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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1368963
異議申立番号 異議2019-700685  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-02 
確定日 2020-09-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6476952号発明「化粧シート、及び金属化粧板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6476952号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6476952号の請求項1-5に係る特許を取り消す。  
理由 第1 手続の経緯
特許第6476952号の請求項1-5に係る特許についての出願は、平成27年2月10日に出願され、平成31年2月15日にその特許権の設定登録がされ、平成31年3月6日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和1年9月2日 : 特許異議申立人による特許異議の申立て
令和1年11月21日付け: 取消理由通知書
令和1年12月25日 : 特許権者による意見書の提出
令和2年2月13日 : 取消理由通知書(決定の予告)
令和2年3月23日 : 特許権者による意見書の提出及び訂正請求
令和2年4月28日 : 特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1の「前記耐候性樹脂層は、アクリル樹脂とアクリル樹脂系ゴムとの混合物からなり、その混合比率は、アクリル樹脂が40質量%以上70質量%以下であり、アクリル樹脂系ゴムが30質量%以上60質量%以下であり、」と記載されているのを、「前記耐候性樹脂層は、アクリル樹脂とアクリル樹脂系ゴムとの混合物からなり、その混合比率は、アクリル樹脂が40質量%以上70質量%以下であり、アクリル樹脂系ゴムが30質量%以上60質量%以下であり、前記アクリル樹脂に紫外線吸収剤、光安定剤が添加され、」に訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2?5も同様に訂正する。)。
ここで、訂正事項1は、訂正前に引用関係を有する請求項1?5に対して請求されたものである。
よって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとに請求されている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「前記耐候性樹脂層は、アクリル樹脂とアクリル樹脂系ゴムとの混合物からなり、その混合比率は、アクリル樹脂が40質量%以上70質量%以下であり、アクリル樹脂系ゴムが30質量%以上60質量%以下であり、」を、明細書【0013】に記載されていた「アクリル樹脂に公知の紫外線吸収剤、光安定剤が添加してもよい」という点で限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
したがって、上記の訂正請求による訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。

第3 取消理由の概要
請求項1-5に係る特許に対し、当審が令和2年2月13日付けの取消理由通知(決定の予告)において、特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項2に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項3-5に係る発明は、引用文献1に記載された発明または引用文献1に記載された発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3-5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1-5に係る特許は、取り消されるべきものである。

引用文献1:特許異議申立人が提出した甲第1号証(特開2012-56146号公報)

第4 当審の判断
1 訂正特許請求の範囲請求項1-5に係る発明
上記訂正請求により訂正された請求項1-5に係る発明(以下「本件発明1」-「本件発明5」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材層上に、透明接着剤層、耐候性樹脂層及びフッ素樹脂層をこの順に積層し、
前記耐候性樹脂層は、アクリル樹脂とアクリル樹脂系ゴムとの混合物からなり、その混合比率は、アクリル樹脂が40質量%以上70質量%以下であり、アクリル樹脂系ゴムが30質量%以上60質量%以下であり、前記アクリル樹脂に紫外線吸収剤、光安定剤が添加され、
前記フッ素樹脂層の厚みと前記耐候性樹脂層の厚みとの比率が10:90から40:60の範囲であり、ISO5660-1に準拠する発熱性試験にて不燃認定取得可能要件を満たし、
前記透明接着剤層は、接着剤として熱硬化性ウレタン樹脂を含むことを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記透明接着剤層は、ポリエステル系樹脂を主鎖とする2液硬化性ウレタン系接着剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記基材層の前記透明接着剤層側とは反対側の面に、接着剤層を備え、
前記接着剤層は、接着剤として、ポリアミド樹脂または熱硬化性ウレタン樹脂を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化粧シート。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の化粧シートを金属板に貼りあわせてなることを特徴とする金属化粧板。
【請求項5】
前記化粧シート表面に凹凸模様を有することを特徴とする請求項4に記載の金属化粧板。」

