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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 発明同一  H01M
管理番号 1368997
異議申立番号 異議2019-701032  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-18 
確定日 2020-10-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6533734号発明「リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6533734号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6533734号の請求項2及び3に係る特許についての本件特許異議の申立てを却下する。 特許第6533734号の請求項1及び4?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6533734号(請求項の数6。以下,「本件特許」という。)は,平成27年10月29日を出願日とする特許出願(特願2015-213392号)に係るものであって,令和1年5月31日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和1年6月19日である。)。
その後,令和1年12月18日に,本件特許の請求項1?6に係る特許に対して,特許異議申立人である金澤毅(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。

令和1年12月18日 特許異議申立書
令和2年 2月21日付け 取消理由通知書
4月27日 意見書,訂正請求書
6月15日付け 手続補正指令書(方式)(訂正請求書について)
7月 6日受付 手続補正書(訂正請求書について)
7月20日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
8月24日 意見書(申立人)

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和2年7月6日受付の手続補正書により補正された,同年4月27日提出の訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の明細書及び特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?6について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,「Li,Ni,Co,Mn及びWを含有する第1の複合酸化物の粒子表面に,Liと,AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在するリチウムイオン電池用正極活物質。」と記載されているのを,「Li,Ni,Co,Mn及びWを含有する第1の複合酸化物の粒子表面に,Liと,AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在し,組成式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)W_(e)M1_(f)O_(2)(前記式において,M1はAlまたはNbであり,1.0≦a≦1.05,0.4≦b≦0.9,0.05≦c≦0.3,0.03≦d≦0.4,0<e≦0.005,0<f/(b+c+d+e)≦0.01)で表されるリチウムイオン電池用正極活物質。」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に,「請求項1?3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。」と記載されているのを,「請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。」と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に,「請求項1?4のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質」と記載されているのを,「請求項1または4に記載のリチウムイオン電池用正極活物質」と訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0056】に「一方,Wは被覆層やコアとなる第1の複合酸化物の組織にて検出できなかった。XPSでのエッチングによる深さ分析でも同様な結果となった。」と記載されているのを,「一方,Wは被覆層にて検出できなかった。XPSでのエッチングによる深さ分析でも同様な結果となった。」と訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0056】に「一方,Wは被覆層やコアとなる第1の複合酸化物にて検出できなかった。」と記載されているのを,「一方,Wは被覆層にて検出できなかった。」と訂正する。

(8)一群の請求項について
訂正前の請求項1?6について,請求項2?6は,請求項1を直接又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1?6は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。
また,上記の訂正事項6及び7に係る訂正は,明細書を訂正するものであるが,いずれも一群の請求項である訂正前の請求項1?6に関係する訂正である。そして,本件訂正は,明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われている。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1に対して,「組成式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)W_(e)M1_(f)O_(2)(前記式において,M1はAlまたはNbであり,1.0≦a≦1.05,0.4≦b≦0.9,0.05≦c≦0.3,0.03≦d≦0.4,0<e≦0.005,0<f/(b+c+d+e)≦0.01)で表される」との記載を追加するものである。
この訂正は,訂正前の請求項1における「リチウムイオン電池用正極活物質」について,その組成を上記組成式で表されるものに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲には,「組成式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)W_(e)M1_(f)O_(2)(前記式において,M1はAlまたはNbであり,1.0≦a≦1.05,0.4≦b≦0.9,0.05≦c≦0.3,0.03≦d≦0.4,0<e≦0.005,0<f/(b+c+d+e)≦0.01)で表される請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。」(請求項2)との記載があるから,この訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3に係る訂正は,それぞれ,訂正前の請求項2及び3を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(3)訂正事項4及び5について
訂正事項4に係る訂正は,訂正前の請求項4における引用請求項について,「請求項1?3のいずれか一項」を「請求項1」に訂正するものである。
訂正事項5に係る訂正は,訂正前の請求項5における引用請求項について,「請求項1?4のいずれか一項」を「請求項1または4」に訂正するものである。
これらの訂正は,いずれも,上記の訂正事項2及び3による請求項の削除に合わせて,引用請求項の一部を削除するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(4)訂正事項6及び7について
ア 訂正の内容について
訂正事項6に係る訂正は,訂正前の明細書(以下,「訂正前明細書」という。)の【0056】について,「一方,Wは被覆層やコアとなる第1の複合酸化物の組織にて検出できなかった。XPSでのエッチングによる深さ分析でも同様な結果となった。」との記載から,下線部の記載を削除するものである。
訂正事項7に係る訂正は,訂正前明細書の【0056】について,「一方,Wは被覆層やコアとなる第1の複合酸化物にて検出できなかった。」との記載から,下線部の記載を削除するものである。

イ 訂正の目的について
(ア)訂正前の請求項1に係る発明(以下,「訂正前発明1」という。)は,「Li,Ni,Co,Mn及びWを含有する第1の複合酸化物の粒子表面に,Liと,AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在するリチウムイオン電池用正極活物質。」というものである。
そして,訂正前明細書には,上記正極活物質について,以下の記載がある(「・・・」は,記載の省略を意味する。以下,同様。)。
「本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は,表面修飾されるコアとなる第1の複合酸化物が,Wを含有する。・・・本発明では,第1の複合酸化物においてNiの一部をWで置換している・・・」(【0020】),
「また,本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は,表面修飾されるコアとなる第1の複合酸化物を・・・イオン導電性のあるLiと,AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物で修飾する・・・」(【0021】)
また,訂正前明細書の【表1】には,訂正前発明1の具体例と解される実施例1?13について,「正極活物質中の組成」の「W/(Ni+Co+Mn+W)」の欄に,mol%で「0.1」,「0.5」と記載され,また,「被覆層に存在する元素」の「W」の欄に,「検出できず」と記載されている。
以上によれば,訂正前発明1に係る正極活物質においては,Wは,第1の複合酸化物には含まれるが,第2の複合酸化物には含まれないと解される。
(イ)一方,訂正前明細書の【0056】には,実施例1?13の正極活物質に関し,コアとなる第1の複合酸化物及び被覆層を構成する第2の複合酸化物のそれぞれから検出される元素について,以下の記載がある。
「実施例1?11,比較例5の正極材活物質の粉体の断面TEM-EDX分析から表面の第2の複合酸化物で構成された被覆層にAlが観測されたが,コアとなる第1の複合酸化物の組織には確認できなかった。一方,Wは被覆層やコアとなる第1の複合酸化物の組織にて検出できなかった。XPSでのエッチングによる深さ分析でも同様な結果となった。
実施例12?13の正極材活物質の粉体の断面TEM-EDX分析から表面の第2の複合酸化物で構成された被覆層にNbが観測されたが,コアとなる第1の複合酸化物の組織には確認できなかった。一方,Wは被覆層やコアとなる第1の複合酸化物にて検出できなかった。XPSでのエッチングによる深さ分析でも同様な結果となった。」
これらの記載によれば,実施例1?13の正極活物質においては,Wは,被覆層を構成する第2の複合酸化物から検出されない(すなわち,第2の複合酸化物には含まれない)だけではなく,コアとなる第1の複合酸化物からも検出されない(すなわち,第1の複合酸化物にも含まれない)こととなるが,このような訂正前明細書の【0056】の記載は,上記(ア)で検討した訂正前の請求項1,【0020】,【0021】及び【表1】の記載との関係において不合理を生じているために,不明瞭となっていると認められる。
(ウ)以上によれば,訂正事項6及び7に係る訂正は,訂正前明細書の【0056】について,Wがコアとなる第1の複合酸化物から検出されない旨の記載を削除することにより,上記のような記載上の不備を訂正し,その本来の意を明らかにするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
(エ)この点,申立人は,実施例1と同様にコアの作製時にタングステン酸ナトリウムを用い,実施例1と同じ条件で作製している比較例2,3では,正極活物質において,被覆層にのみWが観察され,コアにはWは観察されていないから,実施例1においても,コアにWは含まれていないと主張する(意見書2?4頁)。
しかしながら,申立人の主張は,実施例1と比較例2,3とが同じ条件で正極活物質を製造していることを前提とするものと解されるところ,比較例2は,共沈中間体を作製する際に,「反応槽pHが12以上になるように苛性ソーダ水で調節しながら撹拌し」ていない点で実施例1と異なり,また,比較例3は,共沈前駆体を製造する際の原料のモル比が実施例1と異なるから,実施例1と比較例2,3とが同じ条件で正極活物質を製造しているとはいえない。
よって,申立人の主張は,前提において失当であり,採用できない。
(オ)また,申立人は,【表1】に開示されているのは,正極活物質全体中の各元素の組成であるから,【表1】の記載からは,Wが第1の複合酸化物及び第2の複合酸化物のいずれに含まれているかは明らかではなく,【表1】の記載は,Wが第1の複合酸化物に含まれていることの根拠にはならないと主張する(意見書4?5頁)。
確かに,【表1】に示されているのは,正極活物質全体に含まれる元素の組成であるが,【表1】の記載によれば,正極活物質中にWが含まれること,被覆層(を構成する第2の複合酸化物)にはWが含まれないことが理解できる。
そして,上記(ア)で検討した訂正前の請求項1,【0020】及び【0021】の記載も踏まえると,正極活物質においては,Wは,第1の複合酸化物に含まれると解するのが自然である。
よって,申立人の主張は採用できない。

