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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G21K
管理番号 1368986
異議申立番号 異議2019-700540  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-09 
確定日 2020-09-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6451716号発明「電子線照射装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6451716号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6451716号の請求項1、2及び5に係る特許を取り消す。 特許第6451716号の請求項3及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6451716号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成28年10月21日に出願され、平成30年12月21日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月16日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和元年 7月 9日 :特許異議申立人 株式会社レクレアル(以下
「申立人1」という。)による特許異議の申立て
令和元年 7月11日 :特許異議申立人 吉久悦子(以下「申立人2」
という。)による特許異議の申立て
令和元年 8月29日付け:取消理由通知書
令和元年10月30日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和元年12月10日 :申立人1による意見書の提出
令和元年12月12日 :申立人2による意見書の提出
令和2年 1月30日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和2年 3月30日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和2年 5月20日 :申立人1による意見書の提出
令和2年 5月21日 :申立人2による意見書の提出

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のアないしカのとおりである。
ア 特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりに訂正する(以下「訂正事項A」という。)。
「前記電子線発生部は、熱電子を発生させるフィラメント、及び当該フィラメントで発生した熱電子が通過する拡散板を有するターミナルと、前記熱電子を真空空間で加速させる真空チャンバと、を有し」における、「熱電子を発生させるフィラメント」を「熱電子を発生させる線状のフィラメント」と訂正する。

イ 特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりに訂正する(以下「訂正事項B」という。)。
「前記電子線発生部は、熱電子を発生させるフィラメント、及び当該フィラメントで発生した熱電子が通過する拡散板を有するターミナルと、前記熱電子を真空空間で加速させる真空チャンバと、を有し、」と「前記真空チャンバには、前記電子線発生部で発生した電子線を放出させる電子線取出窓が設けられ、」の間に、「前記真空チャンバの外の被照射物に、前記電子線発生部で発生させた電子線を照射する電子線照射装置であって、」との記載を追加する。

ウ 特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりに訂正する(以下「訂正事項C」という。)。
「前記ターミナルには、前記真空チャンバの外に延び出た一端に高電圧ケーブルが差し込まれる樹脂製のコネクタの他端が前記真空チャンバ内で直接接続されている」を「前記ターミナルには、前記真空チャンバの外に延び出た一端に高電圧ケーブルが差し込まれる樹脂製のコネクタの他端が前記真空チャンバ内で直接接続され、
前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルは、円筒形状であり、前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルの中心軸が略水平に配置され、前記ターミナルの中心軸よりも前記拡散板側で前記フィラメントが略水平に延び、
前記コネクタには、先端にタップが切られた金属棒の電源線が樹脂内部を通して配線され、前記コネクタの前記他端が前記電源線の先端に切られたタップによって、電子線の放射方向に対して直交する側から前記ターミナルの中心軸に同軸に前記ターミナルに直接接続されている」と訂正する。

エ 特許請求の範囲の請求項3を以下のとおりに訂正する(以下「訂正事項D」という。)。
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

オ 特許請求の範囲の請求項4を以下のとおりに訂正する(以下「訂正事項E」という。)。
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

カ 特許請求の範囲の請求項5を以下のとおりに訂正する(以下「訂正事項F」という。)。
「前記コネクタは、前記電子線発生部の外部に臨む一端を凹ませて前記コネクタのレセプタクルが形成され、他端が前記ターミナルに直接接続されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電子線照射装置」との記載を、「前記コネクタは、前記電子線発生部の外部に臨む一端を凹ませて前記コネクタのレセプタクルが形成され、他端が前記ターミナルに直接接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子線照射装置」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項A
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項Aは、請求項1において、「熱電子を発生させるフィラメント」について「線状の」に限定することで、特許請求の範囲を減縮するものであるから、当該訂正事項Aは、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項Aは、発明特定事項である「熱電子を発生させるフィラメント」を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(ウ)新規事項の有無
訂正事項Aは、願書に添付した明細書の「電子線発生部10は、ターミナル11と、真空チャンバ20とを備えている。ターミナル11は、熱電子を放出する線状のフィラメント13と、フィラメント13を内側に支持するハウジング14と、拡散板15と、を備えている。」(段落【0015】)との記載に基づく構成であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願明細書等」という。)に記載されたものであるから、当該訂正事項Aは、本願明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

イ 訂正事項B
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項Bは、請求項1において、「電子線照射装置」について、「前記真空チャンバの外の被照射物に、前記電子線発生部で発生させた電子線を照射する電子線照射装置であって」との限定を付加することで、特許請求の範囲を減縮するものであるから、当該訂正事項Bは、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項Bは、発明特定事項である「電子線照射装置」を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(ウ)新規事項の有無
訂正事項Bは、願書に添付した明細書の「電子線照射装置1は、図1、図2に示すように、電子線80を発生させる電子線発生部10を備え、電子線発生部10で発生させた電子線80を照射空間50内に配置された被照射物Xに照射するように構成されている。」(段落【0015】)との記載、及び、図1、2に基づく構成であり、本願明細書等に記載されたものであるから、当該訂正事項Bは、本願明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正事項C
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項Cは、請求項1において、「電子線発生部」、「ターミナル」、「フィラメント」及び「コネクタ」について、「前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルは、円筒形状であり、前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルの中心軸が略水平に配置され、前記ターミナルの中心軸よりも前記拡散板側で前記フィラメントが略水平に延び、前記コネクタには、先端にタップが切られた金属棒の電源線が樹脂内部を通して配線され、前記コネクタの前記他端が前記電源線の先端に切られたタップによって、電子線の放射方向に対して直交する側から前記ターミナルの中心軸に同軸に前記ターミナルに直接接続されている」との限定を付加することで、特許請求の範囲を減縮するものであるから、当該訂正事項Cは、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項Cは、発明特定事項である「電子線発生部」、「ターミナル」、「フィラメント」及び「コネクタ」を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(ウ)新規事項の有無
訂正事項Cは、願書に添付した明細書の「電子線発生部10は、ターミナル11と、真空チャンバ20とを備えている。ターミナル11は、熱電子を放出する線状のフィラメント13と、フィラメント13を内側に支持するハウジング14と、拡散板15と、を備えている。真空チャンバ20は、その中心軸Oが略水平になるように配置された円筒形状の筒状筐体25と、筒状筐体25の両端の開口を閉封するエンドキャップ21A,21Bを備えている。」(段落【0015】)、「ターミナル11のハウジング14は、真空チャンバ20の中心軸Oに沿って延びる円筒形状に形成されている。ターミナル11は、真空チャンバ20の中心軸Oの同心上に設けられているのが望ましい。」(段落【0016】)、「また、本実施形態によれば、電子線発生部10は、円筒形状であり、中心軸Oが略水平に配置され、コネクタ40が電子線80の放射方向に対して直交する側からターミナル11に直接接続されている。」(段落【0027】)、「図示は省略するが、電源線48A,48Bは金属棒であり、先端に切られたタップによってターミナルに接続されている。このように、コネクタ40は、コネクタ40の樹脂内部を通して配線された電源線48A,48Bがターミナルに直接接続されている構成である。」(段落【0022】)との記載、及び、図1、2に基づく構成であり、本願明細書等に記載されたものであるから、当該訂正事項Cは、本願明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

