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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
審判 全部申し立て その他  B29C
管理番号 1368129
異議申立番号 異議2020-700463  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-08 
確定日 2020-11-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6627854号発明「熱溶解積層型3次元プリンタ用材料及びそれを用いた熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメント」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6627854号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6627854号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願2017-247577号)は、2017年(平成29年)5月30日(優先権主張 平成28年7月1日)を国際出願日とする特許出願である特願2017-548249号の一部を、平成29年12月25日に新たな特許出願として出願された特許出願であり、令和1年12月13日に特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、令和2年1月8日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許異議申立人エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー(以下、「申立人」という。)により、令和2年7月7日付け(受付日:同年同月8日)で、請求項1ないし7に係る本件特許について、特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項番号に対応して、それぞれ「本件発明1」等といい、本件発明1ないし7をまとめて「本件発明」ともいう。)

「【請求項1】
ポリアミド共重合体を主成分として含む熱溶解積層型3次元プリンタ用材料であって、
前記ポリアミド共重合体が、ポリアミド6/ポリアミド12共重合体又はポリエーテルエステルアミドエラストマーであり、
ISO1133に従い、200℃、5000gの荷重で測定した前記ポリアミド共重合体のメルトフローレートが10g/10分以上である
熱溶解積層型3次元プリンタ用材料。
【請求項2】
前記ポリアミド共重合体を80重量%以上含有する
請求項1に記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用材料。
【請求項3】
ISO1133に従い、200℃、5000gの荷重で測定した前記ポリアミド共重合体のメルトフローレートが20g/10分以上である
請求項1又は2に記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用材料。
【請求項4】
ISO178に従い、23℃、50%RHで測定した前記ポリアミド共重合体の曲げ弾性率が1000MPa以下である
請求項1?3のいずれか1項に記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用材料。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用材料を含む
熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメント。
【請求項6】
請求項5に記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントの巻回体。
【請求項7】
請求項6に記載の巻回体が収納された熱溶解積層型3次元プリンタ装着用カートリッジ。」

第3 特許異議申立書に記載した申立て理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立て理由の概要
申立人が令和2年7月7日付けで提出した特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)に記載した申立て理由の概要は、本件特許の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、以下の(1)?(5)のとおりの理由により、取り消されるべきものであるというものであって、申立人は、申立書に添付して、証拠方法として下記(6)の甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。

(1)申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び本件特許の優先日前の周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1ないし7に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(主たる引用文献は下記の甲第1号証であり、周知あるいは公知技術を示す副引例は、下記の甲第2ないし第7号証。)
(2)申立理由2(特許法第39条第2項)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許と優先日が同日であり、かつ、下記甲第8号証に記載の平成30年1月5日に特許権の設定登録がされた特許第6265314号の請求項1、7ないし11に係る発明と同一であって、特許法第39条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、請求項1ないし7に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(明確性要件)
請求項1ないし7に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(サポート要件)
請求項1ないし7に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(実施可能要件)
請求項1ないし7に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)証拠方法
甲第1号証:特開2015-150781号公報
甲第2号証:特開2015-176944号公報
甲第3号証:国際公開第2015/081009号
甲第4号証:特開2016-210947号公報
甲第5号証:特開2009-226952号公報
甲第6号証:中国特許出願公開第105711094号明細書
甲第7号証:特表2016-505409号公報
甲第8号証:異議2018-700602号の特許決定公報
なお、甲第8号証については、申立人は「特許決定公報第1355957号」としているが、実際に添付されている特許決定公報は、異議2018-700602号の特許決定公報であって、第1355957号は管理番号であるから、甲第8号証は、「異議2018-700602号の特許決定公報」とした。
以下、甲第1号証ないし甲第8号証を、それぞれ、単に「甲1」ないし「甲8」ともいう。

