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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01L
管理番号 1368146
異議申立番号 異議2020-700597  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-14 
確定日 2020-11-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6646040号発明「属性が高められたピペットチップ及び製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6646040号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6646040号の請求項1?5に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)8月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年8月20日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、令和2年1月14日にその特許権の設定登録がされ、令和2年2月14日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和2年8月14日に、請求項1?5に係るすべての特許について、特許異議申立人であるエッペンドルフ・アーゲーより、本件特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明

本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1?5」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ピペットチップにおいて、
総重量(Wt)及び、近位半長(L/2)p及び遠位半長(L/2)dを含む、1.75インチ(44.45mm)と2.4インチ(60.96mm)の間の長さL、
を有し、
前記近位半長(L/2)pが重量Wpを有し、前記遠位半長(L/2)dが重量Wdを有する、及び
式1:
【数1】

で定義される薄化定数T(1/g)が15以上であり、
前記遠位半長(L/2)dが0.022インチ(558.8μm)より薄い厚さを有する壁を有し、
前記近位半長(L/2)pが0.02?0.03インチ(508?762μm)の厚さを有する壁を有し、
0.28gより小さい総重量を有する、
ことを特徴とするピペットチップ。
【請求項2】
前記薄化定数Tが18以上であることを特徴とする請求項1に記載のピペットチップ。
【請求項3】
前記長さLが1.75インチ(44.45mm)と2.25インチ(57.15mm)の間であることを特徴とする請求項1または2に記載のピペットチップ。
【請求項4】
1つまたは複数のポリマーの結晶径が6μmより小さいことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のピペットチップ。
【請求項5】
前記近位半長(L/2)pが複数のラジアルフィンをさらに有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のピペットチップ。」

第3 特許異議申立理由について

1 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、次のとおりである。
(1) (新規性欠如)本件発明1?3及び5は、その優先日前に頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件発明1、3及び5は、その優先日前に製造、販売された甲第3号証の設計図面によって特定される製品発明であって、特許法第29条第1項第2号に該当し、更に、本件発明1、3及び5は、その優先日前に製造、販売された甲第16号証の測定データによって特定される製品発明であって、特許法第29条第1項第2号に該当するから、請求項1?3及び5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由1」という。)。

(2) (進歩性欠如)本件発明1?5に係る発明は、その優先日前に頒布された甲第1号証に記載された発明、その優先日前に製造、販売された甲第3号証の設計図面によって特定される製品発明及びその優先日前に製造、販売された甲第16号証の測定データによって特定される製品発明並びに甲第1?18号証に記載された事項に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「取消理由2」という。)。

(3) (サポート要件違反)請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由3」という。)。

(4) (明確性要件違反)請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由4」という。)。

2 申立理由1(新規性欠如)及び2(進歩性欠如)について
特許異議申立人は、申立理由1及び2を立証するための証拠として、甲第1?18号証(以下、単に「甲1」などという。)を提出し、本件発明1?5について、甲1に記載された発明、甲3の設計図面によって特定される製品発明及び甲16の測定データによって特定される製品発明に対する新規性欠如及び進歩性欠如を主張する。
しかしながら、当該主張は、以下の理由により、採用することはできない。

