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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K |
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管理番号 | 1368998 |
異議申立番号 | 異議2020-700089 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-02-19 |
確定日 | 2020-10-28 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6562587号発明「フォーマー用組成物、該フォーマー用組成物入りフォーマー、該フォーマー用組成物を用いた消毒方法、及び、該フォーマー用組成物を用いた洗浄方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6562587号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔10-21〕について訂正することを認める。 特許第6562587号の請求項1ないし21に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6562587号の請求項1?21に係る特許についての出願は、平成31年4月3日(優先権主張 平成30年4月5日 日本国(JP))に出願され、令和1年8月2日にその特許権の設定登録がされ、同年8月21日にその特許公報が発行され、その後、その全請求項に係る発明の特許に対し、令和2年2月19日にキム ハクスン(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。 令和2年6月 5日付け 取消理由通知 同年8月 5日 意見書、訂正請求書の提出(特許権者) 同年8月17日付け 訂正請求があった旨の通知 なお、上記令和2年8月17日付けの通知に対し、特許異議申立人からの応答はなかった。 第2 訂正の適否 特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和2年8月5日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項10?21について訂正(以下「本件訂正」ということがある。)することを求めた。 1 本件訂正の内容 特許請求の範囲の請求項10の「テアニン、タウリン、アスパラギン酸塩」との記載を、「テアニン、アスパラギン酸塩」に訂正する。 2 本件訂正の適否 (1)一群の請求項について 本件訂正は、請求項10?21についてのものであるところ、請求項11?21は請求項10を直接的・間接的に引用するものであり、請求項10?21は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。そして、本件訂正の請求は、当該一群の請求項である請求項10?21についてされているから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 (2)訂正の目的 本件訂正は、請求項10にアミノ酸として列記されたものの中から「タウリン」を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (3)新規事項の追加、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無 本件訂正は、請求項10にアミノ酸として列記されたものの中から「タウリン」を削除するに過ぎないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (4)独立特許要件について 本件特許異議の申立ては、訂正された請求項10?21を含めた全請求項についてされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 3 まとめ 以上のとおりであるから、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項[10?21]について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項〔10?21〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1?21に係る発明は、令和2年8月5日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定される、次のとおりのもの(以下「本件発明1」などと、また、これらを合わせて「本件発明」ということがある。)である。 「【請求項1】 20?45重量%のエタノールと、 グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オレイン酸ナトリウム、レシチン、ステアロイル乳酸カルシウム、植物ステロール及びキラヤサポニンからなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、 アルカリ剤と、 アミノ酸とを含むことを特徴とするフォーマー用組成物。 【請求項2】 前記界面活性剤の濃度は、0.10?5.00重量%である請求項1に記載のフォーマー用組成物。 【請求項3】 前記グリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンカプリル酸エステル、ポリグリセリンカプリン酸エステル、ポリグリセリンラウリン酸エステル及びポリグリセリンミリスチン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載のフォーマー用組成物。 【請求項4】 前記ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル及びショ糖ステアリン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1?3のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項5】 前記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンステアリン酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1?4のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項6】 前記アルカリ剤の濃度は、0.10?10.00重量%である請求項1?5のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項7】 前記アルカリ剤は、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸二水素塩、リン酸水素二塩及びリン酸三塩からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1?6のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項8】 前記アルカリ剤は、ナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩である請求項7に記載のフォーマー用組成物。 【請求項9】 前記アミノ酸の濃度は、0.05?5.00重量%である請求項1?8のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項10】 前記アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、トレオニン(スレオニン)、システイン、メチオニン、プロリン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、シスチン、テアニン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、アルギニングルタミン酸塩、リシンアスパラギン酸塩及びリシングルタミン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1?9のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項11】 前記アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン及びリシンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1?10のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項12】 さらに酸剤を含む請求項1?11のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項13】 前記フォーマー用組成物中の前記酸剤の濃度は、0.001?2.00重量%である請求項12に記載のフォーマー用組成物。 【請求項14】 前記酸剤は、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸、酒石酸、フィチン酸、アジピン酸、グルコン酸及びコハク酸からなる群から選択される少なくとも1種である請求項12又は13に記載のフォーマー用組成物。 