エ 訂正事項D及びE
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項D及びEはそれぞれ特許請求の範囲の請求項3及び4を削除するものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項D及びEは請求項の削除であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(ウ)新規事項の有無
訂正事項D及びEは請求項の削除であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

オ 訂正事項F
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項Fは、訂正前の請求項5が請求項1ないし4を択一的に引用する記載であったところ、訂正事項D及びEにより訂正前の請求項3及び4を削除したため、当該請求項3、4を引用しないものとするための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(ア)のとおり、訂正事項Fは実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(ウ)新規事項の有無
上記(ア)のとおり、訂正事項Fは実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正前の請求項1ないし5については、特許異議の申立てがされているため、訂正前の請求項1ないし5に係る訂正事項AないしFに関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件を要しない。

(4)一群の請求項
訂正事項AないしFに係る訂正前の請求項1ないし5は、請求項1の記載を請求項2ないし5がそれぞれ引用しているものであるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び同第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許第6451716号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。

3.本件訂正発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれを「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明5」という。)は、以下のとおりのものである(A?Gは、本件訂正発明1を分説するために当審で付した。)。
「【請求項1】
A 電子線を発生させる電子線発生部を備え、
B 前記電子線発生部は、熱電子を発生させる線状のフィラメント、及び当該フィラメントで発生した熱電子が通過する拡散板を有するターミナルと、前記熱電子を真空空間で加速させる真空チャンバと、を有し、
C 前記真空チャンバの外の被照射物に、前記電子線発生部で発生させた電子線を照射する電子線照射装置であって、
D 前記真空チャンバには、前記電子線発生部で発生した電子線を放出させる電子線取出窓が設けられ、
E 前記ターミナルには、前記真空チャンバの外に延び出た一端に高電圧ケーブルが差し込まれる樹脂製のコネクタの他端が前記真空チャンバ内で直接接続され、
F1 前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルは、円筒形状であり、前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルの中心軸が略水平に配置され、前記ターミナルの中心軸よりも前記拡散板側で前記フィラメントが略水平に延び、
F2 前記コネクタには、先端にタップが切られた金属棒の電源線が樹脂内部を通して配線され、前記コネクタの前記他端が前記電源線の先端に切られたタップによって、電子線の放射方向に対して直交する側から前記ターミナルの中心軸に同軸に前記ターミナルに直接接続されている
G ことを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
前記コネクタは、絶縁性及び難燃性に優れた材料で形成され、高電圧電源と前記真空チャンバとを電気的に分離する機能と、前記コネクタのレセプタクルの絶縁を図る機能とを一体に備えたことを特徴とする請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記コネクタは、前記電子線発生部の外部に臨む一端を凹ませて前記コネクタのレセプタクルが形成され、他端が前記ターミナルに直接接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子線照射装置。

4.特許異議の申立ての概要について
(1)申立人1の特許異議の申立ての概要について
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1は、後記の申立人1提出の甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項から容易に想到し得るものであるから、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(イ)本件特許発明1は、後記の申立人1提出の甲第2号証に記載された発明、及び、甲第1号証に記載された事項から容易に想到し得るものであるから、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

イ 本件特許発明2ないし5について
(ア)本件特許発明2ないし5は、後記の申立人1提出の甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証?甲第4号証に記載された事項から容易に想到し得るものであるから、請求項2ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(イ)本件特許発明2ないし5は、後記の申立人1提出の甲第2号証に記載された発明、並びに、甲第1号証及び甲第4号証に記載された事項から容易に想到し得るものであるから、請求項2ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)申立人2の特許異議の申立ての概要について
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1は、後記の申立人2提出の甲第1号証に記載された発明から容易に想到し得るものであるから、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(イ)本件特許発明1は、後記の申立人2提出の甲第2号証に記載された発明から容易に想到し得るものであるから、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(ウ)本件特許発明1は、後記の申立人2提出の甲第3号証に記載された発明から容易に想到し得るものであるから、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(エ)本件特許発明1は、後記の申立人2提出の甲第4号証に記載された発明から容易に想到し得るものであるから、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(オ)本件特許発明1は、後記の申立人2提出の甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明から容易に想到し得るものであるから、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(カ)本件特許発明1は、後記の申立人2提出の甲第5号証ないし甲第9号証に記載された発明から容易に想到し得るものであるから、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

イ 本件特許発明2ないし5について
(ア)本件特許発明2ないし5は、後記の申立人2提出の甲第1号証に記載された発明から容易に想到し得るものであるから、請求項2ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(イ)本件特許発明2ないし5は、後記の申立人2提出の甲第2号証に記載された発明から容易に想到し得るものであるから、請求項2ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(ウ)本件特許発明2ないし5は、後記の申立人2提出の甲第3号証に記載された発明から容易に想到し得るものであるから、請求項2ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(エ)本件特許発明2ないし5は、後記の申立人2提出の甲第4号証に記載された発明から容易に想到し得るものであるから、請求項2ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(オ)本件特許発明2ないし5は、後記の申立人2提出の甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明から容易に想到し得るものであるから、請求項2ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(カ)本件特許発明2ないし5は、後記の申立人2提出の甲第5号証ないし甲第9号証に記載された発明から容易に想到し得るものであるから、請求項2ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(キ)本件特許発明2ないし5は、後記の申立人2提出の甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明から容易に想到し得るものであるから、請求項2ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

5.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して、当審が令和元年8月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件請求項1ないし5に係る発明は、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が後記甲第1-1号証、甲第2-5号証、甲第2-6号証ないし甲第2-7号証に記載された発明等に基いて容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)令和元年10月30日になされた訂正請求書により訂正された請求項1ないし5に係る特許に対して、当審が令和2年1月30日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

(訂正された)本件請求項1、2及び5に係る発明は、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が後記甲2-7発明及び周知の技術的手段に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、(訂正された)本件請求項1、2及び5に係る発明は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