(1) 証拠一覧
甲1 :米国特許出願公開第2011/0183433号明細書
甲2 :FERRAGE, E. et al.,“Talc as nucleating agent of polypropy
lene: morphology induced by lamellar particles addition an
d interface mineral-matrix modelization”, Journal of Mate
rial Science, 2002, Vol.37, p.1561-1573
甲3 :製品1発明の設計図面(番号:0030 007.670-00)の写し
甲4 :製品1発明のピペットチップの初回見本検査報告書のカバーシー
トの写し
甲5 :スターラブ・インターナショナルGmbHにより2013年に出版さ
れたピペットチップの文書の写し
甲6 :ラック番号S 1113-1810の保存されたサンプルの写真3部の写し
甲7 :異議申立人であるEppendorfからスターラブに対して送られた2
013年8月14日付けの請求書の写し
甲8 :Eppendorf Manufacturing Corporationの2019年8月27日
付けの生産部品表の写し
甲9 :スターラブが、2014年5月14日、運送会社ゼネラル・ロジ
スティクス・システム・ドイツを経由して、カタログ番号S 1113
-1810のラック3個(滅菌済み)をAffied GmbHに納品したことを
示す納品書の写し
甲10:甲9で示された納品に対して、スターラブがAffied GmbHに対し
て、納品書と同日付で発行した請求書の写し
甲11:スターラブが、2014年5月30日にDHL Vertriebs GmbH & C
o.OHGを通じて、製品番号S 1113-1810の4台の(滅菌)ラックを
Cruinn Diagnosticsに納品したことを示す納品書の写し
甲12:甲11で示された納品に対して、スターラブがCruinn Diagnosti
csに対して、納品書と同日付けで発行した請求書の写し
甲13:ピックパック用リストの写し
甲14:2014年春からUSA Scientific, Inc.を通じて、ピペットチッ
プTipOne 200μl Profileが提供され、納入されていることを示
すパンフレットの写し
甲15:Eppendorf Polymere GmbHの品質保証チームリーダーであるMr. T
orsten Breitfelderによりピペットチップについて調査を実施し
た結果の報告書
甲16:本件特許権者であるコーニング社製の、2012年12月20日
に保存されたピペットチップを多数含むバッグの写真及びピペッ
トチップの測定データ
甲17:コーニング社製のピペットチップの製品選択ガイドのパンフレッ

甲18:「岩波理化学辞典」,第5版,株式会社岩波書店,1998年,
p.1321の写し

(2) 甲1、3及び16の記載事項
ア 甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。
(ア) 「[0002] The technology relates in part to pipette tips and methods for using them.」
(当審訳:この技術の一部は、ピペットチップ及びその使用方法に関するものである。)

(イ) 「[0067] In some embodiments, a pipette tip can have (i) an overall length of about 1.10 inches to about 3.50 inches (e.g., about 1.25, 1.50, 1.75, 2.00, 2.25, 2.50, 2.75, 3.00, 3.25 inches); (ii) a fluid-emitting distal section terminus having an inner diameter of about 0.01 inches to about 0.03 inches (e.g., about 0.015, 0.020, 0.025 inches) and an outer diameter of about 0.02 to about 0.7 inches (e.g., about 0.025, 0.03, 0.04, 0.05, 0.06 inches); and (iii) a dispenser-engaging proximal section terminus having an inner diameter of about 0.10 inches to about 0.40 inches (e.g., about 0.15, 0.20, 0.25, 0.30, 0.35 inches) and an outer diameter of about 0.15 to about 0.45 inches (e.g., about 0.20, 0.25, 0.30, 0.35, 0.45 inches). In the latter embodiments, the inner diameter is less than the outer diameter.
[0068] ・・・ The wall thickness of a proximal section may be constant over the length of the section, or may vary with the length of the proximal section (e.g., the wall of the proximal section closer to the distal section of the pipette tip may be thicker or thinner than the wall closer to the top of the proximal section; the thickness may continuously thicken or thin over the length of the wall).・・・
[0069] The wall of the distal section of a pipette tip sometimes is continuously tapered from the wider portion, which is in effective connection with the proximal section, to a narrower terminus.・・・In some embodiments, the wall of the distal section forms stepped vertical sections. The wall thickness of a distal section may be constant along the length of the section, or may vary with the length of the section (e.g., the wall of the distal section closer to the proximal section of the pipette tip may be thicker or thinner than the wall closer to the distal section terminus; the thickness may continuously thicken or thin over the length of the wall).」(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、同じである。)
(当審訳:[0067] いくつかの実施形態では、ピペットチップは、(i)約1.10インチから約3.50インチまで(例えば、約1.25、1.50、1.75、2.00、2.25、2.50、2.75、3.00、3.25インチ)の全体長さ、(ii)約0.01インチから約0.03インチ(約0.015、0.020、0.025インチ)の内径と、約0.02?約0.7インチ(例えば、約0.025、0.03、0.04、0.05、0.06インチ) の外径を有する流体射出遠位部の末端;および(iii)内径約0.10?約0.40インチ(例えば、約0.15、0.20、0.25、0.30、0.35インチ)の内径と約0.15?約0.45インチ(例えば、0.20、0.25、0.30、0.35、0.45インチ)の外径とを有するディスペンサー係合近位部末端を有する。後者の実施形態では、内径が外径よりも小さい。
[0068] ・・・近位部の壁厚は、近位部の長さに亘って一定であってもよく、または近位部の長さに伴って変化してもよい(例えば、ピペットチップの遠位部に近い近位部の壁は、近位部の頂部に近い壁より厚くても薄くてもよく、壁の長さにわたって連続的に厚くまたは薄くなってもよい)。・・・
[0069] ピペットチップの遠位部の壁は、近位部と有効に接続された、広い部分から狭い末端まで連続的にテーパ状にする場合がある。・・・いくつかの実施形態では、遠位部の壁は、ステップ式の垂直部分を形成する。遠位部の壁厚は、長さに沿って一定であってもよく、または長さに伴って変化してもよい(例えば、ピペットチップの近位部に近い遠位部の壁は、遠位部の末端部に近い壁より厚くても薄くてもよく、壁の長さにわたって連続的に厚くまたは薄くなってもよい)。・・・)

