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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 一部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1367009
異議申立番号 異議2016-700890  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-20 
確定日 2020-10-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第5893950号発明「化学療法誘導嘔吐を治療するためのパロノセトロン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5893950号の請求項1、3、4、6ないし10に係る特許を維持する。 特許第5893950号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯

特許第5893950号(以下、「本件特許」という。)は、平成15年11月 6日(パリ条約による優先権主張 平成14年11月15日 米国(US))を国際出願日として出願された特願2004-553037号の一部を、平成24年 2月20日に新たな特許出願として出願され、平成28年 3月 4日に特許権の設定登録がなされ、平成28年 3月23日に特許掲載公報が発行された。
これに対して、特許異議申立人 清水 尚人から、平成28年 9月16日付け特許異議申立書によって、本件特許の請求項1、3?6に係る発明の特許を取り消すべき旨の特許異議の申立てがされた。以降の主な手続の経緯は次のとおりである。

平成28年11月21日付け 手続中止通知書
令和 2年 7月14日付け 手続中止解除通知書
同年同月同日付け 通知書

なお、特許異議申立人に対し、上記通知書により、本件特許に対する先行無効審判事件(無効2016-800117号)において、平成30年 2月 1日に訂正請求がなされたこと、平成30年12月14日付けで、当該訂正を認める、審判請求は成り立たないとの結論の審決がなされ、令和 2年 4月 7日に当該審決が確定した旨を通知し、意見を述べる機会を与えたが、特許異議申立人から意見書は提出されなかった。

2.本件発明
上記先行審判事件における審決が確定した結果、本件特許第5893950号の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明は、本件特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、順に、「本件発明1」?「本件発明10」という。)。

【請求項1】
パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が約0.05mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】
パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(c)化学療法の前10時間より短い時間内にパロノセトロンを単一投与するためのものである;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項4】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
削除
【請求項6】
前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する、請求項1又は4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する、請求項2又は7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する、請求項3又は9に記載の医薬組成物。

3.特許異議申立人の主張、及び、提出した証拠方法
特許異議申立人は、本件特許公報に記載された特許発明1、3?6(以下、順に、「本件特許発明1」・・・「本件特許発明6」という。)に係る特許は取り消すべきものである旨主張し、その理由として、以下の理由1?4を主張し、証拠方法として甲第1?12号証(以下、各々、「甲1」・・・「甲12」と表記する場合がある。)及び参考文献1?9を提出している。

特許異議申立人は、本件発明と本件特許発明との対応関係、本件発明1?10と甲号証記載の発明との対比、検討に基づくいわゆる新規性進歩性についての主張を行っていないなど、本件発明1?10について、各申立ての理由と対応させた上での主張を行っていない。
本件特許発明4(請求項3を引用するもの)は本件発明9に、本件特許発明6(請求項4を引用するもの)は本件発明10に、それぞれ対応する。そこで、以下においては、上記対応関係を踏まえ、本件特許発明1、3、4、、6及び5についてした主張を、本件発明1、4、6、3、9、10及び5に対して行っているものとして検討する。
そうすると、特許異議申立人が主張する理由は以下のとおりである。

(理由1)
本件発明1及び3は、甲第12号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1、3に係る特許は、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消すべきものである。

(理由2)
本件発明4?6、9及び10は、甲第12号証に記載された発明と甲第11号証、甲第1号証に記載された事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明4?6、9及び10に係る特許は、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消すべきものである。

(理由3)
本件発明1、3?6、9及び10は、甲第1号証に記載された発明と甲第2?12号証に記載された事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1、3?6、9、10に係る特許は、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消すべきものである。

(理由4)
本件発明1、3?6、9及び10は、甲第6号証に記載された発明と甲第1?5、7?12号証に記載された事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1、3?6、9、10に係る特許は、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消すべきものである。

(証拠方法)
甲第1号証:Current Opinion in Investigational Drugs, 2002, 3(10):1502-1507
甲第2号証:Proceedings of American Society of Clinical Oncology, 2002, Vol.21, No.449
甲第3号証:Evaluate (TM), MGI PHARMA and Helsinn Healthcare Announce the Completion of Patient Enrollment for First Palonosetron Phase 3 Pivotal Trial, インターネット記事, 2001年10月 3日,[2015.06.08検索](http://www.evaluategroup.com/Universal/View.aspx?type=Story&id=28687)
甲第4号証:Evaluate (TM), Helsinn Healthcare Announce the Completion of Patient Enrollment for First Palonosetron Phase 3 Pivotal Trial, インターネット記事, 2001年10月 3日,[2016.09.02検索](http://www.evaluategroup.com/Universal/View.aspx?type=Story&id=27956)
甲第5号証:Evaluate (TM), MGI PHARMA Reports 2002 Second Quarter Results, インターネット記事, 2002年 7月17日,[2016.09.06検索](http://www.evaluategroup.com/Universal/View.aspx?type=Story&id=35992)
甲第6号証:British Journal of Pharmacology, 1995, Vol.114, pp.860-866
甲第7号証:Annals of Oncology, 1998, Vol.9: 811-819
甲第8号証:Cancer, 1994, Vol.74, No.7, pp.1945-l952
甲第9号証:「ゾフラン(R)「Rの丸囲い」注 4 」医薬品添付文書,2001年1月改訂版
甲第10号証:Cancer Chemotherapy Report. 1966; Vol.50, No.4:219-244
甲第11号証:International Journal of Pharmaceutics, 1995, Vol.121, pp.95-105
甲第12号証:Proceedings of American Society of Clinical Oncology, 2002, Vol. 21, No.1480

(参考資料)
参考文献1:がん診療ガイドライン 制吐療法 診療ガイドライン、「クリニカルクエスチョンの内容と推奨治療」、"CQlがん化学療法を行う際に用いる抗がん薬の催吐性リスク分類はどのようなものか" 、インターネット記事(http://jsco-cpg,jp/guideline/2 9 .html), 2016.09.7検索
参考文献2:Journal of Clinical Oncology, 1997 Jan; Vol.15, No.1:103-109、アブストラクト、インターネット記事(NCBI, PubMed (医学学術文献データベース))(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8996130), 2016.08.09検索
参考文献3:Journal of Clinical Oncology, 1999 Sep, Vol.17, No.9:2971-2994
参考文献4:Guidance for Industry, FDA, July 2015, pp.1-27
参考文献5:Equivalent Surface Area Dosage Conversion Factors, Last ACUC Review: April 2015, インターネット記事(https://ncifrederick.cance r.gov/lasp/Acuc/Frederick /Media/Documents/ACUC 42.pdf, 2016.09.12検索
参考文献6:静脈注射の実施に関する指針,(社)日本看護協会発行, 2003.05.07, p4
参考文献7:診断と治療, 2011, Vol.99, No.4 ,p613(63)
参考文献8:中外製薬ホームページ、がん情報ガイド、キーワード検索「ボーラス」、インターネット記事(http://search.gan-guide.j p/search/search?q=%E3%83 %9 C%E 3%8 3%BC%E3%8 3%A9 %E3%82%B9), 2016.09.14検索
参考文献9:看護用語辞典ナースpedia、「ボーラスとは・・・」、インターネット記事(https://www.kango-roo.c om/word/10283) , 2016.09.14検索

4.証拠の記載事項
甲第1号証、甲第6号証、甲11号証、甲第12号証には、以下の記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、邦訳を示す。

