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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B44C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B44C
管理番号 1368741
審判番号 不服2020-2043  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-14 
確定日 2020-12-15 
事件の表示 特願2016-561328「特定イベントの特定マーチャンダイジング物品用の熱転写物及びその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月15日国際公開、WO2015/156849、平成29年 8月31日国内公表、特表2017-524553、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2016-561328号(以下「本件出願」という。)は、2014年(平成26年)12月29日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2014年4月7日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年 5月31日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月28日付け:意見書・手続補正書
平成31年 1月11日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和 元年 5月14日付け:意見書・手続補正書
令和 元年10月 7日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 2月14日付け:審判請求書・手続補正書

2 原査定の理由
(1)新規性
本件出願の請求項1?4に係る発明は、優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?3に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。

(2)進歩性
本件出願の請求項1?4、9に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった下記の引用文献1?9及び参考文献10?14に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2010-214636号公報
引用文献2:特表2001-504404号公報
引用文献3:米国特許出願公開第2003/0213842号明細書
引用文献4:特開平11-52863号公報
引用文献5:米国特許第5364688号明細書
引用文献6:米国特許第4610904号明細書
引用文献7:米国特許出願公開第2012/0320428号明細書
引用文献8:特開平10-157399号公報
引用文献9:特開昭61-254399号公報
参考文献10:韓国公開特許第10-2013-0104809号公報
参考文献11:韓国公開特許第10-2013-0123018号公報
参考文献12:米国特許出願公開第2012/0174288号明細書
参考文献13:2013SEASON LAST3 GAMES 「Tシャツチケット」販売開始のお知らせ,[online],日本,東京ベルディ,2013年9月26日,インターネット< URL:https://www.verdy.co.jp/news/1593>
参考文献14:特開2014-81907号公報
(当合議体注:主引用例は引用文献1?3であり、引用文献4?7は請求項1?4に対しての周知例として引用された文献であり、引用文献8?9は請求項9に対しての周知例として引用された文献であり、参考文献10?14は一般的な技術水準を示す文献として、それぞれ引用されたものである。)