第4 当審の判断
以下に述べるように、請求項1ないし7に係る本件特許は、申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては取り消すことはできない。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)について
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。
「【請求項1】
3次元造形物の製造方法であって、ポリアミドあるいは脂肪族ポリエステルのいずれかから選択される固体状の高分子材料(A成分)を吐出ヘッドに供給し、前記吐出ヘッドにおいて、前記高分子材料を溶融させ、吐出ヘッドから溶融した高分子材料(A成分)を指定の位置に吐出し、層状に堆積させると同時に高分子材料(A成分)を固化させることを繰り返す方法であり、80℃95%RHの湿熱雰囲気で12時間処理後の分子量変化率がマイナス10%以上である高分子材料(A成分)を用いる、3次元造形物の製造方法。」
「【背景技術】
【0002】
従来から、造形対象物を平行な複数の面で切断した断面毎に樹脂を順次積層することによって立体造形を行い、造形対象物の3次元モデルとなる造形物を生成する技術が知られている。このような技術は、3次元造形と呼ばれ、部品試作及び製品製造などに利用することができる。
3次元造形の方法としては、光硬化性樹脂を用いる光造形法、金属や樹脂の粉末を用いる粉末積層法、樹脂を溶融させて堆積させる溶融堆積法、紙、樹脂シートまたは金属薄板を積層する薄板積層法、液状または粉末状の樹脂や金属を噴射するインクジェット法などが知られている。
【0003】
溶融堆積法の例として、特許文献1に熱可塑性樹脂を用いる溶融堆積法が開示されている。この技術では、固体状の熱可塑性高分子材料を吐出ヘッドに供給し、前記吐出ヘッドにおいて、前記高分子材料を溶融させ、吐出ヘッドから溶融した高分子材料を吐出し、層状に堆積させることを繰り返す。この技術において使用可能な熱可塑性高分子として、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレン、ポリカーボネート、高衝撃性ポリスチレン、ポリスルホン、ポリスチレン、アクリル系樹脂、アモルファス・ポリアミド、ポリエステル、ナイロン、PEEKおよびABSが例示されている。
【0004】
これらの熱可塑性樹脂は、大気中あるいは樹脂中に含有する水分と、外部からの熱との作用により、加水分解が起こる結果、その物性が低下する。その結果、造形された3次元造形物の機械的物性が低下する問題のみならず、加水分解が3次元造形物の造形前あるいは造形中に進行した場合には、熱可塑性樹脂ストランドの折れにより吐出ヘッドへの供給不良が起こる問題や、吐出ヘッドで加熱された樹脂の流動性が過剰に高くなる結果、吐出不良が起こる問題なども発生する。とりわけこのような問題が起こりやすい高分子材料として、ポリアミドおよび脂肪族ポリエステルが挙げられる。
【0005】
溶融堆積法による3次元造形装置の例として、特許文献2には吐出ヘッドを複数備えた装置が開示されている。このように吐出ヘッドを複数備えた溶融堆積3次元造形装置は既に上市されており(例えば3D Systems Inc製「Cube X(登録商標)」)、各吐出ヘッドにそれぞれ異なる種類の樹脂を供給したり、異なる色に調色された材料を供給したりすることで、それらの材料を複合した3次元造形物を一度に造形することが可能である。
【0006】
このような装置で異なる材料を複合した3次元造形物を造形する場合、堆積方向にスライスされた各層ごとに、その層に堆積するべき材料を全て堆積するべく、各材料を順次吐出ノズルへ供給し、加熱し、吐出し、堆積し終わってから次の層に移ることを繰り返す方法が一般的である。このような方法を採用する理由は、材料Aで複数の層を堆積した後、別の材料Bをこれらの層に追加しようとすると、既に堆積されている材料Aと、材料Bを吐出するノズルとが接触してしまい、造形が不可能となるためである。
【0007】
このように異なる材料を複合した3次元造形物を造形する手順においては、ある材料を吐出している間、別の材料は待機中であり、待機中の材料の吐出ヘッドは、材料が液滴として漏れ出すことが無いよう、材料の粘度がある程度高く保たれる程度に低い温度に保持される。ただし、待機終了後に吐出ヘッドを再加熱する時間を短縮するため、その温度は材料の粘度をある程度高く保持する条件下で可能な限り高い温度が選択される。そのため、待機中に吐出ヘッド部で高温に保持された材料が、加水分解による物性低下を起こす可能性が高くなる。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記従来の問題を解決し、ポリアミドおよび脂肪族ポリエステルのいずれかからなる高分子ストランドの保管中および造形中の加水分解が抑制された、3次元造形用の材料、ならびにこれを原料に用いた3次元造形物の製造方法、および3次元造形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、高分子ストランドの保管中、造形中に、物性が変化せず安定的に造形可能な3次元造形用の材料について、鋭意検討した。
その結果、材料として用いる高分子材料の酸性末端基を封止することで、保管中、造形中に物性が変化せず、安定的に造形可能な3次元造形用の材料が得られることを見出した。
さらに、高分子材料に対しカルボジイミド化合物を添加することで物性の低下を劇的に抑制できること、ならびに環状構造の中にカルボジイミド基を有する化合物を適量用いることで、造形時の安定性がより高められるのみならず、家庭など排気設備が不十分な環境における造形作業においても安全性が劇的に向上することを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下を包含する。」
「【0018】
本発明における3次元造形物の製造方法において用いられる高分子材料(A成分)(以下、単に(A成分)と略記することがある。)とは、後述するポリアミドあるいは脂肪族ポリエステルのいずれかを主たる成分とし、3次元造形に適した形態で供給される高分子材料である。主たる成分とは、構成成分の80重量%以上のことである。」
「【0021】
本発明においてポリアミドとは、主鎖が主にアミド結合から構成されるポリマーであり、アミド結合を有するホモポリアミドやコポリアミド、およびこれらの混合物である。
【0022】
ポリアミドとしては、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプラミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリカプラミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリカプラミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリカプラミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリカプラミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMDT)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)およびこれらの混合物ないし共重合体が挙げられる。中でも、経済性の点からナイロン6、ナイロン66が好ましい。」

