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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23C
管理番号 1369000
異議申立番号 異議2020-700037  
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-22 
確定日 2020-10-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6564110号発明「飲食品用乳化組成物、飲食品用乳化組成物の製造方法、飲食品及び乳飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6564110号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?10]、11、12について訂正することを認める。 特許第6564110号の請求項8?10、12に係る特許を維持する。 特許第6564110号の請求項1?7、11に係る特許についての異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6564110号の請求項1?12に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)3月20日(優先権主張 2013年(平成25年)3月21日、日本国)を国際出願日とする特願2015-506865号の一部を、平成30年7月11日に新たな特許出願としたものであって、令和1年8月2日に特許権の設定登録がされ、令和1年8月21日にその特許公報が発行され、令和2年1月22日に、その請求項1?12に係る発明の特許に対し、特許異議申立人 田中 眞喜子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和 2年 5月 7日付け 取消理由通知
同年 7月10日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 8月 3日 テレビ面接(特許権者)
同年 8月11日付け 特許法第120条の5第5項の規定に
基づく通知書
同年 9月 4日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否について

1 訂正の内容
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和2年7月10日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。その訂正内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許第6564110号の特許請求の範囲の請求項1(以下、単に「請求項1」と記載する。他の請求項についても同様。)を削除する。

(2)訂正事項2
請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
請求項7を削除する。

(8)訂正事項8
訂正前の請求項8の「請求項6に記載の飲食品用乳化組成物を含む乳飲料。」を、訂正後の請求項8において
「飲食品用乳化組成物と飲料のベースとなる液体とを含む乳飲料であって、
前記飲食品用乳化組成物は、全固形分が55重量%以上の乳製品と乳化剤とを含有し、
前記乳化剤が脂肪酸エステル類であり、
前記乳製品はMFFB%((水分量)/(全重量-乳脂肪分量)の百分率)が73重量%以上であり、FDB%((乳脂肪分量)/(全重量-水分量)の百分率)が93重量%以下であり、
前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である、乳飲料。」
と訂正する。(決定注:下線は訂正部分を示す。以下同様。)

(9)訂正事項9
訂正前の請求項9の「乳固形分が5.0重量%以上である、請求項8に記載の乳飲料。」を、訂正後の請求項9において「乳固形分が5.0重量%以上13.0重量%以下である、請求項8に記載の乳飲料。」と訂正する。

(10)訂正事項10
訂正前の請求項10の「請求項6に記載の飲食品用乳化組成物と飲料のベースとなる液体とを混合して製造される、乳飲料の製造方法。」を、訂正後の請求項10において
「飲食品用乳化組成物と飲料のベースとなる液体とを混合して製造される、乳飲料の製造方法であって、
前記飲食品用乳化組成物は、全固形分が55重量%以上の乳製品と乳化剤とを含有し、
前記乳化剤が脂肪酸エステル類であり、
前記乳製品はMFFB%((水分量)/(全重量-乳脂肪分量)の百分率)が73重量%以上であり、FDB%((乳脂肪分量)/(全重量-水分量)の百分率)が93重量%以下であり、
前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である、乳飲料の製造方法。」と訂正する。

(11)訂正事項11
請求項11を削除する。

(12)訂正事項12
訂正前の請求項12の「乳製品、及び、脂肪酸エステル類を含有する、乳飲料。」を、訂正後の請求項12において「乳製品、脂肪酸エステル類、及び飲料のベースとなる液体を含有する、乳飲料であって、
前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である、乳飲料。」
と訂正する。

2 訂正の適否

(1)一群の請求項ごとに訂正を請求することについて
訂正前の請求項1?10について、請求項2?10は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?10に対応する、訂正後の請求項1?10は、特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項であって、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。

(2)訂正事項1?7及び11について

ア 訂正の目的の適否
本件訂正の訂正事項1?7及び11に係る訂正は、それぞれ、訂正前の請求項1?7及び11を削除したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
本件訂正の訂正事項1?7及び11に係る訂正は、それぞれ、訂正前の請求項1?7及び11を削除したもので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたことは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件訂正の訂正事項1?7及び11に係る訂正は、それぞれ、訂正前の請求項1?7及び11を削除したもので、実質上特許請求の範囲特許請求の範囲の拡張・変更するものでないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項8について

