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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A41B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A41B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A41B
管理番号 1368464
審判番号 不服2019-1379  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-01 
確定日 2020-11-28 
事件の表示 特願2017-46358「ショーツ等の衣料」拒絶査定不服審判事件〔平成29年6月8日出願公開、特開2017-101375〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年6月22日を出願日とする特願2011-138776号の一部を、平成27年7月23日に新たな特許出願(特願2015-146117号)とし、さらにその一部を、平成29年3月10日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、次のとおり。
平成29年3月13日 手続補正書及び上申書提出
平成30年2月15日付け 拒絶理由通知
平成30年4月20日 意見書及び手続補正書提出
平成30年6月14日付け 拒絶理由通知
平成30年8月9日 意見書提出
平成30年10月30日付け 拒絶査定
平成31年2月1日 審判請求書提出

第2 本願発明
本願特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下「本願発明1」等という。)は、上記平成30年4月20日に提出した手続補正書により補正した、本願特許請求の範囲の請求項1?8にそれぞれ記載された事項により特定されるもので、そのうち、請求項1に記載されたものは次のとおりである。

「【請求項1】
下端に足繰り形成部(15)を左右対称に上方へ向けて入り込む湾状に形成し下腹部を覆う伸縮性を有する前面覆い部分(11)と、臀部を包み込んで覆う伸縮性を有する背面覆い部分(12)とを有する身頃(14)と、前記前面覆い部分(11)の下端の内股前部(16)と前記背面覆い部分(12)の下端の内股後部(17)との間に配設され股間部を覆うまち部(13)とを備えており、
前記身頃(14)は、前記前面覆い部分(11)の左右両側に前記背面覆い部分(12)の左半分および右半分が形成されて、前記背面覆い部分(12)の左半分の左側縁と前記背面覆い部分(12)の右半分の右側縁との縫合部を有する筒状であり、
前記身頃(14)のうち、臀部の頂上部よりも上側から下端部にわたる範囲に対応する臀部の包み込み部分の領域は、前記背面覆い部分(12)の左右方向中央部を上下方向に通る後中心線(S2)に沿って開かれた前記身頃(14)の展開状態において、前記前面覆い部分(11)の左右方向中央部を上下方向に通る前中心線(S1)に対し、前記背面覆い部分(12)の後中心線(S2)がこの後中心線(S2)の下方延長線を前中心線(S1)の下方延長線に近付ける下方窄まりの状態に設定されていることを特徴とする、ショーツ等の衣料。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。
1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

<引 用 文 献 一 覧>
1.特開2010-084292号公報(以下「引用文献1」という。)

●理由1(新規性)について
本願発明1?4は、引用文献1に記載された発明である。

●理由2(進歩性)について

(1)本願発明1?4について
本願発明1?4は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。引用文献1に記載された発明のいずれの範囲を「下窄まりの状態」とするかは、着用者の体型、フィット性等を考慮して、当業者が適宜選択し得る設計上の事項である。
よって、本願発明1?4は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本願発明5?8について
本願発明5?8の各々において特定されたショーツ等の衣料の各部分の具体的な寸法の関係は、着用者の体型、フィット性等を考慮して、当業者が適宜選択し得る設計的事項である。
よって、本願発明5?8は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

●理由3(明確性)について
本願発明1?4には、「臀部の頂上部よりも上側から下端部にわたる範囲に対応する臀部の包み込み部分の領域」と記載されているが、「臀部の頂上部」が「ショーツ等の衣料」におけるどのような位置を示すのかが不明確であって、結果として、当該記載の「領域」の範囲も不明確である。
そして、本願発明5?8は、本願発明1?4のいずれかを引用するものであるから、本願発明5?8も不明確である。