イ 上記アの請求項1及び「高分子材料(A成分)」に関する【0018】及び【0021】の記載によれば、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。

「3次元造形物の製造方法に用いられる、80℃95%RHの湿熱雰囲気で12時間処理後の分子量変化率がマイナス10%以上である高分子材料であって、
高分子材料は、コポリアミドを80重量%以上含み、
3次元造形物の製造方法は、固体状の高分子材料を吐出ヘッドに供給し、前記吐出ヘッドにおいて、前記高分子材料を溶融させ、吐出ヘッドから溶融した高分子材料を指定の位置に吐出し、層状に堆積させると同時に高分子材料を固化させることを繰り返す方法である、
3次元造形用の高分子材料。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
「【0021】
ブロック共重合体は、親水性セグメントと、親水性セグメントとは異なる他のセグメント(以下、適宜「他のセグメント」と記載する)を有する。本実施形態のブロック共重合体の親水性セグメントには、アニオン性セグメント、カチオン性セグメント、ノニオン性セグメントを用いることができる。アニオン性セグメントとしては、ポリスチレンスルホン酸系、カチオン性セグメントとしては、四級アンモニウム塩基含有アクリレート重合体系、ノニオン性セグメントとしては、ポリエーテルエステルアミド系、ポリエチレンオキシド-エピクロルヒドリン系、ポリエーテルエステル系等が挙げられる。」
「【0024】
本実施形態において、ブロック共重合体は、市販品を用いてもよい。本実施形態のブロック共重合体は、成形体の表面近傍に偏析する(配向する)という性質から、樹脂練りこみ型の高分子型帯電防止剤として市販されている場合がある。例えば、三洋化成工業製のペレスタット(登録商標)、ペレクトロン(登録商標)等を本実施形態のブロック共重合体として用いることができる。三洋化成工業製、ペレスタット(登録商標)NC6321、1251は、親水性セグメントのポリエーテルと、他のセグメントのナイロンをエステル結合でコポリマー化したブロック共重合体である。」
「【0061】
[実施例1]
本実施例では、図1に示す樹脂部品100を製造した。第1の熱可塑性樹脂としては、ブロック共重合体であるポリエーテルエステルアミドブロック共重合体(三洋化成工業製、ペレスタットPL1251)を用い、金属微粒子としては、パラジウム錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))を用い、第2の熱可塑性樹脂としては、ガラス繊維を30重量%含む、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂(ナイロン6)(東レ製、アミランCM1011G30)を用いた。本実施例で製造した樹脂部品100の大きさは、2cm×2cm×4cmであり、中空部104の大きさは、1.4cm×1.4cm×4cm、三次元電気回路を形成する配線(メッキ膜)103の幅は、3mmとした。」

(3)甲3の記載事項
甲3には、以下の記載がある。なお、訳文のみ記載する。訳文については、甲3のパテントファミリーである特表2017-502852号公報を利用した。
「[0081]
第1の実施形態においては、上記パーツ材は、組成的に、1つ又は複数の半晶質ポリアミドと、1つ又は複数の非晶質ポリアミドとのポリアミドブレンドであって、場合により該ポリアミドブレンド中に1つ又は複数の添加剤が分散されている、ポリアミドブレンドを含むポリアミドパーツ材である。上記半晶質ポリアミド(複数の場合もあり)は、カプロラクタム、ジアミンとジカルボン酸を含むモノマーとの組合せ、及びそれらの混合物を含むモノマーから得られるポリアミドのホモポリマー及びコポリマーを含んでよい。上記ジアミンモノマー及びジカルボン酸モノマーは、それぞれ好ましくは脂肪族モノマーであり、より好ましくはそれぞれ非環式の脂肪族モノマーである。
[0082]
しかしながら、他の実施形態においては、上記ジアミンモノマー及び/又はジカルボン酸モノマーは、晶質ドメインを維持したうえで芳香族基又は脂環式基を含んでよい。さらに、幾つかの実施形態においては、上記半晶質ポリアミド(複数の場合もあり)は、以下に論じられるように、グラフトされたペンダント鎖において環式基(例えばマレエート化基)を含んでよい。上記半晶質ポリアミド(複数の場合もあり)に好ましいポリアミドのホモポリマー及びコポリマーは、以下の構造式:


