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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61B 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B |
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管理番号 | 1368782 |
審判番号 | 不服2019-8063 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-06-18 |
確定日 | 2020-12-15 |
事件の表示 | 特願2015-562259「電流補償を伴う皮膚電気活動測定のための装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月25日国際公開、WO2014/147024、平成28年 6月 9日国内公表、特表2016-516461、請求項の数(21)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2014年(平成26年)3月17日(パリ条約による優先権主張 2013年3月16日 米国、2013年3月16日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年1月23日付けで拒絶理由が通知され、同年6月27日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月26日付けで拒絶理由が通知され、平成31年1月30日に意見書及び手続補正書が提出され、同年2月14日付けで拒絶査定されたところ、令和元年6月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後当審において令和2年3月9日付けで拒絶理由が通知され、同年9月9日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?21に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」?「本願発明21」という。)は、令和2年9月9日に提出された手続補正書による手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 皮膚電気活動を測定するための装置であって、 皮膚の角質層の第1の部分と接触するように構成された第1の電極と、 前記角質層の第2の部分と接触し前記角質層を介して前記第1の電極と電子的に連絡するように構成された第2の電極と、 前記第1の電極及び前記第2の電極に電気的に結合され、コンピュータ実行可能な命令を実行するように構成されたプロセッサであって、前記命令は、 (a)前記第1の電極に第1の電圧V+で及び前記第2の電極に第2の電圧V-でバイアスをかけること、 (b)補償電圧を動的に設定すること、 (c)前記第1の電極と前記第2の電極との間を流れる第1の電流を測定することであって、前記第1の電流は前記角質層のコンダクタンスに対応すること、 (d)前記第1の電流から補償電流を減じて第2の電流を得ることであって、前記補償電流は、前記プロセッサによって設定される前記補償電圧の準線形関数である、こと、 (e)前記第2の電流を増幅し、前記第2の電流を出力電圧に変換すること、 (f)前記出力電圧から、前記角質層のコンダクタンスを計算することであって、前記角質層のコンダクタンスは、前記皮膚電気活動の度合いを示す、こと、 (g)前記出力電圧が飽和値より大きいか否かを判定すること、及び、 (h)前記出力電圧が前記飽和値より大きいと判定したことに応答して、前記出力電圧の飽和を避けるように、前記補償電圧を増大させ、前記皮膚電気活動が持続性レベル及び一過性レベルで測定されるようにすること、 を含む、プロセッサと、 を備える装置。」 なお、本願発明2?21の概要は以下のとおりである。 本願発明2?7は、本願発明1を減縮した装置の発明である。 本願発明8は、本願発明1を減縮したウェアラブル・デバイスの発明である。 本願発明9?17は、本願発明8を減縮したウェアラブル・デバイスの発明である。 本願発明18は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1で「プロセッサ」が処理するために行っている「増幅された出力電圧」をデジタル信号に変換することを明示し、「出力電圧」に基づいて求められる「補償電圧」について、「デジタル対アナログ変換器が生成する」と限定し、本願発明1のカテゴリを方法の発明として構成した発明である。 本願発明19?21は、本願発明18を減縮した発明である。 第3 引用文献の記載事項、引用発明 1 引用文献1について (1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特表2012-515580号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同様。)。 (1-ア) 「【請求項11】 主体の組織の電気インピーダンスを測定するための測定装置であって、前記主体の皮膚と直接接触して配置されるように構成されている複数の電極を有するプローブと、前記電極のうちの2つで電圧を与えるか電流を注入して結果的な電流または結果的な電圧を測定してインピーダンス信号を決定するように構成されているインピーダンス測定回路とを具備している測定装置において、前記測定装置はさらに、 少なくとも電極のうちの2つを前記インピーダンス測定回路に接続し、前記インピーダンス回路から前記残りの電極の接続を遮断することにより電極対を選択的に付勢するスイッチング回路を具備しており、ここで前記電圧は前記2つの電極で与えられ、前記結果的な電流は前記少なくとも2つの電極間で測定され、測定装置はさらに、 予め定められた付勢方式にしたがって電極を付勢するように前記スイッチング回路を制御するように構成されている制御装置を具備し、前記予め定められた付勢方式においては少なくとも第1の組織の深さからインピーダンス信号のシーケンスを得るように前記第1の組織の深さにおいて前記主体の組織を漸進的に走査するように連続方法により隣接する電極を付勢する測定装置。」 (1-イ) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、生物学的状態の診断の分野、および生体組織のインピーダンスを非侵襲的に測定し、組織の生物学的状態、例えば悪性黒色腫または基底細胞癌のような皮膚癌の存在の診断において測定されたインピーダンスを使用するためのプローブ、医療機器及び方法に関する。特に本発明は深さと横方向の拡がりの両者に関して改良されたディメンション分解能を有するインピーダンスデータを与え、それによってこのような悪性黒色腫のような病的な皮膚状態の早期の検出が可能になる。」 (2)上記(1-ア)?(1-イ)の記載を踏まえれば、上記引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「(A)主体の組織の電気インピーダンスを測定するための測定装置であって、 (B)前記主体の皮膚と直接接触して配置されるように構成されている複数の電極を有するプローブと、 (C)前記電極のうちの2つで電圧を与えるか電流を注入して結果的な電流または結果的な電圧を測定してインピーダンス信号を決定するように構成されているインピーダンス測定回路とを具備している測定装置において、 (D)前記測定装置はさらに、 少なくとも電極のうちの2つを前記インピーダンス測定回路に接続し、前記インピーダンス回路から前記残りの電極の接続を遮断することにより電極対を選択的に付勢するスイッチング回路を具備しており、 (E)ここで前記電圧は前記2つの電極で与えられ、前記結果的な電流は前記少なくとも2つの電極間で測定される測定装置。」 2 引用文献2について (1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(欧州特許出願公開第2322395号明細書)には、次の事項が記載されている。 (2-ア) 「[0001] This invention relates generally to a front-end circuit of an electro-optical sensing device and relates more specifically to accommodate an infrared pulse of a light receiving diode (LRD), receiving transmitted light from a light source, in presence of ambient current (ambient light in an LRD) for a rain-sensing system. This performs measurements of the attenuation of reflected infrared LED light due to increased scattering of light by rain. 」 (当審訳:本発明は、一般に、電気光学検知装置のフロントエンド回路に関するものであり、雨感知システムの、周囲光(LRDの環境光)の存在下で、光源から透過される光を受光して、受光ダイオード(LRD)の赤外線パルスの調節に特に関連する。これは、雨により散乱光が増加することによる、反射された赤外光の減衰の測定をなし遂げる。) (2-イ) 「Claims ・・・ 18.A system to accommodate a photo diode current receiving a signal light of a sensor application in presence of ambient light having a high dynamic range comprises: said photo diode, receiving a signal light and ambient light, generating an output current; and a front-end circuit comprising: a programmable means to convert said output current of the photo diode to a voltage; a programmable means to amplify said voltage converted from the output current; an analog-to-digital converter to convert said amplified voltage to digital values; a first filtering means to filter the output of the analog-to-digital converter; a second filtering means to filter the output