• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61N
管理番号 1368960
異議申立番号 異議2019-700909  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-15 
確定日 2020-10-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6512581号発明「放射線治療用マーカー及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6512581号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3について訂正することを認める。 特許第6512581号の請求項1、2、3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6512581号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成28年10月11日の出願であって、平成31年4月19日にその特許権の設定登録がされ(請求項の数:3、令和1年5月15日特許掲載公報発行)、その後、その特許に対し、特許異議申立人株式会社アールポイント東京(以下「申立人」という。)より令和1年11月15日に特許異議の申立てがされたものである。
以下、特許異議の申立て後の経緯を整理して示す。
令和2年1月23日付け 取消理由通知
同年3月26日 意見書、訂正請求書の提出(特許権者より)
同年5月28日付け 訂正請求があった旨の通知
同年6月29日 意見書の提出(申立人より)

なお、上記訂正請求書による訂正を、以下「本件訂正」という。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下の訂正事項1?11のとおりである(下線は訂正箇所を示すため合議体が付した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「放射線治療の際の目印として用いるためのもの」
とあるのを
「放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状のもの」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「以下の構成をも備えていることを特徴とする放射線治療用マーカー。
(1A)裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に前記水転写マークを形成すると共に、当該水転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記基台紙側からも保護シート側からも前記水転写マークを視認可能としていること。
(1B)前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されていること。」
とあるのを、
「前記水転写マークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを備えると共に、以下の構成をも備えていることを特徴とする放射線治療用マーカー。
(1A)裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に前記水転写マークを形成すると共に、当該水転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記基台紙側からも保護シート側からも前記水転写マークを視認可能としていること。
(1B)前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されていること。
(1C)前記基台紙及び前記保護シートが同一幅・同一長さの短冊状に形成され、前記水転写マークが、直線状のマークである場合は長手方向に伸びる様に、十字又は丸十字のマークである場合は長手方向に所定間隔で複数個が並ぶ様に、形成されていること。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に
「放射線治療の際の目印として用いるためのもの」
とあるのを
「放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状のもの」
に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に
「(2A)裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に前記水転写マークを形成すると共に、当該水転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有していること。」
とあるのを
「(2A)裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に前記水転写マークを形成すると共に、当該水転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記基台紙側からも保護シート側からも前記水転写マークを視認可能としていること。」
に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に
「前記水転写マークが交点又は交差点を表すマークで構成され、」
とあるのを
「前記水転写マークが、放射線治療に際し、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、又は、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれかのマークで構成され、」
と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3に
「皮膚に転写するマーク」
とあるのを
「皮膚に転写するマークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマーク」
と訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項1、2、3に
「光透過性を有する保護層」
とあるのを
「 光透過性を有する保護層」
と訂正する。

(8)訂正事項8
明細書段落【0007】を
「【0007】
上記目的を達成するためになされた本発明の放射線治療用マーカーは、光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる水転写マークを皮膚に貼り付けて放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状のものであって、前記水転写マークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを備えると共に、以下の構成をも備えていることを特徴とする放射線治療用マーカー。
(1A)裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に前記水転写マークを形成すると共に、当該水転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記基台紙側からも保護シート側からも前記水転写マークを視認可能としていること。
(1B)前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されていること。
(1C)前記基台紙及び前記保護シートが同一幅・同一長さの短冊状に形成され、前記水転写マークが、直線状のマークである場合は長手方向に伸びる様に、十字又は丸十字のマークである場合は長手方向に所定間隔で複数個が並ぶ様に、形成されていること。」
に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書段落【0009】を
「【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明の放射線治療用マーカーは、光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる水転写マークを皮膚に貼り付けて放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状のものであって、以下の構成をも備えていることを特徴とする放射線治療用マーカー。
(2A)裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に前記水転写マークを形成すると共に、当該水転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記基台紙側からも保護シート側からも前記水転写マークを視認可能としていること。
(2B)前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されていること。
(2C)前記基台紙及び前記保護シートが同一幅・同一長さの短冊状に形成され、前記水転写マークが、放射線治療に際し、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、又は、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれかのマークで構成され、当該水転写マークが、前記基台紙の幅方向一方側に偏って長手方向に所定間隔で並ぶ様に複数個形成されていること。
(2D)前記保護シートは、前記接着層の粘着力によって貼り付けられ、当該接着層の存在しない部分では前記基台紙と分離した状態とされていること。」
に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書段落【0011】を
「【0011】
上記目的を達成するためになされた本発明の放射線治療用マーカーの製造方法は、光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる水転写マークを皮膚に貼り付けて放射線治療の際の目印として用いるための放射線治療用マーカーの製造方法であって、以下の工程から構成されることを特徴とする放射線治療用マーカーの製造方法。
(3A)台紙に半透明のライスペーパーが積層された所定サイズの複紙の前記ライスペーパー側に形成された水溶性糊層の裏面に透明インクを用いて前記インク層を覆い隠し得るサイズとなる様に前記保護層を印刷した後、不透明インクを用いて前記保護層の裏面側から当該保護層の内側に収まる様に前記インク層を印刷し、さらに、湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側から前記保護層及び前記インク層の裏面を覆う様に前記接着層を印刷する印刷工程。
(3B)前記印刷工程の後に前記複紙に印刷された水転写マークの全体を覆い隠し得るサイズの透明プラスチックフィルムを前記接着
層の裏面側に当該接着層の粘着力を利用して貼り付ける保護シート貼り付け工程。
(3C)前記保護シート貼り付け工程の後に、前記複紙から前記台紙を剥がし取った状態の所定幅の短冊状に切断する切断工程。」
に訂正する。

(11)訂正事項11
明細書段落【0012】を
「【0012】
本発明の放射線治療用マーカーの製造方法によれば、(3A)?(3C)の工程により、半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に水転写マークが形成されると共に、当該水転写マークの裏面側に透明プラスチックフィルムで構成された保護シートが貼り付けられた積層構造を有する短冊状放射線治療用マーカーを製造することができる。本発明の放射線治療用マーカーの製造方法によれば、皮膚に貼り付ける際のコシの弱さを有するライスペーパーであっても、印刷工程においては台紙によってコシが確保されているから、適正な形状の保護層、インク層、及び接着層が正しく重なる様に印刷することができる。そして、保護シートを貼り付けた後に台紙を剥がすから、印刷によって形成した水転写マークを損傷させることなく台紙を剥がし取ることができる。」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、3について
訂正事項1、3に係る訂正は、「放射線治療の際の目印として用いるためのもの」である「放射線治療マーカー」に関し、訂正前の「放射線治療の際の目印として用いるためのもの」を「放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状のもの」と技術的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、この訂正は、訂正前の明細書段落【0020】、【0022】、【0024】等の記載に基づくものであるから、本件訂正前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の「放射線治療用マーカー」について、「放射線治療用マーカー」が「前記水転写マークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを備える」と限定するとともに、さらに、「(1C)前記基台紙及び前記保護シートが同一幅・同一長さの短冊状に形成され、前記水転写マークが、直線状のマークである場合は長手方向に伸びる様に、十字又は丸十字のマークである場合は長手方向に所定間隔で複数個が並ぶ様に、形成されていること。」という構成をも備えていると限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、この訂正は、訂正前の明細書段落【0018】、【0020】、【0022】、【0024】等の記載に基づくものであるから、本件訂正前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項4について
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の「放射線治療用マーカー」について、「放射線治療用マーカー」が、「前記基台紙側からも保護シート側からも前記水転写マークを視認可能として」いる構成をも備えていると限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、この訂正は、訂正前の明細書段落【0007】、【0010】等の記載に基づくものであるから、本件訂正前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項5について
訂正事項5に係る訂正は、訂正前の「前記水転写マーク」である「交点又は交差点を表すマーク」について、「放射線治療に際し、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、又は、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマーク」と具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、この訂正は、訂正前の明細書段落【0018】、【0021】、【0023】等の記載に基づくものであるから、本件訂正前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項6について
訂正事項6に係る訂正は、訂正前の「皮膚に転写するマーク」を、「放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマーク」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、この訂正は、訂正前の明細書段落【0018】、【0020】、【0022】、【0024】等の記載に基づくものであるから、本件訂正前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項7について
訂正事項7に係る訂正は、訂正前の各請求項の文頭に字下げを行い、文章を読みやすくする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、この訂正の前後で記載内容に実質的な変更はないことから、この訂正は、本件訂正前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)訂正事項8?10について
訂正事項8?10に係る訂正は、訂正事項1?6に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項8?10に係る訂正は、上記(1)?(5)で示した理由と同様の理由により、本件訂正前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、訂正事項8は請求項1を対象とするものであり、訂正事項9は請求項2を対象とするものであり、訂正事項10は請求項3を対象とするものである。

(8)訂正事項11について
訂正事項11は、明細書段落【0012】における訂正前の「本発明の放射線治療用マーカーによれば、」の記載を、同段落冒頭の「本発明の放射線治療用マーカーの製造方法によれば、」の記載と整合させるために、「本発明の放射線治療用マーカーの製造方法によれば、」と訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、この訂正は、訂正前の明細書段落【0012】冒頭の記載に基づくものであるから、本件訂正前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、訂正事項11は請求項3を対象とするものである。

3 申立人の主張について
申立人は、本件訂正につき、令和2年6月29日提出の意見書において概ね次のような主張をしている。
(主張1)
請求項1に「前記水転写マークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを備える」事項が追加されたが、この記載では、「直線状のマーク」、「十字のマーク」、「丸十字のマーク」の3種のマークを併合的に備えるのか、択一的に備えるのか一義的に理解することができないので、訂正後の請求項1に係る発明は明確でなく、請求項1に係る訂正は認められるべきではない。
(主張2)
転写するマークとして、「患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマーク」なる事項が追加された訂正後の請求項3に係る発明も同様に明確でなく、請求項3に係る訂正は認められるべきではない。

しかしながら、本件異議申立事件については、訂正前の全ての請求項1?3について特許異議申立てがされているので、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正前の請求項1?3に係る訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。そうすると、訂正後の請求項1、3に係る発明が明確でないという上記の各主張は、訂正に求められる要件のいずれとも関係しないため、当を得たものではなく、本件訂正についての訂正の適否の判断を左右するものではない。
なお、上記の主張1、2が本件訂正により生じた新たな取消理由を主張するものであるとしても、以下に示すとおりいずれも採用できない。
(主張1について)
本件訂正後の請求項1における「前記水転写マークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを備える」「放射線治療用マーカー」の記載を日本語として自然に解釈すれば、本件訂正後の請求項1に係る発明の「放射線治療用マーカー」が、直線状のマーク、十字のマーク、及び丸十字のマークという3つの選択肢のうちから選択された一種類のマークを備える「放射線治療用マーカー」であると、普通に理解できるところであるから、本件訂正後の請求項1に係る発明が不明確であるとはいえない。
(主張2について)
同様に、本件訂正後の請求項3における「皮膚に転写するマークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを表したインク層」の記載を日本語として自然に解釈すれば、本件訂正後の請求項3に係る発明の「インク層」が、直線状のマーク、十字のマーク、及び丸十字のマークという3つの選択肢のうちから選択された一種類のマークを表す「インク層」であると、普通に理解できるところであるから、本件訂正後の請求項3に係る発明が不明確であるとはいえない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、2、3について訂正することを認める。


