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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1368666
審判番号 不服2019-16201  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-02 
確定日 2020-12-15 
事件の表示 特願2015-223569「ドライエッチング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開、特開2017- 92357、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年11月16日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年 5月17日付け :拒絶理由通知書
令和元年 6月14日 :意見書,補正書の提出
令和元年 8月22日付け :拒絶査定
令和元年 12月2日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和2年 7月15日付け :拒絶理由通知書(当審)
令和2年 9月1日 :意見書,手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定(令和元年8月22日付け拒絶査定)の概要は,本願の請求項1?9に係る発明は,以下の引用文献1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1.国際公開第2008/001844号
引用文献2.韓国公開特許第10-2012-0113341号公報
引用文献3.特開2007-302663号公報
引用文献4.特開平10-199869号公報

第3 当審拒絶理由通知の概要
当審拒絶理由通知(令和2年7月15日付け拒絶理由通知)の概要は,以下の(理由1)?(理由3)のとおりである。
(理由1)本願の請求項1?6に係る発明は,以下の引用例1に記載された発明及び引用例2?5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(理由2)本願の請求項1?7に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでないから,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
(理由3)本願の請求項4?7に係る発明は明確でないから,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

引用例1.国際公開第2008/001844号(拒絶査定の引用文献1)
引用例2.特開2007-302663号公報(拒絶査定の引用文献3)
引用例3.特開平10-199869号公報(拒絶査定の引用文献4)
引用例4.特開平3-276626号公報
引用例5.特開平7-263409号公報

第4 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は,令和2年9月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりである。
「【請求項1】
純度が99.7質量%以上であり,
窒素含有量が0.3体積%以下であり,
水分含有量が0.03質量%以下であり,
誘導結合プラズマ質量分析計により測定したFe,Ni,Cr,Al及びSbの各金属成分の濃度の和が477質量ppb以下であり,
Feの濃度が153質量ppb以下であり,Niの濃度が121質量ppb以下であり,Crの濃度が77質量ppb以下であり,Alの濃度が73質量ppb以下であり,Sbの濃度が53質量ppb以下である
ヘキサフルオロプロペンからなるドライエッチングガスをプラズマ化して得られるプラズマガスを用いて,半導体基板上に形成されたシリコン酸化物,シリコン窒化物,およびシリコン酸窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコン系材料を,前記シリコン系材料の上に形成された開口部を有するレジストパターンをマスクとして,前記マスクに対して,前記シリコン系材料との選択比が10以上で選択的にエッチングすることを特徴とするドライエッチング方法。」

本願発明2?5は,本願発明1を減縮した発明である。

第5 引用例の記載と引用発明
1.引用例1について
(1)引用例1の記載事項
当審拒絶理由通知で引用された引用例1には,表1とともに次の記載がある。(下線は当審による。以下同じ。)

「【0043】
このようにして,粗へキサフルオロプロピレンを上記吸着剤と接触させた後,蒸留することにより,含塩素化合物,ハイドロカーボン類,低沸成分の含有量を低減でき,純度が99.99vol%以上の高純度ヘキサフルオロプロピレンを得ることができる。この高純度ヘキサフルオロプロピレン中の含塩素化合物の含有量は20volppm以下が好ましく,10volppm以下がより好ましく,ハイドロカーボン類の含有量は30volppm以下が好ましく,20volppm以下がより好ましく,低沸成分の含有量は20volppm以下が好ましく,10volppm以下がより好ましい。
【0044】
このような高純度ヘキサフルオロプロピレンは,半導体製造装置内または液晶製造装置内の堆積物を除去するためのクリーニングガスとして使用することができる。このとき,高純度ヘキサフルオロプロピレンを単独で使用してもよいが,クリーニング条件に応じて,He,Ar,N_(2),Ne,Krや含酸素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の希釈ガスを添加してもよい。上記含酸素化合物としては,O_(2),CO,CO_(2),NO,N_(2)O,OF_(2),COF_(2)等が挙げられる。これらの希釈ガスの添加量は40vol%以下が好ましい。
【0045】
上記クリーニングガスを使用して半導体製造装置をクリーニングする場合,プラズマ条件でクリーニングしてもよいし,プラズマレス条件でクリーニングしてもよい。プラズマ条件でクリーニングする場合,励起源は上記クリーニングガスからプラズマが励起されるものであれば特に限定されないが,マイクロ波励起源を用いるとクリーニング効率がよく,好ましい。また,本発明のクリーニングガスを使用する温度範囲,圧力範囲はプラズマを生成する範囲であれば特に限定されないが,50?500℃の範囲の温度が好ましく,0.05?1MPaの範囲の圧力が好ましい。一方,また,プラズマレス条件でクリーニングする場合,クリーニングガスをチャンバー内に導入し,好ましくはチャンバー内の圧力を0.05?1MPaの範囲に設定し,チャンバー内およびクリーニングガスの少なくとも一部,あるいはどちらか一方を150?500℃の範囲に加熱することによりクリーニングガスを活性化させ,チャンバーおよびその他の堆積物が蓄積している領域から堆積物をエッチングして取り除くことにより半導体製造装置をクリーニングすることができる。」

