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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1368950
審判番号 不服2019-14485  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-30 
確定日 2020-12-02 
事件の表示 特願2016-512065号「イオン源及びその動作方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月6日国際公開、WO2014/179677号、平成28年8月4日国内公表、特表2016-522964号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)5月2日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2013年(平成25年)5月3日 米国)を国際出願日とする特願2016-512065号であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年12月 2日 :翻訳文提出
平成29年 4月18日 :手続補正書の提出
平成30年 2月28日付け:拒絶理由通知
平成30年 5月 9日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年10月 9日付け:拒絶理由通知(最後)
平成31年 1月 8日 :意見書、手続補正書の提出
令和元年 6月11日付け:平成31年1月8日になされた手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定(謄本発送 令和元年7月2日)
令和元年10月30日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和2年 3月11日 :上申書の提出

第2 令和元年10月30日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年10月30日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項3の記載は次のとおり補正された(下線部は、当審が付したものであり、補正箇所である。)
「【請求項1】
イオン源チャンバと、
前記イオン源チャンバ内に配置され、電子を放出して前記イオン源チャンバ内にアークプラズマを発生するように構成されたカソードと、
電子を前記アークプラズマ中に跳ね返すように構成されたリペラーと、
前記イオン源チャンバ内に配置された反応性挿入体とを具えたイオン源であって、
前記イオン源チャンバ及び前記カソードは難溶性金属を含み、
前記反応性挿入体は、前記イオン源チャンバ内に導入されるハロゲン種と相互作用して、第1組の動作条件下で前記イオン源チャンバ内の前記難溶性金属の第1エッチング速度を生じさせ、この第1エッチング速度は、前記反応性挿入体を前記イオン源チャンバ内に配置しない際の前記第1組の動作条件下での、前記イオン源チャンバ内の前記難溶性金属の第2エッチング速度よりも低く、これにより、エッチングされた前記難溶性金属の再堆積によって生じる、前記イオン源チャンバの内面上における前記難溶性金属の再成長を防止し、
前記反応性挿入体は、イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作すると共に、犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する
ことを特徴とするイオン源。
【請求項3】
前記反応性挿入体がシリコンを含むことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年5月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項3の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
イオン源チャンバと、
前記イオン源チャンバ内に配置され、電子を放出して前記イオン源チャンバ内にアークプラズマを発生するように構成されたカソードと、
電子を前記アークプラズマ中に跳ね返すように構成されたリペラーと、
前記イオン源チャンバ内に配置された反応性挿入体とを具えたイオン源であって、
前記イオン源チャンバ及び前記カソードは難溶性金属を含み、
前記反応性挿入体は、前記イオン源チャンバ内に導入されるハロゲン種と相互作用して、第1組の動作条件下で前記イオン源チャンバ内の前記難溶性金属の第1エッチング速度を生じさせ、この第1エッチング速度は、前記反応性挿入体を前記イオン源チャンバ内に配置しない際の前記第1組の動作条件下での、前記イオン源チャンバ内の前記難溶性金属の第2エッチング速度よりも低く、これにより、エッチングされた前記難溶性金属の再堆積によって生じる、前記イオン源チャンバの内面上における前記難溶性金属の再成長を防止することを特徴とするイオン源。
【請求項3】
前記反応性挿入体がシリコンを含むことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。」

2 補正の適否
2-1 新規事項
(1)本件補正は、本件補正前の請求項1を引用する請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「シリコンを含む」「反応性挿入体」について、「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作すると共に、犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」との限定を付加するものである。

