• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07C
管理番号 1368970
異議申立番号 異議2019-700661  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-23 
確定日 2020-10-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6474621号発明「擬似移動床式クロマトグラフ分離方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6474621号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 特許第6474621号の請求項1、3?10に係る特許を維持する。 特許第6474621号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6474621号の請求項1?10に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2010年12月24日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2009年12月30日(US)アメリカ合衆国、2009年12月30日(GB)グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、2010年9月14日(GB)グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国)を国際出願日として特許出願された特願2012-546499号の一部を、平成27年1月23日に新たに特許出願としたものであって、平成31年2月8日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日にその特許公報が発行され、その後、令和1年8月23日に特許異議申立人山口 雅行(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和1年12月11日付け:取消理由通知
令和2年 3月11日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年 4月28日付け:訂正請求があった旨の通知
同年 6月 8日 :意見書の提出(特許異議申立人)

第2 訂正の適否についての判断
令和2年3月11日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。

1 訂正の内容
本件訂正の内容は以下の訂正事項1?5のとおりである。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「かつ、前記組成物は1重量%までの量のω-3エイコサテトラエン酸を含む、」との記載を訂正後に「前記組成物は0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸を含み、かつ、前記組成物は0.25重量%までの量のアラキドン酸を含む、」とする。
また、請求項1を直接または間接的に引用する請求項3?10も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項3の「請求項2に記載の組成物」との記載を訂正後に「請求項1に記載の組成物」とする。
また、請求項3を直接または間接的に引用する請求項7?10も同様に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項4の(a)の「1重量%までの量のω-3エイコサテトラエン酸」及び(b)の「0.5重量%までの量のω-3エイコサテトラエン酸」との記載を、訂正後にそれぞれ「0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸」及び「0.05?0.5重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸」とする。
また、請求項4を直接または間接的に引用する請求項7?10も同様に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の請求項7の「請求項1?6のいずれか1項に記載の組成物」との記載を訂正後に「請求項1および3?6のいずれか1項に記載の組成物」とする。
また、請求項7を直接または間接的に引用する請求項8?10も同様に訂正する。

なお、訂正前の請求項1?10について、請求項2?10は請求項1を直接または間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?10に対応する訂正後の請求項1?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1の「前記組成物は1重量%までの量のω-3エイコサテトラエン酸」から「前記組成物は0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸」とω-3エイコサテトラエン酸の下限値を「0.05」重量%であることを特定事項とするとともに、さらに、前記組成物の成分として「0.25重量%までの量のアラキドン酸」を含むことを特定事項とするものであるから、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項1の「ω-3エイコサテトラエン酸」の下限値については、訂正前の請求項2の記載や、本件特許明細書の段落【0173】に「典型的には、本実施形態において、エイコサテトラエン酸の総含有量は、1重量%まで、・・・・・典型的には、エイコサテトラエン酸の総含有量は、0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上である」ことが記載されており、訂正事項1の「ω-3エイコサテトラエン酸」の下限値を「0.05」重量%と特定することは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、上記訂正は特許請求の範囲を減縮したものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項1の前記組成物の成分として「0.25重量%までの量のアラキドン酸」を含むことについては、訂正前の請求項4や、本件特許明細書の段落【0165】、【0177】及び【0178】等に「本実施形態において、アラキドン酸の含有量は、0.25重量%まで・・・・までである」、「0.25重量%までのアラキドン酸を含む」ことが記載されており、訂正事項1の前記組成物の成分として「0.25重量%までの量のアラキドン酸」をさらに含むことを特定することは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、上記訂正は、特許請求の範囲を減縮したものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものである。
また、上記訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、請求項2を引用するものから、訂正前に請求項1を引用する請求項2が削除されたため、請求項2が引用していた請求項1を引用することとし、訂正前の請求項2の内容を含めた訂正事項1の内容を連動して含むものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項3は、請求項1を引用していることから、訂正事項1の内容と同様であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものである。
また、上記訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、請求項4の(a)の「1重量%までの量のω-3エイコサテトラエン酸」及び(b)の「0.5重量%までの量のω-3エイコサテトラエン酸」から、それぞれのω-3エイコサテトラエン酸の下限値を「0.05」重量%であることを特定事項とするものであるから、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項4の「ω-3エイコサテトラエン酸」の下限値については、本件特許明細書の段落【0173】に「典型的には、本実施形態において、エイコサテトラエン酸の総含有量は、1重量%まで、・・・・・典型的には、エイコサテトラエン酸の総含有量は、0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上である」ことが、段落【0174】に「典型的には、本実施形態において、エイコサテトラエン酸の総含有量は、0.5重量%まで、・・・・・典型的には、エイコサテトラエン酸の総含有量は、0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上である」ことが、それぞれ記載されており、訂正事項4の「ω-3エイコサテトラエン酸」の下限値をそれぞれ「0.05」重量%と特定することは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、上記訂正は、特許請求の範囲を減縮したものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項7が引用する「請求項1?6のいずれか1項に記載の組成物」から、請求項2を削除し、「請求項1および3?6のいずれか1項に記載の組成物」とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項5は、訂正前の請求項7が引用する請求項2を削除するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、上記訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(6)まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。

第3 特許請求の範囲の記載
本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1、3?10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明3」?「本件発明10」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、3?10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物であって、
前記PUFA生成物はEPAであり、前記PUFA生成物が96重量%を超える量で存在し、前記組成物は0.40重量%までの量のω-6多価不飽和脂肪酸を含み、前記組成物は0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸を含み、かつ、前記組成物は0.25重量%までの量のアラキドン酸を含む、組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の組成物であって、ω-3エイコサテトラエン酸の総含有量が0.1重量%以上である、組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物であって、前記組成物が、
(a)96.5重量%を超えるEPA、1重量%までの量のDHA、1重量%までの量のα-リノレン酸、1重量%までの量のステアリドン酸、0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸、1重量%までの量のω-3ドコサペンタエン酸、および0.25重量%までの量のアラキドン酸を含むか、または
(b)96.5重量%を超えるEPA、0.2重量%までの量のDHA、0.3重量%までの量のα-リノレン酸、0.4重量%までの量のステアリドン酸、0.05?0.5重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸、0.35重量%までの量のω-3ドコサペンタエン酸、および0.25重量%までの量のアラキドン酸を含む、組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物であって、前記組成物が、
96.5から99重量%のEPA、0.2重量%までの量のDHA、0.3重量%までの量のα-リノレン酸、0.15から0.4重量%のステアリドン酸、0.1から0.5重量%のω-3エイコサテトラエン酸、0.35重量%までの量のω-3ドコサペンタエン酸、および0.25重量%までの量のアラキドン酸を含む、組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物であって、前記組成物が、
(a)98から99重量%のEPA、0.1から0.3重量%のDHA、0.3から0.35重量%のステアリドン酸、0.1から0.3重量%のω-3エイコサテトラエン酸、および0.3から0.35重量%のω-3ドコサペンタエン酸を含むか、または
(b)96.5から99重量%のEPA、0.1から0.5重量%のDHA、0.1から0.5重量%のステアリドン酸、0.1から0.5重量%のω-3エイコサテトラエン酸、0.1から0.5重量%のω-3ドコサペンタエン酸、および0.1から0.3重量%のアラキドン酸を含むか、または
(c)98から99重量%のEPA、0.1から0.2重量%のDHA、0.3から0.35重量%のステアリドン酸、0.1から0.2重量%のω-3エイコサテトラエン酸、および0.3から0.35重量%のω-3ドコサペンタエン酸を含むか、または
(d)96.5から97.5重量%のEPA、0.25から0.35重量%のα-リノレン酸、0.18から0.24重量%のステアリドン酸、0.4から0.46重量%のω-3エイコサテトラエン酸、および0.15から0.25重量%のアラキドン酸を含む、組成物。
【請求項7】
請求項1および3?6のいずれか1項に記載の組成物であって、前記組成物が1重量%までの量の異性体不純物を含む、組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の組成物であって、前記組成物が、0.5重量%までの量の異性体不純物を含む、組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物であって、前記組成物が、0.25重量%までの量の異性体不純物を含む、組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物であって、前記組成物が、0.1重量%までの量の異性体不純物を含む、組成物。」

第4 特許異議申立人が申し立てた理由及び当審が通知した取消理由
1 特許異議申立人が申し立てた理由
(1)新規性について
異議理由1-1:本件訂正前の請求項1、4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1、4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し取り消されるべきものである(以下、「異議理由1-1」という。)。
異議理由1-2:本件訂正前の請求項1?3、7?10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1?3、7?10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し取り消されるべきものである(以下、「異議理由1-2」という。)。
(2)進歩性について
異議理由2-1:本件訂正前の請求項4?6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された刊行物である甲第1号証を主引例として、甲第3?5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項4?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し取り消されるべきものである(以下、「異議理由2-1」という。)。
異議理由2-2:本件訂正前の請求項7?10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第2号証を主引例として、甲第6?11号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項7?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し取り消されるべきものである(以下、「異議理由2-2」という。)。
(3)実施可能要件について
異議理由3-1:本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1?10による多価不飽和脂肪酸生成物を含む組成物に該当するものとして実施例8に「本発明によるPUFA生成物[1]」及び「本発明によるPUFA生成物[2]」が記載されているが、これらの組成物は、いずれも製造方法について記載されていない(甲第12号証も参照)から、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し取り消されるべきものである(以下、「異議理由3-1」という。)。
異議理由3-2:本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明7?10において特定された組成物における異性体不純物を測定した実施例が一例もないことから、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し取り消されるべきものである(以下、「異議理由3-2」という。)。
(4)サポート要件について
異議理由4:本件発明1?10は、本件特許明細書において、特許請求の範囲の引き写しが記載され(段落【0160】?【0208】)、また、具体的に記載されている多価不飽和脂肪酸生成物が「本発明によるPUFA生成物[1]」及び「本発明によるPUFA生成物[2]」のみであり、このPUFA生成物においてω-6多価不飽和脂肪酸が特定事項の範囲を満たしているともいえず、また、そのような技術常識もないため、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し取り消されるべきものである(以下、「異議理由4」という。)。



甲第1号証:特開平9-59206号公報
甲第2号証:特開2001-139981号公報
甲第3号証:特開平10-7618号公報
甲第4号証:第十五改正日本薬局方、平成18年3月31日、医薬品各条 327頁右欄14行?328頁右欄末行、「イコサペント酸エチル」の項
甲第5号証:日本薬局方技術情報 2011、平成23年8月25日、一般財団法人医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団、404頁右欄3行?406頁左欄末行、「イコサペント酸エチル」の項
甲第6号証:European Journal of Lipid Science and Technology, 2008, Vol.110, issue6, pp.547-553
甲第7号証:アジレントテクノロジー社のカタログ、2012年10月31日、110頁?111頁、「ポリエチレングリコール(PEG)カラムの項
甲第8号証:Journal of the American Oil Chemists' Society, 1989.December, Vol.66, No.12, pp.1822-1830
甲第9号証:EUROPEAN PHARMACOPOEIA 9.2, 2017.January, pp.4583-4585
甲第10号証:EUROPEAN PHARMACOPOEIA 9.7, 2018.October, pp.6293-6294
甲第11号証:アジレントテクノロジー社のカタログ、1頁?4頁、「G16」の項目
甲第12号証:平成30年9月5日付け本件特許出願の意見書(査定不服審判時)

