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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22C
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B22C
管理番号 1368068
異議申立番号 異議2019-700585  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-25 
確定日 2020-09-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6458846号発明「中子砂の再利用方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6458846号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり請求項1、2について訂正することを認める。 特許第6458846号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6458846号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成27年10月19日に出願された特願2015-205849号の一部を新たに平成29年11月1日に出願したものであり、平成31年1月11日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月30日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 1年 7月25日 : 特許異議申立人佐藤彰芳(以下「特許異議申立人」という。)による請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 1年11月20日付け: 取消理由通知書
令和 2年 1月20日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 2月26日 : 特許異議申立人による意見書の提出
令和 2年 3月24日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
令和 2年 5月 7日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 6月16日 : 特許異議申立人による意見書の提出

2 訂正の適否
(1)訂正の内容
令和2年5月7日提出の訂正請求書により、特許権者は、特許請求の範囲の訂正(以下「本件訂正」という。)を求めているところ、請求項について、以下の事項により特定されるとおりに訂正することを請求する(訂正事項1)。
「【請求項1】
バインダに水ガラスを用いた使用済の中子砂の再利用方法であって、
鋳造に用いた中子を解砕するステップと、
加熱処理後に、水溶性水ガラスの質量の割合を、中子砂及び水ガラスの質量の0.2%以下になるように、解砕した前記中子を550℃以下において加熱するステップと、
前記加熱するステップの後に、前記中子砂から前記水ガラスを剥離するステップと、
剥離された前記水ガラスと前記中子砂との混合物から前記中子砂を分離回収するステップと、を備え、
加熱した前記解砕した前記中子を100℃以下に冷却し、そうした冷却処理の後に前記中子砂から前記水ガラスを剥離する、
中子砂の再利用方法。」

さらに、特許権者は、特許請求の範囲の請求項2を、以下の事項により特定されるとおりに訂正することを請求する(訂正事項2)。
「【請求項2】
バインダに水ガラスを用いた使用済の中子砂の再利用方法であって、
鋳造に用いた中子を解砕するステップと、
加熱処理後に、水溶性水ガラスの質量の割合を、中子砂及び水ガラスの質量の0.2%以下になるように、解砕した前記中子を550℃以下において加熱するステップと、
前記加熱するステップの後に、解砕した前記中子を剥離ステップでの剥離処理に適した100℃以下まで冷却するステップと、
前記冷却するステップの後に、前記中子砂から前記水ガラスを剥離するステップと、
剥離された前記水ガラスと前記中子砂との混合物から前記中子砂を分離回収するステップと、を備える、
中子砂の再利用方法。」

なお、令和2年1月20日提出の訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1
訂正事項1に係る特許請求の範囲の請求項1についての訂正は、(ア)「解砕した前記中子を加熱するステップ」について、「550℃以下において」加熱するものとし、加熱温度の上限を限定するとともに、(イ)「加熱した前記解砕した前記中子を100℃以下に冷却し、そうした冷却処理の後に前記中子砂から前記水ガラスを剥離する」ものであることを付加することで、「前記中子砂から前記水ガラスを剥離するステップ」が、100℃以下に冷却された後になされるものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、上記(ア)に関し、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0007】には、「鋳造後の中子を解砕した粒状体を300℃?550℃で加熱しているので、粒状体に含まれる水ガラスが不活性化し(再利用時に硬化を阻害しない状態に変性させ)、再利用した時の中子の強度を向上させることができる。」と記載され、段落【0034】には、「・・・加熱工程における加熱温度は、300℃?550℃とすることが好ましい。」と記載されている。
上記(イ)に関し、本件明細書の段落【0038】には「加熱後、粒状体14は、空冷熱交換方式で、研磨処理温度の100℃以下まで冷却する。」と記載され、段落【0039】には「次に、ステップS3に示す剥離工程では、加熱後の粒状体14同士を衝突させ、中子砂9から水ガラス15を剥離する。」と記載されており、この記載の順に工程が進むことから、粒状体14を100℃以下まで冷却した後に剥離工程が行われることは明らかである。また、段落【0038】には、「研磨処理温度の100℃以下まで冷却する。」と記載されているように、「剥離工程」ではなく「研磨処理」との用語が用いられているが、段落【0039】には上記のとおり、加熱後の剥離工程で粒状体14同士を衝突させることが明示されており、このような粒状体14同士の衝突により粒状体14の中子砂表面から水ガラスを剥離して除去する処理は、一般的に「研磨処理」の一種として認識されているから、当業者であれば、段落【0038】の「加熱後、粒状体14は、空冷熱交換方式で、研磨処理温度の100℃以下まで冷却する。」という記載における「研磨処理温度」が、剥離工程における「剥離処理温度」を意味し、当該温度が「100℃以下」であることを理解すると認められる。
よって、訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、本件明細書に記載された事項の範囲内で行われたものであるから、新規事項の追加に該当しない。