第3 本件発明
上記のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ請求項に対応して「本件発明1」などという。)は、令和2年3月26日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる水転写マークを皮膚に貼り付けて放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状のものであって、前記水転写マークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを備えると共に、以下の構成をも備えていることを特徴とする放射線治療用マーカー。
(1A)裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に前記水転写マークを形成すると共に、当該水転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記基台紙側からも保護シート側からも前記水転写マークを視認可能としていること。
(1B)前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されていること。
(1C)前記基台紙及び前記保護シートが同一幅・同一長さの短冊状に形成され、前記水転写マークが、直線状のマークである場合は長手方向に伸びる様に、十字又は丸十字のマークである場合は長手方向に所定間隔で複数個が並ぶ様に、形成されていること。
【請求項2】
光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる水転写マークを皮膚に貼り付けて放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状のものであって、以下の構成をも備えていることを特徴とする放射線治療用マーカー。
(2A)裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に前記水転写マークを形成すると共に、当該水転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記基台紙側からも保護シート側からも前記水転写マークを視認可能としていること。
(2B)前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されていること。
(2C)前記基台紙及び前記保護シートが同一幅・同一長さの短冊状に形成され、前記水転写マークが、放射線治療に際し、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、又は、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれかのマークで構成され、当該水転写マークが、前記基台紙の幅方向一方側に偏って長手方向に所定間隔で並ぶ様に複数個形成されていること。
(2D)前記保護シートは、前記接着層の粘着力によって貼り付けられ、当該接着層の存在しない部分では前記基台紙と分離した状態とされていること。
【請求項3】
光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる水転写マークを皮膚に貼り付けて放射線治療の際の目印として用いるための放射線治療用マーカーの製造方法であって、以下の工程から構成されることを特徴とする放射線治療用マーカーの製造方法。
(3A)台紙に半透明のライスペーパーが積層された所定サイズの複紙の前記ライスペーパー側に形成された水溶性糊層の裏面に透明インクを用いて前記インク層を覆い隠し得るサイズとなる様に前記保護層を印刷した後、不透明インクを用いて前記保護層の裏面側から当該保護層の内側に収まる様に前記インク層を印刷し、さらに、湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側から前記保護層及び前記インク層の裏面を覆う様に前記接着層を印刷する印刷工程。
(3B)前記印刷工程の後に前記複紙に印刷された水転写マークの全体を覆い隠し得るサイズの透明プラスチックフィルムを前記接着層の裏面側に当該接着層の粘着力を利用して貼り付ける保護シート貼り付け工程。
(3C)前記保護シート貼り付け工程の後に、前記複紙から前記台紙を剥がし取った状態の所定幅の短冊状に切断する切断工程。」


第4 取消理由の概要
令和2年1月23日付け取消理由通知により通知された取消理由は、概略次のとおりである。
本件発明1?3は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献1に記載された発明及び文献2?7に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


文献1:特許第5805901号公報(申立人の提出した甲第1号証、以下「甲1」という。)
文献2:特開2015-029907号公報(同甲第2号証、以下「甲2」という。)
文献3:特開2016-174879号公報(同甲第3号証、以下「甲3」という。)
文献4:特開2000-342601号公報(同甲第4号証、以下「甲4」という。)
文献5:特開2002-264590号公報(同甲第5号証、以下「甲5」という。)
文献6:特公昭47-12650号公報(当審で提示した周知例)
文献7:特開平10-264596号公報(当審で提示した周知例)


第5 取消理由通知で通知された取消理由についての検討
1 各文献に記載された事項
(1)甲1
甲1には、【請求項1】、【請求項4】、【0001】?【0051】の記載があり、【図1】?【図2】の図示がある。
これらの記載及び図示を参照すれば、甲1の記載内容につき次の事項を認めることができる。
ア)皮膚シール1は、ベース材2とセパレータ3との間に、弾性層6、インキ層7及び粘着剤層8が互いに積層されてなる状態で設けられている(【0022】)。また、インキ層7は、皮膚に転写する肌色の網点を印刷した層である(【0007】、【0027】)。
そこで、これらの弾性層6、インキ層7及び粘着剤層8を、以下“転写マーク”と称すれば、この転写マークは、皮膚に貼り付けるものであり、また、皮膚のシミ等を隠すために用いるものである(【0001】、【0011】)。
イ)弾性層6は、透明である(【0031】)。
ウ)皮膚シール1におけるベース材2側を“表面側”と、また、セパレータ3側を“裏面側”と以下称すれば、皮膚シール1は、ベース材2の裏面側に前記転写マークを形成するものであって、当該転写マークの裏面側にセパレータ3を貼り付けた積層構造を有する(【図1】(b))。
エ)ベース材2は、光透過性のプラスチックフィルムで構成され(【0023】、【0024】)、皮膚シール1は、ベース材2側からインキ層7を含む転写マークを認識可能である(【0048】)。
また、セパレータ3は、プラスチックフィルムで構成され、光透過性であっても良い(【0047】、【0023】)。
さらに、「セパレータ3は光透過性であっても、あるいは不光透過性であっても良い。しかしながら、本実施形態ではベース材2を光透過性にしているので、皮膚シール1の表裏を使用者に容易に分からせるようにするために、セパレータ3を不光透過性、望ましくは白色半透明又は白色不透明とすることが望ましい。」(【0047】)の記載によれば、セパレータ3が光透過性のセパレータであると、皮膚シール1表裏の判別が困難となるほどに、セパレータ3側からインキ層(転写マーク)が視認可能といえる。
オ)弾性層6は、透明な樹脂を用いてベース材2の裏面側に印刷して形成される(【図1】(b)、【0031】)。
また、インキ層7は、弾性層6の内側に収まる様にその裏面側に形成される(【図1】(a)(b))。
カ)粘着剤層8には樹脂が用いられる(【0040】)。
また、上記エ)のとおり、セパレータ3をベース材2と同様の光透過性とすると、皮膚シール1表裏の判別が困難となるほどに、セパレータ3側からインキ層(転写マーク)を視認可能なことから、粘着剤層8も、インキ層の視認を妨げない程度に透明といえる。
さらに、粘着剤層8は、インキ層7の裏面側に当該インキ層7及び前記弾性層6を覆うように印刷して形成される(【図1】(b)、【0043】)。
キ)セパレータ3は、粘着剤層8に粘着力によって貼り付けられ、当該粘着剤層8の存在しない部分では前記ベース材2と分離した状態とされている(【図1】(b)、【0050】)。
ク)上記ア)?キ)のとおり、皮膚シール1は、幾つかの工程を経て製造されるものといえる。
ケ)上記ク)の工程には、次の工程が含まれる。
弾性層6を、透明な樹脂を用いてベース材2の裏面側に印刷する工程(【0031】、【図1】(b))。その後、インキ層7を、弾性層6の裏面側に印刷する工程(【0027】、【図1】(b))。
ここで、弾性層6は、インキ層7を覆い隠し得るサイズとなる様に印刷され、また、インキ層7は、弾性層6の内側に収まる様に印刷される(【図1】(a)(b))。
コ)上記ク)の工程には、次の工程が含まれる。
粘着剤層8を、インキ層7の裏面側から前記弾性層6及び前記インキ層7の裏面を覆う様に印刷する印刷工程(【0040】、【0043】、【図1】(b))。
ここで、上記カ)のとおり、粘着剤層8には透明な樹脂が用いられる。
サ)上記ウ)、エ)、キ)から、上記ク)の工程には、次の工程が含まれる。
前記印刷工程の後に印刷工程の後に光透過性のプラスチックフィルムで構成されたセパレータ3を前記粘着剤層8の裏面側に当該粘着剤層8の粘着力を利用して貼り付けるセパレータ3の貼り付け工程。
ここで、セパレータ3は、ベース材2に印刷された転写マークの全体を覆い隠し得るサイズである(図1(b))。

以上によれば、甲1には、次の各発明が記載されている。
「透明な弾性層6、皮膚に転写する肌色の網点を表したインキ層7、及び粘着剤層8が積層されてなる転写マークを皮膚に貼り付けてシミ等を隠すために用いるものであって、以下の構成をも備えている皮膚シール1。
(1A)光透過性のプラスチックフィルムで構成されたベース材2の裏面側に前記転写マークを形成すると共に、当該転写マークの裏面側に、光透過性のプラスチックフィルムで構成されたセパレータ3を貼り付けた積層構造を有し、前記ベース材2からもセパレータ3側からも前記転写マークを視認可能としていること。
(1B)前記弾性層6は透明な樹脂を用いて前記ベース材2の裏面側に印刷して形成され、前記インキ層7は前記弾性層6の内側に収まる様に当該弾性層6の裏面側に印刷され、前記粘着剤層8は透明な樹脂を用いて前記インキ層7の裏面側に当該インキ層7及び前記弾性層6を覆う様に印刷して形成されていること。」(以下「甲1発明A」という。)

「透明な弾性層6、皮膚に転写する肌色の網点を表したインキ層7、及び粘着剤層8が積層されてなる転写マークを皮膚に貼り付けてシミ等を隠すために用いるものであって、以下の構成をも備えている皮膚シール1。
(2A)光透過性のプラスチックフィルムで構成されたベース材2の裏面側に前記転写マークを形成すると共に、当該転写マークの裏面側に、光透過性のプラスチックフィルムで構成されたセパレータ3を貼り付けた積層構造を有し、前記ベース材2からもセパレータ3側からも前記転写マークを視認可能としていること。
(2B)前記弾性層6は透明な樹脂を用いて前記ベース材2の裏面側に印刷して形成され、前記インキ層7は前記弾性層6の内側に収まる様に当該弾性層6の裏面側に印刷され、前記粘着剤層8は透明な樹脂を用いて前記インキ層7の裏面側に当該インキ層7及び前記弾性層6を覆う様に印刷して形成されていること。
(2D)前記セパレータ3は、粘着剤層8に粘着力によって貼り付けられ、当該粘着剤層8の存在しない部分では前記ベース材2と分離した状態とされていること。」(以下「甲1発明B」という。)

「透明な弾性層6、皮膚に転写する肌色の網点を表したインキ層7、及び粘着剤層8が積層されてなる転写マークを皮膚に貼り付けてシミ等を隠すために用いるための皮膚シール1の製造方法であって、以下の工程から構成される皮膚シール1の製造方法。
(3A)光透過性のプラスチックフィルムで構成されたベース材2の裏面に透明な樹脂を用いてインキ層7を覆い隠し得るサイズとなる様に前記弾性層6を印刷した後、前記弾性層6の裏面側から当該弾性層6の内側に収まる様に前記インキ層を印刷し、さらに、透明な樹脂を用いて前記インキ層7の裏面側から前記弾性層6及び前記インキ層7の裏面を覆う様に前記粘着剤層8を印刷する印刷工程。
(3B)前記印刷工程の後にベース材2に印刷された転写マークの全体を覆い隠し得るサイズの光透過性のプラスチックフィルムで構成されたセパレータ3を前記粘着剤層8の裏面側に当該粘着剤層8の粘着力を利用して貼り付けるセパレータ3の貼り付け工程。」(以下「甲1発明C」という。)