2 引用文献の記載、引用発明
取消理由で通知した引用文献1には、図面と共に、次の記載がある。以下、下線は理解の便宜のために当審で付した。
「【請求項1】
基材上に接着層、アクリル樹脂層、及びフッ素樹脂層をこの順に有し、該アクリル樹脂層がアクリルゴム及びアクリル樹脂を含み、該アクリルゴムと該アクリル樹脂との質量比が20:80?85:15であり、総厚が200μm以下である不燃性化粧シート。」
「【請求項5】
請求項1?5のいずれかに記載の不燃性化粧シートと鋼板とを貼着してなる不燃性化粧鋼板。」
「【0012】
《不燃性》
本発明の不燃性化粧シート及び不燃性化粧鋼板が有する不燃性は、人的災害などの発生を抑制する見地から望まれるものである。ここで、「不燃性」とは、ISO5660-1の規定に基づき、不燃材料の規定に適合するものであり、具体的には、本発明の不燃性化粧板1に対して、ISO5660-1に準拠したコーンカロリ燃焼試験により、前記不燃性化粧板1の時間に対する総発熱量及び時間に対する発熱速度を求めた際に、(i)加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m^(2)以下であり、(ii)加熱開始後20分間、最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m^(2)を超えず、かつ(iii)加熱開始後20分間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないこと、である。」
「【0014】
・・・
また、基材は、基材と他の層との層間密着性や、各種の被着材との接着性の強化などのためのプライマー層や、裏面プライマー層を形成するなどの処理を施してもよい。プライマー層の形成に用いられる材料としては特に限定されず、アクリル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリウレタン、2液硬化型ポリエステルウレタン、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンなどが挙げられる。なお、裏面プライマー層に用いられる材料は被着材によって、適宜選択される。なお、基材として市販のものを用いる場合には、該市販品は予め上記したような表面処理が施されたものや、易接着剤層が設けられたものも用いることができる。」
「【0015】
《接着層》
本発明の化粧シートにおける接着層12としては、通常化粧シートで用いられる接着剤又はヒートシール剤を用いることができ、その厚さは0.1?15μm程度であることが好ましく、より好ましくは3?15μmである。
接着剤としては、特に制限はなく、エポキシ系、ポリエステル系、ポリウレタン系、酢酸ビニル系、エチレン-酢酸ビニル系、塩化ビニル系、アクリル系、セルロース系、ゴム系、ウレタン系などを用いることができる。これらのうち、ポリエステル系、及びウレタン系の一種であるポリカーボネートポリエステルウレタン系が耐候性及び層間密着性の点で好ましい。」
「【0027】
(アクリルゴムとアクリル樹脂との質量比)
本発明において、アクリル樹脂層13に含まれるアクリルゴムとアクリル樹脂との質量比は、20:80?85:15であることを要する。該質量比が20:80よりも小さい、すなわちアクリルゴムの量が少なすぎると、優れた不燃性が得られず、また折り曲げ加工性が低下してしまう。一方、該質量比が85:15よりも大きい、すなわちアクリルゴムの量が多すぎると、アクリル樹脂層の形成が困難となり、また耐候性が低下してしまう。このような観点から、アクリルゴムとアクリル樹脂との質量比は、50:50?85:15が好ましく、より好ましくは70:30?85:15である。
【0028】
(アクリル樹脂層の厚さ)
アクリル樹脂層13の厚さは、30?80μmが好ましく、30?70μmがより好ましい。厚さが30μm以上であれば、優れた耐候性が得られ、一方80μm以下であれば、優れた折り曲げ加工性が得られ、不燃性も得られる。」
「【0030】
フッ素樹脂層の厚さは、1?15μm程度であることが好ましく、1?10μmがより好ましい。また、フッ素樹脂層は、前記透明熱可塑性樹脂層の厚さに対する比率(フッ素樹脂層の厚さ/アクリル樹脂層の厚さ)として、不燃性及び折り曲げ加工性の観点から、0.05?1.0が好ましく、0.05?0.8がより好ましい。」
「【0039】
(添加剤)
表面保護層には、紫外線吸収剤(UVA)及び/又は光安定剤を含有させることが、本発明の不燃性化粧シートに耐候性を付与する点で好ましい。
・・・
【0041】
・・・また、これらの紫外線吸収剤は、表面保護層に限らず、他の層にも用いることができる。
・・・
【0043】
・・・ また、これらの光安定剤は、表面保護層に限らず、他の層にも用いることができる。」
「【0048】
また、表面保護層は、凹部を有していてもよい。表面保護層に凹部を施す方法については特に制限はなく、例えばエンボス加工により施される。エンボス加工は、公知の枚葉又は輪転式のエンボス機を使用する通常の方法により行えばよい。」
「【0052】
[不燃性化粧板]
本発明の不燃性化粧シートは、各種基板に必要に応じて接着剤を介して貼着して不燃性化粧板として使用することができる。被着体となる基板は、特に限定されず、鋼板、木材などの木質系の板、窯業系素材などを用途に応じて適宜選択することができる。本発明の不燃性化粧シートは、白化の原因となる微細なクラックが入りにくく、折り曲げ加工に適しているため、特に鋼板を基材として不燃性化粧板とすることが好ましい。
鋼板としては、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス鋼、又は銅などからなるものを用いることができ、またこれらの金属をめっきなどによって施したものを使用することもできる。」
「【0055】
実施例1
基材11として、着色ポリプロピレン樹脂(厚さ:80μm)からなる樹脂シートを準備した。この表面及び裏面にコロナ放電処理を施した後、表面にウレタン系印刷インキを用いて、グラビア印刷により木目柄を形成し、絵柄層(厚さ:2μm)を得た。一方、裏面には、下記組成の裏面プライマー層用塗工液を用いて、裏面プライマー層(厚さ:2μm)をグラビア印刷により形成した。
次いで、ポリフッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂層形成用混合物をTダイで溶融して、押し出し、フッ素樹脂層14とアクリル樹脂層13からなる積層体(フッ素樹脂層厚さ:5μm,アクリル樹脂層厚さ:45μm,以下「積層体A」と称する。)を形成した。上記絵柄層の上に2液硬化性ウレタン樹脂からなる塗液を塗工して接着層12(乾燥状態での厚さ:10μm)を形成した上に、該積層体Aをドライラミネート法により積層させて、総厚:144μmの化粧シートを得た。得られた化粧シートについて、上記評価方法にて評価した結果を第1表に示す。」
【0056】
(裏面プライマー層用塗工液)
二液硬化型ポリエステルウレタン(ポリエステルポリオールとポリイソシアネートを100:5(質量比)の割合で混合):100質量部 希釈溶剤(酢酸エチルとメチルイソブチルケトンの1:1(質量比)の割合で混合した混合溶剤):20質量部
・・・」

