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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1369795
審判番号 不服2018-10276  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-27 
確定日 2021-01-06 
事件の表示 特願2016-131729「糖尿病及び代謝障害を治療する組み合わせ医薬組成物及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月28日出願公開、特開2016-222684〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [第1]手続の経緯
本願は、平成23年(2011年)7月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年7月21日 ロシア、外1)を国際出願日とする特願2013-520235号の一部を、平成28年(2016年)7月1日に新たな特許出願としたものであって、平成30年(2018年)3月20日付けで拒絶査定がなされたところ、同年7月27日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされた。その後、当審により平成31年(2019年)4月4日付けで拒絶理由が通知されたところ、令和1年(2019年)6月25日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出され、さらに、当審により同年11月28日付けで拒絶理由が通知されたところ、令和2年(2020年)3月3日付けで意見書及び手続補足書が提出されたものである。


[第2]本願発明
本願の請求項1?15に係る発明は、令和1年6月25日付けで提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下、この発明を単に「本願発明」ということがある)。

「 a)ヒトインスリン受容体に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物と、b)内皮NO合成酵素に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物とを含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法であって、
0.5mg/mLから5.0mg/mLの濃度のヒトインスリン受容体に対する抗体溶液1部を、溶媒99部中に希釈し、10回以上垂直方向に振とうして、第1の100倍単位希釈物であるヒトインスリン受容体に対する抗体のC1ホメオパシー希釈物を得る工程、
前記ヒトインスリン受容体に対する抗体のC1ホメオパシー希釈物1部を、溶媒99部中に希釈し、10回以上垂直方向に振とうして、第2の100倍単位希釈物であるヒトインスリン受容体に対する抗体のC2ホメオパシー希釈物を得る工程、
上記手順を繰り返して第11の100倍単位希釈物であるヒトインスリン受容体に対する抗体のC11ホメオパシー希釈物を得る工程、
前記ヒトインスリン受容体に対する抗体のC11ホメオパシー希釈物を得る工程と同様の手順を実施してヒトインスリン受容体に対する抗体のC29、及びC199ホメオパシー希釈物を得る工程、
前記ヒトインスリン受容体に対する抗体のC11、C29、及びC199ホメオパシー希釈物の各1部を、溶媒97部と混合し、ヒトインスリン受容体に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物を得る工程、
0.5mg/mLから5.0mg/mLの濃度の内皮NO合成酵素に対する抗体溶液1部を、溶媒99部中に希釈し、10回以上垂直方向に振とうして、第1の100倍単位希釈物である内皮NO合成酵素に対する抗体のC1ホメオパシー希釈物を得る工程、
前記内皮NO合成酵素に対する抗体のC1ホメオパシー希釈物1部を、溶媒99部中に希釈し、10回以上垂直方向に振とうして、第2の100倍単位希釈物である内皮NO合成酵素に対する抗体のC2ホメオパシー希釈物を得る工程、
上記手順を繰り返して第11の100倍単位希釈物である内皮NO合成酵素に対する抗体のC11ホメオパシー希釈物を得る工程、
前記内皮NO合成酵素に対する抗体のC11ホメオパシー希釈物を得る工程と同様の手順を実施して内皮NO合成酵素に対する抗体のC29、及びC199ホメオパシー希釈物を得る工程、
前記内皮NO合成酵素に対する抗体のC11、C29、及びC199ホメオパシー希釈物の各1部を、溶媒97部と混合し、内皮NO合成酵素に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物を得る工程、及び
前記ヒトインスリン受容体に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物と、前記内皮NO合成酵素に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物を1:1の比率で混合する工程
を含む製造方法。 」

そして、ここで、本願明細書の例えば次の記載(下線は当審による):
「【0032】 ・・抗体溶液を調製するための好ましい手順は、それぞれ100倍単位ホメオパシー希釈物(C12、C30、及びC200)に相当する、抗体の一次マトリックス溶液(母液)を100^(12)倍希釈、100^(30)倍希釈及び100^(200)倍希釈した3種の水希釈物若しくは水-アルコール希釈物の混合物を使用することであるか、或いは、それぞれ100倍単位ホメオパシー希釈物(C12、C30、及びC50)に相当する、抗体の一次マトリックス溶液を100^(12)倍希釈、100^(30)倍希釈及び100^(50)倍希釈した3種の水希釈物若しくは水-アルコール希釈物の混合物を使用することである。ホメオパシーポテンタイゼーションの例は、その全体が参照により明示された目的で本明細書に組み込まれる、米国特許第7,572,441号及び同第7,582,294号に記載されている。」

「【0034】 ・・。その全体が参照により明示された目的で本明細書に組み込まれるV.Schwabe“Homeopathic medicines”M.,1967、米国特許第7,229,648号及び同第4,311,897号には、ホメオパシーの技術分野において広く受け入れられているホメオパシー増強の方法であるそのようなプロセスが記載されている。この手順により、最初の分子型抗体の分子濃度が均一に低下する。所望のホメオパシーポーテンシーが得られるまでこの手順を繰り返す。個々の抗体について、所要のホメオパシーポーテンシーは、中間希釈物を所望の薬理学的モデルにおいて生物学的試験に供することによって決定することができる。・・。各成分、すなわち、抗体溶液を調製するための好ましい手順は、それぞれ100倍単位ホメオパシー希釈物C12、C30及びC200に相当する、抗体の一次マトリックス溶液(母液)を100^(12)倍希釈、100^(30)倍希釈及び100^(200)倍希釈した3種の水希釈物若しくは水-アルコール希釈物の混合物を使用すること、又は、それぞれ100倍単位ホメオパシー希釈物C12、C30及びC50に相当する、抗体の一次マトリックス溶液(母液)を100^(12)倍希釈、100^(30)倍希釈及び100^(50)倍希釈した3種の水希釈物若しくは水-アルコール希釈物の混合物を使用することである。所望のポーテンシーをどのように得るかの例も、例えば、明示された目的で参照により組み込まれる、米国特許第7,229,648号及び同第4,311,897号において提供される。・・」
にみられるとおり、本願発明における「ホメオパシー希釈物」である「C12」、「C30」、「C200」とは、希釈率においてそれぞれ次を意味するものである。

・「C12」=「100^(12)」倍希釈物=「10^(24)」倍希釈物
・「C30」=「100^(30)」倍希釈物=「10^(60)」倍希釈物
・「C200」=「100^(200)」倍希釈物=「10^(400)」倍希釈物


[第3]当審の拒絶理由
2019年11月28日付け拒絶理由通知書(以下単に「拒絶理由通知書」ということがある)において通知された拒絶の理由(以下、単に「拒絶の理由」ということがある)は、次の1?3である。

1 この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3 この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


[第4]当審の判断

[4-1]理由1について

1.本願発明における実施可能要件について

(1)本願発明は、物を生産する方法の発明(特許法第2条第3項第3号)に該当するところ、物を生産する方法の発明について発明の詳細な説明が実施可能要件を充足するといえるためには、発明の詳細な説明がその方法によりその物を生産(製造)できるように記載されていなければならない。
そして、物を生産する方法の発明は、(i)原材料、(ii)その処理工程、及び(iii)生産物の3つで構成されるから、物(即ち前記(iii)生産物)を生産(製造)する方法の発明について、当業者がその方法によりその物を生産できるといえるためには、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を生産できるように、上記(i)原材料及び(ii)その処理工程と併せ、(iii)生産物について当業者が理解できる必要がある。

(2) 本願発明においては、上の(1)の(i)原材料、(ii)その処理工程、及び(iii)生産物のうち、
・(i)原材料に相当するのは、次の(i-1)?(i-3):
(i-1):「0.5mg/mLから5.0mg/mLの濃度のヒトインスリン受容体に対する抗体溶液」;
(i-2):「0.5mg/mLから5.0mg/mLの濃度の内皮NO合成酵素に対する抗体溶液」;
及び
(i-3):「溶媒」;
である。
・(ii)その処理工程に相当するのは、次の工程(ii-1)?(ii-3):
(ii-1):a)の混合物を得る工程;
(ii-2):b)の混合物を得る工程;
(ii-3):a)の混合物及びb)の混合物を1:1の比率で混合する工程;
即ち
(ii-1):「0.5mg/mLから5.0mg/mLの濃度のヒトインスリン受容体に対する抗体溶液1部を、溶媒99部中に希釈し、10回以上垂直方向に振とうして、第1の100倍単位希釈物であるヒトインスリン受容体に対する抗体のC1ホメオパシー希釈物を得る工程、
前記ヒトインスリン受容体に対する抗体のC1ホメオパシー希釈物1部を、溶媒99部中に希釈し、10回以上垂直方向に振とうして、第2の100倍単位希釈物であるヒトインスリン受容体に対する抗体のC2ホメオパシー希釈物を得る工程、
上記手順を繰り返して第11の100倍単位希釈物であるヒトインスリン受容体に対する抗体のC11ホメオパシー希釈物を得る工程、
前記ヒトインスリン受容体に対する抗体のC11ホメオパシー希釈物を得る工程と同様の手順を実施してヒトインスリン受容体に対する抗体のC29、及びC199ホメオパシー希釈物を得る工程、
前記ヒトインスリン受容体に対する抗体のC11、C29、及びC199ホメオパシー希釈物の各1部を、溶媒97部と混合し、ヒトインスリン受容体に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物を得る工程 」、
(ii-2):「 0.5mg/mLから5.0mg/mLの濃度の内皮NO合成酵素に対する抗体溶液1部を、溶媒99部中に希釈し、10回以上垂直方向に振とうして、第1の100倍単位希釈物である内皮NO合成酵素に対する抗体のC1ホメオパシー希釈物を得る工程、
前記内皮NO合成酵素に対する抗体のC1ホメオパシー希釈物1部を、溶媒99部中に希釈し、10回以上垂直方向に振とうして、第2の100倍単位希釈物である内皮NO合成酵素に対する抗体のC2ホメオパシー希釈物を得る工程、
上記手順を繰り返して第11の100倍単位希釈物である内皮NO合成酵素に対する抗体のC11ホメオパシー希釈物を得る工程、
前記内皮NO合成酵素に対する抗体のC11ホメオパシー希釈物を得る工程と同様の手順を実施して内皮NO合成酵素に対する抗体のC29、及びC199ホメオパシー希釈物を得る工程、
前記内皮NO合成酵素に対する抗体のC11、C29、及びC199ホメオパシー希釈物の各1部を、溶媒97部と混合し、内皮NO合成酵素に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物を得る工程 」、
及び
(ii-3):「 前記ヒトインスリン受容体に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物と、前記内皮NO合成酵素に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物を1:1の比率で混合する工程 」
である。
・(iii)生産物に相当するのは、原材料(i-1)?(i-3)に対し処理工程(ii-1)?(ii-3)を施してなる、a)及びb)の混合物を含む医薬組成物、即ち
「 a)ヒトインスリン受容体に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物と、b)内皮NO合成酵素に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の(1:1の)混合物とを含むことを特徴とする医薬組成物 」
である。

