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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1369425
審判番号 不服2020-6232  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-07 
確定日 2020-12-10 
事件の表示 特願2018- 68164「眼科撮影装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月28日出願公開、特開2018- 99631〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年10月31日に出願された特願2013-226374号の一部を、平成30年3月30日に新たに出願したものであって、平成31年1月9日付けで拒絶理由が通知され、同年3月15日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和元年7月16日付けで拒絶理由が通知され、同年11月21日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和2年1月29日付けで拒絶査定されたところ、同年5月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]

1 本件補正について

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。

「 【請求項1】
光源から発せられる照明光を被検眼の眼底へ投光する投光光学系と、前記投光光学系によって投光される前記照明光を前記眼底上で走査するために前記照明光の進行方向を変える走査部と、前記投光光学系から眼底へ照射された前記照明光の眼底反射光を受光素子で受光する受光光学系と、を備え、前記照明光の走査によって被検眼の眼底画像を撮影するための撮影光学系を備える眼科撮影装置であって、
前記撮影光学系は、
眼底上でスポット状の前記照明光を二次元的に走査するための2つの光スキャナからなる前記走査部、または、眼底上でライン状の照明光を一次元的に走査するための前記走査部、を前記投光光学系と前記受光光学系との共通光路上に有し、更に、
前記撮影光学系における前記眼底画像の撮影画角を、第1の画角とするための第1の対物レンズ光学系と、前記眼底画像の撮影画角を前記第1の画角よりも大きな、且つ、50°よりも大きな第2の画角とするための第2の対物レンズ光学系と、を前記共通光路上であって前記走査部と前記被検眼との間に有し、
前記第1の対物レンズ光学系と前記第2の対物レンズ光学系との1つを前記光路上における前記走査部と前記被検眼との間に択一的に配置することで、前記撮影光学系における前記眼底画像の撮影画角を、前記第1の画角と前記第2の画角との間で切換える画角切換手段と、
検者による撮影画角の選択操作に基づいて、前記第1の対物レンズ光学系と前記第2の対物レンズ光学系との1つが前記光路上における前記走査部と前記被検眼との間に択一的に配置されるように前記画角切換手段を制御し、前記第1の画角で撮影が行われる第1の撮影モードと、前記第2の画角で撮影が行われる第2の撮影モードと、の間で撮影モードを切換える制御手段と、を備える、
眼科撮影装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の令和元年11月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「 【請求項1】
光源から発せられる照明光を被検眼の眼底へ投光する投光光学系と、前記投光光学系によって投光される前記照明光を前記眼底上で走査するために前記照明光の進行方向を変える走査部と、前記投光光学系から眼底へ照射された前記照明光の眼底反射光を受光素子で受光する受光光学系と、を備え、前記照明光の走査によって被検眼の眼底画像を撮影するための撮影光学系を備える眼科撮影装置であって、
前記撮影光学系は、前記撮影光学系における撮影画角を、第1の画角とするための第1の対物レンズ光学系と、前記撮影画角を前記第1の画角よりも大きな、且つ、50°よりも大きな第2の画角とするための第2の対物レンズ光学系と、を前記走査部と前記被検眼との間であり、前記投光光学系と前記受光光学系との共通光路上に有し、
前記第1の対物レンズ光学系と前記第2の対物レンズ光学系との1つを前記照明光の光路上に択一的に配置することで、前記撮影光学系における撮影画角を、前記第1の画角と前記第2の画角との間で切換える画角切換手段と、
検者による撮影画角の選択操作に基づいて、前記第1の対物レンズ光学系と前記第2の対物レンズ光学系との1つが前記光路上に択一的に配置されるように前記画角切換手段を制御し、前記第1の画角で撮影が行われる第1の撮影モードと、前記第2の画角で撮影が行われる第2の撮影モードと、の間で撮影モードを切換える制御手段と、を備える、
眼科撮影装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「撮影光学系」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項

ア 引用文献1について

(ア)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された特開2001-245852号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(なお、下線は当審において付与した。以下同様。)

