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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G02B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G02B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G02B 審判 全部申し立て 2項進歩性 G02B |
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管理番号 | 1368980 |
異議申立番号 | 異議2020-700086 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-02-17 |
確定日 | 2020-10-13 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6566993号発明「偏光フィルムおよび画像表示装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6566993号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-3,7-12〕について」)訂正することを認める。 特許第6566993号の請求項1ないし3,7ないし12に係る特許を維持する。 特許第6566993号の請求項4ないし6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特許第6566993号の請求項1?請求項12に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は,平成29年6月2日を出願日とし,令和元年8月9日にその特許権の設定の登録がされたものである。 本件特許について令和元年8月28日に特許掲載公報が発行されたところ,令和2年2月17日に,特許異議申立人 浜 俊彦(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 その後の手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。 令和2年 4月28日付け:取消理由通知書 令和2年 7月 2日付け:訂正請求書 令和2年 7月 2日付け:意見書 なお,特許法120条の5第5項の規定により,特許異議申立人に対して期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,意見書は提出されなかった。 第2 本件訂正請求について 1 請求の趣旨 令和2年7月2日付訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は,特許第6566993号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?12について訂正することを求める,というものである。 2 訂正の内容 本件訂正請求により特許権者が求める訂正の内容は,以下のとおりである。なお,下線は訂正箇所を示す。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記第一透明層は前記偏光子中の水分の排出を助ける浸透膜として機能し,」と記載されているのを,「前記第一透明層は前記偏光子中の水分の排出を助ける浸透膜として機能し,かつ,トリレンジイソシアネートおよびジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるいずれか少なくとも1種を含有するイソシアネート化合物と多価アルコールとの反応物であるウレタンプレポリマーを含有する形成材の硬化物であり,」に訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項2?請求項12も同様に訂正する。) (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (5) 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか」と記載されているのを,「請求項1?3のいずれか」に訂正する。 (請求項7の記載を引用する請求項8?請求項12も同様に訂正する。) (6) 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか」と記載されているのを,「請求項1?3または7のいずれか」に訂正する。 (請求項8の記載を引用する請求項9?請求項12も同様に訂正する。) (7) 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項10に「請求項1?9のいずれか」と記載されているのを,「請求項1?3または7?9のいずれか」に訂正する。 (請求項10の記載を引用する請求項11及び請求項12も同様に訂正する。) (8) 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項11に「請求項1?10のいずれか」と記載されているのを,「請求項1?3または7?10のいずれか」に訂正する。 (請求項11の記載を引用する請求項12も同様に訂正する。) (9) 訂正事項9 特許請求の範囲の請求項12に「請求項1?11のいずれか」と記載されているのを,「請求項1?3または7?11のいずれか」に訂正する。 (10)訂正請求について 本件訂正請求は,訂正前の一群の請求項である請求項1?請求項12に対してされたものである。 3 訂正の適否 (1) 訂正事項1について 訂正事項1による訂正は,請求項1に記載された「第一透明層」を,「トリレンジイソシアネートおよびジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるいずれか少なくとも1種を含有するイソシアネート化合物と多価アルコールとの反応物であるウレタンプレポリマーを含有する形成材の硬化物であり」という要件を満たすものに限定する訂正である。また,この点は,請求項1の記載を引用して記載された,請求項2,3及び7?12についてみても,同じである。 そうしてみると,訂正事項1による訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。 また,本件特許の願書に添付した明細書の【0012】には,「第一透明層としては,イソシアネート化合物と多価アルコールとの反応物であるウレタンプレポリマーを含有する形成材の硬化物を用いることができる。前記イソシアネート化合物としては,トリレンジイソシアネートおよびジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるいずれか少なくとも1種を用いることが好ましい。」 そうしてみると,訂正事項1による訂正は,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるから,訂正事項1による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 さらに,訂正事項1による訂正によって,訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから,訂正事項1による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2による訂正は,請求項4を削除する訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。また,この訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないことは明らかである。 (3) 訂正事項3及び訂正事項4について 訂正事項3による訂正についての判断は,訂正事項2についての判断と同様である。 (4) 訂正事項5について 訂正事項5による訂正は,訂正事項2?訂正事項4による訂正により請求項4?請求項6が削除されたことに伴い,訂正後の請求項7が,削除された請求項4?請求項6を引用する記載となることを回避する訂正である。また,この点は,請求項7の記載を引用して記載された,請求項8?請求項12についてみても,同じである。 そうしてみると,訂正事項5による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。 また,訂正事項5による訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは,明らかである。 (5) 訂正事項6?訂正事項9について 訂正事項6?訂正事項9による訂正についての判断は,訂正事項5についての判断と同様である。 4 まとめ 本件訂正請求による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 よって,結論に記載のとおり,特許6566993号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 前記「第2」のとおり,本件訂正請求による訂正は認められたから,本件特許の請求項1?請求項3及び請求項7?請求項12に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」などといい,総称して「本件特許発明」という。)は,本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項3及び請求項7?請求項12に記載された事項によって特定されるとおりの,下記のものである。なお,本件訂正請求により請求項4?請求項6は削除されている。 記 【請求項1】 ヨウ素含有偏光子,前記偏光子の片面に第一透明層,および前記偏光子の他の片面に第二透明層を有する偏光フィルムであって, 前記第一透明層の85℃,85%R.H.における飽和水分率は,前記偏光子の85℃,85%R.H.における飽和水分率よりも低く, 前記第一透明層は前記偏光子中の水分の排出を助ける浸透膜として機能し,かつ,トリレンジイソシアネートおよびジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるいずれか少なくとも1種を含有するイソシアネート化合物と多価アルコールとの反応物であるウレタンプレポリマーを含有する形成材の硬化物であり, 前記第二透明層の85℃,85%R.H.における飽和水分率が5重量%以下であることを特徴とする偏光フィルム。 【請求項2】 前記第一透明層が,直接,偏光子上に形成されていることを特徴とする請求項1記載の偏光フィルム。 【請求項3】 前記第一透明層の厚みが3μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の偏光フィルム。 【請求項7】 前記偏光子の厚みが10μm以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の偏光フィルム。 【請求項8】 前記第一透明層において,前記偏光子を有する側との反対側に,第三透明層を隣接して有し, 前記第三透明層の85℃,85%R.H.における飽和水分率は,前記第一透明層の85℃,85%R.H.