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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
令和1行ケ10160 審決取消請求事件 判例 特許
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異議2021700592 審決 特許
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令和1行ケ10067 審決取消請求事件 判例 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1368992
異議申立番号 異議2020-700153  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-05 
確定日 2020-10-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6575963号発明「液状栄養組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6575963号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6575963号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第6575963号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成28年3月22日に出願され、令和1年8月30日にその特許権の設定登録がされ、令和1年9月18日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許について、令和2年3月5日に特許異議申立人金山愼一(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和2年5月28日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和2年8月3日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人は、令和2年9月3日受付の意見書を提出した。

第2 令和2年8月3日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について

1 請求の趣旨
本件訂正請求は、特許第6575963号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めることを、請求の趣旨とするものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。

・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記たんぱく質分解物の平均分子量が500?10,000であり」
と記載されているのを、
「前記たんばく質分解物の平均分子量が1,233?2,000であり」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?5も同様に訂正する。)。

訂正前の請求項2?5は、いずれも訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1?5〕に対して請求されたものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1?5に係る発明におけるたんぱく質分解物の平均分子量を「500?10,000」から、「1,233?2,000」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件特許明細書等の段落【0018】には、「本発明に係る液状栄養組成物に使用するたんぱく質分解物の平均分子量は、好ましくは500?10,000、より好ましくは500?2,000である。また、平均分子量の異なるたんぱく質分解物を組み合わせて使用してもよい。」という記載があり、同段落【0064】には、実施例1には、「以下に調合方法を記す。各原料の配合量は、表1に示す通りである。・・・大豆加水分解物(平均分子量1233、分子量範囲10000以下)を添加した。」という記載があるので、たんぱく質分解物の平均分子量を「1,233?2,000」とする訂正事項1は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(1)で説示したように、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明におけるたんぱく質分解物の平均分子量の範囲を訂正前よりも狭い範囲に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

4 本件訂正請求についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明

本件訂正請求により訂正された請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明5」といい、まとめて、「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維を含む栄養素が配合されてなる液状栄養組成物であって、
液状栄養組成物全量に対して1?5質量%のたんぱく質分解物を含み、
液状栄養組成物全量に対して0.5?1.5質量%のアルギン酸塩を含み、
前記たんぱく質分解物の平均分子量が1,233?2,000であり、
前記アルギン酸塩の25℃における粘度が、1質量%水溶液として20?200mPa・sであり、
熱量が0.5?1.0kcal/mLであり、25℃における粘度が10?100mPa・sであり、pHが6.0?7.5であり、
人工胃液20gと液状栄養組成物10gとを混和した場合の固形化物質量が5g以上である、液状栄養組成物。
【請求項2】
熱量が0.6?0.9kcal/mLである、請求項1に記載の液状栄養組成物。
【請求項3】
25℃における粘度が10?71mPa・sである、請求項1または2に記載の液状栄養組成物。
【請求項4】
前記アルギン酸塩の25℃における粘度が、1質量%水溶液として65?200mPa・sである、請求項1?3のいずれか1項に記載の液状栄養組成物。
【請求項5】
予め殺菌されてなるものである、請求項1?4のいずれか1項に記載の液状栄養組成物。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、当審が令和2年5月28日付けの取消理由通知において特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

[理由1]請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物(甲1)に記載された発明及び甲2?5に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到することができたものであるから、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである(当審合議体による注釈:取消理由通知の「7 [理由1]についてのまとめ」における「甲2?6」との記載は誤記であり、正しくは「甲2?5」である。)。
[理由2]請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
[理由3]請求項1?5に係る特許は、明細書の記載が不備のため、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 取消理由で引用した刊行物等及びその記載事項
(1)刊行物等
取消理由で引用した刊行物等は、次のとおりである。
・甲第1号証:国際公開第2011/074670号
・甲第2号証:株式会社キミカのウェブページ(https://www.kimica.jp/products/NaAlgin/)
・甲第3号証:国際公開第2014/203838号
・甲第4号証:米国特許第5821217号明細書
・甲第5号証:特表2016-531114号公報
(以下、甲第1号証?甲第5号証を、それぞれ甲1?甲5という。)

(2)各刊行物等の記載事項
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付した。以下同じ。)。

摘記(1-1)
「[請求項1] 水溶性食物繊維(a)と、
ヒトにおいて必要なミネラル分を含み、かつ中性領域において前記水溶性食物繊維のゲル化原因にならない金属化合物(b)と、
タンパク質(c)と、
乳化剤(d)と、を含有し、酸性領域において半固形化する液状食品組成物であって、
中性領域における前記液状食品組成物中に含まれる粒子の粒度分布に2つ以上のピークが存在する液状食品組成物。
・・・
[請求項25] さらに、油脂(e)が含有される請求項1?24のいずれかに記載の液状食品組成物。
・・・
[請求項28] さらに、栄養成分(f)が含有される請求項1?27のいずれかに記載の液状食品組成物。」

摘記(1-2)
「[0008] 上記のように、従来の液状食品のゲル化技術は、食品が薄まるなどで食品物性が変化したり、食品摂取時の使いやすさ、食品の保存中の安定性などの観点において不十分であり、より満足し得る液状食品組成物が求められていた。
本発明は、上記の点に鑑み、胃内にて半固形化する液状食品組成物において、水溶性食物繊維を予め配合した組成物であり、液状で簡便に摂取でき、調製中、流通中や保存中においても、その液状の物性が安定に維持され、かつ、経管摂取時にはチューブ内での詰まりの発生が少なく、チューブ通過性が良好であり、さらに経口摂取時には、「ザラつき感」が少なく、「ノドごし」が良好で飲みやすい液状食品組成物を提供せんとするものである。」

摘記(1-3)
「[0011] 以上にしてなる本発明に係る酸性で半固形化する液状食品組成物は、水溶性食物繊維が予め配合されていることから、摂取時にゲル化剤を加えるなどの手間が要らず、また液状であることから、簡便に摂取することができる。さらに、本発明の液状食品組成物は、調製中、流通中や長期間の保存中においてもその品質を安定に維持できることから、酸性にて半固形化する当該液状食品組成物を、実用的に供給することが可能である。また、例えば、カルシウムその他、ヒトにおいて必要なミネラル分や、大豆タンパク質などの植物性タンパク質を含有することで、栄養的に満足し得る成分配合でありながら、上記の効果を発揮する、これまでにない液状食品組成物を提供することができる。特に、組成物の調製中及び/又は保存中における凝集物の発生を抑制することが可能なため、経管摂取時にはチューブ内での詰まりの発生が少なく、チューブ通過性が良好であり、さらに経口摂取時には、「ザラつき感」が少なく、「ノドごし」が良好で飲みやすい液状食品組成物を提供することができる。」

摘記(1-4)
「[0014] 以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る液状食品組成物は、水溶性食物繊維(a)と、ヒトにおいて必要なミネラル分を含み、かつ中性領域において前記水溶性食物繊維のゲル化原因にならない金属化合物(b)と、タンパク質(c)と、乳化剤(d)と、を含有し、酸性領域において半固形化する液状食品組成物であって、中性領域における前記液状食品組成物中に含まれる粒子の粒度分布に2つ以上のピークが存在ことを特徴とする。
[0015] 本発明でいう前記「半固形化」とは、当該液状食品組成物の液状の物性が変化した状態であり、組成物中成分の不溶化、粘度の増加、ゾル化、ゲル化などを指すものであるが、摂取時の液状の物性が胃内の酸性により変化したものであれば、その状態は問わない。尚、半固形化は、後述する固形化率で表すこともできる。本発明において固形化率は特に限定されないが、45%以上であることが好ましい。固形化率が45%以上であると、液状食品組成物が胃内の酸性領域においてより良く半固形化し、胃食道逆流症、誤嚥性肺炎、下痢症、瘻孔からの漏れ等の防止効果や、空腹感の軽減や血糖値の急激な上昇の抑制効果等をより効果的に発揮することができる。」