(2)上記(1)の「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作する」こと、及び、「犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」ことに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には下記のとおり記載されている。
「【0007】
種々の好適な実施形態では、イオン源が、イオン源の性能を向上させ、及び/または動作寿命を延長するように構成される。本実施形態により構成したイオン源は、難溶性金属で構成され高温で動作するように設計されたイオン源を含む。こうしたイオン源には傍熱カソード(IHC)型イオン源が含まれ、IHCイオン源では、カソードが2000℃を超える温度、例えば約2200℃で動作することができる。これらのイオン源は、少なくとも部分的に、タングステン、モリブデン、または他の難溶性材料で構成することができる。動作中には、イオン源チャンバ壁のようなイオン源の他の部分が、500℃?約1000℃、特に500℃?約800℃の範囲内の温度に達し得る。本実施形態では、難溶性金属で構成されたイオン源に反応性挿入体をイオン源チャンバ内に配置して設け、この反応性挿入体は、アーク放電(アークプラズマ)をイオン源チャンバ内に点孤する際に発生するエッチング種に晒される。ハロゲンガス、ハロゲンガスまたはハロゲンガスの生成物のようなハロゲン種を用いたイオン源の動作中に、反応性挿入体がハロゲン種と共に相互作用して、イオン源チャンバ内での難溶性金属のエッチングを低減する。本明細書で用いる「ハロゲン種」とは、プラズマ中に生成され得るあらゆるハロゲン含有ガス化合物及びその誘導体を称する。このことは、イオン源構成部品の腐食を低減すると共に、エッチングされた難溶性金属の再堆積によって生じるイオン源の高温表面上の難溶性金属成長を防止する有益な効果を有する。難溶性金属成長の低減は、再成長する難溶性金属堆積物によって発生し得る不安定性及び/または短絡を低減または防止する。以下に詳述するように、ハロゲン種及び/または反応性挿入体は、イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作することができ、このイオン化ポテンシャルは約11eV以下である。このことは、アークプラズマ中の電子温度を低下させ、暗示的にプラズマ電位を低下させ、これにより、アークチャンバ壁の前方またはアーク電極の前方にあるシースを横断するイオンの低い衝撃エネルギーを生じさせる、という効果を有する。低いイオンエネルギーは、難溶性金属表面のイオンスパッタ量の低減に形を変える。反応性挿入体は、ハロゲン種を有する反応生成物を発生し、これによりハロゲン種と難溶性金属表面との反応を低減するための犠牲材料としても機能し、これにより、イオン源の動作中に、こうした表面のエッチング速度が、反応性挿入体が無い際のエッチング速度に比べて低下する。
【0008】
図1Aに、本発明の実施形態によるイオン源100の一般的特徴を示す。イオン源100は、イオン源チャンバ102を含む傍熱カソード(IHC)型イオン源であり、イオン源チャンバ102は、カソード104、リペラー108、及び抽出スリット113を有する抽出プレート112を収容する。イオン源100は、カソード104を加熱するためのフィラメント106も含む。動作中には、気体種のような種が、ガス・マニホールド(多岐管)110によってガス注入口111を通してイオン源チャンバ102の内部114に供給される。ガス・マニホールド110は、気体種または蒸気の形態の供給原料を供給することができ、この供給原料はイオン源チャンバ102内でイオン化される。本発明によれば、適切な供給原料は、ホウ素(B)、炭素(C)、リン(P)、ヒ素(As)、珪素(Si)、水素(H)、及びフッ素(F)の気体化合物を1つ以上含む。実施形態はこの関係に限定されない。
【0009】
カソード104が加熱され、チャンバ102とカソード104及びリペラー108との間に電位差(電圧)が印加されると、プラズマ116を発生することができ、カソードとリペラーとは同じ電位に保持される。イオン源100は、カソード104及びフィラメント106用の電源を含む種々の従来構成要素に結合され、これらの構成要素は明瞭にするために図示しない。種々の実施形態では、イオン源チャンバ、及びカソード104及びリペラー108を含むその内部の構成要素が、タングステン、モリブデン、または他の難溶性金属で構成される。種々の実施形態では、供給原料をハロゲン種の形態で供給することができる。例えば、イオン源100は、B、P、As、Si、または他の種のイオン注入用の従来のビームライン装置内で使用することができ、これらの種の各々はハロゲン含有前駆体種から導出することができる。イオン源100が発生するイオン用の前駆体として用いることができるハロゲン種の例は、とりわけ、BF_(3)、PF_(3)、SiF_(4)、B_(2)F_(4)、GeF_(4)を含む。さらに、ハロゲン種は他のハロゲン種の生成物を含む。例えば、BF_(3)ガスをイオン源に供給して、とりわけ、BF_(3)イオン、BF_(2)中性体、BF_(2)イオン、BF中性体、BFイオン、F中性体、Fの正及び負イオン、及び他の中性ラジカルまたはイオンB_(x)F_(y)のすべてを、元のBF_(3)ガスから1つ以上のプロセスを通して生成することができ、すべてがハロゲン種であると考えられる。実施形態はこの関係に限定されない。
【0010】
図1にさらに示すように、イオン源100は一対の反応性挿入体118を含む。図に示す例では、第1反応性挿入体118をイオン源チャンバ102の第1領域(上部)内に示すのに対し、第2反応性挿入体をイオン源チャンバの第2領域(下部)内に示す。他の実施形態では、単一の反応性挿入体または3つ以上の反応性挿入体をイオン源内に含めることができる。特に、他の実施形態では、図1Bの透視図に見られるように、一対の反応性挿入体を、イオン源チャンバ102のそれぞれ左部領域及び右部領域内に配置することができる。以下に詳述するように、反応性挿入体118は、ハロゲン含有種と反応して、イオン源チャンバ102内での難溶性金属材料のエッチングまたは腐食を制限するように構成されている。カソード104及びリペラー108は共に難溶性金属で構成されているので、こうした腐食の低減は両者の寿命を増加させ、この増加がイオン源の寿命を向上させる。
【0011】
タングステンで構成されたIHCイオン源の場合、本発明の発明者は、挿入体118に用いられる材料と、イオン源チャンバ102に供給されるハロゲン種との特定の組合せが、タングステンの腐食を低減するに当たり特に有効であることを発見した。従来の動作では、いわゆるハロゲンサイクルが、フッ素種のようなハロゲン種の存在下で、比較的低温の表面からのタングステン原子の除去、及びこれらの原子の比較的高温の表面上への再堆積を生じさせる。イオン源100の動作中に、反応性挿入体118と反応種との組合せを提供することによって、アークプラズマ116の化学的性質及びエネルギー論を、タングステン・エッチングを低減する様式に変化させることができる。
【0012】
一組の実験では、単一プレートから成るα-アルミナ(「酸化アルミニウム」または「Al_(2)O_(3)」)挿入体をタングステンIHCイオン源チャンバ内に配置し、このチャンバ内に、異なるフッ素化ガスを用いて放電を生成した。特に、NF_(3)をイオン源チャンバに供給しながら、イオン源内のアークプラズマを65時間動作させた。動作後には、カソードの表面上の厚さ約1?2cmのタングステン堆積物を含む大量のタングステン堆積物が、イオン源チャンバ全体にわたって観測された。特に、一例では、NF_(3)をイオン源チャンバに供給しながら、イオン源内のアークプラズマを65時間動作させた。動作後には、カソード及びリペラーの表面上の厚さ約1?3mmの堆積物を含む大量のタングステン堆積物が、イオン源チャンバ全体にわたって観測された。第2の例では、ほぼ同一の動作条件下で、但しBF_(3)をイオン源チャンバに供給して、イオン源内のアークプラズマを120時間動作させた。動作後には、小量のタングステン再堆積しか観測されなかった。
【0013】
他の実験では、NF_(3)及びBF_(3)ベースのアークプラズマの両者を用いたイオン源の動作中に抽出したイオンビームの質量スペクトルを収集して比較した。図2Aに、IHCイオン源に2.1sccm(標準状態で2.1cm^(3)/分)のNF_(3)及び0.4sccmのH_(2)を供給した際に、このIHCイオン源から抽出したイオンの質量スペクトル200を例示する。イオン電流をイオン質量/電荷の比率の関数としてプロットした質量スペクトルは、ラベル付けした複数のピークによって特徴付けられる。これらは、アルミニウム種、及びNF_(3)先駆体種から導出された副産物を含む。特に、スペクトル領域202は、一価アルミニウムAl^(+)に起因する約4mAの電流を表すピークを含み、その質量/電荷比は約27amu(atomic massunit:原子質量単位)である。質量スペクトル200はピーク204及びピーク205も含み、それぞれAlF^(2+)及びALF^(+)を示し、これらは、NF_(3)から導出されたフッ素種のAl_(2)O_(3)との反応の結果として形成され得る。また、質量スペクトル200中には広幅のピーク206も存在し(これは、6つの同位体の畳み込みである)、そのピーク電流は約1mAであり、W^(2+)に起因する。これらの結果は、65時間の動作後にカソード上に大量に再堆積したタングステンの観測と併せて、2.1sccmのNF_(3)及び0.4sccmのH_(2)のガス流量条件下で大量のタングステン元素種がイオン源放電中に生成されることを示している。
【0014】
これとは対照的に、図2Bは、2.3sccmのBF_(3)をイオン源チャンバに供給した際にIHCイオン源から抽出されたイオンから収集した質量スペクトル210を例示する。図2A中に観測される結果と同様に、スペクトル領域212は、一価アルミニウムAl^(+)に起因する約4.5mAの電流を表すピークを含み、その質量/電荷比は約27amuである。しかし、質量スペクトル210は非常に小さなピークを領域214内に示し、このピークはW^(2+)に起因する。さらに、図2Cに示すように、拡張した質量スペクトル220を200amu/電荷まで収集すると、それぞれW^(2+)及びW^(+)を表すピーク222及び224は、Al^(+)のピークに対して非常に小さい。これらの結果は、アルミナ挿入体の存在下で、2.3sccmのBF_(3)のガス流量条件下でのイオン源の動作が、2.1sccmのNF_(3)/0.1sccmのH_(2)の下でのイオン源の動作に比べて大幅に低下したイオン源放電中のタングステンのエッチング速度を生じさせることを示している。
【0015】
これらの結果は、イオン源内でアークプラズマを点孤する際に行われる基本プロセスのエネルギー論の考察によって説明することができる。BF_(3)ベースのプラズマとNF_(3)ベースのプラズマとの間の変化が、所定の一組の動作条件についてのプラズマ密度の大幅な変化を生じさせることが観測されている。このことは、プラズマ電位の大幅な変化、及び暗示的に、チャンバ壁、リペラー、カソード、及びフェースプレート(面板)を含むイオン源チャンバの表面に衝突するイオン種の運動エネルギーの大幅な変化を生じさせ得る。特に、アークプラズマ中のプラズマの形成は、プラズマ中の電荷密度と、チャンバ及び電極の電位に対するプラズマ電位とのバランスを生じさせる。特に、このプラズマは電気的に準中性であり、このことはイオンの数が電子の数に等しいことを意味する。プラズマ密度が比較的小さいと、プラズマプルーム(アークプラズマ)とカソード電位との電位差(「カソード降下」と称する)は比較的高い。プラズマ密度が減少するに連れて、カソード降下はより大きくなるように調整され、これにより、プラズマプルームを出るイオンのより高い運動エネルギーをもたらす。このことは、イオン衝撃下でのカソードからのより高い二次電子放出を生じさせる。この電子放出の増加は、プラズマが動的平衡を維持することを可能にする。プラズマ密度が比較的高ければ、カソード降下は比較的小さくなる。こうした場合、平衡を維持するために、プラズマからカソードに向けて加速されるイオンに与えられるより小さいイオンエネルギーは、カソードに衝突するより多数のイオンによって補償される。
【0016】
BF_(3)プラズマとNF_(3)プラズマとの間でのプラズマ特性の変化は、少なくとも部分的に、BF_(3)プラズマ中に発生するイオン化ポテンシャルのNF_(3)プラズマに対する差によって説明することができる。表1に、BF_(3)プラズマ及びNF_(3)プラズマ中のイオン化エネルギーを、関係するいくつかの種について例示する。特に断りのない限り、本明細書で用いる「イオン化エネルギー」とは、第1イオン化エネルギーを称する。BF_(3)プラズマでは、BF_(3)分子が、とりわけBF_(2)、BF、及びBに分離することができる。表1に例示するように、これらの分離生成物種の各々が8?11eVのイオン化エネルギーを有し、このイオン化エネルギーは、F(17.42eV)、N(14.71eV)、N_(2)(15.75eV)を含むNF_(3)プラズマの分離生成物についてのイオン化エネルギーよりも大幅に低い。イオン化断面積が少ししか相違しないものとすれば、このことは、BF_(3)からのホウ素分離生成物について、NF_(3)プラズマからの分離生成物に比べてより高いイオン化率係数を生じさせる。このことは、Al_(2)O_(3)挿入体を用いたIHCイオン源の動作中の測定によって確認され、同じ全供給放電電力に対して、BF_(3)ベースのプラズマについては?25mAの電流が生成され、NF_(3)ベースのプラズマについては?16mAの電流しか生成されない。プラズマ密度が高いほど、より小さいプラズマ電位が生じ、結果的に、イオンがプラズマから加速されてイオン源チャンバ内の表面に当たる際に、プラズマプルームとイオン源チャンバの表面との間により小さい電位差が生じ、この電位差は、イオン源チャンバの金属表面に当たるイオンのエネルギーをより低くする。従って、BF_(3)ベースのプラズマでは、観測されるように、タングステンのような材料のスパッタリングがより小さいことが期待される。
【0017】
【表1】