3 本願発明
本件出願の請求項1?請求項14に係る発明は、令和2年2月14日にした手続補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1?請求項14に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「 【請求項1】
特定イベントの特定マーチャンダイジング物品用の独特の熱転写物であって、
基礎材料に適用される印刷物を含み、
前記基礎材料は、前記特定マーチャンダイジング物品である衣類品の一部であり、
前記印刷物は、視覚的に認識可能な情報を有し、前記視覚的に認識可能な情報は、テキスト、写真、数字、バーコード、及びQRコード(登録商標)を含み、
前記印刷物を有する前記衣類品は、前記特定イベントの入場券であり、
前記入場券としての機能は、販売されない衣類品に対しては無効に設定され、
固有のバーコードおよび/またはQRコードがイベントの詳細を提供し、前記衣類品が2以上の固有の熱転写物を有する、独特の熱転写物。
【請求項2】
前記テキスト及び写真は、スポンサーのイメージ又は前記特定イベントのロゴを含む、請求項1に記載の独特の熱転写物。
【請求項3】
前記テキスト及び写真は、前記特定イベントの入場券を含む、請求項1に記載の独特の熱転写物。
【請求項4】
前記特定イベントの入場券は、前記特定イベントのユーザ及び座席位置を識別する、請求項3に記載の独特の熱転写物。
【請求項5】
前記特定イベントは、スポーツゲーム、コンサート、見本市、エンターテイメント又は遊園地、貿易博覧会、及びグルメイベントを含む、請求項1に記載の独特の熱転写物。
【請求項6】
紫外線硬化型インキは、前記入場券が本物であり、前記ユーザが適法に取得したことを保障するために偽造防止機能に用いられる、請求項1に記載の独特の熱転写物。
【請求項7】
前記基礎材料は、織物材料、不織布材料、天然材料、又は合成材料を含む、請求項1に記載の独特の熱転写物。
【請求項8】
前記衣類品は、Tシャツ、帽子、ジャージー、セーター、又は衣類アクセサリーを含む、請求項1に記載の独特の熱転写物。
【請求項9】
特定イベントのためのマーチャンダイジング物品であって、
独特の熱転写物を含み、
前記熱転写物は、基礎材料に適用される印刷物を含み、
前記基礎材料は、衣類品の一部であり、
前記印刷物は、テキスト、写真、数字、バーコード、及びQRコード(登録商標)を含む視覚的に認識可能な情報であり、
前記印刷物を有する前記衣類品は、前記特定イベントの入場券であり、
前記入場券としての機能は、販売されない衣類品に対しては無効に設定され、
前記印刷物は、紫外線硬化型インキで印刷され、
固有のバーコードおよび/またはQRコードがイベントの詳細を提供し、前記衣類品が2以上の固有の熱転写物を有する、マーチャンダイジング物品。
【請求項10】
前記テキスト及び写真は、スポンサーのイメージ又は前記特定イベントのロゴを含む、請求項9に記載のマーチャンダイジング物品。
【請求項11】
前記衣類品は、前記スポンサーのイメージ又は前記特定イベントのロゴに相当する追加の熱転写物を含む、請求項10に記載のマーチャンダイジング物品。
【請求項12】
前記テキスト及び写真は、前記特定イベントのユーザ及び座席位置を識別する特定イベントの入場及び入場券を含む、請求項9に記載のマーチャンダイジング物品。
【請求項13】
前記紫外線硬化型インキは、前記入場券が本物であり、前記ユーザが適法に取得したことを保障するために偽造防止機能に用いられる、請求項9に記載のマーチャンダイジング物品。
【請求項14】
特定イベントの特定マーチャンダイジング物品上に独特の熱転写物を使用する方法であって、
特定の視覚的に認識可能な情報と共に前記熱転写物を印刷することと、
衣類品に前記熱転写物を適用することと、
特定イベントの入場券として、前記特定マーチャンダイジング物品である前記衣類品を用いることと、
前記衣類品上の前記熱転写物を装置によりスキャンすることと、
前記熱転写物のスキャニングにより読み取られた情報がデータベースに保存された情報と照合されることにより、前記特定イベントの入場が許諾されることと、
前記熱転写物のスキャニングにより読み取られた情報がデータベースに保存された情報と照合されることにより、ユーザの座席位置を識別することと、
を含み、
印刷物は、テキスト、写真、数字、バーコード、及びQRコード(登録商標)を含む視覚的に認識可能な情報を含む、方法。」

