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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1367510
審判番号 不服2019-5846  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-07 
確定日 2020-10-21 
事件の表示 特願2017- 91542「疾患の治療のための二重機構阻害剤」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月14日出願公開、特開2017-160240〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2010年1月27日(パリ条約による優先権主張、2009年5月1日、米国(US))を国際出願日とする特願2012-508492号の一部を平成27年11月4日に新たな特許出願とした特願2015-216395号の一部を、平成29年5月2日に新たな特許出願としたものであって、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 1月18日付け:拒絶理由の通知
平成30年 7月17日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年12月20日付け:拒絶査定
令和 1年 5月 7日 :審判請求書及び手続補正書の提出

第2 令和1年5月7日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和1年5月7日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正の内容

本件補正は、特許法第17条の2第1項ただし書第4号に掲げる場合の、拒絶査定不服審判の請求と同時にされた補正であって、本件補正前の特許請求の範囲(平成30年7月17日提出の手続補正書を参照。)に記載された請求項16、即ち、

「【請求項16】
以下:
【化8】・・・
【化13】



【化14】


および
【化15】・・・
からなる群から選択される化合物またはその医薬的に許容される塩を含む眼障害の治療のための薬剤。」
(注:本件補正による変更箇所の変更前の記載に、当審合議体が下線を付した。)
を、本件補正後の特許請求の範囲(令和1年5月7日提出の手続補正書を参照。)に記載された請求項1、即ち、

「【請求項1】
【化1】


の化合物またはその医薬的に許容される塩を含む眼障害の治療のための薬剤。」
(注:下線部は本件補正による変更箇所であり、当審合議体が下線を付した。以下、上記【化1】の化合物を、記載の順に、それぞれ「化合物A」、「化合物B」と表す。)
とする補正(以下、「本件補正A」という。)を含むものである。

2 本件補正の適否

本件補正のうち、本件補正Aは、本件補正前の請求項16に記載された発明を特定するために必要な事項である、「眼障害の治療のための薬剤」に含まれる「化合物」について、本件補正前の請求項16では、「【化8】・・・【化15】からなる群から選択される化合物」(当該化合物のうち、【化13】の二つ目の構造式で表される化合物が「化合物A」であり、【化14】の一つ目の構造式で表される化合物が「化合物B」である。)であったのを、本件補正後の請求項1では、「【化1】・・・の化合物」(すなわち、「化合物A」もしくは「化合物B」)に限定する補正事項を含むものである。また、本件補正前の請求項16に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
よって、本件補正Aは、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2-1 発明の詳細な説明の記載

本願明細書における発明の詳細な説明には、以下の摘記ア?ツの記載がある。
なお、下線は当審合議体が付した。

摘記ア
「【技術分野】・・・
【0002】
本発明は、細胞中のキナーゼの機能および輸送体の機能に影響を与え、かつ治療薬としてあるいは治療薬との併用において有用な置換イソキノリンアミド化合物および置換ベンズアミド化合物に関する。特に、これらの化合物は、緑内障などの眼の疾患および障害、呼吸器系および心血管系の疾患および障害、癌などの異常増殖を特徴とする疾患の治療に有用である。」

摘記イ
「【背景技術】
【0003】
様々なホルモン、神経伝達物質および生物活性物質が、特異的細胞受容体との相互作用を介して、体の機能を制御、調整または調節する。これらの受容体の多くは、受容体が結合するグアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)を活性化させることによって細胞内シグナルの伝達を媒介する。そのような受容体は一般にGタンパク質共役受容体(GPCR)と呼ばれ、特に、アドレナリン作動性受容体、オピオイド受容体、カンナビノイド受容体およびプロスタグランジン受容体が挙げられる。これらの受容体を活性化させる生物学的作用は直接的なものではなく、細胞内タンパク質のホストによって媒介される。これらの二次タンパク質の重要性は最近になってから認識され、病状における介入点として研究されている。下流エフェクターの中で最も重要なクラスのうちの1つは「キナーゼ」クラスである。
【0004】
キナーゼは、多くの生理機能の調整に重要な役割を担っている。例えば、キナーゼは、これらに限定されるものではないが、狭心症、本態性高血圧症、心筋梗塞、上室性および心室性不整脈、鬱血性心不全、アテローム性動脈硬化症などの心疾患、喘息、慢性気管支炎、気管支痙攣、気腫、気道閉塞、鼻炎および季節性アレルギーなどの呼吸器疾患、炎症、関節リウマチ、腎不全および糖尿病などの多くの病状に関わっている。他の病気としては、慢性炎症性腸疾患、緑内障、高ガストリン血症、胃腸疾患(例えば、酸性/消化性疾患)、びらん性食道炎、胃腸液の分泌過多(gastrointestinal hypersecretion)、肥満細胞症、胃腸逆流、消化性潰瘍、疼痛、肥満症、神経性過食症、鬱病、強迫性障害、内臓奇形(例えば、心奇形)、神経変性疾患(例えば、パーキンソン病およびアルツハイマー病)、多発性硬化症、エプスタイン・バーウイルス感染症および癌が挙げられる(・・・)。他の病状におけるキナーゼの役割は、今やっと明らかになりつつある。
【0005】
・・・現在、100を超えるタンパク質キナーゼ阻害剤が臨床的に開発されている(・・・)。
【0006】
多くの病状におけるキナーゼの役割を考慮すると、キナーゼの活性を阻害または調節する低分子リガンドが緊急かつ継続的に必要とされている。理論に縛られたくはないが、本発明の化合物によるローキナーゼ(ROCK)などのキナーゼの活性の調節がそれらの有益な効果に部分的に関与していると思われる。」

