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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1369625
審判番号 不服2020-3156  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-06 
確定日 2020-12-24 
事件の表示 特願2017- 36602「インダクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月13日出願公開、特開2018-142644〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成29年2月28日の出願であって、令和1年5月30日付けで拒絶理由が通知され、同年7月19日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月25日付けで拒絶査定されたところ、令和2年3月6日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正されたものである。


第2 令和2年3月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和2年3月6日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の概要
令和2年3月6日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、令和1年7月19日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項により特定される、

「 柱状の軸部と、前記軸部の両端部の一対の支持部とを有するコアと、
前記一対の支持部のそれぞれに設けられた端子電極と、
前記軸部に巻回され、両端部がそれぞれ前記一対の支持部の端子電極に接続されたワイヤと、を有し、
前記軸部の延びる第1の方向と直交する方向のうち、前記端子電極により実装される回路基板と平行となる方向において前記端子電極を含む幅寸法が0.36mm以下であり、
周波数が3.6GHzの入力信号に対して500Ω以上のインピーダンス値を示す、
インダクタ。」

との発明(以下、「本願発明」という。)を、

「 柱状の軸部と、前記軸部の両端部の一対の支持部とを有するコアと、
前記一対の支持部のそれぞれに設けられた端子電極と、
前記軸部に巻回され、両端部がそれぞれ前記一対の支持部の端子電極に接続されたワイヤと、を有し、
前記軸部の延びる第1の方向における前記コアと前記一対の支持部の端子電極とを含む長さ寸法が1.0mm以下であり、
前記第1の方向と直交する方向のうち、前記端子電極により実装される回路基板と平行となる方向において前記端子電極を含む幅寸法が0.36mm以下であり、
周波数が3.6GHzの入力信号に対して500Ω以上のインピーダンス値を示す、
インダクタ。」

との発明(以下、「本件補正発明」という。)とする補正を含むものである。(下線部は、補正箇所を示す。)


2 補正の適否
(1)新規事項の有無、シフト補正の有無、補正の目的要件
上記補正は、インダクタのコアと一対の支持部の端子電極とを含む長さ寸法が1.0mm以下であることを限定する補正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
また、本願明細書の【0033】段落に「本実施形態のインダクタ10は、コア20と、一対の端子電極40と、ワイヤ50とを有する。コア20は、軸部21と一対の支持部22とを有している。軸部21は直方体状に形成されている。」と記載され、【0040】段落に「インダクタ10において、長さ方向Ldの大きさ(長さ寸法L1)は、0mmよりも大きく、1.0mm以下が好ましい。」と記載されている。(下線は当審で付した。)
したがって、上記補正は特許法17条の2第5項2号(補正の目的)に規定された事項を目的とするものであり、また、同法17条の2第3項(新規事項)、第4項(シフト補正)に違反するところはない。

(2)独立特許要件について
上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものか否か(特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するか否か)について検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記「1 補正の概要」の項の「本件補正発明」のとおりのものと認める。

イ 引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に公開された文献である特開2006-100701号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の記載がある。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、信号ライン等から高周波ノイズを除去するためのノイズ除去デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパソコン等のディジタル機器にあってはその高機能化に伴って信号処理速度の高速化が進んでおり、クロック周波数が1GHzを越えるCPUを用いたディジタル機器も数多く存在する。クロック周波数が数百MHzを越えるディジタル回路ではその基本波の帯域だけではなく高調波が現れるGHz帯域にも高周波ノイズが生じるため、数百MHz?数GHzの広帯域で高周波ノイズを除去する必要がある。
・・・(中略)・・・
【0005】
本発明は前記事情に鑑みて創作されたもので、その目的とするところは、1個のデバイスで広い周波数帯域においてノイズ除去効果を安定して得ることができるノイズ除去デバイスを提供することにある。
【0006】
前記目的を達成するため、本発明のノイズ除去デバイスは、透磁率の共鳴周波数が100MHz以上である磁性材から成り、2つの四角柱部の間に該四角柱部の断面外形よりも断面外形が小さな軸部を有するコアと、コアの軸部上にコイル用線材を線間に所定スペースを有するように巻き付けて構成されたコイルと、コアを構成する磁性材よりも誘電率が小さい絶縁材から成り、コアの軸部上に存するコイルの線間に充填されるようにコイルを覆い、且つ、外観形状が四角柱状になるように形成された外装と、コア両端の四角柱部に形成され、コイルの各端部と電気的に導通する1対の外部電極とを備える、ことをその特徴とする。」