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、特開2010-214636号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【技術分野】【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布基材と、該基材上に光学的読み取り情報又はこれに加えて視覚により識別される情報などを備えた、マラソンのゼッケンなどとして好適に使用できる印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、市民マラソン大会やスキー大会が健康ブームなどから盛況になっており、多くの市民が参加している。このような大会では、大会名及び競技者番号を明示したゼッケンを参加者に配布し、競技当日に着用させているが、競技者番号はゼッケン毎に異なるため、大会名を印刷したゼッケンに一枚一枚競技者番号を手作業によりプリントしているのが実状であり、作業負荷とコスト増の問題が生じている。さらに、近年では、参加者の血液型や病歴などを事前に登録しておき、競技の途中で怪我や事故に遭遇した時に、迅速に対処しようとの要望が持ち上がっている。ところが、近年の個人情報の取り扱いについての関心の向上により、そのような個人情報が他人に容易に漏洩することなく、必要な時に迅速に取り出せるように、各自のゼッケンにそのような情報を組み込んでおくことが理想であると考えられるが、このような手段は未だ解決されていない。
さらには、目の不自由な参加者のために、点字をゼッケンに設けることも要望されているが、点字のような触覚により識別される情報を有するゼッケンを簡易かつ迅速に製造できる技術は未だ開発されていない。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、各印刷物ごとに異なる情報を光学的読み取り可能に印刷し、印刷された光学的読み取り情報を精度良く読み取れ、かつ耐久性に優れ、簡便で低コストで製造できる印刷物を提供することを目的とする。
本発明は、各印刷物ごとに共通する触覚により識別される情報と、各印刷物ごとに異なる光学的読み取り可能な情報を有する印刷物を提供することを目的とする。
本発明は、各印刷物ごとに共通する触覚により識別される情報と、各印刷物ごとに異なる光学的読み取り可能な情報と各印刷物ごとに異なる触覚により識別できる情報を有する印刷物を提供することを目的とする。
本発明は、上記の印刷物を簡便で低コストで製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、特定の不織布基材に紫外線硬化インクを用いてインクジェット方式により光学的読み取り情報を印刷すると、極めて鮮明に光学的読み取り情報を印刷することができ、これにより光学的読み取り精度が向上し、上記課題を解決できるとの知見に基づいて、本発明を完成させた。
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、より簡便で低コストに製造できる、風雨や光に対する耐久性に優れた光学的読み取り情報を備える印刷物を提供することができる。特に、不織布と紫外線硬化インクとを組合せることによって、印刷物に極めて鮮明な光学的読み取り情報を備えさせることが可能となり、光学的手段による読み取りの際のエラーの発生を防ぐことができる。また、本発明によって、光学的手段によって読み取ることが好ましい情報がコード化されて印刷された印刷物を提供することが可能となり、個人情報等の管理が必要な情報を含む簡便な印刷物を提供することができる。加えて、印刷物を複数枚含む印刷物セットであって、セット内の各々の印刷物が、互いに異なった情報を示す光学的読み取り情報と、セット内の全ての印刷物に共通の視覚により識別される情報とを備える印刷物セットを、煩雑な工程を必要とせずに簡便に製造することができる。さらには、廃液処理の観点から、染料インク方式等に比べて、紫外線硬化インクの環境負荷は小さい。」

ウ 「【0021】
紫外線硬化インクを用いて印刷する「光学的読み取り情報」とは、1次元、2次元及び3次元のコード化情報で、例えば、バーコード、QRコード、Data Matrix、PDF417、Maxi Code、Veri Code等の人間は判読(解読)することはできないが専用のリーダを用いることによって内容を判読(解読)可能なものを指す。また、光学的読み取り情報と関連づけされデータベースに記憶される情報の具体的な内容としては、例えば印刷物の使用者本人の氏名、家族の氏名、年齢、住所、性別、電話番号(固定電話、携帯電話)、Eメールアドレス、緊急連絡先、国籍、血液型、既往歴、病歴、緊急時における特定の対処薬・治療法、スポーツイベント等のイベント名・レース名及びイベント等の参加中に預けた物の引き渡し番号等が挙げられる。
・・・中略・・・
【0024】
本発明の印刷物の種類は特に限定されないが、個体の識別標識であることが好ましい。個体の識別標識としては、イベント・レース等のゼッケン及びアミューズメントパーク等の入場券等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に好ましい個体の識別標識はゼッケンである。
・・・中略・・・
【0026】
以下、本発明の実施形態の印刷物の一例であるゼッケンの製造方法について説明する。図1は、本発明の実施形態のゼッケン1を示す図面である。ゼッケン1は、マラソン大会のゼッケンであり、少なくとも参加者の人数と等しい枚数が作成される。
図1に示されているように、ゼッケン1には、マラソン大会の名称2、ゼッケン番号3、バーコード4、およびQRコード5が印刷されている。マラソン大会の名称2は、全てのゼッケンに共通であり、ゼッケン番号3、バーコード4,およびQRコード5はゼッケン毎に異なっている。
【0027】
バーコード4、およびQRコード5は、データベースに記憶されているゼッケン着用者の住所、氏名、年齢、血液型、既往症等の個人情報に関連づけられ、バーコードリーダーで読み取られることによって、ゼッケン着用者の個人情報を読み出すことができる。
【0028】
先ず、バーコード作成用のデータを生成する。参加申し込み書等の記入事項から入手した、各参加者の住所、氏名、年齢、血液型、既往症等の個人情報を、例えば図2に示すように、参加者番号(個人識別情報)と関連付けて記憶したデータベースを作成し記憶手段に記憶させる。
次いで、参加者番号と対応付けられたバーコード(光学的読み取り情報)を印刷するためのバーコード信号を、参加者番号毎に生成する。
【0029】
次に、印刷作業が行われる。Adobeイラストレーター(登録商標)等のソフトウエアを用い、マラソン大会の名称2を印刷するための信号と、特定の参加者のゼッケン番号3を印刷するための信号、および特定の参加者の参加者番号(個人識別情報)に対応したバーコード4、およびQRコード5を印刷するための信号から参加者毎(ゼッケン毎)に合成デジタルデータを作成する。
次いで、このデータをインクジェットプリンタに送信し、上述した不織布の表面に上述した紫外線硬化インクで、マラソン大会の名称2、ゼッケン番号3、バーコード4、およびQRコード5を印刷する。
【0030】
バーコード4、および/またはQRコード5に代え、或いはバーコード4、および/またはQRコード5に加えて、不織布上に紫外線硬化インクで、点字情報を形成してもよい。」