(2)甲2
甲2には、次の記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同じ。)。
甲2a:「【0001】
本発明は、転写可能な美容部材に関する。」
甲2b:「【0049】
次に、図7Aないし図7Bに示したように、転写可能な美容部材100を身体200(例えば、目尻)に密着させる。以前段階で、粘着成分119が添加されたデザイン層110または別途の粘着層140が露出された状態なので、デザイン層110を身体200に粘着させることができる。この際、離型層120は、ドライトランスファー(dry transfer)方式またはウォータートランスファー(water transfer)方式で身体200に転写されうる。」

(3)甲3
甲3には、次の記載がある。
甲3a:「【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾用、医療用などに使用可能な転写シールに関する。
【背景技術】
【0002】
転写シールは物品の表面や皮膚の表面に絵柄を付す装飾用に使用されていたが、最近では医療用にも使用されるようになっている。例えば、放射線治療において、予め患者の放射線を照射する部位の皮膚表面に転写シールを使用してマークを転写しておき、このマークを目印に放射線照射機器を位置決めして患者に放射線を照射している(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。」

(4)甲4
甲4には、次の記載がある。
甲4a:【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、患者の皮膚にライン等のマークを記入して、例えば放射線治療の際の目印としたり、放射線治療以外の治療における目印とするための治療用マーカーに関するものである。」
甲4b:「【0013】この放射線治療用ラインマーカー1を使用するに当たっては、まず、保護紙13を剥がした後に、患者の患部の皮膚に対して、基台紙3の表面に印刷されているライン3にて位置を合わせながら接着層11を押し付ける様に基台紙5を貼り付ける。そして、この状態において、水を含ませた脱脂綿や霧吹き等によって基台紙5に水分を十分に含ませる。すると、基台紙5にコーティングされている水溶性の糊が溶けて保護シート層7が基台紙5から剥がれ易くなると共に、接着層11が患者の皮膚に対してしっかりと接着する。こうして接着層11を皮膚にしっかりと接着させた後に基台紙5を剥がしてやれば、接着層11、インク層9及び保護シート層7を皮膚側に転写して、放射線治療の際の目印とすることができる。なお、基台紙5を剥がした後に、かるく水分を拭き取り乾燥させることにより、この目印をしっかりと皮膚に接着させた状態とすることができる。」

(5)甲5
甲5には、次の記載がある。
甲5a:「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は主に電子写真及び印刷されたものの有色布地等への転写用途に関するものである。」
甲5b:「【0004】
【課題を解決するための手段】陶磁器用転写複紙、厚紙の上に剥がせる薄紙(ライスペーパー)が有り、更に薄紙上に水溶性樹脂が塗布された構造の用紙を利用し、電子写真を出力もしくは印刷された面の画像(トナー・インク)を壊さない程度に溶解性を有するよう調整された溶剤で希釈された樹脂を塗布し、更に白色樹脂及び接着性を有する樹脂を混合または個別に塗布、もしくはフィルム状にしたものを貼付して転写する方法とした。」
甲5c:「【0008】厚紙上に剥がせる薄紙(ライスペーパー)を持つ構造のため、不要な画像を除去するための切り込みが容易で、フリーハンド及びカッター用機器でも簡単に切り込み作業を行う事ができ、除去作業も容易にできた。」

(6)文献6
文献6には、次の記載がある。
6a:「窯業用転写紙として古くから使われてきたものに、ライスペーパーを用いた貼り転写紙や吸水性台紙から水中で糊料をとかし絵柄を摺動させて器物に貼りつけろ水貼り転写紙等があるが、それぞれ一長一短がある。
すなわち、貼り転写紙はライスペーパーの透明性がよいので、十数枚重ねて紙切りが可能であり、また器物に貼りニスで貼付するために作業が容易という長所がある・・・」(第1欄第17?25行)

(7)文献7
文献7には、次の記載がある。
7a:「【0050】さらに、新版印刷事典(日本印刷学会編 大蔵省印刷局)の透明紙の項には、『薄くて透明な筆記用紙の一種。原図を透き写し、バンダイク法・青写真などの原稿用に用いる。2種類あって、1)は原料を高度の粘状に叩解し透明になるようにすいたもの、または薄紙にカナダバルサム・テレビン油・植物油などの混合物を塗って透明にした加工紙。2)はコウゾ・ミツマタなどを用いて流しずき法によって抄造した薄葉和紙。図引き用紙ともいう。』との記載がある。
【0051】紙パルプ技術便覧(1982年 紙パルプ技術協会)によれば、『薄葉の総称で、辞典用紙、ライスペーパー、タイプ用紙、印刷用紙など用途により種類多く、坪量は40g/m^(2) 以下で、薄葉和紙は20g/m^(2) 以下である。』との記載がある。」

2 本件発明1について
2-1 対比
本件発明1(前者)と甲1発明A(後者)とを対比する。
ア)後者の「透明な弾性層6」は、その機能等からみて前者の「光透過性を有する保護層」に相当し、また、同様に、「肌色の網点」は「マーク」に、「インキ層7」は「インク層」に「粘着剤層8」は「皮膚に接着させる接着層」に、それぞれ相当する。
また、後者の「転写マーク」は、“転写マーク”である点で前者の「水転写マーク」と共通し、後者の「シミ等を隠すために用いる」「皮膚シール1」は、“皮膚用シール”である点で前者の「放射線治療の際の目印として用いるための」「放射線治療用マーカー」と共通する。
イ)後者の「光透過性のプラスチックフィルムで構成されたベース材2」は、“ベース部材”である点で、前者の「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」と共通する。
また、後者の「光透過性のプラスチックフィルムで構成されたセパレータ3」は、前者の「透明プラスチックフィルムで構成された保護シート」に相当する。
ウ)後者の「弾性層6」、「粘着剤層8」はいずれも、「透明な樹脂を用いて・・・印刷して形成され」るのであるから、透明なインク又は透明な樹脂インクを用いて形成されることは技術的に明らかである。
また、後者の「インキ層7」は、「皮膚に転写する肌色の網点を表したインキ層7」であるから、肌色のインク、即ち不透明なインクを用いて形成される層であることも明らかである。
そうすると、後者の「弾性層6は透明な樹脂を用いて」は、前者の「保護層は透明インクを用いて」に相当し、また、後者の「インキ層7は前記弾性層6の内側に収まる様に当該弾性層6の裏面側に印刷され、前記粘着剤層8は透明な樹脂を用いて前記インキ層7の裏面側に当該インキ層7及び前記弾性層6を覆う様に印刷して形成されていること」は、前者の「インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は」「透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されていること」に相当する。

よって、両者は、
「光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる転写マークを皮膚に貼り付けて用いるためのものであって、以下の構成をも備えている皮膚用シール。
(1A)ベース部材の裏面側に前記転写マークを形成すると共に、当該転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記ベース部材側からも保護シート側からも前記転写マークを視認可能としていること。
(1B)前記保護層は透明インクを用いて前記ベース部材の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されていること。」
の点で一致し、次の各点で相違する。

(相違点1)
本件発明1では、皮膚用シールが、
i)「放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状の」「放射線治療用マーカー」であり、
ii)転写マークとして、「放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを備えると共に」、その転写マークが、「直線状のマークである場合は長手方向に伸びる様に、十字又は丸十字のマークである場合は長手方向に所定間隔で複数個が並ぶ様に、形成されている」ことをも備えているのに対し、甲1発明Aでは、皮膚用シールが、皮膚に貼り付けてシミ等を隠すために用いる皮膚シールであり、そのため、転写マークとして、直線状のマーク、十字のマーク、及び、丸十字のマークのいずれをも備えるものではなく、さらに、その形状についても「所定幅の短冊状」とまでの特定のない点。

(相違点2)
転写マークの転写タイプに関し、本件発明1では、転写マークが「水転写マーク」であり、そのため、ベース部材が「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」であり、「保護層は」「前記水溶性糊層の裏面側に形成され」、また、「接着層は湿潤により接着性を発揮する」のに対し、甲1発明Aでは、転写マークが水転写によらないタイプの転写マークであり、そのため、ベース部材は、プラスチックフィルムで構成されたものであって、「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」ではなく、弾性層は「前記水溶性糊層の裏面側に形成され」るものではなく、また、「接着層は湿潤により接着性を発揮する」ものでもない点。

(相違点3)
本件発明1では、基台紙及び保護シートが、「同一幅・同一長さの短冊状に形成され」ているのに対し、甲1発明Aでは、ベース材及びセパレータについて、「同一幅・同一長さの短冊状に形成され」とまでの特定のない点。

2-2 判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
(1)「水転写マーク」について
甲1における「 本発明によれば、セパレータを当該セパレータに接触している層から剥離するための力をP1とし、剥離剤層にベース材の反対側で接触している層(例えば弾性層)から当該剥離剤層を剥離するための力をP2とし、粘着剤層を皮膚から剥離するための力をP3とするとき、P1<P2<P3である。このため、皮膚シールを粘着タイプの皮膚シール、すなわち水転写タイプではない皮膚シールとすることができる。」(【0018】)の記載によれば、甲1発明Aは、皮膚シールを水転写タイプではないシールとすることを特徴とするものであり、甲1における他の記載をみても、甲1発明Aを水転写タイプのシールとして用いる点に関する記載や示唆はない。
そうすると、仮に、水転写タイプのシールが甲2(上記摘記事項甲2b参照)、甲4(上記摘記事項甲4b参照)、甲5(上記摘記事項甲5b参照)に開示されるように周知の技術であったとしても、甲1発明Aにおける転写マーク、即ち、「弾性層6」、「インキ層7」及び「粘着剤層8」を「水転写マーク」に変更すべき動機付けは見当たらない。
(2)「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」について
甲1には、甲1発明Aにおける「光透過性のプラスチックフィルムで構成されたベース材2」を「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」に変更する点に関し、記載も示唆もない。
他方、甲5には、「陶磁器用転写複紙、厚紙の上に剥がせる薄紙(ライスペーパー)が有り、更に薄紙上に水溶性樹脂が塗布された構造の用紙を利用し、電子写真を出力もしくは印刷された面の画像(トナー・インク)を壊さない程度に溶解性を有するよう調整された溶剤で希釈された樹脂を塗布し、更に白色樹脂及び接着性を有する樹脂を混合または個別に塗布、もしくはフィルム状にしたものを貼付して転写する方法とした。」(上記摘記事項甲5b)と、水溶性樹脂が塗布されたライスペーパーが記載され、また、ライスペーパーは半透明といえるもの(文献6の摘記事項6a、文献7の上記摘記事項7a参照)ではあるが、甲5に記載のライスペーパーは、「電子写真及び印刷されたものの有色布地等への転写用途」(上記摘記事項甲5a)に係るものであって、甲1発明Aとは、その技術分野においても、転写のためのシールの積層構造においても共通するところはない。
そうすると、甲5を参照しても、甲1発明Aにおける「光透過性のプラスチックフィルムで構成されたベース材2」を「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」に変更すべき動機付けは見当たらない。
(3)「湿潤により接着性を発揮する」「接着層」について
「湿潤により接着性を発揮する」「接着層」が甲4(上記摘記事項甲4b参照)に示されるように周知であったとしても、甲1発明Aは、水転写タイプではないのであるから、甲1発明Aの「粘着剤層8」を「湿潤により接着性を発揮する」「接着層」に変更すべき動機付けは見当たらない。
(4)相違点2についてのまとめ
さらに、甲3をみても、相違点2に係る本件発明1の特定事項についての記載はない。
よって、相違点2に係る本件発明1の特定事項は、甲1発明A並びに甲2?5及び文献6?7に記載の周知技術に基いて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
そして、本件発明1は、相違点2に係る上記の「水転写マーク」及び「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」に加え、「透明プラスチックフィルムで構成された保護シート」を具備することにより、「使用に当たって患者の皮膚に押し付けたときの密着性に支障を来すことがなく、保管中の損傷の恐れも低減することができ、さらに、正確なマーキングが可能でマークの種類の把握も容易な放射線治療用マーカーを提供することができる。」(明細書【0015】)という特有の作用効果を奏するものである。