ア 訂正の目的の適否
本件訂正の訂正事項8に係る訂正は、訂正前の請求項8が訂正前の請求項6を引用し、訂正前の請求項6がさらに訂正前の請求項1を引用するものであったところ、訂正前の請求項1の発明特定事項を全て含む独立形式請求項へ改めるとともに、訂正前の請求項8の「飲食品用乳化組成物を含む乳飲料」を、「飲食品用乳化組成物と飲料のベースとなる液体とを含む乳飲料」で「前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である」ものに限定するものである。
したがって、本件訂正の訂正事項8に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、同第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
本件訂正の訂正事項8に係る訂正における、訂正事項8の訂正前の請求項1の発明特定事項を全て含む独立形式請求項へ改める事項については、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたことが明らかである。
訂正事項8の「飲食品用乳化組成物と飲料のベースとなる液体とを含む乳飲料」で「前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である」ものとする事項については、願書に添付した明細書に、「【0055】本発明の乳飲料は、水、コーヒー抽出液、紅茶抽出液・・などの飲料のベースとなる液体と、本発明の飲食品用乳化組成物とを混合することにより製造することが好ましい。」と記載されている。
そうすると、本件訂正の訂正事項8に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
前記ア及びイで述べたとおり、本件訂正の訂正事項8に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、他の請求項との引用関係を解消することを目的とする訂正であって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載の範囲で特許請求の範囲の減縮するものであるとともに、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲特許請求の範囲の拡張・変更するものではない。
したがって、本件訂正の訂正事項8に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項9について

ア 訂正の目的の適否
本件訂正の訂正事項9に係る訂正は、訂正前の請求項9の「乳固形分が5.0重量%以上である」を、「乳固形分が5.0重量%以上13.0重量%以下である」と、「乳固形分」の「重量%」が下限値しか規定されていなかったところ上限値を規定し、「乳固形分」の「重量%」の範囲を限定するものである。
したがって、本件訂正の訂正事項9に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
訂正事項9の「乳固形分が5.0重量%以上13.0重量%以下である」とする事項については、願書に添付した明細書に、「【0060】発明の乳飲料中の乳固形分量は・・通常5.0重量%以上・・であり・・好ましくは13.0%重量以下・・である。」と記載されている。
そうすると、本件訂正の訂正事項9に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
前記ア及びイで述べたとおり、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載の範囲で特許請求の範囲の減縮するものであって、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項10について

ア 訂正の目的の適否
本件訂正の訂正事項10に係る訂正は、訂正前の請求項10が訂正前の請求項6を引用し、訂正前の請求項6がさらに訂正前の請求項1を引用するものであったところ、訂正前の請求項1の発明特定事項を全て含む独立形式請求項へ改めるとともに、訂正前の請求項10の「飲料のベースとなる液体」を、「前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である」ものに限定するものである。
したがって、本件訂正の訂正事項10に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、同第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
本件訂正の訂正事項10に係る訂正における、訂正事項10の訂正前の請求項1の発明特定事項を全て含む独立形式請求項へ改める事項については、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたことが明らかである。
訂正事項10の「前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である」ものとする事項については、願書に添付した明細書に、「【0055】本発明の乳飲料は、水、コーヒー抽出液、紅茶抽出液・・などの飲料のベースとなる液体と、本発明の飲食品用乳化組成物とを混合することにより製造することが好ましい。」と記載されている。
そうすると、本件訂正の訂正事項10に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
前記ア及びイで述べたとおり、本件訂正の訂正事項10に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、他の請求項との引用関係を解消することを目的とする訂正であって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載の範囲で特許請求の範囲の減縮するものであるとともに、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲特許請求の範囲の拡張・変更するものではない。
したがって、本件訂正の訂正事項10に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項12について

ア 訂正の目的の適否
本件訂正の訂正事項12に係る訂正は、訂正前の請求項12の「乳製品、及び、脂肪酸エステル類を含有する、乳飲料」を、「乳製品、脂肪酸エステル類、及び飲料のベースとなる液体を含有する、乳飲料」に限定するものである。
したがって、本件訂正の訂正事項12に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
本件訂正の訂正事項12に係る訂正における、訂正事項12の「乳製品、脂肪酸エステル類、及び飲料のベースとなる液体を含有する、乳飲料」とする事項については、願書に添付した明細書に、「【0055】本発明の乳飲料は、水、コーヒー抽出液、紅茶抽出液・・などの飲料のベースとなる液体と、本発明の飲食品用乳化組成物とを混合することにより製造することが好ましい。」と記載されている。
そうすると、本件訂正の訂正事項12に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
前記ア及びイで述べたとおり、本件訂正の訂正事項12に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載の範囲で特許請求の範囲の減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲特許請求の範囲の拡張・変更するものではない。
したがって、本件訂正の訂正事項12に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?10]、11、12についての訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項8?10、12に係る発明(以下「本件発明8」?「本件発明10」、「本件発明12」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項8?10、12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
飲食品用乳化組成物と飲料のベースとなる液体とを含む乳飲料であって、
前記飲食品用乳化組成物は、全固形分が55重量%以上の乳製品と乳化剤とを含有し、
前記乳化剤が脂肪酸エステル類であり、
前記乳製品はMFFB%((水分量)/(全重量-乳脂肪分量)の百分率)が73重量%以上であり、FDB%((乳脂肪分量)/(全重量-水分量)の百分率)が93重量%以下であり、
前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である、乳飲料。
【請求項9】
乳固形分が5.0重量%以上13.0重量%以下である、請求項8に記載の乳飲料。
【請求項10】
飲食品用乳化組成物と飲料のベースとなる液体とを混合して製造される、乳飲料の製造方法であって、
前記飲食品用乳化組成物は、全固形分が55重量%以上の乳製品と乳化剤とを含有し、
前記乳化剤が脂肪酸エステル類であり、
前記乳製品はMFFB%((水分量)/(全重量-乳脂肪分量)の百分率)が73重量%以上であり、FDB%((乳脂肪分量)/(全重量-水分量)の百分率)が93重量%以下であり、
前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である、乳飲料の製造方法。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
MFFB%((水分量)/(全重量-乳脂肪分量)の百分率)が73重量%以上であり、FDB%((乳脂肪分量)/(全重量-水分量)の百分率)が93重量%以下である乳製品、脂肪酸エステル類、及び飲料のベースとなる液体を含有する、乳飲料であって、
前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である、乳飲料。」

