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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1369392
審判番号 不服2019-10745  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-13 
確定日 2020-12-14 
事件の表示 特願2016-503157「遺伝子療法適用のためのチミジンキナーゼ診断アッセイ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月25日国際公開、WO2014/153205、平成28年 8月18日国内公表、特表2016-524590〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月14日を国際出願日(パリ条約に基づく優先権主張 2013年3月14日、US(アメリカ合衆国))とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年12月 4日付け:拒絶理由通知書
平成30年 6月 6日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 8月14日付け:拒絶理由通知書(最後)
平成30年11月21日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年11月27日 :応対記録
平成30年12月26日 :応対記録
平成31年 2月13日 :面接記録
平成31年 4月 5日付け:平成30年11月21日提出の手続補正書でした補正についての補正の却下の決定および拒絶査定
令和 1年 8月13日 :審判請求書の提出
令和 1年 9月24日 :審判請求書の手続補正書(方式)の提出
令和 1年 9月24日 :手続補足書の提出

第2 本願発明について
1 本願の請求項1に係る発明
平成30年11月21日提出の手続補正書でした補正は、平成31年4月5日付けで却下されているため、本願の請求項1?63に係る発明は、平成30年6月6日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?63に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである(下線は補正された箇所である。)。
「【請求項1】
遺伝子療法から恩恵を受けることができる病変を有する患者を同定するための医薬の製造のための、核外輸送配列を含むHSV-TKポリヌクレオチドを含む遺伝子療法レトロウイルス粒子の使用であって、
同定することが、
a)患者に、核外輸送配列を含むHSV-TKポリヌクレオチドを含む遺伝子療法レトロウイルス粒子を投与することと、ここで、HSV-TKポリヌクレオチドがアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含むHSV-TKの突然変異形態をコードし、アミノ酸残基が配列番号2の位置32、33、25、26および168に対応し、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しており、HSV-TKの突然変異形態が野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大する、
b)患者に、放射活性トレーサーに付着しているHSV-TKの基質を投与することと、
c)患者中に存在する放射活性シグナルの相対量および位置を測定することと、
d)患者における病変の位置を決定することと
を含み、(i)工程(d)において測定された病変と相関する放射活性シグナルの位置および(ii)特定の閾値を上回る放射活性シグナルを有する患者が、遺伝子療法から恩恵を受けることができると同定される、使用。


2 原査定の拒絶の理由の概要
原審の審査過程において、平成30年6月6日提出の手続補正書により補正された請求項1?63に係る発明について、平成30年8月14日付けで以下の拒絶理由1?4が通知され、同理由により平成31年4月5日付けで拒絶査定がされた。
1.(新規事項)平成30年6月6日付け手続補正書でした補正は、下記の点で国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては、当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、翻訳文等という。)(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあっては、翻訳文等又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。
2.(産業上の利用可能性)この出願の請求項43?63に係る発明は、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
3.(実施可能要件)この出願は、請求項1?63に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
4.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の請求項1?63の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


第3 当審の判断
1 理由1(新規事項の追加)について
(1)特許請求の範囲の請求項1に係る補正
平成30年6月6日提出の手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、補正前の
「【請求項1】
遺伝子療法治療から恩恵を受けることができる患者を同定するための方法であって、
a)患者に、HSV-TKポリヌクレオチドを含む遺伝子療法レトロウイルス粒子を投与することと、
b)患者に、放射活性トレーサーに付着しているHSV-TKの基質を投与することと、
c)患者中に存在する放射活性シグナルの相対量および位置を測定することと、
d)患者における病変の位置を決定することと
を含み、特定の閾値を上回る放射活性シグナルを有し、放射活性シグナルの位置が、患者の工程(d)において測定された病変と相関する患者が、遺伝子療法治療から恩恵を受けることができると同定される、方法。」を、
「【請求項1】
遺伝子療法から恩恵を受けることができる病変を有する患者を同定するための医薬の製造のための、核外輸送配列を含むHSV-TKポリヌクレオチドを含む遺伝子療法レトロウイルス粒子の使用であって、
同定することが、
a)患者に、核外輸送配列を含むHSV-TKポリヌクレオチドを含む遺伝子療法レトロウイルス粒子を投与することと、ここで、HSV-TKポリヌクレオチドがアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含むHSV-TKの突然変異形態をコードし、アミノ酸残基が配列番号2の位置32、33、25、26および168に対応し、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しており、HSV-TKの突然変異形態が野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大する、
b)患者に、放射活性トレーサーに付着しているHSV-TKの基質を投与することと、
c)患者中に存在する放射活性シグナルの相対量および位置を測定することと、
d)患者における病変の位置を決定することと
を含み、(i)工程(d)において測定された病変と相関する放射活性シグナルの位置および(ii)特定の閾値を上回る放射活性シグナルを有する患者が、遺伝子療法から恩恵を受けることができると同定される、使用。」とするものである。
当該手続補正は、補正前の「HSV-TKポリヌクレオチド」を、「アミノ酸残基が配列番号2の位置32、33、25、26および168に対応」する「アミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含」み、「アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異して」いるHSV-TKの突然変異形態をコードするものであり、HSV-TKの突然変異形態が野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大することを特定するものである。

(2)翻訳文等の記載
HSV-TKの突然変異形態や、野生型チミジンキナーゼと比較した細胞死滅活性について、翻訳文等には以下の記載がなされている(下線は合議体による。)。
ア 「【請求項11】
コードされるHSV-TKポリヌクレオチドのウイルス核局在性配列(NLS)が突然変異している、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
チミジンキナーゼポリヌクレオチドが、発現されるチミジンキナーゼタンパク質のアミノ末端にかまたはその付近に核外輸送配列(NES)を含むように突然変異している、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
チミジンキナーゼポリヌクレオチドが、発現されるチミジンキナーゼタンパク質の基質結合を増大するように突然変異している、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
突然変異が、A168Hである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
チミジンキナーゼポリヌクレオチドを、ウイルス核局在性配列(NLS)を除去し、発現されるチミジンキナーゼタンパク質のアミノ末端にかまたはその付近に核外輸送配列(NES)を含むように突然変異させることをさらに含む、請求項13に記載の方法。」

イ 「【0012】
さらに他の実施形態では、コードされるHSV-TKポリヌクレオチドのウイルス核局在性配列(NLS)が突然変異している。なお他の実施形態では、チミジンキナーゼポリヌクレオチドは、発現されるチミジンキナーゼタンパク質のアミノ末端にかまたはその付近に核外輸送配列(NES)を含むように突然変異している。一実施形態では、チミジンキナーゼポリヌクレオチドは、発現されるチミジンキナーゼタンパク質の基質結合を増大するように突然変異している。別の実施形態では、突然変異はA168Hである。」

