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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03F
管理番号 1368990
異議申立番号 異議2019-700424  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-27 
確定日 2020-10-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6431517号発明「感光性樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6431517号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6431517号の請求項1?8に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6431517号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年12月8日に特許出願され、平成30年11月9日にその特許権の設定登録がされ、同年11月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和元年5月27日に特許異議申立人 前田洋志(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年8月19日付けで取消理由が通知され、同年10月18日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年12月26日に意見書が提出され、令和2年2月14日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年5月19日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年7月17日に意見書が提出されたものである。

なお、令和元年10月18日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨
本件訂正の請求の趣旨は、「特許第6431517号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求める。」というものである。

2 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、特許請求の範囲の請求項1に、
「(F)疎水性シリカと、
を含み、
前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して4.5質量部?20質量部含有する感光性樹脂組成物。」
と記載されているのを、
「(F)シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した疎水性シリカと、
非反応性希釈剤として、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートと、
を含み、
前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して4.5質量部?20質量部含有するスプレー塗工用感光性樹脂組成物。」
に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用して記載された請求項2?8についても同様に訂正する。)ものである。
なお、下線は訂正箇所を示す。
また、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?8〕に対して請求されたものである。

(2)訂正の目的
本件訂正は、請求項1に記載された「疎水性シリカ」について、「シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した」との限定を付加し、請求項1に記載された「感光性樹脂組成物」について、「非反応性希釈剤として、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」を含むことを限定すると共に、「スプレー塗工用」との限定を付加するものである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して記載された請求項2?8についてみても、同様である。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものといえる。

(3)新規事項の有無
本件特許の明細書の段落【0048】には、「疎水性シリカは、例えば、シラノール基を有する親水性シリカの表面を、疎水性化合物で疎水化処理したシリカであり、球状または略球状の微粒子である。」と記載され、段落【0057】には、「非反応性希釈剤は、感光性樹脂組成物の乾燥性や塗工粘度を調節するためのものであり、例えば、有機溶剤を挙げることができる。有機溶剤には、例えば、・・・;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及び上記グリコールエーテル類のエステル化物などのエステル類;・・・等を挙げることができる。」と記載され、段落【0060】には、「上記のようにして得られた本発明の感光性樹脂組成物を、例えば、銅箔をエッチングして形成した回路パターン(例えば、導体である銅箔の厚さ50μm以上)を有する基板であるプリント配線板上に、スプレー塗工(スプレーコータ法)にて、所望の厚さ、例えばDRY膜厚が60μm以上とする場合、Wet膜厚70μm以上の厚さで塗布して塗膜を形成する。」と記載されている。
そうすると、本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正は、請求項1に記載された「疎水性シリカ」について、「シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した」との限定を付加し、請求項1に記載された「感光性樹脂組成物」について、「非反応性希釈剤として、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」を含むことを限定すると共に、「スプレー塗工用」との限定を付加するものである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して記載された請求項2?8についてみても、同様である。
そうすると、本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正は、前記第2のとおり、認められることになったので、本件特許の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明8」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(A)1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能性エポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和モノカルボン酸との反応生成物であるラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂の水酸基に、多塩基酸又はその無水物が反応した化合物である多塩基酸変性ラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂のカルボキシル基に、ラジカル重合性不飽和基とエポキシ基とを有するグリシジル化合物が反応した反応生成物であるカルボキシル基含有感光性樹脂と、
(B)光重合開始剤と、
(C)反応性希釈剤と、
(D)エポキシ化合物と、
(E)下記一般式(I)
[化1]
[R^(1)R^(2)R^(3)R^(4)-N]^(+)X^(-) (I)
(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立に、炭素数1?25の飽和脂肪族炭化水素基または炭素数2?25の不飽和脂肪族炭化水素基、Xは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されたハロゲンを表す。)
で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトと、
(F)シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した疎水性シリカと、
非反応性希釈剤として、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートと、
を含み、
前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して4.5質量部?20質量部含有するスプレー塗工用感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.0質量部?20質量部含有する請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.5質量部?13.5質量部含有し、前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して8.0質量部?18質量部含有する請求項1または2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトの質量:前記(F)疎水性シリカの質量が、1.0:0.30?3.0の範囲である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(F)疎水性シリカが、アルキルシリル基で修飾されているシリカである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記第4級アンモニウム塩が、ジステアリルジメチルアンモニウム塩である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物の光硬化物。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物の光硬化膜を有する配線板。」


第4 取消理由の概要
令和元年10月18日付け訂正請求書による訂正後の請求項1?8に係る特許に対して、当審が令和2年2月14日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

理由1(進歩性)
本件特許の請求項1?8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2016-139127号公報
甲第2号証:特開2011-133670号公報
甲第3号証:特開2011-187268号公報
甲第4号証:近藤三二, 塗料添加剤としてのベントナイトおよび有機ベントナイト, 塗装技術, Vol.6, No.10別刷,p.1?6, 昭和47年10月1日
甲第5号証:特開2005-24658号公報
甲第6号証:特開昭63-261253号公報
甲第7号証:国際公開第2008/041768号
甲第8号証:国際公開第2007/004584号
甲第9号証:国際公開第2012/086588号
甲第11号証:国際公開第2013/162015号
甲第12号証:国際公開第2014/196502号
甲第13号証:特開2006-70152号公報
甲第14号証:特開2016-180880号公報
甲第15号証:特開2008-107511号公報
甲第16号証:国際公開第2016/072224号
(当審注:甲第1号証、甲第2号証、甲第11号証及び甲第12号証は、いずれも主引用例であり、甲第3号証?甲第9号証及び甲13号証?甲16号証は副引用例である。)

理由2(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備であって、本件特許の請求項1?8に係る発明は、明確であるということができず、これらの発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。


第5 甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明
1 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証(特開2016-139127号公報)には、以下の記載事項がある。なお、文献に付されていた下線を省き、合議体が発明の認定等に用いた箇所に新たに下線を付した。他の甲号証についても同様である。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カルボキシル基含有感光性樹脂と、(B)ブロック共重合体と、(C)光重合開始剤と、(D)反応性希釈剤と、(E)エポキシ化合物と、を含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。

(中略)

【請求項7】
スプレー塗工用であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物を塗布したことを特徴とするプリント配線板。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂組成物、特に回路基板の絶縁被膜として有用な感光性樹脂組成物及び感光性樹脂組成物を光硬化して得られた皮膜を有するプリント配線板に関する。

(中略)

【0004】
スプレー塗布された硬化塗膜は、例えば、エッジカバーリング性に優れ、ユズ肌、熱履歴による黄変を抑えることが要求される場合がある。そこで、スプレー塗装用の感光性樹脂組成物として、カルボキシル基含有感光性樹脂と、熱分解法により製造された二酸化ケイ素粉末及び/または金属酸化物粉末と、光重合開始剤と、希釈剤と、エポキシ化合物と、酸化チタンとを含有する感光性樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、塗膜硬度、はんだ耐熱性、タック性及びアルカリ現像性等の基本諸特性を損なうことなく、熱衝撃耐性とスプレー塗工性に優れた硬化物を得ることができる感光性樹脂組成物を提供することにある。

(中略)

【発明の効果】
【0016】
本発明の態様によれば、(B)ブロック共重合体を含むことにより、硬度、はんだ耐熱性、タック性及びアルカリ現像性等の基本諸特性を損なうことなく、熱衝撃耐性とスプレー塗工性とに優れた硬化物を得ることができる。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の感光性樹脂組成物について、以下に説明する。本発明の感光性樹脂組成物は、(A)カルボキシル基含有感光性樹脂と、(B)ブロック共重合体と、(C)光重合開始剤と、(D)反応性希釈剤と、(E)エポキシ化合物と、を含有する。
上記成分は以下の通りである。
【0021】
(A)カルボキシル基含有感光性樹脂
カルボキシル基含有感光性樹脂は、特に限定されず、例えば、感光性の不飽和二重結合を1個以上有する樹脂が挙げられる。カルボキシル基含有感光性樹脂として、例えば、1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能エポキシ樹脂のエポキシ基の少なくとも一部に、アクリル酸やメタクリル酸(以下、「(メタ)アクリル酸」ということがある。)等のラジカル重合性不飽和モノカルボン酸を反応させて、エポキシ(メタ)アクリレート等のラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂を得て、生成した水酸基に多塩基酸又はその無水物を反応させて得られる、多塩基酸変性エポキシ(メタ)アクリレート等の多塩基酸変性ラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂を挙げることができる。

(中略)

【0030】
(B)ブロック共重合体
本発明の感光性樹脂組成物では、ブロック共重合体を配合することにより、熱衝撃耐性とスプレー塗工性とがバランスよく向上した硬化物を得ることができる。ブロック共重合体の構造は特に限定されず、例えば、トリブロック共重合体、ジブロック共重合体等を挙げることができる。

(中略)

【0040】
(C)光重合開始剤
光重合開始剤は、一般的に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(0-アセチルオキシム)、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン‐n‐ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2‐ジメトキシ‐2‐フェニルアセトフェノン、2,2‐ジエトキシ‐2‐フェニルアセトフェノン、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルフォリノプロピオフェノン、2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐1‐フェニルプロパン‐1‐オン、1‐ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、4‐(2‐ヒドロキシエトキシ)フェニル‐2‐(ヒドロキシ‐2‐プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p‐フェニルベンゾフェノン、4,4′‐ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロルベンゾフェノン、2‐メチルアントラキノン、2‐エチルアントラキノン、2‐ターシャリーブチルアントラキノン、2‐アミノアントラキノン、2‐メチルチオキサントン、2‐エチルチオキサントン、2‐クロルチオキサントン、2,4‐ジメチルチオキサントン、2,4‐ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、P‐ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等が挙げられる。

(中略)

【0042】
(D)反応性希釈剤
反応性希釈剤とは、例えば、光重合性モノマーであり、1分子当たり少なくとも1つ、好ましくは1分子当たり少なくとも2つの重合性二重結合を有する化合物である。反応性希釈剤は、感光性樹脂組成物の光硬化を十分にして、耐酸性、耐熱性、耐アルカリ性などを有する硬化物を得るために使用する。
【0043】
反応性希釈剤は、上記化合物であれば特に限定されず、例えば、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、フェノキシエチルメタクリレート、ジエチレングルコールモノメタクリレート、2‐ヒドロキシ‐3‐フェノキシプロピルアクリルレート、1,4‐ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6‐ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性燐酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート類等が挙げられる。

(中略)

【0045】
(E)エポキシ化合物
エポキシ化合物は、硬化塗膜の架橋密度を上げて十分な強度の硬化塗膜を得るためのものであり、例えば、エポキシ樹脂を添加する。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、p-tert-ブチルフェノールノボラック型など)、ビスフェノールFやビスフェノールSにエピクロルヒドリンを反応させて得られたビスフェノールF型やビスフェノールS型エポキシ樹脂、さらにシクロヘキセンオキシド基、トリシクロデカンオキシド基、シクロペンテンオキシド基などを有する脂環式エポキシ樹脂、トリス(2,3-エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等のトリアジン環を有するトリグリシジルイソシアヌレート、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂を挙げることができる。

(中略)

【0047】
本発明の感光性樹脂組成物には、上記した成分(A)?成分(E)の他に、必要に応じて、種々の成分、例えば、フィラー、顔料、各種添加剤、溶剤などを含有させることができる。
【0048】
フィラーは、感光性樹脂組成物の塗膜の物理的強度を上げるためのものであり、例えば、タルク、硫酸バリウム、疎水性シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、マイカ等を挙げることができる。

(中略)

【0049】
顔料は、特に限定されず、例えば、白色着色剤である酸化チタンや、白色以外の着色剤として、フタロシアニングリーン及びフタロシアニンブルー等のフタロシアニン系、アントラキノン系、並びにアゾ系等の有機顔料や、カーボンブラック等の無機顔料を挙げることができる。
【0050】
各種添加剤には、例えば、シリコーン系、炭化水素系、アクリル系等の消泡剤、シラン系、チタネート系、アルミナ系等のカップリング剤、三フッ化ホウ素-アミンコンプレックス、ジシアンジアミド(DICY)及びその誘導体、有機酸ヒドラジド、ジアミノマレオニトリル(DAMN)及びその誘導体、グアナミン及びその誘導体、メラミン及びその誘導体、アミンイミド(AI)並びにポリアミン等の潜在性硬化剤、アセチルアセナートZn及びアセチルアセナートCr等のアセチルアセトンの金属塩、エナミン、オクチル酸錫、第4級スルホニウム塩、トリフェニルホスフィン、イミダゾール類、イミダゾリウム塩類並びにトリエタノールアミンボレート等の熱硬化促進剤、ポリカルボン酸アマイド等のチキソ剤などを挙げることができる。
【0051】
溶剤は、感光性樹脂組成物の乾燥性を調節するためのものである。溶剤には、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロプレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及び上記グリコールエーテル類のエステル化物などのエステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類等を挙げることができる。」

エ 「【0053】
次に、本発明の感光性樹脂組成物の使用方法例を説明する。ここでは、本発明の感光性樹脂組成物を、プリント配線板にスプレーにて塗工して、ソルダーレジスト膜等の絶縁被膜を形成する方法を例にして説明する。
【0054】
プリント配線板に、所望の厚さ、例えば5?100μmの厚さで、上記のように製造した本発明の感光性樹脂組成物をスプレーにて塗布する。スプレー塗工の手段としては、適宜選択可能であるが、例えば、静電スプレー塗装機、エアースプレー塗装機、エアレススプレー塗装機等を挙げることができる。スプレー塗工後、必要に応じて、熱風炉または遠赤外線炉等でスプレー塗工した感光性樹脂組成物を予備乾燥し、感光性樹脂組成物から溶剤を揮発させて塗膜の表面をタックフリーの状態にする。予備乾燥の温度は60?80℃、予備乾燥の時間は15?60分が、それぞれ、好ましい。その後、塗布した感光性樹脂組成物上に、回路パターンのランド以外を透光性にしたパターンを有するネガフィルムを密着させ、その上から紫外線を照射させる。そして、前記ランドに対応する非露光領域を希アルカリ水溶液で除去することにより塗膜が現像される。現像方法には、例えば、スプレー法、シャワー法等が用いられ、希アルカリ水溶液としては、例えば、0.5?5%の炭酸ナトリウム水溶液を使用することができる。次いで、130?170℃の熱風循環式の乾燥機等で20?80分間ポストキュアを行うことにより、プリント配線板上に目的とするパターンを有する絶縁被膜を形成させることができる。」

オ 「【実施例】
【0055】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1?11、比較例1?2
下記表1に示す各成分を下記表1に示す配合割合にて配合し、3本ロールを用いて室温にて混合分散させて、実施例1?11、比較例1?2にて使用する感光性樹脂組成物を調製した。そして、調製した感光性樹脂組成物を以下のように塗工して試験片を作製した。下記表1中の数字は質量部を示す。また、下記表1中の空欄は配合なしを意味する。
【0057】
【表1】

【0058】
なお、表1中の各成分についての詳細は以下の通りである。
【0059】
(A)カルボキシル基含有感光性樹脂
カルビトールアセテート250質量部に、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(住友化学工業(株)製、ESCN-220、エポキシ当量220)220質量部及びアクリル酸64.8質量部を溶解し、還流下に反応させて、クレゾールノボラック型エポキシアクリレートを得た。次いで、得られたクレゾールノボラック型エポキシアクリレートに、ヘキサヒドロ無水フタル酸138.6質量部を加え、酸価が理論値になるまで還流下で反応させた後、グリシジルメタクリレート56.8質量部を加え、さらに反応させて、固形分66質量%のカルボキシル基含有感光性樹脂の溶液(A-1)を得た。
【0060】
(B)ブロック共重合体
・LA2140e:ポリメチルメタクリレート-ポリn-ブチルアクリレート-ポリメチルメタクリレートのトリブロック共重合体、ポリn-ブチルアクリレートの含有量は60質量%以上、質量平均分子量80000、分子量分布は1.1、(株)クラレ製。
・LA4285:ポリメチルメタクリレート-ポリn-ブチルアクリレート-ポリメチルメタクリレートのトリブロック共重合体、ポリn-ブチルアクリレートの含有量は50質量%、質量平均分子量65000、分子量分布は1.1、(株)クラレ製。
【0061】
LA2140e、LA4285ともに、下記式
[a^(1)]-[b^(1)]-[a^(2)]
(式中、[a^(1)]は、ポリメチルメタクリレートであり、ガラス転移温度は100?120℃である重合体ブロック。[a^(2)]は、ポリメチルメタクリレートであり、ガラス転移温度は100?120℃である重合体ブロック。[b^(1)]は、ポリn-ブチルアクリレートであり、ガラス転移温度は-50?-45℃である重合体ブロック。[a^(1)]と[a^(2)]の質量の合計/[b]の質量=1/1。)で表される。

(中略)

【0065】
(C)光重合開始剤
・イルガキュア907、イルガキュア819、イルガキュアOXE-02:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製。
・KAYACURE JETX:日本化薬(株)製。
【0066】
(D)反応性希釈剤
・EBECRYL8402:ダイセル・オルネクス社製。
(E)エポキシ化合物
・N695:DIC社製。
・YX-4000:三菱化学(株)製。
【0067】
フィラー
・硫酸バリウムB-34:堺化学工業(株)製。
・LMS200:富士タルク(株)製。
・レオロシールDM-20S:トクヤマ(株)製。
顔料
・ファーストゲングリーン:DIC社製。
添加剤
・粉末メラミン:日産化学工業(株)製。
・アンテージMB:川口化学工業(株)製。
・DICY-7:ジャパンエポキシレジン社製。
・BYK-405:ビックケミー社製。
溶剤
・EDGAC:三洋化成品(株)製。
ウレタンビーズ
・RHC732:大日精化工業(株)製。
【0068】
試験片作製工程
基板:プリント配線基板(ガラスエポキシ基板「FR-4」、板厚1.6mm、導体(Cu箔)厚50μm)
基板表面処理:バフ研磨
塗工:スプレー塗工
塗装条件:吐出量(110cc/min)、コンベアー速度(2.3m/min)、ディスク回転数(30000rpm)、印加電圧(-35KV)
DRY膜厚:35?40μm
予備乾燥:80℃、20分
露光:感光性樹脂組成物上300mJ/cm^(2)(オーク社製「HMW-680GW」)
アルカリ現像:1%Na_(2)CO_(3)、液温30℃、スプレー圧0.2MPa、現像時間60秒
ポストキュア:150℃、60分
【0069】
評価・測定項目は以下の通りである。

(中略)

【0074】
(6)スプレー塗工性
上記試験片作製工程における予備乾燥後の塗膜表面外観を目視により観察し、以下の基準にて評価した。
◎:気泡、ゆず肌ともなく、レベリング性良好である
○:若干のゆず肌がある、またはCu箔付近のカバーリングが若干薄い
△:若干のゆず肌に加え、塗膜表面が若干失沢している
×:ゆず肌がある、またはスプレー塗工が不可である
【0075】
上記評価の結果を下記表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
上記表2に示すように、ポリメチルメタクリレート-ポリn-ブチルアクリレート-ポリメチルメタクリレートのブロック共重合体を配合した実施例1?8では、塗膜硬度、はんだ耐熱性、タック性及びアルカリ現像性等の基本諸特性を損なうことなく、熱衝撃耐性とスプレー塗工性に優れた硬化物を得ることができた。ブロック共重合体として、トリブロック共重合体とジブロック共重合体とを併用した実施例7、8は、トリブロック共重合体のみを配合した実施例6と比較して、熱衝撃耐性とスプレー塗工性がさらにバランスよく向上し、より優れたアルカリ現像性とタック性を得ることができた。また、ポリn-ブチルアクリレート含有量が50質量%のポリメチルメタクリレート-ポリn-ブチルアクリレート-ポリメチルメタクリレートのトリブロック共重合体である実施例4?6は、ポリn-ブチルアクリレート含有量が60質量%以上のポリメチルメタクリレート-ポリn-ブチルアクリレート-ポリメチルメタクリレートのトリブロック共重合体である実施例1?3と比較して、塗膜硬度とはんだ耐熱性がさらに向上した。」

カ 「【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の感光性樹脂組成物は、塗膜硬度、はんだ耐熱性、タック性及びアルカリ現像性等の特性を損なうことなく、熱衝撃耐性とスプレー塗工性に優れた硬化物を得ることができるので、例えば、プリント配線板の分野で利用価値が高い。」

(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の記載事項オに基づけば、甲第1号証には、実施例1に係る感光性樹脂組成物として次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「以下に示す各成分を以下に示す配合割合にて配合し、混合分散させて調製して得られ、プリント配線基板にスプレー塗工して試験片を作製するのに用いられる感光性樹脂組成物。
(A)カルボキシル基含有感光性樹脂として、カルビトールアセテート250質量部に、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(住友化学工業(株)製、ESCN-220、エポキシ当量220)220質量部及びアクリル酸64.8質量部を溶解し、還流下に反応させて、クレゾールノボラック型エポキシアクリレートを得て、得られたクレゾールノボラック型エポキシアクリレートに、ヘキサヒドロ無水フタル酸138.6質量部を加え、酸価が理論値になるまで還流下で反応させた後、グリシジルメタクリレート56.8質量部を加え、さらに反応させて得た、固形分66質量%のカルボキシル基含有感光性樹脂の溶液(A-1) 43.5質量部
(B)ブロック共重合体として、LA2140e(ポリメチルメタクリレート-ポリn-ブチルアクリレート-ポリメチルメタクリレートのトリブロック共重合体) 3.5質量部
(C)光重合開始剤として、
イルガキュア907 3.0質量部
イルガキュア819 0.5質量部
KAYACURE JETX 0.2質量部
Irgacure OXE-02 0.010質量部
(D)反応性希釈剤として、
EBECRYL 8402(ウレタンアクリレート)
7.0質量部
(E)エポキシ化合物として、
N695(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)2.0質量部
YX-4000(ビフェニル型エポキシ樹脂) 10.0質量部
フィラーとして、
硫酸バリウムB-34 10.0質量部
レオロシール DM-20S(疎水性シリカ) 2.0質量部
顔料として、ファーストゲングリーン(フタロシアニングリーン)
0.3質量部
添加剤として、
微粉メラミン 1.0質量部
アンテージMB(2-メルカプトベンゾイミダゾール)
0.1質量部
DICY-7(ジシアンジアミド) 0.1質量部
BYK-405(ポリカルボン酸アマイド) 0.5質量部
溶剤として、EDGAC(ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート) 16.3質量部」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、甲第2号証(特開2011-133670号公報)には、以下の記載事項がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カルボキシル基含有感光性樹脂、(B)熱分解法により製造された二酸化ケイ素粉末及び/または金属酸化物粉末、(C)光重合開始剤、(D)希釈剤、(E)エポキシ化合物、(F)酸化チタン及び(G)溶剤を含有することを特徴とするスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物。

(中略)

【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物をスプレー塗装したことを特徴とするプリント配線板。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、永久マスクとして使用可能なソルダーレジストや各種レジストなどに適したスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物、及びこれを塗装したプリント配線板に関するものである。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、環境負荷を低減させつつ、エッジカバーリング性に優れ、ダレ性、ユズ肌、熱履歴による黄変を抑えることができるスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物及びこのスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物をスプレー塗装したプリント配線板を提供することを目的とする。

(中略)

