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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D06M
審判 全部申し立て 2項進歩性  D06M
管理番号 1368977
異議申立番号 異議2019-700697  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-04 
確定日 2020-10-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6480052号発明「合成繊維用処理剤の希釈液及び合成繊維の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6480052号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6480052号の請求項1?7、9、10、12に係る特許を維持する。 特許第6480052号の請求項8、11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6480052号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成30年3月13日の出願であって、平成31年2月15日に特許権の設定登録がされ、平成31年3月6日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和元年9月4日:特許異議申立人恒川朱美(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和元年11月1日付け:取消理由通知
令和元年12月27日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年2月7日:申立人による意見書の提出
令和2年3月4日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和2年5月7日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年7月21日付け:訂正拒絶理由
令和2年8月24日:特許権者による意見書及び手続補正書の提出

令和元年12月27日の訂正請求書は、令和2年5月7日に訂正請求書が提出されたことによって、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、令和2年5月7日に訂正請求書が提出されたことにより、特許法第120条の5第5項の規定により、申立人に相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、意見書は提出されなかった。

第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和2年8月24日提出の手続補正書で補正された令和2年5月7日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6480052号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。

(訂正事項1)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤を含有する合成繊維用処理剤、並びに揮発性希釈剤を含有する合成繊維用処理剤の希釈液であって、
前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合であり、
前記希釈液の30℃での動粘度が、0mm^(2)/sを超え且つ80mm^(2)/s未満であり、
前記希釈液は、紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸方法に適用される合成繊維用処理剤の希釈液。」とあるのを、
「平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤を含有する合成繊維用処理剤、並びに揮発性希釈剤を含有する合成繊維用処理剤の希釈液であって、
前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合であり、
前記希釈液の30℃での動粘度が、0mm^(2)/sを超え且つ70mm^(2)/s以下(但し70mm^(2)/sの場合を除く)であり、
前記合成繊維用処理剤中における平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を30?80質量%、前記ノニオン界面活性剤を5?70質量%、及び前記制電剤を1?20質量%の割合で含有して成るものであり、前記揮発性希釈剤が、水を含むものであり、
前記希釈液は、紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸方法に適用され、ポリオレフィン以外の合成繊維に適用される合成繊維用処理剤の希釈液。」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2?7、9、10及び12についても同様に訂正する。)
(訂正事項2)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「前記希釈液の30℃での動粘度が、10?70mm^(2)/sである」とあるのを、
「前記希釈液の30℃での動粘度が、10?70mm^(2)/s(但し70mm^(2)/sの場合を除く)である」に訂正する。(請求項3を引用する請求項4?7、9、10及び12についても同様に訂正する。)
(訂正事項3)
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(訂正事項4)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9に
「請求項1?8のいずれか一項」とあるのを、
「請求項1?7のいずれか一項」に訂正する。
(訂正事項5)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10に
「請求項1?9のいずれか一項」とあるのを、
「請求項1?7,9のいずれか一項」に訂正する。
(訂正事項6)
特許請求の範囲の請求項11を削除する。
(訂正事項7)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項12に
「請求項1?11のいずれか一項」とあるのを、
「請求項1?7,9,10のいずれか一項」に訂正する。
(訂正事項8)
本件訂正前の願書に添付した明細書の【0010】に
「すなわち本発明の一態様は、平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤を含有する合成繊維用処理剤、並びに揮発性希釈剤を含有する合成繊維用処理剤の希釈液であって、前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合であり、前記希釈液の30℃での動粘度が、0mm^(2)/sを超え且つ80mm^(2)/s未満であり、前記希釈液は、紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸方法に適用されることを特徴とする。」とあるのを、
「すなわち本発明の一態様は、平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤を含有する合成繊維用処理剤、並びに揮発性希釈剤を含有する合成繊維用処理剤の希釈液であって、前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合であり、前記希釈液の30℃での動粘度が、0mm^(2)/sを超え且つ70mm^(2)/s以下(但し70mm^(2)/sの場合を除く)であり、前記合成繊維用処理剤中における平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を30?80質量%、前記ノニオン界面活性剤を5?70質量%、及び前記制電剤を1?20質量%の割合で含有して成るものであり、前記揮発性希釈剤が、水を含むものであり、前記希釈液は、紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸方法に適用され、ポリオレフィン以外の合成繊維に適用されることを特徴とする。」に訂正する。
(訂正事項9)
本件訂正前の願書に添付した明細書の【0011】に
「前記希釈液の30℃での動粘度が、10?70mm^(2)/sであることが好ましい。」とあるのを、
「前記希釈液の30℃での動粘度が、10?70mm^(2)/s(但し70mm^(2)/sの場合を除く)であることが好ましい。」に訂正する。
(訂正事項10)
本件訂正前の願書に添付した明細書の【0014】に
「前記揮発性希釈剤が、水を含むことが好ましい。
前記平滑剤が、分子中の全炭素数が24?32である脂肪酸エステルを含むことが好ましい。」とあるのを、
「前記平滑剤が、分子中の全炭素数が24?32である脂肪酸エステルを含むことが好ましい。」に訂正する。
(訂正事項11)
本件訂正前の願書に添付した明細書の【0015】に
「前記制電剤が、脂肪酸塩、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、両性化合物、及び第4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
前記合成繊維用処理剤中における平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を30?80質量%、前記ノニオン界面活性剤を5?70質量%、及び前記制電剤を1?20質量%の割合で含有して成ることが好ましい。」とあるのを、
「前記制電剤が、脂肪酸塩、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、両性化合物、及び第4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。」に訂正する。
(訂正事項12)
本件訂正前の願書に添付した明細書の【0040】に
「・実施例2?8及び比較例1?6
実施例1の合成繊維用処理剤の希釈液と同様にして、実施例2?8及び比較例1?6の合成繊維用処理剤の希釈液を調製した。」とあるのを、
「・実施例2?7、及び参考例8及び比較例1?6
実施例1の合成繊維用処理剤の希釈液と同様にして、実施例2?7、及び参考例8及び比較例1?6の合成繊維用処理剤の希釈液を調製した。」に訂正する。
(訂正事項13)
本件訂正前の願書に添付した明細書の【0043】の表2中に
「実施例8」とあるのを、
「参考例8」に訂正する。
(訂正事項14)
本件訂正前の願書に添付した明細書の【0045】に
「・実施例2?8及び比較例1?6
実施例1の合成繊維用処理剤の希釈液と同様にして、実施例2?8及び比較例1?6の合成繊維用処理剤の希釈液及び該希釈液の不揮発分の30℃での動粘度を測定し、結果を表2にまとめて示した。」とあるのを、
「・実施例2?7、及び参考例8及び比較例1?6
実施例1の合成繊維用処理剤の希釈液と同様にして、実施例2?7、及び参考例8及び比較例1?6の合成繊維用処理剤の希釈液及び該希釈液の不揮発分の30℃での動粘度を測定し、結果を表2にまとめて示した。」に訂正する。
(訂正事項15)
本件訂正前の願書に添付した明細書の【0053】に
「・実施例2?8及び比較例1?6
実施例2?8及び比較例1?6についても実施例1と同様にポリエステル繊維を製造して、合成繊維用処理剤の付着量、オイルドロップ、紡糸性、糸品質、及び染色性を評価し、結果を表2にまとめて示した。」とあるのを、
「・実施例2?7、及び参考例8及び比較例1?6
実施例2?7、及び参考例8及び比較例1?6についても実施例1と同様にポリエステル繊維を製造して、合成繊維用処理剤の付着量、オイルドロップ、紡糸性、糸品質、及び染色性を評価し、結果を表2にまとめて示した。」に訂正する。