引用例1の表1として以下が示されている。



(2)記載事項の整理と引用発明1
以上の摘記によれば,引用例1には以下の事項が記載されているといえる。
ア 純度が99.99vol%以上の高純度ヘキサフルオロプロピレン。(段落[0043],表1)
イ 上記高純度ヘキサフルオロプロピレンを,半導体製造装置内の堆積物を除去するためのクリーニングガスとして使用すること。
(段落[0044])
ウ 上記クリーニングガスを使用した半導体製造装置をクリーニングする場合,プラズマ条件でクリーニングすること。(段落[0045])
エ クリーニングにより,堆積物が蓄積している領域から堆積物をエッチングして取り除くこと。(段落[0045])
上記ア?エから,引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「純度が99.99vol%以上のヘキサフルオロプロピレンからなるクリーニングガスをプラズマ条件で使用することにより,半導体製造装置内の堆積物をエッチングして取り除く方法」

2.引用例2について
当審拒絶理由通知で引用された引用例2には,以下の事項が記載されている。
「【0002】
半導体装置の高集積化に伴い,小さい空間に多くの情報を入れるための超微細パターンの形成に必要なドライエッチング工程がULSIの核心工程として重要な位置を占めている。酸化シリコンで代表されるシリコン化合物層にドライエッチング工程を適用する場合,既存の飽和フルオロカーボン類エッチングガスでは微細な回路線幅(0.13μm以下,アスペクト比20以上)へのエッチングが難しい。その理由は,エッチングを行うための酸化シリコン化合物層は,保護膜であるフォトレジストまたはポリシリコンに対する選択性が低くて超微細パターンへのエッチングが難しく,既存の飽和フルオロカーボン類のドライエッチングガスは,エッチング後の残留物,例えばカーボンなどが完全に除去されないため,微細パターン形成に妨害を引き起こすためである。
従来の飽和フルオロカーボン類ドライエッチングガスの代替物質として,1つの不飽和二重結合を含んでいるオクタフルオロシクロペンテン(Octafluorocyclopenten,以下「C_(5)F_(8)」という)が注目を浴びている。このC_(5)F_(8)は,1つの二重結合によって,飽和フルオロカーボン類に比べて,分子内にカーボンの数よりフッ素原子の数が少ないため,フォトレジストおよびポリシリコンなどの保護膜に選択的エッチングを行うことが可能であり,特にエッチング後の残留物が容易に揮発するという特性のため,回路線幅0.13μm以下までの(アスペクト比20以上)エッチングに非常に効果的である。
C_(5)F_(8)は,沸点26.8℃の既知物質である。
半導体装置の益々の高集積化および高性能化に伴い,C_(5)F_(8)を含んだ半導体製造用ガスも段々高純度化を要求している。この高純度化は速いエッチング速度と均一なエッチングを行うためには必須的な要素であって,特に最も重要な部分は残留する微量成分,すなわち金属成分である。この金属成分が基準値以上存在する場合,微細パターンの形成に致命的な影響を与えるうえ,半導体装置の性能を左右するため,これらガスの製造および精製過程のみならず,半導体装置の製造過程においても最も厳しく管理されている。近年,ユーザーは金属成分の含量を5ppb以下の要求がある。」
「【0014】
本発明の目的は,半導体製造用ドライエッチングガスにおいて,エッチングガスの全量に対しC_(5)F_(8)99.995容量%以上,窒素ガス50容量ppm以下,酸素ガス5容量ppm以下,水分5重量ppm以下,金属成分含量5重量ppb以下のエッチングガス,及びこのエッチングガスをオクタクロロシクロペンテンを出発物質として連続工程によって工業的な規模で製造する方法を提供することにある。
また,本発明の目的は,ULSI製造の際にエッチングガスとして使用できる高純度のC_(5)F_(8)を効率よく製造する方法を提供することにある。具体的には,99.995容量%以上の純度を有し,窒素ガス50容量ppm以下,酸素ガス5容量ppm以下,水分5重量ppm以下,金属成分5重量ppb以下を含む半導体用ドライエッチングガスの製造方法を提供することにある。特に,超微細パターンの形成および半導体装置の性能に致命的な金属成分,特にAl,Ca,Cu,Fe,Mg,Mn,Na,Ni,Znなどを5重量ppb以下に除去する方法を,前記で指摘した酸素,窒素および水分と同時に除去する方法を提供することにある。
本発明は,オクタクロロシクロペンテンを出発物質として高純度のオクタクロロシクロペンテンを連続工程で製造することにその特徴がある。
C_(5)F_(8)を主成分とする半導体製造用エッチングガスにおいて,C_(5)F_(8)99.995容量%以上,金属成分含量5重量ppb以下の超高純度のエッチングガスは,未だこの分野で生産または販売されたことがない。」