第4 特許異議申立理由及び取消理由

1 特許異議申立理由の概要

(1)本件特許発明1?4、6?9、11、12は、本件特許出願時に公知の甲1に記載された発明に係るものである。
従って、本件特許発明1?4、6?9、11、12は新規性を欠き、特許を受けることができない。

(2)本件特許発明1?12は、甲1に記載された発明に基づき当業者が容易に想到し得たことである。
従って、本件特許発明1?12は進歩性を欠き、特許を受けることができない。

2 当審が通知した取消理由の概要
当審が通知した取消理由の概要
訂正前の請求項1?12に係る発明に対して、令和2年5月7日付けで当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
特許異議申立理由は全て、当審が通知した取消理由に含まれている。

理由1 訂正前の請求項1?9、11、12に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、訂正前の請求項1?9、11、12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

理由2 訂正前の請求項1?12に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1?9、11、12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

刊行物1:特開平10-179026号公報(甲第1号証、以下「甲1」という。)

なお、当審が通知した取消理由は、特許異議申立理由の全てに、さらに訂正前の請求項5に係る発明に対し新規性なしとの理由を加えたものである。

第5 当審の判断
当審は、請求項8?10、12に係る特許は、当審の通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 理由1(特許法第29条第1項第3号)及び理由2(同法同条第2項)について

(1)甲1に記載された事項

甲1a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、深いこく味を有するO/W乳化組成物の製造方法、詳しくは、長期間保存しても風味の劣化が生じにくい、乳飲料並びに、パン、洋菓子素材用の乳等を主要原料とする食品に関するものである。」

甲1b「【0010】上記≪製造例≫で得られた非熟成のナチュラルチーズは、乳脂肪分55.8重量%、水分33.3重量%、蛋白質8.0重量%、無脂乳固形分10.9重量%の組成からなり、高脂肪、低水分の組成を有し、生鮮な乳風味を有したものである。
【0011】本発明に使用される上記冷凍ナチュラルチーズは、上述のようにして得られた非熟成のナチュラルチーズを、例えば冷凍庫内で冷凍保存する等により、該チーズの凍結温度(凍結点)以下の温度で冷凍変性させたものである。該チーズの凍結温度は、該チーズの水分含量により異なり、該水分含有量が40重量%程度のものは概ね-7.0?-10.0℃であり、30重量%程度のものは概ね-16.0?-18.0℃である。
【0012】本発明においては、上記の非熟成のナチュラルチーズの冷凍変性により、該チーズ中の蛋白質は、水和していた水の一部又は大部分を失い脱水され、その結果、分子内架橋結合が切断されて高次構造が変化し、ポリペプチド鎖の疎水性官能基が分子表面に露出して遊離状態になる為、解凍後に分子間架橋結合を生成しやすい状態にあると考えられる。これにより、得られるO/W乳化組成物における脂肪球がクラスタリングを起こすものと考えられる。」

甲1c「【0034】本発明の製造方法により得られたO/W乳化組成物は、長期間保存しても風味の劣化が生じにくい、乳飲料並びに、パン、洋菓子素材用の乳等を主要原料とする食品等に広く用いることができる。」

甲1d「【0036】≪実施例1≫73.42重量%の温水(60℃)に、トリポリリン酸Naを0.05重量%(対冷凍ナチュラルチーズ0.25重量%)を溶解後、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル(HLB16)を0.03重量%を均一に分散して分散液とした。次に、前記《製造例》に従って製造した非熟成のナチュラルチーズを用い、これを-18℃にて60日間冷凍保存品して冷凍変性させた、乳脂肪分55.8%、無脂乳固形分10.9%の冷凍ナチュラルチーズ20.0重量%を上記分散液に投入し、60℃まで加温した後、30分間混合攪拌して該冷凍ナチュラルチーズを溶解、乳化した。その後、更に、6.50重量%の砂糖を溶解後、予備乳化物を得た。次に、この予備乳化物を60℃の温度で、20kgf/cm^(2) の圧力で予備均質化し、直ちに130℃にて3秒間のUHT処理を行い、60℃の温度で1段100-2段90kgf/cm^(2) の圧力(2段/1段比0.90)で再度均質化し、10℃に冷却後、無菌充填機にて充填し、5℃の冷蔵庫中で24時間エージングして、O/W乳化組成物を得た。得られたO/W乳化組成物は、二次粒子の体積比率が全脂肪球の58.4%、粘度が20cps/5.0℃、乳脂肪分11.2重量%、無脂乳固形分2.2重量%の乳飲料であり、乳風味は、牛乳に酷似した、良好で深いこく味を有していた。(下記〔表1〕参照)・・・・・
【0041】【表1】