摘記(1-5)
「[0019] 前記アルギン酸及び/又はアルギン酸塩の種類は、特に限定されるものではなく、医薬品添加物規格のものや食品添加物規格のものが使用できる。アルギン酸塩の種類も特に限定されるものではないが、特にナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が適している。また中性領域での流動性を低粘度に抑える観点からは、アルギン酸、アルギン酸塩の中でも1wt%水溶液(20℃)での粘度が、500cP以下のものが好ましく、300cP以下のものがより好ましく、100cP以下のものが更に好ましく、50cP以下のものが特に好ましい。また、本発明における、アルギン酸及び/又はアルギン酸塩(以降、まとめて「アルギン酸」と記載する場合もある。)などの水溶性食物繊維(a)の濃度は、液状食品組成物の酸性領域での半固形化をより促進する観点からは、水溶性食物繊維の種類や組成物の配合によってその適正量が変わるが、概ね、液状食品組成物中の0.3wt%以上、好ましくは0.5wt%以上、より好ましくは0.7wt%以上、さらに好ましくは1.0wt%以上がよい。0.3wt%より少ないと、酸性領域における液状食品組成物の半固形化が不十分となる場合がある。一方、アルギン酸などの水溶性食物繊維濃度の上限は、液状食品組成物中の5.0wt%以下が好ましく、より好ましくは2.5wt%以下、さらに好ましくは2.0wt%以下、最も好ましくは1.5wt%以下がよい。5.0wt%よりも多いと、液状食品組成物の粘性が増加するため、摂取時の簡便性が損なわれる場合がある。」

摘記(1-6)
「[0020] 本発明に係る液状食品組成物のpHは、摂取時や保存中において液状食品組成物のその液状の物性が損なわれない程度であれば、特に限定されるものではないが、概ね、pH5.5を越えるのが好ましく、より好ましくはpH6.0以上、さらに好ましくはpH6.5以上がよい。pH5.5以下では、組成物中の水溶性食物繊維が半固形化し、摂取時や保存中において液状食品組成物の液状の物性を維持できない場合がある。また、液状食品組成物のpHの上限についても、特に限定されるものではないが、概ね、pH10.0以下が好ましく、より好ましくはpH9.0以下、さらに好ましくはpH8.0以下がよい。pHが10.0を超えると、組成物中の水溶性食物繊維が分解する可能性があり、酸性領域における液状食品組成物の半固形化が不十分となる場合がある。・・・さらに、本発明でいう酸性領域とは、pH5.5以下、好ましくはpH4.5以下、より好ましくはpH3.5以下のことを言う。」

摘記(1-7)
「[0029] 本発明で使用するタンパク質(c)には特に限定はなく、大豆タンパク質、小麦タンパク質、えんどう豆タンパク質、米タンパク質などの植物性タンパク質及び/又はその加水分解物が挙げられ、これらを使用することができるが、中性領域において食物繊維のゲル化の原因になるものは除かれる。これらのタンパク質のうちでも、大豆タンパク質及び/又はその加水分解物が好ましい。これらのタンパク質を配合することより、調製中、流通中や保存中においても、液状食品組成物の液状の物性が安定に維持される。・・・タンパク質の添加量も特に規定されるものではなく、液状食品組成物の摂取者や投与者が栄養的に満足し得る量であることが好ましいが、0.3g/100ml以上、より好ましくは1.0g/100ml以上、さらに好ましくは2.0g/100ml以上、特に好ましくは4.0g/100ml以上である。一方、タンパク質添加量の上限は、概ね、10.0g/100ml以下、より好ましくは7.5g/100ml以下、特に好ましくは5.0g/100ml以下の範囲での配合が、液状食品組成物の安定性という本発明の特徴を引き出すために好適である。また、中性領域での流動性を確保する観点からは、蛋白質原料のCa含量が2.0%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることが更に好ましく、0.8%以下であることが特に好ましい。」

摘記(1-8)
「[0036] なお、上記以外の栄養成分(f)についても、摂取時や保存中に液状食品組成物がその液状の物性を損なわれないものであれば、いかなる原料を使用してもよく、液状食品組成物の摂取者が栄養的に満足し得る成分を適宜、配合することができる。例えば、炭水化物としては、澱粉、デキストリンおよびその加水分解物、ショ糖、麦芽糖、乳糖などの2糖類、ブドウ糖、果糖などの単糖類などがあり、これらを組み合わせて使用することもできる。また、ビタミン類としては、ビタミンA類、B類、C、D、E、Kや、葉酸、パントテン酸、ナイアシン、ビオチンなどがあり、これらを組み合わせて使用することもできる。・・・」

摘記(1-9)
「[0063] 本発明の液状食品組成物は、経口、経管などの従来の方法により摂取できる。・・・なお、液状食品組成物の粘度は、各摂取方法における摂取時の簡便性が損なわれない範囲であれば、特に限定されるものではないが、1000cP未満、好ましくは500cP以下、より好ましくは400cP以下、さらに好ましくは300cP以下、さらにより好ましくは200cP以下である。1000cP以上の粘度であれば、チューブ等を通過させることが難しくなり、摂取時の簡便性が損なわれる場合がある。また、液状食品組成物を経口摂取する場合は、ザラつき感、ノドごしの観点からは、組成物の粘度が170cP以下であった場合にトロミを感じるが飲みやすい、組成物の粘度が150cP以下、好ましくは135cP以下、より好ましくは100cP以下、さらに好ましくは85cP以下、最も好ましくは80cP以下である場合に、ノドごしが良く飲みやすい組成物となる傾向にある。」

摘記(1-10)
「[0067] <液状食品組成物の粘度の確認>
液状食品組成物の粘度の確認は、「B型粘度計(トキメック社製)」により測定した。詳しくは、内径60mmのガラス製容器に測定サンプルを投入し、液温度25℃、ロータNo.2、回転数60回転/分、保持時間30秒の条件で3回測定し、その平均値を測定値(粘度)とした。」

摘記(1-11)
「[0068] <液状食品組成物の酸性領域における半固形化確認および固形化率の算出>
液状食品組成物の酸性領域における半固形化の確認は、以下の方法で実施した。尚、固形化率の算出は、実施例3、4、比較例3?5、および後述の乳化剤の添加量依存性の評価において行った。
(1) 50ml容量のプラスチック製チューブに、37℃に保温した人工胃液(日本薬局方)20gを投入する。
(2) 25℃にて保存した液状食品組成物10gを人工胃液中に投入し、人工胃液と液状食品組成物を含むプラスチック製チューブの重量を測定(〔ろ過前チューブ重量〕とする)する。
(3) プラスチック製チューブは、「HL-2000 HybriLinker(UVPLaboratory Products社製)」により穏やかに攪拌する。詳しくは、チューブをチャンバー内の固定具に固定し、機器のMotor Controlつまみを“MIN”に設定のうえ、37℃の条件に2分30秒の条件で攪拌する。
(4) 固形物をナイロン製網(40メッシュ;(株)相互理化学硝子製作所製)上にて吸引ろ過し、液部分を除いた後に、ナイロン製網ごとペーパータオル等の上に置いて、2分間、余分な水分を除去し、ナイロン製網を含む固形物の重量を測定(〔ろ過後固形物重量〕とする)し、さらに、内溶液を払い出した後のプラスチック製チューブの重量を測定(〔ろ過後風袋重量〕とする)する。
(5) ナイロン製網上に残存した固形物を確認する。また、固形化率を、式(1)にて計算する。
[0069]