第4 引用文献
1.引用文献1の記載等
本願遡及出願日前に頒布された刊行物である引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1のものは、二重生地使いのテープ生地を両裾口廻りに縫着するのでテープ生地が分厚くなり、肌に当たってゴロつき感が生じると共に、厚みによる段差が生じ、その段差がアウターに反映され、アウターの外側から段差が見えてしまい着用者の外観を著しく低下させるという問題点があった。また、上記特許文献2のものは、裾口が捲れ上がったりすることから、着用安定感があまりよくないという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決することを課題として研究開発されたもので、ショーツやショーツガードル、ショートガードルなど股部を有する衣類における裾口廻りに接ぎを入れ、当たりを柔らかくして鼠蹊部への喰いこみをなくすると共に、フィット感がよくなり、日常生活での色々の動きにおいても、下尻をしっかりカバーしてずり上がりによるハミ尻などが生じないようにした股部を有する衣類を提供することを目的とするものである。」

(2)「【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決し、その目的を達成する手段として、本発明は、前身頃と左右脇身頃と裾身頃とから構成される股部を有する衣類であって、前身頃の両側下辺部を凹状湾曲面とし、左右脇身頃の下辺を緩やかな凹凸弧状面と深い凹弧状面と傾斜面に形成し、該傾斜面を前身頃の下辺部に縫着して裾口廻りを形成すると共に、上端凹弧状面、上部凸弧状面、緩やかな凹弧状面並びに下部細幅部からなる二つ折りされた裾身頃の重合片側を縫着ラインとし、上端凹弧状面の部位を前身頃の凹状湾曲面の部位に、上部凸弧状面の部位を前身頃の側辺と脇身頃の内側辺の下端部と一致させ、緩やかな凹弧状面の部位を脇身頃の緩やかな凹凸弧状面の部位に、下部細幅部の部位を脇身頃の深い凹弧状面の部位に、下端部を前身頃の下辺部にそれぞれ合致させて縫着したことを特徴とする股部を有する衣類を開発し、採用した。
【0010】
また、本発明では、上記のように構成した股部を有する衣類において、前記前身頃、左右脇身頃、裾身頃はそれぞれ伸縮性及び弾力性に優れているベア天竺で編成されていることを特徴とする股部を有する衣類を開発し、採用した。」

(3)「【発明の効果】
【0011】
本発明は、前身頃の両側下辺部を凹状湾曲面とし、左右脇身頃の下辺を緩やかな凹凸弧状面と深い凹弧状面と傾斜面に形成し、該傾斜面を前身頃の下辺部に縫着して裾口廻りを形成し、該裾口廻りに、二つ折りされた裾身頃の重合片側を縫着ラインとし、前身頃の凹状湾曲面の部位に、裾身頃の上端凹弧状面の部位を、前身頃の側辺と脇身頃の内側辺の下端部に、上部凸弧状面の部位を一致させ、脇身頃下辺の緩やかな凹凸弧状面部の部位に、裾身頃の緩やかな凹弧状面の部位を、脇身頃の深い凹弧状面の部位に、裾身頃の下部細幅部の部位を、下端部を前身頃の下辺部にそれぞれ合致させて縫着したものであるから、裾口廻りのラインと裾身頃によるラインの異なりにより、身体に沿うパターンに仕上がり裾身頃が立体的になり太股部によく馴染みフィット感が増すと共に、締め付け感や窮屈感がなくなり履き心地が良好になる。」