2-3 まとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明A並びに甲2?5及び文献6?7に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本件発明2について
3-1 対比
上記「2-1 対比」での検討を踏まえつつ、本件発明2と甲1発明Bとを対比すると、両者は、
「光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる転写マークを皮膚に貼り付けて用いるためのものであって、以下の構成をも備えている皮膚用シール。
(2A)ベース部材の裏面側に前記転写マークを形成すると共に、当該転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記ベース部材側からも保護シート側からも前記転写マークを視認可能としていること。
(2B)前記保護層は透明インクを用いて前記ベース材の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されていること。
(2D)前記保護シートは、前記接着層の粘着力によって貼り付けられ、当該接着層の存在しない部分では前記ベース部材と分離した状態とされていること。」
の点で一致し、次の各点で相違する。

(相違点1’)
本件発明2では、皮膚用シールが、
i)「放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状の」「放射線治療用マーカー」であり、
ii)転写マークが、「放射線治療に際し、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、又は、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれかのマークで構成され」、その転写マークが、「基台紙の幅方向一方側に偏って長手方向に所定間隔で並ぶ様に複数個形成されていること」をも備えているのに対し、甲1発明Bでは、皮膚用シールが、皮膚に貼り付けてシミ等を隠すために用いる皮膚シールであり、そのため、転写マークとして、十字のマーク、丸十字のマークのいずれをも備えるものではなく、さらに、その形状についても「所定幅の短冊状」とまでの特定のない点。

(相違点2’)
転写マークの転写タイプに関し、本件発明2では、転写マークが「水転写マーク」であり、そのため、ベース部材が「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」であり、「保護層は」「前記水溶性糊層の裏面側に形成され」、「接着層は湿潤により接着性を発揮」し、さらに、「保護シートは」「接着層の存在しない部分では前記基台紙と分離した状態とされている」のに対し、甲1発明Bでは、転写マークが水転写によらないタイプの転写マークであり、そのため、ベース部材は、プラスチックフィルムで構成されたものであって、「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」ではなく、弾性層は「前記水溶性糊層の裏面側に形成され」るものではなく、また、「接着層は湿潤により接着性を発揮する」ものでもなく、さらに、セパレータは「接着層の存在しない部分では前記基台紙と分離した状態とされている」ともいえない点。

(相違点3’)
本件発明2では、基台紙及び保護シートが、「同一幅・同一長さの短冊状に形成され」ているのに対し、甲1発明Bでは、ベース材2及びセパレータ3について、「同一幅・同一長さの短冊状に形成され」とまでの特定のない点。

3-2 判断
事案に鑑み相違点2’について検討するに、甲1発明Bにおける転写マーク、即ち、「弾性層6」、「インキ層7」及び「粘着剤層8」を「水転写マーク」に変更すること、また、甲1発明Bにおける「光透過性のプラスチックフィルムで構成されたベース材2」を「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」に変更することについて動機付けが見当たらないことは、上記「2-2 判断」にて示したとおりである。
そうすると、上記「2-2 判断」にて示した理由と同様の理由により、相違点2’に係る本件発明2の特定事項は、甲1発明B並びに甲2?5及び文献6?7に記載の周知技術に基いて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

3-3 まとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明B並びに甲2?5及び文献6?7に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 本件発明3について
4-1 対比
本件発明3(前者)と甲1発明C(後者)とを対比する。
後者の「ベース材2」は、前者の「水溶性糊層」が「形成された」「半透明のライスペーパー」と、“ベース部材”の点で共通する。
また、後者の「光透過性のプラスチックフィルムで構成されたセパレータ3」、「セパレータ3の貼り付け工程」は、それぞれ、前者の「透明プラスチックフィルム」、「保護シート貼り付け工程」に相当する。

よって、上記「2-1 対比」での検討を踏まえれば、両者は、
「光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる転写マークを皮膚に貼り付けて用いるための皮膚用シールの製造方法であって、以下の工程から構成される皮膚用シールの製造方法。
(3A)ベース部材の裏面に透明インクを用いてインク層を覆い隠し得るサイズとなる様に前記保護層を印刷した後、不透明インクを用いて前記保護層の裏面側から当該保護層の内側に収まる様に前記インク層を印刷し、さらに、透明樹脂インクを用いて前記インク層7の裏面側から前記保護層及び前記インク層の裏面を覆う様に前記接着層を印刷する印刷工程。
(3B)前記印刷工程の後に、前記ベース部材に印刷された転写マークの全体を覆い隠し得るサイズの透明プラスチックフィルムを前記接着層の裏面側に当該接着層の粘着力を利用して貼り付けるセパレータの貼り付け工程。」
の点で一致し、次の各点で相違する。

(相違点1”)
本件発明3では、
i)皮膚用シールが、「放射線治療の際の目印として用いるための放射線治療用マーカー」であり、
ii)皮膚に転写するマークが、「放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマーク」であるのに対し、甲1発明Cでは、皮膚用シールが、皮膚に貼り付けてシミ等を隠すために用いる皮膚シールであり、そのため、マークが、直線状のマーク、十字のマーク、及び、丸十字のマークのいずれかのマークでもない点。

(相違点2”)
転写マークの転写タイプに関し、本件発明3では、転写マークが「水転写マーク」であり、そのため、ベース部材が「水溶性糊層」が「形成された」「半透明のライスペーパー」であり、「保護層は」「前記水溶性糊層の裏面に」印刷され、また、「湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて」「接着層を印刷する」のに対し、甲1発明Cでは、転写マークが水転写によらないタイプの転写マークであり、そのため、ベース部材は、プラスチックフィルムで構成されたものであって、「水溶性糊層」が「形成された」「半透明のライスペーパー」ではなく、弾性層は「前記水溶性糊層の裏面に」印刷されるものではなく、また、「湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて」「接着層を印刷する」ものでもない点。

(相違点4)
本件発明3は、印刷工程において、「台紙に半透明のライスペーパーが積層された所定サイズの複紙の前記ライスペーパー側」に保護層を印刷し、「保護シート貼り付け工程の後に、前記複紙から前記台紙を剥がし取った状態の所定幅の短冊状に切断する切断工程」を備えるのに対し、甲1発明Cは、印刷工程において、「台紙に半透明のライスペーパーが積層された所定サイズの複紙の前記ライスペーパー側」に保護層を印刷するものではなく、そのため、「複紙から前記台紙を剥がし取」るものではなく、また、「所定幅の短冊状に切断する切断工程」を備えるのか否か不明な点。

4-2 判断
事案に鑑み相違点2”について検討するに、甲1発明Cにおける転写マーク、即ち、「弾性層6」、「インキ層7」及び「粘着剤層8」を「水転写マーク」に変更すること、また、甲1発明Cにおける「光透過性のプラスチックフィルムで構成されたベース材2」を「水溶性糊層」が「形成された」「半透明のライスペーパー」に変更することについて動機付けが見当たらないことは、上記「2-2 判断」にて示したとおりである。
そうすると、上記「2-2 判断」にて示した理由と同様の理由により、相違点2”に係る本件発明3の特定事項は、甲1発明C並びに甲2?5及び文献6?7に記載の周知技術に基いて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

4-3 まとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明C並びに甲2?5及び文献6?7に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 小括
したがって、本件発明1?3に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。


第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書において、本件発明1?3は、甲2に記載された発明及び甲3?甲5に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張をしているので、以下に検討する。
1 甲2に記載された発明
甲2には、【請求項1】?【請求項17】、【0001】?【0055】の記載があり、【図1】?【図9】の図示がある。
これらのうち、【図3】、【図6B】、【図7B】、【図8B】及びその関連記載を特に参照すれば、甲2の記載内容につき、次の事項を認めることができる。
ア)美容部材100には、離型層120、弾性層180、転写誘導剤170、デザイン層100、粘着層140及び保護フィルム130が積層して設けられている(【図3】)。
また、【図7B】、【図8B】には、美容部材100において、離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170が除去されることにより、デザイン層100及び粘着層140のみが皮膚に転写される事項が図示されている。
イ)デザイン層110は、インクを含み、皮膚に転写するデザインを施したデザイン層110であって(【請求項1】、【請求項5】、【図2】)、皮膚に接着させる粘着層140が積層されてなるものである(【図3】)。
ここで、デザイン層110及び粘着層140を、以下“転写マーク”と称すれば、美容部材100は、この転写マークを皮膚に貼り付けて、アイライナーなど別途の美容部材なしに、所望の色相やデザインを身体に適用するためのものである(【0005】)。
ウ)美容部材100における離型層120側を“表面側”と、また、保護フィルム130側を“裏面側”と以下称すれば、美容部材100は、離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170の裏面側に、前記転写マークを形成するものであって、当該転写マークの裏面側に保護フィルム130を貼り付けた積層構造を有する(【図3】)。
エ)【図6B】、【図7B】によれば、転写マークは、離型層120側からも保護フィルム130側からも視認可能であるから、離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170は全体として光透過性であるといえる。
同様に保護フィルム130は、光透過性のフィルムといえるし、【0045】の記載も併せみれば、光透過性のプラスチックフィルムで構成されているものといえる。
オ)粘着層140は、デザイン層110の裏面側に当該デザイン層110を覆うように形成されている(【図3】、【図7B】)
カ)保護フィルム130は、粘着層140の粘着力により貼り付けられる(【図3】、【0048】)。
キ)上記ア)?カ)のとおり、美容部材100は、いくつかの工程を経て製造されるものといえる。
ク)上記キ)の工程には、次の工程が含まれる。
離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170の裏面側から、デザイン層110を印刷する工程(【図3】、【0011】、【0044】)。
転写マークの全体を覆い隠し得るサイズの光透過性のプラスチックフィルムで構成された保護フィルム130を前記粘着層140の裏面側に当該粘着層の粘着力を利用して貼り付ける粘着層140貼り付け工程(【図3】、【0040】)。

