• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B25D
管理番号 1367780
審判番号 不服2019-15443  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-18 
確定日 2020-11-05 
事件の表示 特願2016-550740「衝撃装置用の減衰装置、衝撃装置及び削岩機」拒絶査定不服審判事件〔平成27年8月20日国際公開、WO2015/122824、平成29年2月23日国内公表、特表2017-505723〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)1月16日(優先権主張外国庁受理 2014年2月14日(SE)スウェーデン国)を国際出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成30年 1月16日 :手続補正書の提出
平成30年12月10日付け:拒絶理由通知
平成31年 4月24日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 7月 9日付け:拒絶査定
令和 1年11月18日 :審判請求と同時に、手続補正書の提出
令和 1年12月26日 :審判請求の理由についての手続補正書(方式)を提出(以下、「審判請求の理由補充書」という。)


第2 令和1年11月18日提出の手続補正書による補正について
令和1年11月18日提出の手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の請求項4に係る発明の「第一の減衰チャンバ(7)に圧力流体通路(16)が接続され、圧力流体通路(16)が第一の減衰チャンバ(7)における、その口部領域に絞り部材(17)を備えていること」との構成を、本件補正後の請求項4に係る発明の「第一の減衰チャンバ(7)が、圧力流体通路(16)を介して衝撃装置の前記圧力源(15)に接続され、圧力流体通路(16)が第一の減衰チャンバ(7)における、その口部領域に絞り部材(17)を備えていること」として、「圧力流体通路(16)」と「衝撃装置の圧力源(15)」との関係を明瞭にするものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的とする補正であって適法になされたものである。


第3 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。なお、本件補正は、上記第2に示すとおり、請求項4に係る発明を補正するものであり、本願発明(請求項1に係る発明)は本件補正により補正されていない。

「【請求項1】
打撃方向(R)をもつ流体圧削岩機(1)の衝撃装置用減衰装置であって、
衝撃装置によって駆動されることになる工具に対して軸方向に作用する減衰ピストン(5)を有し、
前記減衰ピストン(5)が、第一の減衰チャンバ(7)に受けられる第一のピストン部分(6)及び第二の減衰チャンバ(9)に受けられる第二のピストン部分(8)を備えている
減衰装置において、
‐動作中に、上記衝撃装置の通常の打撃位置において、減衰ピストン(5)が打撃方向の動きに対向する固定止め(19、22)に当接した状態にされ、
‐減衰ピストンの軸線方向の全ての位置において、第一の減衰チャンバ(7)と第二の減衰チャンバ(9)との間に減衰スロット(10)が確立され、また
‐第一の減衰チャンバ(7)が流体圧によって加圧されること
を特徴とする減衰装置。」


第4 拒絶査定における主な拒絶の理由
令和1年7月9日付け拒絶査定における請求項1についての拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、または、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.米国特許第5479996号明細書


第5 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
(1)引用文献1には、以下の事項が記載されている。そして、各記載事項には、当審による翻訳を付した。
ア 「The present invention relates to a rock drilling device for drilling in rock by means of a drill string comprising a set of tubes, and a set of rods arranged in the set of tubes and comprising a number of rods abutting loosely against each other.」(第1欄第6-10行)
「本発明は、一組のチューブ、及び、一組のチューブに配置され、互いに対して緩く当接するいくつかのロッドを含む一組のロッドを含むドリルストリングにより岩盤に穿孔するための削岩装置に関するものである。」

イ 「The rock drilling device shown in FIG. 1 comprises a machine housing 3 on which a front part 11 is mounted. The drilling device comprises a drill string comprising a set of tubes 1, which in FIG. 1 is represented by the drill sleeve 1 which is the rearmost part, and a set of rods 2, which in FIG. 1 is represented by an adapter 2 arranged in the machine. In the front end of the drill string is a not shown drill bit arranged.」(第1欄第50-57行)
「図1に示す削岩装置は、前端部11が取り付けられた機器ハウジング3を備えている。削岩装置は、図1にドリルスリーブ1として後端部が示されている一組のチューブ1と、図1に機器中に配置されたアダプタ2として示されている一組のロッド2を具備するドリルストリングを備える。ドリルストリングの前端部には図示しないドリルビットが配置されている。」