3.引用例3について
当審拒絶理由通知で引用された引用例3には,次の記載がある。
「【0053】(第1実施例)次に,エッチング装置100を用いて,エッチングプロセスに用いるガスにC_(3)F_(6)とArとO_(2)とから成る混合ガスを使用して,C_(3)F_(6)の流量を変化させたときの,エッチング特性の結果を図2および図3に示す。なお,被処理体としては,被処理面にSiO_(2)膜が形成された6インチ径のウェハWを使用した。また,処理室102内のプロセス圧は,40mTorrに維持し,Arの流量を560sccm,O_(2)の流量を3sccmに固定し,C_(3)F_(6)の流量を変化させて,C_(3)F6の分圧を制御した。さらに,サセプタ110の温度は,40℃に設定されている。そして,高周波電力については,上部電極124に対しては周波数が27.12MHzで2000Wの高周波電力を印加し,一方下部電極となるサセプタ110に対しては周波数が0.8MHzで900Wの高周波電力を印加した。また,ウェハWの表面温度は,表面温度測定シールで測定したところ,約90℃であった。
【0054】(第2実施例)また,処理室102内の全圧を変化させたときの,エッチング特性の結果を図4および図5に示す。なお,C_(3)F_(6)の流量を13sccm,Arの流量を560sccm,O_(2)の流量を3sccmに固定し,O_(2)/C_(3)F_(6)の標準状態流量比を0.23に維持し,不図示の排気バルブを制御することにより全圧を変化させて,C_(3)F_(6)の分圧を制御した。また,他の条件は,第1実施例と同じである。
【0055】(第3実施例)さらに,O_(2)の流量を変化させたときの,エッチング特性の結果を図6および図7に示す。なお,処理室102内のプロセス圧は,40mTorrに維持し,Arの流量を560sccm,C_(3)F_(6)の流量を13sccmに固定した。また,他の条件は,第1実施例と同じである。
【0056】これら第1?第3実施例における図2?図7に示した結果から,C_(3)F_(6)とO_(2)の流量比が0.1≦O_(2)/C_(3)F_(6)≦1.0で,かつ分圧が0.5mTorr?2.0mTorrの範囲では,SiO_(2)膜でのエッチングレートが500nm/分以上で,フォトレジスト層に対するSiO_(2)膜の選択比が約5以上であると共に,直径0.4μのコンタクトホールをアスペクト比5で抜くことができる。従って,かかる混合ガスを構成する各ガスの流量比および分圧を上記範囲内に設定することにより,所望のエッチング特性を得ることができる。」

