• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C11D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C11D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C11D
管理番号 1368064
異議申立番号 異議2019-700976  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-29 
確定日 2020-09-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6523435号発明「繊維製品用の液体洗浄剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6523435号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6523435号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6523435号の請求項1?9の特許についての出願は、2016年(平成28年)4月1日(優先権主張2015年4月3日)を国際出願日とする出願であって、令和元年5月10日にその特許権の設定登録がされ、同年5月29日に特許掲載公報が発行された。その後、同年11月29日に、その請求項1?9のすべての特許について、特許異議申立人である森田弘潤より本件特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立事件における手続の経緯は、次のとおりである。
令和 2年 3月11日付け:取消理由通知
同年 5月14日 :意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年 6月25日 :意見書の提出(特許異議申立人)

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
令和2年5月14日にされた訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正することを求めるものであり、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する訂正前の請求項〔1-9〕を訂正の単位として請求されたものである。
そして、当該訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容(訂正事項)は、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「 (A)成分:フェノール系抗菌剤と、
(B)成分:無機還元剤と、
(C)成分:界面活性剤と、を含有することを特徴とする繊維製品用の液体洗浄剤。」
とあるのを、
「 (A)成分:2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテル及び4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテルから選択される1種以上のフェノール系抗菌剤と、
(B)成分:亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸カリウムから選択される1種以上の無機還元剤と、
(C)成分:界面活性剤と、を含有し、
(A)成分の含有量が、液体洗浄剤の総質量に対して、0.01?2質量%であり、
(B)成分の含有量が、液体洗浄剤の総質量に対して、0.001?3質量%である、
繊維製品用の液体洗浄剤。」
に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?9も同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に、
「 液体洗浄剤の総質量に対して、前記(A)成分の含有量が0.01?2質量%、前記(B)成分の含有量が0.001?3質量%、前記(C)成分の含有量が8?30質量%である、請求項1?3のいずれか一項に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。」
とあるのを、
「 液体洗浄剤の総質量に対して、前記(C)成分の含有量が8?30質量%である、請求項1?3のいずれか一項に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る(A)成分及び(B)成分に関する訂正は、本件訂正前の請求項1に記載されていた(A)成分の種類を、本件特許明細書の【0013】の記載に基づいて、特定の化合物に限定し、併せて、当該(A)成分の含有量を、同【0014】の記載に基づいて、特定の数値範囲に限定するとともに、同請求項1に記載されていた(B)成分についても同様に、その種類及び含有量を、それぞれ同【0016】及び【0017】の記載及び本件訂正前の【請求項4】の記載に基づいて、特定の化合物及び特定の数値範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2) 訂正事項2について
上記訂正事項1に係る訂正により、訂正後の請求項1に(A)成分及び(B)成分の含有量に関する事項が追加されたことによって、当該請求項1を引用する請求項4にも同様の事項が追加されることとなった。しかしながら、当該事項は、もともと本件訂正前の請求項4に記載されていた事項であるから、当該請求項4の記載をそのままにすると、上記の事項が重複して記載されることになってしまうところ、上記訂正事項2は、これにより明瞭でなくなることを回避するためのものであり、実質的に、上記訂正事項1に係る訂正以上の訂正を請求項4に与えるものではない。
結局、訂正事項2は、上記訂正事項1により生ずる請求項4の不明瞭な記載の釈明を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 本件訂正についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件特許の請求項1?9に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を「本件発明1」、「本件特許1」などといい、まとめて、「本件発明」、「本件特許」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