6.甲号証に記載された事項及び甲号証に記載された発明
6-1 甲各号証は次のとおりである。
・甲第1-1号証:特表2001-507800号公報(申立人1提出の
甲第1号証)
・甲第1-2号証:特開2002-110075号公報(申立人1提出の
甲第2号証)
・甲第1-3号証:特開2004-165162号公報(申立人1提出の
甲第3号証)
・甲第1-4号証:Claymount,“CA10-type(R10)Generator Receptacle for
up to 100kVDC”、平成21年(2009年)2月、
CLAYMOUNT社(申立人1提出の甲第4号証)
・甲第2-1号証:特開平2-186544号公報(申立人2提出の甲第1
号証)
・甲第2-2号証:特許第4584851号公報(申立人2提出の甲第2
号証)
・甲第2-3号証:“3rd ABRAFATI RADTECH SOUTH AMERICA SEMINAR”(09/
18/2013)で発表された“Compact,Long-Life EB Lamp”
のレジメ、Werner Haag(申立人2提出の甲第3号証)
・甲第2-4号証:“Three Rivers Technical Conference”(2010.8.3-4)
で発表された“X-RAY WorX”のプレゼンテーション資料,
Elk River, MN(申立人2提出の甲第4号証)
・甲第2-5号証:特開2008-230667号公報(申立人2提出の
甲第5号証)
・甲第2-6号証:特開平5-87994号公報(申立人2提出の甲第6
号証)
・甲第2-7号証:特開2003-149398号公報(申立人2提出の
甲第7号証)
・甲第2-8号証:特表2001-507800号公報(申立人2提出の
甲第8号証)
・甲第2-9号証:特開昭60-89049号公報(申立人2提出の甲第
9号証)

6-2 上記甲各号証には、下記(1)ないし(7)に摘記した事項が記載され、下記に示した発明ないし記載された事項が記載されていると認められる。
(1)甲第1-1号証について
ア 甲第1-1号証には、下記の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。
(ア)「図10において、フィラメント配列98は、平行に配置されて2本のリード線96で電気的に並列に接続された一連のフィラメント97を図示している。またフィラメント配列98は、電子ビームの幅を広げるのにも使用される。
図11において、加速器70は本発明の別の好ましい実施形態である。加速器70は、先の加速器10で発生する電子ビームに対して90°の角度の方向に電子ビームを発生する。加速器70が加速器10と異なるのは、フィラメント78が真空チャンバ88の長軸線Aに対して垂直ではなく、平行になっていることである。さらに、電子ビーム放射窓82は、真空チャンバ88の細長い外側ケーシング72に取り付けられており、長軸線Aに平行になっている。電子ビーム放射窓82は、外側ケーシング72の側面に取り付けた支持板80で支持されている。細長いフィラメント・ハウジング75がフィラメント78を囲み、ハウジング75の一側面76には、長軸線Aに垂直な方向に開口した格子状開口34を有する。フィラメント・ハウジング75の側面開口35は、開口34に垂直な方向に開口している。エンド・キャップ74は真空チャンバ88の端面を塞いでいる。加速器70は、複数の加速器を互い違いに配置して使用することなく、電子ビームを広い範囲に放射するのに適し、また狭い場所での使用に適する。加速器70は長さ約3?4フィートにでき、より広い範囲に使用するためには互い違いに配置することもできる。」(16頁21行?17頁10行)

(イ)図11は次のものである。
【図11】


イ 上記アによれば、甲第1-1号証には、下記の事項(以下「甲1-1に記載された技術的事項」という。)が記載されている。
「フィラメント・ハウジングが、長軸線Aに垂直な方向に開口した格子状開口を有するフィラメント・ハウジングの一側面を備えることで、加速器が電子ビームを広い範囲に放射する点。」

(2)甲第1-2号証について
ア 甲第1-2号証には、下記の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、開放型X線管に係わり、特に、高圧プラグを高電圧導入碍子に挿入して負の高電圧を陰極に印加し、放出電子を加速収束して、陽極ターゲットに衝突させ、X線を発生させるX線管の高電圧導入碍子構造に関する。」

(イ)「【0004】開放型のX線管は、さらに透過型と反射型と呼ばれる2つのタイプに分類される。透過型では、ターゲット面から見て電子ビームと出力X線が反対側に位置するのに対し、反射型では、ターゲット面から見て電子ビームと出力X線が同じ側に位置する。透過型、反射型とも、電子ビームをターゲット上の微小領域に収束してX線の焦点寸法を微細化する機構は同じである。
【0005】図3に開放透過型X線管の断面構造を示す。このX線管はカソード部20(下部)とアノード部21(中部)とターゲット部22(上部)から構成され、各部はO-リングで互いに真空気密に連結されており、ターボポンプとロータリーポンプ(図示せず)による2段引きがされた真空チャンバ5を形成している。カソード部20は、高電圧ケーブル挿込口17に高電圧ケーブルが挿し込まれ、ウエネルト2の電極とフィラメント1に負の高電圧が印加される。アノード部21、ターゲット部22及び真空チャンバ5の外装は接地電位に保たれている。高電圧ケーブル(図示されていない)からフィラメント1に電圧が印加され電流が流れ加熱されると、熱電子が放出されアノード4に向かって加速され、電子ビームを形成する。アノード部21はレンズホルダ7にアノード4とパイプ6を組み込んだものである。電子ビームはパイプ6の中空部を通り、ターゲット部22の収束コイル8によって微小な径の電子ビームに収束されターゲット12に突入する。
【0006】ターゲット部22はポールピース下9の円筒内に収束コイル8を組み込み、ポールピース上10の上部と、ターゲットホルダ11の間にX線透過窓14がサンドイッチされた状態で組込まれており、アルミニウムの厚みT=0.5mm程度のX線透過窓14上の内側に、ターゲット12がマウントされている。ターゲット12は、例えば、厚さが50μm程度のタングステンが使われたり、ターゲット12をX線透過窓14に直接成膜したりしている。」

(ウ)「【0009】そして、図5に示すように、高圧プラグ23を挿入するX線管側の高電圧導入碍子3は、高電圧のケーブル25のターミナル形状(雄型)に合致したレセプタクル形状(雌型)になっている。高電圧導入碍子3は、一般的には電気的絶縁性の良い樹脂にて製作されるが、高真空が必要な場合など、用途によってはセラミックスにて製作される場合もある。そして、接地電位となるフランジ33に、エポキシ系の樹脂で成形された高電圧導入碍子3と、その内筒の先端部分に設けられた電子発生源のフィラメント1と、ウエネルト2に電圧を印加するための、リング状のリング電極29aとリング電極30aと、その中央部にピン状に突出したピン電極28aが設けられ、その各電極からリード線31を介してピン32に成形接続されている。高圧プラグ23が高電圧導入碍子3に挿入されると、高圧プラグ23の先端の電極28、電極29、電極30が、高電圧導入碍子3の内筒底部に設けられたピン電極28a、リング電極29a、リング電極30aに接触し導通する。」