4.引用例4,5について
ア 当審拒絶理由通知で引用された引用例4には,次の記載がある。
「[実施例]
第1実施例(第1の発明の一実施例に相当する。第1?4図参照)
先ず,第1図(A)に示すように,拡散層2が形成されているシリコン基板のような基板1上全面に,シリコン化合物系からなる被エツチング膜としてのSiO_(2)膜3を形成し,この被エッチング膜3の上に,フォトリソグラフィの技法で,基板1の拡散層2と対応する部分に開口4aを有するレジストパターン4を形成する。
次に,マグネトロンRIEにより,<1>第1ステップのエッチングと,<2>第2ステップのエッチングとを行う。
<1>第1ステップのエッチングでは,C_(X)F_(2X+2),C_(X)F_(2X)(X≧2の整数)から選ばれる少なくとも一種を含む第1ガスなる高次のフロンガスを原料ガスとして,パワー密度を1.3W/cm^(3)以上に設定し,第1図(B)に示すように,レジストパターン4をマスクとして,被エッチング膜3を基板lの拡散層2が露出する直前までエッチングして,被エッチング膜3に孔5を形成する。具体的には,この第1ステツプのエッチングにおいては,被エッチング膜3に,エッチング深さのばらつき±3?5%を加味しつつ,被エッチング膜3の例えば5000Åの厚さの90?98%の深さを有する孔5を形成した。この第1ステツプのエッチングの具体的な条件は,
原料ガス ;C_(3)F_(5) 46 SCCM
圧 力;2Pa
パワー密度;2.76W/cm^(3)
磁 場;100G(基板l上で)
とした。この第1ステップのエッチングでは,第2図に示すように,原料ガスとパワー密度とからして,高速異方性のエッチングである。」
(当審註:上記において,<1>は丸に数字の1を意味する。<2>も同様である。)

イ また,当審拒絶理由通知で引用された引用例5には,次の記載がある。
「【0010】エッチングガスを供給口5から放電管2内へ供給し,毎期口7より放電管内を減圧にして,マイクロ波と磁界によりプラズマを発生させ,高周波電源10により高周波電力を印加してエッチングを行う装置である。図1及び図2に一実施例でエッチングしたときのエッチング速度と選択比の特性図を示す。図1,図2共にエッチングガスとしてC_(4)F_(8)を用い,酸素ガスの添加量に対するエッチング速度及び選択比を示している。また,図1は高マイクロ波出力印加(1kW)時のものであり,図2は低マイクロ波出力印加(750W)時のものである。低マイクロ波印加時では,酸素添加しても十分な選択比が得られないが,高マイクロ波を印加し酸素を添加することにより高選択比が得られる。本実施例はC_(4)F_(8)ガスを用いた場合を示しているが,これ以外のガスとしてC_(2)F_(6),C_(3)F_(6),C_(3)F_(8),C_(5)F_(10)等のガスを用いても良い。この場合印加するマイクロ波出力はそれぞれ適正値が違う。一般的にC成分の量が少ないほど高マイクロ波出力が必要である。
【0011】本発明の他の実施例を図4により説明する。図4はエッチング処理後の,コンタクトホールのエッチング断面図を示す。図4において,レジスト18をマスクとし,シリコン酸化膜17をエッチングするものである。本エッチングは,CF系堆積膜の付着により側壁を保護しイオンエッチングが進行する。一方,CF系堆積膜の付着量はエッチング形状を左右するパラメータであり,また多すぎるとエッチングが途中で停止してしまう。エッチング形状の制御及びエッチングが途中で停止することを防止するためには,CF系堆積膜の付着量を制御することが必要となる。本発明ではCF系堆積膜の付着量をエッチングガス中に酸素ガスを添加することにより行うものである。図4(a)に示すエッチング形状の場合,数ml/min酸素を添加することにより図4(b)のエッチング形状が得られる。また,この酸素の添加量をプラズマ中のCO,C_(2)またはC_(3)等の発光強度を分光器14でモニターし,発光強度により添加量の増減を行う。発光強度を比較する場合,あらかじめエッチングガス中にAr,HeまたはXe等の不活性ガスを添加しておき,それぞれの発光強度との相対比にて酸素の添加量を増減しても良い。」