(引1ア)
「【発明の実施の形態】本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。図1は第1の実施例の構成図であり、検眼装置は走査式で共焦点式とされている。また、検眼装置は光軸O1に垂直な被検眼Eのカラー又は擬似カラーの映像と、その光軸O1を含む被検眼Eのカラー又は擬似カラーの断層像とを得ることが可能とされている。
【0017】被検眼Eに対して入反射する光束が進行する光軸O1上には、対物レンズ1とマイクロミラーアレイ2が配置されている。マイクロミラーアレイ2に対して入反射する光束が進行する光軸O2上には、リレーレンズ3とガルバノメータミラー4が配置されている。ガルバノメータミラー4に対して入反射する光束が進行する光軸O3上には、フォーカスレンズ5、光分割部材6、共焦点絞り7及び白色光源8が配置されている。
【0018】光分割部材6において反射した光束が進行する光軸上には、ダイクロイックミラー10、ダイクロイックミラー11、共焦点絞り12及び光電センサ13が配置されている。ダイクロイックミラー10において反射した光束が進行する光軸上には、ダイクロイックミラー14、共焦点絞り15及び光電センサ16が配置されている。ダイクロイックミラー11において反射した光束が進行する光軸上には共焦点絞り17及び光電センサ18が配置され、ダイクロイックミラー14において反射した光束が進行する光軸上には共焦点絞り19及び光電センサ20が配置されている。
【0019】ガルバノメータミラー4はドライバ21により支持されており、マイクロミラーアレイ2、光電センサ13、16、18、20、及びドライバ21は演算手段22に接続され、この演算手段22にはテレビモニタなどの表示手段23が接続されている。
【0020】マイクロミラーアレイ2は対物レンズ1に関して瞳孔と略共役に配置され、光束を紙面に沿った方向つまり主走査方向に高速度で走査し得るようにされている。図2に示すようにマイクロミラーアレイ2は約10mm角とされ、対物レンズ1を介して瞳孔に半分の大きさに投影されるようになっている。マイクロミラーアレイ2の偏向角が約15度である場合には、被検眼Eに60度の画角となるようにされている。マイクロミラーアレイ2は要素ミラーの中心部2aを有し、マイクロミラーアレイ2の使用されない部分には遮光部材2bが施されている。これにより、要素ミラーの中心部2aの角度をその他の部分に対して変化させることにより、対物レンズ1や角膜において反射した光束が光電センサ13、16、18、20に戻らないようにされている。
【0021】ガルバノメータミラー4はドライバ21により支持された反射部材4aと、この反射部材4aの表面の中央部と周辺部に施された遮光部材4b、4cとから構成されている。また、ガルバノメータミラー4は対物レンズ1とリレーレンズ3に関して瞳孔と略共役に配置され、光束を紙面に直交する方向つまり副走査方向に走査するようにされている。フォーカスレンズ5は光軸O3に沿う矢印方向に移動自在とされ、眼底と共焦点絞り7、12、15、17、19はフォーカスレンズ5によって共役とされている。
【0022】光分割部材6はハーフミラーとされ、白色光源8は近赤外光を発生するハロゲンランプ等とされている。光電センサ13、16、18、20はそれぞれ緑色光、近赤外光、青色光、赤色光がそれぞれ受光するようにされており、光電センサ13、16、18、20からの信号は演算手段22に色毎に蓄積され、光軸O1を含む被検眼Eのカラー又は近赤外を含む擬似カラーによる断層像Sが表示手段23に表示されるようになっている。
【0023】白色光源8から発した光束は、ガルバノメータミラー4の光軸部分の遮光部材4bの角度を変化させるか、又はマイクロミラーアレイ2の中心部2aに位置する要素ミラーの角度を他の部分と変えることにより、瞳孔において5?6mm径のリング状とし、かつ眼底において点状として投影し、眼底において反射した光束を瞳孔において同様な径のリング状として取り出すことができる。なお、眼底に投影する光束は線状としても支障はなく、この場合には共焦点絞り7、12、15、17、19の形状も線状とすればよい。
【0024】被検眼Eの断層像Sを得る際には、ガルバノメータミラー4を固定し、フォーカスレンズ5を矢印方向に駆動し、光束を被検眼Eにマイクロミラーアレイ2により走査する。即ち、白色光源8からの光束は共焦点絞り7、光分割部材6、フォーカスレンズ5、ガルバノメータミラー4、リレーレンズ3、マイクロミラーアレイ2、対物レンズ1を介し、瞳孔において5?6mmの径のリング状となって眼底に点状に投影される。
【0025】眼底において反射した光束は、瞳孔からリング状となって出射し、対物レンズ1、マイクロミラーアレイ2、リレーレンズ3、ガルバノメータミラー4、フォーカスレンズ5を介して光分割部材6において反射し、共焦点絞り12、15、17、19を介して光電センサ13、16、18、20にそれぞれ入射する。このとき、フォーカスレンズ5が矢印方向に移動すると共に、マイクロミラーアレイ2が光束を被検眼Eに走査することより、被検眼Eにおける異なる深さの部位が光電センサ13、16、18、20に逐次に結像し、演算手段22は光電センサ13、16、18、20からの深さ信号を記憶し、表示手段23に光軸O1を含む網膜の断層像Sを表示する。この際に、近赤外光に吸収のあるメラニンの固まり等は近赤外光を含む擬似カラー画像として表示し、それ以外は可視光のカラー画像として表示する。
【0026】このように、第1の実施例は光束が太い上に共焦点式であるので、焦点深度が極めて浅くなり、光軸方向の分解能を向上させることができる。例えば、約500μmの厚さの網膜の断層像Sを25μmの分解能で表示することができる。また、カラー画像又は擬似カラー画像を得ることができるので、従来のモノクロ画像と異なり、色情報を一画像に含めることができ、診断価値の高い画像を得ることができる。
【0027】そして、眼底が共焦点絞り7、12、15、17、19と共役になるようにフォーカスレンズ5を固定し、かつ光束をガルバノメータミラー4により副走査方向に二次元的に走査し、演算手段22の演算方法を切換えれば、光軸O1に垂直な断面像、即ち眼底像を得ることができる。」