新規事項の追加,特許請求の範囲の実質上拡張又は変更について
上記イで述べたとおり,訂正前明細書の【0056】の記載は,訂正前の請求項1,【0020】,【0021】及び【表1】の記載との関係において不合理を生じているために,不明瞭となっているところ,訂正事項6及び7に係る訂正は,訂正前明細書の【0056】について,Wがコアとなる第1の複合酸化物から検出されない旨の記載を削除することにより,上記のような記載上の不備を訂正し,その本来の意を明らかにするものにすぎない。
よって,訂正事項6及び7に係る訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(5)独立特許要件について
本件においては,訂正前の全ての請求項1?6について特許異議の申立てがされているので,特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。

3 まとめ
上記2のとおり,各訂正事項に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?6に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
Li,Ni,Co,Mn及びWを含有する第1の複合酸化物の粒子表面に,Liと,AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在し,
組成式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)W_(e)M1_(f)O_(2)
(前記式において,M1はAlまたはNbであり,1.0≦a≦1.05,0.4≦b≦0.9,0.05≦c≦0.3,0.03≦d≦0.4,0<e≦0.005,0<f/(b+c+d+e)≦0.01)
で表されるリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記第2の複合酸化物が,LiAlO_(2)又はLiNbO_(3)である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項5】
請求項1または4に記載のリチウムイオン電池用正極活物質を有するリチウムイオン電池用正極。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン電池用正極を有するリチウムイオン電池。

第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件特許の請求項1?6に係る特許は,下記(1)?(6)のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は,下記(7)の甲第1号証?甲第5号証(以下,単に「甲1」等という。)である。
(1)申立理由1(拡大先願)
本件訂正前の請求項1及び3?6に係る発明は,本件特許の出願の日前の特許出願であって,本件特許の出願後に出願公開がされた甲1に係る特許出願(特願2015-130262号)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許の出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本件特許の出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1及び3?6に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は,甲2に記載された発明並びに甲4及び5に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(3)申立理由3(進歩性)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は,甲3に記載された発明並びに甲4及び5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(4)申立理由4(サポート要件)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(5)申立理由5(実施可能要件)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明については,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(6)申立理由6(明確性要件)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(7)証拠方法
・甲1 特開2017-16794号公報
・甲2 特開2014-238957号公報
・甲3 特開2010-129471号公報
・甲4 特開2014-11065号公報
・甲5 特開2015-26455号公報

2 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由1(拡大先願)
上記1の申立理由1(拡大先願)(ただし,本件訂正前の請求項1及び4?6に係る発明に対するもの)と同旨
(2)取消理由2(サポート要件)
上記1の申立理由4(サポート要件)(うち,本件訂正前の明細書【0056】の記載に関するもの)と同旨
(3)取消理由3(実施可能要件)
上記1の申立理由5(実施可能要件)(うち,本件訂正前の明細書【0056】の記載に関するもの)と同旨
(4)取消理由4(明確性要件)
上記1の申立理由6(明確性要件)(うち,本件訂正前の請求項3の「粒径」に関するもの)と同旨

第5 当審の判断
本件特許の請求項2及び3が本件訂正により削除された結果,同請求項2及び3に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
また,以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

1 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由1(拡大先願)
ア 甲1に係る特許出願(特願2015-130262号)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「先願明細書等」という。)に記載された発明
先願明細書等(甲1)の記載(請求項1,【0023】,【0024】,【0051】?【0053】,比較例1)によれば,特に,請求項1のほか,比較例1(【0051】?【0053】)に着目すると,先願明細書等には,以下の発明が記載されていると認められる。

「組成がLi_(1.15)Ni_(0.33)Co_(0.33)Mn_(0.33)W_(0.05)O_(2)で表され,中空度が0%の正極活物質に,ゾルゲル法によりLiNbO_(3)をコーティングし,その後,大気環境において焼成を行い,正極活物質の表面にLiNbO_(3)のコート層を形成することにより得られた,平均粒径D_(50)=6.3μmであり,全固体リチウム電池に用いられる,表面にコート層を有する正極活物質。」(以下,「先願発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と先願発明とを対比する。
a 先願発明における「組成がLi_(1.15)Ni_(0.33)Co_(0.33)Mn_(0.33)W_(0.05)O_(2)で表され,中空度が0%の正極活物質」は,本件発明1における「Li,Ni,Co,Mn及びWを含有する第1の複合酸化物」に相当する。
b 先願発明においては,上記正極活物質の表面にLiNbO_(3)のコート層を形成することにより,平均粒径D_(50)=6.3μmである,表面にコート層を有する正極活物質とするものであるが,表面にコート層を有する正極活物質は,所定の平均粒径を有するものである以上,粒子であることは明らかである。
そして,そうであれば,表面にコート層が形成される前の,所定の組成及び中空度を有する正極活物質についても,粒子であるといえる。
そうすると,先願発明において,所定の組成及び中空度を有する正極活物質に,「ゾルゲル法によりLiNbO_(3)をコーティングし,その後,大気環境において焼成を行い,正極活物質の表面にLiNbO_(3)のコート層を形成する」ことは,本件発明1において,所定の元素を含有する第1の複合酸化物の「粒子表面に,Liと,AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在する」ことに相当するといえる。
c また,先願発明における「全固体リチウム電池に用いられる,表面にコート層を有する正極活物質」は,本件発明1における「リチウムイオン電池用正極活物質」に相当する。
d 以上によれば,本件発明1と先願発明とは,
「Li,Ni,Co,Mn及びWを含有する第1の複合酸化物の粒子表面に,Liと,AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在するリチウムイオン電池用正極活物質。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,正極活物質全体の組成が,「組成式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)W_(e)M1_(f)O_(2)(前記式において,M1はAlまたはNbであり,1.0≦a≦1.05,0.4≦b≦0.9,0.05≦c≦0.3,0.03≦d≦0.4,0<e≦0.005,0<f/(b+c+d+e)≦0.01)で表される」のに対して,先願発明では,表面にコート層を有する正極活物質全体の組成が不明である点。