における飽和水分率よりも低く, 前記偏光子中の水分が,前記偏光子側から,前記第一透明層,前記第三透明層の順に,浸透することを特徴とする請求項1?3または7のいずれかに記載の偏光フィルム。 【請求項9】 前記第三透明層が,粘着剤層であることを特徴とする請求項8記載の偏光フィルム。 【請求項10】 前記偏光子の他の片面には,前記第二透明層を介して,保護フィルムを有することを特徴とする請求項1?3または7?9のいずれかに記載の偏光フィルム。 【請求項11】 前記第二透明層は,粘着剤層または接着剤層であることを特徴とする請求項1?3または7?10のいずれかに記載の偏光フィルム。 【請求項12】 請求項1?3または7?11のいずれかに記載の偏光フィルムを有する画像表示装置。 第4 取消の理由 1 当合議体が通知した取消しの理由 令和2年4月28日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由は,以下のとおりである。 (1) 理由1(新規性,進歩性) 本件特許の請求項1?3,6,7,10及び11に係る発明は,その出願前(以下「本件出願前」という。)に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。また,本件特許の請求項1?7及び10?12に係る発明は,本件出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,本件特許は,特許法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。 甲1:特開2017-67807号公報 甲2:「セロキサイドの8000の熱カチオン硬化物評価」,[online],掲載年月日不明,株式会社ダイセル, 甲3:特開2002-221619号公報 甲4:高野智史編,「光学用透明樹脂における材料設計と応用技術」,技術情報協会,2007年4月27日発行,60?65頁 甲5:特開2002-196132号公報 (当合議体注:甲1,甲3,甲5は主引用例である。甲2及び甲4は,当合議体が「材質からみて…明らかである」と判断した事項を間接的に裏付ける参考資料である。) (2) 理由2(明確性要件,実施可能要件,サポート要件) 本件特許は,特許を受けようとする発明が,明確であるということができないから,本件特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。また,本件特許の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができないから,本件特許は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。加えて,本件特許は,特許を受けようとする発明が,発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから,本件特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 したがって,本件特許は特許法113条4項に該当し,取り消されるべきものである。 2 当合議体が通知しなかった取消しの理由 前記理由1の新規性についての取消しの理由に関して,特許異議申立人は,請求項4,請求項5及び請求項12についても,新規性欠如の主張をしている。 第5 理由1(新規性,進歩性)についての当合議体の判断 事案に鑑みて,前記「第4」1及び2の取消しの理由について,まとめて判断する。 1 甲1を主引用例とする新規性,進歩性について (1) 甲1の記載 甲1(特開2017-67807号公報)は,本件出願前に日本国内又は外国において,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す(以下同様。)。 ア 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,偏光子の片面にのみ保護フィルムが設けられた片保護偏光フィルムおよび当該片保護偏光フィルムと粘着剤層を有する粘着剤層付偏光フィルムに関する。前記片保護偏光フィルムおよび粘着剤層付偏光フィルムはこれ単独で,またはこれを積層した光学フィルムとして液晶表示装置(LCD),有機EL表示装置などの画像表示装置を形成しうる。 【背景技術】 【0002】 液晶表示装置には,その画像形成方式から液晶パネル表面を形成するガラス基板の両側に偏光フィルムを配置することが必要不可欠である。 …省略… 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 特許文献1,2では,偏光子の片面にのみ保護フィルムを有する片保護偏光フィルムを用いることで薄型化を図るとともに,他方では,保護層を設けることにより,片保護偏光フィルムを用いることにより生じる偏光子の吸収軸方向への貫通クラックの発生を抑えている。 …省略… 【0009】 しかし,前記貫通クラックの発生が抑制された片保護偏光フィルムまたはそれを用いた粘着剤層付偏光フィルムにおいて,特許文献3のように光学特性を制御し,かつ偏光子を薄くした場合(例えば,厚み10μm以下にした場合)には,片保護偏光フィルムまたはそれを用いた粘着剤層付偏光フィルムに機械衝撃が負荷されたとき(偏光子側に凸折れによる負荷がかかる場合を含む)に,偏光子の吸収軸方向に部分的に極細のスリット(以下,ナノスリットともいう)が発生することが分かった。 …省略… 【0012】 本発明は,薄型偏光子の片面にのみ保護フィルムを有する片保護偏光フィルムであって,前記偏光子が所定の光学特性を有し,かつ貫通クラックおよびナノスリットによる欠陥およびカールの発生を抑制することができる片保護偏光フィルムを提供することを目的とする。また,本発明は,前記片保護偏光フィルムと粘着剤層を有する粘着剤層付偏光フィルムを提供することを目的とする。 …省略… 【発明を実施するための形態】 【0033】 以下に本発明の片保護偏光フィルム11および粘着剤層付偏光フィルム12を,図1,2を参照しながら説明する。 …省略… 【0035】 また,本発明の粘着剤層付偏光フィルム12は,図2に示すように,片保護偏光フィルム(透明樹脂層付)11と,粘着剤層4を有する。粘着剤層4は,図2(A)では透明樹脂層3の側に,図2(B)では保護フィルム2の側に設けられている。なお,本発明の粘着剤層付偏光フィルム12の粘着剤層4にはセパレータ5を設けることができ,その反対側には,表面保護フィルム6を設けることができる。図2の粘着剤層付偏光フィルム12では,セパレータ5および表面保護フィルム6がいずれも設けられている場合が示されている。 …省略… 【0038】 <偏光子> 本発明では,厚み12μm以下の偏光子を用いる。 …省略… 【0040】 ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸した偏光子は,例えば,ポリビニルアルコールをヨウ素の水溶液に浸漬することによって染色し,元長の3?7倍に延伸することで作製することができる。 …省略… 【0046】 <保護フィルム> 前記保護フィルムを構成する材料としては,透明性,機械的強度,熱安定性,水分遮断性,等方性などに優れるものが好ましい。 …省略… 【0065】 <透明樹脂層> 透明樹脂層は,偏光子の片面にのみ保護フィルムが設けられた片保護偏光フィルムにおいて,偏光子の他の片面(保護フィルムを積層していない面)に設けられる。 …省略… 【0067】 透明樹脂層は,硬化性成分を含有する硬化型形成材から形成することができる。硬化性成分としては,電子線硬化型,紫外線硬化型,可視光線硬化型等の活性エネルギー線硬化型と熱硬化型に大別することができる。さらには,紫外線硬化型,可視光線硬化型は,ラジカル重合硬化型とカチオン重合硬化型に区分出来る。本発明において,波長範囲10nm?380nm未満の活性エネルギー線を紫外線,波長範囲380nm?800nmの活性エネルギー線を可視光線として表記する。前記ラジカル重合硬化型の硬化性成分は,熱硬化型の硬化性成分として用いることができる。 【0068】 ≪ラジカル重合硬化型形成材≫ 前記硬化性成分としては,例えば,ラジカル重合性化合物が挙げられる。ラジカル重合性化合物は,(メタ)アクリロイル基,ビニル基等の炭素-炭素二重結合のラジカル重合性の官能基を有する化合物が挙げられる。これら硬化性成分は,単官能ラジカル重合性化合物または二官能以上の多官能ラジカル重合性化合物のいずれも用いることができる。また,これらラジカル重合性化合物は,1種を単独で,または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらラジカル重合性化合物としては,例えば,(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好適である。なお,本発明において,(メタ)アクリロイルとは,アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を意味し,「(メタ)」は以下同様の意味である。 【0069】 ≪単官能ラジカル重合性化合物≫ 単官能ラジカル重合性化合物としては,例えば,(メタ)アクリルアミド基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体が挙げられる。(メタ)アクリルアミド誘導体は,偏光子との密着性を確保するうえで,また,重合速度が速く生産性に優れる点で好ましい。(メタ)アクリルアミド誘導体の具体例としては,例えば,N-メチル(メタ)アクリルアミド,N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド,N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド,N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド,N-ブチル(メタ)アクリルアミド,N-ヘキシル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル基含有(メタ)アクリルアミド誘導体;N-メチロール(メタ)アクリルアミド,N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド,N-メチロール-N-プロパン(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル基含有(メタ)アクリルアミド誘導体;アミノメチル(メタ)アクリルアミド,アミノエチル(メタ)アクリルアミド等のN-アミノアルキル基含有(メタ)アクリルアミド誘導体;N-メトキシメチルアクリルアミド,N-エトキシメチルアクリルアミド等のN-アルコキシ基含有(メタ)アクリルアミド誘導体;メルカプトメチル(メタ)アクリルアミド,メルカプトエチル(メタ)アクリルアミド等のN-メルカプトアルキル基含有(メタ)アクリルアミド誘導体;などが挙げられる。また,(メタ)アクリルアミド基の窒素原子が複素環を形成している複素環含有(メタ)アクリルアミド誘導体としては,例えば,N-アクリロイルモルホリン,N-アクリロイルピペリジン,N-メタクリロイルピペリジン,N-アクリロイルピロリジン等があげられる。 