(A)成分:2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテル及び4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテルから選択される1種以上のフェノール系抗菌剤と、
(B)成分:亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸カリウムから選択される1種以上の無機還元剤と、
(C)成分:界面活性剤と、を含有し、
(A)成分の含有量が、液体洗浄剤の総質量に対して、0.01?2質量%であり、
(B)成分の含有量が、液体洗浄剤の総質量に対して、0.001?3質量%である、
繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項2】
(D)成分:プロテアーゼを含有する、請求項1に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項3】
(E)成分:炭素数4?12の炭化水素基を有するグリセリルエーテル、及び炭素数4?10の脂肪酸残基を有する脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1又は2に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項4】
液体洗浄剤の総質量に対して、前記(C)成分の含有量が8?30質量%である、請求項1?3のいずれか一項に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項5】
液体洗浄剤中の(B)成分の含有量に対する(A)成分の含有量の質量比である、(A)/(B)が0.005?60である、請求項1?3のいずれか一項に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項6】
(C)成分がアニオン界面活性剤を含み、(C)成分の合計量に対して、アニオン界面活性剤の合計量が40?100質量%である、請求項1?3のいずれか一項に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項7】
(C)成分がアニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤を含み、(C)成分の合計量に対して、アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤の合計量が80?100質量%である、請求項1?3のいずれか一項に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項8】
アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤の合計量に対して、アニオン界面活性剤の合計量が50?97質量%である、請求項7に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項9】
30℃での粘度が50?2500mPa・sである、請求項1?3のいずれか一項に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。」

第4 取消理由について

1 取消理由の概要
令和2年3月11日付けの取消理由通知において指摘した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1) (サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が後記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号に該当)。
(2) (新規性)本件発明1、4?8は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明にあたる後記甲1発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、本件特許1、4?8は、特許法第29条の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号に該当)。
(3) (進歩性)本件発明は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明にあたる後記甲1発明に基いて、その特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号に該当)。

2 取消理由(1)(サポート要件)について
(1) 取消理由(1)に係るサポート要件についての具体的な指摘事項は、要するに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、当業者において、上記課題が解決できると認識できる範囲は、上記実施例に供された、特定の種類の(A)、(B)成分を、特定の含有量で配合した液体洗浄剤であるというべきであるから、本件発明は、当該液体洗浄剤の範囲を超えるものであるというほかない、というものである。
そこで、この点について、本件訂正後の特許請求の範囲の記載及び令和2年5月14日提出の意見書における特許権者の主張を参酌しながら、以下、検討をする。
(2) 本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の【0006】、【0007】の記載などからみて、トリクロサンなどのフェノール系の抗菌剤を含有する液体洗浄剤は、光に対する安定性が十分ではなく、光に曝されたときに着色を生じる場合(具体的には、蛍光灯下又は太陽光下で着色し橙色?赤色に変色する場合)があるという事情に鑑み、洗浄性及び抗菌性が良好であり、光に曝されたときの着色が抑えられた、繊維製品用の液体洗浄剤を提供することにあるということができる。さらに、上記のとおり、本件発明は、フェノール系の抗菌剤を含有する液体洗浄剤を前提とし、その問題点である光に曝されたときの着色を抑制しようとするものであるから、上記の課題は、フェノール系の抗菌剤を含有する液体洗浄剤が通常有する相応の洗浄性及び抗菌性は当然のこととした上で(液体洗浄剤としてのそこそこの洗浄性と、フェノール系の抗菌剤によるそこそこの抗菌性を有しておれば事足り)、なにより光に曝されたときの着色の抑制を主眼におくものと理解するのが合理的である。
