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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H02J
管理番号 1368078
異議申立番号 異議2019-700994  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-05 
確定日 2020-09-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6526305号発明「自家消費型の発電制御システム、配電盤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6526305号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6526305号の請求項5、6に係る特許を維持する。 特許第6526305号の請求項1ないし4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6526305号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成30年11月22日(優先権主張 平成30年10月23日)に出願され、令和1年5月17日にその特許権の設定登録がなされ、同年6月5日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
令和1年12月 5日 特許異議申立人 特許業務法人森脇特許事務所
による請求項1ないし6に係る特許に対する特
許異議の申立て
令和2年 3月 6日付け 取消理由通知
令和2年 4月 1日 特許権者による訂正請求書・意見書の提出
令和2年 5月 8日 特許異議申立人による意見書の提出
令和2年 7月31日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和2年 8月20日 特許権者による訂正請求書・意見書の提出

なお、先にした令和2年4月1日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1.訂正の内容
令和2年8月20日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第6526305号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし4について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(なお、下線は訂正部分を示す。)。

(1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。

2.訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし4について、請求項2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし4に対応する訂正後の請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

エ.訂正事項4について
訂正事項4は、請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。

第3 当審の判断

1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1なし6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
配電盤筐体(51)と、この配電盤筐体(51)外において直流電流又は交流電流を交流電流に変換するパワーコンディショナ(2)から又は前記配電盤筐体(51)内において直流電流又は交流電流を交流電流に変換するパワーコンディショナ(2)からの交流電流を変圧する変圧器(10)と、この変圧器(10)で変圧した交流電流を配電盤筐体(51)外へ送電する送電部(52)を有した配電盤であって、
前記配電盤筐体(51)に外から変圧器(10)が取り付けられ、前記配電盤筐体(51)内に送電部(52)が設けられ、
前記送電部(52)には、前記配電盤筐体(51)外へ送電する交流電流を遮断する遮断器(7)が設けられ、
この遮断器(7)と変圧器(10)の高圧側の間の電路に設けた発電力計(11)で、前記変圧器(10)から出力される発電力(H)を測定し、
前記配電盤筐体(51)内に発電力計(11)も設けられ、
この発電力計(11)で測定された発電力(H)と、前記配電盤筐体(51)外又は内に設けられた受電力計(12)で測定された系統(K)からの受電力(J)との和に基づいて、前記パワーコンディショナ(2)を制御することを特徴とする配電盤。
【請求項6】
前記配電盤筐体(51)及び変圧器(10)の高さは、1500mm以下であることを特徴とする請求項5に記載の配電盤。」

2.取消理由通知(決定の予告)等に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和2年7月31日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び同年3月6日付け取消理由通知に記載した取消理由のうちの「理由B(明確性要件)」の概要は、次のとおりである。
(1-1)令和2年7月31日付け取消理由通知(決定の予告)
請求項1に係る発明は、下記の引用例1に記載された発明、引用例4に記載の技術事項及び周知の技術事項(引用例2、引用例4、特開2011-167000号公報に記載の技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、
請求項3,4に係る発明は、下記の引用例1に記載された発明、引用例4に記載の技術事項、引用例5に記載の技術事項及び周知の技術事項(引用例2、引用例4、特開2011-167000号公報に記載の技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1,3,4に係る特許は、特許法29条第2項の規定に違反してなされたものである。

引用例1:特開2014-166001号公報(甲第1号証)
引用例2:特開2010-279133号公報(甲第9号証)
引用例4:特開2017-22865号公報(甲第12号証)
引用例5:特開2017-163795号公報(甲第3号証)

(1-2)同年3月6日付け取消理由通知に記載した取消理由のうちの「理由B(明確性要件)」
請求項2?4に係る特許は、特許請求の範囲が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