したがって、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「基材上に接着層、アクリル樹脂層、及びフッ素樹脂層をこの順に有し、該アクリル樹脂層がアクリルゴム及びアクリル樹脂を含み、該アクリルゴムと該アクリル樹脂との質量比が20:80?85:15であり、総厚が200μm以下であり、フッ素樹脂層の厚さ/アクリル樹脂層の厚さとして、不燃性及び折り曲げ加工性の観点から、0.05?0.8がより好ましく、ISO5660-1の規定に基づき、不燃材料の規定に適合し、接着層は、例えば、2液硬化性ウレタン樹脂からなる塗液を塗工して形成される、不燃性化粧シートであり、
基材の裏面には、その組成が、二液硬化型ポリエステルウレタン(ポリエステルポリオールとポリイソシアネートを100:5(質量比)の割合で混合)100質量部及び希釈溶剤20質量部である裏面プライマー層用塗工液を用いて、裏面プライマー層をグラビア印刷により形成しており、
不燃性化粧シートと鋼板とを貼着して不燃性化粧鋼板として使用することができ、
フッ素樹脂層の上に表面保護層を設けることができ、表面保護層は、凹部を有していてもよいものである、不燃性化粧シート。」

3 対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「基材」は、その構成及び機能からみて、本件発明1の「基材層」に相当し、引用発明の「接着層」は、「接着剤層」である限りにおいて、本件発明1の「透明接着剤層」に一致し、引用発明の「アクリル樹脂層」、「フッ素樹脂層」、「アクリルゴム」、「アクリル樹脂」及び「不燃性化粧シート」は、それぞれ、本件発明1の「耐候性樹脂層」、「フッ素樹脂層」、「アクリル樹脂系ゴム」、「アクリル樹脂」及び「化粧シート」に相当する。
引用発明の「2液硬化性ウレタン樹脂からなる塗液を塗工して形成される」ことは、本件発明1の「接着剤として熱硬化性ウレタン樹脂を含むこと」に相当する。
引用発明の「ISO5660-1の規定に基づき、不燃材料の規定に適合し」ていることは、本件発明1の「ISO5660-1に準拠する発熱性試験にて不燃認定取得可能要件を満たし」ていることに相当する。