(ウ) 「[0074] In some embodiments, the lower (or distal) about one-quarter of the distance 40 from the distal region terminus 50 to the junction 30, may comprise a distal terminus 50 featuring a knife or blade edge wall thickness 53 in the range of about 0.0040 inches to about 0.0055 inches thick. ・・・ In certain embodiments, the distal region comprises a wall thickness that tapers from (a) a point at or between (i) about the junction of the proximal region and distal region 30 to (ii) about one quarter of the axial distance 40 from the terminus of the distal region to the junction 30, to (b) the distal region terminus 50, as illustrated in FIG. 1A.
(当審訳:[0074] いくつかの実施形態では、遠位末端50から接合部30までの距離40の約4分の1より下側(又は遠位)は、約0.0040インチから約0.0055インチの厚さの範囲のナイフまたはブレードエッジの壁厚53を有する遠位端50を含むことができる。・・・特定の実施形態では、遠位領域は、図1Aに示すように、(a) (i)近位領域および遠位領域の接合部30または、(ii)接合部30と遠位領域の末端から軸方向距離40の約1/4の間から、(b)遠位末端50まで、テーパが形成される壁厚を含む。)

(エ) 「[0083] In some embodiments, the wall thickness at the junction of the proximal region and the distal region, measured from the interior surface to the exterior surface of the pipette tip, is about 0.017 inches to about 0.030 inches thick (e.g., about 0.018, 0.019, 0.020, 0.021, 0.022, 0.023, 0.024, 0.025, 0.026, 0.027, 0.028, 0.029). In some embodiments, the wall thickness at this junction is about 0.022 to about 0.027 inches thick, or about 0.023 to about 0.026 inches thick. In certain embodiments, the step from the exterior surface of the distal region to the exterior surface of the proximal region at the proximal region/distal region junction is about 0.003 inches to about 0.008 inches thick (e.g., about 0.004, 0.005, 0.006, 0.007 inches thick). This step is located at about the position in FIG. 2 where callout 72 meets the pipette tip.」
(当審訳:[0083] いくつかの実施形態では、ピペットチップの内面から外面への測定された近位領域及び遠位領域の接合部での壁厚は、厚さ約0.017インチ?約0.030インチ(例えば、約0.018、0.019、0.020、0.021、0.022、0.023、0.024、0.025、0.026、0.027、0.028、0.029)である。いくつかの実施形態では、この接合部における壁厚さは、厚さ約0.022?約0.027インチ、又は厚さ約0.023?約0.026インチである。特定の実施形態では、近位領域、遠位領域接合部の近位領域の外部表面から遠位領域の外表面までの厚さは約0.003インチ?約0.008インチ(例えば、約0.004、0.005、0.006、0.007インチ)である。このステップは、コールアウト72がピペットチップと会う図2の位置に配置されている。)