また、上記(ア)、(イ)の訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に特定されていた「解砕した前記中子を加熱するステップ」、「前記中子砂から前記水ガラスを剥離するステップ」を限定するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

イ 訂正事項2
訂正事項2に係る特許請求の範囲の請求項2についての訂正は、(ア)「解砕した前記中子を加熱するステップ」について、「550℃以下において」加熱するものとし、加熱温度の上限を限定するとともに、(イ)「剥離ステップでの剥離処理に適した温度まで冷却するステップ」における「剥離処理に適した温度」を、「100℃以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、上記アにて述べたとおり、(ア)については、本件明細書の段落【0007】、【0034】に記載されているし、(イ)について、当業者であれば、段落【0038】の「加熱後、粒状体14は、空冷熱交換方式で、研磨処理温度の100℃以下まで冷却する。」という記載における、「研磨処理温度」が、「剥離処理温度」を意味し、当該温度が「100℃以下」であると理解すると認められる。
そうすると、訂正事項2に係る請求項2についての訂正は、本件明細書に記載された事項の範囲内で行われたものであるから、新規事項の追加に該当しない。

また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(3)小括
上記のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。

3 取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正前(令和2年1月20日提出の訂正請求書による訂正後)の請求項1及び2に係る特許に対して、当審が令和2年3月24日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
(1)請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び事項並びに参考資料1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

4 当審の判断
(1)取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(特許法第29条第2項違反)について
ア 訂正後の請求項1に係る発明
本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、上記2(1)訂正の内容において示したとおりのものである。

イ 引用文献の記載
取消理由通知において引用した甲第1号証(特表2010-519042号公報)には以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
水ガラスの付着した使用済み鋳物砂を再生処理するための方法であって、
-水ガラスをベースとし微粒金属酸化物の添加された粘結剤の付着した使用済み鋳物砂が用意され、
-前記使用済み鋳物砂は熱処理され、その際、前記使用済み鋳物砂は少なくとも200℃の温度に加熱されて、再生された鋳物砂が得られるように構成したことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記熱処理は、前記鋳物砂の酸消費量が、鋳物砂50g当たりの0.1Nの塩酸消費量で測定して、少なくとも10%だけ減少するまで実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記使用済み鋳物砂は鋳型の形で存在することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記使用済み鋳型は鋳物を含むことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記鋳型は前記熱処理前に前記鋳物から分離されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記熱処理前に前記鋳型は少なくとも粗大な破片に分解されることを特徴とする、請求項3?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記鋳物砂を砂粒にばらすための機械的処理が前記熱処理の前または後に実施されることを特徴とする、請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記鋳型は前記熱処理のために炉内に装入されることを特徴とする、請求項3?7のいずれか1項に記載の方法。」