(引1イ)
「【0029】図4は第2の実施例の構成図であり、第1の実施例と同様な部材は同一符号で示している。従来の走査式の検眼装置では、マイクロミラーアレイ2の走査角度を変化させることにより変倍することが提案されているが、マイクロミラーアレイ2の走査角度を制御することは一般に困難であるので、この第2の実施例では対物レンズ1を矢印方向に移動してその投影倍率を変化させている。また、第1の実施例のガルバノメータミラー4の代りに、中心部の遮光部材4bを持たないガルバノメータミラー4’が配置されている。
【0030】更に、第1の実施例のフォーカスレンズ5と光分割部材6の代りに、光軸O3上にはフォーカスレンズ41、光分割部材42、フォーカスレンズ43、ダイクロイックミラー44が配置されている。また、光分割部材42の反射方向には、フォーカスレンズ45を介して第1の実施例と同様なダイクロイックミラー10、11、14と、共焦点絞り12、15、17、19と、光電センサ13、16、18、20とがそれぞれ配置されている。そして、ダイクロイックミラー44への入射方向の光軸上には、共焦点絞り46とレーザー光源47が配置されいる。なお、ダイクロイックミラー44はレーザー光の波長のみを反射するようにされており、レーザー光源47のレーザー光は蛍光撮影時に好適とされている。」

