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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C09J |
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管理番号 | 1369002 |
異議申立番号 | 異議2020-700068 |
総通号数 | 253 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-01-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-02-07 |
確定日 | 2020-10-29 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6559715号発明「多層フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6559715号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?16〕について訂正することを認める。 特許第6559715号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第第6559715号(以下「本件特許」という。)の請求項1?16に係る特許についての出願は、2016年1月28日〔優先権主張 平成27年1月28日(JP)日本国〕を国際出願日とする特願2016-572144として特許出願されたものであって、令和元年7月26日に特許権の設定登録がされ、令和元年8月14日に特許掲載公報が発行され、その請求項1?16に係る発明の特許に対し、令和2年2月7日に打揚洋次(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。 令和2年 4月22日付け 取消理由通知 同年 6月26日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 7月 1日付け 訂正請求があった旨の通知 なお、特許異議申立人は、上記訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答していない。 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 令和2年6月26日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は『特許第6559715号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?16について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1及び2からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。 (1)訂正事項1 訂正前の請求項1に「芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物である熱可塑性エラストマー(A)を含有する熱可塑性重合体組成物からなる接着層と、110?160℃の任意の温度における弾性率が2?600MPaである非晶性樹脂からなる基材層とを有し、前記非晶性樹脂のガラス転移温度より5℃低い温度における破断伸度が160%以上である多層フィルム。」とあるのを、 訂正後の請求項1で「芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物である熱可塑性エラストマー(A)を含有する熱可塑性重合体組成物からなる接着層と、110?160℃の任意の温度における弾性率が2?600MPaである非晶性樹脂からなる基材層とを有し、前記非晶性樹脂のガラス転移温度より5℃低い温度における破断伸度が160%以上であり、 前記共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)が、1,2-結合量および3,4-結合量が合わせて40モル%以上であるイソプレン単位、ブタジエン単位またはイソプレン/ブタジエン単位を含有する重合体ブロックであって、 熱可塑性重合体組成物が、前記熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂(B1)及び/又は極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)である接着付与成分(B)10?100質量部を含有する、 三次元形状を有する被着体に接着するための多層フィルム。」との記載に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3?16も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項2に「前記共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)が、1,2-結合量および3,4-結合量が合わせて40モル%以上であるイソプレン単位、ブタジエン単位またはイソプレン/ブタジエン単位を含有する重合体ブロックであって、 熱可塑性重合体組成物が、前記熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂(B1)及び/又は極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)である接着付与成分(B)10?100質量部を含有する、請求項1に記載の多層フィルム。」とあるのを、 訂正後の請求項2で「芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物である熱可塑性エラストマー(A)を含有する熱可塑性重合体組成物からなる接着層と、110?160℃の任意の温度における弾性率が2?600MPaである非晶性樹脂からなる基材層とを有し、前記非晶性樹脂のガラス転移温度より5℃低い温度における破断伸度が160%以上であり、 前記共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)が、1,2-結合量および3,4-結合量が合わせて40モル%以上であるイソプレン単位、ブタジエン単位またはイソプレン/ブタジエン単位を含有する重合体ブロックであって、 熱可塑性重合体組成物が、前記熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂(B1)及び/又は極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)である接着付与成分(B)10?100質量部を含有する、 三次元曲面を有する物品に対して被覆成形するための多層フィルム。」