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審決分類 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1368465
審判番号 不服2019-4718  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-08 
確定日 2020-11-18 
事件の表示 特願2017-560161「アミロイドβのガランタミンクリアランス」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月24日国際公開、WO2016/187339、平成30年 6月28日国内公表、特表2018-516901〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年5月18日(パリ条約の優先権主張 平成27年5月18日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 1月17日 :手続補正書の提出
平成30年 8月 8日付け:拒絶理由通知書
平成30年11月21日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年11月29日付け:拒絶査定
平成31年 4月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成31年4月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年4月8日にされた手続補正を却下する。

[理由](補正の適否の判断)
1 平成31年4月8日にされた手続補正(以下、「本件補正」という)に ついて(補正の内容)
本件補正は、以下のとおりの、請求項1についての補正をその内容として含むものである。

「【請求項1】
認知症ではない患者の認知低下又は機能低下を遅らせるために、CSF中のAβ42のレベルを維持又は向上させ、あるいは皮質におけるベータアミロイドの沈着を減少させるための、ガランタミン又は薬剤として許容されるガランタミン塩。」
とあるのを
「【請求項1】
認知症ではない患者の認知低下又は機能低下を遅らせるために、CSF中のAβ42のレベルを維持又は向上させ、あるいは皮質におけるベータアミロイドの沈着を減少させるために認知症ではない患者に対して一日の用量として投与する2?15mg、又は4?12mgのガランタミン又はガランタミン塩。」
と補正する。

そして、上記請求項1についての補正は、以下の補正事項A及びBよりなる。

補正事項A:「に認知症ではない患者に対して一日の用量として投与する2?15mg、又は4?12mgの」という発明特定事項を追加する。

補正事項B:「薬剤として許容されるガランタミン塩」とあるのを「ガランタミン塩」と補正する。

2 補正の適否
事案に鑑み、上記補正事項Bの補正の目的から判断する。
補正事項Bにより、「薬剤として許容されるガランタミン塩」という記載が「ガランタミン塩」と補正されることで、本件補正後の「ガランタミン塩」には「薬剤として許容される」塩以外の塩も包含されることとなった。
したがって、この補正事項Bは、特許請求の範囲を拡張するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。また、この補正事項Bが請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは、明らかである。
そうしてみると、上記補正事項Aについて検討するまでもなく、上記補正事項Bを含む本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年4月8日にされた手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし17に係る発明は、平成30年11月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1に記載のとおりの、以下のものであると認める。

「【請求項1】
認知症ではない患者の認知低下又は機能低下を遅らせるために、CSF中のAβ42のレベルを維持又は向上させ、あるいは皮質におけるベータアミロイドの沈着を減少させるための、ガランタミン又は薬剤として許容されるガランタミン塩。」

第4 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の内容を含むものである。
引用文献1,2には、ガランタミンについては記載されているが、請求項1-17の治療用途や用法用量でガランタミン又は薬剤として許容されるガランタミン塩を用いることは記載されていない。
しかしながら、請求項1-17に係る発明は、単なる「ガランタミン又は薬剤として許容されるガランタミン塩」つまり化合物自体の発明であるから、請求項1?17に記載された事項により請求項1-17の発明の構成が限定しているものとは認められない。
したがって、請求項1-17に係る発明は、引用文献1又は2に記載されているか、あるいは仮に引用文献1,2にガランタミン化合物が記載されていないものとしても、その点は引用文献1,2記載の技術に基づいて、当業者であれば容易に為し得ることである。
よって、この出願の請求項1-17に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1又は2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、又は下記の引用文献1又は2に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:European Journal of Neuroscience,2009年,Vol.29,No.3,pp.455-464
引用文献2:医学の歩,2011年,Vol.237,No.11,pp.1047-1052(合議体注:「医学の歩」は、「医学のあゆみ」の誤記と認める。)

第5 当審の判断
1 引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1(European Journal of Neuroscience,2009年,Vol.29,No.3,pp.455-464)には、以下の事項が記載されている。
なお、引用文献1は原文が外国語であるため、当審による翻訳文で示す。また、下線は当審で付した。