(式中、R_(1)、R_(2)及びR_(3)は、それぞれ炭素数3?12の炭化水素鎖であってよい)によって表すことができる。R_(1)、R_(2)及びR_(3)についての炭化水素鎖は、分岐されていても(例えば小さいアルキル基、例えばメチル基を有する)、又は非分岐であってもよく、それらは好ましくは脂肪族で非環式の飽和炭化水素鎖である。
[0083]
本明細書で使用される場合に、ポリマー構造式における繰返単位記号「n」への言及は、括弧付けされた式が、n個の単位にわたり繰り返すことを意味し、その際、nは、所定のポリマーの分子量に応じて変化し得る整数である。さらに、括弧付けされた式の特定の構造は、繰返単位間で同じであるか(すなわちホモポリマー)、又は繰返単位間で変化してよい(すなわちコポリマー)。例えば、上述の式1において、R_(1)は、ホモポリマーを得るためにはそれぞれの繰返単位について同じ構造であってよく、又は交互コポリマーの様式で、ランダムコポリマーの様式で、ブロックコポリマーの様式で、グラフトコポリマーの様式で(以下に論じられる)若しくはそれらの組合せにおいて繰り返す2つ以上の異なる構造であってよい。
[0084]
半晶質ポリアミド(複数の場合もあり)に好ましいポリアミドには、ナイロンタイプの材料、例えば、ポリカプロラクタム(PA6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(PA6,6)、ポリヘキサメチレンノナミド(PA6,9)、ポリヘキサメチレンセバカミド(PA6,10)、ポリエナントラクタム(PA7)、ポリウンデカノラクタム(PA11)、ポリラウロラクタム(PA12)、及びそれらの混合物がある。より好ましくは、半晶質ポリアミド(複数の場合もあり)のポリアミドには、PA6、PA6,6、及びそれらの混合物がある。芳香族基を有する好適な半晶質ポリアミド(複数の場合もあり)の例として、脂肪族ジアミン及びイソフタル酸、及び/又はテレフタル酸(例えば、半晶質ポリフタルアミド)の半晶質ポリアミドがある。」(対応するパテントファミリーである特表2017-502852号公報の段落【0084】?【0077】、以下同じ)
「[0089]
上記半晶質ポリアミド(複数の場合もあり)は、好ましくは、プリントヘッド18から押出するのに適したものにする分子量範囲を有し、それは上記ポリアミドのメルトフローインデックスによって特徴付けることができる。上記半晶質ポリアミド(複数の場合もあり)に好ましいメルトフローインデックスは、約1g/10分から約40g/10分までの、より好ましくは約3g/10分から約20g/10分までの、更により好ましくは約5g/10分から約10g/10分までの範囲であり、その際、本明細書で使用されるメルトフローインデックスは、ASTM D1238-10に準じて2.16キログラム重で260℃の温度で測定されるものである。」(パテントファミリーの段落【0082】)

(4)甲4の記載事項
甲4には、以下の記載がある。
「【0032】
本発明の芳香族ポリエステル樹脂のメルトフローレート(MFR)は、230℃、荷重2.16kgfで測定した値で7g/10分以上であることが好ましい。このMFRが7g/10分より低いと材料押出式3Dプリンター用による成形において、十分な流動性を得ることができず、成形時の押出負荷が大きくなり、3次元物体の形状によっては成形が不可能となる場合がある。材料押出式3Dプリンターによる成形性の観点から、本発明の芳香族ポリエステル樹脂のMFRは10g/10分以上であることが好ましく、12g/10分以上であることがより好ましい。一方、押出ストランド径の安定性観点から、MFRの上限は好ましくは200g/10分以下、より好ましくは100g/10分以下である。
芳香族ポリエステル樹脂のMFRは、共重合成分としてのイソフタル酸単位の導入割合、固有粘度等により調整することができる。」

(5)甲5の記載事項
甲5には、以下の記載がある。
「【0013】
DE102004010160号A1においては、成形法におけるコポリマーを有するポリマー粉末の使用が記載されている。そのコポリマーは、極めて種々のモノマー構成要素からなる熱可塑性の統計コポリマーである。コポリエステルについては、特定の組成について述べられずに、モノマーが例示されている。該コポリマーは、1?10g/10分のMFR値を有する。前記コポリマーから製造される粉末は、もっぱら冷間粉砕によって得られる。」

(6)甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある。なお、訳文のみ記載する。
「[請求項6]
請求項1に記載の3D印刷法において、改質化ナイロン材料が1?30g/10分のメルトインデックスを有し、結晶化度が<20%であり、溶融温度が<300℃であり、成形収縮率が<1%であり、ナイロン樹脂基体と付着促進剤との質量比が1.5-9:1であり、増粘核成形剤中のイオン液体とナノカーボンフィルターとの質量比が10-40:1であり、前記ナイロン樹脂基体がナイロン6、ナイロン66、ナイロン1010、ナイロン46、ナイロン6Tまたはナイロン9Tの一種または多種である、前記3D印刷法。」