エ 「【実施例】
【0031】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0032】
(実施例1)
以下の要領でマラソン大会用のゼッケンを作製した。
E.I.デュポン製Tyvek(登録商標)不織布(品番1056D)(坪量範囲:52.5g/m^(2)?57.5g/m^(2)、厚み範囲:0.110mm?0.230mm、引き裂き強さ範囲:4.8N/5cm?9.8N/5cm)を、245mm×280mmに切断した。最終ゼッケン形状(200mm×40mm)をプリンターに付帯した自動カット装置で作製するにあたり、トンボ(仕上がりサイズに断裁するための位置や多色刷りの見当合わせのため、版下の天地・左右の中央と四隅などに付ける目印)部分を形成した。ゼッケンに埋め込む視覚により識別される情報として、マラソン大会の名称、ランナーの番号、写真、氏名(アルファベット表記)を収集した。また、光学的読み取り情報として埋め込む仮想情報として、氏名(漢字表記)、家族の氏名、年齢、住所、性別、電話番号(固定電話番号、携帯電話番号)、緊急連絡先、国籍、血液型、参加レース、既往症、病歴、緊急時における特定の対処薬・治療法、スポーツイベント参加中に預けた物の引渡し番号を収集した。
【0033】
仮想情報は、参加者の個人識別情報と関連付けられてデータベース化され、ゼッケンに印刷されるバーコードまたはQRコード(登録商標)をバーコードリーダーで読み取ることにより、データベースから読み出すことができるように加工した。
【0034】
これらを1つのイメージに合成したデジタルデータを、Adobe(登録商標)イラストレーター(登録商標)を用いて各ランナーごとに作成した。ローランド ディ.ジー.社製Versa UV LEC-300およびアクリルエステル類の含量が約30質量%?約45質量%であるアクリルエステル系のE.I.デュポン製インクジェットプリンタ用UV硬化インク:SD-108を用いて、不織布に上記デジタルデータを印刷し、各ランナーごとにカスタマイズされたゼッケンを得た。
得られたゼッケンのうちの1つのバーコードおよびQRコード(登録商標)部分の拡大写真を図3に示す。図3に示されるとおり、ゼッケンのバーコードおよびQRコード(登録商標)の境界はクリアでにじみもなく、容易に光学機器による検出が可能な画像が形成された。また、色調・明度も極めて優れていた。」