【請求項15】 さらに、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、カラギナン、タマリンド及びアルギン酸からなる群から選択される少なくとも1種の増粘剤を含む請求項1?14のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項16】 食品又は食品添加物として認められている化合物からなる請求項1?15のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項17】 ウイルス不活性化用である請求項1?16のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項18】 ノロウイルス不活性化用である請求項1?17のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項19】 請求項1?18のいずれかに記載のフォーマー用組成物を収容することを特徴とするフォーマー。 【請求項20】 請求項1?18のいずれかに記載のフォーマー用組成物を、泡状にして対象物に噴射する工程を含むことを特徴とする消毒方法。 【請求項21】 請求項1?18のいずれかに記載のフォーマー用組成物を、泡状にして対象物に噴射する工程を含むことを特徴とする洗浄方法。」 第4 取消理由の概要 当審が令和2年6月5日付けで通知した取消理由及び当該取消理由通知で採用しなかった特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は次のとおりである。 1 当審が令和2年6月5日付けで通知した取消理由の概要 [理由1]本件発明1?9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第2号に適合しない。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 [理由2]本件発明1?9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合しない。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 なお、以下に示した具体的な理由に記載のとおり、上記「本件発明1?9に係る特許」は、「本件発明10、12?21に係る特許」の誤記であった。 理由1の具体的な理由として、以下の指摘をしている。 「一般に、「アミノ酸」とはアミノ基とカルボキシ基を有する化合物を意味し、タウリン(H_(2)NCH_(2)CH_(2)SO_(3)H)はカルボキシ基を有しない点で「アミノ酸」には該当しないから、アミノ酸としてタウリンを挙げる請求項10の記載は明確でない。 したがって、請求項10の特許を受けようとする発明は明確でない。 請求項10を引用する請求項12?21についても同様である。」 理由2の具体的な理由として、以下の指摘をしている。 「しかし、請求項10に係る発明において「アミノ酸」として特定されている物質のうち、「タウリン」は上記1で述べたとおり「アミノ酸」に該当しないから、上記アミノ酸の化学構造とウイルスを不活性化することとの関係についての説明がタウリンに妥当するとはいえない。 また、実施例として、・・・タウリンを配合したフォーマー用組成物は具体的に記載されていない。 そして、フォーマー用組成物における泡状のしやすさ、殺菌効果及びウイルス不活性化効果について、タウリンがアミノ酸と同様に作用とするという出願時の技術常識もない。 してみると、請求項10に係る発明は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるとはいえない。 よって、請求項10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 請求項10を引用する請求項12?21に係る発明についても同様である。」 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要 [理由A]本件発明1?9、12?21は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。 したがって、本件発明1?9、12?21に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 具体的には、概要、以下の指摘がされている。 本件発明1?9、12?21は、アミノ酸の種類が何ら特定されていない発明であるが、実施例に記載があるのは、アルギニン、ヒスチジン、リシン塩酸塩、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、フェニルアラニン、トレオニンのみであり、発明の詳細な説明及び技術常識を参酌しても、これら以外のアミノ酸について、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるとはいえないから、本件発明1?9、12?21は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 [理由B]本件発明1?8、10?21は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。 したがって、本件発明1?8、10?21に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 具体的には、概要、以下の指摘がされている。 本件発明1?8、10?21は、アミノ酸の濃度が何ら特定されていない発明であるが、実施例に記載があるのは、0.5?2重量%のみであり、発明の詳細な説明及び技術常識を参酌しても、これら以外の濃度について、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるとはいえないから、本件発明1?8、10?21は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 [理由C]本件発明1?21は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。 したがって、本件発明1?21に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 具体的には、概要、以下の指摘がされている。 本件発明1?21は、pHが何ら特定されていない発明であるが、実施例に記載があるのは、pH8.5?12.3のみであり、発明の詳細な説明及び技術常識を参酌しても、これら以外のpHについて、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるとはいえないから、本件発明1?21は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 [理由D]本件発明1、3?21は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。 したがって、本件発明1、3?21に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 具体的には、概要、以下の指摘がされている。 本件発明1、3?21は、界面活性剤の濃度が何ら特定されていない発明であるが、実施例に記載があるのは、0.5?2重量%のみであり、発明の詳細な説明及び技術常識を参酌しても、これら以外の濃度について、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるとはいえないから、本件発明1、3?21は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 [理由E]本件発明1?5、7?21は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。 したがって、本件発明1?5、7?21に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 具体的には、概要、以下の指摘がされている。 本件発明1?5、7?21は、アルカリ剤の濃度が何ら特定されていない発明であるが、実施例に記載があるのは、0.5?3重量%のみであり、発明の詳細な説明及び技術常識を参酌しても、これら以外の濃度について、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるとはいえないから、本件発明1?5、7?21は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 [理由F]本件発明1?6、9?21は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。 したがって、本件発明1?6、9?21に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 具体的には、概要、以下の指摘がされている。 本件発明1?6、9?21は、アルカリ剤の種類が何ら特定されていない発明であるが、実施例に記載があるのは、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのみであり、発明の詳細な説明及び技術常識を参酌しても、これら以外のアルカリ剤について、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるとはいえないから、本件発明1?6、9?21は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 第5 当審の判断 1 当審が令和2年6月5日付けで通知した取消理由について (1)理由1について 理由1は、本件訂正前の請求項10に、アミノ酸として列記されたものの中に「タウリン」が存在することに基づく理由であるといえるところ、本件訂正により、請求項10にアミノ酸として列記されたものの中から「タウリン」が削除されたから、当該理由は、本件訂正により解消されているといえる。 (2)理由2について 理由2も、本件訂正前の請求項10に、アミノ酸として列記されたものの中に「タウリン」が存在することに基づく理由であるといえるところ、本件訂正により、請求項10にアミノ酸として列記されたものの中から「タウリン」が削除されたから、当該理由も、本件訂正により解消されているといえる。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、本件発明10、12?21に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しないから、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、また、本件発明10、12?21に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないから、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはえいない。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人が申し立てた取消理由について (1)本件明細書の記載及び解決しようとする課題 ア 願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、以下の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 特許文献1に記載のアルコール消毒剤組成物には、高濃度のアルコールが含まれているので、高い消毒効果が期待でき、また、シリコーン・ベースの界面活性剤が含まれているので、泡状にしやすいという効果があった。 【0009】 その一方で、例えば、・・・食品にアルコール消毒剤組成物が混入してしまう可能性がある。 特許文献1のアルコール消毒剤組成物に含まれるシリコーン・ベースの界面活性剤の人体への安全性は充分に確認されておらず、・・・。 そのため、特許文献1に記載のアルコール消毒剤組成物は、食品製造時に使用する機器や設備を消毒するのに適していないという問題点があった。 【0010】 本発明は、上記問題点を鑑みてなされた発明であり、本発明の目的は、泡状にしやすく、充分な殺菌効果及びウイルス不活性化効果を有する安全なフォーマー用組成物を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0011】 すなわち、本発明のフォーマー用組成物は、20?45重量%のエタノールと、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オレイン酸ナトリウム、レシチン、ステアロイル乳酸カルシウム、植物ステロール及びキラヤサポニンからなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、アルカリ剤とを含むことを特徴とする。」 「【0012】 本発明のフォーマー用組成物は、20?45重量%のエタノールを含む。 エタノールの濃度がこの範囲であると、フォーマー用組成物が泡状になりやすい。 また、充分な殺菌効果を示す。さらに、後述するアルカリ剤の効果により充分なウイルス不活性化効果も示す。 ・・・ 【0013】 本発明のフォーマー用組成物は、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オレイン酸ナトリウム、レシチン、ステアロイル乳酸カルシウム、植物ステロール及びキラヤサポニンからなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤を含む。 これらの界面活性剤の界面活性作用により、フォーマー用組成物を泡状にすることができる。さらに、本発明のフォーマー用組成物の使用時に、対象物を洗浄することもできる。 【0014】 本発明のフォーマー用組成物は、アルカリ剤を含む。 本発明のフォーマー用組成物をウイルスに使用した際に、アルカリ剤は、ウイルスの膜構造を変化させることができると考えられる。そのため、エタノールがウイルスに接触しやすくなり、ウイルス不活性化効果が向上すると考えられる。 【0015】 本発明のフォーマー用組成物では、上記界面活性剤の濃度は、0.10?5.00重量%であることが望ましい。 界面活性剤の濃度が0.10重量%未満であると、フォーマー用組成物が泡状になりにくくなる。 界面活性剤の濃度が5.00重量%を超えると、界面活性剤が対象物に残りやすくなる。 また、性能が頭打ちになり、費用対効果が低下してしまう。 【0016】 本発明のフォーマー用組成物では、上記グリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンカプリル酸エステル、ポリグリセリンカプリン酸エステル、ポリグリセリンラウリン酸エステル及びポリグリセリンミリスチン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。 ・・・ これらの界面活性剤は、エタノールの殺菌効果を向上させる効果、及び、フォーマー用組成物を泡状にする効果に優れる。 【0017】 本発明のフォーマー用組成物では、アルカリ剤の濃度は、0.10?10.00重量%であることが望ましい。 アルカリ剤の濃度が、0.10重量%未満であると、アルカリ剤を含むことによるウイルス不活性化効果が発揮されにくい。 アルカリ剤の濃度が、10.00重量%を超えると、pHが強アルカリ性になりやすく、また、保管中にアルカリ剤が析出しやすくなり、扱いにくくなる。 【0018】 本発明のフォーマー用組成物では、上記アルカリ剤は、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸二水素塩、リン酸水素二塩及びリン酸三塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。また、上記アルカリ剤は、ナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩であることが望ましい。 これらのアルカリ剤は、ウイルス不活性化効果を向上させることができる。 【0019】 本発明のフォーマー用組成物は、さらにアミノ酸を含むことが望ましい。 アミノ酸の分子内の窒素原子の非共有電子対は、アルカリ剤との相乗効果によってウイルスの膜構造を変化させることができると考えられる。 そのため、エタノールがよりウイルスに接触しやすくなり、ウイルスを不活性化することができると考えられる。 【0020】 本発明のフォーマー用組成物では、上記アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、トレオニン(スレオニン)、システイン、メチオニン、プロリン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、シスチン、テアニン、タウリン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、アルギニングルタミン酸塩、リシンアスパラギン酸塩及びリシングルタミン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。 これらのアミノ酸は、アルカリ剤との相乗効果によってウイルスを不活性化するのに適している。 【0021】 また、本発明のフォーマー用組成物では、上記アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン及びリシンからなる群から選択される少なくとも1種であることがより望ましい。 これらのアミノ酸は塩基性アミノ酸である。塩基性アミノ酸は、分子内に複数の窒素原子を有する。そのため、アルカリ剤との相乗効果によるウイルスの膜構造の変化を、より効果的に起こすことができる。 【0022】 本発明のフォーマー用組成物では、上記アミノ酸の濃度は、0.05?5.00重量%であることが望ましい。 アミノ酸の濃度が、0.05重量%未満であると、アミノ酸を含むことによるウイルス不活性化効果が発揮されにくい。 アミノ酸の濃度が、5.00重量%を超えると、保管中にアミノ酸が析出しやすくなる。 また、アミノ酸を含むことによるウイルス不活性化効果の向上が上限に近づき経済的でない。 【0023】 本発明のフォーマー用組成物は、さらに酸剤を含むことが望ましい。・・・ フォーマー用組成物が酸剤を含むことで、ウイルス不活性化効果がさらに向上する。また、酸剤を用いることにより、フォーマー用組成物のpHを調整することができる。 【0024】 本発明のフォーマー用組成物では、酸剤の濃度は、0.001?2.00重量%であることが望ましい。 酸剤の濃度が、0.001重量%未満であると、酸剤の濃度が低すぎ、エタノールのウイルス不活性化効果を充分に増強させにくい。 酸剤の濃度が、2.00重量%を超えると、酸剤の濃度が高すぎ、フォーマー用組成物を噴霧等した際に、べとつきやすくなり、また、酸剤の析出が生じやすくなる。また、pHが低くなりやすく身体に使用した際、又は、身体に付着した際に刺激性が現れる。 ・・・ 【0026】 本発明のフォーマー用組成物は、食品又は食品添加物として認められている化合物からなることが望ましい。 本発明のフォーマー用組成物がこのような化合物からなると、本発明のフォーマー用組成物が人体に摂取されたとしても安全である。 【0027】 本発明のフォーマー用組成物は、ウイルス不活性化用であってもよく、ノロウイルス不活性化用であってもよい。 本発明のフォーマー用組成物は、殺菌効果のみならず、ウイルス不活性化効果も有する。 特に、本発明のフォーマー用組成物は、ノロウイルス不活性化効果に優れる。 【0028】 本発明のフォーマーは、上記本発明のフォーマー用組成物を収容することを特徴とする。 ・・・ 【発明の効果】 【0030】 本発明のフォーマー用組成物は、泡状になりやすく、充分な殺菌効果及びウイルス不活性化効果も示す。 ・・・ 【発明を実施するための形態】 ・・・ 【0033】 ・・・ 以下の本発明のフォーマー用組成物の各構成材料について説明する。 【0034】 (エタノール) 本発明のフォーマー用組成物は、20?45重量%のエタノールを含む。・・・ 【0035】 (界面活性剤) 本発明のフォーマー用組成物は、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オレイン酸ナトリウム、レシチン、ステアロイル乳酸カルシウム、植物ステロール及びキラヤサポニンからなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤を含む。 これらの界面活性剤の界面活性作用により、フォーマー用組成物を泡状にすることができる。さらに、本発明のフォーマー用組成物の使用時に、対象物を洗浄することもできる。 【0036】 本発明のフォーマー用組成物では、上記界面活性剤の濃度は、0.10?5.00重量%であることが望ましく、0.20?2.00重量%であることがより望ましい。 界面活性剤の濃度が0.10重量%未満であると、フォーマー用組成物が泡状になりにくくなる。 界面活性剤の濃度が5.00重量%を超えると、界面活性剤が対象物に残りやすくなる。 また、性能が頭打ちになり、費用対効果が低下してしまう。 ・・・ 【0046】 これらの界面活性剤は、エタノールの殺菌効果を高める効果を有する。また、界面活性作用により、フォーマー用組成物を泡状にすることができる。さらに、本発明のフォーマー用組成物の使用時に、対象物を洗浄することもできる。 【0047】 (アルカリ剤) 本発明のフォーマー用組成物は、アルカリ剤を含む。 アルカリ剤は、ウイルスの膜構造を変化させることができると考えられる。 そのため、エタノールがウイルスに接触しやすくなり、ウイルスを不活性化することができると考えられる。 また、アルカリ剤は、油汚れに対する洗浄力を向上させることができる。 【0048】 また、アルカリ剤により、フォーマー用組成物のpHを調整することができる。 【0049】 本発明のフォーマー用組成物では、アルカリ剤の濃度は、0.10?10.00重量%であることが望ましく、0.10?5.00重量%であることがより望ましく、0.10?3.00重量%であることがさらに望ましく、0.20?2.00重量%であることがよりさらに望ましい。 アルカリ剤の濃度が、0.10重量%未満であると、アルカリ剤を含むことによるウイルス不活性化効果が発揮されにくい。 アルカリ剤の濃度が、10.00重量%を超えると、pHが強アルカリ性になりやすく、また、保管中にアルカリ剤が析出しやすくなり、扱いにくくなる。 【0050】 本発明のフォーマー用組成物では、アルカリ剤は、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸二水素塩、リン酸水素二塩、リン酸三塩、アルカリ金属の水酸化物及びアルカリ土類金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。これらの中では、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸二水素塩、リン酸水素二塩、リン酸三塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。 また、上記アルカリ剤は、ナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩であることが望ましい。 より具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましく、これらの中では、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム及びリン酸三カリウムからなる群から選択される少なくとも1種であることがより望ましい。 これらのアルカリ剤は、ウイルス不活性化効果を向上させることができる。 【0051】 (アミノ酸) 本発明のフォーマー用組成物は、さらにアミノ酸を含むことが望ましい。 アミノ酸の分子内の窒素原子の非共有電子対は、上記アルカリ剤との相乗効果によってウイルスの膜構造を変化させることができると考えられる。 このような作用により、エタノールがウイルスに接触しやすくなり、ウイルスを不活性化することができると考えられる。 【0052】 本発明のフォーマー用組成物では、上記アミノ酸の濃度は、0.05?5.00重量%であることが望ましく、0.05?3.00重量%であることがより望ましく、0.10?2.00重量%であることがさらに望ましい。 アミノ酸の濃度が、0.05重量%未満であると、アミノ酸を含むことによるウイルス不活性化効果が発揮されにくい。 アミノ酸の濃度が、5.00重量%を超えると、保管中にアミノ酸が析出しやすくなる。 また、アミノ酸を含むことによるウイルス不活性化効果の向上が上限に近づき経済的でない。 【0053】 本発明のフォーマー用組成物では、上記アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、トレオニン(スレオニン)、システイン、メチオニン、プロリン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、シスチン、テアニン、タウリン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、アルギニングルタミン酸塩、リシンアスパラギン酸塩及びリシングルタミン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。 これらのアミノ酸は、アルカリ剤との相乗効果によってウイルスを不活性化するのに適している。 【0054】 また、本発明のフォーマー用組成物では、上記アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン及びこれらのアミノ酸は塩基性アミノ酸である。リシンからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。 塩基性アミノ酸は、分子内に複数の窒素原子を有する。そのため、アルカリ剤との相乗効果によるウイルスの膜構造の変化を、より効果的に起こすことができる。 【0055】 なお、本発明のフォーマー用組成物を製造する際に、アミノ酸は、アミノ酸塩の態様で使用してもよい。特に、アミノ酸塩を構成するアミノ酸が塩基性アミノ酸である場合、アミノ酸塩は塩酸塩であることが望ましい。 【0056】 (酸剤) 本発明のフォーマー用組成物は、さらに酸剤を含むことが望ましい。・・・ フォーマー用組成物が酸剤を含むことで、ウイルス不活性化効果がさらに向上する。また、酸剤を用いることにより、フォーマー用組成物のpHを調整することができる。 【0057】 本発明のフォーマー用組成物では、上記酸剤の濃度は、0.001?2.00重量%であることが望ましく、0.01?1.00重量%であることがより望ましい。 酸剤の濃度が、0.001重量%未満であると、酸剤の濃度が低すぎ、エタノールのウイルス不活性化効果を充分に増強させにくい。 酸剤の濃度が、2.00重量%を超えると、酸剤の濃度が高すぎ、フォーマー用組成物を噴霧等した際に、べとつきやすくなり、また、酸剤の析出が生じやすくなる。また、pHが低くなりやすく身体に使用した際、又は、身体に付着した際に刺激性が現れる。 ・・・ 【0062】 (フォーマー用組成物のpH) 本発明のフォーマー用組成物のpHは、特に限定されない。 例えば、本発明のフォーマー用組成物がアミノ酸を含まない場合には、本発明のフォーマー用組成物のpHは、7?14であることが望ましく、8?13であることがより望ましい。 このような範囲であると、フォーマー用組成物のウイルス不活性化効果が向上する。 【0063】 また、本発明のフォーマー用組成物が、アミノ酸を含む場合には、本発明のフォーマー用組成物のpHは、3?12であることが望ましく、6?11であることがより望ましい。 上記の通り、本発明のフォーマー用組成物がアミノ酸を含む場合、アルカリ剤及びアミノ酸の相乗効果により、本発明のフォーマー用組成物は、充分なウイルス不活性化効果を示す。 特にpHが6?11であると、作業者の手等に本発明のフォーマー用組成物が付着したとしても安全である。さらに、中性であればより安全である。 【0064】 なお、本発明のフォーマー用組成物のpHは、アルカリ剤、酸剤及び無機塩の配合比率を変えることにより調整することができる。」 「【実施例】 【0082】 以下に本発明をより具体的に説明する実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 【0083】 (実施例1?14)及び(比較例1?3) 表1に示す配合で、実施例1?14及び比較例1?3のフォーマー用組成物を作製した。 