[ 以下、
・上の(i-1)?(i-3)を順に「原材料(i-1)」、「原材料(i-2)」、「原材料(i-3)」ということがあり;
・同(ii-1)?(ii-3)を順に処理工程(ii-1)」、「処理工程(ii-2)」、「処理工程(ii-3)」ということがあり;
・同(iii)を「生産物(iii)」、「医薬組成物(iii)」等ということがある。
また、
・原料(i-1)中の「ヒトインスリン受容体に対する抗体」を単に「抗IR」ということがあり;
・原料(i-2)中の「内皮NO合成酵素に対する抗体」を単に「抗eNOS」ということがあり;
・生産物(iii)である医薬組成物に含まれる「a)ヒトインスリン受容体に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物」、b)内皮NO合成酵素に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物」を順に「a)の混合物」、「b)の混合物」等ということがあり、両者の1:1の混合物を単に「a)のホメオパシー希釈物の混合物とb)のホメオパシー希釈物の混合物との混合物」、「a)の混合物及びb)の混合物の混合物」、「a)及びb)の混合物」等ということがある。]

そして、物を生産する方法の発明の実施には、その方法により生産した物(生産物)の使用が含まれる(特許法第2条第3項第3号)ところ、本願発明における生産物(iii)は「医薬」組成物、即ち、医薬用途に用いる組成物であるから、本願発明における生産物の使用とは、当該医薬組成物を患者に投与して薬理作用をもたらしめることに他ならない。

(3) 以上の(1)?(2)を踏まえると、本願発明について発明の詳細な説明が実施可能要件を充足しているといえるためには、少なくとも、原材料(i-1)?(i-3)及びその処理工程(ii-1)?(ii-3)により得られる、本願発明における生産物(iii)である医薬組成物について、患者に投与する際に必要な製剤化方法や用法・用量に加え、当該医薬組成物中に含まれるa)及びb)の混合物が確かに医薬用途に適した薬理作用を有することを、当業者が発明の詳細な説明の記載から理解できる必要がある、ということになる。

2.本願明細書及び図面の記載について
1.で述べた点を踏まえつつ、本願明細書及び図面の記載について、以下検討する。

(1)本願明細書及び図面の記載事項
本願明細書及び図面には、本願発明における原材料(i-1)?(i-3)、その処理工程(ii-1)?(ii-3)、及び生産物(iii)である医薬組成物、並びに、当該医薬組成物中のa)及びb)の各「ホメオパシー希釈物の混合物」、当該a)及びb)の混合物、及びその薬理作用等に関して、以下のような記載がある。
(下線は当審による。以下同様)

(ア)【0001】?【0013】
「 【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の分野に関し、糖尿病及び他の代謝障害の治療及び予防に使用することができる。
【背景技術】
・・・
【0005】
インスリンの作用は、形質膜でみられるヘテロ四量体受容体の活性化を介して制御される。インスリン受容体は、ジスルフィド結合によって結合されている2つの細胞外α-サブユニットと2つの膜貫通β-サブユニットとで構成される糖タンパク質である(非特許文献1)。α-サブユニットは、インスリン結合ドメインを含み、β-サブユニットの細胞内部分は、インスリン調節型チロシンタンパク質キナーゼ(ドナー(通常、ATP)からアクセプターへの高エネルギー基の転移を触媒する酵素)を含む。
【0006】
・・・。インスリンが結合すると、インスリン受容体β-サブユニットの固有のホスホトランスフェラーゼ機能が活性化されて、多数の細胞内タンパク質のチロシンをリン酸化する。インスリン受容体が活性化されると、リン酸化事象によってグルコースの貯蔵が増加し、結果として血糖値が低下する。
・・・
【0008】
一酸化窒素(NO)は、種々の生物学的プロセスのシグナル伝達において作用することが示されている気体分子である。内皮由来のNOは、血管緊張の調節において重要な分子であり、それと血管疾患との関連性は長く認識されてきた。NOは、単球接着、血小板凝集及び血管平滑筋細胞の増殖を含めた、動脈硬化巣の形成に関与することが知られている多くのプロセスを阻害する。・・・。アテローム性動脈硬化症の非常に早い段階で内皮の機能不全が生じる。したがって、局所的なNOの利用ができないことが、ヒトにおけるアテローム発生を加速する最終的な一般的な経路になり得る可能性がある。・・・。糖尿病は、主にアテローム動脈硬化性疾患の発生が加速することによって引き起こされる罹患率及び死亡率の上昇を伴う。・・・
【0009】
一酸化窒素は、内皮でL-アルギニンから一酸化窒素合成酵素(NO合成酵素)によって合成される。NO合成酵素は、構成型(cNOS)及び誘導型(iNOS)を含めた種々のアイソフォームで生じる。・・・
・・・
【発明の概要】
【0013】
1つの態様では、本発明は、糖尿病及び他の代謝障害に罹っている患者に投与するための医薬組成物であって、a)ヒトインスリン受容体に対する活性化増強型抗体と、b)内皮NO合成酵素に対する活性化増強型抗体とを含む医薬組成物を提供する。」