(7)甲7の記載事項
甲7には、以下の記載がある。
「【0068】
また、非晶質ポリアミドは、好ましくは、該非晶質ポリアミドがプリントヘッド18からの押出しに好適となる分子量範囲を有し、該分子量範囲は、その非晶質ポリアミドのメルトフローインデックスによって特徴付けられる。非晶質ポリアミドの好適なメルトフローインデックスは、約1グラム/10分から約30グラム/10分、より好ましくは約1グラム/10分から約15グラム/10分の範囲である。」

(8)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「コポリアミド」と本件発明1の「ポリアミド共重合体」は同義である。
甲1発明の「3次元造形用の高分子材料」は、本件発明1の「熱溶解積層型3次元プリンタ用材料」に相当する。
そして、甲1発明の高分子材料は、コポリアミドを80重量%以上含むことから、本件発明1と同様に、「ポリアミド共重合体を主成分として含む」といえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
ポリアミド共重合体を主成分として含む熱溶解積層型3次元プリンタ用材料。

<相違点1>
ポリアミド共重合体について、本件発明1では、「ポリアミド6/ポリアミド12共重合体又はポリエーテルエステルアミドエラストマー」であって、「ISO1133に従い、200℃、5000gの荷重で測定した前記ポリアミド共重合体のメルトフローレートが10g/10分以上」と特定されているのに対して、甲1発明では、かかる特定はない点。

イ 判断
(ア)まず、本件発明1のポリアミド共重合体が、「ポリアミド6/ポリアミド12共重合体」である場合の本件発明1について検討する。
甲1の【0022】に、甲1発明に用いられるコポリアミドとして多数のポリアミドが列挙される中の一つとして、「ポリアミド6/ポリアミド12共重合体」に相当する「ポリカプラミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)」が記載されている。
しかしながら、甲1発明は、従来既知の溶融堆積法による3次元造形では、造形中に溶融された熱可塑性樹脂(特にポリアミドおよび脂肪族ポリエステル)が、大気中あるいは樹脂中に含有する水分と、外部からの熱との作用により加水分解され、その物性が低下する問題や、加水分解が造形前や造形中に進行して、熱可塑性樹脂ストランドの折れにより吐出ヘッドへの供給不良が起こる等の問題があったのを解決するものであり、そのために、「80℃95%RHの湿熱雰囲気で12時間処理後の分子量変化率がマイナス10%以上である高分子材料(A成分)を用いる」(甲1の請求項1)ことにより、より具体的には、高分子材料に対し末端封止剤としてカルボジイミド化合物を添加することで、ポリアミドおよび脂肪族ポリエステルのいずれかからなる高分子ストランドの(保管中および造形中の)加水分解が抑制された3次元造形用の材料等を提供するものである(甲1の【0002】?【0007】及び【0011】?【0012】)。
そして、本件発明1に特定される条件でのメルトフローレート範囲については、申立人が周知あるいは公知技術として提示する甲3ないし甲7には記載されていない。
そうすると、甲1の記載及び上記周知あるいは公知技術を参酌しても、甲1発明における3次元造形用の材料として、「ISO1133に従い、200℃、5000gの荷重で測定した前記ポリアミド共重合体のメルトフローレートが10g/10分以上」との物性を有する「ポリアミド6/ポリアミド12共重合体」を採用することは、当業者といえども、容易に想到し得たこととはいえない。
そして、本件特許明細書の実施例5(【0101】?【0103】の表1?表3)によれば、ポリアミド共重合体が「ポリアミド6/ポリアミド12共重合体」である本件発明1の熱溶解積層型3次元プリンタ用材料は、造形性及び長期造形安定性の点で優れており、当該材料を使用することで、シャルピー衝撃試験及び曲げ試験において、層間剥離や亀裂、塑性変形がない優れた熱溶解積層型3次元プリンタ形成造形品が得られるという、優れた効果が奏されるものである。そして、この効果は、申立人が提出した甲1?7のいずれの証拠からも示唆されない。

(イ)次に、本件発明1のポリアミド共重合体が「ポリエーテルエステルアミドエラストマー」である場合の本件発明1について検討する。
「ポリエーテルエステルアミドエラストマー」は、3次元造形物の製造用のコポリアミドとして、本件特許の優先日前に公知であった(甲2の実施例1)。
しかしながら、甲1には、上記の従来既知の溶融堆積法による3次元造形における問題を解決する対象材料として、ポリエーテルエステルアミドエラストマーは記載されておらず、甲1に開示される通常の熱可塑性樹脂であるポリアミド、脂肪族ポリエステル3次元造形材料とは、エラストマーである点で性質も異なるため、甲2に記載のコポリアミドを甲1発明のコポリアミドとして採用する動機付けがあるとはいえないし、まして、特定条件におけるメルトフローレートが特定の値であるかかるコポリアミドを採用する動機付けがあるとはいえない。
そして、ポリアミド共重合体が「ポリエーテルエステルアミドエラストマー」である本件発明1の熱溶解積層型3次元プリンタ用材料では、(ア)で記載したとおり、造形性及び長期造形安定性に優れ、また、層間剥離や塑性変形等のない優れた熱溶解積層型3次元プリンタ形成造形品が得られるという、申立人が提出した甲1ないし7のいずれの証拠からも示唆されない効果が奏されるものである。