【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、粘度及びチキソ比の調整に、(B)熱分解法により製造された二酸化ケイ素粉末及び/または金属酸化物粉末を用いるので、エッジカバーリング性に優れ、ダレ性、ユズ肌、フィルム張り付き性及び熱履歴による黄変が抑制されたソルダーレジスト膜を形成できる。また、(G)溶剤の含有量を低減させて環境負荷を抑えることができる。さらに、スプレー塗装に適した粘度が得られるので、生産効率が向上する。

(中略)

【0018】
本発明の第6の態様によれば、エッジカバーリング性に優れ、ダレ性、ユズ肌、フィルム張り付き性及び熱履歴による黄変が抑制されたソルダーレジスト膜を被覆したプリント配線板を得ることができる。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明のスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物の各成分について説明する。本発明のスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物は、(A)カルボキシル基含有感光性樹脂、(B)熱分解法により製造された二酸化ケイ素粉末及び/または金属酸化物粉末、(C)光重合開始剤、(D)希釈剤、(E)エポキシ化合物、(F)酸化チタン及び(G)溶剤を含有するものであって、上記各成分は、以下の通りである。
【0020】
(A)カルボキシル基含有感光性樹脂
カルボキシル基を含有した感光性樹脂であれば特に限定されず、例えば、感光性の不飽和二重結合を1個以上有する感光性のカルボキシル基含有樹脂、感光性の不飽和二重結合を有さないカルボキシル基含有樹脂を挙げることができる。(A)成分の例として、分子中にエポキシ基を2個以上有する脂環式エポキシ樹脂のエポキシ基の少なくとも一部にアクリル酸又はメタクリル酸等のラジカル重合性不飽和モノカルボン酸を反応させた後、生成した水酸基に飽和または不飽和の多塩基酸または多塩基酸無水物を反応させたものを挙げることができる。

(中略)

【0035】
(B)熱分解法により製造された二酸化ケイ素粉末及び/または金属酸化物粉末
熱分解法により製造された二酸化ケイ素粉末には、例えばヒュームドシリカが挙げられる。ヒュームドシリカを添加することにより、本発明のスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物にチキソ性を付与してソルダーレジスト膜のダレを抑えつつ、熱履歴による黄変等の変色を抑えることができる。本発明で使用できるヒュームドシリカは、特に限定されないが、例えば、塩化ケイ素を原料に高温で加水分解して得られるものを挙げることができる。
【0036】
比表面積、一次粒子径及び表面処理等、ヒュームドシリカの特性は特に限定されないが、塗布後のレベリング性の点で、比表面積50?200m^(2)/gのヒュームドシリカが好ましい。ヒュームドシリカには、例えば、親水性ヒュームドシリカとしては、日本アエロジル(株)製のAEROSIL(R)90、AEROSIL(R)130、AEROSIL(R)150、AEROSIL(R)200、AEROSIL(R)300、AEROSIL(R)380、AEROSIL(R) OX50、AEROSIL(R) EG50、AEROSIL(R) TT600、(株)トクヤマ製のレオロシールQS-09、QS-10L、QS-10、QS-102、CP-102、QS-20L、QS-20、QS-25C、QS-30、QS-30C、QS-40等が挙げられる。また、疎水性ヒュームドシリカとしては、日本アエロジル(株)製のAEROSIL(R) R972、AEROSIL(R) R974、AEROSIL(R) R104、AEROSIL(R) R106、AEROSIL(R) R202、AEROSIL(R) R805 、AEROSIL(R) R812、AEROSIL(R) R816、AEROSIL(R) R7200、AEROSIL(R) R8200、AEROSIL(R) R9200、AEROSIL(R) RY50、AEROSIL(R) NY50、 AEROSIL(R) RY200、AEROSIL(R) RY200S、AEROSIL(R)RX50、AEROSIL(R) NAX50、AEROSIL(R)RX200、AEROSIL(R) RX300、AEROSIL(R)R504、AEROSIL(R) DT4、(株)トクヤマ製のレオロシールMT-10、MT-10C、DM-10、DM-10C、DM-20S、DM-30、DM-30S、KS-20S、KS-20SC、HM-20L、HM-30S、PM-20L等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。

(中略)

【0041】
(C)光重合開始剤
一般的に使用される光重合開始剤であれば特に限定されず、例えば、オキシム系開始剤、ベンゾイン、アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン等がある。これらの光重合開始剤は単独でも2種以上を混合してもよい。光重合開始剤の配合量は、カルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して、1?30質量部であり、好ましくは5?20質量部である。
【0042】
(D)希釈剤
希釈剤は、例えば、光重合性モノマーであり、カルボキシル基含有感光性樹脂の光硬化を十分にして、耐酸性、耐熱性、耐アルカリ性などを有する塗膜を得るために使用する。光重合性モノマーとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの希釈剤は単独でも2種以上を混合してもよい。希釈剤の配合量は、カルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して、20?300質量部であり、好ましくは2.0?40質量部である。
【0043】
(E)エポキシ化合物
エポキシ化合物は、白色の感光性樹脂組成物において、硬化塗膜の架橋密度を上げるとともに、UV照射、熱履歴による白色塗膜の変色及び反射率の低下が少ない樹脂硬化膜を得るためのものであり、例えば、エポキシ樹脂を添加する。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、p-tert-ブチルフェノールノボラック型など)、ビスフェノールFやビスフェノールSにエピクロルヒドリンを反応させて得られたビスフェノールF型やビスフェノールS型エポキシ樹脂、さらにシクロヘキセンオキシド基、トリシクロデカンオキシド基、シクロペンテンオキシド基などを有する脂環式エポキシ樹脂、トリス(2,3-エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等のトリアジン環を有するトリグリシジルイソシアヌレート、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂を挙げることができる。これらの化合物は単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。

(中略)

【0045】
(F)酸化チタン
酸化チタンは、アナタース型酸化チタン粒子及びルチル結晶構造を有する酸化チタン粒子であり、塗膜を白色化するために使用する。白色度の観点からルチル型酸化チタンが好ましい。ルチル型酸化チタンには、例えば、富士チタン工業(株)製「TR-600」、「TR-700」、「TR-750」、「TR-840」、石原産業(株)製「R-550」、「R-580」、「R-630」、「R-820」、「CR-50」、「CR-60」、「CR-90」、「CR-93」、チタン工業(株)製「KR-270」、「KR-310」、「KR-380」等を挙げることができる。ルチル型酸化チタンの配合量は、カルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して、30?200質量部であり、好ましくは50?150質量部である。
【0046】
(G)溶剤
溶剤は、スプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物の乾燥性を調節するためのものである。溶剤には、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロプレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及び上記グリコールエーテル類のエステル化物などのエステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類等を挙げることができる。
【0047】
本発明のスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物には、上記した成分(A)?(G)の他に、必要に応じて、種々の添加成分、例えば、消泡剤、各種添加剤、体質顔料などを含有させることができる。

(中略)

【0049】
各種添加剤には、例えば、シラン系、チタネート系、アルミナ系等のカップリング剤といった分散剤、三フッ化ホウ素-アミンコンプレックス、ジシアンジアミド(DICY)及びその誘導体、有機酸ヒドラジド、ジアミノマレオニトリル(DAMN)及びその誘導体、グアナミン及びその誘導体、メラミン及びその誘導体、アミンイミド(AI)並びにポリアミン等の潜在性硬化剤、アセチルアセナートZn及びアセチルアセナートCr等のアセチルアセトンの金属塩、エナミン、オクチル酸錫、第4級スルホニウム塩、トリフェニルホスフィン、イミダゾール、イミダゾリウム塩並びにトリエタノールアミンボレート等の熱硬化促進剤を挙げることができる。
【0050】
体質顔料は、塗工したソルダーレジスト膜の物理的強度を上げるためのものであり、例えば、シリカ、硫酸バリウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、タルク、マイカ等を挙げることができる。」

エ 「【0052】
上記のようにして得られた本発明のスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物は、例えば銅張り積層板の銅箔をエッチングして形成した回路のパターンを有するプリント配線板に所望の厚さ、例えば5?100μmの厚さでスプレー塗布される。スプレー塗布の手段としては、例えば、静電スプレー塗装機、エアースプレー塗装機、エアレススプレー塗装機等を挙げることができる。
【0053】
スプレー塗工後、必要に応じて熱風炉または遠赤外線炉等で予備乾燥が行われ、白色ソルダーレジスト組成物から溶剤を揮発させて塗膜の表面をタックフリーの状態にする。予備乾燥の温度はおおむね50?100℃程度、予備乾燥の時間は20?25分が好ましい。
【0054】
予備乾燥後、LDI(Laser Direct Imaging)を用いたレーザー直描による露光、または、活性エネルギー線を通さないようにしたネガマスクを用いて活性エネルギー線による露光が行われる。ネガマスクとしては活性エネルギー線が紫外線の場合にはネガフィルム、電子線の場合には金属性マスク、X線の場合には鉛性マスクがそれぞれ使用されるが、簡単なネガフィルムを使用できるためプリント配線板製造では活性エネルギー線として紫外線が多く用いられる。紫外線の照射量は10?1000mJ/cm^(2)である。

(中略)

【0057】
このようにしてソルダーレジスト膜で被覆したプリント配線板が得られ、これに電子部品が噴流はんだ付け方法や、リフローはんだ付け方法によりはんだ付けされることにより接続、固定されて搭載され、一つの電子回路ユニットが形成される。
【0058】
本発明においては、その電子部品搭載前のソルダーレジスト膜を被覆したプリント配線板、このプリント配線板に電子部品搭載した電子部品搭載後のプリント配線板のいずれをもその対象に含む。」

オ 「【実施例】
【0059】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0060】
実施例1?15、比較例1?3
下記表1に示す各成分を下記表1に示す割合にて配合し、3本ロールを用いて室温にて混合分散させて、実施例1?15、比較例1?3にて使用するスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物を調製した。下記表1中の配合の数字は質量部を示す。
【0061】
【表1】

【0062】
なお、表1中の各成分についての詳細は以下の通りである。
(A)カルボキシル基含有感光性樹脂
・合成例1:樹脂A-1の合成
エポキシ樹脂(ダイセル化学工業社製、EHPE-3150 )270質量部を、セロソルブアセテート400質量部に融解したものにアクリル酸(不飽和基含有モノカルボン酸)110質量部を加え加熱還流条件下、定法により反応させ、この反応生成物に、テトラヒドロ無水フタル酸(多塩基酸無水物)160質量部を定法により反応させ、続いて、グリシジルメタアクリレート(エチレン性不飽和単量体)40質量部を加熱還流下定法により反応させて、生成物(樹脂A-1)を得た。

(中略)

(B)熱分解法により製造された二酸化ケイ素粉末及び/または金属酸化物粉末
・AEROSIL R974:日本アエロジル(株)製、疎水性ヒュームドシリカ。

(中略)

(C)光重合開始剤
・DAROCURE TPO:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド。
(D)希釈剤
・M-408:東亜合成(株)製、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート。
(E)エポキシ化合物
・EPICRON 860:大日本インキ化学工業(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂。
(F)酸化チタン
・CR‐80:石原産業(株)製、ルチル型酸化チタン。
【0063】
その他、添加剤であるDICY‐7はジャパンエポキシレジン社製の硬化促進剤、メラミンは潜在性硬化剤、比較例3で使用したBYK‐411はビックケミー・ジャパン(株)製のチキソ性付与剤である。
【0064】
試験片作成工程を以下に示す。
基板:ガラスエポキシ基板FR-4、板厚1.6mm、導体厚50μm、幅200μm
基板表面処理:酸処理(3%硫酸水溶液)
塗工:スプレー塗工
塗装条件:吐出量(110cc/min),コンベアー速度(2.3m/min)ディスク回転数(30000rpm)、印加電圧(-35KV)、スプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物液のWet膜厚は約60μm
DRY膜厚:30?35μm
予備乾燥:70℃、20分(BOX炉内25分)
露光:ソルダーレジスト組成物上400mJ/cm^(2)(オーク社製HMW-680GW)
現像:1%Na_(2)CO_(3)、30℃、0.1MPa、60秒
ポストキュア:150℃、60分(BOX炉内70分)
【0065】
評価・測定項目は以下の通りである。
(1)粘度
調製したスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物について、マルコム製スパイラル粘度計PC-1C型(φ35ローター)を用いて、試料温度25℃における粘度測定を行った。
(2)チキソ比
調製したスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物について、ブルックフィールド製粘度計RVT型を用いて、試料温度25℃におけるスピンドル回転数5rpmと50rpmの粘度の比(η5/η50)からチキソ比を算出した。
(3)ダレ性
試験片である塗装基板を目視評価した。
○:塗装基板表面上のソルダーレジスト膜にヨリやダレがない。
△:塗装基板表面上のソルダーレジスト膜にヨリやダレがややある。
×:塗装基板表面上のソルダーレジスト膜にヨリやダレがある。
(4)ユズ肌性
試験片である塗装基板を目視評価した。
○:塗装基板表面上のソルダーレジスト膜が平滑である。
△:塗装基板表面上のソルダーレジスト膜に凹凸がやや存在する。
×:塗装基板表面上のソルダーレジスト膜に凹凸がある。
?:ダレの発生が著しく試験片が作成できず評価不能。
(5)フィルム張り付き性
予備乾燥後にネガフィルムを接触させ、露光した際の張り付き性を評価した。
○:張り付きなし。
△:塗膜に張り付き跡が残存。
×:フィルム引き剥がし後、フィルムインク付着。
?:ダレの発生が著しく試験片が作成できず評価不能。
(6)エッジカバーリング
試験片である塗装基板を断面観察し、導体のエッジ部分に被覆しているレジストの膜厚を測定した。
(7)変色性評価
変色評価:260℃で5分間加熱後硬化塗膜の変色を目視にて評価した。
○:変色なし。
△:変色が若干認められる。
×:黄変。
(8)はんだ耐熱性
試験片の硬化塗膜を、JIS C-6481の試験方法に従って、260℃のはんだ槽に30秒間浸せき後、セロハンテープによるピーリング試験を1サイクルとし、これを1?3回繰り返した後の塗膜状態を目視により観察し、以下の基準に従って評価した。
◎:3サイクル繰り返し後も塗膜に変化が認められない。
○:3サイクル繰り返し後の塗膜にほんの僅か変化が認められる。
△:2サイクル繰り返し後の塗膜に変化が認められる。
×:1サイクル後の塗膜に剥離が認められる。
【0066】
上記測定結果、評価結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
上記表2に示すように、熱分解法により製造された二酸化ケイ素粉末及び/または金属酸化物粉末を2?20質量部配合した実施例1?15では、ダレを防止しつつユズ肌の発生とフィルムへの張り付きを抑えることができ、さらにエッジ部分に被覆しているレジストの膜厚も7μm以上と良好であった。これは、スプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物の粘度が1.1?3.0dPa・s、チキソ比が1.4?2.2と、スプレー塗装に適した数値範囲となったためと考えられる。また、実施例1?15では、粘度及びチキソ性(チキソ比)の調整に熱分解法により製造された二酸化ケイ素粉末及び/または金属酸化物粉末を使用しているので、熱履歴による変色性も抑制でき、さらにはんだ耐熱性も良好であった。ただ、若干ではあるが、粘度55dPa・sの実施例14ではユズ肌の傾向が、粘度0.5dPa・sの実施例15ではダレの傾向が見られた。
【0069】
実施例1?5と実施例9?10の対比より、熱分解法により製造された二酸化ケイ素粉末、熱分解法により製造された金属酸化物粉末のいずれでも、ほぼ同等にダレを防止しつつユズ肌の発生とフィルムへの張り付きを抑えることができた。また、実施例1?5と実施例11?13の対比より、溶剤にプロピレングリコールモノメチルエーテルを配合すると、ダレ性、フィルム張り付き性をより抑えることができた。
【0070】
一方で、比較例1では、スプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物の粘度及びチキソ比が高く、塗装基板の表面に凹凸が生じるユズ肌が観察された。比較例2では、チキソ比が低く、ダレが発生して試験片の作成ができなかった。従来のチキソ性付与剤を使用した比較例3では、ダレは発生せず、ユズ肌も観察されなかったが、加熱後に塗膜表面が黄変した。」

カ 「【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物は、エッジカバーリング性に優れ、ダレ性、ユズ肌、熱履歴による黄変を抑えることができるので、プリント配線板の分野、特にLED実装用プリント配線板の分野で利用価値が高い。」

(2)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の記載事項オに基づけば、甲第2号証には、実施例1に係るスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物として、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「以下に示す各成分を以下に示す割合にて配合し、混合分散させて調製した、スプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物。
(A)カルボキシル基含有感光性樹脂として、エポキシ樹脂(ダイセル化学工業社製、EHPE-3150)270質量部を、セロソルブアセテート400質量部に融解したものにアクリル酸(不飽和基含有モノカルボン酸)110質量部を加え加熱還流条件下、定法により反応させ、この反応生成物に、テトラヒドロ無水フタル酸(多塩基酸無水物)160質量部を定法により反応させ、続いて、グリシジルメタアクリレート(エチレン性不飽和単量体)40質量部を加熱還流下定法により反応させて得た、樹脂A-1 100質量部
(B)熱分解法により製造された二酸化ケイ素粉末及び/または金属酸化物粉末として、AEROSIL R974(疎水性ヒュームドシリカ)
10質量部
(C)光重合開始剤として、DAROCURE TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド) 10質量部
(D)希釈剤として、M-408(ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート) 30質量部
(E)エポキシ化合物として、EPICRON 860(ビスフェノールA型エポキシ樹脂) 15質量部
(F)酸化チタンとして、CR-80(ルチル型酸化チタン) 80質量部
(G)溶剤として、プロピレングリコールモノメチルエーテル 30質量部
添加剤として、
DICY-7(硬化促進剤) 1質量部
メラミン(潜在性硬化剤) 2質量部
体質顔料として、硫酸バリウム 10質量部」

3 甲第11号証
(1)甲第11号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第11号証(国際公開第2013/162015号)には、以下の記載事項がある。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、光硬化性熱硬化性樹脂組成物、硬化物、及びプリント配線板に関する。

(中略)

発明が解決しようとする課題
[0004] 光硬化性樹脂組成物において、例えば、オキシムエステル系光重合開始剤の含有量が多い場合、露光前における乾燥時間が長くなると、未露光部分でも硬化反応が進行してしまう場合がある。また、上記乾燥後且つ露光前における放置中でも、環境によっては、硬化反応が進行してしまう場合がある。この場合、十分に現像できなくなるため、回路上に光硬化性樹脂組成物の残渣が発生してしまう。残渣が発生した場合、金メッキ処理ができなくなる等の問題がある。
[0005] 一方、オキシムエステル系光重合開始剤の含有量を少なくした場合、光に対する感度が低くなるため、十分に硬化させることができないという問題がある。
[0006] 本発明は、光に対する感度が高く、かつ、露光前における乾燥時間を長くしても現像残渣が発生しにくい光硬化性熱硬化性樹脂組成物、該組成物からなる硬化物、及び該硬化物を有するプリント配線板を提供することを課題とする。
課題を解決するための手段
[0007] 上記課題を解決するために、本発明の一態様により、(A)多官能エポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和モノカルボン酸を反応させて、側鎖に水酸基を有するエポキシカルボレートを生成し、このエポキシカルボレートと多塩基酸無水物を反応させて、カルボキシル基含有感光性樹脂(A1)を生成し、このカルボキシル基含有感光性樹脂(A1)と、エポキシ基とラジカル重合性不飽和基を有する化合物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂、(B)軟化点60℃以下の多官能エポキシ樹脂、及び、(C)光重合開始剤を含有することを特徴とする光硬化性熱硬化性樹脂組成物が提供される。

(中略)

発明の効果
[0011] 本発明により、光に対する感度が高く、かつ、露光前における乾燥時間を長くしても現像残渣が発生しにくい光硬化性熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、及び、その硬化物を有するプリント配線板の提供が可能となった。また、本発明により提供される光硬化性熱硬化性樹脂組成物を用いて形成される乾燥塗膜は指触乾燥性にも優れている。」

イ 「発明を実施するための形態
[0012] 以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物(以下において「本発明の組成物」などともいう。)に含有される成分について説明する。
[0013] [(A)カルボキシル基含有感光性樹脂(以下、「感光性樹脂」ともいう。)]
本発明の組成物に含有される感光性樹脂(A)は、多官能エポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和モノカルボン酸を反応させて、側鎖に水酸基を有するエポキシカルボキシレートを生成し、この水酸基を有するエポキシカルボキシレートと多塩基酸無水物を反応させて、カルボキシル基含有感光性樹脂(A1)を生成し、このカルボキシル基含有感光性樹脂(A1)と、エポキシ基とラジカル重合性不飽和基を有する化合物を反応させて得られる感光性樹脂である。

(中略)

[0030] [(B)軟化点60℃以下の多官能エポキシ樹脂]
本発明の組成物では、感光性樹脂(A)と光重合開始剤(C)と軟化点が60℃以下の多官能エポキシ樹脂(B)(以下、「エポキシ樹脂(B)」ともいう。)を組み合わせることにより、組成物の感度を高めることができ、組成物が良好に硬化する。また、エポキシ樹脂(B)を含有させることにより、現像後の残渣がなく、現像性が改善される。ここで、軟化点は、JIS K 7234に記載の方法に従い測定される値を意味する。 軟化点が60℃以下の多官能エポキシ樹脂(B)としては、公知のものでよいが、例えば、20?30℃の室温で液状であることが好ましい。このような多官能エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン社製のエピコート834、828(ジャパンエポキシレジン社製)、YD-128(東都化成社製)、840、850(DIC社製)などのビスフェノールA型エポキシ樹脂、806、807(ジャパンエポキシレジン社製)、YDF-170(東都化成社製)、830、835、N-730A(DIC社製)などのビスフェノールF型エポキシ樹脂、ZX-1059(東都化成社製)などのビスフェノールAとビスフェノールFの混合物、YX-8000、8034(ジャパンエポキシレジン社製)ST-3000(東都化成社製)などの水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、日本化薬社製のRE-306CA90、ダウケミカル社製のDEN431、DEN438等のノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。

(中略)

[0034] 本発明の組成物は、一態様において、軟化点が60℃を超える多官能エポキシ樹脂(B’)を含有していてもよい。軟化点60℃以下の多官能エポキシ樹脂(B)と、軟化点60℃超の多官能エポキシ樹脂(B’)とが併用されることにより、ガラス転移点(Tg)が上がるため、耐熱性が向上し、また、指触乾燥性の向上及び熱被りの抑制効果が期待できる。軟化点60℃超の多官能エポキシ樹脂(B’)における軟化点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、さらにより好ましくは90℃以上、特により好ましくは100℃以上である。軟化点が高いほど指触乾燥性等に優れる。なお、多官能エポキシ樹脂(B’)における軟化点は、例えば、1000℃以下である。

(中略)

[0038] [(C)光重合開始剤]
本発明の組成物は、光重合開始剤(C)を含有する。光重合開始剤(C)としては、ベンゾフェノン系、アセトフェノン系、アミノアセトフェノン系、ベンゾインエーテル系、ベンジルケタール系、アシルホスフィンオキシド系、オキシムエーテル系、オキシムエステル系、チタノセン系などの公知慣用の化合物が挙げられる。

(中略)