(イ)【0032】?【0037】
「 【0032】
「活性化増強型」又は「増強型」という用語はそれぞれ、本明細書において列挙されている抗体に関しては、任意の抗体の最初の溶液のホメオパシーポテンタイゼーション(potentization)の生成物を示すために使用される。「ホメオパシーポテンタイゼーション」とは、ホメオパシーの方法を用いて最初の関連物質の溶液にホメオパシーポーテンシーを付与することを示す。そのように限定するものではないが、「ホメオパシーポテンタイゼーション」は、例えば、連続した希釈を、外部からの処理、特に(機械的な)振盪と組み合わせて繰り返すことを伴ってよい。言い換えれば、ホメオパシーの技術に従って、抗体の最初の溶液を連続して繰り返し希釈し、得られた溶液をそれぞれ多数回、垂直方向に振盪する。溶媒、好ましくは水又は水とエチルアルコールとの混合物中の抗体の最初の溶液の好ましい濃度は、約0.5mg/mLから約5.0mg/mLまでにわたる。各成分、すなわち、抗体溶液を調製するための好ましい手順は、それぞれ100倍単位ホメオパシー希釈物(C12、C30、及びC200)に相当する、抗体の一次マトリックス溶液(母液)を100^(12)倍希釈、100^(30)倍希釈及び100^(200)倍希釈した3種の水希釈物若しくは水-アルコール希釈物の混合物を使用することであるか、或いは、それぞれ100倍単位ホメオパシー希釈物(C12、C30、及びC50)に相当する、抗体の一次マトリックス溶液を100^(12)倍希釈、100^(30)倍希釈及び100^(50)倍希釈した3種の水希釈物若しくは水-アルコール希釈物の混合物を使用することである。ホメオパシーポテンタイゼーションの例は、その全体が参照により明示された目的で本明細書に組み込まれる、米国特許第7,572,441号及び同第7,582,294号に記載されている。特許請求の範囲では「活性化増強型」という用語が使用され、実施例では「超低用量」という用語が使用される。「超低用量」という用語は、ホメオパシーにより希釈され、増強された型の物質の研究及び使用によって創出された技術分野における専門用語になった。「超低用量(ultra-low dose)」又は「超低用量(ultra-low doses)」という用語は、特許請求の範囲において使用される「活性化増強」型という用語を完全に支持し、それと主に同義であるものとする。
【0033】
言い換えれば、抗体は、3つの因子が存在すれば、「活性化増強」型である。第1に、「活性化増強」型抗体は、ホメオパシーの技術分野では広く受け入れられている調製プロセスの生成物である。第2に、「活性化増強」型抗体は、現代薬理学において広く受け入れられている方法によって決定される生物活性を有さなければならない。第3に、「活性化増強」型抗体により示される生物活性は、ホメオパシーのプロセスの最終生成物に分子型抗体が存在することによっては説明することができない。
【0034】
例えば、活性化増強型抗体は、最初の、単離された分子型抗体を、機械的な振盪等の外部からの衝撃と併せて連続して多数回希釈することによって調製することができる。濃度低下の過程における外部からの処理は、例えば、超音波、電磁気、又は他の物理的因子に曝露させることによって実現することもできる。その全体が参照により明示された目的で本明細書に組み込まれるV.Schwabe“Homeopathic medicines”M.,1967、米国特許第7,229,648号及び同第4,311,897号には、ホメオパシーの技術分野において広く受け入れられているホメオパシー増強の方法であるそのようなプロセスが記載されている。この手順により、最初の分子型抗体の分子濃度が均一に低下する。所望のホメオパシーポーテンシーが得られるまでこの手順を繰り返す。個々の抗体について、所要のホメオパシーポーテンシーは、中間希釈物を所望の薬理学的モデルにおいて生物学的試験に供することによって決定することができる。そのように限定するものではないが、「ホメオパシーポテンタイゼーション」は、例えば、外部からの処理、特に垂直方向の(機械的な)振盪と組み合わせて連続した希釈を繰り返すことを伴ってよい。言い換えれば、ホメオパシーの技術に従って、抗体の最初の溶液を連続して繰り返し希釈し、得られた溶液をそれぞれ多数回、垂直方向に振盪する。溶媒、好ましくは水又は水とエチルアルコールとの混合物中の抗体の最初の溶液の好ましい濃度は、約0.5mg/mLから約5.0mg/mLにわたる。各成分、すなわち、抗体溶液を調製するための好ましい手順は、それぞれ100倍単位ホメオパシー希釈物C12、C30及びC200に相当する、抗体の一次マトリックス溶液(母液)を100^(12)倍希釈、100^(30)倍希釈及び100^(200)倍希釈した3種の水希釈物若しくは水-アルコール希釈物の混合物を使用すること、又は、それぞれ100倍単位ホメオパシー希釈物C12、C30及びC50に相当する、抗体の一次マトリックス溶液(母液)を100^(12)倍希釈、100^(30)倍希釈及び100^(50)倍希釈した3種の水希釈物若しくは水-アルコール希釈物の混合物を使用することである。所望のポーテンシーをどのように得るかの例も、例えば、明示された目的で参照により組み込まれる、米国特許第7,229,648号及び同第4,311,897号において提供される。本明細書に記載の「活性化増強」型抗体に適用可能な手順は、下に詳しく記載されている。
【0035】
ヒト被験体のホメオパシー治療に関してはかなりの量の議論がなされてきた。本発明は、「活性化増強」型抗体を得るために、受け入れられているホメオパシーのプロセスに依拠するが、本発明は、活性を証明するためにはヒト被験体におけるホメオパシー単独に依拠するのではない。驚いたことに、本出願の発明者は、認められている薬理学的モデルにおいて、出発分子型抗体を連続して多数回希釈することから最終的に得られた溶媒が、標的希釈物中に分子型抗体の痕跡が存在することとは無関係の決定的な活性を有することを発見し、十分に実証した。本明細書で提供される「活性化増強」型抗体を、生物活性について、広く受け入れられている活性の薬理学的モデルにおいて、適切なインビトロ実験において、又は適切な動物モデルにおいてインビボで試験した。更に以下に提供される実験により、そのようなモデルにおける生物活性の証拠がもたらされた。同様に以下に本明細書で提供されるヒトの臨床研究は、特に、動物モデルにおいて観察された活性が、ヒトの療法によく翻訳されるという証拠を提供する。ヒト研究によって、医科学において病的状態として広く認められている特定のヒトの疾患又は障害を治療するための、本明細書に記載の「活性化増強」型の利用可能性の証拠ももたらされる。
【0036】
また、特許請求された「活性化増強」型抗体は、その生物活性が、最初の出発溶液から残っている分子型抗体が存在することによっては説明することができない溶液又は固体調製物のみを包含する。言い換えれば、「活性化増強」型抗体は、最初の分子型抗体の痕跡を含有してよいことが意図されているが、連続して希釈した後に残った分子型抗体は非常に低濃度であるので、当業者は、認められている薬理学的モデルにおいて観察される生物活性が、いかなる程度の妥当性でも残りの分子型抗体に起因すると考えることができない。本発明は特定の理論に限定されるものではないが、本発明の「活性化増強」型抗体の生物活性は、最初の分子型抗体には起因しない。その中に含まれる最初の分子型抗体の濃度が、認められている分析的な技法、例えば、キャピラリー電気泳動及び高速液体クロマトグラフィー等の検出限界を下回る、液体又は固体の形態の「活性化増強」型抗体が好ましい。その中に含まれる最初の分子型抗体の濃度がアボガトロ数未満である液体又は固体の形態の「活性化増強」型抗体が特に好ましい。分子型の治療用物質の薬理学において、薬理学的反応のレベルが、被験体に投与される、又はインビトロで試験される活性薬物の濃度に対してプロットされた用量反応曲線を作成することは一般的である。任意の検出可能な反応を生じる薬物の最小レベルは、閾値用量として公知である。「活性化増強」型抗体は、もしあれば、所与の生物学的モデルにおける分子型抗体の閾値用量を下回る濃度で分子抗体を含有することが具体的に意図されており、それが好ましい。
【0037】
本発明は、糖尿病及び他の代謝障害に罹っている患者に投与するための医薬組成物であって、a)ヒトインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する活性化増強型抗体又はヒトインスリン受容体に対する活性化増強型抗体と、b)内皮NO合成酵素に対する活性化増強型抗体とを含む医薬組成物を提供する。・・・本特許出願の発明者らは、驚いたことに、組み合わせの投与が、糖尿病及びインスリン抵抗性の患者の治療に有用であり、更に血糖値を低下させることを見出した。・・・」

(ウ)【0038】?【0054】
「 【0038】
本発明のこの態様に従った医薬組成物は、液体形又は固体形とすることができる。医薬組成物に含まれる活性化増強型の抗体のそれぞれは、ホメオパシー分野において受け入れられているプロセスを通して、抗体の最初の分子形態から調製する。開始抗体は、・・・、既知のプロセスに従って調製されるモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体とすることができる。
【0039】
モノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ技術を用いて得ることができる。・・・
【0040】
ポリクローナル抗体は、動物の能動免疫化を通して得ることができる。・・・。得られた、溶媒、好ましくは水又は水とエチルアルコールとの混合物中の抗体の最初の溶液の好ましい濃度は、約0.5mg/mLから約5.0mg/mLまでにわたる。
・・・
【0042】
・・・好ましい実施形態では、本発明の組み合わせを含む活性化増強型を調製するための出発材料は、動物に産生させた、対応する抗原、即ち、ヒトインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片又はヒトインスリン受容体、及び内皮NO合成酵素に対するポリクローナル抗体である。・・・。ヒトインスリン受容体の以下の配列が、適切な抗原として特に意図されている。
【0043】
ヒトインスリン受容体のα-サブユニット全体:
配列番号1
・・・
【0044】
ヒトインスリン受容体のα-サブユニットの断片:
配列番号2
・・・
配列番号7
・・・
【0045】
ヒトインスリン受容体β-サブユニット全体:
配列番号8
・・・
【0046】
ヒトインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片の断片:
配列番号9
・・・
配列番号13
・・・
【0047】
ヒトインスリン受容体の抗原としての使用も意図されている。・・・
配列番号14
・・・
【0053】
内皮NO合成酵素に対するポリクローナル抗体は、アジュバントを使用して、同様の手法によって得られる。内皮NO合成酵素に対するポリクローナル抗体を得るために、免疫源(抗原)として下記配列のウシ内皮NO合成酵素の分子全体を使用することが可能である。
配列番号15
・・・
【0054】
NO合成酵素に対するポリクローナル抗体は、以下の配列のヒトNO合成酵素の分子全体を使用して得ることができる。
配列番号16
・・・ 」