甲第1号証
(摘示1A)
1502頁左欄タイトル
「パロノセトロンヘルシン」

(摘示1B)
1502頁右欄1?12行
「主催者 ロシュバイオサイエンス
実施権者 ヘルシンヘルスケアSA, MGIファーマ・インク
ステータス 第3相臨床
症状 嘔吐
作用 5-HT_(3)拮抗薬、抗嘔吐
同義、類似物質 RS-25233-197, RS-25233-198, RS-25259-007, RS-25259-197, RS-25259-198, RS-42358, RS-42358-197, RS-42358-198
CAS 1H-ベンズ[デ]イソキノリン-1-オン,2-(3S)-(1-アザビシクロ[2. 2. 2]オクト-3-イル-2, 3, 3 a, 4, 5, 6-ヘキサヒドロ-,モノヒドロクロリド
登録番号:135729-61-2, 135729-62-3」

(摘示1C)
第3相臨床試験 1504頁左欄16?20行
「この試験において、569人の患者は、中度に嘔吐発生性の化学療法レジメンの投与30分前に、パロノセトロン(0.25又は0.75mgの静脈内投与)又はドラセトロン(100mg)の投与を受けた。」

(摘示1D)
第3相臨床試験 1504頁左欄25?31行
「パロノセトロンの両用量についての遅延期間の完全寛解率(嘔吐を経験することなく、24時間から120時間の期間内にいかなるレスキュー薬も必要としなかった患者の割合)は、何れの投与量のパロノセトロン(低用量のときの54%、高用量の時の56. 6%)は、ドラセトロンの遅延期間の完全寛解率(38. 7%)よりも有意に優れていた。」

甲第6号証
(摘示6A)
861頁左欄 式1




(摘示6B)
861頁右欄1?5行
「フェレット及びイヌにおける制吐研究
フェレット(Florczyk et al. , 1982)及びイヌ(Glylys et al., 1979)は、嘔吐の確立した動物モデルであって、ヒトで観察されるものと類似の様式で癌化学療法薬剤に対して応答する。」

(摘示6C)
861頁右欄6?17行
「雄の成体フェレット (1?1. 4 kg, Marshall farms)を、異なる複数の処置グループにランダムにアサインした。各個体をメトファン吸入剤により麻酔した。頸動脈にカニューレを挿入し、首の外側部から露出させた。麻酔から回復させた後、各個体に対して、シスプラチン(10 mg kg^(-1), 静脈注射)投与30分前に、RS 25259-197(1-100μg kg^(-1),静脈注射又は0. 3-100μg kg^(-1), 経口)、オンダンセトロン(30-1000μg kg^(-1), 経口)又はビヒクル (1 ml kg^(-1), 静脈注射又は経口)を投与した。これらの化合物は、硬いゼラチンカプセルに入れて経口で与えた。各個体について、シスプラチン投与後の嘔吐症例数を5時間カウントした。」

(摘示6D)
861頁右欄18?31行
「雄の成体イヌ(8-20kg) (Hazleton Research Products)を、異なる複数の処置グループにランダムにアサインした。アポモルヒネ(0.1mg kg^(-1)皮下)投与30分前;ダカルバジン(30mg kg^(-1), 静脈注射)又はメクロレタミン(0.4 mg kg^(-1),静脈注射)、及び、アクチノマイシンD(0. 15mg kg^(-1),静脈注射)投与120分前;又は、シスプラチン(3 mg kg^(-1),静脈注射)投与60分後に、RS 25259-197 (0. 3-300μg kg^(-1),静脈注射又は経口)、対照のビヒクル(0.lml kg^(-1),静脈注射又は経口)、オンダンセトロン(l-lOOOμg kg^(-1),静脈注射又は経口)又はハロペリドール(5mg kg^(-1),経口)を各個体に投与した。・・・各個体について、各催吐性薬剤の投与後の嘔吐症例数を5時間カウントした。」

(摘示6E)
861頁右欄33?39行
「制吐活性の持続期間を調べるために設計した別実験では、シスプラチン投与の24, 12, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1時間前に、ビヒクル(0.1ml kg^(-1),静脈注射)、RS 25259-197(30μg kg^(-1),静脈注射)又はオンダンセトロン(300μg kg^(-1),静脈注射)でイヌを前処置し、その後、更に5時間観察した。」

(摘示6F)
863頁左欄2?7行
「シスプラチン投与30分前のRS 25259-197(1-30μg kg^(-1),静脈注射及び1-30μg kg^(-1),経口)、オンダンセトロン(30-1000μg kg^(-1),経口)、及び、グラニセトロン(3-300μg kg^(-1),経口)は、ビヒクル対照と比較して、フェレットにおいて嘔吐症例数を有意かつ濃度依存的に減少させた(図5及び表1)。」

(摘示6G)
863頁左欄10行?右欄4行
「図6 及び表2に示すとおり、RS 25259-197(注:パロノセトロン)(0. 3-lOOμg kg^(-1),静脈注射、及び1-100μg kg^(-1),経口)及びオンダンセトロン(3-300μg kg^(-1),静脈注射及び1O-100μg kg^(-1),経口)は、イヌにおいて、シスプラチン、アクチノマイシンD、ダカルバジン、及び、メクロレタミンにより誘発される嘔吐を濃度依存的に阻害した。ID5値は表3に示されている。」

(摘示6H)6-4
863頁左欄 図5




(摘示6I)6-8
863頁右欄 図6




(摘示6J)なし
864頁 表3




(摘示6K)なし
863頁右欄7?11行
「制吐活性の持続時間を調べるために設計した研究では、RS 25259-197(30μg kg^(-1),静脈注射)は7時間にわたりシスプラチン誘導制嘔吐に関して有効であった。他方、オンダンセトロン(300μg kg^(-1),静脈注射)の制吐活性は4時間持続した(図7)。」

(摘示6L)なし
864頁左欄 図7




甲第11号証
(摘示11A)
95頁イントロダクション1?10行
「RG12915(I)、即ち、N-[アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3(S)-イル]-2-クロロ-シス-5a(S)-9a(S)-5a,6,7,8,9,9a-ヘキサヒドロジベンゾフラン-4-カルボキサミドは、5-ヒドロキシトリプタミン_(3)は(5-HT_(3))受容体の非常に強力な拮抗薬である(Fitzpatrick et a1., 1990; Youssefyeh et a1., 1992a, b; Martin et al., 1993)。本薬は、化学療法薬によって誘発される嘔吐又はむかつきを軽減するので、化学療法を受ける患者のための制吐薬として開発されている。」

(提示11B)
95頁イントロダクション11?18行
「水溶液中のRG12915は、多数の分解生成物を生じる光分解プロセス及び酸化分解プロセスを受けやすい。本研究は、本薬の分解生成物の単離及び同定について報告し、水溶液における光分解経路及び酸化分解経路を検討する。」

(摘示11C)
96頁スキーム1




(摘示11D)
102頁左欄17?23行
「自己酸化の速度は基質濃度に比例することが述べられている(Bateman, 1954; Betts, 1971; Connors et al., 1986)。図4において定性的に示されるように、濃度が高いほど、速く酸化され、より低い百分率で横ばい状態になり、一方、濃度が低いほど、ゆっくり酸化され、より高い百分率で横ばい状態になる。」

(摘示11E)
102頁、図4




甲第12号証
(摘示12A)
表紙
聖マリアンナ医科大学図書情報課受け入れ印(2002年6月2日付け)の記載がみられる。

(摘示12B)
1?12行
「1480 一般ポスター 月曜日、午前8時-午後12時
高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導される悪心及び嘔吐を抑制するための、パロノセトロンの単回静脈内投与を評価するための第2相投与量決定試験
マチオチ,S. B. チャノフ,S.C. ギャラガー;ヘルシンヘルスケア社,ルガーノ,スイス; MGIファーマ社,プルーミントン,ミネソダ州