ウ 以上の記載から,上記引用例4及び引用例5には以下の技術が記載されていると理解できる。
・ヘキサフルオロプロペンを用いて,半導体基板上に形成されたシリコン酸化膜やシリコン窒化膜を,前記シリコン酸化膜やシリコン窒化膜上に形成されたレジストパターンをマスクとしてドライエッチングする技術。


第6 対比・判断
1.本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点
本願発明1と引用発明1を比較する。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と,上記引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)を比較する。
ア 引用発明1における「純度が99.99vol%以上のヘキサフルオロプロピレン」は,本願発明1における「純度が99.7質量%以上に精製されたヘキサフルオロプロペン」に相当する。
イ 引用発明1における「クリーニングガス」は,半導体製造装置内の堆積物をエッチング除去するものであるから,本願発明1の「ドライエッチングガス」に相当する。
ウ 引用発明1において「ヘキサフルオロプロピレン」を除いた残部は0.01vol%であるから,本願発明1と引用発明1は,ともに「窒素含有量が0.3体積%以下であり,水分含有量が0.03質量%以下」である点で一致する。
エ 引用発明1における,「クリーニングガス」を「プラズマ条件で使用すること」は,本願発明1における「ヘキサフルオロプロペンからなるドライエッチングガスをプラズマ化して得られるプラズマガスを用いて」「エッチングすること」に相当する。
オ 引用発明1における「堆積物をエッチングにより取り除く方法」は,本願発明1における「ドライエッチング方法」に相当する。
以上のア?オによれば,本願発明1と引用発明1の一致点,相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「純度が99.7質量%以上であり,
窒素含有量が0.3体積%以下であり,
水分含有量が0.03質量%以下であり,
ヘキサフルオロプロペンからなるドライエッチングガスをプラズマ化して得られるプラズマガスを用いてエッチングすることを特徴とするドライエッチング方法。」である点。

<相違点1>
本願発明1の「ドライエッチングガス」が「誘導結合プラズマ質量分析計により測定したFe,Ni,Cr,Al及びSbの各金属成分の濃度の和が477質量ppb以下であり」,「Feの濃度が153質量ppb以下であり,Niの濃度が121質量ppb以下であり,Crの濃度が77質量ppb以下であり,Alの濃度が73質量ppb以下であり,Sbの濃度が53質量ppb以下である」のに対し,引用発明1の「クリーニングガス」は,「Fe,Ni,Cr,Al及びSbの各金属成分」の濃度及び「各金属成分の濃度の和」が特定されていない点。
<相違点2>
本願発明1では「半導体基板上に形成されたシリコン酸化物,シリコン窒化物,およびシリコン酸窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコン系材料を,前記シリコン系材料の上に形成された開口部を有するレジストパターンをマスクとして,前記マスクに対して,前記シリコン系材料との選択比が10以上で選択的にエッチングする」のに対し,引用発明1では「半導体製造装置内の堆積物をエッチング」する点。

2.相違点に対する判断
事案に鑑み,相違点1及び2についてまとめて検討する。

引用例2の段落[0002]の記載から,エッチングガスに含まれる金属成分が基準値以上に存在する場合に,微細パターンの形成に致命的な影響を与え,半導体装置の性能に影響を与えることは,当業者に周知の事項である。また,引用例2の段落[0014]から,そのような致命的な影響を与える金属成分として,例えばFe,Ni,Al等が周知であるといえる。引用例2の段落[0002]には,「ユーザーは金属成分の含量を5ppb以下の要求がある」との記載もある。
一方,引用例1には金属不純物についての言及はないものの,少なくとも高純度のヘキサフルオロプロピレン(ヘキサフルオロプロペン)が好ましいことは示唆されているといえる。
以上によれば,金属不純物含有量がより少ない高純度ヘキサフルオロプロペンガスを用いてエッチングを行うこと自体は,上記引用例2の周知事項を知る当業者であれば,引用発明1から容易になし得たことであるといえる。
また,上記相違点2のうち,「半導体基板上に形成されたシリコン酸化物,シリコン窒化物,およびシリコン酸窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコン系材料を,前記シリコン系材料の上に形成された開口部を有するレジストパターンをマスクとしてエッチングする」技術は,引用例4及び5にも記載された周知技術である(第5の4.ウを参照)。