(引1ウ)図1


(引1エ)図4


(イ) 引用文献1に記載された発明
(引1ア)の【0020】「マイクロミラーアレイ2の偏向角が約15度である場合には、被検眼Eに60度の画角となるようにされている」、(引1イ)の【0029】「図4は第2の実施例の構成図であり、第1の実施例と同様な部材は同一符号で示している。・・・対物レンズ1を矢印方向に移動してその投影倍率を変化させている」との記載、及び(引1ウ)の図3、(引1エ)の図4を踏まえると、検眼装置は、検者による画角変更操作に基づいて、対物レンズ1が、被検眼Eの眼底に対し、60度の画角となる実線の位置から、60度の画角より小さい画角となる点線の位置に、光軸O1上をマイクロミラーアレイ2の方向に移動するように制御されることが理解できる。
よって、上記(ア)の記載及び図面を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「光軸O1に垂直な被検眼Eのカラー又は擬似カラーの映像と、その光軸O1を含む被検眼Eのカラー又は擬似カラーの断層像とを得ることが可能とされている検眼装置であって、
被検眼Eに対して入反射する光束が進行する光軸O1上には、対物レンズ1とマイクロミラーアレイ2が配置され、
マイクロミラーアレイ2に対して入反射する光束が進行する光軸O2上には、リレーレンズ3とガルバノメータミラー4’が配置され、
ガルバノメータミラー4’に対して入反射する光束が進行する光軸O3上には、フォーカスレンズ41、光分割部材42、フォーカスレンズ43、共焦点絞り7及び白色光源8が配置され、
光分割部材42において反射した光束が進行する光軸上には、フォーカスレンズ45、ダイクロイックミラー10、ダイクロイックミラー11、共焦点絞り12及び光電センサ13が配置され、
ダイクロイックミラー10において反射した光束が進行する光軸上には、ダイクロイックミラー14、共焦点絞り15及び光電センサ16が配置され、
ダイクロイックミラー11において反射した光束が進行する光軸上には共焦点絞り17及び光電センサ18が配置され、
ダイクロイックミラー14において反射した光束が進行する光軸上には共焦点絞り19及び光電センサ20が配置され、
ガルバノメータミラー4’はドライバ21により支持されており、マイクロミラーアレイ2、光電センサ13、16、18、20、及びドライバ21は演算手段22に接続され、この演算手段22にはテレビモニタなどの表示手段23が接続され、
マイクロミラーアレイ2は光束を紙面に沿った方向つまり主走査方向に高速度で走査し得るようにされ、
ガルバノメータミラー4’は光束を紙面に直交する方向つまり副走査方向に走査するようにされ、
光電センサ13、16、18、20からの信号は演算手段22に色毎に蓄積され、光軸O1を含む被検眼Eのカラー又は近赤外を含む擬似カラーによる断層像Sが表示手段23に表示されるようになっており、
白色光源8から発した光束は、眼底において点状として投影し、眼底が共焦点絞り7、12、15、17、19と共役になるようにフォーカスレンズを固定し、かつ光束をマイクロミラーアレイ2により主走査方向に、ガルバノメータミラー4’により副走査方向に二次元的に走査し、光軸O1に垂直な断面像、即ち眼底像を得ることができ、
検者による画角変更操作に基づいて、対物レンズ1が、被検眼Eの眼底に対し、60度の画角となる位置から、60度の画角より小さい画角となる位置に、光軸O1上をマイクロミラーアレイ2の方向に移動するように制御される、検眼装置。」

イ 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された特開昭64-58237号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(引3ア)
「本発明は眼底検査装置、特に光源としてレーザー光を用いそのビームを2次元的に偏向走査して被検眼の眼底に照射し、眼底からの反射光を受光して光電変換して処理することにより眼底情報を得る電子的な検眼装置に関するものである。」(第3頁左上欄第16行?末行)

(引3イ)
「すでに述べたように、レンズ23は、複数のレンズ群よりなり、画角変換や、焦点調整機能を持つ。たとえば、レンズ群の一部を入れ換えることによりレーザー光の走査範囲を変えることができ、撮像される被検眼眼底に対する画角範囲を変換することができる。」(第8頁左下欄第13行?18行)

ウ 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された特開平11-235315号公報(以下「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(引4ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は被検眼の眼底光凝固治療及び眼底検査に用いられるレーザ検眼鏡に関するものである。」

(引4イ)
「【0023】また、観察光学系の対物レンズ1は屈折力の異なる他の対物レンズと交換可能とすることが望ましい。対物レンズ1を交換すると、倍率の変化は勿論であるが、被検眼角膜上での高さh(図2参照)を変えることになる。このため、例えば、より瞳孔径の小さい患者に対して有効な観察、治療を行なうことができる。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明において、「被検眼Eに対して入反射する光束が進行する光軸O1上には、対物レンズ1とマイクロミラーアレイ2が配置され、
マイクロミラーアレイ2に対して入反射する光束が進行する光軸O2上には、リレーレンズ3とガルバノメータミラー4’が配置され、
ガルバノメータミラー4’に対して入反射する光束が進行する光軸O3上には、フォーカスレンズ41、光分割部材42、フォーカスレンズ43、共焦点絞り7及び白色光源8が配置され」ることは、投光光学系を構成しているが明らかであるから、本件補正発明の「光源から発せられる照明光を被検眼の眼底へ投光する投光光学系」に相当する。

イ 引用発明は、「白色光源8から発した光束は、眼底において点状として投影し、眼底が共焦点絞り7、12、15、17、19と共役になるようにフォーカスレンズを固定し、かつ光束をマイクロミラーアレイ2により主走査方向に、ガルバノメータミラー4’により副走査方向に二次元的に走査」するから、「マイクロミラーアレイ2」と「ガルバノメータミラー4’」を用いて「白色光源8から発した光束」を「眼底」で「二次元的に走査」することが分かる。
よって、引用発明の「白色光源8から発した光束」を「眼底」で「二次元的に走査」するための「マイクロミラーアレイ2」と「ガルバノメータミラー4’」は、本件補正発明の「前記投光光学系によって投光される前記照明光を前記眼底上で走査するために前記照明光の進行方向を変える走査部」に相当する。