【0018】
なお、NF_(3)ベースのプラズマまたはBF_(3)ベースのプラズマについてアークプラズマを点孤する際に、アルミナ挿入体自体から導出されたガス種が、プラズマ特性を調整する働きをすることができる。例えば、アルミニウム及びフッ化アルミニウムの生成物は、酸化アルミニウムがフッ素含有前駆体に晒されるプラズマ中に生成される。金属アルミニウムは5.99eVの第一イオン化ポテンシャルを有するので、アルミナ挿入体から発生するアルミニウム種は、アルミナ挿入体からアルミニウムがエッチングされる際に、NF_(3)ベースのプラズマまたはBF_(3)ベースのプラズマ中のプラズマ密度を増加させる働きをすることができる。しかし、NF_(3)ベースのプラズマの存在下では、上記に示す分離生成物についてのイオン化閾値が約15eV以上であり、アルミニウム種は、イオンエネルギーを金属タングステンのスパッタリングが抑制される点まで低減する程度までプラズマ密度を増加させるのに十分な寄与をもたらさない。他方では、アルミナ挿入体とBF_(3)との組合せは、その両者が11eV未満のイオン化エネルギーを有する種を生成し、十分に高いプラズマ密度を発生するのに十分であり、従って、より低いイオン衝撃エネルギーを発生して、イオン源チャンバ内のタングステンのスパッタリングを抑制する。
【0019】
追加的な実施形態では、反応性挿入体118を固体シリコン製とすることができる。イオン源100の動作中には、固体シリコンが犠牲材料として機能することができ、この犠牲材料はフッ素化ガスまたはフッ素ラジカルによって優先的にエッチングされ、こうして、イオン源チャンバ102のタングステンまたはモリブデン表面のエッチング及び堆積を抑制する。一実施形態では、反応性挿入体118が固体シリコン挿入体として構成され、BF_(3)ガスがイオン源チャンバ102内に供給される。フッ素ガス及びフッ素化ガスは、シリコンと容易に反応してSiF_(2)及びSiF_(4)のようなフッ化シリコンを生成することができ、イオン源チャンバ102の代表的な動作温度では、これらの各々が気相種である。従って、こうしたSiF_(2)及びSiF_(4)生成物は、動作中にイオン源チャンバ102から容易に排出することができる。反応性挿入体118内のシリコンの存在はタングステン材料のエッチングを抑制するが、イオン源チャンバ102内のタングステン表面のような露出面は、まだフッ素含有ガス種とある程度反応してフッ化タングステンを生成し得る。このフッ化タングステンが反応性(シリコン)挿入体118と反応して、当該フッ化タングステンを金属タングステンに還元しながらフッ化シリコンを生成することができる。反応性挿入体118はシリコン表面を呈示し、このシリコン表面はイオン源100の動作中にアークプラズマ116に晒されるので、放電116からのイオンによるSi表面のスパッタリングが、タングステンのパシベーション層が反応性挿入体118上に形成されることを防止することができる。従って、反応性挿入体118は、シリコン挿入体として構成されるとエッチング可能なシリコンの連続供給をもたらし、このエッチング可能なシリコンは、イオン源チャンバ102の表面からのタングステンまたは他の難溶性金属のエッチングを低減する。従って、シリコン材料を反応性挿入体118に用いることは、BF_(3)のようなガスと併せて、イオン源102内のカソード104、リペラー108、及び他所上の難溶性金属のエッチング及び再堆積の低減に有効であり、従って、イオン源の寿命を増加させるのに有効である。
【0020】
反応性シリコン挿入体を有するイオン源を動作させる効果を評価するために一組の実験を行い、この実験では、固体シリコン挿入体が存在する動作中及び存在しない動作中に、IHCイオン源から質量スペクトルを収集した。図3に実験の結果を示し、この結果は、シリコン挿入体を有するIHCイオン源の動作中に収集した質量スペクトル302(連続線)、及びシリコン挿入体なしのIHCイオン源の動作中に収集した質量スペクトル304(破線)を含む。上述したように、各質量スペクトルは、異なる質量/電荷比を表す一連のピークを含む。特に、質量スペクトル302は、図に示すように、シリコンイオンまたはフッ化シリコンイオンを表す複数のピーク306、308、310、312、314、316を含む。これらの各々は質量スペクトル304中には存在せず、ピーク306?316がシリコン挿入体の存在によって発生することを示している。他のホウ素、フッ素、及びフッ化ホウ素のピークは、質量スペクトル302及び質量スペクトル304の両者に共通であり、BF_(3)ガスから導出された生成物のイオン種を表している。さらに、質量スペクトル304は、質量スペクトル302中には存在しない(あるいは大幅に低減された)ピーク318を含む。ピーク318はW^(2+)に割り当てることができ、これにより、シリコン挿入体が無い際のアークプラズマ中の実質的なタングステン種の存在を示すことができる。質量スペクトル302中の約92amuの質量/電荷比におけるW^(2+)のピークの低減は、シリコン挿入体の使用によってハロゲンサイクルが大幅に抑制されることを示している。シリコンを反応性挿入体として使用する実施形態の利点は、イオン源の金属表面のエッチングを低減することに加えて、追加的な金属種がシリコン挿入体からアークプラズマ中に導入されないことを含む。これに加えて、イオン源を用いてシリコンに注入する用途では、犠牲シリコン挿入体の存在がアークプラズマ中でイオン化される気相シリコンの供給を増加させ、これにより、所定電力レベルでイオン源から抽出することができるシリコンビーム電流を増加させる。」