以上によれば、甲2には、次の各発明が記載されている。
「インクを含み、皮膚に転写するデザインを施したデザイン層110及び皮膚に接着させる粘着層140が積層されてなる転写マークを皮膚に貼り付けて、アイライナーなど別途の美容部材なしに、所望の色相やデザインを身体に適用するためのものであって、以下の構成をも備えている美容部材100。
(1A)光透過性である、離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170の裏面側に、前記転写マークを形成すると共に、当該転写マークの裏面側に光透過性のプラスチックフィルムで構成された保護フィルム130を貼り付けた積層構造を有し、
前記離型層120側からも前記保護フィルム130側から前記転写マークを視認可能としていること。
(1B)前記粘着層140は前記デザイン層100の裏面側に当該デザイン層140を覆うように形成されていること。」(以下「甲2発明A」という。)

「インクを含み、皮膚に転写するデザインを施したデザイン層110及び皮膚に接着させる粘着層140が積層されてなる転写マークを皮膚に貼り付けて、アイライナーなど別途の美容部材なしに、所望の色相やデザインを身体に適用するためのものであって、以下の構成をも備えている美容部材100。
(2A)光透過性である、離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170の裏面側に、前記転写マークを形成すると共に、当該転写マークの裏面側に光透過性のプラスチックフィルムで構成された保護フィルム130を貼り付けた積層構造を有し、
前記離型層120側からも前記保護フィルム130側から前記転写マークを視認可能としていること。
(2B)前記粘着層140は前記デザイン層100の裏面側に当該デザイン層140を覆うように形成されていること。
(2D)前記保護フィルム130は、前記粘着層140の粘着力により貼り付けられていること。」(以下「甲2発明B」という。)

「インクを含み、皮膚に転写するデザインを施したデザイン層110及び皮膚に接着させる粘着層140が積層されてなる転写マークを皮膚に貼り付けて、アイライナーなど別途の美容部材なしに、所望の色相やデザインを身体に適用するための美容部材100の製造方法であって、以下の工程から構成される美容部材100の製造方法。
(3A)離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170の裏面にインクを用いて、デザイン層110を印刷する工程。
(3B)印刷された転写マークの全体を覆い隠し得るサイズの光透過性のプラスチックフィルムで構成された保護フィルム130を前記粘着層140の裏面側に当該粘着層の粘着力を利用して貼り付ける粘着層140貼り付け工程。」(以下「甲2発明C」という。)

2 本件発明1について
2-1 対比
本件発明1(前者)と甲2発明A(後者)とを対比する。
ア)後者における「インクを含」む「デザイン層110」は、その用語の意味、機能等からみて、前者の「インク層」に相当し、以下同様に、「皮膚に転写するデザイン」は「皮膚に転写するマーク」に、「施した」は「表した」に、「粘着層140」は「接着層」に、それぞれ相当する。
また、後者の「転写マーク」は、“転写マーク”である点で前者の「水転写マーク」と共通し、後者の「アイライナーなど別途の美容部材なしに、所望の色相やデザインを身体に適用するための」「皮膚に貼り付け」る「美容部材100」は、“皮膚用シール”である点で前者の「皮膚に貼り付けて放射線治療の際の目印として用いるための」「放射線治療用マーカー」と共通する。
イ)後者の「光透過性である、離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170」は、“ベース部材”である点で、前者の「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」と共通する。
また、後者の「光透過性のプラスチックフィルムで構成された保護フィルム130」は、前者の「透明プラスチックフィルムで構成された保護シート」に相当する。
ウ)後者の「前記離型層120側からも前記保護フィルム130側から前記転写マークを視認可能としている」は、“前記ベース部材側からも保護シート側からも前記転写マークを視認可能としている”点で、前者の「前記基台紙側からも保護シート側からも前記水転写マークを視認可能としている」と共通する。
エ)後者のインクが不透明であることは自明であるから、後者は、“インク層は不透明インクを用いて形成される”点で、前者と一致する。

よって、両者は、
「皮膚に転写するマークを施したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる転写マークを皮膚に貼り付けて用いるためのものであって、以下の構成をも備えている皮膚用シール。
(1A)ベース部材の裏面側に前記転写マークを形成すると共に、当該転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記ベース部材側からも保護シート側からも前記転写マークを視認可能としていること。
(1B)前記インク層は不透明インクを用いて形成され、前記接着層は前記インク層の裏面側に当該インク層を覆う様に形成されていること。」
の点で一致し、次の各点で相違する。

(相違点5)
本件発明1では、皮膚用シールが、
i)「放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状の」「放射線治療用マーカー」であり、
ii)転写マークとして、「放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを備えると共に」、その転写マークが、「直線状のマークである場合は長手方向に伸びる様に、十字又は丸十字のマークである場合は長手方向に所定間隔で複数個が並ぶ様に、形成されている」ことをも備えているのに対し、甲2発明Aでは、皮膚用シールが、アイライナーなど別途の美容部材なしに、所望の色相やデザインを身体に適用するための美容部材であり、そのため、転写マークとして、直線状のマーク、十字のマーク、及び、丸十字のマークのいずれをも備えるものではなく、さらに、その形状についても「所定幅の短冊状」とまでの特定のない点。

(相違点6)
転写マークの転写タイプに関し、本件発明1では、転写マークが「水転写マーク」であり、そのため、ベース部材が「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」であり、さらに、「接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて」形成されているのに対し、甲2発明Aでは、転写マークが「水転写マーク」であるとまでの特定はなく、また、ベース部材は、光透過性である、離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170から成るものであって「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」ではなく、さらに、「接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて」形成されているのか否か不明な点。

(相違点7)
転写マークの積層に関し、本件発明1では、転写マークが、インク層及び粘着層に加え「光透過性を有する保護層」「が積層されてなる」ものであり、そのため、「前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されている」のに対し、甲2発明Aでは、転写マークに「光透過性を有する保護層」が積層されていないため、「前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され」ておらず、「インク層は」「保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され」るものではなく、また、「接着層は」「保護層を覆う様に形成されている」ものでもない点。

(相違点8)
本件発明1では、基台紙及び保護シートが、「同一幅・同一長さの短冊状に形成され」ているのに対し、甲2発明Aでは、ベース材及びセパレータについて、「同一幅・同一長さの短冊状に形成され」とまでの特定のない点。

2-2 判断
事案に鑑み、相違点6について検討する。
甲2には、「水転写」に関し、「以前段階で、粘着成分119が添加されたデザイン層110または別途の粘着層140が露出された状態なので、デザイン層110を身体200に粘着させることができる。この際、離型層120は、ドライトランスファー(dry transfer)方式またはウォータートランスファー(water transfer)方式で身体200に転写されうる。」(【0049】)なる記載こそあるものの、「ウォータートランスファー(water transfer)方式で身体200に転写」するにあたり、甲2発明Aをどのように改変するのか、特に、甲2発明Aにおけるベース部材、即ち、離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170の3つの層を具体的にどのように改変するかについては、何らの記載も示唆もない。
ここで、甲2における「弾性層180は、弾性が相対的に大きいので、転写時に身体の屈曲に対応しうる。」(【0041】)、「転写誘導剤170は、合成樹脂粒子175を含むので、デザイン層110を離型層120に印刷することが容易であり、・・・」(【0044】)の各記載によれば、甲2発明Aの「弾性層180」、「転写誘導剤170」は、それぞれ特有の機能を奏するための部材であることが分かる。
そうすると、たとえ甲2に「ウォータートランスファー(water transfer)方式」との記載があったとしても、甲2発明Aにおける「弾性層180」、「転写誘導剤170」がそれぞれ奏する上記特有の機能を捨象した上で、甲2発明Aにおけるベース部材、即ち、離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170の3つの層を、「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」に変更すべき動機付けを見出すことはできない。
また、甲5には、「陶磁器用転写複紙、厚紙の上に剥がせる薄紙(ライスペーパー)が有り、更に薄紙上に水溶性樹脂が塗布された構造の用紙を利用し、電子写真を出力もしくは印刷された面の画像(トナー・インク)を壊さない程度に溶解性を有するよう調整された溶剤で希釈された樹脂を塗布し、更に白色樹脂及び接着性を有する樹脂を混合または個別に塗布、もしくはフィルム状にしたものを貼付して転写する方法とした。」(【0004】)と、水溶性樹脂が塗布されたライスペーパーが記載されているが、甲5のライスペーパーは、「電子写真及び印刷されたものの有色布地等への転写用途」(【0001】)に係るものであって、甲2発明Aとは、その技術分野においても転写のためのシールの積層構造においも共通するところはないのであるから、甲5を参照しても、甲2発明Aにおける離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170の3つの層を、「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」に変更すべき動機付けはやはり見当たらない。
さらに、甲3、甲4にも、相違点6に係る本件発明1の特定事項についての記載はない。
よって、相違点6に係る本件発明1の特定事項は、甲2発明A及び甲3?5に記載の技術に基いて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
そして、本件発明1は、相違点6に係る上記の「水転写マーク」及び「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」に加え、「透明プラスチックフィルムで構成された保護シート」を具備することにより、「使用に当たって患者の皮膚に押し付けたときの密着性に支障を来すことがなく、保管中の損傷の恐れも低減することができ、さらに、正確なマーキングが可能でマークの種類の把握も容易な放射線治療用マーカーを提供することができる。」(明細書【0015】)という特有の作用効果を奏するものである。

2-3 まとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明A及び甲3?5に記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本件発明2について
3-1 対比
上記「2-1 対比」における検討を踏まえつつ、本件発明2と甲2発明Bとを対比すると、両者は、
「皮膚に転写するマークを施したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる転写マークを皮膚に貼り付けて用いるためのものであって、以下の構成をも備えている皮膚用シール。
(1A)光透過性のベース部材の裏面側に前記転写マークを形成すると共に、当該転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記ベース部材側からも保護シート側からも前記転写マークを視認可能としていること。
(1B)前記インク層は不透明インクを用いて形成され、前記接着層は前記インク層の裏面側に当該インク層を覆う様に形成されていること。
(2D)前記保護シートは、前記接着層の粘着力によって貼り付けられていること。」
の点で一致し、次の各点で相違する。

(相違点5’)本件発明2では、皮膚用シールが、
i)「放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状の」「放射線治療用マーカー」であり、
ii)転写マークが、「放射線治療に際し、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、又は、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれかのマークで構成され」、その転写マークが、「基台紙の幅方向一方側に偏って長手方向に所定間隔で並ぶ様に複数個形成されていること」をも備えているのに対し、甲2発明Bでは、皮膚用シールが、アイライナーなど別途の美容部材なしに、所望の色相やデザインを身体に適用するための美容部材であり、そのため、転写マークとして、直線状のマーク、十字のマーク、及び、丸十字のマークのいずれをも備えるものではなく、さらに、その形状についても「所定幅の短冊状」とまでの特定のない点。