(4)「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態をショーツの例で説明すれば、図1はショーツの正面図、図2はショーツの背面図、図3はショーツの右側面図、図4はショーツの展開図、図5は裾身頃を二つ折りした正面図である。
【0015】
1は細い綿糸とポリウレタン糸との混合糸または細い綿糸とポリウレタン糸とナイロン糸との混合糸により伸縮性と弾力性に富むようベア天竺編みされた腹部を覆う前身頃であり、上辺2と、下辺3と、下方に至るに従い徐々に拡がる傾斜状の左右両側辺4,4と、その両側辺4,4に連設し内方に向かって浅い凹状湾曲面5,5に形成されている。
【0016】
6,7は前身頃1と同じベア天竺編みされた側腹部から臀部を覆う左右一対の脇身頃であり、前記前身頃1の左右両側辺4,4と接ぐ内側辺8,9および臀部の形状に沿う曲線の外側辺10,11を後部中心で縫合すると共に、前身頃1の左右両側辺4,4と脇身頃6,7の内側辺8,9の下端部4a,8a、4a,9aから外側辺10,11の下端部10a,11aまでの下辺12,13を、緩やかに傾斜する凹凸弧状面14,15と、小さくて深い凹弧状面16,17と、傾斜面18,19に裁断形成されてあり、該傾斜面18,19を前身頃1の下辺部3に縫着して裾口廻り20,21を形成してある。
【0017】
22,23は前記前身頃1と脇身頃6,7と同じベア天竺編みで編成された長手状の裾身頃であり、図4の展開図に示すように、浅いV字状に形成された上端部24,25の両側から下端に向かって凹弧状面26,26、27,27が形成されており、その上端凹弧状面26,26、27,27に連設する外方に突出する上部凸弧状面28,28、29,29が設けられ、その上部凸弧状面28,28、29,29に繋がる緩やかな凹弧状面30,30、31,31が形成されていると共に、下方に向かって次第に窄まり下部細幅部32,32、33,33を経て浅い逆V字状の下端部34,35に連なっている。この裾身頃22,23は、図5に示すように、幅方向の中央部を長さ方向に沿って二つ折りされたもので、最大幅の上部凸弧面28、29が約60?70mm、最小幅の下部細幅部29,29が約20?22mmになっている。
【0018】
このように構成された本発明の実施形態におけるショーツの縫製手段と作用を説明すれば、図4の展開状態から、裾身頃22,23を、図5に示すように、幅方向の中心を長さ方向に二つ折りして外側36,37を直線状とすると共に、内側38,39の重なり合う側が縫着ラインになる。
【0019】
すなわち、上端部24,25を前身頃1の下辺3に縫着し、上端凹弧状面26,27の部位を、前身頃1の凹状湾曲面5,5の部位に、上部凸弧状面28,29の部位を、前身頃1の両側辺4,4と脇身頃6,7の内側辺8,9の下端部4a,8a、4a,9aと一致させ、緩やかな凹弧状面30,31の部位を、脇身頃6,7の下辺12,13の緩やかな凹凸弧状面14,15の部位に、下部細幅部32,33の部位を、脇身頃6,7の深い凹弧状面16,17の部位に合致させ、さらに裾身頃22,23の下端部34,35を前身頃1の下辺3にそれぞれ合致させて縫着させることにより、裾口廻り20,21に裾身頃22,23が縫着されてショーツになる。
【0020】
裾口廻り20,21に縫製された裾身頃22,23は、ベア天竺で編成されており、伸縮性、弾力性に富み、前身頃1の左右両側辺4,4と脇身頃6,7の内側辺の下端部4a,8a、4a,9aで裾廻り部が最大広幅になり、左右脇身頃6,7の下辺12,13の傾斜面18,19で最小幅となる裾身頃22,23が縫製され、鼠蹊部への喰い込み圧迫感がなくなり着用感に優れる。
【0021】
また、裾口廻り20,21に形成される縫着ラインの凹状湾曲面5,5と、前身頃の側辺4,4と脇身頃6,7の内側辺8,9の下端部4a,8a、4a,9aと、緩やかな凹凸弧状面14,15と、深い凹弧状面16,17と、傾斜面18,19と、裾身頃22,23の縫着ラインの上端凹弧状面26,27と、上部凸弧状面28,29と、緩やかな凹弧状面30,31と、下部細幅部32,33の縫い合わせラインがそれぞれ異なることにより、前身頃1および脇身頃6,7と裾身頃22,23との間に角度が生じて裾身頃22,23が立ち上がった状態になって図3に示すように、裾口が前方に向くことになり、歩行時や椅子に座って足が前向きに動いたとしても、裾口のずり上がりによるお尻への喰いこみがなく、下尻をしっかりカバーしているのでハミ尻を防止できる。さらに、太股部のラインに沿うことになり足を動かしても肉がにげないのでハミ尻になることがない。また、左右の裾身頃間の間隔が比較的広くなっているので、動いても内側に片寄ったりせず下尻をしっかりカバーでき、美しいヒップラインを現出する。
【0022】
以上、本発明の実施の形態についは、ショーツで、前身頃と左右脇身頃を別体とした例で説明したが、連続した一連の場合でもよく、また左右脇身頃を後部中心線で縫製するようにしたが、この左右脇身頃においても、連続した一枚の生地の場合でも良いのは勿論のことであり、かつショーツガードル、ショートガードル、ボディスーツなどでもよく、要するに発明の目的を達成でき、かつ発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の設計変更が可能であることは言うまでもない。」

