相違点1-1について述べたのと同様の理由により,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないと主張するが(申立書122?123頁),上記ア(イ)b(b)で相違点1-1について述べたのと同様の理由により,申立人の主張は採用できない。
(c)したがって,相違点3-2?3-4について検討するまでもなく,本件発明1は,甲3に記載された発明及び甲1?15に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり,本件発明1は,甲3に記載された発明であるとはいえず,また,甲3に記載された発明及び甲1?15に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 甲4発明との対比
(ア)対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明における「ジルコニア-I」は,甲4の19頁上段の表によれば,所定の平均粒子サイズを有する二酸化ジルコニウムであり,また,二酸化ジルコニウムが親水性を有することは明らかであるから,本件発明1における「親水性無機粒子」に相当する。
甲4発明における「ポリスルホン(P-1800NT11)」は,本件発明1における「高分子樹脂」に相当する。
甲4発明における「ジルコニア-I」,「ポリスルホン(P-1800NT11)」を含み,「多孔性が47.8%」である,「水素が水の電気分解によって製造される現地での水素発生器において使用される,イオン透過性ウエブ強化セパレータ」は,ポリスルホンを含む多孔質のものであり,また,「ドープ2を細長い多孔性ウエブ(PP0445/51PW)に塗布し」て製造されたものであって,膜状であることが明らかであるから,本件発明1における「高分子樹脂と親水性無機粒子を含」み,「気孔率が30%以上60%以下」である「高分子多孔膜を有」する「アルカリ水電解用隔膜」に相当する。
以上によれば,本件発明1と甲4発明とは,
「高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜を有し,前記高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下である,アルカリ水電解用隔膜。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点4-1
本件発明1では,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であるのに対して,甲4発明では,「泡立ち点が8.83bar」であるものの,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であるかどうか不明である点。
・相違点4-2
本件発明1では,「前記高分子多孔膜の両表面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合が,前記キャビテーション試験前後において,10%以上」であるのに対して,甲4発明では,「前記高分子多孔膜の両表面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合が,前記キャビテーション試験前後において,10%以上」であるかどうか不明である点。
・相違点4-3
本件発明1では,「前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下」であるのに対して,甲4発明では,「前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下」であるかどうか不明である点。

(イ)相違点4-1の検討
a まず,相違点4-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
(a)甲4発明においては,泡立ち点(本件発明1における「バブルポイント」に相当する。)が8.83bar(883kPa)である,すなわち,本件キャビテーション試験の前において,泡立ち点が8.83bar(883kPa)であるといえるものの,測定された温度は不明であり,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるかどうかは不明である。
また,甲4発明においては,本件キャビテーション試験の後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるかどうかも不明である。
そして,甲4発明のイオン透過性ウエブ強化セパレータであれば,必ず,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上となることが,技術常識であるともいえない。
以上によれば,相違点4-1は実質的な相違点である。
(b)申立人は,甲4には,本件発明1のアルカリ水電解用隔膜の製造方法と同様の工程が記載されているから,甲4に記載のイオン透過性ウエブ強化セパレータは,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上であるとの条件を満たす蓋然性が高いと主張するが(申立書80頁),上記ア(イ)a(c)で甲1について述べたのと同様の理由により,申立人の主張は採用できない。
(c)したがって,相違点4-2及び4-3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲4に記載された発明であるとはいえない。