ウ 「【0087】
TK遺伝子の改善
いくつかの実施形態では、HSV-TKをコードするポリヌクレオチド配列が本明細書において開示される。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド配列は、野生型HSV-TKアミノ酸配列をコードする。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド配列は、突然変異したHSV-TKアミノ酸配列をコードする。
【0088】
本明細書において提供される最適化されたポリヌクレオチド配列の調製において使用され得る例示的手順として、それだけには限らないが、コドン最適化、スプライシング部位の修正、ポリ-ピリミジンのトラクトおよび過剰のGC含量の除去、単一のKozak配列の付加、不要なKozak配列の除去、レトロウイルスまたは他のベクターへのサブクローニングのための制限部位を含めること、核局在性配列の除去または核外輸送配列の付加、突然変異配列の付加、二重停止コドン配列の付加、タグ、リンカーおよび融合配列の付加、遺伝子合成会社への寄託のための配列ファイルの準備、レトロウイルスベクターへの合成された遺伝子のサブクローニング、レトロウイルスベクターに蛍光タンパク質遺伝子を含めること、レトロウイルスベクターに選択マーカー遺伝子を含めること、MaxiprepプラスミドDNAの調製、レトロウイルス産生株または他の細胞のトランスフェクション、レトロウイルスの実験室、パイロットまたはGMP規模の製造、レトロウイルスを用いた標的細胞の形質導入、GCVまたは類似体プロドラッグ媒介性細胞死滅アッセイ、ヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジン(HAT)選択アッセイ、レトロウイルスによって形質導入された細胞株を製造するための選択マーカー薬物選択手順、レトロウイルスによって形質導入された標的細胞を検出し、記録するための蛍光顕微鏡観察および写真撮影、レトロウイルスによって形質導入された標的細胞の定量的蛍光検出、ウエスタンタンパク質発現アッセイ、HSV-TK解析に必要な他の手順およびアッセイまたはそれらの組合せが挙げられる。このような方法のプロトコールは、本明細書に記載されるか、市販されているかまたは公開文献およびデータベースに記載されている。
【0089】
いくつかの実施形態では、改善されたHSV-TK配列を得る方法が、本明細書において記載される。いくつかの実施形態では、方法は、a)スプライシング部位の修正および/もしくは除去、ならびに/またはb)単一Kozak配列への調整を含む。任意選択で、いくつかの実施形態では、方法は、HSV-TK配列のサブクローニングのための制限部位を含めることをさらに含む。任意選択で、またはさらに、いくつかの実施形態では、方法は、核局在性配列の除去をさらに含む。
【0090】
コードされるHSV-TKが、アミノ酸残基25、26、32、33、167、168またはそれらの組合せで突然変異しており、ポリヌクレオチド配列が、配列番号1または3のポリヌクレオチド配列と比較して突然変異している、ヒト単純ウイルス(HSV-TK)由来のウイルスチミジンキナーゼの突然変異形態をコードするポリヌクレオチド配列が本明細書において提供される。このような配列では、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14の突然変異が行われ得る。
(中略)
【0092】
コードされるHSV-TKが、核外輸送配列を含む、ヒト単純ウイルス(HSV-TK)由来のチミジンキナーゼの突然変異した形態をコードするポリヌクレオチド配列が本明細書において提供される。コードされるHSV-TKが、野生型HSV-TKと比較して機能において改善され、A168H dmNES (CLシステム=LTRプロモーター領域と適宜融合しているCMVエンハンサー)を含み、NESが、核外輸送配列を指す、ヒト単純ウイルス(HSV-TK)由来のチミジンキナーゼの突然変異した形態をコードするポリヌクレオチド配列が本明細書において提供される。一実施形態では、突然変異体HSV-TKA168HdmNESは、Reximmune-C2中に含むための突然変異体HSV-TK遺伝子である。一実施形態では、NESは、MAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)に由来する。
(中略)
【0094】
ヌクレオチド位置は、配列番号1(野生型(wt)HSV1-TKヌクレオチド配列)または配列番号3(Reximmune-C HSV-TKにおけるHSV-TK;SR39突然変異体およびHSV-TK核局在性シグナル(NLS)のR25G-R26S突然変異)における位置を参照して呼ばれる。」

エ 「【0104】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド配列(例えば、配列番号1または3)の329位および330位のスプライス供与部位ヌクレオチドに対応するヌクレオチドのうち少なくとも1つが、別のヌクレオチドによって置き換えられるチミジンキナーゼをコードする核酸配列が、本明細書において開示される。いくつかの実施形態では、327位および555位のヌクレオチドの両方が、他のヌクレオチドによって置き換えられる。例えば、327位は、G?Aから選択されるアミノ酸残基に突然変異し得る。あるいは、またはさらに、555位は、G?Aから選択されるアミノ酸残基に突然変異し得る。一実施形態では、修飾されたHSV-TKは、HSV-TKが以下の方法で改善された配列番号18のポリヌクレオチド配列を有する:
HSV-TK NESdmNLS A168H、CO & SC
NES=MAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)由来の核外輸送シグナル配列
dmNLS=二重突然変異HSV-TK核局在性配列
CO=最適化されたコドン
SC=327および555の修正されたスプライス供与/受容部位
下線を引いた配列配列番号18(略)
【0105】
いくつかの実施形態では、野生型配列の554位および555位のスプライス受容部位ヌクレオチドに対応するヌクレオチドのうち少なくとも1つまたは662位および663位のスプライス受容部位ヌクレオチドに対応するヌクレオチドのうち少なくとも1つまたは541位および542位のスプライス受容部位に対応するヌクレオチドのうち少なくとも1つが、別のヌクレオチドによって置き換えられるチミジンキナーゼをコードする核酸配列が本明細書において開示される。例えば、541位は、G?Aから選択されるアミノ酸残基に突然変異し得る。542位は、G?Aから選択されるアミノ酸残基に突然変異し得る。554位は、G?Aから選択されるアミノ酸残基に突然変異し得る。555位は、G?Aから選択されるアミノ酸残基に突然変異し得る。662位は、G?Aから選択されるアミノ酸残基に突然変異し得る。663位は、G?Aから選択されるアミノ酸残基に突然変異し得る。
【0106】
Kozak配列は、mRNA内のAUG開始コドンの両側に隣接し、真核細胞のリボソームによる開始コドンの認識に影響を及ぼす。いくつかの実施形態では、HSV-TKをコードするポリヌクレオチド配列は、わずか1つのKozak配列しか含まない。いくつかの実施形態では、Kozak配列は、DNA配列のコーディング部分の上流である。いくつかの実施形態では、HSV-TKをコードするポリヌクレオチドのKozak配列は、哺乳類細胞においてより高い効率の翻訳開始を伴うKozak配列を製造するよう修飾される。いくつかの実施形態では、Kozak配列の修飾は、コードされるHSV-TKポリペプチド産物におけるアミノ酸置換を引き起こさない。いくつかの実施形態では、Kozak配列の修飾は、コードされるHSV-TKポリペプチド産物において少なくとも1種のアミノ酸置換をもたらす。一実施形態では、修飾されたHSV-TKは、配列番号18または22のポリヌクレオチド配列を有する。
【0107】
いくつかの実施形態では、HSV-TKをコードするポリヌクレオチド配列は、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、60、75、80、85、90、95、100またはそれ以上のコドン置換を含む。いくつかの実施形態では、HSV-TKをコードするポリヌクレオチド配列は、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、60、75、80、85、90、95、100またはそれ以上のコドン置換を含み、ここで、コドン置換は、その位置で野生型コドンよりも哺乳類細胞においてより高頻度の使用を有するコドンの置換を含む。しかし、いくつかの実施形態では、特定の状況に応じて、個々のアミノ酸のために、より好ましくないコドンが選択され得る。」