との記載に訂正する。 請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3?12及び14?16も同様に訂正する。 (3)一群の請求項について 訂正事項1及び2に係る訂正前の請求項1?16について、その請求項2?16はいずれも請求項1を直接又は間接的に引用しているものであるから、訂正前の請求項1?16に対応する訂正後の請求項1?16は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。 したがって、訂正事項1及び2による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1について ア.訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載に「前記共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)が、1,2-結合量および3,4-結合量が合わせて40モル%以上であるイソプレン単位、ブタジエン単位またはイソプレン/ブタジエン単位を含有する重合体ブロックであって、熱可塑性重合体組成物が、前記熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂(B1)及び/又は極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)である接着付与成分(B)10?100質量部を含有する、三次元形状を有する被着体に接着するための」との記載を追加することにより、訂正前の請求項1に記載された「多層フィルム」の技術的範囲を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 訂正事項1は、上記ア.に示したように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 ウ.新規事項の有無 訂正事項1は、訂正前の請求項2の記載及び本件特許明細書の段落0003の「三次元形状を有する被着体に加飾フィルムを接着する方法」との記載に基づいて導き出されるものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (2)訂正事項2ついて ア.訂正の目的 訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する請求項2の従属形式での記載を、請求項1を引用しない独立形式での記載に改めるとともに、新たに「三次元曲面を有する物品に対して被覆成形するための」との記載を追加することにより、訂正前の請求項2に記載された「多層フィルム」の技術的範囲を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」及び同項第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 訂正事項2は、上記ア.に示したように「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」及び「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 ウ.新規事項の有無 訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載及び本件特許明細書の段落0007の「三次元曲面を有する物品に対して被覆成形性がよく成形加工が行いやすいフィルムが求められている。」との記載に基づいて導き出されるものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 3.まとめ 以上総括するに、訂正事項1及び2による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?16〕について訂正を認める。 第3 本件発明 上記「第2」のとおり本件訂正は容認し得るものであるから、本件訂正による訂正後の請求項1?16に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「 【請求項1】 芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物である熱可塑性エラストマー(A)を含有する熱可塑性重合体組成物からなる接着層と、110?160℃の任意の温度における弾性率が2?600MPaである非晶性樹脂からなる基材層とを有し、前記非晶性樹脂のガラス転移温度より5℃低い温度における破断伸度が160%以上であり、 前記共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)が、1,2-結合量および3,4-結合量が合わせて40モル%以上であるイソプレン単位、ブタジエン単位またはイソプレン/ブタジエン単位を含有する重合体ブロックであって、 熱可塑性重合体組成物が、前記熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂(B1)及び/又は極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)である接着付与成分(B)10?100質量部を含有する、 三次元形状を有する被着体に接着するための多層フィルム。 【請求項2】 芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物である熱可塑性エラストマー(A)を含有する熱可塑性重合体組成物からなる接着層と、110?160℃の任意の温度における弾性率が2?600MPaである非晶性樹脂からなる基材層とを有し、前記非晶性樹脂のガラス転移温度より5℃低い温度における破断伸度が160%以上であり、 前記共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)が、1,2-結合量および3,4-結合量が合わせて40モル%以上であるイソプレン単位、ブタジエン単位またはイソプレン/ブタジエン単位を含有する重合体ブロックであって、 熱可塑性重合体組成物が、前記熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂(B1)及び/又は極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)である接着付与成分(B)10?100質量部を含有する、 三次元曲面を有する物品に対して被覆成形するための多層フィルム。 