パロノセトロンは、強力で、高選訳的な、強い結合親和性を有する5-HT3受容体拮抗薬である。以前の第 1 相臨床試験において、パロノセトロンは約 40 時間の半減期を示した。ランダム化二重盲検多施設の投与量決定第2相臨床試験が、0. 3-90 μg/kgの範囲でのパロノセトロンの単回静脈内投与の用量反応関係を特定するために行われた。」

(摘示事項12C)
12?32行
「方法:一般に、遅延嘔吐に関連している、シクロホスファミド (> 1lOOmg/m^(2)及びシスプラチン ( > 70mg/m^(2)を含む高度に嘔吐発生性の化学療法を受けている患者が、パロノセトロンの単回静脈内投与の5つの投与グループのうちの1つに振り分けられた。パロノセトロンは、化学療法の30分前に、(デキサメタゾンを使用しないで)単独で、30 秒の静脈内注射として投与された。第一エンドポイントは、24 時間の完全寛解(嘔吐なし、レスキューなし) (CR)であった。第二エンドポイントは、完全制御(嘔吐なし、レスキューなし、軽度の悪心)(CC)と 5 日間のCR を含む。安全性と効能の評価は、パロノセトロン投与後の、最初の24時間と、その後の6日間は毎日、患者日記に記録された。
結果:161人の患者(32人の女性、129人の男性)が参加した。重要な効能パラメータと結果が、下記表に要約される。有害事象の多く(83. 9%)が、軽度もしくは中度であり、治験薬に起因しなかった(86. 0%)。ほとんど共通して報告された、治験薬に関連する有害事象は、頭痛 (19. 3%)、便秘(8. 7%)、めまい(2. 5%)、腹痛(2. 5%) を含む。重篤な薬剤関連事情は報告されなかった。
結論:結果は、これらの患者において、パロノセトロンが、急性嘔吐の治療において安全で効果的であり、5 日間にわたって効果を維持したことを証明し、第3相試験における更なる研究を正当化する。」

(摘示12D)
33行?最終行




5.当合議体の判断
本件発明5は、前記2に記述のとおり本件特許から削除されているので、本件発明5の特許についての特許異議申立ては不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
(したがって、本件発明5については判断を要さないから、以下理由1?4においては判断を示していない。)

5-1.理由1について
(1)本件発明1について
ア 甲12発明
甲12の摘示12B、12C、12Dの記載からみて、甲12には、

「(12a)パロノセトロンを含む注射用液体医薬組成物であって;
(12b)(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及び悪心の5日間の治療が可能であり;
(12c)(b)患者の体重kg当り10μg、30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(12d)(c)化学療法投与の30分前に、30秒の静脈内注射としてパロノセトロンを投与するためのものである;
(12e)医薬組成物。」の発明(以下、「甲12発明」ともいう。)

が記載されていると認める。

イ 本件発明1
本件発明1は、以下のとおり分説することができる。
「(1A)パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(1B)(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(1C)(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(1D)(c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(1E)ことを特徴とする医薬組成物。」

ウ 対比
本件発明1と甲12発明とを対比する。
本件発明1の構成1Dの化学療法の「ボーラス」(bolus)とは、通常、急速静注、ワンショットの意で用いられる用語であるから、甲12発明の構成12dの「30秒の静脈内注射として」は、同1Dの「静脈内ボーラスで」に相当する。また、甲12発明の構成12dにおける化学療法投与の「30分前に」、「30秒の」は、構成要件1Dの化学療法の「前1時間より短い時間内に」、「10秒?60秒の期間にわたり」の範囲に含まれる。そうすると、甲12発明の構成12dは、構成要件1Dに相当する。
甲12発明の構成12bにおける「患者の体重kg当り10μg、30μgの量」は、構成要件1Bの「患者の体重kg当り10μg?30μgの量」の範囲に含まれるから、甲12発明の構成1bは、構成要件1Bに相当する。

よって、両者の発明の一致点・相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「(1A’)パロノセトロンを含む注射用液体医薬組成物であって;
(1B’)(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐の5日間の治療が可能であり;
(1C’)(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(1D’)(c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(1E’)医薬組成物。」

<相違点>
1.構成要件1Aについて、本件発明1は、「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである」のに対し、甲12発明は、パロノセトロンを含むがその他の成分を含むことは特定されておらず、また、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlであることが特定されていない点
2.構成要件1Bについて、本件発明1は、「嘔吐及びむかつき」の治療が可能であるのに対し、甲12発明は、「むかつき」について特定されていない点

エ 判断
(ア)相違点1について
相違点1のうち、まず、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlとする点について検討する。
甲12には、パロノセトロンの投与量は記載されているが、静脈内注射する際に用いた溶媒の量が記載されておらず、注射用液体中のパロノセトロンの濃度を計算することができないから、いかなる濃度のパロノセトロンが投与されたかは不明である。
そして、各甲号証の記載を検討しても、甲12発明のパロノセトロンの濃度が実質的に本件発明1のパロノセトロンの濃度と同一であるといえる証拠は見いだせないし、また、本件発明1で規定される濃度範囲が、パロノセトロンの注射用液体医薬組成物の通常の調整濃度であるとの技術常識があったものとも認められない。
そうすると、上記相違点1は実質的な相違点であるといえ、本件発明1は甲12発明ではない。

(2)本件発明3について
ア 甲12発明
甲12には、前記(1)本件発明1についての項で述べたとおり、甲12発明が記載されている。

イ 本件発明3
本件発明3は、以下のとおり分説することができる。

「(3A)パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(3B)(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(3C)(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(3D)(c)化学療法の前10時間より短い時間内にパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(3E)ことを特徴とする医薬組成物。」

ウ 対比、判断
本件発明3の構成要件3A?3C、3Eは、本件発明1の構成要件1A?1C、1Eと同じである。また、甲12発明の構成12dの「化学療法投与の30分前」は、本件発明3の構成要件3Dにおける「化学療法の前10時間より短い時間内」に含まれる。そして、本件発明3の構成要件3Dが、本件発明1の構成要件1Dにおける「10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスで」を特定していない点は、甲12発明との相違点にはならない。

よって、甲12発明と本件発明3とは、前記(1)ウにおいて説示したとおりの一致点、相違点1、2を有する。そして、上記相違点についての判断は、前記(1)エにおいて説示したとおり、本件発明1におけると同様に判断される。
そうすると、相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明3は甲12発明ではない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1及び3は、甲12に記載された発明ではないので、本件発明1及び3に係る特許は、理由1によって取り消すべきものであるとはいえない。

5-2.理由2について
(1)本件発明4、6について
ア 甲12発明
甲12には、前記5-1(1)アで述べたとおり、甲12発明が記載されている。

イ 本件発明4、6
本件発明4、6は、前記2の【請求項4】、【請求項6】に記載のとおりであって、それぞれ、本件発明1を「患者の体重の範囲が40?120kgである」(以下、「相違点3」という。)と、本件発明1又は4を「前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する」(以下、「相違点4」)とさらに限定したものである。

ウ 対比
本件発明4、6と甲12発明とを対比する。
本件発明4、6は前記イで説示のとおりである。
よって、本件発明4、6と甲12発明とは、前記5-1(1)ウにおいて説示したとおりの一致点、相違点1、2に加えて、それぞれ、相違点3、相違点3及び/又は相違点4で相違する。