(イ)「【0042】
水ガラスの付着した使用済み鋳物砂は、鋳物工場における通例の鋳物鋳造過程で蓄積される。水ガラスをベースとした粘結剤で固化された金属鋳造用鋳型は、公知の方法で作製されてもよい。微粒金属酸化物の添加された水ガラス含有粘結剤は通例の方法で硬化されてもよい。たとえば、硬化は、当該造型混合材料から作製された鋳型を二酸化炭素ガスで処理することによって行われることが可能である。さらに、鋳型は、水ガラス/エステル法で作製されてもよい。この場合、エステルたとえばエチレングリコールジアセテート、ジアセチン、トリアセチン、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトン等が鋳物砂と混合され、次いで、水ガラスが配合される。硬化は、エステルの鹸化および、それと結びついたpH値の変化によって行われる。ただし、水ガラス含有粘結剤からの水分の除去によって、鋳型を固化させることも可能である。最後に挙げた熱硬化が好適である。鋳型は1つの成形体から作られてもよい。ただし、鋳型は、任意に別々の工程で作製された複数の成形体から構成され、後で単一の鋳型に合成されてもよい。また、鋳型は、粘結剤として水ガラスではなく、たとえばコールドボックス粘結剤のような有機粘結剤で固化された要素を含んでもよい。同じく、鋳型は永久鋳型から一部が形成されてもよい。水ガラスで固化された鋳物砂からなる鋳型の部分は、本発明による方法で再生処理可能である。また、型はいわゆる生砂から作製されても、鋳型はたとえば粘結剤としての水ガラスで固化された鋳物砂からなる中子のみを含むだけでもよい。こうした場合、使用済み鋳型のうち、水ガラスの付着した鋳物砂を含む部分は切り離され、本発明による方法で再生処理される。」

(ウ)「【0047】
第2の実施形態において、鋳型は熱処理前に鋳物から切り離される。これには、通例の方法を使用することができる。たとえば、鋳型は機械的作用によって粉砕されるかまたは振動して、多数の破片に分解される。
熱処理中鋳型または鋳型から生じた大きな凝塊の均等な加熱を保証するために、鋳型は、好ましくは少なくともたとえば直径約20cmまたはそれ以下の粗大な破片に破砕される。好ましくは、これらの破片の大きさは、最大にて、10cm以下、特に好適には5cm以下、中でも好ましくは3cm以下であればよい。鋳型の破砕には、通例の装置たとえば砕塊機を使用することができる。同様の大きさの団塊は、たとえば、鋳型を圧縮空気ハンマまたはたがねを用いるかあるいはまた振動によって鋳物から分離することによっても得ることができる。
【0048】
さらに別の実施形態において、熱処理の前または後に砂粒子を分解するための、鋳物砂の機械的処理が実施される。そのため、鋳型はつぶされて、たとえば摩擦または衝突によって微細化され、こうして得られた砂は篩にかけられる。これには、たとえば、鋳物砂の機械式処理にこれまで使用されてきている類の通例の装置を使用することができる。たとえば、鋳物砂を、砂粒が圧縮空気流によって浮遊する流動床を通過させることができる。砂粒同士の衝突によって、水ガラス粘結剤で形成された外側被膜は削剥される。ただし、砂粒を空気流によって衝突板に向かって偏向させて、衝突板上または他の砂粒との衝突によって、水ガラス粘結剤で形成された砂粒の外側被膜が剥離されるようにすることも可能である。」

(エ)「【0054】
鋳物砂を再生処理するための本発明による方法は、その他の再処理方法と組合わせることも可能である。したがって、たとえば、砂粒から水ガラス部分が削剥されて、篩い分けおよび/または除塵によって取り除かれる機械的処理を熱処理より先行させることが可能である。同じく、本発明による熱処理の前または後に、湿式処理法を実施することが可能である。したがって、たとえば、熱処理の前に、使用済み鋳物砂を水で洗浄し、水ガラス部分を取り除くことが可能である。ただし、洗浄後に砂を乾燥させなければならず、また、汚染された洗浄水の処理が行われなければならない点で、この種の湿式処理に要される大幅なコストを鑑みると、本発明による方法は乾式、つまり湿式工程なしで実施するのが好ましい。乾式再生処理のさらなる利点は、熱的再生処理後になお鋳物砂中に任意に残存している干渉物質を、水ガラスから形成された層内で砂粒に固着させることができる点にある。したがって、鋳物砂が数回のリサイクルの後、たとえば、粒径が過大になったために抽出されても、比較的容易に処分することが可能である。」