(エ)図1及び2は次のものである。
【図1】

【図2】


(オ)上記(ア)ないし(ウ)の記載を踏まえて、上記(エ)の図2を見ると、高電圧導入碍子3はウエネルト2に直接接続されていることが見てとれる。

イ 上記アによれば、甲第1-2号証には、下記の事項(以下「甲1-2に記載された技術的事項」という。)が記載されている。
「カソード部20が高電圧ケーブル挿込口17に高電圧ケーブルが挿し込まれ、ウエネルト2の電極とフィラメント1に負の高電圧が印加され、高電圧ケーブルからフィラメント1に電圧が印加され電流が流れ加熱されると、熱電子が放出されアノード4に向かって加速され、電子ビームを形成する(【0004】)X線管の高電圧導入碍子構造において(【0001】)、高圧プラグ23を挿入するX線管側の高電圧導入碍子3は、高電圧のケーブル25のターミナル形状(雄型)に合致したレセプタクル形状(雌型)になっていて、高電圧導入碍子3は、電気的絶縁性の良い樹脂にて製作され、前記高電圧導入碍子3はウエネルト2に直接接続されている(上記「ア」「(オ)」)こと(【0009】)。」

(3)甲第1-4号証について
ア 甲第1-4号証には、下記の記載がある(訳は申立人1提出の抄訳に基づいて当審が付した。)
(ア)「Claymount;CA10-type(R10) Generator Receptacle for up to 100 kvDC」(1頁表題)
(当審訳:クレイマウント:CA-10型(R10)100kVDCまでの発電レセプタクル)
(イ)「The insulator has a very small diameter of only 50 mm, and is machined from light weight, high performance, UL94V-0 rated engineering plastic.」(1頁右下欄3?5行)
(当審訳:絶縁体の直径はわずか50mmと非常に小さく、軽量で高性能なUL94V-0定格のエンジニアリングプラスチックで機械加工されています。)

イ 上記アによれば、甲第1-4号証には、下記の事項(以下「甲1-4に記載された技術的事項」という。)が記載されている。
「100kVDCまでの発電レセプタクルを、軽量で高性能なUL94V-0定格のエンジニアリングプラスチックを機械加工した絶縁体で作成する点。」

(4)甲第2-3号証について
ア 甲第2-3号証には、下記の記載がある(訳は申立人2提出の翻訳文に基づいて当審が付した。)
(ア)「3.REFURBISHING USED EBEAM LAMPS
One of the tasks when designing our ebeam lamp or emitter was the wish to be able to reuse the emitter once he reached the end his life time. This is the case when either the cathode or the window foil reach the endof their life time, today after 8000 operating hours(guaranteed). The picture below shows the sub-assemblies of the ebeam emitter and the way they are assembled.
When an emitter eventually fails, the user will replace it with a spare and return the used one back to its manufacturer. At the manufacturer plant, the window frame is milled out and the tube is cut open.All parts are cleaned and possibly replaced (e.g. thefilament wire).」(4頁10?22行)
(当審訳:3.使用されている電子ビームランプの改修
私達の電子ビームランプがエミッタを設計するときの仕事の1つは寿命の終わりに達したらエミッタを再使用できるようにしたいということでした。これは、陰極または窓箔のいずれかが、今日では8000運転時間後に寿命に達したときに当てはまります(保証)。下の写真は、電子ビームエミッタのサブアセンブリとそれらの組み立て方法を示しています。
エミッタが最終的に故障した場合、ユーザーはそれを予備のものと交換し、使用済みのものを製造元に返却します。製造工場では、窓枠を削り、チューブを切り開きます。すべての部品が清掃され、交換される可能牲があります(フィラメント線など)。)

イ 上記アによれば、甲第2-3号証には、下記の事項(以下「甲2-3に記載された技術的事項」という。)が記載されている。
「電子ビームランプにフィラメント線を使用する点。」

(5)甲第2-6号証について
ア 甲第2-6号証には、下記の記載がある。
「【0011】
【実施例】以下に、本発明の一実施例を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施例である電子線照射装置の概略断面図である。
【0012】図1に示す電子線照射装置は、電子線発生部2と、電源部4と、両者を一体的に連結する連結部6とを有するものである。電子線発生部2は、電子線を発生する円筒形ターミナル12と、電子線を加速空間(真空空間)14で加速する電子加速管16とを備える。電子加速管16の内部は、図示しない拡散ポンプ等により真空に保たれている。
【0013】また、ターミナル12は、電子源であるフィラメント(たとえば線状陰極)22と、フィラメント22を支持する電子銃24と、フィラメント22で発生した熱電子を制御する網状のグリッド(不図示)とを含む。電子銃24とターミナル12との間は耐熱性の優れた絶縁物により電気的に絶縁されている。」

イ 上記アによれば、甲第2-6号証には、下記の発明(以下「甲2-6に記載された技術的事項」という。)が記載されている。
「電子線照射装置の電子源であるフィラメントに線状陰極を使用する点。」

(6)甲第2-7号証について
ア 甲第2-7号証には、下記の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、印刷インクの乾燥処理、高分子樹脂の表面硬化処理、建材の表面加工処理、食品容器表面の殺菌処理等に使用される低エネルギ電子線照射装置の構造に関する。
【0002】
【従来の技術】電子線が物質表面に照射されると、被照射物質の重合反応、架橋反応や細胞の活性化(破壊)などを引き起こす。これを利用して、印刷インクの乾燥処理、高分子樹脂の表面硬化処理、建材の表面加工、食品容器表面の殺菌処理などが行われている。低エネルギ電子線照射装置は、真空中で加速した低エネルギの電子線を、出射窓を介して大気中の物質に照射させる装置である。
【0003】図10(a)は、従来の低エネルギ電子線照射装置の構成を概略的に示す断面図であり、図10(b)は、図10(a)の矢視P?P断面を拡大して示す断面図である。図10(a)、(b)に示すように、従来の低エネルギ電子線照射装置41は、フィラメント部45より発生した熱電子を放出し、グリッド部47を介して、真空容器42(真空排気する真空排気機器等は図示せず)に取り付けたアノード部48の電位で電子線46を引き出すことができる。
【0004】フィラメント部45とアノード部48には80kv以上の電位をかけることができることから、電子線発生部43は、絶縁材で構成される固定台44を介し、真空容器42のフランジ42aに片持ち式に支持されている。また、フィラメント部155は、レールを設けてカートリッジ化されており、フィラメント部45の保守時には、真空容器42のフランジ42bを開放し、さらに電子線発生部43の蓋43aを開放することにより、電極ソケット部152から切離して取り出せる構造になっている。」