請求項2において、「・・前記制限係数A(t)は0以上1以下の値である。」と記載されており、制限係数A(t)=0である場合も含むものである。しかし、その場合、式(1)や式(2)からも明らかなように、発電力(H)の目標上限値(THmax)は、THmax=0またはTHmax=-B(t)となり、受電力(J)と発電力(H)との和(J(t)+H(t))には依存しないものとなることから、引用する請求項1に記載の「前記制御部(4)は、前記系統(K)から受電部(3)へ受電される受電力(J)と、前記パワーコンディショナ(2)から出力される発電力(H)との和に基づいて、前記パワーコンディショナ(2)を制御」することとの技術的関係が不明である。
よって、この点において請求項2及び請求項2を引用する請求項3,4に係る発明は明確なものでない。

(2)取消理由についての当審の判断
本件訂正請求による訂正により、請求項1ないし4は削除された。
したがって、令和2年7月31日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び同年3月6日付け取消理由通知に記載した取消理由のうちの「理由B(明確性要件)」は、もはや存在しない。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
上述のとおり、本件訂正請求による訂正により、請求項1ないし4は削除された。したがって、請求項1ないし4に対して、特許異議申立人 特許業務法人森脇特許事務所がした特許異議申立てについてはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
一方、請求項5,6についての特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
請求項5,6に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明及び周知の技術事項(甲第2号証、甲第4号証?甲第12号証)に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5,6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記
甲第1号証:特開2014-166001号公報
甲第2号証:特許第6364567号公報
甲第4号証:特開2007-28735号公報
甲第5号証:特開2018-98820号公報
甲第6号証:特開2014-217236号公報
甲第7号証:特開2017-17792号公報
甲第8号証:特開2011-120452号公報
甲第9号証:特開2010-279133号公報
甲第10号証:特開2016-119820号公報
甲第11号証:特開2012-191777号公報
甲第12号証:特開2017-22865号公報

(2)甲第1号証の記載事項
甲第1号証(特開2014-166001号公報)には、「電力調整装置」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項2】
外部電源から供給される第1の直流電圧を第2の直流電圧に変換する第1のコンバータと、
外部配線が系統電源から受電する受電電力を所定の範囲に保持するように、前記第2の直流電圧を交流電圧に変換し、前記外部配線へ出力するインバータと、
前記外部配線に接続された負荷が消費する負荷電力が所定の閾値を下回った場合、前記第1のコンバータ及び前記インバータの動作を停止するエネルギー管理部と、を備える電力調整装置。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項6】
自然エネルギーを利用した発電装置から供給される第3の直流電圧を前記第2の直流電圧に変換し、前記インバータへ出力する第2のコンバータをさらに備え、
前記エネルギー管理部は、前記第1のコンバータ及び前記インバータの動作を停止する際、前記第2のコンバータも停止する、
請求項1?5のいずれか一項に記載の電力調整装置。
【請求項7】
前記自然エネルギーを利用した発電装置は、ソーラーパネルによる発電装置である、請求項6に記載の電力調整装置。」

イ.「【0001】
本発明は、電力調整装置及び電力調整方法に関し、特に負荷追従型の電力調整装置及び電力調整方法に関する。」

ウ.「【0015】
図1に示すように、実施の形態1に係る受電システムは、ソーラーパネルSP、メインバッテリBAT1、電力調整装置PCS、3つの負荷L1?L3、5つのブレーカB1?B5、電流計A1、系統電源SPSを備えている。ここで、電力調整装置PCSは、2つのDC/DCコンバータCNV1、CNV2、DC/ACインバータINV1、エネルギー管理部EMSを備えている。負荷やブレーカの個数は、あくまでも一例である。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0020】
DC/DCコンバータ(第2のコンバータ)CNV2は、ソーラーパネルSPから入力された直流電圧を直流電圧Vpnへ昇圧もしくは降圧してDC/ACインバータINV1へ出力する。DC/DCコンバータCNV2の詳細については、図2を用いて後述する。
【0021】
DC/ACインバータINV1は、DC/DCコンバータCNV1及びDC/DCコンバータCNV2から入力された直流電圧Vpnを交流電圧に変換し、負荷L1?L3へ供給する。つまり、DC/DCコンバータCNV1、CNV2の出力である直流電力は、DC/ACインバータINV1により交流電力に変換される。ここで、DC/ACインバータINV1は、エネルギー管理部EMSから出力される制御信号cntに基づいて、系統電源SPSからの受電電力Psを一定に(つまり所定の範囲に)保持するように調整電力Pcを生成し、出力する。つまり、制御信号cntは、DC/ACインバータINV1に対して、系統電源SPSからの受電電力Psを一定に保持するように指示する信号である。
【0022】
DC/ACインバータINV1には、系統電源SPSから負荷L1?L3へ供給される電流値cvがフィードバックされる。DC/ACインバータINV1は、フィードバックされた電流値cvから受電電力Psを算出する。そして、DC/ACインバータINV1は、この受電電力Psを一定に保持するように調整電力Pcを生成し、出力する。このような構成により、負荷L1?L3によって消費される負荷電力P_(L)が変動した場合であっても、受電電力Psを一定の値(例えば0W)に保持することができる。すなわち、電力調整装置PCSは、負荷追従機能を有している。DC/ACインバータINV1の詳細については、図2を用いて後述する。」

