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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C02F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C02F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C02F |
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管理番号 | 1368083 |
異議申立番号 | 異議2019-700390 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-05-14 |
確定日 | 2020-10-02 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6421461号発明「イオン交換装置供給水の評価方法及び運転管理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6421461号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6421461号の請求項1、2、5に係る特許を維持する。 特許第6421461号の請求項3、4、6、7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6421461号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成26年 5月30日の出願であって、平成30年10月26日にその特許権の設定登録がされ、同年11月14日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和 1年 5月14日付けで多田和雄(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。その申立て後の手続の経緯は次のとおりである。 令和 1年 8月30日付け 取消理由通知書 令和 1年10月29日付け 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 令和 1年12月11日付け 異議申立人による意見書の提出 令和 2年 2月20日付け 取消理由通知書(決定の予告) 令和 2年 4月20日付け 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 令和 2年 6月29日付け 異議申立人による意見書の提出 第2.訂正請求について 1.訂正の内容 令和 2年 4月20日付けの訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、この請求に係る訂正を「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1?7からなる(下線部は訂正箇所)。 なお、令和 1年10月29日付けの訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「該供給水中の溶存腐植物質濃度を測定し、」と記載されているのを「該供給水中の溶存腐植物質濃度を測定し、該溶存腐植物質がフルボ酸であり、」と訂正するとともに、「評価することを特徴とするイオン交換装置供給水の評価方法。」と記載されているのを「評価するイオン交換装置供給水の評価方法により、イオン交換装置への供給水の良否を判断し、この判断結果に基づいて、原水の前処理条件、イオン交換樹脂の更新時期、又はイオン交換樹脂の再生期間を管理することを特徴とするイオン交換装置の運転管理方法。」と訂正する。 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「評価方法。」と記載されているのを「運転管理方法。」と訂正する。 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1ないし4のいずれか1項に記載の」と記載されているのを「請求項1又は2に記載の」と訂正するとともに、「評価方法。」と記載されているのを「運転管理方法。」と訂正する。 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7を削除する。 一群の請求項について 訂正前の請求項2?3は、訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用するものであり、訂正前の請求項5?7は、訂正前の請求項1又は4を直接的または間接的に引用するものであって、訂正前の請求項1?7が訂正されることからして、訂正前の請求項1?7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であるところ、本件訂正は、一群の請求項に対して請求するものである。 2.