of the first filtering means; a digital unit receiving input from said first filtering means controlling current digital-to-analog converting means and generation of a current calibrating the system; and said current digital-to-analog converting means to successively subtract off a current generated by ambient light at an input of said programmable means to convert said output current of the photo diode to a voltage.」 (当審訳:特許請求の範囲 ・・・ 18.高いダイナミックレンジを有する周囲光の存在下でセンサの信号光を受光しフォトダイオード電流を調整する次の構成を備えるシステム。 「信号光及び周囲光を受光し出力電流を生成する前記フォトダイオードと以下の構成を含むフロントエンド回路」 「前記フォトダイオードの出力電流を電圧に変換するプログラム可能な手段; 出力電流から変換された前記電圧を増幅するプログラム可能な手段; 前記増幅された電圧をデジタル値に変換するアナログ・デジタル変換器; 前記アナログ・デジタル変換器の出力をフィルタリングする第1フィルタリング手段; 前記第1フィルタリング手段の出力をフィルタリングする第2フィルタリング手段; 前記第1フィルタリング手段からの入力を受け取り、電流デジタル/アナログ変換手段とシステムを較正する電流の生成を調整するデジタルユニット; 前記フォトダイオードの出力電流を電圧に変換する前記プログラム可能な手段の入力において、周囲光により生成された電流を連続して減算する、前記電流デジタル/アナログ変換手段」) 第4 対比・判断 1 本願発明1について (1)本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 装置について (ア)引用発明は「(B)前記主体の皮膚と直接接触して配置されるように構成されている複数の電極」を用いて「(A)主体の組織の電気インピーダンスを測定するための測定装置」であるから、本願発明1の「皮膚電気活動を測定するための装置」に相当する。 イ 2つの電極について (ア)引用発明の「(B)」「プローブ」の「有する」「複数の電極」のそれぞれは、「前記主体の皮膚と直接接触して配置されるように構成されて」おり、皮膚の表面が角質層であるから、本願発明1の「皮膚の角質層の」「部分と接触するように構成された」「電極」に相当する。 (イ)また、引用発明の「(C)」「インピーダンス測定回路」の「前記電極のうちの2つ」は、それらに「電圧を与えるか電流を注入して結果的な電流または結果的な電圧を測定」するから、前記2つの電極は主体の皮膚の表面を介して電子的に連絡するように構成されているといえるので、本願発明1の「皮膚の角質層の第1の部分と接触するように構成された第1の電極と、 前記角質層の第2の部分と接触し前記角質層を介して前記第1の電極と電子的に連絡するように構成された第2の電極」に相当する。 ウ 2つの電極間に電気的に結合されたプロセッサについて (ア)引用発明の「(C)」「インピーダンス測定回路」は、「インピーダンス信号を決定するように構成されて」おり、「測定装置」が「回路を」「具備している」が、「インピーダンス測定回路」にはアナログ方式のものも含まれていることから、測定装置が2つの電極に電気的に結合され、コンピュータ実行可能な命令を実行するように構成されたプロセッサを備えているかは不明である。 (イ)以上より、引用発明の「(C)前記電極のうちの2つで電圧を与えるか電流を注入して結果的な電流または結果的な電圧を測定してインピーダンス信号を決定するように構成されているインピーダンス測定回路とを具備している測定装置」と、 本願発明1の「前記第1の電極及び前記第2の電極に電気的に結合され、コンピュータ実行可能な命令を実行するように構成されたプロセッサ」「を備える装置。」とは、 「前記第1の電極及び前記第2の電極に電気的に結合された回路を備える装置。」で共通する。 エ プロセッサの実行可能な命令について (ア)引用発明の「(C)」「インピーダンス測定回路」は、「前記電極のうちの2つで電圧を与える」ことと、 本願発明1の「(a)前記第1の電極に第1の電圧V+で及び前記第2の電極に第2の電圧V-でバイアスをかけること」とは、 「(a)前記第1の電極に第1の電圧及び前記第2の電極に第2の電圧を与えること」で共通する。 (イ)本願発明1の「(d)前記第1の電流から補償電流を減じて第2の電流を得ることであって、前記補償電流は、前記プロセッサによって設定される前記補償電圧の準線形関数である、こと、(e)前記第2の電流を増幅し、前記第2の電流を出力電圧に変換すること、(f)前記出力電圧から、前記角質層のコンダクタンスを計算すること」は、第1の電流から角質層のコンダクタンスを計算するといえる。 