以上の記載によれば、甲第1号証には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「粘結剤としての水ガラスで固化された使用済み鋳物砂を再生処理するための方法であって、
鋳型の中子を粉砕又は分解し、
粉砕又は分解した前記鋳型の中子を熱処理し、
熱処理の後に、前記鋳物砂から水ガラス部分が削剥され、
前記鋳物砂から削剥された水ガラス部分が取り除かれる、
使用済み鋳物砂を再生処理するための方法。」

また、甲第1号証には、以下の事項も記載されている。
(オ)「【0004】
鋳型は様々な要件を満たさなければならない。鋳造プロセス自体に際して、鋳型は、1または複数の鋳型(部分型)から形成される中空型に液体金属を収容するために、先ず、十分な安定性と耐熱性とを有していなければならない。凝固プロセスの開始後、鋳型の機械的安定性は、中空型の壁面に沿って形成される凝固した金属層によって保証される。現在、鋳型の材料は、機械的強度を喪失するよう、換言すれば、耐火性材料の個々の粒子間の結合がなくなるように、金属から放出された熱の影響下で分解されなければならない。たとえば、これは、粘結剤が熱の作用下で分解することによって達成される。冷却後、凝固した鋳物は振動させられて、その際、鋳型の材料は理想的には金属型の空洞から流出可能な微細な砂に分離される。」

(カ)「【0044】
熱処理時間は、小形の鋳型については、とりわけ温度が高く選択されれば、相対的に短く選択することが可能である。特に鋳物を含む大形の鋳型については、処理時間は著しく長く、複数時間に達するほど長く選択することが可能である。熱処理が実施される時間間隔は、好ましくは5分から8時間までの間で選択される。熱的再生の進行は、たとえば、熱処理された鋳物砂の試料の酸消費量を測定することによって追跡することができる。鋳物砂たとえばクロム鉄鉱砂はそれ自体鋳物砂が酸消費量に影響を与えることができるような基本的性質を有する。ただし、再生の進行のパラメータとして、相対酸消費量を利用することも可能である。そのため、再生処理のために与えられる使用済み鋳物砂の酸消費量が最初に決定される。再生を監視するため、再生された鋳物砂の酸消費量が決定されて、使用済み鋳物砂の酸消費量と関連付けられる。本発明による方法において実施された熱処理により、再生された鋳物砂の酸消費量は、好ましくは、少なくとも10%で減少する。熱処理は、酸消費量が使用済み鋳物砂の酸消費量と比較して少なくとも20%、特に少なくとも40%、特に好適には少なくとも60%、さらに好適には少なくとも80%で減少するまで、続行されるのが望ましい。酸消費量は、鋳物砂50g当たりのmlで表され、測定は0.1 Nの塩酸で行われ、VDG「ドイツ鋳造技術者協会」公報P 28(1979年5月)記載の方法と同様に行われる。酸消費量の測定方法は実施例に詳細に述べられている。」

(キ)「【0064】
造型混合材料はその他の成分として、水ガラスベースの粘結剤を含む。この場合、水ガラスとしては、従来粘結剤として造型混合材料に使用されてきている類の普通の水ガラスを水ガラスとして使用することが可能である。これらの水ガラスは、溶解したケイ酸カリウムおよびケイ酸ナトリウムを含み、ガラス質のケイ酸カリウムおよびケイ酸ナトリウムを水中に溶解することによって作製可能である。水ガラスは、好ましくは、1.6?.4.0、特に2.0?3.5の範囲のSiO_(2)/M_(2)Oモジュールを有し、ここで、Mはナトリウムおよび/またはカリウムを表している。水ガラスは、好ましくは、30?60重量%の範囲の固体成分を有している。この固体成分の割合は水ガラスに含有されているSiO_(2)とM_(2)Oの量に関係している。」