(1a)
「ガランタミンは現在、軽度から中程度のアルツハイマー病(AD)の患者の治療に使用されています。その作用は主にコリン作動性伝達の調節に向けられていますが、ガランタミンはまた、ADの病因に関与するアミロイドベータペプチド(Aβ)に対する神経保護を提供することができます。この研究では、2つの形態のAβ_(1-40)で処理された培養ラット皮質ニューロンを使用しました。まず、ガランタミンが両方のペプチド型によって誘発される神経変性を濃度依存的に防止することを確認しました。さらに、ニューロンを新鮮なAβ_(1-40)とガランタミンで共培養すると、アミロイド凝集体の量が減少することを観察しました。酸化条件がAβ凝集に影響を与えるので、ガランタミンがこのペプチドによって誘発される酸化ストレスを防ぐかどうかを調査しました。データは、新鮮なまたは老化したAβ_(1-40)のいずれかが活性酸素種とリポ過酸化の量を大幅に増加させ、これらの影響はガランタミンによって防止されたことを示しています。 Aβ_(1-40)処理ニューロンでは、還元型グルタチオン(GSH)の減少は、グルタチオンペルオキシダーゼおよびグルタチオンレダクターゼ活性の低下に関連しているようです。GSH抗酸化システムにおけるこれらの変化は、ガランタミンによって防止されました。全体として、これらの結果は、ガランタミンがAβによって誘発されるニューロンの酸化的損傷を防ぐことができるという最初の証拠を構成し、AD神経変性プロセスにおけるガランタミンの有益な作用のin vitro基礎を提供します。」(Abstract)

上記(1a)によれば、引用文献1には、「ガランタミンである化合物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

2 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、
両者は、「ガランタミン又は薬剤として許容されるガランタミン塩。」である点で一致するが、
本願発明では、「認知症ではない患者の認知低下又は機能低下を遅らせるために、CSF中のAβ42のレベルを維持又は向上させ、あるいは皮質におけるベータアミロイドの沈着を減少させるための、」という用途の特定がなされているのに対し、引用発明では、かかる特定がない点で、一応相違する。

ここで、本願発明は、その末尾を「・・・ガランタミン又は薬剤として許容されるガランタミン塩。」とする表現によって記載されるものであり、要するに「ガランタミン又は薬剤として許容されるガランタミン塩」という化合物の発明であると認められる。
そして、新規性進歩性の判断に当たって、化合物において、その用途限定が付されたとしても、そのような用途限定は、一般に、化合物の有用性を示しているにすぎないから、用途限定のない化合物そのものと解釈されるものである(特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節3.1.3(1))。
したがって、本願発明に係る「ガランタミン又は薬剤として許容されるガランタミン塩」についても、新規性進歩性の判断に際しては、その用途をどのように特定しても、化合物として別異のものにはならず、本願発明は、その用途を特定する事項がどのような内容であるかによらず、「ガランタミン又は薬剤として許容されるガランタミン塩」という化合物自体の発明であるというほかはない。
そうしてみると、本願発明は、引用発明と区別できない。

3 審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求書において、本願発明は、ガランタミン化合物を特徴的な用途に使用することを限定したいわゆる「用途発明」であるところ、引用文献1にはかかる用途について記載されていない旨主張している。
しかしながら、上記2で説示したとおり、新規性進歩性の判断に当たっては、本願発明は「ガランタミン又は薬剤として許容されるガランタミン塩」という化合物自体の発明であるといわざるを得ず、その用途をどのように特定しても、化合物自体を別異のものとして特定することにはならないのであるから、本願発明と引用発明との間に相違点を認めることはできない。

第6 むすび(結論)
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-06-18 
結審通知日 2020-06-23 
審決日 2020-07-06 
出願番号 特願2017-560161(P2017-560161)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
P 1 8・ 572- Z (A61K)
P 1 8・ 574- Z (A61K)
P 1 8・ 571- Z (A61K)
P 1 8・ 573- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 前田 佳与子
特許庁審判官 滝口 尚良
渡邊 吉喜
発明の名称 アミロイドβのガランタミンクリアランス  
代理人 加藤 卓士  

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