(オ) 「[0118] Each pipette tip can be manufactured from a commercially suitable material. Pipette tips often are manufactured from one or more moldable materials, independently selected from those that include, without limitation, polypropylene (PP), polyethylene (PE), high-density polyethylene (HDPE), low-density polyethylene (LDPE), polyethylene teraphthalate (PET), polyvinyl chloride (PVC), polytetrafluoroethylene (PTFE), polystyrene (PS), high-density polystyrene, acrylnitrile butadiene styrene copolymers, crosslinked polysiloxanes, polyurethanes, (meth)acrylate-based polymers, cellulose and cellulose derivatives, polycarbonates, ABS, tetrafluoroethylene polymers, corresponding copolymers, plastics with higher flow and lower viscosity or a combination of two or more of the foregoing, and the like.」
(当審訳:各ピペットチップは、商業的に好適な材料から製造することができる。ピペット先端部は、多くの場合、1つまたは複数の成形用材料から製造され、限定はしないが、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスチレン(PS)、高密度ポリスチレン、アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体、架橋されたポリシロキサン、ポリウレタン、(メタ)アクリレート系ポリマー、セルロースおよびセルロース誘導体、ポリカーボネート、ABS、テトラフルオロエチレンポリマー、対応するコポリマー、より高い流動性及び低い粘度のプラスチック、またはこれらの2種以上の組合せ等を含んでいるものから独立して選択される。)

イ 甲3の記載事項
甲3には、ピペットチップ製品の設計図面(番号0030 007.670-00)として、次の事項が記載されているといえる。
全長が50.8mであること、重量が0.25gであること、外側に向かって突出する肩より下方の最大壁厚0.55mmから、下方に向かって壁厚は減少すること、近位半分の1か所の壁厚が0.46mmであること、遠位半分の1か所の壁厚が0.32mmであること及び遠位端の外径と内径の差が0.2mmであること。

ウ 甲16の記載事項
甲16には、コーニング社製「4111」の番号が付されたピペットチップバッグ内に含まれるピペットチップ製品における測定データとして、次の事項が記載されているといえる。
全長Lが51.4mmであること、総重量Wtが0.248gであること及び薄化定数T=(Wp/Wd)/Wtが15.9677419であること。

(3) 甲1に記載された発明(甲1発明)、甲3の設計図面によって特定される製品発明(製品1発明)及び甲16の測定データによって特定される製品発明(製品2発明)
ア 甲1に記載された発明(甲1発明)
(ア) 甲1の上記(2)ア(イ)の段落[0067]の記載事項によれば、ピペットチップの全長が約1.10インチ?約3.50インチであること、流体射出する遠位部末端の内径が約0.01インチ?約0.03インチ、外径が約0.02インチ?約0.07インチであること及びディスペンサーと係合する近位部末端の内径が約0.10インチ?約0.40インチ、外径が約0.15インチ?約0.45インチであることが記載され、また、同段落[0068]及び[0069]の記載事項によれば、ピペットチップの近位部及び遠位部壁厚は、長さに亘って一定であっても、変化してもよいことが記載されているといえる。
なお、上記「約0.07インチ」について、甲1には「0.7 inches」と記載されているが、当該記載に続く「e.g., about 0.025, 0.03, 0.04, 0.05, 0.06 inches」なる記載及び近位部末端外径が約0.15?約0.45インチであることから、「0.07 inches」の誤記である蓋然性が極めて高いため、上記のとおり認定した。

(イ) 同(ウ)の記載事項によれば、ピペットチップの遠位端の壁厚は約0.0040インチ?約0.0055インチであることが記載されているといえる。

(ウ) 同(エ)の記載事項によれば、ピペットチップの近位領域及び遠位領域の接合部での壁厚は約0.017インチ?約0.030インチであることが記載されているといえる。

(エ) 同(オ)の記載事項によれば、ピペットチップの成形用材料は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスチレン(PS)、高密度ポリスチレン、アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体、架橋されたポリシロキサン、ポリウレタン、(メタ)アクリレート系ポリマー、セルロースおよびセルロース誘導体、ポリカーボネート、ABS、テトラフルオロエチレンポリマー、対応するコポリマー、より高い流動性及び低い粘度のプラスチック、またはこれらの2種以上の組合せから選択されることが記載されている。