ここで、訂正前の請求項1?12は、請求項2?12が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1?12〕について請求されている。また、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、請求項1について、本件訂正前の「希釈液の30℃での動粘度が、0mm^(2)/sを超え且つ80mm^(2)/s未満」の範囲から「0mm^(2)/sを超え且つ70mm^(2)/s以下(但し70mm^(2)/sの場合を除く)」範囲とすることでその範囲を狭め、さらに、本件訂正前の合成繊維用処理剤中の「平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤」の含有割合について、「合成繊維用処理剤中における平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を30?80質量%、前記ノニオン界面活性剤を5?70質量%、及び前記制電剤を1?20質量%の割合で含有して成るものであり、前記揮発性希釈剤が、水を含むものであ」るものに限定し、さらに合成繊維用処理剤について、「ポリオレフィン以外の合成繊維に適用される」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、本件訂正前の【請求項1】、【請求項8】、【請求項11】、及び本件特許明細書の【0011】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
上記訂正事項2は、本件訂正前の請求項3の「希釈液の30℃での動粘度が、10?70mm^(2)/s」の範囲から「但し70mm^(2)/sの場合を除く」ことでその範囲を狭めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、本件訂正前の【請求項1】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
上記訂正事項3は、請求項8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項3は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項3は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
上記訂正事項4は、本件訂正前の請求項9が、「請求項1?8」を引用するものであったところ、訂正事項3により請求項8が削除されたことに伴い、請求項8を引用するものを削除して記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項4は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項4は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
上記訂正事項5は、本件訂正前の請求項10が、「請求項1?9」を引用するものであったところ、訂正事項3により請求項8が削除されたことに伴い、請求項8を引用するものを削除して記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項5は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項5は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的
上記訂正事項6は、請求項11を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項6は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項6は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的
上記訂正事項7は、本件訂正前の請求項12が、「請求項1?11」を引用するものであったところ、訂正事項3により請求項8が削除され、訂正事項6により請求項11が削除されたことに伴い、請求項8及び11を引用するものを削除して記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項7は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項7は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的
上記訂正事項8は、訂正事項1に伴い本件特許明細書の【0010】の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項8は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項8は、本件訂正前の【請求項1】、【請求項8】、【請求項11】、及び本件特許明細書の【0011】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(9)訂正事項9について
ア 訂正の目的
上記訂正事項9は、訂正事項1に伴い本件特許明細書の【0011】の動粘度の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項9は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項9は、本件特許明細書の【0011】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(10)訂正事項10について
ア 訂正の目的
上記訂正事項10は、訂正事項8により本件特許明細書の【0010】に揮発性希釈剤が、水を含むことが記載されたことに伴い、【0014】の揮発性希釈剤に関する記載を削除して、記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項10は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項10は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(11)訂正事項11について
ア 訂正の目的
上記訂正事項11は、訂正事項8により本件特許明細書の【0010】に平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合について記載されたことに伴い、【0015】の平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合について記載を削除して、記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項11は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項11は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(12)訂正事項12について
ア 訂正の目的
上記訂正事項12は、訂正事項1に伴い、本件特許明細書の実施例8が請求項1に係る発明の範囲外となったことから、訂正前の【0040】の「実施例8」を「比較例8」と表記を変更して明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項12は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項12は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(13)訂正事項13?15について
ア 訂正の目的
上記訂正事項13?15は、訂正事項12に伴い、本件特許明細書の【0043】の【表2】、【0045】、【0053】の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項13?15は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項13?15は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(14)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?12に係る発明(以下「本件発明1?12」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤を含有する合成繊維用処理剤、並びに揮発性希釈剤を含有する合成繊維用処理剤の希釈液であって、
前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合であり、前記揮発性希釈剤が、水を含むものであり、
前記希釈液の30℃での動粘度が、0mm^(2)/sを超え且つ70mm^(2)/s以下(但し70mm^(2)/sの場合を除く)であり、
前記合成繊維用処理剤中における平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を30?80質量%、前記ノニオン界面活性剤を5?70質量%、及び前記制電剤を1?20質量%の割合で含有して成るものであり、前記揮発性希釈剤が、水を含むものであり
前記希釈液は、紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸方法に適用され、ポリオレフィン以外の合成繊維に適用される合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項2】
前記希釈液中の不揮発分における動粘度が、30℃で10?70mm^(2)/sとなるものである請求項1に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項3】
前記希釈液の30℃での動粘度が、10?70mm^(2)/s(但し70mm^(2)/sの場合を除く)である請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項4】
前記希釈液の30℃での動粘度が、20?65mm^(2)/sである請求項1?3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項5】
前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、
前記合成繊維用処理剤が65?98質量%、及び前記揮発性希釈剤が2?35質量%の割合で含有するものである請求項1?4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項6】
前記合成繊維用処理剤が70?95質量%、及び前記揮発性希釈剤が5?30質量%の割合で含有するものである請求項5に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項7】
前記合成繊維用処理剤が75?92質量%、及び前記揮発性希釈剤が8?25質量%の割合で含有するものである請求項5に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
前記平滑剤が、分子中の全炭素数が24?32である脂肪酸エステルを含むものである請求項1?7のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項10】
前記制電剤が、脂肪酸塩、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、両性化合物、及び第4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むものである請求項1?7,9のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
請求項1?7,9,10のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の希釈液を、合成繊維の糸に対し合成繊維用処理剤として0.1?20質量%の割合となるよう付着させる工程、
紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸工程とを含むことを特徴とする合成繊維の製造方法。」


第4 当審の判断
1 取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正前の本件特許に対して通知した令和2年3月4日付け取消理由通知(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。

(1)(進歩性)請求項1?10、12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第1?3号証記載の事項に基いて、又は甲第2号証に記載された発明及び甲第2、3号証記載の事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10、12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


<刊行物>
甲第1号証:特開2014-80712号公報
甲第2号証:特開2002-302869号公報
甲第3号証:特開2000-129530号公報

2 令和2年3月4日付け取消理由(決定の予告)についての判断
(1)甲第1号証を主引用発明とした場合の本件発明1の進歩性について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、以下の記載がある。
・「【0018】
また本発明は、かかる合成繊維用処理剤40?90質量%及び水10?60質量%(合計100質量%)の割合から成る合成繊維用処理剤水性液であって、特定の安定性評価方法で評価したときに水性液が安定であり、且つ特定の粘度測定方法で測定した水性液の動粘度が50?300mm^(2)/sである合成繊維用処理剤水性液に係る。更に本発明は、かかる水性液を合成繊維に対し合成繊維用処理剤として0.1?5質量%となるよう付着させる合成繊維の処理方法に係る。更にまた本発明は、かかる処理方法により得られる合成繊維に係る。
【0019】
先ず本発明に係る合成繊維用処理剤(以下、本発明の処理剤という)について説明する。本発明の処理剤は、前記のA成分を20?70質量%、前記のB成分を5?45質量%、前記のC成分を1?20質量%、前記のD成分を5?35質量%及び前記のE成分を1?20質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものである。
【0020】
A成分中の全炭素数が10?100のエステル油としては、ブチルステアレート、オクチルステアレート、オレイルラウレート、オレイルオレート等の脂肪族1価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とをエステル化したもの、トリメチロールプロパンモノオレートモノラウレート、1,6-ヘキサンジオールジデカノエート等の脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とをエステル化したもの、ジイソステアリルテトラデカネート、ジラウリルアジペート、ジオレイルアゼテート等の脂肪族1価アルコールと脂肪族多価カルボン酸とをエステル化したもの等が挙げられるが、なかでもオクチルステアレート、オレイルラウレート、オレイルオレート、ジイソステアリルテトラデカネート等の炭素数6?22の脂肪族モノアルコールと炭素数6?22の脂肪族モノカルボン酸とをエステル化したものが好ましい。
【0021】
A成分中の30℃の動粘度が1?500mm^(2)/s鉱物油としては、流動パラフィンオイル等が挙げられるが、なかでも30℃の動粘度が1?200mm^(2)/sの流動パラフィンオイルが好ましい。」
・「【0043】
次に本発明に係る合成繊維の処理方法(以下、本発明の処理方法という)について説明する。本発明の処理方法は、以上説明した本発明の水性液を合成繊維に対し本発明の処理剤として0.1?5質量%、好ましくは0.5?2質量%となるよう付着させる方法である。本発明の水性液を付着させる工程としては、紡糸工程、延伸工程、紡糸と延伸とを同時に行うような工程等が挙げられる。また本発明の水性液を付着させる方法としては、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等が挙げられる。更に合成繊維としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、アクリル繊維等が挙げられるが、なかでもポリエステル系繊維である場合に効果の発現が高く好ましい。」
・「【0046】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例等において、部は質量部を示し、また%は質量%を示す。
【0047】
試験区分1(合成繊維用処理剤の調製)
・実施例1
A成分として下記の表1に記載のA-1を22%、A-2を22%、B成分として下記の表2に記載のB-1を6%、B-3を3%、B-8を3%、B-9を2%、B-11を3%、B-12を6%、C成分として下記の表3に記載のC-1を2%、C-2を5%、D成分として下記の表4に記載のD1-1を5%、表5に記載のD2-1を8%、E成分として下記の表6に記載のE-1を3%、E-2を5%、E-3を5%(合計100質量%)の割合で均一混合し、合成繊維処理剤(P-1)を調製した。
【0048】
・実施例2?16及び比較例1?7
実施例1と同様にして、実施例2?16の合成繊維用処理剤(P-2)?(P-16)及び比較例1?7の合成繊維用処理剤(R-1)?(R-7)を調製した。以上の各例の合成繊維用処理剤の調製に用いた成分の内容を表1?表6に、また以上の各例で調製した合成繊維用処理剤の内容を表7?9にまとめて示した。
【0049】
【表1】