【0070】 前記(メタ)アクリルアミド誘導体のなかでも,偏光子との密着性の点から,N-ヒドロキシアルキル基含有(メタ)アクリルアミド誘導体が好ましく,特に,N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。 【0071】 また,単官能ラジカル重合性化合物としては,例えば,(メタ)アクリロイルオキシ基を有する各種の(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。具体的には,例えば,メチル(メタ)アクリレート,エチル(メタ)アクリレート,n-プロピル(メタ)アクリレート,イソプロピル(メタ)アクリレート,2-メチル-2-ニトロプロピル(メタ)アクリレート,n-ブチル(メタ)アクリレート,イソブチル(メタ)アクリレート,s-ブチル(メタ)アクリレート,t-ブチル(メタ)アクリレート,n-ペンチル(メタ)アクリレート,t-ペンチル(メタ)アクリレート,3-ペンチル(メタ)アクリレート,2,2-ジメチルブチル(メタ)アクリレート,n-ヘキシル(メタ)アクリレート,セチル(メタ)アクリレート,n-オクチル(メタ)アクリレート,2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート,4-メチル-2-プロピルペンチル(メタ)アクリレート,n-オクタデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸(炭素数1-20)アルキルエステル類が挙げられる。 【0072】 また,前記(メタ)アクリル酸誘導体としては,例えば,シクロヘキシル(メタ)アクリレート,シクロペンチル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート; ベンジル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート; 2-イソボルニル(メタ)アクリレート,2-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレート,5-ノルボルネン-2-イル-メチル(メタ)アクリレート,3-メチル-2-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレート,ジシクロペンテニル(メタ)アクリレ-ト,ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレ-ト,ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト,等の多環式(メタ)アクリレート; 2-メトキシエチル(メタ)アクリレート,2-エトキシエチル(メタ)アクリレート,2-メトキシメトキシエチル(メタ)アクリレート,3-メトキシブチル(メタ)アクリレート,エチルカルビトール(メタ)アクリレート,フェノキシエチル(メタ)アクリレート,アルキルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシ基またはフェノキシ基含有(メタ)アクリレート;等が挙げられる。 【0073】 また,前記(メタ)アクリル酸誘導体としては,2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート,3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート,2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート,4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート,6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート,8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート,10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート,12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや,[4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル]メチルアクリレート,シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート,2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート; グリシジル(メタ)アクリレート,4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート; 2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート,2,2,2-トリフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート,テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート,ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート,オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート,ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート,3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のハロゲン含有(メタ)アクリレート; ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート; 3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート,3-メチルーオキセタニルメチル(メタ)アクリレート,3-エチルーオキセタニルメチル(メタ)アクリレート,3-ブチルーオキセタニルメチル(メタ)アクリレート,3-ヘキシルーオキセタニルメチル(メタ)アクリレート等のオキセタン基含有(メタ)アクリレート; テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート,ブチロラクトン(メタ)アクリレート,などの複素環を有する(メタ)アクリレートや,ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸付加物,p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート等が挙げられる。 【0074】 また,単官能ラジカル重合性化合物としては,(メタ)アクリル酸,カルボキシエチルアクリレート,カルボキシペンチルアクリレート,イタコン酸,マレイン酸,フマル酸,クロトン酸,イソクロトン酸などのカルボキシル基含有モノマーが挙げられる。 【0075】 また,単官能ラジカル重合性化合物としては,例えば,N-ビニルピロリドン,N-ビニル-ε-カプロラクタム,メチルビニルピロリドン等のラクタム系ビニルモノマー;ビニルピリジン,ビニルピペリドン,ビニルピリミジン,ビニルピペラジン,ビニルピラジン,ビニルピロール,ビニルイミダゾール,ビニルオキサゾール,ビニルモルホリン等の窒素含有複素環を有するビニル系モノマー等が挙げられる。 【0076】 また,単官能ラジカル重合性化合物としては,活性メチレン基を有するラジカル重合性化合物を用いることができる。活性メチレン基を有するラジカル重合性化合物は,末端または分子中に(メタ)アクリル基などの活性二重結合基を有し,かつ活性メチレン基を有する化合物である。活性メチレン基としては,例えばアセトアセチル基,アルコキシマロニル基,またはシアノアセチル基などが挙げられる。前記活性メチレン基がアセトアセチル基であることが好ましい。活性メチレン基を有するラジカル重合性化合物の具体例としては,例えば2-アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート,2-アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート,2-アセトアセトキシ-1-メチルエチル(メタ)アクリレートなどのアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート;2-エトキシマロニルオキシエチル(メタ)アクリレート,2-シアノアセトキシエチル(メタ)アクリレート,N-(2-シアノアセトキシエチル)アクリルアミド,N-(2-プロピオニルアセトキシブチル)アクリルアミド,N-(4-アセトアセトキシメチルベンジル)アクリルアミド,N-(2-アセトアセチルアミノエチル)アクリルアミドなどが挙げられる。活性メチレン基を有するラジカル重合性化合物は,アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートであることが好ましい。 【0077】 ≪多官能ラジカル重合性化合物≫ また,二官能以上の多官能ラジカル重合性化合物としては,例えば,トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート,テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート,1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート,1,10-デカンジオールジアクリレート,2-エチル-2-ブチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート,ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート,ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート,ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート,ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート,ネオぺンチルグリコールジ(メタ)アクリレート,トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリート,環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート,ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート,ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート,EO変性ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と多価アルコールとのエステル化物,9,9-ビス[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンがあげられる。具体例としては,アロニックスM-220,M-306(東亞合成社製),ライトアクリレート1,9ND-A(共栄社化学社製),ライトアクリレートDGE-4A(共栄社化学社製),ライトアクリレートDCP-A(共栄社化学社製),SR-531(Sartomer社製),CD-536(Sartomer社製)等が挙げられる。また必要に応じて,各種のエポキシ(メタ)アクリレート,ウレタン(メタ)アクリレート,ポリエステル(メタ)アクリレートや,各種の(メタ)アクリレート系モノマー等が挙げられる。 …省略… 【0094】 ≪カチオン重合硬化型形成材≫ カチオン重合硬化型形成材の硬化性成分としては,エポキシ基やオキセタニル基を有する化合物が挙げられる。エポキシ基を有する化合物は,分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有するものであれば特に限定されず,一般に知られている各種の硬化性エポキシ化合物を用いることができる。好ましいエポキシ化合物として,分子内に少なくとも2個のエポキシ基と少なくとも1個の芳香環を有する化合物(芳香族系エポキシ化合物)や,分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有し,そのうちの少なくとも1個は脂環式環を構成する隣り合う2個の炭素原子との間で形成されている化合物(脂環式エポキシ化合物)等が例として挙げられる。 【0095】 <その他の成分> 本発明に係る硬化型形成材は,下記成分を含有することが好ましい。 【0096】 <アクリル系オリゴマー> 本発明に係る活性エネルギー線硬化型形成材は,前記ラジカル重合性化合物に係る硬化性成分に加えて,(メタ)アクリルモノマーを重合してなるアクリル系オリゴマーを含有することができる。 …省略… 【0097】 活性エネルギー線硬化型形成材は,塗工時の作業性や均一性を考慮した場合,低粘度であることが好ましいため,(メタ)アクリルモノマーを重合してなるアクリル系オリゴマーも低粘度であることが好ましい。低粘度であって,かつ透明樹脂層の硬化収縮を防止できるアクリル系オリゴマーとしては,重量平均分子量(Mw)が15000以下のものが好ましく,10000以下のものがより好ましく,5000以下のものが特に好ましい。一方,透明樹脂層の硬化収縮を十分に抑制するためには,アクリル系オリゴマーの重量平均分子量(Mw)が500以上であることが好ましく,1000以上であることがより好ましく,1500以上であることが特に好ましい。アクリル系オリゴマーを構成する(メタ)アクリルモノマーとしては,具体的には例えば,メチル(メタ)アクリレート,エチル(メタ)アクリレート,n-プロピル(メタ)アクリレート,イソプロピル(メタ)アクリレート,2-メチル-2-ニトロプロピル(メタ)アクリレート,n-ブチル(メタ)アクリレート,イソブチル(メタ)アクリレート,S-ブチル(メタ)アクリレート,t-ブチル(メタ)アクリレート,n-ペンチル(メタ)アクリレート,t-ペンチル(メタ)アクリレート,3-ペンチル(メタ)アクリレート,2,2-ジメチルブチル(メタ)アクリレート,n-ヘキシル(メタ)アクリレート,セチル(メタ)アクリレート,n-オクチル(メタ)アクリレート,2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート,4-メチル-2-プロピルペンチル(メタ)アクリレート,N-オクタデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸(炭素数1-20)アルキルエステル類,さらに,例えば,シクロアルキル(メタ)アクリレート(例えば,シクロヘキシル(メタ)アクリレート,シクロペンチル(メタ)アクリレートなど),アラルキル(メタ)アクリレート(例えば,ベンジル(メタ)アクリレートなど),多環式(メタ)アクリレート(例えば,2-イソボルニル(メタ)アクリレート,2-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレート,5-ノルボルネン-2-イル-メチル(メタ)アクリレート,3-メチル-2-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレートなど),ヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル類(例えば,ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート,2,3-ジヒドロキシプロピルメチル-ブチル(メタ)メタクリレートなど),アルコキシ基またはフェノキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類(2-メトキシエチル(メタ)アクリレート,2-エトキシエチル(メタ)アクリレート,2-メトキシメトキシエチル(メタ)アクリレート,3-メトキシブチル(メタ)アクリレート,エチルカルビトール(メタ)アクリレート,フェノキシエチル(メタ)アクリレートなど),エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類(例えば,グリシジル(メタ)アクリレートなど),ハロゲン含有(メタ)アクリル酸エステル類(例えば,2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート,2,2,2-トリフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート,テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート,ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート,オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート,ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレートなど),アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート(例えば,ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど)などが挙げられる。これら(メタ)アクリレートは,単独使用または2種類以上併用することができる。アクリル系オリゴマーの具体例としては,東亞合成社製「ARUFON」,綜研化学社製「アクトフロー」,BASFジャパン社製「JONCRYL」などが挙げられる。 …省略… 【0113】 また,前記透明樹脂層を形成する材料として,例えば,シアノアクリレート系形成材,エポキシ系形成材,またはイソシアネート系形成材を用いることができる。 【0114】 シアノアクリレート系形成材としては,例えば,メチル-α-シアノアクリレート,エチル-α-シアノアクリレート,ブチル-α-シアノアクリレート,オクチル-α-シアノアクリレート等のアルキル-α-シアノアクリレート,シクロヘキシル-α-シアノアクリレート,メトキシ-α-シアノアクリレート等があげられる。シアノアクリレート系形成材としては,例えば,シアノアクリレート系接着剤として用いられるものを用いることができる。 【0115】 エポキシ系形成材は,エポキシ樹脂単体で用いてもよいし,エポキシ硬化剤を含有してもよい。エポキシ樹脂を単体で用いる場合には,光重合開始剤を添加し活性エネルギー線を照射することで硬化させる。エポキシ系形成材としてエポキシ硬化剤を添加する場合には,例えば,エポキシ系接着剤として用いられるものを用いることができる。エポキシ系形成材の使用形態は,エポキシ樹脂とその硬化剤を含有してなる1液型として用いることもできるが,エポキシ樹脂に硬化剤を配合する2液型として用いられる。エポキシ系形成材は,通常,溶液として用いられる。溶液は溶剤系であってもよいし,エマルジョン,コロイド分散液,水溶液等の水系であってもよい。 【0116】 エポキシ樹脂としては,分子内に2個以上のエポキシ基を含有する各種化合物を例示でき,例えば,ビスフェノール型エポキシ樹脂,脂肪族系エポキシ樹脂,芳香族系エポキシ樹脂,ハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂,ビフェニル系エポキシ樹脂などがあげられる。また,エポキシ樹脂は,エポキシ当量や官能基数に応じて適宜に決定することができるが,耐久性の観点よりエポキシ当量500以下のものが好適に用いられる。 【0117】 エポキシ樹脂の硬化剤は特に制限されず,フェノール樹脂系,酸無水物系,カルボン酸系,ポリアミン系等の各種のものを使用できる。フェノール樹脂系の硬化剤としては,例えば,フェノールノボラック樹脂,ビスフェノールノボラック樹脂,キシリレンフェノール樹脂,クレゾールノボラツク樹脂等が用いられる。酸無水物系の硬化剤としては;無水マレイン酸,テトラヒドロ無水フタル酸,ヘキサヒドロ無水フタル酸,無水コハク酸等があげられ,カルボン酸系の硬化剤としてはピロメリット酸,トリメリット酸等のカルボン酸類及びビニルエーテルを付加したブロックカルボン酸類があげられる。また,エポキシ系二液形成材としては,例えば,エポキシ樹脂とポリチオールの二液からなるもの,エポキシ樹脂とポリアミドの二液からなるものなどを用いることができる。 【0118】 硬化剤の配合量は,エポキシ樹脂との当量により異なるが,エポキシ樹脂100重量部に対して,30?70重量部,さらには40?60重量部とするのが好ましい。 【0119】 さらに,エポキシ系形成材には,エポキシ樹脂およびその硬化剤に加えて,各種の硬化促進剤を用いることができる。硬化促進剤としては,例えば,各種イミダゾール系化合物及びその誘導体,ジシアンジアミド等があげられる。 【0120】 イソシアネート系形成材としては,粘着剤層の形成において架橋剤として用いるものがあげられる。イソシアネート系架橋剤としては,少なくとも2つのイソシアネート基を有する化合物を使用できる。例えば,前記ポリイソシアネート化合物をイソシアネート系形成材として使用できる。詳しくは,2,4-トリレンジイソシアネート,2,6-トリレンジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート,1,3-ビスイソシアナトメチルシクロヘキサン,ヘキサメチレンジイソシアネート,テトラメチルキシリレンジイソシアネート,m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート,メチレンビス4-フェニルイソシアネート,p-フェニレンジイソシアネートまたはこれらの2量体やイソシアヌル酸トリス(6-インシアネートヘキシル)などの3量体,さらにはこれらのビウレットやトリメチロールプロパンなどの多価アルコールや多価アミンと反応させたものなどがあげられる。またイソシアネート系架橋剤としては,イソシアヌル酸トリス(6-インシアネートヘキシル)などのイソシアネート基を3個以上有するものが好ましい。イソシアネート系形成材としては,例えば,イソシアネート系接着剤として用いられるものがあげられる。 【0121】 イソシアネート系形成材のなかでも,本発明では,分子構造的に環状構造(ベンゼン環,シアヌレート環,イソシアヌレート環等)が構造中で占める割合の大きなリジットな構造のものを使用することが好ましい。イソシアネート系形成材としては,例えば,トリメチロールプロパン-トリ-トリレンイソシアネート,トリス(ヘキサメチレンイソシアネート)イソシアヌレート等が好まし用いられる。 …省略… 【0128】 透明樹脂層は,硬化性成分を含有しない形成材から形成されていてもよく,例えば前記ポリビニルアルコール系樹脂を主成分として含有する形成材から形成されてもよい。透明樹脂層を形成するポリビニルアルコール系樹脂は,「ポリビニルアルコール系樹脂」である限り,偏光子が含有するポリビニルアルコール系樹脂と同一でも異なっていてもよい。 【0129】 前記ポリビニルアルコール系樹脂としては,例えば,ポリビニルアルコールが挙げられる。ポリビニルアルコールは,ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。また,ポリビニルアルコール系樹脂としては,酢酸ビニルと共重合性を有する単量体との共重合体のケン化物が挙げられる。前記共重合性を有する単量体がエチレンの場合には,エチレン-ビニルアルコール共重合体が得られる。また,前記共重合性を有する単量体としては,(無水)マレイン酸,フマール酸,クロトン酸,イタコン酸,(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸およびそのエステル類;エチレン,プロピレン等のα-オレフィン,(メタ)アリルスルホン酸(ソーダ),スルホン酸ソーダ(モノアルキルマレート),ジスルホン酸ソーダアルキルマレート,N-メチロールアクリルアミド,アクリルアミドアルキルスルホン酸アルカリ塩,N-ビニルピロリドン,N-ビニルピロリドン誘導体等が挙げられる。これらポリビニルアルコール系樹脂は一種を単独で又は二種以上を併用することができる。前記透明樹脂層の結晶融解熱量を30mj/mg以上に制御して,耐湿熱性や耐水性を満足させる観点から,ポリ酢酸ビニルをケン化して得られたポリビニルアルコールが好ましい。 …省略… 【0139】 前記透明樹脂層としては,紫外線硬化型アクリル系樹脂,紫外線硬化型エポキシ系樹脂,ウレタン系樹脂またはポリビニルアルコール系樹脂から形成されていることが好ましい。ウレタン系樹脂層は前記イソシアネート系形成材から形成される。 【0140】 <粘着剤層> 粘着剤層の形成には,適宜な粘着剤を用いることができ,その種類について特に制限はない。 …省略… 【0152】 <表面保護フィルム> 片保護偏光フィルム,粘着剤層付偏光フィルムには,表面保護フィルムを設けることができる。表面保護フィルムは,通常,基材フィルムおよび粘着剤層を有し,当該粘着剤層を介して偏光子を保護する。 …省略… 【実施例】 【0171】 以下に,本発明を実施例を挙げて説明するが,本発明は以下に示した実施例に制限されるものではない。なお,各例中の部および%はいずれも重量基準である。以下に特に規定のない室温放置条件は全て23℃65%RHである。 【0172】 <偏光子の作製> (偏光子A0の作製) 吸水率0.75%,Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm)基材の片面に,コロナ処理を施し,このコロナ処理面に,ポリビニルアルコール(重合度4200,ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200,アセトアセチル変性度4.6%,ケン化度99.0モル%以上,日本合成化学工業社製,商品名「ゴーセファイマーZ200」)を9:1の比で含む水溶液を25℃で塗布および乾燥して,厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し,積層体を作製した。 得られた積層体を,120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.0倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸処理)。 次いで,積層体を,液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して,ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。 次いで,液温30℃の染色浴に,偏光板が所定の透過率となるようにヨウ素濃度,浸漬時間を調整しながら浸漬させた。本実施例では,水100重量部に対して,ヨウ素を0.2重量部配合し,ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液に60秒間浸漬させた(染色処理)。 次いで,液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して,ヨウ化カリウムを3重量部配合し,ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。 その後,積層体を,液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して,ホウ酸を4重量部配合し,ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら,周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。 その後,積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して,ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。 以上により,厚み5μmの偏光子を含む光学フィルム積層体を得た。 …省略… 【0177】 <保護フィルム> アクリルフィルム1:厚み40μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂フィルムの易接着処理面にコロナ処理を施して用いた。 …省略… 【0182】 <保護フィルムに適用する接着剤の作製> (アクリル接着剤1) 前記透明樹脂層の形成材のアクリル系形成材の組成(アクリル1)と同じである。 …省略… 【0187】 <透明樹脂層の形成材> (ポリビニルアルコール系形成材:PVA1) 重合度2500,ケン化度99.7モル%のポリビニルアルコール樹脂を純水に溶解し,固形分濃度4重量%の水溶液を調製した。 【0188】 (アクリル系形成材の組成:アクリル1) N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(興人社製,商品名「HEAA」) 20部 ウレタンアクリレート(日本合成化学社製,商品名「UV-1700B」) 80部 光ラジカル重合開始剤(2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン,BASF社製,商品名「IRGACURE907」) 3部 光増感剤(ジエチルチオキサントン,日本化薬社製,商品名「KAYACURE DETX-S」) 2部 【0189】 (エポキシ系形成材の組成:エポキシ1) 3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業社製,商品名「セロキサイド2021P」) 100部 光カチオン重合開始剤(4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート,サンアプロ社製,商品名「CPI-100P」) 1部 【0190】 (活性エネルギー線硬化型形成材の調製) 上記接着剤,透明樹脂の形成材のなで,アクリル系,エポキシ系の材料はそれぞれ混合して50℃で1時間撹拌して,各種の活性エネルギー線硬化型形成材を調製した。 【0191】 <粘着剤層の形成> (アクリル粘着剤1) ≪アクリル系ポリマーの調製≫ 攪拌羽根,温度計,窒素ガス導入管,冷却器を備えた4つ口フラスコに,ブチルアクリレート99部およびアクリル酸4-ヒドロキシブチル1部を含有するモノマー混合物を仕込んだ。さらに,前記モノマー混合物(固形分)100部に対して,重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル0.1部を酢酸エチルと共に仕込み,緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して窒素置換した後,フラスコ内の液温を60℃付近に保って7時間重合反応を行った。その後,得られた反応液に,酢酸エチルを加えて,固形分濃度30%に調整した,重量平均分子量140万のアクリル系ポリマーの溶液を調製した。 【0192】 ≪粘着剤組成物の調製≫ 上記アクリル系ポリマー溶液の固形分100部に対して,エチルメチルピロリジニウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(東京化成工業製)0.2部およびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(三菱マテリアル電子化成社製)1部を配合し,さらに,トリメチロールプロパンキシリレンジイソシアネート(三井化学社製:タケネートD110N)0.1部と,ジベンゾイルパーオキサイド0.3部と,γ-グリシドキシプロピルメトキシシラン(信越化学工業社製:KBM-403)0.075部を配合して,アクリル系粘着剤溶液を調製した。 …省略… 【0195】 実施例1?28,比較例1?5 (片保護偏光フィルムの作製) 表1に示す偏光子,接着剤,保護フィルムを用いて片保護偏光フィルムを作製した。得られた片保護偏光フィルムの光学特性(単体透過率,偏光度),を表2に示す。なお,実施例9では2枚の保護フィルムを用いているが,2枚の保護フィルムの積層についても,表1に記載の接着剤層を用いた。 【0196】 上記において,偏光子A0?A3,Cを用いる場合には上記光学フィルム積層体の偏光子の表面に,表1に示す厚さの接着剤層を介して保護フィルムを貼合せた。次いで,非晶性PET基材を剥離し,薄型偏光子を用いた片保護偏光フィルムを作製した。偏光子Bを用いる場合にはPVA系偏光子の片面に,表1に示す厚さ接着剤層を介して保護フィルムを貼合せた。 【0197】 また,上記において,接着剤がアクリル接着剤1乃至3,エポキシ接着剤1の場合(紫外線硬化型接着剤の場合)には,当該接着剤を表1に示す硬化後の接着剤層の厚みとなるように,偏光子の表面に塗布しながら,上記保護フィルムを貼合せたのち,活性エネルギー線として,紫外線を照射し,接着剤を硬化させた。 …省略… 【0198】 <透明樹脂層付の片保護偏光フィルムを作製> 上記片保護偏光フィルムの偏光子の面(透明保護フィルムが設けられていない偏光子面)に,表2に示す厚さになるように,表2に示す透明樹脂層の形成材を用いて,透明樹脂層付の片保護偏光フィルムを作製した。 【0199】 上記において,透明樹脂層の形成材として,アクリル1,エポキシ1の形成材を用いる場合には,ワイヤーバーコーターを用いて,偏光子表面に塗工した後,窒素雰囲気下で活性エネルギー線を照射することで,透明樹脂層を形成した。なお,活性エネルギー線の照射は,片保護偏光フィルムの作製で用いたものと同様にして行った。 …省略… 【0201】 <粘着剤層付偏光フィルムの作製> 上記アクリル系粘着剤1乃至3の溶液を,乾燥後の厚さが5μm,15μm,20μm,または40μmになるように,シリコーン系剥離剤で処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレータフィルム)の表面に,ファウンテンコータで均一に塗工し,155℃の空気循環式恒温オーブンで2分間乾燥し,セパレータフィルムの表面に粘着剤層を形成した。 