[0071] [光硬化性モノマー]
本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、光硬化性モノマーを含有していてもよい。 光硬化性モノマーとしては、分子中に2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物が好ましく、該化合物は、紫外線照射により光硬化して、前記カルボン酸樹脂(A)を、アルカリ水溶液に不溶化、又は不溶化を助けるものである。このような化合物としては、エチレングリコール、メトキシテトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコールのジアクリレート類;ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリス-ヒドロキシエチルイソシアヌレートなどの多価アルコール又はこれらのエチレオキサイド付加物もしくはプロピレンオキサイド付加物などの多価アクリレート類;フェノキシアクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、及びこれらのフェノール類のエチレンオキサイド付加物もしくはプロピレンオキサイド付加物などの多価アクリレート類;グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレートなどのグリシジルエーテルの多価アクリレート類;及びメラミンアクリレート、及び/又は上記アクリレートに対応する各メタクリレート類などが挙げられる。

(中略)

[0074] [熱硬化触媒]
本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化触媒を含有していてもよい。
そのような熱硬化触媒としては、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、4-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-(2-シアノエチル)-2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体;ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4-(ジメチルアミノ)-N,N-ジメチルベンジルアミン、4-メトキシ-N,N-ジメチルベンジルアミン、4-メチル-N,N-ジメチルベンジルアミン等のアミン化合物、アジピン酸ヒドラジド、セバシン酸ヒドラジド等のヒドラジン化合物;トリフェニルホスフィン等のリン化合物など、また市販されているものとしては、例えば四国化成工業社製の2MZ-A、2MZ-OK、2PHZ、2P4BHZ、2P4MHZ(いずれもイミダゾール系化合物の商品名)、サンアプロ社製のU-CAT3503N、U-CAT3502T(いずれもジメチルアミンのブロックイソシアネート化合物の商品名)、DBU、DBN、U-CATSA102、U-CAT5002(いずれも二環式アミジン化合物及びその塩)などがある。特に、これらに限られるものではなく、エポキシ樹脂の熱硬化触媒、もしくはエポキシ基とカルボキシル基の反応を促進するものであればよく、単独で又は2種以上を混合して使用してもかまわない。また、密着性付与剤としても機能するグアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、メラミン、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-S-トリアジン、2-ビニル-4,6-ジアミノ-S-トリアジン、2-ビニル-4,6-ジアミノ-S-トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-S-トリアジン・イソシアヌル酸付加物等のS-トリアジン誘導体を用いることもでき、好ましくはこれら密着性付与剤としても機能する化合物を前記熱硬化触媒と併用する。

(中略)

[0076] [フィラー]
本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、塗膜の物理的強度等を上げるために、必要に応じて、フィラーを配合することができる。このようなフィラーとしては、公知慣用の無機又は有機フィラーが使用できるが、特に硫酸バリウム、球状シリカおよびタルクが好ましく用いられる。さらに、前述の光硬化性モノマーや(C)エポキシ系熱硬化性樹脂にナノシリカを分散したHanse-Chemie社製のNANOCRYL(商品名) XP 0396、XP 0596、XP 0733、XP 0746、XP 0765、XP 0768、XP 0953、XP 0954、XP 1045(何れも製品グレード名)や、Hanse-Chemie社製のNANOPOX(商品名) XP 0516、XP 0525、XP 0314(何れも製品グレード名)も使用できる。これらを単独で又は2種以上配合することができる。
[0077] これらフィラーの配合率は、感光性樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは300質量部以下、より好ましくは0.1?300質量部、さらに好ましくは、0.1?150質量部の割合である。前記フィラーの配合率が、300質量部を超えた場合、組成物の粘度が高くなり印刷性が低下したり、硬化物が脆くなるので好ましくない。
[0078] [溶剤]
本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、塗布方法に適した粘度に調整するために、有機溶剤を含有していてもよい。
このような有機溶剤としては、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、エステル類、アルコール類、脂肪族炭化水素、石油系溶剤などが挙げることができる。より具体的には、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールブチルエーテルアセテート、カルビトールアセテートなどのエステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の芳香族石油系溶剤などである。
このような有機溶剤は、単独で又は2種以上の混合物として用いられる。
[0079] [その他の成分]
本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、さらに必要に応じて、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルカテコール、ピロガロール、フェノチアジンなどの公知慣用の熱重合禁止剤、微粉シリカ、有機ベントナイト、モンモリロナイトなどの公知慣用の増粘剤、シリコーン系、フッ素系、高分子系などの消泡剤及び/又はレベリング剤、イミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系等のシランカップリング剤、青、黄、赤、黒、白色の着色剤などのような公知慣用の添加剤類を配合することができる。」

ウ 「[0080] [プリント配線板の製造]
プリント配線板は、回路パターンを有する基材上に、光硬化性熱硬化性組成物からなる硬化物を有する。このようなプリント配線板は以下の方法により製造できる。
[0081] まず、本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を、例えば有機溶剤で塗布方法に適した粘度に調整し、回路形成した基材上に、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法、ロールコート法、バーコーター法、スクリーン印刷法、カーテンコート法等の方法により塗布し、約60?100℃の温度で組成物中に含まれる有機溶剤を揮発乾燥(仮乾燥)させることにより、乾燥塗膜を形成する。その後、フォトマスクを介して選択的に紫外線により露光し、未露光部を希アルカリ水溶液(例えば0.3?3%炭酸ソーダ水溶液)により現像してパターンを有する硬化物を形成する。」

エ 「実施例
[0088] 以下、実施例及び比較例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明が下記に限定されるものでないことはもとよりである。なお、以下において「部」、「%」とあるのは、特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を示す。
[0089] [感光性樹脂の合成]
合成例1:感光性樹脂(A1-1)
ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート600gにオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔DIC株式会社製、EPICLONN-695、軟化点95℃、エポキシ当量214、平均官能基数7.6〕1070g(グリシジル基数(芳香環総数):5.0モル)、アクリル酸360g(5.0モル)、およびハイドロキノン1.5gを仕込み、100℃に加熱攪拌し、均一溶解した。
[0090] 次いで、トリフェニルホスフィン4.3gを仕込み、110℃に加熱して2時間反応後、120℃に昇温してさらに12時間反応を行った。得られた反応液に、芳香族系炭化水素(ソルベッソ150)415g、テトラヒドロ無水フタル酸456.0g(3.0モル)を仕込み、110℃で4時間反応を行い、冷却し、カルボキシル基含有感光性樹脂溶液(A1)を得た。
[0091] このようにして得られた感光性樹脂溶液(A1)の固形分(溶剤を除いた量)は65%、固形分の酸価は89mgKOH/gであった。
[0092] 合成例2:感光性樹脂(A-1)
ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート700gにオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔DIC株式会社製、EPICLON N-695、軟化点95℃、エポキシ当量214、平均官能基数7.6〕1070g(グリシジル基数(芳香環総数):5.0モル)、アクリル酸360g(5.0モル)、およびハイドロキノン1.5gを仕込み、100℃に加熱攪拌し、均一溶解した。
[0093] 次いで、トリフェニルホスフィン4.3gを仕込み、110℃に加熱して2時間反応後、更にトリフェニルホスフィン1.6gを追加し、120℃に昇温してさらに12時間反応を行った。得られた反応液に芳香族系炭化水素(ソルベッソ150)562g、テトラヒドロ無水フタル酸684g(4.5モル)を仕込み、110℃で4時間反応を行った。さらに、得られた反応液にグリシジルメタクリレート142.0g(1.0モル)を仕込み、115℃で4時間反応を行い、カルボキシル基含有感光性樹脂溶液(A-1)を得た。
[0094] このようにして得られた感光性樹脂溶液(A-1)の固形分は65%、固形分の酸価は87mgKOH/gであった。
[0095] [光硬化性熱硬化性樹脂組成物の調製]
表1に示す配合成分と、下記共通成分を3本ロールミルで混練し、光硬化性熱硬化性樹脂組成物を得た。なお、表1において、(A)、(B)及び(D)の各成分の含有量は、溶剤を除いた固形分である。
[表1]

[0096] <感光性樹脂(A)>
A-2:SP-3900(昭和電工社製、固形分65%、酸価:70mgKOH/g) <多官能エポキシ樹脂>
B-1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(834:ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量250、常温半固形、軟化点60℃以下、分子量470)
B-2:フェノールノボラックのポリグリシジルエーテル(RE306CA90:日本化薬社製、エポキシ当量196、軟化点50℃、分子量400)
B-3:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(DEN431:ダウケミカル社製、エポキシ当量174、常温半固形、軟化点60℃以下、分子量400)
B-4:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(DEN438:ダウケミカル社製、エポキシ当量199、軟化点40℃、分子量600)
B-5:ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(エピクロンN-870:DIC社製、エポキシ当量205、軟化点70℃、分子量1600)
B-6:ICTEP-S(日産化学社製、エポキシ当量100、軟化点110℃)
<(C)光重合開始剤>
C-1:2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン
C-2:
[化5]

[0097] <(D)カルボキシル基含有アクリル共重合体>
D-1:サイクロマーP(ACA)Z250(ダイセル化学工業(株)社製、固形分45%)(脂環式骨格を有するカルボキシル基含有アクリル共重合体)
D-2:サイクロマーP(ACA)Z320(ダイセル化学工業(株)社製、固形分40%)(脂環式骨格を有するカルボキシル基含有アクリル共重合体)
D-3:VB-5301、スチレン共重合(三菱レイヨン(株)社製、固形分50%)(脂環式骨格を有さない共重合体)
[共通成分(数値は質量部数)]
(フィラー)
硫酸バリウム(堺化学社製B-30):100部
タルク:10部
シリカ:10部
(光硬化性モノマー)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:30部
(熱硬化触媒)
ジシアンジアミド:0.3部
メラミン:3部
(消泡剤、着色剤、溶剤)
シリコーン系消泡剤:3部
フタロシアニンブルー:2部
芳香族石油系溶剤:10部
[実施例1?18、比較例1,2の評価方法]
<感度:硬化性>
スクラブ研磨後、水洗し、乾燥させた銅厚35μmの回路パターン基板に、上掲で調製した光硬化性熱硬化性樹脂組成物を、スクリーン印刷法により全面印刷し、80℃の熱風循環式乾燥炉で30分間乾燥させた。これにより、光硬化性熱硬化性樹脂組成物の乾燥塗膜を得た。この乾燥塗膜は、厚さが15μmで、吸光度が0.8であった。
[0098] この乾燥塗膜に、メタルハライドランプ搭載の露光装置を用いてステップタブレット(Stuffer41段)を介して露光し、現像(1質量%Na_(2)CO_(3)水溶液、30℃、0.2MPa)を60秒で行った際残存するステップタブレットのパターンを読んだ。感度が7以上の場合、感度が高いため、十分に光硬化性樹脂組成物を硬化できることがわかる。」

オ 「 請求の範囲
[請求項1] (A)多官能エポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和モノカルボン酸を反応させて、側鎖に水酸基を有するエポキシカルボキシレートを生成し、このエポキシカルボキシレートと多塩基酸無水物を反応させて、カルボキシル基含有感光性樹脂(A1)を生成し、このカルボキシル基含有感光性樹脂(A1)と、エポキシ基とラジカル重合性不飽和基を有する化合物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂、
(B)軟化点60℃以下の多官能エポキシ樹脂、及び、
(C)光重合開始剤
を含有することを特徴とする光硬化性熱硬化性樹脂組成物。

(中略)

[請求項4] 請求項1?3のいずれか一項に記載の光硬化性熱硬化性樹脂組成物からなることを特徴とする硬化物。
[請求項5] 請求項3に記載の硬化物を有することを特徴とするプリント配線板。」

(2)甲第11号証に記載された発明
甲第11号証の記載事項エに基づけば、甲第11号証には、実施例1に係る光硬化性熱硬化性樹脂組成物として、次の発明(以下、「甲11発明」という。)が記載されていると認められる。
「以下に示す成分を混練して得た、光硬化性熱硬化性樹脂組成物。
(A)感光性樹脂として、
ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート600gにオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔DIC株式会社製、EPICLON N-695、軟化点95℃、エポキシ当量214、平均官能基数7.6〕1070g(グリシジル基数(芳香環総数):5.0モル)、アクリル酸360g(5.0モル)、およびハイドロキノン1.5gを仕込み、100℃に加熱攪拌し、均一溶解し、次いで、トリフェニルホスフィン4.3gを仕込み、110℃に加熱して2時間反応後、120℃に昇温してさらに12時間反応を行い、得られた反応液に、芳香族系炭化水素(ソルベッソ150)415g、テトラヒドロ無水フタル酸456.0g(3.0モル)を仕込み、110℃で4時間反応を行い、冷却して得た、感光性樹脂(A1-1)
30質量部
ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート700gにオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔DIC株式会社製、EPICLON N-695、軟化点95℃、エポキシ当量214、平均官能基数7.6〕1070g(グリシジル基数(芳香環総数):5.0モル)、アクリル酸360g(5.0モル)、およびハイドロキノン1.5gを仕込み、100℃に加熱攪拌し、均一溶解し、次いで、トリフェニルホスフィン4.3gを仕込み、110℃に加熱して2時間反応後、更にトリフェニルホスフィン1.6gを追加し、120℃に昇温してさらに12時間反応を行い、得られた反応液に芳香族系炭化水素(ソルベッソ150)562g、テトラヒドロ無水フタル酸684g(4.5モル)を仕込み、110℃で4時間反応を行い、さらに、得られた反応液にグリシジルメタクリレート142.0g(1.0モル)を仕込み、115℃で4時間反応を行って得た、感光性樹脂(A-1)
70質量部
(B)多官能エポキシ樹脂(軟化点:60℃以下)として、B-1(ビスフェノールA型エポキシ樹脂(834:ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量250、常温半固形、軟化点60℃以下、分子量470))
35質量部
(B’)多官能エポキシ樹脂(軟化点:60℃超)として、B-6(ICTEP-S(日産化学社製、エポキシ当量100、軟化点110℃)) 15質量部
(C)光重合開始剤として、C-1(2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン) 10質量部
フィラーとして、
硫酸バリウム(堺化学社製B-30) 100質量部
タルク 10質量部
シリカ 10質量部
光硬化性モノマーとして、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
30質量部
熱硬化触媒として、
ジシアンジアミド 0.3質量部
メラミン 3質量部
消泡剤、着色剤、溶剤として、
シリコーン系消泡剤 3質量部
フタロシアニンブルー 2質量部
芳香族石油系溶剤 10質量部」

4 甲第12号証
(1)甲第12号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第12号証(国際公開第2014/196502号)には、以下の記載事項がある。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、光硬化性熱硬化性樹脂組成物、硬化物、及びプリント配線板に関する。

(中略)

発明が解決しようとする課題
[0007] 本発明は、感度、耐熱性、電気絶縁性、現像性、及び、指触乾燥性に優れ、濃色や黒色の硬化物を得ることができる光硬化性熱硬化性樹脂組成物、該組成物からなる硬化物、及び該硬化物を有するプリント配線板を提供することを課題とする。
課題を解決するための手段
[0008] 上記課題を解決するために、本発明の一態様により、(A)カルボキシル基含有樹脂、(B)軟化点が60℃以下の多官能エポキシ樹脂、(B’)軟化点が60℃を超える多官能エポキシ樹脂、(C)光重合開始剤、及び(D)着色剤を含有する光硬化性熱硬化性樹脂組成物であって、上記軟化点が60℃以下の多官能エポキシ樹脂(B)のエポキシ基(B1)と、上記軟化点が60℃を超える多官能エポキシ樹脂(B’)のエポキシ基(B’1)の合計が、上記カルボキシル基含有樹脂(A)のカルボキシル基1当量に対して0.8当量以上2.2当量以下であり、上記光硬化性熱硬化性樹脂組成物を用いて形成される膜厚0.1?100μm(例えば、20μm)の乾燥塗膜における波長600nmでの透過率が25%以下であることを特徴とする光硬化性熱硬化性樹脂組成物が提供される。

(中略)

発明の効果
[0011] 本発明により、感度、耐熱性、電気絶縁性、現像性、及び、指触乾燥性に優れ、更に、濃色や黒色の硬化物を得ることができる光硬化性熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、及び、その硬化物を有するプリント配線板の提供が可能となった。」

イ 「発明を実施するための形態
[0012] 以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物(以下、「本発明の組成物」などともいう。)は、(A)カルボキシル基含有樹脂、(B)軟化点が60℃以下の多官能エポキシ樹脂、(B’)軟化点が60℃を超える多官能エポキシ樹脂、及び、(C)光重合開始剤を含有してなり、(B)軟化点が60℃以下の多官能エポキシ樹脂のエポキシ基(B1)と(B’)軟化点が60℃を超える多官能エポキシ樹脂のエポキシ基(B’1)の合計が、(A)カルボキシル基含有樹脂のカルボキシル基1当量に対して0.8当量以上2.2当量以下であることを第一の特徴とする。エポキシ樹脂(特に、軟化点の低いエポキシ樹脂)は安価であり、相溶性がよく組成物中の立体障害にもなりにくいことから反応性がよい。本発明によれば、感度、耐熱性、電気絶縁性、現像性、及び、指触乾燥性に優れる光硬化性熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、及び、その硬化物を有するプリント配線板を低コストで提供することができる。
[0013] まず、本発明の組成物に含有される各成分について説明する。
<(A)カルボキシル基含有樹脂>
カルボキシル基含有樹脂(A)としては、特に、分子中にエチレン性不飽和二重結合を有するカルボキシル基含有感光性樹脂が、アルカリ現像を行う感光性の組成物として光硬化性や耐現像性の面からより好ましい。そして、その不飽和二重結合は、アクリル酸もしくはメタアクリル酸又はそれらの誘導体由来のものが好ましい。

(中略)

[0041] <(B)軟化点が60℃以下の多官能エポキシ樹脂、及び、(B’)軟化点が60℃を超える多官能エポキシ樹脂>
本発明の組成物は、上述したように、軟化点60℃以下の多官能エポキシ樹脂(B)(以下、「エポキシ樹脂(B)」などともいう)と、軟化点60℃超の多官能エポキシ樹脂(B’)(以下、「エポキシ樹脂(B’)」などともいう)を含有し、エポキシ樹脂(B)のエポキシ基(B1)と、エポキシ樹脂(B’)のエポキシ基(B’1)の合計が、カルボキシル基含有樹脂(A)が含有するカルボキシル基1当量に対して、0.8当量以上2.2当量以下となる範囲で多官能エポキシ樹脂(B)と多官能エポキシ樹脂(B’)が配合される。これにより、良好な感度を維持しつつ、指触乾燥性、耐熱性及び絶縁性の改善が可能となる。より好ましくは、エポキシ基(B1)とエポキシ基(B’1)の合計が、(A)カルボキシル基含有樹脂のカルボキシル基1当量に対して1.0当量以上2.0当量以下である。

(中略)

[0049] <(C)光重合開始剤>
本発明の組成物は、光重合開始剤(C)を含有する。光重合開始剤(C)としては、ベンゾフェノン系、アセトフェノン系、アミノアセトフェノン系、ベンゾインエーテル系、ベンジルケタール系、アシルホスフィンオキシド系、オキシムエーテル系、オキシムエステル系、チタノセン系などの公知慣用の化合物が挙げられる。

(中略)

[0076] <(D)着色剤>
着色剤としては、本発明の組成物を用いて形成される膜厚0.1?100μm(例えば、20μm)の乾燥塗膜において、波長600nmでの透過率が25%以下となるものであれば、特に制限はない。

(中略)

[0089] <熱硬化触媒>
本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化触媒を含有していてもよい。

(中略)

[0091] <フィラー>
本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、塗膜の物理的強度等を上げるために、必要に応じて、フィラーを配合することができる。このようなフィラーとしては、公知慣用の無機又は有機フィラーが使用できるが、特に硫酸バリウム、球状シリカおよびタルクが好ましく用いられる。さらに、前述の光硬化性モノマーや(C)エポキシ系熱硬化性樹脂にナノシリカを分散したHanse-Chemie社製のNANOCRYL(商品名) XP 0396、XP 0596、XP 0733、XP 0746、XP 0765、XP 0768、XP 0953、XP 0954、XP 1045(何れも製品グレード名)や、Hanse-Chemie社製のNANOPOX(商品名) XP 0516、XP 0525、XP 0314(何れも製品グレード名)も使用できる。これらを単独で又は2種以上配合することができる。
[0092] これらフィラーの配合率は、カルボキシル基含有樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは300質量部以下、より好ましくは0.1?300質量部、さらに好ましくは、0.1?150質量部の割合である。前記フィラーの配合率が、300質量部を超えた場合、組成物の粘度が高くなり印刷性が低下したり、硬化物が脆くなるので好ましくない。
[0093] <希釈剤>
本発明の組成物は、希釈剤を含有していてもよい。本発明に用いられる希釈剤は、該組成物の粘度を調整して作業性を向上させるとともに、架橋密度を上げたり、密着性などを向上するために用いられ、光硬化性モノマーなどの反応性希釈剤や公知慣用の有機溶剤が使用できる。

(中略)

[0096] 前記有機溶剤としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、炭酸プロピレン等のエステル類;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素類;石油エーテル、石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤など、公知慣用の有機溶剤が使用できる。これらの有機溶剤は、単独で又は二種類以上組み合わせて用いることができる。

(中略)

[0098] <その他の成分>
本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、さらに必要に応じて、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルカテコール、ピロガロール、フェノチアジンなどの公知慣用の熱重合禁止剤、微粉シリカ、有機ベントナイト、モンモリロナイトなどの公知慣用の増粘剤、シリコーン系、フッ素系、高分子系などの消泡剤及び/又はレベリング剤、イミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系等のシランカップリング剤、青、黄、赤、黒、白色の着色剤などのような公知慣用の添加剤類を配合することができる。」

ウ 「[0100] <プリント配線板の製造>
プリント配線板は、回路パターンを有する基材上に、光硬化性熱硬化性組成物からなる硬化物を有する。このようなプリント配線板は以下の方法により製造できる。
[0101] まず、本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を、例えば有機溶剤で塗布方法に適した粘度に調整し、回路形成した基材上に、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法、ロールコート法、バーコーター法、スクリーン印刷法、カーテンコート法等の方法により塗布し、約60?100℃の温度で組成物中に含まれる有機溶剤を揮発乾燥(仮乾燥)させることにより、乾燥塗膜を形成する。その後、フォトマスクを介して選択的に紫外線により露光し、未露光部を希アルカリ水溶液(例えば0.3?3%炭酸ソーダ水溶液)により現像してパターンを有する硬化物を形成する。」