摘記(1-12)
「[0073] (参考例1)
400mlの蒸留水に2.5gのアルギン酸ナトリウム(キミカアルギンIL-2:(株)キミカ製)を添加し、0.5wt%のアルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。次に、1.15gの炭酸カルシウムと0.75gの炭酸マグネシウムを、アルギン酸ナトリウム水溶液に混合した。室温にまで冷却した後、蒸留水を加え、500mlとした。調製した液状食品組成物 200gをソフトバック(R1420H:(株)メイワパックス製)に充填し、オートクレーブ滅菌機により滅菌処理(121℃、20分)した。
本調製物は液状であり、pH9.9、粘度が10cPであった。また、酸性での半固形化を確認したところ、本調製物は人工胃液中にて半固形化し、ナイロン製網上に固形物が残存した。本調製物は1ヶ月の静置保存(25℃)後においても、そのpH、粘度に変化はなく、酸性での半固形化の度合いも変化しなかった。
このように、アルギン酸ナトリウム、中性領域にて難溶性のカルシウム化合物、マグネシウム化合物を基本成分として配合した液状食品組成物は、調製時及び保存後においてもその液状の物性に変化が無く、さらに酸性にて半固形化することが確認された。また、マグネシウム化合物を配合したことから、本調製物は栄養的にも満足し得る液状食品組成物であった。」

摘記(1-13)
「[0074] (実施例1)
表1に記載した組成に基づき、0.5wt%のアルギン酸ナトリウムを含有する液状食品組成物を調製した。
[0075] [表1]

[0076] 650mlの蒸留水に5gのアルギン酸ナトリウムを添加した。次に、デキストリン粉末と大豆タンパク質粉末(不二製油(株)製)を添加した。さらに、油脂(乳化剤含)を添加し、その後、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、その他のミネラル類、さらに、ビタミン類を順次、添加し、攪拌した。なお、その他のミネラル類には、亜鉛含有酵母、銅含有酵母、マンガン含有酵母、クロム含有酵母、セレン含有酵母、モリブデン含有酵母(ここまでのミネラル含有酵母:メディエンス(株)製)、クエン酸鉄ナトリウム(恵美須薬品化工(株)製)の混合物を使用した。その後、蒸留水を加え1000mlとし、マントン・ゴーリン型高圧乳化機(Rannie2000:APV社製)により均質化処理(1回目:20MPa、2回目:48MPa)した。調製した0.5wt%のアルギン酸ナトリウムを含有する液状食品組成物は、200gずつソフトバック(R1420H:(株)メイワパックス製)に充填し、オートクレーブ滅菌機により滅菌処理(121℃、20分)した。
本液状食品組成物は、均一な液状であり、固形物の発生や栄養成分の分離は認められなかった。また、本液状食品組成物は、pH6.7、粘度が110cPであり流動性を有していた。さらに、酸性での半固形化を確認したところ、本液状食品組成物は人工胃液中にて半固形化し、ナイロン製網上に固形物が残存した。本液状食品組成物のpH、粘度、固形物や成分分離の発生の程度を表1に示した。・・・」

摘記(1-14)
「[0079] (実施例2)
実施例1と同様の方法により、(1)アルギン酸ナトリウム無添加、(2)0.3wt%、(3)0.5wt%、(4)1.0wt%、(5)1.5wt% のアルギン酸ナトリウムを含有する液状食品組成物を調製した。なお、アルギン酸ナトリウムとして、(2)?(4)では「キミカアルギンIL-2:(株)キミカ製」、(5)では「キミカアルギンIL-1:(株)キミカ製」を使用し、タンパク質源に大豆タンパク質を使用した。
[0080] [表2]

[0081] 得られた食品組成物は、すべて液状であった。
また、酸性での半固形化を確認したところ、(1)アルギン酸ナトリウム無添加の組成物は、人工胃液と完全に混合し、ナイロン製網上に固形物は観察されなかった。(2)?(5)の各液状食品組成物は、人工胃液中にて半固形化し、ナイロン製網上に固形物が残存した。各液状組成物のpH、半固形化前の粘度、半固形化の程度を表2に示した。」

摘記(1-15)
「[0082] (実施例3)
表3に記載した組成に基づき、乳化剤としてリゾレシンを含有する液状食品組成物を下記の方法により調製した。
223mlの蒸留水に、3.6gのリゾレシチン(辻製油社製(製品名:SLP-ホワイトリゾ、HLB値:約12)及び36gの油脂(コーン油)を投入し、攪拌しながらマントン・ゴーリン型高圧乳化機(Rannie2000:APV社製)により均質化処理(20MPa)することで、260mlの乳化液を得た。
次に、蒸留水320mlに、先の乳化液173mlを投入した。適度な速度で攪拌しながら、蒸留水と乳化液を混合した後、7gのアルギン酸ナトリウムを添加した。次に、デキストリン粉末と大豆タンパク質(不二製油(株)製)を添加し、完全に溶解するまで添加した。その後、リン酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、その他のミネラル類、さらに、ビタミン類を順次添加し攪拌した。その後、蒸留水を加え700mlとし、マントン・ゴーリン型高圧乳化機により均質化処理(1回目:20MPa、2回目:48MPa)した。調製した液状食品組成物は、200gずつソフトバック(R1420H:(株)メイワパックス社製)に充填し、オートクレーブ滅菌機により滅菌処理(121℃、20分)した。
本液状食品組成物は、均一な液状であり、固形物の発生や栄養成分の分離は認められなかった。本液状食品組成物は、固形化率が51%、凝集物重量が0.01g、半固形化前の粘度が77cPであった。また、本液状食品組成物の粒度分布は、図2(a)に示すように2つのピークが存在し、粒子径3000nm以下の位置に小さい方のピークが存在した(粒子径259nm)。さらに超音波処理により、大きい方のピークの頻度が減少し、かつ、粒子径3000nm以下の位置に存在する小さい方のピークの頻度が増加した。超音波処理前後において増減する各ピークの頻度を前記した式((超音波処理後のピークの頻度)/(超音波処理前のピークの頻度)×100)にて評価すると、ピークの頻度が増加した小さい方のピークは、137%(=12.32%/8.999%×100)、ピークの頻度が減少した大きい方のピークは、40%(=2.188%/5.482%×100)であった。
また、本液状食品組成物の粒度分布を図2(b)に示すように縦軸を体積基準の通過分積算値(%)とする分布曲線により表した場合、粒度分布曲線における変曲点は3点存在し、(1)通過分積算値:15.79%、粒子径:226nm付近、(2)33.76%、877nm付近、(3)62.21%、5876nm付近にあった。さらに超音波処理により、変曲点(2)の通過分積算値は、前記超音波処理前に比べて前記超音波処理後に、29%増加し、超音波処理後の変曲点は(2’)62.92%、877nm付近であった。
また、本液状食品組成物を経口摂取した際には、ザラつき感が少なく、ノドごしが良く、飲みやすいものであった。・・・
[0088] [表3]


[0089] [表4]



イ 甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

摘記(2-1)
「高純度食品 医療品グレード
キミカアルギンIシリーズ
Viscosity(1% solution at 20℃)
IL-2 20?50mPa・s
・・・」(「商品一覧」の項)

ウ 甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

摘記(3-1)
「[請求項1] pH5.5?10.0では流動性を有し、且つpH5.5未満において増粘及び/又は固形化する液状食品組成物であって、アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上、二価金属塩、及び植物性タンパク質を含み、前記植物性タンパク質がSDS-PAGE電気泳動デンシトメトリー解析において、ピクセル強度頻度の積算値50%における相対移動度(Rf値)が0.6より大きい、液状食品組成物。・・・
[請求項7] 植物性タンパク質が大豆タンパク質である、請求項1?6のいずれか1項に記載の液状食品組成物。」

摘記(3-2)
「[0008] 本発明者らは、・・・植物性タンパク質を、水溶性食物繊維、ミネラル等を配合した液状食品組成物に添加することを検討した。しかしながら、胃食道逆流症、嘔吐、食道炎、肺炎、窒息、下痢等の発生に対しては、胃内条件下で形成されるゲル状物のゲル強度の向上によっては改善することができなかった。すなわち、上記問題の発生は胃内で固形化せずに残存する未固形物の存在が原因であり、そのような未固形分の低減が重要であること、つまり、胃内条件下において組成物が固形化する際の効率の向上が必要であるとの問題を見出した。
以上の問題等に鑑みて、本発明の目的は、簡便に摂取及びチューブを介した投与が可能であり、且つ、胃内の条件下における組成物の固形化率の向上により、胃食道逆流症、嘔吐、食道炎、肺炎、窒息、下痢等の防止、及び満腹感促進が可能な液状食品組成物を提供することにある。」