b 次に,相違点4-1の容易想到性について検討する。
(a)甲4のほか,甲1?3,5?15にも,アルカリ水電解用隔膜に関し,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」とすることについては,何ら記載されていない。
また,甲1?3,5?15の記載を考慮しても,甲4発明のイオン透過性ウエブ強化セパレータであれば,必ず,本件キャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイントが100kPa以上となるかどうかは,不明である。
以上によれば,甲4発明において,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であると特定することが,動機付けられるとはいえない。
そして,本件発明1は,上記ア(イ)b(a)で述べたとおり,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると,甲4発明において,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であると特定することを,当業者が容易に想到することができたということはできない。
(b)申立人は,相違点4-1についても,甲1に関する相違点1-1について述べたのと同様の理由により,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないと主張するが(申立書126?127頁),上記ア(イ)b(b)で相違点1-1について述べたのと同様の理由により,申立人の主張は採用できない。
(c)したがって,相違点4-2及び4-3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲4に記載された発明及び甲1?15に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり,本件発明1は,甲4に記載された発明であるとはいえず,また,甲4に記載された発明及び甲1?15に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2?18について
本件発明2?18は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲1?4のいずれかに記載された発明であるとはいえず,また,甲1?4のいずれかに記載された発明及び甲1?15に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?18についても同様に,甲1?4のいずれかに記載された発明であるとはいえず,また,甲1?4のいずれかに記載された発明及び甲1?15に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明20について
本件発明20は,所定のアルカリ水電解用隔膜を用いて水素を製造するための方法に関する発明であるところ,上記所定のアルカリ水電解用隔膜は,本件発明1に係るアルカリ水電解用隔膜と同じものである。
そうすると,本件発明20についても,上記(2)で本件発明1について述べたのと同様の理由により,甲1?4のいずれかに記載された発明であるとはいえず,また,甲1?4のいずれかに記載された発明及び甲1?15に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり,本件発明1?10,12?15及び20は,いずれも,甲1?4のいずれかに記載された発明であるとはいえない。
したがって,申立理由1(新規性)によっては,本件特許の請求項1?10,12?15及び20に係る特許を取り消すことはできない。
また,本件発明1?18及び20は,いずれも,甲1?4のいずれかに記載された発明及び甲1?15に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由2(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?18及び20に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由3(実施可能要件)
(1)申立人は,本件発明1?3,19及び20に記載される種々のパラメータを有するアルカリ水電解用隔膜を製造するには,いろいろな条件を変更しながら,製造した高分子多孔膜の気孔率,周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定されるバブルポイント,前記高分子多孔膜の両表面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合を実際に測定するという,当業者に期待しうる程度を超える過度の試行錯誤が必要になるから,発明の詳細な説明の記載は,本件発明1?20について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないと主張する(申立書140頁)。
以下,検討する。
(2)ア 本件明細書には,高分子樹脂(【0020】?【0025】),親水性無機粒子(【0043】?【0047】),高分子多孔膜の気孔率(【0037】?【0039】,【0136】),高分子多孔膜の平均孔径(【0026】?【0029】,【0124】),本件キャビテーション試験の前後における90℃で測定される高分子多孔膜のバブルポイント(【0048】,【0049】,【0125】,【0128】),本件キャビテーション試験前後における,高分子多孔膜の両表面又は断面において粒子解析測定により算出される親水性無機粒子の存在割合と,当該存在割合の本件キャビテーション試験による減少度(【0050】?【0055】,【0125】,【0128】,【0138】),高分子多孔膜の平均孔径に対する親水性無機粒子のモード粒径の比(モード粒径/平均孔径)(【0030】,【0124】,【0130】,【0137】)の各事項について,具体的な説明がなされている。
イ また,本件明細書には,アルカリ水電解用隔膜の製造方法として,(ア)非溶媒誘起相分離法によるもの(【0073】?【0093】),(イ)押出成形後,溶媒を抽出するもの(【0094】?【0112】),(ウ)ペースト押出,圧延及び延伸するもの(【0113】?【0118】)について,具体的な説明がなされている。
特に,本件明細書には,上記アのバブルポイントを制御する方法として,高分子多孔膜の孔径と親水性無機粒子のモード粒径とを制御することや,親水性無機粒子の二次粒子自体を樹脂で結着させることにより強固な凝集体にすることが記載され(【0030】,【0047】,【0049】),また,上記アの親水性無機粒子の存在割合及びその減少度を制御する方法として,基材に塗工する溶液中の親水性無機粒子の含有量を調整することや,高分子多孔膜の孔径と親水性無機粒子のモード粒径とを制御することが記載されている(【0054】)。
さらに,本件明細書には,親水性無機粒子の焼結温度を変えることによって,親水性無機粒子のモード粒径を制御することができること(【0045】),上記(ア)の製造方法における各種の条件を制御することによって,高分子多孔膜の孔径を制御したり,親水性無機粒子を樹脂で結着させてより強固にしたりすることができること(【0082】,【0084】,【0085】,【0089】,【0090】),上記(イ)の製造方法における各種の条件を制御することによって,高分子多孔膜の孔径を制御することができること(【0096】,【0099】,【0103】),上記(ウ)の製造方法における各種の条件を制御することによって,高分子多孔膜の孔径を制御することができること(【0116】)が記載されている
ウ そして,本件明細書には,実施例1?14(表1?8)として,具体的な製造条件を示しながら,本件発明1?20のアルカリ水電解用隔膜を実際に製造したことが記載されている。
そうすると,上記ア,イで指摘した本件明細書の記載を踏まえると,実施例1?14以外のアルカリ水電解用隔膜についても,当業者であれば,各種の高分子樹脂及び親水性無機粒子を用い,上記の製造条件を適宜調整して,上記の製造方法により製造することができるといえる。
エ 以上によれば,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて,本件発明1?20のアルカリ水電解用隔膜を製造することができるといえ,その製造に際して,申立人が主張するような,当業者に期待しうる程度を超える過度の試行錯誤が必要になるとはいえない。
よって,申立人の主張は採用できない。
(3)したがって,申立理由3(実施可能要件)によっては,本件特許の請求項1?20に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由4(サポート要件)
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(知的財産高等裁判所,平成17年(行ケ)第10042号,同年11月11日特別部判決)。以下,検討する。

