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審決分類 審判 全部無効 出願日、優先日、請求日  H01H
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H01H
審判 全部無効 2項進歩性  H01H
管理番号 1369628
審判番号 無効2018-800027  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-03-02 
確定日 2020-08-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第5688625号発明「回路遮断器の取付構造」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 経緯
本件特許第5688625号に係る出願は、平成12年11月8日に出願した特願2000-339793号(以下、「本件の第一世代の親出願」という。)の一部を、平成20年5月2日に新たな特許出願として特願2008-120059号(以下、「本件の第二世代の親出願」という。)とし、その一部を平成21年11月10日に新たな特許出願として特願2009-256786号(以下、「本件の第三世代の親出願」という。)とし、その一部を平成24年3月14日に新たな特許出願として特願2012-57993号(以下、「本件の第四世代の親出願」という。)とし、その一部を平成25年10月15日に新たな特許出願として特願2013-215045号(以下、「原出願」という。)とし、その一部を平成26年6月3日に新たな特許出願としたものであって、平成27年2月6日に特許権の設定登録(請求項の数1)がなされたものである。

以降の本無効審判事件に係る手続の経緯は以下のとおりである。
1.平成30年 3月 2日 本件無効審判の請求
2.平成30年 3月19日 証拠説明書(請求人)
3.平成30年 5月25日 審判事件答弁書
4.平成30年 6月 4日 証拠説明書(被請求人)
5.平成30年 7月23日 審理事項通知書
6.平成30年 9月12日 口頭審理陳述要領書(請求人)
7.平成30年 9月12日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
8.平成30年10月 3日 口頭審理
9.平成30年12月17日 上申書及び証拠説明書2(被請求人)
10.平成30年12月26日 上申書及び証拠説明書3(被請求人)

第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
プラグイン端子金具が電源側に設けられたプラグインタイプの回路遮断器を分電盤などの母線が設けられた取付板に取り付けるための前記回路遮断器と取付板の構造であって、
前記回路遮断器の前記母線とは反対側の負荷側には前記回路遮断器の底面から突出する、しないを外部つまみで択一的に選択保持可能なロックレバーを設けるとともに、
前記取付板には前記ロックレバーの嵌合部を設け、
前記取付板の上に載置した回路遮断器を前記母線の方向にスライドさせていくと前記母線がプラグイン端子金具に差し込まれていき、
前記取付板と前記回路遮断器とに夫々対応して設けられた嵌合部と被嵌合部とが互いに嵌合することにより、前記回路遮断器の前記取付板に対する鉛直方向の動きが規制されるとともに、
前記回路遮断器の底面から前記ロックレバーが突出して前記取付板の嵌合部に嵌合することにより、前記母線から前記回路遮断器を取り外す方向の動きが規制されて、前記取付板に前記回路遮断器が取り付けられた状態となることを特徴とした回路遮断器の取付構造。」

第3 請求人の主張
請求人は、審判請求書において、「特許第5688625号の請求項1に係る特許は無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、審判請求書、及び平成30年9月12日付け口頭審理陳述要領書を総合すると、請求人の主張する無効理由の概略及び証拠方法は、次のとおりである。
1 無効理由1(特許法第29条第2項(進歩性))
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

2 無効理由2(特許法第29条第2項(進歩性))
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第3号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

3 無効理由3(分割要件、特許法第29条第1項3号(新規性)、特許法第29条第2項(進歩性))
本件特許に係る出願は、分割要件を満たさないから、出願日は平成26年6月3日とされるべきものである。
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第4号証(平成14年5月24日に出願公開。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

4 請求人の証拠方法
[証拠方法]
甲第1号証:特開平10-248122号公報
甲第2号証:実公平6-44246号公報
甲第3号証:特開平11-69529号公報
甲第4号証:特開2002-150911号公報
甲第5号証:特願2000-339793号の出願書面
甲第6号証:特願2008-120059号の出願書面
甲第7号証:特願2009-256786号の出願書面
甲第8号証:特願2012-57993号の出願書面
甲第9号証:特願2013-215045号の出願書面

第4 被請求人の主張
被請求人は、審判事件答弁書において、「本件審判の請求は、成り立たない、審判費用は、請求人の負担とする」との審決を求め、審判事件答弁書、平成30年9月12日付け口頭審理陳述要領書、平成30年12月17日付け上申書、及び平成30年12月26日付け上申書を総合すると、被請求人の主張の概略及び証拠方法は、次のとおりである。
1 請求人の主張する無効理由1について
本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明から当業者は容易に発明することはできない発明であるから、無効理由1は成り立たず、本件特許は無効理由1により無効とはされない。

2 請求人の主張する無効理由2について
本件発明は、甲第3号証及び甲第2号証に記載の発明から当業者は容易に発明することはできない発明であるから、無効理由2は成り立たず、本件特許は無効理由2により無効とはされない。

3 請求人が主張する無効理由3について
本件特許に係る出願は、特許法第44条第1項に規定する分割要件を満たす適法な分割出願である。
従って、本件特許の出願日は、原出願日である「平成12年11月8日(2000年11月8日)」である。
そして、原出願である甲第4号証は、本件特許発明の新規性進歩性の引例としての適格性を有さず、本件特許は無効理由3によって無効とはされない。

4 被請求人の証拠方法
[証拠方法]
乙第1号証:「NITTO 2000CATALOG 総合カタログ」、日東工業株式会社、平成12年2月16日発行、p670(写し)
乙第2号証:「盤・ボックス・ブレーカ・タイムスイッチ '96-'97」、松下電工株式会社、平成8年2月、p40-41、p172、p593(写し)
乙第3号証:「JIS 配線用遮断器 JIS C 8370-^(1991)」、日本規格協会、平成3年10月3日、p1-2、p42、p53(写し)
乙第4号証:「JEM 1292(1970)」、社団法人日本電機工業会、昭和48年4月20日、頁2-1、p2(写し)
乙第5号証:「日東標準分電盤・制御盤カタログ '97-'98 BAN 盤」、日東工業株式会社、平成9年11月、p463-464(写し)
乙第6号証:「高圧真空切替開閉器 VSS形 7.2KV 400?600A」、株式会社新愛知電機製作所、平成28年7月、p2(写し)
乙第7号証:実願昭49-132155号(実開昭51-58352号)のマイクロフィルム
乙第8号証:実願昭49-149665号(実開昭51-75563号)のマイクロフィルム
乙第9号証:特開平6-124644号公報
乙第10号証:実願昭59-94930号(実開昭61-9757号)のマイクロフィルム
乙第11号証:特表平11-507200号公報
乙第12号証:平成30年(ワ)第5777号 特許権侵害差止等請求事件における平成30年12月17日提出の「原告準備書面(3)」、p1-6、p58-78

第5 甲各号証及び乙各号証の記載内容
1 甲各号証
(1)甲第1号証
甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている(審決注:以下、下線は当審にて付す。)。
ア 「【請求項1】 主幹開閉器と、この主幹開閉器に電気的に接続された複数の導電バーと、これらの導電バーの長手方向と直交する幅方向の少なくとも一方側に並設されて少なくとも1本の導電バーに差し込み接続する受け刃状の接続端子を有するとともに導電バーへの差し込み方向と同方向である長手方向の両側に引っ掛け凹所を形成した複数の分岐開閉器と、これらの分岐開閉器の引っ掛け凹所に引っ掛けられる引っ掛け爪を夫々有してベースに取り付けられる複数の取り付け部材とを備えた分電盤において、前記各取り付け部材は、分岐開閉器における長手方向の導電バー側の一方の引っ掛け爪が分岐開閉器における長手方向の他方の引っ掛け爪から見て変位自在に形成されるとともに分岐開閉器における長手方向の他方の引っ掛け爪が略剛体にされたことを特徴とする分電盤。
【請求項2】 導電バーに接続端子を差し込む方向で取り付け部材を進退自在に保持するスライド保持部をベースに設けるとともに、スライド保持部に保持される被スライド保持部を取り付け部材に設けたことを特徴とする請求項1記載の分電盤。
【請求項3】 前記スライド保持部は、長孔または長孔の周縁を表裏両面から挟む挟持部のうちの一方により構成されるとともに前記被スライド保持部は、長孔または長孔の周縁を表裏両面から挟む挟持部のうちの他方により構成されたことを特徴とする請求項2記載の分電盤。
【請求項4】 被スライド保持部をスライド保持部に沿ってスライドさせて導電バーに分岐開閉器の接続端子を差し込み接続した状態で取り付け部材を係止する係止部をベースに設けるとともに、前記取り付け部材に係止部に係止される被係止部を設けたことを特徴とする請求項2または請求項3記載の分電盤。
【請求項5】 前記係止部は、係止孔または係止孔に係止される弾性体のうちの一方より構成されるとともに、前記被係止部は、係止孔または係止孔に係止される弾性体のうちの他方で形成されたことを特徴とする請求項4記載の分電盤。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、分電盤に関し、詳しくは分岐開閉器を取り付ける構造に関するものである。」

ウ 「【0002】
【従来の技術】従来の分電盤にあっては、図16に示すように箱体1の底面のベース2を設け、ベース2の上に主幹開閉器と接続した導電バー3を配置してあり、導電バー3の長手方向と直交する両側に分岐開閉器4を並列に並べてある。各分岐開閉器4は分岐開閉器4の下に設けた取り付け部材5を介して取り付けられる。取り付け部材5は一端側をベース2の係止爪6に係止すると共に他端側をベースにビス7にて固定することで取り付けてある。分岐開閉器4の長手方向(入出力端子方向)の両端面には引っ掛け凹所8を設けてあり、取り付け部材5の両端には引っ掛け爪9を設けてあり、引っ掛け爪9を引っ掛け凹所8に引っ掛けることで取り付け部材5に分岐開閉器4を取り付けてある。両端の引っ掛け爪9のうち導電バー3と反対側の引っ掛け爪9は弾性変形可能な係脱用引っ掛け爪9aとなっている。また導電バー3と分岐開閉器4のねじ端子との間には接続金具10が配置され、接続金具10の一端を導電バー3にネジ11にて接続してあると共に接続金具10の他端を分岐開閉器4のねじ端子に接続してある。図16で、12は開閉自在な中蓋、13は開閉扉である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来例の場合、取り付け部材5を介して分岐開閉器4を取り付けた後、接続金具10をねじにて導電バー3や分岐開閉器4に接続することができるためにに取り付けの仕方や分岐開閉器4の外れの問題がないが、受け刃状の接続端子を一体に有する分岐開閉器の場合次の問題がある。受け刃状の接続端子を有する分岐開閉器の場合、分岐開閉器を横方向から差し込むと共に接続端子を導電バーに差し込み、分岐開閉器の両端の引っ掛け凹所に取り付け部材の引っ掛け爪を引っ掛け係止しなけらない。しかも横からスライドさせて差し込むとき外側の引っ掛け爪9が邪魔になって装着しにくいという問題がある。また装着することができても外側の引っ掛け爪9が弾性変形可能な係脱用引っ掛け爪9aであるために抜けやすいという問題がある。また分岐開閉器4を予め取り付け部材5に装着してから各取り付け部材5をベース2に固定することも考えられるが、取り付け部材5はビス7の締め付けにて取り付けているために分岐開閉器4を取り付けたままではベース2に取り付けることができないという問題があった。
【0004】本発明は叙述の点に鑑みてなされたものであって、差し込み式の分岐開閉器の取り付けがしやすく、しかも取り付けた後の分岐開閉器が外れにくい分電盤を提供することを課題とする。」