摘記(3-3)
「[0021] 本発明における液状食品組成物は、植物性タンパク質を含む。前記植物性タンパク質は、SDS-PAGE電気泳動パターンのデンシトメトリー解析より得られる「ピクセル強度頻度の積算値50%における相対移動度(Rf値)」が0.6より大きいものであれば、特に限定されないが、0.7以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。また、「ピクセル強度頻度の積算値50%における相対移動度(Rf値)」の上限は、下限がいずれの場合であっても、0.99以下が好ましく、0.95以下がより好ましく、0.90以下がさらに好ましい。前記相対移動度(Rf値)が0.6以下の場合、前記植物性タンパク質の分解が不十分であるため、液状食品組成物の酸性条件での形状変化の性質を十分に発揮できない場合がある。また、前記相対移動度(Rf値)が0.99より大きい場合は組成物の浸透圧が高くなり、下痢を誘発しやすくなる場合がある。・・・
[0022] 本発明の「相対移動度」(Rf値:Relative to front値)とは、電気泳動時における先行色素(ブロモフェノールブルー)の泳動距離を“1”とした場合における各バンドの相対的な移動距離を意味し、“1”に近い数値になる程、分子量が小さい。
[0023] 本発明の「ピクセル強度頻度の積算値50%」とは、電気泳動により分離された植物性タンパク質の構成分子の“分布の中央値”を意味する。よって、「ピクセル強度頻度の積算値50%におけるRf値」とは、前記植物性タンパク質の構成分子の“分布の中央値”に対応する相対移動度を意味し、積算値50%におけるRf値が“1”に近い数値になる程、前記植物性タンパク質の分解が進んでいることを意味する。
本発明における植物性タンパク質は、植物性タンパク質に含まれるグロブリンの含量が少ない方が好ましく、特に7Sグロブリン及び/又は11Sグロブリンの含量が少ない方がより好ましい。なお、7Sグロブリン及び11Sグロブリンの植物タンパク質中の含量及び液状食品組成物中の含量は、SDS-PAGE電気泳動パターンのデンシトメトリー解析より、測定することができる。」

摘記(3-4)
「[0029] 本発明における植物性タンパク質は分解処理されたものが好ましい。上記したような特定の分解度を有する植物性タンパク質を得るための方法は、特に限定されるものではなく、いずれの方法を利用しても良い。例えば、塩酸等の酸を使用した酸加水分解法、あるいはプロテアーゼ等の酵素を使用した酵素加水分解法等を挙げることができる。それらの方法の実施に際しての条件は、上記の分解度を有する植物性タンパク質を得ることができるものであれば、特に限定されるものではない。また、本発明の植物性タンパク質は上記の分解度を有するものであれば良く、必ずしも分解処理によって得られた植物性タンパク質である必要はない。例えば、大豆を例に挙げると、7Sグロブリン分子が欠失した品種、11Sグロブリン分子が欠失した品種(例えば、東山205号)等の大豆品種が知られており、それら品種の大豆より得た植物性タンパク質を利用した場合にも、本発明の効果を発揮することができる。」

エ 甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている(原文は英語であるため、当審合議体による訳文を示す。)。

摘記(4-1)
「経腸製剤:低脂肪で、タンパク質加水分解物を含有する」(発明の名称)

摘記(4-2)
「従って、本発明の目的は、忍容性を増加させ、肺の誤嚥の危険性を低減しつつ、重篤な病気の患者に高品質の栄養を提供する改良された経腸製剤を提供することである。
本発明の他の目的は、低脂肪であり、血液に対して高張性でない本発明の経腸製剤を投与することによって、重篤な病気の患者において、危険性又は肺吸引及び/又は胃腸機能不全を最小化する方法を提供することである。」(2欄15?23行)

摘記(4-3)
「タンパク質加水分解物は、好ましくは本質的に部分的に加水分解されており、実質的に一部分の可変的な鎖長のペプチド、例えば、中鎖又は短鎖のペプチド、例えば、ジペプチド及びトリペプチドを含む。しかし、約10%より少ないアミノ酸のフリー体しか含まず、より好ましくは約5%より少ないアミノ酸のフリー体しか含まない。」(2欄56?61行)

摘記(4-4)
「本明細書で使用される用語『タンパク質加水分解物』は、約10%より少ないアミノ酸のフリー体含まず、より好ましくは約5%より少ないアミノ酸のフリー体しか含まず、実質的に約40アミノ酸より短いペプチドからなり、5,000KDより小さい分子量のペプチドを50%より多く含み、より好ましくは5,000KDより小さい分子量のペプチドを90?95%より大奥含む、ペプチド調製物を言う。本発明に有用な、ある好ましいタンパク質加水分解物のペプチドの内訳が表2に示される。・・・
表2
本発明の経腸製剤に用いられるタンパク質加水分解物の典型的なタンパク質/ペプチドの分析
TSK-Gel G2000 SW_(x1)カラムを用いたペプチドのHPLC分析を用いた、キロダルトン(KD)の分子量プロファイルに基づく吸光度(単一アミノ酸のおおよその分子量が133である)
10,000?20,000 0.8%
5,000?10,000 2%
2,000?5,000 15%
1,000?2,000 23%
500?1,000 27%
<500 32%
ジペプチド及びトリペプチドは400KDより小さい範囲にある。」(5欄55?64行、6欄TABLE 2(表2))

オ 甲5の記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。

摘記(5-1)
「【請求項1】
タンパク質として乳タンパク質の加水分解物および発酵乳タンパク質、脂質としてオレイン酸を含有する油脂、ならびに乳リン脂質および/または大豆レシチン、糖質としてイソマルチュロースを含む、腫瘍患者に適した栄養組成物。・・・
【請求項5】
前記乳タンパク質の加水分解物が、分画分子量10,000の限外濾過膜で処理して得られる透過画分(パーミエイト)であることを特徴とする請求項4に記載の栄養組成物。」

摘記(5-2)
「【0008】
日本特開平10-203994において、牛乳、大豆、酵母由来の蛋白質の何れか1種又は2種以上に蛋白分解酵素を作用させて得られる分子量500-5,000のペプチドを有効成分とし、飲食品組成物や化粧料組成物に応用する発明が公開されている。」

摘記(5-3)
「【0027】
ペプチド結合の加水分解では、荷電基数および疎水性の増加、低分子量化、ならびに分子の立体配置の修飾をもたらす・・・。乳タンパク質の機能的な特性の変化は加水分解度に大きく依存する。
【0028】
例えば、ホエイタンパク質の機能性に共通して見られる最大の変化は溶解性の増加と粘度の低下である。ホエイタンパク質の加水分解度が高い場合、その加水分解物では、しばしば、加熱しても沈澱せず、pH が3.5?4.0において溶解性が高くなる。また、その加水分解物では、無処置(intact)のタンパク質よりも、はるかに粘度が低くなる。これらの差異は特に、タンパク質の濃度が高い場合に顕著である。その他の影響では、ゲル特性の変化、熱安定性の向上、乳化性および起泡安定性の低下などがある・・・。」