ウ 「A hammer piston 4 is movable to-and-fro in the machine housing 3 in the usual way. The hammer piston transfers its energy to the adapter 2 in the set of rods. This energy is then transferred from rod to rod in the set of rods and from the set of rods to the drill bit. 」(第1欄第59-64行)
「ハンマーピストン4は、通常の方法で、機器ハウジング3内で往復動可能である。ハンマーピストンはそのエネルギーをアダプタ2の一組のロッドに伝達する。すると、このエネルギーは、一組のロッドのロッドからロッドへ伝達され、一組のロッドからドリルビットへと伝達される。」

エ 「A sleeve 15 and a piston 8 are slidably arranged in the machine housing 3. These transfer a predetermined force, determined by the pressure in a first chamber 5, to the adapter 2. This pressure acts forwardly on a surface 17. This force is used during drilling to hold the rods of the set of rods together. 」(第1欄第64行-第2欄第2行)
「スリーブ15とピストン8とは、機器ハウジング3内に摺動可能に配置されている。これらは、第一のチャンバ5の圧力によって定められた、予め定められた力をアダプタ2に伝達する。この圧力は表面17上に前方に作用する。この力は、穿孔中に一組のロッドのロッド同士を保持するために使用される。」

オ 「The chamber 5 is connected with an accumulator 6 which is is supplied with pressure liquid from a pressure liquid source 16 via a control device 26 and a conduit 22. The piston 8 is with a narrow clearance movable into a second chamber 7. This means that the recoil from the rock is effectively damped because liquid is pressed out through the narrow slot between the piston 8 and the machine housing 3. 」(第2欄第2-9行)
「チャンバ5はアキュムレータ6と接続され、制御装置26及び導管22を介して、圧力液体源16から圧力液体が供給される。ピストン8は、狭いクリアランスで第二のチャンバ7に移動可能である。このことは、液体がピストン8と機器ハウジング3との間の狭く細長い隙間から押し出されることにより岩盤からの反動が効果的に減衰されることを意味する。」

カ 「In order to avoid cavitation when piston 8 moves out of chamber 7 a check valve 9 is arranged between the first and second chambers and is directed such that liquid flow is allowed from the first chamber 5 to the second chamber 7.」(第2欄第9-13行)
「ピストン8がチャンバ7から出る際のキャビテーションを防止するために、チェックバルブ9が第一と第二のチャンバとの間に配置され、第一のチャンバ5から第二のチャンバ7への液体の流れが許容されるように向けられている。」

キ 「As shown in FIG. 3 the pump 16 sucks liquid from the tank 28 in order to provide, via the valve 24 and the conduit 27, the hammer device 25 with pressure liquid for the driving of the hammer piston 4 to-and-fro in the usual way. The pump 16 also provides the first chamber 5 of the recoil damper 21 with pressure liquid via the restriction 53 and the conduit 22.」(第2欄第34-40行)
「図3に示すように、ポンプ16は、通常の方法で往復動するハンマーピストン4を駆動するための圧力液体をハンマーデバイス25にバルブ24及び導管27を介して供給するために、タンク28から液体を吸引する。また、ポンプ16は、反動減衰器21の第一のチャンバ5に圧力液体を制限器53と導管22を介して供給する。」

(2)引用文献1の上記摘記事項及び図面から、以下の事項を認定することができる。
ク 上記摘記事項エ及び図1からみて、ピストン8は、第一のチャンバ5の圧力を受ける表面17で特定されるピストン部分を有すると認められる。