以下、甲第1号証?甲第12号証は、それぞれ「甲1」?「甲12」という。

2 当審が通知した取消理由
(1)新規性について
理由1-1:本件訂正前の請求項1、4、7?10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された刊行物である甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1、4、7?10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し取り消されるべきものである(以下、「理由1-1」という。)。
理由1-2:本件訂正前の請求項1?3、7?10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された刊行物である甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1?3、7?10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し取り消されるべきものである(以下、「理由1-2」という。)。



甲1:特開平9-59206号公報
甲2:特開2001-139981号公報

なお、当審が通知した取消理由(理由1-1および理由1-2)は、特許異議申立人が申し立てた異議理由1-1および異議理由1-2と同趣旨である。

第5 当審の判断
1 当審が通知した取消理由(理由1-1および理由1-2)について
(1)理由1-1(特許法第29条第1項第3号)
ア 甲1の記載事項
(甲1ア)「【0018】
・・・・・・・
実施例9
エイコサペンタエン酸97.9重量%、ドコサヘキサエン酸0.8重量%、アラキドン酸0.8重量%、二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸0.3重量%および二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸0.2重量%を含む脂肪酸1.0kgに、イソオクタン4.0kgおよびアセトニトリル4.0kgを加え、液液分配温度-20℃で実施例1と同様に操作してアセトニトリル層を分取し、このアセトニトリル層から脂肪酸0.47kgを得た。この脂肪酸の組成は、エイコサペンタエン酸99.5重量%、ドコサヘキサエン酸0.3重量%、アラキドン酸0.2重量%、二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸0.0重量%および二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸0.0重量%であった。結果を第6表に示す。
【0019】
【表6】

【0020】第6表に見られるように、エイコサペンタエン酸の濃度は上昇し、アラキドン酸の濃度は低下しているが、ω3系の脂肪酸であるドコサヘキサエン酸の濃度も低下し、炭素数21および炭素数22のω3脂肪酸は含まれていない。この結果から、エイコサペンタエン酸の濃度が高い場合には、イソオクタンとアセトニトリルによる分層において、ω3系の脂肪酸の中でエイコサペンタエン酸がアセトニトリルに対する親和性が特に強く濃縮され、エイコサペンタエン酸以外のω3系の脂肪酸はアセトニトリル層から排除される傾向にあることが分かる。」

イ 甲1発明
甲1には、上記(甲1ア)よりエイコサペンタエン酸97.9重量%、ドコサヘキサエン酸0.8重量%、アラキドン酸0.8重量%、二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸0.3重量%および二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸0.2重量%を含む脂肪酸1.0kgを原料として、液液分配温度-20℃で実施例1と同様に操作して脂肪酸0.47kgを得たこと、得られた脂肪酸の組成として、エイコサペンタエン酸99.5重量%、ドコサヘキサエン酸0.3重量%、アラキドン酸0.2重量%、二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸0.0重量%および二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸0.0重量%であり、その結果が第6表にそれぞれ記載されている。
そうすると、甲1には、「エイコサペンタエン酸99.5重量%、ドコサヘキサエン酸0.3重量%、アラキドン酸0.2重量%、二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸0.0重量%および二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸0.0重量%の組成を有する脂肪酸を含む組成物」(以下、「甲1発明」という)の発明が記載されているといえる。

ウ 本件発明1と甲1発明との対比・判断
(ア)はじめに、甲1発明の「エイコサペンタエン酸」、「ドコサヘキサエン酸」、「アラキドン酸」、「二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸」、「二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸」は、いずれも多価不飽和脂肪酸として当業者によく知られた脂肪酸である。
そのうち、「エイコサペンタエン酸」、「ドコサヘキサエン酸」、「二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸」及び「二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸」の4種は、ω-3位に炭素-炭素二重結合を有するω3系として知られる脂肪酸であり、「アラキドン酸」は、ω-6位に炭素-炭素二重結合を有するω6系として知られる脂肪酸であることも当業者によく知られた技術的事項である。
そして、「エイコサペンタエン酸」は、その略称を「EPA」ということも当業者に広く認識されている技術的事項である。

(イ)そこで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「エイコサペンタエン酸」は、「EPA」であり、多価不飽和脂肪酸であることから、本件発明1の「EPA]、「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物」、「PUFA生成物」に相当し、甲1発明の「エイコサペンタエン酸」の「99.5重量%」は、組成物中に含まれるエイコサペンタエン酸の重量%を示していることが明らかであることから、本件発明1の「前記PUFA生成物が96重量%を超える量で存在し」に包含される。
甲1発明の「アラキドン酸」は、前記のとおりω6系の多価不飽和脂肪酸であるから、本件発明1の「ω-6多価不飽和脂肪酸」に相当し、甲1発明の「アラキドン酸」の「0.2重量%」は、組成物中に含まれるアラキドン酸の重量%を示していることが明らかであることから、本件発明1の「前記組成物は0.40重量%までの量のω-6多価不飽和脂肪酸を含み」、「前記組成物は0.25重量%までの量のアラキドン酸を含む」に包含される。
甲1発明の「脂肪酸を含む組成物」は、本件発明1の「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
一致点:「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物であって、
前記PUFA生成物はEPAであり、前記PUFA生成物が99.5重量%で存在し、前記組成物は0.2重量%のω-6多価不飽和脂肪酸を含み、かつ、前記組成物は0.2重量%の量のアラキドン酸を含む、組成物」である点

相違点1-1-1:本件発明1は、「前記組成物は0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸」を組成物中に含むことを特定しているのに対して、甲1発明は、組成物中に「ω-3エイコサテトラエン酸」を含むことを特定していない点

相違点1-1-2:甲1発明は、さらに「ドコサヘキサエン酸0.3重量%」、「二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸0.0重量%」、「二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸0.0重量%」の成分を特定しているのに対して、本件発明1には、これらの成分を特定していない点

(ウ)上記相違点1-1-1について、検討する。
甲1発明には、「ω-3エイコサテトラエン酸」について明記されていない。
一般に、「ω-3エイコサテトラエン酸」は、多価不飽和脂肪酸として当業者によく知られた脂肪酸であり、甲1発明において明記されていないのは、ω-3エイコサテトラエン酸が当該「脂肪酸を含む組成物」中に含まれていないか、あるいは、検出限界以下であり、甲1発明の「脂肪酸を含む組成物」に含まれる成分として認識されていないと解するのが合理的である。
そうすると、本件発明1は、当該組成物に含まれる「ω-3エイコサテトラエン酸」の量を「0.05?1重量%の量」と特定していることから、上記相違点1-1-1は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、相違点1-1-2を検討するまでもなく、相違点1-1-1が実質的な相違点であるから、甲1発明ではない。

エ 本件発明4と甲1発明との対比・判断
(ア)はじめに、甲1発明の構成成分等については、上記ウ(ア)に記載したとおりである。さらに、「ドコサヘキサエン酸」は、その略称を「DHA」ということ、「二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸」は、「ω-3ドコサペンタエン酸」ということも当業者に広く認識されている技術的事項である。

(イ)本件発明4は、本件発明1を引用し、更に当該組成物に含まれる成分を「(a)96.5重量%を超えるEPA、1重量%までの量のDHA、1重量%までの量のα-リノレン酸、1重量%までの量のステアリドン酸、0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸、1重量%までの量のω-3ドコサペンタエン酸、および0.25重量%までの量のアラキドン酸を含む」または「(b)96.5重量%を超えるEPA、0.2重量%までの量のDHA、0.3重量%までの量のα-リノレン酸、0.4重量%までの量のステアリドン酸、0.05?0.5重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸、0.35重量%までの量のω-3ドコサペンタエン酸、および0.25重量%までの量のアラキドン酸を含む」と特定している。
なお、本件発明1を引用している部分については、上記ウ(イ)で検討した事項を前提に対比する。

(ウ)そこで、本件発明4のうち(a)に含まれる成分(以下、「本件発明4a」という。)と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「エイコサペンタエン酸」の「99.5重量%」は、組成物中に含まれるエイコサペンタエン酸の重量%を示していることが明らかであることから、本件発明4aの「96.5重量%を超えるEPA」に包含される。
甲1発明の「アラキドン酸」の「0.2重量%」は、組成物中に含まれるアラキドン酸の重量%を示していることが明らかであることから、本件発明4aの「0.25重量%までの量のアラキドン酸」に包含される。 甲1発明の「ドコサヘキサエン酸0.3重量%」は、本件発明4aの「1重量%までの量のDHA」に包含され、甲1発明の「二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸0.0重量%」は、本件発明4aの「1重量%までの量のω-3ドコサペンタエン酸」に包含される。
そうすると、本件発明4aと甲1発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
一致点:「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物であって、
前記PUFA生成物はEPAであり、前記PUFA生成物が99.5重量%で存在し、前記組成物は0.2重量%の量のω-6多価不飽和脂肪酸を含み、かつ、前記組成物は0.2重量%の量のアラキドン酸を含む、組成物であって、前記組成物が、
(a)99.5重量%のEPA、0.3重量%の量のDHA、0重量%の量のω-3ドコサペンタエン酸、および0.2重量%の量のアラキドン酸を含む、組成物」である点
(決定注:下線部は、本件発明1を引用している部分における一致点。以下、同様である。)

相違点1-4-1a:本件発明4aは、「0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸」を組成物中に含むことを特定しているのに対して、甲1発明は、組成物中に「ω-3エイコサテトラエン酸」を含むことについて特定していない点

相違点1?4-2a:甲1発明は、さらに、「二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸0.0重量%」の成分を特定しているのに対して、本件発明4aは、この成分を特定していない点

相違点1-4-3a:本件発明4aは、「1重量%までの量のα-リノレン酸、1重量%までの量のステアリドン酸」を含むのに対して、甲1発明は、「α-リノレン酸」及び「ステアリドン酸」を含むことについて特定していない点

(エ)相違点1-4-1aについて検討すると、相違点1-4-1aは、上記ウ(イ)の相違点1-1-1と同様であり、上記ウ(ウ)で検討したとおり上記相違点1-1-1は、実質的な相違点であるから、相違点1-4-1aについても、同様である。
したがって、本件発明4aは、相違点1-4-2a、相違点1-4-3aを検討するまでもなく、相違点1-4-1aが実質的な相違点であるから、甲1発明ではない。

(オ)次に、本件発明4のうち(b)に含まれる成分(以下、「本件発明4b」という。)と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「エイコサペンタエン酸」の「99.5重量%」は、組成物中に含まれるエイコサペンタエン酸の重量%を示していることが明らかであることから、本件発明4bの「96.5重量%を超えるEPA」に包含される。
甲1発明の「アラキドン酸」の「0.2重量%」は、組成物中に含まれるアラキドン酸の重量%を示していることが明らかであることから、本件発明4bの「0.25重量%までの量のアラキドン酸」に包含される。
甲1発明の「二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸0.0重量%」は、本件発明4bの「0.35重量%までの量のω-3ドコサペンタエン酸」に包含される。
そうすると、本件発明4bと甲1発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
一致点:「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物であって、
前記PUFA生成物はEPAであり、前記PUFA生成物が99.5重量%で存在し、前記組成物は0.2重量%の量のω-6多価不飽和脂肪酸を含み、かつ、前記組成物は0.2重量%の量のアラキドン酸を含む、組成物であって、前記組成物が、
(b)99.5重量%のEPA、0.0重量%の量のω-3ドコサペンタエン酸、および0.2重量%の量のアラキドン酸を含む、組成物」である点