(5)【図1】?【図5】


(6)認定事項
ア.引用文献1には、前身頃1、脇見頃6及び脇見頃7が記載され、「前記前身頃1の左右両側辺4,4と接ぐ内側辺8,9および臀部の形状に沿う曲線の外側辺10,11を後部中心で縫合する」(【0016】)ことにより一体に構成されるものであることが理解できる。
イ.ここで、本願発明1には、「・・・前記背面覆い部分(12)の左半分の左側縁と前記背面覆い部分(12)の右半分の右側縁との縫合部を有する筒状」という記載があり、また、本願発明3には、「・・・前記前身頃(14)は、前記前面覆い部分(11)の左右両側に背面覆い部分(12)が一体に連続して設けられた筒状であり、」という記載がある。さらに本件特許明細書には、「・・・身頃(14)は、背面覆い部分(12)の後中心線(S2)の箇所は一体に形成されていて、この後中心線(S2)以外の前中心線(S1)の箇所、あるいは図9の点線で示すように前面覆い部分(11)の左右両側(X1,X2またはY1,Y2)の箇所、あるいはその他の適宜の箇所で縫合する身頃であってもよい。」(【0028】)という記載もある。したがって、本願発明においては異なる二つの部分の境界は、当該二つの部分が縫合された縫合部として形成されている場合も有り、当該二つの部分が連続されて形成されている場合もあるといえる。
ウ.そうすると、引用文献1に記載された前身頃1、脇見頃6及び脇見頃7とを縫合により一体にし、一つとみたものは、下端凹状湾曲面5を左右対称に上方に向けて入り込む湾状に形成し下腹部を覆う前面を覆う部分と、臀部を包み込んで覆う背面を覆う部分とを有する身頃であるといえる。そして、上記一つとみたものから、股間部分を除いたものを「身頃」と総称することができる。ここで、引用文献1に記載された前身頃1、脇見頃6及び脇見頃7は、弾力性に富むベア天竺編みされた(上記摘記事項(4)、【0015】、【0016】)ものであるから、これら前身頃1、脇見頃6及び脇見頃7は、伸縮性を有するものであるといえる。
エ.【図4】の「ショーツの展開図」におけるショーツの各部の配置と、上記摘記事項(4)の「・・・臀部の形状に沿う曲線の外側辺10,11を後部中心で縫合する」(【0016】)との記載から、上記身頃は、上記前面を覆う部分の左右両側に前記背面を覆う部分の左半分の外側辺10と前記背面を覆う部分の右半分の外側辺11に縫合部を有する。
オ.【図2】は、「ショーツの背面図」であって、【図4】の図示されたものを踏まえると、身頃には、前記背面を覆う部分の左右方向中央部を上下方向に通る背面中心線に沿って開かれた前記身頃の展開状態において、前記前面を覆う部分の左右方向中央部を上下方向に通る前面中心線に対し、前記背面を覆う部分の背面中心線がこの背面中心線の下方延長線を前面中心線の下方延長線に近づける下方窄まりの状態に設定されていて、それは身頃のうち、臀部のある部分から下端部に亘る範囲に対応する臀部の堤込み部分の領域であることが看取できる。
カ.【図1】及び【図4】の図示から、前記前面を覆う部分の下端の下辺3と前記背面を覆う部分の下端の内股の後部との間に配設され股間部を覆う股間部分を備えたものが看取できる。