3 [理由1](特許法第29条第2項)についての当審の判断
(1)甲1に記載された発明
上記2(2)アのとおり、甲1には、水溶性食物繊維(a)と、ヒトにおいて必要なミネラル分を含み、かつ中性領域において前記水溶性食物繊維のゲル化原因にならない金属化合物(b)と、タンパク質(c)と、乳化剤(d)と、さらに、油脂(e)、栄養成分(f)とを含有する液状食品組成物(摘記(1-1))について記載され、その「実施例3」(摘記(1-15)の表3に記載された組成及び表4に記載された物性を有するもの)として、
「水溶性食物繊維であるアルギン酸ナトリウム1.0g、
ミネラル類である炭酸カルシウム0.19g、炭酸マグネシウム0.14g、リン酸塩0.3g、その他のミネラル類0.26g、
植物性たんぱく質である大豆タンパク質4.4g、
乳化剤であるリゾレシチン0.34g、
油脂であるコーン油3.4g、
糖質であるデキストリン12.0g、
ビタミン類であるビタミンプレミックス0.170g、
食物繊維1.2g、
蒸留水 残余を含有する、合計100mLの液状食品組成物であって、
半固形化前の粘度が77cP、
固形化率が51%である、
液状食品組成物。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明における「植物性たんぱく質である大豆タンパク質」、「油脂であるコーン油」、「糖質であるデキストリン」、「ビタミン類であるビタミンプレミックス」、「ミネラル類である炭酸カルシウム・・・、炭酸マグネシウム・・・、リン酸塩・・・、その他のミネラル類」及び「水溶性食物繊維であるアルギン酸ナトリウム・・・食物繊維」は、それぞれ、本件発明1における「たんぱく質」、「脂質」、「糖質」、「ビタミン」、「ミネラル」及び「食物繊維」に相当し、甲1発明における「液状食品組成物」は、「カルシウムその他、ヒトにおいて必要なミネラル分や、大豆タンパク質などの植物性タンパク質を含有することで、栄養的に満足し得る成分配合」(摘記(1-3))を有するものであるから、本件発明1の「栄養素が配合されてなる液状栄養組成物」に相当する。
また、甲1発明における「アルギン酸ナトリウム」は、本件発明1における「アルギン酸塩」に相当する。
そして、「半固形化前の粘度」及び「固形化率」は、それぞれ摘記(1-10)、摘記(1-11)の測定又は算出方法による数値である。
そうすると、両発明は、
「たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維を含む栄養素が配合されてなる液状栄養組成物であって、
アルギン酸塩を含む、
液状栄養組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1
本件発明1においては、「液状栄養組成物全量に対して1?5質量%のたんぱく質分解物を含」み、「前記たんぱく質分解物の平均分子量が1,233?2,000」であるのに対し、甲1発明においては、「大豆タンパク質4.4g」を含む点
・相違点2
本件発明1においては、アルギン酸塩の含有量が、「液状栄養組成物全量に対して0.5?1.5質量%」であるのに対し、甲1発明においては、液状食品組成物の「合計100mL」に対して「アルギン酸ナトリウム1.0g」である点
・相違点3
本件発明1においては、「アルギン酸塩の25℃における粘度が、1質量%水溶液として20?200mPa・s」であるのに対し、甲1発明においては、アルギン酸ナトリウムの粘度が特定されていない点
・相違点4
本件発明1においては、液状栄養組成物の「熱量が0.5?1.0kcal/mL」であるのに対し、甲1発明においては、熱量が特定されていない点
・相違点5
本件発明1においては、液状栄養組成物の「25℃における粘度が10?100mPa・s」であるのに対し、甲1発明においては、「半固形化前の粘度が77cP」である点
・相違点6
本件発明1においては、液状栄養組成物の「pHが6.0?7.5」であるのに対し、甲1発明においては、pHが特定されていない点
・相違点7
本件発明1においては、「人工胃液20gと液状栄養組成物10gとを混和した場合の固形化物質量が5g以上」であるのに対し、甲1発明においては、摘記(1-11)の測定及び算出方法による「固形化率が51%」である点

イ 判断
(ア)相違点1について
甲1発明は、甲1に記載されるように、「胃内にて半固形化する液状食品組成物」において、アルギン酸塩等の水溶性食物繊維を予め配合した組成物であり、「液状で簡便に摂取でき、調製中、流通中や保存中においても、その液状の物性が安定に維持され」、かつ、「経管摂取時」には「チューブ通過性が良好」であり、さらに経口摂取時には、「飲みやすい液状食品組成物」を得ることを目的とするものである(摘記(1-2))。
そして、甲1には、液状食品組成物に含まれる「タンパク質(c)」について、「植物性タンパク質及び/又はその加水分解物が挙げられ」、「大豆タンパク質及び/又はその加水分解物が好ましい」こと、その添加量は、栄養的な観点と、液状食品組成物の安定性の観点から、「1.0g/100ml以上」、「5.0g/100ml以下」が好ましいことが記載されており(摘記(1-7))、大豆タンパク質の加水分解物を含有することの示唆がある。
しかし、甲1には、大豆タンパク質の「加水分解物」の分子量範囲について具体的に記載ないし示唆するところはなく、大豆タンパク質の「加水分解物」を実際に配合した実施例も示されていない。
一方、甲3には、「植物性タンパク質を、水溶性食物繊維、ミネラル等を配合した液状食品組成物に添加することを検討した」ところ、「未固形分の低減が重要である」こと、つまり、「胃内条件下において組成物が固形化する際の効率の向上が必要である」という問題があったことが記載されている(摘記(3-2))。
そして、甲3には、上記問題を解決するために、大豆タンパク質等の植物性タンパク質の「ピクセル強度頻度の積算値50%における相対移動度(Rf値)」に着目したこと(摘記(3-1)、(3-3))、上記Rf値は、「“1”に近い数値になる程、分子量が小さい」ものであるところ、Rf値が0.6以下であると、「植物性タンパク質の分解が不十分であるため、液状食品組成物の酸性条件での形状変化の性質を十分に発揮できない場合」があり、Rf値が0.99より大きいと、「組成物の浸透圧が高くなり、下痢を誘発しやすくなる場合」があることが記載され、「植物性タンパク質は分解処理されたものが好ましい」ことも記載されている(摘記(3-3)、(3-4))。
つまり、甲3には、大豆タンパク質等の植物性タンパク質として、胃内条件(酸性条件)下において組成物が固形化する際の効率の向上と、浸透圧の抑制の観点から、一定の範囲の分子量を有するタンパク質分解物を用いることが好ましいことが記載されているといえる。
しかし、上記Rf値とするための具体化手段としては、植物性タンパク質に含まれる7Sグロブリン及び/又は11Sグロブリン等のグロブリンの含量が少ない方が好ましいことが示されているに過ぎず(摘記(3-3) 、(3-4))、上記タンパク質分解物の分子量の具体的な範囲についての記載ないし示唆はないから、甲1発明の「胃内にて半固形化する液状食品組成物」において、甲3の記載に基づき、植物性たんぱく質である大豆タンパク質に代えて、平均分子量が1,233?2000である大豆タンパク質の加水分解物を配合することを動機づけられるとはいえない。
次に、甲4には、低脂肪であり、血液に対して高張性でない経腸製剤に配合されるタンパク質加水分解物について記載されており(摘記(4-1)、(4-2))、該タンパク質加水分解物として、5,000KDより小さい分子量のペプチドを50%より多く含み、表2に示される500?10,000の分子量分布を有するタンパク質加水分解物が好ましいものとして記載されている(摘記(4-3)、(4-4))。また、甲5には、タンパク質として乳タンパク質の加水分解物等を含む腫瘍患者に適した栄養組成物において、上記乳タンパク質の加水分解物が、分画分子量10,000の限外濾過膜で処理して得られる透過画分(パーミエイト)であること(摘記(5-1))、牛乳、大豆、酵母由来の蛋白質の何れか1種又は2種以上に蛋白分解酵素を作用させて得られる分子量500-5,000のペプチドを有効成分とし、飲食品組成物や化粧料組成物に応用する発明が公開されていること(摘記(5-2))、タンパク質の加水分解によって、溶解性の増加と粘度の低下といった機能性の変化が見られること(摘記(5-3))が記載されている。
しかし、甲3に加え、甲4及び5を参照したとしても、甲1発明の「胃内にて半固形化する液状食品組成物」において、植物性たんぱく質である大豆タンパク質に代えて、平均分子量が1,233?2000である大豆タンパク質の加水分解物を配合することを動機づけられるとはいえない。
加えて、甲2には、「キミカアルギンIシリーズ」なる商品について記載されているに過ぎず(摘記(2-1))、たんぱく質分解物の平均分子量について記載ないし示唆するところはない。
そうすると、当業者は、甲1発明において、甲1?5の記載事項を参照しても、本件発明1における相違点1に係る構成を導き出すことはできない。