(3)上記(2)によれば、当初明細書等には、「シリコンを含む」(請求項3)「前記反応性挿入体は、」「犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」(請求項1)ことに関して、「反応性挿入体118を固体シリコン製とすることができる。イオン源100の動作中には、固体シリコンが犠牲材料として機能することができ」ること、及び、ハロゲン種を有する反応生成物として「SiF_(2)及びSiF_(4)のようなフッ化シリコン」を発生することは明記されているが(【0019】)、当該「シリコンを含む」「反応性挿入体」が、「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作する」ことは明記されていない。
これに対して、上記(2)によれば、当初明細書等には、「反応性挿入体」が、「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作する」こととして、「反応性挿入体は、イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作することができ、このイオン化ポテンシャルは約11eV以下であること」、「イオン化ポテンシャルの低いガス種は、アークプラズマ中の電子温度を低下させ、プラズマ電位を低下させ、これにより、アークチャンバ壁の前方またはアーク電極の前方にあるシースを横断するイオンの低い衝撃エネルギーを生じさせる、という効果を有すること」及び「低いイオンエネルギーは、難溶性金属表面のイオンスパッタ量の低減に形を変えること」(【0007】)、つまり、「反応性挿入体」が「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生する」ことで「難溶性金属表面のイオンスパッタ量」が低減されることが記載されている。
また、上記(2)によれば、当初明細書等には、「反応性挿入体」が「犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」ことに関して、「反応性挿入体は、ハロゲン種を有する反応生成物を発生し、これによりハロゲン種と難溶性金属表面との反応を低減するための犠牲材料としても機能し、これにより、イオン源の動作中に、こうした表面のエッチング速度が、反応性挿入体が無い際のエッチング速度に比べて低下すること」(【0007】)が記載されていて、「反応性挿入体」が「犠牲材料として機能」することはハロゲン種を減少させることであって、その結果、「ハロゲン種と難溶性金属表面との反応を低減する」ことが記載されている。
さらに、ハロゲン種がBF_(3)である場合に、「アルミナ」「反応性挿入体」が、「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作する」ことで「難溶性金属表面のイオンスパッタ量」が低減されることとして、「BF_(3)ベースのプラズマについてアークプラズマを点孤する際に、アルミナ挿入体自体から導出されたガス種が、プラズマ特性を調整する働きをすることができる。例えば、アルミニウム及びフッ化アルミニウムの生成物は、酸化アルミニウムがフッ素含有前駆体に晒されるプラズマ中に生成される。金属アルミニウムは5.99eVの第一イオン化ポテンシャルを有するので、アルミナ挿入体から発生するアルミニウム種は、アルミナ挿入体からアルミニウムがエッチングされる際に、」「BF_(3)ベースのプラズマ中のプラズマ密度を増加させる働きをすることができる。」「アルミナ挿入体とBF_(3)との組合せは、その両者が11eV未満のイオン化エネルギーを有する種を生成し、十分に高いプラズマ密度を発生するのに十分であり、従って、より低いイオン衝撃エネルギーを発生して、イオン源チャンバ内のタングステンのスパッタリングを抑制する。」(【0018】)ことが記載されている。
これに対して、当初明細書等には、ハロゲン種がBF_(3)である場合に、「シリコンを含む」「反応性挿入体」が、発生するハロゲン種を有する反応生成物としては「SiF_(2)及びSiF_(4)のようなフッ化シリコン」のみ記載されているところ、当該「SiF_(2)及びSiF_(4)のようなフッ化シリコン」が、「イオン化ポテンシャルの低いガス種」であって、「難溶性金属表面のイオンスパッタ量」を低減する、あるいは、「プラズマ特性を調整する働きをすることができる」、「BF_(3)ベースのプラズマ中のプラズマ密度を増加させる働きをすることができる」とは記載されていない。
また、「シリコンを含む」「反応性挿入体」が発生する、ハロゲン種を有する反応生成物としての「SiF_(2)及びSiF_(4)のようなフッ化シリコン」は、「動作中にイオン源チャンバから容易に排出することができる」(【0019】)ものとされていることに照らして、動作中にイオン源チャンバにとどまって、「難溶性金属表面のイオンスパッタ量」を低減する、あるいは、「プラズマ特性を調整する働きをすることができる」、「BF_(3)ベースのプラズマ中のプラズマ密度を増加させる働きをすることができる」ものではなく、排出されるべきものであるから、「SiF_(2)及びSiF_(4)のようなフッ化シリコン」が、「犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」ことと「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作する」こととは別異の事項である。
したがって、「シリコンを含む」「反応性挿入体」が、「犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」ものであるからといって、必ずしも、「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作する」ものであると解することはできない。

(4)以上の検討によれば、「シリコンを含む」「反応性挿入体」が、「犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」ことに加えて「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作する」ことは、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載から把握されるすべての技術的事項を総合して導かれる事項とはいえない。
よって、上記本件補正前の請求項1を引用する請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「シリコンを含む」「反応性挿入体」について、「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作すると共に、犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」との補正により追加された事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないとはいえない。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2-2 拡大先願
(1)上記2-1で検討したとおり、本件補正前の請求項1を引用する請求項3において、「シリコンを含む」「反応性挿入体」について、「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作すると共に、犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」と補正することは、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないが、仮に、「シリコンを含む」「反応性挿入体」について、「犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」ことが、当然に「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作する」ことであるとした場合は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていることとなり、本件補正は、本件補正前の請求項1を引用する請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「反応性挿入体」について、「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作すると共に、犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1を引用する請求項3に記載された発明と補正後の請求項1を引用する請求項3に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1を引用する請求項3に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(2)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1」「(1)」に記載したとおりのものであって、分説すると次のとおりとなる。
「A イオン源チャンバと、
B 前記イオン源チャンバ内に配置され、電子を放出して前記イオン源チャンバ内にアークプラズマを発生するように構成されたカソードと、
C 電子を前記アークプラズマ中に跳ね返すように構成されたリペラーと、
D 前記イオン源チャンバ内に配置された反応性挿入体とを具えたイオン源であって、
E 前記イオン源チャンバ及び前記カソードは難溶性金属を含み、
F 前記反応性挿入体は、前記イオン源チャンバ内に導入されるハロゲン種と相互作用して、第1組の動作条件下で前記イオン源チャンバ内の前記難溶性金属の第1エッチング速度を生じさせ、この第1エッチング速度は、前記反応性挿入体を前記イオン源チャンバ内に配置しない際の前記第1組の動作条件下での、前記イオン源チャンバ内の前記難溶性金属の第2エッチング速度よりも低く、これにより、エッチングされた前記難溶性金属の再堆積によって生じる、前記イオン源チャンバの内面上における前記難溶性金属の再成長を防止し、
G 前記反応性挿入体は、イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作すると共に、犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する
H 前記反応性挿入体がシリコンを含むことを特徴とするイオン源。」

