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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B62J
管理番号 1369231
審判番号 不服2020-7642  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-03 
確定日 2020-12-17 
事件の表示 特願2018-210294号「運転姿勢出力装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月 7日出願公開、特開2019- 18853号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成2014年(平成26年)11月7日を国際出願日とする特願2016-557437号の一部を平成30年11月8日に新たな特許出願としたものであって、令和1年8月13日付けで拒絶理由が通知され、令和2年2月28日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、同年6月3日に拒絶査定服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和2年6月3日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年6月3日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
令和2年6月3日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであって、請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。

(1)補正前の請求項1
「【請求項1】
人力機械のクランクの回転角度に関する角度情報と、前記回転角度における前記クランクに加えられる力に関する力情報と、を取得する取得手段と、
前記力情報及び前記角度情報に基づいて、前記人力機械の運転者の運転姿勢に関する情報を出力する出力手段と、
を有することを特徴とする運転姿勢出力装置。」

(2)補正後の請求項1
「【請求項1】
人力機械のクランクの回転角度に関する角度情報と、前記回転角度における前記クランクに加えられる力に関する力情報と、を取得する取得手段と、
前記力情報及び前記角度情報に基づいて、前記人力機械の運転者の運転姿勢が立ち漕ぎか否か、または座り漕ぎか否かに関する判定結果をデータ格納部や通信部に出力する出力手段と、
を有する運転姿勢出力装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「運転者の運転姿勢に関する情報」及び「出力手段」の出力先について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1(2)補正後の請求項1」に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項等
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、本願の出願前に頒布された米国特許出願公開2007/0245835号明細書(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線及び和訳は当審で付した。以下同様である。)。
(1a)「[0025] FIG. 1 is a schematic diagram of a portion of a
crank arm based drive mechanism. Force exerted by the person, hereinafter referred to as a cyclist, is exerted by the cyclist's foot 20 applied to a pedal assembly 22, which results in torque at crank arm 24 that causes rotation about crank arm shaft 26. A flexible force sensor 28, hereinafter referred to interchangeably as force sensor
28, is affixed to an insole 30 of a shoe worn by the cyclist, so
that at least a representative proportion of a total force applied
to the pedal assembly 22 by the cyclist's foot 20 is sensed by the
force sensor 28 before it is applied to a sole of cycling shoe 32.
A wire interface 34 runs under the insole 30 to an electronics unit 36. As shown, in one embodiment the electronics unit 36 is strapped to an ankle 38 of the cyclist. Alternatively, the electronics unit
36 may be: clipped to the cycling shoe 32; mounted under or embedded inside the insole 30; mounted inside the sole or an upper of the
cycling shoe 32; or, in any other location that will not affect
normal cycling. A second electronics unit 40 provides a user
interface for accepting user input and displaying computed
information of interest to the cyclist. The second electronics unit may be: mounted on the bicycle's handlebars; the bicycle's stem;
worn as a wristwatch by the cyclist; mounted to a bicycle helmet; or, mounted in any other location that permits a cyclist to view the
information.」
(和訳)「[0025] 図1は、クランクアーム駆動機構の一部の概略図である。人、以下サイクリストという、によって加えられる力は、ペダル組立体22に当てられたサイクリストの足20によって加えられ、その結果、クランクアーム24にトルクが発生し、クランクアームシャフト26の周りに回転を引き起こす。柔軟力センサ28、以下、互換的に力センサ28ともいう、は、サイクリストが履いている靴の中底30に取り付けられ、それにより、少なくとも、サイクリストの足20によってペダル組立体22に加えられる力の合計の代表的な割合が、サイクリングシューズ32の底に適用される前に、力センサ28によって検出されるようになっている。有線インタフェース34は、中底30の下を電子ユニット36まで延びる。図示のように、一実施形態では、電子ユニット36は、サイクリストの足首38にストラップで固定される。あるいは、電子ユニット36は、サイクリングシューズ32にクリップで取り付けられるか、中底30の下に取り付けられるか、中底30の中に埋め込まれるか、サイクリングシューズ32の底またはアッパー内に取り付けられるか、または、通常のサイクリングに影響を及ぼさない任意の他の場所に設置される。第2の電子ユニット40は、ユーザ入力を受け付け、サイクリストが関心のある計算情報を表示するためのユーザインタフェースを提供する。第2の電子ユニットは、自転車のハンドルバー、自転車のステムに取り付けられ、腕時計としてサイクリストに着用され、自転車ヘルメットに取り付けられ、あるいは、サイクリストが情報を見ることができる他の任意の場所に設置されてもよい。」