エ.「【0027】
ブレーカB1は、負荷L1に接続された配線への過電流を防止するための配線用遮断機である。同様に、ブレーカB2は、負荷L2に接続された配線への過電流を防止するための配線用遮断機である。同様に、ブレーカB3は、負荷L3に接続された配線への過電流を防止するための配線用遮断機である。
ブレーカB4は、系統電源SPSからの受電を遮断するための受電用遮断機である。一方、ブレーカB5は、電力調整装置PCSからの受電を遮断するための受電用遮断機である。
【0028】
電流計A1は、系統電源SPSからの受電電流を検出するためのものである。電流計A1により計測された電流値cvから負荷追従運転に必要な受電電力Psの値を算出することができる。当然のことながら、電流計A1に代えて電力計を設けることにより、受電電力Psの値を直接測定し、その値をDC/ACインバータINV1へフィードバックしてもよい。」

オ.「【0053】
(実施の形態2)
次に、図5を参照して、実施の形態2に係る電力調整装置について説明する。図5は、実施の形態2に係る電力調整装置PCSの構成例を示すブロック図である。図5に示すように、電力調整装置PCSは、実施の形態1と同様に、2つのDC/DCコンバータCNV1、CNV2、DC/ACインバータINV1、エネルギー管理部EMSを備えている。なお、図5では、実施の形態1に係る図2に示した3つのOR回路OR1?OR3、AC/DCコンバータCNV3、補助バッテリBAT2は省略されている。
【0054】
実施の形態1に係る電力調整装置PCSでは、エネルギー管理部EMSがスケジュール機能を備え、負荷電力PLが小さくなる予め定められた時間に、DC/DCコンバータCNV1、CNV2、DC/ACインバータINV1の動作を停止した。これに対し、実施の形態2に係る電力調整装置PCSでは、エネルギー管理部EMSが負荷電力P_(L)を監視し、負荷電力P_(L)が所定の基準値を下回る場合、DC/DCコンバータCNV1、CNV2、DC/ACインバータINV1の動作を停止する。
【0055】
ここで、実施の形態1と同様に、DC/ACインバータINV1では、系統電源SPSから負荷Lへ供給される電流値cvがコントローラCNT2にフィードバックされ、負荷追従運転が行われている。そのため、コントローラCNT2は電流値cvから受電電力Psを算出することができる。また、コントローラCNT2は自身が出力する調整電力Pcの値も認識している。上述の通り、負荷電力P_(L)はP_(L)=Ps+Pcにより算出することができる。そのため、コントローラCNT2は、負荷電力P_(L)の値を算出し、負荷電力値lpvとしてエネルギー管理部EMSへ通知する。
【0056】
なお、当然のことながら、DC/ACインバータINV1のコントローラCNT2に代わり、エネルギー管理部EMSが負荷電力P_(L)の値を算出してもよい。さらに、負荷電力P_(L)の値を算出するのではなく、図1に示した負荷L1?L3が接続された配線のそれぞれに電流計や電力計を設け、負荷電力P_(L1)、P_(L2)、P_(L3)を直接測定するような構成でもよい。但し、電力調整装置PCSが、追従運転に用いる受電電力Ps及び自身が出力する調整電力Pcから負荷電力P_(L)の値を算出する方が、電流計や電力計を新たに設ける必要がなく、好ましい。」