(イ)相違点1の検討
先願発明に係る表面にコート層を有する正極活物質は,所定の組成及び中空度を有する正極活物質の表面にLiNbO_(3)のコート層を形成したものであるが,表面にコート層を有する正極活物質全体の組成は不明であり,本件発明1の組成式の条件を満たすかどうかは不明である。
以上によれば,相違点1は実質的な相違点である。
また,相違点1が,課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
したがって,本件発明1は,先願発明と同一であるとはいえない。

ウ 本件発明4?6について
本件発明4?6は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が先願発明と同一であるとはいえない以上,本件発明4?6についても同様に,先願発明と同一であるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1及び4?6は,いずれも,先願発明と同一であるとはいえない。
したがって,取消理由1(拡大先願)によっては,本件特許の請求項1及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由2(サポート要件)
取消理由通知書では,本件訂正前の請求項1に係る発明(以下,「訂正前発明1」等という。)は,第1の複合酸化物が「Wを含有する」ものであるところ,本件訂正前の明細書(以下,「訂正前明細書」という。)には,実施例1?13では,Wがコアとなる第1の複合酸化物から検出されなかったと記載されている(【0056】)ことから,これら実施例1?13が訂正前発明1の具体例(実施例)といえるかどうか明らかではないため,当業者は,訂正前発明1の課題が解決できることを理解できるとはいえないから,訂正前発明1は,訂正前明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえず,また,同発明を直接又は間接的に引用する訂正前発明2?6についても同様に,訂正前明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえない旨,指摘した。
これに対して,前記第2のとおり,本件訂正により,訂正前明細書の【0056】の記載から,Wがコアとなる第1の複合酸化物から検出されない旨の記載が削除された結果,実施例1?13が,本件発明1の具体例(実施例)であることが明らかとなったから,取消理由2(サポート要件)は解消した。
したがって,取消理由2(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由3(実施可能要件)
取消理由通知書では,上記(2)の取消理由2(サポート要件)と同様の理由により,当業者は,訂正前発明1?6を実施できることが理解できるとはいえないから,訂正前明細書の発明の詳細な説明には,訂正前発明1?6について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない旨,指摘した。
これに対して,前記第2のとおり,本件訂正により,訂正前明細書の【0056】の記載から,Wがコアとなる第1の複合酸化物から検出されない旨の記載が削除された結果,実施例1?13が,本件発明1の具体例(実施例)であることが明らかとなったから,取消理由3(実施可能要件)は解消した。
したがって,取消理由3(実施可能要件)によっては,本件特許の請求項1及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

(4)取消理由4(明確性要件)
取消理由通知書では,訂正前発明3における「粒径」が,どのような方法により測定されたものであるのか不明であり,また,上記「粒径」が,平均粒径を意味するものであるのか,粒径の分布幅を意味するものであるのか,あるいは,それら以外を意味するものであるのか,不明であるから,訂正前発明3は明確ではなく,また,同発明を直接又は間接的に引用する訂正前発明4?6についても同様に,明確ではない旨,指摘した。
これに対して,前記第2のとおり,本件訂正により,訂正前の請求項3が削除されるとともに,同請求項4及び5における引用請求項から同請求項3が削除された結果,訂正前発明4?6のうち,訂正前発明3を直接又は間接的に引用するものについては,削除されたから,取消理由4(明確性要件)は解消した。
したがって,取消理由4(明確性要件)によっては,本件特許の請求項4?6に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由
(1)申立理由2(進歩性)
ア 甲2に記載された発明
甲2の記載(請求項4,5,【0007】,【0008】,【0014】)によれば,特に請求項4及び5に着目すると,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。

「Liと,Co,Ni,Mnの1種以上の元素である遷移金属Mを成分に持つ複合酸化物で構成されるリチウムイオン二次電池用正極活物質の粒子表面にニオブ酸リチウムの被覆層を形成した粒子からなる粉末であって,炭素含有量が0.025質量%以下,XPSによる深さ方向分析で当該被覆層の最表面からエッチング深さ1nmまでのNb,Mの合計原子数に占めるNbの合計原子数の平均割合が70%以上である正極活物質粉末。」(以下,「甲2発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「Liと,Co,Ni,Mnの1種以上の元素である遷移金属Mを成分に持つ複合酸化物で構成されるリチウムイオン二次電池用正極活物質」は,本件発明1における「Li,Ni,Co,Mn」「を含有する第1の複合酸化物」に相当する。
甲2発明における,上記の複合酸化物で構成されるリチウムイオン二次電池用正極活物質の「粒子表面にニオブ酸リチウムの被覆層を形成した粒子からなる粉末」である「正極活物質粉末」は,本件発明1における,上記の第1の複合酸化物の「粒子表面に,Liと,AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在する」「リチウムイオン電池用正極活物質」に相当する。
以上によれば,本件発明1と甲2発明とは,
「Li,Ni,Co,Mnを含有する第1の複合酸化物の粒子表面に,Liと,AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在するリチウムイオン電池用正極活物質。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点2
本件発明1では,第1の複合酸化物がさらに「W」を含有するとともに,正極活物質全体の組成が,「組成式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)W_(e)M1_(f)O_(2)(前記式において,M1はAlまたはNbであり,1.0≦a≦1.05,0.4≦b≦0.9,0.05≦c≦0.3,0.03≦d≦0.4,0<e≦0.005,0<f/(b+c+d+e)≦0.01)で表される」のに対して,甲2発明では,複合酸化物で構成される正極活物質がさらに「W」を含有するものではなく,正極活物質粉末全体の組成が不明である点。

(イ)相違点2の検討
a 甲2には,複合酸化物で構成される正極活物質について,異元素ドープ型(NiやCoの一部を異元素で置換したタイプ)として,LiNiAlO_(2),LiNiCoAlO_(2)等が記載されているが(【0015】),Wを含有することについては記載されておらず,また,正極活物質粉末全体の組成が,本件発明1の組成式の条件を満たすことについても記載されていない。
そうすると,甲2発明において,複合酸化物で構成される正極活物質にさらにWを含有させるとともに,正極活物質粉末全体の組成を本件発明1の組成式の条件を満たすようにすることが動機付けられるとはいえない。
b 甲4には,リチウムイオン二次電池用正極活物質について,リチウムと少なくとも一種の遷移金属元素とを構成金属元素として含むリチウム遷移金属酸化物を採用し得ること(【0084】),上記リチウム遷移金属酸化物の好適例として,Ni,Co及びMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物が挙げられること(【0086】),上記正極活物質は,Ni,Co及びMnの少なくとも一種の他に,付加的な構成元素(添加元素)として,少なくともWを含む組成の正極活物質が好ましく,かかる正極活物質を用いた電池は,反応抵抗が低減され,入出力特性に優れたものとなり得ること(【0087】)が記載されている。
また,甲5には,リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池用正極活物質として,請求項1には,一般式(1):Li_(1+u)Ni_(x)Mn_(y)Co_(z)M_(t)O_(2)(0≦u≦0.20,x+y+z+t=1,0.30≦x≦0.70,0.10≦y≦0.55,0≦z≦0.40,0≦t≦0.10,Mは,Al,Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Wから選択される1種以上の元素)で表される,層状構造を有する六方晶系リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子からなるものが記載され,その具体例として,例えば【0161】に,一般式:Li_(1.10)Ni_(0.332)Co_(0.331)Mn_(0.332)W_(0.005)O_(2)で表されるものが記載されている。
しかしながら,甲4及び5のいずれにも,正極活物質の表面に,「Liと,AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物」を「存在」させることについては記載されておらず,また,正極活物質全体の組成を本件発明1の組成式の条件を満たすようにすることについても記載されていない。
そうすると,甲4及び5は,いずれも,甲2発明において,複合酸化物で構成される正極活物質にさらにWを含有させるとともに,正極活物質粉末全体の組成を本件発明1の組成式の条件を満たすようにすることを動機付けるものではない。
c 以上によれば,甲2発明において,複合酸化物で構成される正極活物質にさらにWを含有させるとともに,正極活物質粉末全体の組成を本件発明1の組成式の条件を満たすようにすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲2に記載された発明並びに甲4及び5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明4?6について
本件発明4?6は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲2に記載された発明並びに甲4及び5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明4?6についても同様に,甲2に記載された発明並びに甲4及び5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1及び4?6は,いずれも,甲2に記載された発明並びに甲4及び5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由2(進歩性)によっては,本件特許の請求項1及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