(1b)「[0029] FIG. 3 is a block diagram showing functional
components of the electronics unit 36. The CPU 74 may be, for
example, a microprocessor or a digital signal processor. The CPU 74 is responsible for executing a power algorithm 84 that calculates
the cyclist's power based on force sensed by the force sensor 28.
Data resulting from the calculation is transmitted to the
electronics unit 40 (see FIG. 1) by a radio frequency transmitter 80 and antenna 82 via a data channel. During calibration mode,
calibration port 78 is used to interface to electronics unit 40.
EEPROM memory 76 stores data generated during calibration.・・・」
(和訳)「[0029] 図3は、電子装置36の機能構成を示すブロック図である。中央処理装置74は、例えば、マイクロプロセッサまたはデジタル信号プロセッサであってもよい。中央処理装置74は、力センサ28によって検出された力に基づき、サイクリストのパワーを算出するパワーアルゴリズム84の実行を担当する。演算結果のデータは、データチャネルを介して無線周波数送信機80およびアンテナ82によって電子装置40(図1参照)に送信される。較正モード中に、較正ポート78は、電子装置40と接続するために使用される。EEPROMメモリ76は、較正中に生成されたデータを記憶する。・・・」

(1c)「[0035] Force sensor 28 measures forces normal to the pedal. Thus:
F_(CYCLIST)=F_(PEDAL)/COSφ Eq.5
where: F_(PEDAL) is the force measured by the sensor 28; and,
φ=angle of applied force with respect to the pedal.」
(和訳)「[0035] 力センサ28は、ペダルに垂直な力を測定する。従って、
F_(CYCLIST)=F_(PEDAL)/cosφ 式5
ここで、F_(PEDAL)は、センサ28によって測定された力であり、
φ=ペダルに対して加えられる力の角度である。」

(1d)「[0038] Differences between three cycling conditions
a) seated flat, b) seated climbing, and c) standing climbing have
been studied and reported in scientific literature. The differences between the seated flat and seated climbing conditions were
determined to be small, but the differences between standing cycling and seated cycling were determined to be significant. A magnitude
of the peak forces are much higher during standing cycling, but more
importantly, the crank arm rotation angle at which this peak force occurs was determined to be different. For seated flat cycling, the peak force occurs at ω≒107°, for seated climbing, the peak occurs at ω≒101°. For standing cycling, the peak force occurs at ω≒155°.」(なお、引用文献1記載の近似的に等しいことを示す記号(approximately equal)の代用として「≒」を用いた。以下同様である。)
(和訳)「[0038] 3つのサイクル状態、a) 着座平地、b)着座登り、c)立位登り、の違いが研究され、科学文献で報告されている。着座平地及び着座登り状態間の差は、小さいことが確認されたが、立位サイクリング及び着座サイクリング間の差は有意であることが確認された。ピーク力の大きさは、立位サイクリングの方がはるかに高いが、より重要なことは、このピーク力が発生するクランクアームの回転角度が異なることが確認されたことである。着座平地サイクリングでは、ω≒107°でピーク力が生じ、着座登りでは、ω≒101°でピークが発生する。立位サイクリングでは、ω≒155°でピークが発生する。」

(1e)「[0041] FIG. 7 is a graphical representation of a signal
for F_(PEDAL)116 for seated cycling that has been digitized and
sampled. A complete crank arm rotation is found between minima force conditions 122 and 124. Peak force conditions 120 are used to
determine coo: as described above ω_(0)≒101°-107°, depending on
rotation cadence.」
(和訳)「[0041] 図7は、デジタル化され、サンプリングされた着座サイクリングのF_(PEDAL)116の信号のグラフ表示である。完全なクランクアームの回転が、最小力状態122と124の間で見出される。ピーク力状態120は、ω_(0)を決定するために使用される。上述のとおり回転リズムに応じて、ω_(0)≒101°-107°である。」(なお、下線部分「coo」なる記載は、以下の段落[0042]の記載からみて、「ω_(0)」の誤記と認める。)