エ 「【0010】
【発明の実施の形態】まず、図1乃至図13に示す実施の形態から述べる。図1乃至図3に示すように箱体1の底面上にはベース2,14を装着してあり、ベース14の上にはブレーカのような主幹開閉器15を装着してあり、ベース2の上にはブレーカのような分岐開閉器4を多数並べて装着してある。ベース2,14上で箱体1の幅方向の中央には箱体1の長手方向に長い導電バー3を配置してあり、導電バー3の一端を主幹開閉器15に接続してある。本例の場合、単相3線の電源が供給されるものであって、導電バー3は第1導電バー(電圧極バー)3a、第2導電バー(電圧極バー)3b、第3導電バー(中性極バー)3cの3線で構成され、これらの3線は平行に設けてある。この導電バー3の両側に夫々上記分岐開閉器4を並列に並べて装着される。箱体1の開口には開閉自在な開閉扉13が装着してあり、開閉扉13の内側に中蓋12を開閉自在に装着してある。
【0011】分岐開閉器4には100V仕様のものと200V仕様のものがある。100V仕様の分岐開閉器4には端子を第1導電バー3aと第3導電バー3cに接続するもの(以下L_(1) という)と、第2導電バー3bと第3導電バー3cに接続するもの(以下L_(2) という)とがある。分岐開閉器4には受け刃状の接続端子16が設けられるのであるが、本例の場合、別体の導電金具17を取り付けることで接続端子16を設けるものである。導電金具17の一端には受け刃状の接続端子16を設けてあり、導電金具17の他端にはU字状の切り欠きを有する結合部27を設けてある。結合部27は分岐開閉器4の端子台部の端子板18と端子ねじ19との間にねじ締め固定できるようになっている。導電金具17には第1導電金具17a、第2導電金具17b、第3導電金具17c及び第4導電金具17dの4種類のものがある。また導電金具17を取り付ける部分ではこの部分を覆う保護カバー20が設けられるが、保護カバー20には第1挿通空間21a、第2挿通空間21b及び第3挿通空間21cを設けてある。この保護カバー20は分岐開閉器4の入力端子側に当接するように配置される。」

オ 「【0013】分岐開閉器4の長手方向(入出力端子方向)の両端には引っ掛け凹所8を設けてある。各分岐開閉器4の下には夫々取り付け部材5を配置してあり、この取り付け部材5を介して分岐開閉器4をベース2を取り付けるようになっている。取り付け部材5は図6に示すように上片5aと両側の側片5bとで略コ字状に形成されている。取り付け部材5の長手方向の両端には上記引っ掛け凹所8に引っ掛け係止する引っ掛け爪9を設けてある。両端の引っ掛け爪9のうち導電バー3側の引っ掛け爪9は変位可能な形状にした係脱用引っ掛け爪9aとなっており、他方の引っ掛け爪9は略剛体になっている。取り付け部材5の上には分岐開閉器4が配置され、両端の引っ掛け爪9を分岐開閉器4の引っ掛け凹所8に引っ掛け係止することで取り付け部材5の上に分岐開閉器4を取り付けてある。このとき係脱用引っ掛け爪9aを用いて容易に分岐開閉器4を着脱できる。ベース2にはスライド保持部として取り付け部材5の長手方向に長い長孔22を穿孔してある。取り付け部材5には被スライド保持部として係止爪23を長孔22に対応するように設けてある。この係止爪23は短い縦片23aと横に長い横片23bとで略L字状に形成されている。横片23bと側片5bのとの間の溝が長孔22の周縁に挿入されるようになっており、横片23bの上面と側片5bの下面が長孔22の周縁を表裏両面から挟持する挟持部となっている。またベース2には係止部としての係止孔24を穿孔してあり、取り付け部材5の長手方向の端部には被係止部としての略V字状の板ばね25を設けてあり、板ばね25の下方に尖った部分の先端部25aが係止孔24に係止するようになっている。また板ばね25には操作片25bも設けてある。
【0014】そして分岐開閉器4を取り付け部材5に取り付けた状態で取り付け部材5と一緒に分岐開閉器4が次のように装着される。取り付け部材5をベース2の上に配置して係止爪23が長孔23に挿入され、分岐開閉器4と一緒に取り付け部材5が導電バー3の方にスライドさせられる。分岐開閉器4と取り付け部材5をスライドさせると、接続端子16が導電バー3に差し込まれて電気的に接続される。この状態で係止爪23が長孔22の周縁の下の位置し、長孔22の周縁が係止爪23と側片5bとで挟持される。このとき板ばね25の先端部25aが係止孔24に係止して取り付け部材5が動かないように止められる。このように分岐開閉器4を取り付けたとき、係脱用引っ掛け爪9aが導電バー3側に位置するため、導電バー3と接続端子16の係止にて係脱用引っ掛け爪9aと引っ掛け凹所8との係止が外れにくくなり、分岐開閉器4が外れにくいように取り付けることができる。また板ばね25の先端部25aの係止を外して上記と逆にスライドさせることで分岐開閉器4と一緒に取り付け部材5を取り外すことができる。
【0015】なお、上記の実施の形態では、ベース2にスライド保持部としての長孔22を設けると共に取り付け部材5に被スライド保持部としての係止爪23を設けるものについて述べたが、これと逆にベース2にスライド保持部として係止爪23を設けると共に取り付け部材5に被スライド保持部として長孔22を設けてもよい。また上記の実施の形態では、ベース2に係止部として係止孔24を設けると共に取り付け部材5の被係止部として板ばね25を設けるものについて述べたが、これと逆にベース2に係止部として板ばね25を設けると共に取り付け部材5に被係止部として係止孔24を設けてもよい。」

カ 「【0016】また図14、図15に示す実施の形態について述べる。本実施の形態も上記実施の形態を基本的に同じであるが、主にスライド保持部と被スライド保持部の構造が異なる。まず、本例の場合、取り付け部材5は平板状に形成されている。またベース2に設ける長孔22は幅広部22aと幅狭部22bとで形成されており、幅狭部22bの側方に被挟持部22cを設けてあると共に被挟持部22cの内縁に勾配22dを設けてある。 ・・・(中略)・・・ しかして長孔22の幅広部22aと係止爪23とを対応させた状態で係止爪23を幅広部22aに挿入し、取り付け部材5をスライドさせると、接続端子16が導電バー3に差し込まれ、係止爪23の横片23bが被挟持部22cの下に位置して被挟持部22cが取り付け部材5の下面と横片23bとで挟持され、板ばね25の先端部25aが幅広部22aの係止孔24に係止される。」

キ 「【0017】
【発明の効果】本発明の請求項1の発明は、取り付け部材は、分岐開閉器における長手方向の導電バー側の一方の引っ掛け爪が分岐開閉器における長手方向の他方の引っ掛け爪から見て変位自在に形成されるとともに分岐開閉器における長手方向の他方の引っ掛け爪が略剛体にされたので、導電バー側の引っ掛け爪を変位させることにより取り付け部材の長手方向の2つの引っ掛け爪間に分岐開閉器を配置して引っ掛け爪を引っ掛け凹所に引っ掛けて分岐開閉器を容易に取り付けることができるとともに、導電バーと反対側の引っ掛け爪が略剛体であるため各分岐開閉器の接続端子を導電バーに差し込み接続した状態で分岐開閉器を取り付け部材に取り付けた後、分岐開閉器が外れにくくなるものである。
・・・(中略)・・・
【0020】本発明の請求項4の発明は、請求項2または請求項3において、被スライド保持部をスライド保持部に沿ってスライドさせて導電バーに分岐開閉器の接続端子を差し込み接続した状態で取り付け部材を係止する係止部をベースに設けるとともに、前記取り付け部材に係止部に係止される被係止部を設けたので、取り付け部材をベースのスライド保持部に沿って各分岐開閉器の接続端子が導電バーに差し込み接続する位置までスライドさせると、被係止部と係止部が係止されるものであって、分岐開閉器の接続端子が導電バーから外れる方向に取り付け部材が移動するのを抑えることができ、分岐開閉器を強固に固定できるものである。」

ク 【図1】、【図3】、【図5】?【図7】






ケ 前記「オ」の「分岐開閉器4と取り付け部材5をスライドさせると、接続端子16が導電バー3に差し込まれて電気的に接続される。」(段落【0014】)との記載から、分岐開閉器4の接続端子16を導電バー3に差し込むだけで、接続端子16が導電バー3に接続できるから、分岐開閉器4は、接続端子16が導電バー3側に設けられたプラグインタイプであることが分かる。

コ 【図1】には、ベース2上に導電バー3が設けられたものが記載されている。
【図3】には、導電バー3の一方側はベース14上の主開閉器15に設けられ、他方側はベース2上に延びているものが記載されている。
【図5】には、分岐開閉器4の長手方向の一方側は、導電バー3に接続され、同じ側に保護カバー20が設けられたものが記載されている。
【図6】には、取り付け部材5の、保護カバー20とは反対側に、板ばね25が設けられているものが記載されており、上記【図5】の分岐開閉器4の導電バー3と同じ側に保護カバー20が設けられていることに鑑みれば、分岐開閉器4の取り付け部材5の導電バー3とは反対側に板ばね25が設けられているといえる。

サ 【図7】には、ベース2に取り付け部材5を介して分岐開閉器4を取り付けた状態の断面図が記載されているところ、ここで前記「オ」の「取り付け部材5は図6に示すように上片5aと両側の側片5bとで略コ字状に形成されている。」(段落【0013】)及び「またベース2には係止部としての係止孔24を穿孔してあり、取り付け部材5の長手方向の端部には被係止部としての略V字状の板ばね25を設けてあり、板ばね25の下方に尖った部分の先端部25aが係止孔24に係止するようになっている。」(段落【0013】)との記載を参酌すれば、同図より、係止孔24が穿孔されているベース2の上面と、取り付け部材5の側片5bの下面とが接触しており、分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5の係止爪23が、ベース2の長孔22に嵌合しており、板ばね25の先端部25aが、取り付け部材5の側片5bの下面から突出してベース2に設けられた係止孔24に係止していることが分かる。

シ 前記「オ」の「取り付け部材5は図6に示すように上片5aと両側の側片5bとで略コ字状に形成されている。 ・・・(中略)・・・ ベース2にはスライド保持部として取り付け部材5の長手方向に長い長孔22を穿孔してある。 ・・・(中略)・・・ 横片23bと側片5bのとの間の溝が長孔22の周縁に挿入されるようになっており、横片23bの上面と側片5bの下面が長孔22の周縁を表裏両面から挟持する挟持部となっている。」(段落【0013】)、及び「取り付け部材5をベース2の上に配置して係止爪23が長孔23に挿入され、分岐開閉器4と一緒に取り付け部材5が導電バー3の方にスライドさせられる。分岐開閉器4と取り付け部材5をスライドさせると、接続端子16が導電バー3に差し込まれて電気的に接続される。この状態で係止爪23が長孔22の周縁の下の位置し、長孔22の周縁が係止爪23と側片5bとで挟持される。」(段落【0014】)との記載、及び前記「サ」の【図7】の記載から、
取り付け部材5に設けられた係止爪23が、ベース2に設けられた長孔22に挿入され、ベース2の上に載置した分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5を導電バー3の方向にスライドさせていくと導電バー3が接続端子16に差し込まれていき、係止爪23の横片23bの上面と側片5bの下面が長孔22の周辺を表裏両面から挟持するから、係止爪23が長孔22に嵌合するといえ、この嵌合により分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5が、ベース2に対する鉛直方向に抜けなくなること、
すなわち、ベース2に設けられた長孔22と取り付け部材5に設けられた係止爪23とが互いに嵌合することにより、分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5の前記ベース2に対する鉛直方向の動きが規制されることが分かる。