オ 「【図1】


【図2】


【図3】



(2)引用文献1に記載された発明
ア 引用物発明1
引用文献1の【0001】には、「不織布基材と、該基材上に光学的読み取り情報又はこれに加えて視覚により識別される情報などを備えた、マラソンのゼッケンなどとして好適に使用できる印刷物に関する」こと、【0021】には、「「光学的読み取り情報」とは、1次元、2次元及び3次元のコード化情報で、例えば、バーコード、QRコード、Data Matrix、PDF417、Maxi Code、Veri Code等の人間は判読(解読)することはできないが専用のリーダを用いることによって内容を判読(解読)可能なものを指す」こと、【0024】には「本発明の印刷物の種類は特に限定されないが、個体の識別標識であることが好ましい。個体の識別標識としては、イベント・レース等のゼッケン及びアミューズメントパーク等の入場券等が挙げられる」こと、【0032】?【0034】には、実施例1として、「ゼッケン形状」の「不織布」に「視覚により識別される情報」及び「光学的読み取り情報」からなる「デジタルデータ」を「インクジェットプリンタ用UV硬化インク」を用いて印刷した「印刷物」が記載されている。

以上勘案すると、引用文献1には、実施例1として、次の発明(以下「引用物発明1」という。)が記載されている。
「 不織布基材と、該基材上に光学的読み取り情報、視覚により識別される情報を備えた印刷物であって、
印刷物は、イベント・レース等のゼッケン及びアミューズメントパーク等の入場券等の個体の識別標識であり、
不織布を切断し、視覚により識別される情報として、マラソン大会の名称、ランナーの番号、写真、氏名を収集し、光学的読み取り情報として埋め込む仮想情報として、氏名(漢字表記)、家族の氏名、年齢、住所、性別、電話番号(固定電話番号、携帯電話番号)、緊急連絡先、国籍、血液型、参加レース、既往症、病歴、緊急時における特定の対処薬・治療法、スポーツイベント参加中に預けた物の引渡し番号を収集し、
仮想情報は、参加者の個人識別情報と関連付けられてデータベース化され、ゼッケンに印刷されるバーコードまたはQRコード(登録商標)をバーコードリーダーで読み取ることにより、データベースから読み出すことができるように加工し、
これらを1つのイメージに合成したデジタルデータを作成し、インクジェットプリンタ用UV硬化インクを用いて、不織布に上記デジタルデータを印刷した印刷物。」

イ 引用方法発明1
また、引用文献1の上記記載に基づけば、引用文献1には、引用物発明1の「印刷物」を使用する方法として、次の発明(以下「引用方法発明1」という。)が記載されている。
「 不織布基材と、該基材上に光学的読み取り情報、視覚により識別される情報を備えた印刷物において、
印刷物は、イベント・レース等のゼッケン及びアミューズメントパーク等の入場券等の個体の識別標識であり、
不織布を切断し、視覚により識別される情報として、マラソン大会の名称、ランナーの番号、写真、氏名を収集し、光学的読み取り情報として埋め込む仮想情報として、氏名(漢字表記)、家族の氏名、年齢、住所、性別、電話番号(固定電話番号、携帯電話番号)、緊急連絡先、国籍、血液型、参加レース、既往症、病歴、緊急時における特定の対処薬・治療法、スポーツイベント参加中に預けた物の引渡し番号を収集し、
これらを1つのイメージに合成したデジタルデータを作成し、インクジェットプリンタ用UV硬化インクを用いて、不織布に上記デジタルデータを印刷し、
仮想情報は、参加者の個人識別情報と関連付けられてデータベース化され、ゼッケンに印刷されたバーコードまたはQRコード(登録商標)をバーコードリーダーで読み取ることにより、データベースから読み出す方法。」

2 対比及び判断
(1)請求項1に係る発明について
ア 対比
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用物発明1を対比すると、以下のとおりとなる。