(2)申立理由3(進歩性)
ア 甲3に記載された発明
甲3の記載(請求項1,【0004】?【0008】,【0012】)によれば,甲3には,以下の発明が記載されていると認められる。

「式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子と,
該リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面の少なくとも一部に設けられたLiAlO_(2)を含む層とを有する粒子からなり,
上記LiAlO_(2)由来のAlが上記リチウム遷移金属複合酸化粒子の表面近傍にのみ固溶しているリチウムイオン二次電池用正極活物質。
式(1)
Li_(x)Ni_(y)Co_(z)M_(t)O_(2)
(但し,MはMnおよびAlのうちの少なくとも1種の元素を示す。x,y,zは,各々0.05≦x≦1.15,0.60≦y≦0.85,0.00≦z≦0.25である。tは0.00≦t≦0.25である。y+z+t=1である。)」(以下,「甲3発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子」は,Li,Ni,Co,Mnを含むものであるから,本件発明1における「Li,Ni,Co,Mn」「を含有する第1の複合酸化物」に相当する。
甲3発明における,上記のリチウム遷移金属複合酸化物粒子の「表面の少なくとも一部に設けられたLiAlO_(2)を含む層とを有する粒子からな」る「リチウムイオン二次電池用正極活物質」は,本件発明1における,上記の第1の複合酸化物の「粒子表面に,Liと,AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在する」「リチウムイオン電池用正極活物質」に相当する。
以上によれば,本件発明1と甲3発明とは,
「Li,Ni,Co,Mnを含有する第1の複合酸化物の粒子表面に,Liと,AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在するリチウムイオン電池用正極活物質。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点3
本件発明1では,第1の複合酸化物がさらに「W」を含有するとともに,正極活物質全体の組成が,「組成式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)W_(e)M1_(f)O_(2)(前記式において,M1はAlまたはNbであり,1.0≦a≦1.05,0.4≦b≦0.9,0.05≦c≦0.3,0.03≦d≦0.4,0<e≦0.005,0<f/(b+c+d+e)≦0.01)で表される」のに対して,甲3発明では,リチウム遷移金属複合酸化物粒子がさらに「W」を含有するものではなく,正極活物質全体の組成が不明である点。

(イ)相違点3の検討
a 甲3発明におけるリチウム遷移金属複合酸化物粒子は,Li,Ni,Co,Mnを含むものであるが,Wを含むものではない。甲3には,リチウム遷移金属複合酸化物粒子がさらにWを含有することについては記載されておらず,また,正極活物質粉末全体の組成が,本件発明1の組成式の条件を満たすことについても記載されていない。
そうすると,甲3発明において,リチウム遷移金属複合酸化物粒子にさらにWを含有させるとともに,正極活物質全体の組成を本件発明1の組成式の条件を満たすようにすることが動機付けられるとはいえない。
b 甲4及び5には,上記(1)イ(イ)bで指摘した事項が記載されているものの,甲4及び5のいずれにも,正極活物質の表面に,「Liと,AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物」を「存在」させることについては記載されておらず,また,正極活物質全体の組成を本件発明1の組成式の条件を満たすようにすることについても記載されていない。
そうすると,甲4及び5は,いずれも,甲3発明において,リチウム遷移金属複合酸化物粒子にさらにWを含有させるとともに,正極活物質全体の組成を本件発明1の組成式の条件を満たすようにすることを動機付けるものではない。
c 以上によれば,甲3発明において,リチウム遷移金属複合酸化物粒子にさらにWを含有させるとともに,正極活物質全体の組成を本件発明1の組成式の条件を満たすようにすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲3に記載された発明並びに甲4及び5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明4?6について
本件発明4?6は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲3に記載された発明並びに甲4及び5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明4?6についても同様に,甲3に記載された発明並びに甲4及び5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1及び4?6は,いずれも,甲3に記載された発明並びに甲4及び5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由3(進歩性)によっては,本件特許の請求項1及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

(3)申立理由4(サポート要件)
申立人は,本件明細書の【0009】には,活物質の表面にLi_(2)WO_(4)の微粒子被膜を形成後,さらにその上にLiAlO_(2)を局所的に被覆しただけでは,本件発明1の課題が解決できないことが記載されているところ,活物質の表面にLi_(2)WO_(4)の微粒子被膜を形成したものを第1の複合酸化物とし,局所的に被覆したLiAlO_(2)を第2の複合酸化物とした場合,本件発明1の規定を充足するから,本件発明1は,本件発明1の課題を解決できないと特許権者が自認する範囲をも包含するものであり,サポート要件を充足しないと主張する。また,本件発明4?6についても同様に主張する。
しかしながら,本件発明1は,前記第3で認定したとおりのものであるところ,申立人の主張する態様については,その全体の組成が不明であり,本件発明1の組成式の条件を満たすかどうか不明である点で,本件発明1に包含されるものとはいえない。
また,本件発明1は,「Li,Ni,Co,Mn及びWを含有する第1の複合酸化物」を用いるものであるところ,この「第1の複合酸化物」は,「Li,Ni,Co,Mn及びWを含有する」単一の化合物である「複合酸化物」であって,複数種類の(複合)酸化物の混合物とは異なるものであるから,申立人が主張するような「活物質の表面にLi_(2)WO_(4)の微粒子被膜を形成したもの」が,本件発明1における「第1の複合酸化物」に該当するとはいえないことは,明らかである。また,本件発明4?6についても同様である。
よって,申立人の主張は,前提において失当であり,採用できない。
したがって,申立理由4(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