ス 前記「エ」の「本例の場合、単相3線の電源が供給されるものであって、導電バー3は第1導電バー(電圧極バー)3a、第2導電バー(電圧極バー)3b、第3導電バー(中性極バー)3cの3線で構成され、これらの3線は平行に設けてある。」(段落【0010】)との記載によれば、導電バー3には電源が供給されるから、分岐開閉器4の導電バー3と接続する接続端子16が設けられた側は電源側といえ、また、その反対側を負荷側ということは技術常識であるといえる(後述の「2(1)イ」の記載も参照。)。
そして、前記「オ」の、「またベース2には係止部としての係止孔24を穿孔してあり、 ・・・(中略)・・・ 板ばね25の下方に尖った部分の先端部25aが係止孔24に係止するようになっている。また板ばね25には操作片25bも設けてある。」(段落【0013】)、及び「このとき板ばね25の先端部25aが係止孔24に係止して取り付け部材5が動かないように止められる。 ・・・(中略)・・・ また板ばね25の先端部25aの係止を外して上記と逆にスライドさせることで分岐開閉器4と一緒に取り付け部材5を取り外すことができる。」(段落【0014】)との記載、及び前記「サ」の【図7】の記載から、
板ばね25の先端部25aが、係止孔24に係止されているときには、係止孔24が穿孔されているベース2の上面と、取り付け部材5の側片5bの下面は接触しているから、このときに、板ばね25の先端部25aは、取り付け部材5の側片5bの下面から突出している状態になり、また、板ばね25の先端部25aの係止を外すと、当該先端部25aは、取り付け部材5の側片5bの下面から突出しない状態になるから、取り付け部材5の導電バー3とは反対側の負荷側には、取り付け部材5の側片5bの下面から突出する、しないを操作片25bで択一的に選択可能な板ばね25が設けられていることが分かる。
また、上記の各記載から、取り付け部材5の側片5bの下面から板ばね25が突出してベース2の係止孔24に係止することにより、導電バー3から分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5を取り外す方向の動きが規制されて、ベース2に分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5が取り付けられた状態となることが分かる。

セ 上記各記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本件発明の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されている(以下、「甲1発明」という。)。
「接続端子16が電源側に設けられたプラグインタイプの分岐開閉器4を分電盤のベース2に取り付けるための前記分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5とベース2の構造であって、
前記取り付け部材5の導電バー3とは反対側の負荷側には前記取り付け部材5の側片5bの下面から突出する、しないを操作片25bで択一的に選択可能な板ばね25を設けるとともに、
前記ベース2には前記板ばね25が係止する係止孔24を設け、
前記ベース2の上に載置した分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5を前記導電バー3の方向にスライドさせていくと前記導電バー3が接続端子16に差し込まれていき、
前記ベース2に設けられた長孔22と前記取り付け部材5に設けられた係止爪23とが互いに嵌合することにより、前記分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5の前記ベース2に対する鉛直方向の動きが規制されるとともに、
前記取り付け部材5の側片5bの下面から板ばね25が突出してベース2の係止孔24に係止することにより、前記導電バー3から前記分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5を取り外す方向の動きが規制されて、前記ベース2に前記分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5が取り付けられた状態となる分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5の取付構造。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】電源架台と、これに差込まれたときプラグイン式コネクタによる負荷回路などに接続される電源ユニットを備えた架台搭載引出し型電源装置において、
前記電源ユニットの前記電源架台への引留め時には、前記電源ユニットの前面パネルに設けられた収容凹部内に垂直状態で収納され、引留め解除時には水平状態に回動されるよう前記前面パネルに軸支された操作用取手と、該操作用取手のアーム部に一端が所定角度で固定された支承ループ部を有する作動桿と、
前記前面パネルの裏面にその上下方向にスライド可能であって,その側面に前記作動桿の支承ループ部に嵌入される支承軸が設けられた係止アームと、
該係止アームによる電源ユニットの前記電源架台への引留め時および引留め解除時のそれぞれの状態位置に当該係止アームをその移動軸方向に垂直に保持するばね機構とを備え、
前記操作用取手の回動操作により前記作動桿の支承ループ部の角度が変わり、その支承ループ部に嵌入された支承軸の上下移動に伴って係止アームを上下移動させ、該係止アームの下方先端部を前記電源架台の係止溝に係合または係合解除を行わせるようにし、前記操作用取手の回動操作により前記電源ユニットを前記電源架台への引留めと引留め解除を行うようにしたことを特徴とする架台搭載引出し型電源装置の電源ユニット引留め構造。」(1ページ左欄2行?右欄10行)

イ 「(産業上の利用分野)
本考案は架台搭載引出し型電源装置の電源ユニット引留め構造に関するものである。」(1ページ右欄12行?14行)

ウ 「(従来技術とその問題点)
後部に例えばプラグコネクタを備えた電源装置ユニット1乃至複数台を、レセプタクルコネクタを備えた電源架台内に差込み収納して、上記コネクタにより電源装置ユニット相互および負荷回路などに接続するようにした、所謂架台搭載引出し型の電源装置においては、振動などにより動作中の電源ユニットが電源架台から抜け出して、負荷回路などへの電力の供給が遮断されるのを防止することが必要である。
そこで従来においては、第1図(a)(b)に示す斜視図と部分断面側面図のように、引出しおよび差込み用の操作用取手(1)を備えた電源ユニット(2)の前面パネル(2a)面に、パネル面(2a)外に突出する操作用ノブ(3a)を備えた係止アーム(3b)と、そのスライドケース(3c)からなる引留め金具(3)を取付けて、以下のように電源ユニット(2)を電源架台(6)に引留めることが行われている。即ち操作用ノブ(3a)の上方への持上げ操作により、係止アーム(3b)の先端部をシャーシ(4)側に対応位置させて設けた係止溝(5)内から引き上げながら、電源ユニット(2)を電源架台(6)内に収容し、そののち操作用ノブ(3a)から手を離して係止アーム(3b)の先端を係止溝(5)内に図中点線のように自然落下させることにより、電源ユニット(2)を電源架台(6)に引留めることが行われている。なお図中(7)は電源ユニット(2)側のプラグコネクタ、(8)は電源架台(6)側のレセプタクルユニットである。
しかしこのように係止アーム(3b)をその自重により自然落下させて係止するものでは、振動により係止アーム(3b)が上下に踊って係止溝(5)内から抜け出すおそれがある。このため電源ユニット(2)の自重による前方への移動を生じてコネクタの接続解除を招き、負荷回路などへの電力の供給の遮断や不安定を生ずるおそれがある。」(1ページ右欄15行?2ページ左欄33行)

エ 「第2図において(2a)は第1図で前記した電源ユニットの前面パネル、(4)は電源架台のシャーシ、(5)はシャーシ(4)に設けた係止溝であってこれらは第1図で説明した従来装置と同じである。(10)は操作用取手の収容凹部であって、電源ユニット(2)の前面パネル(2a)面に設けられ、操作用取手(11)がパネル面外に突出しないような深さをもたせてある。
操作用取手(11)はその下部の両端の水平方向に固定して設けた支持軸(11a)を、収容凹部(10)の下端両側壁面に設けた支承穴(10a)に支承して、第2図(b)に示す垂直位置から第3図(b)に示す水平位置まで約90度回動できるように作られる。(12)は係止アームであって、その左右側面には支承軸(12a)と、係止アームの保持用切欠部(12b)と(12c)が設けられる。(13)はスライドケースであって、操作用取手の収容凹部(10)の裏面に固定されて係止アーム(12)の上下動を案内する。(14)は係止アームの作動桿、(14a)は支承ループ部であって、作動桿(14)の一端は操作用取手の収容凹部(10)に設けた移動穴(12d)を介して固定され、他端の支承ループ部(14a)は遊動しうるように係止アーム(12)の支承軸(12a)により支承される。
そして第2図のように操作用取手(11)が収容凹部(10)内に収容された状態では、作動桿(14)の下方への回動により係止アーム(12)が下方に移動して係止溝(5)内に入る。また第3図のように操作用取手(11)を収容凹部(10)内から取り出して水平に位置させたとき、作動桿(14)の上方への回動により係止アーム(12)が係止溝(5)内から引抜かれるように構成される。(15)は係止アームの半固定用ばね体、(15a)は係止アームの保持用折曲部であって、スライドケース(13)に固定されて、係止アーム(12)がシャーシ(4)側の係止溝(5)内に入ったとき、第2図(c)のように保持用折曲部(15a)が係止アーム(12)に設けた上部の保持用切欠部(12c)内にばね力により落ち込んで、係止アーム(12)と操作用取手(11)の位置を保持する。また第3図(c)のように係止アーム(12)が係止溝(5)から引抜かれた状態のときには、先端の保持用折曲部(15a)が係止アーム(12)に設けた下部の保持用切欠部(12b)内にばね力により落ち込んで、係止用アーム(12)と操作用取手(11)の位置を保持する。」(2ページ右欄5行?45行)

オ 「従って操作用取手(11)を水平に倒して電源ユニット(2)を電源架台(6)に差し込んだのち、操作用取手(11)を収容凹部(10)内に押し込んで垂直に位置させる簡単な操作で、電源ユニット(2)を電源架台(6)に引留めることができる。また操作用取手(11)を水平に倒したのち電源ユニット(2)を引出す簡単な操作で引留めを解除して、電源ユニット(2)を電源架台(6)から引出すことができ、操作用取手(11)の操作のみで、電源ユニット(2)の電源架台(6)への引留めと引留めの解除を行いうる。
・・・(中略)・・・
また本考案では係止アームの半固定用ばね体(15)により係止アーム(12)の引留め位置、および引留め解除位置が保持されるため、従来のように振動により係止アーム(12)が上下に踊って引留めが解かれるおそれがないので、確実な引留めを行いうる。」(3ページ左欄3行?右欄2行)

カ 上記各記載事項から、甲第2号証には、以下の発明が記載されている(以下、「甲第2号証に記載された発明」という。)。
「電源架台6と、これに差込まれたときプラグイン式コネクタによる負荷回路などに接続され、操作用取手1を用いて架台に対して引出し又は差込みを行う電源ユニット2を備えた架台搭載引出し型電源装置において、
操作用取手11と、上下方向にスライド可能な係止アーム12と、係止アーム12の半固定ばね体15を設け、
操作用取手11を水平に位置させると、係止アーム12が電源架台6の係止溝5内から引抜かれ、引留め解除位置となり、電源ユニット2を電源架台6から引出すことができ、
電源ユニット2を電源架台6に差し込んだのち、操作用取手11を垂直に位置させる操作で、係止アーム12が下方に移動し係止溝5内に入り、引留め位置となり、電源ユニット2を電源架台6に引留めることができ、
係止アームの半固定用ばね体15により係止アーム12の引留め位置、および引留め解除位置が保持されるようにした引留め構造。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 銅バーに接続されるプラグイン端子金具を備えたプラグインブレーカの底部に、ブレーカ本体の取付方向に延びる溝を設けるとともに、取付板側には前記溝と嵌合してプラグインブレーカの取付位置を規制する規制金具を設けたことを特徴とするプラグインブレーカの取付機構。
【請求項2】 取付板に対して斜め上方から取り付けられるブレーカ本体に、ブレーカ本体の横方向の位置ずれを規制する規制金具を設けた請求項1に記載のプラグインブレーカの取付機構。
【請求項3】 取付板に対して水平に取り付けられるブレーカ本体に、ブレーカ本体の直線運動を許容する規制金具を設けた請求項1に記載のプラグインブレーカの取付機構。
【請求項4】 規制金具の先端を屈曲させ、ブレーカ本体の取付方向に延びる溝に嵌合させた請求項3に記載のプラグインブレーカの取付機構。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラグイン端子金具を備えたプラグインブレーカを分電盤の取付板に取り付けるために用いられるプラグインブレーカの取付機構に関するものである。」

