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審決分類 審判 全部申し立て 特39条先願  B66C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B66C
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  B66C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B66C
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  B66C
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B66C
管理番号 1368994
異議申立番号 異議2019-700996  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-05 
確定日 2020-10-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6531505号発明「伸縮ブームの取付構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6531505号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。 特許第6531505号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯
特許第6531505号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成27年6月11日に出願され、令和1年5月31日にその特許権の設定登録がされ、同年6月19日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年12月5日に特許異議申立人古河ユニック株式会社(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされるとともに、検証申出書が提出された。
当審は、上記検証申出書に係る検証物である古河機械金属株式会社佐倉工場製 型式:URA296RKと同一の検証物に係る特許第6286618号の特許異議申立事件(異議2018-700703号)の平成31年2月22日に行われた証拠調べの検証調書を根拠に上記検証申出書に係る検甲1発明を認定し、令和2年2月21日付けで取消理由を通知した。
特許権者は、その指定期間内である同年4月23日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。
当審は、同年6月19日付け(発送日同年6月26日)で、訂正請求があった旨を異議申立人に通知(特許法第120条の5第5項)し、異議申立人は、同年7月22日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和2年4月23日の訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
請求項1の
「作業機の伸縮ブームのベースブームの後部をブラケットによって保持するとともに、該ブラケットによって前記ベースブームを旋回ポストに対して起伏可能に取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記ブラケットは、前記ベースブームの後部の両側壁部に接合される一対の当接板部を有し、
この各当接板部は、前記旋回ポストの相対向した一対の保持部間に起伏可能に保持される基部片を有し、
この基部片におけるブラケットの幅に対して、この基部片以外のブラケットの幅を大きく設定したことを特徴とする伸縮ブームの取付構造。」との記載を
「作業機の伸縮ブームのベースブームの後部をブラケットによって保持するとともに、該ブラケットによって前記ベースブームを旋回ポストに対して起伏可能に取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記ブラケットは、前記ベースブームの後部の両側壁部に接合される一対の当接板部を有し、
この各当接板部は、前記旋回ポストの相対向した一対の保持部間に起伏可能に保持される基部片を有し、
この基部片におけるブラケットの幅に対して、この基部片以外のブラケットの幅を大きく設定し、
前記基部片と前記基部片以外の部分との境界は段部であることを特徴とする伸縮ブームの取付構造。」に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項2の
「前記各当接板部は、前記ベースブームの側壁部に当接される当接部と、この当接部の後部に設けられた前記基部片とを有し、
前記基部片と当接部との境界部におけるブラケットの幅を、その基部片から当接部へいくにしたがって徐々に広くなるように設定したことを特徴とする請求項1に記載の伸縮ブームの取付構造。」との記載を
「作業機の伸縮ブームのベースブームの後部をブラケットによって保持するとともに、該ブラケットによって前記ベースブームを旋回ポストに対して起伏可能に取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記ブラケットは、前記ベースブームの後部の両側壁部に接合される一対の当接板部を有し、
この各当接板部は、前記旋回ポストの相対向した一対の保持部間に起伏可能に保持される基部片を有し、
この基部片におけるブラケットの幅に対して、この基部片以外のブラケットの幅を大きく設定し、
前記各当接板部は、前記ベースブームの側壁部に当接される当接部と、この当接部の後部に設けられた前記基部片とを有し、
前記基部片と前記当接部との境界部におけるブラケットの幅を、その基部片から当接部へいくにしたがって徐々に広くなるように、前記当接板部は、前記基部片と前記当接部との間に2つの屈曲部を設定したことを特徴とする伸縮ブームの取付構造。」に訂正する。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項2は、訂正の対象である請求項1の記載を直接的に引用する関係にあって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1、2に対応する訂正後の請求項1、2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否等
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「基部片におけるブラケットの幅に対して、この基部片以外のブラケットの幅を大きく設定」することについて、「前記基部片と前記基部片以外の部分との境界は段部である」ことを特定しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、明細書の段落【0015】並びに図面【図2A】及び【図2B】に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項1は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、訂正後の請求項2を訂正後の請求項1を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項2は、訂正前の請求項2の「基部片から当接部へいくにしたがって徐々に広くなるように設定」する構成を「基部片から当接部へいくにしたがって徐々に広くなるように、前記当接板部は、前記基部片と前記当接部との間に2つの屈曲部を設定」する構成に特定するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものでもある。
そして、訂正事項2は、明細書の段落【0026】及び図面【図3】に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項2は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないので、許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(3)独立特許要件について
訂正前の請求項1及び2に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1及び2に関し、請求項1及び2については特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する、いわゆる独立特許要件は課されない。