(4)申立理由6(明確性要件)
申立人は,実施例1においては,焼成中間体に第2の複合酸化物の層の原料を添加した後,高温での焼成を実施しており,固体成分が拡散するため,得られた正極活物質において,第1の複合酸化物と第2の複合酸化物との間に明確な境界は存在しないものと推認されるから,両者をどのように特定するのかが明らかではなく,本件発明1は不明確であると主張する。また,本件発明4?6についても同様に主張する。
しかしながら,本件発明1は,前記第3で認定したとおりのものであるところ,第1の複合酸化物及び第2の複合酸化物のそれぞれに含まれる元素の種類が明確に特定されているから,両者はその組成によって明確に区別できるものである。
そして,申立人が主張するように,正極活物質の製造方法によっては,固体成分が拡散することがあるとしても,そのような場合については,別途,拡散層も形成されると理解されるだけであり,そのことをもって,本件発明1が不明確であるとはいえない。また,本件発明4?6についても同様である。
よって,申立人の主張は採用できない。
したがって,申立理由6(明確性要件)によっては,本件特許の請求項1及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり,本件特許の請求項2及び3が本件訂正により削除された結果,同請求項2及び3に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
また,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1及び4?6に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1及び4?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の正極活物質には、一般にリチウム含有遷移金属酸化物が用いられている。具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))、ニッケル酸リチウム(LiNiO_(2))、マンガン酸リチウム(LiMn_(2)O_(4))等であり、特性改善(高容量化、サイクル特性、保存特性、内部抵抗低減、レート特性)や安全性を高めるためにこれらを複合化することが進められている。車載用やロードレベリング用といった大型用途におけるリチウムイオン電池には、これまでの携帯電話用やパソコン用とは異なった特性が求められている。
【0003】
近年、サイクル特性が良く、抵抗が低く、高出力が得られる正極活物質が注目されており、特に低抵抗化を実現する方法として正極活物質に異元素を添加して活物質粒子の表面を修飾する技術が知られている。このような異元素としては、とりわけ、W、Mo、Nb、Ta、Re等の高価数をとることができる遷移金属が有用とされ、この中でも特に、W、Nb等が有効であるとされている。
【0004】
このような異元素の中で、特にWについては、焼成前のLi塩混合時にWO_(3)を添加し、Li_(2)WO_(4)の組成を有する微細粒子を活物質粒子の表面に存在させることで、電池の出力が改善することが特許文献1に記載されている。
【0005】
また、サイクル特性を向上させるために、AlやNbを含有するイオン導電性化合物を粒子状又は層状にして活物質粒子の表面に付着させることで表面修飾する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】 特開2012-079464号公報
【特許文献2】 特開2011-023121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、活物質を構成する一次粒子表面に、W及びLiを含む微細粒子(1?100nmのサブミクロンサイズ以下の粒子)を形成させることで、正極抵抗を低減して出力特性を向上させることができると記載されている。しかしながら、当該微細粒子は表面積が大きく、電解液との接触により局所的に印加電圧がかかり、充放電を繰り返すと当該微細粒子が選択的に劣化する問題がある。さらに、二次粒子の空隙が大きいことから粒子の形状を維持することが難しいという問題もある。
【0008】
また、引用文献2には、Al含有化合物、とりわけLiAlO_(2)が、活物質二次粒子より小さい状態で、表面に分散されていることでサイクル特性が向上すると記載されている。しかしながら、LiAlO_(2)は活物質を構成する化合物と均一に混合されているに過ぎない状態であり、その効用については明示されていない。
【0009】
これまでの知見から、Li_(2)WO_(4)及びLiAlO_(2)それぞれの添加物について検討されているが、Li_(2)WO_(4)の微細粒子被覆の外側に、うまくLiAlO_(2)を被覆する技術は存在しなかった。これは、Li_(2)WO_(4)微細粒子の比表面積が大きいため、その上にさらに外殻(シェル)を形成しようとすると、湿式法でも乾式法でも、Li_(2)WO_(4)微細粒子部分の付着力が大きく局所的にLiAlO_(2)を被覆することになってしまうためである。Li_(2)WO_(4)によって電池の出力特性は向上するものの、前述の通りサイクル特性は悪化するため、Alを被覆する等して高出力時のサイクル特性を改善することが求められている。しかしながら、これまでは被覆が不均一であり、または、最外殻のリチウムイオン伝導性が低い等の理由から、電池の出力とサイクル特性とを同時に満足できる正極活物質を提供できていなかった。
【0010】
そこで、本発明は、電池の出力特性及びサイクル特性がいずれも良好な表面修飾されたリチウムイオン電池用正極活物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、このような問題を解決するため種々の検討を行った結果、活物質の3bサイト(遷移金属サイト)にWを存在させ、且つ、活物質の表面修飾に、微細粒子(1?100nmのサブミクロンサイズ以下の粒子)であるLi_(2)WO_(4)を用いずに、Liと、AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物を存在させることで、電池の出力特性及びサイクル特性がいずれも良好な表面修飾されたリチウムイオン電池用正極活物質を提供することができることを見出した。
【0012】
上記知見を基礎にして完成した本発明は一側面において、Li、Ni、Co、Mn及びWを含有する第1の複合酸化物の粒子表面に、Liと、AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在するリチウムイオン電池用正極活物質である。
【0013】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は一実施形態において、前記第1の複合酸化物が、
組成式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)W_(e)M1_(f)O_(2)
(前記式において、M1はAlまたはNbであり、1.0≦a≦1.05、0.4≦b≦0.9、0.05≦c≦0.3、0.03≦d≦0.4、0<e≦0.005、0<f/(b+c+d+e)≦0.01)
で表される。
【0014】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は別の一実施形態において、前記第1の複合酸化物が岩塩層状構造であり、前記第2の複合酸化物が粒径10?100nmである。
【0015】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は更に別の一実施形態において、前記第2の複合酸化物が、LiAlO_(2)又はLiNbO_(3)である。
【0016】
本発明は別の一側面において、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質を有するリチウムイオン電池用正極である。
【0017】
本発明は更に別の一側面において、本発明のリチウムイオン電池用正極を有するリチウムイオン電池である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電池の出力特性及びサイクル特性がいずれも良好な表面修飾されたリチウムイオン電池用正極活物質を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(リチウムイオン電池用正極活物質の構成)
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、Li、Ni、Co、Mn及びWを含有する第1の複合酸化物の粒子表面に、Liと、AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在するリチウムイオン電池用正極活物質である。
【0020】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、表面修飾されるコアとなる第1の複合酸化物が、Wを含有する。このように、表面修飾されるコアとなる第1の複合酸化物の3bサイト(遷移金属サイト)にWを存在させているため、電池の初期容量が高く、サイクル特性が良好となる。また、Ni^(3+)イオンの状態は不安定なため、カチオンミキシングが起こりやすくなるが、本発明では、第1の複合酸化物においてNiの一部をWで置換しているため、正極活物質として安定な構造となっている。
【0021】
また、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、表面修飾されるコアとなる第1の複合酸化物を、微細粒子Li_(2)WO_(4)を用いずに、イオン導電性のあるLiと、AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物で修飾することで(第1の複合酸化物の粒子表面に第2の複合酸化物を存在させることで)、活物質粒子の界面抵抗の増加を抑えることで劣化を抑制させ、低抵抗力を実現することができる。これにより、電池の出力特性及びサイクル特性が良好となる。
【0022】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、第1の複合酸化物が、
組成式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)W_(e)M1_(f)O_(2)