【0202】 次いで,片保護偏光フィルムに形成した透明樹脂層に,上記離型シート(セパレータ)の剥離処理面に形成した粘着剤層を,表2に示す種類,厚さになるように,貼り合わせて,粘着剤層付偏光フィルムを作製した。 …省略… 【0215】 【表2】 ![]() 」 (当合議体注:表中の「アクリル接着1」及び「アクリル粘着1」は,それぞれ【0182】及び【0191】でいう「アクリル接着剤1」及び「アクリル粘着剤1」のことと認められる。) イ 図2 ![]() (2) 甲1発明 甲1の【0215】の【表1】に記載された「実施例17」は,【0195】?【0202】の記載からみて,「アクリル粘着剤1を用いて形成された粘着剤層,エポキシ1を用いて形成された透明樹脂層,偏光子A0,アクリル接着剤1を用いて形成された接着剤層,及びアクリルフィルム1である保護フィルム1が,この順に積層されてなる粘着剤層付偏光フィルム」である。 ここで,甲1の【0191】の記載からみて,上記「アクリル粘着剤1」は,「ブチルアクリレート及びアクリル酸4-ヒドロキシブチルを重合させてなるアクリル系ポリマーの溶液」である。また,【0189】及び【0190】の記載からみて,上記「エポキシ1」は,「3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(セロキサイド2021P)及び光カチオン重合開始剤(CPI-100P)の混合物」である。そして,【0182】,【0188】及び【0190】の記載からみて,上記「アクリル接着剤1」は,「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA),ウレタンアクリレート(UV-1700B),光ラジカル重合開始剤(IRGACURE 907)及び光増感剤(KAYACURE DETX-S)の混合物」である。 加えて,【0172】の記載からみて,上記「偏光子A0」は,「ポリビニールアルコール系樹脂層をヨウ素水溶液に浸漬させ染色処理してなる光学フィルム」であり,また,【0177】の記載からみて,上記「アクリルフィルム1」は,「厚み40μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂フィルム」である。 以上勘案すると,甲1には,次の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。 「 アクリル粘着剤1を用いて形成された粘着剤層,エポキシ1を用いて形成された透明樹脂層,偏光子A0,アクリル接着剤1を用いて形成された接着剤層,及びアクリルフィルム1である保護フィルム1が,この順に積層されてなる粘着剤層付偏光フィルムであって, アクリル粘着剤1は,ブチルアクリレート及びアクリル酸4-ヒドロキシブチルを重合させてなるアクリル系ポリマーの溶液であり,エポキシ1は,3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(セロキサイド2021P)及び光カチオン重合開始剤(CPI-100P)の混合物であり,アクリル接着剤1は,N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA),ウレタンアクリレート(UV-1700B),光ラジカル重合開始剤(IRGACURE 907)及び光増感剤(KAYACURE DETX-S)の混合物であり, 偏光子A0は,ポリビニールアルコール系樹脂層をヨウ素水溶液に浸漬させ染色処理してなる光学フィルムであり,アクリルフィルム1は,厚み40μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂フィルムである, 粘着剤層付偏光フィルム。」 (3) 対比 本件特許発明1と甲1発明を対比すると,以下のとおりとなる。 ア 偏光フィルム 甲1発明の「粘着剤層付偏光フィルム」は,「アクリル粘着剤1を用いて形成された粘着剤層,エポキシ1を用いて形成された透明樹脂層,偏光子A0,アクリル接着剤1を用いて形成された接着剤層,及びアクリルフィルム1である保護フィルム1が,この順に積層されてなる」。また,甲1発明の「偏光子A0は,ポリビニールアルコール系樹脂層をヨウ素水溶液に浸漬させ染色処理してなる光学フィルムであり,アクリルフィルム1は,厚み40μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂フィルムである」。 ここで,甲1発明の「偏光子A0」及び「透明樹脂層」は,その文言が意味するとおりのものであり,また,「アクリルフィルム1」が透明な層状のものであることは,技術常識である。そして,上記「偏光子A0」の製造工程からみて,甲1発明の「偏光子A0」は,「ヨウ素」を含有したものである。さらに,上記の積層関係からみて,甲1発明の「粘着剤層付偏光フィルム」は,「偏光子A0」,「偏光子A0」の片面に「透明樹脂層」,及び「偏光子A0」の他の片面に「アクリルフィルム1」を有するものである。 そうしてみると,甲1発明の「偏光子A0」,「透明樹脂層」,「アクリルフィルム1」及び「粘着剤層付偏光フィルム」は,それぞれ,本件特許発明1の「ヨウ素含有偏光子」,「第一透明層」,「第二透明層」及び「偏光フィルム」に相当する。また,甲1発明の「粘着剤層付偏光フィルム」は,本件特許発明1の「偏光フィルム」における,「ヨウ素含有偏光子,前記偏光子の片面に第一透明層,および前記偏光子の他の片面に第二透明層を有する」という要件を満たす。 イ 第一透明層の飽和水分率 甲1発明の「透明樹脂層」は,「エポキシ1を用いて形成された」ものである。そして,甲1発明の「エポキシ1」は,「3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(セロキサイド2021P)及び光カチオン重合開始剤(CPI-100P)の混合物」である。他方,甲1発明の「偏光子A0」は,「ポリビニールアルコール系樹脂層をヨウ素水溶液に浸漬させ染色処理してなる光学フィルムであ」る。 技術常識を勘案すると,甲1発明の「透明樹脂層」の85℃,85%R.H.における飽和水分率が,「偏光子A0」の85℃,85%R.H.における飽和水分率よりも低いことは,明らかである。 そうしてみると,甲1発明の「透明樹脂層」は,本件特許発明1の「第一透明層」の,「85℃,85%R.H.における飽和水分率は,前記偏光子の85℃,85%R.H.における飽和水分率よりも低く」という要件を満たす。 ウ 第2透明層の飽和水分率 甲1発明の「アクリルフィルム1」は,「厚み40μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂フィルムである」。 技術常識を勘案すると,甲1発明の「アクリルフィルム1」は,本件特許発明1の「第二透明層」の,「85℃,85%R.H.における飽和水分率が5重量%以下である」という要件を満たす。 (4) 一致点及び相違点 ア 一致点 本件特許発明1と甲1発明は,次の構成で一致する。 「 ヨウ素含有偏光子,前記偏光子の片面に第一透明層,および前記偏光子の他の片面に第二透明層を有する偏光フィルムであって, 前記第一透明層の85℃,85%R.H.における飽和水分率は,前記偏光子の85℃,85%R.H.における飽和水分率よりも低く, 前記第二透明層の85℃,85%R.H.における飽和水分率が5重量%以下である偏光フィルム。」 イ 相違点 本件特許発明1と甲1発明は,次の点で相違する。 (相違点1-1) 「第一透明層」が,本件特許発明1は,「前記偏光子中の水分の排出を助ける浸透膜として機能し,かつ,トリレンジイソシアネートおよびジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるいずれか少なくとも1種を含有するイソシアネート化合物と多価アルコールとの反応物であるウレタンプレポリマーを含有する形成材の硬化物であり」という要件を満たすものであるのに対して,甲1発明は,少なくとも,「トリレンジイソシアネートおよびジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるいずれか少なくとも1種を含有するイソシアネート化合物と多価アルコールとの反応物であるウレタンプレポリマーを含有する形成材の硬化物」ではない点。 (5) 判断 ア 新規性について 本件特許発明1と甲1発明は,前記(4)イの相違点1-1において相違するから,両者は同一であるということができない。 イ 進歩性について 「透明樹脂層」の材料に関しては,甲1の【0065】?【0139】において種々の選択肢が開示されている。 すなわち,まず,【0067】には,[A]「透明樹脂層は,硬化性成分を含有する硬化型形成材から形成することができる。硬化性成分としては,電子線硬化型,紫外線硬化型,可視光線硬化型等の活性エネルギー線硬化型と熱硬化型に大別することができる。さらには,紫外線硬化型,可視光線硬化型は,ラジカル重合硬化型とカチオン重合硬化型に区分出来る。」と記載されている。そして,[A-1]「ラジカル重合硬化型形成材」について,【0069】?【0077】に「単官能ラジカル重合性化合物」及び「多官能ラジカル重合性化合物」の多数の材料が列挙され,また,[A-2]「カチオン重合硬化型形成材」について,【0094】に「カチオン重合硬化型形成材の硬化性成分としては,エポキシ基やオキセタニル基を有する化合物が挙げられる。」と記載されている。 次に,[B]【0095】に「本発明に係る硬化型形成材は,下記成分を含有することが好ましい。」と記載された後,【0096】及び【0097】に「アクリル系オリゴマー」の多数の材料が列挙されている。 さらに,[C]【0113】に「前記透明樹脂層を形成する材料として,例えば,シアノアクリレート系形成材,エポキシ系形成材,またはイソシアネート系形成材を用いることができる。」と記載され,[C-1]【0114】に「シアノアクリレート系形成材」の多数の材料が列挙され,[C-2]【0115】?【0117】に「エポキシ系形成材」の多数の材料が列挙され,[C-3]【0120】及び【0121】に「イソシアネート系形成材」の多数の材料が列挙されている。 加えて,[D]【0128】に「透明樹脂層は,硬化性成分を含有しない形成材から形成されていてもよく,例えば前記ポリビニルアルコール系樹脂を主成分として含有する形成材から形成されてもよい。」と記載され,[D-1]【0129】に「ポリビニルアルコール系樹脂」の多数の材料が列挙されている。 そして,最後に,【0139】には,「前記透明樹脂層としては,紫外線硬化型アクリル系樹脂,紫外線硬化型エポキシ系樹脂,ウレタン系樹脂またはポリビニルアルコール系樹脂から形成されていることが好ましい。ウレタン系樹脂層は前記イソシアネート系形成材から形成される。」と記載されている。 ここで,甲1の【0120】の記載からは,[C-3]「イソシアネート系形成材」として,[C-3a]「2,4-トリレンジイソシアネート,2,6-トリレンジイソシアネート」の「トリメチロールプロパンなどの多価アルコール」「と反応させたもの」の選択肢を読み取ることができる。また,【0121】には,[C-3b]「イソシアネート系形成材としては,例えば,トリメチロールプロパン-トリ-トリレンイソシアネート…等が好まし用いられる。」