(ク)「【0108】
以下、実施例を参照にして、本発明を詳細に説明する。
使用された測定方法:
AFS数:AFS数はVDG公報P 27(Verein Deutscher Giessereifachleute[ドイツ鋳造技術者協会],Dusseldorf,1999年10月)に従って決定した。
平均粒径:平均粒径はVDG公報P27(Verein Deutscher Giesereifachleute,Dusseldorf,1999年10月)に従って決定した。
酸消費量:酸消費量はVDG公報P28(Verein deutscher Giesereifachleute,Dusseldorf,1979年5月)の規定より類推して測定された。
試薬および器具:
塩酸 0.1 N
水酸化ナトリウム溶液 0.1 N
メチルオレンジ 0.1 %
250 mlのプラスチックボトル(ポリエチレン)
目盛付きメスピペット
測定の実施:
鋳物砂が、結合された鋳物砂の大きな団塊を含む場合、これらの団塊は、たとえば、ハンマを用いて粉砕され、次いで、鋳物砂は、メッシュサイズ1mmのふるいで篩い分けされる。
プラスチックボトルに、蒸留水50mlと、0.1Nの塩酸50mlがピペットで加えられる。続いて、漏斗を使用して、試験される鋳物砂50.0gがボトルに加えられて、ボトルが閉じられる。最初の5分間は、1分ごとに5秒間にわたって、その後は、30分ごとに再びそれぞれ5秒間にわたって、激しく攪拌される。その攪拌の都度、砂を数秒間沈降させ、さらに、ボトルを少し傾けて、ボトルの壁に付着した砂を沈降させる。静置の間、ボトルは室温で放置される。3時間後に、中度フィルタ(Weisband、直径12.5cm)によって、濾別が実施される。漏斗と、液溜めに使用されるビーカは、乾燥されていなければならない。最初の数mlの濾液は廃棄される。濾液50mlがピペットによって滴定フラスコに移され、指示薬としての3滴のメチルオレンジと混和される。続いて、0.1Nの水酸化ナトリウム溶液を用いて、赤から黄色に変化するまで滴定される。
算定:
(0.1Nの塩酸25.0ml-使用された0.1Nの水酸化ナトリウム溶液消費量ml)×2=酸消費量ml/鋳物砂50g
【実施例】
【0109】
1.水ガラスで結合される造型混合材料の調製および硬化
1.1 造型混合材料1
100重量%(GT)のケイ砂H 32(Quarzwerke GmbH、Frechen)が2.0重量%の市販されているアルカリ水ガラス粘結剤INOTEC(登録商標)EP3973(Ashland-Sudchemie-Kernfest GmbH)と十分に混和されて、この造型混合材料が200℃の温度にて硬化された。
1.2 造型混合材料2
100GTのケイ砂H 32が、先ず、0.5GTの無定形二酸化ケイ素(Elkem Microsilica 971)と、それに続いて、2.0GTの市販されているアルカリ水ガラス粘結剤INOTEC(登録商標)EP 3973と十分に混和されて、この造型混合材料が200℃の温度で硬化された。」