(3) そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された【実施例】をみると、その【0063】?【0066】記載の【表1】?【表4】には、上記課題が前提とする、フェノール系の抗菌剤(特定の(A)成分である「A-1」)を含有する液体洗浄剤として、例1?19、21、22、25、30?34が記載されているところ、同表の評価結果のとおり、これらはフェノール系の抗菌剤(特定の(A)成分である「A-1」)を含有していることから、当然のことながら、その含有量により程度にこそ差はあれ、そこそこの「抗菌性」を有することが分かる。また、これらの例は、液体洗浄剤が通常具備する界面活性剤((C)成分)を含有するものであるから、当然のことながら、そこそこの「洗浄性」(通常洗浄剤ないし塗布洗浄性)を有することも理解できる。
加えて、これらの具体例のうち、例1?19、30?34(特定の(B)成分である「B-1」を含有するもの)と、例21、22、25(当該「B-1」を含有しないもの)とを対比すると、前者は、特定の(B)成分である「B-1」を含有することにより、「光に対する安定性」の評価結果において優れていることが分かる。
そうすると、当該実施例の記載から、フェノール系の抗菌剤(特定の(A)成分である「A-1」)を含有する液体洗浄剤は、当該抗菌剤によるそこそこの抗菌性と、液体洗浄剤が通常具備する「界面活性剤」によるそこそこの洗浄性を有しているところ、特定の(B)成分である「B-1」の存在により、上記の課題の中でも主眼とされている、光に曝されたときの着色の抑制という課題を解決することができることを、当業者において認識することができるということができる。
(4) さらに、本件発明は、上記の本件訂正により、(A)成分及び(B)成分の種類及び含有量が限定され、上記実施例に係る「A-1」及び「B-1」という特定の化合物を特定の割合で配合したものと厳密には一致しないにせよ、おおよそ化学構造などからみて類似する範疇のものとなったと解されるところ、このような範疇のものについても、上記実施例の効用と相応の効用をもたらすと考えるが合理的である。
なお、特許異議申立人は、令和2年6月25日提出の意見書において、(B)成分の無機還元剤に関し、亜硫酸カリウムは亜硫酸ナトリウムと類似する範疇のものとはいえない旨主張するが、甲第16号証(特開昭62?61956号公報)の特許請求の範囲(3)や、甲第17号証(再公表第94/25032号)の第3頁右上欄第21行には、亜硫酸カリウムが亜硫酸ナトリウムと同列のものとして記載されており、一般には、これらは類似の範疇のものとして認識されていると解するのが合理的であるから、当該主張を採用することはできない
(5) そうである以上、本件発明は、上記実施例の記載からみて、当業者が課題解決できると合理的に認識できる範囲内のものというべきであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものと認められる。
したがって、本件特許は、取消理由(1)(サポート要件)を理由に、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないため、取り消すことはできない。

2 取消理由(2)、(3)(新規性進歩性)について
(1) 甲1(その訳文としての甲2)とその記載事項
特許異議申立人が提出した甲第1号証(国際公開第2013/124784号。以下、「甲1」という。)には、以下の記載がある。
なお、甲1の記載事項の摘記にあたっては、便宜上、当該甲1のパテントファミリーである、甲第2号証(特表2015-515447号公報。以下、「甲2」という。)を、甲1の訳文として、段落番号なども含めて、そのまま摘記した。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ハロゲン原子を含有する及び/又はフェノール部分を含有する殺生物剤、ギ酸、二酸化塩素、二酸化塩素発生化合物、ジアルデヒド;抗微生物銀などの抗微生物金属を含有する構成成分からなる群から選択される抗微生物剤、並びに
b)ポリアミン、特にはポリエチレンイミン
を含む組成物。
・・・
【請求項5】
構成成分(a)が、ハロゲン原子を含有する及び/若しくはフェノール部分を含有する殺生物剤、ギ酸、二酸化塩素若しくは二酸化塩素発生化合物、又はジアルデヒドから選択され、特にはフェノキシエタノール、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、4,4'-ジクロロ-2'-ヒドロキシ-ジフェニルエーテル、2,4,4'-トリクロロ-2'-ヒドロキシ-ジフェニルエーテル、グルタルアルデヒド、ギ酸、1,2-エタンジアール、2,4-ジクロロベンジルアルコール、3,5-ジメチル-1,3-5-チアジアジナン-2-チオン、1,3,5-トリス-(2-ヒドロキシエチル)-ヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノシクロプロピルアミノ-6-(1,3,5-トリアジン)、銀-ガラス、銀ゼオライトから選択される、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
・・・
【請求項7】
組成物の総重量に対して0.001重量%から5重量%の殺生物剤(a)を含有する、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
・・・
【請求項10】
表面活性剤、屈水剤、抗微生物効果を改善し得るさらなる添加剤、並びに処方物中の抗微生物剤(a)及び/又はポリアミン(b)を安定化する薬剤からなる群から選択される;特にはアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤からなる群などの界面活性剤から選択される、少なくとも1種のさらなる構成成分を含む、請求項1から9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