摘記ウ
「【0007】
医薬における有益な調査のさらなる領域は、モノアミン輸送体およびその阻害の利点の研究である。モノアミン輸送体(MAT)は、細胞へあるいは細胞からモノアミンを含む神経伝達物質を輸送する細胞膜中の構造体である。いくつかの異なるモノアミン輸送体すなわちMATが存在し、それらは、ドーパミン輸送体(DAT)、ノルエピネフリン輸送体(NET)およびセロトニン輸送体(SERT)である。DAT、NETおよびSERTは構造的に類似しており、それぞれが12個の膜貫通ヘリックス構造を含んでいる。現代の抗鬱薬は、それらの各輸送体に結合し、それにより神経伝達物質再取り込みを阻害し、シナプスにおける神経伝達物質の濃度を有効に上昇させて、セロトニン作動性、ノルアドレナリン作動性もしくはドーパミン作動性神経伝達を高めることによって作用すると考えられている。この機構で作用すると考えられている薬物の例としては、フルオキセチン、選択的SERT阻害剤、レボキセチン、ノルエピネフリン(NET)阻害剤およびブプロピオン(NETおよびDATの両方を阻害する)が挙げられる(・・・)。」

摘記エ
「【0008】
緑内障は、眼の神経節細胞から脳まで画像を運ぶ眼の視神経(神経束)の変形を引き起こす。眼内圧の上昇は緑内障の最も一般的な形態のうちの一特徴であり、この眼内圧の上昇によって、複数の機構を介して視神経および神経節細胞が損傷される可能性がある。現在の緑内障の治療薬は、眼の中への眼房水の流れを遅くするか、あるいは、この流体の眼からの排出を改善することで眼内圧を低下させることによって作用する。ローキナーゼ阻害剤は、小柱網からの眼房水の排出を増加させることでウサギおよびサルにおける眼内圧を低下させることが分かっている(・・・)。いくつかの系統の実験的証拠によって、眼房水の流出経路内のローキナーゼ活性を調節することが緑内障患者の治療にとって有益となり得ることが示されている(・・・)。多くの証拠によって、交感神経系が眼内圧の調整に重要であるが複雑な役割を担っていることが示唆されている(・・・)。交感神経線維は、毛様体突起および小柱網の神経を支配し(・・・)、交感神経刺激および局所投与されるエピネフリンなどのβ-アドレナリン作動薬によって眼内圧が低下する(・・・)。」

摘記オ
「【発明の概要】
【0009】
一側面では、本発明は、以下に記載する式I、II、III、IV、VまたはVIに係る化合物を提供する。
【0010】
他の側面では、本発明は、以下に記載する式I、II、III、IV、VまたはVIに係る化合物および担体を含む医薬組成物を提供する。
【0011】
さらなる側面では、本発明は、以下に記載する式I、II、III、IV、VまたはVIに係る化合物の有効量を対象に投与することを含む、対象における疾患の治療方法を提供する。該疾患は、緑内障および網膜疾患(例えば、滲出型加齢黄斑変性症(Wet AMD)、萎縮型加齢黄斑変性症(Dry AMD)(炎症)および糖尿病性網膜症(DME))などの眼疾患、骨粗鬆症などの骨障害、脳血管痙攣、冠状動脈血管痙攣、高血圧症、肺高血圧症、突然死症候群、狭心症、心筋梗塞、再狭窄、発作、高血圧性血管疾患、心不全、移植心冠動脈病変、静脈移植片疾患などの血管疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および喘息などの肺疾患、脊髄損傷、アルツハイマー病、多発性硬化症、鬱病、注意欠陥多動性障害および神経因性疼痛などの神経障害、血管新生疾患および癌、肥満症および勃起障害からなる群から選択されるものであってもよい。」

摘記カ
「【0016】
アミノイソキノリルアミドおよびアミノベンズアミジルアミドが提供される。いくつかの側面では、ローキナーゼおよびモノアミン輸送体(MAT)の両方の阻害剤になり得る化合物が病状または病気を改善するように作用する、疾患および病気を治療するための組成物および方法が提供される。そのような疾患の1つは、とりわけ有益な効果すなわち眼内圧(IOP)の顕著な低下を達成することができる緑内障であってもよい。」

摘記キ
「【0046】
本明細書で使用される「眼疾患」としては、緑内障、アレルギー、眼癌、眼の神経変性疾患およびドライアイが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
「キナーゼ活性に関連する疾患または病気」という用語は、1種以上のキナーゼの阻害によって全体または部分的に治療が可能な疾患または病気を意味するように使用される。当該疾患または病気としては、緑内障および網膜疾患(例えば、Wet AMD、Dry AMD(炎症)およびDME)などの眼疾患、高眼圧症、骨粗鬆症などの骨障害、脳血管痙攣、心血管疾患、冠状動脈血管痙攣、高血圧症、肺高血圧症、突然死症候群、狭心症、心筋梗塞、再狭窄、発作、高血圧性血管疾患、心不全、移植心冠動脈病変、静脈移植片疾患などの血管疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および喘息などの肺疾患、脊髄損傷、アルツハイマー病、多発性硬化症、鬱病、注意欠陥多動性障害および神経因性疼痛などの神経障害、血管新生疾患および癌、肥満症および勃起障害が挙げられるが、これらに限定されない。」