以上のことから、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「基材層上に、接着剤層、耐候性樹脂層及びフッ素樹脂層をこの順に積層し、
前記耐候性樹脂層は、アクリル樹脂とアクリル樹脂系ゴムとの混合物からなり、
ISO5660-1に準拠する発熱性試験にて不燃認定取得可能要件を満たし、
前記接着剤層は、接着剤として熱硬化性ウレタン樹脂を含む化粧シート。」
[相違点1]
「接着剤層」について、本件発明1は、「透明接着剤層」であるのに対し、引用発明は、「透明」であるか否かが不明である点。
[相違点2]
「アクリル樹脂とアクリル樹脂系ゴムとの混合物」について、本件発明1は、「その混合比率は、アクリル樹脂が40質量%以上70質量%以下であり、アクリル樹脂系ゴムが30質量%以上60質量%以下であ」るのに対し、引用発明は、「該アクリルゴムと該アクリル樹脂との質量比が20:80?85:15であ」る、すなわち、「アクリル樹脂」が15質量%以上80質量%以下であり、「アクリルゴム」が20質量%以上85質量%以下である点。
[相違点3]
本件発明1が、「前記フッ素樹脂層の厚みと前記耐候性樹脂層の厚みとの比率が10:90から40:60の範囲であ」るのに対し、引用発明は、「フッ素樹脂層の厚さ/アクリル樹脂層の厚さとして、不燃性及び折り曲げ加工性の観点から、0.05?0.8がより好まし」い、すなわち、「フッ素樹脂層の厚さ」と「アクリル樹脂層の厚さ」との比率が、概ね5:95から44:56の範囲である点。
[相違点4]
本件発明1が、「耐候性樹脂層」の「アクリル樹脂に紫外線吸収剤、光安定剤が添加され」ているのに対し、引用発明は、「アクリル樹脂層」の「アクリル樹脂」に「紫外線吸収剤、光安定剤が添加され」ているのか否かが不明である点。

上記相違点について判断する。
ア 相違点1について
引用発明の「不燃性化粧シート」の「例えば、2液硬化性ウレタン樹脂を塗工して形成される」「接着層」は、引用文献1の【0055】の記載によれば、絵柄層の上に形成されるものであるから、「接着層」を、あえて絵柄の視認を阻害する不透明なものとすることは不自然である。
したがって、引用発明において、「接着層」を透明なものとし、前記相違点1に係る本件発明1のように構成することは、引用発明を具体化する際、絵柄層の有無を勘案し、当業者が設計上適宜になし得たことである。

イ 相違点2及び相違点3について
引用発明の解決しようとする課題は、「優れた耐候性と折り曲げ加工性を有し、かつ不燃性を有する不燃性化粧シート及びこれを用いた不燃性化粧鋼板を提供すること」(引用文献1の【0006】)であり、本件発明1が解決しようとする課題である「耐候性、耐汚染性、及び耐溶剤性を有するとともに、不燃性、加工性、及び耐候性をともに良好にすることが可能な化粧板を提供すること」(本件特許の明細書【0004】)と軌を一にするものである。また、引用発明における「アクリルゴムの量」及び「フッ素樹脂層の厚さ/アクリル樹脂層の厚さ」は、相違点2及び相違点3に係る本件発明1の「アクリル樹脂とアクリル樹脂系ゴムとの混合物」の「混合比率」及び「前記フッ素樹脂層の厚みと前記耐候性樹脂層の厚みとの比率」と、その範囲が重複している。
そして、引用文献1には、「アクリルゴム」と「アクリル樹脂」との「質量比」について、「アクリルゴムの量が少なすぎると、優れた不燃性が得られず、また折り曲げ加工性が低下してしまう。」及び「アクリルゴムの量が多すぎると、アクリル樹脂層の形成が困難となり、また耐候性が低下してしまう。」(【0027】)と記載され、「フッ素樹脂層の厚さ/アクリル樹脂層の厚さ」について、「不燃性及び折り曲げ加工性の観点」から定められている旨(【0030】)記載されているから、「不燃性」については、「アクリルゴムの量」及び「フッ素樹脂層の厚さ/アクリル樹脂層の厚さ」、「加工性」については、「アクリルゴムの量」及び「フッ素樹脂層の厚さ/アクリル樹脂層の厚さ」、「耐候性」については「アクリルゴムの量」によって、変えることができることがわかる。
以上のとおりであるから、引用発明を具体化する際、「不燃性化粧シート」に要求される「不燃性」、「加工性」及び「耐候性」の程度に応じ、「アクリルゴムの量」及び「フッ素樹脂層の厚さ/アクリル樹脂層の厚さ」を調節し、相違点2及び相違点3に係る本件発明1のようなものとすることは、当業者が設計上適宜になし得たことである。