エ 判断
(ア)相違点1について
相違点1が実質的な相違点であり、本件発明1が甲12発明ではないことは、前記5-1(1)エにおいて説示したとおりである。そして、本件発明4、6の相違点1についても上記説示と同様に判断される。
そこで、更に進んで、甲12発明において相違点1に係る発明特定事項とすることを、当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認められるか否かについて、以下、検討する。

一般に、医薬品製剤を患者に投与するに当たり、有効成分の含有量を適切な範囲に設定することは当業者が通常検討する技術的事項であるから、パロノセトロンを含んでなる注射用液体医薬組成物にあっては、注射用液体医薬組成物中のパロノセトロンの濃度が検討されるといえる。
しかし、いずれの甲号証にもパロノセトロンの濃度について記載されておらず、各甲号証の記載をみても、注射用液体医薬組成物中のパロノセトロンの濃度を如何なる範囲に調整すべきかについての技術的知見を得ることはできない。

甲11には、RG12915水溶液は、その初期濃度が低いほど酸化速度が低くなることが記載されている(摘示11A?11D)。しかし、わずかに一の特定の化合物について、濃度と安定性とに相関関係が存在しているからといって、それと異なる化合物についても、直ちに同様の関係が成立するといえるものでもない。
そして、甲12には、パロノセトロンの貯蔵安定性についての記載がなく、各甲号証のいずれの記載を参照しても、パロノセトロンを含んでなる注射用液体医薬組成物が不安定であるとか、その貯蔵中に安定性を失うまたは減弱することから、その貯蔵安定性についての改善が必要であるとの認識が存在していたと認めることができない。また、甲1には、ヘルシン社のパロノセトロンが、パロノセトロン塩酸塩であることが記載されているものの、パロノセトロンの安定性に関する記載はないから、甲1の記載は、上記の認定、判断を左右しない。
そうすると、たとえ、医薬組成物は一般に貯蔵安定性を有するべきものであるとの技術常識があったとしても、パロノセトロンの注射用液体医薬組成物に関し、貯蔵安定性を有するものとすることが、当然の課題であったといえるものではない。
仮に、貯蔵安定性を有するパロノセトロンを含んでなる注射用液体医薬組成物を提供するとの課題が存在したとしても、パロノセトロンを含んでなる注射用液体医薬組成物の安定性がいかなる因子の影響を受けるのかは、各甲号証のいずれをみても不明である。そうすると、その貯蔵安定性を保持もしくは改善する手段として、相違点1に係る濃度を採用することは当業者が格別の創意を要することなく想到し得たとはいえない。

(イ)効果について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、パロノセトロンの濃度と組成物としての利点について、以下の記載がある。
「【0036】
パロノセトロンの必要なより低い投与量の特に驚くべき利点は、パロノセトロンの濃度が減少するにつれて、溶液中のパロノセトロンの安定性が増加するという事実に由来する。こうして、このパロノセトロンの効力のために、広い範囲のパロノセトロン濃度、好ましくは約0.01 mg/ml?約0.20 mg/mlのパロノセトロン、最も好ましくは約0.05 mg/mlの濃度のパロノセトロンを含んでなる安定な組成物に処方することができる。こうして、1つの特定の態様において、パロノセトロンは5 mlの溶液を含んでなるアンプルで供給され、ここでこの量は約0.05 mg/mlの濃度における約0.25 mgのパロノセトロンに等しい。
【0037】
増強された安定性により、パロノセトロンは延長した期間の間貯蔵することができ、ここで期間は約1月、3ヶ月、6ヶ月、1年、または18ヶ月を超えるが、好ましくは30ヶ月を越えない (我々は安定性を試験し、これはFDAファイルの中に含まれている) 。この増強された安定性は、室温を含む種々の貯蔵条件において見られる。
この方法は、経口的、全身的 (例えば、経皮的、鼻内または坐剤による) または非経口的 (例えば、筋肉内、静脈内または皮下) を包含する事実上任意の投与方法を使用して実施することができる。好ましい態様において、パロノセトロンは経口的液体としてまたは静脈内に投与され、最も好ましくはパロノセトロンは静脈内に投与される。」

本件特許明細書の上記記載によれば、パロノセトロンの安定性とは、もっぱら貯蔵安定性を意味しており、注射用液状医薬組成物中のパロノセトロンが、たとえば、分解することなく、あるいは分解を抑えて、当初のまま、あるいは当初に近い状態で存在している場合を含むものと理解できる。
ところで、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、0.01?0.20mg/mlの濃度のパロノセトロンを含んでなる組成物について、溶液中のパロノセトロンの安定性について具体的に確認した試験結果は記載されていないものの、上記した段落0036、0037の記載に接した当業者は、パロノセトロンの濃度が0.01?0.20mg/mlの注射用液体医薬組成物中、パロノセトロンが、室温を含む種々の貯蔵条件において安定であることを理解するといえる。

そして、各甲号証のいずれをみても、パロノセトロンの安定な注射用液体医薬組成物を得るとの課題は見いだせない。また、たとえ、安定な注射用液体医薬組成物を提供することが医薬組成物の分野における当然の課題であるとしても、パロノセトロンの注射用液体医薬組成物における該課題を実現する手段について記載もしくは示唆する記載はなく、パロノセトロンが上記濃度において、その含有量が低下することなく安定に存在しうることが当業者の技術常識であったと認めることもできない以上、「パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」であることを発明特定事項とする本件発明4、6は、当業者が予想し得ない顕著な効果を奏するものである。

したがって、甲12発明において、相違点1に係る濃度を採用することは当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできない。

(ウ)以上のとおり、相違点1のその他の相違点、すなわち医薬組成物に含まれる他の成分や、相違点2?4について検討するまでもなく、本件発明4、6は、甲12発明、甲11、甲1の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明9、10について
ア 甲12発明
甲12には、前記5-1(1)アで述べたとおり、甲12発明が記載されている。

イ 本件発明9、10
本件発明9、10は、前記2の【請求項9】、【請求項10】に記載のとおりであって、それぞれ、本件発明3を「患者の体重の範囲が40?120Kgである」(前記(1)イで説示した相違点3)と、本件発明3又は9を「前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する」(前記(1)イで説示した相違点4)とさらに限定したものである。

ウ 対比
本件発明9、10と甲12発明とを対比する。
本件発明9、10は前記イで説示のとおりである。
よって、本件発明9、10と甲12発明とは、前記5-1(1)ウにおいて説示したとおりの一致点、相違点1、2に加えて、それぞれ、相違点3、相違点3及び/又は相違点4で相違する。

エ 判断
相違点1が、本件発明3と甲12発明との実質的な相違点であること、甲12発明において、相違点1に係る濃度を採用することは当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできないことは、前記5-1(2)ウ、前記(1)エ(ア)において説示したとおりである。そして、本件発明9、10の相違点1についても上記説示と同様に判断される。
また、本件発明9、10は、「パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」であることを発明特定事項とするものであり、前記(1)エ(イ)において説示した、本件明細書記載の当業者が予想し得ない顕著な効果を奏するものである。
以上のとおり、相違点1のその他の相違点、すなわち医薬組成物に含まれる他の成分や、相違点2?4について検討するまでもなく、訂正発明9、10は、甲12発明、甲11、甲1の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
よって、本件発明4及び6に係る特許、本件発明9及び10に係る特許は、理由2によって取り消すべきものであるとはいえない。

5-3.理由3について
(1)本件発明1について
ア 甲1発明
甲1の摘示1A、1Bの記載からみて、1C、1Dの試験において用いられている「パロノセトロン」はパロノセトロン塩酸塩であると認められる。また、同摘示1Dには、1C記載のパロノセトロン塩酸塩用量での静脈内投与試験において、最長120時間、すなわち5日間の嘔吐抑制効果が確認されたことが記載されているから5日間の治療が可能であったといえる。
そうすると、甲1には、