(オ) 上記(ア)?(エ)からすると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ピペットチップの全長が約1.10インチ?約3.50インチであり、流体射出する遠位部末端の内径が約0.01インチ?約0.03インチ、外径が約0.02インチ?約0.07インチであり、ディスペンサーと係合する近位部末端の内径が約0.10インチ?約0.40インチ、外径が約0.15インチ?約0.45インチであり、近位部及び遠位部壁厚は、長さに亘って一定であっても、変化してもよく、遠位端の壁厚は約0.0040インチ?約0.0055インチであり、近位領域及び遠位領域の接合部での壁厚は約0.017インチ?約0.030インチであり、ピペットチップの成形用材料は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスチレン(PS)、高密度ポリスチレン、アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体、架橋されたポリシロキサン、ポリウレタン、(メタ)アクリレート系ポリマー、セルロースおよびセルロース誘導体、ポリカーボネート、ABS、テトラフルオロエチレンポリマー、対応するコポリマー、より高い流動性及び低い粘度のプラスチック、またはこれらの2種以上の組合せから選択される、ピペットチップ。」

イ 甲3の設計図面によって特定される製品発明(製品1発明)
本件特許異議申立書において、本件特許の優先日前に製造、販売されたものと主張される甲3の設計図面によって特定される製品発明は、上記(2)イの記載事項から、次の発明(以下、「製品1発明」という。)であるといえる。
「全長が50.8mであり、重量が0.25gであり、外側に向かって突出する肩より下方の最大壁厚0.55mmから、下方に向かって壁厚は減少し、近位半分の1か所の壁厚が0.46mmであり、遠位半分の1か所の壁厚が0.32mmであり、遠位端の外径と内径の差が0.2mmであるピペットチップ。」

ウ 甲16の測定データによって特定される製品発明(製品2発明)
本件特許異議申立書において、本件特許の優先日前に製造、販売されたものと主張される甲16の測定データによって特定される製品発明は、上記(2)ウの記載事項から、次の発明(以下、「製品2発明」という。)であるといえる。
「全長Lが51.4であり、総重量Wtが0.248gであり、薄化定数T=(Wp/Wd)/Wtが15.9677419であるピペットチップ。」

(4) 甲1発明に基づく本件発明1の新規性及び進歩性について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも次の相違点1を有するものといえる。
<相違点1>
本件発明1において、式1で定義される薄化定数T(1/g)が15以上であるのに対し、甲1発明には、当該薄化定数について何ら特定されていない点。

イ 相違点1について
相違点1について検討する。
(ア) 甲1には、当該薄化定数を決めるピペットチップの各重量値に関して何らの記載もされていない。
また、甲1発明における、全長の数値範囲「約1.10インチ?約3.50インチ」、遠位端の壁厚「約0.0040インチ?約0.0055インチ」、近位領域及び遠位領域の接合部での壁厚「約0.017インチ?約0.030インチ」、及び「近位部及び遠位部壁厚は、長さに亘って一定であっても、変化してもよく」なる、全長及び壁厚の特定事項並びに多数種類から選択できるとする成形用材料の特定事項から、ピペットチップの体積及び比重が特定され、上記各重量値が算出でき、当該薄化定数が15以上であるといえる証拠も見当たらない。
したがって、相違点1は実質的な相違点である。