(ウ)以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明、並びに、甲1ないし7に記載の事項(周知あるいは公知技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(9)本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、いずれも、本件発明1のポリアミド共重合体の発明特定事項を全て含み、さらにそれぞれの請求項に記載の事項で限定した発明であるから、本件発明2ないし4についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲1発明、並びに、甲1ないし7に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(10)本件発明5ないし7について
本件発明5ないし7は、いずれも、請求項1を直接または間接的に引用する請求項に係るものであって、本件発明5ないし7は、甲1発明と、少なくとも上記(8)アで記載した相違点1で相違している。そして、これらの相違点についての判断は、上記(8)イで記載したとおりであり、本件発明5ないし7についても、上記(8)イにおいて本件発明1について説示したと同様の理由によって、甲1発明、並びに、甲1ないし7に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(11)小活
以上のとおり、申立理由1には理由がない。

2 申立理由2(特許法第39条第2項)
(1)特許第6265314号の請求項1ないし11に係る発明
特許第6265314号の請求項1ないし11に係る発明(以下「同日出願発明1」ないし「同日出願発明11」という。)は、特許決定公報第1355957号(甲8)に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
融点が200℃以下であるポリアミド共重合体を80重量%以上含み、
前記ポリアミド共重合体が、ポリアミド6/ポリアミド12共重合体、ポリエーテルエステルアミドエラストマー、又はポリエーテルポリアミドエラストマーであり、
ISO1133に従い、200℃、5000gの荷重で測定した前記ポリアミド共重合体のメルトフローレートが10g/10分以上である
熱溶解積層型3次元プリンタ用材料。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記ポリアミド共重合体がポリエーテルポリアミドエラストマーである
請求項1に記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用材料。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記ポリエーテルポリアミドエラストマーが、下記式(A1)で表されるアミノカルボン酸化合物及び/又は下記式(A2)で表されるラクタム化合物、下記式(B)で表されるトリブロックポリエーテルジアミン化合物、並びに下記式(C)で表されるジカルボン酸化合物を重合して得られるものである
請求項3に記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用材料。
【化1】

[但し、R^(1)は、炭化水素鎖を含む連結基を表す。]
【化2】


[但し、R^(2)は、炭化水素鎖を含む連結基を表す。]
【化3】

[但し、xは1?20の数値、yは4?50の数値、zは1?20の数値を表す。]
【化4】


[但し、R^(3)は、炭化水素鎖を含む連結基を表し、mは0または1である。]
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
ISO1133に従い、200℃、5000gの荷重で測定した前記ポリアミド共重合体のメルトフローレートが20g/10分以上である
請求項1、3及び5のいずれか1項に記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用材料。
【請求項8】
ISO178に従い、23℃、50%RHで測定した前記ポリアミド共重合体の曲げ弾性率が1000MPa以下である
請求項1、3、5及び7のいずれか1項に記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用材料。
【請求項9】
請求項1、3、5及び7?8のいずれか1項に記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用材料を含む
熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメント。
【請求項10】
請求項9に記載の熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントの巻回体。
【請求項11】
請求項10に記載の巻回体が収納された熱溶解積層型3次元プリンタ装着用カートリッジ。」

(2)同日出願発明1と本件発明1との対比・判断
同日出願発明1と本件発明1を対比すると、以下の点で相違する。

相違点A:ポリアミド共重合体について、同日出願発明1は、「融点が200℃以下である」と特定するのに対し、本件発明1は、この点を特定しない点。

相違点B:ポリイミド共重合体の配合量に関し、同日出願発明1は、「80重量%以上」と特定するのに対し、本件発明1は、「主成分として」との特定である点。

以下、相違点について検討する。
相違点Aについて
同日出願発明1のポリアミド共重合体は、「ポリアミド6/ポリアミド12共重合体、ポリエーテルエステルアミドエラストマー、又はポリエーテルポリアミドエラストマー」であり、本件発明1におけるポリアミド共重合体は、「ポリアミド6/ポリアミド12共重合体又はポリエーテルエステルアミドエラストマー」であるから、一部重複しているが、同じポリアミドであっても、その分子量や結晶化度により融点は変化するものであるから、その融点が全く同じになるわけではない。また、3Dプリンタ技術において、材料の融点の違いによって成形性が大きく相違することは明らかである。
そうすると、相違点Aが、同日出願発明1の課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるということはできない。
以上のことから、相違点Aは実質的な相違点であるから、相違点Bについて検討するまでもなく、同日出願発明1と本件発明1とが実質的に同一であるとすることはできない。