組成物の総重量に対して0.001重量%から80重量%の界面活性剤を含有する、請求項10に記載の組成物。
・・・
【請求項14】
消毒剤、多目的清浄剤、洗濯洗剤、皿洗い液体、脱臭剤、織物コンディショナー、硬質表面の消毒及び衛生化のための製品、床清浄剤、ガラス清浄剤、キッチン清浄剤、浴室清浄剤、サニタリー清浄剤、織物のための衛生リンス製品、カーペット清浄剤、家具清浄剤、又は硬質及び軟質の表面をコンディショニング、シール、ケア若しくは処理するための製品などのホームケア処方物の製造のため;又はパーソナルケア処方物、特には脱臭剤、皮膚ケア製剤、浴用製剤、化粧用ケア製剤、フットケア製剤、光保護製剤、皮膚タンニング製剤、脱色製剤、昆虫忌避剤、制汗剤、傷のある皮膚を清浄及びケアするための製剤、毛髪除去製剤、シェービング製剤、芳香製剤、化粧用毛髪処理製剤、抗フケ製剤、口腔ケア組成物の製造のための、請求項1から11のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項15】
消毒剤、多目的清浄剤、洗濯洗剤、皿洗い液体、脱臭剤、織物コンディショナー、硬質表面の消毒及び衛生化のための製品、床清浄剤、ガラス清浄剤、キッチン清浄剤、浴室清浄剤、サニタリー清浄剤、織物のための衛生リンス製品、カーペット清浄剤、家具清浄剤、又は硬質及び軟質の表面をコンディショニング、シール、ケア若しくは処理するための製品などのホームケア処方物として;又はパーソナルケア処方物、特には脱臭剤、皮膚ケア製剤、浴用製剤、化粧用ケア製剤、フットケア製剤、光保護製剤、皮膚タンニング製剤、脱色製剤、昆虫忌避剤、制汗剤、傷のある皮膚を清浄及びケアするための製剤、毛髪除去製剤、シェービング製剤、芳香製剤、化粧用毛髪処理製剤、抗フケ製剤、口腔ケア組成物としての、請求項1から11のいずれかに記載の組成物の使用。」
・「【0053】
11.本発明によると、1から5の下に記載されており、セクション10に記載されている通りに使用される通りの組合せは、液体及び粉末の洗剤、衛生学的織物リンス剤、多目的清浄剤、消毒スプレー、におい袋(sachet)などの物理的状態であってよい。」
・「【0079】
ホームケア用途
本構成成分(b)のもののような抗微生物化合物は、清浄及び消毒の製品中に処方することができる。これらは、硬質表面用の清浄製品、洗濯洗剤、織物コンディショナー、手洗い用食器洗浄製品、硬質表面の消毒及び衛生化のための製品、多目的清浄剤、床清浄剤、ガラス清浄剤、キッチン清浄剤、浴室清浄剤、サニタリー清浄剤、織物用の衛生リンス製品、カーペット清浄剤、家具清浄剤だけでなく、硬質及び軟質の表面をコンディショニング、シール(封止、sealing)、ケア又は処理するための製品であってよい。清浄製品及び消毒製品は、固体、粉末、顆粒、ケーキ、棒状物、錠剤、液体、ペースト又はゲルであり得る。それらは、すぐ使える製品、又は清浄、洗浄、処理若しくはコンディショニングするプロセスの前若しくはその最中に希釈される濃縮物であってよい。
・・・
【0081】
したがって、本発明には、
(a)0.01?10%の本構成成分(a)及び(b)、即ち殺生物剤及びポリアミンの組合せ、並びに以下の構成成分の少なくとも1種
(c)0?80%の1種以上の表面活性剤
(d)0?50%の1種以上の屈水剤(hydrotropicagent)
(e)0?50%の清浄及び消毒の製品の抗微生物効果を改善することができる1種以上のさらなる添加剤。
【0082】
(f)0?10%の処方物中の活性殺生物剤を安定化することができる1種以上の薬剤
を含む清浄及び消毒の製品処方物が含まれる。
【0083】
構成成分(c)から(f)の例は下記に与えられている:
(c)表面活性剤
表面活性剤は、通常には、アニオン性、カチオン性、非イオン性又は両性であってよい少なくとも1種の界面活性剤を含む。
・・・
【0101】
(f)安定化剤
構成成分(f)は、例えば、還元剤、酸化防止剤及び金属の錯化剤/キレート化剤である。
【0102】
金属のキレート化剤及び錯化剤は、例えば、構成成分(e)下に記述されているものであり、上記を参照されたい。
【0103】
還元剤及び酸化防止剤は、例えば、ドイツ特許DE2020968、3ページに記述されている還元剤である。
【0104】
安定化剤(f)のさらなる例は、例えば、Research Disclosure (1982)、213 471-2に記述されている酸、酸発生物質、酸化防止剤、温和な還元剤及び捕捉剤であ
る。
【0105】
ここで、酸化防止剤のさらなる例は、TinogardLO1、Tinogard MD1、Tinogard NO、Tinogard Q、Tinogard TS、Tinogard TTのようなBASF Tinogard範囲からのものである。」
(2) 甲1発明
甲1の訳文として用いた甲2の請求項1、5には、4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルや2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルなどの抗微生物剤(構成成分(a))とポリアミン(構成成分(b))を含む組成物が記載され、さらに、甲2の請求項10、【0081】、【0082】には、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤からなる群などの表面活性剤(構成成分(c))、屈水剤(構成成分(d))、抗微生物効果を改善し得るさらなる添加剤(構成成分(e))、処方物中の抗微生物剤(a)及び/又はポリアミン(b)を安定化する薬剤(構成成分(f))、からなる群から選択される、少なくとも1種のさらなる構成成分を含む組成物が記載されている。
そして、甲2の【請求項7】、【請求項11】には、構成成分(a)、(c)の含有量について、それぞれ組成物の総重量に対して「0.001重量%から5重量%」、「0.001重量%から80重量%」と記載され、甲2の【0082】には、構成成分(f)の含有量について、「0?10%」と記載され、当該含有量は、組成物の総重量に対する重量%であると解される。
また、当該組成物の用途として、甲2の【請求項14】、【請求項15】、【0079】には、ホームケア用途が挙げられ、具体的には、液体であり得る洗濯洗剤が例示されている。