【請求項3】 前記基材層における非晶性樹脂は、メタクリル系樹脂(F)および弾性体(R)を含むアクリル系樹脂からなり、 メタクリル系樹脂(F)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を80質量%以上有し、 メタクリル系樹脂(F)と弾性体(R)との合計100質量部に対して、メタクリル系樹脂(F)が10?99質量部であり、弾性体(R)が90?1質量部である、請求項1または2に記載の多層フィルム。 【請求項4】 前記弾性体(R)は、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を含むメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)およびアクリル酸エステルに由来する構造単位を含むアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を其々独立に、一分子中に1又は複数有し、かつ、メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)を10?80質量%、アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を90?20質量%の割合で含み、 メタクリル系樹脂(F)の重量平均分子量Mw(F)、ブロック共重合体(G)に含まれる一分子中のメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の重量平均分子量Mw(g1-total)、およびブロック共重合体(G)に含まれる一分子中のアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の重量平均分子量Mw(g2-total)としたときに、 (1) 0.3≦Mw(F)/Mw(g1-total)≦4.0 (2) 30,000≦Mw(g2-total)≦140,000 である、請求項3に記載の多層フィルム。 【請求項5】 前記アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)が、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位50?90質量%および(メタ)アクリル酸芳香族エステルに由来する構造単位50?10質量%を含む、請求項4に記載の多層フィルム。 【請求項6】 前記弾性体(R)が、メタクリル酸メチル80質量%以上を含む外層(e1)ならびにアクリル酸アルキルエステル70?99.8質量および架橋性単量体0.2?30質量%を含む内層(e2)を少なくとも有する多層構造体(E)である、請求項3に記載の多層フィルム。 【請求項7】 前記熱可塑性重合体組成物がさらに、極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)(但し、前記極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)とは異なる)を含む、請求項1?6のいずれかに記載の多層フィルム。 【請求項8】 加飾フィルムである、請求項1?7のいずれかに記載の多層フィルム。 【請求項9】 前記基材層が、非晶性樹脂100質量部に対して着色剤1?10質量部を混合してなる、請求項1?8のいずれかに記載の多層フィルム。 【請求項10】 前記接着層の厚さに対する前記基材層の厚さの比が0.2?5の範囲である、請求項1?9のいずれかに記載の多層フィルム。 【請求項11】 全厚さが1000μm未満である、請求項1?10のいずれかに記載の多層フィルム。 【請求項12】 前記基材層側の鉛筆硬度がHB以上である、請求項1?11に記載の多層フィルム。 【請求項13】 芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物である熱可塑性エラストマー(A)を含有する熱可塑性重合体組成物ならびに110?160℃の任意の温度における弾性率が2?600MPaである非晶性樹脂を共押出しする、請求項1に記載の多層フィルムの製造方法。 【請求項14】 請求項1?12のいずれかに記載の多層フィルムおよび被着体を有する成形体。 【請求項15】 請求項1?12のいずれかに記載の多層フィルムおよび被着体をチャンバーボックスに収容する工程; 前記チャンバーボックス内を減圧する工程; 前記多層フィルムにより前記チャンバーボックス内を二分する工程;および 前記被着体を有しない方のチャンバーボックス内の圧力を前記被着体を有する方のチャンバーボックス内の圧力よりも高くして前記被着体を前記多層フィルムで被覆する工程; を有する成形体の製造方法。 【請求項16】 前記多層フィルムを110?160℃の範囲まで加熱して軟化させる工程をさらに有する、請求項15に記載の成形体の製造方法。」 第4 取消理由通知の概要 本件訂正の直前に、当審が令和2年4月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 〔理由1〕本件特許の請求項1?16に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 よって、本件特許の請求項1?16に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。 (1)接着層の配合組成について 本件特許の請求項2に記載された発明特定事項を具備しない範囲のものが、上記『接着層を有し、広い温度範囲で破断や皺がなく簡便に被着体に接着でき、三次元被覆成形性及び三次元被覆成形後の接着性に優れる真空成形に好適な多層フィルム、該多層フィルムの製造方法および該多層フィルムを用いる成形体の製造方法の提供』という課題を解決できると認識できる範囲にあるとはいえない。 したがって、本件特許の請求項1及び3?16の記載にまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (2)用途について 本1発明の「多層フィルム」は、例えば「三次元形状を有する被着体を接着するための多層フィルム」又は「三次元曲面を有する物品に対して被覆成形するための多層フィルム」に特定されることによって、上記『接着層を有し、広い温度範囲で破断や皺がなく簡便に被着体に接着でき、三次元被覆成形性及び三次元被覆成形後の接着性に優れる真空成形に好適な多層フィルム、該多層フィルムの製造方法および該多層フィルムを用いる成形体の製造方法の提供』という課題を解決できると認識できる範囲のものになると認められる。 