甲1e「【0045】≪実施例5≫43.3重量%の温水(60℃)に、ヘキサメタリン酸Naを0.40重量%(対冷凍ナチュラルチーズ1.14重量%)を溶解後、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル(HLB11)0.20重量%及びポリグリセリンモノステアレート(HLB13.4)0.10重量%を均一に分散して分散液とした。次に、実施例1で用いたものと同一の乳脂肪分55.8重量%、無脂乳固形分10.9重量%の冷凍ナチュラルチーズ(-18℃にて60日間冷凍保存品) 35.0重量%を上記分散液に投入し、60℃まで加温し、10分間混合攪拌した後、大平洋機工(株)製スパイラルピンミキサー(SPM-15W型)を用いて、60℃にて30分間循環粉砕溶解した。その後、更に、21.0重量%の脱塩ホエイパウダーを溶解して、予備乳化物を得た。次に、この予備乳化物を60℃の温度で20kgf/cm^(2) の圧力で予備均質化し、直ちに130℃にて3秒間のUHT処理を行い、60℃の温度で、1段150-2段120kgf/cm^(2) の圧力(2段/1段比=0.80)で再度均質化し、10℃に冷却後、無菌充填機にて充填し、5℃の冷蔵庫中で24時間エージングして、O/W乳化組成物を得た。得られたO/W乳化組成物は、二次粒子の体積比率が全脂肪球の55.6%、粘度が170cps/5.0℃、乳脂肪分19.5重量%、無脂乳固形分24.8重量%の合成濃縮乳状組成物で、3倍濃縮乳と同等の組成を持ち、還元した後の乳風味は、牛乳に酷似した、良好で深いこく味を有しており、飲料として、また、調理、製菓、製パン用に牛乳代替品として使用し得るものであった。・・・」

甲1f「【0063】【発明の効果】本発明の製造方法によれば、深いこく味を有し、加熱殺菌によっても、こく味が劣化や低下することのないO/W乳化組成物を得ることができる。」

(2)甲1に記載された発明
甲1は、「深いこく味を有するO/W乳化組成物の製造方法」(甲1a)に関し記載するものであって、その具体例の一つとして、実施例1(甲1d)及び実施例5(甲1e)に、具体的なO/W乳化組成物及びそれらの製造方法が記載されている。

そうすると、甲1の実施例1には、
「乳脂肪分55.8重量%、水分33.3重量%、蛋白質8.0重量%、無脂乳固形分10.9重量%の組成からなる非熟成のナチュラルチーズを用い、これを-18℃にて60日間冷凍保存品して冷凍変性させた、乳脂肪分55.8%、無脂乳固形分10.9%の冷凍ナチュラルチーズ20.0重量%を、73.42重量%の温水(60℃)に、トリポリリン酸Na0.05重量%(対冷凍ナチュラルチーズ0.25重量%)を溶解後、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル(HLB16)0.03重量%を均一に分散した分散液に投入し、60℃まで加温した後、30分間混合攪拌して該冷凍ナチュラルチーズを溶解、乳化し、その後、更に、6.50重量%の砂糖を溶解後、予備乳化物を得、この予備乳化物を60℃の温度で、20kgf/cm^(2) の圧力で予備均質化し、直ちに130℃にて3秒間のUHT処理を行い、60℃の温度で1段100-2段90kgf/cm^(2) の圧力(2段/1段比0.90)で再度均質化し、10℃に冷却後、無菌充填機にて充填し、5℃の冷蔵庫中で24時間エージングして、得られた、二次粒子の体積比率が全脂肪球の58.4%、粘度が20cps/5.0℃、乳脂肪分11.2重量%、無脂乳固形分2.2重量%の乳飲料である、O/W乳化組成物」
の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。

また、甲1の実施例1には、上記甲1発明1の製造方法として、
「乳脂肪分55.8重量%、水分33.3重量%、蛋白質8.0重量%、無脂乳固形分10.9重量%の組成からなる非熟成のナチュラルチーズを用い、これを-18℃にて60日間冷凍保存品して冷凍変性させた、乳脂肪分55.8%、無脂乳固形分10.9%の冷凍ナチュラルチーズ20.0重量%を、73.42重量%の温水(60℃)に、トリポリリン酸Na0.05重量%(対冷凍ナチュラルチーズ0.25重量%)を溶解後、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル(HLB16)0.03重量%を均一に分散した分散液に投入し、60℃まで加温した後、30分間混合攪拌して該冷凍ナチュラルチーズを溶解、乳化し、その後、更に、6.50重量%の砂糖を溶解後、予備乳化物を得、この予備乳化物を60℃の温度で、20kgf/cm^(2 )の圧力で予備均質化し、直ちに130℃にて3秒間のUHT処理を行い、60℃の温度で1段100-2段90kgf/cm^(2 )の圧力(2段/1段比0.90)で再度均質化し、10℃に冷却後、無菌充填機にて充填し、5℃の冷蔵庫中で24時間エージングして得る、二次粒子の体積比率が全脂肪球の58.4%、粘度が20cps/5.0℃、乳脂肪分11.2重量%、無脂乳固形分2.2重量%の乳飲料である、O/W乳化組成物の製造方法」
の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。