(4)小括
したがって、本件訂正に係る訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
そして、特許権者は、訂正後の請求項2については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項(請求項1)とは別途訂正すること求めている。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正による訂正後の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
作業機の伸縮ブームのベースブームの後部をブラケットによって保持するとともに、該ブラケットによって前記ベースブームを旋回ポストに対して起伏可能に取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記ブラケットは、前記ベースブームの後部の両側壁部に接合される一対の当接板部を有し、
この各当接板部は、前記旋回ポストの相対向した一対の保持部間に起伏可能に保持される基部片を有し、
この基部片におけるブラケットの幅に対して、この基部片以外のブラケットの幅を大きく設定し、
前記基部片と前記基部片以外の部分との境界は段部であることを特徴とする伸縮ブームの取付構造。
【請求項2】
作業機の伸縮ブームのベースブームの後部をブラケットによって保持するとともに、該ブラケットによって前記ベースブームを旋回ポストに対して起伏可能に取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記ブラケットは、前記ベースブームの後部の両側壁部に接合される一対の当接板部を有し、
この各当接板部は、前記旋回ポストの相対向した一対の保持部間に起伏可能に保持される基部片を有し、
この基部片におけるブラケットの幅に対して、この基部片以外のブラケットの幅を大きく設定し、前記各当接板部は、前記ベースブームの側壁部に当接される当接部と、この当接部の後部に設けられた前記基部片とを有し、
前記基部片と前記当接部との境界部におけるブラケットの幅を、その基部片から当接部へいくにしたがって徐々に広くなるように、前記当接板部は、前記基部片と前記当接部との間に2つの屈曲部を設定したことを特徴とする伸縮ブームの取付構造。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
(1)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において公然実施をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができないから、本件特許は取り消すべきものである。

(2)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において公然実施をされた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は取り消すべきものである。

2 証拠方法
(1)証拠方法(検証物)
検甲第1号証:古河機械金属株式会社佐倉工場製。型式:URA296RK
(2)証拠方法(書証等)
甲第1号証:検甲第1号証を撮影した写真
甲第2号証の1:古河ユニック株式会社のトレーサビリティ・システムによる「製造番号:401555」に基づく検索結果の印刷物
甲第2号証の2:型式URA296RRK、製番N401555の納入指導報告書の写し
甲第4号証:異議2018-700703号における平成31年2月22日の検甲第1号証の検証調書の写し
甲第5号証:異議2018-700703号の異議の決定の謄本の写し