(ア)特定イベント
引用物発明1の「マラソン大会」は、本願発明1の「特定イベント」に相当する。

(イ)基礎材料
本件出願の明細書の【0006】には、「基礎材料は一般的に不織布材料であるが、この技術分野に公知である任意の適切な材料であってもよい。」と記載されている。そうしてみると、引用物発明1の「不織布(基材)」は、本願発明1の「基礎材料」に相当するといえる。

(ウ)印刷物
引用物発明1の「印刷物」と、本願発明1の「熱転写物」とは、印刷物である点で共通する。
また、引用物発明1の「印刷物」は、「視覚により識別される情報」と「光学的読み取り情報」とを加工して、「1つのイメージに合成したデジタルデータを作成し」、不織布に印刷されることから、本願発明1の「視覚的に認識可能な情報を有し」という要件を満たす。くわえて、引用物発明1の「印刷物」が備える「光学読み取り情報」(仮想情報)は、「バーコードまたはQRコード(登録商標)」で印刷されるものである。
そうしてみると、引用物発明1の「印刷物」は、本願発明1の「熱転写物」における、「視覚的に認識可能な情報は、テキスト、写真、数字、バーコード、及びQRコード(登録商標)を含み」という要件を満たしている。

イ 一致点及び相違点
(ア)一致点
本願発明1と引用物発明1は、次の構成で一致する。
「 特定イベントの印刷物であって、
基礎材料に適用される印刷物を含み、
前記印刷物は、視覚的に認識可能な情報を有し、前記視覚的に認識可能な情報は、テキスト、写真、数字、バーコード、及びQRコード(登録商標)を含む、印刷物。」

(イ)相違点
本願発明1と引用物発明1は、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1は、「特定マーチャンダイジング物品用の独特の熱転写物」であるのに対し、引用物発明1は「インクジェットプリンタ用UV硬化インクを用いて」印刷された「印刷物」である点。

(相違点2)
本願発明1の「基礎材料」は、「特定マーチャンダイジング物品である衣類品の一部であ」るのに対し、引用物発明1の「不織布(基材)」は、このように特定されたものではない点。

(相違点3)
本願発明1は、「印刷物を有する前記衣類品は、前記特定イベントの入場券であり、前記入場券としての機能は、販売されない衣類品に対しては無効に設定され」るのに対し、引用物発明1は、そのような構成を備えていない点。

(相違点4)
本願発明1は、「固有のバーコードおよび/またはQRコードがイベントの詳細を提供、前記衣料品が2以上の固有の熱転写物を有する」のに対し、引用物発明1は、そのような構成を備えていない点。

ウ 判断
事案に鑑みて、上記相違点3について検討する。
(ア)引用物発明1の「印刷物」は、販売されない衣類品に対して入場券としての機能が無効に設定されるものではない。また、原査定の拒絶の理由で参考文献10として引用された韓国公開特許第10-2013-0104809号公報(以下「参考文献10」という。)の段落[0016]?[0017]、参考文献11として引用された韓国公開特許第10-2013-0123018号公報(以下「参考文献11」という。)の段落[0021]?[0022]、参考文献12として引用された米国特許出願公開第2012/0174288号明細書(以下「参考文献12」という。)の段落【0053】、参考文献13として引用された2013SEASON LAST 3 GAMES 「Tシャツチケット」販売開始のお知らせ,[online],日本,東京ベルディ,2013年 9月26日、インターネット< URL:https://www.verdy.co.jp/news/1593>(以下「参考文献13」という。)のTシャツチケット及び参考文献14として引用された特開2014-81907号公報(以下「参考文献14」という。)の図1?3等に記載されているように、各種イベントにおいて販売される物品を入場券として用いることは、本件優先日前における周知技術であるものの、販売されない衣類品に対して入場券としての機能を無効に設定することが本件優先日前において技術常識であったことを示す証拠はない。
以上によれば、上記周知技術を心得た当業者が、仮に引用物発明1に当該周知技術を採用したとしても、相違点3に係る本願発明1の構成に容易に想到し得たとはいえない。