(1f)「[0042] FIG. 8 is a graphical representation of a signal
for F_(PEDAL) 116 for standing cycling. A complete crank arm rotation is found between minima force conditions 132 and 134. Peak force
conditions 130 are used to determine ω_(0): as described above
ω_(0)≒155°.」
(和訳)「[0042] 図8は、立位サイクリングのF_(PEDAL)116の信号のグラフ表示である。完全なクランクアームの回転が、最小力状態132と134の間で見出される。ピーク力状態130は、ω_(O)を決定するために使用される。上述のとおりω_(0)≒155°である。」

(1g)「[0043] For each of FIG. 8 and FIG. 9, At can be determined using force minima, 120, 130 respectively (as both the number of
samples and the sample rate are known by the CPU 74). Crank arm
angular velocity can be determined using Eq.2. Consequently, all the parameters required to determine crank arm displacement for each
sample of F _(pedal) are known:
ω = ω_(0) + ω´ Eq.6」
(和訳)「[0043] 図8及び図9のそれぞれのために、Δtが、それぞれ最小力120、130を用いて決定できる(中央処理装置74によってサンプル数およびサンプルレイトの両方が知られているので)。クランクアームの角速度は、式(2)を用いて決定することができる。その結果、F_(PEDAL)の各サンプルに対するクランクアームの変位を決定するために必要な全てのパラメータがわかる。
ω = ω_(0 )+ ω´ 式6」
(なお、下線部分「At」なる記載は、文脈からみて「Δt」の誤記と認める。)

(1h)「[0061] FIG. 13 is a flow diagram illustrating a second stage of processing the signals output by the force sensor.」
(和訳)「[0061] 図13は、力センサによって出力される信号の第2段階の処理を示すフロー図である。」

(1i)「[0063] A standing/seated switch 166 compares the crank arm angle where peak and minimum forces occurred. In one embodiment of the invention, if the difference is greater than the predetermined
threshold (170°for example), then the cyclist is seated, otherwise the cyclist is standing. If the cyclist is seated, a cadence model
calculator 182 decides what percentages of the slow cadence ω,φ
and Θ model 176 or normal cadence ω,φ and Θ model 174 effective force calculator 168 will use.・・・」
(和訳)「[0063] 立位/着座スイッチ166は、ピーク力及び最小力が発生したクランク角度を比較する。本発明の一実施形態では、その差分値が所定の閾値(例えば170°)よりも大きい場合には、サイクリストは着座しており、それ以外の場合は、サイクリストは立っている。サイクリストが着座している場合、リズムモデル計算器182は、何パーセントの遅いリズムω,φ 及び Θモデル176、あるいは、通常リズムω,φ 及び Θモデル174を、有効力計算器168が使用するか決定する。・・・」

(1j)「[0064]If the cyclist is found to be standing, a standing cycling ω,φ and Θ model 172 is used.
[0065]Effective force calculator 168 calculates effective force
and negative effective force for each crank arm rotation. The
initial condition for ω_(0) is set at the peak force sample, and ω
is calculated for each sample using Eq.2, φ and Θ are determined
from look-up tables for each sample of ω, after which Eq.4 and Eq.5 are performed for each sample for the entire crank arm rotation(s).」
(和訳)「[0064] サイクリストが立っていると判定された場合、立位サイクルω,φ及びΘモデル172が使用される。
[0065] 有効力算出部168は、各クランクアーム回転の有効力、負の有効力を算出する。初期条件ω_(0)は、ピーク力サンプルに設定されており、ωは、各サンプルについて式2を用いて計算され、φ及びΘは、ωのサンプル毎のルックアップテーブルから決定され、その後、完全なクランクアームの回転の各サンプルに対して、式4及び式5が実行される。」

(1k)「[0083] The inventor contemplates an embodiment wherein the algorithm executed by electronics unit 36 is instead executed by
electronics unit 40. In this embodiment the data from force sensor
28 is transmitted directly from electronics unit 36 to electronics
unit 40 before processing is performed.・・・」
(和訳)「[0083] 本発明者は、電子装置36によって実行されるアルゴリズムは、代わりに、電子装置40によって実行される実施形態を企図している。この実施形態において、力センサ28からのデータは、演算処理が実行される前に、電子装置36から電子装置40に直接送られる。・・・」