摘記ク
「【0050】
化合物
本発明の第1の側面では、イソキノリンアミド化合物が提供される。本発明に係る化合物としては、式Iに係る化合物が挙げられる:
【0051】
【化1】


【0052】
(式中、R^(1)、R^(2)およびR^(3)は独立に、水素・・・、
Aは、C_(1)?C_(4)アルキル・・・、
Bは、・・・C_(1)?C_(22)カルボニル・・・、
X^(1)、X^(2)およびX^(3)は独立に、水素・・・、
二重丸
【0053】
【化2】

【0054】
は、芳香族環もしくは複素芳香族環を表し、
各Zは独立に、結合・・・である)。・・・
【0083】
本発明に係る化合物としては、以下に示す化合物E482?E496が挙げられる:・・・
【0089】
【化15】・・・


4-(3-アミノ-1-(イソキノリン-6-イルアミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)ベンジル2,4-ジメチルベンゾエート
【0090】
【化16】


4-(3-アミノ-1-(イソキノリン-6-イルアミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)ベンジル3,5-ジメチルベンゾエート・・・」

摘記ケ
「【0101】
組成物
式I?VIの化合物を組成物として提供または製剤化してもよい。本化合物を、医薬的に許容される担体に入れるかそれと一緒にした医薬的に許容される製剤として投与してもよい。・・・
【0111】
本発明に従って使用される医薬組成物を、1種以上の生理学的に許容される担体または賦形剤を用いる従来の方法で製剤化してもよい。従って、本化合物およびそれらの生理学的に許容される塩および溶媒和物を、例えば、固形投与、局所油性製剤(topical oil-based formulation)での点眼、注射、(経口または経鼻)吸入、埋め込み、経口、口内、非経口または直腸投与のために製剤化してもよい。技術および製剤については、一般に「Reminington's Pharmaceutical Sciences(レミントン薬学)」(Meade Publishing Co., Easton, Pa.)を参照することができる。・・・
【0112】
本発明の組成物は、安全かつ有効な量の対象化合物と、医薬的に許容される担体とを含む。本明細書で使用される「安全かつ有効な量」とは、正しい医学的判断の範囲内で、治療対象の病気の好ましい変化(positive modification)を顕著に誘発するのに十分であるが、重大な副作用を回避する程に低量の(適切な便益/リスク比の)化合物量を意味する。化合物の安全かつ有効な量は、治療中の特定の病気、治療中の患者の年齢および健康状態、病気の重症度、治療期間、併用療法の性質、使用される特定の医薬的に許容される担体、および主治医の知識および専門技術内での同様の因子によって異なる。」

摘記コ
「【0253】
実施例145?148
化合物E145?E148を図9のスキームに従って調製した。・・・
【0257】
2,4-ジメチル安息香酸4-(3-アミノ-1-(イソキノリン-6-イルアミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)ベンジルの二塩酸塩(E146)を以下に従ってE145から調製した:
【0258】
【化43】

【0259】
2,4-ジメチル安息香酸4-(3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-1-(イソキノリン-6-イルアミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)ベンジル(E145)のCH_(2)Cl_(2)溶液に、HCl(4規定、ジオキサン溶液)を添加し、この溶液を8?10時間撹拌した。溶媒を蒸発させて、純粋な2,4-ジメチル安息香酸4-(3-アミノ-1-(イソキノリン-6-イルアミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)ベンジルの二塩酸塩(E146)を得た。」

摘記サ
「【0266】
実施例149?175
市販の化合物および基本的に実施例140?143に示した手順を使用し、適当な出発物質に置き換え、表4に示す化合物E149?E175を調製した。
【0267】
【表4-1】



摘記シ
「【0271】
実施例197
2,4-ジメチル安息香酸(S)-4-(3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-1-(イソキノリン-6-イルアミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)ベンジル(E145-S)および2,4-ジメチル安息香酸(R)-4-(3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-1-(イソキノリン-6-イルアミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)ベンジル(E145-R)を図10のスキームに従ってE145から調製した。・・・
【0272】
2,4-ジメチル安息香酸(S)-4-(3-アミノ-1-(イソキノリン-6-イルアミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)ベンジルの二塩酸塩(E197-S)を図6のスキームに従ってE145-Sから調製した。2,4-ジメチル安息香酸(S)-4-(3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-1-(イソキノリン-6-イルアミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)ベンジル(E145-S)のCH_(2)Cl_(2)溶液に、HCl(4規定、ジオキサン溶液)を添加し、この溶液を8?10時間撹拌した。溶媒を蒸発させて、純粋な2,4-ジメチル安息香酸(S)-4-(3-アミノ-1-(イソキノリン-6-イルアミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)ベンジルの二塩酸塩(E197-S)を得た。キラルHPLC(Chiralpak AS-H、溶出液:90:10:0.1=EtOH:H_(2)O:ジエチルアミン)による分析から、鏡像体過剰率は98%超であることが分かった。
【0273】
2,4-ジメチル安息香酸(R)-4-(3-アミノ-1-(イソキノリン-6-イルアミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)ベンジルの二塩酸塩(E197-R)を図6のスキームに従ってE145-Rから調製した。2,4-ジメチル安息香酸(S)-4-(3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-1-(イソキノリン-6-イルアミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)ベンジル(E145-R)のCH_(2)Cl_(2)溶液に、HCl(4規定、ジオキサン溶液)を添加し、この溶液を8?10時間撹拌した。溶媒を蒸発させて、純粋な2,4-メチル安息香酸(R)-4-(3-アミノ-1-(イソキノリン-6-イルアミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)ベンジルの二塩酸塩(E197-R)を得た。キラルHPLC(Chiralpak AS-H、溶出液:90:10:0.1=EtOH:H_(2)O:ジエチルアミン)による分析から、鏡像体過剰率は98%超であることが分かった。」
(注:「E197-S」及び「E197-R」の構造は、図10に示される以下のとおりである。
「【図10】・・・