ウ 「【0002】ブレーカを分電盤等の取付板にワンタッチで取り付けるために、従来より図11に示すような取付機構が開発されている。この取付機構では、ブレーカ本体1の電源側の端面に形成された第1凹溝部2に係合される第1係合爪3と、ブレーカ本体1の負荷側端面に形成された第2凹部4に係合される弾性を持つ第2係合爪5が一体に形成されている。そして一点鎖線で示すように、ブレーカ本体1を傾けてまず第1係合爪3に第1凹部2を係合させたうえ、ブレーカ本体1の他端を降ろして第2凹部4を第2係合爪5に嵌め込むようになっている。
【0003】この取付機構は、通常のブレーカについては全く問題なく使用できる。しかし図12に示すようなプラグインブレーカは、その電源側に主幹バー6に接続されるプラグイン端子金具7を備えているため、前記のようにブレーカ本体1を傾けながら取り付けようとすると、従来はブレーカ本体1の取付位置を規制する役割を兼ねていた第1係合爪3がブレーカ本体1の第1凹部2に係合する前に、主幹バー6とプラグイン端子金具7の一部とが係合する。従って、ブレーカ本体1の第2の凹部4を第2係合爪5に嵌め込んだときに、誤ってブレーカ本体1の側面方向からの力がかかることにより、ブレーカ本体1の左右の位置がずれ、第1係合爪3がブレーカ本体1の第1凹部2に係合せずにブレーカ本体1の壁面にあたり、十分に取付方向に押し込めないという不具合が起こる可能性があった。この結果、主幹バー6とプラグイン端子金具7とが接触不良となって事故の原因となる恐れがあるため、従来のワンタッチ式の取付機構は、プラグインブレーカについては使用することが不適切であった。」

エ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記した従来の問題を解決し、プラグインブレーカ本体が位置ずれを起こすことなく取り付けることができるプラグインブレーカの取付機構を提供するためになされたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するためになされた本発明のプラグインブレーカの取付機構は、銅バーに接続されるプラグイン端子金具を備えたプラグインブレーカの底部に、ブレーカ本体の取付方向に延びる溝を設けるとともに、取付板側には前記溝と嵌合してプラグインブレーカの取付位置を規制する規制金具を設けたことを特徴とするものである。」

オ 「【0008】
【発明の実施の形態】以下に図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施の形態を示す。まず、図1から図3に第1の実施の形態を示す。図1において、1はプラグインブレーカのブレーカ本体1であり、7はブレーカ本体1の電源側の端面に設けられたプラグイン端子金具である。これらのプラグイン端子金具7は先端が開いた弾性力を有するもので、この例では上下3段に形成されている。また、6は上下3段に形成された3極の主幹バーであり、ブレーカ本体1を従来通り矢印方向に嵌め込むことによって、各主幹バー6の先端が各プラグイン端子金具に挿入され、他の接続用金具を用いなくても主幹バー6とプラグインブレーカの接続ができる構造となっている。
【0009】ブレーカ本体1の底部両側には、図2に示すように切り欠き溝8が設けられている。これらの切り欠き溝8は、ブレーカ本体1の電源側の部分にのみ設ければよい。一方、取付板9側には規制金具10を主幹バー6のブレーカ本体1の取り付け側の端面の近傍で、取り付け側の端面よりも第2係合爪5寄りの位置に設ける。この規制金具10は、図3のようにブレーカ本体の切り欠き溝8と係合し、ブレーカ本体1のプラグイン端子金具が主幹バー6に対して嵌合するときにブレーカ本体1が横ずれしないように作用している。」

カ 「【0012】次に図4から図8に第2の実施形態を示す。図4、図5に示すように、この第2の実施形態ではブレーカ本体1の負荷側の底部両側に、その取付方向に延びる切り欠き溝8が設けられている。一方、取付板9側には規制金具10が設けられている。この規制金具10は、図6に示すようにブレーカ本体1の切り欠き溝8と係合し、ブレーカ本体1が主幹バー6に対して接離する直線運動を許容する。なお、切り欠き溝8はブレーカ本体1の底部全体に設けても良い。
【0013】また取付板9の裏面には、弾性に優れた金属よりなる抜け留め金具11が設けられている。この抜け止め金具11は取付板9の貫通孔12から上方に突出する突片13を備え、この突片13が上方に突出するように取付板9にねじ14等により固定されている。
【0014】このように構成された本発明の取付機構により、プラグインブレーカを取付板9に取り付けるには、図4に示すようにブレーカ本体1の凹溝を規制金具10に当接させた状態で、ブレーカ本体1の底面が取付板9から浮き上がらないようにブレーカ本体1を直線的にスライドさせる。このとき規制金具10の作用によりブレーカ本体1は直線運動を許容されているため、電源側の端面に設けられたプラグイン端子金具7は直線的に主幹バー6の方向に移動し、主幹バー6と係合する。なお、このときには抜け止め金具11は弾性的に下方に撓み突片13は図4の状態になる。
【0015】このようにしてブレーカ本体1が所定の位置(プラグイン端子金具7が主幹バー6と係合する位置)まで移動すると、図7に示すようにそれまで下方に撓んでいた抜け止め金具11が上方に戻り、突片13がブレーカ本体1の負荷側の端面15と係合する。この結果、ブレーカ本体1は図の右の方に移動できなくなり、取付板9の上に固定される。なお、ブレーカ本体1を取付板9から取り外したい場合には、図7に示すように取付板9の他の貫通孔16からドライバ等を差し込み、抜け止め金具を下方に撓ませながらブレーカ本体1を右方向にスライドさせればよい。」

キ 「【0017】図9、図10に示す第3の実施の形態では、ブレーカ本体1の切り欠き溝を凹溝とし、規制金具の両端の先端を内側に屈曲したものである。この規制金具10は図10に示すようにブレーカ本体1の前記溝と係合し、ブレーカ本体1が主幹バー6に対して接離する直線運動のみを許容するように作用する。また規制金具10の先端を屈曲させたことにより、取り付け後もブレーカ本体1が取付板9に対して上方に抜けることがないように規制している。
【0018】また規制金具10は片側だけでもよく、形状も上記の実施の形態のみに限らず、例えばT字状としてもよくブレーカ本体1の溝もこれに対応するものであればよい。なお、抜け止め金具11については、第2の実施の形態と同様である。」

ク 【図4】、【図7】及び【図10】






ケ 【図4】には、取付板9の裏面に、抜け止め金具11が設けられており、抜け止め金具11の突片13は、取付板9の貫通孔12から突出していない状態となっているものが記載されている。
【図7】には、上下3段に形成された主幹バー6が取付板9の上方に配置されており、主幹バー6がブレーカ本体1のプラグイン端子金具7に差し込まれた状態で、抜け止め金具11の突片13が、取付板9の貫通孔12から上方に突出してブレーカ本体1の負荷側の端面15に係合しており、また、ブレーカ本体1の図の右の方向は、ブレーカ本体1を取り外す方向となっているものが記載されている。
【図10】には、取付板9に設けられた先端を屈曲させた規制金具10と、これに対応してブレーカ本体1に設けられた凹溝とした切欠き溝8とが、互いに嵌合していることが記載されている。

コ 前記「キ」の「図9、図10に示す第3の実施の形態では」(段落【0017】)、及び「なお、抜け止め金具11については、第2の実施の形態と同様である。」(段落【0018】)との記載から、【図9】及び【図10】に示される第3の実施形態においては、抜け止め金具11の構成として、【図4】?【図7】に示される第2の実施の形態の抜け止め金具11の構成を引用することができる。

サ 前記「カ」の「また取付板9の裏面には、弾性に優れた金属よりなる抜け留め金具11が設けられている。この抜け止め金具11は取付板9の貫通孔12から上方に突出する突片13を備え、この突片13が上方に突出するように取付板9にねじ14等により固定されている。」(段落【0013】)、「なお、このときには抜け止め金具11は弾性的に下方に撓み突片13は図4の状態になる。」(段落【0014】)、及び「図7に示すようにそれまで下方に撓んでいた抜け止め金具11が上方に戻り、突片13がブレーカ本体1の負荷側の端面15と係合する。この結果、ブレーカ本体1は図の右の方に移動できなくなり、取付板9の上に固定される。」(段落【0015】)との記載、並びに前記「ケ」の【図4】及び【図7】の記載から、
取付板9の貫通孔12から上方に突出したり、または突出しなくなる突片13を備えた抜け止め金具11を、取付板9の裏面に設けていること、
及び、取付板9の貫通孔12から抜け止め金具11の突片13が突出して、ブレーカ本体1の負荷側の端面15に係合することにより、主幹バー6からブレーカ本体1を取り外す方向の動きが規制されて、取付板9にブレーカ本体1が取り付けられた状態となることが、それぞれ分かる。

シ 前記「カ」の「一方、取付板9側には規制金具10が設けられている。」(段落【0012】)、及び「ブレーカ本体1を直線的にスライドさせる。このとき規制金具10の作用によりブレーカ本体1は直線運動を許容されているため、電源側の端面に設けられたプラグイン端子金具7は直線的に主幹バー6の方向に移動し、主幹バー6と係合する。」(段落【0014】)との記載、前記「キ」の「ブレーカ本体1の切り欠き溝を凹溝とし、規制金具の両端の先端を内側に屈曲したものである。この規制金具10は図10に示すようにブレーカ本体1の前記溝と係合し、ブレーカ本体1が主幹バー6に対して接離する直線運動のみを許容するように作用する。また規制金具10の先端を屈曲させたことにより、取り付け後もブレーカ本体1が取付板9に対して上方に抜けることがないように規制している。」(段落【0017】)との記載、並びに前記「ケ」の【図4】、【図7】及び【図10】の記載から、
取付板9の上に載置したブレーカ本体1を主幹バー6の方向にスライドさせていくと主幹バー6がプラグイン端子金具7に差し込まれていくこと、
及び取付板9に設けられた先端を屈曲させた規制金具10とブレーカ本体1に設けられたと凹溝とした切欠き溝8とが互いに係合することにより、ブレーカ本体1の取付板9に対する上方の動きが規制されることが、それぞれ分かる。

ス 上記記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本件発明の記載ぶりに則って整理すると、甲第3号証には、第3の実施形態として、以下の発明が記載されている(以下、「甲3発明」という。)。
「プラグイン端子金具7が電源側に設けられたプラグインブレーカのブレーカ本体1を分電盤の取付板9に取り付けるための前記ブレーカ本体1と取付板9の構造であって、
取付板9の貫通孔12から上方に突出したり、または突出しなくなる突片13を備えた弾性に優れた金属よりなる抜け止め金具11を、前記取付板9の裏面に設けるとともに、
前記ブレーカ本体1の負荷側の端面15は、前記抜け止め金具11の突片13と係合するようになっており、
前記取付板9の上に載置したブレーカ本体1を主幹バー6の方向にスライドさせていくと前記主幹バー6がプラグイン端子金具7に差し込まれていき、
前記取付板9に設けられた先端を屈曲させた規制金具10と前記ブレーカ本体1に設けられたと凹溝とした切欠き溝8とが互いに係合することにより、前記ブレーカ本体1の前記取付板9に対する上方の動きが規制されるとともに、
前記取付板9の貫通孔12から前記抜け止め金具11の突片13が突出して前記ブレーカ本体1の負荷側の端面15に係合することにより、前記主幹バー6から前記ブレーカ本体1を取り外す方向の動きが規制されて、前記取付板9に前記ブレーカ本体1が取り付けられた状態となるブレーカ本体1の取付構造。」

2 乙各号証
(1)乙第3号証
ア 乙第3号証の42ページの付属書5図1


イ 前記「ア」の図1には、電灯分電盤用協約形配線用遮断器が記載されており、遮断器の電源側には端子座があり、その反対側は負荷側となっていることが分かる。

(2)乙第5号証
乙第5号証の464ページの上段には、「分岐取付台(協約形ブレーカ用)」及び「取付台・バーホルダー・分岐リード板を摘要のボックス用フカサに合わせてセットで使用されますと、機器とバーの高さ関係が揃います。」と記載されている。
上記記載から、分岐取付台(協約形ブレーカ用)は、協約形ブレーカをバーの高さに合わせるためのスペーサとしての機能を有していると解される。

第6 当審の判断
1 無効理由1について
(1)対比
本件発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「接続端子16」は、本件発明の「プラグイン端子金具」に相当する。
以下同様に、「接続端子16が電源側に設けられたプラグインタイプの分岐開閉器4」は、「プラグイン端子金具が電源側に設けられたプラグインタイプの回路遮断器」に、
「導電バー3」は、「母線」に、
「操作片25b」は、「外部つまみ」に、それぞれ相当する。