ケ 上記摘記事項オ及び図1からみて、ピストン8は、液体を第二のチャンバ7から押し出すピストン部分を有することと、第一のチャンバ5と第二のチャンバ7との間に、ピストン8と機器ハウジング3との間の狭く細長い隙間が形成されており、液体が第二のチャンバ7から第一のチャンバ5へ押し出されることが認められる。

コ 上記摘記事項エ及び図1から、穿孔中に、ピストン8が、打撃方向の動き(図1中の左方向への動き)に対向するスリーブ15に当接した状態にされ、第一のチャンバ5の圧力が、一組のロッド2のロッド同士を保持する力として使用されると認められる。

サ 上記ク、ケの認定事項及び図1からみて、ピストン8の、液体を第二のチャンバ7から押し出すピストン部分と表面17で特定されるピストン部分とは、一体であり連動して往復動するものであるから、液体を第二のチャンバ7から押し出すピストン部分が第二のチャンバ7内に移動する時に、表面17で特定されるピストン部分は第一のチャンバ5内に移動すると認められる。

シ 図1のピストン8における2箇所のピストン部分について
[図1]

なお、図1中の2箇所の丸印については、合議体が付した。

2 引用発明
したがって、上記(1)の摘記事項アないしキ及び(2)の認定事項クないしサ、図示事項シからみて、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。(以下「引用発明」という。)

<引用発明>
「ハンマーピストン4が往復動する削岩装置の反動減衰器21であって、
ハンマーピストン4によって駆動されることになる一組のロッド2及びドリルビットに対して軸方向に作用するピストン8を有し、
前記ピストン8が、第一のチャンバ5の圧力を受ける表面17で特定されるピストン部分及び液体を第二のチャンバ7から押し出すピストン部分を備えている
反動減衰器21において、
‐穿孔中に、ピストン8が打撃方向の動きに対向するスリーブ15に当接した状態にされ、
‐第一のチャンバ5と第二のチャンバ7との間にピストン8と機器ハウジング3との間の狭く細長い隙間が形成され、また
‐第一のチャンバ5は圧力液体源16から圧力液体が供給される
反動減衰器21。」


第6 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「反動減衰器21」は、本願発明の「衝撃装置用減衰装置」又は「減衰装置」に相当し、以下同様に、「削岩装置」は「流体圧削岩機」に、「ハンマーピストン4」は「衝撃装置」に、「一組のロッド2及びドリルビット」は「工具」に、「ピストン8」は「減衰ピストン」に、「スリーブ15」は「固定止め」に、「ピストン8と機器ハウジング3との間の狭く細長い隙間」は「減衰スロット」に、「圧力液体源16から圧力液体が供給される」は「流体圧によって加圧される」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「穿孔中に」は、衝撃ハンマーが打撃位置にあることは自明であるから、本願発明の「動作中に、上記衝撃装置の通常の打撃位置において」に相当する。
また、引用発明の削岩装置の「ハンマーピストン4が往復動する」点は、ハンマーピストン4の往復動方向が打撃方向になることは自明であるから、本願発明の流体圧削岩機が「打撃方向(R)をもつ」点に相当する。
また、引用発明の「第二のチャンバ7」は、上記第5 1(1)オの摘記事項によれば、ピストン8が第二のチャンバ7に移動して岩盤からの反動が効果的に減衰されるものであるから、本願発明の「第二の減衰チャンバ」に相当する。
また、引用発明の「第一のチャンバ5」については、上記第5 1(2)サに示したとおり、ピストン8の、液体を第二のチャンバ7から押し出すピストン部分(第二のピストン部分)が第二のチャンバ7内に移動する時に、表面17で特定されるピストン部分(第一のピストン部分)は第一のチャンバ5内に移動する、すなわち、ピストン8の表面17で特定されるピストン部分(第一のピストン部分)は、第一のチャンバ5内の流体からの流体抵抗を受けるものであり、流体抵抗を受けることで減衰力が生じることは明らかであるから、引用発明の「第一のチャンバ5」は本願発明の「第一の減衰チャンバ」に相当する。
また、引用発明のピストン8における、「第一のチャンバ5の圧力を受ける表面17で特定されるピストン部分」及び「液体を第二のチャンバ7から押し出すピストン部分」が、それらの機能を鑑みれば、本願発明の減衰ピストンにおける、「第一の減衰チャンバに受けられる第一のピストン部分」及び「第二の減衰チャンバに受けられる第二のピストン部分」に相当することも自明である。
また、引用発明の「第一のチャンバ5と第二のチャンバ7との間にピストン8と機器ハウジング3との間の狭く細長い隙間が形成され」ることは、該「ピストン8と機器ハウジング3との間」はピストン8の移動する軸線方向の全ての位置を含むものであるから、本願発明の「減衰ピストンの軸線方向の全ての位置において、第一の減衰チャンバと第二の減衰チャンバとの間に減衰スロットが確立され」ることに相当する。
してみると、本願発明と引用発明とは一致し、相違点は見当たらない。
したがって、本願発明は、引用発明である。