」)

摘記ス
「【0517】
実施例457
眼内圧を低下させるための局所医薬組成物を慣用の方法で調製し、以下の組成で製剤化する:
成分 量(wt%)
有効成分 0.50
デキストラン70 0.1
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 0.3
塩化ナトリウム 0.77
塩化カリウム 0.12
EDTA二ナトリウム 0.05
塩化ベンザルコニウム 0.01
HClおよび/またはNaOH pH5.5?6.5
精製水 100%まで適量
本発明に係る化合物を有効成分として使用する。本組成物を1日1回眼に局所投与すると、この組成物によって、緑内障に罹患している患者の眼内圧は低下する。
【0518】
実施例458
本発明に係るE6を用いて実施例457を繰り返す。1滴を1日2回投与すると、この組成物によって眼内圧が実質的に低下し、神経保護薬として機能する。
【0519】
実施例459
本発明に係るγアミノ酸イソキノリルアミドを用いて実施例457を繰り返す。1滴を1日2回投与すると、この組成物によって眼内圧は実質的に低下する。
【0520】
実施例460
本発明に係るベンズアミドを用いて実施例457を繰り返す。1滴を1日2回投与すると、この組成物によってアレルギー症状は実質的に低下し、ドライアイ症候群は軽減される。
【0521】
実施例461
本発明に係るE19を用いて実施例457を繰り返す。1滴を必要に応じて投与すると、この組成物によって充血、発赤および眼の炎症は実質的に緩和される。
【0522】
実施例462
本発明に係るE18を用いて実施例457を繰り返す。1滴を1日4回投与すると、この組成物によって眼内圧は実質的に低下し、神経保護薬として機能する。
【0523】
実施例463
本発明に係るE21を用いて実施例457を繰り返す。1滴を1日2回投与すると、この組成物によって眼内圧は実質的に低下する。
【0524】
実施例464
本発明に係るE115を用いて実施例457を繰り返す。1滴を1日2回投与すると、この組成物によって、眼圧およびアレルギー症状は実質的に低下し、ドライアイ症候群は軽減される。」
(注:実施例458、461?464における化合物E6、E19、E18、E21、E115は、それぞれ以下の構造である。

・E6(【0183】)

(「TIPSO」は、「トリイソプロピルシリルオキシ」基を意味する。)

・E19、E18、E21、E115(【0203】?【0204】、【0208】?【0209】)


において、E19はR_(1)=

、R_(2)=H、
E18はR_(1)=

、R_(2)=H、
E21はR_(1)=

、R_(2)=H、

E115はR_(1)=-CH(Me)Ph、R_(2)=Etを意味する。)

摘記セ
「【0525】
参考例2
細胞に基づくブタ小柱網(PTM)アッセイ
死後4時間以内のブタの眼の前部を回収する。虹彩および毛様体を除去し、小柱網細胞を鈍的切開によって回収する。細かく刻んだ小柱網組織を、20%ウシ胎仔血清(FBS)を含有する199培地を含む、コラーゲンでコーティングした6ウェルプレートに蒔いて培養する。集密した状態での2回の継代培養後、10%FBSを含有する低グルコースDMEMに細胞を移す。3回目と8回目の継代培養間の細胞を使用する。
【0526】
標準的な培養状態下での化合物の試験前に、細胞をフィブロネクチンでコーティングしたガラス製マルチウェルプレートに蒔いて培養する。化合物を1%FBS含有DMEMおよび1%DMSOの存在下で細胞に添加する。最適になるように決定された持続時間にわたって化合物を細胞と共にインキュベートし、培地および化合物を除去し、メタノールを含まない3%パラホルムアルデヒドで細胞を20分間固定する。細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で2回すすぎ、0.5%Triton X-100で2分間透過処理する。PBSでさらに2回洗浄した後、F-アクチンをAlexa-fluor 488で標識したファロイジンで染色し、核をDAPIで染色する。
【0527】
データは、平均の直線状アクチン繊維長に換算し、DMSO処理した対照細胞(100%)および50μMのY-27632(0%)に正規化する。Y-27632は、これらの細胞中のF-アクチンの解重合を生じさせることが知られているローキナーゼ阻害剤である。」