(イ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、[理由1]に関し、令和2年9月3日受付の意見書において、「甲第4号証の実施例1で用いられた「タンパク質加水分解物」の平均分子量は、下記の表2の組成に基づいて計算すると、『1,422.5』又は『1,313』である」から、「本件特許の請求項1において、『前記たんぱく質分解物の平均分子量が1,233?2,000であり』に訂正したとしても、当業者は、大豆タンパク質の加水分解による周知の効果を期待して、甲1発明に甲第4号証の『タンパク質加水分解物』を適用する程度のことは容易に成すことができ、相違点1は、当業者が適宜なし得ることである」と主張する。
しかし、甲4に、低脂肪であり、血液に対して高張性でない経腸製剤に配合されるタンパク質加水分解物として、摘記(4-4)の表2に示される分子量分布を示すタンパク質加水分解物の一例が記載されていたとしても、甲1の「胃内にて半固形化する液状食品組成物」において、大豆タンパク質に代えて、その加水分解物を配合するにあたり、「平均分子量が1,233?2000」であるものを採用することが当業者にとって周知技術であったとまではいえないから、当然に「平均分子量が1,233?2000」であるものを配合すると動機づけられるとはいえない。
そのため、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。

(ウ)小括
したがって、相違点2?7について検討するまでもなく、甲1発明及び甲1?5の記載事項に基づいて、相違点1において甲1発明と相違する本件発明1の構成を導き出すことを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(3)本件発明2?5について
上記第3のとおり、本件発明2は、本件発明1における「熱量」を、「0.6?0.9kcal/mL」に限定するものであり、本件発明3は、本件発明1又は2における「25℃における粘度」を、「10?71mPa・s」に限定するものであり、本件発明4は、本件発明1?3のいずれかにおける「アルギン酸塩の25℃における粘度」を、「1質量%水溶液として65?200mPa・s」に限定するものであり、本件発明5は、本件発明1?4のいずれかの液状栄養組成物を、「予め殺菌されてなるものである」と特定するものである。
そして、本件発明2?5と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも、上記(2)アに記載した相違点1?7で相違しているところ、相違点1の判断については、上記(2)イで説示したとおりである。
したがって、甲1発明及び甲1?5の記載事項に基づいて、相違点1において甲1発明と相違する本件発明2?5の構成を導き出すことを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(4)本件発明の効果について
本件発明の効果について検討すると、本件特許明細書等の実施例1?6及び比較例1?7の結果から、本件発明の液状栄養組成物は、経時的な固形分の沈殿を抑制することができ、低粘度で調製が可能であり、細いチューブを経管として用いる経管栄養法にも用いることができるという効果を奏するものであり、このような効果を、甲1発明及び甲1?5の記載事項から当業者が予測し得たとはいえない。

(5)[理由1]についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?5は、甲1発明及び甲1?5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、[理由1]は解消されたといえる。

4 [理由2](特許法第36条第6項第1号)についての当審の判断
(1)特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件発明が解決しようとする課題
本件特許明細書の記載(特に、【0010】)からみて、本件発明が解決しようとする課題は、「低粘度で調製が可能な、胃内部で半固形化(ゲル化)させる栄養組成物を提供すること」(以下、「本件発明の課題」という。)であると認められる。
そして、本件発明1?5においては、いずれも、当該課題を解決するための手段として、液状栄養組成物に、「平均分子量が1,233?2,000」である「たんぱく質分解物」及び「アルギン酸塩」を含むことが少なくとも特定されている。
そこで、発明の詳細な説明の記載から、当業者が本件特許出願時の技術常識に照らし、本件発明1?5により当該発明の課題を解決できると認識できるか否かについて、以下に検討する。

(3)検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、本件発明の「液状栄養組成物」及び該組成物に配合される「たんぱく質分解物」及び「アルギン酸塩」に関し、以下の記載がある(下線は、当審合議体が付した。)。

摘記ア
「【背景技術】
【0002】
経腸栄養は、経静脈栄養と比較して生理的に経口摂取に近く、消化管を正常に維持することができ、また合併症が少なく、安全に管理できる。咀嚼・嚥下機能の著しい低下や意識障害などによって、食物の経口摂取が困難な患者向けの重要な栄養投与法である。・・・
【0007】
ここで、液状またはとろみ状の栄養組成物を調製するにあたっては、増粘剤を使用して粘度を調整し、固形分の沈殿を防止することが試みられている。例えば、特許文献1には、胃内部で半固形化(ゲル化)させることを目的として液状または流体状(とろみ状)で投与される流動食に、カラギーナン等の増粘剤を添加する技術が開示されている。・・・
【0009】
しかしながら、経管栄養法を実施する際の経管としては、患者への負担を考慮して極力細い(例えば、8フレンチ程度の)チューブを用いることが求められるが、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載された技術によってもなお、投与される栄養組成物の粘度が高すぎて、自然落差を利用して栄養組成物を投与することができなくなるという問題もある。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、低粘度で調製が可能な、胃内部で半固形化(ゲル化)させる栄養組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。特に、全量に対して1?5質量%のたんぱく質分解物を含む液状栄養組成物を対象として、さらに粘度を低下させるために検討を重ねた。その結果、1質量%水溶液としての粘度(25℃)が20?200mPa・sであるアルギン酸塩を増粘剤として用いることにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成するに至った。・・・
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る液状栄養組成物によれば、経時的な固形分の沈殿を抑制することができる。また、低粘度で調製が可能であることから、細い(例えば、8フレンチ程度の)チューブを経管として用いる経管栄養法にも用いることが可能である。」

摘記イ
「【0017】
[たんぱく質(アミノ酸、ペプチドを含む)]
本発明に係る液状栄養組成物に使用するたんぱく質としては、従来、栄養組成物で利用されてきている公知の各種のもの(アミノ酸、ペプチド、植物性たんぱく質、動物性たんぱく質)のいずれも使用できる。ただし、本発明に係る液状栄養組成物は、たんぱく質としてたんぱく質分解物を必須に含む。ここで、たんぱく質分解物としては、動物性たんぱく質分解物もしくは植物性たんぱく質分解物、または動物性たんぱく質分解物もしくは植物性たんぱく質分解物の一部をカゼインナトリウムもしくはカゼインカルシウムに置き換えたものが用いられうる。・・・また、植物性たんぱく質分解物としては、大豆たんぱく質分解物、砂糖大根分解物等が挙げられる。これらの分解物は、常法により各たんぱく質を酵素または酸を用いて加水分解することにより、製造することができる。
【0018】
本発明に係る液状栄養組成物に使用するたんぱく質分解物の平均分子量は、好ましくは500?10,000、より好ましくは500?2,000である。また、平均分子量の異なるたんぱく質分解物を組み合わせて使用してもよい。なお、本発明において平均分子量とは、重量平均分子量を意味する。たんぱく質分解物の平均分子量が500より小さいと、アミノ酸に近くなって消化吸収性が低下し、風味が悪くなる傾向にある。また、たんぱく質分解物の平均分子量が10,000より大きいと、摂取後に消化を必要として残渣が多くなるばかりでなく、製造時に酸添加後や加熱殺菌後に栄養組成物は澄明とならず、場合によっては不溶性の凝集物や沈殿物を生じて液状でなくなるので経管投与の際にチューブ閉塞の原因となり、投与が困難となる場合がある。」

摘記ウ
「【0033】
[食物繊維]
本発明に係る液状栄養組成物は、食物繊維を含む。そして、当該食物繊維は、アルギン酸塩を必須に含み、さらに、当該アルギン酸塩の25℃における粘度は、1質量%水溶液として20?200mPa・sである点に特徴がある。なお、この粘度は、好ましくは20?150mPa・sである。なお、この粘度が20mPa・s未満であると、後述する比較例6に示すように、組成物全体の粘度を低減することはできるものの、組成物を胃内において十分に固形化させることができないという問題がある。一方、この粘度が200mPa・sを超えると、組成物全体の粘度が上昇してしまい、細いチューブを用いた場合に自然落差によって投与することができなくなってしまうという問題がある。・・・
【0036】
ここで、本発明に係る液状栄養組成物の粘度(25℃)は、特に制限されないが、通常は10?100mPa・sであり、好ましくは10?50mPa・sである。液状栄養組成物の粘度が10mPa・s以上であれば、市販で流通している液状栄養組成物と変わりなく操作できることから好ましい。一方、液状栄養組成物の粘度が100mPa・s以下であれば、細いチューブを用いた場合であっても自然落差によって投与することが可能であるという利点がある。」