3 検甲第1号証の検証結果から認識できる構成・検甲1発明
検甲第1号証については、特許第6286618号の特許異議申立事件(異議2018-700703号)の平成31年2月22日の検証の結果、特に以下の点が明らかとなり、検証調書に記載されている。
なお、検甲第1号証の上下、前後、左右方向は、検甲第1号証のコラムから伸縮ブームを見たときに、コラム側を「後側」、フック側を「前側」とし、その前後方向に向いて右側を「右側」、左側を「左側」とした。
また、検甲第1号証は、コラムの旋回軸が鉛直方向にあるとし、伸縮ブームが水平状態にあるときを基本姿勢とする。基本姿勢における鉛直方向を「上下方向」とし、伸縮ブーム及びブーム三角板の上下は、伸縮ブームが水平状態にあるときの鉛直方向とした。
(1)コラムの右側、上端から下方62cmの位置にある銘板に、 「MODEL URA296」、 「SPEC. RK」、 「SERIAL NO. N401555」 「MFG DATE 1995.7.」とある。(写真1、写真2)
(2)旋回可能なコラムに伸縮ブームが起伏可能状態で取り付けられている。(写真3、写真4、写真5、写真6)
(3)伸縮ブームのコラムへの取り付けは、接続部材を介している。
接続部材は、右側の側面視で概ね三角形の板(以下、「ブーム三角板」という。)、左側の側面視で概ね三角形の板(同じく、以下、「ブーム三角板」という。)と、両三角板を接続する天板、下板、ボスとからなる。(写真7、写真8、写真9)
(4)コラムの左右一対の壁の上端(以下、「コラムフート部」という。)は、右側及び左側のブーム三角板の後側(コラム側)の下端を外側から、回動軸(以下、「ブームフートピン」という。)に回動自在に支持している。(写真7、写真8、写真10、写真11)
(5)右側のブーム三角板に、伸縮ブームの後側(コラム側)の右側の側面が、その下辺、上辺及び上辺から下辺にかけてブーム三角板の前側(フック側)の形状、及び、中央に形成された円孔に沿って、溶接されている。(写真7、写真9、写真12、写真13)
(6)右側のブーム三角板の表面に、伸縮ブームを伸縮させるシリンダの後端を支持するピン(以下、「テレシリンダ取付ピン」という。)の取り付け位置で上下方向に延びる溶接痕と、テレシリンダ取付ピンの取り付け位置からブームフートピンに延びる溶接痕とが観察できる。(写真14、写真15)
(7)左側のブーム三角板に、伸縮ブームの後側(コラム側)の左側の側面が、その下辺、上辺及び上辺から下辺にかけてブーム三角板の前側(フック側)の形状に沿って、溶接されている。(写真8、写真9、写真16)
(8)左側のブーム三角板の略長方形の開口部から、テレシリンダ取付ピンの取り付け位置の前後で板厚が段差状に変化している。開口部の縁を測定すると、テレシリンダ取付ピンの取り付け位置より前側で11.2mm、後側で8.1mmであった。
(9)左右それぞれのブーム三角板は、テレシリンダ取付ピンの後側、概ね86cm(8.6cmの誤記)の位置から、内側(伸縮ブームの中心線側)に傾斜し始め、傾斜領域を形成している。傾斜の始まる位置は、上下方向に直線状である。傾斜の始まる位置では、その前後方向を滑らかに繋ぎ、傾斜角度を徐々に変化させている。(写真20、写真21)
(10)一対のブーム三角板の間の幅(両三角板の外側間を測定)は、テレシリンダ取付ピンの上方の上辺の位置で概ね18.6cmで、傾斜の始まる位置まで概ね一定の幅であり、傾斜領域のブームフートピンの上方の上辺の位置で16.0cmである。一対のブーム三角板の間の幅は、傾斜領域で後方に向かって徐々に狭くなっている。(写真23、写真24、写真25、写真26、写真27、写真28)
(11)右側のブーム三角板の内側に、テレシリンダ取付ピンから下方に延びる溶接箇所、及び、テレシリンダ取付ピンから斜め下方に延びる溶接箇所があり、当該溶接箇所は上記(6)で確認した溶接痕(写真15の白テープを貼った位置)と一致している。

また、検証調書から、検甲第1号証について以下の事項が認められる。
(12)検甲第1号証に係る車輌搭載型クレーンの複数段(写真4及び5参照)の伸縮ブームのうち、コラム側(後側)の最も太いブームを「1段目のブーム」とすると、上記(5)から、伸縮ブームのうちの1段目のブームの後側が、接続部材に溶接によって取り付けられていることが理解できる。