(3)先願明細書の記載及び先願発明
ア 先願明細書の記載
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前の平成24年8月28日の出願であって、本願の優先日後であって本願出願前の平成26年3月13日に出願公開された特願2012-187168号(以下「先願明細書」という。特開2014-44886号公報参照)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン生成方法およびイオン源に関する。」

b 「【0014】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係るイオン源のアークチャンバ内を示す模式図である。図2は、図1に示すイオン源のA-A断面を示す模式図である。
【0015】
第1の実施の形態に係るイオン源10は、直流放電型のイオン源であり、アークチャンバ12と、熱電子放出部14と、ライナー16と、リペラー18と、サプレッション電極20と、グランド電極22と、各種電源とを備える。
【0016】
アークチャンバ12は、ソースガスを導入するガス導入口24と、イオンビームが引き出される開口部としてのフロントスリット26とが形成されている。
【0017】
熱電子放出部14は、アークチャンバ内に熱電子を放出するものであり、フィラメント28とカソード30とを有する。リペラー18は、熱電子放出部14と対向する位置に設けられており、リペラープレート32を有する。カソード30とリペラープレート32は、対向してほぼ平行に設けられている。ライナー16は、アークチャンバ12の内壁を覆うように設けられている。
【0018】
フィラメント28は、フィラメント電源34で加熱され、先端に熱電子を発生させる。フィラメント28で発生した(1次)熱電子は、カソード電源36で加速され、カソード30に衝突し、その衝突時に発生する熱でカソード30を加熱する。加熱されたカソード30は(2次)熱電子40を発生し、この(2次)熱電子40が、アーク電源38によってカソード30とアークチャンバ12との間に印加されたアーク電圧によって加速され、ガス分子を電離するに十分なエネルギーを持ったビーム電子としてアークチャンバ12中に放出される。
【0019】
一方、イオン源10は、カソード30とリペラー18を結ぶ軸方向にソース磁場コイルにより誘起される外部磁場Bが印加されている。また、ビーム電子を放出するカソード30と対向させてリペラー18が設けられているため、ビーム電子は磁場Bに沿ってカソード30とリペラー18との間を往復移動し、アークチャンバ12に導入されたソースガス分子と衝突電離しイオンを発生させ、アークチャンバ12にプラズマ42を生成する。ビーム電子は、印加磁場によってほぼ限局された範囲に存在するのでイオンはその範囲で主に生成され、拡散によりアークチャンバ12内壁、フロントスリット26、カソード30、リペラー18に到達し、壁面で失われる。
【0020】
本実施の形態に係るイオン源10は、(2次)熱電子40を放出する直流放電型のイオン源であり、アークチャンバ12の内部は非常に高温になる。そのため、アークチャンバ12は、高融点材料、具体的には、タングステン(W),モリブデン(Mo),タンタル(Ta)などの高融点金属やそれらの合金、グラファイト(C)等で構成されている。これにより、直流放電型イオン源のように、アークチャンバ内が比較的高温となる環境下でも、アークチャンバを溶けにくくできる。
【0021】
ソースガスには、Ar等の希ガスやH_(2),PH_(3),AsH_(3)等の水素化物、BF_(3),GeF_(4)等のフッ化物やInCl_(3)等の塩化物(ハロゲン化物)、CO_(2),CO等の酸化物が用いられる。これらのソースガスは、アークチャンバ12に導入され、(2次)熱電子40によりイオン化されるが、励起されたイオンは、アークチャンバ12内壁、フロントスリット26、カソード30、リペラー18に入射して衝突すると、各部の構成素材(W,Ta,Mo,グラファイト等)を、スパッタにより摩滅させる。また、ソースガスがフッ化物の場合、例えば、BF_(3)の場合、イオン化によりB^(+),BF^(+), BF^(2+),F^(+),F^(2+)が生成され、これらのイオンがアークチャンバ12内部の壁面で中性化されると、F,F_(2)等の反応性の高いフッ素ラジカル(通常、半導体製造プロセスのSiやSiO_(2)膜のエッチングで使用されている。)が生成される。
【0022】
フッ素ラジカルは、イオン源10を構成する部品の材料と化学結合し、WF_(x),TaF_(x),MoF_(x),CF_(x)などのフッ化物となる。これらフッ化物は、比較的低温でガス化するためアークチャンバー内で導入ソースガスとともにイオン化され、W^(+),Ta^(+),Mo^(+)などのイオンビームとして導入ソースガスの主イオンビームとともに引き出されてしまう。
【0023】
一方、昨今のイオン注入では半導体素子の性能向上のため、高融点金属のような重金属イオン(W^(+),Ta^(+),Mo^(+)など)による金属汚染(メタルコンタミ)の低減が厳しく要求されている。しかしながら、前述のように、イオンソースガスに含まれるフッ素と、イオン源を構成するアークチャンバ12などの高融点材料とが化学結合してガス化し、コンタミイオンとしてアークチャンバ12から引き出されることは好ましくない。
【0024】
また、イオンビームとして引き出されたこれらの重金属イオンは、ビームライン内に堆積するとともに、その一部はイオン注入部に到達して、注入ウエハの重金属汚染を引き起こし、半導体素子の歩留りを低下させる。さらに、フッ素ラジカルは高温のイオン源の構成物(カソード、リペラー、フロントスリット、アークチャンバ等)を短時間で蝕耗させるとともに、一部の高温部材に堆積し、絶縁不良等の不具合を引き起こす。そのため、各部品を頻繁に交換する必要があり、イオン源やイオン源を備えるイオン注入装置のメンテサイクルを短くしその生産性を低下させることになる。
【0025】
そこで、本発明者が鋭意検討した結果、以下の技術に想到した。つまり、高温のイオンソース内で生じるソース物質のフッ化物や塩化物等のハロゲン化物由来の反応性の高いラジカルを、イオン源を構成する高融点金属からなるアークチャンバ12と化学結合しないように、効率よく低減することで、イオンビーム中に含まれるイオン源10の構成部材由来の重金属イオンを抑制できる点に想到した。また、この技術により、アークチャンバ12をはじめとするイオン源10を構成する部品の損耗が抑えられ、イオン源10長寿命化を図ることも可能となる。
【0026】
このような知見を考慮し、本実施の形態に係るイオン生成方法は、高融点材料で構成されたアークチャンバ12を備えた直流放電型のイオン源10を用いるイオン生成方法である。このイオン生成方法は、アークチャンバ12内でソースガスの分子と熱電子40とを衝突させてプラズマ放電を起こしてイオンを発生させるイオン発生工程と、イオン発生工程で生じたラジカルを、アークチャンバ12の内壁の少なくとも一部を覆うように配置されたライナー16と反応させる反応工程と、を含む。ライナー16は、アークチャンバ12と比較して、ソースガスが分解された際に生じるラジカルと反応し易い材料で構成されている。
【0027】
これにより、イオン源10は、ラジカルがライナー16と反応することでアークチャンバ12内のラジカルが減少し、ライナー16以外のイオン源を構成する部分、例えば、アークチャンバ12、リペラー18、フロントスリット26、カソード30へのラジカルの作用が減少する。そのため、例えば、アークチャンバ12へ作用することが抑制されることで、アークチャンバ12に含まれる高融点材料がイオンとしてフロントスリット26から引き出されることが低減される。
【0028】
本実施の形態に係るソースガスは、ハロゲン化物または酸化物のガスである。具体的には、ソースガスは、BF_(3),GeF_(4),PF_(3),InCl_(3),InI,InBr,CO_(2)およびCOからなる群より選択される少なくとも一種のガスである。これらのガスは、高温であってもガスの状態を維持できるため、直流放電型イオン源におけるソースガスに適している。
【0029】
これらのソースガスのうちハロゲン化物、例えば、BF_(3)やGeF_(4)等のフッ化物がイオン源10のアークチャンバ12に導入されると、前述したように所望のドーパントイオンを得るためにアークチャンバ12内でプラズマ化され、種々のイオンが生成される。例えば、BF_(3)の場合、生成されるイオンはB^(+),BF^(+),BF^(2+),F^(+),F^(2+)で、それらのイオンの一部はフロントスリット26の開口部から引き出され、質量分離され、B^(+)またはBF^(2+)のみ半導体素子に注入される。しかしながら、ほとんどのイオンはアークチャンバ12や、カソード30、リペラー18の表面に流入し中性化される。
【0030】
これらのイオンの中でF^(+)やF^(2+)は中性化され、FやF_(2)のフッ素ラジカルとなる。特に反応性の高いフッ素ラジカルは、アークチャンバ12内壁に吸着し、壁面部材(W,Mo,Ta,C等)と化学的に結合し、WF_(x),MoF_(x),TaF_(x),CF_(x)などが生じる。これらのフッ化物は、数百度以下の比較的低温で気化するため、イオン源10がイオンを発生させている運転時に600℃以上(または1000℃以上、または1500℃以上)に達するアークチャンバ12内の壁面より気化してアークチャンバ12の内壁を蝕耗する。
【0031】
気化したフッ化物は、更に高温のカソード30周辺やリペラー18の表面で熱分解し、Fが解離し、W,Mo,Ta,C等が堆積する、といった、いわゆる、ハロゲンサイクルが起こる。アークチャンバ12内でフッ素ラジカルによる蝕耗や堆積が起こると、前述したように部材の形状変化や、初期隙間の低下等により絶縁不良やビーム性能の低下が起きうる。
【0032】
そこで、本実施の形態では、このようなラジカルを効率よく除去すべく、ライナー16の材料として、W,Mo,Ta,C等の高融点材料よりも融点が低いシリコン(Si)を用いている。半導体プロセスにおける結晶SiやポリSiのエッチングには、CF_(4)のプラズマがよく使用されるており、高融点金属やカーボン(C)と比較してSiは、CF_(4)プラズマ中のフッ素ラジカルやCF_(2)ラジカルに対して非常に選択性が高い。
【0033】
この際の反応は、
Si(固体)+4F→SiF_(4)(ガス)
として表される。
つまり、Siからなるライナー16は、高融点材料よりも容易にエッチングされ易い犠牲材料として機能する。また、ライナー16のSiは、SiF_(4)ガスとして排気され、Siのエッチングが効率よく行われる。逆に、フッ素ラジカルが発生する箇所にSiを置けば、効率よくフッ素ラジカルを除去できるともいえる。なお、ラジカルが酸素ラジカルの場合であっても同様である。また、排気されるガスに、SiF_(3)、SiO、SiO_(2)などのシリコン化合体の気体が含まれていてもよい。
【0034】
このように本実施の形態に係るイオン形成方法は、前述の反応工程で生じた、ラジカルとライナーの材料であるSiとの化合物ガス(SiF_(4))をイオン源10から排気する排気工程を更に含んでいる。これにより、ラジカルを化合物ガスとして効率よくアークチャンバ12の外へ排出できる。」