本件発明の「母線が設けられた取付板」とは、本件明細書の【0008】の「11、12は取付板に設けられた母線」との記載及び【図1】の記載から、母線が、直接取付板に設けられているわけではなく、他の部材を介して設けられていることを含んでおり、一方、前記「第5 1(1)コ」の【図1】の記載から、甲1発明の導電バー3はベース2上に設けられているところ、導電バー3は、何らかの部材を介してベース2上に支持されている必要があることは当業者であれば明らかな事項といえる。
そうすると、甲1発明の「ベース2」は、本件発明の「母線が設けられた取付板」に相当する。

甲1発明の「分岐開閉器4」と、本件発明の「回路遮断器」とは、その機能において一致するものであり、甲1発明においては、分岐開閉器4は、取り付け部材5を介してベース2に取付けられるのに対して、本件発明においては、回路遮断器が取付板に取り付けられるものである。
そうすると、甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」は、本件発明の「回路遮断器」と、「回路遮断器を含んだ部材」である限りにおいて共通する。

甲1発明の「ベース2に設けられた長孔22」と「取り付け部材5に設けられた係止爪23」とは、互いに嵌合するものであるので、一方を「嵌合部」、他方を「被嵌合部」ということができる。
そうすると、甲1発明の「前記ベース2に設けられた長孔22と前記取り付け部材5に設けられた係止爪23とが互いに嵌合すること」と、本件発明の「前記取付板と前記回路遮断器とに夫々対応して設けられた嵌合部と被嵌合部とが互いに嵌合すること」とは、「前記取付板と回路遮断器を含んだ部材とに夫々対応して設けられた嵌合部と被嵌合部とが互いに嵌合すること」において共通する。

甲1発明の「取り付け部材5の側片5bの下面」は、本件発明の「回路遮断器の底面」と、「回路遮断器を含んだ部材の底面」である限りにおいて共通する。

甲1発明において、「接続端子16が電源側に設けられたプラグインタイプの分岐開閉器4を分電盤の導電バー3が設けられたベース2に取り付けるため」は、本件発明において、「プラグイン端子金具が電源側に設けられたプラグインタイプの回路遮断器を分電盤などの母線が設けられた取付板に取り付けるため」に相当する。

甲1発明の「板ばね25」は「板ばね25が係止する係止孔24」とともに、導電バー3から分岐開閉器4及び取り付け部材5を取り外す方向の動きを規制するものであり、一方、本件発明の「ロックレバー」は「ロックレバーの嵌合部」とともに、母線から回路遮断器を取り外す方向の動きを規制するものである。そうすると、甲1発明の「板ばね25」、「板ばね25が係止する係止孔24」は、母線から回路遮断器を含んだ部材を取り外す方向の動きを規制するという機能を有する点において、本件発明の「ロックレバー」、「ロックレバーの嵌合部」に、それぞれ相当する。また、甲1発明の「板ばね25が突出してベース2の係止孔24に係止すること」は、本件発明の「ロックレバーが突出して前記取付板の嵌合部に嵌合すること」に相当する。

本件発明と甲1発明とは次の点で一致する。
「プラグイン端子金具が電源側に設けられたプラグインタイプの回路遮断器を分電盤などの母線が設けられた取付板に取り付けるための前記回路遮断器を含んだ部材と取付板の構造であって、
回路遮断器を含んだ部材の前記母線とは反対側の負荷側には回路遮断器を含んだ部材の底面から突出する、しないを外部つまみで択一的に選択可能なロックレバーを設けるとともに、
前記取付板には前記ロックレバーの嵌合部を設け、
前記取付板の上に載置した回路遮断器を含んだ部材を前記母線の方向にスライドさせていくと前記母線がプラグイン端子金具に差し込まれていき、
前記取付板と回路遮断器を含んだ部材とに夫々対応して設けられた嵌合部と被嵌合部とが互いに嵌合することにより、前記回路遮断器を含んだ部材の前記取付板に対する鉛直方向の動きが規制されるとともに、
回路遮断器を含んだ部材の底面から前記ロックレバーが突出して前記取付板の嵌合部に嵌合することにより、前記母線から前記回路遮断器を含んだ部材を取り外す方向の動きが規制されて、前記取付板に前記回路遮断器を含んだ部材が取り付けられた状態となる回路遮断器を含んだ部材の取付構造。」

本件発明と甲1発明とは次の点で相違する。
[相違点1]
「回路遮断器を含んだ部材」に関して、
本件発明においては、「回路遮断器」であるのに対して、
甲1発明においては、「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」である点。

[相違点2]
回路遮断器の取付板に対する鉛直方向の動きが規制されるための「嵌合部」と「被嵌合部」に関して、
本件発明においては、「前記取付板と前記回路遮断器とに夫々対応して設けられた嵌合部と被嵌合部」であるのに対して、
甲1発明においては、「前記ベース2と前記取り付け部材5とに夫々対応して設けられた長孔22と係止爪23」である点。

[相違点3]
母線から回路遮断器を取り外す方向の動きが規制されるための「ロックレバー」に関して、
本件発明においては、ロックレバーは、
その設ける対象は、「回路遮断器」で、
その外部つまみは、「前記回路遮断器の底面から突出する、しないを外部つまみで択一的に選択保持可能」であり、
その規制は、「前記回路遮断器の底面から前記ロックレバーが突出して前記取付板の嵌合部に嵌合することにより」規制されるのに対して、
甲1発明においては、板ばね25(「ロックレバー」に相当。)は、
その設ける対象は、「取り付け部材5」で、
その操作片25b(「外部つまみ」に相当。)は、「前記取り付け部材5の側片5bの下面から突出する、しないを操作片25bで択一的に選択可能」であっても、本件発明のような「選択保持可能」ではなく、
その規制は、「前記取り付け部材5の側片5bの下面から板ばね25が突出してベース2の係止孔24に係止することにより」規制される点。

(2)相違点の判断
ア [相違点1]について
甲第1号証には、従来の分電盤として、「各分岐開閉器4は分岐開閉器4の下に設けた取り付け部材5を介して取り付けられる。取り付け部材5は一端側をベース2の係止爪6に係止すると共に他端側をベースにビス7にて固定することで取り付けてある。分岐開閉器4の長手方向(入出力端子方向)の両端面には引っ掛け凹所8を設けてあり、取り付け部材5の両端には引っ掛け爪9を設けてあり、引っ掛け爪9を引っ掛け凹所8に引っ掛けることで取り付け部材5に分岐開閉器4を取り付けてある。」(前記「第5 1(1)ウ」の段落【0002】)ものを挙げて、このような従来の分電盤においては、「分岐開閉器を横方向から差し込むと共に接続端子を導電バーに差し込み、分岐開閉器の両端の引っ掛け凹所に取り付け部材の引っ掛け爪を引っ掛け係止しなけらない。しかも横からスライドさせて差し込むとき外側の引っ掛け爪9が邪魔になって装着しにくいという問題がある。また装着することができても外側の引っ掛け爪9が弾性変形可能な係脱用引っ掛け爪9aであるために抜けやすいという問題」(同段落【0003】。記載中の「係止しなけらない」は「係止しなければならない」の誤記と認める。)があったことが記載されている。
そして、甲第1号証には、上記の問題を解決するために、「分岐開閉器4を予め取り付け部材5に装着してから各取り付け部材5をベース2に固定すること」(同段落【0003】)を考えたものの、「取り付け部材5はビス7の締め付けにて取り付けているために分岐開閉器4を取り付けたままではベース2に取り付けることができないという問題」(同段落【0003】)があったことが記載されている。
そこで、甲第1号証においては、「差し込み式の分岐開閉器の取り付けがしやすく、しかも取り付けた後の分岐開閉器が外れにくい分電盤を提供すること」(同段落【0004】)を発明が解決しようとする課題とし、分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5を、ベース2に取り付けることを特定して、「取り付け部材の長手方向の2つの引っ掛け爪間に分岐開閉器を配置して引っ掛け爪を引っ掛け凹所に引っ掛けて分岐開閉器を容易に取り付けることができるとともに、導電バーと反対側の引っ掛け爪が略剛体であるため各分岐開閉器の接続端子を導電バーに差し込み接続した状態で分岐開閉器を取り付け部材に取り付けた後、分岐開閉器が外れにくくなるものである」(前記「第5 1(1)キ」の段落【0017】)との効果を奏することが記載されている。
以上のことから、甲1発明は、取り付け部材5を介在して分岐開閉器4を、ベース2に取り付けることを前提とし、この前提の基において生ずる問題を解決するための発明であるといえる。
また、甲1発明は、「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」を「導電バー3の方向にスライドさせていくと前記導電バー3が接続端子16に差し込まれて」いくものであるところ、取り付け部材5がないと、導電バー3と接続端子16との高さが合わず、接続端子16に導電バー3が差し込まれなくなることは、当業者にとって自明の事項であるといえるし、なおかつ、乙第5号証の「取付台・バーホルダー・分岐リード板を摘要のボックス用フカサに合わせてセットで使用されますと、機器とバーの高さ関係が揃います。」(前記「第5 2(2)」)との記載を併せみれば、甲1発明の「取り付け部材5」は、高さ調整用のスペーサとしての機能も有しているといえる。
そうすると、甲1発明は、スペーサとしての機能を有する取り付け部材5を介在して、分岐開閉器4をベースに取り付けることを前提とするものである。
一方、本件発明は、「取付板と前記回路遮断器とに夫々対応して設けられた嵌合部と被嵌合部とが互いに嵌合することにより」回路遮断器を取付板に取り付けるものであって、スペーサとして機能するものは設けられていない。
したがって、甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」は、本件発明の「回路遮断器」に相当するとはいえないし、また、甲1発明において、分岐開閉器4をベース2に取付ける際に、取り付け部材5を介在させないようにすることについては、動機付けはない。
よって、相違点1に係る本件発明の構成は、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

イ [相違点2]について
前記「ア」で述べたように、甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」は、本件発明の「回路遮断器」に相当するとはいえないし、また、甲1発明において、分岐開閉器4をベース2に取付ける際に、取り付け部材5を介在させないようにすることについては、動機付けはない。
そうすると、前記「ア」と同様に、甲1発明の、取り付け部材5に設けられた係止爪23を、本件発明の回路遮断器に設けられた嵌合部または被嵌合部ということはできないし、また、甲1発明において、分岐開閉器4をベース2に取付ける際に、取り付け部材5を介在させないようにし、取り付け部材5に設けられた係止爪23を、分岐開閉器4に設ける動機付けもない。
したがって、相違点2に係る本件発明の構成は、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ [相違点3]について
(ア)前記「ア」で述べたように、甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」は、本件発明の「回路遮断器」に相当するとはいえないし、また、甲1発明において、分岐開閉器4をベース2に取付ける際に、取り付け部材5を介在させないようにすることについては、動機付けはない。
そうすると、仮に甲1発明に甲第2号証に記載された発明を適用しても、甲1発明の板ばね25が設けられた「取り付け部材5」に、甲第2号証に記載された発明の係止アーム12を適用することとなるから、「回路遮断器」にロックレバーを設けた構成とはならない。