(相違点6’)
転写マークの転写タイプに関し、本件発明2では、転写マークが「水転写マーク」であり、そのため、ベース部材が「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」であり、また、「接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて」形成され、さらに、「保護シートは、」「接着層の存在しない部分では前記基台紙と分離した状態とされている」のに対し、甲2発明Bでは、転写マークが「水転写マーク」であるとまでの特定はなく、また、ベース部材は、光透過性である、離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170から成るものであって「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」ではなく、また、「接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて」形成されているのか否か不明であり、さらに、「保護シートは、」「接着層の存在しない部分では前記基台紙と分離した状態とされている」ともいえない点。

(相違点7’)
転写マークの積層に関し、本件発明2では、転写マークが、インク層及び粘着層に加え「光透過性を有する保護層」「が積層されてなる」ものであり、そのため、「前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されている」のに対し、甲2発明Bでは、転写マークに「光透過性を有する保護層」が積層されていないため、「前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され」ておらず、「インク層は」「保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され」るものではなく、また、「接着層は」「保護層を覆う様に形成されている」ものでもない点。

(相違点8’)
本件発明2では、基台紙及び保護シートが、「同一幅・同一長さの短冊状に形成され」ているのに対し、甲2発明Bでは、ベース材及びセパレータについて、「同一幅・同一長さの短冊状に形成され」とまでの特定のない点。

3-2 判断
事案に鑑み、相違点6’について検討するに、甲2発明Aにおけるベース部材、即ち、離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170の3つの層を、「裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙」に変更すべき動機付けのないことは、上記「2-2 判断」において示したとおりである。
そうすると、相違点6’に係る本件発明2の特定事項は、甲2発明B及び甲3?5に記載の技術に基いて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

3-3 まとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明B及び甲3?5に記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 本件発明3について
4-1 対比
本件発明3(前者)と甲2発明C(後者)とを対比する。
ア)後者の「離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170」は、前者の「水溶性糊層」が「形成された」「半透明のライスペーパー」と、“ベース部材”の点で共通する。
イ)甲3発明Cにおける「美容部材100」は、「デザイン層110及び皮膚に接着させる粘着層140が積層されてなる」のであるから、甲2発明Cの「方法」が、「デザイン層110を印刷」した後に、デザイン層110の裏面側から前記デザイン層110の裏面を覆う様に粘着層140を形成する工程をも含むことは明らかである。
してみると、甲2発明Cは、“光透過性のベース部材の裏面側に、前記インク層を印刷し、さらに、前記インク層の裏面側から前記インク層の裏面を覆う様に前記接着層を形成する印刷等工程。”を備える点で、本件発明3と共通する。

よって、上記「2-1 対比」における検討をも踏まえれば、両者は、
「皮膚に転写するマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる転写マークを皮膚に貼り付けて用いるための皮膚用シールの製造方法であって、以下の工程から構成される皮膚用シールの製造方法。
(3A)ベース部材の裏面側に、前記インク層を印刷し、さらに、前記インク層の裏面側から前記インク層の裏面を覆う様に前記接着層を形成する印刷等工程。
(3B)前記印刷等工程の後に前記転写マークの全体を覆い隠し得るサイズの透明プラスチックフィルムを前記接着層の裏面側に当該接着層の粘着力を利用して貼り付ける保護シート貼り付け工程。」
の点で一致し、次の各点で相違する。

(相違点5”)
本件発明3では、
i)皮膚用シールが、「放射線治療の際の目印として用いるための放射線治療用マーカー」であり、
ii)皮膚に転写するマークが、「放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマーク」であるのに対し、甲2発明Cでは、皮膚用シールが、アイライナーなど別途の美容部材なしに、所望の色相やデザインを身体に適用するための美容部材であり、そのため、マークが、直線状のマーク、十字のマーク、及び、丸十字のマークのいずれかのマークでもない点。

(相違点6”)
転写マークの転写タイプに関し、本件発明3では、転写マークが「水転写マーク」であり、そのため、ベース部材が、「水溶性糊層」が「形成された」「半透明のライスペーパー」であるのに対し、甲2発明Cでは、転写マークが「水転写マーク」であるとまでの特定はなく、また、ベース部材は、離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170である点。

(相違点7”)
本件発明3では、転写マークが、インク層及び粘着層に加え「光透過性を有する保護層」「が積層されてなる」ものであり、そのため、印刷等工程が「台紙に半透明のライスペーパーが積層された所定サイズの複紙の前記ライスペーパー側に形成された水溶性糊層の裏面に透明インクを用いて前記インク層を覆い隠し得るサイズとなる様に前記保護層を印刷した後、不透明インクを用いて前記保護層の裏面側から当該保護層の内側に収まる様に前記インク層を印刷し、さらに、湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側から前記保護層及び前記インク層の裏面を覆う様に前記接着層を印刷する印刷工程。」であるのに対し、甲2発明Cでは、転写マークに「光透過性を有する保護層」が積層されておらず、そのため、「台紙に半透明のライスペーパーが積層された所定サイズの複紙の前記ライスペーパー側に形成された水溶性糊層の裏面に透明インクを用いて前記インク層を覆い隠し得るサイズとなる様に前記保護層を印刷」する工程、「保護層の裏面側から当該保護層の内側に収まる様に前記インク層を印刷」する工程、「湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側から前記保護層及び前記インク層の裏面を覆う様に前記接着層を印刷する」工程のいずれをも備えていない点。

(相違点9)
本件発明3は、「前記印刷工程の後に前記複紙に印刷された水転写マークの全体を覆い隠し得るサイズの透明プラスチックフィルムを前記接着層の裏面側に当該接着層の粘着力を利用して貼り付ける保護シート貼り付け工程。」及び「前記保護シート貼り付け工程の後に、前記複紙から前記台紙を剥がし取った状態の所定幅の短冊状に切断する切断工程。」を備えるのに対し、甲2発明Cでは、貼り付け工程における転写マークは、「複紙に印刷された水転写マーク」ではなく、また、「切断工程」を備えていない点。

4-2 判断
事案に鑑み、相違点6”について検討するに、甲2発明Cにおけるベース部材、即ち、離型層120、弾性層180及び転写誘導剤170の3つの層を、「水溶性糊層」が「形成された」「半透明のライスペーパー」に変更すべき動機付けのないことは、上記「2-2 判断」において示したとおりである。
そうすると、相違点6”に係る本件発明3の特定事項は、甲2発明C及び甲3?5に記載の技術に基いて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