(1l)引用文献1には、以下の図が示されている。
Fig.1



Fig.3



Fig.7


Fig.8


Fig.13


イ 認定事項
a 段落[0063](適示(1i))の「立位/着座スイッチ166は、ピーク力及び最小力が発生したクランク角度を比較する。」なる記載から、「立位/着座スイッチ166」が「ピーク力及び最小力が発生したクランク角度を比較する比較手段を有する」ことは明らかである。

b また、段落[0063](適示(1i))に「立位/着座スイッチ166は、ピーク力及び最小力が発生したクランク角度を比較する。本発明の一実施形態では、その差分値が所定の閾値(例えば170°)よりも大きい場合には、サイクリストは着座しており、それ以外の場合は、サイクリストは立っている。」と記載され、さらに、Fig.13からは、「立位/着座スイッチ166」は、ピーク力及び最小力が発生したクランク角度の差分値が、170°未満か否かを判定し、その判定結果に応じて、使用するモデル(172、174?176)を切り替えるための出力を行うことが理解できるから、「立位/着座スイッチ166」は、その差分値が所定の閾値(例えば170°)よりも大きい場合には、サイクリストは着座していると判定し、それ以外の場合は、サイクリストは立っていると判定し、判定結果を出力する出力手段を有するといえる。

ウ 引用文献1に記載された発明
上記ア、イより、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「クランクアーム駆動機構のピーク力及び最小力が発生したクランク角度を比較する比較手段と、
その差分値が所定の閾値(例えば170°)よりも大きい場合には、サイクリストは着座していると判定し、それ以外の場合は、サイクリストは立っていると判定し、判定結果を出力する出力手段と、
を有する立位/着座スイッチ166。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「クランクアーム駆動機構」は、引用文献1の段落[0025](適示(1a))の「図1は、クランクアーム駆動機構の一部の概略図である。人、以下サイクリストという、によって加えられる力は、ペダル組立体22に当てられたサイクリストの足20によって加えられ、その結果、クランクアーム24にトルクが発生し、クランクアームシャフト26の周りに回転を引き起こす。」なる記載を踏まえると、人力によって回転を引き起こす機械であることは明らかであるから、本件補正発明の「人力機械」に相当する。

(イ)引用発明の「ピーク力及び最小力が発生したクランク角度」における「クランク角度」は、クランクの回転角度であって、角度情報といえるから、本願発明の「クランクの回転角度に関する角度情報」に相当する。

(ウ)引用発明の「クランクアーム駆動機構のピーク力及び最小力が発生したクランク角度」における「ピーク力及び最小力」は、引用文献1の段落[0035](適示(1c))に、「力センサ28はペダルに垂直な力を測定する。」と記載され、段落[0025](適示(1a))に、「人、以下サイクリストという、によって加えられる力は、ペダル組立体22に当てられたサイクリストの足20によって加えられ、その結果、クランクアーム24にトルクが発生し、クランクアームシャフト26の周りに回転を引き起こす。」と記載されていることを踏まえると、ペダルに垂直な力であって、クランクアーム24に加えられる力の一部といえるから、上記(イ)も踏まえると、本件補正発明の「前記回転角度における前記クランクに加えられる力に関する力情報」に相当する。

(エ)上記(ア)?(ウ)を踏まえると、引用発明の「クランクアーム駆動機構のピーク力及び最小力が発生したクランク角度を比較する比較手段」は、「人力機械のクランクの回転角度に関する角度情報」を「比較する」といえるから、「人力機械のクランクの回転角度に関する角度情報」を「取得」していることは明らかである。同様に、引用発明の「クランクアーム駆動機構のピーク力及び最小力が発生したクランク角度を比較する比較手段」における「ピーク力及び最小力」は、「前記回転角度における前記クランクに加えられる力に関する情報」といえるから、「前記回転角度における前記クランクに加えられる力に関する力情報」を「取得」していることも明らかである。
そうすると、引用発明の「クランクアーム駆動機構のピーク力及び最小力が発生したクランク角度を比較する比較手段」は、本件補正発明の「人力機械のクランクの回転角度に関する角度情報と、前記回転角度における前記クランクに加えられる力に関する力情報と、を取得する取得手段」に相当するといえる。

(オ)引用発明の「その差分値が所定の閾値(例えば170°)よりも大きい場合には、」は、ピーク力及び最小力が発生したクランク角度の差分値を求めており、上記(イ)、(ウ)を踏まえると、「ピーク力及び最小力」という「力情報」と、「クランク角度」という「角度情報」とに基づいているといえるから、本件補正発明の「前記力情報及び前記角度情報に基づいて、」に相当する。