(エ)【0056】?【0058】
「【0056】
組み合わせの各成分の活性化増強型は、最初の溶液からホメオパシーポテンタイゼーションによって、好ましくは、(最初の溶液から開始する)前の溶液のそれぞれの1部を9部(10倍希釈)、又は99部(100倍希釈)、又は999部(1,000倍希釈)の中性の溶媒で段階希釈することによる比例的な濃度低下の方法を外部からの衝撃方法と併せて用いて調製することができる。外部からの衝撃は、各希釈物を多数回垂直方向に振とうすること(ダイナマイゼーション)を伴うことが好ましい。その後の、所要のポーテンシーレベル、又は希釈因子に至るまでの希釈のそれぞれには別々の容器を使用することが好ましい。この方法は、ホメオパシーの技術分野では広く受け入れられている。例えば、明示された目的で参照により本明細書に組み込まれるV.Schwabe“Homeopathic medicines”,M.,1967,p.14-29を参照されたい。
【0057】
例えば、12-100倍希釈物(C12と示される)を調製するために、例えば、3.0mg/mLの濃度のヒトインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する抗体の最初のマトリックス溶液1部を、中性の、水を含む又は水-アルコールを含む溶媒(好ましくは、15%エチルアルコール)99部中に希釈し、次いで何回も(10回以上)垂直方向に振とうして、第1の100倍単位希釈物(C1と示される)を創出する。第1の100倍希釈物C1から第2の100倍単位希釈物(C2)を調製する。この手順を11回繰り返して第12の100倍単位希釈物C12を調製する。したがって、第12の100倍単位希釈物C12は、異なる容器内で、3.0mg/mLの濃度のヒトインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する抗体の最初のマトリックス溶液1部を中性の溶媒99部中に12回段階希釈することによって得られる溶液を表し、100倍単位ホメオパシー希釈物C12に相当する。関連する希釈因子を用いて同様の手順を実施して所望の希釈物C30及びC200を得る。中間希釈物を所望の生物学的モデルにおいて試験して活性を確認することができる。本発明の組み合わせを含む両方の抗体の好ましい活性化増強型は、C12、C30及びC200希釈物の混合物である。活性な物質の種々のホメオパシー希釈物(主に100倍単位希釈物)の混合物を生物活性のある液体成分として使用する場合、組成物(例えば、C12、C30、C50、C200)の各成分は、上記の手順に従って、最後から二番目の希釈物が得られるまで(例えば、それぞれC11、C29、及びC199まで)別々に調製し、次いで各成分1部を、混合物の組成に従って1つの容器に加え、所要量(例えば、100倍希釈するためには97部)の溶媒と混合する。
【0058】
活性な物質を種々のホメオパシー希釈物、例えば、10倍希釈物及び/又は100倍希釈物(D20、C30、C100又はC12、C30、C50など)の混合物として使用することが可能であり、その効率は、希釈物を適切な生物学的モデル、例えば、本明細書の実施例に記載のモデルにおいて試験することによって実験的に決定される。」

(オ)【0060】?【0063】
「 【0060】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、液体の形態又は固体単位剤形とすることができる。医薬組成物の好ましい液体形は、好ましくはヒトインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する活性化増強型抗体及び内皮NO合成酵素に対する活性化増強型抗体の1:1の比率での混合物である。好ましい液体担体は、水又は水-エチルアルコール混合物である。
【0061】
本発明の医薬組成物の固体単位剤形は、薬学的に許容される固体担体に、主に1:1の比率で混合し、液体剤形で用いる、活性化増強型、活性成分の水溶液又は水-アルコール溶液の混合物を浸透させることによって調製することができる。あるいは、必要な希釈物のそれぞれを継続的に担体に浸透させることができる。どちらの浸透の階数も受け入れられる。
【0062】
好ましくは、固体単位剤形での医薬組成物は、ヒトインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する活性化増強型抗体及び内皮NO合成酵素に対する活性化増強型抗体の水希釈物又は水-アルコール希釈物を予め染み込ませた薬学的に許容される担体の顆粒剤から調製する。固体剤形は、錠剤、カプセル剤、ロゼンジ、及びその他を含めた製薬技術分野で公知の任意の形態であってよい。不活性な医薬成分として、医薬品の製造において使用されるグルコース、スクロース、マルトース、デンプン、イソマルトース、イソマルト及び他の単糖、オリゴ糖及び多糖、並びに上記の不活性な医薬成分と、潤滑剤、崩壊剤、結合剤及び着色料を含めた他の薬学的に許容される賦形剤、例えばイソマルト、クロスポビドン、シクラミン酸ナトリウム、サッカリンナトリウム、無水クエン酸など)との技術的混合物を使用することができる。好ましい担体は、ラクトース及びイソマルトである。医薬剤形は、標準の製薬用賦形剤、例えば、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムをさらに含んでよい。
【0063】
固体経口形態を調製するために、ラクトースの100μm?300μmの顆粒を、ヒスタミンに対する活性化増強型抗体、ヒトインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する活性化増強型抗体及び内皮NO合成酵素に対する活性化増強型抗体の水溶液又は水-アルコール溶液に、ラクトース5kg又は10kgに対して抗体溶液1kg(1:5?1:10)の比率で浸透させる。浸透を行うために、ラクトース顆粒を、煮沸ベッドプラント(例えば、Huttlin GmbHの「Huttlin Pilotlab」)中の流動煮沸ベッド中で染み込ませるための注水に曝露させ、その後、40℃未満の加熱した空気の流れによって乾燥する。活性化増強型抗体を染み込ませた乾燥顆粒(10重量部?34重量部)の推定量をミキサーに入れ、25重量部?45重量部の「染み込ませていない」純粋なラクトース(処理効率を低下させることなく科学技術的なプロセスの費用を縮小し、それを単純化及び加速するために使用する)と、0.1重量部?1重量部のステアリン酸マグネシウム、及び3重量部?10重量部の結晶セルロースと一緒に混合する。得られた錠剤集団を均一に混合し、(例えば、Korsch-XL400打錠機において)直接乾式プレスすることによって錠剤化して、150mg?500mg、好ましくは、300mgの丸剤を形成する。錠剤化した後、ヒトインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する活性化増強型抗体と内皮NO合成酵素に対する活性化増強型抗体の組み合わせの水-アルコール溶液(丸剤1粒当たり3.0mg?6.0mg)を染み込ませた丸剤300mgを得る。担体に浸透させるために使用する組み合わせの各成分は、100倍単位ホメオパシー希釈物C12、C30及びC50、又は100倍単位ホメオパシー希釈物C12、C30及びC200の混合物の形態である。」

(カ)【0068】?【0077】
「【0068】
実施例1
2つの実験的試験により、最初のマトリックス溶液を100^(12)倍、100^(30)倍、100^(200)倍に超希釈することによって得られる、抗原に対してアフィニティー精製した超低用量のインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する抗体(ULDの抗IR)、最初のマトリックス溶液を100^(12)倍、100^(30)倍、100^(200)倍に高希釈(hyper-dilution)することによって得られる、抗原に対してアフィニティー精製した超低用量の内皮NO合成酵素に対する抗体(ULDの抗eNOS)、及び超低用量のインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する抗体と超低用量の内皮NO合成酵素に対する抗体との組み合わせ(ULDの抗IR+ULDの抗eNOS)の効果を調査した。
・・・
【0070】
試験1
この試験では、雄のWistar150匹(試験開始時の体重250g?300g、3.5ヶ月齢?4ヶ月齢)を用いた。ラット10匹をインタクトとした。残りのラットには、ストレプトゾトシンを50mg/kgの用量で静脈内注射した(糖尿病の実験モデル)。ストレプトゾトシンを注射した72時間後に、血漿中グルコースレベルが12mmol/L以上のラットを選択し、それを7群に分け(それぞれラット20匹)、21日間にわたり、蒸留水(1日当たり1kg当たり5mL、1日1回、胃内)、insulin(登録商標)(1日当たり1kg当たり8ユニット、皮下)、Rosiglitazone(登録商標)(1日当たり1kg当たり8mg、1日2回、胃内)、ULDの抗IR(1日当たり1kg当たり5mLの容積中1日当たり1kg当たり2.5mL、1日1回、胃内)、ULDの抗IR+ULDの抗eNOS(1日当たり1kg当たり5mL、1日1回、胃内)、同様に、各調製物に対応するレジメンに従って(上記の通り)、Rosiglitazone(登録商標)とinsulin(登録商標)を一緒に、又はULDの抗IR+ULDの抗eNOS及びinsulin(登録商標)を与えた。インタクトなラットには、同じ体積の蒸留水を与えた。ラットへの調製物の注射の7日目、14日目及び21日目に、空腹時の血漿中グルコースレベルを、酵素的な方法(グルコースオキシダーゼ法)を用い、「グルコースFKD」キット(Russia)を利用して測定した。
【0071】
試験の14日目(調製物の投与の14日目)に、標準の方法(Du Vigneaud and Karr,1925)に従って経口耐糖能検査(OGTT)を実施した。ラットに、18時間水を与えなかった。試験の60分前に、ラットに最後の試験物質を与えた。インタクトなラットには、同じ体積の蒸留水を与えた。グルコースを、50%w/wの水グルコース溶液(ラットの体重1kg当たり1g)で経口投与した。0分、30分、60分、90分、120分の時点で、尾静脈由来の血液試料の血清中グルコースを、「Glucose FKD」キット(ООО 「Pharamaceutical and clinical diagnostics、Russia、www.fkd.ru)を用いることによって測定した。ある期間にわたって血糖の平均曲線下面積(AUC)濃度を算出した。
【0072】
ストレプトゾトシンを注射することにより、ラットの血漿中グルコースが、インタクトな動物と比較して相当増加した(18mmol/L対3.5mmol/L、p<0.05)。ULDの抗IR群では、調製物の注射の7日目、14日目及び21日目に、グルコースレベルは、対照群におけるレベルよりも、平均で22%?28%低かったが、差異は統計的に有意なレベルには達しなかった。ULDの抗IRと抗eNOSの組み合わせはより効果的であった;実験の14日目及び21日目におけるグルコースレベルの低下は、それぞれ47%及び42%であった(対照に対してp<0.05)。参照調製物であるRosiglitazoneによっても、実験の14日目及び21日目までにグルコースレベルが低減した;さらに、この効果は、実験の14日目においてのみ統計的有意性に達した(36%、対照に対してp<0.05)。
【0073】
インスリンを有効用量(予備試験において選択された)の2分の1で注射すると、全ての観察期間においてグルコースレベルが最も有効に低減した(インタクトな対照のレベルに至るまで)(図1)。この試験では短時間作用性のインスリンを使用し、それを注射した1時間後に血漿中グルコースを測定し、それも2分の1インスリン用量の血糖値に対する効果に影響を及ぼしたことを考慮するべきである。このバックグラウンドに対して、インスリンとロシグリタゾン又はインスリンとULDの抗IR+抗eNOSの複合物を組み合わせて使用することの効果がいかなるものかを完全に決定することは不可能である。
【0074】
耐糖能障害(体によるグルコース利用の低下)は、糖尿病の診断及び治療の最も重要な指標の1つである。経口耐糖能検査(調製物の注射の14日目)において、インタクトな動物では、複合調製物であるULDの抗IR+ULDの抗eNOS及びインスリンにより、単独で投与した場合の耐糖能を最も有効に増大した。ロシグリタゾンでも同様に、濃度時間曲線下面積が減少した(耐糖能が増大した)が、その有効性は、対照群に対して統計的に有意ではなかった(図2)。
【0075】
試験2
この試験では、雄のGoto-Kakizakiラット36匹(試験開始時の体重250g?280g、10週齢?12週齢)を用いた。この系統のラットは、インスリン非依存性糖尿病の自然発症を特徴とする。動物を3群に分け(それぞれラット12匹)、蒸留水(5mL/kg、1日1回、胃内)、又はULDの抗IR(2.5mL/kg、1日1回、胃内)、又はULDの抗IR+ULDの抗eNOS(5mL/kg、1日1回、胃内)のいずれかを28日間にわたって与えた。調製物を最初に注射する前、及び調製物の注射の4日目、8日目、12日目、16日目、20日目、24日目、28日目に、グルコース分析器(Beckman、Fullerton、California、USA)を利用して血漿中グルコースレベルを測定した。28日目に、耐糖能検査を行った(グルコース、経口投与、1g/kg)。
【0076】
ULDの抗IRを注射することにより、ラットの血漿中グルコースレベルが有意に降下した(p<0.05)が、ULDの抗IR+ULDの抗eNOSの複合物を使用することがより効果的であった(対照に対してp<0.001)(図3)。
【0077】
結果を、調製物の注射の28日目に行った耐糖能検査のデータによって確認した(図4)。ULDの抗IRを注射することにより、耐糖能が増大した(対照に対するAUCの統計的に有意でない44%の降下)。同時に、ULDの抗IR+ULDの抗eNOSの複合物を注射することによって引き起こされるこのパラメータ(AUC)の低下は、62%であり、これは対照に対して統計的に有意であった(p<0.05)。」