(3)本件発明2ないし7について
同日出願発明1、7ないし11と本件発明2ないし7とを対比すると、上記(2)において検討したとおり、少なくとも上記(2)における相違点Aで実質的に相違するから、これらの発明が同一であるとすることはできない。

(4)小活
以上のとおり、申立理由2には理由がない。

3 申立理由3(明確性要件:特許法第36条第6項第2号)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)明確性要件の判断
ア 本件特許の請求項1の記載は、上記第2の【請求項1】のとおりであり、それ自体不明確な記載はないし、明細書の記載及び図面にも沿うものである。また、本件特許の請求項2ないし7においても同様である。

イ なお、申立人は、請求項1の記載において、メルトフローレートに関して下限だけを示すような数値範囲限定であって、上限について記載がないから造形性に優れた熱溶解積層型3次元プリンタ用材料を提供可能な、ポリアミド共重合体の範囲を理解できない旨主張する。
しかしながら、熱溶解積層型3次元プリンタ用材料を利用していた当業者においては、その特定測定条件におけるメルトフローレートの下限値を特定した材料が明確に理解できるから、請求項1の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

(3)小活
以上のとおり、申立理由3には理由がない。

4 申立理由4(サポート要件:特許法第36条第6項第1号)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるべきである。

(2)サポート要件の判断
ア 本件特許明細書の【0006】の記載によれば、本件発明1ないし7が解決しようとする課題は、「造形性に優れた熱溶解積層型3次元プリンタ用材料(本件発明1ないし4)、それを用いた熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメント(本件発明5)、該フィラメントの巻回体(本件発明6)、及び、該巻回体が収納された熱溶解積層型3次元プリンタ装着用カートリッジ(本件発明7)を提供すること」であると認められる。(以下、本件発明1ないし7が解決しようとする課題をまとめて、「本件発明の課題」という。)
そして、上記本件発明の課題の解決手段に関し、本件発明では、それらの発明に用いられる「熱溶解積層型3次元プリンタ用材料」について、(i)「ポリアミド共重合体を主成分として含」み、(ii)「前記ポリアミド共重合体が、ポリアミド6/ポリアミド12共重合体又はポリエーテルエステルアミドエラストマーであり」、(iii)「ISO1133に従い、200℃、5000gの荷重で測定した前記ポリアミド共重合体のメルトフローレートが10g/10分以上である」(請求項1)と特定されている。
一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明に関し、【0013】に、「本発明によれば、造形性に優れた熱溶解積層型3次元プリンタ用材料及びそれを用いた熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントを提供することができる。」と記載され、上記(i)に関し、【0021】に、「本発明の熱溶解積層型3次元プリンタ用材料において、ポリアミド共重合体は、本発明の効果を十分に発現する観点から、改質剤としてではなく、主成分として含まれることが好ましい。」と記載され、また、(iii)に関し、【0023】に、「ISO1133に従い、200℃、5000gの荷重で測定した前記ポリアミド共重合体のメルトフローレートは、10g/10分以上であることが好ましい。ポリアミド共重合体のメルトフローレートが10g/10分以上であれば、ポリアミド共重合体の溶解が安定化するため押出ヘッド先端からの吐出量が安定化するだけでなく、層間接着性が良好となり、熱溶解積層型3次元プリンタでの造形性が優れたものとなる。」と記載されている。
(ii)に関しては、【0026】に、「ポリアミド共重合体とは、2種類以上の繰り返し単位を有し、その少なくとも一部にアミド結合を有するものを意味する。・・・本発明の効果発現の観点から、・・・ポリアミド6/ポリアミド12共重合体、ポリアミドエラストマーがより好ましく、ポリアミドエラストマーがさらに好ましい。」と、【0027】に、「ポリアミドエラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントを有し、ハードセグメントがポリアミドの構成単位を有する。ポリアミドエラストマーのソフトセグメントはポリエーテルの構成単位を有することが好ましい。ソフトセグメントとしてポリエーテルの構成単位を有するポリアミドエラストマーとしては、ハードセグメントとソフトセグメントをエステル結合で結合したポリエーテルエステルアミドエラストマー、ハードセグメントとソフトセグメントをアミド結合で結合したポリエーテルポリアミドエラストマーが挙げられる。本発明の効果発現の観点、耐加水分解性に優れ、造形性を長期に渡って安定化させる観点から、ハードセグメントとソフトセグメントをアミド結合で結合したポリエーテルポリアミドエラストマーが好ましい。」と記載されている。
さらに、本件特許明細書には、具体的な実施例として、【0083】?【0104】、特に、【0101】?【0103】の表1?3の実施例5、8に、上記(i)?(iii)を満足する熱溶解積層型3次元プリンタ用材料が造形性に優れること(表2の造形性の欄の結果が◎(優良)あるいは○(良好))、(i)?(iii)を満足する熱溶解積層型3次元プリンタ用材料からのモノフィラメントを用いて3Dプリンターにより造形した造形サンプルは、シャルピー衝撃試験と前記曲げ試験において、層間剥離や亀裂・割れの発生がなく、ほとんど塑性変形が生じないことが示されている(表3の実施例5の各試験項目の結果が○)。
そして、これら本件特許明細書の記載によれば、当業者は、本件発明により、本件発明の課題が解決できることを理解できる。
よって、本件発明は、サポート要件を満足する。