・甲第1号証に記載の「電力調整装置」は、上記「ア.」?「ウ.」、「オ.」の記載事項、及び図5によれば、負荷追従型の電力調整装置PCSに関するものであり、DC/DCコンバータCNV2、DC/ACインバータINV1、エネルギー管理部EMSなどを備え、ソーラーパネルSPから供給される直流電圧を交流電圧に変換するとともに、負荷電力P_(L)が変動しても系統電源SPSからの受電電力Psを一定の値(例えば0W)に保持するように調整電力Pcを生成し、出力するものである。
・上記「ア.」、「ウ.」、「オ.」の記載事項によれば、エネルギー管理部EMSは、電力調整装置PCS内のDC/DCコンバータCNV2やDC/ACインバータコンバータなどの動作を制御するものであり、受電電力Ps+調整電力Pcにより負荷電力P_(L)を算出し、当該負荷電力P_(L)が所定の基準値(閾値)を下回った場合、電力調整装置PCS内のDC/DCコンバータCNV2やDC/ACインバータINV1の動作を停止する制御を行うものである。
・上記「エ.」の段落【0028】の記載事項によれば、系統電源SPSからの受電電力Psの計測を電流計A1に代えて電力計で直接行うことができるものである。
・上記「ウ.」、「エ.」の段落【0027】の記載事項、及び図1によれば、電力調整装置PCSからの受電を遮断するためのブレーカB5が設けられてなるものである。

したがって、特に実施の形態2に係る電力調整装置PCSに着目するとともに、当該電力調整装置PCSに加えて電力計やブレーカーB5などを含めたものを「受電システム」に係る発明として捉え、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「ソーラーパネルSPから供給される直流電圧を交流電圧に変換するとともに、負荷電力P_(L)が変動しても系統電源SPSからの受電電力Psを一定の値(例えば0W)に保持するように調整電力Pcを生成して出力する負荷追従型の電力調整装置PCSと、
電力調整装置PCSからの受電を遮断するためのブレーカB5と、
系統電源SPSからの受電電力Psを計測する電力計と、
電力調整装置PCS内のDC/DCコンバータCNV2やDC/ACインバータコンバータなどの動作を制御するエネルギー管理部EMSとを有した受電システムであって、
エネルギー管理部EMSは、受電電力Ps+調整電力Pcにより負荷電力P_(L)を算出し、当該負荷電力P_(L)が所定の基準値(閾値)を下回った場合、電力調整装置PCS内のDC/DCコンバータCNV2やDC/ACインバータINV1の動作を停止する制御を行うようにした受電システム。」

(3)対比・判断
ア.本件発明5について
本件発明5と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「ソーラーパネルSPから供給される直流電圧を交流電圧に変換するとともに、負荷電力P_(L)が変動しても系統電源SPSからの受電電力Psを一定の値(例えば0W)に保持するように調整電力Pcを生成して出力する負荷追従型の電力調整装置PCSと、・・・電力調整装置PCS内のDC/DCコンバータCNV2やDC/ACインバータコンバータなどの動作を制御するエネルギー管理部EMSとを有した受電システムであって」によれば、
「電力調整装置PCS」は、システム外部のソーラーパネルSPから供給される直流電圧(当然、電流も直流)を交流電圧(当然、電流も交流)に変換するものであることから、本件発明5でいう「パワーコンディショナ(2)」に相当する。
したがって、本件発明5と甲1発明とは、「直流電流又は交流電流を交流電流に変換するパワーコンディショナ(2)」を有する点では一致する。

(イ)甲1発明における「電力調整装置PCSからの受電を遮断するためのブレーカB5と」によれば、
「ブレーカB5」は、電力調整装置PCSによって変換された交流電圧(当然、電流も交流)の送電を遮断するものであり、本件発明5でいう「遮断器(7)」に相当する。
したがって、本件発明5と甲1発明とは、「送電する交流電流を遮断する遮断器(7)」が設けられている点では一致する。