(イ)甲1発明の板ばね25を甲第2号証に記載された発明の係止アーム12に置換することについてさらに検討する。
a 前記「第5 1(1)イ」の「本発明は、分電盤に関し、詳しくは分岐開閉器を取り付ける構造に関するものである。」との記載を参酌すれば、甲1発明の分岐開閉器4は、分電盤内に取り付け部材5を介して取り付けるものであって、作業者が片手で持ち上げられる程度の大きさ及び重量であることは、当業者であれば明らかな事項である。甲1発明は、上記のように作業者が片手で持ち上げられる程度の大きさ及び重量の分岐開閉器を分電盤に取り付けるための構造に関する技術である。
一方、甲第2号証に記載された発明は、分岐開閉器を分電盤に取り付けるための構造に関する技術ではなく、その電源ユニット2を操作用取手1を用いて架台に対して引き出し又は差し込みを行う(前記「第5 1(2)カ」を参照。)ことから、その大きさ及び重量が、いずれも甲1発明の分岐開閉器4に比較して、大きく重いものを対象としていると解される。そして、甲第2号証に記載された発明は、前記「第5 1(2)ウ」の「所謂架台搭載引出し型の電源装置においては、振動などにより動作中の電源ユニットが電源架台から抜け出して、負荷回路などへの電力の供給が遮断されるのを防止することが必要である。」及び「しかしこのように係止アーム(3b)をその自重により自然落下させて係止するものでは、振動により係止アーム(3b)が上下に踊って係止溝(5)内から抜け出すおそれがある。」との記載を参酌すれば、振動による電源ユニットの電源架台からの抜け出し防止、及び係止アームの抜け出し防止を課題とした、架台搭載引出し型電源装置の架台への引留め構造に関する技術である。
以上のことから、甲1発明と甲第2号証に記載された発明とは、取り付け対象物、及びその大きさ及び重量も異なり、両者の属する技術分野が同じであるとはいえず、したがって、甲1発明の板ばね25を、甲2発明の係止アームに置換し得るものであるとはいえない。

b 甲1発明の板ばね25と、甲第2号証に記載された発明の係止アーム12とは、それぞれを取り付けた部材の動きを防止する点で共通している。
しかしながら、甲第1号証の「また板ばね25には操作片25bも設けてある。」(前記「第5 1(1)オ」の段落【0013】)、及び「分岐開閉器4と取り付け部材5をスライドさせると、接続端子16が導電バー3に差し込まれて電気的に接続される。この状態で係止爪23が長孔22の周縁の下の位置し、長孔22の周縁が係止爪23と側片5bとで挟持される。このとき板ばね25の先端部25aが係止孔24に係止して取り付け部材5が動かないように止められる。 ・・・(中略)・・・ また板ばね25の先端部25aの係止を外して上記と逆にスライドさせることで分岐開閉器4と一緒に取り付け部材5を取り外すことができる。」(同段落【0014】)との記載を参酌すれば、甲1発明の板ばね25は、分岐開閉器4と取り付け部材5をスライドさせたときに、操作片25bを操作しなくとも、その先端部25aが係止孔24に係止し、取り付け部材5を取り外すときには、操作片25bを持ち上げ逆方向にスライドさせなければならない「板ばね」である。
そして、甲1発明は、スライドさせただけで板ばね25の先端部25aが係止孔24に係止して取り付け部材5が動かないように止められるという作用を奏するものである。
これに対して、甲第2号証に記載された発明の係止アーム12は、操作用取手11の操作により引留め位置または引留め解除位置とすることができるとともに、引留め位置および引留め解除位置のそれぞれにおいて保持されるものであって(前記「第5 1(2)カ」を参照。)、外部から力を加え続けなくとも、どちらかの状態が保持されるものである。
このように、甲1発明の「板ばね25」と甲第2号証に記載された発明の「係止アーム12」とは、形状及び操作の形態において大きく異なるといえ、単純に、甲1発明の「板ばね25」を、甲第2号証に記載された発明の「係止アーム12」の構造に置換できるものではない。
また、仮に、甲1発明の板ばね25が取り付け部材5の側片5bの下面から突出する、しないを操作片25bで択一的に選択保持可能にしたとすると、「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」をスライドさせた際に、上記のスライドさせただけで板ばね25の先端部25aが係止孔24に係止して取り付け部材5が動かないように止められるという作用を奏さなくなる。
そうすると、甲1発明の「板ばね25」に、甲第2号証に記載された発明の「係止アーム12」を引留め位置及び引留め解除位置に保持することを適用して、「突出する、しないを外部つまみで択一的に選択保持可能」とすることについては、阻害要因がある。

c 以上のことから、甲1発明の「板ばね25」を、甲第2号証に記載された発明の「係止アーム12」に置換することには、動機付けはない。

(ウ)以上のことから、相違点3に係る本件発明の構成は、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

エ 請求人の主張について
(ア)請求人は、「甲1発明における『分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5』は,一部の部材を交換可能に構成された『回路遮断器』ということができるものである。相違点2は,取付板に対する鉛直方向の動きを規制するための『被嵌合部』を,回路遮断器の筐体に設けるか,それとも筐体とは別の部材(取り付け部材5)に設けるか,の違いに過ぎない。いずれの構成においても,回路遮断器に被嵌合部を設けたことによる効果は同じである。以上のとおり,相違点2に係る構成は,単なる設計事項又は容易に想到できるものに過ぎない。」(口頭審理陳述要領書4ページ3行?10行)と述べて、
概略、「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」は、一部の部材を交換可能に構成された「回路遮断器」ということができること、及び「被係合部」を、回路遮断器の筐体に設けるか、それとも筐体とは別の部材(取り付け部材5)に設けるかは、単なる設計事項又は容易に想到できる旨主張する。
しかし、前記「ア」で述べたように、甲1発明は、取り付け部材5を介在して分岐開閉器4を、ベース2に取り付けることを前提とし、この前提の基において生ずる問題を解決するための発明であり、更に、上記取り付け部材5はスペーサとしての機能を有するものであるから、回路遮断器の一部ということはできず、また、分岐開閉器4をベース2に取付ける際に、取り付け部材5を介在させないようにして、取り付け部材5に設けられた係止爪23を分岐開閉器4に直接設けることについても、動機付けはない。
したがって、請求人の上記主張は理由がない。

(イ)請求人は、「甲1発明,及び甲第2号証に記載された発明はいずれも,機器をスライドさせることにより,当該機器に設けられたプラグコネクタを電源に接続する,という技術の分野に関するものである点において共通している。更に,プラグコネクタの接続が外れてしまう方向に機器がスライドすることを,機器の底面から部材を突出させることによって防止する,という点においても共通している。つまり,両発明は,その技術分野のみならず課題についても共通するものとなっている。従って,甲第2号証に記載された発明を,甲1発明に適用するにあたって,阻害要因となるような事項は何ら存在しない。」(口頭審理陳述要領書11ページ10行?17行)と述べて、
概略、甲1発明と甲第2号証に記載された発明とは、技術分野及び課題が共通し、また、甲1発明に甲第2号証に記載された発明を適用するにあたって阻害要因はない旨主張している。
しかし前記「ウ(イ)a」で述べたように、甲1発明と、甲第2号証に記載された発明とは、その属する技術分野が同じであるとはいえず、また、前記「ウ(イ)b」で述べたように、甲1発明において、甲第2号証に記載された発明を適用して、ロックレバーの外部つまみを、前記回路遮断器の底面から「突出する、しないを外部つまみで択一的に選択保持可能」とすることは、甲1発明の「分岐開閉器4を取り付けた取り付け部材5」をスライドさせた際に、スライドさせただけで板ばね25の先端部25aが係止孔24に係止して取り付け部材5が動かないように止められるという作用を奏さなくなるから、阻害要因があるといえる。
したがって、請求人の上記主張は理由がない。

オ 小括
したがって、本件発明は、甲1発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、無効理由1については、理由がない。

2 無効理由2について
(1)対比
本件発明と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「プラグイン端子金具7」は、本件発明「プラグイン端子金具」に相当する。
以下同様に、「プラグインブレーカのブレーカ本体1」は、「プラグインタイプの回路遮断器」に、
「主幹バー6」は、「母線」に、
「上方」は、「鉛直方向」に、それぞれ相当する。

前記「第5 1(3)ケ」の【図7】の記載によれば、上下3段に形成された主幹バー6が取付板9の上方に配置されているところ、当該主幹バー6は、何らかの手段により取付板9により支持されている必要があることは当業者であれば明らかな事項であるから、甲3発明の取付板9は、「主幹バー6が設けられた取付板9」ということができる。
そうすると、甲3発明の「取付板9」は、本件発明の「母線が設けられた取付板」に相当する。

甲3発明の「取付板9に設けられた先端を屈曲させた規制金具10」と「ブレーカ本体1に設けられたと凹溝とした切欠き溝8」とは、互いに係合するものであるので、一方を「嵌合部」、他方を「被嵌合部」ということができる。
そうすると、甲3発明の「前記取付板9に設けられた先端を屈曲させた規制金具10と前記ブレーカ本体1に設けられたと凹溝とした切欠き溝8とが互いに係合すること」は、本件発明の「前記取付板と前記回路遮断器とに夫々対応して設けられた嵌合部と被嵌合部とが互いに嵌合すること」に相当する。

本件発明と甲3発明とは次の点で一致する。
「プラグイン端子金具が電源側に設けられたプラグインタイプの回路遮断器を分電盤などの母線が設けられた取付板に取り付けるための前記回路遮断器と取付板の構造であって、
前記取付板の上に載置した回路遮断器を前記母線の方向にスライドさせていくと前記母線がプラグイン端子金具に差し込まれていき、
前記取付板と前記回路遮断器とに夫々対応して設けられた嵌合部と被嵌合部とが互いに嵌合することにより、前記回路遮断器の前記取付板に対する鉛直方向の動きが規制されるとともに、
前記母線から前記回路遮断器を取り外す方向の動きが規制されて、前記取付板に前記回路遮断器が取り付けられた状態となる回路遮断器の取付構造。」

本件発明と甲3発明とは次の点で相違する。
[相違点4]
母線から回路遮断器を取り外す方向の動きが規制されるための構成に関して、
本件発明においては、「前記回路遮断器の前記母線とは反対側の負荷側には前記回路遮断器の底面から突出する、しないを外部つまみで択一的に選択保持可能なロックレバーを設けるとともに、前記取付板には前記ロックレバーの嵌合部を設け」、「前記回路遮断器の底面から前記ロックレバーが突出して前記取付板の嵌合部に嵌合することにより」規制されるとの構成を備えているのに対して、
甲3発明においては、かかる構成を備えておらず、「取付板9の貫通孔12から上方に突出したり、または突出しなくなる突片13を備えた抜け止め金具11を、前記取付板9の裏面に設けるとともに、前記ブレーカ本体1の負荷側の端面15は、前記抜け止め金具11の突片13と係合するようになっており」、「前記取付板9の貫通孔12から前記前記抜け止め金具11の突片13が突出して前記ブレーカ本体1の負荷側の端面15に係合することにより」規制される点。

(2)相違点の判断
ア 甲3発明の抜け止め金具11を甲第2号証に記載された発明の係止アーム12に置換することについて検討する。
(ア)前記「第5 1(3)イ」の「プラグインブレーカを分電盤の取付板に取り付けるために用いられるプラグインブレーカの取付機構に関するものである。」との記載を参酌すれば、甲3発明のブレーカ本体1は、分電盤内に取り付けるものであって、作業者が片手で持ち上げられる程度の大きさ及び重量であることは、当業者であれば明らかな事項である。甲3発明は、上記のように作業者が片手で持ち上げられる程度の大きさ及び重量のブレーカ本体を分電盤に取り付けるための構造に関する技術である。
一方、甲第2号証に記載された発明は、ブレーカ本体を分電盤に取り付けるための構造に関する技術ではなく、その電源ユニット2を操作用取手1を用いて架台に対して引き出し又は差し込みを行う(前記「第5 1(2)カ」を参照。)ことから、その大きさ及び重量が、いずれも甲3発明のブレーカ本体1に比較して、大きく重いものを対象としていると解される。そして、甲第2号証に記載された発明は、前記「第5 1(2)ウ」の「所謂架台搭載引出し型の電源装置においては、振動などにより動作中の電源ユニットが電源架台から抜け出して、負荷回路などへの電力の供給が遮断されるのを防止することが必要である。」及び「しかしこのように係止アーム(3b)をその自重により自然落下させて係止するものでは、振動により係止アーム(3b)が上下に踊って係止溝(5)内から抜け出すおそれがある。」との記載を参酌すれば、振動による電源ユニットの電源架台からの抜け出し防止、及び係止アームの抜け出し防止を課題とした、架台搭載引出し型電源装置の架台への引留め構造に関する技術である。
以上のことから、甲3発明と甲第2号証に記載された発明とは、取り付け対象物、及びその大きさ及び重量も異なり、両者の属する技術分野が同じであるとはいえず、したがって、甲3発明の板ばね25を、甲2発明の係止アームに置換し得るものであるとはいえない。