オ 「【0119】 いくつかの実施形態では、HSV-TKポリペプチド配列は、アミノ酸残基167、168または両方で突然変異しる。1つの例では、配列は、アミノ酸残基167で突然変異しる。別の例では、配列は、アミノ酸残基168で突然変異しる。別の例では、配列は、アミノ酸残基167および168で突然変異しる。アミノ酸残基167は、セリンまたはフェニルアラニンに突然変異し得る。アミノ酸残基168は、ヒスチジン、リシン、システイン、セリンまたはフェニルアラニンに突然変異し得る。いくつかの実施形態では、HSV-TKポリペプチド配列は、アミノ酸残基25および/または26で突然変異しる。アミノ酸残基25および/または26は、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異し得る。いくつかの実施形態では、HSV-TKポリペプチド配列は、アミノ酸残基32および/または33で突然変異しる。アミノ酸残基32および/または33は、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異し得る。いくつかの実施形態では、HSV-TKポリペプチドは、アミノ酸残基25、26、32および/または33で突然変異しる。アミノ酸残基25、26、32および/または33は、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異し得る。アミノ酸残基修飾は、配列番号2または4のポリペプチド配列と比較して行われ得る。
(中略)
【0125】
いくつかの実施形態では、HSV-TKポリペプチド配列は、アミノ酸残基167、168または両方で突然変異している。1つの例では、配列は、アミノ酸残基167で突然変異している。別の例では、配列は、アミノ酸残基168で突然変異している。別の例では、配列は、アミノ酸残基167および168で突然変異している。アミノ酸残基167は、セリンまたはフェニルアラニンに突然変異し得る。アミノ酸残基168は、ヒスチジン、リシン、システイン、セリンまたはフェニルアラニンに突然変異し得る。いくつかの実施形態では、HSV-TKポリペプチド配列は、アミノ酸残基25および/または26で突然変異している。アミノ酸残基25および/または26では、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異し得る。いくつかの実施形態では、HSV-TKポリペプチド配列は、アミノ酸残基32および/または33で突然変異している。アミノ酸残基32および/または33は、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異し得る。いくつかの実施形態では、HSV-TKポリペプチドは、アミノ酸残基25、26、32および/または33で突然変異している。アミノ酸残基25、26、32および/または33は、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異し得る。アミノ酸残基修飾は、配列番号2または4のポリペプチド配列と比較して行われ得る。」

カ 「【0131】
さらに、これらの最適化のほとんどを組み込んだ最適化されたHSV-TK遺伝子(配列番号18)は、レトロウイルス形質導入送達後に、プロドラッグGCV酵素活性および癌細胞を死滅させるその能力の選択性を示した。コドン最適化され、スプライス修正された突然変異体HSV-TK遺伝子A168Hは、最高のGCV媒介性癌死滅活性を有すると思われた(配列番号12、16、18または22)。このHSV-TK遺伝子A168Hの同じ型で、アミノ酸159?161でLIFからIFLに突然変異したものは、GCV媒介性癌細胞死滅活性を示した。」

キ 「【0136】
本明細書に記載される最適化されたHSV-TK遺伝子へのさらなる修飾および/またはその評価は、以下:HSV-TK内の公知の核局在性配列の除去、プロドラッグGCV酵素活性および癌細胞を死滅させるその能力の選択性の増大のうち1つまたは複数を含み得、HSV-TKの、他の遺伝子およびタンパク質との、より多くのタグ、融合タンパク質およびリンカーの使用、癌細胞におけるHSV-TK最適化遺伝子の、他の最適化自殺および癌死滅遺伝子との同時発現を評価し得、Reximmune-C型レトロウイルスベクター系中の最適化HSV-TK遺伝子、Reximmune-C型GMP生成物またはそれらの任意の組合せの製造および試験を含み得る。
【0137】
一実施形態では、本明細書に記載されるポリヌクレオチド配列は、核外輸送シグナルを含む。例えば、ポリヌクレオチド配列は、TK168dmNESを含み得る。
(中略)
【0139】
別の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのレトロウイルスベクターは、HSV-TK A167Fsm(配列番号13)を含む。
【0140】
別の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのレトロウイルスベクターは、HSV-TK A168Hsm(配列番号12)を含む。
【0141】
別の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのレトロウイルスベクターは、HSV-TK A167Fdm(配列番号17)を含む。
【0142】
別の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのレトロウイルスベクターは、HSV-TK A168dm(配列番号16)を含む。
【0143】
別の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのレトロウイルスベクターは、HSV-TK A167FdmおよびNES(配列番号19)を含む。
【0144】
別の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのレトロウイルスベクターは、HSV-TK A168HdmおよびNES(配列番号18)を含む。このような一実施形態では、配列は、HSV-TK A168Hを含む。
【0145】
別の実施形態では、本明細書に記載される方法において使用するためのレトロウイルスベクターは、HSV-TKを含み、このようなベクターは、改良された基質結合ドメインおよびmNLS/NESセットを含む。
(中略)
【0149】
コドン最適化され、スプライス修正された突然変異体HSV-TK遺伝子A167F(配列番号13、17または19)は、HAT培地を用いて選択された3T3 TK(-)細胞においてレトロウイルス形質導入送達後にこの遺伝子を発現させることによって決定されるように、レトロウイルス形質導入送達後に極めて高いGCV媒介性癌死滅活性を有するが、より驚くべきことに、チミジンキナーゼ活性を有さない。これは、高度にGCV選択的HSV-TK合成遺伝子である。
【0150】
二重突然変異体HSV-TK遺伝子A167F+A168H(配列番号14)は、極めてわずかなGCV媒介性癌死滅活性および極めてわずかなチミジン活性しか示さず、したがって、適切な二重突然変異体は、驚くべきヌル特性を有し得る。」