エ 「実施例
[0108] 以下、実施例及び比較例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明が下記に限定されるものでないことはもとよりである。なお、以下において「部」、「%」とあるのは、特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を示す。
[0109] [感光性樹脂の合成]
合成例1:カルボキシル基含有樹脂(A-1)
ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート600gにオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔DIC株式会社製、EPICLON N-695、軟化点95℃、エポキシ当量214、平均官能基数7.6〕1070g(グリシジル基数(芳香環総数):5.0モル)、アクリル酸360g(5.0モル)、およびハイドロキノン1.5gを仕込み、100℃に加熱攪拌し、均一溶解した。
[0110] 次いで、トリフェニルホスフィン4.3gを仕込み、110℃に加熱して2時間反応後、120℃に昇温してさらに12時間反応を行った。得られた反応液に、芳香族系炭化水素(ソルベッソ150)415g、テトラヒドロ無水フタル酸456.0g(3.0モル)を仕込み、110℃で4時間反応を行い、冷却し、カルボキシル基含有感光性樹脂溶液(A-1)を得た。
[0111] このようにして得られた感光性樹脂溶液(A-1)の固形分(溶剤を除いた量)は65%、固形分の酸価は89mgKOH/gであった。
[0112] 合成例2:カルボキシル基含有樹脂(A-2) ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート700gにオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔DIC株式会社製、EPICLON N-695、軟化点95℃、エポキシ当量214、平均官能基数7.6〕1070g(グリシジル基数(芳香環総数):5.0モル)、アクリル酸360g(5.0モル)、およびハイドロキノン1.5gを仕込み、100℃に加熱攪拌し、均一溶解した。
[0113] 次いで、トリフェニルホスフィン4.3gを仕込み、110℃に加熱して2時間反応後、更にトリフェニルホスフィン1.6gを追加し、120℃に昇温してさらに12時間反応を行った。得られた反応液に芳香族系炭化水素(ソルベッソ150)562g、テトラヒドロ無水フタル酸684g(4.5モル)を仕込み、110℃で4時間反応を行った。さらに、得られた反応液にグリシジルメタクリレート142.0g(1.0モル)を仕込み、115℃で4時間反応を行い、カルボキシル基含有樹脂溶液(A-2)を得た。
[0114] このようにして得られたカルボキシル基含有樹脂溶液(A-2)の固形分は65%、固形分の酸価は87mgKOH/gであった。
[0115] [光硬化性熱硬化性樹脂組成物の調製]
表1に示す配合成分と、下記共通成分を3本ロールミルで混練し、光硬化性熱硬化性樹脂組成物を得た。なお、表1において、(A)、(B)及び(D)の各成分の含有量は、溶剤を除いた固形分である。
[表1]

[0116] <カルボキシル基含有樹脂(A)>
カルボキシル基含有樹脂(A)として、上述した樹脂(A-1)及び(A-2)以外に、以下に示す樹脂(A-3)?(A-7)を使用した。このうち、樹脂(A-5)及び(A-6)は脂環式骨格を有するカルボキシル基含有アクリル共重合体であり、樹脂(A-7)は脂環式骨格を有さないカルボキシル基含有アクリル共重合体である。
[0117] A-3:SP-3900(昭和電工社製、固形分65%、酸価:70mgKOH/g)
A-4:P7-532(カルボキシル基含有感光性ウレタン樹脂、共栄社化学社製、固形分54%、酸化:25mgKOH/g)
A-5:サイクロマーP(ACA)Z250(ダイセル化学工業(株)社製、固形分45%)(脂環式骨格を有するカルボキシル基含有アクリル共重合体)
A-6:サイクロマーP(ACA)Z320(ダイセル化学工業(株)社製、固形分40%)(脂環式骨格を有するカルボキシル基含有アクリル共重合体)
A-7:VB-5301、スチレン共重合(三菱レイヨン(株)社製、固形分50%)(脂環式骨格を有さないカルボキシル基含有アクリル共重合体)
<多官能エポキシ樹脂>
B-1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(834:ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量250、常温半固形、軟化点60℃以下、分子量470)
B-2:フェノールノボラックのポリグリシジルエーテル(RE306CA90:日本化薬社製、エポキシ当量196、軟化点50℃、分子量400)
B-3:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(DEN431:ダウケミカル社製、エポキシ当量174、常温半固形、軟化点60℃以下、分子量400)
B-4:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(DEN438:ダウケミカル社製、エポキシ当量199、軟化点40℃、分子量600)
B-5:ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(エピクロンN-870:DIC社製、エポキシ当量205、軟化点70℃、分子量1600)
B-6:ICTEP-S(日産化学社製、エポキシ当量100、軟化点110℃)
<(C)光重合開始剤>
C-1:2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン
C-2:
[化5]

[0118] <(D)着色剤>
D-1:チタンブラック 三菱マテリアル(株)製 13M-T
D-2:酸化チタン チタン工業(株)製 タイピュアR-931
D-3:フタロシアニンブルー15:6
[共通成分(数値は質量部数)]
(フィラー)
硫酸バリウム(堺化学社製B-30):100部
タルク:10部
シリカ:10部
(光硬化性モノマー)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:30部
(熱硬化触媒)
ジシアンジアミド:0.3部
メラミン:3部
(消泡剤、着色剤、溶剤)
シリコーン系消泡剤:3部
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル:20部
芳香族石油系溶剤:10部
[実施例1?19、比較例1?4の評価方法]
<感度:硬化性>
スクラブ研磨後、水洗し、乾燥させた銅厚35μmの回路パターン基板に、上掲で調製した光硬化性熱硬化性樹脂組成物を、スクリーン印刷法により全面印刷し、80℃の熱風循環式乾燥炉で30分間乾燥させた。これにより、光硬化性熱硬化性樹脂組成物の乾燥塗膜を得た。この乾燥塗膜は、厚さが15μmで、吸光度が0.8であった。
[0119] この乾燥塗膜に、メタルハライドランプ搭載の露光装置を用いてステップタブレット(Stuffer41段)を介して50mJ/cm^(2)で露光し、現像(1質量%Na_(2)CO_(3)水溶液、30℃、0.2MPa)を60秒で行った際残存するステップタブレットのパターンを読んだ。50mJ/cm^(2)で感度が7以上の場合、感度が高いため、十分に光硬化性樹脂組成物を硬化できることがわかる。」

オ 「 請求の範囲
[請求項1] (A)カルボキシル基含有樹脂、(B)軟化点が60℃以下の多官能エポキシ樹脂、(B’)軟化点が60℃を超える多官能エポキシ樹脂、(C)光重合開始剤、及び、(D)着色剤を含有する光硬化性熱硬化性樹脂組成物であって、
軟化点が60℃以下の多官能エポキシ樹脂(B)のエポキシ基(B1)と、軟化点が60℃を超える多官能エポキシ樹脂(B’)のエポキシ基(B’1)の合計が、カルボキシル基含有樹脂(A)のカルボキシル基1当量に対して0.8当量以上2.2当量以下であり、
前記光硬化性熱硬化性樹脂組成物を用いて形成される膜厚20μmの乾燥塗膜における波長600nmでの透過率が25%以下であることを特徴とする光硬化性熱硬化性樹脂組成物。

(中略)

[請求項4] 請求項1又は2に記載の光硬化性熱硬化性樹脂組成物から得られることを特徴とする硬化物。
[請求項5] 請求項4に記載の硬化物を有することを特徴とするプリント配線板。」

(2)甲第12号証に記載された発明
甲第12号証の記載事項エに基づけば、甲第12号証には、実施例1に係る光硬化性熱硬化性樹脂組成物として、次の発明(以下、「甲12発明」という。)が記載されていると認められる。
「以下に示す成分を混練して得た、光硬化性熱硬化性樹脂組成物。
(A)カルボキシル基含有樹脂として、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート600gにオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔DIC株式会社製、EPICLON N-695、軟化点95℃、エポキシ当量214、平均官能基数7.6〕1070g(グリシジル基数(芳香環総数):5.0モル)、アクリル酸360g(5.0モル)、およびハイドロキノン1.5gを仕込み、100℃に加熱攪拌し、均一溶解して、次いで、トリフェニルホスフィン4.3gを仕込み、110℃に加熱して2時間反応後、120℃に昇温してさらに12時間反応を行い、得られた反応液に、芳香族系炭化水素(ソルベッソ150)415g、テトラヒドロ無水フタル酸456.0g(3.0モル)を仕込み、110℃で4時間反応を行い、冷却して得たカルボキシル基含有樹脂(A-1) 30質量部
ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート700gにオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔DIC株式会社製、EPICLON N-695、軟化点95℃、エポキシ当量214、平均官能基数7.6〕1070g(グリシジル基数(芳香環総数):5.0モル)、アクリル酸360g(5.0モル)、およびハイドロキノン1.5gを仕込み、100℃に加熱攪拌し、均一溶解して、次いで、トリフェニルホスフィン4.3gを仕込み、110℃に加熱して2時間反応後、更にトリフェニルホスフィン1.6gを追加し、120℃に昇温してさらに12時間反応を行い、得られた反応液に芳香族系炭化水素(ソルベッソ150)562g、テトラヒドロ無水フタル酸684g(4.5モル)を仕込み、110℃で4時間反応を行い、さらに、得られた反応液にグリシジルメタクリレート142.0g(1.0モル)を仕込み、115℃で4時間反応を行って得たカルボキシル基含有樹脂(A-2) 70質量部
(B)多官能エポキシ樹脂(軟化点:60℃以下)として、B-1(ビスフェノールA型エポキシ樹脂(834:ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量250、常温半固形、軟化点60℃以下、分子量470))
35質量部
(B’)多官能エポキシ樹脂(軟化点:60℃超)として、B-6(ICTEP-S(日産化学社製、エポキシ当量100、軟化点110℃))
15質量部
(C)光重合開始剤として、C-1(2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン) 10質量部
(D)着色剤として、D-1(チタンブラック 三菱マテリアル(株)製 13M-T) 4質量部
フィラーとして、
硫酸バリウム(堺化学社製B-30) 100質量部
タルク 10質量部
シリカ 10質量部
光硬化性モノマーとして、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
30質量部
熱硬化触媒として、
ジシアンジアミド 0.3質量部
メラミン 3質量部
消泡剤、着色剤、溶剤として、
シリコーン系消泡剤 3質量部
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル 20質量部
芳香族石油系溶剤 10質量部」

5 副引用文献として用いた甲号証の記載事項
(1)甲第3号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、甲第3号証(特開2011-187268号公報)には、以下の記載事項がある。

「【0059】
[実施例3]
実施例2のジメチルポリシロキサンC(重合度850)60部、表面がジメチルジクロロシランによって疎水化処理された比表面積180m^(2)/gのヒュームドシリカ((株)トクヤマ製、レオロシールDM20S)40部、

(中略)

を加え、均一に約30分間混合し、シリコーンゴム組成物を得た。ここで、このシリコーンゴム組成物中の全アルケニル基に対する全SiH官能基のモル比(SiH基/アルケニル基)は2.5であった。」

(2)甲第4号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、甲第4号証(近藤三二, 塗料添加剤としてのベントナイトおよび有機ベントナイト, 塗装技術, Vol.6, No.10別刷,p.1?6, 昭和47年10月1日)には、以下の記載事項がある。

ア 「3.有機ベントナイト
前述したようにモンモリロナイトは,その結晶層間に交換性カチオンや水和水をもっている。これらの交換性カチオンおよび水和水を有機カチオン化合物や極性化合物で置き換えることができ,有機-モンモリロナイト複合物を生成する。これを有機ベントナイトと称し,有機化合物として大きな炭化水素鎖を有するものは強い親油性を示し,各種の有機液体中で膨潤してゲルを形成する性質がある。このことは、前述のモンモリロナイトの水系における膨潤性およびゲル形成性と原理的には同じように考えてもよいだろうと思われるが,有機液体には多種多様のものがあり,それに応じて適切な使用方法を採用することが必要である。
モンモリロナイトとしてはベントナイト,ヘクトライトなどが用いられ,有機化合物としてはオクタデシルアミンC_(18)H_(37)NH_(2),トリメチルオクタデシルアンモニウムクロリドC_(18)H_(37)N(CH_(3))_(3)・Cl,ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド(C_(18)H_(37))_(2)N(CH_(3))_(2)・Cl,トリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物などが用いられている。当社の有機ベントナイト製品であるオルベン(商品名)はトリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物-ベントナイトであり,ナショナルレッド社のBentone 18,Bentone 34は,それぞれオクタデシルアミン-ベントナイト,ジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイトである。有機ベントナイトにおいては置換有機基によって親油性に著しい差異があるから,それぞれの目的に応じて品種を選ぶことが必要である。」(第5頁左欄第26行?同頁中欄第20行)

イ 「2)塗料における有機ベントナイトの効用
有機ベントナイトを塗料に応用する場合も,その粉末を直接塗料に添加するような方法は望ましくなく,あらかじめ有機溶剤にゲル化させた有機ベントナイト-ゲルをつくり,これをミルベース仕込みに加え,顔料と同時に混練するのがよい。

(中略)

適量の有機ベントナイトを配合した塗料は,コンシステンシィが改善されて顔料の懸濁性が向上し,ハードケーキの生成が防止され,再分散性の良い塗料が得られる。また塗装時のタルミ(Sagging)が顕著に改善されるので,すぐれた流れ止め剤としての効果を現わす。また有機ベントナイト-ゲルはすぐれた熱安定性があるので、コーキング剤やシーラントの高温時における耐スランプ性を高めるのに極めて有効である。」(第5頁右欄第3?36行)

(3)甲第5号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、甲第5号証(特開2005-24658号公報)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プリント配線板の製造等に用いられる硬化性組成物に関し、さらに詳しくは、増粘性及び仮乾燥後の指触乾燥性に優れ、かつ、PCT(プレッシャー・クッカー・テスト)耐性、はんだ耐熱性、耐薬品性、密着性、無電解金めっき耐性、及び電気絶縁性などの特性に優れた硬化物を与える硬化性組成物に関するものである。

(中略)

【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これに対し、上記欠点を解消し得る方法として、ウレアウレタン(例えば、ビックケミー・ジャパン(株)製のBYK-410)を増粘剤として使用することが考えられるが、得られる硬化性組成物は、耐水性、耐薬品性、耐熱性、電気絶縁性などの特性に優れた硬化物を与えるものの、指触乾燥性が充分ではない、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記の様な実情に鑑みなされたものであり、塗布後に優れたダレ止め効果が得られるだけでなく、塗膜の指触乾燥性にも優れ、且つ、PCT耐性、はんだ耐熱性、耐薬品性、密着性、無電解金めっき耐性、電気絶縁性などの特性に優れた硬化物を与える硬化性組成物を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明によれば、飽和脂肪酸(A)、1分子中に1個以上のカルボキシル基を有する化合物(B)、感光性(メタ)アクリレート化合物(C)、及び光重合開始剤(D)を含有することを特徴とする硬化性組成物が提供される。好適な態様においては、上記飽和脂肪酸(A)は、室温で固形である。
本発明のより具体的な好適な態様によれば、さらに希釈溶剤(E)を含有し、あるいはさらにエポキシ樹脂(F)を含有し、あるいはさらに硬化触媒(G)を含有することを特徴とする硬化性組成物が提供される。
なお、本明細書において、用語「(メタ)アクリレート」はアクリレートとメタクリレートを総称し、他の類似の表現についても同様である。」

イ 「【0020】
本発明の硬化性組成物には、得られる硬化物の特性を低下させない程度において、無機増粘剤を用いることができる。
無機増粘剤としては、例えば、日本アエロジル社製の#50、#200、#380などの親水性シリカ、日本アエロジル社製の#R974、#R972などの疎水性シリカ、ウイルバー・エリス社製のオルベン、ベントン38などの有機ベントナイトなどが挙げられる。これら無機増粘剤の配合量は通常の量的割合で充分であり、例えば、前記1分子中に1個以上のカルボキシル基を有する化合物(B)100質量部に対して0.1質量部以上、20質量部以下、好ましくは0.5質量部以上、10.0質量部以下の割合である。」

ウ 「【0024】
このように、飽和脂肪酸と共にカルボキシル基含有化合物、感光性(メタ)アクリレート化合物、光重合開始剤、希釈溶剤、エポキシ樹脂、硬化触媒もしくは硬化促進剤、さらに必要により他の添加剤等が配合された硬化性組成物は、従来知られている方法と同様の方法で光硬化及び/又は熱硬化させることにより、容易に硬化物を得ることができる。例えば、上記硬化性組成物をロールを用いて均一になるまで充分に混合し、用途に応じて所望の基材に、例えばスクリーン印刷法、カーテンコート法、スプレーコート法、ロールコート法等の公知の塗工方法により塗布し、例えば約60?100℃の温度で組成物中に含まれる有機溶剤を揮発乾燥させることにより、ダレを生ずることもなく指触乾燥性に優れた塗膜を形成できる。また、本発明の硬化性組成物はその僅かな離型効果を利用してレジスト用ドライフィルムを形成することもでき、その場合にはそのままラミネートすればよい。その後、活性エネルギー線により露光して光硬化させる。次いで、約100℃?200℃で加熱硬化させることにより、PCT耐性、はんだ耐熱性、耐薬品性、密着性、無電解金めっき耐性、電気絶縁性などの特性に優れた硬化物を得ることができる。プリント配線板のソルダーレジスト形成の場合には、パターンを形成したフォトマスクを通して選択的に活性エネルギー線により露光し、又はレーザー光線により直接描画し、未露光部を希アルカリ水溶液により現像してレジストパターンを形成し、加熱硬化させることにより、上記のような諸特性に優れたレジスト膜が得られる。上記現像に使用される希アルカリ水溶液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、珪酸ナトリウム、アンモニア、アミン類等の水溶液が挙げられる。」

(4)甲第6号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、甲第6号証(特開昭63-261253号公報)には、以下の記載事項がある。

ア 「(産業上の利用分野)
本発明は感光性樹脂組成物に関し、特に印刷配線板製造、金属精密加工等に使用し得る保護膜形成用の感光性樹脂組成物に関する。

(中略)

(発明が解決しようとする問題点)
本発明の目的は、配線回路およびスルーホールが形成された配線板に対して、均一な膜厚を形成し、保護被膜として優れた性能をもち、かつ経時安定性の優れた感光性樹脂組成物を提供することにある。
(問題点を解決するための手段)
本発明者らは鋭意研究を進めた結果、配線回路上、回路コーナ部、スルーホールランド部およびランドコーナ部の被膜が薄くなる現象は感光性樹脂組成物に揺変性を付与することで防止でき、その揺変性は有機粘土および/または疎水性超微粒状シリカを用いることにより得られ、さらに耐熱性の優れたエポキシ樹脂をベースとした感光性樹脂組成物に揺変性を付与すると組成物中のエポキシ樹脂硬化剤の存在で急速に揺変性を失い、経時安定性に問題を生じるが、疎水性微粒状充填剤ならびにシラン系、チタネート系およびアルミニウム系カップリング剤の少なくとも1種を含有させることにより経時安定性のよい揺変性が付与できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、(a)ノボラック型エポキシ樹脂と、不飽和カルボン酸とを、酸当量/エポキシ当量比が0.1?0.98の範囲で付加反応させて得られる不飽和化合物の2級水酸基に、1価のイソシアナートを、イソシアナート当量/水酸基当量比が0.1?1.2の範囲で反応させて得られる光重合性不飽和化合物、(b)活性光により遊離ラジカルを生成する増感剤および/または増感剤系、(c)疎水化微粒状充填剤、(d)有機粘土および/または疎水化超微粒状シリカ、(e)シラン系、チタネート系およびアルミニウム系カップリング剤の少なくとも1種ならびに(f)エポキシ樹脂硬化剤を含有してなる感光性樹脂組成物に関する。」(第1頁右下欄第1行?第2頁右下欄第1行)

イ 「 本発明の感光性樹脂組成物は、必須成分(d)として有機粘土および/または疎水化超微粒状シリカを含有する。
有機粘土とは、親水性のスメクタイト粘度を第4級アンモニウム複合体などのようなカチオン錯塩と反応させ、親有機性に変性したスメクタイト粘土であり、剪断力、湿潤および化学活性剤によって揺変性を発生するものをいう。例として、ベントン(BENTONE、NL Chemicals /NL Industies, Inc社製、商品名)またはクレイトーン(CLAYTONE、Southern Clay Products社製、商品名)の各シリーズ品が挙げられる。
疎水化超微粒状シリカとは、シリカ表面にあるシラノール基を、カップリング剤等と反応させて、疎水化した超微粒状シリカであり、疎水化度がメタノールウェッタビリティー法で約30?70で、液体媒体中において鎖状につながった粒子が充分な分散作用によって三次元的な網の目構造を形成して揺変性を発生するものをいう。なお、超微粒状シリカは平均粒径が数?数十μmの球状の粒子がいくつか凝集して、アエロゾルを形成している無定形のシリカである。疎水化超微粒状シリカの例としては、アエロジルR812(アエロジル300をヘキサメチルジシラザンで疎水化、日本アエロジル社製)、アエロジルR805(アエロジル200をオクチルトリメトキシシランで疎水化、日本アエロジル社製)、アエロジルR202(アエロジル150をシリコンオイルで疎水化、日本アエロジル社製)等が挙げられる。
これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。これらの添加量は特に限定されないが被膜形成作業上、感光性樹脂組成物100重量部に対して0.2?3重量部の範囲で含有されることが好ましい。」(第5頁左上欄第18行?同頁左下欄第11行)

(5)甲第7号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第7号証(国際公開第2008/041768号)には、以下の記載事項がある。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は硬化性組成物に関する。さらに詳しくは、架橋性シリル基を平均して少なくとも1個有するビニル系重合体(I)と、光架橋性基を平均して少なくとも一個有するビニル系重合体(II)および光重合開始剤(III)を含有する硬化性組成物に関する。

(中略)

発明が解決しょうとする課題
[0012] しかしながら、この光硬化性ビニル系重合体を用いた組成物では、光照射のできない部分や光が届かない部分は全く硬化しないという欠点がある。そのため、使用態様によっては、光硬化後に未硬化の組成物が流れ出す等によって汚染する等の問題が起きてしまう。
[0013] そこで、本発明は、上記問題点、すなわち、従来の光硬化性組成物では、光照射できない等の光照射が不十分となる部分が未硬化のままになってしまうという問題を解消するとともに、得られる硬化物が優れた機械物性、耐熱性、耐油性、耐候性を有し、かつ、光硬化性重合体が本来有する速硬化性をも維持できる硬化性組成物の提供を目的とする。
課題を解決するための手段
[0014] 上述の現状に鑑み、本発明者らが鋭意検討した結果、架橋性シリル基を平均して少なくとも一個有するビニル系重合体、及び、光架橋性基を平均して少なくとも一個有するビニル系重合体および光重合開始剤を含有することを特徴とする硬化性組成物を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。

(中略)

発明の効果
[0027] 本発明の硬化性組成物によれば、光照射できなかったり、光が届かなかったりする等といった光照射が不十分になる部分が未硬化のままになってしまうという問題が解消されるとともに、光照射される部分においては光による速硬化性を奏することができ、さらに、得られる硬化物は優れた機械物性、耐熱性、耐油性、耐候性を有することができる。」

イ 「[0316] また、シラノール含有化合物を添加する時期は特に限定されず、重合体の製造時に添加してもよく、硬化性組成物の作製時に添加してもよい。
<チクソ性付与剤(垂れ防止剤)>
本発明の硬化性組成物には、必要に応じて垂れを防止し、作業性を良くするためにチクソ性付与剤(垂れ防止剤)を添加しても良い。
[0317] チクソ性付与剤(垂れ防止剤)は揺変性付与剤ともいう。チクソ性付与とはカートリッジからビード状に押出したり、ヘラ等により塗布したり、スプレー等により吹付けたりするときのように強い力を加えられる時には流動性を示し、塗布ないしは施工後に硬化するまでの間、流下しない性質を付与するものである。
[0318] また、チクソ性付与剤(垂れ防止剤)としては特に限定されないが、例えば、デイスパロン(楠本化成製)に代表されるアマイドワックスや水添ヒマシ油、水添ヒマシ油誘導体類、脂肪酸の誘導体、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム等の金属石鹸類、1,3,5-トリス(トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート等の有機系化合物や、脂肪酸や樹脂酸で表面処理した炭酸カルシウムや 微粉末シリカ、カーボンブラック等の無機系化合物が挙げられる。
[0319] 微粉末シリカとは、二酸化ケイ素を主成分とする天然又は人工の無機充填剤を意味する。具体的には、カオリン、クレー、活性白土、ケイ砂、ケイ石、ケイ藻土、無水ケイ酸アルミニウム、含水ケイ酸マグネシウム、タルク、パーライト、ホワイトカーボン、マイカ微粉末、ベントナイト、有機ベントナイト等を例示できる。
[0320] なかでも、ケイ素を含む揮発性化合物を気相で反応させることによって作られる超微粒子状無水シリカや有機ベントナイトが好ましい。少なくとも50m^(2)/g、更には50?400m^(2)/gの比表面積を有していることが好ましい。また、親水性シリカ、疎水性シリカの何れをも使用することができる。表面処理はあってもなくても構わないが、ケイ素原子に結合した有機置換基としてメチル基のみを有するシラザン、クロロシラン、アルコキシシランもしくはポリシロキサンによりその表面が疎水処理されている疎水性シリカが好ましい。