c 図1、2は次のとおりである。
【図1】

【図2】


(イ)上記(ア)によれば、先願明細書には下記の各事項が記載されていると認められる。
a 「第1の実施の形態に係るイオン源10は、直流放電型のイオン源であり、アークチャンバ12」「を備える」(【0015】)から、イオン源はアークチャンバを備えるといえる。

b 「熱電子放出部14は、アークチャンバ内に熱電子を放出するものであり、フィラメント28とカソード30とを有」(【0017】)し、「イオン源10は、カソード30とリペラー18を結ぶ軸方向にソース磁場コイルにより誘起される外部磁場Bが印加され」、「ビーム電子を放出するカソード30と対向させてリペラー18が設けられているため、ビーム電子は磁場Bに沿ってカソード30とリペラー18との間を往復移動し、アークチャンバ12に導入されたソースガス分子と衝突電離しイオンを発生させ、アークチャンバ12にプラズマ42を生成する」(【0019】)から、アークチャンバ内の熱電子放出部は熱電子を放出するカソードを有し、当該カソードは熱電子を放出してアークチャンバ内プラズマを生成するように構成されているとともに、リペラーを、ビーム電子を放出するカソードと対向させて設けることで、ビーム電子は磁場に沿ってカソードとリペラーとの間を往復移動し、当該カソードとリペラーとの間にプラズマが生成されるといえる。

c 「イオン源10は、直流放電型のイオン源であり、アークチャンバ12」「を備え」(【0015】)、「ライナー16は、アークチャンバ12の内壁を覆うように設けられていて」(【0017】)、「Siからなるライナー16は、高融点材料よりも容易にエッチングされ易い犠牲材料として機能する」(【0033】)から、イオン源は、アークチャンバの内壁を覆うようにSiからなるライナーが設けられているといえる。

d 「アークチャンバ12は、高融点材料、具体的には、タングステン(W),モリブデン(Mo),タンタル(Ta)などの高融点金属やそれらの合金、グラファイト(C)等で構成されてい」て、「これにより、直流放電型イオン源のように、アークチャンバ内が比較的高温となる環境下でも、アークチャンバを溶けにくくできる」(【0020】)から、アークチャンバは、比較的高温となる環境下でも溶けにくいタングステン(W),モリブデン(Mo),タンタル(Ta)などの高融点金属やそれらの合金で構成されているといえる。
また、「励起されたイオンは、アークチャンバ12内壁、フロントスリット26、カソード30、リペラー18に入射して衝突すると、各部の構成素材(W,Ta,Mo,グラファイト等)を、スパッタにより摩滅させる」(【0021】)から、カソードの構成素材はW,Ta,Mo,グラファイト等であるといえる

e 「ソースガスには、Ar等の希ガスやH_(2),PH_(3),AsH_(3)等の水素化物、BF_(3),GeF_(4)等のフッ化物やInCl_(3)等の塩化物(ハロゲン化物)、CO_(2),CO等の酸化物が用いられ」(【0021】)、「高温のイオンソース内で生じるソース物質のフッ化物や塩化物等のハロゲン化物由来の反応性の高いラジカルを、イオン源を構成する高融点金属からなるアークチャンバ12と化学結合しないように、効率よく低減する」(【0025】)ために、「ライナー16は、アークチャンバ12と比較して、ソースガスが分解された際に生じるラジカルと反応し易い材料で構成」(【0026】)し、「ライナー16は、高融点材料よりも容易にエッチングされ易い犠牲材料として機能する」(【0033】)ものであって、「イオン源10は、ラジカルがライナー16と反応することでアークチャンバ12内のラジカルが減少し、ライナー16以外のイオン源を構成する部分、例えば、アークチャンバ12、リペラー18、フロントスリット26、カソード30へのラジカルの作用が減少する」(【0027】)から、ソースガスには、Ar等の希ガスやH_(2),PH_(3),AsH_(3)等の水素化物、BF_(3),GeF_(4)等のフッ化物やInCl_(3)等の塩化物(ハロゲン化物)、CO_(2),CO等の酸化物が用いられ、ソース物質のフッ化物や塩化物等のハロゲン化物由来の反応性の高いラジカルを、イオン源を構成する高融点金属からなるアークチャンバと化学結合しないように、効率よく低減するために、ライナーは、アークチャンバと比較して、ソースガスが分解された際に生じるラジカルと反応し易い材料で構成し、ライナーは、高融点材料よりも容易にエッチングされ易い犠牲材料として機能することによって、アークチャンバ内のラジカルが減少し、ライナー以外のイオン源を構成する部分であるアークチャンバ、リペラー、フロントスリット、カソードへのラジカルの作用が減少するといえる。
また、「フッ素ラジカルは高温のイオン源の構成物(カソード、リペラー、フロントスリット、アークチャンバ等)を短時間で蝕耗させるとともに、一部の高温部材に堆積」(【0024】)し、「気化したフッ化物は、更に高温のカソード30周辺やリペラー18の表面で熱分解し、Fが解離し、W,Mo,Ta,C等が堆積する、といった、いわゆる、ハロゲンサイクルが起こ」り、「アークチャンバ12内でフッ素ラジカルによる蝕耗や堆積が起こる(【0031】)ところ、「イオン源10は、ラジカルがライナー16と反応することでアークチャンバ12内のラジカルが減少し、ライナー16以外のイオン源を構成する部分、例えば、アークチャンバ12、リペラー18、フロントスリット26、カソード30へのラジカルの作用が減少する」(【0027】)。
したがって、ラジカルがライナーと反応しないとイオン源のアークチャンバ内で、フッ素ラジカルは高温のイオン源の構成物(カソード、リペラー、フロントスリット、アークチャンバ等)を短時間で蝕耗させ、一部の高温部材にW,Mo,Ta,C等が堆積するハロゲンサイクルが起こるところ、ラジカルがライナーと反応することでアークチャンバ内のラジカルが減少し、ライナー以外のイオン源を構成する部分であるアークチャンバ、リペラー、フロントスリット、カソードへのラジカルの作用が減少するといえる。