と記載されている(当合議体注:「好まし用い」は「好ましく用い」の誤記である。)。そして,これら選択肢のものは,本件特許発明1における,「トリレンジイソシアネート…を含有するイソシアネート化合物と多価アルコールとの反応物であるウレタンプレポリマー」の要件を満たすといえる。 (当合議体注:[C-3a]や[C-3b]の選択肢のものは,本件特許の明細書の【0101】に記載された「コロネートL」と同様のものと考えられる。) しかしながら,甲1の【0065】?【0139】に開示された「透明樹脂層」の選択肢は,その数は措くとしても,その種類において,紫外線硬化型(上記[A]及び[B])や熱硬化型(上記[C-2])から,それ自体反応性に富むもの(上記[C-1]及び[C-3]),さらには硬化性成分を含有しない水性のもの(上記[D])まで,多様なものである。ここで,甲1発明の「透明樹脂層」は,「エポキシ1を用いて形成された」もの(上記[A-2])であるのに対し,相違点1-1に係る本件特許発明1のものは,「イソシアネート系形成材」(上記[C-3])であり,両者は,その反応の機序はもちろん,取扱い性等においても大きく異なる。 そうしてみると,甲1発明を出発点としたときに,当業者が,上記[A-2]に属する「エポキシ1」を,上記[C-3]に属する「イソシアネート系形成材」に替えることを,実際に試みるとはいいがたい。 加えて,甲1の【0215】の【表2】に記載された実施例1?実施例28の「透明樹脂層」についてみても,そこで実際に用いられているものは,[D-1]に該当する「PVA-1」,[A-1]に該当する「アクリル1」,又は[A-2]に該当する「エポキシ1」にとどまる。すなわち,甲1には,相違点1-1に係る本件特許発明のものに対応する,「イソシアネート系形成材」(上記[C-3])に関する具体例は何ら,開示されていない。このような甲1の記載を勘案すると,当業者が「イソシアネート系形成材」(上記[C-3])に着目するとはいいがたく,まして,その一選択肢である[C-3a]や[C-3b]に目を向けるとまではいえない。 そして,特許異議申立人が提出した他の証拠(甲2?甲5)においても,甲1発明の「エポキシ1」を,上記[C-3a]や[C-3b]のものに替えることを動機づけるような記載はない。すなわち,甲2は,上記[A-2]に該当する「セロキサイド2021P」等が記載されているにとどまる。また,甲3?甲5には,甲1発明の「透明樹脂層」に該当するものが,記載されていない。 以上勘案すると,甲1発明において相違点1-1に係る本件特許発明1の構成を採用することは,たとえ当業者といえども,容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (6) 本件特許発明2,3及び7?12について 本件特許発明2,3及び7?11は,いずれも,本件特許発明1に対してさらに他の構成を付加した「偏光フィルム」の発明であるから,本件特許発明1と同じ理由により,甲1発明と同一であるということはできず,また,たとえ当業者といえども容易に発明をすることができたものであるということもできない。 本件特許発明12は,「請求項1?3または7?11のいずれかに記載の偏光フィルムを有する画像表示装置」の発明であるから,本件特許発明12についても,甲1発明と同一であるということはできず,また,たとえ当業者といえども,容易に発明をすることができたものであるということもできない。 2 甲3を主引用例とする新規性,進歩性について (1) 甲3の記載 甲3(特開2002-221619号公報)は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには以下の記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】偏光子の片面に保護膜(a)として水蒸気透過率が(40℃×90%RHにおいて)約200?約3000g/m^(2)・24hrのプラスチックフィルムを,且つその反対側の面に保護膜(b)として環状オレフィン系樹脂フィルムを積層されてなる偏光板。 【請求項2】接着剤としてポリビニルアルコール系水溶液を用いて保護膜(a)及び保護膜(b)を積層することを特徴とする請求項1記載の偏光板。 【請求項3】水蒸気透過率が(40℃×90%RHにおいて)約200?約3000g/m^(2)・24hrのプラスチックフィルムが,酢酸セルロース系フィルムであることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の偏光板。」 イ 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は生産性に優れ,且つ,高湿熱環境下で使用された場合でも偏光度の低下がない,耐久性に優れた偏光板に関する。 【0002】 【従来の技術】従来の偏光板は,ポリビニルアルコール(以下,PVAと称す)系フィルムにヨウ素又は2色性染料を吸着配向させた偏光子に,保護膜である三酢酸セルロース系フィルム(以下,TACと称す)を,PVA樹脂の水溶液を接着剤として積層したものが一般的であった。 【0003】しかしながらTACは吸水率や透湿度が大きいため,TACを保護膜とする偏光板は高温多湿の環境下での偏光度の低下が激しかった。 【0004】このため吸水率や水蒸気透過率が小さいフィルムを保護膜とする偏光板が提案されている。…省略…しかしながら,吸水率や水蒸気透過率が小さいフィルムを保護膜として使用し,偏光板を安定的に量産するには,大きな技術的な課題が残っていた。つまり,偏光子に保護膜を積層する際に,吸水率や水蒸気透過率が小さいフィルムを保護膜にすると,偏光子や接着剤に含まれる水分が接着剤の乾燥工程で保護膜を通して蒸発しにくく,その結果,製造された偏光板の水分率が大きくなり,接着強度の不足や,偏光度の低下が発生しやすいという問題点があった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は,従来の製造工程でも安定的に水分率の低い偏光板が製造でき,且つ,高湿熱環境下で使用された場合でも偏光度の低下や,色相の変化等の性能低下がない,耐久性に優れた偏光板を提供することにある。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明は,偏光子の片面に保護膜(a)として水蒸気透過率が(40℃×90%RHにおいて)約200?約3000g/m^(2)・24hrのプラスチックフィルムを,且つその反対側の面に保護膜(b)として環状オレフィン系樹脂フィルムを積層されてなる偏光板に関する。 【0007】接着剤としてポリビニルアルコール系水溶液を用いて保護膜(a)及び保護膜(b)を積層するのが好ましい。」 ウ 「【0009】 【発明の実施の形態】 …省略… 【0037】(実施例1)環状オレフィン系樹脂(日本ゼオン株式会社製 ZEONEX490)30重量部をキシレン,シクロヘキサン混合溶媒(重量混合比2:1)70重量部に溶解し,流延法によりフィルムを製膜し,厚さ50μm保護膜(b)を得た。さらに片側表面に,アクリル系アンカーコート材を介して,ポリビニルアルコール樹脂を易接着層として約0.5μm形成した。 【0038】かくして得た保護膜の水蒸気透過率は3.0g/m^(2)・24hr(at.40℃×90%RH)であった。 【0039】PVAフィルム(株式会社クラレ製 クラレビニロンフィルムVF-9X75R,厚さ75μm)を水5000重量部,ヨウ素35重量部,ヨウ化カリウム525重量部からなる水溶液に5分間浸漬し,ヨウ素を吸着させた。次いでこのフィルムを45℃の4重量%ホウ酸水溶液中で,4.4倍に縦方向1軸延伸をした後,緊張状態のまま乾燥して偏光子を得た。 【0040】次いで,偏光子の片面に上記で得た保護膜(b)の易接着層面がくるように接着剤として平均重合度1800,ケン化度99%のPVAの5%水溶液を用いて積層し,また,その反対面に保護膜(a)として,厚み80μm,透湿度600g/m^(2)・24hr(40℃×90%RH)のTACがくるように積層し,接着剤として平均重合度1800,ケン化度99%のPVAの5%水溶液を用い,両側界面に乾燥後の厚さ0.5μmとなるように接着剤が未乾燥の状態で形成されるようにし,ゴムロール/金属ロール(ゴムロール直径200mm,金属ロール直径350mm,線圧10kg/cm)間でニップし,70℃3分間の乾燥ゾーンを通過させた後,巻き取った。得られた偏光板の構成は,(a)層/PVA水溶液0.5μm/偏光子/PVA水溶液0.5μm/易接着処理層0.5μm/アンカーコート/(b)層である。かくして得られた偏光板の評価結果を表1に示す。また,得られた偏光板は,環境試験での色相変化もなかった。 …省略… 【0047】 【表1】 ![]() 【0048】 【発明の効果】本発明によれば,生産性に優れ,且つ,高湿熱環境下で使用された場合でも偏光度の低下や,色相の変化等の性能低下がない,耐久性に優れた偏光板が得られる。」 (2) 甲3発明 甲3には,請求項1の記載を引用する請求項3に係る発明として,次の発明が記載されている(以下「甲3発明」という。)。 「 偏光子の片面に保護膜(a)として水蒸気透過率が(40℃×90%RHにおいて)約200?約3000g/m^(2)・24hrのプラスチックフィルムを,且つその反対側の面に保護膜(b)として環状オレフィン系樹脂フィルムを積層されてなり, 水蒸気透過率が(40℃×90%RHにおいて)約200?約3000g/m^(2)・24hrのプラスチックフィルムが,酢酸セルロース系フィルムである, 偏光板。」 (3) 相違点 本件特許発明1と甲3発明は,次の点で相違する。 (相違点3-1) 「第一透明層」が,本件特許発明1は,「前記偏光子中の水分の排出を助ける浸透膜として機能し,かつ,トリレンジイソシアネートおよびジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるいずれか少なくとも1種を含有するイソシアネート化合物と多価アルコールとの反応物であるウレタンプレポリマーを含有する形成材の硬化物であ」るのに対して,甲3発明は,「酢酸セルロース系フィルム」である点。 (4) 判断 ア 新規性 本件特許発明1と甲3発明は,前記(3)の相違点3-1で相違するから,両者は同一であるということができない。 イ 進歩性 甲3発明の「酢酸セルロース系フィルム」は,「プラスチックフィルム」として採用されたものである。 そうしてみると,甲3発明の「酢酸セルロース系フィルム」を,「プラスチックフィルム」に該当するとはいえない,「トリレンジイソシアネートおよびジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるいずれか少なくとも1種を含有するイソシアネート化合物と多価アルコールとの反応物であるウレタンプレポリマーを含有する形成材の硬化物」に替える動機を見いだすことができない。 ところで,甲3発明において,「偏光子」と「酢酸セルロース系フィルム」が,しかるべき接着剤を介して貼り合わせられることは,自明である。 しかしながら,この場合に用いられる接着剤は,通常,甲3の【0007】や【0040】で挙げられた,PVA系接着剤である。 接着剤まで含めて考えたとしても,当業者が相違点3-1に係る本件特許発明1の構成を採用するとはいえない。 したがって,本件特許発明1は,たとえ当業者といえども,甲3発明に基づいて,容易に発明をすることができたものであるということはできない。 