(3)本件発明8について

ア 甲1発明1との対比

(ア)甲1発明1の「乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル(HLB16)」を投入していることは、本件発明8の「乳化剤」を含有し、「乳化剤が脂肪酸エステル類であ」ることに相当する。

(イ)本件発明8の「全固形分」は、本件明細書に「【0013】・・ここでいう全固形分量とは、乳製品の総重量から、水分量を差し引いた値を意味する」と記載されている。
一方で、甲1発明1においては、「乳脂肪分55.8%、無脂乳固形分10.9%の冷凍ナチュラルチーズ」と記載されているが、水分量は明示されていないことから、「全固形分」は明らかとはいえない。
そして、甲1発明1の「冷凍ナチュラルチーズ」が本件発明8の「乳製品」に該当することは明らかであるから、甲1発明1の「乳脂肪分55.8%、無脂乳固形分10.9%の冷凍ナチュラルチーズ」と、本件発明8の「全固形分が55質量%以上の乳製品」とは、乳製品である限りにおいて共通する。

(ウ)甲1発明1の「O/W乳化組成物」は、「乳飲料である」とされているから、飲食品用といえ、「冷凍ナチュラルチーズ」と「ショ糖脂肪酸エステル(HLB16)」とを含有するものである。
そうすると、前記(ア)及び(イ)で述べたことを踏まえると、甲1発明1の「O/W乳化組成物」が「冷凍ナチュラルチーズ」と「ショ糖脂肪酸エステル(HLB16)」とを含有することは、本件発明8の「飲食品用乳化組成物は、乳製品と乳化剤とを含有」することに相当する。

(エ)甲1発明1に関して、段落【0036】には、「得られたO/W乳化組成物は、二次粒子の体積比率が全脂肪球の58.4%、粘度が20cps/5.0℃、乳脂肪分11.2重量%、無脂乳固形分2.2重量%の乳飲料であり」(決定注:下線は当審が付与。以下同様。)と記載されていることから、O/W乳化組成物によって乳飲料が構成されているといえる。
そうすると、前記(ア)?(ウ)で述べたことを踏まえると、甲1発明1の「二次粒子の体積比率が全脂肪球の58.4%、粘度が20cps/5.0℃、乳脂肪分11.2重量%、無脂乳固形分2.2重量%の乳飲料である、O/W乳化組成物」と、本件発明8の「飲食品用乳化組成物と飲料のベースとなる液体とを含む乳飲料」とは、少なくとも飲食品用乳化組成物から構成された乳飲料である限りにおいて共通する。

(オ)したがって、本件発明8と甲1発明1とは、
「少なくとも飲食品用乳化組成物から構成された乳飲料であって、
前記飲食品用乳化組成物は、前記乳製品と乳化剤とを含有し、
前記乳化剤が脂肪酸エステル類である、
乳飲料」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:乳製品が、本件発明8では、全固形分が55重量%以上であるのに対し、甲1発明1では、全固形分が明らかでない点
相違点1-2:乳製品が、本件発明8では、「MFFB%((水分量)/(全重量-乳脂肪分量)の百分率)が73重量%以上」であるのに対し、甲1発明1では、MFFB%が明らかでない点
相違点1-3:乳製品が、本件発明8では、「FDB%((乳脂肪分量)/(全重量-水分量)の百分率)が93重量%以下」であるのに対し、甲1発明1では、FDB%が明らかでない点
相違点1-4:乳飲料が、本件発明8では、飲料のベースとなる液体を含み、該液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液であるのに対し、甲1発明1では、O/W乳化組成物以外の成分について明記がない点

イ 判断

(ア)新規性について
事案に鑑み、相違点1-4から検討する。

甲1の段落【0063】には、上述のとおり、「得られたO/W乳化組成物は、二次粒子の体積比率が全脂肪球の58.4%、粘度が20cps/5.0℃、乳脂肪分11.2重量%、無脂乳固形分2.2重量%の乳飲料であり」と記載されており、その記載を根拠として甲1発明1が認定され、「二次粒子の体積比率が全脂肪球の58.4%、粘度が20cps/5.0℃、乳脂肪分11.2重量%、無脂乳固形分2.2重量%の乳飲料である、O/W乳化組成物」との特定がなされているのであるから、甲1発明1の「乳飲料」は「O/W乳化組成物」自体であると理解できる。
そして、甲1発明1の「O/W乳化組成物」にさらに、コーヒー抽出液又は紅茶抽出液などの「飲料のベースとなる液体」を含むことは、甲1に記載されておらず、技術常識から記載されているに等しい事項であるともいえない。
したがって、相違点1-4は、実質的な相違点といえる。