(キ)【0078】?【0086】
「【0078】
実施例2
各々イソマルトに浸透させたホメオパシー希釈物C12、C30、及びC200の水-アルコール混合物の形態である超低用量のインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する抗体(ULDの抗IR)と超低用量の内皮NO合成酵素に対する抗体(ULDの抗eNOS)との組み合わせの臨床試験をヒトにおいて実施した。
【0079】
1型糖尿病(DM)患者におけるULDの抗IR+ULDの抗eNOSの有効性及び安全性に関する非盲検非比較試験には、重篤な大血管及び微小血管の病理学的徴候を示していない低?中程度の重篤度の1型DMであると診断された患者を組み入れた。臨床試験への参加について告知に基づく患者の自発的同意を得た後、患者が組み入れ/除外基準を満たしているかどうかを確かめる目的で、最初の調査を実施した。試験開始前に2週間の「休薬期間」を設け、その間に患者の検査を実施した(愁訴、空腹時血糖、糖化ヘモグロビン、1日血糖プロファイル、及びリポタンパク質像、並びに現在の治療の有効性及び安全性について評価した)。12週間の試験において、重要なエンドポイントは「休薬期間」の週に測定し、次いで、治療の6週目及び12週目に測定した。4人の患者において、「休薬期間」中及び試験の最後に、CGMSシステムを用いて血糖値を連続的にモニタリングした。連続グルコースモニタリングシステム(CGMS)により、3日間に亘ってグルコースレベルを制御することが可能になる。試験結果は、インスリン療法及び生活習慣に依存して、3日間に亘ってグルコースレベルがどのように変化するかを示す。このデータは、食事、薬の服用、又は身体的負荷に依存して、高血糖又は低血糖の期間を識別するのに役立つ。システムは、グラフ形式で、最低血糖値が2.2mmol/L、最高血糖値が22.2mmol/Lであることに加えて、平均1日血糖値を示す。
【0080】
代償不全段階の低?中程度の重篤度の1型DM患者に対して、組み入れ前及び試験中に標準的なインスリン療法を行った:
1. 平均用量12U/日?26U/日の長時間作用型インスリン(Protaphane(登録商標)、Lantus(登録商標))
2. 以下の平均用量の短時間作用型インスリン(Apidra(登録商標)、Novorapid(登録商標)、Aktropid(登録商標))
・朝食時 8U/日?10U/日
・昼食時 8U/日?12U/日
・夕食時 8U/日?13U/日
【0081】
患者が参加可能であることを確認した後、患者を試験に組み入れ、1型DMの標準的な療法に対する付加療法として、ULDの抗IR+ULDの抗eNOS調製物を投与した。投与レジメンは、1型DMの重篤度及び代償の程度に依存していた。試験に組み入れられた患者に、異なる投与量でULDの抗IR+ULDの抗eNOS調製物による治療を行った:
1. 4人の患者-午前8時、午後12時、午後6時、午後10時の1日間に4回、1錠
2. 2人の患者-午前8時、午後6時の1日間に2回、1錠
【0082】
3週間目及び8週間目に、1日血糖プロファイルを制御し(8点測定)、患者に電話で連絡した(電話「来診」)。毎週、臨床的評価を実施した。合計で、患者を14週間観察した。
【0083】
6人の患者を試験に組み入れ、そのうちの5人が試験プロトコールに従って試験を完了した。ベースライン時、並びに治療の3週間、6週間、及び12週間後に8点1日グルコースプロファイルによって血糖を評価した。ベースライン時及び治療の12週間後に、糖化ヘモグロビンのレベルを測定した。
【0084】
試験に組み入れられた1型DM患者は全て、試験薬によって6週間治療した後の1日血糖が低下する傾向があることが見出された。8点1日グルコースプロファイルによれば、1型DM患者において平均20%の血糖降下が記録された。治療の12週間後、糖化ヘモグロビンは、ベースライン値に比べて平均10%?15%低下した。
【0085】
全ての患者におけるCGMSシステムを用いた連続グルコースモニタリングの結果によれば、ULDの抗IR+ULDの抗eNOSにより3ヶ月間治療を行うと、平均1日血糖が低下し、最低血糖と最高血糖との差がベースラインの15%?20%減少した。
【0086】
代償不全段階の1型DM患者103番では、予想外に、48%という1日血糖の著しい低下が観察された(1週目-8.0mmol/L、12週目-4.8mmol/L)、これにより、インスリン療法の修正が必要になった(短時間作用型インスリンの日用量を8U/日に減少させた)。平均血糖値及び糖化ヘモグロビンの動態を図5に示す。」

(ク)【0088】?【0093】
「【0088】
実施例3
各々イソマルトに浸透させたホメオパシー希釈物C12、C30、及びC200の水-アルコール混合物の形態である超低用量のインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する抗体(ULDの抗IR)と超低用量の内皮NO合成酵素に対する抗体(ULDの抗eNOS)との組み合わせの臨床試験をヒトにおいて実施した。
【0089】
2型糖尿病(DM)患者におけるULDの抗IR+ULDの抗eNOSの有効性及び安全性に関する非盲検非比較試験には、平均的な治療用量のMetforminが投与されている、重篤な大血管及び微小血管の病理学的徴候を示していない低?中程度の重篤度の2型DMであると診断された患者が組み入れられた。臨床試験への参加について告知に基づく患者の自発的同意を得た後、患者が組み入れ/除外基準を満たしているかどうかを確かめる目的で、最初の調査を実施した。試験に参加できることを確認した際、2型DMの標準的な療法に加えて、1日間に4回Subbettaを1錠患者に投与した。試験開始前に2週間の「休薬期間」を設け、その間に患者の検査を実施した(愁訴、空腹時血糖、糖化ヘモグロビン、1日血糖プロファイル、及びリポタンパク質像、インスリン抵抗指数の指標(HOMA-IR)、並びに現在の治療の有効性及び安全性について評価した)。12週間の試験において、重要なエンドポイントは「休薬期間」の週に測定し、次いで、治療の6週間目及び12週間目に測定した。4人の患者において、「休薬期間」中及び試験の最後に、CGMSシステムを用いて血糖値を連続的にモニタリングした。3週目及び8週目に、8点血糖プロファイルを更に制御し、電話「来診」を実施した。毎週、臨床的状態を確認した。合計で、患者を14週間観察した。
【0090】
代償不全段階の2型DM患者11人を試験に組み入れた。1人の患者は、試験中に自発的に脱落した。残りの患者は、治療を続けた。2型DM患者では、8点1日プロファイルデータによれば、6週目までに血糖が平均20%低下すると記録された。12週目には、糖化ヘモグロビンがベースライン値の平均15%?19%低下したと記録されていた。
【0091】
12週間の過程において、全ての患者で、血液検査のパラメータ(赤血球、ヘモグロビン、白血球、血小板、白血球の割合、ESR)、リポタンパク質像、EKG、肝機能アッセイ(ALT、AST、ビリルビン、及びその割合)は、正常範囲内に留まっていた。HOMA-IR試験によって測定したインスリン抵抗性は、平均して、ベースライン値の17%?19%低下した。
【0092】
12週間の試験過程において、重篤な有害事象を含む有害事象は記録されなかった。これによって、調製物の安全性が証明された。肝機能活性における異常もないことが明らかになった。
【0093】
平均血糖値及び糖化ヘモグロビンの動態を図6に示す。」