ウ 本件特許発明2?本件特許発明12についても,同様である。 3 甲5を主引用例とする新規性,進歩性について (1) 甲5の記載 甲5(特開2002-196132号公報)は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】一軸延伸され,ヨウ素又は二色性染料が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムの片面に第一の保護フィルムを,残りの片面に第二の保護フィルムを貼合するにあたり,まず,第一の保護フィルムと偏光フィルムとを貼合して巻き取り,その後に第一の保護フィルムが貼合されていない偏光フィルムの面に第二の保護フィルムを貼合することを特徴とする偏光板の製造方法。 【請求項2】第一の保護フィルム及び第二の保護フィルムのうち少なくとも一方が300g/m^(2)/24hr以下の透湿度を有する請求項1に記載の方法。 【請求項3】第一の保護フィルム及び第二の保護フィルムがともに非晶性ポリオレフィン系樹脂からなる請求項2に記載の方法。 【請求項4】第一の保護フィルムがトリアセチルセルロースからなり,第二の保護フィルムが300g/m^(2)/24hr以下の透湿度を有する請求項2に記載の方法。 【請求項5】第二の保護フィルムが非晶性ポリオレフィン系樹脂からなる請求項4に記載の方法。」 イ 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,偏光フィルムの両面に保護フィルムを貼合した偏光板の製造方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 …省略… 【0004】一方,トリアセチルセルロース樹脂フィルムは透湿度が高いため,この樹脂を保護フィルムとして貼合した偏光板は,湿熱下,例えば,温度70℃,相対湿度90%のような条件下では劣化を引き起こすなどの問題があった。そこで,トリアセチルセルロース樹脂フィルムよりも透湿度の低い偏光フィルムを保護フィルムとすることで,かかる問題を解決する方法も提案されており,例えば,非晶性ポリオレフィン樹脂を保護フィルムとすることが知られている。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら,このような透湿度の低い保護フィルムを従来の装置で貼合する場合,水を主な溶媒とする接着剤を使用して,ポリビニルアルコール系の偏光フィルムにこの保護フィルムを貼合した後,溶媒を乾燥させるいわゆるウェットラミネーションでは,十分な接着強度が得られなかったり,外観が不良になったりするなどの問題があった。 …省略… 【0006】…省略…本発明の目的は,透湿度の低い樹脂フィルムを少なくとも一方の面の保護フィルムとする場合であっても,十分な接着強度で,外観不良などの問題を起こすことなく,偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼合された偏光板を製造する方法を提供することにある。」 ウ 「【0008】 【発明の実施の形態】 …省略… 【0020】偏光フィルムと保護フィルムとの貼合には,通常,光学的に等方性の接着剤が用いられ,かかる接着剤としては,ポリビニルアルコール系接着剤,ウレタン系接着剤,エポキシ系接着剤,アクリル系接着剤などが,保護フィルムの種類によって使い分けられる。これらは,接着剤塗布装置の設計,乾燥炉の設計,環境問題などから,水を溶媒とした形で用いるのが好ましい。接着方法としては,溶媒を含んだ接着剤を使用し,保護フィルムを貼合後に溶媒を乾燥除去するウェットラミネーション,接着剤を片方の基材に塗布し,乾燥後に貼合するドライラミネーションなどの方法が挙げられるが,多大な設備投資を避けたい場合には,通常の偏光板製造装置で使用されている装置をそのまま使用する。 …省略… 【0034】実施例1 厚み75μm ,重合度2,400,ケン化度99.9%以上のポリビニルアルコールフィルムを,乾式で延伸倍率5倍に一軸延伸し,緊張状態を保ったまま,水100重量部あたりヨウ素を0.03重量部及びヨウ化カリウムを5重量部それぞれ含有する28℃の水溶液に60秒間浸漬した。次いで,緊張状態を保ったまま,水100重量部あたりホウ酸を8.0重量部及びヨウ化カリウムを6.8重量部それぞれ含有する温度71℃のホウ酸水溶液に300秒間浸漬した。その後,28℃の純水で10秒間水洗した。水洗したフィルムを50℃で600秒間乾燥して,偏光フィルムを得た。 【0035】この偏光フィルムの片面に,表面にケン化処理を施した厚み80μm のトリアセチルセルロースフィルムを,5重量%ポリビニルアルコール水溶液を接着剤として貼合し,乾燥させて溶媒を除去し,片面保護フィルム付き偏光板とした。次に,厚み51μm の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂フィルム上にウレタン系のドライラミネーション用接着剤を塗布し,乾燥後,先の片面トリアセチルセルロース保護フィルム付き偏光板の保護フィルムが貼合されていない面に貼合した。ここで一方の保護フィルムとして用いた熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂フィルムは,70g/m^(2)/24hrの透湿度を有していた。また,他方の保護フィルムとして用いたトリアセチルセルロースフィルムの透湿度は,460g/m^(2)/24hrであった。得られた両面保護フィルム付き偏光板は,目視で観察したところ良好な外観を呈していた。この偏光板の単体透過率及び偏光度は表1に示すとおりであり,ともに問題ない値であった。 …省略… 【0038】 【表1】 ![]() 【0039】 【発明の効果】本発明によれば,莫大な設備投資をすることなく,外観性状の良好な偏光板を製造することができ,得られる偏光板の透過率や偏光度等の諸性能に支障をきたすこともない。」 (2) 甲5発明 甲5の請求項1(請求項2)及び請求項4の記載からは,次の「偏光板」の発明を把握することができる(以下「甲5発明」という。)。 「 一軸延伸され,ヨウ素又は二色性染料が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムの片面に第一の保護フィルムを,残りの片面に第二の保護フィルムを貼合するにあたり,まず,第一の保護フィルムと偏光フィルムとを貼合して巻き取り,その後に第一の保護フィルムが貼合されていない偏光フィルムの面に第二の保護フィルムを貼合してなる偏光板であって, 第一の保護フィルムがトリアセチルセルロースからなり,第二の保護フィルムが300g/m^(2)/24hr以下の透湿度を有する, 偏光板。」 (3) 判断 甲5発明についての判断は,甲3発明の場合と同様である。 本件特許発明1?本件特許発明12は,甲5発明と同一であるということはできず,また,たとえ当業者といえども容易に発明をすることができたものであるということもできない。 第6 理由2(明確性要件,実施可能要件,サポート要件)についての当合議体の判断 本件訂正請求により,理由2の取消しの理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおりであるから,取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては,請求項1?請求項3及び請求項7?請求項12に係る特許を取り消すことはできない。 また,請求項4?請求項6に係る特許は,本件訂正請求による訂正によって削除されたため,これら特許についての,特許異議の申立ての対象は,存在しないものとなった。したがって,これら特許についての特許異議の申立ては,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ヨウ素含有偏光子、前記偏光子の片面に第一透明層、および前記偏光子の他の片面に第二透明層を有する偏光フィルムであって、 前記第一透明層の85℃、85%R.H.における飽和水分率は、前記偏光子の85℃、85%R.H.における飽和水分率よりも低く、 前記第一透明層は前記偏光子中の水分の排出を助ける浸透膜として機能し、かつ、トリレンジイソシアネートおよびジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるいずれか少なくとも1種を含有するイソシアネート化合物と多価アルコールとの反応物であるウレタンプレポリマーを含有する形成材の硬化物であり、 前記第二透明層の85℃、85%R.H.における飽和水分率が5重量%以下であることを特徴とする偏光フィルム。 【請求項2】 前記第一透明層が、直接、偏光子上に形成されていることを特徴とする請求項1記載の偏光フィルム。 【請求項3】 前記第一透明層の厚みが3μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の偏光フィルム。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 前記偏光子の厚みが10μm以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の偏光フィルム。 【請求項8】 前記第一透明層において、前記偏光子を有する側との反対側に、第三透明層を隣接して有し、 前記第三透明層の85℃、85%R.H.における飽和水分率は、前記第一透明層の85℃、85%R.H.における飽和水分率よりも低く、 前記偏光子中の水分が、前記偏光子側から、前記第一透明層、前記第三透明層の順に、浸透することを特徴とする請求項1?3または7のいずれかに記載の偏光フィルム。 【請求項9】 前記第三透明層が、粘着剤層であることを特徴とする請求項8記載の偏光フィルム。 【請求項10】 前記偏光子の他の片面には、前記第二透明層を介して、保護フィルムを有することを特徴とする請求項1?3または7?9のいずれかに記載の偏光フィルム。 【請求項11】 前記第二透明層は、粘着剤層または接着剤層であることを特徴とする請求項1?3または7?10のいずれかに記載の偏光フィルム。 【請求項12】 請求項1?3または7?11のいずれかに記載の偏光フィルムを有する画像表示装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-09-29 |
出願番号 | 特願2017-110097(P2017-110097) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(G02B)
P 1 651・ 536- YAA (G02B) P 1 651・ 121- YAA (G02B) P 1 651・ 113- YAA (G02B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 池田 博一 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 宮澤 浩 |
登録日 | 2019-08-09 |
登録番号 | 特許第6566993号(P6566993) |
権利者 | 日東電工株式会社 |
発明の名称 | 偏光フィルムおよび画像表示装置 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人ユニアス国際特許事務所 |