(イ)甲3発明の抜け止め金具11の突片13と、甲第2号証に記載された発明の係止アーム12とは、それぞれを取り付けた部材の動きを防止する点で共通している。
しかしながら、甲第3号証の「また取付板9の裏面には、弾性に優れた金属よりなる抜け留め金具11が設けられている。」(前記「第5 1(3)カ」の段落【0013】)、「このように構成された本発明の取付機構により、プラグインブレーカを取付板9に取り付けるには、図4に示すようにブレーカ本体1の凹溝を規制金具10に当接させた状態で、ブレーカ本体1の底面が取付板9から浮き上がらないようにブレーカ本体1を直線的にスライドさせる。このとき規制金具10の作用によりブレーカ本体1は直線運動を許容されているため、電源側の端面に設けられたプラグイン端子金具7は直線的に主幹バー6の方向に移動し、主幹バー6と係合する。なお、このときには抜け止め金具11は弾性的に下方に撓み突片13は図4の状態になる。」(同段落【0014】)、及び「このようにしてブレーカ本体1が所定の位置(プラグイン端子金具7が主幹バー6と係合する位置)まで移動すると、図7に示すようにそれまで下方に撓んでいた抜け止め金具11が上方に戻り、突片13がブレーカ本体1の負荷側の端面15と係合する。この結果、ブレーカ本体1は図の右の方に移動できなくなり、取付板9の上に固定される。なお、ブレーカ本体1を取付板9から取り外したい場合には、図7に示すように取付板9の他の貫通孔16からドライバ等を差し込み、抜け止め金具を下方に撓ませながらブレーカ本体1を右方向にスライドさせればよい。」(同段落【0015】)との記載を参酌すれば、甲3発明の抜け止め金具11の突片13は、ブレーカ本体1をスライドさせたときに、抜け止め金具11を操作しなくとも、突片13がブレーカ本体1の負荷側の端面15と係合し、ブレーカ本体1を取り外す場合は、抜け止め金具11をドライバ等により下方に撓ませながら反対方向にスライドさせなけらばならない「弾性」を有する抜け止め金具11の突片13である。
そして、甲3発明は、ブレーカ本体1の凹溝を規制金具10に当接させた状態で、スライドさせるだけで、抜け止め金具11の弾性を利用して、抜け止め金具11の突片13がブレーカ本体1の負荷側の端面15と係合し、ブレーカ本体1が取付板9上に固定されるという作用を奏するものである。
これに対して、甲第2号証に記載された発明の係止アーム12は、操作用取手11の操作により引留め位置または引留め解除位置とすることができるとともに、引留め位置および引留め解除位置のそれぞれにおいて保持されるものであって(前記「第5 1(2)カ」を参照。)、外部から力を加え続けなくとも、どちらかの状態が保持されるものである。
このように、甲3発明の抜け止め金具11の「突片13」と甲第2号証に記載された発明の「係止アーム12」とは、形状及び操作の形態において大きく異なるといえ、単純に、甲3発明の抜け止め金具11の「突片13」を、甲第2号証に記載された発明の「係止アーム12」の構造に置換できるものではない。
また、仮に、甲3発明において、抜け止め金具11の突片13を、「突出する、しないを外部つまみで択一的に選択保持可能」にしたとすると、ブレーカ本体1は、スライドさせただけでは固定されず、スライド後に、抜け止め金具11の突片12を、突出しない状態から突出した状態へと操作しないと、固定されないから、前述した、ブレーカ本体1の凹溝を規制金具10に当接させた状態で、スライドさせるだけで、抜け止め金具11の突片13がブレーカ本体1の負荷側の端面15と係合して、ブレーカ本体1が取付板9上に固定されるという作用を奏さなくなる。
そうすると、甲3発明の抜け止め金具11の突片13に、甲第2号証に記載された発明の「係止アーム12」を引留め位置及び引留め解除位置に保持することを適用して、「突出する、しないを外部つまみで択一的に選択保持可能」とすることについては、阻害要因がある。

(ウ)以上のことから、甲3発明の「抜け止め金具11」を、甲第2号証に記載された発明の「係止アーム12」に置換することには、動機付けはない。

イ 甲3発明において、抜け止め金具11を、取付板9の裏面ではなく、ブレーカ本体1に設けることについて、甲第3号証あるいは甲第2号証に記載または示唆があるものではないから、甲3発明において、「回路遮断器の前記母線とは反対側の負荷側」にロックレバーを設けることについては、動機付けはない。

ウ 以上のことから、相違点4に係る本件発明の構成は、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(3)請求人の主張について
請求人は、「従って,構成b3における突片13をブレーカ本体1側に設けた構成とした上で,突片13の突出状態を,構成b2-2に示されるように択一的に選択『保持』可能とし,これにより構成要件Bに係る構成とすることも,本件特許の出願時点において甲第3号証及び甲第2号証を参酌した当業者であれば,容易に成し得たことである。」(審判請求書24ページ22行?25ページ2行)、「回路遮断器を取り外す方向の動きを規制するための部材の突出する,しないを,択一的に選択保持可能とすること,及び,その操作を行うための外部つまみを設けることは,甲3発明に,甲第2号証に記載された発明を適用することにより,当業者が容易に成し得たことである。」(口頭審理陳述要領書10ページ1行?4行)、及び「5-3-1で述べたように,甲3発明,及び甲第2号証に記載された発明は,その技術分野のみならず課題についても共通するものとなっている。甲第2号証に記載された発明を,甲3発明に適用するにあたって,阻害要因となるような事項は何ら存在しない。」(口頭審理陳述要領書13ページ10行?13行)と述べて、
概略、甲3発明と甲第2号証に記載された発明とは、技術分野及び課題が共通し、甲3発明において、突片13の突出状態を択一的に選択保持可能とすることは、甲第2号証に記載された発明を適用することにより、当業者が容易になし得たことである旨主張している。
しかし、前記「(2)ア(ア)」で述べたように、甲3発明と、甲第2号証に記載された発明とは、その属する技術分野が同じであるとはいえず、また、甲3発明において抜け止め金具11の突片13を、択一的に選択「保持」可能とした場合には、前記「(2)ア(イ)」で述べたように、ブレーカ本体1の凹溝を規制金具10に当接させた状態で、スライドさせるだけで、抜け止め金具11の突片13がブレーカ本体1の負荷側の端面15と係合して、ブレーカ本体1が取付板9上に固定されるという、甲3発明の作用を奏さなくなるから、阻害要因があるといえる。
したがって、請求人の上記主張は理由がない。

(4)したがって、本件発明は、甲3発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、無効理由2については、理由がない。

3 無効理由3について
請求人の主張する無効理由3は、本件発明は、実施例の爪部及び凹部のそれぞれを「嵌合部」及び「被嵌合部」とした上で、「前記取付板と前記回路遮断器とに夫々対応して設けられた嵌合部と被嵌合部とが互いに嵌合することにより、前記回路遮断器の前記取付板に対する鉛直方向の動きが規制されるとともに」との構成(以下「構成要件A」という。)を特定することにより、爪部を取付板に設け、凹部を回路遮断器に設けた構成のみならず、爪部を回路遮断器に設け、凹部を取付板に設けた構成をも含むものとなっているが、後者の構成は、本件の第一?第四世代の親出願及び原出願のそれぞれの願書に最初に添付された明細書及び図面(甲第5?9号証を参照。)には一切記載されていないから、分割出願の要件を満たしておらず、したがって、本件特許の出願日は繰り下げられて、平成26年6月3日とされるべきものであり、本件発明は、甲第4号証(本件の第一世代の親出願の公開公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件発明は、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであるというものである。

(1)本件特許に係る出願の分割要件について
ア 原出願に対する本件特許に係る出願の分割要件について
最初に、原出願に対する本件特許に係る出願の分割要件について検討する。
本件特許に係る出願が、原出願である特願2013-215045号の出願の時にしたものとみなされるには、本件特許に係る出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「原出願の当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内のものであること、すなわち、原出願の当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることが必要である。

(ア)原出願の当初明細書等に記載された事項について
原出願の当初明細書等(甲第9号証を参照。)には、以下の記載がある。
a 「【請求項1】
プラグイン端子金具が電源側に設けられたプラグインタイプの回路遮断器を分電盤などの母線が設けられた取付板に取り付けるための前記回路遮断器と取付板の構造であって、
前記回路遮断器の負荷側には、電線を斜め上方から挿入可能な電線挿入孔を設け、さらに、前記回路遮断器の底面から突出する、しないを外部つまみで択一的に選択保持可能なロックレバーを電線挿入孔よりも下方位置に設けるとともに、
前記取付板には前記ロックレバーが嵌合する穴部を設け、
取前記付板の上に載置した回路遮断器を前記母線の方向にスライドさせていくと前記母線がプラグイン端子金具に差し込まれていき、
前記取付板に設けられた爪部が、該爪部と対応して前記回路遮断器に設けられた凹部と嵌合することにより、
前記回路遮断器の前記取付板に対する鉛直方向の動きが規制されるとともに側面方向の動きが規制され、
前記回路遮断器の底面から前記ロックレバーが突出して前記取付板の穴部に嵌合することにより、前記母線から前記回路遮断器を取り外す方向の動きが規制されて、前記取付板に前記回路遮断器が取り付けられた状態となる一方、
前記ロックレバーの指掛部を前記取付板と反対の方向に引き上げて穴部と前記ロックレバーとの嵌合を解除してから、前記回路遮断器を前記母線と反対の方向に引き抜くように移動させることにより、
爪部と前記回路遮断器との嵌合が外れて前記回路遮断器を取付板から取り外せるようにしたことを特徴とした回路遮断器の取付構造。」