(前記式において、M1はAlまたはNbであり、1.0≦a≦1.05、0.4≦b≦0.9、0.05≦c≦0.3、0.03≦d≦0.4、0<e≦0.005、0<f/(b+c+d+e)≦0.01)
で表されるのが好ましい。
リチウムの比率が1.0?1.05であるが、これは、1.0未満では、安定した結晶構造を保持し難く、1.05超では電池の高容量が確保できなくなるおそれがあるためである。また、ニッケルの組成が0.4?0.9であるため、当該リチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池の容量、出力、安全性の三つがバランスよく向上する。より好ましくは0.5?0.9、より好ましくは0.75?0.9である。また、Wは表面修飾されるコアとなる第1の複合酸化物においてNiの一部を置換している。さらに、AlまたはNbであるM1は、コアとなる第1の複合酸化物の粒子表面に存在し、好ましくは組成比でNi、Co、Mn及びWの合計に対して、0より大きく且つ0.01未満(上記0<f/(b+c+d+e)≦0.01)に制御されている。表面修飾する第2の複合酸化物のAlまたはNb(M1)の組成が、Ni、Co、Mn及びWの合計に対して0.01を超えると表面被覆の厚みが増え、イオン導電性が低下するという問題が生じるおそれがある。第2の複合酸化物としては、例えば、α型やγ型のLiAlO_(2)又はLiNbO_(3)を用いることができる。
【0023】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、前記第1の複合酸化物が岩塩層状構造であり、第2の複合酸化物が粒径10?100nmであるのが好ましい。ここで、第2の複合酸化物が粒径10nm未満であると正極材活物質と電解質材料とが反応する可能性があるためイオン導電性が十分に発揮しないことがある。一方、100nmを超えると被覆が不均一になり被覆のあるところとないところが共存するため、イオン導電性に濃淡ができ部分的な界面劣化を起こすなど界面抵抗の抑制が発揮しない場合がある。
【0024】
正極材活物質の形状としては、例えば粒子形状を挙げることができ、中でも球状または楕円球状であることが好ましく、特に0.95?1.00の円形度を有する形状が好ましい。また、その平均粒径は、例えば5?15μmの範囲内であることが好ましい。さらに表面積は0.1?0.5m^(2)/gの範囲内であることが好ましい。
【0025】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、平均粒径(メディアン径:D50)が5?15μmであるのが好ましい。5μm未満では粒子充填性が悪化し、電極密度の低下という問題が生じるおそれがある。また、15μmを超えると共沈前駆体の表面亀裂、粒子割れという問題が生じるおそれがある。平均粒径(メディアン径:D50)は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により、体積基準の累積粒度分布における50%累積時の粒径を測定することで求めることができる。
【0026】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、比表面積が0.1?0.5m^(2)/gであるのが好ましい。比表面積が0.1m^(2)/g未満ではリチウム化合物との合成時にリチウム化合物との反応性が悪くなり、十分に反応が進行せず、昇温過程でリチウム化合物が溶融し凝集を引き起こしてしまうという問題が生じるおそれがある。また、比表面積が0.5m^(2)/gを超えると第2の複合酸化物が不均一に存在しているという問題が生じるおそれがある。比表面積は、一般的な窒素ガス吸着法によって、BET比表面積として測定することができる。
【0027】
(リチウムイオン電池用正極及びそれを有するリチウムイオン電池の構成)
本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極は、例えば、上述の構成のリチウムイオン電池用正極活物質と、導電助剤と、バインダーとを混合して調製した正極合剤をアルミニウム箔等からなる集電体の片面または両面に設けた構造を有している。また、本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池は、このような構成のリチウムイオン電池用正極を備えている。
【0028】
(リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法)
次に、本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法について詳細に説明する。
【0029】
まず、ニッケル源、コバルト源、マンガン源、タングステン源として、例えば、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、タングステン酸ナトリウムを、所定のモル比で含む水溶液、アンモニア水、苛性ソーダ水を用意する。次に、反応槽pHが10?11になるように管理しながら一つの反応槽にこれらの溶液を投入しつつ、49?51℃の状態で撹拌して種晶を作製する。その後、温度、pHを調節して、撹拌しながら粒子成長させる。さらに、反応槽pHが12以上になるように例えば苛性ソーダ水で調節しながら撹拌し、共沈中間体を作製し、ろ過・水洗することで共沈前駆体を得る。
次に、得られた共沈前駆体をLi/(Ni+Co+Mn+W)が所定の比となるように例えば炭酸リチウムとともに酸素雰囲気の焼成炉に入れ、500?700℃で2?10時間焼成後、720?800℃で2?10時間焼成することで焼成中間体を得る。次に、得られた焼成中間体に例えば水酸化アルミニウムを投入してAlがNi、Co、Mn、Wに対して0.2?0.8モル%となるように調整する。また、このときNb源を投入してNbがNi、Co、Mn、Wに対して0.2?0.8モル%となるように調整してもよい。
次に、炭酸リチウムを混合後、酸素雰囲気の焼成炉に入れ、600?700℃で2?5時間焼成後、750?850℃で2?10時間焼成する。
また、焼成中間体表面にゾルゲル法により作製した表面修飾酸化物を形成することで、正極活物質を作製してもよい。
その後、必要であれば、焼成体を例えばパルベライザー等を用いて解砕することにより正極活物質の粉体を得る。
【実施例】
【0030】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0031】
以下、実施例1?13、比較例1?6の作製方法を示す。組成及び重量比は表1に示す通りである。
【0032】
(実施例1)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、タングステン酸ナトリウムを、Ni:Co:Mn:W=7.99:1:1:0.01のモル比で含む水溶液、14mol/Lのアンモニア水、14mol/Lの苛性ソーダ水を用意した。次に、反応槽pHが10?11になるように管理しながら一つの反応槽にこれらの溶液を投入しつつ、50℃の状態で撹拌して種晶を作製した。その後、温度、pHを調節して、撹拌しながら粒子成長させた。さらに、反応槽pHが12以上になるように苛性ソーダ水で調節しながら撹拌し、共沈中間体を作製し、ろ過・水洗することで共沈前駆体を得た。
次に、得られた共沈前駆体をLi/(Ni+Co+Mn+W)=1.005となるように炭酸リチウムとともに酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、750℃で5時間焼成することで焼成中間体を得た。次に、得られた焼成中間体に水酸化アルミニウムを投入してAlがNi、Co、Mn、Wに対して0.5モル%となるように調整し、炭酸リチウムを混合後、酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、800℃で3時間焼成した。得られた焼成物をパルベライザーにて解砕することにより正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.01となった。
【0033】
(実施例2)
実施例1にて作製した焼成中間体表面にゾルゲル法により作製したLiAlO_(2)からなる表面修飾酸化物を以下に示す方法で形成した。
エタノール溶媒にリチウムアルコキシドおよびアルミナアルコキシドを溶解させ、その溶液を焼成中間体の表面に流動コーティング装置を用いてスプレーコートした。その後、350℃の乾燥機で乾燥させた。得られた乾燥物を酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、800℃で3時間焼成した。得られた焼成物をパルベライザーにて解砕することにより正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.01となった。ただし、AlはNi、Co、Mn、Wに対して0.5モル%となるよう配合した。
【0034】
(実施例3)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、タングステン酸ナトリウムを、Ni:Co:Mn:W=7.98:0.98:0.99:0.05のモル比で含む水溶液、14mol/Lのアンモニア水、14mol/Lの苛性ソーダ水を用意した。以下実施例1と同様に調製し、共沈前駆体、焼成中間体、次いで正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.01となった。
【0035】
(実施例4)
実施例1と同様に調製し、共沈前駆体を得、次に、得られた共沈前駆体をLi/(Ni+Co+Mn+W)=0.98となるように炭酸リチウムとともに酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、750℃で5時間焼成することで焼成中間体を得た。次に、得られた焼成中間体に水酸化アルミニウムを投入してAlがNi、Co、Mn、Wに対して0.5モル%となるように調整し、正極材活物質の組成比がLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.00となるよう炭酸リチウムを混合後、酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、800℃で3時間焼成した。得られた焼成物をパルベライザーにて解砕することにより正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.00であった。
【0036】
(実施例5)