(ウ)甲1発明における「系統電源SPSからの受電電力Psを計測する電力計と・・・エネルギー管理部EMSは、受電電力Ps+調整電力Pcにより負荷電力P_(L)を算出し、当該負荷電力P_(L)が所定の基準値(閾値)を下回った場合、電力調整装置PCS内のDC/DCコンバータCNV2やDC/ACインバータINV1の動作を停止する制御を行うようにした・・」によれば、
系統電源SPS(本件発明5でいう「系統(K)」)からの受電電力Psを計測する「電力計」は、本件発明5でいう「発電力計(12)」に相当する。
さらに、「受電電力Ps」、「調整電力Pc」は、それぞれ本件発明5でいう「受電力(J)」、「発電力(H)」に相当する。そして、エネルギー管理部EMSは、「受電電力Ps+調整電力Pcにより負荷電力PLを算出し、当該負荷電力PLが所定の基準値(閾値)を下回った場合、電力調整装置PCS内のDC/DCコンバータCNV2やDC/ACインバータINV1の動作を停止する制御を行う」ものであるところ、かかる制御は、負荷電力PL、すなわち受電電力Psと調整電力Pcとの和に基づいて行われる電力調整装置PCSの制御(具体的には、電力調整装置PCS内のDC/DCコンバータCNV2やDC/ACインバータINV1の動作を停止する制御)であるとみることができる。
したがって、本件発明5と甲1発明とは、「発電力(H)と、受電力計(12)で測定された系統(K)からの受電力(J)との和に基づいて、前記パワーコンディショナ(2)を制御する」ものである点では一致するといえる。

よって、本件発明5と甲1発明とは、
「直流電流又は交流電流を交流電流に変換するパワーコンディショナ(2)」を有する点、「送電する交流電流を遮断する遮断器(7)」が設けられている点、「発電力(H)と、受電力計(12)で測定された系統(K)からの受電力(J)との和に基づいて、前記パワーコンディショナ(2)を制御する」ものである点では一致するものの、次の点で相違する。

[相違点1]
本件発明5は「配電盤」に係る発明であり、当該「配電盤」が「配電盤筐体(51)」と、「パワーコンディショナ(2)からの交流電流を変圧する変圧器(10)と、この変圧器(10)で変圧した交流電流を配電盤筐体(51)外へ送電する送電部(52)」を有したものであり、「前記配電盤筐体(51)に外から変圧器(10)が取り付けられ、前記配電盤筐体(51)内に送電部(52)が設けられ」、送電する交流電流を遮断する遮断器(7)が「前記送電部(52)」に設けられ、「前記配電盤筐体(51)内に発電力計(11)も設けられ」る旨特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有してない点。

[相違点2]
発電力(H)の測定を、本件発明5では「遮断器(7)と変圧器(10)の高圧側の間の電路に設けた発電力計(11)」で、変圧器(10)からの出力に対して行う旨特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点。