(中略)

[0324] また、有機ベントナイトとは、主にモンモリロナイト鉱石を細かく粉砕した粉末状の物質で、これを各種有機物質で表面処理したものをいう。有機化合物としては脂肪族第1級アミン、脂肪族第4級アミン (これらはいずれも炭素数20以下が好ましい)などが用いられる。この有機ベントナイトの具体例としては、例えば、白石工業製の商品名オルベンD、NewDオルベン、土屋カオリン製の商品名ハードシル、Burgess Pigment製のクレー#30、Southern Clay社#33、米国National Lead製の「ベントン(Bentone)34」(ジメチルオクタデシルアンモニウムベントナイト)等が挙げられる。」

(6)甲第8号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第8号証(国際公開第2007/004584号)には、以下の記載事項がある。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、(メタ)アタリロイル基を有するビニル系重合体と光重合開始剤を含有し、 硬化物が柔軟性、耐熱性、耐薬品性を兼ね備えつつアフターベータ等の2次硬化工程を必要としない耐圧縮永久歪み性が良好なガスケットに最適な硬化性組成物、およびその組成物を用いたシール方法に関するものである。

(中略)

発明が解決しょうとする課題
[0008] 特許文献4?8に記載される樹脂組成物をCIPG法の現場成型ガスケットに応用してみると耐オイル性に優れ、前述の問題点は解決されるが、従来のシリコーン樹脂に比べ圧縮永久歪が大きく、経時に従って、フランジの圧接に対する反発力が低下してきてしまい、シール性が経時で低下してしまうという欠点が生じた。さらに、汗かき現象が発生するという欠点も生じた。汗かき現象とはエンジンオイルなどシールされるべき液体がシール材と接触し、シール材に浸透し、シール材を貫通して外側に達してしまうことにより、シール材が汗をかいたようにしみ出てしまう現象である。汗かき現象による漏洩は非常に微量であるため、内圧が変化したり、シールされる液体量が減ったりというほどの問題は生じないが、汗かき現象がおこったシール材は粉塵や塵などの汚れが付着しやすくなり製品の外観性が損なわれる。そればかりでなぐシール不良によるオイル漏れと区別が付きづらいため、これがシール材自体の不良による内容物の漏洩の早期発見の妨げるものであった。よって、上述の問題点を改善したものが望まれてきた。
課題を解決するための手段
[0009] そこで、本発明は、硬化前は常温で液体であるビニル系共重合体を主成分とした組成物を、光照射することにより短時間で硬化し、硬化後は耐熱性、耐油性、耐圧縮永久歪性に優れた硬化性組成物を提供するものである。さらに、この硬化性組成物を用いて有効的にシールするシール方法を提供するものである。
[0010] すなわち、本発明は(a) (メタ)アクリロイル基を分子中に少なくとも1個含有し数平 均分子量500?1,000,000のビニル系重合体、(b)エチレン性不飽和基を有する化合物、(c)チキソ性付与剤、(d) (メタ)アクリロイル基を有するシランで表面処理されたフュームドシリカ、(e)光重合開始剤からなる硬化性組成物を提供するものである。
[0011] また、本発明は上記硬化性組成物を被シール物の少なくとも片方に塗布する工程 、光照射することで前記組成物を硬化させる工程、次いでもう一方の被シール物を硬化組成物に圧接する工程からなるシール方法も提供するものである。
発明の効果
[0012] 本発明は耐オイル性、耐薬品性、耐熱性がよい硬化性組成物であり、現場成型性能に優れかつ、従来の欠点であった圧縮永久歪が低く、また、汗かき現象も生じないものであり、高温環境下であっても長期間シール性能が低下することなく使用することができる。また、本発明の硬化性組成物は硬化物が強靱で傷が付きにくく、シール材として形成され、対するフランジと圧接されるときの摩擦などで傷や摩耗が生じず、信頼性のあるシールが可能となる。」

イ 「[0026] 本発明の(c)チキソ性付与剤は、添加することにより組成物にチキソトロピー性を与える物質である。チキソトロピー性とは静置した状況では粘度が高く、応力を与えた状態 (流動状態)では粘度が下がる性能を意味する。チキソ性付与剤を添加すると塗布された組成物が垂れ流れるのを防止することができる。チキソ性付与剤の例としては、例えば、ディスパロン (楠本化成製)に代表されるアマイドワックスや水添ヒマシ油、脂肪酸の誘導体、1,3,5-トリス(トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート等の有機系化合物や、脂肪酸や樹脂酸で表面処理した炭酸カルシウムやフュームドシリカ、カーボンブラック、カオリン、クレー、活性白土、ケイ砂、ケイ石、ケイ藻土、無水ケイ酸アルミニウム、含水ケイ酸マグネシウム、タルク、パーライト、ホワイトカーボン、マイカ微粉末、ベントナイト、有機ベントナイト等の無機系化合物が挙げられる。
[0027] なかでも、ケイ素を含む揮発性化合物を気相で反応させることによって作られるフュームドシリカ、および有機ベントナイトが好ましい。また、50?400m^(2)/gの比表面積を有していることが好ましい。また、親水性シリカ、疎水性シリカの何れをも使用することができるが、ケイ素原子に結合した有機置換基としてメチル基のみを有するシラザン、クロロシラン、アルコキシシランもしくはポリシロキサンによりその表面が疎水性に表面処理されている疎水性フュームドシリカが好ましい。
[0028] 表面処理するための表面処理剤を具体的に例示すると、へキサメチルジシラザン等のようなシラザン類;トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチノレトリクロロシラン等のようなハロゲン化シラン類;トリメチルアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン等のようなアルコキシシラン類(ここで、アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる);環状あるいは直鎖状のポリジメチルシロキサン等のようなシロキサン類等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でもシロキサン類(ジメチルシリコーンオイル)によって表面処理を施された疎水性フュームドシリカがチキソ性付与効果の面から好ましい。ただし、後述する(d)成分のように(メタ)アクロイル基を有するシランで表面処理されたフュームドシリカは組成物を増粘させる能力が低いため、本発明の(c)成分として(メタ)アクリロイル基を有するシランで表面処理されたフュームドシリカを使用することは適さない。
[0029] また、フュームドシリカと、ジエチレングリコール,トリエチレングリコール,ポリエチレングリコール等のポリエーテル化合物,ポリエーテル化合物と官能性シランの反応生成物等やエチレンオキシド鎖を有する非イオン系界面活性剤を併用するとチキソ性が増す。この非イオン系界面活性剤は1種又は2種以上使用してもよい。
[0030] これらのフュームドシリカ及び表面処理フュームドシリカの具体例としては、例えば、日本アエロジル製の商品名アエロジル(Aerosil)R974、R972、R972V、R972CF、R805、R812、R812S、R816、R8200、RY200、RX200、RY200S、#130、#200、#300、R202等や、日本シリカ製の商品名Nipsil SSシリーズ、徳山曹達製の商品名Rheorosil MT-10、MT-30、QS-102、QS-103、Cabot製の商品名Cabosil TS-720、MS-5,MS-7等の市販品が挙げられる。
[0031] また、有機ベントナイトとは、主にモンモリロナイト鉱石を細かく粉砕した粉末状の物質を各種有機物質で表面処理したものをいう。有機化合物としては脂肪族第1級アミン、脂肪族第4級アミン(これらはいずれも炭素数20以下が好ましい)などが用いられる。この有機ベントナイトの具体例としては、例えば、豊順洋行製のエスベンやオルガナイト、白石工業製の商品名オルベンD、NewDオルベン、土屋カオリン製の商品名ハードシル、Bergess Pigment製のクレー#30、Southern Clay社#33、米国National Lead製の「ベントン(Bentone)34」(ジメチルオクタデシルアンモニウムベントナイト)等が挙げられる。」

ウ 「実施例
[0046] 以下に、本発明の具体的な実施例を比較例と併せて説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。なお、下記実施例および比較例中「部」は「重量部」を表す。
[0047] 下記実施例中、「数平均分子量」および「分子量分布 (重量平均分子量と数平均分子量の比)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出した。ただし、GPCカラムとしてポリスチレン架橋ゲルを充填したものを2本(shodex GPC K-802.5;昭和電工(株)製)(shodex GPCK-804;昭和電工(株)製)直列につないで用い、GPC溶媒としてクロロホルムを用いた。
[0048] (製造例1)
(アクリロイル基両末端ポリ(アクリル酸n-ブチル)の合成)
臭化第一銅を触媒、ペンタメチルジエチレントリアミンを配位子、ジエチル-2,5-ジブロモアジペートを開始剤として、アクリル酸n-ブチルを重合し、数平均分子量25200、分子量分布1.20の末端臭素基ポリ(アクリル酸n-ブチル)を得た。この重合体300gをN,N-ジメチルアセトアミド(300mL)に溶解させ、アクリル酸カリウム5.3gを加え、窒素雰囲気下、70℃で3時間加熱攪拌し、アクリロイル基両末端ポリ(アクリル酸n-ブチル)(以下、重合体1という)の混合物を得た。この混合液中のN,N-ジメチルアセトアミドを減圧留去した後、残さにトルエンを加えて、不溶分をろ過により除去した。濾液のトルエンを減圧留去して、重合体1を精製した。精製後の重合体1の数平均分子量は27100、分子量分布は1.31、平均末端アクリロイル基数は2.0(即ち、末端へのアクリロイル基の導入率は100%)であった。
[0049] 実施例1
(a)成分として製造例1で得られた重合体1を100重量部秤量し(b)成分のヒドロキシエチルメタクリレートを15重量部、(c)成分としてアエロジルRY200(日本アエロジル社製;ジメチルシリコーンで表面処理したフュームドシリカ、比表面積:100m^(2)/g)5重量部、(d)成分としてアエロジルR711(日本アエロジル社製;メタクリロイルプロピルトリメトキシシランで表面処理したフュームドシリカ、比表面積:200m^(2)/g) 20重量部、(e)成分として2,2-ジエトキシアセトフェノン1重量部を用いた。これらを混合しプラネタリーミキサーで充分混合し、ついで脱泡し、硬化性組成物を得た。
[0050] 実施例2?7および比較例1?5
同様に表 1に記載の各種成分を用い、硬化性組成物を得た。
ただし、表中、重合体1は上記重合体1のことであり、重合体2はポリアクリレートRC200C(カネ力社製:両末端にメタクリロイル基を有するアクリル共重合体:数平均分子量20,000)、有機ベントナイトは白石工業製のオルベンDであり、アエロジル1はジメチルジクロロシランで表面処理したフュームドシリカである、アエロジルR972であり、アエロジル2はオクチルシランで表面処理したフュームドシリカである、アエロジルR805であり、アエロジル3はへキサメチルシラザンで表面処理したフュームドシリカである、アエロジルRX300である。(すべて日本アエロジル社製)また、光開始剤1は上記2,2-ジエトキシアセトフェノンであり、光開始剤2は2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンである。

(中略)

[0056] [表1]



(7)甲第9号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第9号証(国際公開第2012/086588号)には、以下の記載事項がある。

「[0122] 表5において、各配合物質の配合量はgで示される。なお、(メタ)アクリル酸エステル系重合体A3の配合量は固形分で示している。*1?7、9及び10は表1と同じであり、*14?*20は下記の通りである。
*14)疎水性シリカ、商品名:アエロジルR972(ジメチルジクロロシラン処理シリカ)、日本アエロジル(株)製。
*15)疎水性シリカ、商品名:アエロジルR974(ジメチルジクロロシラン処理シリカ)、日本アエロジル(株)製。
*16)疎水性シリカ、商品名:アエロジルR805(オクチルシラン処理シリカ)、日本アエロジル(株)製。
*17)疎水性シリカ、商品名:アエロジルRX200(ヘキサメチルジシラザン処理シリカ)、日本アエロジル(株)製。
*18)疎水性シリカ、商品名:アエロジルR711(メタクリルシラン処理シリカ)、日本アエロジル(株)製。
*19)疎水性シリカ、商品名:アエロジルR976(ジメチルジクロロシラン処理シリカ)、日本アエロジル(株)製。
*20)疎水性シリカ、商品名:アエロジルRX300(ヘキサメチルジシラザン処理シリカ)、日本アエロジル(株)製。」

(8)甲第13号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、甲第13号証(特開2006-70152号公報)には、以下の記載事項がある。

「【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に実施例によって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により制約されるものではない。なお使用した材料は下記の通りである。
Nanopox XP22/0314:hanse-chemie社製オルガノシリカゾル含有脂環式エポキシ樹脂(平均粒子径15nm、シリカ含有量40重量%)
Nanopox XP22/0525:hanse-chemie社製オルガノシリカゾル含有ビスフェノールF型エポキシ樹脂(平均粒子径15nm、シリカ含有量40重量%)
Celloxide 2021P:ダイセル化学工業(株)社製脂環式エポキシ
EP807:ジャパンエポキシレジン(株)社製ビスフェノールF型エポキシ樹脂
EP YX8000:ジャパンエポキシレジン(株)社製水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂
B-1:日東紡績(株)社製アクリルシラン処理ガラスファイバー(PFE?301S/平均繊維長25μm、アスペクト比2.5)
B?2:日東紡績(株)社製アミノシラン処理ガラスファイバー(PF 40E 401/平均繊維長40μm、アスペクト比4)
B-3:日本板硝子(株)社製アミノシラン処理ガラスファイバー(REV8/平均繊維長70μm、アスペクト比5)
B-4:日東紡績(株)社製シラン処理ガラスファイバー(SS 05 C-404S/平均繊維長100μm、アスペクト比10)
B-5:日本電気硝子(株)社製アミノシラン処理ガラスファイバー(EPG140M-10A/平均繊維長140μm、アスペクト比16)
B-6:旭ファイバーグラス(株)社製アミノシラン処理ガラスファイバー(MF20JH1-20/平均繊維長200μm、アスペクト比20)
B-7:日東紡績(株)社製シラン処理ガラスファイバー(SS 10-420/平均繊維長300μm、アスペクト比30)
R972:日本アエロジル(株)社製ヒュームドシリカ(平均一次粒子径16nm)
RD-8:(株)龍森社製溶融シリカ(平均粒径15μm)
ロードシル2074:Rhodia社製光カチオン重合開始剤((トリクミル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート)
ダロキュアー1173:日本チバガイギー(株)社製光ラジカル重合開始剤(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン)」

(9)甲第14号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第14号証(特開2016-180880号公報)には、以下の記載事項がある。

「【0057】
本発明の感光性樹脂組成物には、上記した(A)成分?(F)成分の他に、必要に応じて、種々の成分、例えば、フィラー、着色剤、各種添加剤、溶剤などを含有させることができる。
【0058】
フィラーは、感光性樹脂組成物の塗膜の物理的強度を上げるためのものであり、例えば、タルク、硫酸バリウム、疎水性シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、マイカ等を挙げることができる。」

(10)甲第15号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である、甲第15号証(特開2008-107511号公報)には、以下の記載事項がある。

「【0209】
可塑剤を用いる場合の使用量は、限定されないが、ビニル系重合体(A)100重量部に対して5?150重量部、好ましくは10?120重量部、さらに好ましくは20?100重量部である。5重量部未満では可塑剤としての効果が発現しなくなり、150重量部を越えると硬化物の機械強度が不足する。
<充填材>
本発明の硬化性組成物には、各種充填材を必要に応じて用いても良い。充填材種によっても異なるが、一般的には特に80℃以上の高温領域の損失係数(瀬制振特性)の低下を改善できることから有用である。充填材としては、特に限定されないが、木粉、パルプ、木綿チップ、アスベスト、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、クルミ殻粉、もみ殻粉、グラファイト、ケイソウ土、白土、シリカ(フュームドシリカ、沈降性シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、ドロマイト、無水ケイ酸、含水ケイ酸等)、カーボンブラックのような補強性充填材;重質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、酸化チタン、ベントナイト、有機ベントナイト、酸化第二鉄、べんがら、アルミニウム微粉末、フリント粉末、酸化亜鉛、活性亜鉛華、亜鉛末、炭酸亜鉛およびシラスバルーンなどのような充填材;石綿、ガラス繊維およびガラスフィラメント、炭素繊維、ケブラー繊維、ポリエチレンファイバー等のような繊維状充填材等が挙げられる。
【0210】
これら充填材のうちでは沈降性シリカ、フュームドシリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、ドロマイト、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化チタン、タルクなどが好ましい。
【0211】
特に、これら充填材で強度の高い硬化物を得たい場合には、主にヒュームドシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸、カーボンブラック、表面処理微細炭酸カルシウム、結晶性シリカ、溶融シリカ、焼成クレー、クレーおよび活性亜鉛華などから選ばれる充填材を添加できる。なかでも、比表面積(BET吸着法による)が50m^(2)/g以上、通常50?400m^(2)/g、好ましくは100?300m^(2)/g程度の超微粉末状のシリカが好ましい。またその表面が、オルガノシランやオルガノシラザン、ジオルガノシクロポリシロキサン等の有機ケイ素化合物で予め疎水処理されたシリカが更に好ましい。」

(11)甲第16号証の記載事項
本件特許の出願前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第16号証(国際公開第2016/072224号)には、以下の記載事項がある。

「[0041](低吸水性無機充填材)
本発明で用いられる低吸水性無機充填材としては、シリカを好適に用いることができる。
また、上記シリカは、特に限定されないが、疎水性であることが好ましい。これにより、シリカの凝集を抑制することができ、本発明の配線板材料中にシリカを良好に分散させることができる。また、バインダー成分とシリカとの親和性が向上し、バインダー成分とシリカとの表面の密着性が向上するため、強度に優れる配線板材料が得られる。シリカを疎水性にする方法としては、例えば、シリカを予め官能基含有シラン類やアルキルシラザン類で表面処理する方法等が挙げられる。
加えて、上記シリカは、予め有機溶媒に分散したスラリーとして用いることが好ましい。これにより、シリカの分散性を向上することができ、その他の低吸水性無機充填材を用いた際に生ずる流動性の低下を抑制することができる。
また、上記シリカとしては、特に限定されないが、平均粒径(d50)が5?2000nmの球状シリカであることが好ましく、例えば、アドマテックス社製のアドマファインSO-E1、SO-E2、SO-E3、SO-E5、SO-C1、SO-C2、SO-C3、SO-C5、電気化学工業社製のSFP-20M、SFP-30M、SFP-30MHE、SFP-130MC等の市販品を用いることができる。なお、シリカの形状は球状に限られず、不定形シリカでもよい。」


第6 理由1(進歩性)についての当審の判断
1 甲1発明
(1)請求項1
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「カルボキシル基含有感光性樹脂」は、「カルビトールアセテート250質量部に、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(住友化学工業(株)製、ESCN-220、エポキシ当量220)220質量部及びアクリル酸64.8質量部を溶解し、還流下に反応させて、クレゾールノボラック型エポキシアクリレートを得て、得られたクレゾールノボラック型エポキシアクリレートに、ヘキサヒドロ無水フタル酸138.6質量部を加え、酸価が理論値になるまで還流下で反応させた後、グリシジルメタクリレート56.8質量部を加え、さらに反応させて」得られた樹脂である。そうすると、甲1発明の「カルボキシル基含有感光性樹脂」は、本件特許発明1の「(A)1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能性エポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和モノカルボン酸との反応生成物であるラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂の水酸基に、多塩基酸又はその無水物が反応した化合物である多塩基酸変性ラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂のカルボキシル基に、ラジカル重合性不飽和基とエポキシ基とを有するグリシジル化合物が反応した反応生成物であるカルボキシル基含有感光性樹脂」に相当する。

(イ)甲1発明の「(C)光重合開始剤」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(B)光重合開始剤」に相当する。

(ウ)甲1発明の「(D)反応性希釈剤」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(C)反応性希釈剤」に相当する。

(エ)甲1発明の「(E)エポキシ化合物」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(D)エポキシ化合物」に相当する。

(オ)甲1発明の「レオロシール DM-20S(疎水性シリカ)」は、技術的にみて、本件特許発明1の「疎水性シリカ」に相当する。

(カ)甲1発明の「溶剤」は、技術的にみて、本件特許発明1の「非反応性希釈剤」に相当する。

(キ)甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、「プリント配線基板にスプレー塗工して試験片を作製するのに用いられる」ものである。そうすると、甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、本件特許発明1の「スプレー塗工用感光性樹脂組成物」に相当する。

(ク)甲1発明の「(A)カルボキシル基含有感光性樹脂」100質量部に対する「レオロシール DM-20S(疎水性シリカ)」の含有量は、約6.97質量部である。
そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の「前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して4.5質量部?20質量部含有する」という要件を満たしている。

合議体注:
(A)カルボキシル基含有感光性樹脂固形分:28.71質量部=43.5×0.66
(A)100質量部当たりの疎水性シリカの質量部:約6.97=2.0÷28.71×100

(ケ)以上より、本件特許発明1と甲1発明とは、
「(A)1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能性エポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和モノカルボン酸との反応生成物であるラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂の水酸基に、多塩基酸又はその無水物が反応した化合物である多塩基酸変性ラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂のカルボキシル基に、ラジカル重合性不飽和基とエポキシ基とを有するグリシジル化合物が反応した反応生成物であるカルボキシル基含有感光性樹脂と、
(B)光重合開始剤と、
(C)反応性希釈剤と、
(D)エポキシ化合物と、
(F)疎水性シリカと、
非反応性希釈剤と、
を含み、
前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して4.5質量部?20質量部含有するスプレー塗工用感光性樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

[相違点1-1-1]本件特許発明1は、下記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含むのに対し、甲1発明は下記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含まない点。

[化1]
[R^(1)R^(2)R^(3)R^(4)-N]^(+)X^(-) (I)
(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立に、炭素数1?25の飽和脂肪族炭化水素基または炭素数2?25の不飽和脂肪族炭化水素基、Xは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されたハロゲンを表す。)

[相違点1-1-2]疎水性シリカが、本件特許発明1は、「シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理」したものであるのに対し、甲1発明は、「レオロシール DM-20S(疎水性シリカ)」が、シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理したものであるかが、一応明らかでない点。

[相違点1-1-3]非反応性希釈剤が、本件特許発明1は、「プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」であるのに対し、甲1発明は、「ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート」である点。