ウ 引用発明の「被検眼Eに対して入反射する光束が進行する光軸O1上には、対物レンズ1とマイクロミラーアレイ2が配置され、
マイクロミラーアレイ2に対して入反射する光束が進行する光軸O2上には、リレーレンズ3とガルバノメータミラー4’が配置され、
ガルバノメータミラー4’に対して入反射する光束が進行する光軸O3上には、フォーカスレンズ41、光分割部材42」「が配置され、
光分割部材42において反射した光束が進行する光軸上には、フォーカスレンズ45、ダイクロイックミラー10、ダイクロイックミラー11、共焦点絞り12及び光電センサ13が配置され、
ダイクロイックミラー10において反射した光束が進行する光軸上には、ダイクロイックミラー14、共焦点絞り15及び光電センサ16が配置され、
ダイクロイックミラー11において反射した光束が進行する光軸上には共焦点絞り17及び光電センサ18が配置され、
ダイクロイックミラー14において反射した光束が進行する光軸上には共焦点絞り19及び光電センサ20が配置され」ることは、受光光学系を構成しているが明らかであるから、本件補正発明の「前記投光光学系から眼底へ照射された前記照明光の眼底反射光を受光素子で受光する受光光学系」に相当する。

エ 上記ア?ウを踏まえると、引用発明において、「白色光源8から発した」「光束をマイクロミラーアレイ2により主走査方向に、ガルバノメータミラー4’により副走査方向に二次元的に走査し、光軸O1に垂直な断面像、即ち眼底像を得ること」は、投光光学系と、走査部と、受光光学系と、を備えた撮影光学系を備えることであるから、本件補正発明の「光源から発せられる照明光を被検眼の眼底へ投光する投光光学系と、前記投光光学系によって投光される前記照明光を前記眼底上で走査するために前記照明光の進行方向を変える走査部と、前記投光光学系から眼底へ照射された前記照明光の眼底反射光を受光素子で受光する受光光学系と、を備え、前記照明光の走査によって被検眼の眼底画像を撮影するための撮影光学系を備える」ことに相当する。

オ 上記エを踏まえると、引用発明の「検眼装置」は、本件補正発明の「眼科撮影装置」に相当する。

カ 引用発明の「白色光源8から発した光束」を「眼底において点状として投影し」、「二次元的に走査」するための「マイクロミラーアレイ2」と「ガルバノメータミラー4’」は、本件補正発明の「眼底上でスポット状の前記照明光を二次元的に走査するための2つの光スキャナからなる前記走査部」に相当する。
また、引用発明の「被検眼Eに対して入反射する光束が進行する光軸O1」と、「マイクロミラーアレイ2に対して入反射する光束が進行する光軸O2」と、「光分割部材42」から「ガルバノメータミラー4’に対して入反射する光束が進行する光軸O3」とが、本件補正発明の「前記投光光学系と前記受光光学系との共通光路」に相当する。
よって、引用発明において、「白色光源8から発した光束」を「眼底において点状として投影し」、「二次元的に走査」するための、「マイクロミラーアレイ2」が「光軸O1上に」「配置され」、「ガルバノメータミラー4’」が「光軸O2上に」「配置され」ることは、本件補正発明の「眼底上でスポット状の前記照明光を二次元的に走査するための2つの光スキャナからなる前記走査部」「を前記投光光学系と前記受光光学系との共通光路上に有」することに相当する。

キ 引用発明において「対物レンズ1」を「光軸O1上に」「配置」することと、本件補正発明において「前記撮影光学系における前記眼底画像の撮影画角を、第1の画角とするための第1の対物レンズ光学系と、前記眼底画像の撮影画角を前記第1の画角よりも大きな、且つ、50°よりも大きな第2の画角とするための第2の対物レンズ光学系と、を前記共通光路上であって前記走査部と前記被検眼との間に有」することとは、両発明において「対物レンズ光学系を前記共通光路上であって前記走査部と前記被検眼との間に有」する点で共通する。