したがって、本件特許の請求項1及び請求項2の記載振りに則って整理すると、検甲第1号証からは、次の発明(以下、「検甲1発明」という。)が認識できる。
[検甲1発明]
「車輌搭載型クレーンの伸縮ブームの1段目のブームの後側を接続部材に溶接によって取り付けられているとともに、該接続部材によって1段目のブームを旋回可能なコラムに対して起伏可能状態で取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記接続部材は、前記1段目のブームの後側の左右の側面に溶接される左右一対のブーム三角板を有し、
前記ブーム三角板の各々は、前記1段目のブームの左右の側面に溶接されるテレシリンダ取付ピンの位置より前側の領域を含む、テレシリンダ取付ピンの位置より後方概ね8.6cmの位置より前端側の領域と、この前端側の領域より後方の傾斜領域とを有し、前記傾斜領域と前記傾斜領域より前方の前記前端側の領域とは、その前後方向を滑らかに繋ぎ、傾斜角度を徐々に変化させた状態で接続され、
前記各ブーム三角板は、旋回可能なコラムの左右一対のコラムフート部間に、ブームフートピンに回動自在に支持される、前記傾斜領域におけるブームフートピン周辺の後端側の領域を有し、
前記各ブーム三角板の間の幅は、前端側の領域は概ね一定の幅であり、傾斜領域で後方に向かって徐々に狭くなっている、伸縮ブームの取付構造。」

4 書証から認識できる事項
甲第2号証の1及び甲第2号証の2から、「型式」が「URA296RRK」で「製造番号」又は「製番」が「N401555」の機体が丸善化成株式会社から有限会社大久保工業所に平成7年7月21日に譲渡されたことが確認できる。また、甲第2号証の1の「製造月日」の欄の「07 07 06」との記載から、譲渡された機体の製造年月日が平成7年7月6日であることが理解できる。なお、平成7年は西暦1995年である。

5 検甲1発明の公然実施性について
上述の甲第2号証の1及び甲第2号証の2から認識できる事項を踏まえると、銘板に「MODEL URA296」、「SPEC.RK」、「SERIAL NO.N401555」、「MFG DATE 1995.7.」と記載された検甲第1号証は、平成7年7月21日に有限会社大久保工業所に譲渡されたと認められ、また、この譲渡先が特段守秘義務を負っていたとも認められないことから、当該譲渡をもって、検甲第1号証は公然実施されたと認められる。
よって、検甲1発明は、本件特許の出願日(2015年6月11日)前に公然実施された発明である。

第5 当審の判断1 本件発明1について
本件発明1と検甲1発明とを対比すると、検甲1発明の「車輌搭載型クレーン」は、本件発明1の「作業機」に相当し、以下同様に、
「伸縮ブームの1段目のブーム」は「伸縮ブームのベースブーム」に、
「接続部材」は「ブラケット」に、
「後側を接続部材に溶接によって取り付けられている」ことは「後部をブラケットによって保持する」ことに、
「旋回可能なコラム」は「旋回ポスト」に、
「起伏可能状態で取り付ける」ことは「起伏可能に取り付ける」ことに、
「1段目のブームの後側の左右の側面に溶接される」ことは「ベースブームの後部の両側壁部に接合される」ことに、
「左右一対のブーム三角板」は「一対の当接板部」に、
「旋回可能なコラムの左右一対のコラムフート部」は「旋回ポストの相対向した一対の保持部」に、
「ブームフートピンに回動自在に支持される」ことは「起伏可能に保持される」ことに、
「傾斜領域におけるブームフートピン周辺の後端側の領域」は「基部片」に、それぞれ相当する。

また、検証調書の上記第4 3(3)に示された接続部材の構造、上記第4 3(10)の「一対のブーム三角板の間の幅(両三角板の外側間を測定)」との記載並びに写真23、24、26及び27に示す測定時のノギスのジョーの位置が明示された画像からみて、一対の三角板の間の幅は、接続部材の幅ということができるから、検甲1発明の「各ブーム三角板の間の幅」は、本件発明1の「ブラケットの幅」に相当する。

そして、検甲1発明においては、「各ブーム三角板の間の幅は、前端側の領域は概ね一定の幅であり、傾斜領域で後方に向かって徐々に狭くなっている」ので、「傾斜領域」における「後端側の領域」は、それ以外の領域、すなわち、それより前方の領域より、各ブーム三角板の間の幅が狭くなっており、本件発明1の「この基部片におけるブラケットの幅に対して、この基部片以外のブラケットの幅を大きく設定した」構成を備えている。