ウ 相違点4について
引用発明の解決しようとする課題は、「優れた耐候性と折り曲げ加工性を有し、かつ不燃性を有する不燃性化粧シート及びこれを用いた不燃性化粧鋼板を提供すること」(引用文献1の【0006】)であり、「本発明の不燃性化粧シートに耐候性を付与する点で好ましい」「紫外線吸収剤(UVA)及び/又は光安定剤」(同【0039】)は、「表面保護層に限らず、他の層にも用いることができる」(同【0041】、【0043】)ものであり、アクリル樹脂とアクリル樹脂系ゴムとの混合物からなる樹脂層に、紫外線吸収剤、光安定剤を添加することは周知であるから(周知例:特開2010-13597号公報の【0011】、特開2012?50941号公報の【0060】?【0062】)、引用発明のアクリル樹脂層に紫外線吸収剤、光安定剤を添加すること、その際、アクリル樹脂層のアクリル樹脂に紫外線吸収剤、光安定剤を添加することは、前記引用文献1の記載に基づき、引用発明を具体化する際に当業者が適宜になし得たことである。

そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件発明1の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ 令和1年12月25日提出の意見書の主張について
特許権者は、令和1年12月25日提出の意見書において、次のように主張している。
「引用文献1の【0027】には、「アクリルゴムとアクリル樹脂との質量比は、50:50?85:15が好ましく、より好ましくは70:30?85:15である。」と記載されている。また、引用文献1の【表1】には、唯一の実施例である実施例1として、「基材上に接着層、アクリル樹脂層、及びフッ素樹脂層をこの順に有し、該アクリル樹脂層がアクリルゴム及びアクリル樹脂を含み、該アクリルゴムと該アクリル樹脂との質量比が80:20であり、総厚が144μm以下であり、フッ素樹脂層の厚さ/アクリル樹脂の厚さ=5/45(フッ素樹脂層の厚みとアクリル樹脂層の厚みとの比率が10:90)であり、ISO5660-1の規定に基づき、不燃材料の規定に適合し、接着層は、2液硬化性ウレタン樹脂からなる塗液を塗工して形成される、不燃性化粧シート。」が記載されている。
このように、本件発明1の前記構成(c)で特定している「アクリル樹脂とアクリル樹脂系ゴムとの混合比率」が「アクリル樹脂が40質量%以上70質量%以下であり、アクリル樹脂系ゴムが30質量%以上60質量%以下」であるのに対して、引用文献1の【0027】で特定している「アクリル樹脂とアクリルゴム」のより好ましい範囲は「アクリル樹脂が15質量%以上30質量%以下であり、アクリル樹脂系ゴムが70質量%以上85質量%以下」となっている。
つまり、引用文献1で特定している「アクリル樹脂とアクリルゴムとの混合比率」のより好ましい範囲は、本件発明1の前記構成(c)で特定している「アクリル樹脂とアクリル樹脂系ゴムとの混合比率」の範囲から外れている。
さらに、引用文献1の実施例1では「アクリル樹脂とアクリル樹脂系ゴムとの混合比率」を「アクリル樹脂が20質量%、アクリルゴムが80質量%」としているが、この構成は本件発明1の比較例1の構成と同じである。
・・・
よって、引用文献1を見た当業者が、「引用文献1でより好ましい範囲とされている範囲から外れる構成を必須要件とし、引用文献1で唯一の実施例としてあげられている構成を比較例としている」本件発明1に、容易に想到することはあり得ない。
また、引用発明1が「アクリルゴムとアクリル樹脂との質量比が20:80?85:15である」という構成を有することで奏する作用効果については、引用文献1の【0027】に文言での説明があるが、データによる裏付けの記載がない。そして、本件発明者らが実際に実験を行った結果、本件発明1の比較例1のデータとして示すように、「アクリル樹脂が20質量%、アクリルゴムが80質量%」である引用発明の化粧シートは、耐候性が不良であることが分かっている。よって、本件発明1が奏する作用効果は、引用発明が実際に奏する作用効果と比較して顕著なものであると言うことができる。」