摘記ソ
「【0528】
参考例3
ノルエピネフリン輸送体(NET)膜放射リガンド結合アッセイ
細胞膜全体を、150mmの組織培養皿内で集密になるまで増殖させた、組み換え型ヒトノルエピネフリン輸送体(hNET)を発現しているMDCK細胞から調製する。細胞を回収し、標準的な培地に入れ、1600gでペレット化する。培地を廃棄し、ペレットを粉砕してプレート当たり5mlの氷冷した結合緩衝液(100mMのNaCl、50mMのトリス、室温でpH7.4)に再懸濁し、細胞を20,000gで再ペレット化する。上澄みを廃棄し、細胞を結合緩衝液(50mMのトリス-HCl、pH7.4、100mMのNaCl、1μMのロイペプチン、10μMのPMSF)に再懸濁し、ポリトロン(Brinkman社)を用いて25,000回転/分で5秒間均質化する。遠心分離、再懸濁および均質化を繰り返し、懸濁液の試料をブラッドフォード(Bradford)タンパク質定量(BioRad社)のために使用する。膜懸濁液の試料を使用前に-80℃で冷凍する。典型的な収率は、106個の細胞当たり約100μgの膜タンパク質である。2度行ったアッセイは0.2nMの[125I]RTI-55を用いて開始する。10μMのデシプラミンを用いて非特異的結合を測定する。4℃で3時間インキュベーションを行う。アッセイは、自動化したセルハーベスター(Brandel社)を用いて、0.5%ポリエチリンイミン(polyethylineimine)に浸漬したGF/Bガラス繊維フィルターで急速濾過した後に、氷冷した5mlの結合緩衝液で3回急速洗浄して終了する。結合した放射能は、γ線発光分析によって測定する。」

摘記タ
「【0529】
参考例4
セロトニン輸送体(SERT)膜放射リガンド結合アッセイ
細胞膜全体を、150mmの組織培養皿内で集密になるまで増殖させた、組み換え型ヒトセロトニン輸送体(hSERT)を発現しているHEK-293細胞から調製する。細胞を回収し、標準的な培地に入れ、1600gでペレット化する。培地を廃棄し、ペレットを粉砕してプレート当たり5mlの氷冷した結合緩衝液(100mMのNaCl、50mMのトリス、室温でpH7.4)に再懸濁し、細胞を20,000gで再ペレット化する。上澄みを廃棄し、細胞を結合緩衝液(50mMのトリス-HCl、pH7.4、120mMのNaCl、5mMのKCl)に再懸濁し、ポリトロン(Brinkman社)を用いて25,000回転/分で5秒間均質化する。遠心分離、再懸濁および均質化を繰り返し、懸濁液の試料をブラッドフォード(Bradford)タンパク質定量(BioRad社)のために使用する。膜懸濁液の試料を使用前に-80℃で冷凍する。典型的な収率は、106個の細胞当たり約100μgの膜タンパク質である。2度行ったアッセイは0.4nMの[3H]パロキセチンを用いて開始する。10μMのイミプラミンを用いて非特異的結合を測定する。25℃で60分間インキュベーションを行う。アッセイは、自動化したセルハーベスター(Brandel社)を用いて、0.5%ポリエチリンイミン(polyethylineimine)に浸漬したGF/Bガラス繊維フィルターで急速濾過した後に、氷冷した5mlの結合緩衝液で3回急速洗浄して終了する。結合した放射能は、β線発光分析によって測定する。」

摘記チ
「【0530】
参考例5
緑内障アッセイのための薬理活性
緑内障治療のための薬理活性は、対象化合物の眼内圧低下能力を試験するように設計されたアッセイを用いて実証することができる。そのようなアッセイの例は以下の参考文献に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる:C. Liljebris, G. Selen, B. Resul, J. Sternschantz, and U. Hacksell,"Derivatives of 17-phenyl-18,19,20-trinorprostaglandin F_(2) Isopropyl Ester: Potential Anti-glaucoma Agents(17-フェニル-18,19,20-トリノルプロスタグランジンF_(2)イソプロピルエステルの誘導体:可能な抗緑内障薬)", Journal of Medicinal Chemistry 1995, 38 (2): 289-304。」

摘記ツ
「【0531】
参考例6
NET活性修飾物質の機能的スクリーニング
細胞アッセイの間に、生体アミンを模倣し、かつ細胞内に能動輸送されるフルオロフォアを使用して、ヒトのノルエピネフリン輸送体(hNET)の阻害を特徴づける。可能な阻害剤とのインキュベーション後、蛍光遮蔽色素の存在下で色素溶液を添加する。蛍光色素を細胞内に輸送し、遮蔽色素から取り外すと、425nmの光によって励起された場合、510nmの波長で光が放射される。ノルエピネフリン輸送体阻害剤は、蛍光のこの時間依存的増加を阻止する(Blakely RD, DeFelice LJ, and Galli A. A. Physiol. 2005. 20,225-231)。
【0532】
ヒトのノルエピネフリン輸送体を組み換えにより過剰発現しているHEK-293細胞を、5%CO_(2)中37℃で、10%ウシ胎児血清(AtlantaBiologicals社#S11050)、100単位/mlのペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco社#15140-122)および250μg/mLのG?418(Gibco社#10131027)を含むフェノールレッド非含有DMEM培地(Gibco社#21063-029)内で増殖させた。
【0533】
試験の前日に、1ウェル当たり100,000個の密度で、黒い透明の床板(Costar社#3904)に細胞を蒔いて培養する。アッセイの朝に、培地を取り出し、試験化合物を含む100μLのHBSS(20mMのHEPESを含む1×ハンクス液)(10×HBSS(Gibco社#14065)、1モルHEPES(Gibco社#15630-80))で置き換える。細胞を、試験化合物(または対照ウェルに入れたDMSO)に30分間曝露する。プレインキュベーション期間の最後に、10μLの10×色素溶液を添加し、化合物溶液と十分に混合する。30分のインキュベーション期間後、Analyst HT蛍光プレートリーダー(Molecular Devices社、カリフォルニア州サニーヴェール)を用いて蛍光を定量化する。」