まず、上記[相違点1]について検討する。
甲第1号証には、そもそも「配電盤」についての記載は一切なされていない。そのため、たとえ受電システムにおいては、「配電盤筐体外へ送電する送電部を有した配電盤」を設けることは一般的なことであるといえるとしても、特に、「配電盤筐体(51)内に発電力計(11)も設けられ」、「配電盤筐体(51)に外から変圧器(10)が取り付けられ」る構成(以下、「発明特定事項A」という。)までは甲1発明から導き出すことはできない。
ここで、甲第2号証には、発電制御システムにおいて、電気設備の規格電圧に応じて変電を行う変圧器の機能を備えた「受変電部(分電盤)3」を有し、負荷への供給電力(負荷の消費電力)を計測する電力計を「受変電部(分電盤)3」内に設けてもよいことが記載(段落【0020】?【0025】、【0063】、図1を参照)されている。また、甲第6号証には、エネルギーマネジメントシステムにおいて、住宅10の分電盤14と、太陽光発電装置16からの電力が太陽光発電用ブレーカー102を介して供給される「住宅10の分電盤14」を有し、太陽光発電用ブレーカー102の分電盤14側に太陽光発電装置16から供給される電力の電流値を検知する太陽光発電電流センサ122を設けたことが記載(段落【0019】?【0022】、図1を参照)されている。しかしながら、甲第2,6号証のいずれからも上記発明特定事項Aまでは導き出すことはできない。
さらに、甲第4,5,7?12号証には以下の事項が記載されている。
甲第4号証:交直変換器11の出力端の交流電圧及び交流電流を計測する交流電圧・交流電流検出器13を有すること(段落【0016】、図1を参照)。
甲第5号証:パワーコンディショナ部1から出力される交流電力量を測定する電力量センサ12を有すること(段落【0015】、図1を参照)。
甲第7号証:PCS21が電力変換部30と当該電力変換部30の出力電力Pcを検出する電力センサ36等を有し、電力変換部30が変圧器を有すること(段落【0020】?【0021】、【0023】、図1、図3を参照)。
甲第8号証:パワーコンディショナ3内部のDC/DCコンバータ3c,3dがトランス3c2,3d2を有すること、及びパワーコンディショナ3内部に交流出力を計測する電力計測器3pを含むこと(段落【0026】?【0027】、【0033】、図1、図2を参照)。
甲第9号証:パワーコンディショナー5_(3)からの交流を一定電圧に昇圧するPCS用変圧器7_(3)と、PCS用変圧器7_(3)の出力電流を検出する電流検出器27_(3)を有すること(段落【0012】?【0015】、図1を参照)。
甲第10号証:母線50に、トランス4d,4eを介して太陽光発電装置6a等の発電設備6が接続されること(段落【0019】、図1を参照)。
甲第11号証:太陽電池4とパワーコンディショナ5からなる太陽光発電システム10が連系変圧器7を介して電力系統と接続されること(段落【0005】、図1を参照)。
甲第12号証:パワーコンディショナー14から送電点1までの間に、変圧器13、瞬時電力検出器3等が順に介装されること(段落【0032】、図1を参照)。
しかしながら、甲第4,5,7?12号証のいずれにも「配電盤」についての記載はなく、当然ながら上記発明特定事項Aに関する記載も示唆もない。

よって、上記[相違点2]を検討するまでもなく、本件発明5は、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明6について
本件発明6は、本件発明5の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明5についての判断と同様の理由により、本件発明6は、甲1発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明5,6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第4 むすび

以上のとおり、本件発明5,6に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件発明5,6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件の請求項1ないし4に係る特許については訂正により削除され、本件特許の請求項1ないし4に対して特許異議申立人 特許業務法人森脇特許事務所がした特許異議申立てについてはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
配電盤筐体(51)と、この配電盤筐体(51)外において直流電流又は交流電流を交流電流に変換するパワーコンディショナ(2)から又は前記配電盤筐体(51)内において直流電流又は交流電流を交流電流に変換するパワーコンディショナ(2)からの交流電流を変圧する変圧器(10)と、この変圧器(10)で変圧した交流電流を配電盤筐体(51)外へ送電する送電部(52)を有した配電盤であって、
前記配電盤筐体(51)に外から変圧器(10)が取り付けられ、前記配電盤筐体(51)内に送電部(52)が設けられ、
前記送電部(52)には、前記配電盤筐体(51)外へ送電する交流電流を遮断する遮断器(7)が設けられ、
この遮断器(7)と変圧器(10)の高圧側の間の電路に設けた発電力計(11)で、前記変圧器(10)から出力される発電力(H)を測定し、
前記配電盤筐体(51)内に発電力計(11)も設けられ、
この発電力計(11)で測定された発電力(H)と、前記配電盤筐体(51)外又は内に設けられた受電力計(12)で測定された系統(K)からの受電力(J)との和に基づいて、前記パワーコンディショナ(2)を制御することを特徴とする配電盤。
【請求項6】
前記配電盤筐体(51)及び変圧器(10)の高さは、1500mm以下であることを特徴とする請求項5に記載の配電盤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-11 
出願番号 特願2018-219484(P2018-219484)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H02J)
P 1 651・ 537- YAA (H02J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂本 聡生  
特許庁審判長 五十嵐 努
特許庁審判官 山澤 宏
井上 信一
登録日 2019-05-17 
登録番号 特許第6526305号(P6526305)
権利者 株式会社Wave Energy
発明の名称 自家消費型の発電制御システム、配電盤  
代理人 堀家 和博  
代理人 堀家 和博  

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