当該主張について検討する。
前述のとおり、引用文献1には、「アクリルゴム」と「アクリル樹脂」との「質量比」について、「アクリルゴムの量が少なすぎると、優れた不燃性が得られず、また折り曲げ加工性が低下してしまう。」及び「アクリルゴムの量が多すぎると、アクリル樹脂層の形成が困難となり、また耐候性が低下してしまう。」(【0027】)と記載されているのであるから、当業者が当該記載をみれば、「該アクリルゴムと該アクリル樹脂との質量比が20:80?85:15」という範囲内において、アクリルゴムの量を少なくすれば、「不燃性」や「折り曲げ加工性」が相対的に低下傾向にあり、アクリルゴムの量を多くすれば、「耐候性」が相対的に低下傾向にあることは、容易に類推される。
そして、引用発明を具体化する際に、「アクリルゴム」と「アクリル樹脂」との「質量比」をいかようにするのかは、要求される「耐候性」の程度に応じて設定されるところ、前述の「耐候性」に関する機序によれば、「耐候性」により多くを求めれば、「アクリルゴムと該アクリル樹脂との質量比が20:80?85:15」という範囲内で、「アクリルゴム」の比率を下げればよいはずであるから、その比率が引用文献1に記載された「より好ましい」範囲にないからといって、当業者が容易に想到し得ないとはいえない。
付言すると、本件特許の明細書【0022】及び【0027】の【表1】に記載された比較例1は、「フッ素樹脂層5の厚さを10μm、耐候性樹脂層4の厚さを40μm、つまり、フッ素樹脂層5の厚さ:耐候性樹脂層4の厚さ=20:80に調整した。また、耐候性樹脂層4のアクリル樹脂とアクリル樹脂系ゴムとの質量比を20:80に調整した。」ものであり、引用文献1の【0055】及び【0061】の【表1】に記載された実施例1は、「フッ素樹脂層14とアクリル樹脂層13からなる積層体(フッ素樹脂層厚さ:5μm,アクリル樹脂層厚さ:45μm,以下「積層体A」と称する。)を形成した。」ものであって、そもそも、「耐候性樹脂層」(引用発明の「アクリル樹脂層」)の厚さが異なっているうえに、「耐候性」の評価手法も異なっているのであるから、「本件発明者らが実際に実験を行った結果、本件発明1の比較例1のデータとして示すように、「アクリル樹脂が20質量%、アクリルゴムが80質量%」である引用発明の化粧シートは、耐候性が不良であることが分かっている」からといって、引用発明において、求める「耐候性」に応じて、「アクリルゴムと該アクリル樹脂との質量比が20:80?85:15」という範囲内で、引用文献1に記載された「より好ましい」範囲を外れたものとすることを否定する根拠にはならない。
よって、前記主張は採用できない。

オ 令和2年3月23日提出の意見書の主張について
特許権者は、令和2年3月23日提出の意見書において、次のように主張している。
「本件特許発明1と引用発明との上記1?3以外の相違点(追加の相違点)として、本件特許発明1では、「フッ素樹脂層よりも基材層側の層である耐候性樹脂層をアクリル樹脂系ゴムとともに構成するアクリル樹脂に、紫外線吸収剤、光安定剤が添加されている」のに対して、引用発明では、「フッ素樹脂層よりも基材層側の層である耐候性樹脂層をアクリル樹脂系ゴムとともに構成するアクリル樹脂に、添加剤が添加されているかどうか」について記載がないことが挙げられる。
引用文献1の【0039】には、「(添加剤)表面保護層には、紫外線吸収剤(UVA)及び/又は光安定剤を含有させることが、本発明の不燃性キ化粧シートに耐候性を付与する点で好ましい。」と記載されている。・・・
このように、引用文献1において、「本発明の不燃性化粧シート」を構成する層のうち「紫外線吸収剤(UVA)及び/又は光安定剤を含有させる層」は、「フッ素樹脂層の上に設ける表面保護層」であって、引用文献1には「アクリル樹脂層」に「紫外線吸収剤(UVA)及び/又は光安定剤を含有させること」は記載されていないし、これを示唆する記載もない。」