(ケ)「【0113】
【表3】




ウ 対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「粘結剤としての水ガラスで固化された使用済み鋳物砂」は、本件発明1の「バインダに水ガラスを用いた使用済の中子砂」に相当し、同様に、「再生処理するための方法」は「再利用方法」に、「鋳型の中子」は「鋳造に用いた中子」に、「粉砕又は分解し」は「解砕するステップ」に、「熱処理し」は「加熱するステップ」に、「水ガラス部分」は「水ガラス」に、「削剥され」は「剥離するステップ」に、「鋳物砂から削剥された水ガラス部分が取り除かれる」は「剥離された水ガラスと中子砂との混合物から中子砂を分離回収するステップ」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明とは、以下の点で一致し、又、相違するものと認められる。
<一致点>
「バインダに水ガラスを用いた使用済の中子砂の再利用方法であって、
鋳造に用いた中子を解砕するステップと、
解砕した前記中子を加熱するステップと、
前記加熱するステップの後に、前記中子砂から前記水ガラスを剥離するステップと、
剥離された前記水ガラスと前記中子砂との混合物から前記中子砂を分離回収するステップと、を備える、
中子砂の再利用方法。」
<相違点1>
加熱するステップにおいて、本件発明1は「加熱処理後に、水溶性水ガラスの質量の割合を、中子砂及び水ガラスの質量の0.2%以下になるように、解砕した前記中子を550℃以下において」加熱するステップを有するのに対し、引用発明では、加熱処理時の温度の上限が特定されないとともに、熱処理後の水ガラス部分の割合については明記されていない点。
<相違点2>
本件発明1は、「加熱した前記解砕した前記中子を100℃以下に冷却し、そうした冷却処理の後に前記中子砂から前記水ガラスを剥離する」のに対し、引用発明では、冷却処理及びその温度については不明である点。

エ 判断
(ア)相違点1について
引用文献1には、上記イ(オ)?(ケ)の記載があり、特に上記イ(ケ)の表3には、熱的再生物1?8の8通りの実施例についての処理温度及び酸消費量が記載されているところ、仮に、異議申立人の主張するとおり、熱的再生物4及び8において、その水溶性水ガラスの質量の割合が0.2%以下となっていることが計算によって導き出されるとしても、これらの熱的再生物は、900℃の処理温度で処理されたものであって、550℃以下の処理温度で処理されたものではない。
また、表3のその他の実施例を検討しても、550℃以下の温度で熱処理された熱的再生物(中子砂)について、その水溶性水ガラスの質量の割合が0.2%以下となっていることが示されているとはいえない。すなわち、表3には、350℃の温度で熱処理をした熱的再生物についても記載があるものの、処理温度を350℃とした熱的再生物2、3、6、7の酸消費量は、いずれも熱的再生物4、8の酸消費量に比べて大きい値となっており、それらの熱的再生物における水溶性水ガラスの質量割合も大きいものとなると考えられるから、必ずしも0.2%以下となることを示すものではない。
また、異議申立人が提出した参考資料1ないし3のいずれも、中子砂の加熱処理温度を550℃以下とし、その水溶性水ガラスの質量の割合が0.2%以下とすることを開示するものではない。
一方、本件発明1において、水溶性水ガラスの質量の割合を0.2%以下とすること、加熱処理温度を550℃以下と特定したことについて、本件明細書には、以下の記載がある。
「【0033】
造型時に混合した水に溶出する水ガラス15の量が小さいほど、造型後の中子の強度は向上する。中子造型に再利用した場合に、所定の強度を有することができたものは、中子砂9に含まれる水ガラス15の活性量が、0.20%以下のものであった。したがって、中子砂9に含まれる水ガラス15の活性量から考慮すると、加熱温度は300℃以上が好ましい。このように、加熱工程において、中子砂9に残留する水ガラス15を非水溶性の水ガラス15に不活性化させる。加熱により、粒状体に含まれる水ガラス15のうち、水溶性の水ガラス15の量を、粒状体の量の0.2%以下にする。これにより、中子の強度を向上させることができる。
【0034】
一方、加熱温度が550℃を超えると、中子砂9は固化する。中子砂9がバインダと共に加熱装置内で固化し、中子砂9として取り出すことができなくなる。したがって、加熱工程における加熱温度は、300℃?550℃とすることが好ましい。」
この記載から、水溶性水ガラスの質量の割合を0.2%以下とし、中子砂の加熱温度を550℃以下とすることは、中子砂がバインダと共に加熱装置内で固化し、中子砂として取り出すことができなくなることを防止しつつ、造型後の中子の強度を向上するために特定されたものであると理解できる。
そうすると、上記のとおり、水溶性水ガラスの質量の割合を0.2%以下とすること、加熱処理温度を550℃以下とすることの両者を満たす証拠は示されていない上、当該温度を上限とすること等が設計事項ということもできないから、引用発明において、相違点1に係る水溶性水ガラスの質量の割合を0.2%以下とすること、加熱処理温度を550℃以下とすることは、当業者といえども容易に想到し得た程度のものということはできない。