f 「ラジカルを効率よく除去すべく、ライナー16の材料として、W,Mo,Ta,C等の高融点材料よりも融点が低いシリコン(Si)を用いて」、「Siは、CF_(4)プラズマ中のフッ素ラジカルやCF_(2)ラジカルに対して非常に選択性が高」(【0032】)く、「この際の反応は、Si(固体)+4F→SiF_(4)(ガス)として表され」、「Siからなるライナー16は、高融点材料よりも容易にエッチングされ易い犠牲材料として機能する」(【0033】)から、ライナーは犠牲材料として機能するとともに、ライナーの材料としてシリコン(Si)を用いた場合に、Si(固体)+4F→SiF_(4)(ガス)として表される反応により、SiF_(4)(ガス)を発生するといえる。

イ 上記アによれば、先願明細書には下記の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる(aないしhは、構成AないしHに対応させて当審が付した。)。
「a イオン源のアークチャンバと(上記「ア」「(イ)」「a」)、
b 前記アークチャンバ内の熱電子放出部は熱電子を放出してアークチャンバ内プラズマを生成するように構成されているカソードと(上記「ア」「(イ)」「b」)、
c ビーム電子を放出するカソードと対向させて設けることで、ビーム電子は磁場に沿ってカソードとの間を往復移動し、当該カソードとの間にプラズマが生成されるリペラーと(上記「ア」「(イ)」「b」)、
d 前記イオン源は、前記アークチャンバの内壁を覆うようにSiからなるライナーが設けられ(上記「ア」「(イ)」「c」)、
e 前記アークチャンバは、比較的高温となる環境下でも溶けにくいタングステン(W),モリブデン(Mo),タンタル(Ta)などの高融点金属やそれらの合金で構成されるとともに、前記カソードの構成素材はW,Ta,Mo,グラファイト等であり(上記「ア」「(イ)」「d」)
f ソースガスには、Ar等の希ガスやH_(2),PH_(3),AsH_(3)等の水素化物、BF_(3),GeF_(4)等のフッ化物やInCl_(3)等の塩化物(ハロゲン化物)、CO_(2),CO等の酸化物が用いられ、ソース物質のフッ化物や塩化物等のハロゲン化物由来の反応性の高いラジカルを、イオン源を構成する高融点金属からなるアークチャンバと化学結合しないように、効率よく低減するために、前記ライナーは、アークチャンバと比較して、ソースガスが分解された際に生じるラジカルと反応し易い材料で構成し、ライナーは、高融点材料よりも容易にエッチングされ易い犠牲材料として機能することによって、アークチャンバ内のラジカルが減少し、ライナー以外のイオン源を構成する部分であるアークチャンバ、リペラー、フロントスリット、カソードへのラジカルの作用が減少するとともに、ラジカルがライナーと反応しないとイオン源のアークチャンバ内で、フッ素ラジカルは高温のイオン源の構成物(カソード、リペラー、フロントスリット、アークチャンバ等)を短時間で蝕耗させ、一部の高温部材にW,Mo,Ta,C等が堆積するハロゲンサイクルが起こるところ、ラジカルがライナーと反応することでアークチャンバ内のラジカルが減少し、ライナー以外のイオン源を構成する部分であるアークチャンバ、リペラー、フロントスリット、カソードへのラジカルの作用が減少し(上記「ア」「(イ)」「e」)、
g 前記ライナーは犠牲材料として機能するとともに、ライナーの材料としてシリコン(Si)を用いた場合に、Si(固体)+4F→SiF_(4)(ガス)として表される反応により、SiF_(4)(ガス)を発生する(上記「ア」「(イ)」「f」)、
h イオン源(【0001】)。

(4)先願発明との対比
ア 本件補正発明と先願発明とを対比する。
(ア)先願発明の「イオン源のアークチャンバ」(構成a)は、本件補正発明の「イオン源チャンバ」(構成A)に相当する。

(イ)先願発明の「前記アークチャンバ内の熱電子放出部は熱電子を放出してアークチャンバ内プラズマを生成するように構成されているカソード」(構成b)は、本件補正発明の「前記イオン源チャンバ内に配置され、電子を放出して前記イオン源チャンバ内にアークプラズマを発生するように構成されたカソード」(構成B)に相当する。

(ウ)先願発明の「リペラー」により「ビーム電子は磁場に沿ってカソードとの間を往復移動」することは、本件補正発明の「電子をアークプラズマ中に跳ね返す」ことに相当するから、先願発明の「ビーム電子を放出するカソードと対向させて設けることで、ビーム電子は磁場に沿ってカソードとの間を往復移動し、当該カソードとの間にプラズマが生成されるリペラー」(構成c)は、本件補正発明の「電子を前記アークプラズマ中に跳ね返すように構成されたリペラー」(構成C)に相当する。

(エ)先願発明の「前記アークチャンバの内壁を覆うようにSiからなるライナーが設けられ」た「イオン源」(構成d)は、本件補正発明の「前記イオン源チャンバ内に配置されたシリコンを含む反応性挿入体とを具えたイオン源」(構成D)に相当する。

(オ)先願発明の「前記アークチャンバは、比較的高温となる環境下でも溶けにくいタングステン(W),モリブデン(Mo),タンタル(Ta)などの高融点金属やそれらの合金で構成されるとともに、前記カソードの構成素材はW,Ta,Mo,グラファイト等であ」(構成e)ることは、本件補正発明の「前記イオン源チャンバ及び前記カソードは難溶性金属を含」(構成E)むことに相当する。