したがって、本件発明1と検甲1発明とは
「作業機の伸縮ブームのベースブームの後部をブラケットによって保持するとともに、該ブラケットによって前記ベースブームを旋回ポストに対して起伏可能に取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記ブラケットは、前記ベースブームの後部の両側壁部に接合される一対の当接板部を有し、
この各当接板部は、前記旋回ポストの相対向した一対の保持部間に起伏可能に保持される基部片を有し、
この基部片におけるブラケットの幅に対して、この基部片以外のブラケットの幅を大きく設定した伸縮ブームの取付構造。」
の点で一致し、以下の相違点1で相違する。

[相違点1]
本件発明1は「前記基部片と前記基部片以外の部分との境界は段部である」のに対し、検甲1発明は「前記傾斜領域と前記傾斜領域より前方の前記前端側の領域とは、その前後方向を滑らかに繋ぎ、傾斜角度を徐々に変化させた状態で接続され」た点。

以下、相違点1について検討する。

本件発明1の「前記基部片と前記基部片以外の部分との境界は段部である」構成は、その記載から、基部片と基部片以外の部分との境界が段部になっていることが明確に理解できる。また、本件特許の明細書の段落【0015】の記載と【図2A】及び【図2B】とを参照しても、基部片132と溶接領域部131(基部片以外の部分)との境界が段部133になっていると理解でき、本件発明1の記載による解釈と整合している。
これに対し、検甲1発明の、傾斜領域とそれより前方の前端側の領域とが「その前後方向を滑らかに繋ぎ、傾斜角度を徐々に変化させた状態で接続され」た構成にあっては、境界が段部とならないことは明らかである。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は検甲1発明と同一であるとはいえないから、本件発明1は特許法第29条第1項第2号に該当しない。

そして、検甲1発明の、傾斜領域とそれより前方の前端側の領域の、「その前後方向を滑らかに繋ぎ、傾斜角度を徐々に変化させた状態で接続され」る構成を、「段部」に変更することが容易であることの証拠や合理的な理由はなく、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、検甲1発明に基いて当業者が容易になし得たこととは認められない。
また、本件特許の明細書の段落【0023】の「しかも、幅W2を従来の幅と同一に設定することにより、旋回ポスト20を変更せずに既存のものが使用することができ、さらに、既存の起伏用の軸部材150を使用することができる。」との記載から、上記相違点1に係る本件発明1の構成により、軸部材150に限らず、例えば軸部材150を摺動させる穴の構造や軸部材150を固定する部品といった、一対の保持部間に基部片を「起伏可能に保持」するための構成の多くについて「既存のものが使用できる」という効果が奏されることは、当業者であれば理解し得ることであるが、本件発明1の奏する当該効果は、検甲1発明から予測可能なものとはいえない。
そうであれば、本件発明1は、検甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、その特許は特許法第29条第2項に違反してされたものではない。

2 本件発明2について
本件発明2と検甲1発明とを対比すると、検甲1発明の「車輌搭載型クレーン」は、本件発明2の「作業機」に相当し、以下同様に、
「伸縮ブームの1段目のブーム」は「伸縮ブームのベースブーム」に、
「接続部材」は「ブラケット」に、
「後側を接続部材に溶接によって取り付けられている」ことは「後部をブラケットによって保持する」ことに、
「旋回可能なコラム」は「旋回ポスト」に、
「起伏可能状態で取り付ける」ことは「起伏可能に取り付ける」ことに、
「1段目のブームの後側の左右の側面に溶接される」ことは「ベースブームの後部の両側壁部に接合される」ことに、
「左右一対のブーム三角板」は「一対の当接板部」に、
「旋回可能なコラムの左右一対のコラムフート部」は「旋回ポストの相対向した一対の保持部」に、
「ブームフートピンに回動自在に支持される」ことは「起伏可能に保持される」ことに、
「傾斜領域におけるブームフートピン周辺の後端側の領域」は「基部片」に、それぞれ相当する。

また、上記1で検討したと同様の理由で、検甲1発明の「各ブーム三角板の間の幅」は、本件発明2の「ブラケットの幅」に相当し、検甲1発明の「各ブーム三角板の間の幅は、前端側の領域は概ね一定の幅であり、傾斜領域で後方に向かって徐々に狭くなっている」構成は、本件発明2の「この基部片におけるブラケットの幅に対して、この基部片以外のブラケットの幅を大きく設定した」構成に相当する。