したがって、本件特許の請求項1及びその従属項の記載にまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。 第5 当審の判断 1.理由1(サポート要件)について (1)接着層の配合組成について 本件訂正の訂正事項1により、本件特許の請求項1及びその従属項に係る発明の発明特定事項として、請求項2に記載された発明特定事項が追加された。 してみると、本件特許は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲のものではないとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。 (2)用途について 本件訂正の訂正事項1及び2により、独立形式で記載された請求項1に係る発明の用途が「三次元形状を有する被着体に接着するための」のものに限定され、独立形式で記載された請求項2に係る発明の用途が「三次元曲面を有する物品に対して被覆成形するための」のものに限定され、請求項1又は2を直接又は間接に引用する請求項3?16に係る発明の用途も同様に限定された。 してみると、本件特許は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲のものではないとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。 2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)申立て理由1について 特許異議申立人が主張する申立て理由1(実施可能要件)の要旨は「請求項1-16」に係る発明の特許が「特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)」に違反するという理由であって、具体的には『本件明細書には、「非晶性樹脂のガラス転移温度よりも5℃低い温度における破断伸度が160%以上の多層フィルム」を得るためには、どのような「熱可塑性重合体組成物からなる接着層」と、どのような「110?160℃の任意の温度における弾性率が2?600MPaである非晶性樹脂からなる基材層」を用い、これらをどのように組み合わせて用いればよいのか、について全く記載されていない。』というものである。 しかして、本件特許明細書の段落0156?0192の【実施例】の欄には、実施例1?12の具体例が、その製造方法の詳細とともに記載され、独立形式で記載された請求項1及び2においては「前記共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)が、1,2-結合量および3,4-結合量が合わせて40モル%以上であるイソプレン単位、ブタジエン単位またはイソプレン/ブタジエン単位を含有する重合体ブロックであって、熱可塑性重合体組成物が、前記熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂(B1)及び/又は極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)である接着付与成分(B)10?100質量部を含有する」という具体的な組成が発明特定事項として盛り込まれている。 してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1又は2に係る発明の「破断伸度」という機能・特性等で特定された「多層フィルム」について、その製造方法の詳細を開示した実施例1?12の具体例の記載がなされており、しかも、訂正後の請求項1及び2に係る発明は上記「具体的な組成」を発明特定事項としているので、当業者が本件特許の請求項1及び2並びにその従属項に係る発明の実施をするために過度の試行錯誤を要するとはいえない。 したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1?16に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないとはいえない。 (2)申立て理由2について 特許異議申立人が主張する申立て理由2(サポート要件)の要旨は「請求項1、3-16」に係る発明の特許が「特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)」に違反するという理由であって、対象とする請求項に請求項2が含まれていない。 しかして、本件訂正の訂正事項1により、本件特許の請求項1及びその従属項に係る発明の発明特定事項として、請求項2に記載された発明特定事項が追加されたので、本件訂正後の発明はいずれも上記対象とされていない請求項2に係る発明あるいはこれをさらに限定した発明に該当するので、理由2は、理由があるとはいえない。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲のものではないとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、訂正後の請求項1?16に係る発明の特許を取り消すことができない。 また、他に訂正後の請求項1?16に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物である熱可塑性エラストマー(A)を含有する熱可塑性重合体組成物からなる接着層と、110?160℃の任意の温度における弾性率が2?600MPaである非晶性樹脂からなる基材層とを有し、前記非晶性樹脂のガラス転移温度より5℃低い温度における破断伸度が160%以上であり、 前記共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)が、1,2-結合量および3,4-結合量が合わせて40モル%以上であるイソプレン単位、ブタジエン単位またはイソプレン/ブタジエン単位を含有する重合体ブロックであって、 熱可塑性重合体組成物が、前記熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂(B1)及び/又は極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)である接着付与成分(B)10?100質量部を含有する、 三次元形状を有する被着体に接着するための多層フィルム。 