イ 申立人は申立書において、ポリアミド共重合体のメルトフローレートは造形性に影響を及ぼすことが当業者に周知の事項であるところ、10g/10分以上のメルトフローレート以上でありさえすれば、極めて高いメルトフローレートを用いた場合であっても上記課題を解決できるか本件特許明細書では明らかにされていないから、請求項1の範囲にまで拡張し一般化することができない旨主張する。
しかしながら、「熱溶解積層型3次元プリンタ用材料」と特定されている請求項1の記載を見れば、当業者は、上限が特定されていないメルトフローレートについても、当該熱溶解積層型3次元プリンタ用材料として利用できる程度のメルトフローレートであると理解して、極めて高いメルトフローレートも包含するとは理解しないから、申立人の主張は失当であって採用できない。

(3)小活
以上のとおり、申立理由4には理由がない。

5 申立理由5(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるか否かを検討して判断されるべきである。

(2)実施可能要件の判断
ア 本件特許明細書の記載を検討すると、本件発明1に特定されるポリアミド共重合体がポリエーテルエステルアミドエラストマーである場合については、本件特許明細書の【0028】?【0045】の原料モノマー、エラストマーを構成するポリアミド構成単位、及びポリエーテルセグメントについての記載、【0047】の市販品名の記載、【0092】?【0099】のポリエーテルエステルアミドエラストマーの製造実施例の記載及び【0101】の表1実施例8における商品名の記載、並びに、【0090】の各材料からの3Dプリンター造形用のモノフィラメントと該フィラメントを用いた3D造形サンプルの製造についての記載、及び、【0102】?【0103】の表2?3における実施例8の造形物の性質についての記載から、当業者が本件発明1にかかる物を製造(入手)し、熱溶解積層型3次元プリンタ用材料として使用することができる。
また、ポリアミド共重合体がポリアミド6/ポリアミド12共重合体である場合についても、【0100】の具体的な製造実施例の記載、【0101】の表1の実施例5の商品名の記載、【0090】の3Dプリンター造形用のモノフィラメントの製造及びこれを用いた3D造形サンプルの製造の記載、【0102】?【0103】の表2?3における実施例5の造形物の性質についての記載から、当業者は本件発明1にかかる物を製造(入手)し、熱溶解積層型3次元プリンタ用材料として使用することができる。
よって、本件発明1は、実施可能要件を満足する。
さらに、本件発明2ないし4は、本件発明1の材料の物性をさらに特定したものであるが、当該物性を満たすものは、本件特許明細書の【0101】?【0103】の表1?3における実施例1?3及び5等に記載されているし、本件特許明細書の上記実施例では、本件発明5及び6で特定されるフィラメントから造形物を得ている。また、本件発明7については、【0075】にフィラメントの巻回体及び巻回体が収納された熱溶解積層型3次元プリンタ装着用カートリッジについて記載されており、当該記載及び本件発明1に関して指摘した上記本件特許明細書の記載によれば、当業者は、過度の試行錯誤を要することなく本件発明2ないし7にかかる物を製造(入手)し、使用することができる。
よって、本件発明2ないし7も、実施可能要件を満足する。

イ 申立人は申立書において、ポリアミド共重合体のメルトフローレートに関して上限を示す記載はなく、本件発明の発明特定事項を全て充足する材料であっても、造形性に優れた熱溶解積層型3次元プリンタ用とはなり得ないものが存在する可能性があるから、発明の詳細な説明には、本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない旨主張するが、上記アでの検討のとおりであって、発明の詳細な説明には、本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているから、申立人の主張は失当であって採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-10-30 
出願番号 特願2017-247577(P2017-247577)
審決分類 P 1 651・ 5- Y (B29C)
P 1 651・ 121- Y (B29C)
P 1 651・ 537- Y (B29C)
P 1 651・ 536- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高▼村 憲司  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
大畑 通隆
登録日 2019-12-13 
登録番号 特許第6627854号(P6627854)
権利者 宇部興産株式会社
発明の名称 熱溶解積層型3次元プリンタ用材料及びそれを用いた熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメント  
代理人 神谷 雪恵  
代理人 赤塚 正樹  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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