(イ) 次に、当該相違点1に係る構成の容易想到性について検討する。
甲1発明における全長及び壁厚に関する上記特定事項は、本件発明1におけるそれらの特定事項に対して広範囲または一部重複するものであり、ある特定の場合に限定すれば、本件発明1の全長及び壁厚の数値範囲内となり得る余地はあるものの、甲1において、そのような特定の場合とすべき契機となり得る記載や示唆は見当たらない。
仮に、上記特定の場合とすることが設計事項であるとしても、それは全長及び壁厚を本件発明1の数値範囲内とすることに過ぎず、それにより、薄化定数が15以上になるとまではいえない。
そして、当該薄化定数を決めるピペットチップの各重量値に関して何らの記載もされていない甲1の記載事項から、更に、薄化定数が15以上となるように、全長及び壁厚を調整することの動機付けを見いだすには至らないというべきである。
一方、本件発明1は、当該薄化係数が15以上となるピペットチップにより、樹脂使用量が低減され、また、冷却時間の短縮による体積収縮の減少や平均結晶径の低減、結晶度の向上を伴い、真直度差長の改善、中子ずれの低減、透明度の向上、分注確度の向上、撥液性の向上という効果(本件明細書の実施例(段落【0029】?【0067】)参照。)を奏するものである。
また、甲2はポリプロピレンの結晶径に関する技術、甲18はポリプロピレンの比重に関する技術を示すためのものであって、ピペットチップに関するものではなく、甲3?15は以下に示すとおり本件発明1とは異なる製品1発明に関するものであり、甲16及び17は以下に示すとおり本件発明1とは異なる製品2発明に関するものである。
したがって、本件発明1の相違点1に係る構成は、甲2?18の記載を参酌しても、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲1?18に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(5) 甲1発明に基づく本件発明2?5の新規性及び進歩性について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(4)の本件発明1についての検討と同様、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲1?18に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(6) 製品1発明に基づく本件発明1の新規性及び進歩性について
ア 対比
本件発明1と製品1発明とを対比すると、両者は少なくとも次の相違点2を有するものといえる。
<相違点2>
本件発明1において、近位半長の壁厚は「0.02?0.03インチ(508?762μm)」であるのに対し、製品1発明において、「近位半分の1か所の壁厚が0.46mm壁厚である」点。

イ 相違点2について
相違点2について検討すると、特許異議申立書における主張のとおり製品1発明が本件特許の優先日前に製造、販売されたものであるとして、当該販売された製品に対し、近位半分の壁厚を「0.02?0.03インチ(508?762μm)」にすべきと着目させる契機となり得る証拠は見当たらない。
また、甲4?14は製品1発明が本件特許の優先日前に製造、販売されていたことを示すものであり、甲15は製品1発明の薄化定数Tに関するものであり、甲2はポリプロピレンの結晶径に関する技術、甲18はポリプロピレンの比重に関する技術を示すためのものであって、ピペットチップに関するものではなく、甲1は上記(4)のとおり本件発明1とは異なる甲1発明に関するものであり、甲16及び17は以下に示すとおり本件発明1とは異なる製品2発明に関するものにすぎない。
したがって、製品1発明において、本件発明1の相違点2に係る構成となるような製品の仕様変更を行うことは、当業者といえども容易に想到し得たものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、製品1発明ではなく、また、製品1発明及び甲1?18に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(7) 製品1発明に基づく本件発明2?5の新規性及び進歩性について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(6)の本件発明1についての検討と同様、製品1発明ではなく、また、製品1発明及び甲1?18に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(8) 製品2発明に基づく本件発明1の新規性及び進歩性について
ア 対比
本件発明1と、製品2発明とを対比すると、両者は少なくとも次の相違点3を有するものといえる。
<相違点3>
本件発明1において、「前記遠位半長(L/2)dが0.022インチ(558.8μm)より薄い厚さを有する壁を有し、前記近位半長(L/2)pが0.02?0.03インチ(508?762μm)の厚さを有する壁を有」するのに対し、製品2発明において、壁厚について何ら特定されていない点。

イ 相違点3について
相違点3について検討すると、特許異議申立書における主張のとおり製品2発明が本件特許の優先日前に製造、販売されたものであるとして、当該販売された製品に対し、遠位半長の壁厚を「0.022インチ(558.8μm)より薄い厚さ」とし、かつ、近位半長の壁厚を「0.02?0.03インチ(508?762μm)」にすべきと着目させる契機となり得る証拠は見当たらない。
また、甲17は製品2発明が本件特許の優先日前に製造、販売されていたことを示すものであり、甲2はポリプロピレンの結晶径に関する技術、甲18はポリプロピレンの比重に関する技術を示すためのものであって、ピペットチップに関するものではなく、甲1は上記(4)のとおり本件発明1とは異なる甲1発明に関するものであり、甲3?15は上記(6)のとおり本件発明1とは異なる製品1発明に関するものである。
したがって、製品2発明において、本件発明1の相違点3に係る構成となるような製品の仕様変更を行うことは、当業者といえども容易に想到し得たものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、製品2発明ではなく、また、製品2発明及び甲1?18に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(9) 製品2発明に基づく本件発明2?5の新規性及び進歩性について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(8)の本件発明1についての検討と同様、製品2発明ではなく、また、製品2発明及び甲1?18に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(10) まとめ
以上の検討のとおり、本件発明1?5は、甲1発明、製品1発明及び製品2発明に対して新規性及び進歩性が欠如するということはできないから、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないため、申立理由1(新規性欠如)及び申立理由2(進歩性欠如)を理由に、取り消すことはできない。