【請求項2】 芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物である熱可塑性エラストマー(A)を含有する熱可塑性重合体組成物からなる接着層と、110?160℃の任意の温度における弾性率が2?600MPaである非晶性樹脂からなる基材層とを有し、前記非晶性樹脂のガラス転移温度より5℃低い温度における破断伸度が160%以上であり、 前記共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)が、1,2-結合量および3,4-結合量が合わせて40モル%以上であるイソプレン単位、ブタジエン単位またはイソプレン/ブタジエン単位を含有する重合体ブロックであって、 熱可塑性重合体組成物が、前記熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂(B1)及び/又は極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)である接着付与成分(B)10?100質量部を含有する、 三次元曲面を有する物品に対して被覆成形するための多層フィルム。 【請求項3】 前記基材層における非晶性樹脂は、メタクリル系樹脂(F)および弾性体(R)を含むアクリル系樹脂からなり、 メタクリル系樹脂(F)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を80質量%以上有し、 メタクリル系樹脂(F)と弾性体(R)との合計100質量部に対して、メタクリル系樹脂(F)が10?99質量部であり、弾性体(R)が90?1質量部である、請求項1または2に記載の多層フィルム。 【請求項4】 前記弾性体(R)は、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を含むメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)およびアクリル酸エステルに由来する構造単位を含むアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を其々独立に、一分子中に1又は複数有し、かつ、メタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)を10?80質量%、アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)を90?20質量%の割合で含み、 メタクリル系樹脂(F)の重量平均分子量Mw(F)、ブロック共重合体(G)に含まれる一分子中のメタクリル酸エステル重合体ブロック(g1)の重量平均分子量Mw(g1-total)、およびブロック共重合体(G)に含まれる一分子中のアクリル酸エステル重合体ブロック(g2)の重量平均分子量Mw(g2-total)としたときに、 (1) 0.3≦Mw(F)/Mw(g1-total)≦4.0 (2) 30,000≦Mw(g2-total)≦140,000である、請求項3に記載の多層フィルム。 【請求項5】 前記アクリル酸エステル重合体ブロック(g2)が、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位50?90質量%および(メタ)アクリル酸芳香族エステルに由来する構造単位50?10質量%を含む、請求項4に記載の多層フィルム。 【請求項6】 前記弾性体(R)が、メタクリル酸メチル80質量%以上を含む外層(e1)ならびにアクリル酸アルキルエステル70?99.8質量および架橋性単量体0.2?30質量%を含む内層(e2)を少なくとも有する多層構造体(E)である、請求項3に記載の多層フィルム。 【請求項7】 前記熱可塑性重合体組成物がさらに、極性基含有ポリオレフィン系共重合体(C)(但し、前記極性基含有ポリプロピレン系樹脂(B2)とは異なる)を含む、請求項1?6のいずれかに記載の多層フィルム。 【請求項8】 加飾フィルムである、請求項1?7のいずれかに記載の多層フィルム。 【請求項9】 前記基材層が、非晶性樹脂100質量部に対して着色剤1?10質量部を混合してなる、請求項1?8のいずれかに記載の多層フィルム。 【請求項10】 前記接着層の厚さに対する前記基材層の厚さの比が0.2?5の範囲である、請求項1?9のいずれかに記載の多層フィルム。 【請求項11】 全厚さが1000μm未満である、請求項1?10のいずれかに記載の多層フィルム。 【請求項12】 前記基材層側の鉛筆硬度がHB以上である、請求項1?11に記載の多層フィルム。 【請求項13】 芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック(a1)および共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック(a2)を有するブロック共重合体またはその水素添加物である熱可塑性エラストマー(A)を含有する熱可塑性重合体組成物ならびに110?160℃の任意の温度における弾性率が2?600MPaである非晶性樹脂を共押出しする、請求項1に記載の多層フィルムの製造方法。 【請求項14】 請求項1?12のいずれかに記載の多層フィルムおよび被着体を有する成形体。 【請求項15】 請求項1?12のいずれかに記載の多層フィルムおよび被着体をチャンバーボックスに収容する工程; 前記チャンバーボックス内を減圧する工程; 前記多層フィルムにより前記チャンバーボックス内を二分する工程;および 前記被着体を有しない方のチャンバーボックス内の圧力を前記被着体を有する方のチャンバーボックス内の圧力よりも高くして前記被着体を前記多層フィルムで被覆する工程; を有する成形体の製造方法。 【請求項16】 前記多層フィルムを110?160℃の範囲まで加熱して軟化させる工程をさらに有する、請求項15に記載の成形体の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-10-20 |
出願番号 | 特願2016-572144(P2016-572144) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山本 悦司 |
特許庁審判長 |
門前 浩一 |
特許庁審判官 |
蔵野 雅昭 木村 敏康 |
登録日 | 2019-07-26 |
登録番号 | 特許第6559715号(P6559715) |
権利者 | 株式会社クラレ |
発明の名称 | 多層フィルム |
代理人 | 家入 健 |
代理人 | 家入 健 |