ク 「【実施例1】
【0217】
臨床試験
原発性肝細胞癌腫または肝臓に転移性の腫瘍を有する難治性対象において用量漸増試験を実施して、Reximmune-C2(チミジンキナーゼおよびGM-CSF遺伝子)
の安全性、薬物動態および薬物動力学を評価した。
(中略)
【実施例2】
【0226】
遺伝子療法適用についてのTK診断アッセイ
動物およびヒト研究によって、[^(18)F]-FHBGを使用するPETイメージングによってvTK発現を測定することの有用性がこれまでに示されている。これらのイメージングツールは、適当な投薬および曝露の評価において個別化代用試験として利用され、どの対象が薬物候補から恩恵を受ける最良の機会を有しているかを調べるために第IB部分において使用されるであろう。
【0227】
この臨床試験は、2つの相に分けられる。Reximmune-C2が、5日のうち3日で単一静脈内用量として投与され、3?8日後に、[^(18)F]FHBG PETスキャニングによってHSV-TK-m2発現の存在がモニタリングされる可能性がある第IA相(第IA相の模式図は、図3に示されている)。バルガンシクロビル(ガンシクロビルの経口形態)投薬を、PETスキャン結果に関わらず8日目に5日間開始する。およそ1週間の休薬期間が続く。各サイクルは3週間の期間とする。
(以下、略)」

ケ 「【0024】
(中略)
【図8】図8は、Reximmune C1およびC2を投与されたラットにおける5mm切片の冠状3時間イメージの比較である。左側の腫瘍は、Reximmune-C2を発現し、右側はReximmune-C1である。
【図9】図9は、1時間および3時間イメージの腫瘍内の平均の平均値を示す図8のグラフ表示である。エラーバーは、平均値の標準誤差である。B12は、Reximmune-C2発現腫瘍であり、A9は、Reximmune-C1発現腫瘍である。C6は、天然細胞株腫瘍である。」

(3)判断
上記(2)ケの図8及び図9の「Reximmune-C2」は、上記(2)ウの段落【0092】の記載からみて、HSV-TKA168HdmNESを含むものである。また、図8及び図9の「Reximmune-C1」については、本願明細書に何ら具体的な説明がなされていないため、いかなるものか不明であるところ、仮にReximmuneCと同じものであるとするならば、上記(2)ウの段落【0094】の記載からみて、SR39突然変異体及びHSV-TK核局在性シグナル(NLS)のR25G-R26S突然変異を有するHSV-TKをコードするポリヌクレオチドを含むものであると認められる。
そして、図8及び図9には、これらの配列のHSV-TKポリヌクレオチドを含むReximmune-C2またはReximmune-C1を投与されたラットにおける5mm切片の冠状1時間及び3時間イメージの腫瘍内の平均の平均値が、天然細胞株腫瘍の当該平均値と共に記載されている。
しかしながら、これらはいずれも、特定の配列からなる変異体をコードするポリヌクレオチドに関するものであり、図8及び図9は、そもそも、変異体が野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大させることを示すものでもない。
さらに、上記(2)クのとおり、本願明細書の実施例にはReximmune-C2に関する記載はなされているものの、これらの実施例の記載も、Reximmune-C2に含まれる特定のポリヌクレオチドによりコードされる変異体についてすら、野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大させることを示すものではない。
ここで、上記(2)ア?エ及びキから、翻訳文等には、核局在性配列を変異させること自体は開示されており、核局在性配列について、上記(2)ウの段落【0094】の記載から、配列番号2のアミノ酸残基の25及び26位は、核局在性配列であることが開示されていたと認められる。
しかしながら、上記(2)ア?ケのいずれにも、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態との記載はなされていない。ここで、翻訳文等に記載されるReximmune-C2に含まれる特定のポリヌクレオチドによりコードされる突然変異体は、32と33と25と26と168のアミノ酸残基の変異を有するものではあるが、上記(2)エ及びカの記載からみて、当該変異体をコードするポリヌクレオチドは、上記突然変異に加え、最適化コドン、スプライス修正等の「最適化のほとんどを組み込んだ最適化された」ものであり、Reximmune-C2及びReximmune-C1に関する記載から、翻訳文等には上記補正後の請求項1に規定される変異を有する突然変異形態をコードするポリヌクレオチドが開示されていたということもできない。
さらに、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態が、野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大することが翻訳文等に記載ないし示唆されていたともいえない。
そして、上記(2)キの段落【0150】には、168位に加えて167位をFに変異させた突然変異体では極めて僅かなGCV媒介性癌死滅活性しか示さなかったことが記載されているように、当該技術分野において、野生型と比較して、複数のアミノ酸変異を有する変異体が特定の活性を有していた場合、当該複数のアミノ酸変異のうち一部のアミノ酸変異を有する場合や、変異箇所は同じであっても、異なるアミノ酸へ変異していた場合など、特定の変異体以外に関しては、同様の活性を有しているとまではいえないことは技術常識である。
したがって、上記手続補正は、翻訳文等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。

(4)請求人の主張
請求人は、審判請求書の手続補正書(方式)において、以下(4-1)?(4-4)のとおり主張する。
(4-1)本願請求項1の記載に触れた当業者は、本願明細書の記載が一般的な可能性についての示唆を超えるものであることを理解し、本願明細書が具体的な試験結果や配列を示して本願発明を十分に説明していることを理解するはずである。
本願明細書段落番号[0104]に記載の配列番号18は、本願請求項1に記載のHSV-TKポリヌクレオチドに対応しており、以下に本願明細書に配列番号2として記載する、野生型HSV1-TKアミノ酸配列(段落番号[0330]表13)の配列と、上記の配列番号18のポリヌクレオチド配列に対応するアミノ酸配列の比較をお示しする(同じ配列を表示する資料を参考資料1として提出する。)。
【化1】

【化2】

以上の内容から、配列番号18のポリヌクレオチド配列に対応するアミノ酸配列は、二重の突然変異対R25G?R26S、R32G?R33Sを含み、さらにA168Hの突然変異を有することを理解することができ、本明細書に「dm」として表示されている二重突然変異が、R25G?R26S、およびR32G?R33Sを意味することが理解できる。