b 「【0009】
まず、図1?図4を参照して、本発明を適用したノイズ除去デバイスの構造について説明する。尚、以下の説明では図1の左右方向をデバイスの長さ、図2の左右方向をデバイスの幅、図2の上下方向をデバイスの高さと表記する。
【0010】
図1はノイズ除去デバイスを幅方向の一面側から見た図、図2は図1に示したノイズ除去デバイスを長さ方向の一面側から見た図、図3は図2のa-a線断面図、図4は図1のb-b線断面図であり、図中の10はデバイス、11はコア、12はコイル、13は外装、14は1対の外部電極である。
・・・・(中略)・・・・
【0015】
また、コア11は、2つの四角柱部11aを両端に対称に有し、且つ、2つの四角柱部11aの間に該四角柱部11aの断面外形よりも断面外形が小さな軸部11bを同軸上に有する。2つの四角柱部11aの断面は正方形またはこれに近似した形状を成し、軸部11bの断面は円形またはこれに近似した形状を成す。図面には2つの四角柱部11aと軸部11bとの境界面をコア11の中心線と直交する面で構成したものを示してあるが、境界面をコア11の中心線と鋭角を成す面、立体的には四角柱部11aから軸部11bに向かって徐々に外形が小さくなる円錐台状に形成しても構わない。また、2つの四角柱部11aの底面には、断面が台形状または矩形状を成す凹部11a1が長さ方向に沿って設けられている。コア11の2つの四角柱部11aの長さ及び軸部11bの長さには特段の制限はないが、軸部11bの長さはコイル12を所定の巻き数及びピッチで構成可能な長さを確保できるようにする。また、コア11の軸部11bの直径Dは、コア両端の四角柱部11aの高さをTとしたときに、0.3T<D<0.9Tの範囲内、好ましくは0.5Tとなるようにする。
【0016】
コイル12は導線を絶縁材で被覆した線材から成り、該コイル用線材をコア11の軸部11b上に所定回数巻き付けることにより構成されている。コイル用線材の導線は所定の抵抗率を有するものであれば適宜使用できるが、好ましくはCu系,Ni系,Ag系のものが使用される。コイル用線材の絶縁材には絶縁性を有するものであれば適宜使用できるが、好ましくはポリウレタンやポリエステル等のプラスチックが使用される。
・・・・(中略)・・・・
【0020】
1対の外部電極14は、各四角柱部11aの底面及び端面の一部を連続して覆うようにほぼ均一な厚さで形成され、各外部電極14はコイル12の各端部12aと電気的に導通している。また、デバイス10を基板等に実装するときのことを考慮し各外部電極14の底面部分は外装13の底面部分よりも下方に突出している。各外部電極14はAg,Cu,Ni,Sn等の金属またはこれらの合金から成り、単層または多層構造を有する。外部電極14の厚さには特段の制限はない。この外部電極14は各四角柱部11aの端面及び該端面と隣接する4つの面に連続して設けられていてもよいが、好ましくは各四角柱部11aの底面及び端面の一部を連続して覆うような形態とし、端面に回り込む部分の高さを四角柱部11aの高さの1/4?1/2とする。」

c 「【0021】
図5?図10は先に説明したデバイス10を1608サイズ(長さと幅と高さのそれぞれの基準値が1.6mm,0.8mm,0.8mm)で作成した場合における各種検証データを示し、図11は同デバイスのインピーダンス特性を示す。
・・・・・(中略)・・・・
【0032】
図10は電極形態の検証データを示すものでは、ここでは外部電極14が各四角柱部11aの底面及び端面の一部に連続して覆うように設け、且つ、端面に回り込む部分の高さを四角柱部11aの高さの3/8としたもののインピーダンス特性を実線で表し、外部電極14が各四角柱部11aの端面及び該端面と隣接する4つの面に連続して設けられたもののインピーダンス特性を破線で表してある。因みに、1608サイズでは四角柱部11aの高さの基準値は0.8mmであるので高さの3/8とした場合の回り込み部分の高さは0.3mmとなる。
【0033】
図10から分かるように、何れのものも3.0GHz付近と8.0GHz付近の2箇所に共振点が現れる類似ししたインピーダンス特性を示すが、外部電極14が各四角柱部11aの底面及び端面の一部に連続して設けられたものの方(実線参照)が広い周波数帯域で高いインピーダンスを得ることができる。」

d 図1、2、10として以下の図面が記載されている。

図1


図2



図10


上記の記載によれば、引用文献には次の事項が記載されている。

・【0001】【0002】【0005】段落によれば、「数百MHz?数GHzの広帯域で高周波ノイズを除去する」「広い周波数帯域においてノイズ除去効果を安定して得ることができるノイズ除去デバイス」が記載されている。