しかしながら,ヘキサフルオロプロペンガスを用いたエッチングにおいて,「誘導結合プラズマ質量分析計により測定したFe,Ni,Cr,Al及びSbの各金属成分の濃度の和が477質量ppb以下であり」,かつ,「Feの濃度が153質量ppb以下であり,Niの濃度が121質量ppb以下であり,Crの濃度が77質量ppb以下であり,Alの濃度が73質量ppb以下であり,Sbの濃度が53質量ppb以下である」と特定することにより,「前記マスクに対して,前記シリコン系材料との選択比が10以上で選択的にエッチングする」ことは,引用例2?5のいずれにも記載されておらず,示唆もされていない事項である。

(3)小括
したがって,当業者といえども,引用発明1及び引用例2?5に記載された技術的事項に基づいて,上記相違点1及び2に係る構成を想到することが容易になし得たとはいえないから,本願発明1は,引用発明1及び引用例2?5に記載された事項から当業者が容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明2?5について
本願発明2?5も,上記相違点1及び2に係る構成,すなわち,本願発明1の「誘導結合プラズマ質量分析計により測定したFe,Ni,Cr,Al及びSbの各金属成分の濃度の和が477質量ppb以下であり」,「Feの濃度が153質量ppb以下であり,Niの濃度が121質量ppb以下であり,Crの濃度が77質量ppb以下であり,Alの濃度が73質量ppb以下であり,Sbの濃度が53質量ppb以下である」,「半導体基板上に形成されたシリコン酸化物,シリコン窒化物,およびシリコン酸窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコン系材料を,前記シリコン系材料の上に形成された開口部を有するレジストパターンをマスクとして,前記マスクに対して,前記シリコン系材料との選択比が10以上で選択的にエッチングする」との構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,引用発明1及び引用例2?5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。


第7 原査定についての判断
当審拒絶理由通知後の補正により,本願発明1?5は「誘導結合プラズマ質量分析計により測定したFe,Ni,Cr,Al及びSbの各金属成分の濃度の和が477質量ppb以下であり」,「Feの濃度が153質量ppb以下であり,Niの濃度が121質量ppb以下であり,Crの濃度が77質量ppb以下であり,Alの濃度が73質量ppb以下であり,Sbの濃度が53質量ppb以下である」,「半導体基板上に形成されたシリコン酸化物,シリコン窒化物,およびシリコン酸窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコン系材料を,前記シリコン系材料の上に形成された開口部を有するレジストパターンをマスクとして,前記マスクに対して,前記シリコン系材料との選択比が10以上で選択的にエッチングする」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1?4に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。


第8 当審拒絶理由について
1.特許法36条6項1号について
当審では,請求項1はFe,Ni,Cr,Al及びSbの濃度の和のみ特定されているところ,各金属成分の比率として任意のものを含む場合にまで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないから,請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないとの拒絶の理由を通知している。
これに対し,令和2年9月1日提出の手続補正書でした補正により,当該補正前の請求項1に「Feの濃度が153質量ppb以下であり,Niの濃度が121質量ppb以下であり,Crの濃度が77質量ppb以下であり,Alの濃度が73質量ppb以下であり,Sbの濃度が53質量ppb以下である」との事項を付加する補正がされた結果,この拒絶の理由は解消された。

2.特許法36条6項2号について
当審では,請求項4は,請求項1と同じ「エッチングガス」の発明であり,かつ,請求項1を引用する請求項であるところ,請求項4における「添加ガスと不活性ガスとを含む」との記載は,その意味が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,令和2年9月1日提出の手続補正書でした補正により,当該補正前の請求項4に「前記ドライエッチングガスは,前記ヘキサフルオロプロペンと,」との事項を追加する補正がされた結果,この拒絶の理由は解消された。


第9 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。




 
審決日 2020-11-24 
出願番号 特願2015-223569(P2015-223569)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宇多川 勉  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 小川 将之
井上 和俊
発明の名称 ドライエッチング方法  

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