そうすると、上記(ア)を踏まえると、引用発明の「(C)」「結果的な電流」「を測定してインピーダンス信号を決定するように構成されている」ことと、 本願発明1の「(c)前記第1の電極と前記第2の電極との間を流れる第1の電流を測定することであって、前記第1の電流は前記角質層のコンダクタンスに対応すること、 (d)前記第1の電流から補償電流を減じて第2の電流を得ることであって、前記補償電流は、前記プロセッサによって設定される前記補償電圧の準線形関数である、こと、 (e)前記第2の電流を増幅し、前記第2の電流を出力電圧に変換すること、 (f)前記出力電圧から、前記角質層のコンダクタンスを計算することであって、前記角質層のコンダクタンスは、前記皮膚電気活動の度合いを示す」こととは、 「(c)前記第1の電極と前記第2の電極との間を流れる第1の電流を測定することであって、前記第1の電流は前記角質層の電気的特性に対応すること」、 「(d)前記第1の電流」「(f)」「から、前記角質層の電気的特性を計算することであって、前記角質層の電気的特性は、前記皮膚電気活動の度合いを示す」ことで共通する。 (2)よって、本願発明1と引用発明とは、 「皮膚電気活動を測定するための装置であって、 皮膚の角質層の第1の部分と接触するように構成された第1の電極と、 前記角質層の第2の部分と接触し前記角質層を介して前記第1の電極と電子的に連絡するように構成された第2の電極と、 前記第1の電極及び前記第2の電極に電気的に結合された回路であって、 (a)前記第1の電極に第1の電圧及び前記第2の電極に第2の電圧を与えること、 (c)前記第1の電極と前記第2の電極との間を流れる第1の電流を測定することであって、前記第1の電流は前記角質層の電気的特性に対応すること、 (d)前記第1の電流 (f)から、前記角質層の電気的特性を計算することであって、前記角質層の電気的特性は、前記皮膚電気活動の度合いを示す、こと、 を含む、回路と、を備える装置。」 の発明である点で一致し、次の相違点1?4で相違する。 (相違点1) 第1の電圧及び第2の電圧を与えることが、本願発明1では、それぞれ、「V+」及び「V-」で「バイアスをかける」のに対して、引用発明では、第1の電圧の値、第2の電圧の値を特定していない点。 (相違点2) 皮膚電気活動の度合いを示す電気的特性が、本願発明1では、「コンダクタンス」であるのに対して、引用発明では、「インピーダンス」である点。 (相違点3) 第1の電極及び前記第2の電極に電気的に結合された回路について、本願発明1では、「コンピュータ実行可能な命令を実行するように構成されたプロセッサ」であるのに対して、引用発明では、そのような特定がされていない点。 (相違点4) 本願発明1では、「(b)補償電圧を動的に設定すること、 (d)前記第1の電流から補償電流を減じて第2の電流を得ることであって、前記補償電流は、前記プロセッサによって設定される前記補償電圧の準線形関数である、こと、 (e)前記第2の電流を増幅し、前記第2の電流を出力電圧に変換すること、 (f)前記出力電圧から、前記角質層の電気的特性を計算すること、 (g)前記出力電圧が飽和値より大きいか否かを判定すること、及び、 (h)前記出力電圧が前記飽和値より大きいと判定したことに応答して、前記出力電圧の飽和を避けるように、前記補償電圧を増大させ、前記皮膚電気活動が持続性レベル及び一過性レベルで測定されるようにすること」を含むのに対して、引用発明では、そのような特定がされていない点。 (3)相違点についての判断 ア 事案に鑑み、相違点4について先に検討する。 上記引用文献2には、相違点4に係る本願発明1の構成のうち、「(d)前記第1の電流から補償電流を減じて第2の電流を得ること、」に相当する構成が記載されているといえるが、「(e)前記第2の電流を増幅し、前記第2の電流を出力電圧に変換すること、 (f)前記出力電圧から、前記角質層の電気的特性を計算すること、 (g)前記出力電圧が飽和値より大きいか否かを判定すること、及び、 (h)前記出力電圧が前記飽和値より大きいと判定したことに応答して、前記出力電圧の飽和を避けるように、前記補償電圧を増大させ、前記皮膚電気活動が持続性レベル及び一過性レベルで測定されるようにすること」に相当する構成は記載されていない。 したがって、相違点4に係る本願発明1の構成は、上記引用文献2には記載されておらず、さらに本願優先日前において周知技術であるともいえない。 イ そうすると、引用発明及び引用文献2の記載事項から、当業者であっても上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想起し得たとはいえない。 ウ したがって、本願発明1は、相違点1?3を検討するまでもなく、当業者であっても引用発明及び引用文献2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 本願発明2?21について 本願発明2?7は、本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 本願発明8は、本願発明1を減縮したウェアラブル・デバイスの発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 本願発明9?17は、本願発明8を減縮した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 本願発明18は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1で「プロセッサ」が処理するために行っている「増幅された出力電圧」をデジタル信号に変換することを明示し、「出力電圧」に基づいて求められる「補償電圧」について、「デジタル対アナログ変換器が生成する」と限定し、本願発明1のカテゴリを方法の発明として構成した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 