b 「【0001】
本発明は回路遮断器を分電盤の取付板に取り付けるための回路遮断器と取付板の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は従来の回路遮断器61を分電盤の取付板62に取り付ける構造の一例である。この取付構造は、まず、取付板62に対し回路遮断器61が斜めになる状態で回路遮断器61の電源側の凹部63を取付板62の突出部64に嵌め合わせ、次に回路遮断器61を取付板62に密着させ、回路遮断器61の負荷側に設けられた凹部65に同じく取付板に後付けされた弾性を持つ突出部66を嵌め合わせ、電源側の端子と母線をねじにより締付接続する構造であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら図1に示すようなプラグインタイプの回路遮断器は、取付板に設けられた母線とねじ無しで接続を行うためのプラグイン端子を電源側に設けており、取付板の上に回路遮断器を載置し、続いてプラグイン端子金具に母線が差し込まれるように負荷側から母線の方向にスライドさせて取付板に装着する必要があるため、図6の取付方法では取付板の上に回路遮断器を配置したときに回路遮断器の底面が突出片66と干渉し、取付板に取付できないという不具合があった。また、取り外しの際には突出片66の端をドライバなどの工具を用いて押圧しながら回路遮断器を取り外す必要があった。さらに、突出片66は回路遮断器の負荷側側面から飛び出しているために、分電盤内に電線を引き回す場合、突出片66の先端で電線被覆を傷付ける恐れがあった。
【0004】
本発明は、上述のような従来の問題を解決し、プラグインタイプのような回路遮断器でも容易に取付でき、配線が傷付かず、取り外し時に工具を必要としない取付け構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0006】
以上のように本発明によれば、プラグインタイプのような回路遮断器でも容易に取付でき、配線が傷付かず、取り外し時に工具を必要としない取付け構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
この発明の実施例について図面を用いて以下に詳細に説明する。図1から図3は本件発明による回路遮断器の取付構造の実施例を示したものである。
【0008】
図1から図3において、1は電源側をプラグインタイプの端子とした回路遮断器、2は分電盤に設けられた取付板、3、4は取付板に設けられ回路遮断器1の取付板と鉛直な方向の動きを規制する爪部aと爪部b、5、6は前記爪部に対応する回路遮断器側に設けられた凹部aと凹部b、7は回路遮断器側に設けられ取付板から回路遮断器を取り外す方向の動きを規制するロックレバー、8はロックレバー7と嵌合する取付板側の嵌合部、9、10は回路遮断器の側面を規制する突出部aと突出部bである。また、11、12は取付板に設けられた母線、13、14はプラグイン端子部、15、16はプラグイン端子金具である。3の爪部aと4の爪部bは電源側から負荷側に向けて伸びており(開放されており)、5の凹部aと6の凹部bは電源側に向けて開放されている。これにより回路遮断器1を取付板2に載置して母線方向にスライドさせたときには、3の爪部aと5の凹部aが、4の爪部bと6の凹部bが勘合し取付板と鉛直な方向の動きを規制することができる。
・・・(中略)・・・
【0011】
このように構成された取付構造により回路遮断器を取付板に取り付ける場合について説明する。まず、図1において、回路遮断器1のロックレバー7の係止部703が回路遮断器底面より突出しない状態にしておき、取付板の突出部a9、突出部b10の間に遮断器がくるように、また4の爪部bが遮断器の6の凹部bの開口部にくるように取付板の上に載置する。この時点では爪部3、4と遮断器の凹部5、6はかみ合っていない。次に回路遮断器1を母線11、12の方向にスライドさせていくと母線11、12がプラグイン端子金具15、16に差し込まれていき、取付板に設けられた爪部3及び爪部4がそれぞれ回路遮断器の凹部5、凹部6と嵌合する。
【0012】
以上により、回路遮断器は図1の上方向(取付板に対する鉛直方向)と側面方向の動きが規制されるが、この状態では、回路遮断器は母線11,12から遠い方向(遮断器の負荷側方向)へは取り外し可能である。
【0013】
次にロックレバー7の指掛部702を指で取付板の方向に押圧すると、係止部703が回路遮断器の底面より突出し、取付板の嵌合部8に嵌合する。これにより母線から回路遮断器を取り外す方向の動きを規制することができ、取付板2に回路遮断器1が取付られた状態となる。
【0014】
次に回路遮断器1を取付板2から取り外す場合について説明する。まず、ロックレバー7の指掛部702を取付板と反対の方向に指で引き上げ、嵌合部8とロックレバー7の係止部703との嵌合を解除する。次に回路遮断器1を母線11、12と反対の方向に引き抜くように移動させることにより、爪部3、及び爪部4と凹部5及び凹部6との嵌合が外れる。この状態で回路遮断器1を取付板から持ち上げると取付板2から取り外すことができる。
【0015】
以上の説明のように、プラグインタイプの回路遮断器1を分電盤に設けられた取付板2に取り付けるために、取付板2と鉛直な方向の動きを規制する爪部3及び爪部4を取付板2に設けるとともに前記爪部3、4とそれぞれ対応する凹部5、及び凹部6を回路遮断器1に設け、取付板2に設けられた母線11、12から回路遮断器1を取り外す方向の動きを規制するロックレバー7を回路遮断器1に設けるとともに取付板2には前記ロックレバー7が嵌合する嵌合部8を設け、回路遮断器の側面を位置規制する突出部9及び突出部10を取付板2に設けたために、プラグインタイプの回路遮断器を取付板と平行にスライドさせながら取り付けることが可能となり、分電盤内に電線を引き回す場合にもロックレバー7の指掛部は回路遮断器の負荷側側面からわずかしか突出していないため電線被覆を傷付ける恐れがない。また、回路遮断器の取り外しに工具を用いる必要がなく、工具を携帯しておく必要性もない取付構造を提供できる。
【0016】
なお、実施例では、回路遮断器の側面を位置規制する突出部9、10を設けた例としたが、爪部3、4と凹部5、6の巾寸法関係を適性に設定することで不要とできる。また、嵌合部8は取付板2の端部を折り曲げて形成された例で説明したが、係止部703の大きさに見合った穴としてもよく、穴と係止部の寸法関係で突出部9、10を不要にできる。これらは、本件発明の請求の範囲内で適宜変更可能である。」

(イ)当審の判断
a 原出願の当初明細書等には、「プラグインタイプの回路遮断器は、 ・・・(中略)・・・ 取付板の上に回路遮断器を載置し、続いてプラグイン端子金具に母線が差し込まれるように負荷側から母線の方向にスライドさせて取付板に装着する必要があるため、図6の取付方法では取付板の上に回路遮断器を配置したときに回路遮断器の底面が突出片66と干渉し、取付板に取付できないという不具合があった。また、取り外しの際には突出片66の端をドライバなどの工具を用いて押圧しながら回路遮断器を取り外す必要があった。さらに、突出片66は回路遮断器の負荷側側面から飛び出しているために、分電盤内に電線を引き回す場合、突出片66の先端で電線被覆を傷付ける恐れがあった」(上記「(ア)b」の段落【0003】)ことを解決しようとする課題とし、「プラグインタイプのような回路遮断器でも容易に取付でき、配線が傷付かず、取り外し時に工具を必要としない取付け構造を提供することを目的としている。」(同段落【0004】)と記載されている。
上記の課題を解決するために、原出願の当初明細書等には、「取付板2と鉛直な方向の動きを規制する爪部3及び爪部4を取付板2に設けるとともに前記爪部3、4とそれぞれ対応する凹部5、及び凹部6を回路遮断器1に設け、取付板2に設けられた母線11、12から回路遮断器1を取り外す方向の動きを規制するロックレバー7を回路遮断器1に設けるとともに取付板2には前記ロックレバー7が嵌合する嵌合部8を設け」(同段落【0015】)、
これにより、「回路遮断器1を母線11、12の方向にスライドさせていくと母線11、12がプラグイン端子金具15、16に差し込まれていき、取付板に設けられた爪部3及び爪部4がそれぞれ回路遮断器の凹部5、凹部6と嵌合」(同段落【0011】)し、「回路遮断器は図1の上方向(取付板に対する鉛直方向)と側面方向の動きが規制され」(同段落【0012】)、「次にロックレバー7の指掛部702を指で取付板の方向に押圧すると、係止部703が回路遮断器の底面より突出し、取付板の嵌合部8に嵌合する。これにより母線から回路遮断器を取り外す方向の動きを規制することができ、取付板2に回路遮断器1が取付られた状態」(同段落【0013】)となり、更に「ロックレバー7の指掛部702を取付板と反対の方向に指で引き上げ、嵌合部8とロックレバー7の係止部703との嵌合を解除する。次に回路遮断器1を母線11、12と反対の方向に引き抜くように移動させることにより、爪部3、及び爪部4と凹部5及び凹部6との嵌合が外れる。この状態で回路遮断器1を取付板から持ち上げると取付板2から取り外すことができる」(同段落【0014】)という作用を奏し、
「プラグインタイプの回路遮断器を取付板と平行にスライドさせながら取り付けることが可能となり、分電盤内に電線を引き回す場合にもロックレバー7の指掛部は回路遮断器の負荷側側面からわずかしか突出していないため電線被覆を傷付ける恐れがない。また、回路遮断器の取り外しに工具を用いる必要がなく、工具を携帯しておく必要性もない取付構造を提供できる。」(同段落【0015】)という効果が得られることが記載されている。

上記の、原出願の当初明細書等の記載によれば、従来のプラグインタイプの回路遮断器において発生する、回路遮断器を配置したときに回路遮断器の底面が取付板62の突出片66と干渉し、取り外しの際には突出片66の端をドライバなどの工具を用いて押圧しながら回路遮断器を取り外す必要があり、また突出片66の先端で電線被覆を傷付けるおそれがあるという課題に対して、
回路遮断器1を取付板2と平行にスライドさせることにより、取付板2に設けられた爪部3、4と回路遮断器1の凹部5、6とが嵌合し、回路遮断器1の取付板2に対する鉛直方向の動きが規制されること、及びロックレバー7の押圧で係止部703が突出することにより、母線11、12から回路遮断器1を取り外す方向の動きが規制されることを課題を解決する手段としていると認められる。

ここで、回路遮断器1の取付板2に対する鉛直方向の動きが規制されるための構成としては、具体的には、取付板2に設けられた爪部3、4と、回路遮断器1に設けられた凹部5、6とで示されているが、上記課題との関係で、回路遮断器1を取付板2に平行にスライドさせた時に、両者の間に嵌合が形成されるものであれば足りることは、十分に理解できる。
そして、取付板2、回路遮断器1のどちらが爪部或いは凹部かということ、及び嵌合の具体的な態様は、上記の課題解決に直接関係するものではない。
よって、本件発明の前記構成要件Aは、原出願の当初明細書等との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内のものである。

b 請求人の主張について
請求人は、爪部を回路遮断器に設け、凹部を取付板に設けた態様、及び嵌合部と被嵌合部として、「爪部」と「凹部」以外の態様は、原出願の当初明細書等には記載されていない旨主張している(審判請求書27ページ15行?19行、及び口頭審理陳述要領書16ページ24行?17ページ1行。)。
しかし、爪部を回路遮断器に設け、凹部を取付板に設けた態様、或いは嵌合部と被嵌合部として、爪部と凹部以外の態様であっても、原出願の当初明細書等に記載された発明の課題が解決され、同一の効果を得られることが、当業者にとって容易に理解できる。

そうすると、たとえ原出願の当初明細書等に、爪部を回路遮断器に設け、凹部を取付板に設けた態様について、及び嵌合部と被嵌合部として、「爪部」と「凹部」以外の態様について開示がないとしても、それによって、本件発明が、原出願の当初明細書等との関係において新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は理由がない。

c 小括
以上のとおり、本件発明の前記構成要件Aは、原出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、他に分割要件違反とする理由を発見しないので、本件特許に係る出願は、原出願に対して分割要件を満たしている。

イ 本件の第一?第四世代の親出願に対する本件特許に係る出願の分割要件について
本件の第一?第四世代の親出願のそれぞれの願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第5?8号証を参照。)についても、前記「ア(ア)b」で摘記した原出願の当初明細書等に記載された事項と同じ事項が記載されているから、前記「ア(イ)」で検討したのと同様の理由により、本件特許に係る出願は,本件の第一?第四世代の親出願のいずれの出願に対しても分割要件を満たしている。

ウ 本件の第二?四世代の親出願及び原出願の分割要件について
本件の第二?第四世代の親出願及び原出願は、分割要件違反とする理由を発見しない。

(2)本件特許に係る出願の出願日
以上のとおりであるから、本件特許に係る出願は、本件の第一世代の親出願の出願の時である平成12年11月8日に出願したものとみなされる。

(3)特許法第29条第1項第3号(新規性)、及び同法第29条第2項(進歩性)について
甲第4号証の公開日は平成14年5月24日であって、本件特許に係る出願の出願日(平成12年11月8日)前に頒布された刊行物とはいえないから、甲第4号証に基づく特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項違反とする理由はないといえる。
よって、無効理由3については、理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用の負担については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条により請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-06 
結審通知日 2019-02-14 
審決日 2019-02-26 
出願番号 特願2014-115318(P2014-115318)
審決分類 P 1 113・ 03- Y (H01H)
P 1 113・ 113- Y (H01H)
P 1 113・ 121- Y (H01H)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 尾崎 和寛
小関 峰夫
登録日 2015-02-06 
登録番号 特許第5688625号(P5688625)
発明の名称 回路遮断器の取付構造  
代理人 白木 裕一  
代理人 津田 拓真  
代理人 鎌田 徹  
代理人 特許業務法人藤本パートナーズ  
代理人 松山 智恵  
代理人 濱田 慧  

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