(1)本件発明1?18及び20について
本件発明1は,高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜を有するアルカリ水電解用隔膜に関するものである。
本件明細書の記載(【0003】?【0013】)によれば,本件発明1の課題は,「ガス遮断性が良好であり,長期の電解においても親水性が維持され,気泡の付着によりイオン透過性が阻害されることのない,アルカリ水電解用隔膜を提供すること」であり,「変動電源環境下においても,親水性無機粒子の欠落を抑え,維持することにより,低い電圧損失とガス遮断性を維持することができる,アルカリ水電解用隔膜を提供すること」であると認められる。
本件明細書の記載(【0015】,【0016】,【0019】,【0037】,【0048】,【0049】)によれば,本件発明1の課題は,高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜を有するアルカリ水電解用隔膜において,「前記高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下」,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」との各要件を備えることによって,解決できるとされている。
そして,本件明細書には,各種のアルカリ水電解用隔膜を製造した実施例及び比較例が記載されているところ(実施例1?14,比較例1?17,【0123】?【0173】,表1?8),上記実施例は,いずれも,上記の各要件を備えるものである。
表1?8によれば,上記実施例では,ガス遮断性が良好であり,長期の電解においても親水性が維持され,気泡の付着によるイオン透過性の阻害が抑制され,また,変動電源環境下においても,親水性無機粒子の欠落を抑え,維持することにより,低い電圧損失とガス遮断性を維持できることが示されている。
そうすると,当業者であれば,上記実施例以外の場合であっても,上記の各要件を備えるアルカリ水電解用隔膜であれば,実施例の場合と同様に,ガス遮断性が良好であり,長期の電解においても親水性が維持され,気泡の付着によるイオン透過性の阻害が抑制され,また,変動電源環境下においても,親水性無機粒子の欠落を抑え,維持することにより,低い電圧損失とガス遮断性を維持できることが理解できるといえる。
以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,「前記高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下」,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」との各要件を備える本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
以上のとおりであるから,本件発明1については,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
また,本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?18のほか,本件発明1と同じアルカリ水電解用隔膜を用いる本件発明20についても同様である。

(2)本件発明19について
本件発明19は,高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜を有するアルカリ水電解用隔膜を用いて水素を製造するための方法に関するものであり,本件発明19の課題は,上記(1)で本件発明1について認定した課題と同様である。
本件明細書の記載(【0015】,【0016】,【0019】,【0026】,【0027】,【0030】,【0037】)によれば,本件発明19の課題は,高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜を有するアルカリ水電解用隔膜を用いて水素を製造するための方法において,「前記高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下」,「前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下」,「前記高分子多孔膜の平均孔径に対する前記親水性無機粒子のモード粒径の比(モード粒径/平均孔径)が,2.0以上」との各要件を備えることによって,解決できるとされている。
そして,本件明細書には,各種のアルカリ水電解用隔膜を製造した実施例及び比較例が記載されているところ(実施例1?14,比較例1?17,【0123】?【0173】,表1?8),上記実施例は,いずれも,上記の各要件を備えるものである。
そうすると,上記(1)で本件発明1について述べたのと同様の理由により,当業者であれば,上記実施例以外の場合であっても,上記の各要件を備えるアルカリ水電解用隔膜であれば,実施例の場合と同様に,ガス遮断性が良好であり,長期の電解においても親水性が維持され,気泡の付着によるイオン透過性の阻害が抑制され,また,変動電源環境下においても,親水性無機粒子の欠落を抑え,維持することにより,低い電圧損失とガス遮断性を維持できることが理解できるといえる。
以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,「前記高分子多孔膜の気孔率が30%以上60%以下」,「前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下」,「前記高分子多孔膜の平均孔径に対する前記親水性無機粒子のモード粒径の比(モード粒径/平均孔径)が,2.0以上」との各要件を備える本件発明19は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明19の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
以上のとおりであるから,本件発明19については,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