「1a:パロノセトロン塩酸塩を含んでなる注射用液体医薬組成物であって、
1b:(a)中度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐の5日間の治療が可能であり;
1c:(b)患者に0.25mg又は0.75mgのパロノセトロンを静脈投与するためのものであり;そして
1d:(c)化学療法の30分前に、静脈内にパロノセトロンを単一投与するためのものである;
1e:医薬組成物。」の発明(以下、「甲1発明」ともいう。)

が記載されていると認める。

イ 本件発明1
本件発明1は、前記2の【請求項1】に記載のとおりと認め、前記5-1(1)イのとおり分説することができる。

ウ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の構成要件1aのパロノセトロン塩酸塩は、本件発明1のパロノセトロンの医薬として許容される塩に相当する。そして、甲1発明の構成要件2bの治療は、嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐の治療が可能である限りにおいて、本件発明1の治療と一致するといえる。甲1発明の構成1dにおける化学療法投与の「30分前に」は、構成要件1Dの化学療法の「前1時間より短い時間内に」の範囲に含まれる。また、甲1には、患者の体重について記載がないから、甲1発明の構成要件1cの投与量を体重当たりの量に換算することはできないが、患者に特定量でパロノセトロンを投与するためのものである限りにおいて、本件発明1の構成要件1Cと一致するといえる。

よって、両者の発明の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「(1A’)パロノセトロンの医薬として許容される塩を含んでなる注射用液体医薬組成物であって;
(1B’)(a)嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐の5日間の治療が可能であり;
(1C’)(b)患者に特定量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(1D’)(c)化学療法の前1時間より短い時間内に、静脈内にパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(1E’)ことを特徴とする医薬組成物。」

<相違点>
5.構成要件1Aについて、本件発明1は、「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである」のに対し、甲1発明は、パロノセトロンを含むがその他の成分を含むことは特定されておらず、また、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlであることが特定されていない点
6.構成要件1Bについて、本件発明1は、「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつき」の治療が可能であるのに対し、甲1発明は、「中度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐」の治療が可能である点
7.構成要件1Cについて、本件発明1は、患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであるのに対し、甲1発明は、患者に0.25mg又は0.75mgのパロノセトロンを投与するためのものである点
8.構成要件1Dについて、本件発明1は、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを投与するためのものであるのに対し、甲1発明は、投与の期間及び「ボーラス」で投与することについて特定されていない点

エ 判断
(ア)相違点5について
相違点5のうち、まず、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlとする点について検討する。
甲1には、パロノセトロンの投与量は記載されているが、静脈内注射する際に用いた溶媒の量が記載されておらず、注射用液体中のパロノセトロンの濃度を計算することができないから、いかなる濃度のパロノセトロンが投与されたかは不明である。
そして、各甲号証の記載を検討しても、甲1発明のパロノセトロンの濃度が実質的に本件発明1のパロノセトロンの濃度と同一であるといえる証拠は見いだせないし、また、パロノセトロンの注射用液体医薬組成物の濃度を本件発明1で規定される濃度範囲にすることが技術常識であったとは認められない。
そうすると、上記相違点5は実質的な相違点であるといえる。
一般に、医薬品製剤を患者に投与するに当たり、有効成分の含有量を適切な範囲に設定すること自体は、当業者が通常検討する技術的事項であるといえる。しかし、甲2?12の記載をみても、高度の嘔吐発生性の化学療法がいかなるものであるか、又はパロノセトロンが高度の嘔吐発生性の化学療法における遅延嘔吐に対して抑制効果を有することに合理的な予測可能性があるか否かの証明に利用しうるといえるとしても、いずれの甲号証にもパロノセトロンの濃度について記載がなく、注射用液体医薬組成物中のパロノセトロンの濃度を如何なる範囲に調整すべきかについての技術的知見を得られない(前記5-2(1)エ(ア))のであるから、甲1発明において、相違点5に係る濃度を採用することを当業者が格別の創意を要することなくなし得たと認めることができない。

(イ)効果について
本件発明1は、「パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」であることを発明特定事項とするものであり、前記(1)エ(イ)において説示した、本件明細書記載の当業者が予想し得ない顕著な効果を奏するものである。

なお、参考資料1?3は催吐性リスク分類を記載した資料であり、参考資料4、5は、モデル動物における投与量とヒト投与量との比較と計算に関する資料であり、また、参考資料6?9はボーラス投与に関する説明資料であって、それら各参考資料の記載は、以上の認定、判断を左右しない。

(ウ)したがって、相違点5のその他の相違点、すなわち医薬組成物に含まれる他の成分や、相違点6?8について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2?12の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明4、6について
ア 甲1発明
甲1には、前記(1)アで述べたとおり、甲1発明が記載されている。

イ 本件発明4、6
本件発明4、6は、前記2の【請求項4】、【請求項6】に記載のとおりであって、前記5-2(1)イに説示のとおり、それぞれ、本件発明1を「患者の体重の範囲が40?120kgである」(前記5-2(1)イで説示した相違点3)と、本件発明1又は4を「前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する」(5-2(1)イで説示した相違点4)とさらに限定したものである。

ウ 対比
本件発明4、6と甲1発明とを対比する。
本件発明4、6は前記イで説示のとおりである。一方、甲1発明は「パロノセトロン塩酸塩」を構成要件1aとするものであるから、前記相違点4は甲1発明との相違点にはならない。
よって、本件発明4、6と甲1発明とは、前記(1)ウにおいて説示したとおりの一致点、相違点5?8に加えて、ともに、相違点3で相違する。

エ 判断
(ア)相違点5について
相違点5が甲1発明との実質的な相違点であること、甲1発明において、相違点5に係る濃度を採用することは当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできないことは、前記(1)エ(ア)において説示したとおりである。そして、本件発明9、10の相違点5についても上記説示と同様に判断される。
また、本件発明4、6の効果については、前記(1)エ(イ)で説示したとおりである。

(イ)したがって、相違点5のその他の相違点、すなわち医薬組成物に含まれる他の成分や、相違点3、6?8について検討するまでもなく、本件発明4、6は、甲1発明、甲2?12の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3について
ア 甲1発明
甲1には、前記5-3(1)アで述べたとおり、甲1発明が記載されている。

イ 本件発明3
本件発明3は、前記2の【請求項3】に記載のとおりと認め、前記5-1(2)イのとおり分説することができる。

ウ 対比
本件発明3の構成要件3A?3C、3Eは、本件発明1の構成要件1A?1C、1Eと同じである。また、甲1発明の構成1dの「化学療法投与の30分前」は、本件発明3の構成要件3Dにおける「化学療法の前10時間より短い時間内」に含まれる。そして、本件発明3の構成要件3Dでは、本件発明1の構成要件1Dにおける「10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスで」が特定されていないから、前記相違点8は甲1発明との相違点にはならない。

エ 判断
(ア)相違点5について
よって、甲1発明と本件発明3とは、前記(1)ウにおいて説示したとおりの一致点、相違点5?7を有する。そして、上記相違点についての判断は、前記(1)エにおいて説示したとおり、本件発明1におけると同様に判断される。
そして、相違点5が甲1発明との実質的な相違点であること、甲1発明において、相違点5に係る濃度を採用することは当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできないことは、前記(1)エ(ア)において説示したとおりである。そして、本件発明9、10の相違点5についても上記説示と同様に判断される。

(イ)効果について
本件発明3は、「パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」であることを発明特定事項とするものであり、前記(1)エ(イ)において説示した、本件明細書記載の当業者が予想し得ない顕著な効果を奏するものである。