当該主張について検討する。
前述のとおり、引用文献1には、「本発明の不燃性化粧シートに耐候性を付与する点で好ましい」「紫外線吸収剤(UVA)及び/又は光安定剤」(【0039】)は、「表面保護層に限らず、他の層にも用いることができる」(【0041】、【0043】)と記載されており、当該記載の「他の層」とは、「接着層」や「アクリル樹脂層」なのであるから、引用文献1には、「アクリル樹脂層」に「紫外線吸収剤(UVA)及び/又は光安定剤を含有させること」を示唆する記載がある。
よって、特許権者の前記主張は当を得ておらず、採用できない。

カ 小括
よって、本件発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
本件発明2と引用発明とを対比すると、前記一致点及び前記相違点1乃至4に加え、次の相違点がある。
[相違点5]
「接着剤として熱硬化性ウレタン樹脂を含む」「接着剤層」について、本件発明2は、「ポリエステル系樹脂を主鎖とする」ものであるのに対し、引用発明は、その点不明である点。

前記相違点5について判断する。
引用文献1には、「接着剤としては、特に制限はなく、・・・」(【0015】)と記載されているところ、「2液硬化性ウレタン樹脂」として、「ポリエステル系樹脂を主鎖とする」ものは周知(周知例:引用文献1の【0037】、【0056】)であるから、引用発明を具体化する際、引用発明の「2液硬化性ウレタン樹脂」を、前記周知の「ポリエステル系樹脂を主鎖とする」ものとし、前記相違点5に係る本件発明2のようにすることは、当業者が設計上適宜になし得たことである。
よって、本件発明2は、引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について
引用発明の「裏面プライマー層」及び「裏面プライマー層用塗工液」の「組成が、二液硬化型ポリエステルウレタン(ポリエステルポリオールとポリイソシアネートを100:5(質量比)の割合で混合)100質量部及び希釈溶剤20質量部である」ことは、それぞれ、本件発明3の「接着剤層」及び「接着剤として、熱硬化性ウレタン樹脂を含むこと」に相当する。
また、引用文献1には、「なお、裏面プライマー層に用いられる材料は被着材によって、適宜選択される。」(【0014】)と記載されているところ、「(裏面)プライマー層」の形成に用いられる材料として、ポリアミド樹脂は周知である。
よって、本件発明3は、引用発明または引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について
引用発明の「鋼板」及び「不燃性化粧鋼板」は、それぞれ、本件発明4の「金属板」及び「金属化粧板」に相当する。
よって、本件発明4は、引用発明または引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明5について
引用発明の「表面保護層」及び「凹部」は、それぞれ、本件発明5の「化粧シート表面」及び「凹凸模様」に相当する。
よって、本件発明5は、引用発明または引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本件発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明2は、引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3-5は、引用発明または引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層上に、透明接着剤層、耐候性樹脂層及びフッ素樹脂層をこの順に積層し、
前記耐候性樹脂層は、アクリル樹脂とアクリル樹脂系ゴムとの混合物からなり、その混合比率は、アクリル樹脂が40質量%以上70質量%以下であり、アクリル樹脂系ゴムが30質量%以上60質量%以下であり、前記アクリル樹脂に紫外線吸収剤、光安定剤が添加され、
前記フッ素樹脂層の厚みと前記耐候性樹脂層の厚みとの比率が10:90から40:60の範囲であり、ISO5660-1に準拠する発熱性試験にて不燃認定取得可能要件を満たし、
前記透明接着剤層は、接着剤として熱硬化性ウレタン樹脂を含むことを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記透明接着剤層は、ポリエステル系樹脂を主鎖とする2液硬化性ウレタン系接着剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記基材層の前記透明接着剤層側とは反対側の面に、接着剤層を備え、
前記接着剤層は、接着剤として、ポリアミド樹脂または熱硬化性ウレタン樹脂を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化粧シート。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の化粧シートを金属板に貼りあわせてなることを特徴とする金属化粧板。
【請求項5】
前記化粧シート表面に凹凸模様を有することを特徴とする請求項4に記載の金属化粧板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-08-07 
出願番号 特願2015-24366(P2015-24366)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (B32B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 石塚 寛和岩田 行剛  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 中村 一雄
石井 孝明
登録日 2019-02-15 
登録番号 特許第6476952号(P6476952)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 化粧シート、及び金属化粧板  
代理人 廣瀬 一  
代理人 宮坂 徹  
代理人 宮坂 徹  
代理人 廣瀬 一  
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