・【0006】段落によれば、「ノイズ除去デバイス」は、「2つの四角柱部の間に該四角柱部の断面外形よりも断面外形が小さな軸部を有するコア」と、「コアの軸部上にコイル用線材を」「巻き付けて構成されたコイル」と、「コア両端の四角柱部に形成され、コイルの各端部と電気的に導通する1対の外部電極」とを備えている。

・【0015】段落、および図1、図2によれば、「コア11は、2つの四角柱部11aを両端に対称に有し、且つ、2つの四角柱部11aの間に該四角柱部11aの断面外形よりも断面外形が小さな軸部11bを同軸上に有し」、「2つの四角柱部11aの断面は正方形またはこれに近似した形状を成し、軸部11bの断面は円形またはこれに近似した形状を成」している。

・【0016】段落、および図1、図2によれば、「コイル12は導線を絶縁材で被覆した線材から成り、該コイル用線材をコア11の軸部11b上に所定回数巻き付けることにより構成されている」。

・【0020】段落、および図1、図2によれば、「1対の外部電極14は、各四角柱部11aの底面及び端面の一部を連続して覆うようにほぼ均一な厚さで形成され、各外部電極14はコイル12の各端部12aと電気的に導通している」。

・【0021】段落によれば、図10における上記のインピーダンス特性は、デバイスのサイズが「1608サイズ(長さと幅と高さのそれぞれの基準値が1.6mm,0.8mm,0.8mm)で作成した場合」における検証データである。
また、【0032】段落および図10によれば、「外部電極14が各四角柱部11aの底面及び端面の一部に連続して覆うように設け、且つ、端面に回り込む部分の高さを四角柱部11aの高さの3/8としたもののインピーダンス特性」(実線)は3.6GHzにおいて1000Ωを超えていることが見て取れる。

以上を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 2つの四角柱部の間に該四角柱部の断面外形よりも断面外形が小さな軸部を有するコアと、前記コアの軸部上にコイル用線材を巻き付けて構成されたコイルと、コア両端の前記四角柱部に形成され、前記コイルの各端部と電気的に導通する1対の外部電極と、を備え、
前記コアは、前記2つの四角柱部を両端に対称に有し、且つ、前記2つの四角柱部の間に該四角柱部の断面外形よりも断面外形が小さな前記軸部を同軸上に有し、前記2つの四角柱部の断面は正方形またはこれに近似した形状を成し、前記軸部の断面は円形またはこれに近似した形状を成し、
前記コイルは導線を絶縁材で被覆した線材から成り、該コイル用線材を前記コアの前記軸部上に所定回数巻き付けることにより構成され、
前記1対の外部電極は、各四角柱部の底面及び端面の一部を連続して覆うようにほぼ均一な厚さで形成され、各外部電極は前記コイルの各端部と電気的に導通し、
デバイスのサイズが1608サイズ(長さと幅と高さのそれぞれの基準値が1.6mm,0.8mm,0.8mm)であり、
インピーダンスが3.6GHzにおいて1000Ωを超えている、
ノイズ除去デバイス。」