(ウ)したがって、相違点5のその他の相違点、すなわち医薬組成物に含まれる他の成分や、相違点6、7について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明、甲2?12の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明9、10について
ア 甲1発明
甲1には、前記5-3(1)本件発明1についての項で述べたとおり、甲1発明が記載されている。

イ 本件発明9、10
本件発明9、10は、前記2の【請求項9】、【請求項10】に記載のとおりであって、前記5-2(2)イに説示のとおり、それぞれ、本件発明3を「患者の体重の範囲が40?120kgである」(前記5-2(1)イで説示した相違点3)と、本件発明1又は4を「前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する」(5-2(1)イで説示した相違点4)とさらに限定したものである。

ウ 対比
本件発明9、10と甲1発明とを対比する。
本件発明9、10は前記イで説示のとおりである。一方、甲1発明は「パロノセトロン塩酸塩」を構成要件1aとするものであるから、前記相違点4は甲1発明との相違点にはならない。
よって、本件発明9、10と甲1発明とは、前記(1)ウにおいて説示したとおりの一致点、相違点5?7に加えて、ともに、相違点3で相違する。

エ 判断
(ア)相違点5について
相違点5が甲1発明との実質的な相違点であること、甲1発明において、相違点5に係る発明特定事項とすることは当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできないことは、前記(1)エ(ア)において説示したとおりである。そして、本件発明9、10の相違点5についても上記説示と同様に判断される。

(イ)効果について
また、本件発明9、10の効果については、前記(3)エ(イ)で説示したとおりである。

(ウ)したがって、相違点5のその他の相違点、すなわち医薬組成物に含まれる他の成分や、相違点3、6、7について検討するまでもなく、本件発明9、10は、甲1発明、甲2?12の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)小括
よって、本件発明1、4及び6に係る特許、並びに、本件発明3、9及び10に係る特許は、理由3によって取り消すべきものであるとはいえない。

5-4.理由4について
(1)本件発明1について
ア 甲6-1発明、甲6-2発明及び甲6-3発明
甲6の摘示6Aの記載からみて、甲6記載の被験物質「RS 25259-197」はパロノセトロン塩酸塩であると認められる。また、嘔吐の確立した動物モデルであるフェレット(摘示6B)を用いた同摘示6C、6F、6Hの試験及び同動物モデルであるイヌ(摘示6B)を用いた同摘示6D、6G、6I、6J試験において、化学療法剤の投与前にRS 25259-197を静脈注射した場合の被験動物の嘔吐症例数を5時間カウントして、RS 25259-197の嘔吐抑制効果を確認したことが記載されていることから、上記試験は、各被験物質について急性嘔吐の治療について評価したものと認められる。

そして、図5の記載から、RS 25259-197を、シスプラチン投与前、フェレットに10、30μg/kg投与した場合、5時間の嘔吐症例数がゼロであり、ビヒクル投与と嘔吐抑制効果において有意差があることが読み取れる。

甲6には、さらに、嘔吐発生性のダカルバジン、アクチノマイシンD、メクロレタミンの投与120分前、イヌにRS 25259-197を0. 3-300μg/kg,静脈注射投与した際の嘔吐症例数をカウントしたこと、また、ダカルバジン、アクチノマイシンD、メクロレタミンの制吐活性のID_(50)推定値が、それぞれ順に、4.1、4.9、4.4μg/kgであることが記載されている(摘示6J)。該記載に接した当業者であれば、上記と同じ条件下において、RS 25259-197をID_(50)値の用量で使用すれば、イヌの半数において制吐活性が発揮されることを理解するといえる。
また、甲6の図7の記載から、シスプラチンの投与1、2、3、4、5、6、7時間前、イヌにRS 25259-197を30μg/kg,静脈注射投与した場合に、その嘔吐症例数において、ビヒクル投与と有意差があることが読み取れる。

そうすると、甲6には、

摘示6C、6F、6Hの記載から、
「61a:パロノセトロン塩酸塩を含んでなる注射用液体医薬組成物であって、
61b:(a)シスプラチン10mg/kg静脈注射による急性嘔吐の治療が可能であり;
61c:(b)フェレットの体重kg当り10μg、30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
61d:(c)上記シスプラチン静脈注射の30分前に、静脈内にパロノセトロンを単一投与するためのものである;
61e:医薬組成物。」の発明(以下、「甲6-1発明」という。)、

摘示6D、6G、6I、6Jの記載から、
「62a:パロノセトロン塩酸塩を含んでなる注射用液体医薬組成物であって、
62b:(a)ダカルバジン30mg/kg静脈注射、メクロレタミン0.4mg/kg静脈注射、アクチノマイシンD0.15mg/kg静脈注射による急性嘔吐の治療が可能であり;
62c:(b)ダカルバジン、メクロレタミン、アクチノマイシンDによる急性嘔吐に対して、それぞれ、イヌの体重kg当り4.1μg、4.9μg、4.4μgのID_(50)推定値を有するものであり;そして
62d:(c)上記ダカルバジン、メクロレタミン、アクチノマイシンD投与の120分前に、静脈内にパロノセトロンを単一投与するためのものである;
62e:医薬組成物。」の発明(以下、「甲6-2発明」ともいう。)、

及び

摘示6E、6K、6Lの記載から、
「63a:パロノセトロン塩酸塩を含んでなる注射用液体医薬組成物であって、
63b:(a)シスプラチン10mg/kg静脈注射による化学療法からの急性嘔吐の治療が可能であり;
63c:(b)イヌの体重kg当り30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
63d:(c)上記シスプラチン投与の1、2、3、4、5、6、7、8時間前に、静脈内にパロノセトロンを単一投与するためのものである;
63e:医薬組成物。」の発明(以下、「甲6-3発明」という。)

が記載されていると認める。

イ 本件発明1
本件発明1は、前記2の【請求項1】に記載のとおりと認め、前記5-1(1)イのとおり分説することができる。

ウ 対比
本件発明1と甲6-1発明とを対比する。
甲6-1発明の構成要件61aのパロノセトロン塩酸塩は、本件発明1のパロノセトロンの医薬として許容される塩に相当する。そして、シスプラチンは化学療法剤であるから、甲6-1発明の構成要件61bの治療は、嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐の治療が可能である限りにおいて、本件発明1の治療と一致するといえる。甲6-1発明の構成61dにおける「シスプラチン静脈注射の30分前に」は、構成要件1Dの「化学療法の前1時間より短い時間内に」の範囲に含まれるから、甲6-1発明の構成61dは本件発明1の構成要件1Dに相当する。また、甲6-1発明の「フェレット」は、嘔吐の確立した動物モデルであるから(摘示6B)、投与対象動物である限りにおいて、本件発明1の「患者」と一致するといえる。
よって、両者の発明の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「(1A’)パロノセトロンの医薬として許容される塩を含んでなる注射用液体医薬組成物であって;
(1B’)(a)嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐の治療が可能であり;
(1C’)(b)投与対象動物の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(1D’)(c)化学療法の前1時間より短い時間内に、静脈内にパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(1E’)ことを特徴とする医薬組成物。」

<相違点>
9.構成要件1Aについて、本件発明1は、「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである」のに対し、甲1発明は、パロノセトロン塩酸塩を含むがその他の成分を含むことは特定されておらず、また、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlであることが特定されていない点
10.構成要件1Bについて、本件発明1は、「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間」の治療が可能であるのに対し、甲6-1発明は、「シスプラチン10mg/kg静脈注射による嘔吐発生性の化学療法からの急性嘔吐」の治療が可能である点
11.構成要件1Cについて、本件発明1は、患者に投与するためのものであるのに対し、甲6-1発明は、フェレットに投与するためのものである点
12.構成要件1Dについて、本件発明1は、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを投与するためのものであるのに対し、甲6-1発明は、投与の期間及び「ボーラス」で投与することについて特定されていない点