イ 判断
(ア)[相違点1-1-1]について
甲第1号証の段落【0007】には、「本発明の目的は、・・・基本諸特性を損なうことなく、熱衝撃耐性とスプレー塗工性に優れた硬化物を得ることができる感光性樹脂組成物を提供することにある。」と記載されている。当該記載に基づけば、甲1発明は、スプレー塗工性に優れた感光性樹脂組成物を得ようとするものである。また、甲第1号証の段落【0050】には、各種添加剤としてチキソ剤が挙げられている。
そして、甲第4号証には、有機ベントナイトについて、「モンモリロナイトは,その結晶層間に交換性カチオンや水和水をもっている。これらの交換性カチオンおよび水和水を有機カチオン化合物や極性化合物で置き換えることができ,有機-モンモリロナイト複合物を生成する。これを有機ベントナイトと称し,有機化合物として大きな炭化水素鎖を有するものは強い親油性を示し,各種の有機液体中で膨潤してゲルを形成する性質がある。」(第5頁左欄第28?39行)、「モンモリロナイトとしてはベントナイト,ヘクトライトなどが用いられ,有機化合物としてはオクタデシルアミンC_(18)H_(37)NH_(2),トリメチルオクタデシルアンモニウムクロリドC_(18)H_(37)N(CH_(3))_(3)・Cl,ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド(C_(18)H_(37))_(2)N(CH_(3))_(2)・Cl,トリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物などが用いられている。当社の有機ベントナイト製品であるオルベン(商品名)はトリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物-ベントナイトであり,ナショナルレッド社のBentone 18,Bentone 34は,それぞれオクタデシルアミン-ベントナイト,ジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイトである。」(第5頁左欄第46行?同頁中欄第16行)、「適量の有機ベントナイトを配合した塗料は,コンシステンシィが改善されて顔料の懸濁性が向上し,ハードケーキの生成が防止され,再分散性の良い塗料が得られる。また塗装時のタルミ(Sagging)が顕著に改善されるので,すぐれた流れ止め剤としての効果を現わす。」(第5頁右欄第25?32行)との記載がある。また、甲第5号証には、「プリント配線板の製造等に用いられる硬化性組成物」(段落【0001】)について、「本発明の硬化性組成物には、得られる硬化物の特性を低下させない程度において、無機増粘剤を用いることができる。」、「無機増粘剤としては、例えば、・・・などの親水性シリカ、・・・などの疎水性シリカ、ウイルバー・エリス社製のオルベン、ベントン38などの有機ベントナイトなどが挙げられる。これら無機増粘剤の配合量は通常の量的割合で充分であり、例えば、前記1分子中に1個以上のカルボキシル基を有する化合物(B)100質量部に対して0.1質量部以上、20質量部以下、好ましくは0.5質量部以上、10.0質量部以下の割合である。」(段落【0020】)と記載されている。さらに、甲第6号証には、「特に印刷配線板製造、金属精密加工等に使用し得る保護膜形成用の感光性樹脂組成物」(第1頁右下欄第2?4行)について、「本発明の感光性樹脂組成物は、必須成分(d)として有機粘土および/または疎水化超微粒状シリカを含有する。・・・有機粘土とは、親水性のスメクタイト粘度を第4級アンモニウム複合体などのようなカチオン錯塩と反応させ、親有機性に変性したスメクタイト粘土であり、剪断力、湿潤および化学活性剤によって揺変性を発生するものをいう。例として、ベントン(BENTONE、NL Chemicals /NL Industies, Inc社製、商品名)またはクレイトーン(CLAYTONE、Southern Clay Products社製、商品名)の各シリーズ品が挙げられる。・・・これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。これらの添加量は特に限定されないが被膜形成作業上、感光性樹脂組成物100重量部に対して0.2?3重量部の範囲で含有されることが好ましい。」(第5頁左上欄第18行?同頁左下欄第11行)と記載されている。さらに、甲第7号証には、「本発明の硬化性組成物には、必要に応じて垂れを防止し、作業性を良くするためにチクソ性付与剤(垂れ防止剤)を添加しても良い。」(段落[0316])、「なかでも、ケイ素を含む揮発性化合物を気相で反応させることによって作られる超微粒子状無水シリカや有機ベントナイトが好ましい。」(段落[0320])と記載されている。また、甲第8号証には、「本発明の(c)チキソ性付与剤は、添加することにより組成物にチキソトロピー性を与える物質である。チキソトロピー性とは静置した状況では粘度が高く応力を与えた状態(流動状態)では粘度が下がる性能を意味する。チキソ性付与剤を添加すると塗布された組成物が垂れ流れるのを防止することができる。チキソ性付与剤の例としては、例えば、・・・有機ベントナイト等の無機系化合物が挙げられる。」(段落[0026])、「なかでも、ケイ素を含む揮発性化合物を気相で反応させることによって作られるフュームドシリカ、および有機ベントナイトが好ましい。」(段落[0027])、「また、有機ベントナイトとは、主にモンモリロナイト鉱石を細かく粉砕した粉末状の物質を各種有機物質で表面処理したものをいう。有機化合物としては脂肪族第1級アミン、脂肪族第4級アミン(これらはいずれも炭素数20以下が好ましい)などが用いられる。この有機ベントナイトの具体例としては、例えば、豊順洋行製のエスベンやオルガナイト、白石工業製の商品名オルベンD、NewDオルベン、土屋カオリン製の商品名ハードシル、Bergess Pigment製のクレー#30、Southern Clay社#33、米国National Lead製の「ベントン(Bentone)34」(ジメチルオクタデシルアンモニウムベントナイト)等が挙げられる。」(段落[0031])と記載されている。
これらの記載に基づけば、有機ベントナイトが、塗料の流動性(コンシステンシィ)を調整するチクソ性付与剤(垂れ防止剤)として作用することが周知技術であること、有機ベントナイトを構成する有機化合物として大きな炭化水素鎖を有するものは、強い親油性を示し、各種の有機液体中で膨潤してゲルを形成すること、有機ベントナイトとして、モンモリロナイトを脂肪族第4級アミンで表面処理されたものが、多く市販されていることが理解できる。
そうすると、スプレー塗工性に優れた感光性樹脂組成物を得ようとする甲1発明において、塗料の流動性を調整し、チクソ性付与剤として作用することが知られている有機ベントナイトを採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。そして、有機ベントナイトを構成する有機化合物の置換基は、溶媒に対する親和性をもたらし、溶媒中で膨潤してゲルを形成させるものであるから、溶媒に対する親和性を有するよう、溶媒に応じて適宜選択されるべきものである。そうすると、有機溶剤を用いる甲1発明に有機ベントナイトを採用するにあたり、溶媒に対する親和性を有するよう、脂肪族第4級アミンで表面処理された有機ベントナイトを採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

特許権者は、令和元年10月18日付けの意見書の「(4)理由1について」において、甲第4号証について「第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトと第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイト以外の有機ベントナイトの作用の相違については記載されていないといえる。」、甲第5号証?甲第7号証について「第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトであるか否かに関わらず、有機ベントナイトであればよいことが記載されているといえる。」、甲第8号証について「第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトであるか否かにかかわらず、各種商品名が列挙されているので、有機ベントナイトであればよいことが記載されているといえる。」とし、各甲号証には本件特許発明1の効果が記載されていないと主張している。
しかし、上記のとおり、脂肪族4級アミンで表面処理されたベントナイトは、チキソ剤として周知である。そして、有機ベントナイトを構成する有機化合物の置換基は、溶媒に対する親和性をもたらし、溶媒中で膨潤してゲルを形成させるものであるから、溶媒に対する親和性を有する脂肪族基が多く存在する第4級アンモニウム塩が所望の効果を奏することは、当業者にとって自明である。
そうすると、本件特許発明1の効果は、甲第1号証の記載及び上記周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲のものであるから、特許権者の上記主張は採用できない。

(イ)[相違点1-1-2]について
甲第3号証には、「表面がジメチルジクロロシランによって疎水化処理された比表面積180m^(2)/gのヒュームドシリカ((株)トクヤマ製、レオロシールDM20S)40部」(段落【0059】)との記載がある。当該記載に基づけば、甲1発明の「レオロシール DM-20S(疎水性シリカ)」は、表面がジメチルジクロロシランによって疎水化処理されているものと認められる。
そうすると、甲1発明の「レオロシール DM-20S(疎水性シリカ)」は、本件特許発明1における「シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理」したものであるとする要件を満たしている。
したがって、上記[相違点1-1-2]は、実質的な相違点ではない。

(ウ)[相違点1-1-3]について
甲第1号証の段落【0051】には、「溶剤には、例えば、・・・酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及び上記グリコールエーテル類のエステル化物などのエステル類;・・・等を挙げることができる。」と記載されている。当該記載に基づけば、甲1発明の溶剤として、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートの替わりに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを採用することは、上記示唆に基づき当業者が適宜なし得たことである。

特許権者は、令和2年5月19日付けの意見書の「(4-1)甲第1号証について」において、「甲第1号証には、本件特許発明1の特徴である、上記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトをプロピレングリコールメチルエーテルアセテートで分散させることの記載はないといえる。」、「有機ベントナイトを構成する有機化合物の置換基は、溶媒に対する親和性が重要であるので、有機ベントナイトと溶媒をどのような組み合わせとするのが好ましいかは重要である。」及び「導体が従来よりも厚く(35μm以上、例えば、厚さ50?100μm)設計された保護膜の膜厚も厚く(例えば、厚さ60?110μm)する必要がある場合に、スプレー塗工にて塗膜を形成するためには、有機ベントナイトと溶媒をどのような組み合わせにするのかが、従来とは異なり重要となる。すなわち、EDGAC(ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート)の配合量を選択して感光性樹脂組成物の粘度を調整すれば、スプレー塗工にてダレの防止された厚い塗膜を形成できるものではない。」と主張している。
しかし、溶媒の種類及びその分量は、厚膜の塗工に適した粘度となるように、塗工方法及び材料の組成を勘案して当業者が適宜選択し得るものであるから、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートの替わりに、甲第1号証の段落【0051】に記載されたプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを採用した場合にも、[相違点1-1-1]で述べた組成変更も勘案しつつ、スプレー塗工に適したものとなるよう、適宜調整されるべきものである。そして、このようにしてなるものは、「スプレー塗工にてダレの防止された厚い塗膜を形成できるもの」となる。
また、前記(ア)に記載したとおり、塗料の流動性を調整し、チクソ性付与剤として作用することが知られている有機ベントナイトを採用するにあたり、有機ベントナイトを構成する有機化合物の置換基は、有機溶媒に対する親和性を有するよう適宜選択されるものである。有機溶剤がプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート又はジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートであることにより、格別な効果の差異が生じるとはいえない。
なお、本件特許の明細書には、非反応性希釈剤の種類を変更して、スプレー塗工性の違いを確認したような実施例は存在しない。また、ベントナイト及び疎水性シリカについては、ダレの防止に関する記載がある(【0042】及び【0047】)が、非反応性希釈剤については、乾燥性や塗工粘度に関する記載しかない(【0057】)。
したがって、特許権者の上記主張は採用できない。

(エ)効果について
本件特許発明1の効果は、甲第1号証及び上記周知技術に基づいて、当業者が予測できた範囲のものである。
なお、特許権者は、令和2年5月19日付けの意見書の「(4-1)甲第1号証について」において、「一方で、本意見書の末尾に添付した実験成績証明書の参考例1に示すように、溶剤としてEDGAC(ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート)が使用されている甲第1号証に上記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを採用すると、スプレー塗工法にて感光性樹脂組成物を上記のように厚く塗工すると、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートと比較して、塗膜にダレが生じやすい傾向がある。・・・これに対し、実施例3では、本件特許の明細書【表2】に示すように、ダレ性は◎評価であり、導体厚90μmでも塗膜にダレは無い。」と主張しているが、上記効果は、本件特許発明1の全体にわたって奏される効果ではない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、甲1発明に替えて、甲第1号証の実施例2?11を引用発明としても、同様のことがいえる。

(2)請求項2
ア 対比
本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点1-2]本件特許発明2は、「(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.0質量部?20質量部含有する」のに対し、甲1発明は、(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点1-2]について検討すると、前記(1)イにおける検討に加えて、特に甲第5号証には、有機ベントナイトなどの無機増粘剤の配合量について、「得られる硬化物の特性を低下させない程度において、無機増粘剤を用いることができる。」、「例えば、前記1分子中に1個以上のカルボキシル基を有する化合物(B)100質量部に対して0.1質量部以上、20質量部以下、好ましくは0.5質量部以上、10.0質量部以下の割合である。」(段落【0020】)と記載されている。
そうすると、塗料の流動性を調整するために添加する有機ベントナイトの配合量は、感光性樹脂組成物のその他の成分に応じて、所望の流動性が得られ、硬化物の特性を低下しない範囲において適宜最適化し得るものである。また、有機溶媒を「プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」に変更したとしても、作用機序が大きく異なるとは考えがたい。
したがって、甲1発明において有機ベントナイトを含有させるにあたり、その配合量をカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.0質量部?20質量部程度とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、そのような範囲としたことにより、格別な効果の差異が生じるともいえない。

(3)請求項3
ア 対比
本件特許発明3と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「(A)カルボキシル基含有感光性樹脂」100質量部に対する「レオロシール DM-20S(疎水性シリカ)」の含有量は、前記(1)ア(ク)に記載したとおり、約6.97質量部である。
そうすると、甲1発明は、本件特許発明3の「前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.5質量部?13.5質量部含有」するという要件を満たしている。
以上より、本件特許発明3と甲1発明とは、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点1-3]本件特許発明3は、「前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して8.0質量部?18質量部含有する」のに対し、甲1発明は、(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点1-3]について検討すると、前記(2)イにおいて検討したとおり、塗料の流動性を調整するために添加する有機ベントナイトの配合量は、感光性樹脂組成物のその他の成分に応じて、所望の流動性が得られ、硬化物の特性を低下しない範囲において適宜最適化し得るものである。また、有機溶媒を「プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」に変更したとしても、作用機序が大きく異なるとは考えがたい。
したがって、甲1発明において有機ベントナイトを含有させるにあたり、その配合量をカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して8.0質量部?18質量部程度とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、そのような範囲としたことにより、格別な効果の差異が生じるともいえない。

(4)請求項4
ア 対比
本件特許発明4と甲1発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点1-4]本件特許発明4は、「前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトの質量:前記(F)疎水性シリカの質量が、1.0:0.30?3.0の範囲である」のに対し、甲1発明は(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点1-4]について検討する。
甲第8号証には、実施例3として、有機ベントナイト及びアエロジルR711を、1.0:1.0の割合で用いた例(段落[0056]表1)が記載されている。ここでアエロジル711は疎水性シリカ(甲第9号証段落[0122])である。
そうすると、甲1発明においても、有機ベントナイトを含有させるにあたり、その添加量を「レオロシール DM-20S(疎水性シリカ)」と同程度とし、本件特許発明4の[相違点1-4]に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(5)請求項5
ア 対比
本件特許発明5と甲1発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点1-5]疎水性シリカが、本件特許発明5では、「アルキルシリル基で修飾されているシリカ」であるのに対し、甲1発明では、「アルキルシリル基で修飾されているシリカ」であるのかが、一応明らかでない点。

イ 判断
前記(1)イ(イ)に記載したとおり、甲第3号証の段落【0059】の記載に基づけば、甲1発明の「レオロシール DM-20S(疎水性シリカ)」は、表面がジメチルジクロロシランによって疎水化処理されているものと認められる。そうすると、甲1発明の「レオロシール DM-20S(疎水性シリカ)」は、本件特許発明5の「アルキルシリル基で修飾されているシリカ」に該当する。
したがって、上記[相違点1-5]は、実質的な相違点ではない。

(6)請求項6
ア 対比
本件特許発明6と甲1発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点1-6]本件特許発明6は、「第4級アンモニウム塩が、ジステアリルジメチルアンモニウム塩である」のに対し、甲1発明は(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点1-6]について検討すると、甲第4号証には、「モンモリロナイトとしてはベントナイト,ヘクトライトなどが用いられ,有機化合物としてはオクタデシルアミンC_(18)H_(37)NH_(2),トリメチルオクタデシルアンモニウムクロリドC_(18)H_(37)N(CH_(3))_(3)・Cl,ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド(C_(18)H_(37))_(2)N(CH_(3))_(2)・Cl,トリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物などが用いられている。当社の有機ベントナイト製品であるオルベン(商品名)はトリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物-ベントナイトであり,ナショナルレッド社のBentone 18,Bentone 34は,それぞれオクタデシルアミン-ベントナイト,ジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイトである。」(第5頁左欄第46行?同頁中欄第16行)と記載されており、「ジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイト」は、技術的にみて、ジステアリルジメチルアンモニウム塩で表面処理された有機ベントナイトであるといえる。
したがって、甲1発明において、甲第4号証に記載されたジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイトを採用し、本件特許発明6の上記[相違点1-6]に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(7)請求項7
ア 引用発明
甲第1号証には、甲1発明の感光性樹脂組成物をプリント配線基板に塗工して作製した試験片(段落【0056】、【0068】)の発明(以下、「甲1試験片発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 対比・判断
本件特許発明7と甲1試験片発明とを対比すると、甲1試験片発明は、甲1発明の感光性樹脂組成物を塗工、予備乾燥、露光、アルカリ現像して得られた硬化物を有しているといえる。
そうすると、本件特許発明7と甲1試験片発明とは、既に述べた相違点で相違し、その余の点で一致しているといえる。
そして、既に検討したとおり、何れの相違点も当業者が容易になし得たことである。

(8)請求項8
本件特許発明8と甲1試験片発明とを対比すると、甲1試験片発明は、プリント配線基板の上に甲1発明の感光性樹脂組成物から得られた光硬化膜を有することから、甲1発明の感光性樹脂組成物の光硬化膜を有する配線板であるといえる。
そうすると、本件特許発明8と甲1試験片発明とは、既に述べた相違点で相違し、その余の点で一致しているといえる。
そして、既に検討したとおり、何れの相違点も当業者が容易になし得たことである。

2 甲2発明
(1)請求項1
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。

(ア)甲2発明の「カルボキシル基含有感光性樹脂」は、「エポキシ樹脂(ダイセル化学工業社製、EHPE-3150 )270質量部を、セロソルブアセテート400質量部に融解したものにアクリル酸(不飽和基含有モノカルボン酸)110質量部を加え加熱還流条件下、定法により反応させ、この反応生成物に、テトラヒドロ無水フタル酸(多塩基酸無水物)160質量部を定法により反応させ、続いて、グリシジルメタアクリレート(エチレン性不飽和単量体)40質量部を加熱還流下定法により反応させて」得られた樹脂である。そうすると、甲2発明の「カルボキシル基含有感光性樹脂」は、本件特許発明1の「(A)1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能性エポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和モノカルボン酸との反応生成物であるラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂の水酸基に、多塩基酸又はその無水物が反応した化合物である多塩基酸変性ラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂のカルボキシル基に、ラジカル重合性不飽和基とエポキシ基とを有するグリシジル化合物が反応した反応生成物であるカルボキシル基含有感光性樹脂」に相当する。

(イ)甲2発明の「光重合開始剤」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(B)光重合開始剤」に相当する。

(ウ)甲2発明の「(D)希釈剤」は、「ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート」である。そうすると、甲2発明の「(D)希釈剤」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(C)反応性希釈剤」に相当する。

(エ)甲2発明の「(E)エポキシ化合物」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(D)エポキシ化合物」に相当する。

(オ)甲2発明の「AEROSIL R974(疎水性ヒュームドシリカ)」は、技術的にみて、本件特許発明1の「シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した疎水性シリカ」に相当する(本件特許の明細書段落【0069】の「アエロジルR974:ジメチルシリル基で表面を修飾、日本アエロジル(株)」との記載からも明らかである。)。

(カ)甲2発明の「溶剤」は、技術的にみて、本件特許発明1の「非反応性希釈剤」に相当する。

(キ)甲2発明の「スプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物」は、技術的にみて、本件特許発明1の「スプレー塗工用感光性樹脂組成物」に相当する。

(ク)甲2発明の「(A)カルボキシル基含有感光性樹脂」100質量部に対する「AEROSIL R974(疎水性ヒュームドシリカ)」の含有量は、「10質量部」である。
そうすると、甲2発明は、本件特許発明1の「前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して4.5質量部?20質量部含有する」という要件を満たしている。

(ケ)以上より、本件特許発明1と甲2発明とは、
「(A)1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能性エポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和モノカルボン酸との反応生成物であるラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂の水酸基に、多塩基酸又はその無水物が反応した化合物である多塩基酸変性ラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂のカルボキシル基に、ラジカル重合性不飽和基とエポキシ基とを有するグリシジル化合物が反応した反応生成物であるカルボキシル基含有感光性樹脂と、
(B)光重合開始剤と、
(C)反応性希釈剤と、
(D)エポキシ化合物と、
(F)シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した疎水性シリカと、
非反応性希釈剤と、
を含み、
前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して4.5質量部?20質量部含有するスプレー塗工用感光性樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

[相違点2-1-1]本件特許発明1は、下記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含むのに対し、甲2発明は下記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含まない点。

[化1]
[R^(1)R^(2)R^(3)R^(4)-N]^(+)X^(-) (I)
(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立に、炭素数1?25の飽和脂肪族炭化水素基または炭素数2?25の不飽和脂肪族炭化水素基、Xは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されたハロゲンを表す。)

[相違点2-1-2]非反応性希釈剤が、本件特許発明1は、「プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」であるのに対し、甲2発明は、「プロピレングリコールモノメチルエーテル」である点。

イ 判断
(ア)[相違点2-1-1]について
甲第2号証の段落【0008】には、「本発明は、上記事情に鑑み、環境負荷を低減させつつ、エッジカバーリング性に優れ、ダレ性、ユズ肌、熱履歴による黄変を抑えることができるスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物及びこのスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物をスプレー塗装したプリント配線板を提供することを目的とする。」と記載されている。当該記載に基づけば、甲2発明は、ダレ性を抑えることができるスプレースプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物を得ようとするものである。
そして、前記1(1)イ(ア)に記載したとおり、甲第4号証?甲第8号証の記載に基づけば、有機ベントナイトを添加することで、塗料の流動性(コンシステンシィ)を調整し、チクソ性付与剤(垂れ防止剤)として作用することが周知技術であること、有機ベントナイトを構成する有機化合物として大きな炭化水素鎖を有するものは、強い親油性を示し、各種の有機液体中で膨潤してゲルを形成すること、有機ベントナイトとして、モンモリロナイトを脂肪族第4級アミンで表面処理されたものが、多く市販されていることが理解できる。
そうすると、ダレ性を抑えることができるスプレースプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物を得ようとする甲2発明において、塗料の流動性を調整し、チクソ性付与剤として作用することが知られている有機ベントナイトを採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。そして、有機ベントナイトを構成する有機化合物の置換基は、溶媒に対する親和性をもたらし、溶媒中で膨潤してゲルを形成させるものであるから、溶媒に対する親和性を有するよう、溶媒に応じて適宜選択されるべきものである。そうすると、有機溶剤を用いる甲2発明に有機ベントナイトを採用するにあたり、溶媒に対する親和性を有するよう、脂肪族第4級アミンで表面処理された有機ベントナイトを採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

(イ)[相違点2-1-2]について
甲第2号証の段落【0046】には、「溶剤には、例えば、・・・メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロプレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及び上記グリコールエーテル類のエステル化物などのエステル類;・・・等を挙げることができる。」と記載されている。当該記載に基づけば、甲2発明の溶剤として、プロピレングリコールモノメチルエーテルの代わりに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