相違点1-4-1b:本件発明4bは、「0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸」を含む組成物において、「0.05?0.5重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸」を含むことを特定しているのに対して、甲1発明は、組成物中に「ω-3エイコサテトラエン酸」を含むことを特定していない点

相違点1-4-2b:甲1発明は、さらに、「二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸0.0重量%」の成分を特定しているのに対して、本件発明4bには、この成分を特定していない点

相違点1-4-3b:本件発明4bは、「0.3重量%までの量のα-リノレン酸、0.4重量%までの量のステアリドン酸」を含むのに対して、甲1発明は、「α-リノレン酸」及び「ステアリドン酸」を含むことについて特定していない点

相違点1-4-4b:本件発明4bは、「0.2重量%までの量のDHA」を含むのに対して、甲1発明は、「ドコサヘキサエン酸0.3重量%」を含むと特定している点

(カ)上記相違点1-4-1bについて、検討する。
相違点1-4-1bは、本件発明4bのω-3エイコサテトラエン酸の量について、「0.05?1重量%」の量を含む組成物において、さらに「0.05?0.5重量%」の量を含むことを特定しているから、上記ウ(イ)の相違点1-1-1と同様であり、上記ウ(ウ)で検討したとおり上記相違点1-1-1は、実質的な相違点であるから、相違点1-4-1bについても、同様である。
したがって、本件発明4bは、相違点1-4-2b?相違点1-4-4bを検討するまでもなく、相違点1-4-1bが実質的な相違点であるから、甲1発明ではない。

(キ)小括
以上のとおり、本件発明4aおよび本件発明4bは、両者とも甲1発明ではないから、本件発明4は、甲1発明ではない。

オ 本件発明7?10と甲1発明との対比・判断
(ア)本件発明7は、本件発明1、本件発明4を引用し、更に当該組成物が「1重量%までの量の異性体不純物を含む」ことを、本件発明8は、本件発明7を引用し、当該組成物が「0.5重量%までの量の異性体不純物を含む」ことを、本件発明9は、本件発明8を引用し、当該組成物が「0.25重量%までの量の異性体不純物を含む」ことを、本件発明10は、本件発明9を引用し、当該組成物が「0.1重量%までの量の異性体不純物を含む」ことを、それぞれ特定している。

(イ)しかしながら、本件発明7?10は、本件発明1、本件発明4を直接あるいは間接的に引用しており、本件発明1と本件発明4が、甲1発明ではないことは、上記ウ(ウ)及びエ(ウ)で検討したとおりであるから、本件発明7?10には、甲1発明との実質的な相違点が存在する。
したがって、本件発明7?10は、甲1発明ではない。

カ 小括
上記のとおり、本件発明1、4、7?10は、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、同法第113条第1項第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

(2)理由1-2(特許法第29条第1項第3号)
ア 甲2の記載事項
(甲2ア)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の第1の目的は、従来は製造が困難であった、炭素数が同一で二重結合数の異なる高度不飽和脂肪酸誘導体を効率よく、特に、熱異性化物の生成を抑制して、高純度の高度不飽和脂肪酸誘導体を工業的に得ることが可能な高度不飽和脂肪酸誘導体の製造方法を提供することにある。本発明の第2の目的は、天然に存在しない、熱異性化物を実質的に含有せず、炭素数が同一で二重結合数が異なるアラキドン酸又はそのアルキルエステルも実質的に含有しない、医薬品又は食品等として、拮抗作用の少ない高純度エイコサペンタエン酸誘導体を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前述の課題に鑑み、鋭意検討した結果、特定なシリカゲルを使用し、特定な運転条件で超臨界クロマトグラフィーを運転することにより、シリカゲルに化学修飾等をすることなしに、高度不飽和脂肪酸又はそのアルキルエステルを効率よく分離精製して製造することができることを見出し、本発明を完成した。また、このような方法を利用することにより、従来得られていない、熱異性化物を実質的に含有せず、炭素数が同一で二重結合数が異なるアラキドン酸又はそのアルキルエステルも実質的に含有しない、高純度エイコサペンタエン酸誘導体が得られることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明によれば、移動相として超臨界二酸化炭素、固定相としてシリカゲルを用いた超臨界クロマトグラフィーによって分離精製し、高度不飽和脂肪酸誘導体を製造する方法であって、(a)超臨界クロマトグラフィーに供する原料として、炭素数が同一で二重結合数が異なる高度不飽和脂肪酸又はそのアルキルエステルを含む混合物を用い、(b)固定相としてのシリカゲルが、粒径4.0?25.0μm、細孔径0.005?0.015μm、細孔容積0.65?1.10ml/g、且つ比表面積250?650m^(2)/gであり、(c)超臨界クロマトグラフィーの運転条件が、圧力100?130kg/cm^(2)、温度30?60℃、線速度10?70cm/分であることを特徴とする高度不飽和脂肪酸誘導体の製造方法が提供される。また本発明によれば、上記方法で得られた、ガスクロマトグラフィーの純度が97.0質量%以上、かつアラキドン酸/エイコサペンタエン酸の比が0.0105以下である高純度エイコサペンタエン酸誘導体が提供される。」

(甲2イ)「【0013】
【実施例】・・・・・・
1.<ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸誘導体の測定条件>
・・・・・・・
カラム;DB-WAX(J&W社製)30×0.25mm×0.25μmフィルム
熱異性化物の含有率はガスクロマトグラムの、エイコサペンタエン酸とヘンエイコサペンタエン酸(C21:F;5)のピークの間にある、天然には認められないピークを熱異性化物とした。
【0014】・・・・・・
<超臨界クロマトグラフィーの運転条件2>;実施例4
装置一式 NOVA社製超臨界クロマトグラフィー装置
カラムサイズ 25mm(内径)×100cm
検出器 日本分光社製 形式975-UV
運転圧力 130kg/cm^(2)
カラム温度 40℃
線速度 39.1cm/分
試料 原料2
試料量 500μl
・・・・・・・」

(甲2ウ)「【0028】実施例4
実施例3で用いたシリカゲルを充填したカラムを用いた超臨界クロマトグラフィーを、前述の運転条件2に従って運転し、原料2の分離を行った。試料注入後、91分経過後から129分経過後までの画分を分取し、純度97.80質量%、C20:4/EPA比=0.0047でエイコサペンタエン酸エチル198mg(エイコサペンタエン酸エチル回収率56.31%)を得た。このエチルエステルのガスクロマトグラフィーによる分析では、熱異性体に相当するピークは認められなかった。精製後の脂肪酸組成を表2示す。
・・・・・・・
【0030】
【表2】



イ 甲2発明
甲2の実施例4には、上記(甲2ウ)より脂肪酸組成等において、「18:4」が「0.50質量%」、「AA」が「0.36質量%」、「20:4ω-3」が「0.87質量%」、「EPA」が「97.80質量%」、「21:5」が「0.22質量%」、「DHA」が「0.00質量%」、「熱異性化物」が「0.00質量%」の脂肪酸組成物が記載されている。
上記の各種脂肪酸は、いずれも多価不飽和脂肪酸として当業者に公知のものであり、脂肪酸の組成において、「18:4」との表現は、炭素数が18個で、炭素-炭素二重結合が4個であることを示し、そのような脂肪酸は、ω-3脂肪酸であるステアリドン酸を示していることは当該技術分野における技術常識である。
同様に「20:4ω-3」との表現は、炭素数が20個で、炭素-炭素二重結合が4個であるω-3脂肪酸を示しており、これは、ω-3エイコサテトラエン酸を示すこと、「21:5」との表現は、炭素数が21個で、炭素-炭素二重結合が5個であることを示し、そのような脂肪酸は、ω-3脂肪酸であるヘンエイコサペンタエン酸を示していることも当該技術分野における技術常識である。
また、脂肪酸において「AA」との表現は、アラキドン酸を示し、アラキドン酸はω-6脂肪酸であることも、当該技術分野における技術常識である。
そうすると、甲2には、「18:4(ステアリドン酸)が0.50質量%、AA(アラキドン酸)が0.36質量%、20:4ω-3(ω-3エイコサテトラエン酸)が0.87質量%、EPAが97.80質量%、21:5(ヘンエイコサペンタエン酸)が0.22質量%、DHAが0.00質量%、熱異性化物が0.00質量%の脂肪酸組成物」(以下、「甲2発明」という)の発明が記載されているといえる。

ウ 本件発明1と甲2発明との対比・判断
(ア)本件発明1と甲2発明とを対比すると、
甲2発明の「EPA」は、本件発明1の「EPA」に相当し、本件発明1の「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物」、「PUFA生成物」にも相当する。
甲2発明の「EPA」の「97.80質量%」は、組成物中に含まれるEPAの質量%を示していることが明らかであることから、本件発明1の「前記PUFA生成物が96重量%を超える量で存在し」に包含される。
甲2発明の「AA(アラキドン酸)」は、上記(1)ウ(ア)のとおりω6系の多価不飽和脂肪酸であるから、本件発明1の「ω-6多価不飽和脂肪酸」に相当し、甲2発明の「AA(アラキドン酸)」の「0.36質量%」は、組成物中に含まれるアラキドン酸の質量%を示していることが明らかであることから、本件発明1の「前記組成物は0.40重量%までの量のω-6多価不飽和脂肪酸を含み」に包含される。
甲2発明の「20:4ω-3(ω-3エイコサテトラエン酸)」は、本件発明1の「ω-3エイコサテトラエン酸」に相当し、 甲2発明の「20:4ω-3(ω-3エイコサテトラエン酸)」の「0.87質量%」は、組成物中に含まれるω-3エイコサテトラエン酸の質量%を示していることが明らかであることから、本件発明1の「前記組成物は1重量%までの量のω-3エイコサテトラエン酸を含み」に包含される。
甲2発明の「脂肪酸組成物」は、本件発明1の「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物」に相当する。
なお、甲2発明における含有量は質量%であり、本件発明1における含有量は重量%であり、厳密には、それぞれが示している割合は異なるが、便宜上、相当する範囲として重量%で示す。

そうすると、本件発明1と甲2発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
一致点:「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物であって、
前記PUFA生成物はEPAであり、前記PUFA生成物が97.80重量%で存在し、前記組成物は0.36重量%のω-6多価不飽和脂肪酸を含み、かつ、0.87重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸を含む、組成物」である点

相違点2-1-1:甲2発明は、さらに「18:4(ステアリドン酸)が0.50質量%」、「21:5(ヘンエイコサペンタエン酸)が0.22質量%」、「DHAが0.00質量%」、「熱異性化物が0.00質量%」を含むことを特定しているのに対して、本件発明1には、これらの成分を明記していない点

相違点2-1-2:本件発明1は、「前記組成物は0.25重量%までのアラキドン酸を含む」ことを特定しているのに対して、甲2発明は、「AA(アラキドン酸)が0.36質量%」含むと特定している点

(イ)事案に鑑み、上記相違点2-1-2について、検討する。
本件発明1は、一致点でも指摘したとおりω-6多価不飽和脂肪酸について、「前記組成物は0.40重量%までの量」を含むことを特定しているが、ω6系の多価不飽和脂肪酸であるアラキドン酸は、「前記組成物は0.25重量%までのアラキドン酸を含む」と特定している。
しかしながら、甲2発明では、「AA(アラキドン酸)が0.36質量%」含むと特定しており、本件発明1と甲2発明の多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物において、アラキドン酸を含む量は重複、あるいは一致していない。
そうすると、相違点2-1-2は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、相違点2-1-1を検討するまでもなく、相違点2-1-2が実質的な相違点であるから、甲2発明ではない。