(4-2)請求項1に記載の本発明の効果は、本願の図8および図9などに示される実験結果により支持されている。ここで、配列番号18のポリヌクレオチド配列である突然変異体HSV-TKA168HdmNESは、Reximmune-C2中に含むための突然変異体HSV-TK遺伝子である(本願明細書段落番号[0092])。図8は、Reximmune-C1およびC2を投与されたラットにおける5mm切片の冠状3時間イメージの比較である。左側の腫瘍はReximmune-C2を発現を示す。図9は、1時間および3時間イメージの腫瘍内の平均の平均値を示す図8のグラフ表示である。エラーバーは、平均値の標準誤差であり、B12がReximmune-C2発現腫瘍を示します。
以上の実験は本願明細書の記載および出願日時点の技術常識に基づいて実施可能であると思量致します。この点をより明らかにするために、以下により具体的な実験手法を記載する。
<図9および9に関する実験を行うためのガイダンス>
1.C6、C6-HTK-MBクローンA9(A9)、およびC6-HTK-168-dmNES B12(B12)細胞を解凍し、組織培養フラスコ内のC6細胞培養培地中で培養した。これらの細胞は少なくとも25×10^(6)のC6およびA9細胞が使用可能となるまで、および少なくとも50×10^(6)のB12細胞が使用可能となるまでとなるまで培養により増殖させた。
2.10匹の雄Nu/Nuマウスのそれぞれの左前肩に5×10^(6)のB12細胞を皮下移植した。同じ日に、10匹のうちの5匹(グループ1)の右前肩に5×10^(6)のC6細胞を移植し、10匹のうちの5匹(グループ2)の右前肩に5×10^(6)のA9細胞を移植した。移植用に調製した5×10^(6)の細胞は、細胞培養クリーンベンチ内において、1.5mL無菌マイクロ遠心チューブ内の50μLの無菌1XPBS中で再懸濁させて、皮下注射の直前に50μLのBDマトリゲルと混ぜた。
3.[^(18)F]FHBGの横側尾静脈への注入から約1時間および3時間後、Inveon(シーメンス)小動物PETスキャナーを用いて全身の[^(18)F]FHBGバイオディストリビューションを、両グループのマウスの10匹について2回スキャンした。PET補足時間は各時点でマウス当たり10分であった。各PETスキャンの直後に、解剖学的画像を得るために、MicroCAT II(Imtek)を用いてマウスの全身をスキャンした。
表1:[^(18)F]FHBG投薬情報
【表1】(略)
表中の表記は以下の通り。Tumor site Description: 腫瘍部位の記述、Mouse #: マウス番号、PET File #: PETファイル番号、Uptake/Clearance Duration: 摂取/クリアランス時間、Measured Dose: 測定薬量、Measurement time: 測定時間、Injection time: 注入時間、Scan time: スキャン時間。
4.得られたPETデータは、Filtered Back Projectionを用いて画像に再構成し、CTを重ね合わせた画像によるPETを、スタンフォード大学のギャンバー研究室で開発されたプログラムAMIDにより閲覧可能で分析可能な.xlfファイルに変換した。
5.画像を定性的および定量的に分析した。定性分析は、スキャン時間でのスケーリングファクターおよび注入薬量による画像ボクセル値の正規化、適切なコロナルトモグラフの選択および総計、およびイメージパネルに含めるための全てのマウスのイメージのスケーリングの均等化を含む。定量分析は、PETとCTの全身画像を使用して決定された全ての腫瘍周辺の関心領域(ROI)を書き込むことにより行われた。そして、グラム当たりの平均パーセント注入薬量(%ID/g)、最大%ID/g、およびROIボリュームがその後測定された。その後、腫瘍当たりの合計%IDが、平均%ID/gとROIボリューム(cm^(3))を掛けることにより計算された。

(4-3)本願明細書は、HSV-TK遺伝子の改善について本願明細書段落番号[0087]?[0113]において記載しており、細胞死滅活性が増加したHSV-KT遺伝子への種々の変異について実験例を示す実施例を記載している。本願明細書の記載はコドンの最適化(本願明細書段落番号[0098]?[0099])、スプライス部位の除去(本願明細書段落番号[0103]?[0104])、およびKozak配列の修飾(本願明細書段落番号[0106])に関する記載を含めて、変異後のHSV-TK遺伝子の細胞死滅活性の増加を目的としたHSV-TK遺伝子のその他の変異についての記載を含んでいる。
出願人は図8および図9に示される試験において、アミノ酸残基25、26および168において変異を有するHSV-TKが腫瘍細胞において変異したHSV-TKが蓄積および共局在化を生じさせることを示している(Reximmune-C1)。
さらに上述のReximmune-C2についても同様の効果が確認されている。そのような変異したHSV-TKの蓄積および共局在化は、プロドラッグのリン酸化を進行させ、細胞死滅の一連のカスケードの開始を促進する。本明細書において説明され、さらに本願出願時の当業者が理解するように、HSV-TKのアミノ酸残基32および33は連続するアルギニンでありアミノ酸残基25および26と同様に同じ核局在性シグナル配列ペプチドに属す(25-RRTALRPRR-33)。本願明細書は、アミノ酸25、26、32および33について正の電荷を有するアルギニン残基をグリシン(疎水性)、セリン(極性)およびグルタミン酸(負の電荷)からなる群から選択されるアミノ酸に置換することについて十分なガイダンスを含むものと思量する(例えば、本願明細書段落番号[0119]の記載)。

(4-4)出願人は2018年6月6日付意見書の添付資料として本願発明に関して、R32G及びR33Sの変異を有するHSV-TKを用いた実験結果を提出している(参考資料A?C)。
なお、主張(4-4)で言及される実験結果は、原審の審査過程で平成30年6月6日に提出された意見書において、「NLS領域内の突然変異が、酵素触媒部位内の突然変異とは無関係に、細胞死滅活性が予期し得ないことに増大したことを示す」として、HSV-TKの残基位置R32GおよびR33Sの突然変異体の細胞死滅活性に関する参考資料A、臨床結果に関する参考資料B及びCとして提出されたものである。