(イ)以上(ア)のとおりであるから、上記相違点1、2及び4について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用物発明1及び参考文献10?14に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)さらに、原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特表2001-504404号公報(以下「引用文献2」という。)、原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である米国特許出願公開第2003/0213842号明細書(以下「引用文献3」という。)、原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開平11-52863号公報(以下「引用文献4」という。)、原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である米国特許第5364688号明細書(以下「引用文献5」という。)、原査定の拒絶の理由で引用文献6として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である米国特許第4610904号明細書(以下「引用文献6」という。)、原査定の拒絶の理由で引用文献7として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である米国特許出願公開第2012/0320428号明細書(以下「引用文献7」という。)、原査定の拒絶の理由で引用文献8として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開平10-157399号公報(以下「引用文献8」という。)、原査定の拒絶の理由で引用文献9として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開昭61-254399号公報(以下「引用文献9」という。)にも、上記相違点3に係る本願発明1の構成は記載されていない。

(2)請求項2?8に係る発明について
本件出願の請求項2?8に係る発明は、いずれも、本願発明1に対してさらに他の発明特定事項を付加した発明であるから、本願発明1における全ての発明特定事項を具備するものである。
そうしてみると、前記(1)ウで述べたのと同じ理由により、これらの発明も、引用文献1?9に記載された発明及び参考文献10?14に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)請求項9?13に係る発明について
本件出願の請求項9に係る発明(以下「本願発明9」という。その他の請求項に係る発明についても同様に称する。)は、前記「第1」「3」に記載したとおり、「特定イベント」のための「マーチャンダイジング物品」であって、「独特の熱転写物」を含み、前記熱転写物は、「基礎材料に適用される印刷物を含」み、「前記基礎材料」は、「衣類品の一部」であり、「前記印刷物」は、「テキスト、写真、数字、バーコード、及びQRコード(登録商標)を含む」「視覚的に認識可能な情報」であり、「前記印刷物を有する前記衣類品は、前記特定イベントの入場券で」あり、「前記入場券としての機能は、販売されない衣類品に対しては無効に設定」され、前記印刷物は、紫外線硬化型インキで印刷され、「固有のバーコードおよび/またはQRコードがイベントの詳細を提供し、前記衣類品が2以上の固有の熱転写物を有する」という本願発明1と同じ発明特定事項を具備してなる発明である。また、本願発明10?13は、いずれも、本願発明9に対してさらに他の発明特定事項を付加してなるマーチャンダイジング物品の発明であるから、同じ前記発明特定事項を具備するものである。
そうしてみると、前記(1)ウで述べたのと同じ理由により、これらの発明も、引用文献1?9に記載された発明、参考文献10?14に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)請求項14に係る発明について
ア 対比
本件補正後の請求項14に係る発明(以下「本願発明14」という。)と引用方法発明1を対比すると、以下のとおりとなる。

(ア)特定イベント
引用方法発明1の「マラソン大会」は、本願発明14の「特定イベント」に相当する。

(イ)印刷物
本願発明14の「熱転写物」は、印刷物であるという点で引用方法発明1の「印刷物」と共通する。また、引用方法発明1の「印刷物」は、「視覚により識別される情報」と「光学的読み取り情報」とを加工して、「1つのイメージに合成したデジタルデータを作成し」、不織布に印刷していることから、本願発明14の「特定の視覚的に認識可能な情報と共に印刷すること」という要件を満たす。さらに、引用方法発明1の「光学読み取り情報」は「バーコードまたはQRコード(登録商標)」を印刷することから、本願発明14の「印刷物は、テキスト、写真、数字、バーコード、及びQRコード(登録商標)を含む視覚的に認識可能な情報を含む」という要件を満たしている。