【0050】
【表2】


【0051】
【表3】


【0052】
【表4】

【0053】
【表5】


【0054】
【表6】

【0055】
【表7】

【0056】
【表8】

【0057】
【表9】


【0058】
試験区分2(合成繊維用処理剤水性液の調製、該水性液の安定性評価及び動粘度測定)
・実施例17
試験区分1で調製した合成繊維処理剤(P-1)の所要量とイオン交換水の所要量を均一混合して、濃度40%、50%、60%、70%及び90%の合成繊維用処理剤水性液を調製した。調製した各合成繊維用処理剤水性液からそれぞれ100mlをとり、200mlビーカーに入れ、ビーカー上部を開放したまま、40℃にて2週間静置し、分離がないものを○、分離があるものを×として安定性を評価した。結果を表10にまとめて示した。また調製した各合成繊維用処理剤水性液からそれぞれ100mlをとり、各水性液についてキャノンフェンスケ法により30℃の動粘度(単位:mm^(2)/s)を測定し、測定結果を表10にまとめて示した。
【0059】
・実施例18?32及び比較例8?14
実施例17と同様にして、実施例18?32の合成繊維用処理剤水性液及び比較例8?14の合成繊維用処理剤水性液を調製し、安定性の評価及び動粘度の測定を行ない、結果を表10にまとめて示した。
【0060】
【表10】

【0061】
表10において、
*1:合成繊維用処理剤水性液がゲル化したため測定できなかった。
*2:合成繊維用処理剤水性液がエマルション化せず、不均一状態であるか又は分離したため測定できなかった。
【0062】
・試験区分3(合成繊維用処理剤水性液を給油した合成繊維の製造と評価)
・実施例33
試験区分1で調製した合成繊維処理剤(P-1)55部とイオン交換水45部を均一混合して、濃度55%の合成繊維用処理剤水性液を調製した。固有粘度0.64、酸化チタン含有量0.2%のポリエチレンテレフタレートのチップを常法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて295℃で紡糸し、口金から吐出して冷却固化した後、走行糸条に前記の合成繊維用処理剤水性液を計量ポンプを用いたガイド給油法にて、走行糸条に対し合成繊維用処理剤として1.0%となるよう付着させた後、ガイドで集束させて、90℃に加熱した引取りローラーにより1400m/分の速度で引き取り、ついで引き取りローラーと4800m/分の速度で回転する延伸ローラーとの間で3.2倍に延伸し、83.3デシテックス(75デニール)36フィラメントのポリエステル繊維を製造した。かくしてポリエステル繊維を製造したときの付着量、紡糸性、糸品質及び染色性を以下の方法で測定乃至評価し、結果を表11にまとめて示した。
【0063】
・付着量の測定
製造したポリエステル繊維を2g精秤し、n-ヘキサン/エタノール=7/3(容量比)の混合溶液10mlで抽出処理し、抽出液を精秤したアルミトレイ上にて100℃で5分間乾燥した後、質量を測定し、下記の数1にて油剤付着量を求めた。
【0064】
【数1】

【0065】
数1において、
A:アルミトレイの重さ
B:抽出された油剤を含むアルミトレイの重さ
S:抽出に用いた繊維の重さ
【0066】
・紡糸性の評価
ポリエステル繊維の製造時の糸1トン当たりの糸切れ回数を10回測定し、その平均値を次の基準で評価した。
◎:糸切れ回数が0.5回未満
○:糸切れ回数が0.5回?1.0回未満
△:糸切れ回数が1.0回?2.0回未満
×:糸切れ回数が2.0回以上
【0067】
・糸品質の評価
製造したポリエステル繊維のウースター斑U%を、ウースター(USTER)社製のウースターテスター(USTERTESTER)UT-5を使用して、糸速度200m/分で評価した。同様の評価を5回行ない、各回の結果から、次の基準で評価した。
◎:5回全てにおいてウースター斑U%が1.0以下である
○:5回のうちで1回、ウースター斑U%が1.0以上である
△:5回のうちで2回、ウースター斑U%が1.0以上である
×:5回のうちで3回以上、ウースター斑U%が1.0以上である
【0068】
・染色性の評価
製造したポリエステル繊維から、筒編み機で直径70mm、長さ1.2mmの編地を作製した。この編地を分散染料(日本化薬社製の商品名カヤロンポリエステルブルーEBL-E)を用いて高圧染色法により染色した。染色した編地を常法に従い水洗し、還元洗浄し、乾燥した後、直径70mm、長さ1.0mmの鉄製の筒に装着して、編地表面の濃染部分を肉眼で観察し、その点数を数えて評価した。同様の評価を5回行ない、各回で数えた濃染部分の点数の平均値を次の基準で評価した。
◎:濃染部分がない
○:濃染部分が1?2点ある
△:濃染部分が3?6点ある
×:濃染部分が7点以上ある
【0069】
・実施例34?51及び比較例15?22
実施例33と同様にして、実施例34?51及び比較例15?22の各種濃度の合成繊維用処理剤水性液を調製し、ポリエステル繊維を製造して、紡糸性、糸品質及び染色性を評価し、結果を表11にまとめて示した。
【0070】
【表11】

【0071】
表11において、
付着量:ポリエステル繊維に対する合成繊維用処理剤としての付着量
*3:合成繊維用処理剤水性液の粘性が高すぎて給油できなかった。
【0072】
表11の結果からも明らかなように、本発明によれば、合成繊維の製造乃至加工において、合成繊維用処理剤を高濃度の水系にて給油することができ、しかも良好な製糸性で操業することができると同時に、優れた糸品質及び染色性を有する合成繊維を得ることができる。」

そして、甲第1号証の実施例18(【0047】?【0072】)には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「A成分としてA-1(鉱物油)を13%、A-2(ラウリルオレアート)を37%、B成分としてB-1(ポリオキシエチレン(20モル)硬化ひまし油エーテルジオレアート)を6%、B-3(ポリオキシエチレン(25モル)硬化ひまし油エーテルトリラウラート)を3%、B-8(ビス((ポリオキシエチレン(3モル)C12,13エーテル)アジパート)を3%、B-9(ポリオキシエチレン(7モル)オクチルアルコールエーテルラウラート)を2%、B-11(ポリオキシエチレングリコール(3モル)モノオレアート)を3%、B-13(ポリオキシエチレングリコール(4モル)ジラウラート)を6%、C成分としてC-1を2%、C-2を5%、D成分としてD1-1を2%、D2-1を3%、E成分としてE-1(オクチル酸カリウム塩)を5%、E-2(ペンタデカンスルホネートナトリウム塩)を5%、E-3(ポリオキシエチレン(4モル)ラウリルアルミノエーテル)を5%(合計100質量%)の割合で均一混合して、合成繊維処理剤(P-2)を調製し、
合成繊維処理剤(P-2)の所要量とイオン交換水の所要量を均一混合することで濃度90%とした、30℃の動粘度70mm^(2)/sであり、
ポリエステル繊維に対し合成繊維用処理剤として1.0%となるよう付着させて、90℃に加熱した引取りローラーにより1400m/分の速度で引き取り、ついで引き取りローラーと4800m/分の速度で回転する延伸ローラーとの間で3.2倍に延伸しする際に用いられる合成繊維用処理剤水性液。」

イ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、
(ア)甲1発明の「A1(鉱物油)」及び「A2(ラウリルオレアート)」は、本件特許明細書の【0019】を参照すると、本件発明1の「平滑剤」に相当する。
(イ)甲1発明の「B-1(ポリオキシエチレン(20モル)硬化ひまし油エーテルジオレアート)」及び「B-3(ポリオキシエチレン(25モル)」は、本件特許明細書の【0020】を参照すると、本件発明1の「ノニオン界面活性剤」に相当する。
(ウ)甲1発明の「E-1(オクチル酸カリウム塩)」及び「E-3(ポリオキシエチレン(4モル)ラウリルアルミノエーテル)」は、本件特許明細書の【0021】を参照すると、本件発明1の「静電剤」に相当する。
(エ)甲1発明の「イオン交換水」、「合成繊維処理剤(P-2)」、「合成繊維用処理剤水性液」は、それぞれ本件発明1の「揮発性希釈液」、「合成繊維用処理剤」、「合成繊維用処理剤の希釈液」に相当する。
(オ)甲1発明の「合成繊維処理剤(P-2)の所要量とイオン交換水の所要量を均一混合することで濃度90%とした」態様は、本件発明1の「前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合であ」る態様に相当する。
(カ)甲1発明の「A-1(鉱物油)を13%、A-2(ラウリルオレアート)を37%」、「B-1(ポリオキシエチレン(20モル)硬化ひまし油エーテルジオレアート)を6%、B-3(ポリオキシエチレン(25モル)硬化ひまし油エーテルトリラウラート)を3%」、「E-1(オクチル酸カリウム塩)を5%」、「E-3(ポリオキシエチレン(4モル)ラウリルアルミノエーテル)を5%(合計100質量%)の割合で均一混合して、合成繊維処理剤(P-2)を調製し、合成繊維処理剤(P-2)の所要量とイオン交換水の所要量を均一混合する」ことは、本件発明1の「前記合成繊維用処理剤中における平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を30?80質量%、前記ノニオン界面活性剤を5?70質量%、及び前記制電剤を1?20質量%の割合で含有して成るものであり、前記揮発性希釈剤が、水を含むものであ」ることに相当する。
(キ)甲1発明の「ポリエステル繊維に対し合成繊維用処理剤として1.0%となるよう付着させ」る態様は、本件発明1の「ポリオレフィン以外の合成繊維に適用される」態様に相当する。