(イ)小括
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明、甲第1号証に記載された事項及び参考資料1ないし3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

オ 訂正後の請求項2に係る発明について
本件訂正後の請求項2に係る発明(以下「本件発明2」という。)は、上記2(1)訂正の内容において示したとおりのものである。
本件発明2は、本件発明1と同じく、「加熱処理後に、水溶性水ガラスの質量の割合を、中子砂及び水ガラスの質量の0.2%以下になるように、解砕した前記中子を550℃以下において」加熱するステップを有するものであるところ、引用発明とは、上記本件発明1についての相違点1(上記ウ)と同じ相違点を有するものである。
そして、相違点1についての判断も上記エと同じであるから、本件発明2は、相違点1以外に相違する点について検討するまでもなく、引用発明、甲第1号証に記載された事項及び参考資料1ないし3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第36条第4項第1号又は同条第6項第1号若しくは第2号違反)について
ア 本件明細書の実施可能要件違反
(ア)実施可能要件違反の概要
特許異議申立人は、本件明細書について、以下の理由を主張する。
本件明細書の段落【0027】には、「水ガラス15の活性量は、水に中子砂9を浸漬させ、水に溶出した水ガラス15の量から求めている。水ガラス15の活性量とは、活性な水ガラス15の量である。活性な水ガラス15とは、水溶性の水ガラス15のことである。水溶性の水ガラス15は、水に溶けるとナトリウムイオンを放出する。ナトリウムイオンは、前述したように、バインダとしての水ガラス15の硬化を阻害する。活性な水ガラス15は水溶性なので、この方法により、中子砂9に含まれる水ガラス15の活性量を測定することができる。」と記載されているが、単に、「水ガラス15の活性量は、水に中子砂9を浸漬させ、水に溶出した水ガラス15の量から求めている。」との開示しかなく、中子砂中の水溶性水ガラスをどのようにして水中に溶解させ、溶解した水ガラス量をどのようにして測定するかについては、不明である。そのため、測定対象である中子砂中の水溶性ガラス量を把握することができず、解砕して得られた中子砂を、「加熱処理後に、水溶性水ガラスの質量の割合を、中子砂及び水ガラスの質量の0.2%以下になるように」加熱処理されていることを確認する手段が不明であり、当業者が、当該加熱処理工程を実施することができる程度に開示されているとは認められない。
また、解砕して得られた中子砂を、溶出する水中に浸漬したとしても、当該中子砂からの水溶性水ガラスの溶出量は、水の温度、浸漬時間、水の量、浸漬中の撹拌の有無、中子砂の粒径の大小等の条件の違いによっても大きく変化するものであり、これらの条件についても本件特許明細書には記載がなく、どのようにして水溶性水ガラスの質量の割合を、中子砂及び水ガラスの質量の0.2%以下にするのか不明である。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1及び2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(イ)実施可能要件の検討
本件明細書の段落【0027】には、上記のとおりの記載があるところ、中子砂に含まれる水溶性水ガラスの量を測定する目的で、水溶性水ガラスを水に溶出させるのであれば、中子砂に含まれる水溶性水ガラスが全量溶出するような条件で測定を行うべきことは当然のことである。
測定の際の条件に応じて、中子砂に含まれる水溶性水ガラスの総量自体が変わるわけではないし、水の温度、水の量、攪拌の有無や程度、中子砂の粒径等の条件によって、水溶性水ガラスの全量が溶出するまでに要する時間が異なることも当業者に明らかであるから、これらの諸条件に合わせ、浸漬時間を調整し、水溶性水ガラスの全量を溶出させて測定することは、当業者であれば、特段の困難を伴うものとまではいえない。
そうすると、中子砂及び水ガラスの質量の測定は、当業者が、本件明細書の段落【0027】の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、実施し得るものであるから、特許異議申立人の主張には理由がない。