(3)申立人の主張について
ア 申立人は,本件発明1では,高分子多孔膜の平均孔径に対する親水性無機粒子のモード粒径(モード粒径/平均孔径)の比については特定されていないが,発明の詳細な説明において,実施例1?14のアルカリ水電解用隔膜では,全て,モード粒径/平均孔径の比が2.0以上であり,また,発明の詳細な説明の「本実施形態において,親水性無機粒子を高分子多孔膜に十分に保持させるために,高分子多孔膜の両表面の平均孔径を,親水性無機粒子が欠落しない程度の大きさに制御する。親水性無機粒子が欠落しない程度の孔径とは,高分子多孔膜の平均孔径に対する親水性無機粒子のモード径の比(モード粒径/平均孔径)が,2.0以上である。」(【0030】)の記載を考慮すると,いかなるモード粒径/平均孔径の比の多孔膜を有するアルカリ水電解用隔膜であっても,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」であり,「前記高分子多孔膜の両表面において,粒子解析測定により算出される前記親水性無機粒子の存在割合が,前記キャビテーション試験前後において,10%以上」であり,「前記高分子多孔膜の両表面の平均孔径が,0.5μm以上2.0μm以下」でありさえすれば,上記の課題が解決できるとはいえないと主張する。また,本件発明2?18及び20についても同様に主張する(申立書140?141頁)。
しかしながら,本件発明1?18及び20について,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは,上記(1)で述べたとおりである。
上記2で申立理由3(実施可能要件)について述べたとおり,確かに,高分子多孔膜の孔径と親水性無機粒子のモード粒径とを制御することよって,本件キャビテーション試験の前後における90℃で測定されるバブルポイントを制御することができるが,そのほかにも,親水性無機粒子の二次粒子自体を樹脂で結着させることにより強固な凝集体にすることによっても,上記バブルポイントを制御することができるのであるから,本件発明1において,モード粒径/平均孔径の比が特定されていないからといって,本件発明1について,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないとはいえない。また,本件発明2?18及び20についても同様である。
よって,申立人の主張は採用できない。

イ 申立人は,本件発明1では,親水性無機粒子の存在割合の上限が記載されていないが,周知のとおり,その存在割合が高すぎると,高分子樹脂と親水性無機粒子を含む高分子多孔膜が脆くなり,強度が失われたものとなり,アルカリ水電解用隔膜として使用できないものが含まれ,本件発明1の課題が解決できるとはいえないと主張する。また,本件発明2?20についても同様に主張する(申立書142頁)。
しかしながら,本件発明1の課題は,上記(1),(2)で述べたとおりであり,アルカリ水電解用隔膜の強度を確保することではないから,申立人の主張は,サポート要件についての主張としては,その前提において失当であり,採用できない。また,本件発明2?20についても同様である。
なお,親水性無機粒子の存在割合が高すぎると問題が生じることが周知の事項であるというのであれば,当業者は,その点についても考慮して,親水性無機粒子の存在割合の上限を適宜設定するといえる。

ウ 申立人は,本件発明1では,親水性無機粒子について限定していないが,親水性無機粒子としては塩や水酸化物が含まれるところ,これらの塩や水酸化物は,水への溶解度が高く,アルカリ水電解用隔膜に使用した場合に溶け出して,使用には不適であり,発明の効果を発揮できるとは考え難いと主張する。また,本件発明2?20についても同様に主張する(申立書142?143頁)。
しかしながら,本件発明1の課題は,上記(1),(2)で述べたとおりであり,アルカリ水電解用隔膜に使用した場合に溶け出さないものを提供することではないから,申立人の主張は,サポート要件についての主張としては,その前提において失当であり,採用できない。また,本件発明2?20についても同様である。
なお,水への溶解度が高い親水性無機粒子を使用すれば,高分子多孔膜に親水性を付与することができ,それにより酸素分子や水素分子等の気泡が膜表面に付着しないようにできるとの効果(本件明細書【0043】,【0044】)が得られなくなることは,当業者にとって明らかであるから,そのような水への溶解度が高い親水性無機粒子は,そもそも,本件発明1?20の親水性無機粒子には包含されないと解される。