(ケ)【0094】
「【0094】
実施例4
II型糖尿病であると診断された患者X(男性、74歳)に、1日間に2回5mgの用量のManinil(グリベンクラミド、Berlin-Chemie)を投与した。治療を行ったにも関わらず、3年前に踵骨における深在壊死性足部潰瘍が生じた。この患者は、外科病棟に2回入院したが、治療によって著しい改善は得られなかった。水-エタノールホメオパシー希釈物C12、C30、C200の混合物としてイソマルトに浸透させた(超低用量の)インスリン受容体β-サブユニットのC末端に対する抗体(Ab RI)及び内皮NO合成酵素に対する抗体(Ab NOS)の活性化増強型(Ab RI+Ab NOS)を含む請求する医薬組成物(250mgの錠剤)をManinil療法に付加した。1ヶ月間治療した結果、Maninil(登録商標)の用量を1日間に5mg(就寝前に1錠)に減らすことができた。血糖値は、正常値まで低下した(8mmol/L?10mmol/Lから5mmol/L?6mmol/Lに)。所与の療法により、足部潰瘍の発現が以前の状態に戻った。壊死性の塊の潰瘍がきれいになり、表皮化していた。潰瘍のあった箇所を検査したところ、踵骨に皮膚の剥がれた丸い白色の領域(直径3.5cm)が存在していた。」

(コ)【0029】
「【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ストレプトゾトシン誘導糖尿病のラットの血漿中グルコースレベルに対する被試験調製物の効果を例示する図である。
【図2】ストレプトゾトシン誘導糖尿病のラットにおける耐糖能検査における濃度曲線下面積(AUC)の指標に対する、注射の14日目の被試験調製物の効果を例示する図である。
【図3】自然発症性インスリン非依存性糖尿病のラットの血漿中グルコースレベルに対する被試験調製物の効果を例示する図である。
【図4】自然発症性インスリン非依存性糖尿病のラットにおける耐糖能検査における濃度曲線下面積(AUC)の指標に対する、注射の28日目の被試験調製物の効果を例示する図である。
【図5】IR Ab+NOS Ab調製物を摂取したバックグラウンドに対する、1型糖尿病患者におけるグルコース及び糖化ヘモグロビンレベルの動態を例示する図である。
【図6】IR Ab+NOS Ab調製物を摂取したバックグラウンドに対する、2型糖尿病患者におけるグルコース及び糖化ヘモグロビンレベルの動態を例示する図である。」

(サ)図1




(シ)図2




(ス)図3




(セ)図4




(ソ)図5




(タ)図6




(2)検討・判断

(2-1)請求項1の記載から把握される本願発明における医薬組成物中の薬効成分について
1.でも述べたとおり、本願発明に係る生産物(iii)(製造対象物(製造目的物))である医薬組成物に含まれるa)及びb)の混合物は、少なくとも「医薬」用途に使用し得る薬理作用(本願明細書では、例えば【0001】の「糖尿病及び他の代謝障害の治療及び予防」作用((1)摘記(ア))がこれに相当するものと解される。以下、「糖尿病及び他の代謝障害の治療及び予防」作用を単に「抗糖尿病作用」等ということがある)を有する薬効成分を含む点において、本来そのような薬理作用を有さない単なる溶媒(原材料(i-3))それ自体とは異なる物として区別される物である。
そして、本願発明では、そのような薬効成分の実体として、原材料(i-1)?(i-3)に対し(ii-1)?(ii-3)の処理工程を施すことにより得られる、a)及びb)の混合物が規定されているものである。

しかしながら、請求項1中では、そのような薬効成分の実体を構成する、a)のホメオパシー希釈物の混合物、b)のホメオパシー希釈物の混合物、及び当該a)及びb)の混合物について、その構造(又は組成)や物性(薬理作用以外。以下同様)が明確に特定して規定されておらず、当該a)及びb)の混合物は、原材料(i-1)?(i-3)に対し(ii-1)?(ii-3)の処理工程を施すことにより得られるものであることが規定されているのみである。
そして、実際に、a)、b)の各「混合物」の製造に際し、各々「0.5mg/mLから5.0mg/mL」程度の濃度の抗体(例えばIgG形態の物の場合、分子量は146,000?165,000(今堀・山川監修「生化学辞典」第4版(2007年12月10日第1刷)(株)東京化学同人 2頁右欄「IgG」の項)の溶液である(i-1)、(i-2)の各原材料に対し、(ii-1)、(ii-2)にそれぞれ規定される、アボガドロ定数(約6.02×10^(23))のオーダーを超える多数回の溶媒(i-3)を用いた希釈の繰り返し(C12=10^(24)、C30=10^(60)、C200=10^(400))を含む工程を施せば、最終的に得られるa)、b)の各「ホメオパシー希釈物の混合物」の中には、少なくも元の各原材料((i-1)の抗IR溶液、及び、(i-2)の抗eNOS溶液)中の各抗体分子(抗IR、抗eNOS)は、1分子も含まれていない(はずである)ことから、当該各a)及びb)の混合物は、少なくともその化学成分組成上、単なる溶媒自体と一見区別し得ず、当該溶媒以外の何らかの薬理作用を有する成分が有意に含まれているとは合理的に推認できない、というのが、当業者において把握される事項である。

そうすると、本願発明の生産物(iii)である医薬組成物中の薬効成分の実体である、a)及びb)の各ホメオパシー希釈物の混合物、及び当該a)及びb)の各混合物の1:1の混合物の各構造(又は組成)や物性は、請求項1に規定される原材料(i-1)?(i-3)及びその処理工程(ii-1)?(ii-3)に係る規定のみを以ては、当業者が明確に把握できるものとはいえない。
また、そうであれば、上記a)及びb)の混合物が、医薬用途に適した薬理作用(抗糖尿病作用)を有する物として医薬組成物(iii)中に確かに含まれていることが、請求項1の規定から合理的に把握できるともいえない。

(2-2)本願明細書・図面の記載事項について

1)摘記(ア)?(オ)について
(2-1)の医薬組成物(iii)、並びにその薬効成分の実体とみられるa)及びb)の混合物に関し、当該混合物中のa)、b)の各「ホメオパシー希釈物」(又は「活性化増強型(抗体)」については、本願明細書中でも概要次の1-1)?1-2)の事項:
・1-1) 原材料(i-1)及び(i-2)に含まれる抗IR及び抗eNOSは、それらの抗原であるIR(ヒトインスリン受容体)及びeNOS(内皮NO合成酵素)の各生理作用からみて、抗糖尿病作用とはむしろ逆の(抗糖尿病作用を妨げる)薬理作用を有する物と推測されるところ、それらの抗体を含む原材料(i-1)及び(i-2)に対し、「ホメオパシー」の技術分野における「ホメオパシーポテンタイゼーション」(【0032】。又は「ホメオパシーの増強」(【0034】))を施せば、得られるa)及びb)の混合物は所望の「ホメオパシーポーテンシー」即ち所望の薬理作用(抗糖尿病作用)を有するものとなること(摘記(ア));
・1-2) 上記「ホメオパシーポテンタイゼーション」により「ホメオパシーポーテンシー」を生ぜしめる処理工程については、本願発明の処理工程(ii-1)?(ii-3)がこれに対応するところ、ホメオパシーの技術分野において以前から広く受け入れられていること(摘記(ア)、(イ)、(エ));
が述べられている一方、当該a)及びb)の混合物の構造(又は組成)や物性については、
「・・・「活性化増強」型抗体により示される生物活性は、ホメオパシーのプロセスの最終生成物に分子型抗体が存在することによっては説明することができない。」(摘記(イ)【0033】)
等とされているだけで、当業者が明確かつ合理的に理解し得る説明は一切なされていない。