(イ)「【0010】以下、図面と共に本発明の長尺低エネルギ電子線照射装置について具体的に説明する。図1(b)、(c)に示すように、従来のような片持ち式の支持構造では長尺化された電子線発生部3を強度上水平に保持することができないため、本発明の長尺低エネルギ電子線照射装置では、電子線発生部3の両端部に絶縁材で形成された電子線固定台5、6を配設した両端支持構造としている。
【0011】第1電子線固定台としての電子線固定台5は、電子線発生部3の一端にて、真空容器2のフランジ部2bに固定され、また、第2電子線固定台としての電子線固定台6は、図4(a)、(b)に示すように、電子線発生部3の他端にて、真空容器外殻2aの内面に接する電子線固定台6の円周部に、複数のキャスタ21を介して固定されている。このような構成により、真空容器外殻2aと電子線固定台6とを調芯でき、また、キャスタ21を転動させることにより、長尺方向の移動が可能な構成にしている。なお、図4(b)はキャスタ21を3つ設けた場合を例示している。
【0012】また、図2に示すように、フィラメント部11はカートリッジ式構造に構成されており、熱膨張率の小さいカーボンフィバー(C/Cコンポジット)材を使用したフィラメント支持棒9、10の上面にレール13、14を設け、これらのレール13、14上を摺動する連結板12から複数の円柱状碍子15、16を懸吊し、その下方部に導設された給電電極棒17、18及び反射板19等を一体化している。
【0013】また、図1(a)、(b)、(c)及び図3(a)に示すように、前記フィラメント支持棒9、10は、その両端部が支持棒固定部7、8に固定され、該支持棒固定部7、8は電子線固定台5、6にそれぞれ固定されている。また、電源22に接続された電極ソケット部23、24は、給電電極棒17、18に接続されており、フィラメント部11と共に先端部(図1(c)における右側)へ引出せる構造になっている。なお、図3(b)は、電極ソケット部23、24及び後述する電源供給棒25、26に接続される電源ソケット29、30等の配列の1例を示している。
【0014】従来の片持ち式の構造の給電方式では、先端側(給電側に対する他端側)は電圧降下により、フィラメント部の温度が下がる傾向があり、電子線発生部3が長尺化した場合にはこの傾向がさらに顕著となっていた。本発明の長尺低エネルギ電子線照射装置では、これを改善すべく、図1(c)に示すように、先端側からも供給できる電源供給棒25、26を導設する。該電源供給棒25、26は、支持棒20の下面に導設され、給電電極棒17、18とは電極板27、28を介して接続されている。
【0015】また、電源供給棒25、26の支持棒20の両端部は、支持棒固定部7、8に固定されており、前記電源供給棒25、26は、前記支持棒20側に固定されたままとし、フィラメント部11のカートリッジ式構造とは無関係の構成としている。
【0016】また、真空容器外殻2aと電子線発生部3との保守時の分離に備え、真空容器外殻2aに引出用架台4を設け、真空容器外殻2aを縦引きできる構成とするため、引出用架台4には、図5(a)、(b)に示すように、脚部にリニアガイド31を設け、地上にリニアガイドレール32を敷設するように構成する。」

(ウ)図1、2、3、10は次のものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図10】

・上記図3を踏まえ、下記参考図に示す部材をそれぞれ、部材A1、A2、部材B1、B2及び部材C1、C2とする。
【参考図】


(エ)上記(ア)及び(イ)の記載を踏まえて、上記(ウ)の図1、2、3、10及び参考図を見ると、下記各点を見てとることができる。
(a)長尺低エネルギ電子線照射装置1は、長尺化された電子線発生部3と真空容器2からなること(図1、2)。
(b)長尺低エネルギ電子線照射装置1は、熱電子を放出する(【0003】)フィラメント部11、及び、当該フィラメント部11で発生した熱電子が通過するグリッド部を有する(【0003】、図2、10)電子線発生部3と、前記熱電子を真空容器2に取り付けたアノード部の電位で引き出す(【0003】、図2、10)真空容器2とを有すること。
(c)真空容器2の外に向かって、真空容器2に設けられた部材を介して、長尺低エネルギ電子線照射装置1で発生させた熱電子を照射すること(図1、2)。
(d)給電電極棒17、18の端部に部材C1が接続され、部材C1の端部に部材B1が接続され、部材B1は電極ソケット部23、24を介して部材A1に接続され、電源22の一端は部材A1に接続されるとともに、電源供給棒25、26の端部に部材C2が接続され、部材C2の端部に部材B2が接続され、部材B2は電源ソケット29、30を介して部材A2に接続され、電源22の他端は部材A2に接続され、当該部材B1、電極ソケット部23、24及び部材A1と、部材B2、電源ソケット29、30及び部材A2が電子線の放射方向に対して直交する側から電子線発生部3に接続されていること。
(e)長尺低エネルギ電子線照射装置1の長尺化された電子線発生部3と真空容器2は、ともに長尺形状であって、水平に保持され(【0010】)、断面が円形であること。
(f)フィラメント部11は、電子線発生部3のグリッド部(【0003】)側に略水平に配置されている。

イ 上記アによれば、甲第2-7号証には、下記の発明(以下「甲2-7発明」という。)が記載されている。
「a 長尺化された電子線発生部3と真空容器2からなる長尺低エネルギ電子線照射装置1を備え(上記「ア」「(エ)」「(a)」)、
b 前記長尺低エネルギ電子線照射装置1は、熱電子を放出するフィラメント部11、及び、当該フィラメント部11で発生した熱電子が通過するグリッド部を有する電子線発生部3と、前記熱電子を真空容器2に取り付けたアノード部の電位で引き出す真空容器2とを有し(上記「ア」「(エ)」「(b)」)、
c 前記真空容器2の外に向かって、前記真空容器2に設けられた部材を介して、発生させた熱電子を照射する前記長尺低エネルギ電子線照射装置1であって(上記「ア」「(エ)」「(c)」)、
d 電源22に接続された電極ソケット部23、24は、給電電極棒17、18の端部に接続され、給電電極棒17、18は前記フィラメント部11に接続され(上記「ア」「(イ)」【0013】、図1、3)、
e 給電電極棒17、18の端部に部材C1が接続され、部材C1の端部に部材B1が接続され、部材B1は電極ソケット部23、24を介して部材A1に接続され、電源22の一端は部材A1に接続されるとともに、電源供給棒25、26の端部に部材C2が接続され、部材C2の端部に部材B2が接続され、部材B2は電源ソケット29、30を介して部材A2に接続され、電源22の他端は部材A2に接続され、当該部材B1、電極ソケット部23、24及び部材A1と、部材B2、電源ソケット29、30及び部材A2が電子線の放射方向に対して直交する側から電子線発生部3に接続され(上記「ア」「(エ)」「(d)」)、
f 前記長尺低エネルギ電子線照射装置1の長尺化された電子線発生部3と真空容器2は、ともに長尺形状であって、水平に保持され、断面が円形であり(上記「ア」「(エ)」「(e)」)、前記フィラメント部11は、電子線発生部3のグリッド部側に略水平に配置されている(上記「ア」「(エ)」「(f)」)、
g 長尺低エネルギ電子線照射装置1(上記「ア」「(エ)」「(a)」)。」

(7)甲第2-9号証について
ア 甲第2-9号証には、下記の記載がある。
(ア)「本発明は、荷電粒子線装置等の高電圧が印加される装置における高電圧部材の着脱装置の改良に関する。」(1頁左下欄16?18行)