ク 引用発明は、「検者による画角変更操作に基づいて、対物レンズ1が、被検眼Eの眼底に対し、60度の画角となる位置から、60度の画角より小さい画角となる位置に、光軸O1上をマイクロミラーアレイ2の方向に移動するように制御される」ことから、「対物レンズ1」を、「被検眼Eの眼底に対し、60度の画角となる位置」と「60度の画角より小さい画角となる位置」との間で、「画角変更」のために「光軸O1上をマイクロミラーアレイ2の方向に移動」させる移動手段を備えていることは明らかである。
よって、引用発明の「対物レンズ1」を、「被検眼Eの眼底に対し、60度の画角となる位置」と「60度の画角より小さい画角となる位置」との間で、「画角変更」のために「光軸O1上をマイクロミラーアレイ2の方向に移動」させることと、本件補正発明の「前記第1の対物レンズ光学系と前記第2の対物レンズ光学系との1つを前記光路上における前記走査部と前記被検眼との間に択一的に配置することで、前記撮影光学系における前記眼底画像の撮影画角を、前記第1の画角と前記第2の画角との間で切換える画角切換手段」とは、「前記対物レンズ光学系を前記光路上における前記走査部と前記被検眼との間の所定位置に配置することで、前記撮影光学系における前記眼底画像の撮影画角を、第1の画角と、前記第1の画角よりも大きな、且つ、50°よりも大きな第2の画角との間で切換える画角切換手段」の点で共通する。

ケ 引用発明において、「検者による画角変更操作に基づいて、対物レンズ1が、被検眼Eの眼底に対し、60度の画角となる位置から、60度の画角より小さい画角となる位置に、光軸O1上をマイクロミラーアレイ2の方向に移動するように制御される」ことと、本件補正発明において、「検者による撮影画角の選択操作に基づいて、前記第1の対物レンズ光学系と前記第2の対物レンズ光学系との1つが前記光路上における前記走査部と前記被検眼との間に択一的に配置されるように前記画角切換手段を制御」することとは、両発明において、「検者による撮影画角の選択操作に基づいて、前記対物レンズ光学系が前記光路上における前記走査部と前記被検眼との間の所定位置に配置されるように前記画角切換手段を制御」する点で共通する。
また、引用発明の「対物レンズ1」が「60度の画角より小さい画角となる位置」で「眼底像を得る」ことが、本件補正発明の「前記第1の画角で撮影が行われる第1の撮影モード」に相当し、引用発明の「対物レンズ1」が「60度の画角となる位置」で「眼底像を得る」ことが、本件補正発明の「前記第2の画角で撮影が行われる第2の撮影モード」に相当するところ、引用発明において、「対物レンズ1」が「60度の画角より小さい画角となる位置」と「60度の画角となる位置」で、各々「眼底像を得る」ことは、「眼底像を得る」ための撮影モードを切換える「制御」手段を備えていることが明らかであるから、本件補正発明の「前記第1の画角で撮影が行われる第1の撮影モードと、前記第2の画角で撮影が行われる第2の撮影モードと、の間で撮影モードを切換える制御手段」に相当する。
よって、引用発明において、「検者による画角変更操作に基づいて、対物レンズ1が、被検眼Eの眼底に対し、60度の画角となる位置から、60度の画角より小さい画角となる位置に、光軸O1上をマイクロミラーアレイ2の方向に移動するように制御され」、「対物レンズ1」が「60度の画角より小さい画角となる位置」と「60度の画角となる位置」で、各々「眼底像を得る」ことと、本件補正発明の「検者による撮影画角の選択操作に基づいて、前記第1の対物レンズ光学系と前記第2の対物レンズ光学系との1つが前記光路上における前記走査部と前記被検眼との間に択一的に配置されるように前記画角切換手段を制御し、前記第1の画角で撮影が行われる第1の撮影モードと、前記第2の画角で撮影が行われる第2の撮影モードと、の間で撮影モードを切換える制御手段」とは、「検者による撮影画角の選択操作に基づいて、前記対物レンズ光学系が前記光路上における前記走査部と前記被検眼との間の所定位置に配置されるように前記画角切換手段を制御し、前記第1の画角で撮影が行われる第1の撮影モードと、前記第2の画角で撮影が行われる第2の撮影モードと、の間で撮影モードを切換える制御手段」の点で共通する。