エ 本件発明3と甲2発明との対比・判断
(ア)本件発明3は、本件発明1を引用し、更に当該組成物に含まれる成分である「ω-3エイコサテトラエン酸」の下限値をさらに「0.1重量%以上」と特定している。

(イ)しかしながら、本件発明3は、本件発明1を引用しており、本件発明1が、甲2発明ではないことは、上記ウ(イ)で検討したとおりであり、「ω-3エイコサテトラエン酸」について、本件発明3の「0.1重量%以上」との特定は、本件発明1の「0.05?1重量%の量」に包含されるから、本件発明3には、甲2発明との実質的な相違点が存在する。
したがって、本件発明3は、甲2発明ではない。

オ 本件発明7?10と甲2発明との対比・判断
(ア)本件発明7は、本件発明1及び3を直接あるいは間接的に引用し、更に当該組成物が「1重量%までの量の異性体不純物を含む」ことを、本件発明8は、本件発明7を引用し、当該組成物が「0.5重量%までの量の異性体不純物を含む」ことを、本件発明9は、本件発明8を引用し、当該組成物が「0.25重量%までの量の異性体不純物を含む」ことを、本件発明10は、本件発明9を引用し、当該組成物が「0.1重量%までの量の異性体不純物を含む」ことを、それぞれ特定している。

(イ)しかしながら、本件発明7?10は、本件発明1及び3を直接あるいは間接的に引用しており、本件発明1あるいは3が甲2発明ではないことは、上記ウ(イ)及びエ(イ)で検討したとおりであるから、本件発明7?10には、甲2発明との実質的な相違点が存在する。
したがって、本件発明7?10は、甲2発明ではない。

カ 小括
上記のとおり、本件発明1、3、7?10は、甲2発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、同法第113条第1項第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

(3)特許異議申立人が令和2年6月8日に提出した意見書について
特許異議申立人は、新規性について、上記意見書において本件発明5及び6は、甲1?甲12に記載された技術常識を考慮すると、本件特許出願前から存在していた蓋然性が極めて高い旨新たに主張している(上記意見書5頁1?8行)
しかしながら、異議申立人の主張は、具体的に蓋然性が極めて高い理由を示しているとはいえず、本件発明5及び6は、本件発明1を引用し、「0.1?0.5重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸」、「0.25重量%までの量のアラキドン酸」を含むことが特定されていることから、甲1、甲2において、上記(1)及び(2)で検討したのと同様な実質的な相違点があり、また、甲3?甲12の記載を参酌しても甲1及び甲2の実質的な相違点の判断に何ら影響を与えるものではないから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1、3、4、7?10は、甲1発明あるいは甲2発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、本件発明1、3、4、7?10に係る特許は、同法第113条第1項第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

2 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由についての検討
(1)異議理由2-1(特許法第29条第2項)
ア 甲1、甲3?甲5の記載事項
(ア)甲1の記載事項
上記1(1)アに記載されたとおりである。

(イ)甲3の記載事項
(甲3ア)「【0018】〔実施例1〕
(1) 原料の調製
イワシ油1kgに1%水酸化カリウム/エタノール溶液1Lを加え、窒素気流中40℃で30分間攪拌した。次いで2%硫酸/エタノール溶液を添加して中和した。その後エタノールを留去して、濃縮物を温水で洗浄した。このようにして脂肪酸エチルエステル混合物1.05kgが得られた。この混合物の各PUFAエステルの含有割合を表1に示す。
【0019】(2) 真空蒸留
上記工程(1) で調製した脂肪酸エチルエステル混合物をディクソンパッキング(東京特殊金網株式会社製)の入った充填塔を装着した蒸留器を用いて、平均蒸留温度 170℃、平均操作圧力 0.4Torrで真空蒸留した。このようにしてEPAエチルエステル含有脂肪酸エチルエステル留分30gが得られた。この留分には、EPAエチルエステル35.5重量%、DHAエチルエステル 8.0重量%が含まれていた。この留分の各PUFAエステルの含有割合を表1に示す。
【0020】(3) 尿素処理
上記工程(2) で得られた留分を、メタノール 1.5Lに尿素 450gを溶解させた溶液(50?60℃)に滴下し、その後20℃まで冷却した。次いで、析出した尿素付加体を濾別し、濾液を濃縮した。濃縮物にヘキサン1Lを加えて抽出を行った後、温水で洗浄した。次いでヘキサン相を濃縮した。このようにしてPUFAエチルエステル濃縮物 150gが得られた。この濃縮物の各PUFAエステルの含有割合を表1に示す。
【0021】(4) リパーゼおよび界面活性剤処理
上記工程(3) で得られた濃縮物にポリオキシエチレンラウリルエーテルを9g添加して溶解した。その溶液を、蒸留水 450mlに塩化カルシウム12gおよびアルカリゲネス属に属する微生物由来のリパーゼ(名糖産業社製) 150,000 Uを溶解した水溶液と混合し、40℃で14時間反応させて加水分解を行った。次いで、反応液にヘキサン 500ml及び5%水酸化ナトリウム水溶液 200mlを添加、攪拌し、静置後下層を除去し、上層を水洗して濃縮した。このようにして、PUFAエチルエステル処理物 105gが得られた。この処理物の各PUFAエステルの含有割合を表1に示す。
【0022】(5) カラムクロマトグラフィーによる精製
上記工程(4) で得られたPUFAエチルエステル処理物を、吸着樹脂であるスチレンジビニルベンゼン重合体HP-20SS (三菱化学製) 2.5Lが充填されたカラムに負荷した。溶離剤としては、メタノールと水の混合溶媒(メタノール:水=9:1)を用いた。EPAエチルエステル画分を採取し、溶離剤を除去した。このようにして、EPAエチルエステル精製物41gが得られた。この精製物の各PUFAエステルの含有割合を表1に示す。」

(甲3イ)「【0024】
【表1】



(ウ)甲4の記載事項
(甲4ア)「イコサペント酸エチル
Ethyl Icosapentate
・・・・・・・・
C_(22)H_(34)O_(2):330.50
Ethyl(5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-icosa-5,8,11,14,17-pentaenoate
[86227-47-6]

本品は定量するとき,イコサペント酸エチル(C_(22)H_(34)O_(2))96.5?101.0%を含む.」(医薬品各条 327頁右欄14行?22行)

(甲4イ)「純度試験
・・・・・・・
(3)類縁物質 本品0.40gにヘキサンを加えて50mLとし,試験溶液とする.試験溶液1.5μLにつき,次の条件でガスクロマトグラフィー<2.02>により試験を行う.各々のピーク面積を自動積分法により測定し,面積百分率法によりそれらの量を求めるとき,イコサペント酸エチルに対する相対保持時間約0.53のピーク面積は0.5%以下,イコサペント酸エチルに対する相対保持時間約0.80及び約0.93のピーク面積はそれぞれ1.0%以下で,主ピーク及び上記以外のピークの面積はそれぞれ1.0%以下である.また,主ピーク以外のピークの合計面積は3.5%以下である.」(医薬品各条 328頁左欄5行?22行)

(エ)甲5の記載事項
(甲5ア)「イコサペント酸エチル
・・・・・・・
純度試験
(3) 類縁物質 本品0.40gにヘキサンを加えて50mLとし,試験溶液とする.試験溶液1.5μLにつき,次の条件でガスクロマトグラフィー<2.02>により試験を行う.各々のピーク面積を自動積分法により測定し,面積百分率法によりそれらの量を求めるとき,イコサペント酸エチルに対する相対保持時間約0.53のピーク面積は0.5%以下,イコサペント酸エチルに対する相対保持時間約0.80及び約0.93のピーク面積はそれぞれ1.0%以下で,主ピーク及び上記以外のピークの面積はそれぞれ1.0%以下である.また,主ピーク以外のピークの合計面積は3.5%以下である.
試験条件
・・・・・・・」(404頁右欄3行?405頁右欄16行)

(甲5イ)「

」(405頁右欄の中段)

なお、甲5は、平成23年8月25日に発行された刊行物であり、本件特許は、第1の「手続の経緯」で記載したとおり適法な分割出願として特許登録されたものであるから、甲5は、本件特許の出願後の刊行物であり、証拠として採用できない。

イ 甲1発明
上記1(1)イに記載したとおりである。

ウ 本件発明4と甲1発明との対比・判断
(ア)甲1発明の構成成分等については、上記1(1)エ(ア)に記載したとおりである。

(イ)本件発明4の発明特定事項については、上記1(1)エ(イ)に記載したとおりである。

(ウ)本件発明4aと甲1発明とを対比すると、一致点および相違点は、上記1(1)エ(ウ)に記載したとおりである。

(エ)相違点1-4-1a?相違点1-4-3aについて検討する。
甲3には、上記ア(イ)の(甲3ア)?(甲3イ)より、エイコサペンタエン酸エステルの製造方法において、具体的に工程(1)?(5)を経ることによりエイコサペンタエン酸エステル92重量%、DHAエステル0.1重量%、18:4(オクタデカテトラエン酸)エステル1.0重量%、20:4ω6(アラキドン酸)エステル2.0重量%、20:4ω3(エイコサテトラエン酸)エステル0.6重量%の多価不飽和脂肪酸(PUFA)を含む組成物が得られたことが記載されている。
また、甲4には、上記ア(ウ)の(甲4ア)より、日本薬局方における「イコサペント酸エチル」(決定注:EPAエチル)について、イコサペント酸の純度が96.5?101.0%であること、その純度試験はガスクロマトグラフィーにより測定し、類縁物質の含有限度が記載されている。

そうすると、甲3に記載されたEPAの含有割合は、PUFAエステル全体の92重量%であり、本件発明4aの範囲に含まれないものであり、甲1発明のEPAの含有割合99.5重量%よりも低い含有割合であるから、このように含有割合の異なる甲3に記載された発明と甲1発明を組み合わせる動機付けはないといわざるを得ない。
また、甲4は、日本薬局方におけるEPAの純度および許容される類縁物質の割合について定めているに過ぎず、個々の類縁物質の種類およびその含有割合を特定していないから、甲1発明と甲4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められない。
仮に、甲1発明と甲3?4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められたとしても、上記相違点1-4-1a及び?1-4-3aにおいて特定されている本件発明4の各成分について、その特定された多価不飽和脂肪酸(PUFA)の種類およびその含有割合を所定の範囲にすることは、甲3?甲4に何ら記載されておらず、甲3?甲4には、単に、EPAを分離する際の一般的な手段、あるいは、純度を測定する際の手法を開示しているに過ぎない。
したがって、本件発明4aは、相違点1-4-2aについて検討するまでもなく、甲1に記載された発明、ならびに甲3?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