(イ)「第3図は本発明を電子銃と絶縁ケーブル端末との着脱部分に適用した実施例を示すもので、第2図の場合と同様に、第1図と同一符号を付したものは同一の構成要素を表わしている。第3図の装置においては、ケーブル7の端には取付け金具24を介してエポキシ樹脂からなる絶縁交換棒25が取付けられ、その中心部には導電性パイプ26が埋め込まれている。導電性パイプ26の内部にはケーブル7の芯線と接続された導線が通っており交換棒の先端に取付けられた端末端子26の各端子を介して電子銃電極部の各電極に接続される。これらエポキシ樹脂と接触する各部材は全てエポキシ樹脂によって一体に成形されており、従来のようにEPゴムを使用していた場合に比較して経年変化は極めて少ない。絶縁交換棒25を受ける側のブッシング27はエポキシ樹脂によって形成され、該エポキシ樹脂によってその低圧側に設けられる電界緩和リング9を有する部材28と高圧側に設けられる電界緩和リング10を有するケーブル受け金具29と一体に成形されている。又、絶縁交換棒25とブッシング27との間には漏斗状のEPゴム製の絶縁スペーサ30が挿入されており、絶縁交換棒25とブッシング27との嵌合部分に間隙が発生しないようにしている。」(3頁左上欄7?19行)

(ウ)第1、3図は次のものである。


(エ)上記(イ)の記載を踏まえて、上記(ウ)の第1、3図を見ると、絶縁交換棒25を受ける側のブッシング27は、外部に臨む一端を凹ませてレセプタクルが形成され、ブッシング27は、加速管2の受け部4に直接接続されていることが見てとれる。

イ 上記アによれば、甲第2-9号証には、下記の事項(以下「甲2-9に記載された技術的事項」という。)が記載されている。
「荷電粒子線装置等の高電圧が印加される装置における高電圧部材の着脱装置において(上記「ア」「(ア)」)、端には取付け金具24を介してエポキシ樹脂からなる絶縁交換棒25が取付けられ、その中心部には導電性パイプ26が埋め込まれているケーブル7と、エポキシ樹脂と接触する各部材は全てエポキシ樹脂によって一体に成形され、絶縁交換棒25を受ける側のブッシング27がエポキシ樹脂によって形成され(上記「ア」「(イ)」)、絶縁交換棒25を受ける側のブッシング27は、外部に臨む一端を凹ませてレセプタクルが形成され、ブッシング27は、加速管2の受け部4に直接接続されている点(上記「ア」「(エ)」)。」

7 対比・判断
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲2-7発明を対比する。
(ア)甲2-7発明の「長尺化された電子線発生部3と真空容器2からなる長尺低エネルギ電子線照射装置1」(構成a)は、本件訂正発明1の「電子線を発生させる電子線発生部」(構成A)に相当する。

(イ)甲2-7発明の「前記長尺低エネルギ電子線照射装置1は、熱電子を放出するフィラメント部11、及び、当該フィラメント部11で発生した熱電子が通過するグリッド部を有する電子線発生部3と、前記熱電子を真空容器2に取り付けたアノード部の電位で引き出す真空容器2」(構成b)は、熱電子を真空容器2に取り付けたアノード部の電位で引き出すことが、熱電子を真空空間で加速させることに相当するから、本件訂正発明1の「前記電子線発生部は、熱電子を発生させる線状のフィラメント、及び当該フィラメントで発生した熱電子が通過する拡散板を有するターミナルと、前記熱電子を真空空間で加速させる真空チャンバ」(構成B)と、「前記電子線発生部は、熱電子を発生させるフィラメント、及び当該フィラメントで発生した熱電子が通過する部材を有するターミナルと、前記熱電子を真空空間で加速させる真空チャンバ」(構成B´)の点で一致する。

(ウ)甲2-7発明の「前記真空容器2の外に向かって、前記真空容器2に設けられた部材を介して、発生させた熱電子を照射する前記長尺低エネルギ電子線照射装置1」(構成c)は、真空容器2の外の被照射物に向かって電子線発生部で発生させた電子線を照射するものであることは明らかであり、また、真空容器2に設けられた部材が、電子線取出窓に相当する部材であることも明らかであるから、本件訂正発明1の「前記真空チャンバには、前記電子線発生部で発生した電子線を放出させる電子線取出窓が設けられ」(構成D)、「前記真空チャンバの外の被照射物に、前記電子線発生部で発生させた電子線を照射する電子線照射装置」(構成C)に相当する。

(エ)甲2-7発明の「電源22に接続された電極ソケット部23、24は、給電電極棒17、18の端部に接続され、給電電極棒17、18は前記フィラメント部11に接続され(構成d)、「給電電極棒17、18の端部に部材C1が接続され、部材C1の端部に部材B1が接続され、部材B1は電極ソケット部23、24を介して部材A1に接続され、電源22は部材A1に接続されるとともに、電源供給棒25、26の端部に部材C2が接続され、部材C2の端部に部材B2が接続され、部材B2は電源ソケット29、30を介して部材A2に接続され、電源22は部材A2に接続され、当該部材B1、電極ソケット部23、24及び部材A1と、部材B2、電源ソケット29、30及び部材A2が電子線の放射方向に対して直交する側から電子線発生部3に接続され」(構成e)ることは、電源22と電源22に接続された部材A1、A2との間に高電圧ケーブルを備えることは明らかであるから、本件訂正発明1の「前記ターミナルには、前記真空チャンバの外に延び出た一端に高電圧ケーブルが差し込まれる樹脂製のコネクタの他端が前記真空チャンバ内で直接接続され」(構成E)ることと、「前記ターミナルには、前記真空チャンバの外に延び出た一端に高電圧ケーブル(の電極ソケット部)が差し込まれる部材の他端が前記真空チャンバ内で接続され」(構成E´)る点で一致する。

(オ)甲2-7発明の「前記長尺低エネルギ電子線照射装置1の長尺化された電子線発生部3と真空容器2は、ともに長尺形状であって、水平に保持され、断面が円形であり、前記フィラメント部11は、電子線発生部3のグリッド部側に略水平に配置されている」(構成f)ことは、本件訂正発明1の「前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルは、円筒形状であり、前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルの中心軸が略水平に配置され、前記ターミナルの中心軸よりも前記拡散板側で前記フィラメントが略水平に延び」(構成F1)ていることと、「前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルは、円筒形状であり、前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルが略水平に配置され、前記ターミナルよりも前記拡散板側で前記フィラメントが略水平に延び」(構成F1´)ていることの点で一致する