(カ)引用発明の「サイクリスト」は、上記(ア)も踏まえると、本件補正発明の「人力機械の運転者」に相当する。

(キ)引用発明の「着座して」は、段落[0038](適示(1d))に「より重要なことは、このピーク力が発生するクランクアームの回転角度が異なることが確認されたことである。着座平地サイクリングでは、ω≒107°でピーク力が生じ、着座登りでは、ω≒101°でピークが発生する。立位サイクリングでは、ω≒155°でピークが発生する。」と記載され、段落[0041]にも、「図7は、デジタル化され、サンプリングされた着座サイクリングのF_(PEDAL)116の信号のグラフ表示である。」と記載されていることを踏まえると、「着座サイクリング」であることは明らかであるから、本件補正発明の「運転姿勢が」「座り漕ぎ」に相当する。

(ク)引用発明の「立っている」は、引用文献1の段落[0038](適示(1d))に「より重要なことは、このピーク力が発生するクランクアームの回転角度が異なることが確認されたことである。着座平地サイクリングでは、ω≒107°でピーク力が生じ、着座登りでは、ω≒101°でピークが発生する。立位サイクリングでは、ω≒155°でピークが発生する。」と記載され、段落[0042]にも、「図8は、立位サイクリングのF_(PEDAL)116の信号のグラフ表示である。」と記載されていることを踏まえると、「立位サイクリング」であることは明らかであるから、本件補正発明の「運転姿勢が立ち漕ぎ」に相当する。

(ケ)上記(オ)?(ク)を踏まえると、引用発明の「その差分値が所定の閾値(例えば170°)よりも大きい場合には、サイクリストは着座していると判定し、それ以外の場合は、サイクリストは立っていると判定し、判定結果を出力する出力手段」と、本件補正発明の「前記力情報及び前記角度情報に基づいて、前記人力機械の運転者の運転姿勢が立ち漕ぎか否か、または座り漕ぎか否かに関する判定結果をデータ格納部や通信部に出力する出力手段」とは、「前記力情報及び前記角度情報に基づいて、前記人力機械の運転者の運転姿勢が立ち漕ぎか否か、または座り漕ぎか否かに関する判定結果を出力する出力手段」という点で共通する。

(コ)引用発明の「立位/着座スイッチ166」は、サイクリストが着座しているか、立っているかを判定し、判定結果を出力するから、本件補正発明の「運転姿勢出力装置」に相当する。

以上によれば、本件補正発明と引用発明とは、
「人力機械のクランクの回転角度に関する角度情報と、前記回転角度における前記クランクに加えられる力に関する力情報と、を取得する取得手段と、
前記力情報及び前記角度情報に基づいて、前記人力機械の運転者の運転姿勢が立ち漕ぎか否か、または座り漕ぎか否かに関する判定結果を出力する出力手段と、
を有する運転姿勢出力装置。」の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
本件補正発明は、出力手段が判定結果を「データ格納部や通信部に出力する」のに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
ア 上記相違点に係る本件補正発明の「データ格納部や通信部に出力する」なる事項は、本件明細書の段落【0124】に「判定結果をデータ格納部412あるいは通信部413に出力する。」と記載されていることを踏まえると、「データ格納部」又は「通信部」に出力することと解される。

イ そして、引用文献1の段落[0029](適示(1b))の「中央処理装置74は、力センサ28によって検出された力に基づき、サイクリストのパワーを算出するパワーアルゴリズム84の実行を担当する。」なる記載及びFig.3を併せ見ると、引用発明の「立位/着座スイッチ166」が有する「その差分値が所定の閾値(例えば170°)よりも大きい場合には、サイクリストは着座していると判定し、それ以外の場合は、サイクリストは立っていると判定し、判定結果を出力する出力手段」において、「判定」乃至「出力」に係る処理は、具体的には、中央処理装置74が実行していることが理解できる。
そして、中央処理装置の技術分野において、演算途中のデータを含め、演算に伴うデータをメモリやレジスタ等の記憶装置、すなわち「データ格納部」に格納することは技術常識である。
そうすると、引用発明の「出力手段」も、「人力機械の運転者の運転姿勢が立ち漕ぎか否か、または座り漕ぎか否かに関する判定結果」を、メモリやレジスタ等の記憶装置、すなわち「データ格納部」に出力するものといえる。