2.引用発明
上記1.の摘記事項(1)?(4)、(5)の図示、認定事項(6)ア.?カ.を総合すると、引用文献1には、次の引用発明が記載されている。

「下端凹状湾曲面5を左右対称に上方に向けて入り込む湾状に形成し下腹部を覆う伸縮性を有する前面を覆う部分と、臀部を包み込んで覆う伸縮性を有する背面を覆う部分とを有する、前身頃1と脇見頃6及び7を合わせた身頃と、前記前面を覆う部分の下端の下辺3と前記背面を覆う部分の下端の内股の後部との間に配設され股間部を覆う股間部分とを備えており、
前記身頃は、前記前面を覆う部分の左右両側に前記背面を覆う部分の左半分及び右半分が形成されて、前記背面を覆う部分の左半分の外側辺10と前記背中を覆う部分の右半分の外側辺11との縫合部を有する筒状であり、
前記身頃のうち、臀部のある部分から下端部にわたる範囲に対応する臀部の包み込み部分の領域は、前記背面を覆う部分の左右方向中央部を上下方向に通る背面中心線に沿って開かれた前記身頃の展開状態において、前記前面を覆う部分の左右方向中央部を上下方向に通る前面中心線に対し、前記背面を覆う部分の背面中心線がこの背面中心線の下方延長線を前面中心線の下方延長線に近づける下方窄まりの状態に設定されている、ショーツ。」

第5 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「ショーツ」は、本願発明1の「ショーツ等の衣料」に相当する。
引用発明の「下端凹状湾曲面5」は、本願発明1の「足繰り形成部(15)」に相当する。
引用発明の「前面を覆う部分」、「背面を覆う部分」、「身頃」は、本願発明1の「前面覆い部分(11)」、「背面覆い部分(12)」、「身頃(14)」に、それぞれ相当する
引用発明の「下辺3」は、本願発明1の「下端の内股前部(16)」に相当する。
引用発明の「内股の後部」は、本願発明1の「内股後部(17)」に相当する。
引用発明の「外側辺10」及び「外側辺11」は、本願発明の「左側辺」及び「右側辺」にそれぞれ相当する。
引用発明の「股間部分」は、本願発明1の「まち部(13)」に相当する。
引用発明の「前面中心線」及び「背面中心線」は、本願発明1の「前中心線(S1)」及び「後中心線(S2)に、それぞれ相当する。
引用発明の「臀部のある部分」と、本願発明1の「臀部の頂上部よりも上側」の位置とは、「臀部」の下端よりも上側の位置である限りにおいて一致する。

そうすると、本願発明1と引用発明とは、次の<一致点>で一致し、<相違点>で相違する。

<一致点>
下端に足繰り形成部を左右対称に上方へ向けて入り込む湾状に形成し下腹部を覆う伸縮性を有する前面覆い部分と、臀部を包み込んで覆う伸縮性を有する背面覆い部分とを有する身頃と、前記前面覆い部分の下端の内股前部と前記背面覆い部分の下端の内股後部との間に配設され股間部を覆うまち部とを備えており、
前記身頃は、前記前面覆い部分の左右両側に前記背面覆い部分の左半分および右半分が形成されて、前記背面覆い部分の左半分の左側縁と前記背面覆い部分の右半分の右側縁との縫合部を有する筒状であり、
前記身頃のうち、前記臀部の下端よりも上側から下端部にわたる範囲に対応する臀部の包み込み部分の領域は、前記背面覆い部分の左右方向中央部を上下方向に通る後中心線に沿って開かれた前記身頃の展開状態において、前記前面覆い部分の左右方向中央部を上下方向に通る前中心線に対し、前記背面覆い部分の後中心線がこの後中心線の下方延長線を前中心線の下方延長線に近付ける下方窄まりの状態に設定されている、ショーツ等の衣料。