4-3 まとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲2発明C及び甲3?5に記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 小括
したがって、本件発明1?3に係る特許は、申立人による上記の理由によっては、取り消すことができない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び証拠並びに特許異議申立書に記載の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (54)【発明の名称】
放射線治療用マーカー及びその製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療の際の目印として患者の皮膚にマークを付するための放射線治療用マーカーと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面に治療用の目印となるマークが印刷されている基台紙と、該基台紙の裏面に剥離可能に積層されている透明な保護シート層と、該保護シート層の裏面に積層され、前記基台紙に印刷されたマークと同一のマークを形成するインク層と、該インク層の裏面に積層されている接着層と、該接着層の裏面に剥離可能に積層されている保護紙とによって構成され、前記保護紙を剥がして、前記基台紙に水分を含ませると共に、前記接着層を皮膚に押し当てることにより、前記接着層、インク層及び保護シート層を皮膚側に転写して、各種の治療の際の目印となり、前記保護シート層、インク層及び接着層が皮膚に対して柔軟性に富み、かつ摩擦に強いものである治療用マーカーが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特許第3609289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の放射線治療用マーカーは、基台紙表面に印刷したマークにより患者の皮膚にマーキングするラインや十字などのマークの位置や形状を把握しながら水転写作業が可能で、術者や患者の衣服等を汚すことがなく、鮮明で正確な目印をマーキングすることができるという優れたものである。
【0005】
ところで、この種の放射線治療用マーカーは、基台紙の表面へのマークの印刷と、基台紙裏面への保護シート層、インク層、接着層の印刷とを経て製造するため、基台紙は表裏印刷に耐え得るコシの強さを有するものを用いる必要がある。コシの強い基台紙は、保護紙を剥がして接着層を患者の皮膚に押し付ける際に皮膚への密着性が悪くなることが懸念される。一方、基台紙のコシが弱いと保管中の折れ曲がりやマーク自体の損傷が懸念される。
【0006】
そこで、本発明は、使用に当たって患者の皮膚に押し付けたときの密着性に支障を来すことがなく、保管中の損傷等の恐れも低減することができ、さらに、正確なマーキングが可能でマークの種類の把握も容易な放射線治療用マーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本発明の放射線治療用マーカーは、光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる水転写マークを皮膚に貼り付けて放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状のものであって、前記水転写マークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを備えると共に、以下の構成をも備えていることを特徴とする。
(1A)裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に前記水転写マークを形成すると共に、当該水転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記基台紙側からも保護シート側からも前記水転写マークを視認可能としていること。
(1B)前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されていること。
(1C)前記基台紙及び前記保護シートが同一幅・同一長さの短冊状に形成され、前記水転写マークが、直線状のマークである場合は長手方向に伸びる様に、十字又は丸十字のマークである場合は長手方向に所定間隔で複数個が並ぶ様に、形成されていること。
【0008】
本発明の放射線治療用マーカーによれば、基台紙が半透明のライスペーパーで構成されると共に保護層が光透過性を有するから、基台紙の表面側から、不透明インクによって形成したインク層が透けて見える。また、基台紙が半透明のライスペーパーであるから、コシが弱く、保護シートを剥がして皮膚に水転写マークを押し付ける際の密着性を妨げることがない。従って、水転写による皮膚への正確なマーキングが可能である。一方、保護シートとして透明プラスチックフィルムを用いているから、放射線治療用マーカーを保管する際の基台紙のコシの弱さをカバーすることができる。加えて、保護シートが透明プラスチックフィルムで構成されると共に、接着層が透明な樹脂インクで形成されているから、裏返しになっていてもマークを視認することができる。この結果、放射線治療用として十字や直線など種々のマークを用いる場合に、適切な放射線治療用マーカーをスムーズに選び出すことができる。なお、保護層とインク層の間、インク層と接着層の間に、光透過性を有する介在層を介在させても構わない。
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明の放射線治療用マーカーは、光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる水転写マークを皮膚に貼り付けて放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状のものであって、以下の構成をも備えていることを特徴とする。
(2A)裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に前記水転写マークを形成すると共に、当該水転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記基台紙側からも保護シート側からも前記水転写マークを視認可能としていること。
(2B)前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されていること。
(2C)前記基台紙及び前記保護シートが同一幅・同一長さの短冊状に形成され、前記水転写マークが、放射線治療に際し、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、又は、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれかのマークで構成され、当該水転写マークが、前記基台紙の幅方向一方側に偏って長手方向に所定間隔で並ぶ様に複数個形成されていること。
(2D)前記保護シートは、前記接着層の粘着力によって貼り付けられ、当該接着層の存在しない部分では前記基台紙と分離した状態とされていること。
【0010】
かかる構成をも備えた本発明の放射線治療用マーカーによれば、複数個形成された水転写マークの内で必要な個数だけ切り離して用いることができる。この際、本発明の放射線治療用マーカーは、表からも裏からもマークを視認することができるから、切り離し作業を正しく実施することができる。また、短冊状の放射線治療用マーカーにおいて十字等のマークは幅方向一方側に偏って形成されているから、幅方向他方側は余白となっており、基台紙に対して保護シートが分離した状態となる。従って、切り離して小さなチップとなったマーカー片から保護シートを剥がす作業や、保護シートを剥がした後の小さなマーカー片を皮膚に押し付ける際や、水を含ませた基台紙を剥がす際に、この余白部分を指で摘んで作業をすることができる。なお、最初から1個ずつの小さなチップとした場合には保管中に保護シートが剥がれて水転写マークに損傷を与えることもあり得るが、複数個を並べて形成した水転写マークを必要な個数だけ切り離して用いる構成であるから、この様な保管中の保護シートの脱落等を生じ難いという効果もある。
【0011】
上記目的を達成するためになされた本発明の放射線治療用マーカーの製造方法は、光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる水転写マークを皮膚に貼り付けて放射線治療の際の目印として用いるための放射線治療用マーカーの製造方法であって、以下の工程から構成されることを特徴とする。
(3A)台紙に半透明のライスペーパーが積層された所定サイズの複紙の前記ライスペーパー側に形成された水溶性糊層の裏面に透明インクを用いて前記インク層を覆い隠し得るサイズとなる様に前記保護層を印刷した後、不透明インクを用いて前記保護層の裏面側から当該保護層の内側に収まる様に前記インク層を印刷し、さらに、湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側から前記保護層及び前記インク層の裏面を覆う様に前記接着層を印刷する印刷工程。
(3B)前記印刷工程の後に前記複紙に印刷された水転写マークの全体を覆い隠し得るサイズの透明プラスチックフィルムを前記接着層の裏面側に当該接着層の粘着力を利用して貼り付ける保護シート貼り付け工程。
(3C)前記保護シート貼り付け工程の後に、前記複紙から前記台紙を剥がし取った状態の所定幅の短冊状に切断する切断工程。
【0012】
本発明の放射線治療用マーカーの製造方法によれば、(3A)?(3C)の工程により、半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に水転写マークが形成されると共に、当該水転写マークの裏面側に透明プラスチックフィルムで構成された保護シートが貼り付けられた積層構造を有する短冊状放射線治療用マーカーを製造することができる。本発明の放射線治療用マーカーの製造方法によれば、皮膚に貼り付ける際のコシの弱さを有するライスペーパーであっても、印刷工程においては台紙によってコシが確保されているから、適正な形状の保護層、インク層、及び接着層が正しく重なる様に印刷することができる。そして、保護シートを貼り付けた後に台紙を剥がすから、印刷によって形成した水転写マークを損傷させることなく台紙を剥がし取ることができる。
【0013】
ここで、切断工程は、台紙を剥がしてから短冊状に切断する順番としてもよいし、短冊状に切断してから台紙を剥がす順番としてもよい。切断する前に台紙を剥がす順番とした場合は、台紙を剥がす作業が少なくなると共に、台紙を剥がした後は、基台紙側からも保護シート側からも、インク層を視認することができるから、短冊状に切断する際の切断位置の確認が容易で、十字等を複数個備える短冊に切断する際に十字等が短冊の幅方向一方側に偏って並ぶ様に切断する様に位置合わせすることも容易である。また、透明プラスチックフィルムは、複紙と同一サイズとすると貼り付け作業や切断作業が実行し易くなる。なお、最終的に短冊状に切断するから、透明プラスチックフィルムが複紙よりも大きなサイズであっても構わない。
【0014】
本発明の製造方法によって製造された短冊状放射線治療用マーカーは、保管し易く、皮膚に貼り付けたり水を含ませた基台紙を剥がしたりする作業が容易で、正確なマーキングが可能でマークの種類の把握も容易なものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、使用に当たって患者の皮膚に押し付けたときの密着性に支障を来すことがなく、保管中の損傷の恐れも低減することができ、さらに、正確なマーキングが可能でマークの種類の把握も容易な放射線治療用マーカーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の放射線治療用マーカーを用いて患者の皮膚に放射線治療用のマークを施した様子を例示する模式図である。
【図2】実施例1の放射線治療用マーカー(直線)を示し、(A)は要部拡大断面図、(B)は分解斜視図である。
【図3】実施例1の放射線治療用マーカー(直線)の六面図及び分解底面図である。
【図4】実施例1の放射線治療用マーカー(十字)を示し、(A)は要部拡大断面図、(B)は分解斜視図である。
【図5】実施例1の放射線治療用マーカー(十字)の六面図及び分解底面図である。
【図6】実施例1の放射線治療用マーカー(丸十字)を示し、(A)は要部拡大断面図、(B)は分解斜視図である。
【図7】実施例1の放射線治療用マーカー(丸十字)の六面図及び分解底面図である。
【図8】実施例1において直線状のマークを皮膚に施す手順を示す説明図である。
【図9】実施例1において十字のマークを皮膚に施す手順を示す説明図である。
【図10】実施例1において丸十字のマークを皮膚に施す手順を示す説明図である。
【図11】実施例1の放射線治療用マーカーの製造工程を示す説明図である。
【図12】実施例1の放射線治療用マーカーの印刷工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0018】
本実施例は、図1に示す様に放射線治療用のマークA,B,Cを患者の皮膚に貼り付けるために所定長さに切断して用いる水転写方式の放射線治療用マーカーに関するものである。直線状のマークAは、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いるものであり、方向を示す。十字のマークBは、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いるものであり、位置を特定する。丸十字のマークCは、患部を特定する目印として用いるものであり、位置を特定する。
【0019】
患者の皮膚に直線状のマークAを貼り付けるための放射線治療用マーカー10は、図2に示す様に、保護層11、皮膚に転写するマークを表したインク層12、及び皮膚に接着させる接着層13が積層されてなる水転写マーク14を、基台紙15の裏面側に形成すると共に、この水転写マーク14の裏面側に保護シート16を貼り付けた積層構造を有している。保護層11は透明インクを用いて基台紙15の裏面側に形成され、インク層12は不透明インクを用いて保護層11の内側に収まる様に保護層11の裏面側に形成され、接着層13は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いてインク層12の裏面側にインク層12及び保護層11を覆う様に形成されている。
【0020】
この放射線治療用マーカー10は、図3に示す様に、基台紙15として半透明のライスペーパーを用い、保護シート16として透明プラスチックフィルムを用いている。基台紙15の裏面には水溶性糊層が形成されている。また、基台紙15及び保護シート16が同一幅・同一長さの短冊状に形成され、直線状の水転写マーク14は、幅方向中央に形成されている。保護シート16は、接着層13の粘着力によって貼り付けられ、接着層13の存在しない部分では基台紙15と分離した状態とされている。
【0021】
患者の皮膚に十字のマークBを貼り付けるための放射線治療用マーカー20は、図4に示す様に、保護層21、皮膚に転写するマークを表したインク層22、及び皮膚に接着させる接着層23が積層されてなる水転写マーク24を、基台紙25の裏面側に形成すると共に、この水転写マーク24の裏面側に保護シート26を貼り付けた積層構造を有している。保護層21は透明インクを用いて基台紙25の裏面側に形成され、インク層22は不透明インクを用いて保護層21の内側に収まる様に保護層21の裏面側に形成され、接着層23は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いてインク層22の裏面側にインク層22及び保護層21を覆う様に形成されている。
【0022】
この放射線治療用マーカー20は、図5に示す様に、基台紙25として半透明のライスペーパーを用い、保護シート26として透明プラスチックフィルムを用いている。基台紙25の裏面には水溶性糊層が形成されている。また、基台紙25及び保護シート26が同一幅・同一長さの短冊状に形成され、十字の水転写マーク24が、基台紙25の幅方向一方側に偏って長手方向に所定間隔で並ぶ様に8個形成されている。保護シート26は、接着層23の粘着力によって貼り付けられ、接着層23の存在しない部分では基台紙25と分離した状態とされている。
【0023】