そうすると、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤を含有する合成繊維用処理剤、並びに揮発性希釈剤を含有する合成繊維用処理剤の希釈液であって、
前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合であり、
前記合成繊維用処理剤中における平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を30?80質量%、前記ノニオン界面活性剤を5?70質量%、及び前記制電剤を1?20質量%の割合で含有して成るものであり、前記揮発性希釈剤が、水を含むものであり、
ポリオレフィン以外の合成繊維に適用される合成繊維用処理剤の希釈液。」

<相違点1>
本件発明1は、「前記希釈液の30℃での動粘度が、0mm^(2)/sを超え且つ70mm^(2)/s以下(但し70mm^(2)/sの場合を除く)であ」るのに対して、甲1発明は、合成繊維用処理剤水性液の30℃の動粘度が70mm^(2)/sである点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記希釈液は、紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸方法に適用され、ポリオレフィン以外の合成繊維に適用され」るのに対して、甲1発明は、90℃に加熱した引取りローラーにより1400m/分の速度で引き取り、ついで引き取りローラーと4800m/分の速度で回転する延伸ローラーとの間で3.2倍に延伸する際に用いられる点。

ウ 判断
以下、相違点について検討する。
<相違点1について>
甲第1号証の【0018】には、合成繊維用処理剤水性液の動粘度が50?300mm^(2)/sであることが記載されており、【0020】には、「A成分中の30℃の動粘度が1?500mm^(2)/s鉱物油としては、流動パラフィンオイル等が挙げられるが、なかでも30℃の動粘度が1?200mm^(2)/sの流動パラフィンオイルが好ましい。」と記載されている。
また、甲第2号証の【0012】には、「熱可塑性繊維の表面に油剤成分をより均一に付与する場合、30℃における油剤成分の粘度が70mm^(2)/sec以下の範囲にあることがより好ましい。」と記載されている。
そうすると、甲1発明において、上記記載を参照して、合成繊維用処理剤水性液の粘度を70mm^(2)/s以下とする動機付けがあるとしても、甲1発明の水性液は、エマルションとなっているため、単に各成分を粘度の低いものに換えても、水性液としての粘度が低くなるかは不明である。
したがって、甲1発明において、水性液の粘度を低くすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

<本件発明1の奏する効果について>
そして、本件発明1は、上記動粘度の範囲の希釈剤であるから、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が3回以下である紡糸延伸方法において、糸品質及び染色性が優れるという、甲1発明及び甲第1?3号証記載の事項から、当業者が想到しえない格別な効果を有する。

エ 小括
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第1?3号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)甲第2号証を主引用発明とした場合の本件発明1の進歩性について
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、以下の記載がある。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリオレフィンから直接紡糸延伸法で製造する毛羽や糸斑等の欠点がない高品質のポリオレフィン繊維、とりわけポリプロピレン繊維とその製造法に関する。」
・「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施の形態について具体的に説明する。本発明で使用されるストレート系油剤とは、広義に低粘度希釈剤併用タイプや原油付与タイプを含むものであり、紡糸工程における給油時の油剤の主要成分が有機溶剤であるものを指し、ニート系油剤も含まれる。このストレート系油剤は、ポリオレフィン系繊維の製造工程においてノズルより溶融吐出後、固化した段階で付与される。」
・「【0012】本発明において使用するストレート系油剤中の油剤成分の粘度は特に限定されるものではなく、ポリオレフィン系繊維の製造工程において油剤を付与する際に、少なくとも油剤に流動性があればよい。熱可塑性繊維の表面に油剤成分をより均一に付与する場合、30℃における油剤成分の粘度が70mm^(2)/sec以下の範囲にあることがより好ましい。30℃における油剤成分の粘度がこの範囲になくとも、30?150℃の範囲で油剤を加熱し、粘度を下げることにより均一付着性を確保することも可能である。また、希釈溶媒を使用し給油する油剤粘度を該範囲に調整して使用しても何ら問題はない。」
・「【0025】[実施例1]MFRが30であるポリプロピレンホモポリマーを溶融紡糸装置の押出機に投入し溶融混練した後、紡糸温度230℃にて、孔径が0.8mmφ、孔数60の紡糸口金より定量的に117g/分の速度で吐出した。吐出した糸条は冷却風により冷却固化させ、表1に示した組成の油剤を定量供給装置を用いてジェットオイリングノズルより4cc/分の速度で吐出して供給付着させた後プリテンションロールにより速度250m/分により引き取り、一旦巻き取ることなく、引き続き、2段延伸ユニットを用いて、総延伸倍率7倍に設定して延伸し、760dtex,60フィラメントの延伸糸を得た。使用した油剤の成分、動粘度、ポリプロピレンホモポリマーのフィルムに対する接触角、付着量、毛羽カウント及び得られた繊維の強度を表1に示す。
【0026】[実施例2?8]溶融紡糸した糸条に付着させる油剤を表1に示した組成としたほかは、実施例1と同様の方法により製糸した。使用した油剤の成分、動粘度、ポリプロピレンホモポリマーのフィルムに対する接触角、付着量、毛羽カウント及び得られた繊維の強度を表1に示す。
【0027】[実施例9?10]溶融紡糸した糸条に付着させる油剤を表1に示した組成とし、油剤は三菱石油(株)製ダイヤモンドソルベント(商品名)により60%の濃度に希釈して、定量供給装置を用いてジェットオイリングノズルより6cc/分の速度で吐出供給して糸条に付着させたほかは、実施例1と同様の方法で製糸を行った。使用した油剤の成分、動粘度、ポリプロピレンホモポリマーのフィルムに対する接触角、付着量、毛羽カウント及び得られた繊維の強度を表1に示す。」
・「【0030】
【表1】

【0031】
【発明の効果】本発明によれば、ポリオレフィンより直接紡糸延伸方式で、ポリオレフィンに対する接触角が0?10°であるストレート系油剤を使用することによって、延伸工程における製糸安定性が向上し、毛羽や糸斑等の発生のない高品質のポリオレフィン系繊維とりわけポリプロピレン繊維を得ることが可能である。」

そうすると、甲第2号証の実施例9には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「ラウリルオレエート20%、PEG400モノラウレート30%、POEアルキルエーテル10%、イソオクチルアルキレンオキサイド30%、オレイルホスフェートK5%、ラウリルスルホネートNa5%からなる組成物を三菱石油(株)製ダイヤモンドソルベント(商品名)により60%の濃度に希釈した、30℃における油剤成分粘度が68mm^(2)/secである、2段延伸ユニットに用いられ、ポリプロピレンホモポリマーを溶融紡糸した糸条に用い、油剤付着量2.2質量%である油剤。」

イ 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、
(ア)甲2発明の「ラウリルオレエート」は、甲第2号証の【0015】を参照すると、本件発明1の「平滑剤」に相当する。
(イ)甲2発明の「PEG400モノラウレート」は、本件特許明細書の【0020】を参照すると、本件発明1の「ノニオン界面活性剤」に相当する。
(ウ)甲2発明の「ラウリルスルホネートNa」は、甲第2号証の【0016】を参照すると、本件発明1の「制電剤」に相当する。
(エ)甲2発明の「三菱石油(株)製ダイヤモンドソルベント(商品名)」、「組成物」、「油剤」は、それぞれ本件発明1の「揮発性希釈液」、「合成繊維用処理剤」、「合成繊維用処理剤の希釈液」に相当する。
(オ)甲2発明の「30℃における油剤成分粘度が68mm^(2)/secである」態様は、本件発明1の「前記希釈液の30℃での動粘度が、0mm^(2)/sを超え且つ70mm^(2)/s以下(但し70mm^(2)/sの場合を除く)であ」る態様に相当する。
(カ)甲2発明の「ラウリルオレエート20%」、「PEG400モノラウレート30%」、「ラウリルスルホネートNa5%」含有することは、本件発明1の「前記合成繊維用処理剤中における平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を30?80質量%、前記ノニオン界面活性剤を5?70質量%、及び前記制電剤を1?20質量%の割合で含有して成るものであ」ることに相当する。
(キ)甲2発明の「組成物を三菱石油(株)製ダイヤモンドソルベント(商品名)により60%の濃度に希釈した」態様は、本件発明1の「前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合であ」る態様に相当する。