イ 本件発明1、2についてのサポート要件違反又は明確性要件違反
(ア)サポート要件違反又は明確性要件違反の概要
特許異議申立人は、本件発明1、2について、以下の理由を主張する。
請求項1及び2に記載された「加熱処理後に、水溶性水ガラスの質量の割合を、中子砂及び水ガラスの質量の0.2%以下になるように、解砕した前記中子を加熱するステップ」については、上記ア(ア)で述べたように、本件特許明細書に明確に記載されていないから、請求項1、2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないし、発明が明確でない。

(イ)サポート要件又は明確性要件の検討
上記ア(イ)に述べたとおり、「水溶性水ガラスの質量の割合を、中子砂及び水ガラスの質量の0.2%以下になるように」加熱処理されていることを確認するための測定手段は、当業者が、本件明細書の段落【0027】の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、実施し得るものであり、本件発明1、2は、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、サポート要件を満たさないとまではいえない。
また、請求項1、2に、上記の「加熱処理後に、水溶性水ガラスの質量の割合を、中子砂及び水ガラスの質量の0.2%以下になるように、解砕した前記中子を加熱するステップ」の記載があることによって、本件発明1、2が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということもできない。
よって、特許異議申立人による明確性要件違反、サポート要件違反についての主張には理由がない。

5 むすび
以上のとおり、本件発明1及び2は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。さらに、本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダに水ガラスを用いた使用済の中子砂の再利用方法であって、
鋳造に用いた中子を解砕するステップと、
加熱処理後に、水溶性水ガラスの質量の割合を、中子砂及び水ガラスの質量の0.2%以下になるように、解砕した前記中子を550℃以下において加熱するステップと、
前記加熱するステップの後に、前記中子砂から前記水ガラスを剥離するステップと、
剥離された前記水ガラスと前記中子砂との混合物から前記中子砂を分離回収するステップと、を備え、
加熱した前記解砕した前記中子を100℃以下に冷却し、そうした冷却処理の後に前記中子砂から前記水ガラスを剥離する、
中子砂の再利用方法。
【請求項2】
バインダに水ガラスを用いた使用済の中子砂の再利用方法であって、
鋳造に用いた中子を解砕するステップと、
加熱処理後に、水溶性水ガラスの質量の割合を、中子砂及び水ガラスの質量の0.2%以下になるように、解砕した前記中子を550℃以下において加熱するステップと、
前記加熱するステップの後に、解砕した前記中子を剥離ステップでの剥離処理に適した100℃以下まで冷却するステップと、
前記冷却するステップの後に、前記中子砂から前記水ガラスを剥離するステップと、
剥離された前記水ガラスと前記中子砂との混合物から前記中子砂を分離回収するステップと、を備える、
中子砂の再利用方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-08 
出願番号 特願2017-211975(P2017-211975)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B22C)
P 1 651・ 537- YAA (B22C)
P 1 651・ 851- YAA (B22C)
P 1 651・ 121- YAA (B22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 大山 健
見目 省二
登録日 2019-01-11 
登録番号 特許第6458846号(P6458846)
権利者 トヨタ自動車株式会社
発明の名称 中子砂の再利用方法  
代理人 家入 健  
代理人 家入 健  
代理人 須藤 雄一郎  
代理人 須藤 雄一郎  

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