特許権者は、令和2年5月19日付けの意見書の「(4-8)甲第2号証について」において、「甲第2号証には、本件特許発明1の特徴である、上記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトをプロピレングリコールメチルエーテルアセテートで分散させることの記載はないといえる。」、「有機ベントナイトを構成する有機化合物の置換基は、溶媒に対する親和性が重要であるので、有機ベントナイトと溶媒をどのような組み合わせとするのが好ましいかは重要である。」及び「導体が従来よりも厚く(35μm以上、例えば、厚さ50?100μm)設計された保護膜の膜厚も厚く(例えば、厚さ60?110μm)する必要がある場合に、スプレー塗工にて塗膜を形成するためには、有機ベントナイトと溶媒をどのような組み合わせにするのかが、従来とは異なり重要となる。すなわち、プロピレングリコールモノメチルエーテルの配合量を選択して感光性樹脂組成物の粘度を調整すれば、スプレー塗工にてダレの防止された厚い塗膜を形成できるものではない。」と主張している。
しかし、前記1(1)イ(ウ)で述べたのと同様の理由により、特許権者の上記主張は採用できない。

(ウ)効果について
本件特許発明1の効果は、甲第2号証及び上記周知技術に基づいて、当業者が予測できた範囲のものである。
なお、特許権者は、令和2年5月19日付けの意見書の「(4-8)甲第2号証について」において、「一方で、本意見書の末尾に添付した実験成績証明書の参考例2に示すように、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルが使用されている甲第2号証に上記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを採用すると、スプレー塗工法にて感光性樹脂組成物を上記のように厚く塗工すると、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートと比較して、塗膜にダレが生じやすい傾向がある。・・・これに対し、実施例3では、ダレ性は◎評価であり、導体厚90μmでも塗膜にダレは無い。」と主張しているが、上記効果は、本件特許発明1の全体にわたって奏される効果ではない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲2発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)請求項2
ア 対比
本件特許発明2と甲2発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点2-2]本件特許発明2は、「(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.0質量部?20質量部含有する」のに対し、甲2発明は、(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点2-2]について検討すると、前記1(2)イに記載したとおり、塗料の流動性を調整するために添加する有機ベントナイトの配合量は、感光性樹脂組成物のその他の成分に応じて、所望の流動性が得られ、硬化物の特性を低下しない範囲において適宜最適化し得るものである。また、有機溶媒を「プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」に変更したとしても、作用機序が大きく異なるとは考えがたい。
したがって、甲2発明において有機ベントナイトを含有させるにあたり、その配合量をカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.0質量部?20質量部程度とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、そのような範囲としたことにより、格別な効果の差異が生じるともいえない。

(3)請求項3
ア 対比
本件特許発明3と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「(A)カルボキシル基含有感光性樹脂」100質量部に対する「AEROSIL R974(疎水性ヒュームドシリカ)」の含有量は、前記2(1)ア(ク)に記載したとおり、「10質量部」である。
そうすると、甲2発明は、本件特許発明3の「前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.5質量部?13.5質量部含有」するという要件を満たしている。
以上より、本件特許発明3と甲2発明とは、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点2-3]本件特許発明3は、「前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して8.0質量部?18質量部含有する」のに対し、甲2発明は、(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点2-3]について検討すると、前記1(3)イに記載したとおり、塗料の流動性を調整するために添加する有機ベントナイトの配合量は、感光性樹脂組成物のその他の成分に応じて、所望の流動性が得られ、硬化物の特性を低下しない範囲において適宜最適化し得るものである。また、有機溶媒を「プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」に変更したとしても、作用機序が大きく異なるとは考えがたい。
したがって、甲2発明において有機ベントナイトを含有させるにあたり、その配合量をカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して8.0質量部?18質量部程度とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、そのような範囲としたことにより、格別な効果の差異が生じるともいえない。

(4)請求項4
ア 対比
本件特許発明4と甲2発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点2-4]本件特許発明4は、「前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトの質量:前記(F)疎水性シリカの質量が、1.0:0.30?3.0の範囲である」のに対し、甲2発明は(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点2-4]について検討すると、前記1(4)イに記載したとおり、甲第8号証には、実施例3として、有機ベントナイト及びアエロジルR711を、1.0:1.0の割合で用いた例が記載されている。
そうすると、甲2発明においても、有機ベントナイトを含有させるにあたり、その添加量を「AEROSIL R974(疎水性ヒュームドシリカ)」と同程度とし、本件特許発明4の[相違点2-4]に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(5)請求項5
本件特許発明5と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「AEROSIL R974(疎水性ヒュームドシリカ)」は、技術的にみて、ジメチルシリル基で表面を修飾したシリカであるといえる(本件特許の段落【0069】参照。)。そうすると、甲2発明は、本件特許発明5の「アルキルシリル基で修飾されているシリカ」とする要件を満たしている。
したがって、本件特許発明5と甲2発明とは、既に述べた相違点で相違し、その余の点で一致している。
そして、既に検討したとおり、何れの相違点も当業者が容易になし得たことである。

(6)請求項6
ア 対比
本件特許発明6と甲2発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点2-6]本件特許発明6は、「第4級アンモニウム塩が、ジステアリルジメチルアンモニウム塩である」のに対し、甲2発明は(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点2-6]について検討すると、甲第4号証には、「モンモリロナイトとしてはベントナイト,ヘクトライトなどが用いられ,有機化合物としてはオクタデシルアミンC_(18)H_(37)NH_(2),トリメチルオクタデシルアンモニウムクロリドC_(18)H_(37)N(CH_(3))_(3)・Cl,ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド(C_(18)H_(37))_(2)N(CH_(3))_(2)・Cl,トリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物などが用いられている。当社の有機ベントナイト製品であるオルベン(商品名)はトリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物-ベントナイトであり,ナショナルレッド社のBentone 18,Bentone 34は,それぞれオクタデシルアミン-ベントナイト,ジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイトである。」(第5頁左欄第46行?同頁中欄第16行)と記載されており、「ジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイト」は、技術的にみて、ジステアリルジメチルアンモニウム塩で表面処理された有機ベントナイトであるといえる。
したがって、甲2発明において、甲第4号証に記載されたジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイトを採用し、本件特許発明6の上記[相違点2-6]に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(7)請求項7
ア 引用発明
甲第2号証には、甲2発明のスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物をガラスエポキシ基板に塗工して作製した試験片(段落【0064】)の発明(以下、「甲2試験片発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 対比・判断
本件特許発明7と甲2試験片発明とを対比すると、甲2試験片発明は、甲2発明のスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物を塗工、予備乾燥、露光、現像して得られた硬化物を有しているといえる。
そうすると、本件特許発明7と甲2試験片発明とは、既に述べた相違点で相違し、その余の点で一致しているといえる。
そして、既に検討したとおり、何れの相違点も当業者が容易になし得たことである。

(8)請求項8
ア 対比
本件特許発明8と甲2試験片発明とを対比すると、甲2試験片発明は、ガラスエポキシ基板の上に甲2発明のスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物から得られた光硬化膜を有することから、甲2発明のスプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物の光硬化膜を有する基板であるといえる。
そうすると、本件特許発明8と甲1試験片発明とは、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致しているといえる。
[相違点2-8]本件特許発明8は、「配線板」であるのに対し、甲2試験片発明は、「基板」であって「配線板」ではない点。

イ 判断
上記[相違点2-8]について検討すると、甲第2号証の段落【0052】?【0057】には、スプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物が、プリント配線板にスプレー塗布されること、予備乾燥、露光、現像、ポストキュアを行い、ソルダーレジスト膜を形成させ、ソルダーレジスト膜で被覆したプリント配線板を得ることが記載されている。当該記載に基づけば、甲2試験片発明の基板をプリント配線板とし、[相違点2-8]に係る本件特許発明8の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

3 甲11発明
(1)請求項1
ア 対比
本件特許発明1と甲11発明とを対比する。

(ア)甲11発明の「感光性樹脂(A-1)」は、「ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート700gにオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔DIC株式会社製、EPICLON N-695、軟化点95℃、エポキシ当量214、平均官能基数7.6〕1070g(グリシジル基数(芳香環総数):5.0モル)、アクリル酸360g(5.0モル)、およびハイドロキノン1.5gを仕込み、100℃に加熱攪拌し、均一溶解し、次いで、トリフェニルホスフィン4.3gを仕込み、110℃に加熱して2時間反応後、更にトリフェニルホスフィン1.6gを追加し、120℃に昇温してさらに12時間反応を行い、得られた反応液に芳香族系炭化水素(ソルベッソ150)562g、テトラヒドロ無水フタル酸684g(4.5モル)を仕込み、110℃で4時間反応を行い、さらに、得られた反応液にグリシジルメタクリレート142.0g(1.0モル)を仕込み、115℃で4時間反応を行って」得られた樹脂である。そうすると、甲11発明の「感光性樹脂(A-1)」は、本件特許発明1の「(A)1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能性エポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和モノカルボン酸との反応生成物であるラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂の水酸基に、多塩基酸又はその無水物が反応した化合物である多塩基酸変性ラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂のカルボキシル基に、ラジカル重合性不飽和基とエポキシ基とを有するグリシジル化合物が反応した反応生成物であるカルボキシル基含有感光性樹脂」に相当する。

(イ)甲11発明の「(C)光重合開始剤」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(B)光重合開始剤」に相当する。

(ウ)甲11発明の「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(C)反応性希釈剤」に相当する。

(エ)甲11発明の「(B)多官能エポキシ樹脂(軟化点:60℃以下)」及び「(B’)多官能エポキシ樹脂(軟化点:60℃超)」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(D)エポキシ化合物」に相当する。

(オ)甲11発明の「シリカ」と本件特許発明1の「(F)シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した疎水性シリカ」とは、「(F)シリカ」である点で共通する。

(カ)甲11発明の「芳香族石油系溶剤」は、技術的にみて、本件特許発明1の「非反応性希釈剤」に相当する。

(キ)甲11発明の「光硬化性熱硬化性樹脂組成物」は、技術的にみて、本件特許発明1の「感光性樹脂組成物」に相当する。

(ク)甲11発明の「感光性樹脂(A-1)」100質量部に対する「シリカ」の含有量は、約14.3質量部である。
そうすると、甲11発明は、本件特許発明1の「前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して4.5質量部?20質量部含有する」という要件を満たしている。

合議体注:(A-1)100質量部当たりのシリカの質量部:約14.3=10÷70×100

(ケ)以上より、本件特許発明1と甲11発明とは、
「(A)1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能性エポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和モノカルボン酸との反応生成物であるラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂の水酸基に、多塩基酸又はその無水物が反応した化合物である多塩基酸変性ラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂のカルボキシル基に、ラジカル重合性不飽和基とエポキシ基とを有するグリシジル化合物が反応した反応生成物であるカルボキシル基含有感光性樹脂と、
(B)光重合開始剤と、
(C)反応性希釈剤と、
(D)エポキシ化合物と、
(F)シリカと、
非反応性希釈剤と、
を含み、
前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して4.5質量部?20質量部含有する感光性樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点3-1-1]本件特許発明1は、下記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含むのに対し、甲11発明は下記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含まない点。

[化1]
[R^(1)R^(2)R^(3)R^(4)-N]^(+)X^(-) (I)
(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立に、炭素数1?25の飽和脂肪族炭化水素基または炭素数2?25の不飽和脂肪族炭化水素基、Xは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されたハロゲンを表す。)

[相違点3-1-2]シリカが、本件特許発明1では「シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した疎水性」シリカであるのに対し、甲11発明ではシラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した疎水性シリカであるか明らかでない点。

[相違点3-1-3]非反応性希釈剤が、本件特許発明1は、「プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」であるのに対し、甲11発明は、「芳香族石油系溶剤」である点。

[相違点3-1-4]感光性樹脂組成物が、本件特許発明1では「スプレー塗工用」であるのに対し、甲11発明ではスプレー塗工用であるとされていない点。

イ 判断
(ア)[相違点3-1-1]について
甲第11号証の段落[0079]には、「本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、さらに必要に応じて、・・・微粉シリカ、有機ベントナイト、モンモリロナイトなどの公知慣用の増粘剤、・・・などのような公知慣用の添加剤類を配合することができる。」と記載されており、有機ベントナイトのような公知慣用の増粘剤を配合することが示唆されている。
そして、甲第4号証には、有機ベントナイトについて、「モンモリロナイトは,その結晶層間に交換性カチオンや水和水をもっている。これらの交換性カチオンおよび水和水を有機カチオン化合物や極性化合物で置き換えることができ,有機-モンモリロナイト複合物を生成する。これを有機ベントナイトと称し,有機化合物として大きな炭化水素鎖を有するものは強い親油性を示し,各種の有機液体中で膨潤してゲルを形成する性質がある。」(第5頁左欄第28?39行)、「モンモリロナイトとしてはベントナイト,ヘクトライトなどが用いられ,有機化合物としてはオクタデシルアミンC_(18)H_(37)NH_(2),トリメチルオクタデシルアンモニウムクロリドC_(18)H_(37)N(CH_(3))_(3)・Cl,ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド(C_(18)H_(37))_(2)N(CH_(3))_(2)・Cl,トリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物などが用いられている。当社の有機ベントナイト製品であるオルベン(商品名)はトリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物-ベントナイトであり,ナショナルレッド社のBentone 18,Bentone 34は,それぞれオクタデシルアミン-ベントナイト,ジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイトである。」(第5頁左欄第46行?同頁中欄第16行)、「適量の有機ベントナイトを配合した塗料は,コンシステンシィが改善されて顔料の懸濁性が向上し,ハードケーキの生成が防止され,再分散性の良い塗料が得られる。また塗装時のタルミ(Sagging)が顕著に改善されるので,すぐれた流れ止め剤としての効果を現わす。」(第5頁右欄第25?32行)との記載がある。上記記載に基づけば、有機ベントナイトを構成する有機化合物として大きな炭化水素鎖を有するものは、強い親油性を示し、各種の有機液体中で膨潤してゲルを形成すること、有機ベントナイトとして、モンモリロナイトを脂肪族第4級アミンで表面処理されたものが、多く市販されていることが理解できる。
そうすると、甲11発明において、示唆に従い、公知慣用の増粘剤として有機ベントナイトを採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。そして、有機ベントナイトを構成する有機化合物の置換基は、溶媒に対する親和性をもたらし、溶媒中で膨潤してゲルを形成させるものであるから、溶媒に対する親和性を有するよう、溶媒に応じて適宜選択されるべきものである。そうすると、甲11発明に有機ベントナイトを採用するにあたり、溶媒に対する親和性を有するよう、公知の、脂肪族第4級アミンで表面処理された有機ベントナイトを採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

(イ)[相違点3-1-2]について
甲第11号証の段落[0076]には、「本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、塗膜の物理的強度等を上げるために、必要に応じて、フィラーを配合することができる。このようなフィラーとしては、公知慣用の無機又は有機フィラーが使用できるが、特に硫酸バリウム、球状シリカおよびタルクが好ましく用いられる。さらに、前述の光硬化性モノマーや(C)エポキシ系熱硬化性樹脂にナノシリカを分散したHanse-Chemie社製のNANOCRYL(商品名) XP 0396、XP 0596、XP 0733、XP 0746、XP 0765、XP 0768、XP 0953、XP 0954、XP 1045(何れも製品グレード名)や、Hanse-Chemie社製のNANOPOX(商品名) XP 0516、XP 0525、XP 0314(何れも製品グレード名)も使用できる。これらを単独で又は2種以上配合することができる。」と記載されている。そして、甲第11号証の段落[0076]に例示された「Hanse-Chemie社製のNANOPOX(商品名)」の「XP 0525、XP 0314」は、疎水化されたオルガノシリカゾルである(甲第13号証の段落【0025】参照。)。
また、有機溶剤を用いた甲11発明において、添加するフィラーが組成物中に分散されるよう、疎水性のものとすることは当業者が通常考慮することであり、例えば、甲第1号証の段落【0048】、甲第14号証の段落【0058】、甲第15号証の段落【0211】、甲第16号証の段落[0041]に記載されているように周知技術でもある。
したがって、甲11発明において、シリカを「シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した疎水性」シリカとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)[相違点3-1-4]について
プリント配線板に塗布される感光性樹脂組成物を、スプレー塗工を用いて塗布することは、周知技術である。例えば、甲第1号証の記載事項アには、「スプレー塗工用」である「感光性樹脂組成物」を塗布した「プリント配線板」が記載されている。また、甲第2号証の記載事項アにも、「スプレー塗装用白色ソルダーレジスト組成物をスプレー塗装したことを特徴とするプリント配線板」が記載されている。さらに、甲第5号証には、「プリント配線板の製造等に用いられる硬化性組成物」(記載事項ア)において、「例えば、上記硬化性組成物をロールを用いて均一になるまで充分に混合し、用途に応じて所望の基材に、例えばスクリーン印刷法、カーテンコート法、スプレーコート法、ロールコート法等の公知の塗工方法により塗布し、例えば約60?100℃の温度で組成物中に含まれる有機溶剤を揮発乾燥させることにより、ダレを生ずることもなく指触乾燥性に優れた塗膜を形成できる。」(記載事項ウ)と記載されている。
そして、甲第11号証の記載事項イには、「本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、塗布方法に適した粘度に調整するために、有機溶剤を含有していてもよい。」(段落[0078])と記載されている。そうすると、甲11発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を、周知のスプレー塗工に適した粘度となるように調整し、スプレー塗工用の光硬化性熱硬化性樹脂組成物とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(エ)[相違点3-1-3]について
甲第11号証の段落[0078]には、「このような有機溶剤としては、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、エステル類、アルコール類、脂肪族炭化水素、石油系溶剤などが挙げることができる。より具体的には、・・・酢酸エチル、酢酸ブチル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールブチルエーテルアセテート、カルビトールアセテートなどのエステル類;・・・などである。」と記載されている。当該記載に基づけば、甲11発明の溶剤として、芳香族石油系溶剤の代わりに、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートを採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

特許権者は、令和2年5月19日付けの意見書の「(4-9)甲第11号証について」において、「甲第11号証には、本件特許発明1の特徴である、上記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトをプロピレングリコールメチルエーテルアセテートで分散させることの記載はないといえる。」、「有機ベントナイトを構成する有機化合物の置換基は、溶媒に対する親和性が重要であるので、有機ベントナイトと溶媒をどのような組み合わせとするのが好ましいかは重要である。」及び「導体が従来よりも厚く(35μm以上、例えば、厚さ50?100μm)設計されている場合に、スプレー塗工にて塗膜を形成するためには、有機ベントナイトと溶媒をどのような組み合わせにするのかが、従来とは異なり重要となる。すなわち、芳香族石油系溶剤の配合量を選択して感光性樹脂組成物の粘度を調整すれば、スプレー塗工にてダレの防止された厚い塗膜を形成できるものではない。」と主張している。
しかし、前記1(1)イ(ウ)で述べたのと同様の理由により、特許権者の上記主張は採用できない。


(オ)効果について
本件特許発明1の効果は、甲第11号証の記載、甲第4号証の記載及び上記周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲のものである。

特許権者は、令和元年10月18日付けの意見書の「(4)理由1について」において、甲第4号証について「第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトと第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイト以外の有機ベントナイトの作用の相違については記載されていないといえる。」、「スプレー塗工法にてもタルミが顕著に改善できることは記載されておらず、本件特許発明1の効果である、ゆず肌を抑えた硬化塗膜をスプレー塗工で形成できることも記載されていないといえる。」と主張している。
しかし、上記のとおり、有機ベントナイトとして、モンモリロナイトを脂肪族第4級アミンで表面処理したものは、公知慣用の増粘剤である。そして、有機ベントナイトを構成する有機化合物の置換基は、溶媒に対する親和性をもたらし、溶媒中で膨潤してゲルを形成させるものであるから、溶媒に対する親和性を有する脂肪族基が多く存在する第4級アンモニウム塩が所望の効果を奏することも、当業者にとって自明である。したがって、特許権者の上記主張は採用できない。
また、特許権者は、令和2年5月19日付けの意見書の「(4-9)甲第11号証について」において、「一方で、本意見書の末尾に添付した実験成績証明書の参考例3に示すように、溶剤として芳香族石油系溶剤が使用されている甲第11号証に上記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを採用すると、スプレー塗工法にて感光性樹脂組成物を上記のように厚く塗工すると、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートと比較して、塗膜にダレが生じやすい傾向がある。・・・これに対し、実施例3では、ダレ性は◎評価であり、導体厚90μmでも塗膜にダレは無い。」と主張しているが、上記効果は、本件特許発明1の全体にわたって奏される効果ではない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲11発明、甲第4号証の記載及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、甲11発明に代えて、甲第11号証の実施例2、4?10、13?18を引用発明としても、同様のことがいえる。

(2)請求項2
ア 対比
本件特許発明2と甲11発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点3-2]本件特許発明2は、「(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.0質量部?20質量部含有する」のに対し、甲11発明は、(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点3-2]について検討すると、前記1(2)イに記載したとおり、塗料の流動性を調整するために添加する有機ベントナイトの配合量は、感光性樹脂組成物のその他の成分に応じて、所望の流動性が得られ、硬化物の特性を低下しない範囲において適宜最適化し得るものである。また、有機溶媒を「プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」に変更したとしても、作用機序が大きく異なるとは考えがたい。
したがって、甲11発明において有機ベントナイトを含有させるにあたり、その配合量をカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.0質量部?20質量部程度とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、そのような範囲としたことにより、格別な効果の差異が生じるともいえない。

(3)請求項3
ア 対比
本件特許発明3と甲11発明とを対比する。
甲11発明の「感光性樹脂(A-1)」100質量部に対する「シリカ」の含有量は、前記(1)ア(ク)に記載したとおり、約14.3質量部である。
以上より、本件特許発明3と甲11発明とは、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点3-3-1]シリカの(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対する含有量が、本件特許発明3では、「5.5質量部?13.5質量部」であるのに対し、甲11発明は、「約14.3質量部」である点。
[相違点3-3-2]本件特許発明3は、「前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して8.0質量部?18質量部含有する」のに対し、甲11発明は、(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
(ア)[相違点3-3-1]について
甲第11号証には、フィラーについて、「本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、塗膜の物理的強度等を上げるために、必要に応じて、フィラーを配合することができる。」(段落[0076])、「これらフィラーの配合率は、感光性樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは300質量部以下、より好ましくは0.1?300質量部、さらに好ましくは、0.1?150質量部の割合である。前記フィラーの配合率が、300質量部を超えた場合、組成物の粘度が高くなり印刷性が低下したり、硬化物が脆くなるので好ましくない。」(段落[0077])と記載されている。当該記載に基づけば、シリカ等のフィラーの含有量は、得られる塗膜の強度及び組成物の粘度が適切な値となるように、感光性樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1?150質量部の範囲内で適宜最適化し得るものである。
したがって、甲11発明のシリカの含有量を調整し、感光性樹脂(A)100質量部に対して、5.5?13.5質量部の範囲内の値とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
また、そのような範囲としたことにより、格別な効果の差異が生じるともいえない。