そうすると、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤を含有する合成繊維用処理剤、並びに揮発性希釈剤を含有する合成繊維用処理剤の希釈液であって、
前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合であり、
前記希釈液の30℃での動粘度が、0mm^(2)/sを超え且つ70mm^(2)/s以下(但し70mm^(2)/sの場合を除く)であり、
前記合成繊維用処理剤中における平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を30?80質量%、前記ノニオン界面活性剤を5?70質量%、及び前記制電剤を1?20質量%の割合で含有して成るものである合成繊維用処理剤の希釈液。」

<相違点3>
本件発明1は、「前記希釈剤が、水を含むものであ」るのに対して、甲2発明は、三菱石油(株)製ダイヤモンドソルベント(商品名)である点。
<相違点4>
本件発明1は、「前記希釈液は、紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸方法に適用され、ポリオレフィン以外の合成繊維に適用される」のに対して、甲2発明は、2段延伸ユニットに用いられ、ポリプロピレンホモポリマーを溶融紡糸した糸条に用いる点。

ウ 判断
以下、相違点について検討する。
<相違点3について>
甲第2号証の【0010】も参酌すると、甲2発明は、希釈剤が三菱石油(株)製ダイヤモンドソルベント(商品名)であり、ストレート系油剤に関する発明である。
したがって、甲2発明において、希釈剤に水を含むものを使用することを、当業者が容易が想到し得たとはいえない。

<本件発明1の奏する効果について>
そして、本件発明1は、希釈剤が水を含有することを含めて、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が3回以下である紡糸延伸方法において、オイルドロップを十分に防止でき、紡糸性が良好で、かつ得られる糸の糸品質及び染色性において優れるという、甲2発明及び甲第2、3号証記載の事項から、当業者が想到しえない格別な効果を有する。

エ 小括
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲第2、3号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2?7、9、10、12の進歩性について
本件発明2?7、9、10、12は、本件発明1の発明特定的事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)及び(2)で検討したのと同じ理由により、甲1発明又は甲2発明、及び甲第1?3号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 令和2年3月4日付け取消理由(決定の予告)に採用しなかった取消理由
(1)令和元年11月1日付け取消理由通知中、令和2年3月4日付け取消理由(決定の予告)に採用しなかった取消理由は、以下の通りである。

(サポート要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点
で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ア 本件発明の課題は、「加熱ローラーへの糸の巻き掛け回数の少ない紡糸延伸方法において、オイルドロップを十分に防止でき、紡糸性が良好で、且つ得られる糸の糸品質及び染色性を向上できる合成繊維用処理剤の希釈液及び該希釈液を用いた合成繊維の製造方法を提供する」(【0008】)ことである。
イ そして、本件特許明細書において、具体的に本件発明の課題を解決することが示されているのは、実施例1?8のみである。
そして、オイルドロップ、紡糸性、得られる糸の糸品質及び染色性に、合成繊維用処理剤の付着量、加熱ローラーの温度、ローラの回転数、合成繊維の種類及び合成繊維処理剤における、平滑剤、ノニオン界面活性剤、静電剤の含有比率が影響することは技術常識であるから、本件特許明細書において、具体的に本件発明の課題が解決できることが示されている実施例以外の本件発明1が、本件発明の課題を解決できるとは、理解できない。
ウ したがって、本件発明1は、本件特許明細書に記載した範囲のものでない。

(2)上記取消理由について検討する。
合成繊維の種類及び平滑剤、ノニオン界面活性剤、静電剤の含有比率は、本件訂正により、その範囲が特定された。
そして、本件発明は、合成繊維用処理剤の希釈液自体の発明であるところ、合成繊維用処理剤の付着量、加熱ローラーの温度、ローラの回転数は、オイルドロップ、紡糸性、得られる糸の糸品質及び染色性に影響を与えるものであるが、これらは、糸を延伸し、合成繊維を製造するための条件であって、当然に合成繊維を製造するために適した一般的な条件で製造されると解される。
ここで、本件特許明細書には、糸を延伸し、合成繊維を製造する一般的な条件、本件発明の課題を解決することを具体的に確認したものとして実施例1?7が記載されており、当該記載から、合成繊維を製造する一般的な条件においては、同程度の結果が期待できると理解できる。
したがって、本件発明1?7、9、10、12は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。


第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件発明1?7、9、10及び12に係る特許を取り消すことはできない。
また、請求項8及び11に係る特許は、本件訂正により、削除されたため、本件特許の請求項8及び11に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。