実施例1と同様に調製し、共沈前駆体、焼成中間体を得、次に、得られた焼成中間体に水酸化アルミニウムを投入してAlがNi、Co、Mn、Wに対して0.5モル%となるように調整し、正極材活物質の組成比がLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.04となるよう炭酸リチウムを混合後、酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、800℃で3時間焼成した。得られた焼成物をパルベライザーにて解砕することにより正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.04であった。
【0037】
(実施例6)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、タングステン酸ナトリウムを、Ni:Co:Mn:W=8.50:0.75:0.74:0.01のモル比で含む水溶液、14mol/Lのアンモニア水、14mol/Lの苛性ソーダ水を用意した。以下実施例1と同様に調製し、共沈前駆体、焼成中間体、次いで正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.01となった。
【0038】
(実施例7)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、タングステン酸ナトリウムを、Ni:Co:Mn:W=8.19:1.50:0.3:0.01のモル比で含む水溶液、14mol/Lのアンモニア水、14mol/Lの苛性ソーダ水を用意した。以下実施例1と同様に調製し、共沈前駆体、焼成中間体、次いで正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.01となった。
【0039】
(実施例8)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、タングステン酸ナトリウムを、Ni:Co:Mn:W=4.99:2.00:3.00:0.01のモル比で含む水溶液、14mol/Lのアンモニア水、14mol/Lの苛性ソーダ水を用意した。以下実施例1と同様に調製し、共沈前駆体、焼成中間体、次いで正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.01となった。
【0040】
(実施例9)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、タングステン酸ナトリウムを、Ni:Co:Mn:W=6.00:1.99:2.00:0.01のモル比で含む水溶液、14mol/Lのアンモニア水、14mol/Lの苛性ソーダ水を用意した。以下実施例1と同様に調製し、共沈前駆体、焼成中間体、次いで正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.01となった。
【0041】
(実施例10)
実施例1と同様に調製し、共沈前駆体、焼成中間体を得、次に、得られた焼成中間体に水酸化アルミニウムを投入してAlがNi、Co、Mn、Wに対して0.3モル%となるように調整し、炭酸リチウムを混合後、酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、800℃で3時間焼成した。得られた焼成物をパルベライザーにて解砕することにより正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.01であった。
【0042】
(実施例11)
実施例1と同様に調製し、共沈前駆体、焼成中間体を得、次に、得られた焼成中間体に水酸化アルミニウムを投入してAlがNi、Co、Mn、Wに対して0.7モル%となるように調整し、炭酸リチウムを混合後、酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、800℃で3時間焼成した。得られた焼成物をパルベライザーにて解砕することにより正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.01であった。
【0043】
(実施例12)
実施例1にて作製した焼成中間体表面にゾルゲル法により作製したLiNbO_(3)からなる表面修飾酸化物を以下の方法で形成した。
エタノール溶媒にリチウムアルコキシドおよびペンタエトキニオブを溶解させ、その溶液を焼成中間体の表面に流動コーティング装置を用いてスプレーコートした。その後、350℃の乾燥機で乾燥させた。得られた乾燥物を酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、800℃で3時間焼成した。得られた焼成物をパルベライザーにて解砕することにより正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Nb)=1.01となった。ただし、NbはNi、Co、Mn、Wに対して0.5モル%となるよう配合した。
【0044】
(実施例13)
実施例12と同様に表面修飾酸化物を形成し、同様にスプレーコート後、焼成、解砕し正極材活物質粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Nb)=1.01となった。ただし、NbはNi、Co、Mn、Wに対して0.3モル%となるよう配合した。
【0045】
(比較例1)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを、Ni:Co:Mn=7.99:1:1のモル比で含む水溶液、14mol/Lのアンモニア水、14mol/Lの苛性ソーダ水を用意した。次に、反応槽pHが10?11になるように管理しながら一つの反応槽にこれらの溶液を投入しつつ、50℃の状態で撹拌して種晶を作製した。その後、温度、pHを調節して、撹拌しながら粒子成長させ、ろ過・水洗することで共沈前駆体を得た。
次に、タングステン酸リチウムを、WがNi、Co、Mnに対して0.1モル%となるように、上記共沈前駆体と混合し、酸素雰囲気の焼成炉に入れ、500℃で10時間焼成することで焼成中間体を得た。次に、得られた焼成中間体に、水酸化アルミニウムを投入してAlがNi、Co、Mn、Wに対して0.5モル%となるよう調整し、炭酸リチウムを混合後、酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、800℃で3時間焼成した。得られた焼成物をパルベライザーにて解砕することにより正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.01となった。
【0046】
(比較例2)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、タングステン酸ナトリウムを、Ni:Co:Mn:W=7.99:1:1:0.01のモル比で含む水溶液、14mol/Lのアンモニア水、14mol/Lの苛性ソーダ水を用意した。次に、反応槽pHが10?11になるように管理しながら一つの反応槽にこれらの溶液を投入しつつ、50℃の状態で撹拌して種晶を作製した。その後、温度、pHを調節して、撹拌しながら粒子成長させ、共沈中間体を作製し、ろ過・水洗することで共沈前駆体を得た。次に、実施例1と同様に焼成中間体、焼成物を作製し、正極材活物質を得た。
【0047】
(比較例3)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、タングステン酸ナトリウムを、Ni:Co:Mn:W=7.97:0.98:0.98:0.07のモル比で含む水溶液、14mol/Lのアンモニア水、14mol/Lの苛性ソーダ水を用意した。次に、反応槽pHが10?11になるように管理しながら一つの反応槽にこれらの溶液を投入しつつ、50℃の状態で撹拌して種晶を作製した。その後、温度、pHを調節して、撹拌しながら粒子成長させた。さらに、反応槽pHが12以上になるように苛性ソーダ水で調節しながら撹拌し、共沈中間体を作製し、ろ過・水洗することで共沈前駆体を得た。
次に、得られた共沈前駆体をLi/(Ni+Co+Mn+W)=1.005となるように炭酸リチウムとともに酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、750℃で5時間焼成することで焼成中間体を得た。次に、得られた焼成中間体に水酸化アルミニウムを投入してAlがNi、Co、Mn、Wに対して0.5モル%となるように調整し、炭酸リチウムを混合後、酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、800℃で3時間焼成した。得られた焼成物をパルベライザーにて解砕することにより正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.01となった。
【0048】
(比較例4)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを、Ni:Co:Mn=5.00:2.00:2.99モル比で含む水溶液、14mol/Lのアンモニア水、14mol/Lの苛性ソーダ水を用意した。次に、反応槽pHが10?11になるように管理しながら一つの反応槽にこれらの溶液を投入しつつ、50℃の状態で撹拌して種晶を作製した。その後、温度、pHを調節して、撹拌しながら粒子成長させ、ろ過・水洗することで共沈前駆体を得た。
次に、タングステン酸リチウムを、WがNi、Co、Mnに対して0.1モル%となるように、上記共沈前駆体と混合し、酸素雰囲気の焼成炉に入れ、500℃で10時間焼成することで焼成中間体を得た。次に、得られた焼成中間体に、水酸化アルミニウムを投入してAlがNi、Co、Mn、Wに対して0.5モル%となるよう調整し、炭酸リチウムを混合後、酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、800℃で3時間焼成した。得られた焼成物をパルベライザーにて解砕することにより正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W+Al)=1.01となった。
【0049】