(カ)甲2-7発明の「長尺低エネルギ電子線照射装置1」(構成g)は、本件訂正発明1の「電子線照射装置」(構成G)に相当する。

(キ)上記(ア)ないし(カ)での検討によれば、本件訂正発明1と甲2-7発明とは、
「A 電子線を発生させる電子線発生部を備え、
B´ 前記電子線発生部は、熱電子を発生させるフィラメント、及び当該フィラメントで発生した熱電子が通過する部材を有するターミナルと、前記熱電子を真空空間で加速させる真空チャンバと、を有し、
C 前記真空チャンバの外の被照射物に、前記電子線発生部で発生させた電子線を照射する電子線照射装置であって、
D 前記真空チャンバには、前記電子線発生部で発生した電子線を放出させる電子線取出窓が設けられ、
E´ 前記ターミナルには、前記真空チャンバの外に延び出た一端に高電圧ケーブル(の電極ソケット部)が差し込まれる部材の他端が前記真空チャンバ内で接続され、
F1´ 前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルは、円筒形状であり、前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルが略水平に配置され、前記ターミナルよりも前記拡散板側で前記フィラメントが略水平に延びる
G 電子線照射装置。」
の点で一致し、以下の各点で相違する。

a 相違点1について
「フィラメント」が、本件訂正発明1は「線状の」と特定されるのに対して、甲2-7発明はこのように特定されない点。

b 相違点2について
「ターミナル」において「熱電子が通過する」部材が、本件訂正発明1は「拡散板」であるのに対して、甲2-7発明はこのように特定されない点。

c 相違点3について
本件訂正発明1は、電子線発生部の真空チャンバ及びターミナル「の中心軸」が略水平に配置され、前記ターミナル「の中心軸」よりも前記拡散板側で前記フィラメントが略水平に延びる」と特定されるのに対して、甲2-7発明は「中心軸」に基づいて特定されない点。

d 相違点4について
「高電圧ケーブル(の電極ソケット部)が差し込まれる」部材が、本件訂正発明1は「樹脂製のコネクタ」であって、ターミナルには、他端が真空チャンバ内で「直接」接続されるとともに、「前記コネクタには、先端にタップが切られた金属棒の電源線が樹脂内部を通して配線され、前記コネクタの前記他端が前記電源線の先端に切られたタップによって、電子線の放射方向に対して直交する側から前記ターミナルの中心軸に同軸に前記ターミナルに直接接続されている」のに対して、甲2-7発明はこのように特定されない点。

イ 判断
(ア)上記相違点1について
電子線照射装置のフィラメントを線形のフィラメントとすることは、甲2-3に記載された技術的事項及び甲2-6に記載された技術的事項に見られるとおり周知の事項にすぎないから、甲2-7発明において、フィラメントを線形のフィラメントとなし、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成となすことは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

(イ)上記相違点2について
電子線照射装置の電子線発生源(ターミナル)において電子線を拡散(広い範囲に放射)させることは、甲第1-1号証に、「フィラメント・ハウジングが、長軸線Aに垂直な方向に開口した格子状開口を有するフィラメント・ハウジングの一側面を備えることで、加速器が電子ビームを広い範囲に放射する点」(甲1-1に記載された技術的事項)が記載されているとおり周知の技術的手段であり、また、当該「長軸線Aに垂直な方向に開口した格子状開口を有するフィラメント・ハウジングの一側面」は拡散板といえるから、甲2-7発明におけるグリッド部をこのような拡散板となし、上記相違点2に係る本件訂正発明1の構成となすことは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

(ウ)上記相違点3について
甲2-7発明の長尺低エネルギ電子線照射装置1の長尺化された、ともに断面が円形である電子線発生部3と真空容器2を配置して電子線発生部3を水平に保持すれば、当然、当該円形の中心軸も水平に配置されることは明らかである。
また、「前記フィラメント部11は、電子線発生部3のグリッド部側に略水平に配置されている」(構成f)から、フィラメント部11が、電子線発生部3の中心軸よりグリッド部側に略水平に配置されることも明らかであり、上記相違点3は実質的な相違点ではない。
(エ)上記相違点4について
a 甲2-7発明の長尺低エネルギ電子線照射装置1の「給電電極棒17、18の端部に部材C1が接続され、部材C1の端部に部材B1が接続され、部材B1は電極ソケット部23、24を介して部材A1に接続され、電源22は部材A1に接続されるとともに、電源供給棒25、26の端部に部材C2が接続され、部材C2の端部に部材B2が接続され、部材B2は電源ソケット29、30を介して部材A2に接続され、電源22は部材A2に接続され」(構成e)る構成において、発明を実施するに際して、高電圧を扱う電極ソケット部23、24、電源ソケット29、30、部材A1、A2及び部材B1、B2をむき出しの状態ではなく、適宜の絶縁状態で使用すべきであることは本願優先日当時の技術常識であるところ、長尺低エネルギ電子線照射装置1と電源22を接続するに際して、一端に高電圧ケーブルが差し込まれる樹脂製のコネクタを用いることは、甲1-2に記載された技術的事項、及び、甲2-9に記載された技術的事項に見られるとおり周知の技術的手段であり、また、当該樹脂製のコネクタを甲2-7発明に適用するに際して、部材B1、B2を樹脂に埋め込み、その端部で接続する構成となすことは当業者が容易になし得ることである。

b ここで、「先端にタップが切られた金属棒の電源線」及び「電源線の先端に切られたタップ」(構成F2)における「タップ」の意味するところが漠然としているところ、本件特許明細書には、「図示は省略するが、電源線48A,48Bは金属棒であり、先端に切られたタップによってターミナルに接続されている。このように、コネクタ40は、コネクタ40の樹脂内部を通して配線された電源線48A,48Bがターミナルに直接接続されている構成である。」(段落【0022】)と記載されるにとどまる。
したがって、「タップ」に関する一般的な技術用語としての意味、「(ア)巻線の巻数や抵抗器の抵抗値などを変えるために中間から引き出した接続点。(イ)コンセントのこと。『テーブルタップ』」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)に照らして、「先端にタップが切られた金属棒の電源線」及び「電源線の先端に切られたタップ」(構成F2)は、金属棒の電源線の先端が接続部を構成していることを意味すると解される。

c ここで、電源に接続する部材B1、B2が金属であることは明らかであるところ、甲2-7発明が高電圧、高電流の電源を必要とする長尺低エネルギ電子線照射装置であることに照らして、電源に接続する部材B1、B2を高電圧、高電流に耐える金属棒で構成することは当業者が発明を実施するに際して適宜選択する設計的事項にすぎない。
そうすると、部材B1、B2を樹脂に埋め込み、その端部で接続する構成(上記a)は、樹脂に埋め込んだ部材B1、B2の接続する端部が「接続点(タップ)」といえるから(上記b)、本件訂正発明1における「先端にタップが切られた金属棒の電源線」及び「電源線の先端に切られたタップ」に相当する。