 
発明の名称 (54)【発明の名称】
合成繊維用処理剤の希釈液及び合成繊維の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が少ない紡糸延伸方法でのオイルドロップを十分に防止でき、紡糸性が良好で、且つ得られる糸の糸品質及び染色性を向上できる合成繊維用処理剤の希釈液及び合成繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリエステル等の合成繊維は、生産性向上の観点から溶融紡糸したフィラメントを直ちに延伸したのちに巻き取る直接紡糸延伸法により生産されている。その直接紡糸延伸法は、溶融紡出した糸条の表面に平滑性等の機能を付与するための水性油剤(合成繊維用処理剤の希釈液)を付着させ、加熱ローラー等の複数のローラーを介して延伸する紡糸延伸機を用いて行われる。
【0003】
特許文献1では、紡出された糸が2つの加熱ローラーにより延伸される。各加熱ローラーには、分離ローラーが設けられ、加熱ローラーと分離ローラーの間で糸が複数周回巻き付けられている。糸は、上流側の加熱ローラーによってガラス転移温度以上に加熱された後、2つの加熱ローラー間で延伸される。
【0004】
特許文献2では、複数の加熱ローラーへの巻き掛け角度がそれぞれ360度未満の片掛けの状態で糸が巻き掛けられ延伸される。この時、延伸される糸には、合成繊維用処理剤の希釈液として、希釈液中の処理剤の濃度が40?60質量%、30℃の動粘度が100?200mm^(2)/sのものが付与されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-17312号公報
【特許文献2】特開2014-70294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、合成繊維の紡糸工程において水分含有量の高い合成繊維用処理剤の希釈液、つまり合成繊維用処理剤の濃度が低い合成繊維用処理剤の希釈液が使用されている。そのため、加熱ローラーで糸を所定の温度に加熱する際に、希釈液中の水分を蒸発させるために多くの熱量が消費されてしまうため熱効率が悪かった。それにより、糸延伸時の熱履歴の斑を誘発しやすく、糸の染色性に問題があった。また、糸の加熱ローラーへの接触長を長くした場合は、糸に十分に熱が伝わり熱履歴の斑による染色性の問題は改善される。しかしながら、糸を1つの加熱ローラーに多くの回数巻きつけなければならず、加熱ローラーを軸方向に長くする必要があり、糸掛けの作業性も悪くなるという問題があった。
【0007】
特許文献2において使用される合成繊維用処理剤の希釈液は、糸を加熱する際の熱効率が高くないため、特許文献1と同様に、糸の十分な染色性が得られないという問題があった。そのため、糸の加熱ローラーへの接触長を稼ぐために加熱ローラーを増やすか、加熱ローラーの外形を大きくする必要があった。その一方、希釈液中の合成繊維用処理剤を更に高い濃度で使用した場合は、動粘度がさらに高くなるため、オイルドロップが発生し、糸品質も悪化してしまうという問題があった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、加熱ローラーへの糸の巻き掛け回数の少ない紡糸延伸方法において、オイルドロップを十分に防止でき、紡糸性が良好で、且つ得られる糸の糸品質及び染色性を向上できる合成繊維用処理剤の希釈液及び該希釈液を用いた合成繊維の製造方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸方法に適用される合成繊維用処理剤の希釈液について、希釈液中に合成繊維用処理剤を特定の割合の範囲で含有し、且つ合成繊維用処理剤の希釈液が特定の粘度範囲であるものが正しく好適であることを見出した。
【0010】
すなわち本発明の一態様は、平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤を含有する合成繊維用処理剤、並びに揮発性希釈剤を含有する合成繊維用処理剤の希釈液であって、前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合であり、前記希釈液の30℃での動粘度が、0mm^(2)/sを超え且つ70mm^(2)/s以下(但し70mm^(2)/sの場合を除く)であり、前記合成繊維用処理剤中における平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を30?80質量%、前記ノニオン界面活性剤を5?70質量%、及び前記制電剤を1?20質量%の割合で含有して成るものであり、前記揮発性希釈剤が、水を含むものであり、前記希釈液は、紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸方法に適用され、ポリオレフィン以外の合成繊維に適用されることを特徴とする。
【0011】
前記希釈液中の不揮発分における動粘度が、30℃で10?70mm^(2)/sとなることが好ましい。
前記希釈液の30℃での動粘度が、10?70mm^(2)/s(但し70mm^(2)/sの場合を除く)であることが好ましい。
【0012】
前記希釈液の30℃での動粘度が、20?65mm^(2)/sであることが好ましい。
前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記合成繊維用処理剤が65?98質量%、及び前記揮発性希釈剤が2?35質量%の割合で含有することが好ましい。
【0013】
前記合成繊維用処理剤が70?95質量%、及び前記揮発性希釈剤が5?30質量%の割合で含有することが好ましい。
前記合成繊維用処理剤が75?92質量%、及び前記揮発性希釈剤が8?25質量%の割合で含有することが好ましい。
【0014】
前記平滑剤が、分子中の全炭素数が24?32である脂肪酸エステルを含むことが好ましい。
【0015】
前記制電剤が、脂肪酸塩、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、両性化合物、及び第4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
【0016】
また、本発明の別の態様の合成繊維の製造方法は、合成繊維用処理剤の希釈液を、合成繊維より紡糸した糸に対し合成繊維用処理剤として0.1?20質量%の割合となるよう付着させる工程、紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、オイルドロップを十分に防止でき、紡糸性が良好で、且つ得られる糸の糸品質及び染色性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
先ず、本発明に係る合成繊維用処理剤の希釈液(以下、希釈液という)を具体化した第1実施形態について説明する。本実施形態の希釈液は、平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤を含有する合成繊維用処理剤、並びに揮発性希釈剤を含有する。希釈液中における合成繊維用処理剤、及び揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合で含有する。また、希釈液の30℃での動粘度は、0mm^(2)/sを超え且つ80mm^(2)/s未満であり、紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸方法に用いられることを特徴とする。
【0019】
本実施形態の希釈液に供する合成繊維用処理剤は、上述したように平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤を含有して成るものである。
本実施形態の希釈液に供する合成繊維用処理剤に使用される平滑剤としては、特に制限はなく、例えば、(1)ブチルステアラート、オクチルステアラート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソペンタコサニルイソステアラート、オクチルパルミタート、オクチルラウラート、イソトリデシルステアラート、ラウリルラウラート、ラウリルオレアート、ラウリルステアラート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカナート、グリセリントリオレアート、トリメチロールプロパントリオレアート、トリメチロールプロパントリラウラート等の脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオクチルアジパート、ジラウリルアジパート、ジオレイルアゼラート、ジイソセチルチオジプロピオナート等の脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート等の芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウラート、ビスフェノールAジオレアート等の芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタラート、ジイソステアリルイソフタラート、トリオクチルトリメリタート等の脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸とのエステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油、牛脂等の天然油脂、(8)鉱物油等、合成繊維用処理剤に採用されている公知の平滑剤等が挙げられる。これらの平滑剤は単独で用いることもできるし、また二つ以上を混合して用いることもできる。これらの中でも本発明の効果により優れる観点から、オクチルステアラート、オレイルラウラート、オクチルパルミタート、イソトリデシルステアラート、ラウリルラウラート、ラウリルオレアート、ラウリルステアラート、1,6-ヘキサンジオールジデカナート、ジラウリルアジパート、ベンジルオレアート等の分子中の全炭素数24?32の脂肪酸エステルを含む平滑剤が好ましい。
【0020】
本実施形態の希釈液に供する合成繊維用処理剤に使用されるノニオン界面活性剤としては、特に制限はなく、例えば、(1)ポリオキシエチレンラウラート、ポリオキシエチレンオレアート、ポリオキシエチレンメチルエーテルラウラート、ポリオキシエチレンオクチルエーテルラウラート、ビスポリオキシエチレンラウリルエーテルアジパート、ポリオキシエチレンジラウラート、ポリオキシエチレンジオレアート、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシブチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンラウロアミドエーテル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル等の有機酸、有機アルコール、有機アミン、及び有機アミドから選ばれる少なくとも一種の分子にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、1,4-ブチレンオキサイド等の炭素数2?4のアルキレンオキサイドを付加した化合物、(2)ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート等の多価アルコール部分エステル型ノニオン界面活性剤、(3)ポリオキシエチレンソルビタントリオレアート、ポリオキシエチレンヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン硬化ヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテルジオレアート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテルトリラウラート等のポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤、(4)ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アミド型ノニオン界面活性剤、(5)ポリオキシエチレンオレイン酸ジエタノールアミド等のポリオキシアルキレン脂肪酸アミド型ノニオン界面活性剤、(6)ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、(7)ラウリルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。これらのノニオン界面活性剤は単独で用いることもできるし、また二つ以上を混合して用いることもできる。
【0021】
本実施形態の希釈液に供する合成繊維用処理剤に使用される制電剤としては、特に制限はなく、例えば、(1)酢酸カリウム、オクチル酸カリウム、オレイン酸カリウム等の脂肪酸塩、(2)デカンスルホネートカリウム塩、アルキル(炭素数12?15)スルホネートナトリウム塩、テトラデカンスルホネートナトリウム塩等の有機スルホン酸塩、(3)ドデシル硫酸ナトリウム等の有機硫酸塩、(4)ラウリルリン酸エステルカリウム塩、オレイルリン酸エステルカリウム塩、ポリオキシエチレンオレイルリン酸エステルとポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルの塩、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルリン酸エステルカリウム塩等の有機リン酸塩、(5)オクチルジメチルアンモニオアセタート、N,N-ビス(2-カルボキシエチル)-オクチルアミンナトリウム、N-オレイル-N’-カルボキシルエチル-N’-ヒドロキシエチル-エチレンジアミンナトリウム等の両性化合物、(6)ジメチルオクチルアンモニウムトリメチルホスフェート、ジメチルドデシルアンモニウムトリメチルホスフェート等の4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらの制電剤は単独で用いることもできるし、また二つ以上を混合して用いることもできる。これらの中でも本発明の効果により優れる観点から、脂肪酸塩、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、両性化合物、及び第4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む制電剤が好ましい。
【0022】
本実施形態の希釈液に供する合成繊維用処理剤は、上述した平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合の合計を100質量%とすると、平滑剤を30?80質量%、ノニオン界面活性剤を5?70質量%、及び制電剤を1?20質量%の割合で含有して成るものが好ましい。かかる範囲に規定することにより、本願発明の効果をより向上できる。
【0023】
本実施形態の希釈液に供する揮発性希釈剤としては、特に制限はなく、例えば水、有機溶剤、低粘度鉱物油等が挙げられる。有機溶剤の具体例としては、ヘキサン、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチルエーテル、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、クロロホルム等が挙げられる。低粘度鉱物油の具体例としては、30℃における動粘度が5mm^(2)/s以下の鉱物油が挙げられ、より具体的には、炭素数11?13のパラフィン(例えば商品名:N-パラフィンNo.1408、Sasol社製等)、炭素数12のパラフィン(例えば商品名:カクタスノルマルパラフィンN-12D、ジャパンエナジー社製等)、炭素数13?15のパラフィン(例えば商品名:カクタスノルマルパラフィンYHNP、ジャパンエナジー社製等)、炭素数14のパラフィン(例えば商品名:カクタスノルマルパラフィンN-14、ジャパンエナジー社製等)等が挙げられる。これらの揮発性希釈剤は単独で用いることもできるし、また相溶性を有する範囲内において二つ以上を混合して用いることもできる。これらの中でも揮発性希釈剤は、本発明の効果により優れる観点から、水を含むものであることが好ましい。
【0024】
本実施形態の希釈液は、上述した合成繊維用処理剤、及び揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合で含有する。上記含有割合は、合成繊維用処理剤が65?98質量%及び揮発性希釈剤が2?35質量%の割合で含有するものが好ましく、合成繊維用処理剤が70?95質量%及び揮発性希釈剤が5?30質量%の割合で含有するものがより好ましく、合成繊維用処理剤が75?92質量%及び揮発性希釈剤が8?25質量%の割合で含有するものが最も好ましい。かかる範囲に規定することにより、本発明の効果、特に紡糸性、糸品質、染色性をより向上できる。
【0025】
本実施形態の希釈液は、30℃での動粘度が0mm^(2)/sを超え且つ80mm^(2)/s未満である。好ましくは10?70mm^(2)/sであり、より好ましくは20?65mm^(2)/sである。かかる範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上できる。なお、動粘度は、キャノン・フェンスケ粘度計を用いて測定した(以下、同じ)。
【0026】
本実施形態の希釈液中の不揮発分における動粘度は、特に限定されないが、30℃で10?70mm^(2)/sとなるものが好ましい。かかる範囲に規定することにより、本発明の効果、特にオイルドロップの抑制効果、糸品質、染色性をより向上できる。
【0027】
なお、不揮発分とは、本実施形態の希釈液を105℃で2時間熱処理して揮発性希釈剤を十分に除去した絶乾物のことをいう。
本実施形態の希釈液には、合目的的に他の成分、例えば消泡剤(シリコーン系化合物、鉱物油等)、酸化防止剤、防腐剤、防錆剤等を併用することができる。他の成分の併用量は、本発明の効果を損なわない範囲内において規定することができるが、できるだけ少量とすることが好ましい。
【0028】
本実施形態の希釈液は、紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸方法に適用される。
【0029】
紡糸延伸機に掛けられた糸は、2以上の加熱ローラーを含む複数のローラーにより延伸される。この時、延伸される糸はそれぞれのローラーに0回を超え且つ3回以下の巻き掛け数で巻き掛けられる。0回を超え且つ3回以下の巻き掛け数とは、分離ローラーを併用する場合には、加熱ローラーと分離ローラーの間で糸を1回、2回又は3回巻き掛けた状態を含む。また、巻き掛け数が0回を超え且つ1回未満の場合は、糸を加熱ローラーへ片掛けした状態を含む。かかる構成において、巻き掛けの作業性が高くなる一方、3回を超えて巻き掛けられた糸よりも、延伸時の加熱長は短くなる。
【0030】
本実施形態では、加熱ローラーへ0回を超え且つ3回以下の巻き掛け数で掛けられた糸に対し、合成繊維用処理剤の希釈液が高濃度の状態で給油される。そのため、揮発性希釈剤の蒸発に消費される熱量が少なく、短い加熱長でも十分に糸を加熱することができ、優れた品質の糸を得ることができる。また、本実施形態の希釈液の粘度が、適正に低く保たれることで、給油時のオイルドロップを防止することが可能となる。
【0031】
(第2実施形態)
本発明に係る合成繊維の製造方法(以下、製造方法という)を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の製造方法は、第1実施形態の合成繊維用処理剤の希釈液を、合成繊維の糸に対し合成繊維用処理剤として0.1?20質量%の割合となるよう付着させる工程を含む。さらに紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸工程を含む。
【0032】
本実施形態の希釈液を付着させるための合成繊維としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリウレタン系繊維等が挙げられる。これらの中でもポリエステル系繊維又はポリアミド系繊維に適用することが好ましい。かかる場合に本発明の効果の発現をより高くすることができる。
【0033】
本実施形態の処理剤を付着させる方法としては、公知の方法が使用できるが、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等が挙げられる。これらの中でもガイド給油法を適用することが好ましい。かかる給油法を使用する場合に本発明の効果の発現をより高くすることができる。
【0034】
上記実施形態の希釈液及び製造方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤を含有する合成繊維用処理剤、並びに揮発性希釈剤を含有する希釈液において、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合とした。また、希釈液の30℃での動粘度が、0mm^(2)/sを超え且つ80mm^(2)/s未満とした。したがって、合成繊維用処理剤を高濃度で含む希釈液の粘度を適正に保ち、紡糸工程でのオイルドロップを十分に防止でき、紡糸性が良好で、且つ得られる糸の糸品質及び染色性を向上できる。
【0035】
(2)上記実施形態の希釈液は、2以上の加熱ローラーを含む複数のローラーにより延伸される紡糸延伸機に掛けられた糸に付与される。延伸される糸は、それぞれのローラーに0回を超え且つ3回以下の巻き掛け数で巻き掛けられるため、巻き掛けの作業性を向上できる。
【0036】
(3)上記実施形態の希釈液は、延伸される糸がそれぞれのローラーに0回を超え且つ3回以下の巻き掛け数で巻き掛けられる紡糸延伸方法に適用される。この紡糸延伸方法は、3回を超えて巻き掛けられた糸よりも、延伸時の加熱長は短くなる。本実施形態の希釈液は、合成繊維用処理剤を高濃度で含有した状態で給油されるため、揮発性希釈剤の蒸発に消費される熱量が少なく、短い加熱長でも十分に糸を加熱することができ、優れた品質の糸を得ることができる。
【0037】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態において、紡糸延伸機の加熱ローラーの数は、2以上であれば特に限定されず、糸の種類、用途、目的等に応じて適宜設定することができる。その他の構成は、公知の延伸機の構成を適宜採用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において%は質量%を意味する。
【0039】
試験区分1(合成繊維用処理剤の希釈液の調製)
・実施例1
平滑剤としてラウリルオレアート(L-1)を40%、オクチルパルミタート(L-2)を12%、30℃の動粘度が47mm^(2)/sの鉱物油(L-4)を15%、ノニオン界面活性剤としてポリオキシエチレン(エチレンオキサイドの付加モル数(以下同じ)4モル)オレイルエーテル(N-4)を4%、ポリオキシエチレン(4モル)イソトリデシルエーテル(N-5)を3%、ポリオキシエチレン(5モル)ラウリルエーテル(N-6)を3%、ポリオキシエチレン(3モル)モノオレアート(N-7)を6%、ポリオキシエチレン(25モル)硬化ヒマシ油エーテルトリラウラート(N-12)を5%、オレイン酸(N-17)を2%、制電剤としてアルキル(炭素数12?15)スルホネートナトリウム塩(An-1)を4%、ポリオキシエチレン(4モル)オレイルリン酸エステルとポリオキシエチレン(4モル)ラウリルアミノエーテルの塩(An-2)を6%、合計100%となる合成繊維用処理剤(P-1)を90%と、揮発性希釈剤として水(D-1)を10%の割合で均一混合して実施例1の合成繊維用処理剤の希釈液を調製した。
【0040】
・実施例2?7、及び参考例8及び比較例1?6
実施例1の合成繊維用処理剤の希釈液と同様にして、実施例2?7、及び参考例8及び比較例1?6の合成繊維用処理剤の希釈液を調製した。以上調製した各例の合成繊維用処理剤の希釈液について、合成繊維用処理剤中における平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の各成分の種類、各成分の含有割合の合計を100%とした場合における各成分の比率を表1に示した。
【0041】
また、揮発性希釈剤の種類、希釈液中における合成繊維用処理剤及び揮発性希釈剤の含有割合の合計を100%とした場合における各剤の比率を表2に示した。
【0042】
【表1】