(5)請求人の主張についての検討
主張(4-1)について
そもそも翻訳文等には、配列番号18に対応するアミノ酸配列は記載されておらず、配列番号2とのアラインメントに基づく配列の変異も開示されていない。
なお、仮に、請求人が主張するように、翻訳文等に基づき、「dm」として表示されている二重突然変異が、R25G R26S、及び、R32G R33Sを意味することを当業者が理解できたとしても、その場合には、「dm」とは、「R25G R26S、R32G R33S」という4アミノ酸残基の突然変異を意味することとなるため、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態が翻訳文等に開示されていたということはできない。
翻訳文等には、上記(2)ウの段落【0090】に「アミノ酸残基25、26、32、33、167、168またはそれらの組み合わせで突然変異」することや、(2)エの段落【0104】には「HSV-TK NESdmNLS A168H、CO & SC」として、核局在性配列の二重突然変異に加え、他の変異をも有する変異体である、配列番号18で表されるReximmune-C2に含まれるポリヌクレオチドや、(2)ウの段落【0094】に記載される配列番号3で表されるReximmune-Cに含まれる突然変異体(SR39突然変異体およびHSV-TK核局在性シグナルのR25G-R26S突然変異体)をコードするポリヌクレオチドに関する記載、及び、(2)オに「いくつかの実施形態では、HSV-TKポリペプチド配列は、アミノ酸残基32および/または33で突然変異している。」との記載はなされている。
しかしながら、上記(2)ア?ケのいずれにも、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態なる記載はされていない。ここで、翻訳文等に記載されるReximmune-C2に含まれる特定のポリヌクレオチドによりコードされる突然変異体は、32と33と25と26と168のアミノ酸残基の変異を有するものではあるが、上記(2)エ及びカの記載からみて、当該変異体は、上記突然変異に加え、最適化コドン、スプライス修正等の「最適化のほとんどを組み込んだ最適化された」突然変異形態をコードするポリヌクレオチドであり、Reximmune-C2及びReximmune-C1に関する記載から、翻訳文等には補正後の請求項1に規定される変異を有する突然変異形態をコードするポリヌクレオチドが開示されていたということはできない。
ましてや、「野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大する」なる活性については、上記(2)カには、コドン最適化され、スプライス修正された配列番号18等で表されるポリヌクレオチドがコードする突然変異体について、癌細胞死滅活性に関する記載がなされており、(2)キの段落【0136】には、「核局在性配列の除去、プロドラッグGSV酵素活性および癌細胞を死滅させるその能力の選択性の増大のうち1つまたは複数を含み得」と記載されるにすぎない。
むしろ、上記(2)キの段落【0150】には、168位に加えて167位をFに変異させた突然変異体では極めて僅かな癌死滅活性しか示さなかったことが記載されているように、細胞死滅活性は変異が施されたアミノ酸の種類や個数等によっても異なることは明らかであるから、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態であれば、野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大することが記載ないし示唆されていたとはいえない。

主張(4-2)について
翻訳文等には、図9について「図9は、1時間および3時間イメージの腫瘍内の平均の平均値を示す図8のグラフ表示である。エラーバーは、平均値の標準誤差である。B12は、Reximmune-C2発現腫瘍であり、A9は、Reximmune-C1発現腫瘍である。C6は、天然細胞株腫瘍である。」との記載がなされているのみであり、請求人が記載する上記具体的な実験手法は、出願時点の技術常識に鑑みても、翻訳文等に記載されていたということは到底できない。

主張(4-3)について
そもそも、翻訳文等には、Reximmune-C1がアミノ酸残基25、26及び168において変異を有するHSV-TKをコードするポリヌクレオチドを含むものであることは、具体的に記載されておらず、Reximmune-C1がそのような配列を有するHSV-TKをコードするポリヌクレオチドを含むものであることが、本願出願時の技術常識からみて明らかということもできない。
仮に、請求人が主張するように、本願の図8及び図9に、アミノ酸残基25、26および168において変異を有するHSV-TKが腫瘍細胞において変異したHSV-TKが蓄積および共局在化を生じさせること(Reximmune-C1)が示され、Reximmune-C2についても同様の効果が確認されているとしても、そもそもReximmune-C1に含まれるポリヌクレオチドによりコードされる突然変異体は、「アミノ酸残基32および33」が「それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異して」いるものではない。
ここで、翻訳文等に記載されるReximmune-C2に含まれる特定のポリヌクレオチドによりコードされる突然変異体は、32と33と25と26と168のアミノ酸残基の変異を有するものではあるが、上記(2)エ及びカの記載からみて、当該変異体をコードするポリヌクレオチドは、上記突然変異に加え、最適化コドン、スプライス修正等の「最適化のほとんどを組み込んだ最適化された」ものである。請求人が主張するとおり、アミノ酸残基32及び33がアミノ酸残基25及び26と同様に核局在性配列であったとしても、これらの記載をもって、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態をコードするポリヌクレオチドが開示されていたとはいえない。
したがって、図8、図9、Reximmune-C1及びReximmune-C2に基づく上記請求人の主張は採用できない。
また、翻訳文等の[0087]?[0113]等の記載が、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態
が「野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大する」ことを開示するものではないことは、上記(3)で検討したとおりである。
以上のとおりであるから、請求人の主張(4-3)は採用できない。

主張(4-4)について
そもそも参考資料B及びCのHSV-TK療法で用いられたポリヌクレオチドはいかなるものか不明である。
そして、翻訳文等には、上記(3)において検討したとおり、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態が「野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大する」ことを示す記載や対応する実施例等は何ら記載されていないことから、参考資料A?Cの実験結果は、上記手続補正が翻訳文等に記載された事項の範囲内で行われたものであることを何ら裏付けるものではない。

(6)小括
以上のとおりであるから、請求人の上記主張を勘案しても、平成30年6月6日付け手続補正書によりなされた補正は、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。


2 理由4(サポート要件)について
(1)本願の請求項1に係る発明について
本願の請求項1に係る発明は、上記第2 1に記載のとおりのものである。
本願の請求項1に係る発明は、「遺伝子療法から恩恵を受けることができる病変を有する患者を同定するための医薬の製造のための、核外輸送配列を含むHSV-TKポリヌクレオチドを含む遺伝子療法レトロウイルス粒子の使用」に係る発明であるところ、その同定に用いられる遺伝子療法レトロウイルス粒子が含む「HSV-TKポリヌクレオチド」は、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態をコードするものであり、HSV-TKの突然変異形態が野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大するものであることを発明特定事項とするものである。
そして、本願の請求項1に係る発明は、本願明細書段落【0005】の記載及び請求項1の記載等からみて、遺伝子療法治療から恩恵を受けることができる対象または患者を請求項1に記載の工程により同定するための方法及び組成物の適用を解決しようとする課題とするものであると認められる。