3 申立理由3(サポート要件違反)及び申立理由4(明確性要件違反)について
(1) 申立理由3(サポート要件違反)についての具体的な指摘事項は、要するに、「薄化定数T(1/g)が15以上である」について、本件発明は遠位半分の壁厚の下限及び総重量の下限の記載がなく、遠位半分の壁厚を限りなく小さくする場合が許容されており、その場合、「ピペットチップ真直度、耐曲げ故障強度、及び剛性を犠牲にせずに、光学的透明度の向上、分注確度の向上等を実現する」という課題や作用効果が得られないことは明らかであるので、本件発明は、当該課題や作用効果を達成する範囲を超える範囲まで含んでいるというものである。
また、申立理由4(明確性要件違反)についての具体的な指摘事項は、要するに、「薄化定数T(1/g)が15以上である」の技術的意義が不明であるというものである。

(2) これら申立理由について検討する。
まず、本件発明における薄化定数はT=(Wp/Wd)/Wtにて定義される値であり、「ピペットチップの総重量に比較した、ピペットチップの遠端に対するピペットチップの近端の重量比」(本件明細書段落【0006】参照。)を意味するものであり、ピペットチップの構成を特定する事項であることは明らかである。
そして、本件明細書の実施例(段落【0029】?【0067】参照。)の記載から、当該薄化係数が15以上となるピペットチップにより、樹脂使用量が低減され、また、冷却時間の短縮による体積収縮の減少や平均結晶径の低減、結晶度の向上を伴い、真直度差長の改善、中子ずれの低減、透明度の向上、分注確度の向上、撥液性の向上という効果を奏するという技術的意義が理解できる。
ここで、本件発明において、遠位半分の壁厚の下限及び総重量の下限の記載がないところ、遠位半分の壁厚を過剰に薄くすれば、本件明細書の段落【0029】において「試験ピペットチップ(BT-250薄型、バージョン1)の円形遠位領域からの多すぎる材料の除去の結果、チップ長に沿う許容できない曲げまたはクリンピングが生じた。」と記載されているように、剛性を維持することはできないものといえる。
しかしながら、本件発明は「ピペットチップ」の発明であり、「既存のインフラと適合し、手動及びロボットハンドラーのいずれとの使用にも適する、属性を有する経済的なピペットチップ」(本件明細書の段落【0005】参照。)を課題とするものであるから、当業者であれば、本件発明は、当然既存のインフラと適合する「ピペットチップ」として使用可能な程度の剛性を備えるものであると理解し、遠位半長の壁厚はそのような剛性を維持し得る範囲内のものであると認識し得るものといえ、また、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということもないといえる。
したがって、本件発明は、本件発明の詳細な説明に記載したものであり、また、明確に把握できるものである。

(3) まとめ
以上のとおりであるから、請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号及び同第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないため、申立理由3(サポート要件違反)及び申立理由4(明確性要件)を理由に、取り消すことはできない。

第4 むすび

以上のとおり、請求項1?5に係る特許は、特許異議申立理由により取り消すことはできない。
また、ほかに本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-11-17 
出願番号 特願2017-509650(P2017-509650)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B01L)
P 1 651・ 537- Y (B01L)
P 1 651・ 113- Y (B01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 池田 周士郎  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 村岡 一磨
金 公彦
登録日 2020-01-14 
登録番号 特許第6646040号(P6646040)
権利者 コーニング インコーポレイテッド
発明の名称 属性が高められたピペットチップ及び製造方法  
代理人 柳田 征史  
代理人 高橋 秀明  
代理人 宮前 徹  

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