(ウ)装置によりスキャンすること、情報と照合されること
引用方法発明1の「バーコードリーダー」は、「印刷されたバーコードまたはQRコード(登録商標)」を読み取るものであるから、本願発明14の「装置」に相当し、引用方法発明1は、本願発明14の「装置によりスキャンすること」という構成を備える。
また、引用方法発明1においては、「氏名(漢字表記)」等の「仮想情報」は、「印刷されたバーコードまたはQRコード(登録商標)をバーコードリーダーで読み取ることにより、データベースから読み出」されるものであるから、バーコードリーダーで読み取られた情報とデータベースから読み出す情報との照合が行われることは明らかである。そうすると、引用方法発明1は、本願発明14の「スキャニングにより読み取られた情報がデータベースに保存された情報と照合される」との工程を具備するといえる。

イ 一致点及び相違点
(ア)一致点
本願発明14と引用方法発明1は、次の構成で一致する。
「 特定イベントの印刷物を使用する方法であって、
特定の視覚的に認識可能な情報と共に印刷物を印刷することと、

前記印刷物を装置によりスキャンすることと、
前記印刷物のスキャニングにより読み取られた情報がデータベースに保存された情報と照合されることと、
を含み、
印刷物は、テキスト、写真、数字、バーコード、及びQRコード(登録商標)を含む視覚的に認識可能な情報を含む、方法」

(イ)相違点
本願発明14と引用方法発明1は、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1は「熱転写物」であるのに対し、引用方法発明1は「インクジェットプリンタ用UV硬化インクを用いて」印刷された「印刷物」である点。

(相違点2)
本願発明14は、「特定マーチャンダイジング物品上に独特の熱転写物を使用する」、「衣類品に熱転写物を適用すること」を備えるのに対し、引用方法発明1は、そのような構成を備えていない点。

(相違点3)
本願発明14は、「特定イベントの入場券として、前記特定マーチャンダイジング物品である前記衣類品を用いること」、「前記熱転写物のスキャニングにより読み取られた情報がデータベースに保存された情報と照合されることにより、前記特定イベントの入場が許諾されること」を備えるのに対し、引用方法発明1は、そのような構成を備えていない点。

(相違点4)
本願発明14は「スキャニングにより読み取られた情報がデータベースに保存された情報と照合されることにより、ユーザの座席位置を識別すること」を備えるのに対し、引用方法発明1は、そのような構成を備えていない点。

ウ 判断
事案に鑑みて、上記相違点4について検討する。
(ア)引用方法発明1は、「参加者の個人識別情報」を「データベースから読み出す」ことが記載されているものの、「個人識別情報」は「氏名(漢字表記)、家族の氏名、年齢、住所、性別、電話番号(固定電話番号、携帯電話番号)、緊急連絡先、国籍、血液型、参加レース、既往症、病歴、緊急時における特定の対処薬・治療法、スポーツイベント参加中に預けた物の引渡し番号」であって、ユーザの座席位置を識別することについては記載がない。また、原査定の拒絶の理由で引用された参考文献10?14に記載されているように、各種イベントにおいて販売される物品を入場券として用いることは、本件優先日前における周知技術であるものの、ユーザの座席位置を識別することが本件優先日前において技術常識であったことを示す証拠はない。
以上によれば、上記周知技術を心得た当業者が、仮に引用方法発明1に当該周知技術を採用したとしても、相違点4に係る本願発明14の構成に容易に想到し得たとはいえない。

(イ)以上(ア)のとおりであるから、上記相違点1?3について判断するまでもなく、本願発明14は、当業者が引用方法発明1及び参考文献10?14に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)さらに、引用文献2?9にも、上記相違点4に係る本願発明14の構成は記載されていない。

第3 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1?14に係る発明は、引用文献1?9に記載された発明及び参考文献10?14に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-11-27 
出願番号 特願2016-561328(P2016-561328)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (B44C)
P 1 8・ 121- WY (B44C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 亮川村 大輔  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 神尾 寧
井口 猶二
発明の名称 特定イベントの特定マーチャンダイジング物品用の熱転写物及びその使用方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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