なお、表1中、化合物の製造元等は以下の通りである。 ・・・ 【0084】 【表1】 【0085】 (大腸菌に対する殺菌効果の評価) (1)大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)を普通ブイヨン培地に接種し、35℃で24時間培養し菌液とした。 【0086】 (2)各実施例及び各比較例のフォーマー用組成物と菌液とを99:1の割合(容量)で混合し、室温で1分経過後、SCD培地に1白金耳移植し、35℃で48時間培養後、菌の生死を判定した。 【0087】 (3)SCD培地に濁りが見られた場合、菌が死滅しなかったと判断し、濁りが見られない場合菌が死滅したと判断した。 結果を表1に示す。評価基準は以下の通りである。 A:大腸菌が死滅した。 B:大腸菌が死滅しなかった。 【0088】 (タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルス感染力価測定) 各実施例及び各比較例に係るフォーマー用組成物を用い、上記(タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルス感染力価測定)の方法に基づき、作用時間0分におけるウイルス感染力価の値と、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。 A:4.0以上の感染力価の減少(充分な効果あり) B:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少(効果あり) C:2.0未満の感染力価の減少(効果なし) 【0089】 (タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルス感染力価測定) 各実施例及び各比較例に係るフォーマー用組成物を用い、上記(タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルス感染力価測定)の方法に基づき、作用時間0分におけるウイルス感染力価の値と、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。 A:4.0以上の感染力価の減少(充分な効果あり) B:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少(効果あり) C:2.0未満の感染力価の減少(効果なし) 【0090】 (インフルエンザウイルス感染力価測定) 各実施例及び各比較例に係るフォーマー用組成物を用い、上記(インフルエンザウイルス感染力価測定)の方法に基づき、作用時間0分におけるウイルス感染力価の値と、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。 A:4.0以上の感染力価の減少(充分な効果あり) B:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少(効果あり) C:2.0未満の感染力価の減少(効果なし) 【0091】 (洗浄力の評価) 黒色のポリプロピレン製ダンボール(10cm×10cm)に油汚れを想定した大豆白絞油0.3gと、手垢汚れを想定した人口皮脂(トリオレイン30%、トリパルミチン30%、オレイン酸15%、パルミチン酸15%、スクアレン10%)0.15gをそれぞれ塗布し、マグネチックスターラーの上に設置した。 それぞれの塗布した汚れの上に、各実施例及び各比較例のフォーマー用組成物を0.5mL滴下した。円盤型撹拌子(直径4cm)をレーヨン100%不織布(10cm×10cm)で包み、上部をクリップで固定した。それを滴下した各実施例及び各比較例に係るフォーマー用組成物の上に置き、40rpmの回転数で30秒間回転させた。回転後、円盤型撹拌子を取り除き、目視でポリプロピレン製ダンボール表面に残った汚れの落ち度合いを評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。 A:油汚れ、手垢汚れともに大部分の汚れが除去された。 B:油汚れ、手垢汚れの一部の汚れが除去された。 C:油汚れ、手垢汚れともに汚れがほとんど除去されなかった。 【0092】 実施例3及び比較例1のフォーマー用組成物を用いた「洗浄力の評価」の観察における写真を代表例として図1(a)?(d)に示す。 図1(a)は、実施例3のフォーマー用組成物を用いた油汚れに対する洗浄力の評価の写真である。 図1(b)は、実施例3のフォーマー用組成物を用いた手垢汚れに対する洗浄力の評価の写真である。 図1(c)は、比較例1のフォーマー用組成物を用いた油汚れに対する洗浄力の評価の写真である。 図1(d)は、比較例1のフォーマー用組成物を用いた手垢汚れに対する洗浄力の評価の写真である。 【0093】 (水平面への噴射後の泡の状態の評価) キャニヨン株式会社製フォーマー(型番:T-95 C7NFN)、株式会社吉野工業所製フォーマー、株式会社ライフプラテック製フォーマー、及び、竹本容器株式会社製フォーマー(型番:Z-305-101(F1))の4種のフォーマーを準備した。 【0094】 次に、各実施例及び各比較例のフォーマー用組成物を、各フォーマーに入れ、水平面に対し、15cmの距離から噴射した。 5秒後のフォーマー用組成物の状態を目視で観察し、泡の状態を評価した。評価基準は、以下の通りである。 A:4種のフォーマー全てにおいて、泡状に吐出され、5秒後の目視確認時も泡の状態を維持した。 B:1?3種のフォーマーにおいて、泡が吐出され、5秒後の目視確認時も泡の状態を維持した。 C:4種のフォーマー全てにおいて、泡状に吐出されなかった。 【0095】 ・・・ 【0096】 また、各実施例及び各比較例のフォーマー用組成物を用いた「水平面への噴射後の泡の状態の評価」の結果を表1に示す。 【0097】 (垂直面への噴射後の泡の状態の評価) 竹本容器株式会社製フォーマー(型番:Z-305-101(F1))を準備した。 次に、各実施例及び各比較例のフォーマー用組成物を、竹本容器株式会社製フォーマーに入れ、垂直面に対し、30cmの距離から噴射した。 噴射直後、5秒後及び10秒後のフォーマー用組成物の状態を目視で観察し、泡の状態を評価した。評価基準は、以下の通りである。 A:噴射直後、5秒後及び10秒後の目視確認時に泡が観察され、液だれも殆どなかった。 B:5秒後及び/又は10秒後の目視確認時に泡が観察されず、液だれが生じていた。 C:噴射直後の目視確認時に泡が観察されず、液だれが生じていた。 【0098】 ・・・ 【0099】 また、各実施例及び各比較例のフォーマー用組成物を用いた「垂直面への噴射後の泡の状態の評価」の結果を表1に示す。 【0100】 表1に示すように、実施例1?6のフォーマー用組成物は、「大腸菌に対する殺菌効果の評価」、「タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルス感染力価測定」、「タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルス感染力価測定」、「インフルエンザウイルス感染力価測定」、「洗浄力の評価」、「水平面への噴射後の泡の状態の評価」及び「垂直面への噴射後の泡の状態の評価」のいずれの評価も良好であった。 【0101】 表1に示すように、エタノールの濃度が低く、界面活性剤を含まない比較例1のフォーマー用組成物は、「大腸菌に対する殺菌効果の評価」、「タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルス感染力価測定」、「タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルス感染力価測定」及び「インフルエンザウイルス感染力価測定」が良好でなかった。 また、比較例1のフォーマー用組成物は、界面活性剤を含まないので、「水平面への噴射後の泡の状態の評価」及び「垂直面への噴射後の泡の状態の評価」が良好でなく、泡が形成されなかった。 【0102】 アルカリ剤を含まない比較例2のフォーマー用組成物は、「タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルス感染力価測定」、「タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルス感染力価測定」及び「インフルエンザウイルス感染力価測定」が良好でなかった。また、「洗浄力の評価」が良好でなかった。 【0103】 エタノールの濃度が高い比較例3のフォーマー用組成物は、「水平面への噴射後の泡の状態の評価」及び「垂直面への噴射後の泡の状態の評価」が良好でなく、泡が形成されなかった。」 イ 解決しようとする課題 本件特許請求の範囲、明細書及び図面の全ての記載事項(特に【0010】の記載)及び出願時の技術常識からみて、本件発明1の解決しようとする課題は、「泡状にしやすく、充分な殺菌効果及びウイルス不活性化効果を有する安全なフォーマー用組成物を提供すること」であると認める。 (2)理由Aについて 本件明細書には、アミノ酸について「【0019】本発明のフォーマー用組成物は、さらにアミノ酸を含むことが望ましい。アミノ酸の分子内の窒素原子の非共有電子対は、アルカリ剤との相乗効果によってウイルスの膜構造を変化させることができると考えられる。そのため、エタノールがよりウイルスに接触しやすくなり、ウイルスを不活性化することができると考えられる。」(下線は当審が付与。以下同様。)との記載があるところ(【0051】にも同様の記載がある。)