2-2 特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)について

(1)判断の前提

特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載が適合するものでなければならない要件として、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」(いわゆる「実施可能要件」)を規定している。
そして、この規定にいう「実施」とは、物の発明にあっては、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明の記載は、その記載又は示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者が、その発明に係る物を、生産をすることができ、かつ、使用をすることができる程度のものでなければならない。
本件補正発明は「医薬」の発明であるところ、医薬発明は、一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、またはどのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明であることから、当業者が本件補正発明を実施することができるように発明の詳細な説明を記載するためには、出願時の技術常識から当業者が本願発明の「医薬」を製造し、かつ、当該「医薬」を本願発明で特定された医薬用途に使用できる場合を除き、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要である。
そして、本件補正発明で特定された医薬用途を裏付ける実施例として、通常、薬理試験結果の記載が求められ、当該薬理試験結果は、本件補正発明の医薬に薬理作用があることを確認するためのものであるから、原則、(i)どの化合物等を、(ii)どのような薬理試験系において適用し、(iii)どのような結果が得られ、(iv)その薬理試験系が本願発明の医薬用途とどのような関連性があるのか、のすべてが明らかにされなくてはならない。
そこで進んで、上記「薬理試験結果」の記載について検討する。
当該薬理試験結果が、当該医薬をその医薬用途の対象疾患に罹患した患者に投与して、当該医薬が当該対象疾患に対して実際に治療効果を有することが示された臨床試験の結果である場合、当該薬理試験結果から、当該医薬用途発明を使用することができることを、当業者は理解できるといえる。
また、当該薬理試験結果が、試験管内実験(以下、「in vitro試験」という。)や動物実験といった非臨床試験の結果であっても、技術常識を参酌してその結果を見ると、当該医薬が当該対象疾患に対して治療効果を有することを当業者が理解できる結果であれば足りる。ここで、上記技術常識とは、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすか否かを検討すべき特許出願時の技術常識である。
以上をふまえて、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすか否かを検討する。

(2)判断

(2-1)上記摘記ア?ツによれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の(a)?(f)の事項が記載されているといえる。

(a)ローキナーゼ(ROCK)等のキナーゼの阻害又は調節、エピネフリン輸送体(NET)等のモノアミン輸送体の阻害又は調節は、多くの疾患の治療に重要な役割を担っており、眼内圧の上昇を特徴とする緑内障においても、眼内圧の上昇によって、視神経および神経節細胞が損傷される可能性があることから、眼内圧を低下させるために、眼房水の流出経路内のローキナーゼ活性を調節することや、エピネフリンなどのβ-アドレナリン作動薬を適用することが、緑内障患者の治療にとって有益となり得ること(摘記イ?エ、キ)
(b)化合物E494(本件補正発明における「化合物A」に相当)又は化合物E495(本件補正発明における「化合物B」に相当)を含む式Iのアミノイソキノリルアミド化合物を提供したこと、式Iの化合物は、細胞中のキナーゼの機能および輸送体の機能に影響を与え、緑内障などの眼の疾患および障害、呼吸器系および心血管系の疾患および障害、癌などの異常増殖を特徴とする疾患の治療に有用であること、ローキナーゼおよびモノアミン輸送体(MAT)の両方の阻害剤になり得る化合物は、病状又は病気が改善するように作用し、疾患及び病気を治療するための組成物を提供し、その疾患の一つとして、眼内圧(IOP)の顕著な低下を達成することができる緑内障が挙げられること(摘記ア、オ、カ、ク)
(c)安全かつ有効な量の式Iの化合物を、医薬的に許容される担体又は賦形剤を用いる従来の方法で製剤化してもよいこと(摘記ケ)
(d)実施例146には、化合物E146(「化合物A」の「塩酸塩」に相当)の合成例が記載され、これと同様の方法で、実施例161に示される化合物E161(「化合物B」に相当)を調製したことが記載され、実施例197には、化合物E197-S及びE197-R(「化合物A」の「S」及び「R」の「鏡像異性体」に相当)の合成例が記載されていること(摘記コ?シ)
(e)実施例457には、本発明に係る化合物を有効成分として0.5wt%含有する眼内圧を低下させる局所医薬組成物が記載され、「本組成物を1日1回眼に局所投与すると、この組成物によって、緑内障に罹患している患者の眼内圧は低下する。」と記載されていること、実施例458には、化合物E6を用いて実施例457を繰り返し、「1滴を1日2回投与すると、この組成物によって眼内圧が実質的に低下し、神経保護薬として機能する」ことが、実施例461には、化合物E19を用いて実施例457を繰り返し、「1滴を必要に応じて投与すると、この組成物によって充血、発赤および眼の炎症は実質的に緩和される」ことが、実施例462には、化合物E18を用いて実施例457を繰り返し、「1滴を1日4回投与すると、この組成物によって眼内圧は実質的に低下し、神経保護薬として機能する」ことが、実施例463には、化合物E21を用いて実施例457を繰り返し、「1滴を1日2回投与すると、この組成物によって眼内圧は実質的に低下する」ことが、実施例464には、化合物E115を用いて実施例457を繰り返し、「1滴を1日2回投与すると、この組成物によって、眼圧およびアレルギー症状は実質的に低下し、ドライアイ症候群は軽減される」ことがそれぞれ記載されていること(摘記ス)
(f)参考例2?6として、「参考例2 細胞に基づくブタ小柱網(PTM)アッセイ」、「参考例3 ノルエピネフリン輸送体(NET)膜放射リガンド結合アッセイ」、「参考例4 セロトニン輸送体(SERT)膜放射リガンド結合アッセイ」、「参考例5 緑内障アッセイのための薬理活性」及び「参考例6 NET活性修飾物質の機能的スクリーニング」の各評価又は測定方法が示されていること(摘記セ?ツ)