摘記エ
「【0064】
(実施例1)
以下に調合方法を記す。各原料の配合量は、表1に示す通りである。8Lのステンレスビーカーに調合水2000gを計量し、湯浴にて70℃に加温した。次いで、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムを加え、十分に溶解させた後に、大豆加水分解物(平均分子量1233、分子量範囲10000以下)を添加した。レシチン、シュガーエステルを70℃で混合した分散液を混合した、さらに、糖質であるデキストリン、結晶セルロース、ポリデキストロースを添加した。当該溶液に混合した後、脂質である植物油、脂溶性ビタミンミックス(表2に示す。)、魚油を添加した。さらに、ビタミンとして、水溶性ビタミンミックス(表3に示す。)、アスコルビン酸、ミネラルとして、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、塩化カリウム、クエン酸鉄ナトリウム、グルコン酸亜鉛、グルコン酸銅、セレン酵母、モリブデン酵母、クロム酵母、およびマンガン酵母、アルギン酸ナトリウム(1質量%水溶液の粘度:65mPa・s)、香料を適宜添加して撹拌した。全量が6666gとなるまで水を添加し、均一な状態となるまで溶解分散させた。得られた溶液は、均質化及び連続殺菌し、1個当たり400mLとなるように口栓付きのバッグ容器に充填後、121℃で20分間の容器殺菌処理を行った。前記容器殺菌処理の後、冷却することで、アルギン酸ナトリウムの配合量1質量%、熱量0.75kcal/mLの液状栄養組成物を製造した。・・・
【表1】


【0067】
【表2】脂溶性ビタミンミックス・・・
【0068】
【表3】水溶性ビタミンミックス・・・
【0069】
得られた液状栄養組成物について、pH、粘度および固形化物質量を測定したところ、
pHは6.8であり、粘度は34mPa・sであり、固形化物質量は7.2gであった。
これらの結果を下記の表4に示す。・・・」

摘記オ
【0070】?【0094】には、実施例2?6、比較例1?7として、実施例1における「アルギン酸ナトリウム」の「配合量」又は「1質量%水溶液の粘度」を変更した液状栄養組成物が記載されており、以下の表4及び5には、実施例1?6及び比較例1?7の液状栄養組成物の粘度及び固形化質量を評価した結果が示されている。
「【表4】


【表5】



以上のとおり、発明の詳細な説明には、低粘度で調製が可能な、胃内部で半固形化(ゲル化)させる栄養組成物を提供することを目的とし、全量に対して1?5質量%のたんぱく質分解物を含む液状栄養組成物を対象として、さらに粘度を低下させるために検討を重ねた結果、1質量%水溶液としての粘度(25℃)が20?200mPa・sであるアルギン酸塩を増粘剤として用いることにより、上記課題が解決されうることを見出したこと(摘記ア)が記載されている。
そして、上記課題を解決するための手段の一つとして用いられている「たんぱく質分解物」に関しては、その平均分子量が「より好ましくは500?2,000」であること、たんぱく質分解物の平均分子量が500より小さいと、アミノ酸に近くなって消化吸収性が低下し、風味が悪くなる傾向にある。また、たんぱく質分解物の平均分子量が10,000より大きいと、摂取後に消化を必要として残渣が多くなるばかりでなく、製造時に酸添加後や加熱殺菌後に栄養組成物は澄明とならず、場合によっては不溶性の凝集物や沈殿物を生じて液状でなくなるので経管投与の際にチューブ閉塞の原因となり、投与が困難となる場合がある」ことが記載されている(摘記イ)。
さらに、実施例1?6には、いずれも大豆加水分解物(平均分子量1233、分子量範囲10000以下)を配合した液状栄養組成物及びその評価結果が記載され、所望の粘度及び固形化物質量を有する液状栄養組成物が得られたことが具体的に示されている(摘記エ、オ)。
そうすると、発明の詳細な説明には、「たんぱく質分解物」の平均分子量が、下限値の「1,233」である場合については具体的に課題が解決できるものとして示されており、「1,233」を超え、「2,000」までの範囲である場合については、より好ましい平均分子量の範囲として記載されているといえる。
また、たんぱく質が加水分解されて、分子量が低くなるほど、水溶解性が増加し、粘度が低下することは、本件特許出願時の技術常識であるので(例えば、第3の2(2)オにおける摘記(5-3)参照)、「たんぱく質分解物」の平均分子量が、「1,233」を超え、「2,000」までの範囲のものを用いた場合、当該範囲内において、たんぱく質分解物の水溶解性及び粘度が多少変動することが推認されるが、発明の詳細な説明の記載から、本件発明の液状栄養組成物は、「たんぱく質分解物」の平均分子量を特定することに加えて、「アルギン酸塩」の粘度及び配合量を適宜調節することによっても、液状栄養組成物の所定の粘度及び固形化質量を達成可能であることが理解できるから(摘記ウ?オ)、本件発明の課題を解決できるものと、当業者は認識することができるといえる。
したがって、「平均分子量が1,233?2,000」である「たんぱく質分解物」及び「アルギン酸塩」を含むことが少なくとも特定されている本件発明1?5については、当業者が本件特許出願時の技術常識に照らし、発明の詳細な説明の記載から、本件発明1?5により当該発明の課題を解決できると認識できるものであるといえる。
よって、本件発明1?5は、発明の詳細な説明に記載したものである。

(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、[理由2]に関し、令和2年9月3日受付の意見書において、「本件特許明細書において、本件発明の課題が解決されることを確かめた実施例で用いられたのは大豆加水分解物の平均分子量が1,233であるもののみ」であり、「平均分子量2,000の大豆加水分解物は、実施例の平均分子量1,233の大豆加水分解物に比べて、溶解性が低く、粘度が高いため、実施例と同様に、本件発明の課題である『流動性の維持』が達成されるかは、依然として、当業者には決して予測できない」と主張する。
しかし、上記(3)で説示したように、本件発明の栄養組成物において、「低粘度」及び「胃内部で半固形化(ゲル化)」の性質を左右する成分は、たんぱく質分解物だけではなく、アルギン酸塩の粘度及び配合量を適宜調節することによっても、液状栄養組成物の所望の粘度及び固形化質量を達成可能であることが理解できるから、「たんぱく質分解物の平均分子量」が上限値の「2,000」のものを用いた場合であっても、本件発明の課題を解決できるものと、当業者は認識することができるといえる。
そのため、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。

(5)[理由2]についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?5は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、[理由2]は解消されたといえる。

5 [理由3](特許法第36条第4項第1号)についての当審の判断
(1)本件特許の発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)に適合するためには、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、本件特許発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていることが必要である。
そして、この規定にいう「実施」とは、物の発明にあっては、その物を生産、使用する行為が含まれるから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明の記載は、その記載又は示唆及び本件特許出願時の技術常識に基づき、当業者が、その発明に係る物を、生産することができ、かつ、使用することができる程度のものでなければならない。

(2)検討
上記4の[理由2]において説示したように、発明の詳細な説明には、当業者が、「平均分子量が1,233?2,000」である「たんぱく質分解物」及び「アルギン酸塩」を含むことが少なくとも特定されている本件発明1?5の液状栄養組成物について、「たんぱく質分解物」の平均分子量の範囲全体にわたって、実施例における液状栄養組成物と同様に、本件発明1?5で特定されている範囲の粘度及び固形化物質量を有する組成物を生産でき、かつ、使用できるといえる程度に、明確かつ十分に記載されているということができる。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、[理由3]に関し、令和2年9月3日受付の意見書において、上記4(4)の[理由2]で述べたのと同様の主張をしているが、上記4(4)で説示したとおり、当該主張は採用することができない。