エ 判断
(ア)相違点9について
相違点9のうち、まず、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlとする点について検討する。
甲6には、パロノセトロンの投与量は記載されているが、静脈内注射する際に用いた溶媒の量が記載されておらず、注射用液体中のパロノセトロンの濃度を計算することができないから、いかなる濃度のパロノセトロンが投与されたかは不明である。
そして、各甲号証の記載を検討しても、甲6-1発明のパロノセトロンの濃度が実質的に本件発明1のパロノセトロンの濃度と同一であるといえる証拠は見いだせないし、また、パロノセトロンの注射用液体医薬組成物の濃度を本件発明1で規定される濃度範囲にすることが技術常識であったとは認められない。
そうすると、上記相違点9は実質的な相違点であるといえる。
一般に、医薬品製剤を患者に投与するに当たり、有効成分の含有量を適切な範囲に設定すること自体は、当業者が通常検討する技術的事項であるといえる。しかし、甲1?5、甲7?12の記載をみても、高度の嘔吐発生性の化学療法がいかなるものであるか、又はパロノセトロンが高度の嘔吐発生性の化学療法における遅延嘔吐に対して抑制効果を有することに合理的な予測可能性があるか否かの証明に利用しうるといえるとしても、いずれの甲号証にもパロノセトロンの濃度について記載がなく、注射用液体医薬組成物中のパロノセトロンの濃度を如何なる範囲に調整すべきかについての技術的知見を得られない(前記5-2(1)エ(ア))のであるから、甲6-1発明において、相違点9に係る濃度を採用することを当業者が格別の創意を要することなくなし得たと認めることができない。

(イ)効果について
本件発明1は、「パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」であることを発明特定事項とするものであり、前記5-2(1)エ(イ)において説示した、本件明細書記載の当業者が予想し得ない顕著な効果を奏するものである。
そして、本件発明1の効果についてみても、前記5-2(1)エ(イ)における説示のとおり、甲6-1発明及び各甲号証のいずれからも当業者が予想し得ない顕著な効果を奏し得たものである。

(ウ)したがって、相違点9のその他の相違点、すなわち医薬組成物に含まれる他の成分や、相違点10?12について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6-1発明、甲1?5、甲7?12の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明4、6について
ア 甲6-1発明
甲6には、前記(1)本件発明1についての項で述べたとおり、甲6-1発明が記載されている。

イ 本件発明4、6
本件発明4、6は、前記2の【請求項4】、【請求項6】に記載のとおりであって、前記5-2(1)イに説示のとおり、それぞれ、本件発明1を「患者の体重の範囲が40?120kgである」(前記5-2(1)イで説示した相違点3)と、本件発明1又は4を「前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する」(5-2(1)イで説示した相違点4)とさらに限定したものである。

ウ 対比
本件発明4、6と甲6-1発明とを対比する。
本件発明4、6は前記イで説示のとおりである。一方、甲6-1発明は「パロノセトロン塩酸塩」を構成要件61aとするものであるから、前記相違点4は甲6-1発明との相違点にはならない。
よって、本件発明4、6と甲6-1発明とは、前記(1)ウにおいて説示したとおりの一致点、相違点9?12に加えて、ともに、相違点3で相違する。

エ 判断
(ア)相違点9について
相違点9が甲6-1発明との実質的な相違点であること、甲6-1発明において、相違点9に係る濃度を採用することは当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできないことは、前記(1)エ(ア)において説示したとおりである。そして、本件発明4、6の相違点9についても上記説示と同様に判断される。

(イ)効果について
また、本件発明4、6の効果については、前記(1)エ(イ)で説示したとおりである。

(ウ)したがって、相違点9のその他の相違点、すなわち医薬組成物に含まれる他の成分や、相違点3、10?12について検討するまでもなく、本件発明4、6は、甲6-1発明、甲1?5、甲7?12の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3について
ア 甲6-1発明、甲6-2発明及び甲6-3発明
甲6には、前記(1)アで説示した事項及び甲6-1発明、甲6-2発明及び甲6-3発明が記載されている。

イ 本件発明3
本件発明3は、前記2の【請求項3】に記載のとおりと認め、前記5-1(2)イのとおり分説することができる。

ウ 対比、判断
(ア)甲6-1発明との対比、判断
(ア)-1 対比
本件発明3の構成要件3A?3C、3Eは、本件発明1の構成要件1A?1C、1Eと同じである。また、シスプラチンは化学療法剤であるから、甲6-1発明の構成61dの「シスプラチン静脈注射の30分前」は、本件発明3の構成要件3Dにおける「化学療法の前10時間より短い時間内」に含まれる。そして、本件発明3の構成要件3Dでは、本件発明1の構成要件1Dにおける「10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスで」が特定されていないから、前記相違点12は甲6-1発明との相違点にはならない。

(ア)-2 判断
よって、甲6-1発明と本件発明3とは、前記(1)ウにおいて説示したとおりの一致点、相違点9?11を有する。そして、上記相違点についての判断は、前記(1)エにおいて説示したとおり、本件発明1におけると同様に判断される。

a 相違点9について
そして、相違点9が甲6-1発明との実質的な相違点であること、甲6-1発明において、相違点9に係る濃度を採用することは当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできないことは、前記(1)エ(ア)において説示したとおりである。そして、本件発明3の相違点9についても上記説示と同様に判断される。

b 効果について
本件発明3は、「パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」であることを発明特定事項とするものであり、前記5-2(1)エ(イ)において説示した、本件明細書記載の当業者が予想し得ない顕著な効果を奏するものである。
また、本件発明3は、構成要件3Dが本件発明1の構成要件1Dを包含する点で本件発明1を包含するものといえるから、前記(1)エ(ア)で説示したとおりの効果を奏し、該効果は、甲6-1発明及び各甲号証のいずれからも当業者が予想し得ない顕著なものである。

c したがって、相違点9のその他の相違点、すなわち医薬組成物に含まれる他の成分や、相違点10、11について検討するまでもなく、本件発明3は、甲6-1発明、甲1?5、甲7?12の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)甲6-2発明との対比、判断
(イ)-1 対比
本件発明3と甲6-2発明とを対比する。
甲6-2発明の構成要件62aのパロノセトロン塩酸塩は、本件発明3のパロノセトロンの医薬として許容される塩に相当する。そして、ダカルバジン、メクロレタミン、アクチノマイシンDは化学療法剤であるから、甲6-2発明の構成要件62bの治療は、嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐の治療が可能である限りにおいて、本件発明3の治療と一致するといえる。また、甲6-2発明の「イヌ」は、嘔吐の確立した動物モデルであるから(摘示6B)、投与対象動物である限りにおいて、本件発明1の「患者」と一致するといえる。さらに、ID_(50)値がイヌの半数に嘔吐抑制効果を発揮する量であることを考慮すれば、甲6-2発明の構成要件62cのID_(50)推定値は、投与対象動物の体重kg当り特定量でパロノセトロンを投与するためのものである限りにおいて、本件発明3の構成要件3Cと一致するといえる。また、甲6-2発明の構成62dにおける「ダカルバジン、メクロレタミン、アクチノマイシンD投与の120分前に」は、構成要件3Dの「化学療法の前10時間より短い時間内に」の範囲に含まれる。
よって、両者の発明の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「(3A’)パロノセトロンの医薬として許容される塩を含んでなる注射用液体医薬組成物であって;
(3B’)(a)嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐の治療が可能であり;
(3C’)(b)投与対象動物の体重kg当り特定量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(3D’)(c)化学療法の前10時間より短い時間内に、静脈内にパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(3E’)ことを特徴とする医薬組成物。」