さらに、甲2の【0101】、【0103】には、上記構成成分「(f)安定化剤」について、「構成成分(f)は、例えば、還元剤、酸化防止剤及び金属の錯化剤/キレート化剤である。・・・還元剤及び酸化防止剤は、例えば、ドイツ特許DE2020968、3ページに記述されている還元剤である。」と記載されているところ、当該「ドイツ特許DE2020968」(独国特許出願公開第2020968号明細書。特許異議申立人が甲第3号証として提出したもの)には、当該還元剤として、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、硫酸または塩酸の塩、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムなどが記載されている(特許異議申立人が提出した甲第3号証の抄訳参照)。
これらの甲2(訳文)の記載からみて、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているということができる。
「構成成分(a):4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルや2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルなどの抗微生物剤を、組成物の総重量に対して0.001重量%から5重量%、
構成成分(b):ポリアミン、
を含み、
さらに、
構成成分(c):アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤からなる群などの表面活性剤を、組成物の総重量に対して0.001重量%から80重量%、
構成成分(d):屈水剤、
構成成分(e):抗微生物効果を改善し得るさらなる添加剤、
構成成分(f):ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、硫酸または塩酸の塩、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムなどの処方物中の抗微生物剤(a)及び/又はポリアミン(b)を安定化する薬剤を、組成物の総重量に対して0重量%から10%重量%、
からなる群から選択される、少なくとも1種のさらなる構成成分を含む、
液体であり得る洗濯洗剤において使用可能な組成物。」
(3) 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の点で相違するものといえる。
相違点α:本件発明1は、(A)成分及び(B)成分として、「2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテル及び4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテルから選択される1種以上のフェノール系抗菌剤」と、「亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸カリウムから選択される1種以上の無機還元剤」という特定の化合物を選択し併用しており、さらに、それらの含有量についても特定の数値範囲に限定しているのに対して、甲1発明は、当該特定の化合物の併用及びそれらの含有量について明示するものではない点。
そこで、当該相違点について検討すると、確かに、甲1発明は、構成成分(a)として、「4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルや2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテル」を含み得るものであるが、甲1発明の構成成分(a)は、そのほかにも多岐にわたる化合物を許容するものである。同様に、甲1発明は、構成成分(f)として、「亜硫酸ナトリウム」を含み得るものであるが、甲1発明の構成成分(f)は任意成分である上、他の化合物を広く包含するものである。 そして、甲1には、当該「4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルや2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテル」と「亜硫酸ナトリウム」を併用した具体例などは見当たらない。
さらに、これら構成成分(a)、(f)の含有量も、本件発明1の規定に比べて広範にわたるものである。
他方、本件発明1は、(A)成分及び(B)成分として、上記の特定の化合物を併用し、それらの含有量を特定することにより、上述の課題にも関連する、洗浄性及び抗菌性が良好であり、光に曝されたときの着色が抑えられた、繊維製品用の液体洗浄剤を提供することができるものであり、このような効果は、甲1の記載などから予測することはできない格別の効果ということができる。
そうすると、上記の相違点は実質的なものであり、甲1の記載を斟酌しても、当該相違点に係る本件発明1の構成(特定の化合物の併用とそれらの含有量の特定)が容易想到の事項であるということはできないから、本件発明1は、甲1発明に対して新規性及び進歩性を有するものである。
(4) 本件発明2?9について
本件発明2?9は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様、甲1発明に対して、新規性及び進歩性を有するものである。
(5) 小活
以上のとおり、本件発明は、甲1発明に対して新規性及び進歩性が欠如するということできないから、本件特許は、取消理由(2)、(3)(新規性進歩性)を理由に、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないため、取り消すことはできない。

第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について

特許異議申立人は、特許異議申立理由として、特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(申立理由1)及び同法第29条第1項及び第2項所定の規定違反(申立理由2-1?2-2)を主張するところ、これらのうち、上記取消理由にて採用しなかったものについて、ここで検討をする。

1 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反について
特許異議申立人は、特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)として、おおよそ次の点を主張する。