訂正の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された方法の発明において、濃度を測定する「該溶存腐植物質」が「フルボ酸」であること、及び「イオン交換装置への供給水の良否を判断し、この判断結果に基づいて、原水の前処理条件、イオン交換樹脂の更新時期、又はイオン交換樹脂の再生期間を管理すること」というイオン交換装置の運転管理に係るステップを導入して方法の発明をより限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、濃度を測定する「該溶存腐植物質」が「フルボ酸」であること、すなわち「該供給水中の」「フルボ酸」「濃度を測定」することについては、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0015】に「・・・イオン交換樹脂の運転管理上で問題となるものは、主としてフルボ酸であることが明らかとなった。この理由としては、糖、タンパク質、フミン酸は、通常行われる前処理(凝集、pH調整、濾過等)によって除去されるためであること、フルボ酸以外の有機酸や低分子は、イオン交換樹脂に付着しても、通常の再生操作によって容易に剥離除去することができ、運転管理上大きな障害とならないためであること、などが考えられる。」(「・・・」は省略を表す。以下、同じ。)と記載され、【0016】に「なお、本発明において、フルボ酸の定義は次の第1ないし第3の定義の通りである。(i) LC-OCDで特定の分子量域に含まれるものをフルボ酸と定義する(第1の定義)。」と記載され、【0017】に「例えば、分子量100?10000、好ましくは100?7000、より好ましくは400?5000に検出されるピークは、フルボ酸のピークであるとする。(ii) 励起波長290?400nmの3次元蛍光スペクトルで蛍光波長400?500nmの波長域で検出されるものをフルボ酸と定義する(第2の定義)。(iii) 所定の操作を行った後に残留する有機物をフルボ酸と定義する(第3の定義)。この第3の定義では、具体的には、TOC成分からフルボ酸のみを取り出すために、酸性条件での固液分離で糖、たんぱく、及びフミン酸を除去した後の有機物濃度をフルボ酸濃度とする。」と記載され、【0018】に「上記いずれの定義によるフルボ酸濃度にも、フミン質や重複する成分の濃度が含まれるが、上記定義の有機物の大部分はフルボ酸であるため、フルボ酸濃度の誤差は小さい。」と記載され、【0043】に「・・・従って、三次元蛍光分光法はイオン交換樹脂に吸着されるフルボ酸のみを分析でき、より精緻な運転管理が可能となる。」と記載されているとともに、イオン交換装置の運転管理に係るステップについては、本件明細書の【0029】に「本発明のイオン交換装置の運転管理方法においては、このような本発明の供給水の評価方法により供給水の良否を評価し、その結果に基いてイオン交換純水装置やその前後のシステムにおける運転を管理する。この運転管理方法に特に制限はなく、例えば、供給水の前処理条件の制御、及び/又はイオン交換装置の運転条件の制御が挙げられる。」と記載され、【0031】に「また、イオン交換装置の運転管理条件については、以下が挙げられる。[イオン交換樹脂の運転管理に含まれる内容] <設計段階での処理の見直し> 1)凝集処理条件 (一)凝集剤量(濃度)の変更 (二)凝集剤量の変更に伴う、凝集処理形態の見直し (例:PAC添加量に応じて 凝集加圧浮上(添加量:大)>凝集沈殿(添加量:中)>凝集濾過(添加量:小) と変更する) 2)イオン交換塔構成の見直し (一)弱アニオン交換樹脂の採用 (二)イオン交換樹脂量の変更(強アニオン交換樹脂と弱アニオン交換樹脂の量および比を変える) <メンテナンス・運転条件の見直し> 1)凝集処理条件 (一)凝集剤種類(PAC,塩化鉄など)の変更 (二)凝集剤量(濃度)の変更 (三)pHの変更 (四)温度の変更 (五)撹拌条件の変更(撹拌速度、滞留時間) (六)凝集助剤の添加(カオリンの添加、有機凝結剤の添加) 2)イオン交換装置の見直し (一)採水量の変更(採水量を減らしたり、再生頻度を多くすることで、有機物負荷が低い段階で再生することができる。) (二)再生剤量の変更 (三)再生時間の変更 (四)再生剤濃度の変更 (五)更新時期の見直し 具体的には、凝集条件において、pH、凝集剤種類、凝集剤濃度、温度、撹拌方法を変更し、フルボ酸の濃度を低減したり、イオン交換樹脂へのフルボ酸の蓄積量に閾値を設けてイオン交換樹脂の更新時期を決定する管理方法がある。」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付された特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、上記訂正事項1に対応して、「評価方法。」と記載されているのを「運転管理方法。」と訂正するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、この訂正事項が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 (3)訂正事項3、4、6、7について 訂正事項3、4、6、7は、それぞれ請求項3、4,6、7を削除するものであり、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、この訂正事項が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 (4)訂正事項5について 訂正事項5は、上記訂正事項1、訂正事項2に対応して、「評価方法。」