<相違点1>
本願発明1は、「身頃(14)」のうち、前中心線(S1)に対し、後中心線(S2)の下方延長戦を前中心線(S1)の下方延長線に近づける下方窄まりの状態に設定されている領域が、「臀部の頂上部よりも上側から」であるのに対し、引用発明は「臀部」の下端よりも上方の「ある部分」であって臀部の頂上部との上下方向における位置関係が明らかではない点。

第6 判断
1.<相違点1>について
上記<相違点1>について検討する。
上記第4の1.摘記事項(4)に示したように、引用文献1には、「・・・前身頃1および脇身頃6,7と裾身頃22,23との間に角度が生じて裾身頃22,23が立ち上がった状態になって図3に示すように、裾口が前方に向くことになり、歩行時や椅子に座って足が前向きに動いたとしても、裾口のずり上がりによるお尻への喰いこみがなく、下尻をしっかりカバーしているのでハミ尻を防止できる。」(【0021】、下線は当審で付した。)という記載があり、当該記載から、引用発明には、「歩行時や椅子に座って足が前向きに動いたとしても、裾口のずり上がり」をなくそうとすることの動機付けがあるといえる。そして、引用発明において、「裾口のずり上がりによるお尻への喰いこみがなく、下尻をしっかりカバーしているのでハミ尻を防止できる」ようにするためには、臀部頂上部を含め、その下方を十分に包み込むことが必要であることは明らかであるから、引用発明において、上記<相違点1>に係る本願発明1の構成を備えたものとすることは、上記動機付けにしたがって、当業者が容易になし得た事項である。

2.作用効果について
引用発明は、上記1.に示した「歩行時や椅子に座って足が前向きに動いたとしても、裾口のずり上がりによるお尻への喰いこみがなく、下尻をしっかりカバーしているのでハミ尻を防止できる。」との作用効果を奏するものであるところ、そのような作用効果を奏するショーツであるならば、本願発明1の作用効果である「ヒップ裾ラインがずり上がりの防止」及び「ヒップ下部へのフィット性の向上」を奏するといえる。
したがって、本願発明1が奏する作用及び効果は、当業者が容易に予測し得る範囲以上のものであるとは認められない。

3.請求人の主張について
請求人は平成31年2月1日に提出された本件審判請求書において、「・・・引用文献1の図1-4には、前述のとおり、臀部の頂部付近から「下部窄まりの状態」とすることは全く記載されていない。また、現実に、本願発明のように下窄まりの状態を臀部の頂部より上側から開始する構成を採用した先行技術・先行文献も、動機付けになるような先行技術・先行文献も一つもない。さらに、下窄まりの状態を臀部の頂部より上側に設定する構成が、着用者の体型・フィット性等を考慮して、当業者が適宜選択し得る設計的事項であったとする実体も全くない。」(3.(d-1))と主張しているから検討する。
上記1.に示したように、引用文献1には、「裾口のずり上がりによるお尻への喰いこみがなく、下尻をしっかりカバーしているのでハミ尻を防止」することの動機付けがあり、臀部の頂上部よりも上方に位置する「ある部分」から「身頃」の下端部までの部分が下方窄まりの状態を採用すれば、「裾口」が「ずり上がろう」とする動きが妨げられることは、当業者にとって技術常識であるから、上記請求人の主張は採用できない。

4.小括
上記1.?3.において検討したように、、本願発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その他の請求項について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-12 
結審通知日 2019-09-17 
審決日 2019-09-30 
出願番号 特願2017-46358(P2017-46358)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A41B)
P 1 8・ 113- Z (A41B)
P 1 8・ 537- Z (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 龍平  
特許庁審判長 高山 芳之
特許庁審判官 佐々木 正章
久保 克彦
発明の名称 ショーツ等の衣料  
代理人 鈴江 正二  

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