(i) 本件発明の課題に係る洗浄性は、通常洗浄及び塗布洗浄の双方に関し、種々の汚れに対する洗浄性を意図するところ、実施例などにおいて評価されているのは蛋白汚れのみである。
(ii) 本件発明の課題解決に不可欠な成分には、上記取消理由において指摘した(A)成分及び(B)成分のほかにも、プロテアーゼや界面活性剤などがあり、また、当該課題解決にはpHも関係するところ、本件発明は、これらを発明特定事項として規定していない。
そこで検討するに、本件発明の課題の一つとされている洗浄性は、上記第4の2(2)のとおり、フェノール系の抗菌剤を含有する従来の液体洗浄剤が普通に有している程度のそこそこの洗浄性であると解されるから、どのような汚れを対象として洗浄性が検証されたかや、通常の洗浄性を得るために使用されている既存の成分や条件は、本件発明にとってさほど重要なものではない。
そして、上記第4の2において検討したとおり、本件発明は、(A)成分及び(B)成分の種類及び含有量を特定のものとすることにより、その課題の中でも殊に重要な、フェノール系の抗菌剤を含有する液体洗浄剤に内在する光に曝されたときの着色という課題を解決することができたものと解するのが合理的あるから、上記指摘の成分を必須の構成成分としていないことをもってサポート要件に適合しないということはできない。

2 特許法第29条第1項及び第2項所定の規定違反(申立理由2-1?2-2)について
この申立理由は、上記第4の3において検討した取消理由(2)、(3)と同旨であるから、ここでの検討は要しない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、本件特許は、上記取消理由又は特許異議申立理由により取り消すことはできない。
また、ほかに本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテル及び4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシジフェニルエーテルから選択される1種以上のフェノール系抗菌剤と、
(B)成分:亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸カリウムから選択される1種以上の無機還元剤と、
(C)成分:界面活性剤と、を含有し、
(A)成分の含有量が、液体洗浄剤の総質量に対して、0.01?2質量%であり、
(B)成分の含有量が、液体洗浄剤の総質量に対して、0.001?3質量%である、繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項2】
(D)成分:プロテアーゼを含有する、請求項1に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項3】
(E)成分:炭素数4?12の炭化水素基を有するグリセリルエーテル、及び炭素数4?10の脂肪酸残基を有する脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1又は2に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項4】
液体洗浄剤の総質量に対して、前記(C)成分の含有量が8?30質量%である、請求項1?3のいずれか一項に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項5】
液体洗浄剤中の(B)成分の含有量に対する(A)成分の含有量の質量比である、(A)/(B)が0.005?60である、請求項1?3のいずれか一項に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項6】
(C)成分がアニオン界面活性剤を含み、(C)成分の合計量に対して、アニオン界面活性剤の合計量が40?100質量%である、請求項1?3のいずれか一項に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項7】
(C)成分がアニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤を含み、(C)成分の合計量に対して、アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤の合計量が80?100質量%である、請求項1?3のいずれか一項に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項8】
アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤の合計量に対して、アニオン界面活性剤の合計量が50?97質量%である、請求項7に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
【請求項9】
30℃での粘度が50?2500mPa・sである、請求項1?3のいずれか一項に記載の繊維製品用の液体洗浄剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-08-28 
出願番号 特願2017-510261(P2017-510261)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C11D)
P 1 651・ 113- YAA (C11D)
P 1 651・ 537- YAA (C11D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉岡 沙織  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 蔵野 雅昭
日比野 隆治
登録日 2019-05-10 
登録番号 特許第6523435号(P6523435)
権利者 ライオン株式会社
発明の名称 繊維製品用の液体洗浄剤  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 鈴木 三義  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 加藤 広之  
代理人 高橋 詔男  
代理人 加藤 広之  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