d そして、甲2-7発明の電子線発生部3において、部材B1と部材C1、並びに、部材B2と部材C2が直接接続されているから、部材B1、B2と電子線発生部3は直接接続されているといえる。
e さらに、甲2-7発明の長尺低エネルギ電子線照射装置1は、「当該部材B1、電極ソケット部23、24及び部材A1と、部材B2、電源ソケット29、30及び部材A2が電子線の放射方向に対して直交する側から電子線発生部3に接続され」(構成e)るから、上記aないしdでの検討を踏まえて、「高電圧ケーブル(の電極ソケット部)が差し込まれる」部材を、部材B1、B2を樹脂に埋め込み、当該部材B1、B2の端部(タップ)で接続するものであって、電子線の放射方向に対して直交する側から電子線発生部3に直接接続される樹脂製のコネクタとなし、上記相違点4に係る本件訂正発明1の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 小括
上記イでの検討によれば、本件訂正発明1は、甲2-7発明及び周知の技術的手段に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、本件訂正発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)本件訂正発明2について
ア 対比
本件訂正発明2と甲2-7発明を対比する。
上記(1)での検討に照らして、本件訂正発明1を引用する発明である本件訂正発明2と甲2-7発明とは、相違点1ないし4に加えて、「前記コネクタは、絶縁性及び難燃性に優れた材料で形成され、高電圧電源と前記真空チャンバとを電気的に分離する機能と、前記コネクタのレセプタクルの絶縁を図る機能とを一体に備えた」点(以下「相違点5」という。)において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

イ 判断
(ア)相違点1ないし4について
上記(1)で検討したとおり、本件訂正発明2に係る相違点1ないし4の構成となすことは、甲2-7発明及び周知の技術的手段に基づいて当業者が容易になし得たものである。

(イ)相違点5について
甲第1-2号証には、「高電圧導入碍子3は、電気的絶縁性の良い樹脂にて製作されること」(甲1-2に記載された技術的事項)が記載されており、また、甲第1-4号証には、「100kVDCまでの発電レセプタクルを、軽量で高性能なUL94V-0定格のエンジニアリングプラスチックを機械加工した絶縁体で作成する点」(甲1-4に記載された技術的事項)が記載されているとおり、絶縁性及び難燃性に優れた材料は周知であり、また、このような材料を採用することは、当業者が発明を実施するに際して適宜なし得る設計的事項にすぎない。
さらに、甲2-7発明において、「給電電極棒17、18の端部」に換えて一端に高電圧ケーブルが差し込まれる樹脂製のコネクタを用いる際に、電源22と長尺低エネルギ電子線照射装置1を電気的に分離する機能と、高電圧ケーブルが差し込まれる樹脂製のコネクタの絶縁を図る機能とを一体に備えるものとなすことは当然に考慮すべき事項にすぎない。

ウ 小括
上記イでの検討によれば、本件訂正発明2は、甲2-7発明及び周知の技術的手段に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、本件訂正発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)本件訂正発明5について
ア 対比
本件訂正発明5と甲2-7発明を対比する。
上記(1)及び(2)での検討に照らして、本件訂正発明1及び2の何れかを引用する発明である本件訂正発明5と甲2-7発明とは、相違点1ないし5に加えて、「前記コネクタは、前記電子線発生部の外部に臨む一端を凹ませて前記コネクタのレセプタクルが形成され、他端が前記ターミナルに直接接続されている」点(以下「相違点6」という。)において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

イ 判断
(ア)相違点1ないし5について
上記(1)及び(2)で検討したとおり、本件訂正発明5に係る相違点1ないし5の構成となすことは、甲2-7発明及び周知の技術的手段に基づいて当業者が容易になし得たものである。

(イ)相違点6について
「外部に臨む一端を凹ませてコネクタのレセプタクルが形成され」るコネクタを用いることは、甲第1-2号証に記載された技術的事項、及び、甲第2-9号証に記載された技術的事項に見られるとおり周知の技術的手段であり、甲2-7発明の他端が電子線発生部3に直接接続されている「給電電極棒17、18の端部」に換えてこのような構造のコネクタを用いることは当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 小括
上記イでの検討によれば、本件訂正発明5は、甲2-7発明及び周知の技術的手段に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、本件訂正発明5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(4)本件訂正発明3及び4について
本件訂正前の請求項3及び4は、本件訂正請求により削除されたので、請求項3及び4に係る特許に対する取消理由は理由がないものとなった。

8.むすび
以上のとおり、本件訂正発明1、2及び5に係る特許は、甲2-7発明及び周知の技術的手段に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、本件訂正発明1、2及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件訂正発明1、2及び5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項3及び4に係る特許は、上記のとおり、本件訂正請求により削除された。これにより、特許異議申立人 株式会社レクレアル及び吉久悦子による特許異議の申立てについて、本件訂正前の請求項3及び4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を発生させる電子線発生部を備え、
前記電子線発生部は、熱電子を発生させる線状のフィラメント、及び当該フィラメントで発生した熱電子が通過する拡散板を有するターミナルと、前記熱電子を真空空間で加速させる真空チャンバと、を有し、
前記真空チャンバの外の被照射物に、前記電子線発生部で発生させた電子線を照射する電子線照射装置であって、
前記真空チャンバには、前記電子線発生部で発生した電子線を放出させる電子線取出窓が設けられ、
前記ターミナルには、前記真空チャンバの外に延び出た一端に高電圧ケーブルが差し込まれる樹脂製のコネクタの他端が前記真空チャンバ内で直接接続され、
前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルは、円筒形状であり、前記電子線発生部の前記真空チャンバ、及び前記ターミナルの中心軸が略水平に配置され、前記ターミナルの中心軸よりも前記拡散板側で前記フィラメントが略水平に延び、
前記コネクタには、先端にタップが切られた金属棒の電源線が樹脂内部を通して配線され、前記コネクタの前記他端が前記電源線の先端に切られたタップによって、電子線の放射方向に対して直交する側から前記ターミナルの中心軸に同軸に前記ターミナルに直接接続されている
ことを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
前記コネクタは、絶縁性及び難燃性に優れた材料で形成され、高電圧電源と前記真空チャンバとを電気的に分離する機能と、前記コネクタのレセプタクルの絶縁を図る機能とを一体に備えたことを特徴とする請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記コネクタは、前記電子線発生部の外部に臨む一端を凹ませて前記コネクタのレセプタクルが形成され、他端が前記ターミナルに直接接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子線照射装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-08-12 
出願番号 特願2016-206883(P2016-206883)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (G21K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 藤原 伸二  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 松川 直樹
井上 博之
登録日 2018-12-21 
登録番号 特許第6451716号(P6451716)
権利者 岩崎電気株式会社
発明の名称 電子線照射装置  
代理人 特許業務法人クシブチ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人クシブチ国際特許事務所  
代理人 松浦 孝  

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