と記載されているのを「運転管理方法。」と訂正するとともに、選択的引用請求項の一部を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、この訂正事項が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 (5)独立特許要件について 本件においては、訂正前の請求項1?7について特許異議申立てがされているので、これらに係る訂正後の請求項について特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3.まとめ 以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 第3.本件発明について 上記「第2.3.まとめ」のとおり本件訂正は認容できるものであるから、本件特許異議の申立ての対象とされた請求項1、2、5に係る発明(以下、請求項1に係る発明を項番に対応して「本件発明1」などといい、併せて「本件発明」、「本件発明」に対応する特許を「本件特許」ということがある。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 イオン交換装置に供給される供給水の良否を評価する方法であって、 該供給水は、原水を凝集分離して得られた処理水であり、 該供給水中の溶存腐植物質濃度を測定し、該溶存腐植物質がフルボ酸であり、該溶存腐植物質濃度の測定結果に基づいて供給水の良否を評価するイオン交換装置供給水の評価方法により、イオン交換装置への供給水の良否を判断し、この判断結果に基づいて、原水の前処理条件、イオン交換樹脂の更新時期、又はイオン交換樹脂の再生期間を管理することを特徴とするイオン交換装置の運転管理方法。 【請求項2】 前記溶存腐植物質濃度を、有機炭素検出型サイズ排除クロマトグラフ法(LC-OCD)で評価した分子量分布又は三次元蛍光分光法で検出される蛍光強度を用いて決定することを特徴とする請求項1に記載の運転管理方法。 【請求項3】(削除) 【請求項4】(削除) 【請求項5】 前記供給水は、原水を凝集沈殿によって処理した後、固液分離により得られた処理水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の運転管理方法。 【請求項6】(削除) 【請求項7】(削除)」 第4.取消理由について 1.取消理由(決定の予告)の概要 本件特許の取消理由(決定の予告)の概要は以下のとおりである。 理由(進歩性) 令和 1年10月29日付け訂正請求に係る請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において頒布された特開2003-236535号公報、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 引用例 ○引用文献:特開2003-236535号公報 ○甲第1号証:E.R.Cornelissen,N.Moreau,W.G.Siegers,A.J.Abrahamse,L.C.Rietveld,A.Grefte,M.Dignum,G.Amy,L.P.Wessels,“Selection of anionic exchange resins for removal of natural organic matter(NOM)fractions”,WATER RESEARCH,42(2008年発行),p.413-423 ○甲第2号証:イオン交換樹脂とその技術と応用(基礎編)、オルガノ株式会社、改定3版、2002年3月31日発行、p96-105 ○甲第3号証:「ダイヤイオン(登録商標を表す○のRの上付き文字)DAIAION(登録商標を表す○のRの上付き文字)イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル[II]応用編」、改定版、三菱化成株式会社機能樹脂事業部、平成元年12月1日発行、p48-50 ○甲第4号証:Kader Gaid(2011年発行).A Large Review of the Pre Treatment,Expanding Issues in Desalination,Prof.Robert Y.Ning(Ed.),ISBN:978-953-307-624-9,InTech,Available from:http://www.intechopen.com/books/expandingissues-in-desalination/a-large-review-of-the-pre-treatment 2.取消理由(決定の予告)に対する当審の判断 理由(進歩性)について 本件発明1、2、5について (1)本件発明 本件発明1?7は、上記「第3.本件発明について」のとおりであると認める。 (2)引用文献の記載事項(当審注:「・・・」は省略を表す。下線は当審が付与した。) (a1)「【請求項1】 微量の有機質不純物を含むpHが7以上の被処理水に、紫外線を照射して前記有機質不純物を有機酸及び/又は炭酸に分解し、しかる後前記有機酸及び/又は炭酸を除去する方法において、前記紫外線の照射に先立って前記被処理水のpHを7未満にすることを特徴とする超純水製造方法。」 (a2)「【請求項2】 前記紫外線の照射に先立って前記被処理水のpHを3?6にすることを特徴とする請求項1記載の超純水製造方法。」 (a3)「【請求項4】 被処理水のpHを9以上にするpH上昇手段と、前記pH上昇手段で処理された処理水を処理する逆浸透膜手段と、前記逆浸透膜手段で処理された処理水のpHを7未満にするpH低減手段と、前記pH低減手段で処理された処理水に紫外線を照射する紫外線照射手段と、前記紫外線照射手段で処理された処理水から有機酸及び/又は炭酸を除去する手段とを有することを特徴とする超純水製造装置。」 (a4)「【請求項7】 有機酸を除去する手段が、アニオン交換樹脂装置もしくはアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合型装置であることを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項記載の超純水製造装置。」 (a5)「【請求項10】 前記pH低減手段は、水の有機不純物濃度、導電率、比抵抗および過酸化水素濃度の少なくとも一つを測定する測定手段を備え、前記紫外線照射装置によって紫外線照射を行う被処理水、紫外線照射を行った処理水、有機酸及び/又は炭酸の除去を行った処理水について、有機不純物濃度、導電率、比抵抗および過酸化水素濃度の少なくとも一つを流路の任意の1ヵ所又は複数ヵ所で測定し、その測定結果に基づいて前記被処理水のpHを3?6にするべく動作するものであることを特徴とする請求項3乃至9のいずれか1項記載の超純水製造装置。」 (a6)「【0004】・・・市水、工業用水あるいは井水等の中には、化学的に安定なトリハロメタンや腐敗した動植物や微生物に起因するフミン酸等の有機質不純物が含まれていることが多い。したがって、超純水の製造プロセスにおいては、これらの有機質不純物(TOC)を除去する必要がある。」 (3)引用文献に記載された発明(引用発明) 記載事項(a1)?(a5)より、引用文献には、「被処理水のpHを9以上にするpH上昇手段による処理、pH上昇手段による処理がなされた被処理水に対する逆浸透膜手段による処理、逆浸透膜手段による処理がなされた被処理水への紫外線の照射に先立って、この被処理水に含まれる微量の有機質不純物濃度を測定した結果に基づいて被処理水のpHを3?6にするpH低減手段による処理、pH低減手段で処理された被処理水に紫外線を照射して有機質不純物を有機酸及び/又は炭酸に分解する紫外線照射手段による処理、紫外線照射手段による処理がなされた被処理水に含まれる有機酸及び/又は炭酸をアニオン交換樹脂装置もしくはアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合型装置を用いて除去する手段による処理を行う超純水製造方法」が示されているということができる。 また、甲第1号証の418頁左欄9?21行には、水中にフミン酸物質(フミン酸、フルボ酸)が含まれること、甲第2号証の104頁6?9行には、水中に腐植質(フミン酸、フルボ酸など)が含まれること、甲第3号証の48頁下から6行?同5行には、水中に腐蝕生成物に由来するフミン酸、フルボ酸が含まれること、甲第4号証の16頁16?21行には、水中に含まれるフミン質の大部分がフミン酸、フルボ酸であることの記載があることからして、一般に、水中にフミン酸(フミン質)が含まれていればフルボ酸(フミン質)も含まれていることは、本件出願時の技術常識であるといえるので、記載事項(a6)を踏まえると、引用文献には、「フルボ酸等の有機質不純物を含む被処理水より超純水を製造すること」が示されているということができる。 以上より、引用文献には、 「フルボ酸等の有機質不純物を含む被処理水のpHを9以上にするpH上昇手段による処理、pH上昇手段による処理がなされた被処理水に対する逆浸透膜手段による処理、逆浸透膜手段による処理がなされた被処理水への紫外線の照射に先立って、この被処理水に含まれるフルボ酸等の有機質不純物の濃度を測定したその結果に基づいて被処理水のpHを3?6にするpH低減手段による処理、pH低減手段で処理された被処理水に紫外線を照射してフルボ酸等の有機質不純物を有機酸及び/又は炭酸に分解する紫外線照射手段による処理、紫外線照射手段による処理がなされた被処理水に含まれる有機酸及び/又は炭酸をアニオン交換樹脂装置もしくはアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合型装置を用いて除去する手段による処理を行う超純水製造方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。 (4)対比・判断 ア.本件発明1について 本件発明1と引用発明を対比する。 i 引用発明の「アニオン交換樹脂装置もしくはアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合型装置」は、本件発明1の「イオン交換装置」に相当する。 ii 引用発明の「フルボ酸等の有機質不純物を含む[pH上昇手段による処理が行われる前の]被処理水」は、最後段の「アニオン交換樹脂装置もしくはアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合型装置」(イオン交換装置)に供給されるものであることからして、本件発明1の「イオン交換装置に供給される供給水」、「イオン交換装置供給水」および「イオン交換装置への供給水」に一応相当する。 