本願発明19?21は、本願発明18を減縮した発明であるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定(平成31年2月14日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願の請求項1?21に係る発明は、上記引用文献1?2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 しかし、審判請求時の補正により、本願発明1は「(g)前記出力電圧が飽和値より大きいか否かを判定すること、及び、 (h)前記出力電圧が前記飽和値より大きいと判定したことに応答して、前記出力電圧の飽和を避けるように、前記補償電圧を増大させ、前記皮膚電気活動が持続性レベル及び一過性レベルで測定されるようにすること」という特定事項を有するものとなっており、当業者であっても、原査定において引用された引用文献1?2に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。 本願発明2?21についても同様である したがって、原査定の理由を維持することはできない 第6 当審拒絶理由について 1.特許法第36条第6号第2号について (1)当審では、請求項1の「(f)前記出力電圧に基づいて、前記角質層のコンダクタンスを計算することであって、前記角質層のコンダクタンスは、前記皮膚電気活動の度合いを示す、こと、」について、「前記出力電圧」に基づいて、「前記角質層のコンダクタンス」をどのように「計算する」のかが明確でないので、「前記出力電圧」と「前記出力電圧に基づいて」「計算する」「前記角質層のコンダクタンス」の関係が明確でないとの拒絶の理由を通知しているが、令和2年9月9日に提出された手続補正書による手続補正において、「(f)前記出力電圧から、前記角質層のコンダクタンスを計算する」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 (2)当審では、請求項1の「(h)前記出力電圧が前記飽和値より大きいと判定したことに応答して、前記補償電流が減少して前記出力電圧の飽和を避けるように、前記補償電圧を増大させ、前記皮膚電気活動が持続性レベル及び一過性レベルで測定されるようにすること、」について、「前記補償電流が減少して」について、「前記出力電圧が前記飽和値より大きいと判定したことに応答して」「前記補償電流」を「減少」させることを意味するのか、それとも、「前記補償電流が減少」することによる(補償電流が少ないことによる)「前記出力電圧の飽和を避ける」ことを意味するのか、それ以外のことを意味するのか不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、令和2年9月9日に提出された手続補正書による手続補正において、「(h)前記出力電圧が前記飽和値より大きいと判定したことに応答して、前記出力電圧の飽和を避けるように、前記補償電圧を増大させ、」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 (3)当審では、請求項18の「前記増幅された出力電圧に基づいて、前記角質層のコンダクタンスを計算することと、」について、「前記出力電圧」に基づいて、「前記角質層のコンダクタンス」をどのように「計算する」のかが明確でないので、「前記増幅された出力電圧」と「前記増幅された出力電圧に基づいて」「計算する」「前記角質層のコンダクタンス」の関係が明確でないとの拒絶の理由を通知しているが、令和2年9月9日に提出された手続補正書による手続補正において、「前記増幅された出力電圧に基づいて、前記角質層のコンダクタンスを計算する」を「前記増幅された出力電圧から、前記角質層のコンダクタンスを計算する」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 (4)当審では、請求項18の「前記変換された増幅された出力電圧に基づいて、前記アナログ対デジタル変換器の電圧を調節し、前記補償電流を調整すること、を含み、」について、「前記アナログ対デジタル変換器の電圧を調節」するとは「前記アナログ対デジタル変換器」を作動させる電圧を調整することを意味するのか、「前記アナログ対デジタル変換器」に入力する電圧を制御することを意味するのか、「前記アナログ対デジタル変換器」からの出力電圧を制御することを意味するのか、それ以外を意味するのか不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、令和2年9月9日に提出された手続補正書による手続補正において、「アナログ対デジタル変換器の電圧」を全て「デジタル対アナログ変換器が生成する補償電圧」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-11-30 |
出願番号 | 特願2015-562259(P2015-562259) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A61B)
P 1 8・ 537- WY (A61B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 樋熊 政一、永田 浩司 |
特許庁審判長 |
森 竜介 |
特許庁審判官 |
渡戸 正義 信田 昌男 |
発明の名称 | 電流補償を伴う皮膚電気活動測定のための装置 |
代理人 | 大貫 敏史 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 江口 昭彦 |
代理人 | 内藤 和彦 |