よって、本件発明8は、相違点1-1?相違点1-3を検討するまでもなく、甲1に記載された発明とはいえない。

(イ)進歩性について

a 相違点について
事案に鑑み、相違点1-4から検討する。

(a)甲1には、「【0034】本発明の製造方法により得られたO/W乳化組成物は、長期間保存しても風味の劣化が生じにくい、乳飲料並びに、パン、洋菓子素材用の乳等を主要原料とする食品等に広く用いることができる」(甲1c)と記載されている。
このことより、甲1発明1の「O/W乳化組成物」は、「乳飲料」や「パン、洋菓子素材用の乳等を主要原料とする食品」に広く用いられるものといえる。

(b)また、甲1の段落【0012】(甲1b)には、「・・非熟成のナチュラルチーズの冷凍変性により、該チーズ中の蛋白質は、水和していた水の一部又は大部分を失い脱水され、その結果、分子内架橋結合が切断されて高次構造が変化し、ポリペプチド鎖の疎水性官能基が分子表面に露出して遊離状態になる為、解凍後に分子間架橋結合を生成しやすい状態にあると考えられる。これにより、得られるO/W乳化組成物における脂肪球がクラスタリングを起こす・・」ことが記載されている。
このことから、甲1に記載された様々な用途の「O/W乳化組成物」は、含有させた非熟成のナチュラルチーズ中の蛋白質が、水和していた水の一部又は大部分を失い脱水され、その結果、分子内架橋結合が切断されて高次構造が変化し、解凍後に分子間架橋結合を生成しやすい状態となり、これにより得られるO/W乳化組成物における脂肪球がクラスタリングを起こすことを発明の前提としていると考えられる。

そうすると、甲1発明1の「乳飲料である、O/W乳化組成物」に、本件発明8の相違点1?4に係る構成である飲料のベースとなる液体である、コーヒー抽出液又は紅茶抽出液を加えても、上記発明の前提、すなわち、得られるO/W乳化組成物における脂肪球がクラスタリングしたものが何ら影響を受けず、そのO/W乳化組成物が安定に存在できることが、甲1に記載も示唆もされておらず、また、本件優先日当時の技術常識を勘案しても、そのような技術常識があったとも認められない以上、甲1発明1の「乳飲料」において、飲料のベースとなる液体である、コーヒー抽出液又は紅茶抽出液を含ませようとする動機付けがあったとは認められない。

(c)したがって、上記(a)及び(b)で述べたことより、甲1発明1の「乳飲料」において、飲料のベースとなる液体である、コーヒー抽出液又は紅茶抽出液を含ませることは、当業者といえども、甲1の記載及び周知技術から容易に想到し得たとはいえない。

b 本件発明8の効果について
本件発明8の効果は、本件明細書の段落【0005】、【0010】の記載及び実施例(【0066】?【0081】)により裏付けられているように、コーヒー量が多い場合を含めて、乳化安定性が良好でありながらも、優れた風香味を有しており、長期間保存しても効果が持続する乳飲料を提供できることと認められ、そのような効果は、甲1に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識を参酌しても、当業者が予測し得たものとはいえない。

c 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和2年9月4日付け意見書において、以下のことを主張している。
(a)本件発明は乳化安定性が良いものであり、5?100μmの二次粒子を用いる引用発明1の乳化安定性は悪いということであるが、本件発明においては、飲食品用乳化組成物の粒子径は規定されていないのであるから、そのような規定のない本件発明は、甲1に記載された発明に基づき進歩性を有しない。
(b)特定の実施例の評価を根拠に、本件発明が乳化安定性に優れている旨の主張は、その根拠を欠くものであり、認められるものではない。

しかしながら、上記(a)の主張については、上記aで検討したとおりであり、甲1発明1の「乳飲料」において、飲料のベースとなる液体である、コーヒー抽出液又は紅茶抽出液を含ませようとする動機付けがあったとは認められない以上、本件発明8は、飲食品用乳化組成物の粒子径が規定されていないものであったとしても、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
上記(b)の主張については、実施例2-1?2-13、2-17?2-19に、本件発明が乳化安定性に優れていることが示されている。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

d したがって、本件発明8は、相違点1-1?相違点1-3を検討するまでもなく、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上より、本件発明8は、本件優先日前に頒布された甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
また、本件発明8は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。

(4)本件発明9について
本件発明8は、本件優先日前に頒布された甲1に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明8の発明特定事項を含み、さらに乳固形分を特定した本件発明9についても、前記(3)で述べたことが該当するため、本件発明9は、本件発明8と同様に、甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
また、本件発明9は、本件発明8と同様に、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。