(カ)本件補正発明の「第1組の動作条件下」は格別の特定がなく、適宜の動作条件下程度の意味であると解される。
先願発明は、「ソース物質のフッ化物や塩化物等のハロゲン化物由来の反応性の高いラジカルを、イオン源を構成する高融点金属からなるアークチャンバと化学結合しないように、効率よく低減するために、前記ライナーは、アークチャンバと比較して、ソースガスが分解された際に生じるラジカルと反応し易い材料で構成し、ライナーは、高融点材料よりも容易にエッチングされ易い犠牲材料として機能することによって、アークチャンバ内のラジカルが減少し、ライナー以外のイオン源を構成する部分であるアークチャンバ及びカソードへのラジカルの作用が減少する」(構成f)から、ライナーを設けた場合の、ラジカルがアークチャンバ、リペラー、フロントスリット、カソードを構成する高融点金属(材料)をエッチングする速度は、ライナーを設けない場合の、ラジカルがアークチャンバ、リペラー、フロントスリット、カソードを構成する高融点金属(材料)をエッチングする速度より低くなることは明らかである。
また、先願発明において、「ライナーは犠牲材料として機能するとともに、ライナーの材料としてシリコン(Si)を用いた場合に、Si(固体)+4F→SiF_(4)(ガス)として表される反応により、SiF_(4)(ガス)を発生する」ことは、ライナー(Si)とハロゲン種(F)とが相互作用することであるから、本件補正発明における「前記反応性挿入体は、前記イオン源チャンバ内に導入されるハロゲン種と相互作用」することに相当する。
さらに、「ラジカルがライナーと反応しないとイオン源のアークチャンバ内で、フッ素ラジカルは高温のイオン源の構成物(カソード、リペラー、フロントスリット、アークチャンバ等)を短時間で蝕耗させ、一部の高温部材にW,Mo,Ta,C等が堆積するハロゲンサイクルが起こるところ、ラジカルがライナーと反応することでアークチャンバ内のラジカルが減少し、ライナー以外のイオン源を構成する部分であるアークチャンバ、リペラー、フロントスリット、カソードへのラジカルの作用が減少」(構成f)するから、ライナーを設けたことにより「ライナー以外のイオン源を構成する部分であるアークチャンバ、リペラー、フロントスリット、カソードへのラジカルの作用が減少」した場合には、一部の高温部材であるアークチャンバ、リペラー、フロントスリット、カソードにW,Mo,Ta,C等が堆積するハロゲンサイクルへのラジカルの作用も減少し、一部の高温部材であるアークチャンバ、リペラー、フロントスリット、カソードへのW,Mo,Ta,C等の堆積が減少するといえる。
以上によれば、先願発明の「ソース物質のフッ化物や塩化物等のハロゲン化物由来の反応性の高いラジカルを、イオン源を構成する高融点金属からなるアークチャンバと化学結合しないように、効率よく低減するために、前記ライナーは、アークチャンバと比較して、ソースガスが分解された際に生じるラジカルと反応し易い材料で構成し、ライナーは、高融点材料よりも容易にエッチングされ易い犠牲材料として機能することによって、アークチャンバ内のラジカルが減少し、ライナー以外のイオン源を構成する部分であるアークチャンバ、リペラー、フロントスリット、カソードへのラジカルの作用が減少するとともに、ラジカルがライナーと反応しないとイオン源のアークチャンバ内で、フッ素ラジカルは高温のイオン源の構成物(カソード、リペラー、フロントスリット、アークチャンバ等)を短時間で蝕耗させ、一部の高温部材にW,Mo,Ta,C等が堆積するハロゲンサイクルが起こるところ、ラジカルがライナーと反応することでアークチャンバ内のラジカルが減少し、ライナー以外のイオン源を構成する部分であるアークチャンバ、リペラー、フロントスリット、カソードへのラジカルの作用が減少」(構成f)することは、本件補正発明の「前記反応性挿入体は、前記イオン源チャンバ内に導入されるハロゲン種と相互作用して、第1組の動作条件下で前記イオン源チャンバ内の前記難溶性金属の第1エッチング速度を生じさせ、この第1エッチング速度は、前記反応性挿入体を前記イオン源チャンバ内に配置しない際の前記第1組の動作条件下での、前記イオン源チャンバ内の前記難溶性金属の第2エッチング速度よりも低く、これにより、エッチングされた前記難溶性金属の再堆積によって生じる、前記イオン源チャンバの内面上における前記難溶性金属の再成長を防止」(構成F)することに相当する。

(キ)先願発明の「SiF_(4)(ガス)」は、本件補正発明の「ガス種」及び「ハロゲン種を有する反応生成物」に相当するから、先願発明の「ライナーは犠牲材料として機能するとともに、ライナーの材料としてシリコン(Si)を用いた場合に、SiF_(4)(ガス)を発生する」(構成g)ことは、本件補正発明の「前記反応性挿入体は、イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作すると共に、犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」(構成G)ことと、「前記反応性挿入体は、ガス種を発生するように動作すると共に、犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」(構成G´)ことに相当する。
ここで、上記(1)において、「シリコンを含む」「反応性挿入体」について、「犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」ことが、当然に「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作する」ことであるとしたのであるから、先願発明の「ライナーは犠牲材料として機能するとともに、ライナーの材料としてシリコン(Si)を用いた場合に、SiF_(4)(ガス)を発生する」(構成g)ことも、当然に「イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作する」こととなる。
したがって、先願発明の「ライナーは犠牲材料として機能するとともに、ライナーの材料としてシリコン(Si)を用いた場合に、SiF_(4)(ガス)を発生する」(構成g)ことは、本件補正発明の「前記反応性挿入体は、イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作すると共に、犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」(構成G)ことに相当する。
(ク)先願発明の「ライナーの材料としてシリコン(Si)を用いた」(構成g)「イオン源」(構成h)は、本件補正発明の「前記反応性挿入体がシリコンを含むイオン源」(構成H)に相当する。

イ 以上アでの検討によれば、本件補正発明と先願発明とは、
「A イオン源チャンバと、
B 前記イオン源チャンバ内に配置され、電子を放出して前記イオン源チャンバ内にアークプラズマを発生するように構成されたカソードと、
C 電子を前記アークプラズマ中に跳ね返すように構成されたリペラーと、
D 前記イオン源チャンバ内に配置された反応性挿入体とを具えたイオン源であって、
E 前記イオン源チャンバ及び前記カソードは難溶性金属を含み、
F 前記反応性挿入体は、前記イオン源チャンバ内に導入されるハロゲン種と相互作用して、第1組の動作条件下で前記イオン源チャンバ内の前記難溶性金属の第1エッチング速度を生じさせ、この第1エッチング速度は、前記反応性挿入体を前記イオン源チャンバ内に配置しない際の前記第1組の動作条件下での、前記イオン源チャンバ内の前記難溶性金属の第2エッチング速度よりも低く、これにより、エッチングされた前記難溶性金属の再堆積によって生じる、前記イオン源チャンバの内面上における前記難溶性金属の再成長を防止し、
G 前記反応性挿入体は、イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作すると共に、犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する
H 前記反応性挿入体がシリコンを含むイオン源。」
である点で一致し、相違点はない。
よって、先願発明は、本願補正発明である。
したがって、本件補正発明は、先願発明と同一であり、しかも、本件補正発明の発明者が先願発明をした者と同一の者ではなく、また、本願の出願の時にその出願人が先願発明の出願人と同一の者でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上の2-1での検討によれば、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
また、2-2で検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条7項の規定に違反するので、同法第159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年5月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]「1」「(2)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
理由3(拡大先願)
この出願の請求項1、3?12、14?15に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない、
というものである。

先願:特願2012-187168号(特開2014-44886号)

3 先願明細書の記載及び先願発明
原査定の拒絶の理由で引用された先願明細書の記載事項及び先願発明は、前記第2[理由]「2」「2-2」「(2)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
(1)対比
本願発明は、前記第2[理由]「2」「2-2」で検討した本件補正発明から、「前記反応性挿入体は、イオン化ポテンシャルの低いガス種を発生するように動作すると共に、犠牲材料として機能して前記ハロゲン種を有する反応生成物を発生する」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]「2」「2-2」「(3)」及び「(4)」で検討したとおり、先願発明と同一であるから、本願発明も先願発明と同一である。

したがって、本願発明は、先願発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が先願発明をした者と同一の者ではなく、また、本願の出願の時にその出願人が先願発明の出願人と同一の者でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-06-26 
結審通知日 2020-06-30 
審決日 2020-07-15 
出願番号 特願2016-512065(P2016-512065)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H01J)
P 1 8・ 161- Z (H01J)
P 1 8・ 575- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉田 翠道祖土 新吾  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 山村 浩
松川 直樹
発明の名称 イオン源及びその動作方法  
代理人 福尾 誠  
代理人 杉村 憲司  

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