iii 引用発明の「有機質不純物の濃度」は、本件発明1の「溶存腐植物質濃度」に相当する。 iv 引用発明の「被処理水に含まれる」「有機質不純物の濃度を測定したその結果に基づいて被処理水のpHを3?6にする」ことは、被処理水中の有機質不純物濃度(溶存腐植物濃度)の測定結果を被処理水の水質レベルとして把握する、つまり、被処理水の水質(良否)を評価することであるといえることからして、本件発明1の「供給水中の溶存腐植物質濃度を測定し、」「該溶存腐植物質濃度の測定結果に基づいて供給水の良否を評価する」ことに一応相当する。 v 引用発明の「超純水製造方法」は、上記「iv」で示したように、被処理水の良否を評価することを包含するものであり、また、この評価のために測定される有機質不純物濃度(溶存腐植物質濃度)が「アニオン交換樹脂装置もしくはアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合型装置」(イオン交換装置)において除去される有機酸及び/又は炭酸に関係するものであることからして、本件発明1の「イオン交換装置に供給される供給水の良否を評価する方法」、「イオン交換装置供給水の評価方法」および「イオン交換装置への供給水の良否を判断」「する」に一応相当する。 上記「i」ないし「v」より、本件発明1と引用発明とは、 「イオン交換装置に供給される供給水の良否を評価する方法であって、該供給水中の溶存腐植物質濃度を測定し、該溶存腐植物質濃度の測定結果に基づいて供給水の良否を評価する、イオン交換装置供給水の評価方法により、イオン交換装置への供給水の良否を判断する、方法」という点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点> (相違点1)本件発明1は、濃度を測定する「該溶存腐植物質」が「フルボ酸」である、すなわち「該供給水中の」「フルボ酸」「濃度を測定」するのに対して、引用発明は「フルボ酸等」の濃度を測定する点。 (相違点2)本件発明1は、「供給水は、原水を凝集分離して得られたフルボ酸を含む処理水」であるのに対して、引用発明は、フルボ酸等の有機質不純物を含む[pH上昇手段による処理が行われる前の]被処理水を供給水にしているものの、「原水を凝集分離して得られた」「処理水」を供給水とすることの特定がない点。 (相違点3)本件発明1は、供給水の良否の判断結果に基づいて、「原水の前処理条件、イオン交換樹脂の更新時期、又はイオン交換樹脂の再生期間を管理する」と特定するのに対して、引用発明は、そのような特定がない点。 上記相違点1について検討すると、引用発明において、「フルボ酸」に注目して濃度を測定する動機を認められず、また、引用文献及び甲1?4号証において、引用発明において、「フルボ酸」に注目して濃度を測定することに関する示唆も認められないから、引用発明において供給水中のフルボ酸濃度を測定することは、当業者が容易に想到することができたものではない。 よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例に記載されている技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件発明2、5について 本件発明2、5は、本件発明1の上記相違点に係る発明特定事項を少なくとも有するものであるから、本件発明1と同じ理由により、引用例に記載されている技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)まとめ 本件発明1、2、5に係る特許は、取消理由(決定の予告)に係る取消理由によっては、取り消すことはできない。 3.令和 1年 8月30日付け取消理由について 令和 1年 8月30日付け取消理由の概要は、取消理由(決定の予告)と同一の引用例に基づき、本件訂正前の請求項1?7に係る発明について、新規性、進歩性を有しないとするものである。 してみれば、令和 1年 8月30日付け取消理由は、取消理由(決定の予告)に係る取消理由と同様に、理由がない。 4.令和 2年 6月29日付けの異議申立人による意見書における主張について (1)主張の概要 令和 2年 6月29日付けの異議申立人による意見書における主張のうち、濃度の測定に関する主張は、甲第11号証の段落0002には「フルボ酸は凝集処理では除去されにくく凝集沈殿やろ過処理では除去できない。」と記載されており、凝集処理後にイオン交換樹脂を汚染するフルボ酸が残留することは周知の課題であり、引用文献においても凝集処理を行った後には有機物の主成分としてフルボ酸が残留し、TOC測定によって主にフルボ酸濃度を測定していると判断できるというものである。 (2)当審の判断 甲第4号証の第40頁のFig.33に示される被処理水(seawater)と凝集処理による浮上水(Floated water)とのLC-OCDのスペクトルより、凝集処理がなされてもなお腐植物質(フミン質)が残留することが看取されること、また、甲第5号証の第3頁の左欄第4?12行には凝集処理がなされても腐植物質(フミン質)が残留する点が記載されていること、も勘案すると、異議申立人が主張するように、凝集処理を行った後には有機物の主成分としてフルボ酸が残留するとしても、凝集処理を行った後の有機物がフルボ酸のみとなるとまでは認められない。 