、当該記載から、当業者は、一般的に、アミノ酸は、フォーマー用組成物が含むことが望ましい成分であり、アルカリ剤との相乗効果により、ウイルスの膜構造を変化させることができることにより、エタノールがよりウイルスに接触しやすくなり、ウイルスを不活性化することができることを理解できるといえる。 また、【0020】、【0021】、【0053】、【0054】には、望ましいアミノ酸が記載されている。 さらに、【0083】?【0103】には、実施例1?14として、各種アミノ酸を配合した、又は配合していないフォーマー用組成物について記載されており、それら組成物について、「大腸菌に対する殺菌効果の評価」、「タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルス感染力価測定」、「タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルス感染力価測定」、「インフルエンザウイルス感染力価測定」、「洗浄力の評価」、「水平面への噴射後の泡の状態の評価」及び「垂直面への噴射後の泡の状態の評価」についての結果が記載されており、実施例1?14の組成物は、いずれの評価についても良好であったことが記載されているから、それら組成物については、当業者が上記課題を解決できると認識できるといえる。そして、当該記載からは、各種アミノ酸を配合した場合のみでなく、アミノ酸を配合しない場合であっても、上記各評価が良好であることを当業者が把握できるといえる。 してみると、当業者は、具体的な実施例のないアミノ酸を用いた場合であっても、実施例に記載されているアミノ酸を用いた場合と同様に、「泡状にしやすく、充分な殺菌効果及びウイルス不活性化効果を有する安全なフォーマー用組成物を提供すること」という、本件発明1の課題を解決できると認識できるといえる。 本件発明2?9、12?21についても同様である。 したがって、理由Aの点で、本件発明1?9、12?21が、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。 (3)理由Bについて 本件明細書には、アミノ酸について上記(2)で示した事項が記載されており、さらに、アミノ酸の濃度について、アミノ酸の濃度は、0.05?5.00重量%であることが望ましいこと、アミノ酸の濃度が、0.05重量%未満であると、アミノ酸を含むことによるウイルス不活性化効果が発揮されにくいこと、アミノ酸の濃度が、5.00重量%を超えると、保管中にアミノ酸が析出しやすくなり、アミノ酸を含むことによるウイルス不活性化効果の向上が上限に近づき経済的でないことが記載されているところ(【0022】、【0052】)、これらの記載からは、アミノ酸の濃度は0.05?5.00重量%であることが望ましいとはいえるが、アミノ酸はフォーマー用組成物が含むことが望ましい成分(【0019】、【0051】)であるに過ぎないといえ、アミノ酸の濃度が0.05重量%未満であっても、ウイルス不活性化効果が全く得られないとは解することができず、また、アミノ酸の濃度が5.00重量%を超えると、保管、経済性の点で望ましくない事項が存在するといえるが、当該事項により、上記本件発明1の課題が解決できなくなるとまではいえない。 また、実施例1?14として、各種アミノ酸を0.10?2.00%配合したフォーマー用組成物の例及びアミノ酸を配合していないフォーマー用組成物の例並びにそれらの各種評価が記載されているところ(【0083】?【0103】)、いずれの評価についても良好であったことが記載されているから、それら組成物については、当業者が上記課題を解決できると認識できるといえる。そして、当該記載からは、各種アミノ酸を配合した場合のみでなく、アミノ酸を配合しない場合であっても、上記各評価が良好であることを当業者が把握できるといえる。 してみると、当業者は、アミノ酸の濃度について、実施例に記載された0.10?2.00%以外の濃度の場合であっても、実施例に記載されている濃度の場合と同様に、「泡状にしやすく、充分な殺菌効果及びウイルス不活性化効果を有する安全なフォーマー用組成物を提供すること」という、本件発明1の課題を解決できると認識できるといえる。 本件発明2?8、10?21についても同様である。 したがって、理由Bの点で、本件発明1?8、10?21が、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。 (4)理由Cについて 本件明細書には、pHについて、「【0062】(フォーマー用組成物のpH)本発明のフォーマー用組成物のpHは、特に限定されない。例えば、本発明のフォーマー用組成物がアミノ酸を含まない場合には、本発明のフォーマー用組成物のpHは、7?14であることが望ましく、8?13であることがより望ましい。このような範囲であると、フォーマー用組成物のウイルス不活性化効果が向上する。【0063】また、本発明のフォーマー用組成物が、アミノ酸を含む場合には、本発明のフォーマー用組成物のpHは、3?12であることが望ましく、6?11であることがより望ましい。上記の通り、本発明のフォーマー用組成物がアミノ酸を含む場合、アルカリ剤及びアミノ酸の相乗効果により、本発明のフォーマー用組成物は、充分なウイルス不活性化効果を示す。特にpHが6?11であると、作業者の手等に本発明のフォーマー用組成物が付着したとしても安全である。さらに、中性であればより安全である。【0064】なお、本発明のフォーマー用組成物のpHは、アルカリ剤、酸剤及び無機塩の配合比率を変えることにより調整することができる。」と記載されている。 また、アルカリ剤の濃度が、10.00重量%を超えると、pHが強アルカリ性になりやすいこと、酸剤を用いることでフォーマー用組成物のpHを調整することができ、酸剤の濃度が、2.00重量%を超えるとpHが低くなりやすく、身体に使用した際等に刺激性が現れること、アルカリ剤により、フォーマー用組成物のpHを調整できることが記載されている(【0017】、【0023】、【0024】、【0048】、【0049】、【0056】)。 そして、実施例2?6、8?14として、pHの範囲が8.5?10.5である組成物が記載されており、それら組成物についての、大腸菌に対する殺菌効果の評価、各種ウイルス感染力価測定、洗浄力、泡の状態の評価が記載されている(【0083】?【0103】)。 これら本件明細書の記載から、フォーマー用組成物のpHは、アミノ酸を含む場合、含まない場合に応じて、ウイルス不活性化効果の観点等から、また、安全性の観点から、それぞれ望ましい範囲があるものの、特に限定されないことが当業者には理解できる。さらに、酸剤の濃度が2.00重量%を超えるとpHが低くなりやすく、身体に使用した際等に刺激性が現れること等が当業者には理解できる。また、実施例2?6、8?14の記載から当業者は、pHが8.5?10.5の範囲内である場合に、殺菌効果、ウイルス不活性化効果、洗浄力、泡の状態が良好であることを具体的に確認し、当該実施例2?6、8?14の組成物が上記課題を解決できると認識できるといえる。 そして、pHに関しての上記望ましい範囲は、ウイルス不活性化効果、安全性を考慮したものであるから、本件発明1の課題である「泡状にしやすく、充分な殺菌効果及びウイルス不活性化効果を有する安全なフォーマー用組成物を提供すること」に関連するとはいえるものの、あくまで望ましい範囲であって、本件明細書の記載からは、pHは特に限定されないことが当業者に理解でき、しかも実施例に当該課題を解決できる組成物が具体的に示されているのであるから、本件発明1は、pHが上記望ましい範囲外にあっても、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。 本件発明2?21についても同様である。 特許異議申立人は、アミノ酸の効果を得るためには、組成物がアルカリ性であることが必須条件である蓋然性が高い旨主張するが、上記(2)、(3)で述べたことから、アミノ酸は本件発明の課題解決のための成分としては、必ずしも必要な成分とはいえず、また、本件明細書には、アミノ酸の分子内の窒素原子の非共有電子対は、アルカリ剤との相乗効果によってウイルスの膜構造を変化させることができると考えられること、そのため、エタノールがよりウイルスに接触しやすくなり、ウイルスを不活性化することができると考えられることが記載されているものの(【0019】、【0051】)、組成物がアルカリ性であることが必須条件であることは記載されておらず、アルカリ性であることが必須条件であることが出願時の技術常識であるともいえないから、上記主張は採用することができない。 したがって、理由Cの点で、本件発明1?21が、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。 (5)理由Dについて 本件明細書には、界面活性剤について、「【0013】・・・これらの界面活性剤の界面活性作用により、フォーマー用組成物を泡状にすることができる。さらに、本発明のフォーマー用組成物の使用時に、対象物を洗浄することもできる。」、「【0016】・・・これらの界面活性剤は、エタノールの殺菌効果を向上させる効果、及び、フォーマー用組成物を泡状にする効果に優れる。」、「【0035】(界面活性剤)本発明のフォーマー用組成物は、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オレイン酸ナトリウム、レシチン、ステアロイル乳酸カルシウム、植物ステロール及びキラヤサポニンからなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤を含む。