(2-2)上記(a)、(b)によれば、発明の詳細な説明には、緑内障の治療に関連して、眼内圧の低下に、ローキナーゼ活性の調節や、エピネフリンなどのβ-アドレナリン作動薬の適用が有益となり得ることや、化合物A又は化合物Bを含む式Iの化合物が、ローキナーゼおよびモノアミン輸送体(MAT)の両方の阻害剤になり得るとの一般的な説示は記載されているが、本件補正発明における化合物A又は化合物Bが、これらの特性を備えることを具体的に確認した薬理試験結果は、記載されていない。
また、発明の詳細な説明には、化合物A及び化合物Bの合成例と、式Iの化合物を含む薬剤における、化合物の有効量や製剤化に関する一般的な記載があるものの(上記(c)?(e)に加え、明細書段落【0044】、【0101】、【0111】?【0113】、【0128】?【0129】、【0137】、【0152】?【0154】、【0163】等)、「化合物A又は化合物B」を含む薬剤が、「眼障害の治療のため」に実際に使用できることを当業者が理解できるに足るものではない。

(2-3)上記(e)によれば、本件補正発明における化合物A又は化合物B以外の化合物に関する実施例457?464では、「本組成物を1日1回眼に局所投与すると、この組成物によって、緑内障に罹患している患者の眼内圧は低下する。」、「1滴を1日2回投与すると、この組成物によって眼内圧が実質的に低下し、神経保護薬として機能する」等との記載があるが、これらは推奨される投与方法と期待される結果を示しているものに過ぎず、眼内圧の低下の程度等が具体的に示されているわけではないから、そもそも薬理試験結果と同視すべき内容のものではない。
また、上記(f)の参考例では、上記(a)、(b)の一般的な特性に関連した、細胞に基づくブタ小柱網(PTM)アッセイ、ノルエピネフリン輸送体(NET)膜放射リガンド結合アッセイ、緑内障アッセイのための薬理活性等の各評価又は測定方法が示されているのみで、これらの評価又は測定方法により、具体的な化合物の物性を測定した結果は、何ら記載されていない。
よって、発明の詳細な説明には、化合物A又は化合物B以外の式Iの化合物についても、緑内障を含む眼の治療に実際に使用できることを当業者が理解できるだけの具体的な裏付けとなるデータは何ら記載されていない。

(2-4)そして、式Iを満足するアミノイソキノリルアミド化合物でありさえすれば、一様に、「眼障害の治療」に有効な薬理活性を有するという出願時の技術常識があるともいえないから、「化合物A又は化合物B」が、薬理試験結果によらずとも、その未知の医薬用途を予測することができる物質であるといった、特段の事情は見いだせない。

(2-5)したがって、本願出願時の技術常識を参酌したとしても、当業者が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件補正発明の「化合物A又は化合物B」を含む薬剤を、「眼障害の治療のため」に使用できるとはいえない。

(3)請求人の主張について

ア 請求人の主張の内容

請求人は、令和1年5月7日提出の審判請求書において、以下の主張をしており、平成30年7月17日提出の意見書においても、同様の主張をしている。

「(3)実施可能要件およびサポート要件について
本願明細書には、本願発明の薬剤を製造するための方法について説明しており、実施例において具体的な製造例(原料、反応剤、および反応条件(時間および温度等))を示しており、薬剤の用途として医薬用途であることを具体的に記載しております(特に、明細書段落[0093]?[0101]および図1?5等)。
特に、請求項1?7は、本願の原出願(特願2015-216395号(特許第6141385号公報)において特許された請求項1?35のいずれかと実質的に同様の特徴を含んでいます。さらに明細書段落[0517]?[0524]には「患者の眼内圧は低下する」「眼内圧は実質的に低下する」、「アレルギー症状は実質的に低下し」といった本発明における優れた効果が示されています。よって、本願の特許請求の範囲および明細書の記載は、実施可能要件・サポート要件を満たしているものと思料いたします。」

イ 請求人の主張に対する検討

請求人(出願人)の上記主張について検討する。
上記(1)で説示したとおり、「医薬発明」は、一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、またはどのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明であり、本願出願時の技術常識から、当該「医薬」を本願発明で特定された医薬用途に使用できる場合を除き、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要である。
そして、薬剤の用途として医薬用途が具体的に記載されていると主張している箇所(明細書段落【0093】?【0101】および図1?5等)をみても、薬理試験結果等の具体的な裏付けをなんら伴わない一般的な説示が記載されるのみである。また、優れた効果が示されているとする明細書の段落【0517】?【0524】の記載も、推奨される投与方法と期待される結果を示しているものに過ぎず、眼内圧の低下の程度等が具体的に示されているわけではないから、そもそも薬理試験結果と同視すべき内容のものではないことは、上記(2-3)で説示したとおりである。
さらに、本件補正発明の「眼障害の治療のための薬剤」に含まれる「化合物A又は化合物B」の製造例が示され、本願の原出願において、「化合物」発明として特許されていることは、当該化合物を含む「医薬発明」も、医薬として使用でき、実施可能であることを当業者に推認させることとはならない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(4)実施可能要件についての判断のまとめ

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、その記載又は示唆及び本願出願時の技術常識に基づいて、本件補正発明の「化合物A又は化合物B」を含む薬剤が、「眼障害の治療のため」に使用することができることを、当業者が理解することができる程度に記載されていないから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件補正発明について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-3 特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)について