表1において、各表記は、
L-1:ラウリルオレアート、
L-2:オクチルパルミタート、
L-3:ラウリルラウラート、
L-4:鉱物油(30℃動粘度:47mm^(2)/s)、
RL-1:トリメチロールプロパントリラウラート、
N-1:ポリオキシエチレン(3モル)ポリオキシプロピレン(3モル)ラウリルエーテル、
N-2:ポリオキシエチレン(4モル)ポリオキシプロピレン(7モル)ブチルエーテル、
N-3:ポリオキシプロピレン(6モル)ラウリルエーテル、
N-4:ポリオキシエチレン(4モル)オレイルエーテル、
N-5:ポリオキシエチレン(4モル)イソトリデシルエーテル、
N-6:ポリオキシエチレン(5モル)ラウリルエーテル、
N-7:ポリオキシエチレン(3モル)モノオレアート、
N-8:ポリオキシエチレン(7モル)オクチルエーテルラウラート、
N-9:ポリオキシエチレン(9モル)ジラウラート、
N-10:ポリオキシエチレン(9モル)ジオレアート、
N-11:ポリオキシエチレン(20モル)硬化ヒマシ油エーテルジオレアート、
N-12:ポリオキシエチレン(25モル)硬化ヒマシ油エーテルトリラウラート、
N-13:ソルビタンモノオレアート、
N-14:ジエチレングリコール、
N-15:エチレングリコールモノブチルエーテル、
N-16:オレイン酸ジエタノールアミド、
N-17:オレイン酸、
An-1:アルキル(炭素数12?15)スルホネートナトリウム塩、
An-2:ポリオキシエチレン(4モル)オレイルリン酸エステルとポリオキシエチレン(4モル)ラウリルアミノエーテルの塩、
An-3:ポリオキシエチレン(6モル)ポリオキシプロピレン(2モル)ラウリルリン酸エステルカリウム塩、
An-4:N‐オレオイル-N’-カルボキシエチル-N’-ヒドロキシエチル-エチレンジアミンナトリウム、
An-5:オクチル酸カリウム、
An-6:酢酸カリウム、
を意味する。
【0043】
【表2】