これらの界面活性剤の界面活性作用により、フォーマー用組成物を泡状にすることができる。さらに、本発明のフォーマー用組成物の使用時に、対象物を洗浄することもできる。」、「【0046】これらの界面活性剤は、エタノールの殺菌効果を高める効果を有する。また、界面活性作用により、フォーマー用組成物を泡状にすることができる。さらに、本発明のフォーマー用組成物の使用時に、対象物を洗浄することもできる。」との記載がある。 また、界面活性剤の濃度について、「【0015】本発明のフォーマー用組成物では、上記界面活性剤の濃度は、0.10?5.00重量%であることが望ましい。界面活性剤の濃度が0.10重量%未満であると、フォーマー用組成物が泡状になりにくくなる。界面活性剤の濃度が5.00重量%を超えると、界面活性剤が対象物に残りやすくなる。また、性能が頭打ちになり、費用対効果が低下してしまう。」との記載がある(【0036】にも同様の記載がある。)。 さらに、実施例2?6、8?14として、界面活性剤の濃度が0.50?1.00%である組成物が記載され、それら組成物についての、大腸菌に対する殺菌効果の評価、各種ウイルス感染力価測定、洗浄力、泡の状態の評価が記載されている(【0083】?【0103】)。 これらの本件明細書の記載から、界面活性剤がエタノールの殺菌効果を向上させる効果、フォーマー用組成物を泡状にする効果を有し、対象物を洗浄することもできることが当業者には理解できるところ、その濃度についてはフォーマー用組成物の泡状のなりやすさ、対象物への残りやすさ、性能、費用対効果を考慮して望ましい範囲があることが当業者には理解できる。 さらに、実施例2?6、8?14の記載から、当業者は、界面活性剤の濃度が0.50?1.00%である場合に、殺菌効果、ウイルス不活性化効果、洗浄力、泡の状態が良好であることを具体的に確認することができ、当該実施例2?6、8?14の組成物は、上記課題を解決できると認識できるといえる。 そして、界面活性剤の上記望ましい範囲は、エタノールの殺菌効果を向上させる効果、フォーマー用組成物を泡状にする効果等を考慮したものであるから、本件発明1の課題である「泡状にしやすく、充分な殺菌効果及びウイルス不活性化効果を有する安全なフォーマー用組成物を提供すること」に関連するとはいえるものの、あくまで望ましい範囲であって、本件明細書の記載からは、界面活性剤の濃度が特定の範囲に限定されないことが当業者に理解でき、しかも実施例に当該課題を解決できる組成物が具体的に示されているのであるから、本件発明1は、界面活性剤の濃度が上記望ましい範囲外にあっても、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。 本件発明3?21についても同様である。 特許異議申立人の主張には、実施例以外の界面活性剤の濃度において課題が解決できないとする根拠が示されておらず、該主張は採用できない。 したがって、理由Dの点で、本件発明1、3?21が、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。 (6)理由Eについて 本件明細書には、アルカリ剤の濃度について、「【0017】本発明のフォーマー用組成物では、アルカリ剤の濃度は、0.10?10.00重量%であることが望ましい。アルカリ剤の濃度が、0.10重量%未満であると、アルカリ剤を含むことによるウイルス不活性化効果が発揮されにくい。アルカリ剤の濃度が、10.00重量%を超えると、pHが強アルカリ性になりやすく、また、保管中にアルカリ剤が析出しやすくなり、扱いにくくなる。」、「【0049】本発明のフォーマー用組成物では、アルカリ剤の濃度は、0.10?10.00重量%であることが望ましく、0.10?5.00重量%であることがより望ましく、0.10?3.00重量%であることがさらに望ましく、0.20?2.00重量%であることがよりさらに望ましい。アルカリ剤の濃度が、0.10重量%未満であると、アルカリ剤を含むことによるウイルス不活性化効果が発揮されにくい。アルカリ剤の濃度が、10.00重量%を超えると、pHが強アルカリ性になりやすく、また、保管中にアルカリ剤が析出しやすくなり、扱いにくくなる。」との記載があり、実施例2?6、8?14として、アルカリ剤の濃度が0.50?3.00%である組成物が記載され、それら組成物についての、大腸菌に対する殺菌効果の評価、各種ウイルス感染力価測定、洗浄力、泡の状態の評価が記載されている(【0083】?【0103】)。 また、本件明細書には、アルカリ剤について、「【0018】本発明のフォーマー用組成物では、上記アルカリ剤は、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸二水素塩、リン酸水素二塩及びリン酸三塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。また、上記アルカリ剤は、ナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩であることが望ましい。これらのアルカリ剤は、ウイルス不活性化効果を向上させることができる。」、「【0047】(アルカリ剤)本発明のフォーマー用組成物は、アルカリ剤を含む。アルカリ剤は、ウイルスの膜構造を変化させることができると考えられる。そのため、エタノールがウイルスに接触しやすくなり、ウイルスを不活性化することができると考えられる。また、アルカリ剤は、油汚れに対する洗浄力を向上させることができる。」、「【0050】本発明のフォーマー用組成物では、アルカリ剤は、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸二水素塩、リン酸水素二塩、リン酸三塩、アルカリ金属の水酸化物及びアルカリ土類金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。これらの中では、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸二水素塩、リン酸水素二塩、リン酸三塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。また、上記アルカリ剤は、ナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩であることが望ましい。より具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましく、これらの中では、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム及びリン酸三カリウムからなる群から選択される少なくとも1種であることがより望ましい。これらのアルカリ剤は、ウイルス不活性化効果を向上させることができる。」との記載がある。 これら本件明細書の記載から、アルカリ剤がウイルスの膜構造を変化させることができることにより、アルカリ剤によって、エタノールがウイルスに接触しやすくなり、ウイルスを不活性化することができるものであり、また、アルカリ剤は、油汚れに対する洗浄力を向上させることができる等の作用を有することが当業者には理解できるといえるところ、その濃度について、本件明細書には、ウイルス不活性効果、アルカリ剤の析出等を考慮した望ましい範囲が記載されているものの、特定の範囲に限定されると解される記載はない。 さらに、実施例2?6、8?14の記載から、当業者は、アルカリ剤の濃度が0.50?3.00%の範囲内である場合に、殺菌効果、ウイルス不活性化効果、洗浄力、泡の状態が良好であることを具体的に確認することができ、当該実施例2?6、8?14の組成物は、上記課題を解決できると認識する。 そして、アルカリ剤の濃度の上記望ましい範囲は、ウイルス不活性化効果等を考慮したものであるから、本件発明1の課題である「泡状にしやすく、充分な殺菌効果及びウイルス不活性化効果を有する安全なフォーマー用組成物を提供すること」に関連するとはいえるものの、あくまで望ましい範囲であって、本件明細書の記載からは、アルカリ剤の濃度は特定の範囲に限定されないことが当業者に理解でき、しかも実施例に当該課題を解決できる組成物が具体的に示されているのであるから、本件発明1は、アルカリ剤の濃度が上記望ましい範囲外にあっても、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。 本件発明2?5、7?21についても同様である。 特許異議申立人の主張には、実施例以外のアルカリ剤の濃度において課題が解決できないとする根拠が示されておらず、該主張は採用できない。 したがって、理由Eの点で、本件発明1?5、7?21が、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。 (7)理由Fについて 本件明細書には、アルカリ剤について、上記(6)で述べたとおりの事項が記載されており、また、上記(6)で述べたとおり、アルカリ剤がウイルスの膜構造を変化させることができることにより、アルカリ剤によって、エタノールがウイルスに接触しやすくなり、ウイルスを不活性化することができるものであり、また、アルカリ剤は、油汚れに対する洗浄力を向上させることができる等の作用を有することが当業者には理解できるところ、その種類については、炭酸塩、炭酸水素塩以外にもリン酸二水素塩、リン酸水素二塩、リン酸三塩、アルカリ金属の水酸化物及びアルカリ土類金属の水酸化物が例示されているから、そのようなアルカリ剤を上記した作用を有する物質として使用することができると当業者には理解できる。 