第7 請求人の主張について
請求人は、審判請求の理由補充書の3.(c)において、「引用例1における発明では、一組のロッド2に力を伝達するために、ピストン8をアキュムレータ6に連結されている第一チャンバ5に収容しています。このようにアキュムレータ6に連結されている第一チャンバ5は、バネのように機能し、そこでエネルギが消費されることがないため、本発明の意図する「減衰チャンバ」として機能するものではありません。従って、引用例1において減衰チャンバとして機能するチャンバは第二チャンバ7のみであり、液体が第二チャンバ7とつながる狭い隙間を介して第二チャンバ7から押し出されることにより岩石からの反動を減衰することは引用例1に記載されている通りです。」と主張する。
しかしながら、上記第6に示したとおり、ピストン8の液体を第二のチャンバ7から押し出すピストン部分(第二のピストン部分)が第二のチャンバ7内に移動する時に、ピストン8の表面17で特定されるピストン部分(第一のピストン部分)は第一のチャンバ5内に移動し、該ピストン8の表面17で特定されるピストン部分(第一のピストン部分)は該第一のチャンバ5内の流体からの流体抵抗を受けて減衰力が生じることは明らかであるから、引用発明の「第一のチャンバ5」は、本願発明の「第一の減衰チャンバ」に相当するものである。
さらに、引用文献1において、第一チャンバ5がアキュムレータ6に連結されているとしても、アキュムレータには、衝撃緩衝や脈動吸収の作用があることは一般的に知られているものであるから、アキュムレータがバネのように機能し、エネルギーが消費されることがないとの請求人の主張も採用できない。
また、請求人は、審判請求の理由補充書の3.(c)において、「第一チャンバ5に流入した液体がタンク28に戻されることについては何ら記載されていません。そもそも、ピストン8が押されることにより、第一チャンバ5の容積が減少し、第一チャンバ5に流入した液体がタンク28に戻されるように構成されているとすると、アキュムレータ6が設けられている意味がなくなるので、原査定の認定が誤っていることは明らかであります。」と主張する。
しかしながら、第一のチャンバ5に流入した液体が、ピストン8の表面17で特定されるピストン部分(第一のピストン部分)で押されてタンク28まで戻るか否かにかかわらず、ピストン8が流体からの抵抗を受ければアキュムレータの有無によらず減衰力が生じるものであるから、請求人の主張は採用できない。


第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
別掲
 
審理終結日 2020-05-29 
結審通知日 2020-06-03 
審決日 2020-06-18 
出願番号 特願2016-550740(P2016-550740)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B25D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須中 栄治  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 青木 良憲
大山 健
発明の名称 衝撃装置用の減衰装置、衝撃装置及び削岩機  
代理人 八木田 智  
代理人 浜野 孝雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