患者の皮膚に丸十字のマークCを貼り付けるための放射線治療用マーカー30は、図6に示す様に、保護層31、皮膚に転写するマークを表したインク層32、及び皮膚に接着させる接着層33が積層されてなる水転写マーク34を、基台紙25の裏面側に形成すると共に、この水転写マーク24の裏面側に保護シート36を貼り付けた積層構造を有している。保護層31は透明インクを用いて基台紙35の裏面側に形成され、インク層32は不透明インクを用いて保護層31の内側に収まる様に保護層31の裏面側に形成され、接着層33は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いてインク層32の裏面側にインク層32及び保護層31を覆う様に形成されている。
【0024】
この放射線治療用マーカー30は、図7に示す様に、基台紙35として半透明のライスペーパーを用い、保護シート36として透明プラスチックフィルムを用いている。基台紙35の裏面には水溶性糊層が形成されている。また、基台紙35及び保護シート36が同一幅・同一長さの短冊状に形成され、丸十字の水転写マーク34が、基台紙25の幅方向一方側に偏って長手方向に所定間隔で並ぶ様に8個形成されている。保護シート36は、接着層33の粘着力によって貼り付けられ、接着層33の存在しない部分では基台紙35と分離した状態とされている。
【0025】
なお、作図の都合上、図2(A),図4(A),図6(A)では、保護層11,21,31及び接着層13,23,33に対してインク層12,22,32が食い込んでいる様に表しているが、後述の製造工程から明らかな様に、保護層11,21,31と接着層13,23,33とがインク層12,22,32を表裏から挟み込む様に密着した状態となっている。また、保護層11,21,31とインク層12,22,32の間、インク層12,22,32と接着層13,23,33の間に、光透過性を有する介在層を介在させても構わない。
【0026】
放射線治療用マーカー10,20,30は、図8?図10に示す様に、鋏で切断してマーカー片10a,20a,30aとした後、保護シート16,26,36を剥がし、基台紙15,25,35を表にして皮膚に押し付ける様にして位置決めし、水を含んだ脱脂綿等を用いて基台紙15,25,35に水を含ませた後、基台紙15,25,35を剥がしてマークA,B,Cを皮膚に転写する様にして貼り付ける。なお、放射線治療用マーカー20,30は、位置を特定するマークB,Cを患者の皮膚に転写するためのものであるから、図9,図10に示した様に、水転写マーク24,34が単体となる様に切断して用いる。放射線治療用マーカー10は、患者を治療用ベッドに正しい姿勢で寝かせるための方向を示すマークAを患者の皮膚に転写するためのものであるから、図8に示す様に、所望の長さに切断して用いるが、切断することなく用いても構わない。
【0027】
次に、これら放射線治療用マーカー10,20,30の製造方法を、放射線治療用マーカー20を例に、図11,図12に基づいて説明する。
【0028】
まず、基台紙25となる半透明のライスペーパーが裏面側に台紙40が積層されたA4サイズの複紙を用意する。本実施例では、丸繁紙工株式会社の複紙(台紙+ライスペーパー、製品名:DP(厚さ0.23mm))を用いた。
【0029】
図11(A)に示す様に、ライスペーパー(基台紙25)側を印刷面とし、でんぷん糊をコーティングして乾燥させ、ライスペーパー(基台紙25)の裏面側に水溶性糊層を形成する。
【0030】
次に、図11(B),図12(A)に示す様に、スクリーン印刷により、透明インク(帝国インキ製造株式会社のポリエステル銘板用印刷インキ、製品名:EGスクリーンインキ)を用いて、水溶性糊層の裏面側に保護層21を形成する。
【0031】
次に、図11(C),図12(B)に示す様に、スクリーン印刷により、黒色インク(株式会社永瀬スクリーン印刷研究所のスクリーン印刷用インキ、製品名:フジロン 黒(希釈溶剤、同社の製品名:エイトソルベント 遅乾))を用いて、保護層21の裏面側に、当該保護層21の内側に収まる様にインク層22を形成する。
【0032】
次に、図11(D),図12(C)に示す様に、スクリーン印刷により、湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インク(名古屋スリーボンド株式会社の製品銘:リキダイン THB-102)を用いて、インク層22の裏面側に、インク層22及び保護層21を覆う様に接着層23を形成する。
【0033】
次に、図11(E)に示す様に、A4サイズの透明な保護シート26を接着層23の裏面側に貼り付ける。本実施例では、リンテック株式会社のポリプロピレンシート、製品名:SP-PP-40)を保護シート26として用いた。
【0034】
次に、図11(F)に示す様に、台紙40を剥がし、さらに、図11(G)に示す様に、所定幅の切断線50にて短冊状に切断する。これにより、図11(H)に示す様に、放射線治療用マーカー20を製造する。
【0035】
上述した実施例の放射線治療用マーカーの製造方法によれば、皮膚に貼り付ける際のコシの弱さを有するライスペーパーであっても、印刷工程においては台紙40によってコシが確保されているから、適正な形状の保護層11,21,31、インク層12,22,32、及び接着層13,23,33を重ね印刷することができる。そして、保護シート50を貼り付けた後に台紙40を剥がすから、印刷によって形成した水転写マーク14,24,34を損傷させることなく台紙40を剥がし取ることができる。こうして台紙40を剥がした後は、基台紙15,25,35側からも保護シート16,26,36側からもインク層12,22,32を視認することができるから、短冊状に切断する際の切断位置の確認が容易で、十字等を複数個備える短冊に切断する際に十字等が短冊の幅方向一方側に偏って並ぶ様に切断する様に位置合わせすることも容易である。また、複紙と透明プラスチックフィルムが同一サイズであるから、貼り付け作業や切断作業における位置合わせが容易である。
【0036】
実施例の放射線治療用マーカー10,20,30によれば、基台紙15,25,35が半透明のライスペーパーで構成されると共に保護層11,21,31が透明であるから、図3,図5,図7に示した様に、基台紙15,25,35の表面側から、黒色インクによって形成したインク層12,22,32が透けて見える。また、基台紙15,25,35が半透明のライスペーパーであるから、コシが弱く、図8?図10に示した様に、保護シート16,26,36を剥がして皮膚に水転写マーク14,24,34を押し付ける際の密着性を妨げることがない。従って、水転写による皮膚への正確なマーキングが可能である。一方、保護シート16,26,36として透明プラスチックフィルムを用いているから、放射線治療用マーカー10,20,30を保管する際の基台紙15,25,35のコシの弱さをカバーすることができる。加えて、保護シート16,26,36が透明プラスチックフィルムで構成されると共に、接着層13,23,33が透明な樹脂インクで形成されているから、図3,図5,図7の底面図に示す様に、裏返しになっていてもマークを視認することができる。この結果、放射線治療用として十字や直線など種々のマークA,B,Cを用いる場合に、適切な放射線治療用マーカー10,20,30をスムーズに選び出すことができる。
【0037】
また、十字のマークBを患者の皮膚に転写するための放射線治療用マーカー20、及び丸十字のマークCを患者の皮膚に転写するための放射線治療用マーカー30によれば、複数個形成された水転写マーク24,34の内で必要な個数だけ切り離して用いることができる。この際、放射線治療用マーカー20,30は、表からも裏からも水転写マーク24,34を視認することができるから、切り離し作業を正しく実施することができる。また、短冊状の放射線治療用マーカー20,30において十字,丸十字の水転写マーク24,34は幅方向一方側に偏って形成されているから、幅方向他方側は余白となっており、基台紙25,35に対して保護シート26,36が分離した状態となる。従って、図9,図10に示した様に、切り離して小さなチップとなったマーカー片20a,30aから保護シート26,36を剥がす作業や、保護シート26,36を剥がした後の小さなマーカー片20a,30aを皮膚に押し付ける際や、水を含ませた基台紙25,35を剥がす際に、この余白部分を指で摘んで作業をすることができる。そして、複数個を並べて形成した水転写マーク24,34を必要な個数だけ切り離して用いる構成であるから、保管中の保護シート26,36の脱落等を生じ難いという効果もある。
【0038】
この様に、実施例の放射線治療用の製造方法によれば、保管し易く、皮膚に貼り付けたり水を含ませた基台紙を剥がしたりする作業が容易で、正確なマーキングが可能でマークの種類の把握も容易な放射線治療用マーカー10,20,30を製造することができる。そして、実施例の放射線治療用マーカー10,20,30によれば、使用に当たって患者の皮膚に押し付けたときの密着性に支障を来すことがなく、保管中の損傷の恐れも低減することができ、さらに、正確なマーキングが可能でマークの種類の把握も容易な放射線治療用マーカーを提供することができる。
【0039】
この様に、実施例によれば、保管し易く、皮膚に貼り付けたり水を含ませた基台紙15,25,35を剥がしたりする作業が容易で、正確なマーキングが可能でマークの種類の把握も容易な放射線治療用マーカー10,20,30を製造することができ、これら放射線治療用マーカー10,20,30は、使用に当たって患者の皮膚に押し付けたときの密着性に支障を来すことがなく、保管中の損傷の恐れも低減することができ、さらに、正確なマーキングが可能でマークの種類の把握も容易なものである。
【0040】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々に実施することができる。
【0041】
例えば、製造方法において用いる複紙及び透明プラスチックフィルムはA4サイズ同士に限らず、プラスチックフィルムの方が複紙よりも大きなサイズであってもよい。また、インクの種類も実施例にあげたものに限らず、不透明インクの色も半透明のライスペーパーを透かして視認可能な色であれば黒インクに限らない。加えて、保護シートとして、PETなどポリプロピレン以外の透明プラスチックフィルムを用いて差し支えない。さらに、製造方法において、短冊状に切断した後に台紙40を剥がす様にしても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、放射線治療の際の目印を付する作業に用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
A,B,C・・・放射線治療用のマーク、10,20,30・・・放射線治療用マーカー、10a,20a,30a・・・マーカー片、11,21,31・・・保護層、12,22,32・・・インク層、13,23,33・・・接着層、14,24,34・・・水転写マーク、15,25,35・・・基台紙(ライスペーパー)、16,26,36・・・保護シート(透明プラスチックフィルム)、40・・・台紙、50・・・切断線。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる水転写マークを皮膚に貼り付けて放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状のものであって、前記水転写マークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを備えると共に、以下の構成をも備えていることを特徴とする放射線治療用マーカー。
(1A)裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に前記水転写マークを形成すると共に、当該水転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記基台紙側からも保護シート側からも前記水転写マークを視認可能としていること。
(1B)前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されていること。
(1C)前記基台紙及び前記保護シートが同一幅・同一長さの短冊状に形成され、前記水転写マークが、直線状のマークである場合は長手方向に伸びる様に、十字又は丸十字のマークである場合は長手方向に所定間隔で複数個が並ぶ様に、形成されていること。
【請求項2】
光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる水転写マークを皮膚に貼り付けて放射線治療の際の目印として用いるための所定幅の短冊状のものであって、以下の構成をも備えていることを特徴とする放射線治療用マーカー。
(2A)裏面に水溶性糊層が形成された半透明のライスペーパーで構成された基台紙の裏面側に前記水転写マークを形成すると共に、当該水転写マークの裏面側に、透明プラスチックフィルムで構成された保護シートを貼り付けた積層構造を有し、前記基台紙側からも保護シート側からも前記水転写マークを視認可能としていること。
(2B)前記保護層は透明インクを用いて前記水溶性糊層の裏面側に形成され、前記インク層は不透明インクを用いて前記保護層の内側に収まる様に当該保護層の裏面側に形成され、前記接着層は湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側に当該インク層及び前記保護層を覆う様に形成されていること。
(2C)前記基台紙及び前記保護シートが同一幅・同一長さの短冊状に形成され、前記水転写マークが、放射線治療に際し、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、又は、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれかのマークで構成され、当該水転写マークが、前記基台紙の幅方向一方側に偏って長手方向に所定間隔で並ぶ様に複数個形成されていること。
(2D)前記保護シートは、前記接着層の粘着力によって貼り付けられ、当該接着層の存在しない部分では前記基台紙と分離した状態とされていること。
【請求項3】
光透過性を有する保護層、皮膚に転写するマークとして、放射線治療に際し、患者を適切な姿勢で治療用ベッドに寝かせるための目印として用いる直線状のマーク、放射線の照射範囲の境界を表す目印として用いる十字のマーク、及び、患部を特定する目印として用いる丸十字のマークのいずれか一種類のマークを表したインク層、及び皮膚に接着させる接着層が積層されてなる水転写マークを皮膚に貼り付けて放射線治療の際の目印として用いるための放射線治療用マーカーの製造方法であって、以下の工程から構成されることを特徴とする放射線治療用マーカーの製造方法。
(3A)台紙に半透明のライスペーパーが積層された所定サイズの複紙の前記ライスペーパー側に形成された水溶性糊層の裏面に透明インクを用いて前記インク層を覆い隠し得るサイズとなる様に前記保護層を印刷した後、不透明インクを用いて前記保護層の裏面側から当該保護層の内側に収まる様に前記インク層を印刷し、さらに、湿潤により接着性を発揮する透明樹脂インクを用いて前記インク層の裏面側から前記保護層及び前記インク層の裏面を覆う様に前記接着層を印刷する印刷工程。
(3B)前記印刷工程の後に前記複紙に印刷された水転写マークの全体を覆い隠し得るサイズの透明プラスチックフィルムを前記接着層の裏面側に当該接着層の粘着力を利用して貼り付ける保護シート貼り付け工程。
(3C)前記保護シート貼り付け工程の後に、前記複紙から前記台紙を剥がし取った状態の所定幅の短冊状に切断する切断工程。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-30 
出願番号 特願2016-200251(P2016-200251)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 細川 翔多  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 関谷 一夫
井上 哲男
登録日 2019-04-19 
登録番号 特許第6512581号(P6512581)
権利者 合資会社ヤスイペイント工芸所 株式会社中部メディカル
発明の名称 放射線治療用マーカー及びその製造方法  
代理人 森 泰比古  
代理人 岩永 利彦  
代理人 森 泰比古  
代理人 森 泰比古  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