(オ)本件発明4bと甲1発明とを対比すると、一致点および相違点は、上記1(1)エ(オ)に記載したとおりである。

(カ)相違点1-4-1b?1-4-4bについて検討する。
甲3?甲4には、上記(エ)で摘示したことが記載されている。
しかしながら、甲3に記載されたEPAの含有割合は、PUFAエステル全体の92重量%であり、本件発明4bの範囲に含まれないものであり、甲1発明のEPAの含有割合99.5重量%よりも低い含有割合であるから、このように含有割合の異なる甲3に記載された発明と甲1発明を組み合わせる動機付けはないといわざるを得ない。
また、甲4は、日本薬局方におけるEPAの純度および許容される類縁物質の割合について定めているに過ぎず、個々の類縁物質の種類およびその含有割合を特定していないから、甲1発明と甲4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められない。
仮に、甲1発明と甲3?4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められたとしても、上記相違点1-4-1b、1-4-3b及び1-4-4bにおいて特定されている本件発明4bの各成分について、その特定された多価不飽和脂肪酸(PUFA)の種類およびその含有割合を所定の範囲にすることは、甲3?甲4に何ら記載されておらず、甲3?4には、単に、EPAを分離する際の一般的な手段、あるいは、純度を測定する際の手法を開示しているに過ぎない。
したがって、本件発明4bは、相違点1-4-2aについて検討するまでもなく、甲1に記載された発明、ならびに甲3?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

(キ)小括
上記のとおりであるから、本件発明4(本件発明4a及び本件発明4b)は、甲1に記載された発明、ならびに甲3?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

エ 本件発明5について
(ア)甲1発明の構成成分等については、上記1(1)エ(ア)に記載したとおりである。

(イ)本件発明5は、本件発明1を引用し、更に当該組成物に含まれる成分を「96.5から99重量%のEPA、0.2重量%までの量のDHA、0.3重量%までの量のα-リノレン酸、0.15から0.4重量%のステアリドン酸、0.1から0.5重量%のω-3エイコサテトラエン酸、0.35重量%までの量のω-3ドコサペンタエン酸、および0.25重量%までの量のアラキドン酸を含む」と特定している。

(ウ)本件発明5の本件発明1を引用している部分については、上記1(1)ウ(イ)で検討した事項を前提に、本件発明5と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「アラキドン酸」の「0.2重量%」は、組成物中に含まれるアラキドン酸の重量%を示していることが明らかであることから、本件発明5の「0.25重量%までの量のアラキドン酸」に包含される。
甲1発明の「二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸0.0重量%」は、本件発明5の「0.35重量%までの量のω-3ドコサペンタエン酸」に包含される。

そうすると、本件発明5と甲1発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
一致点:「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物であって、
前記PUFA生成物はEPAであり、前記PUFA生成物が99.5重量%で存在し、前記組成物は0.2重量%の量のω-6多価不飽和脂肪酸を含み、かつ、前記組成物は0.2重量%の量のアラキドン酸を含む、組成物であって、前記組成物が、
0.0重量%の量のω-3ドコサペンタエン酸、および0.2重量%の量のアラキドン酸を含む、組成物」である点
(決定注:下線部は、本件発明1を引用している部分における一致点。以下、同様である。)

相違点1-5-1:本件発明5は、「0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸」を含む組成物において、「0.1から0.5重量%のω-3エイコサテトラエン酸」を含むことを特定しているのに対して、甲1発明は、組成物中に「ω-3エイコサテトラエン酸」を含むことを特定していない点

相違点1-5-2:甲1発明は、さらに、「二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸0.0重量%」の成分を特定しているのに対して、本件発明5には、この成分を特定していない点

相違点1-5-3:本件発明5は、「0.3重量%までの量のα-リノレン酸、0.15から0.4重量%のステアリドン酸」を含むのに対して、甲1発明は、「α-リノレン酸」及び「ステアリドン酸」を含むことについて特定していない点

相違点1-5-4:本件発明5は、「0.2重量%までの量のDHA」を含むのに対して、甲1発明は、「ドコサヘキサエン酸0.3重量%」を含むと特定している点

相違点1-5-5:本件発明5は、「96.5から99重量%のEPA」を含むのに対して、甲1発明は、「エイコサペンタエン酸99.5重量%」を含むと特定している点

(エ)相違点1-5-1?1-5-5について検討する。
甲3?甲4には、上記ウ(エ)で摘示したことが記載されている。
しかしながら、甲3に記載されたEPAの含有割合は、PUFAエステル全体の92重量%であり、本件発明4の範囲に含まれないものであり、甲1発明のEPAの含有割合99.5重量%よりも低い含有割合であるから、このように含有割合の異なる甲3に記載された発明と甲1発明を組み合わせる動機付けはないといわざるを得ない。
また、甲4は、日本薬局方におけるEPAの純度および許容される類縁物質の割合について定めているに過ぎず、個々の類縁物質の種類およびその含有割合を特定していないから、甲1発明と甲4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められない。
仮に、甲1発明と甲3?4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められたとしても、上記相違点1-5-1、1-5-3?1-5-5において特定されている本件発明5の各成分について、その特定された多価不飽和脂肪酸(PUFA)の種類およびその含有割合を所定の範囲にすることは、甲3?甲4に何ら記載されておらず、甲3?甲4には、単に、EPAを分離する際の一般的な手段、あるいは、純度を測定する際の手法を開示しているに過ぎない。
したがって、本件発明5は、相違点1-5-2について検討するまでもなく、甲1に記載された発明、ならびに甲3?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

オ 本件発明6について
(ア)甲1発明の構成成分等については、上記1(1)エ(ア)に記載したとおりである。

(イ)本件発明6は、本件発明1を引用し、更に当該組成物に含まれる成分を「 (a)98から99重量%のEPA、0.1から0.3重量%のDHA、0.3から0.35重量%のステアリドン酸、0.1から0.3重量%のω-3エイコサテトラエン酸、および0.3から0.35重量%のω-3ドコサペンタエン酸を含むか、または
(b)96.5から99重量%のEPA、0.1から0.5重量%のDHA、0.1から0.5重量%のステアリドン酸、0.1から0.5重量%のω-3エイコサテトラエン酸、0.1から0.5重量%のω-3ドコサペンタエン酸、および0.1から0.3重量%のアラキドン酸を含むか、または
(c)98から99重量%のEPA、0.1から0.2重量%のDHA、0.3から0.35重量%のステアリドン酸、0.1から0.2重量%のω-3エイコサテトラエン酸、および0.3から0.35重量%のω-3ドコサペンタエン酸を含むか、または
(d)96.5から97.5重量%のEPA、0.25から0.35重量%のα-リノレン酸、0.18から0.24重量%のステアリドン酸、0.4から0.46重量%のω-3エイコサテトラエン酸、および0.15から0.25重量%のアラキドン酸を含む」と特定している。

(ウ)本r件発明6の本件発明1を引用している部分については、上記1(1)ウ(イ)で検討した事項を前提に、本件発明6のうち(a)?(d)に含まれる各成分と甲1発明とを対比する。
(ウa-1)本件発明6のうち(a)に含まれる成分(以下、「本件発明6a」という。)と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ドコサヘキサエン酸0.3重量%」は、本件発明6aの「0.1から0.3重量%のDHA」に包含される。

そうすると、本件発明6aと甲1発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
一致点:「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物であって、
前記PUFA生成物はEPAであり、前記PUFA生成物が99.5重量%で存在し、前記組成物は0.2重量%の量のω-6多価不飽和脂肪酸を含み、かつ、前記組成物は0.2重量%の量のアラキドン酸を含む、組成物であって、前記組成物が、
(a)0.3重量%のDHAを含む、組成物」である点

相違点1-6-1a:本件発明6aは、「0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸」を含む組成物において、「0.1から0.3重量%のω-3エイコサテトラエン酸」を含むことを特定しているのに対して、甲1発明は、組成物中に「ω-3エイコサテトラエン酸」を含むことを特定していない点

相違点1-6-2a:甲1発明は、さらに、「二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸0.0重量%」の成分を特定しているのに対して、本件発明6aには、この成分を特定していない点

相違点1-6-3a:本件発明6aは、「0.3から0.35重量%のステアリドン酸」を含むのに対して、甲1発明は、「ステアリドン酸」を含むことについて特定していない点

相違点1-6-4a:本件発明6aは、「0.3から0.35重量%のω3-ドコサペンタエン酸」を含むのに対して、甲1発明は、「二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸0.0重量%」を含むと特定している点

相違点1-6-5a:本件発明6aは、「98から99重量%」のEPAを含むと特定しているのに対して、甲1発明は、「エイコサペンタエン酸99.5重量%」を含むと特定している点

(ウa-2)相違点1-6-1a?1-6-5aについて検討する。
甲3?甲4には、上記ウ(エ)で摘示したことが記載されている。
しかしながら、甲3に記載されたEPAの含有割合は、PUFAエステル全体の92重量%であり、本件発明6aの範囲に含まれないものであり、甲1発明のEPAの含有割合99.5重量%よりも低い含有割合であるから、このように含有割合の異なる甲3に記載された発明と甲1発明を組み合わせる動機付けはないといわざるを得ない。
また、甲4は、日本薬局方におけるEPAの純度および許容される類縁物質の割合について定めているに過ぎず、個々の類縁物質の種類およびその含有割合を特定していないから、甲1発明と甲4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められない。
仮に、甲1発明と甲3?4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められたとしても、上記相違点1-6-1a、1-6-3a?1-6-5aにおいて特定されている本件発明6aの各成分について、その特定された多価不飽和脂肪酸(PUFA)の種類およびその含有割合を所定の範囲にすることは、甲3?甲4に何ら記載されておらず、甲3?甲4には、単に、EPAを分離する際の一般的な手段、あるいは、純度を測定する際の手法を開示しているに過ぎない。
したがって、本件発明6aは、相違点1-6-2aについて検討するまでもなく、甲1に記載された発明、ならびに甲3?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

(ウb-1)本件発明6のうち(b)に含まれる成分(以下、「本件発明6b」という。)と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「アラキドン酸」の「0.2重量%」は、組成物中に含まれるアラキドン酸の重量%を示していることが明らかであることから、本件発明6bの「0.1から0.3重量%のアラキドン酸」に包含される。
甲1発明の「ドコサヘキサエン酸0.3重量%」は、本件発明6bの「0.1から0.5重量%のDHA」に包含される。

そうすると、本件発明6bと甲1発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
一致点:「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物であって、
前記PUFA生成物はEPAであり、前記PUFA生成物が99.5重量%で存在し、前記組成物は0.2重量%の量のω-6多価不飽和脂肪酸を含み、かつ、前記組成物は0.2重量%の量のアラキドン酸を含む、組成物であって、前記組成物が、
(b)0.3重量%のDHA、および0.2重量%のアラキドン酸を含む、組成物」である点

相違点1-6-1b:本件発明6bは、「0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸」を含む組成物において、「0.1から0.5重量%のω-3エイコサテトラエン酸」を含むことを特定しているのに対して、甲1発明は、組成物中に「ω-3エイコサテトラエン酸」を含むことを特定していない点

相違点1-6-2b:甲1発明は、さらに、「二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸0.0重量%」の成分を特定しているのに対して、本件発明6bには、この成分を特定していない点

相違点1-6-3b:本件発明6bは、「0.1から0.5重量%のステアリドン酸」を含むのに対して、甲1発明は、「ステアリドン酸」を含むことについて特定していない点

相違点1-6-4b:本件発明6bは、「0.1から0.5重量%のω3-ドコサペンタエン酸」を含むのに対して、甲1発明は、「二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸0.0重量%」を含むと特定している点

相違点1-6-5b:本件発明6bは、「96.5から99重量%」のEPAを含むと特定しているのに対して、甲1発明は、「エイコサペンタエン酸99.5重量%」を含むと特定している点