表2において、各表記は、
D-1:水、
D-2:炭素数11?13のパラフィン(商品名:N-パラフィンNo.1408、Sasol社製)、
を意味する。
【0044】
試験区分2(合成繊維用処理剤の希釈液及びその不揮発分の動粘度測定)
・実施例1
試験区分1で調製した合成繊維用処理剤(P-1)の希釈液の30℃での動粘度をキャノンフェンスケ法により測定すると62mm^(2)/sであった。また、合成繊維用処理剤(P-1)の希釈液を105℃で2時間熱処理し、揮発性希釈剤を除去して得られた不揮発分の30℃での動粘度をキャノンフェンスケ法により測定すると48mm^(2)/sであった。
【0045】
・実施例2?7、及び参考例8及び比較例1?6
実施例1の合成繊維用処理剤の希釈液と同様にして、実施例2?7、及び参考例8及び比較例1?6の合成繊維用処理剤の希釈液及び該希釈液の不揮発分の30℃での動粘度を測定し、結果を表2にまとめて示した。
【0046】
試験区分3(合成繊維用処理剤の希釈液を給油した合成繊維の製造と評価)
・実施例1
固有粘度0.64、酸化チタン含有量0.2%のポリエチレンテレフタレートのチップを常法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて295℃で紡糸し、口金から吐出して冷却固化した。その後、走行糸条に試験区分1で調製した合成繊維用処理剤(P-1)の希釈液を計量ポンプを用いたガイド給油法にて、走行糸条に対し合成繊維用処理剤として1.0%となるよう付着させた。その後、ガイドで集束させて、90℃に加熱した第1ローラーに3回巻き掛けて1400m/分の速度で引き取った。次いで、4800m/分の速度で回転する130℃に加熱した第2ローラーに3回巻き掛け、第1ローラーと第2ローラーの間で3.4倍に延伸し、83.3デシテックス(75デニール)36フィラメントのポリエステル繊維を製造した。ポリエステル繊維を製造したときの合成繊維用処理剤の付着量、給油ガイドでのオイルドロップ、紡糸性、糸品質、及び染色性を以下の方法で測定乃至評価した。結果を表2に示す。
【0047】
・合成繊維用処理剤の付着量の測定
上記のように製造したポリエステル繊維を2g精秤し、n-ヘキサン/エタノール=7/3(容量比)の混合溶液10mlで抽出処理し、抽出液を精秤したアルミトレイ上にて100℃で5分間乾燥した後、質量を測定した。下記の数1にて、合成繊維に対する合成繊維用処理剤の付着量を求めた。
【0048】
【数1】

数1において、
A:アルミトレイの重さ、
B:抽出された合成繊維用処理剤を含むアルミトレイの重さ、
S:抽出に用いた繊維の重さ。
【0049】
・オイルドロップの評価
給油ガイドからの合成繊維用処理剤の希釈液の滴下現象を目視にて観察、1分間当たりの該希釈液の滴下回数を5回測定し、その平均値を次の基準で評価した。なお、平均値の小数点以下は四捨五入した。
◎:滴下回数が0回。
○:滴下回数が1回。
×:滴下回数が2回以上。
【0050】
・紡糸性の評価
ポリエステル繊維の製造時の糸1トン当たりの糸切れ回数を10回測定し、その平均値を次の基準で評価した。
◎:糸切れ回数が0.5回未満。
○:糸切れ回数が0.5回以上且つ2.0回未満。
×:糸切れ回数が2.0回以上。
【0051】
・糸品質の評価
製造したポリエステル繊維のウースター斑U%を、ウースター(USTER)社製のウースターテスター(USTER TESTER)UT-5を使用して、糸速度200m/分で評価した。同様の評価を5回行ない、各回の結果から、次の基準で評価した。
◎:5回全てにおいてウースター斑U%が1未満である。
○:5回のうちで1回、ウースター斑U%が1以上である。
×:5回のうちで2回以上、ウースター斑U%が1以上である。
【0052】
・染色性の評価
製造したポリエステル繊維から、筒編み機で直径70mm、長さ1.2mの編地を作成した。作製した編地を、分散染料(日本化薬社製の商品名カヤロンポリエステルブルーEBL-E)を用い、高圧染色法により染色した。染色した編地を、常法(例えば特開2015-124443号公報等)に従い水洗、還元洗浄及び乾燥した後、直径70mm、長さ1mの鉄製の筒に装着して、編地表面の濃染部分の点数を肉眼で数えて評価した。同様の評価を5回行い、各回で数えた濃染部分の点数の平均値を次の基準で評価した。なお、平均値の小数点以下は四捨五入した。
◎:濃染部分がない(0点)。
○:濃染部分が1又は2点ある。
×:濃染部分が3点以上ある。
【0053】
・実施例2?7、及び参考例8及び比較例1?6
実施例2?7、及び参考例8及び比較例1?6についても実施例1と同様にポリエステル繊維を製造して、合成繊維用処理剤の付着量、オイルドロップ、紡糸性、糸品質、及び染色性を評価し、結果を表2にまとめて示した。
【0054】
表2の結果からも明らかなように、本発明によれば、合成繊維用処理剤の高濃度の希釈液の粘度を適正に保つことで、オイルドロップを十分に防止できる。また、加熱ローラーへの糸の巻き掛け数を0回を超え且つ3回以下とする紡糸延伸方法において、紡糸性が良好で、且つ優れた糸品質及び染色性を有する合成繊維を得ることができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤を含有する合成繊維用処理剤、並びに揮発性希釈剤を含有する合成繊維用処理剤の希釈液であって、
前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、合成繊維用処理剤が60質量%以上且つ100質量%未満、及び揮発性希釈剤が0質量%を超え且つ40質量%以下の割合であり、
前記希釈液の30℃での動粘度が、0mm^(2)/sを超え且つ70mm^(2)/s以下(但し70mm^(2)/sの場合を除く)であり、
前記合成繊維用処理剤中における平滑剤、ノニオン界面活性剤、及び制電剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を30?80質量%、前記ノニオン界面活性剤を5?70質量%、及び前記制電剤を1?20質量%の割合で含有して成るものであり、前記揮発性希釈剤が、水を含むものであり、
前記希釈液は、紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸方法に適用され、ポリオレフィン以外の合成繊維に適用される合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項2】
前記希釈液中の不揮発分における動粘度が、30℃で10?70mm^(2)/sとなるものである請求項1に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項3】
前記希釈液の30℃での動粘度が、10?70mm^(2)/s(但し70mm^(2)/sの場合を除く)である請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項4】
前記希釈液の30℃での動粘度が、20?65mm^(2)/sである請求項1?3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項5】
前記希釈液中における前記合成繊維用処理剤及び前記揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、
前記合成繊維用処理剤が65?98質量%、及び前記揮発性希釈剤が2?35質量%の割合で含有するものである請求項1?4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項6】
前記合成繊維用処理剤が70?95質量%、及び前記揮発性希釈剤が5?30質量%の割合で含有するものである請求項5に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項7】
前記合成繊維用処理剤が75?92質量%、及び前記揮発性希釈剤が8?25質量%の割合で含有するものである請求項5に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
前記平滑剤が、分子中の全炭素数が24?32である脂肪酸エステルを含むものである請求項1?7のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項10】
前記制電剤が、脂肪酸塩、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、両性化合物、及び第4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むものである請求項1?7,9のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の希釈液。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
請求項1?7,9,10のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤の希釈液を、合成繊維の糸に対し合成繊維用処理剤として0.1?20質量%の割合となるよう付着させる工程、
紡糸した糸を延伸するための複数の加熱ローラーを備えた紡糸延伸機を用いる紡糸延伸工程であって、各加熱ローラーへの糸の巻き掛け数が0回を超え且つ3回以下である紡糸延伸工程とを含むことを特徴とする合成繊維の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-10-01 
出願番号 特願2018-45711(P2018-45711)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D06M)
P 1 651・ 537- YAA (D06M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 森藤 淳志
特許庁審判官 横溝 顕範
佐々木 正章
登録日 2019-02-15 
登録番号 特許第6480052号(P6480052)
権利者 竹本油脂株式会社
発明の名称 合成繊維用処理剤の希釈液及び合成繊維の製造方法  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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