(比較例5)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを、Ni:Co:Mn=8.00:1:1のモル比で含む水溶液、14mol/Lのアンモニア水、14mol/Lの苛性ソーダ水を用意した。次に、反応槽pHが10?11になるように管理しながら一つの反応槽にこれらの溶液を投入しつつ、50℃の状態で撹拌して種晶を作製した。その後、温度、pHを調節して、撹拌しながら粒子成長させた。さらに、反応槽pHが12以上になるように苛性ソーダ水で調節しながら撹拌し、共沈中間体を作製し、ろ過・水洗することで共沈前駆体を得た。
次に、得られた共沈前駆体をLi/(Ni+Co+Mn)=1.005となるように炭酸リチウムとともに酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、750℃で5時間焼成することで焼成中間体を得た。次に、得られた焼成中間体に水酸化アルミニウムを投入してAlがNi、Co、Mnに対して0.5モル%となるように調整し、炭酸リチウムを混合後、酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、800℃で3時間焼成した。得られた焼成物をパルベライザーにて解砕することにより正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+Al)=1.01となった。
【0050】
(比較例6)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、タングステン酸ナトリウムを、Ni:Co:Mn:W=7.98:0.99:0.99:0.04のモル比で含む水溶液、14mol/Lのアンモニア水、14mol/Lの苛性ソーダ水を用意した。次に、反応槽pHが10?11になるように管理しながら一つの反応槽にこれらの溶液を投入しつつ、50℃の状態で撹拌して種晶を作製した。その後、温度、pHを調節して、撹拌しながら粒子成長させた。さらに、反応槽pHが12以上になるように苛性ソーダ水で調節しながら撹拌し、共沈中間体を作製し、ろ過・水洗することで共沈前駆体を得た。
次に、得られた共沈前駆体をLi/(Ni+Co+Mn+W)=1.01となるように炭酸リチウムとともに酸素雰囲気の焼成炉に入れ、660℃で3時間焼成後、750℃で5時間焼成し、得られた焼成物をパルベライザーにて解砕することにより正極材活物質の粉体を得た。その組成比はLi/(Ni+Co+Mn+W)=1.01となった。
【0051】
(評価)
こうしてできた実施例1?13、比較例1?6のサンプルを用いて下記の条件にて各評価を実施した。なお、表面被覆を確認する方法として、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や、X線光電子分光法(XPS)等を用いて測定することができる。TEMにおいてはエネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)と組み合わせ、正極材活物質断面から表面の被覆層や内層の状態を観測できる。XPSであれば、例えばArモノマーイオン銃によりスパッタすることで深さ方向分析を行い、Li、Ni、Co、Mn、WおよびAlまたはNb量を測定する。エッチングレートは、SiO_(2)換算で、例えば0.5nm/min?1nm/min程度である。本実施例において、具体的にはエッチングによる深さ分析を伴うXPS測定により、アルゴンガスを用いて正極活物質においてエッチングレート0.78nm/min(SiO_(2)換算)とした。
【0052】
-正極材組成の評価-
各正極材中の金属含有量を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)で測定し、各金属の組成比(モル比)を算出した。また、酸素含有量はLECO法で測定し、いずれも組成式において「O_(2)」であることを確認した。
【0053】
-第1の複合酸化物の結晶構造-
XRDの測定から、スピネル構造として代表されるLiMn_(2)O_(4)やLi_(4)Mn_(5)O_(12)の回折ピークやNiOも確認できず、全ての実施例及び比較例について、単一相の岩塩層状構造であることが分かった。
【0054】
-正極活物質の平均粒径(D50)-
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により、体積基準の累積粒度分布における50%累積時の粒径を測定することでメディアン径(D50)を求めた。
【0055】
-正極活物質の比表面積-
一般的な窒素ガス吸着法によって、BET比表面積を測定した。
【0056】
-第2の複合酸化物-
実施例1?11、比較例5の正極材活物質の粉体の断面TEM-EDX分析から表面の第2の複合酸化物で構成された被覆層にAlが観測されたが、コアとなる第1の複合酸化物の組織には確認できなかった。一方、Wは被覆層にて検出できなかった。XPSでのエッチングによる深さ分析でも同様な結果となった。
実施例12?13の正極材活物質の粉体の断面TEM-EDX分析から表面の第2の複合酸化物で構成された被覆層にNbが観測されたが、コアとなる第1の複合酸化物の組織には確認できなかった。一方、Wは被覆層にて検出できなかった。XPSでのエッチングによる深さ分析でも同様な結果となった。
比較例1?4の正極材活物質の粉体の断面TEM-EDX分析から表面の第2の複合酸化物で構成された被覆層にAlとWが観測され、タングステン酸リチウム(Li_(2)WO_(4)もしくはLi_(4)WO_(5)もしくはLi_(6)W_(2)O_(9))から成る粒子が確認できた。一方、コアとなる第1の複合酸化物の組織にはAlおよびWは確認できなかった。XPSでのエッチングによる深さ分析でも同様な結果となった。
比較例6の正極材活物質の粉体の断面TEM-EDX分析から表面の第2の複合酸化物で構成された被覆層およびコアとなる第1の複合酸化物の組織にAlおよびWは確認できなかった。XPSでのエッチングによる深さ分析でも同様な結果となった。
【0057】
-電池特性(充放電容量、サイクル特性)の評価-
正極活物質と、導電材と、バインダー(PVDF)を94:3:3の割合で秤量し、バインダーを有機溶媒(N-メチルピロリドン)に溶解したものに、正極活物質と導電材とを混合してスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。続いて、対極をLiとした評価用の対極Liコインセル(CR2032)を準備し、電解液に1M-LiPF_(6)をEC-DMC(3:7)に溶解したものを用いて、25℃で1Cの放電電流で得られた初期放電容量と10サイクル後の放電容量とを比較することによってサイクル特性(容量維持率)を測定した。具体的な評価条件及び表1に記載の容量維持率と直流抵抗増加率の定義を以下に示す。
・初回充放電(初期容量):25℃、充電4.23V;0.2C;2.5h、放電3.0V;0.2C
・1C充放電サイクル:45℃、充電4.23V;1C;2.5h、放電3.0V;1C
・容量維持率:55℃雰囲気で充放電サイクル評価(充電4.23V;1C、放電1C;3.0Vcut)を行ったときの、1サイクル目に対する10サイクル目の放電容量の割合。
・直流抵抗増加率:55℃雰囲気で充放電サイクル評価(充電4.23V;1C、放電1C;3.0Vcut)を行ったときの、1サイクル目に対する10サイクル目の直流抵抗値の割合。
これらの結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
(評価結果)
実施例1?13のサンプルは、いずれもLi、Ni、Co、Mn及びWを含有する第1の複合酸化物の粒子表面に、Liと、AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在するため、電池特性(初期容量、初期抵抗、サイクル特性)が良好であった。
比較例1および4では微細粒子ではない不均一なLi_(2)WO_(4)が被覆層に生成するため初期容量、初期抵抗、サイクル特性が不良であった。
比較例2では不均一なLi_(2)WO_(4)とLiAlO_(2)が被覆層に共存するため、初期容量、初期抵抗、サイクル特性が不良であった。
比較例3では過多なLi_(2)WO_(4)が被覆層に生成するため初期抵抗、サイクル特性が不良であった。
比較例5は、第1の複合酸化物のコア粒子がWを含有しないため、初期抵抗が不良であった。
比較例6は、第2の複合酸化物で構成された被覆層にAl、Nbが存在しないため、初期容量、サイクル特性が不良であった。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、Ni、Co、Mn及びWを含有する第1の複合酸化物の粒子表面に、Liと、AlまたはNbとの複合酸化物で構成された第2の複合酸化物が存在し、
組成式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)W_(e)M1_(f)O_(2)
(前記式において、M1はAlまたはNbであり、1.0≦a≦1.05、0.4≦b≦0.9、0.05≦c≦0.3、0.03≦d≦0.4、0<e≦0.005、0<f/(b+c+d+e)≦0.01)
で表されるリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記第2の複合酸化物が、LiAlO_(2)又はLiNbO_(3)である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項5】
請求項1または4に記載のリチウムイオン電池用正極活物質を有するリチウムイオン電池用正極。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン電池用正極を有するリチウムイオン電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-10-12 
出願番号 特願2015-213392(P2015-213392)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 161- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 結城 佐織  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 井上 猛
池渕 立
登録日 2019-05-31 
登録番号 特許第6533734号(P6533734)
権利者 JX金属株式会社
発明の名称 リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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