(ウb-2)相違点1-6-1b?1-6-5bについて検討する。
甲3?甲4には、上記ウ(エ)で摘示したことが記載されている。
しかしながら、甲3に記載されたEPAの含有割合は、PUFAエステル全体の92重量%であり、本件発明6aの範囲に含まれないものであり、甲1発明のEPAの含有割合99.5重量%よりも低い含有割合であるから、このように含有割合の異なる甲3に記載された発明と甲1発明を組み合わせる動機付けはないといわざるを得ない。
また、甲4は、日本薬局方におけるEPAの純度および許容される類縁物質の割合について定めているに過ぎず、個々の類縁物質の種類およびその含有割合を特定していないから、甲1発明と甲4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められない。
仮に、甲1発明と甲3?4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められたとしても、上記相違点1-6-1b、1-6-3b?1-6-5bにおいて特定されている本件発明6bの各成分について、その特定された多価不飽和脂肪酸(PUFA)の種類およびその含有割合を所定の範囲にすることは、甲3?甲4に何ら記載されておらず、甲3?甲4には、単に、EPAを分離する際の一般的な手段、あるいは、純度を測定する際の手法を開示しているに過ぎない。
したがって、本件発明6bは、相違点1-6-2bについて検討するまでもなく、甲1に記載された発明、ならびに甲3?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

(ウc-1)本件発明6のうち(c)に含まれる成分(以下、「本件発明6c」という。)と甲1発明とを対比すると、以下の一致点及び相違点を有する。
一致点:「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物であって、
前記PUFA生成物はEPAであり、前記PUFA生成物が99.5重量%で存在し、前記組成物は0.2重量%の量のω-6多価不飽和脂肪酸を含み、かつ、前記組成物は0.2重量%の量のアラキドン酸を含む、組成物」である点

相違点1-6-1c:本件発明6cは、「0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸」を含む組成物において、「0.1から0.2重量%のω-3エイコサテトラエン酸」を含むことを特定しているのに対して、甲1発明は、組成物中に「ω-3エイコサテトラエン酸」を含むことを特定していない点

相違点1-6-2c:甲1発明は、さらに、「二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸0.0重量%」の成分を特定しているのに対して、本件発明6cには、この成分を特定していない点

相違点1-6-3c:本件発明6cは、「0.3から0.35重量%のステアリドン酸」を含むのに対して、甲1発明は、「ステアリドン酸」を含むことについて特定していない点

相違点1-6-4c:本件発明6cは、「0.3から0.35重量%のω3-ドコサペンタエン酸」を含むのに対して、甲1発明は、「二重結合5個、炭素数22のω3脂肪酸0.0重量%」を含むと特定している点

相違点1-6-5c:本件発明6cは、「98から99重量%」のEPAを含むと特定しているのに対して、甲1発明は、「エイコサペンタエン酸99.5重量%」を含むと特定している点

相違点1-6-6c:本件発明6cは、「0.1から0.2重量%のDHA」を含むと特定しているのに対して、甲1発明は、「ドコサヘキサエン酸0.3重量%」を含むと特定している点

(ウc-2)相違点1-6-1c?1-6-6cについて検討する。
甲3?甲4には、上記ウ(エ)で摘示したことが記載されている。
しかしながら、甲3に記載されたEPAの含有割合は、PUFAエステル全体の92重量%であり、本件発明6cの範囲に含まれないものであり、甲1発明のEPAの含有割合99.5重量%よりも低い含有割合であるから、このように含有割合の異なる甲3に記載された発明と甲1発明を組み合わせる動機付けはないといわざるを得ない。
また、甲4は、日本薬局方におけるEPAの純度および許容される類縁物質の割合について定めているに過ぎず、個々の類縁物質の種類およびその含有割合を特定していないから、甲1発明と甲4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められない。
仮に、甲1発明と甲3?4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められたとしても、上記相違点1-6-1c、1-6-3c?1-6-6cにおいて特定されている本件発明6cの各成分について、その特定された多価不飽和脂肪酸(PUFA)の種類およびその含有割合を所定の範囲にすることは、甲3?甲4に何ら記載されておらず、甲3?甲4には、単に、EPAを分離する際の一般的な手段、あるいは、純度を測定する際の手法を開示しているに過ぎない。
したがって、本件発明6cは、相違点1-6-2cについて検討するまでもなく、甲1に記載された発明、ならびに甲3?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

(ウd-1)本件発明6のうち(d)に含まれる成分(以下、「本件発明6d」という。)と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「アラキドン酸」の「0.2重量%」は、組成物中に含まれるアラキドン酸の重量%を示していることが明らかであることから、本件発明6dの「0.15から0.25重量%のアラキドン酸」に包含される。

そうすると、本件発明6dと甲1発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
一致点:「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物であって、
前記PUFA生成物はEPAであり、前記PUFA生成物が99.5重量%で存在し、前記組成物は0.2重量%の量のω-6多価不飽和脂肪酸を含み、かつ、前記組成物は0.2重量%の量のアラキドン酸を含む、組成物であって、前記組成物が、
(d)0.2重量%のアラキドン酸を含む、組成物」である点

相違点1-6-1d:本件発明6dは、「0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸」を含む組成物において、「0.4から0.46重量%のω-3エイコサテトラエン酸」を含むことを特定しているのに対して、甲1発明は、組成物中に「ω-3エイコサテトラエン酸」を含むことを特定していない点

相違点1-6-2d:甲1発明は、さらに、「二重結合5個、炭素数21のω3脂肪酸0.0重量%」の成分を特定しているのに対して、本件発明6dには、この成分を特定していない点

相違点1-6-3d:本件発明6dは、「0.25から0.35重量%のα-リノレン酸、0.18から0.24重量%のステアリドン酸」を含むのに対して、甲1発明は、「α?リノレン酸」及び「ステアリドン酸」を含むことについて特定していない点

相違点1-6-4d:本件発明6dは、「96.5から97.5重量%」のEPAを含むと特定しているのに対して、甲1発明は、「エイコサペンタエン酸99.5重量%」を含むと特定している点

(ウd-2)相違点1-6-1d?1-6-4dについて検討する。
甲3?甲4には、上記ウ(エ)で摘示したことが記載されている。
しかしながら、甲3に記載されたEPAの含有割合は、PUFAエステル全体の92重量%であり、本件発明6dの範囲に含まれないものであり、甲1発明のEPAの含有割合99.5重量%よりも低い含有割合であるから、このように含有割合の異なる甲3に記載された発明と甲1発明を組み合わせる動機付けはないといわざるを得ない。
また、甲4は、日本薬局方におけるEPAの純度および許容される類縁物質の割合について定めているに過ぎず、個々の類縁物質の種類およびその含有割合を特定していないから、甲1発明と甲4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められない。
仮に、甲1発明と甲3?4に記載された発明を組み合わせる動機付けがあると認められたとしても、上記相違点1-6-1d、1-6-3d?1-6-4dにおいて特定されている本件発明6dの各成分について、その特定された多価不飽和脂肪酸(PUFA)の種類およびその含有割合を所定の範囲にすることは、甲3?甲4に何ら記載されておらず、甲3?甲4には、単に、EPAを分離する際の一般的な手段、あるいは、純度を測定する際の手法を開示しているに過ぎない。
したがって、本件発明6dは、相違点1-6-2dについて検討するまでもなく、甲1に記載された発明、ならびに甲3?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

(エ)小括
上記のとおりであるから、本件発明6(本件発明6a?本件発明6d)は、甲1に記載された発明、ならびに甲3?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

カ まとめ
以上のとおり、本件発明4?6は、甲1を主引例として、甲3?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明4?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第1項第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

(2)異議理由2-2(特許法第29条第2項)
ア 甲2、甲6?甲11の記載事項
(ア)甲2の記載事項
上記1(2)アに記載したとおりである。

(イ)甲6の記載事項
なお、原文は英語であり、翻訳で示す。
(甲6ア)「ポリエチレングリコール固定相におけるエイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸のメチルエステルのトランス異性体の保持時間の挙動」(547頁の表題)

(甲6イ)「エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)のメチルエステルのモノ-トランス異性体の分離について、ポリエチレングリコール(PEG)固定相を評価した。分離パターンは、以前にシアノプロピル相で適用した条件で達成できたパターンと比較した。PEG相ですべてのシスEPA/DHAとそれらのモノ-トランス異性体との間に重複はなかった。22:0と22:1の異性体の間に重複があるため、PEGカラムは、粗魚油中のEPAトランス異性体の分析には適さない。しかしながら、飽和および一価不飽和脂肪酸がそれほど多く含まれていない場合、PEGは、シアノプロピルカラムよりも、よりよい選択であり得る。」(547頁の要約)

(甲6ウ)「これらの異性体の分離のためには、CP相よりもPEG相を選択した方がよい場合があることを示す。」(548頁左欄4行?6行)

(甲6エ)「2.1 GC-MS条件
サンプルは、スピリット/スプリットレイスインジェクター、電子式圧力制御、HP-7673Aオートサンプラー、およびHP-5972MS検出器を備えたHP-5890で分析した。システムには、G1034C ケムステーション ソフトウエアを装備した。2つの異なるキャピラリーカラムには、CPカラム、BPX-70、L=60m、I.D.=0.25mm、d_(f)=0.25μm(SGE、ウングウッド、オーストラリア)と、PEGGYカラム、BP-20、L=50m、I.D.=0.22mm、d_(f)=0.25μm(SGE)を適用した。ヘリウム(99.996%)は、キャリアーガスとして使用した。」(548頁左欄8行?17行)

(甲6オ)「3.1 溶出パターン
EPAとDHAの溶出パターンを図1および図2にそれぞれ示す。
・・・・・・・
BP-20のモノ-トランスのピークは、E1d-gとD1f-iと名付けた。モノ-トランスEPA混合物の分析では、BPX-70で3つのピーク(図1E)が得られ、BP-20で4つのピーク(図1F)が観測された。」(548頁右欄10行?22行)

(甲6カ)「

」(図1.BPX-70(左)およびBP-20(右)における純EPA濃縮物(A,B)、熱異性化EPA濃縮物(C,D)、モノ-トランスEPA標準品(E,F)、ジ-トランスEPA標準品(G,H)、および考えられる干渉物質(I,J)の溶出パターン。クロマトグラフィー条件は、方法の節に記載されている。)(550頁上)

(甲6キ)「

」(図2.BPX-70(左)およびBP-20(右)における純DHA濃縮物(A,B)、熱異性化DHA濃縮物(C,D)、モノ-トランスDHA標準品(E,F)、ジ-トランスDHA標準品(G,H)、および考えられる干渉物質(I,J)の溶出パターン。クロマトグラフィー条件は、方法の節に記載されている。アスタリスクの下の小さなピークは、未同定生成物である。)(551頁上)

(ウ)甲7の記載事項
(甲7ア)「

」(110頁右上)

(エ)甲8の記載事項
なお、原文は英語であり、翻訳で示す。
(甲8ア)「

」(図1.ニシンオメガ-3PUFA濃縮物(エチルエステル)のGLCのC20領域:-(a)220℃での熱前処理と(b)熱処理後、および(c)AgNO_(3)カラムクロマトグラフィーにより分離した人工物の濃縮物(EPAA)の20:5領域。ピークA?Eは、熱処理後に形成された人工物を示す。SUPELCOWAX-10溶融シリカキャピラリーカラムによる分析は、195℃で等温的に操作した。)(1823頁右欄上)