(4)[理由3]についてのまとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、[理由3]は解消されたといえる。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 申立の理由Iについて
(1)特許異議申立人は、特許異議申立書において、申立ての理由Iとして、以下の理由を主張している。

・申立ての理由I 特許法第29条第2項(進歩性)について
本件発明1?5は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1?6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができず、その特許は特許法113条2号の規定により、取り消されるべきである。

(2)検討
上記理由Iで引用された甲号証のうち、取消理由通知の[理由1]で引用しなかった甲第6号証(特開2001-245633号公報。以下、「甲6」という。)には、以下の事項が記載されている。

摘記(6-1)
「【請求項1】ソフトバックに収納され、たんぱく質および/またはその分解物、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、安定剤、乳化剤および水を主成分とする熱量2093?6579ジュール/ml(0.5?1.5kcal/ml)の濃厚流動食において、ソフトバックが底部に自立可能な形状を有し、底部に吊り下げ用の穴を有し、且つその底部に対向する上部に内口径が12?50mmのスパウトを有し、ソフトバックを構成する材料の少なくとも一層がアルミ蒸着フィルムであることを特徴とするソフトバック入り濃厚流動食。」

摘記(6-2)
「【0025】
・・・
実施例1
表1に示す各原料のうち、まず大豆油にコハク酸モノグリセリドを所定量加えて溶解させ、乳化剤溶液とした。次に別の容器に表1のその他の原料として、カゼインナトリウム、大豆たんぱく質分解物、デキストリン、ビタミンミックス、ミネラルミックス、クエン酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリドの所定量をかき混ぜながら溶解させた。この際の水の量は、所要量と考えられる量よりやや少な目とした。その中に先に製造した乳化剤溶液を加えて、更に水を追加し全量が1000Lの混合液とした・・・
【表1】



以上のとおり、甲6には、大豆たんぱく質分解物を含有するソフトバック入り濃厚流動食が記載されているものの(摘記(6-1)、(6-2))、上記大豆たんぱく質分解物の平均分子量について記載ないし示唆するところはない。
したがって、甲6の記載を参酌しても、上記[理由1]で説示したのと同様の理由により、本件発明1?5が、甲1発明及び甲1?6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立ての理由Iについてのまとめ
よって、甲6の記載を考慮したとしても、特許異議申立人の申立ての理由Iに示される特許法29条2項に規定する要件を満たしていないという取消理由は存在しない。

2 申立ての理由IIIについて
(1)特許異議申立人は、特許異議申立書において、申立ての理由IIIとして、以下の理由を主張している。

・申立ての理由III 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
本件発明1?5は、特許請求の範囲の記載が、特許を受ける発明が明確ではないため、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、その特許は特許法113条4号の規定により、取り消されるべきものである。

そして、特許異議申立人は、申立ての理由IIIについて、概略以下の主張をしている。
「本件発明1における『人工胃液20gと液状栄養組成物10gとを混和した場合の固形化物質量』は、明細書及び図面の記載、及び出願時の技術常識を考慮しても、技術的に十分に特定されていないことが明らかである。従って、本件発明1の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていない。
本件発明1及びそれに従属する本件発明2?5は、発明の範囲が明確でない。」
そこで、上記主張について検討する。

(2)検討
本件特許明細書には、本件発明1における「固形化物質量」の評価方法について、以下の記載がある。

「【0069】
・・・なお、各種の評価方法は以下の通りである。・・・
(3)固形化物質量:50mL遠沈管に人工胃液を20g、サンプル(液状栄養組成物)を10g投入し、遠沈管を10秒間手動で転倒混和(1回/1秒)させ、静置した。混合した遠沈管内の溶液を目開き150μm金属メッシュ上に出し、メッシュ上に固形化したサンプルが残存していることを確認した。次いで、水切りした後、メッシュ質量を測定した。そして、この測定値から予め測定したメッシュ質量を差し引いて、ろ過後の固形化物質量(g)を算出した。この値が大きいほど、胃内へ投与された際のゲル化量が多いことを意味し、実用上は5g以上であることが必要である。」

上記のとおり、本件特許明細書には、「固形化物質量」の評価方法が、当業者が再現可能な程度に明確に記載されている。
そして、本件発明1?5における「固形化物質量」以外の記載について検討しても、本件発明1?5において、不明確な記載があるとはいえない。
したがって、本件発明1?5は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものといえる。

(3) 特許異議申立人の主張について
上記(2)で摘示した評価方法に関し、特許異議申立人は、「遠沈管を10秒間手動で転倒混和(1回/1秒)」について、「混合液が多端にぶつかる瞬間に、穏やかに混合液を移動させるようにするか、あるいは激しくぶつかるようにするかの、明確には規定されていない手動条件の違いによって、得られる半固形化物の崩壊の程度が相違し、固形化物質量の数値が大きくブレる」と主張するが、「1回/1秒」で「遠沈管を10秒間手動で転倒混和」させる操作自体は明確であり、転倒時に、ことさらに「激しくぶつかるように」振盪するなどの必要性があるとも解されないから、「手動」操作であるという理由のみによって、評価方法が明確でないとはいえない。
また、特許異議申立人は、「崩壊の程度が変化して、形成された固形化物質量がブレることは、本件特許明細書の実施例3と比較例2を対比することでも理解される。」、すなわち、「比較例2は、アルギン酸ナトリウムの配合量が増えているため、粘度@25℃(mPa・s)・・が増加している。しかし、同様に増加するはずである固形化物質量は、・・・逆に低下している。 この固形化物質量の数値を見ても、固形化物質量の測定方法が、ブレが大きいことが理解される。」とも主張するが、粘度は液状栄養組成物自体の属性である一方、固形化物質量は胃内へ投与された際の酸性条件下におけるゲル化能に関連するもので(本件特許明細書の【0036】、【0054】、【0069】参照)、両者はそもそも性質が異なるから、本件特許明細書の実施例1?6及び比較例1?7(表4及び5)に示されるように、液状栄養組成物の粘度が増加すると、固形化物質量も線形的に増加するとは限らないので、「同様に増加するはずである」との上記主張には根拠がなく、実施例3と比較例2の記載が、固形化物質量のブレを表しているとは解されない。

(4) 申立ての理由IIIについてのまとめ
よって、特許異議申立人の申立ての理由IIIに示される特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないという取消理由は存在しない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正請求による訂正後の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に上記請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維を含む栄養素が配合されてなる液状栄養組成物であって、
液状栄養組成物全量に対して1?5質量%のたんぱく質分解物を含み、
液状栄養組成物全量に対して0.5?1.5質量%のアルギン酸塩を含み、
前記たんぱく質分解物の平均分子量が1,233?2,000であり、
前記アルギン酸塩の25℃における粘度が、1質量%水溶液として20?200mPa・sであり、
熱量が0.5?1.0kcal/mLであり、25℃における粘度が10?100mPa・sであり、pHが6.0?7.5であり、
人工胃液20gと液状栄養組成物10gとを混和した場合の固形化物質量が5g以上である、液状栄養組成物。
【請求項2】
熱量が0.6?0.9kcal/mLである、請求項1に記載の液状栄養組成物。
【請求項3】
25℃における粘度が10?71mPa・sである、請求項1または2に記載の液状栄養組成物。
【請求項4】
前記アルギン酸塩の25℃における粘度が、1質量%水溶液として65?200mPa・sである、請求項1?3のいずれか1項に記載の液状栄養組成物。
【請求項5】
予め殺菌されてなるものである、請求項1?4のいずれか1項に記載の液状栄養組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-10-13 
出願番号 特願2016-57426(P2016-57426)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡邉 潤也  
特許庁審判長 前田 佳与子
特許庁審判官 穴吹 智子
松本 直子
登録日 2019-08-30 
登録番号 特許第6575963号(P6575963)
権利者 株式会社カネカ テルモ株式会社
発明の名称 液状栄養組成物  
代理人 八田国際特許業務法人  
代理人 八田国際特許業務法人  
代理人 八田国際特許業務法人  

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