ウ 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

a 引用発明において、断面が円形またはこれに近似した形状を成している「軸部」は、本件補正発明の「柱状の軸部」に相当する。
また、引用発明において、軸部の両端に対称に構成された「2つの四角柱部」は、本件補正発明の「軸部の両端部の一対の支持部」に相当する。
そして、引用発明において「軸部」と「2つの四角柱部」とを有する「コア」は、本件補正発明における「コア」に相当する。

b 引用発明の各四角柱部の底面及び端面の一部を連続して覆うようにほぼ均一な厚さで形成される「1対の外部電極」は、本件補正発明の「一対の支持部のそれぞれに設けられた端子電極」に相当する。

c 引用発明の「コイル」は、コイル用線材をコアの軸部上に所定回数巻き付けられることにより構成され、各端部が各外部電極と電気的に導通しているから、本件補正発明の「前記軸部に巻回され、両端部がそれぞれ前記一対の支持部の端子電極に接続されたワイヤ」に相当する。

d 引用発明のデバイスのサイズの「長さ」は、図1、図2を参照すれば、本件補正発明の「前記軸部の延びる第1の方向における前記コアと前記一対の支持部の端子電極とを含む長さ」に対応することは明らかである。しかしながら、引用発明と本件補正発明とは、「前記軸部の延びる第1の方向における前記コアと前記一対の支持部の端子電極とを含む」所定の寸法の長さを有する点では共通するものの、引用発明のデバイスは1608サイズを有しており、1608サイズの基準値によれば「長さ」の寸法が1.6mmであるのに対して、本件補正発明では1.0mm以下である点で相違している。

e 引用発明のデバイスのサイズの「幅」は、図1、図2を参照すれば本件補正発明の「前記軸部の延びる第1の方向と直交する方向のうち、前記端子電極により実装される回路基板と平行となる方向において前記端子電極を含む幅」に対応することは明らかである。しかしながら、引用発明と本件補正発明とは、所定の寸法の幅を有する点では共通するものの、引用発明のデバイスは1608サイズを有しており、基準値によれば1608サイズの「幅」の寸法が0.8mmであるのに対して、本件補正発明では幅寸法が0.36mm以下である点で相違している。

f 引用発明の3.6GHzにおけるインピーダンスは1000Ωを超えているから、本件補正発明の「周波数が3.6GHzの入力信号に対して500Ω以上のインピーダンス値を示す」との構成に含まれている。

g 引用発明の「ノイズ除去デバイス」は、コアとコイルで構成され、インダクタとして機能するから、本件補正発明の「インダクタ」に相当する。

したがって、本件補正発明と引用発明とは以下の点で一致し、相違する。

(一致点)
「 柱状の軸部と、前記軸部の両端部の一対の支持部とを有するコアと、
前記一対の支持部のそれぞれに設けられた端子電極と、
前記軸部に巻回され、両端部がそれぞれ前記一対の支持部の端子電極に接続されたワイヤと、を有し、
前記軸部の延びる第1の方向における前記コアと前記一対の支持部の端子電極とを含む所定の寸法の長さを有し、
前記第1の方向と直交する方向のうち、前記端子電極により実装される回路基板と平行となる方向において前記端子電極を含む所定の寸法の幅を有し、
周波数が3.6GHzの入力信号に対して500Ω以上のインピーダンス値を示す、
インダクタ。」

(相違点)
本件補正発明では、軸部の延びる第1の方向における前記コアと前記一対の支持部の端子電極とを含む長さ寸法が1.0mm以下であり、第1の方向と直交する方向のうち、端子電極により実装される回路基板と平行となる方向において前記端子電極を含む幅寸法が0.36mm以下であるのに対して、引用発明では長さが1.6mm、幅が0.6mmである点。

エ 判断
上記相違点について検討する。
上記「イ」で引用した引用文献(特開2006-100701号公報)には以下の記載がある。

「【0035】
図11から分かるように、このデバイス10は、特定の周波数帯域でのみ他の周波数帯域に比べて遥かに高いインピーダンスを生じる特性を有するものではなく、3.0GHz付近と8.0GHz付近の2箇所に共振点が現れると共に数百MHz?数GHzの広帯域においてなだらかな勾配を示すインピーダンス特性を有することから、1個のデバイスで広い周波数帯域において狙い通りのノイズ除去効果を安定して得ることが可能である。
【0036】
このようなインピーダンス特性が現れる根拠は定かではないが、図1?図4を引用して説明したデバイス10自体の基本構造が関与していることは勿論のこと、図5?図10を引用して説明した各構成要素が関与していると考えられる。依って、前記デバイス10と同じものを他のサイズ、例えば1005サイズ(長さと幅と高さのそれぞれの基準値が1.0mm,0.5mm,0.5mm)で作成した場合や0603サイズ(長さと幅と高さのそれぞれの基準値が0.6mm,0.3mm,0.3mm)で作成した場合でも、同様の基本構造及び各構成要素を採用することにより同様の作用効果を得ることが可能である。」