さらに、実施例2?6、8?14の記載から当業者は、炭酸塩、炭酸水素塩である特定のアルカリ剤を用いた場合に、殺菌効果、ウイルス不活性化効果、洗浄力、泡の状態が良好であることを具体的に確認することができ、当該実施例2?6、8?14の組成物は、上記課題を解決できると認識できるといえる。 そして、アルカリ剤として、炭酸塩、炭酸水素塩以外のものを用いた場合に、本件発明1の課題である「泡状にしやすく、充分な殺菌効果及びウイルス不活性化効果を有する安全なフォーマー用組成物を提供すること」を解決できないという出願時の技術常識はなく、解決できないといえる根拠も見出せない。 してみれば、本件発明1は、アルカリ剤として、実施例2?6、8?14に記載されたもの以外のものを用いた場合であっても、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。 本件発明2?6、9?21についても同様である。 特許異議申立人は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを含む製剤は、いずれも炭酸イオンを含むものであり、炭酸イオンの洗浄効果は、重曹の洗浄効果を始め、古くからよく知られており、炭酸イオンが本件発明の課題を解決するために必須でないとはいえない旨主張するが、この主張は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを含む製剤、炭酸イオン及び重曹の洗浄効果を説明するに過ぎず、他のアルカリ剤を用いた場合には本件発明の課題を解決できないとする根拠を示していないので、採用できない。 したがって、理由Fの点で、本件発明1?6、9?21が、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。 (8)まとめ 以上のとおりであるから、上記理由A?Fのいずれの理由についても、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。 したがって、本件発明1?21に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはえいない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、当審が令和2年6月5日付けで通知した取消理由、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1?21に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 20?45重量%のエタノールと、 グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オレイン酸ナトリウム、レシチン、ステアロイル乳酸カルシウム、植物ステロール及びキラヤサポニンからなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、 アルカリ剤と、 アミノ酸とを含むことを特徴とするフォーマー用組成物。 【請求項2】 前記界面活性剤の濃度は、0.10?5.00重量%である請求項1に記載のフォーマー用組成物。 【請求項3】 前記グリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンカプリル酸エステル、ポリグリセリンカプリン酸エステル、ポリグリセリンラウリン酸エステル及びポリグリセリンミリスチン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載のフォーマー用組成物。 【請求項4】 前記ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル及びショ糖ステアリン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1?3のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項5】 前記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンステアリン酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1?4のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項6】 前記アルカリ剤の濃度は、0.10?10.00重量%である請求項1?5のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項7】 前記アルカリ剤は、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸二水素塩、リン酸水素二塩及びリン酸三塩からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1?6のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項8】 前記アルカリ剤は、ナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩である請求項7に記載のフォーマー用組成物。 【請求項9】 前記アミノ酸の濃度は、0.05?5.00重量%である請求項1?8のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項10】 前記アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、トレオニン(スレオニン)、システイン、メチオニン、プロリン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、シスチン、テアニン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、アルギニングルタミン酸塩、リシンアスパラギン酸塩及びリシングルタミン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1?9のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項11】 前記アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン及びリシンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1?10のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項12】 さらに酸剤を含む請求項1?11のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項13】 前記フォーマー用組成物中の前記酸剤の濃度は、0.001?2.00重量%である請求項12に記載のフォーマー用組成物。 【請求項14】 前記酸剤は、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸、酒石酸、フィチン酸、アジピン酸、グルコン酸及びコハク酸からなる群から選択される少なくとも1種である請求項12又は13に記載のフォーマー用組成物。 【請求項15】 さらに、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、カラギナン、タマリンド及びアルギン酸からなる群から選択される少なくとも1種の増粘剤を含む請求項1?14のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項16】 食品又は食品添加物として認められている化合物からなる請求項1?15のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項17】 ウイルス不活性化用である請求項1?16のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項18】 ノロウイルス不活性化用である請求項1?17のいずれかに記載のフォーマー用組成物。 【請求項19】 請求項1?18のいずれかに記載のフォーマー用組成物を収容することを特徴とするフォーマー。 【請求項20】 請求項1?18のいずれかに記載のフォーマー用組成物を、泡状にして対象物に噴射する工程を含むことを特徴とする消毒方法。 【請求項21】 請求項1?18のいずれかに記載のフォーマー用組成物を、泡状にして対象物に噴射する工程を含むことを特徴とする洗浄方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-10-16 |
出願番号 | 特願2019-71424(P2019-71424) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(A61K)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 奥谷 暢子 |
特許庁審判長 |
佐々木 秀次 |
特許庁審判官 |
冨永 保 村上 騎見高 |
登録日 | 2019-08-02 |
登録番号 | 特許第6562587号(P6562587) |
権利者 | 株式会社ニイタカ |
発明の名称 | フォーマー用組成物、該フォーマー用組成物入りフォーマー、該フォーマー用組成物を用いた消毒方法、及び、該フォーマー用組成物を用いた洗浄方法 |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人安富国際特許事務所 |