(2)判断
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
HSV-TKの突然変異形態について、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記1(2)のア?ケの記載がなされている。
上記1(2)ケの図8及び図9の「Reximmune-C2」は、上記1(2)ウの段落【0092】の記載からみて、HSV-TKA168HdmNESを含むものである。また、図8及び図9の「Reximmune-C1」については、本願明細書に何ら具体的な説明がなされていないため、いかなるものか不明であるところ、仮にReximmune-Cと同じものであるとするならば、上記1(2)ウの段落【0094】の記載からみて、SR39突然変異体及びHSV-TK核局在性シグナル(NLS)のR25G-R26S突然変異を有するHSV-TKをコードするポリヌクレオチドを含むものであると認められる。
そして、図8及び図9には、これらの配列のHSV-TKポリヌクレオチドを含むReximmune-C2またはReximmune-C1を投与されたラットにおける5mm切片の冠状1時間及び3時間イメージの腫瘍内の平均の平均値が、天然細胞株腫瘍の当該平均値と共に記載されている。
しかしながら、これらはいずれも、特定の配列からなる変異体をコードするポリヌクレオチドに関するものであり、図8及び図9は、そもそも、変異体が野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大させることを示すものでもない。
さらに、上記1(2)クのとおり、本願明細書の実施例にはReximmune-C2に関する記載はなされているものの、これらの実施例の記載も、Reximmune-C2に含まれる特定のポリヌクレオチドによりコードされる変異体についてすら、野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大させることを示すものではない。
ここで、上記1(2)ア?エ及びキから、本願明細書の発明の詳細な説明には、核局在性配列を変異させること自体は開示されており、核局在性配列について、上記1(2)ウの段落【0094】の記載から、配列番号2のアミノ酸残基の25および26位は、核局在性配列であることが開示されていたと認められる。
しかしながら、上記(2)ア?ケのいずれにも、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態との記載はなされていない。
また、本願の発明の詳細な説明に記載されるReximmune-C2に含まれる特定のポリヌクレオチドによりコードされる突然変異体は、32と33と25と26と168のアミノ酸残基の変異を有するものではあるが、上記(2)エ及びカの記載からみて、当該変異体をコードするポリヌクレオチドは、上記突然変異に加え、最適化コドン、スプライス修正等の「最適化のほとんどを組み込んだ最適化された」突然変異形態をコードするポリヌクレオチドであり、Reximmune-C2及びReximmune-C1に関する記載から、本願の発明の詳細な説明には請求項1に規定される変異を有する突然変異体が開示され、そのような突然変異体が、野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大することが本願の発明の詳細な説明に記載ないし示唆されていたともいえない。
そして、上記(2)キの段落【0150】には、168位に加えて167位をFに変異させた突然変異体では極めて僅かなGCV媒介性癌死滅活性しか示さなかったことが記載されているように、当該技術分野において、野生型と比較して、複数のアミノ酸変異を有する変異体が特定の活性を有していた場合、当該複数のアミノ酸変異のうち一部のアミノ酸変異を有する場合や、変異箇所は同じであっても、異なるアミノ酸へ変異していた場合など、特定の変異体以外に関しては、同様の活性を有しているとまではいえないことは技術常識である。
したがって、本願出願時の技術常識を勘案しても、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態をコードするものであり、HSV-TKの突然変異形態が野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大するものである「HSV-TKポリヌクレオチド」が、発明の詳細な説明に開示されていたとはいえない。
このように、本願の発明の詳細な説明には、核輸送配列を含む請求項1に規定されるHSV-TKポリヌクレオチドを含む遺伝子療法レトロウイルス粒子を、遺伝子療法から恩恵を受けることができる病変を有する患者を同定するための医薬の製造のために使用することが、発明の詳細な説明に開示されていたとはいえず、遺伝子療法治療から恩恵を受けることができる対象または患者を請求項1に記載の工程により同定するための方法及び組成物の適用という、本願の請求項1に係る発明の課題を解決できるように、本願の発明の詳細な説明に記載されていたとはいえない。

(3)請求人の主張
請求人は審判請求書の手続補正書(方式)において、「上記の(1)において述べましたとおり、本願明細書はHSV-TKの変異について具体的な記載を含んでおり、請求項1に記載の変異を含むHSV-TKが増加した細胞死滅活性を有することについて本願明細書は十分に支持するものと思量致します。」と主張する。
加えて、「理由4のサポート要件については、その判断基準として平成21年(行ケ)第10033号審決取消請求事件の判決で判示される基準は、海外においても広く紹介されております。当該基準を鑑みても本願が理由4の拒絶理由を有さないことは明らかと思量致します。」とも主張する。

(4)請求人の主張についての検討
請求人が「上記の(1)において述べた主張」とは、上記1(4)の(4-1)?(4-4)のとおりのものである。

請求人の主張(4-1)について
そもそも本願明細書には、配列番号18に対応するアミノ酸配列は記載されておらず、配列番号2とのアラインメントに基づく配列の変異も開示されていない。
なお、仮に、請求人が主張するように、本願明細書の記載に基づき、「dm」として表示されている二重突然変異が、R25G R26S、及び、R32G R33Sを意味することを当業者が理解できたとしても、その場合には、「dm」とは、「R25G R26S、R32G R33S」という4アミノ酸残基の突然変異を意味することとなるため、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態が本願明細書の発明の詳細な説明に開示されていたということはできない。
そして、本願の発明の詳細な説明には、上記1(2)ウの段落【0090】に「アミノ酸残基25、26、32、33、167、168またはそれらの組み合わせで突然変異」することや、上記1(2)エの段落【0104】には「HSV-TK NESdmNLS A168H、CO & SC」として、核局在性配列の二重突然変異に加え、他の変異をも有する配列番号18のポリヌクレオチドを含むReximmune-C2や、上記1(2)ウの段落【0094】に記載される配列番号3で表されるReximmune-C(核局在性性シグナルのSR39、R25G R26S突然変異体)をコードするポリヌクレオチドに関する記載、及び、上記1(2)オに「いくつかの実施形態では、HSV-TKポリペプチド配列は、アミノ酸残基32および/または33で突然変異している。」との記載はなされているものの、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態をコードするポリヌクレオチドとの記載はなされていない。
ここで、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されるReximmune-C2に含まれる特定のポリヌクレオチドによりコードされる突然変異体は、32と33と25と26と168のアミノ酸残基の変異を有するものではあるが、上記1(2)エ及びカの記載からみて、当該変異体は、上記突然変異に加え、最適化コドン、スプライス修正等の「最適化のほとんどを組み込んだ最適化された」突然変異形態をコードするポリヌクレオチドであり、Reximmune-C2及びReximmune-C1に関する記載から、本願の発明の詳細な説明には請求項1に規定される変異を有する突然変異形態をコードするポリヌクレオチドが開示されていたということはできない。
ましてや、「野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大する」なる活性については、上記1(2)カには、コドン最適化され、スプライス修正された、最適化のほとんどを組み込んだ最適化された配列番号18等で表されるポリヌクレオチドがコードする突然変異体について、癌細胞死滅活性に関する記載がなされており、上記1(2)キの段落【0136】には、「核局在性配列の除去、プロドラッグGSV酵素活性および癌細胞を死滅させるその能力の選択性の増大のうち1つまたは複数を含み得」と記載されるにすぎない。
むしろ、上記1(2)キの段落【0150】には、168位に加えて167位をFに変異させた突然変異体では極めて僅かな癌死滅活性しか示さなかったことが記載されているように、細胞死滅活性は変異が施されれたアミノ酸の種類や個数等によっても異なることは明らかであるから、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基において、32と33が独立して、グリシン、セリン又はグルタミン酸に突然変異しており、かつ、少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含む突然変異形態をコードするポリヌクレオチドであれば、野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大することが記載ないし示唆されていたとはいえない。