(4)一致点・相違点
上記(3)から、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「 光源から発せられる照明光を被検眼の眼底へ投光する投光光学系と、前記投光光学系によって投光される前記照明光を前記眼底上で走査するために前記照明光の進行方向を変える走査部と、前記投光光学系から眼底へ照射された前記照明光の眼底反射光を受光素子で受光する受光光学系と、を備え、前記照明光の走査によって被検眼の眼底画像を撮影するための撮影光学系を備える眼科撮影装置であって、
前記撮影光学系は、
眼底上でスポット状の前記照明光を二次元的に走査するための2つの光スキャナからなる前記走査部を前記投光光学系と前記受光光学系との共通光路上に有し、更に、
対物レンズ光学系を前記共通光路上であって前記走査部と前記被検眼との間に有し、
前記対物レンズ光学系を前記光路上における前記走査部と前記被検眼との間の所定位置に配置することで、前記撮影光学系における前記眼底画像の撮影画角を、第1の画角と、前記第1の画角よりも大きな、且つ、50°よりも大きな第2の画角との間で切換える画角切換手段と、
検者による撮影画角の選択操作に基づいて、前記対物レンズ光学系が前記光路上における前記走査部と前記被検眼との間の所定位置に配置されるように前記画角切換手段を制御し、前記第1の画角で撮影が行われる第1の撮影モードと、前記第2の画角で撮影が行われる第2の撮影モードと、の間で撮影モードを切換える制御手段と、を備える、
眼科撮影装置。」

(相違点)
本件補正発明では、「前記撮影光学系における前記眼底画像の撮影画角を、第1の画角とするための第1の対物レンズ光学系と、前記眼底画像の撮影画角を前記第1の画角よりも大きな、且つ、50°よりも大きな第2の画角とするための第2の対物レンズ光学系と、」を前記共通光路上であって前記走査部と前記被検眼との間に有し、
「前記第1の対物レンズ光学系と前記第2の対物レンズ光学系との1つ」を前記光路上における前記走査部と前記被検眼との間に「択一的に」配置することで、前記撮影光学系における前記眼底画像の撮影画角を、「前記」第1の画角と「前記」第2の画角との間で切換える画角切換手段と、
検者による撮影画角の選択操作に基づいて、「前記第1の対物レンズ光学系と前記第2の対物レンズ光学系との1つ」が前記光路上における前記走査部と前記被検眼との間に「択一的に」配置されるように前記画角切換手段を制御する制御手段を備えるのに対し、
引用発明では、「検者による画角変更操作に基づいて、対物レンズ1が、被検眼Eの眼底に対し、60度の画角となる位置から、60度の画角より小さい画角となる位置に、光軸O1上をマイクロミラーアレイ2の方向に移動するように制御される」点。

(5)判断
上記相違点について検討する。

一般に、光学撮影装置において、画角を変更する際に、レンズを交換するか、ズームレンズを用いることが行われており、そのどちらを採用するかは適宜選択し得る事項である。
また、眼科撮影装置である引用発明における画角を変更する構成は、対物レンズを光軸方向に移動させるものであり(ズームレンズに相当。)、同様に眼科撮影装置である引用文献3、4(上記(2)のイ及びウ参照。)における画角を変更する構成は、レンズを交換するものである。
してみると、一般の光学撮影装置と同様に眼科撮影装置においても、画角を変更する構成として、レンズを交換するか、ズームレンズを用いるかは適宜選択し得る事項であるといえる。
よって、眼科撮影装置である引用発明において、画角を変更する構成として、対物レンズを光軸方向に移動させる構成とするか、対物レンズ1を交換する構成とするかは、当業者が適宜選択し得ることであって、上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1、3、4の記載から予測される範囲内のものにすぎず、顕著なものということはできない。

(6)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和元年11月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(2)に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献4、5等)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2001-245852号公報
引用文献2:省略
引用文献3:特開昭64-58237号公報
引用文献4:特開平11-235315号公報
引用文献5:特開平5-176897号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献及びその記載事項は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2(3)?(5)で検討した本件補正発明から、「撮影光学系」について付加した限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、「撮影光学系」について付加した限定を追加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(3)?(5)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-10-09 
結審通知日 2020-10-13 
審決日 2020-10-26 
出願番号 特願2018-68164(P2018-68164)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
松谷 洋平
発明の名称 眼科撮影装置  

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