エ 申立人は,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件発明1の課題を解決できることが記載され,実施例において検証されているのは,酸化ジルコニウムのみであり,酸化ジルコニウム以外の親水性無機粒子については,本件発明1の課題が解決できることを当業者といえども認識できないと主張する。また,本件発明2?20についても同様に主張する(申立書142?143頁)。
しかしながら,本件発明1?20について,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは,上記(1),(2)で述べたとおりである。
本件明細書の記載(【0043】,【0044】)によれば,高分子多孔膜が親水性無機粒子を含むことにより,高分子多孔膜に親水性を付与することができ,それにより酸素分子や水素分子等の気泡が膜表面に付着しないようにできると解される。このような効果は,酸化ジルコニウム以外の各種の親水性無機粒子(【0044】)でも同様に得られることは,当業者にとって明らかである。本件発明1において,親水性無機粒子が酸化ジルコニウムに特定されていないからといって,本件発明1について,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないとはいえない。また,本件発明2?20についても同様である。
よって,申立人の主張は採用できない。

オ 申立人は,本件発明1及び20の「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験の前後において,90℃で測定される前記高分子多孔膜のバブルポイントが100kPa以上」について,発明の詳細な説明の記載(【0125】)によれば,バブルポイントの測定は,アルカリ水電解用隔膜を芯材も含めて切り取ってサンプルとし,芯材も含めたアルカリ水電解用隔膜のバブルポイントを測定しており,実施例においても,アルカリ水電解用隔膜のバブルポイントが示されており,高分子多孔膜のバブルポイントは示されていないが,アルカリ水電解用隔膜のバブルポイントは,芯材の種類や,芯材への高分子樹脂の浸透状況等によって影響を受けると考えられ,高分子多孔膜のバブルポイントとは異なると主張する。また,本件発明2?18及び20についても同様に主張する(申立書143?144頁)。
しかしながら,アルカリ水電解用隔膜に含まれる芯材,すなわち,多孔性支持体は,高分子多孔膜に内在され,アルカリ水電解用隔膜の強度を一層向上するものであり,また,十分な開口度を有するメッシュ等であるため,アルカリ水電解用隔膜のイオン透過性を実質的に低減させず,より高いレベルで維持できるものである(本件明細書【0059】?【0063】)。
そうすると,多孔性支持体の存在は,バブルポイントの測定結果に実質的な影響を及ぼすものではなく,アルカリ水電解用隔膜を多孔性支持体も含めて切り取ってサンプルとして,バブルポイントを測定しているとしても,実質的に高分子多孔膜のバブルポイントを測定していると解される。また,本件発明2?18及び20についても同様である。
よって,申立人の主張は採用できない。

(4)したがって,申立理由4(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1?20に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由5(明確性要件)
(1)申立人は,本件発明1の「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行うキャビテーション試験」について,洗浄処理に用いる液体の酸性度や,親水性及びその温度や量が特定されておらず,不明確であり,また,本件発明1において,親水性無機粒子について限定されていないため,親水性無機粒子と上記液体の酸性度や濃度により,上記試験後の親水性無機粒子の存在割合も変化すると考えられ,不明確であると主張する。また,本件発明2?20についても同様に主張する(申立書144頁)。
しかしながら,本件発明1における「キャビテーション試験」は,請求項1に記載されるとおり,「周波数40kHz,音圧190dbの超音波洗浄処理を60分間行う」ものであり,その意味は明確である。また,その技術的な内容についても,本件明細書の記載(【0010】?【0012】,【0049】)によれば,風力や太陽光などの再生可能エネルギーによる変動電源で電圧を印加した電解において,隔膜が受ける振動や差圧によるストレスを加速的に再現するものであることが理解できる。
また,キャビテーション試験における洗浄処理に用いる液体の酸性度や濃度によって,実際に上記試験後の親水性無機粒子の存在割合が変化するかどうかは,明らかではなく,上記液体の酸性度や濃度が特定されていないからといって,本件発明1が不明確であるとはいえない。
また,本件発明2?20についても同様である。
よって,申立人の主張は採用できない。
(2)したがって,申立理由5(明確性要件)によっては,本件特許の請求項1?20に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?20に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-10-14 
出願番号 特願2018-154030(P2018-154030)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C25B)
P 1 651・ 536- Y (C25B)
P 1 651・ 537- Y (C25B)
P 1 651・ 113- Y (C25B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲辻▼ 弘輔  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 平塚 政宏
井上 猛
登録日 2019-12-27 
登録番号 特許第6637556号(P6637556)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 アルカリ水電解用隔膜、アルカリ水電解装置、水素の製造方法及びアルカリ水電解用隔膜の製造方法  
代理人 江口 昭彦  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  
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