【0036】段落には、他のサイズである「0603サイズ(長さと幅と高さのそれぞれの基準値が0.6mm,0.3mm,0.3mm)で作成した場合」、すなわち、長さを0.6mm、幅を0.3mmとすることについて示唆されているから、本件補正発明の「長さ寸法が1.0mm以下」「幅寸法が0.36mm以下」とすることは、引用文献において予定されている事項にすぎない。
また、長さを0.6mm、幅を0.3mmとした場合に、3.6GHzにおけるインピーダンスがどのような値になるかについて、引用文献に明示されてはいないものの、【0036】段落に「0603サイズ(長さと幅と高さのそれぞれの基準値が0.6mm,0.3mm,0.3mm)で作成した場合でも、同様の基本構造及び各構成要素を採用することにより同様の作用効果を得ることが可能である」と記載されている。ここで、同様のノイズ除去効果を奏するためには同様のインピーダンスが必要であるから、0603サイズにおいても3.6GHzにおいてインピーダンスが1000Ωを超える値とすることが示唆されているといえる。したがって、長さを0.6mm、幅を0.3mmとした場合に、3.6GHzにおけるインピーダンスが本願発明のように500Ωを超えるようにすることは、当業者が容易に想到できた事項にすぎない。
そして、本件補正発明の奏する効果は、引用発明および引用文献に記載された作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本件補正発明は、引用文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定によって、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


オ 請求人の主張について
審判請求人は、令和2年3月6日に提出された審判請求書において、「0603サイズのデバイスが、1608サイズのデバイスと同様に複数の共振点が現れ、広い周波数帯域においてなだらかな勾配を示すインピーダンス特性を有することはいい得たとしても、3.6GHzにおいて500Ω以上のインピーダンス値を示すことまでは開示されていないし、また示唆もされていません。」(5頁20?24行)と主張している。
しかしながら、上述のように、引用文献の【0035】段落を参照すれば、0603サイズのデバイスが得ることが可能である「同様の作用効果」とは「1個のデバイスで広い周波数帯域において狙い通りのノイズ除去効果を安定して得ることが可能である」ことであり、そのためには同等のインピーダンスであることが必要であるから、0603サイズにおいても1608サイズのデバイスと同等のインピーダンスとすることが示唆されているといえ、0603サイズのデバイスにおいて、3.6GHzにおいて500Ω以上のインピーダンス値とすることは当業者が容易に成し得たものである。
また、請求人は審判請求書において、1608サイズと同様の構造・構成要素で0603サイズのデバイスを作成すると、コイル部の長さだけで0.68mmとなり、デバイスの長さである0.6mmを超えてしまうため構成できない旨(6頁5?18行)の主張をしている。
しかしながら、全体のサイズを小さくするのに合わせて、例えばコイル用の線材の径や線間の空きの幅を調整することは全体の大きさの変更を実現する上で当然考慮される事項にすぎない。
したがって、請求人の主張は採用できない。


(3)小括
以上のとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合していない。

したがって、本件補正は、特許法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1 本願発明
令和2年3月6日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし37に係る発明は、令和1年7月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし37に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2」[理由]の「1 補正の概要」の「本願発明」のとおりのものと認める。


2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、
この出願の請求項1-37に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
というものであり、請求項1に対して引用文献(特開2006-100701号公報)が引用されている。


3 引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された、引用文献の記載事項及び引用発明は、上記「第2」[理由]の「2(2)イ」に記載したとおりである。


4 対比・判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本件補正発明から、「前記軸部の延びる第1の方向における前記コアと前記一対の支持部の端子電極とを含む長さ寸法が1.0mm以下であ」るという限定、すなわち相違点に係る構成の一部を省いたものである。そして、上記「第2」で判断したとおり、相違点は引用文献に記載された発明から当業者が容易に想到できた事項に過ぎない。
したがって、本件補正発明から相違点の一部に係る構成を省いた本願発明は、引用文献に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明および引用文献に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。




 
審理終結日 2020-10-16 
結審通知日 2020-10-20 
審決日 2020-11-04 
出願番号 特願2017-36602(P2017-36602)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
P 1 8・ 575- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 山本 章裕
畑中 博幸
発明の名称 インダクタ  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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