(5)本件発明10について

ア 甲1発明2との対比

(ア)甲1発明2の「乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル(HLB16)」を投入していることは、本件発明10の「乳化剤」を含有し、「乳化剤が脂肪酸エステル類であ」ることに相当する。

(イ)本件発明10の「全固形分」は、本件明細書に「【0013】・・ここでいう全固形分量とは、乳製品の総重量から、水分量を差し引いた値を意味する」と記載されている。
一方で、甲1発明2においては、「乳脂肪分55.8%、無脂乳固形分10.9%の冷凍ナチュラルチーズ」と記載されているが、水分量は明示されていないことから、「全固形分」は明らかとはいえない。
そして、甲1発明2の「冷凍ナチュラルチーズ」が本件発明10の「乳製品」に該当することは明らかであるから、甲1発明2の「乳脂肪分55.8%、無脂乳固形分10.9%の冷凍ナチュラルチーズ」と、本件発明10の「全固形分が55質量%以上の乳製品」とは、乳製品である限りにおいて共通する。

(ウ)甲1発明2の「O/W乳化組成物」は、「乳飲料である」とされているから、飲食品用といえ、「冷凍ナチュラルチーズ」と「ショ糖脂肪酸エステル(HLB16)」とを含有するものである。
そうすると、前記(ア)及び(イ)で述べたことを踏まえると、甲1発明2の「O/W乳化組成物」が「冷凍ナチュラルチーズ」と「ショ糖脂肪酸エステル(HLB16)」とを含有することは、本件発明10の「飲食品用乳化組成物は、乳製品と乳化剤とを含有」することに相当する。

(エ)甲1発明2に関して、段落【0036】には、「得られたO/W乳化組成物は、二次粒子の体積比率が全脂肪球の58.4%、粘度が20cps/5.0℃、乳脂肪分11.2重量%、無脂乳固形分2.2重量%の乳飲料であり」と記載されていることから、O/W乳化組成物によって乳飲料が構成されているといえる。
そうすると、前記(ア)?(ウ)で述べたことを踏まえると、甲1発明2の「二次粒子の体積比率が全脂肪球の58.4%、粘度が20cps/5.0℃、乳脂肪分11.2重量%、無脂乳固形分2.2重量%の乳飲料である、O/W乳化組成物の製造方法」と、本件発明10の「飲食品用乳化組成物と飲料のベースとなる液体とを混合して製造される、乳飲料の製造方法」「前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である、乳飲料の製造方法」とは、少なくとも飲食品用乳化組成物を用いて製造される、乳飲料の製造方法である限りにおいて共通する。

(オ)したがって、本件発明10と甲1発明2とは、
「少なくとも飲食品用乳化組成物を用いて製造される、乳飲料の製造方法であって、
前記飲食品用乳化組成物は、前記乳製品と乳化剤とを含有し、
前記乳化剤が脂肪酸エステル類である、
乳飲料の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-1:乳製品が、本件発明10では、全固形分が55重量%以上であるのに対し、甲1発明2では、全固形分が明らかでない点
相違点2-2:乳製品が、本件発明10では、「MFFB%((水分量)/(全重量-乳脂肪分量)の百分率)が73重量%以上」であるのに対し、甲1発明2では、MFFB%が明らかでない点
相違点2-3:乳製品が、本件発明10では、「FDB%((乳脂肪分量)/(全重量-水分量)の百分率)が93重量%以下」であるのに対し、甲1発明2では、FDB%が明らかでない点
相違点2-4:乳飲料の製造方法が、本件発明10では、飲食品用乳化組成物と飲料のベースとなる液体とを混合させており、該液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液であるのに対し、甲1発明2では、飲食品用乳化組成物に、コーヒー抽出液又は紅茶抽出液である、飲料のベースとなる液体を混合させていない点

イ 判断(進歩性について)
事案に鑑み、相違点2-4から検討する。
相違点2-4における検討事項は、相違点1-4における検討事項と、実質的に同じである。
したがって、上記(3)イ(イ)で述べたとおりであるから、甲1発明2の「乳飲料の製造方法」において、飲料のベースとなる液体である、コーヒー抽出液又は紅茶抽出液を混合させることは、当業者といえども、甲1の記載及び周知技術から容易に想到し得たとはいえない。
また、本件発明10の効果についても、当業者が予測し得たものとはいえない。

したがって、本件発明10は、相違点2-1?相違点2-3を検討するまでもなく、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上より、本件発明10は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。

(6)本件発明12について

ア 甲1発明1との対比

(ア)甲1発明1の「ショ糖脂肪酸エステル(HLB16)」は、本件発明12の「脂肪酸エステル類」に相当する。

(イ)甲1発明1の「冷凍ナチュラルチーズ」が本件発明12の「乳製品」に該当することは明らかであるから、本件発明12の「乳製品」に相当する。

(ウ)甲1発明1の「O/W乳化組成物」は、「乳飲料」であり、「冷凍ナチュラルチーズ」と「ショ糖脂肪酸エステル(HLB16)」とを含有するものである。
そうすると、前記(ア)及び(イ)で述べたことを踏まえると、甲1発明1の「O/W乳化組成物」が「冷凍ナチュラルチーズ」と「ショ糖脂肪酸エステル(HLB16)」とを含有することは、本件発明12の「乳製品、脂肪酸エステル類」「を含有する、乳飲料」に相当する。