(1)判断の前提

特許法第36条第6項第1号は、特許請求の範囲の記載が適合するものでなければならない要件として、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」(いわゆる「サポート要件」)を規定している。
そして、特許請求の範囲の記載が、同要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、を検討して判断すべきものである。

そこで、本件補正発明に係る請求項1の記載が、サポート要件を満たすか否か、以下、検討する。

(2)判断

本件補正発明の発明特定事項、及び、本願明細書の発明の詳細な説明における、上記2-1の摘記ア?カの記載からみて、本件補正発明が解決しようとする課題は、「眼障害の治療のための薬剤を提供すること」であると認められる。
そして、上記2-2で検討したように、「眼障害の治療のための薬剤」において、「化合物A又は化合物B」を含むことにより特定された本件補正発明について、本願明細書の発明の詳細な説明には、「化合物A又は化合物B」を含む薬剤が、「眼障害の治療のため」に使用できることを、実施例等の裏付けとしても、何ら記載されておらず、本願出願時の技術常識を参酌しても、当業者が使用することができたものでないから、上記課題も解決できるとはいえない。
したがって、本件補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。

(3)請求人の主張について

請求人によるサポート要件についての上記審判請求書における主張及び上記意見書における主張は、上記2-2(3)で既に検討した実施可能要件についての主張と共通するものであり、上記のとおり採用できない。

(4)サポート要件についての判断のまとめ

以上のとおり、本件補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないから、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものでない。
よって、本件補正発明に係る請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび

以上のとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることできるものでないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するため、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成30年7月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし37に記載された事項により特定されるとおりものであるところ、その請求項16に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項16】
以下:
【化8】・・・
【化13】



【化14】


および
【化15】・・・
からなる群から選択される化合物またはその医薬的に許容される塩を含む眼障害の治療のための薬剤。」
(注:本件補正による変更箇所の変更前の記載に、当審合議体が下線を付した。)

2 原査定の拒絶の理由

原査定は、「この出願については、平成30年 1月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由2,3によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、当該拒絶理由通知書に記載した理由2、3は次のとおりである。
「2.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」

そして、原査定の「備考」欄には、上記理由2、3のいずれについても、請求項1ないし37を査定の対象とすることが示されており、そのうち請求項16に係る発明が上記「本願発明」である。
また、上記拒絶理由通知書及び原査定の「備考」欄には、上記理由2、3について、概略、次のことが指摘されている。

(1)理由2(実施可能要件)について

「医薬発明の実施可能要件を満たすためには薬理効果を裏付ける薬理試験結果の記載が必要である」が、「本出願の明細書には『患者の眼内圧は低下する』『眼内圧は実質的に低下する』『アレルギー症状は実質的に低下し』([0517]-[0524])という記載があるのみで、具体的にどの程度の低下を示し、それによって疾患が治療されることが明確に記載されていないから、薬理効果を裏付ける薬理試験結果が記載されているとは言えない」ため、「請求項1-37の医薬発明については、その薬理効果を確認出来」ない。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を使用することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

(2)理由3(サポート要件)について

「請求項1-37の発明の課題は、眼疾患の治療のための薬剤を提供することであるが、本出願の明細書には『患者の眼内圧は低下する』『眼内圧は実質的に低下する』『アレルギー症状は実質的に低下し』([0517]-[0524])という記載があるのみで、具体的にどの程度の低下を示し、それによって疾患が治療されることが明確に記載されていないから、上記課題を解決できると認識できる範囲が存しない。」
したがって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものでない。

3 当審の判断

(1)理由1(実施可能要件)について

上記第2の2で認定したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するから、本件補正前の請求項16に記載された発明である本願発明は、本件補正発明を特定する事項を全て含むものである。
そうすると、本件補正発明について、上記第2の2の2-2で判断したように、本願明細書の発明の詳細な説明には、その記載又は示唆及び本願出願時の技術常識に基づいて、「化合物A又は化合物B」を含む「眼障害の治療のための薬剤」を使用できることが当業者に理解できるように記載されていないのであるから、本件補正発明を包含する関係にあり、同じく「化合物A又は化合物B」をその選択肢に包含する「化合物」を含む「眼障害の治療のための薬剤」である本願発明も、本願明細書の発明の詳細な説明に、その使用をすることができることが当業者に理解できるように記載されているとはいえない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)理由2(サポート要件)について

本願発明と本件補正発明との関係は、上記(1)で述べたとおりである。
そして、本願発明と比べて、「化合物」がより限定された本件補正発明が、上記第2の2の2-3で判断したように、本願出願当時の技術常識に照らして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により、「眼障害の治療のための薬剤を提供すること」という発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものであるから、本件補正発明を包含する関係にあり、同じく「化合物A又は化合物B」をその選択肢に包含する「化合物」を含む「眼障害の治療のための薬剤」である本願発明も、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものである。

したがって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないから、本願発明に係る請求項16の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび

以上のとおり、本願については、明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が、同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-05-21 
結審通知日 2020-05-26 
審決日 2020-06-08 
出願番号 特願2017-91542(P2017-91542)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C07D)
P 1 8・ 537- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 憲彦  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 渕野 留香
松本 直子
発明の名称 疾患の治療のための二重機構阻害剤  
代理人 桜田 圭  
代理人 森川 泰司  
代理人 木村 満  
代理人 美恵 英樹  
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