そしてまた、検甲1発明の「前記1段目のブームの左右の側面に溶接されるテレシリンダ取付ピンの位置より前側の領域」は、本件発明2の「前記ベースブームの側壁部に当接される当接部」に相当する。

そして、検甲1発明の「前記1段目のブームの左右の側面に溶接されるテレシリンダ取付ピンの位置より前側の領域」を含む「前端側の領域より後方の傾斜領域」における「後端側の領域」は、上記のとおり、本件発明2の「基部片」に相当するので、検甲1発明の「前記ブーム三角板の各々は、前記1段目のブームの左右の側面に溶接されるテレシリンダ取付ピンの位置より前側の領域を含む、テレシリンダ取付ピンの位置より後方概ね8.6cmの位置より前端側の領域と、この前端側の領域より後方の傾斜領域とを有」する構成は、本件発明2の「前記各当接板部は、前記ベースブームの側壁部に当接される当接部と、この当接部の後部に設けられた前記基部片とを有」する構成に相当する。

したがって、本件発明2と検甲1発明とは、
「作業機の伸縮ブームのベースブームの後部をブラケットによって保持するとともに、該ブラケットによって前記ベースブームを旋回ポストに対して起伏可能に取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記ブラケットは、前記ベースブームの後部の両側壁部に接合される一対の当接板部を有し、
この各当接板部は、前記旋回ポストの相対向した一対の保持部間に起伏可能に保持される基部片を有し、
この基部片におけるブラケットの幅に対して、この基部片以外のブラケットの幅を大きく設定し、前記各当接板部は、前記ベースブームの側壁部に当接される当接部と、この当接部の後部に設けられた前記基部片とを有した伸縮ブームの取付構造。」
の点で一致し、以下の相違点2で相違する。

[相違点2]
本件発明2は「前記基部片と前記当接部との境界部におけるブラケットの幅を、その基部片から当接部へいくにしたがって徐々に広くなるように、前記当接板部は、前記基部片と前記当接部との間に2つの屈曲部を設定した」のに対し、検甲1発明は「前記傾斜領域と前記傾斜領域より前方の前記前端側の領域とは、その前後方向を滑らかに繋ぎ、傾斜角度を徐々に変化させた状態で接続され」た点。

以下、相違点2について検討する。

本件発明2の「前記基部片と前記当接部との境界部におけるブラケットの幅を、その基部片から当接部へいくにしたがって徐々に広くなるように、前記当接板部は、前記基部片と前記当接部との間に2つの屈曲部を設定した」構成は、検甲1発明の、傾斜領域とそれより前方の前端側の領域とが「その前後方向を滑らかに繋ぎ、傾斜角度を徐々に変化させた状態で接続され」た構成と異なることは明らかである。
したがって、上記相違点2は実質的な相違点であり、本件発明2は検甲1発明と同一であるとはいえないから、本件発明2は特許法第29条第1項第2号に該当しない。

そして、検甲1発明の、傾斜領域とそれより前方の前端側の領域の、「その前後方向を滑らかに繋ぎ、傾斜角度を徐々に変化させた状態で接続され」る構成が、本件発明2の「2つの屈曲部」のうちの1つに相当するとしても、更に1つの屈曲部を設けて「2つの屈曲部」を備える構成に変更することが容易であることの証拠や合理的な理由はなく、上記相違点2に係る本件発明2の構成とすることは、検甲1発明に基いて当業者が容易になし得たこととは認められない。
また、上記相違点2に係る本件発明2の構成により、上記1で検討したと同様に、一対の保持部間に基部片を「起伏可能に保持」するための構成の多くについて「既存のものが使用できる」という効果に加え、「段部133を無くすことにより、段部133に発生する応力集中を無くすることができる」(本件特許の明細書の段落【0027】)という効果が奏されることは、当業者であれば理解し得ることであるが、本件発明2の奏する当該効果は、検甲1発明から予測可能なものとはいえない。
そうであれば、本件発明2は、検甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項に違反して特許されたものではない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由等について
1 特許法第29条第1項第1号について
検甲1発明が本件特許の出願日(2015年6月11日)前に公然実施された後に、公然知られ得る状態にあったとしても上記第5 1及び2で検討したとおり、本件発明1及び2は検甲1発明と同一であるとはいえないので、特許法第29条第1項第1号に該当しない。