(甲8イ)「

」(図5.(a)遊離酸を220℃で5時間加熱した後のEPAメチルエステル、(b)AgNO_(3)-TLCにより分離したEPAの人工物のメチルエステル(EPAI):のGLCプロファイル。SUPELCOWAX-10キャピラリーカラムによる分析は、195℃で等温的に操作した。A,B,C及びDは、図1のbとcで示された人工物のエチルエステルに対応する。ピークDとEの共溶出と新しいピークXの出現は注目。ピークXは環境汚染物質、おそらくフタル酸エステルである。)(1827頁左欄上および右欄中)

(オ)甲9の記載事項
なお、原文は英語であり、翻訳で示す。
(甲9ア)「オメガ-3-酸エチルエステル 90」(4583頁左欄の表題)

(甲9イ)「アッセイ
・・・・・・・
全オメガ-3-酸エチルエステル(2.4.29)。図1250.-2.参照」(4584頁右欄下から7行?下から4行)

(甲9ウ)「

」(図1250.2 オメガ-3酸エチルエステル90のアッセイ及び未同定の脂肪酸エチルエステルの試験に関するクロマトグラム)(4585頁上)

(カ)甲10の記載事項
なお、原文は英語であり、翻訳で示す。
(甲10ア)「2.4.29 オメガ-3-酸が豊富な油の脂肪酸の組成」(6293頁左欄の表題)

(甲10イ)「カラム
-材料:融合シリカ
-寸法:l=少なくとも25m、直径=0.25mm
-固定相:マクロゴール20000R(膜圧0.2μm)」(6293頁右欄39行?42行)

(キ)甲11の記載事項
なお、原文は英語であり、翻訳で示す。
(甲11ア)「相の名称 詳細 ・・・ キャピラリー
代替物
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

G16 ポリエチレングリコール(平均分子量約15000) HP-Innowax
ポリエチレングリコールとジエポキシドの高分子量 DB-WaxExtr
化合物又は欧州薬局方のマクロゴール20000 DB-WAX
」(1頁の表)

なお、甲9?10は、甲9が2017年(平成29年)1月に、甲10が2018年(平成30年)10月に、それぞれ公開されたものであり、本件特許は、第1の「手続の経緯」で記載したとおり適法な分割出願として特許登録されたものであるから、甲9?10は、本件特許の出願後に公開されたものであり、証拠として採用できない。
また、甲11は、公開日が不明のものであるから、証拠として採用できない。

イ 甲2発明
上記1(2)イに記載したとおりである。

ウ 本件発明7
本件発明7は、請求項1および3?6を引用し、これらの組成物であって、「前記組成物が1重量%までの量の異性体不純物を含む、組成物」と特定している。

エ 本件発明7と甲2発明とを対比する。
(ア)本件発明7の本件発明1を引用している部分については、上記1(2)ウ(ア)で検討した事項を前提に、本件発明7と甲2発明とを対比すると、以下の一致点及び相違点を有する。

一致点:「多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物であって、
前記PUFA生成物はEPAであり、前記PUFA生成物が97.80重量%で存在し、前記組成物は0.36重量%のω-6多価不飽和脂肪酸を含み、かつ、0.87重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸を含む、組成物」である点

相違点2-7-1:甲2発明は、さらに「18:4(ステアリドン酸)が0.50質量%」、「21:5(ヘンエイコサペンタエン酸)が0.22質量%」、「DHAが0.00質量%」、を含むことを特定しているのに対して、本件発明7には、これらの成分を明記していない点

相違点2-7-2:本件発明7は、「前記組成物は0.25重量%までのアラキドン酸を含む」ことを特定しているのに対して、甲2発明は、「AA(アラキドン酸)が0.36質量%」含むと特定している点

相違点2-7-3:本件発明7は、「前記組成物が1重量%までの量の異性体不純物を含む」ことを特定しているのに対して、甲2発明は、「熱異性化物が0.00質量%」を含むことを特定している点
(決定注:下線部は、本件発明1を引用している部分における一致点及び相違点。)

(イ)事案に鑑み、相違点2-7-2について検討する。
甲2には、上記1(2)アの(甲2ア)?(甲2ウ)で摘示したことが記載されている。
しかしながら、甲2には、上記(甲2ウ)に記載されているようにアラキドン酸0.36質量%がAA/EPA比0.0047と記載されているように、アラキドン酸の含有割合はEPAとの含有割合の関係において所定の範囲にあることが示されているに過ぎず、本件発明7のようにアラキドン酸の含有割合の上限を0.25重量%と特定することは、記載も示唆もされていないから、相違点2-7-2は、甲2に記載された発明から当業者が容易に発明できたものとは認められない。

(ウ)相違点2-7-3について検討する。
甲6?8には、上記ア(イ)?(エ)で摘示したことが記載されている。
そうすると、甲6には、エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)のメチルエステルのトランス異性体を分離する際、飽和及び一価不飽和脂肪酸がそれほど多く含まれていない場合、ポリエチレングリコール(PEG)固定相はシアノプロピルカラムより有効であり(上記(甲6ア))、図1にEPAの熱異性化物が、BP-20カラムを用いた場合、EPAのピークの後に多く現れること(上記(甲6カ))が記載されている。
甲7には、ポリエチレングリコール(PEG)カラムには、DB-WAXがあり、BP-20やSUPELCOWAX-10がその相当品であること(上記(甲7ア))が記載されている。
甲8は、SUPELCOWAX-10カラムを用いた分析で、オメガ3PUFA濃縮物を220℃で熱処理するとEPAのピークの後にいくつかのピークが現れること(上記(甲8ア)及び(甲8イ))が記載されている。
甲2の上記(甲2イ)には、ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸誘導体の測定条件として用いるカラムとしてDB-WAXが記載されており、その結果、熱異性化物の含有量はエイコサペンタエン酸とヘンエイコサペンタエン酸(C21:F;5)のピークの間にある、天然には認められないピークを熱異性化物と定義している。
確かに、甲2の熱異性化物の分析に使用しているDB-WAXは、甲7の記載から、甲6及び甲8でEPAの熱異性化物の分離に使用しているカラム(甲6がBP-20、甲8がSUPELCOWAX-10)と相当品であることが理解できるが、甲6は、EPAのメチルエステルを220℃で加熱処理した後の熱異性化物の分離の最適化条件を示しているにとどまり、甲8はEPAのピークの後にEPAの熱異性化物が現れることを示しているにとどまる。
そして、そもそも甲2は、上記(甲2ア)及び(甲2ウ)に記載されているように、天然には存在しない熱異性化物を実質的に含有しないようにするために、移動相として超臨界二酸化炭素、固定相としてシリカゲルを用いた超臨界クロマトグラフィーによって原料を分離精製して高度不飽和脂肪酸誘導体を含む組成物を得ている。また、甲2の実施例4における脂肪酸組成物は、熱異性化物が0.00質量%であり、熱異性化物を含んでおらず、また、本件発明7で特定される異性体不純物が、甲2の熱異性化物に限定されるものでもないことから、甲2には、前記組成物の熱異性化物を含む異性体不純物が1重量%までの量含むことを特定する動機付けがないといわざるを得ない。

したがって、相違点2-7-3は、甲2及び甲6?甲8に記載された発明から当業者が容易に発明できたものとは認められない。

上記のとおり、本件発明7は、相違点2-7-1について検討するまでもなく、甲2に記載された発明、ならびに甲6?8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

(オ)本件発明7の本件発明3?6を引用している部分については、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用している。本件発明1を引用している本件発明7が甲2に記載された発明、ならびに甲6?8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではないことは、上記(ア)?(エ)で検討したとおりであるから、本件発明7の本件発明3?6を引用している部分については、本件発明7の本件発明1を引用している部分と、同様に、甲2に記載された発明、ならびに甲6?8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

(カ)小括
上記のとおり、本件発明7は、甲2に記載された発明、ならびに甲6?8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

オ 本件発明8?10
本件発明8は、請求項7を、本件発明9は、請求項8を、本件発明10は、請求項9を、それぞれ引用し、異性体不純物の含有量を、それぞれ「0.5重量%までの量」、「0.25重量%までの量」、「0.1重量%までの量」と段階的に特定している。
しかしながら、これらの特定は、いずれも本件発明7における異性体不純物の含有量に含まれる範囲の特定であり、何ら新たな技術的事項を特定するものでもない。
したがって、本件発明8?10は、本件発明7と同様に、甲2に記載された発明、ならびに甲6?8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

カ まとめ
上記のとおり、本件発明7?10は、甲2を主引例として、甲6?8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明7?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第1項第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

(3)特許異議申立人が令和2年6月8日に提出した意見書について
特許異議申立人は、進歩性について、上記意見書において本件発明1、3?10は、甲1及び甲2に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであると新たに主張する。
しかしながら、甲1及び甲2がいずれもEPAを含む脂肪酸組成物であったとしても、甲1及び甲2には、甲1と甲2を組み合わせること、本件発明1、3?10に記載された成分及びその含有割合を選択的に採用できることは、何ら記載も示唆もされておらず、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)異議理由3-1(特許法第36条第4項第1号)
ア 特許法第36条第4項第1号の判断の前提
特許法第36条第4項第1号は、明細書のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、当該実施可能要件における「実施」には、物の発明の場合、特許法第2条第3項第1号に規定する「その物の生産、使用等をする行為」が含まれ、発明の詳細な説明の記載が、物の発明について実施可能要件を満たすためには、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)がその物の生産、使用をすることができる程度のものである必要がある。
以下この観点に立って、判断をする。

イ 発明の詳細な説明の記載
(ア)発明の詳細な説明の段落【0159】?【0208】には、本発明のPUFA生成物を含む組成物について、PUFA生成物がEPAであること、他のω-3多価不飽和脂肪酸として、ω-3エイコサテトラエン酸、DHA、α?リノレン酸、ステアリドン酸、ω-3ドコサペンタエン酸を所定の含有割合で含むこと、ω-6多価不飽和脂肪酸及びアラキドン酸を所定の含有割合で含むこと、特に、段落【0159】には、本発明の方法によって、本発明のPUFA生成物を含む組成物が得られることが記載されている。

(イ)本発明の方法について、段落【0032】?【0044】には本発明に用いる供給混合物が、段落【0045】?【0078】には本発明の方法に用いる装置として、疑似または実移動床クロマトグラフィー装置を用いること、これらの装置で使用するカラムの数、カラムの寸法、カラムへの移動相の流速等及び本発明の方法において実移動床クロマトグラフィーが好適であることが、それぞれ記載されている。
さらに、段落【0079】?【0091】には、当該装置に用いる吸着剤(固定相)、溶離剤(移動相)、本発明の方法を実施する温度が、加えて、段落【0092】?【0095】には、供給混合物からEPAを生成するのが好適な実施態様であること、段落【0096】?【0109】には、その実施態様として図2、図4、図6の例が、それぞれ記載されている。
また、段落【0124】?【0158】には、疑似または実移動床クロマトグラフィー装置の好適な実施形態として、図8(15個のカラムを使用し、移動相に水とアルコールを使用)、図9(15個のカラムを使用し、移動相に水性アルコールを使用)、図10(19個のカラムを使用し、移動相に水/アルコール混合物を使用)が記載されている。