(エ)したがって、本件発明12と甲1発明1とは、
「乳製品、脂肪酸エステル類を含有する、乳飲料」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3-1:乳製品が、本件発明12では、「MFFB%((水分量)/(全重量-乳脂肪分量)の百分率)が73重量%以上」であるのに対し、甲1発明1では、MFFB%が明らかでない点
相違点3-2:乳製品が、本件発明12では、「FDB%((乳脂肪分量)/(全重量-水分量)の百分率)が93重量%以下」であるのに対し、甲1発明1では、FDB%が明らかでない点
相違点3-3:乳飲料が、本件発明12では、飲料のベースとなる液体を含み、該液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液であるのに対し、甲1発明1では、コーヒー抽出液又は紅茶抽出液である、飲料のベースとなる液体を含むか明らかでない点

イ 判断

(ア)新規性について
事案に鑑み、相違点3-3から検討する。
相違点3-3における検討事項は、相違点1-4における検討事項と、実質的に同じである。
したがって、上記(3)イ(ア)で述べたとおりであるから、甲1発明1の「O/W乳化組成物」にさらに、コーヒー抽出液又は紅茶抽出液などの「飲料のベースとなる液体」を含むことは、甲1に記載されておらず、技術常識から記載されているに等しい事項であるともいえない。
したがって、相違点3-3は、実質的な相違点といえる。

よって、本件発明12は、相違点3-1?相違点3-2を検討するまでもなく、甲1に記載された発明とはいえない。

(イ)進歩性について
事案に鑑み、相違点3-3から検討する。
相違点3-3における検討事項は、相違点1-4における検討事項と、実質的に同じである。
したがって、上記(3)イ(イ)で述べたとおりであるから、甲1発明1の「乳飲料」において、飲料のベースとなる液体である、コーヒー抽出液又は紅茶抽出液を含ませることは、当業者といえども、甲1の記載及び周知技術から容易に想到し得たとはいえない。
また、本件発明12の効果についても、当業者が予測し得たものとはいえない。

したがって、本件発明12は、相違点3-1?相違点3-2を検討するまでもなく、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上より、本件発明12は、本件優先日前に頒布された甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということができない。
また、本件発明12は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。

2 まとめ
以上(3)?(6)より、本件発明8、9、12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲1)に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、本件発明8?10、12は、当該頒布された刊行物(甲1)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、本件発明8?10、12に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。
よって、取消理由1及び取消理由2は解消している。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明8?10、12に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由並びに証拠によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件発明8?10、12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件発明1?7、11に係る特許については、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項1?7、11に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
飲食品用乳化組成物と飲料のベースとなる液体とを含む乳飲料であって、
前記飲食品用乳化組成物は、全固形分が55重量%以上の乳製品と乳化剤とを含有し、
前記乳化剤が脂肪酸エステル類であり、
前記乳製品はMFFB%((水分量)/(全重量-乳脂肪分量)の百分率)が73重量%以上であり、FDB%((乳脂肪分量)/(全重量-水分量)の百分率)が93重量%以下であり、
前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である、乳飲料。
【請求項9】
乳固形分が5.0重量%以上13.0重量%以下である、請求項8に記載の乳飲料。
【請求項10】
飲食品用乳化組成物と飲料のベースとなる液体とを混合して製造される、乳飲料の製造方法であって、
前記飲食品用乳化組成物は、全固形分が55重量%以上の乳製品と乳化剤とを含有し、
前記乳化剤が脂肪酸エステル類であり、
前記乳製品はMFFB%((水分量)/(全重量-乳脂肪分量)の百分率)が73重量%以上であり、FDB%((乳脂肪分量)/(全重量-水分量)の百分率)が93重量%以下であり、
前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である、乳飲料の製造方法。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
MFFB%((水分量)/(全重量-乳脂肪分量)の百分率)が73重量%以上であり、FDB%((乳脂肪分量)/(全重量-水分量)の百分率)が93重量%以下である乳製品、脂肪酸エステル類、及び飲料のベースとなる液体を含有する、乳飲料であって、
前記液体がコーヒー抽出液又は紅茶抽出液である、乳飲料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-10-16 
出願番号 特願2018-131383(P2018-131383)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A23C)
P 1 651・ 121- YAA (A23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉森 晃  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 佐々木 秀次
齊藤 真由美
登録日 2019-08-02 
登録番号 特許第6564110号(P6564110)
権利者 三菱ケミカルフーズ株式会社
発明の名称 飲食品用乳化組成物、飲食品用乳化組成物の製造方法、飲食品及び乳飲料  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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