<相違点>
13.構成要件3Aについて、本件発明3は、「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである」のに対し、甲6-2発明は、パロノセトロン塩酸塩を含むがその他の成分を含むことは特定されておらず、また、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlであることが特定されていない点
14.構成要件3Bについて、本件発明3は、「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間」の治療が可能であるのに対し、甲6-2発明は、「ダカルバジン30mg/kg静脈注射、メクロレタミン0.4mg/kg静脈注射、アクチノマイシンD0.15mg/kg静脈注射による化学療法からの急性嘔吐」の治療が可能である点
15.構成要件3Cについて、本件発明3は、患者の体重kg当り10μg?30μgの投与量で投与するためのものであるのに対し、甲6-2発明は、イヌの体重kg当り4.1μg、4.9μg又は4.4μgのID_(50)推定値で投与するためのものである点

(イ)-2 判断
a 相違点13について
相違点13は、前記(1)ウで説示した相違点9と同じである。そうすると、相違点13については、前記(1)エ(ア)における同様に判断される。
そうすると、甲6-2発明において、相違点13に係る濃度を採用することを当業者が格別の創意を要することなくなし得たと認めることができない。

b 効果について
本件発明3は、「パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」であることを発明特定事項とするものであり、前記5-2(1)エ(イ)において説示した、本件明細書記載の当業者が予想し得ない顕著な効果を奏するものである。

c したがって、相違点13のその他の相違点、すなわち医薬組成物に含まれる他の成分や、相違点14、15について検討するまでもなく、本件発明3は、甲6-2発明、甲1?5、甲7?12の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)甲6-3発明との対比、判断
(ウ)-1 対比
本件発明3と甲6-3発明とを対比する。
甲6-3発明の構成要件63aのパロノセトロン塩酸塩は、本件発明3のパロノセトロンの医薬として許容される塩に相当する。そして、甲6-3発明の構成要件63bの治療は、嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐の治療が可能である限りにおいて、本件発明3の治療と一致するといえる。また、甲6-2発明の「イヌ」は、嘔吐の確立した動物モデルであるから(摘示6B)、投与対象動物である限りにおいて、本件発明1の「患者」と一致するといえる。また、シスプラチンは化学療法剤であり、甲6-3発明の構成63dにおける「シスプラチン投与の1、2、3、4、5、6、7、8時間前に」は、構成要件3Dの「化学療法の前10時間より短い時間内に」の範囲に含まれる。
よって、両者の発明の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「(3A’)パロノセトロンの医薬として許容される塩を含んでなる注射用液体医薬組成物であって;
(3B’)(a)嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐の治療が可能であり;
(3C’)(b)患者の体重kg当り30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(3D’)(c)化学療法の前10時間より短い時間内に、静脈内にパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(3E’)ことを特徴とする医薬組成物。」

<相違点>
16.構成要件3Aについて、本件発明3は、「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである」のに対し、甲6-3発明は、パロノセトロン塩酸塩を含むがその他の成分を含むことは特定されておらず、また、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlであることが特定されていない点
17.構成要件3Bについて、本件発明3は、「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間」の治療が可能であるのに対し、甲6-3発明は、「シスプラチン10mg/kg静脈注射による急性嘔吐」の治療が可能である点
18.構成要件3Cについて、本件発明3は、患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであるのに対し、甲6-3発明は、イヌの体重kg当り30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものである点

(ウ)-2 判断
a 相違点16について
相違点16は、前記(1)ウで説示した相違点9と同じである。そうすると、相違点16については、前記(1)エ(ア)における同様に判断される。
そうすると、甲6-3発明において、相違点16に係る濃度を採用することを当業者が格別の創意を要することなくなし得たと認めることができない。

b 効果について
本件発明3は、「パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」であることを発明特定事項とするものであり、前記5-2(1)エ(イ)において説示した、本件明細書記載の当業者が予想し得ない顕著な効果を奏するものである。

したがって、相違点16のその他の相違点、すなわち医薬組成物に含まれる他の成分や、相違点17、18について検討するまでもなく、本件発明3は、甲6-3発明、甲1?5、甲7?12の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明9、10について
ア 甲6-1発明、甲6-2発明及び甲6-3発明
甲6には、前記5-4(1)アで述べたとおり、甲6-1発明、甲6-2発明及び甲6-3発明が記載されている。

イ 本件発明9、10
本件発明9、10は、前記2の【請求項9】、【請求項10】に記載のとおりに記載のとおりであって、前記5-2(1)イに説示のとおり、それぞれ、本件発明3を「患者の体重の範囲が40?120kgである」(前記5-2(1)イで説示した相違点3)と、本件発明1又は4を「前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する」(5-2(1)イで説示した相違点4)とさらに限定したものである。

ウ 対比
本件発明9、10と甲6-1発明、甲6-2発明及び甲6-3発明とを対比する。
本件発明9、10は前記イで説示のとおりである。一方、甲6-1発明、甲6-2発明及び甲6-3発明は「パロノセトロン塩酸塩」を構成要件61a、62a、63aとするものであるから、前記相違点4は甲6-1発明、甲6-2発明及び甲6-3発明との相違点にはならない。
よって、本件発明9、10と甲6-1、6-2、6-3発明とは、それぞれ、前記(3)(ア)-1、(ア)-2、(ア)-3において説示したとおりの一致点、相違点9?11、13?15、16?18に加えて、ともに、相違点3で相違する。

エ 判断
(ア)相違点9、13、16について
相違点9が甲6-1発明との実質的な相違点であること、甲6-1発明において、相違点9に係る濃度を採用することは当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできないことは、前記(3)ウ(ア)-2 aにおいて説示したとおりである。また、相違点13、16が相違点9と同じであり、同様に判断されることは、前記(3)ウ(イ)-2 a、(3)ウ(ウ)-2 aにおいて説示したとおりである。そして、本件発明9、10の相違点9、13、16についても上記説示と同様に判断される。

(イ)効果について
また、本件発明9、10の効果については、前記(3)ウ(ア)-2 b、(3)ウ(イ)-2 b及び(3)ウ(ウ)-2 bで説示したとおりである。

(ウ)したがって、相違点9、13、16のその他の相違点、すなわち医薬組成物に含まれる他の成分や、相違点3、10?11、14?15、17?18について検討するまでもなく、訂正発明9、10は、甲6-1発明、甲6-2発明及び甲6-3発明、甲1?5、甲7?12の記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)小括
よって、本件発明1、4及び6に係る特許、並びに、本件発明3、9及び10に係る特許は、理由4によって取り消すべきものであるとはいえない。

6.むすび
特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由1?4によっては、請求項1、3、4、6?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3、4、6?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-10-14 
出願番号 特願2012-34259(P2012-34259)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (A61K)
P 1 652・ 113- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安藤 公祐  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 前田 佳与子
穴吹 智子
登録日 2016-03-04 
登録番号 特許第5893950号(P5893950)
権利者 ヘルシン ヘルスケア ソシエテ アノニム
発明の名称 化学療法誘導嘔吐を治療するためのパロノセトロン  
代理人 古賀 哲次  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 石田 敬  
代理人 中島 勝  
代理人 青木 篤  
代理人 福本 積  
代理人 中村 和広  

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