ウ さらに、本件補正発明の「データ格納部や通信部に出力する」なる事項が、「データ格納部」及び「通信部」の両方に出力するものと解した場合であっても、引用文献1の段落[0029](適示(1b))に、「演算結果のデータは、データチャネルを介して無線周波数送信機80およびアンテナ82によって電子装置40(図1参照)に送信される。較正モード中に、較正ポート78は、電子装置40と接続するために使用される。」と記載され、Fig.3を併せ見ると、中央処理装置74は、「無線周波数送信機80およびアンテナ82」並びに「較正ポート78」といった通信部に接続されており、さらに、段落[0083]に、「本発明者は、電子装置36によって実行されるアルゴリズムは、代わりに、電子装置40によって実行される実施形態を企図している。」と記載され、演算処理は電子装置40で行ってもよい旨記載されていることを踏まえると、引用発明の「判定結果」を通信部である上記「無線周波数送信機80およびアンテナ82」に出力し、残りの演算処理を電子装置40で行わせることは、当業者が格別の創意を要することなく容易になし得た程度のことである。

エ そして、本件補正発明の作用効果も、引用発明及び上記技術常識から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。

オ 請求人は、令和2年6月3日付けの審判請求書「3.3」において、「つまり、引用文献1においては、立ち漕ぎ、座り漕ぎの判定結果は、F_(AVERAGE)、P_(AVERAGE)、および、T_(AVERAGE)を算出するために用いられており、立ち漕ぎ、座り漕ぎの判定結果そのものをデータ格納部や通信部に出力するような記載はありません。」と主張している。
しかしながら、上記ア?ウで述べたとおり、引用発明の「判定」乃至「出力」に係る処理は、中央処理装置74により実行されるから、上記技術常識を踏まえると、「判定結果」が演算における途中結果であるとしても、メモリやレジスタ等の記憶装置に出力されることは明らかであり、当該記憶装置は「データ格納部」ということができる。また、引用文献1の電子装置36と電子装置40のいずれで演算処理を実行してもよい旨の記載を踏まえれば、「判定結果」を通信部に出力し、残りの演算を電子装置40で行わせることも、当業者が格別の創意を要することなく容易になし得た程度のことである。
また、請求人は、「本願出願当初の明細書の段落[0142]には、『?運転姿勢のみを出力するに限らず、推進力Ftや損失力Fr等の変化を解析したデータに付加するようにしてもよい。』旨が開示されています。したがって、本願発明1は本願構成1によって、立ち漕ぎあるいは座り漕ぎの判定結果を推進力Ftや損失力Fr等の変化を解析したデータと照らし合わせて参照できるという効果を得られます。」と主張する。
しかしながら、本件補正発明においては、「判定結果をデータ格納部や通信部に出力する」としか特定されておらず、上記主張に係る他の解析データに運転姿勢を付加する構成や、判定結果を他の解析データと照らし合わせができるように、ユーザに提示する構成については、何ら特定されていないことから、上記エで述べたとおり、その効果も、当業者が予測し得る程度のものである。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

オ まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び技術常識に基いて、当業者が容易になし得たものであるから、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1(1)補正前の請求項1」に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由1及び2を含むものである。
1.本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 当審の判断
本願発明は、上記「第2 1(1)補正前の請求項1」に記載されたとおりのものであり、本件補正発明から、運転姿勢に関する情報が「立ち漕ぎか否か、または座り漕ぎか否かに関する判定結果」であるという事項を省き、また、出力手段の出力先が「データ格納部や通信部」であるという事項を省いたものである。
そうすると、上記「第2 2(3)対比」における検討を援用すると、本件補正発明と引用発明との相違点は、本件補正により追加された上記事項に関するもののみであり、上記事項が省かれる本願発明と引用発明との間に、相違点は存在しない。
したがって、本願発明と引用発明とは、全ての点において一致し相違点はないから、本願発明は、引用発明である。
また、全ての点において一致するとまでいえないとしても、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2 2(4)」で述べたとおり、引用発明及び技術常識に基いて当業者が容易になし得たものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-10-08 
結審通知日 2020-10-13 
審決日 2020-10-27 
出願番号 特願2018-210294(P2018-210294)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B62J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 藤井 昇
佐々木 一浩
発明の名称 運転姿勢出力装置  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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