また、そもそも、(1)の摘記(ア)?(オ)を含む、実施例より前段の本願明細書の記載全体をみても、本願発明の原材料(i-1)?(i-3)とその処理工程(ii-1)?(ii-3)(多数回の希釈、振とう及び混合の繰り返し)との組合せによるだけで得られるa)及びb)の1:1の混合物が、如何にして上記所望の薬理作用(抗糖尿病作用)を具備する物となるのか、について、本願明細書又は図面中で論証可能な具体的かつ合理的な説明は一切なされていない。
ましてや、例えば、原材料(i-1)?(i-2)及び/又は処理工程(ii-1)?(ii-3)における次の1-3)や1-4)の条件:
・1-3) 原材料のうち抗体溶液(i-1)、(i-2)中の各抗体の種類(例えば、(i-1)中の抗体(抗IR)成分について、一口に抗IRといっても、モノクローナル抗体であるかポリクローナル抗体であるか;抗原であるIRの種類(摘記(ウ))や当該IR上の結合部位;可変領域のアミノ酸配列やそれに応じた抗原IRへの結合強度;等といった性質は、当該抗体(抗IR)の種類によって様々に異なる。(i-2)中の抗eNOSについても同様)やそれらの濃度、及び/又は、溶媒(i-3)の種類(例えば、水であるのか、水+アルコールの混合溶媒であるのか)(摘記(オ)等)や(例えば水と共にアルコールを含む場合は当該アルコールの)濃度;
・1-4) その処理工程のうち(ii-1)及び(ii-2)における各「10回以上垂直方向に振とう」する工程の具体的な「振とう」回数や「振とう」速度/強度;
等の違いに応じて、得られるa)の「ホメオパシー希釈物の混合物」、b)の「ホメオパシー希釈物の混合物」、及び/又は両者の混合物における、所望の薬理作用(抗糖尿病作用)の質/程度がどのように変化するのか(若しくは、変化しないのか)、といった点について、上で摘記した箇所及びその他の明細書・図面のどこを併せ考慮しても、当業者が明確かつ合理的に把握し得る説明は、一切見出せない。

さらに、当該a)及びb)の各「ホメオパシー希釈物の混合物」の混合物が所望の薬理作用を確かに有することの、当業者による検証及び追試/再現方法に関しては、その薬理作用に相当するものと解される「ポーテンシー」或いは「効率」について、本願明細書中に
「所要のホメオパシーポーテンシーは、中間希釈物を所望の薬理学的モデルにおいて生物学的試験に供することによって決定することができる。」(摘記(イ)【0034】)
「 活性な物質を種々のホメオパシー希釈物・・・の混合物として使用することが可能であり、その効率は、希釈物を適切な生物学的モデル、例えば、本明細書の実施例に記載のモデルにおいて試験することによって実験的に決定される。」(摘記(エ)【0058】)
等とされているように、本願発明におけるa)及びb)の混合物の薬理作用は、動物モデル等を用いた実際の試験により、その有無及び(有る場合は、その)質/程度について実験的に決定されることで、初めて明らかにされるものであるとされているだけである。
そして、(2-1)でも述べたとおり、本願発明の原材料(i-1)?(i-3)に対し(ii-1)?(ii-3)の処理工程を施すことで得られるa)及びb)の混合物を構成する、a)、b)の各「ホメオパシー希釈物の混合物」の中には、当該a)及びb)の各原材料中の抗体分子(抗IR、抗eNOS)、若しくはそれ以外の、単なる溶媒((i-3))自体の成分とは異なる何らかの化学成分は、一切有意に含まれていない(はずである)と理解されることから、そのようなa)及びb)の混合物の中で、(単なる溶媒それ自体にはない)所望の薬理作用を有する物として、上の摘記(イ)【0034】や(エ)【0058】にいう生物学的試験により実験的に「決定」され得る物が確かに存在する(又は存在し得る)、とは、当業者といえども合理的に認識又は推測することはできない。

2)摘記(カ)?(タ)(実施例)について
また、本願明細書の実施例の項(摘記(カ)?(タ))によれば、本願発明の製造方法により製造されたとされる、a)に相当する「ULDの抗IR」とb)に相当する「ULDの抗eNOS」との組合せ混合物である「ULDの抗IR+ULDの抗eNOS」溶液を糖尿病モデル動物に投与すると、蒸留水を投与した場合に比して有意な血漿中グルコースレベルの低下や耐糖能の向上効果がみられ(実施例1の試験1及び2、図1?4)、また、「ULDの抗IR+ULDの抗eNOS」溶液を含浸させてなる錠剤をI型又はII型の糖尿病(DM)患者に投与すると平均血糖値及び糖化ヘモグロビン値が低下し(実施例2?3、図5?6)、また特定のII型糖尿病患者の壊死性潰瘍症状が改善された(実施例4)、とされている。

しかしながら、それら各実施例においては、本願発明の生産物(iii)である医薬組成物として採用されている、a)及びb)の各「ホメオパシー希釈物の混合物」の混合物、即ち「ULDの抗IR+ULDの抗eNOS」溶液、又はそれを含浸させてなる錠剤の製造条件及び適用条件について、
・2-1)実施例1(摘記(カ))では、
「最初のマトリックス溶液を100^(12)倍、100^(30)倍、100^(200)倍に超希釈することによって得られる、抗原に対してアフィニティー精製した超低用量のインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する抗体(ULDの抗IR)、最初のマトリックス溶液を100^(12)倍、100^(30)倍、100^(200)倍に高希釈(hyper-dilution)することによって得られる、抗原に対してアフィニティー精製した超低用量の内皮NO合成酵素に対する抗体(ULDの抗eNOS)、及び超低用量のインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する抗体と超低用量の内皮NO合成酵素に対する抗体との組み合わせ(ULDの抗IR+ULDの抗eNOS)」 (摘記(カ)【0068】)

「試験1 ・・・21日間にわたり・・・ULDの抗IR+ULDの抗eNOS(1日当たり1kg当たり5mL、1日1回、胃内)、同様に、・・・又はULDの抗IR+ULDの抗eNOS及びinsulin(登録商標)・・・」(摘記(カ)【0070】)
の条件下でストレプトゾシン処理した雄Wistarラット(I型糖尿病モデル)に対し適用したこと; 及び
「試験2 ・・・ULDの抗IR+ULDの抗eNOS(5mL/kg、1日1回、胃内)・・・を28日間にわたって」(摘記(カ)【0075】)
雄Goto-Kakizakiラットに対し適用したこと;
・2-2)実施例2(摘記(キ))では、
「各々イソマルトに浸透させたホメオパシー希釈物C12、C30、及びC200の水-アルコール混合物の形態である超低用量のインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する抗体(ULDの抗IR)と超低用量の内皮NO合成酵素に対する抗体(ULDの抗eNOS)との組み合わせ」(摘記(キ)【0078】)
を含む
「ULDの抗IR+ULDの抗eNOS調製物」
を、I型糖尿病患者に対し
「 1.4人の患者-午前8時、午後12時、午後6時、午後10時の1日間に4回、1錠
2.2人の患者-午前8時、午後6時の1日間に2回、1錠 」(摘記(キ)【0081】)
適用したこと;
・2-3)実施例3(摘記(ク))では、
「 各々イソマルトに浸透させたホメオパシー希釈物C12、C30、及びC200の水-アルコール混合物の形態である超低用量のインスリン受容体β-サブユニットのC末端断片に対する抗体(ULDの抗IR)と超低用量の内皮NO合成酵素に対する抗体(ULDの抗eNOS)との組み合わせ」(摘記(ク)【0088】)
に相当するものと解される「Subetta」なる名称の錠剤を
「1日間に4回・・・1錠」(摘記(ク)【0089】)
の条件下で標準的療法に加えて2型DM患者に適用したこと;
・2-4)実施例4(摘記(ケ))では、
「水-エタノールホメオパシー希釈物C12、C30、C200の混合物としてイソマルトに浸透させた(超低用量の)インスリン受容体β-サブユニットのC末端に対する抗体(Ab RI)及び内皮NO合成酵素に対する抗体(Ab NOS)の活性化増強型(Ab RI+Ab NOS)を含む請求する医薬組成物(250mgの錠剤)」
を「II型糖尿病であると診断され」「1日間に2回5mgの用量のManinil(グリベンクラミド、Berlin-Chemie)を投与」されていた「患者X(男性、74歳)」に付加して適用したこと;
がそれぞれ記載されているのみある。

即ち、これらの実施例に記載されている「ULDの抗IR+ULDの抗eNOS」溶液及び同溶液を含浸させてなる錠剤(実施例3の「Subetta」を含む)については、
・原材料溶液(i-1)、(i-2)における各抗体(抗IR、抗eNOS)の種類(取得手段)やその濃度、溶媒の種類やその濃度等について、何ら具体的に記載されておらず; また、錠剤においては「ULDの抗IR+ULDの抗eNOS」含有溶液を「イソマルト」に対し如何なる割合で含浸せしめてなるものであるのか、についても明確に示されておらず; また、
・同実施例中の「ULDの抗IR+ULDの抗eNOS」溶液又はそれを含浸させてなる錠剤(「Subetta」を含む)については、ごく限られた用法・用量を以て使用した例が示されているに過ぎず、それら「ULDの抗IR+ULDの抗eNOS」溶液又はその錠剤中に含まれる(はずの)薬効成分の実体が、如何なる用量範囲下で当該用量に相関して所望の薬理作用(抗糖尿病作用)をもたらし得る物であるのか、についても、明確に把握することができない;
といったことから、当該「ULDの抗IR+ULDの抗eNOS」溶液又はその錠剤(「Subetta」を含む)についてさえ、それらの製造・製剤化条件やその用法・用量条件が当業者にとり検証し追試/再現することができる程度に正確な(確かな)ものである、ということが、本願明細書又は図面中で十分明らかにされているということはできない。
また、仮に、実施例記載の技術事項が全て正確なものであったとしても、そのような「ULDの抗IR+ULDの抗eNOS」含有溶液又はそれを含浸させてなる錠剤(「Subetta」を含む)の取得経緯、及びそれらを用いて得られたとされる各試験結果について、当業者が客観的に検証しかつ追試/再現し得る程度の明確かつ十分な情報が開示されているとはいえない本願明細書・図面の記載からでは、当該実施例で採用されている「ULDの抗IR+ULDの抗eNOS」含有溶液又はそれを含浸させてなる錠剤(「Subetta」を含む)のような薬理作用を有するa)及びb)の混合物溶液又はそれを含浸させてなる錠剤を製造し、かつ、それら溶液又は錠剤を投与して上記実施例において記載されているのと同等の試験結果を現実に得ることが、当業者にとり許容し得る程度を超える試行錯誤等を要することなく確かに行い得る、とはいえない。