(イ)[相違点3-3-2]について
前記1(3)イに記載したとおり、塗料の流動性を調整するために添加する有機ベントナイトの配合量は、感光性樹脂組成物のその他の成分に応じて、所望の流動性が得られ、硬化物の特性を低下しない範囲において適宜最適化し得るものである。また、有機溶媒を「プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」に変更したとしても、作用機序が大きく異なるとは考えがたい。
したがって、甲11発明において有機ベントナイトを含有させるにあたり、その配合量をカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して8.0質量部?18質量部程度とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、そのような範囲としたことにより、格別な効果の差異が生じるともいえない。

(4)請求項4
ア 対比
本件特許発明4と甲11発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点3-4]本件特許発明4は、「前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトの質量:前記(F)疎水性シリカの質量が、1.0:0.30?3.0の範囲である」のに対し、甲11発明は(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点3-4]について検討すると、前記1(4)イに記載したとおり、甲第8号証には、実施例3として、有機ベントナイト及びアエロジルR711を、1.0:1.0の割合で用いた例が記載されている。
そうすると、甲11発明においても、有機ベントナイトを含有させるにあたり、その添加量を「シリカ」と同程度とし、本件特許発明4の[相違点3-4]に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(5)請求項5
ア 対比
本件特許発明5と甲11発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点3-5]シリカが、本件特許発明5では、「アルキルシリル基で修飾されているシリカ」であるのに対し、甲11発明では、「アルキルシリル基で修飾されているシリカ」であるのかが明らかでない点。

イ 判断
上記[相違点3-5]について検討すると、甲第7号証の段落[0320]、甲第8号証の段落[0027]、甲第15号証の段落【0211】、甲第16号証の段落[0041]に記載されているように、アルキルシリル基で修飾されている疎水性シリカは周知技術である。したがって、甲11発明のシリカとして、周知のアルキルシリル基で修飾されている疎水性シリカを採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

(6)請求項6
ア 対比
本件特許発明6と甲11発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点3-6]本件特許発明6は、「第4級アンモニウム塩が、ジステアリルジメチルアンモニウム塩である」のに対し、甲11発明は(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点3-6]について検討すると、甲第4号証には、「モンモリロナイトとしてはベントナイト,ヘクトライトなどが用いられ,有機化合物としてはオクタデシルアミンC_(18)H_(37)NH_(2),トリメチルオクタデシルアンモニウムクロリドC_(18)H_(37)N(CH_(3))_(3)・Cl,ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド(C_(18)H_(37))_(2)N(CH_(3))_(2)・Cl,トリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物などが用いられている。当社の有機ベントナイト製品であるオルベン(商品名)はトリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物-ベントナイトであり,ナショナルレッド社のBentone 18,Bentone 34は,それぞれオクタデシルアミン-ベントナイト,ジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイトである。」(第5頁左欄第46行?同頁中欄第16行)と記載されており、「ジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイト」は、技術的にみて、ジステアリルジメチルアンモニウム塩で表面処理された有機ベントナイトであるといえる。
したがって、甲11発明において、甲第4号証に記載されたジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイトを採用し、本件特許発明6の上記[相違点3-6]に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(7)請求項7
ア 対比
本件特許発明7と甲11発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点3-7]本件特許発明7は、「感光性樹脂組成物の光硬化物」であるのに対し、甲11発明は「光硬化性熱硬化性樹脂組成物」である点。

イ 判断
上記[相違点3-7]について検討すると、甲第11号証には、回路パターンを有する基材上に光硬化性熱硬化性組成物からなる硬化物を有するプリント配線板(段落[0080]、[0081])が記載されており、回路パターン基板に、甲11発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を、全面印刷し、乾燥させ、露光し、現像して光硬化性樹脂組成物を硬化したこと(段落[0097]、[0098])も記載されている。当該記載に基づけば、甲11発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を露光して、光硬化物とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(8)請求項8
ア 対比
本件特許発明8と甲11発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点3-8]本件特許発明7は、「感光性樹脂組成物の光硬化膜を有する配線板」であるのに対し、甲11発明は「光硬化性熱硬化性樹脂組成物」である点。

イ 判断
上記[相違点3-8]について検討すると、甲第11号証には、回路パターンを有する基材上に光硬化性熱硬化性組成物からなる硬化物を有するプリント配線板(段落[0080]、[0081])が記載されており、回路パターン基板に、甲11発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を、全面印刷し、乾燥させ、露光し、現像して光硬化性樹脂組成物を硬化したこと(段落[0097]、[0098])も記載されている。当該記載に基づけば、回路パターン基板上に印刷乾燥された甲11発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を露光して、光硬化膜を有する配線板とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

4 甲12発明
(1)請求項1
ア 対比
本件特許発明1と甲12発明とを対比する。

(ア)甲12発明の「カルボキシル基含有樹脂(A-2)」は、「ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート700gにオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔DIC株式会社製、EPICLON N-695、軟化点95℃、エポキシ当量214、平均官能基数7.6〕1070g(グリシジル基数(芳香環総数):5.0モル)、アクリル酸360g(5.0モル)、およびハイドロキノン1.5gを仕込み、100℃に加熱攪拌し、均一溶解して、次いで、トリフェニルホスフィン4.3gを仕込み、110℃に加熱して2時間反応後、更にトリフェニルホスフィン1.6gを追加し、120℃に昇温してさらに12時間反応を行い、得られた反応液に芳香族系炭化水素(ソルベッソ150)562g、テトラヒドロ無水フタル酸684g(4.5モル)を仕込み、110℃で4時間反応を行い、さらに、得られた反応液にグリシジルメタクリレート142.0g(1.0モル)を仕込み、115℃で4時間反応を行って」得られた樹脂である。そうすると、甲12発明の「カルボキシル基含有樹脂(A-2)」は、本件特許発明1の「(A)1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能性エポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和モノカルボン酸との反応生成物であるラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂の水酸基に、多塩基酸又はその無水物が反応した化合物である多塩基酸変性ラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂のカルボキシル基に、ラジカル重合性不飽和基とエポキシ基とを有するグリシジル化合物が反応した反応生成物であるカルボキシル基含有感光性樹脂」に相当する。

(イ)甲12発明の「(C)光重合開始剤」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(B)光重合開始剤」に相当する。

(ウ)甲12発明の「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(C)反応性希釈剤」に相当する。

(エ)甲12発明の「(B)多官能エポキシ樹脂(軟化点:60℃以下)」及び「(B’)多官能エポキシ樹脂(軟化点:60℃超)」は、技術的にみて、本件特許発明1の「(D)エポキシ化合物」に相当する。

(オ)甲12発明の「シリカ」と本件特許発明1の「(F)シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した疎水性シリカ」とは、「(F)シリカ」である点で共通する。

(カ)甲12発明の「芳香族石油系溶剤」は、技術的にみて、本件特許発明1の「非反応性希釈剤」に相当する。

(キ)甲12発明の「光硬化性熱硬化性樹脂組成物」は、技術的にみて、本件特許発明1の「感光性樹脂組成物」に相当する。

(ク)甲12発明の「カルボキシル基含有樹脂(A-2)」100質量部に対する「シリカ」の含有量は、約14.3質量部である。
そうすると、甲12発明は、本件特許発明1の「前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して4.5質量部?20質量部含有する」という要件を満たしている。

合議体注:(A-2)100質量部当たりのシリカの質量部:約14.3=10÷70×100

(ケ)以上より、本件特許発明1と甲12発明とは、
「(A)1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能性エポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和モノカルボン酸との反応生成物であるラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂の水酸基に、多塩基酸又はその無水物が反応した化合物である多塩基酸変性ラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂のカルボキシル基に、ラジカル重合性不飽和基とエポキシ基とを有するグリシジル化合物が反応した反応生成物であるカルボキシル基含有感光性樹脂と、
(B)光重合開始剤と、
(C)反応性希釈剤と、
(D)エポキシ化合物と、
(F)シリカと、
非反応性希釈剤と、
を含み、
前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して4.5質量部?20質量部含有する感光性樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点4-1-1]本件特許発明1は、下記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含むのに対し、甲12発明は下記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含まない点。

[化1]
[R^(1)R^(2)R^(3)R^(4)-N]^(+)X^(-) (I)
(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立に、炭素数1?25の飽和脂肪族炭化水素基または炭素数2?25の不飽和脂肪族炭化水素基、Xは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されたハロゲンを表す。)

[相違点4-1-2]シリカが、本件特許発明1では「シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した疎水性」であるのに対し、甲12発明ではシラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した疎水性シリカであるか明らかでない点。

[相違点4-1-3]非反応性希釈剤が、本件特許発明1は、「プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」であるのに対し、甲12発明は、「芳香族石油系溶剤」である点。

[相違点4-1-4]感光性樹脂組成物が、本件特許発明1では「スプレー塗工用」であるのに対し、甲12発明ではスプレー塗工用であるとされていない点。

イ 判断
(ア)[相違点4-1-1]について
甲12号証の段落[0098]には、「本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、さらに必要に応じて、・・・微粉シリカ、有機ベントナイト、モンモリロナイトなどの公知慣用の増粘剤、・・・などのような公知慣用の添加剤類を配合することができる。」と記載されており、有機ベントナイトのような公知慣用の増粘剤を配合することが示唆されている。
そして、前記3(1)イ(ア)に記載したとおり、甲第4号証の記載に基づけば、有機ベントナイトを構成する有機化合物として大きな炭化水素鎖を有するものは、強い親油性を示し、各種の有機液体中で膨潤してゲルを形成すること、有機ベントナイトとして、モンモリロナイトを脂肪族第4級アミンで表面処理されたものが、多く市販されていることが理解できる。
そうすると、甲12発明において、示唆に従い、公知慣用の増粘剤として有機ベントナイトを採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。そして、有機ベントナイトを構成する有機化合物の置換基は、溶媒に対する親和性をもたらし、溶媒中で膨潤してゲルを形成させるものであるから、溶媒に対する親和性を有するよう、溶媒に応じて適宜選択されるべきものである。そうすると、溶剤として、「ジプロピレングリコールモノメチルエーテル」を含む甲12発明に有機ベントナイトを採用するにあたり、溶媒に対する親和性を有するよう、公知の脂肪族第4級アミンで表面処理された有機ベントナイトを採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

(イ)[相違点4-1-2]について
甲第12号証の段落[0091]には、「本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、塗膜の物理的強度等を上げるために、必要に応じて、フィラーを配合することができる。このようなフィラーとしては、公知慣用の無機又は有機フィラーが使用できるが、特に硫酸バリウム、球状シリカおよびタルクが好ましく用いられる。さらに、前述の光硬化性モノマーや(C)エポキシ系熱硬化性樹脂にナノシリカを分散したHanse-Chemie社製のNANOCRYL(商品名) XP 0396、XP 0596、XP 0733、XP 0746、XP 0765、XP 0768、XP 0953、XP 0954、XP 1045(何れも製品グレード名)や、Hanse-Chemie社製のNANOPOX(商品名) XP 0516、XP 0525、XP 0314(何れも製品グレード名)も使用できる。これらを単独で又は2種以上配合することができる。」と記載されている。そして、甲第12号証の段落[0091]に例示された「Hanse-Chemie社製のNANOPOX(商品名)」の「XP 0525、XP 0314」は、疎水化されたオルガノシリカゾルである(甲第13号証の段落【0025】参照。)。
また、有機溶剤を用いた甲12発明において、添加するフィラーが組成物中に分散されるよう、疎水性のものとすることは当業者が通常考慮することであり、例えば、甲第1号証の段落【0048】、甲第14号証の段落【0058】、甲第15号証の段落【0211】、甲第16号証の段落[0041]に記載されているように周知技術でもある。
したがって、甲12発明において、シリカを「シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した疎水性」シリカとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)[相違点4-1-4]について
プリント配線板に塗布される感光性樹脂組成物を、スプレー塗工を用いて塗布することは、前記3(1)イ(エ)に記載したとおり、周知技術である。
そして、甲第12号証の記載事項ウには、「本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を、例えば有機溶剤で塗布方法に適した粘度に調整」(段落[0101])することが記載されている。そうすると、甲12発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を、周知のスプレー塗工に適した粘度となるように調整し、スプレー塗工用の光硬化性熱硬化性樹脂組成物とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(エ)[相違点4-1-3]について
甲第12号証の段落[0096]には、「前記有機溶剤としては、・・・酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、炭酸プロピレン等のエステル類;・・・石油エーテル、石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤など、公知慣用の有機溶剤が使用できる。」と記載されている。当該記載に基づけば、甲12発明の溶剤として、芳香族石油系溶剤の代わりに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

特許権者は、令和2年5月19日付けの意見書の「(4-10)甲第12号証について」において、「甲第12号証には、本件特許発明1の特徴である、上記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトをプロピレングリコールメチルエーテルアセテートで分散させることの記載はないといえる。」、「有機ベントナイトを構成する有機化合物の置換基は、溶媒に対する親和性が重要であるので、有機ベントナイトと溶媒をどのような組み合わせとするのが好ましいかは重要である。」及び「導体が従来よりも厚く(35μm以上、例えば、厚さ50?100μm)設計されている場合に、スプレー塗工にて塗膜を形成するためには、有機ベントナイトと溶媒をどのような組み合わせにするのかが、従来とは異なり重要となる。すなわち、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルと芳香族石油系溶剤の配合量を選択して感光性樹脂組成物の粘度を調整すれば、スプレー塗工にてダレの防止された厚い塗膜を形成できるものではない。」と主張している。
しかし、前記1(1)イ(ウ)述べたのと同様の理由により、特許権者の上記主張は採用できない。

(オ)効果について
本件特許発明1の効果は、甲第12号証の記載、甲第4号証の記載及び上記周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲のものである。

なお、特許権者は、令和2年5月19日付けの意見書の「(4-10)甲第12号証について」において、「一方で、本意見書の末尾に添付した実験成績証明書の参考例4に示すように、溶剤としてジプロピレングリコールモノメチルエーテルと芳香族石油系溶剤が使用されている甲第12号証に上記一般式(I)で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを採用すると、スプレー塗工法にて感光性樹脂組成物を上記のように厚く塗工すると、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートと比較して、塗膜にダレが生じやすい傾向がある。・・・これに対し、実施例3では、ダレ性は◎評価であり、導体厚90μmでも塗膜にダレは無い。」と主張しているが、上記効果は、本件特許発明1の全体にわたって奏される効果ではない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲12発明、甲第4号証の記載及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、甲12発明に代えて、甲第12号証の実施例2、4?10、13?15、17?19を引用発明としても、同様のことがいえる。

(2)請求項2
ア 対比
本件特許発明2と甲12発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点4-2]本件特許発明2は、「(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.0質量部?20質量部含有する」のに対し、甲12発明は、(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点4-2]について検討すると、前記1(2)イに記載したとおり、塗料の流動性を調整するために添加する有機ベントナイトの配合量は、感光性樹脂組成物のその他の成分に応じて、所望の流動性が得られ、硬化物の特性を低下しない範囲において適宜最適化し得るものである。また、有機溶媒を「プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」に変更したとしても、作用機序が大きく異なるとは考えがたい。
したがって、甲12発明において有機ベントナイトを含有させるにあたり、その配合量をカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.0質量部?20質量部程度とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、そのような範囲としたことにより、格別な効果の差異が生じるともいえない。

(3)請求項3
ア 対比
本件特許発明3と甲12発明とを対比する。
甲12発明の「カルボキシル基含有樹脂(A-2)」100質量部に対する「シリカ」の含有量は、前記(1)ア(ク)に記載したとおり、約14.3質量部である。
以上より、本件特許発明3と甲12発明とは、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点4-3-1]シリカの(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対する含有量が、本件特許発明3では、「5.5質量部?13.5質量部」であるのに対し、甲12発明は、「約14.3質量部」である点。
[相違点4-3-2]本件特許発明3は、「前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して8.0質量部?18質量部含有する」のに対し、甲12発明は、(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
(ア)[相違点4-3-1]について
甲第12号証には、フィラーについて、「本発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、塗膜の物理的強度等を上げるために、必要に応じて、フィラーを配合することができる。」(段落[0091])、「これらフィラーの配合率は、カルボキシル基含有樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは300質量部以下、より好ましくは0.1?300質量部、さらに好ましくは、0.1?150質量部の割合である。前記フィラーの配合率が、300質量部を超えた場合、組成物の粘度が高くなり印刷性が低下したり、硬化物が脆くなるので好ましくない。」(段落[0092])と記載されている。当該記載に基づけば、シリカ等のフィラーの含有量は、得られる塗膜の強度及び組成物の粘度が適切な値となるように、感光性樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1?150質量部の範囲内で適宜最適化し得るものである。
したがって、甲12発明のシリカの含有量を調整し、感光性樹脂(A)100質量部に対して、5.5?13.5質量部の範囲内の値とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
また、そのような範囲としたことにより、格別な効果の差異が生じるともいえない。

(イ)[相違点4-3-2]について
前記1(3)イに記載したとおり、塗料の流動性を調整するために添加する有機ベントナイトの配合量は、感光性樹脂組成物のその他の成分に応じて、所望の流動性が得られ、硬化物の特性を低下しない範囲において適宜最適化し得るものである。また、有機溶媒を「プロピレングリコールメチルエーテルアセテート」に変更したとしても、作用機序が大きく異なるとは考えがたい。
したがって、甲12発明において有機ベントナイトを含有させるにあたり、その配合量をカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して8.0質量部?18質量部程度とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、そのような範囲としたことにより、格別な効果の差異が生じるともいえない。

(4)請求項4
ア 対比
本件特許発明4と甲12発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点4-4]本件特許発明4は、「前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトの質量:前記(F)疎水性シリカの質量が、1.0:0.30?3.0の範囲である」のに対し、甲12発明は(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点4-4]について検討すると、前記1(4)イに記載したとおり、甲第8号証には、実施例3として、有機ベントナイト及びアエロジルR711を、1.0:1.0の割合で用いた例が記載されている。
そうすると、甲12発明においても、有機ベントナイトを含有させるにあたり、その添加量を「シリカ」と同程度とし、本件特許発明4の[相違点4-4]に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。


(5)請求項5
ア 対比
本件特許発明5と甲12発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点4-5]シリカが、本件特許発明5では、「アルキルシリル基で修飾されているシリカ」であるのに対し、甲12発明では、「アルキルシリル基で修飾されているシリカ」であるのかが明らかでない点。

イ 判断
上記[相違点4-5]について検討すると、前記3(5)イに記載したとおり、アルキルシリル基で修飾されている疎水性シリカは周知技術である。したがって、甲12発明のシリカとして、周知のアルキルシリル基で修飾されている疎水性シリカを採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

(6)請求項6
ア 対比
本件特許発明6と甲12発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点4-6]本件特許発明6は、「第4級アンモニウム塩が、ジステアリルジメチルアンモニウム塩である」のに対し、甲12発明は(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトを含有しない点。

イ 判断
上記[相違点4-6]について検討すると、甲第4号証には、「モンモリロナイトとしてはベントナイト,ヘクトライトなどが用いられ,有機化合物としてはオクタデシルアミンC_(18)H_(37)NH_(2),トリメチルオクタデシルアンモニウムクロリドC_(18)H_(37)N(CH_(3))_(3)・Cl,ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド(C_(18)H_(37))_(2)N(CH_(3))_(2)・Cl,トリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物などが用いられている。当社の有機ベントナイト製品であるオルベン(商品名)はトリメチルオクタデシルアンモニウム・ステアリン酸アミド複合物-ベントナイトであり,ナショナルレッド社のBentone 18,Bentone 34は,それぞれオクタデシルアミン-ベントナイト,ジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイトである。」(第5頁左欄第46行?同頁中欄第16行)と記載されており、「ジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイト」は、技術的にみて、ジステアリルジメチルアンモニウム塩で表面処理された有機ベントナイトであるといえる。
したがって、甲12発明において、甲第4号証に記載されたジメチルジオクタデシルアンモニウム-ベントナイトを採用し、本件特許発明6の上記[相違点4-6]に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(7)請求項7
ア 対比
本件特許発明7と甲12発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点4-7]本件特許発明7は、「感光性樹脂組成物の光硬化物」であるのに対し、甲12発明は「光硬化性熱硬化性樹脂組成物」である点。

イ 判断
上記[相違点4-7]について検討すると、甲第12号証には、光硬化性熱硬化性組成物からなる硬化物を有するプリント配線板(段落[0100]、[0101])が記載されており、回路パターン基板に、甲12発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を、全面印刷し、乾燥させ、露光し、現像して光硬化性樹脂組成物を硬化したこと(段落[0118]、[0119])も記載されている。当該記載に基づけば、甲12発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を露光して、光硬化物とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(8)請求項8
ア 対比
本件特許発明8と甲12発明とを対比すると、両者は、既に述べた相違点に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点4-8]本件特許発明7は、「感光性樹脂組成物の光硬化膜を有する配線板」であるのに対し、甲12発明は「光硬化性熱硬化性樹脂組成物」である点。

イ 判断
上記[相違点4-7]について検討すると、甲第12号証には、光硬化性熱硬化性組成物からなる硬化物を有するプリント配線板(段落[0100]、[0101])が記載されており、回路パターン基板に、甲12発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を、全面印刷し、乾燥させ、露光し、現像して光硬化性樹脂組成物を硬化したこと(段落[0118]、[0119])も記載されている。当該記載に基づけば、回路パターン基板上に印刷乾燥された甲12発明の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を露光して、光硬化膜を有する配線板とすることは、当業者が適宜なし得ることである。


第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1?8は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許発明1?8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能性エポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和モノカルボン酸との反応生成物であるラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂の水酸基に、多塩基酸又はその無水物が反応した化合物である多塩基酸変性ラジカル重合性不飽和モノカルボン酸化エポキシ樹脂のカルボキシル基に、ラジカル重合性不飽和基とエポキシ基とを有するグリシジル化合物が反応した反応生成物であるカルボキシル基含有感光性樹脂と、
(B)光重合開始剤と、
(C)反応性希釈剤と、
(D)エポキシ化合物と、
(E)下記一般式(I)
[化1]
[R^(1)R^(2)R^(3)R^(4)-N]^(+)X^(-) (I)
(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)は、それぞれ独立に、炭素数1?25の飽和脂肪族炭化水素基または炭素数2?25の不飽和脂肪族炭化水素基、Xは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されたハロゲンを表す。)
で表される第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトと、
(F)シラノール基を有するシリカの表面を疎水性化合物で疎水化処理した疎水性シリカと、
非反応性希釈剤として、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートと、
を含み、
前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して4.5質量部?20質量部含有するスプレー塗工用感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.0質量部?20質量部含有する請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(F)疎水性シリカが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して5.5質量部?13.5質量部含有し、前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトが、前記(A)成分のカルボキシル基含有感光性樹脂100質量部に対して8.0質量部?18質量部含有する請求項1または2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(E)成分の第4級アンモニウム塩で処理されたベントナイトの質量:前記(F)疎水性シリカの質量が、1.0:0.30?3.0の範囲である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(F)疎水性シリカが、アルキルシリル基で修飾されているシリカである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記第4級アンモニウム塩が、ジステアリルジメチルアンモニウム塩である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物の光硬化物。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物の光硬化膜を有する配線板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-08-21 
出願番号 特願2016-238750(P2016-238750)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (G03F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 塚田 剛士  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
神尾 寧
登録日 2018-11-09 
登録番号 特許第6431517号(P6431517)
権利者 株式会社タムラ製作所
発明の名称 感光性樹脂組成物  
代理人 上島 類  
代理人 住吉 秀一  
代理人 前川 純一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  
代理人 住吉 秀一  
代理人 前川 純一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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