すると、TOC測定によって測定される濃度は、フルボ酸等の濃度であるから、濃度を測定する「該溶存腐植物質」が「フルボ酸」である、すなわち「該供給水中の」「フルボ酸」「濃度を測定」することを発明特定事項とする本件発明1、2、5に対する主張としては、採用できない。 第5.取消理由で採用しなかった特許異議申立人の主張する特許異議申立理由について 1.特許異議申立書における特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立書における特許異議申立人の主張は、特許異議申立書第39?41頁の「(5)むすび」において整理されているとおり、本件訂正前の請求項1?3、5、6に係る発明は甲第1号証に記載された発明であり、本件訂正前の請求項1?7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、または甲第3号証に記載された発明と、甲第4?11号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたというものである。 2.当審の判断 上記「第4.2.取消理由(決定の予告)に対する当審の判断」において示した通り、本件発明1は、濃度を測定する「該溶存腐植物質」が「フルボ酸」である、すなわち「該供給水中の」「フルボ酸」「濃度を測定」することを発明特定事項とするものであるところ、甲1?3号証において、「フルボ酸」に注目して濃度を測定することに関する示唆は認められないから、本件発明1は甲第1号証に記載されている発明ではなく、また、甲4?11号証を参酌しても同様であるから、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、または甲第3号証に記載された発明と、甲第4?11号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 また、本件発明2、5も、本件発明1の上記発明特定事項を少なくとも有するものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲第1号証に記載されている発明ではなく、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、または甲第3号証に記載された発明と、甲第4?11号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 第6.むすび 以上のとおり、請求項1、2、5に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。また、他に請求項1、2、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項3、4、6、7は、本件訂正により削除されたため、これらの請求項に係る特許に対する特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項が準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 イオン交換装置に供給される供給水の良否を評価する方法であって、 該供給水は、原水を凝集分離して得られた処理水であり、 該供給水中の溶存腐植物質濃度を測定し、該溶存腐植物質がフルボ酸であり、該溶存腐植物質濃度の測定結果に基づいて供給水の良否を評価するイオン交換装置供給水の評価方法により、イオン交換装置への供給水の良否を判断し、この判断結果に基づいて、原水の前処理条件、イオン交換樹脂の更新時期、又はイオン交換樹脂の再生期間を管理することを特徴とするイオン交換装置の運転管理方法。 【請求項2】 前記溶存腐植物質濃度を、有機炭素検出型サイズ排除クロマトグラフ法(LC-OCD)で評価した分子量分布又は三次元蛍光分光法で検出される蛍光強度を用いて決定することを特徴とする請求項1に記載の運転管理方法。 【請求項3】(削除) 【請求項4】(削除) 【請求項5】 前記供給水は、原水を凝集沈殿によって処理した後、固液分離により得られた処理水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の運転管理方法。 【請求項6】(削除) 【請求項7】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-09-15 |
出願番号 | 特願2014-112756(P2014-112756) |
審決分類 |
P
1
651・
851-
YAA
(C02F)
P 1 651・ 121- YAA (C02F) P 1 651・ 113- YAA (C02F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 菊地 寛、富永 正史 |
特許庁審判長 |
菊地 則義 |
特許庁審判官 |
金 公彦 馳平 憲一 |
登録日 | 2018-10-26 |
登録番号 | 特許第6421461号(P6421461) |
権利者 | 栗田工業株式会社 |
発明の名称 | イオン交換装置供給水の評価方法及び運転管理方法 |
代理人 | 重野 剛 |
代理人 | 重野 剛 |