(ウ)これらの具体的な実施態様である、実施例1(段落【0236】?【0245】)には、図8に示される15個のカラムを縦列に接続し、魚油由来原料を用い、実施例1a?1hの各条件で動作させ、図11及び図12のように分離されること、実施例2(段落【0246】?【0249】)には、図10に示される19個のカラムを縦列に接続し、魚油由来原料を、提示の条件で動作させ、EPAが90重量%、95重量%、98重量%をそれぞれ超える純度で生成されたこと、実施例8(段落【0267】?【0268】)には、本発明の方法の2つのEPAリッチの生成物と蒸留により製造されたEPAリッチの油と比較したことが、本発明の方法の2つのEPAリッチの生成物として「本発明によるPUFA生成物[1]」及び「本発明によるPUFA生成物[2]」が記載されている。

ウ 判断
発明の詳細な説明には、上記イ(ア)より、本件特許発明のPUFA生成物を含む組成物は、本発明の方法によって得られることが記載されている。
そして、本発明の方法としては、上記イ(イ)より、疑似または実移動床クロマトグラフィー装置を用いることが記載されるとともに、その装置で用いるカラムの数、カラムの寸法、カラムへの移動相の流速、吸着剤(固定相)、溶離剤(移動相)、実施する温度等の実施条件と、これらの実施態様として、カラムの配置や移動相の導入位置などを示した図2、図4、図6、図8?図10がそれぞれ記載されている。
さらに、その具体的実施態様としては、上記イ(ウ)より、実施例1にPUFA生成物を含む組成物を得るための実施条件として実施例1a?1h及び実施例2が、また、実施例8に本発明の方法の2つのEPAリッチの生成物として「本発明によるPUFA生成物[1]」及び「本発明によるPUFA生成物[2]」が記載されている。
以上の記載によれは、本件特許発明のPUFA生成物を含む組成物について、発明の詳細な説明には、その組成物を得るための原料やその組成物を得るための方法(疑似または実移動床クロマトグラフィー装置の仕様や実施条件)が記載されており、実施例1及び2において具体的な実施条件や、本発明の方法により得られた組成物が実施例8であることが記載されているから、本件特許の発明の詳細な説明に接した当業者は、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、本件特許発明のPUFA生成物を含む組成物を生産することができる程度に記載されていると認められる。

特許異議申立人は、甲12(本件特許の拒絶査定不服審判時における拒絶理由に対するもの)において、実施例8の「本発明によるPUFA生成物[1]」及び「本発明によるPUFA生成物[2]」は、分析規模の実験で得られた製造物のサンプルであり、その製造条件として本願明細書に記載の具体的な例示的製造条件の中で完全に一致するものない旨の記載を捉えて、実施可能要件を満たさないと主張している。
しかしながら、甲12の上記記載は、単に当該技術分野において通常、実験等で観察される事項を記載したに過ぎず、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすことは、上記したとおりであるから、この記載のみをもって、実施可能要件を満たさないとは認められず、特許異議申立人の主張は採用できない。

したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1、3?10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、同法第113条第1項第4号に該当せず、取り消されるべきものではない。

(5)異議理由3-2(特許法第36条第4項第1号)
ア 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、上記(4)イ(ア)?(ウ)の記載に加え、異性体不純物について、以下(エ)以降のことが記載されている。

(エ)段落【0019】には、本発明の方法によって製造されるPUFA生成物は、高収率で製造され、高い純度を有、さらに、PUFAの蒸留により生じる特有の不純物の含有率が非常に低いこと、「異性体不純物」という用語は、典型的にはPUFA含有天然油の蒸留を通じて生成される不純物を表すように使用される。これらは、PUFA異性体、過酸化生成物およびオリゴマー化生成物を含むことが記載されている。

(オ)段落【0227】?【0233】には、PUFA生成物を含む組成物に含まれるPUFA異性体、過酸化生成物およびオリゴマー化生成物の含有量についての記載がある。

(カ)また、具体的実施態様として、実施例7(段落【0264】?【0266】)には、本発明により調製された油に存在する異性体不純物の量について、蒸留によって調製された等量の油と比較し、その結果が図14(本発明)及び図15(蒸留)に記載されている(いずれも対象油は、DHAリッチの油)。

イ 判断
発明の詳細な説明には、上記ア(エ)及び(オ)より、「異性体不純物」について、PUFA異性体、過酸化生成物およびオリゴマー化生成物を含むこと、及び上記ア(カ)より、その含有量について記載され、実施例7には、PUFA生成物がDHAである場合についての異性体不純物についての実施例が記載されている。
確かに、PUFA生成物がEPAである本件特許発明についての異性体不純物を測定した実施例は記載されていない。
しかしながら、EPAとDHAは、いずれもω-3系の不飽和脂肪酸としてよく知られたものであり、例えば、上記甲6の(甲6ア)?(甲6キ)に記載されているように同じカラムを使用した場合、EPAとDHAは、同じように異性体不純物が分離されることが知られていることから、当業者は、DHAについて異性体不純物の記載があれば、EPAについても同様であると理解するといえる。
そうであれば、本件特許発明であるPUFA生成物がEPAの場合について、実施例がないことのみをもって、実施可能要件を満たしていないとまではいえない。
そして、その他の点について、本件特許明細書の発明の詳細な説明が実施可能要件を満たすことは、上記(4)のとおりである。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明7?10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、同法第113条第1項第4号に該当せず、取り消されるべきものではない。

(6)異議理由4(特許法第36条第6項第1号)
ア 特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下この観点に立って、判断をする。

イ 本件特許発明の課題
本件特許発明の課題は、【0002】?【0015】の【背景技術】の記載及び【0016】の【発明が解決しようとする課題】の記載及び明細書全体の記載からみて、本件特許発明の課題は、本件発明1、3?10に記載された多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物を提供することにあるといえる。

ウ 特許請求の範囲の記載
上記第3で記載したとおりである。

エ 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、上記(4)イ(ア)?(ウ)及び(5)ア(エ)?(カ)で指摘した事項が記載されている。

オ 判断
発明の詳細な説明には、上記(4)イ(ア)より、本件特許発明のPUFA生成物を含む組成物は、本発明の方法によって得られることが記載されている。
そして、本発明の方法としては、上記(4)イ(イ)より、疑似または実移動床クロマトグラフィー装置を用いることが記載されるとともに、その装置で用いるカラムの数、カラムの寸法、カラムへの移動相の流速、吸着剤(固定相)、溶離剤(移動相)、実施する温度等の実施条件と、これらの実施態様として、カラムの配置や移動相の導入位置などを示した図2、図4、図6、図8?図10がそれぞれ記載されている。
さらに、その具体的実施態様としては、上記(4)イ(ウ)より、実施例1にPUFA生成物を含む組成物を得るための実施条件として実施例1a?1h及び実施例2が、また、実施例8に本発明の方法の2つのEPAリッチの生成物として「本発明によるPUFA生成物[1]」及び「本発明によるPUFA生成物[2]」が記載されている。
また、異性体不純物を含むことについては、上記(5)ア(エ)?(カ)より、「異性体不純物」について、PUFA異性体、過酸化生成物およびオリゴマー化生成物を含むこと及びその含有量について記載され、実施例7には、PUFA生成物がDHAである場合についての異性体不純物についての実施例が記載されている。
以上の記載によれば、発明の詳細な説明には、本件特許発明のPUFA生成物を含む組成物を得るための原料やその組成物を得るための方法(疑似または実移動床クロマトグラフィー装置の仕様や実施条件)が記載されており、実施例1及び2において具体的な実施条件や、当該方法により得られた組成物が実施例8であることも記載されている。
そして、異性体不純物についても、PUFA生成物がDHAである場合について記載されている。
そうすると、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件特許発明のPUFA生成物を含む組成物を得ることができると理解することは技術的にみて合理的であると認められる。
したがって、特許請求の範囲の記載は、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしおり、同法第113条第1項第4号に該当せず、取り消されるべきものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件発明1、3?10に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件発明1、3?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件発明2に係る特許は、訂正により削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を含む組成物であって、
前記PUFA生成物はEPAであり、前記PUFA生成物が96重量%を超える量で存在し、前記組成物は0.40重量%までの量のω-6多価不飽和脂肪酸を含み、前記組成物は0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸を含み、かつ、前記組成物は0.25重量%までの量のアラキドン酸を含む、組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の組成物であって、ω-3エイコサテトラエン酸の総含有量が0.1重量%以上である、組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物であって、前記組成物が、
(a)96.5重量%を超えるEPA、1重量%までの量のDHA、1重量%までの量のα-リノレン酸、1重量%までの量のステアリドン酸、0.05?1重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸、1重量%までの量のω-3ドコサペンタエン酸、および0.25重量%までの量のアラキドン酸を含むか、または
(b)96.5重量%を超えるEPA、0.2重量%までの量のDHA、0.3重量%までの量のα-リノレン酸、0.4重量%までの量のステアリドン酸、0.05?0.5重量%の量のω-3エイコサテトラエン酸、0.35重量%までの量のω-3ドコサペンタエン酸、および0.25重量%までの量のアラキドン酸を含む、組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物であって、前記組成物が、
96.5から99重量%のEPA、0.2重量%までの量のDHA、0.3重量%までの量のα-リノレン酸、0.15から0.4重量%のステアリドン酸、0.1から0.5重量%のω-3エイコサテトラエン酸、0.35重量%までの量のω-3ドコサペンタエン酸、および0.25重量%までの量のアラキドン酸を含む、組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物であって、前記組成物が、
(a)98から99重量%のEPA、0.1から0.3重量%のDHA、0.3から0.35重量%のステアリドン酸、0.1から0.3重量%のω-3エイコサテトラエン酸、および0.3から0.35重量%のω-3ドコサペンタエン酸を含むか、または
(b)96.5から99重量%のEPA、0.1から0.5重量%のDHA、0.1から0.5重量%のステアリドン酸、0.1から0.5重量%のω-3エイコサテトラエン酸、0.1から0.5重量%のω-3ドコサペンタエン酸、および0.1から0.3重量%のアラキドン酸を含むか、または
(c)98から99重量%のEPA、0.1から0.2重量%のDHA、0.3から0.35重量%のステアリドン酸、0.1から0.2重量%のω-3エイコサテトラエン酸、および0.3から0.35重量%のω-3ドコサペンタエン酸を含むか、または
(d)96.5から97.5重量%のEPA、0.25から0.35重量%のα-リノレン酸、0.18から0.24重量%のステアリドン酸、0.4から0.46重量%のω-3エイコサテトラエン酸、および0.15から0.25重量%のアラキドン酸を含む、組成物。
【請求項7】
請求項1および3?6のいずれか1項に記載の組成物であって、前記組成物が1重量%までの量の異性体不純物を含む、組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の組成物であって、前記組成物が、0.5重量%までの量の異性体不純物を含む、組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物であって、前記組成物が、0.25重量%までの量の異性体不純物を含む、組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物であって、前記組成物が、0.1重量%までの量の異性体不純物を含む、組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-28 
出願番号 特願2015-10829(P2015-10829)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C07C)
P 1 651・ 113- YAA (C07C)
P 1 651・ 121- YAA (C07C)
P 1 651・ 537- YAA (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村守 宏文  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 佐々木 秀次
冨永 保
登録日 2019-02-08 
登録番号 特許第6474621号(P6474621)
権利者 ビーエイエスエフ ファーマ(コーラニッシュ)リミテッド
発明の名称 擬似移動床式クロマトグラフ分離方法  
代理人 小林 浩  
代理人 阿久津 勝久  
代理人 新井 剛  
代理人 小林 浩  
代理人 新井 剛  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 大森 規雄  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 阿久津 勝久  
代理人 大森 規雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