2 特許法第39条第2項について
異議申立人は、本件発明1は、特許第6286618号の請求項1に係る発明と同一の発明である旨主張している。(特許異議申立書19頁16行?20頁6行及び20頁23行?21頁8行、令和2年7月22日の意見書1頁下から2行?5頁11行参照。)
しかしながら、特許第6286618号の請求項1に係る発明(以下、「他の特許発明」という。)は、「前記第1所定領域と前記第1所定領域以外の領域とは、段部を介して接続され」ており、「前記一対の当接板部は、前記第1所定領域において、前記旋回ポストの保持部間に回転可能に取り付けられる第1軸部を有し、」という構成を備えており、第1所定領域の一部が第1軸部となる構成を有している。
これに対し、本件発明1は、「前記基部片と前記基部片以外の部分との境界が段部」であるという構成を有し、段部を境とする点から、本件発明1の「基部片」が他の特許発明の「第1所定領域」に相当すると認められるものの、本件発明1は、他の特許発明の「第1軸部」に相当する構成を有するものとは特定されていない点で相違する。
そうであれば、本件発明1と他の特許発明とは、同一の発明ではない。
したがって、本件発明1は、特許法第39条第2項に違反して特許されたものではない。
(「特許・実用新案 審査基準」第III部 特許要件 第4章 先願「3.2.2 他の出願が同日出願である場合」を参照。)

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機の伸縮ブームのベースブームの後部をブラケットによって保持するとともに、該ブラケットによって前記ベースブームを旋回ポストに対して起伏可能に取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記ブラケットは、前記ベースブームの後部の両側壁部に接合される一対の当接板部を有し、
この各当接板部は、前記旋回ポストの相対向した一対の保持部間に起伏可能に保持される基部片を有し、
この基部片におけるブラケットの幅に対して、この基部片以外のブラケットの幅を大きく設定し、
前記基部片と前記基部片以外の部分との境界は段部であることを特徴とする伸縮ブームの取付構造。
【請求項2】
作業機の伸縮ブームのベースブームの後部をブラケットによって保持するとともに、該ブラケットによって前記ベースブームを旋回ポストに対して起伏可能に取り付ける伸縮ブームの取付構造であって、
前記ブラケットは、前記ベースブームの後部の両側壁部に接合される一対の当接板部を有し、
この各当接板部は、前記旋回ポストの相対向した一対の保持部間に起伏可能に保持される基部片を有し、
この基部片におけるブラケットの幅に対して、この基部片以外のブラケットの幅を大きく設定し、
前記各当接板部は、前記ベースブームの側壁部に当接される当接部と、この当接部の後部に設けられた前記基部片とを有し、
前記基部片と前記当接部との境界部におけるブラケットの幅を、その基部片から当接部へいくにしたがって徐々に広くなるように、前記当接板部は、前記基部片と前記当接部との間に2つの屈曲部を設定したことを特徴とする伸縮ブームの取付構造。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-10-09 
出願番号 特願2015-118617(P2015-118617)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B66C)
P 1 651・ 857- YAA (B66C)
P 1 651・ 841- YAA (B66C)
P 1 651・ 4- YAA (B66C)
P 1 651・ 113- YAA (B66C)
P 1 651・ 851- YAA (B66C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三宅 達  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
尾崎 和寛
登録日 2019-05-31 
登録番号 特許第6531505号(P6531505)
権利者 株式会社タダノ
発明の名称 伸縮ブームの取付構造  
代理人 森 哲也  
代理人 弁護士法人クレオ国際法律特許事務所  
代理人 廣瀬 一  
代理人 弁護士法人クレオ国際法律特許事務所  
代理人 田中 秀▲てつ▼  

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