請求人の主張(4-2)について
本願明細書の発明の詳細な説明には、図9について「図9は、1時間および3時間イメージの腫瘍内の平均の平均値を示す図8のグラフ表示である。エラーバーは、平均値の標準誤差である。B12は、Reximmune-C2発現腫瘍であり、A9は、Reximmune-C1発現腫瘍である。C6は、天然細胞株腫瘍である。」との記載がなされているのみであり、請求人が記載する上記具体的な実験手法は、出願時点の技術常識に鑑みても、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていたということは到底できない。

請求人の主張(4-3)について
そもそも、本件明細書の発明の詳細な説明には、Reximmune-C1がアミノ酸残基25、26および168において変異を有するHSV-TKをコードするポリヌクレオチドを含むものであることは、具体的に記載されておらず、Reximmune-C1がそのような配列を有するHSV-TKをコードするポリヌクレオチドを含むものであることが、本願出願時の技術常識からみて明らかということもできない。
仮に、請求人が主張するように、本願の図8及び図9に、アミノ酸残基25、26および168において変異を有するHSV-TKが腫瘍細胞において変異したHSV-TKが蓄積及び共局在化を生じさせること(Reximmune-C1)が示されているとしても、そもそもReximmune-C1は、「アミノ酸残基32および33」が「それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異して」いるものではない。
ここで、Reximmune-C2に含まれる特定のポリヌクレオチドによりコードされる突然変異体は、32と33と25と26と168のアミノ酸残基の変異を有するものではあるが、上記(2)エ及びカの記載からみて、当該変異体をコードするポリヌクレオチドは、上記突然変異に加え、最適化コドン、スプライス修正等の「最適化のほとんどを組み込んだ最適化された」ものである。
したがって、Reximmune-C2及びReximmune-C1に関する記載から、本願明細書の発明の詳細な説明に、請求項1に規定される変異を有する突然変異形態をコードするポリヌクレオチドが開示されていたということもできない。
さらに、配列番号2の位置に対応するアミノ酸残基32および33および少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含み、アミノ酸残基32および33が、それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しているHSV-TKの突然変異形態が、野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大することが本願の発明の詳細な説明に記載ないし示唆されていたともいえない。
そして、上記(2)キの段落【0150】には、168位に加えて167位をFに変異させた突然変異体では極めて僅かなGCV媒介性癌死滅活性しか示さなかったことが記載されているように、当該技術分野において、野生型と比較して、複数のアミノ酸変異を有する変異体が特定の活性を有していた場合、当該複数のアミノ酸変異のうち一部のアミノ酸変異を有する場合や、変異箇所は同じであっても、異なるアミノ酸へ変異していた場合など、特定の変異体以外に関しては、同様の活性を有しているとまではいえないことは技術常識である。
以上のとおりであるから、請求人の主張(4-3)は採用できない。

請求人の主張(4-4)について
そもそも、参考資料B及びCのHSV-TK療法で用いられたポリヌクレオチドはいかなるものか不明である。
そして、発明の詳細な説明の記載が不足しているために、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができるといえない場合には、出願後に実験成績証明書を提出して、発明の詳細な説明の記載不足を補うことによって、請求項に係る発明の範囲まで、拡張ないし一般化できると主張したとしても、拒絶理由は解消されない ( (平成 17年(行ケ)10042 号)「偏光フィルムの製造法」大合議判決)ところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記(2)において検討したとおり、「アミノ酸残基32および33」が「それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異し」かつ、「少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含むHSV-TKの突然変異形態」が「野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大する」ことを示す記載や対応する実施例等は何ら記載されていないことから、参考資料A?Cの実験結果は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を補完するものではない。

次に、「平成21年(行ケ)第10033号審決取消請求事件の判決で判示される基準」「を鑑みても本願が理由4の拒絶理由を有さないことは明らか」との請求人の主張について、検討する。
平成21年(行ケ)第10033号は、特許法第36条第6項第1号について、「法36条6項1号は,前記のとおり,『特許請求の範囲』と『発明の詳細な説明』とを対比して,『特許請求の範囲』の記載が『発明の詳細な説明』に記載された技術的事項の範囲を超えるような広範な範囲にまで独占権を付与することを防止する趣旨で設けられた規定である。そうすると,『発明の詳細な説明』の記載内容に関する解釈の手法は,同規定の趣旨に照らして,『特許請求の範囲』が『発明の詳細な説明』に記載された技術的事項の範囲のものであるか否かを判断するのに,必要かつ合目的的な解釈手法によるべきであって,特段の事情のない限りは,『発明の詳細な説明』において実施例等で記載・開示された技術的事項を形式的に理解することで足りるというべきである。」と説示するものである。
上記(2)において検討したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、請求項1に記載される突然変異形態をコードするポリヌクレオチドについて形式的な記載はなされておらず、実施例等に記載された技術的事項を理解しても、「『配列番号2の位置32、33、25、26および168に対応』する『アミノ酸残基32および33』が『それぞれ独立して、グリシン、セリンおよびグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸に突然変異しており』、かつ、『少なくとも1つのアミノ酸残基25、26または168で突然変異を含むHSV-TKの突然変異形態』をコードするものであり、HSV-TKの突然変異形態が野生型チミジンキナーゼと比較して細胞死滅活性を増大するものである『HSV-TKポリヌクレオチド』」なるものは開示されていたとはいえないため、「特許請求の範囲」が「発明の詳細な説明」に記載された技術的事項の範囲のものではないと判断しているのであるから、当該基準を鑑み本願が理由4(サポート要件)の拒絶理由を有さないことは明らかとの請求人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから、請求人の主張を勘案しても、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものではない。
よって、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。


第4 むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合せず、また、平成30年6月6日提出の手続補正書によりなされた補正は、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。
したがって、他の請求項に係る発明や他の拒絶理由について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-07-10 
結審通知日 2020-07-13 
審決日 2020-07-30 
出願番号 特願2016-503157(P2016-503157)
審決分類 P 1 8・ 55- WZ (A61K)
P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 佳代子  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 山内 達人
光本 美奈子
発明の名称 遺伝子療法適用のためのチミジンキナーゼ診断アッセイ  
代理人 宮前 徹  
代理人 小野 新次郎  
代理人 寺地 拓己  
代理人 山本 修  
代理人 中西 基晴  
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