3.本願出願時の当業者における理解・認識について

(1)刊行物A?C、Eの記載事項
拒絶理由通知書で引用された刊行物中の以下の刊行物A?C,E:
A.東方医学,(2007) 23(2) P.21-33
B.ロシア国特許出願公開第2197266号明細書(RU,2197266,C1)
C.特表2013-532181号公報
E.LANCET, (2005) 366 P.726-732
は、いずれも、本願発明の原材料、その処理工程及び生産物に関するものではないが、本願発明の処理工程(ii-1)?(ii-3)において採用され、また本願明細書の例えば摘記(イ)【0034】や(エ)【0056】中で本願出願前から「広く受け入れられている」とされている、「ホメオパシー」の技術を用いた「ホメオパシー希釈物」及びその医薬用途等について記載されたものである。
各刊行物には、以下の事項が記載されている。(下線は当審による)

(1-1)刊行物A
刊行物Aは、「教育講演 東方医学としてのホメオパシーの可能性」と題された、著者・中村裕恵(「ライフアートクリニック院長」)(21頁脚注)による講演の内容を文書にまとめたものとみられるものであって、その全体の内容からみて、当該著者は少なくとも「ホメオパシー」及びそれに関する技術について紹介し得る程度の知識及び使用経験を有する者として上記講演を行ったものと推認される。
そして、刊行物Aには、ホメオパシーの技術、及び「ホメオパシーの薬」として処方される「レメディ」(21頁左欄下から7?6行)等について、次のような記載がみられる。

・A1(24頁右欄「スライド9」枠内
「 ホメオパシーの‘気’
「バイタルフォース」
生物に存在する
生命と健康を維持している
エネルギー 」

・A2(25頁左欄「スライド11」枠内
「 ホメオパシーでは・・・
>病気で表れる症状は、バイタル・フォースが
働いて、体がバランスを取り戻し、治癒しよう
としている過程だと考える
>従って、アロパシーのように逆の作用の薬を投与
するのではなく、レメディによって刺激を与える
ことでバイタル・フォースを活性化させる 」

・A3(26頁左欄下から12行?右欄下から5行)
「 そこで,レメディというのは必ずポテンタイゼーションという過程を経ます。原材料からエネルギーを引き出し,物質の形を取り除いて,そのエネルギーをダイナミックな過程にしていく工程のことをポテンタイゼーションという言い方をしております。
ホメオパシーのレメディは非常に希釈されて,原材料の分子を1個も含まない状態でも効力を持ちます。私がちょうど勉強し始めた当時,セルフケアの範疇で沢山の講義をさせていただいた時代があったのですが,そこに学者さんに多く来ていただいて,どうして分子が1個も含まない状態なのに効力があるんだと質問されまして,当時,私はまだ臨床経験も少なかったですし,ホメオパシーも半信半疑の時代だったので,一緒に疑問に思っていたのが印象に残っています。また,希釈率の高いレメディほど効力が高まると教本の中に記されていますが,この辺は,だからといって高いポテンシーのものをどんどん使っていけばいいというふうには個人的には思っておりません。臨床の患者さんの病理のグレードによってもポテンシー,反復回数を決めていかないといけませんので,その辺が皆さん御本などを読まれていても,レメディはある程度見つかるんだけれども,ポテンシーとその処方の仕方がわからないということをよく口にされて,やはり私たちも,経験と,患者さんのバイタルフォースの活力の程度を見極めて,処方回数を決めていますので,その辺が本では伝わり切らないところで,これからも東方医学会でいろいろ皆さんに伝えていきたいとは思っています。とにかく,ポテンタイゼーションという過程の中に秘密があるというふうに言われています。」

・A4(27頁左欄「スライド16」 枠内(写真除く))
「 ポテンタイゼーション potentization
>ハーネマンは副作用を軽く
するために希釈を行った
>さらに、振とうすることで
効力が強まることが分か
った
>なぜこの過程でレメディの
効力が高まるのか判明し
ていない

[※当審注:以下は写真下の説明文]
伝統的な製法では振とう時に
聖書の上に叩き付ける
エインズワース社(イギリス) 」

・A5(27頁右欄14?22行)
「・・・振とうの作業で効力が高まるのではないかというふうに考えたのが,一番の定説になっていますが,・・・,この過程でレメディの効力が高まるかというのは,今,量子力学が発展してきていますので,恐らくその領域から謎の解明がわかってくると思うのですが,・・・」

(1-2)刊行物B
刊行物Bは、2003年1月27日を公開日とする、Ehpshtejn Oleg II'ich(2頁「Applicant」の項。本願の請求人(本願出願人)と同一名と認められる)を出願人とするロシア国特許出願の公開公報であって、次の事項が記載されている。
(原文は2頁は英語、それ以外はロシア語で記載されているので、当審で作成した日本語訳文にて記す。)

・B1(2頁(54)項)
「 胃腸管のびらん性及び炎症性疾患のための薬剤及び治療方法 」

・B2(2頁(57)項左欄1?12行)
「 要約
分野:医薬、胃腸科、ホメオパシー、薬学。 要旨:発明は、抗体に基づき、ヒスタミン対するモノクローナル、ポリクローナル又は天然の抗体の活性化形態を含み、少量又は極少量の用量で採用され、そして主として・・・ホメオパシー希釈物の混合物を用いたホメオパシー技術による多数回の連続希釈及び外部効果により調製された薬剤に関する。・・・」

・B3(3頁右欄34?43行)
「 ヒスタミンに対して分離抽出された抗体は、連続して複数回にわたって増殖されるのであるが、そのとき、同時に、微量、又は極微量のドーズ(最初の物質の分子がその内容物として含有されていない)が得られるまで、ホメオパシー(homeopathic)・テクノロジーの原理に基づきながら、スタンダード化されている作用の影響を受けるのである(「ホメオパシー(homeopathic)医薬品」。記述、及び製造主幹V.シュヴァーベ, モスクワ市. 1967年. 12-38ページを参照されたい)。」

・B4(4頁右欄下から2行?5頁左欄57行)
「実施例3
ヒスタミンに対する抗体の活性化された極微量のドーズが、インドメタシン(indomethacin)によって誘発された胃の潰瘍性疾患をもつ雑種のメスのマウスの胃腸管のモーター(motor)・吸引(evacuator)活性に対してどのような影響を与えているかということを研究するにあたって、ヒスタミンに対する培養物C12+C30+C200の混合物におけるヒスタミンに対する免疫性(immune)のウサギの抗体は、予防治療のクールを受け、その際、9昼夜にわたって毎日、マウスに対して0,3m?の容量が注入されたのである。同じようなレジームで、そのドーズが0,3の蒸留水C12+30+200が注入された。ヒスタミンに対する抗体が、インドメタシン(indomethacin)によって誘発された胃の粘膜(mucous coat)に潰瘍性疾患をもつ雑種のメスのマウスの胃腸管がもっているモーター(motor)・吸引(evacuator)活性に対してどのような影響を与えているかということを研究するにあたっては、“マーキング(marking)”メソッドを用いることがおこなわれた。プレパラートを注入することを開始してから8昼夜が経過した時点で、マウスに対して、そのドーズが20mg/kgのインドメタシン(indomethacin)が1昼夜に2回の割合で注入されたのであるが、4時間が経過した時点で、さらに、抗体が1時間あたり、潰瘍誘発(ulcerogenic)を適用するまで注入されたのであった。マウスに対するインドメタシン(indomethacin)の最後の注入がおこなわれてから18時間が経過した時点で、“マーキング(marking)”として、消化器官に対して、活性炭が注入された。ここで研究対象となっているところのプレパラートの最後の注入と炭素の間における時間的インターバルは、1時間とされている。実験用動物は、首の椎骨(neck-bone)を脱臼(dislocation)させることによって屠殺されるとともに、炭素を注入してから10分間が経過した時点で、腸に沿った炭素の動きの長さを評価するとともに、胃を切開して肉眼(macroscopical)で胃の粘膜(mucous coat)の構造破壊的損傷の量や特徴が確定された。
得られたデータに関する分析によって明らかになったことは、次のことである。すなわち、潰瘍性疾患を発症している実験用動物において、ヒスタミンに対する抗体は、胃腸管の運動性(motility)を確実に加速化する、ということである(表7を参照されたい)。もしも、実験用マウスのコントロール群において、炭素が10分間で腸の長さの73,1%を通過したとするならば、他方、ヒスタミンに対する抗体を付与された実験群において、その指標は、98,9%にまで達するのである(P<0,01)。ここで、以下の点についても指摘しておかなければならないであろう。すなわち、実験用動物のコントロール群では、炭素の大部分が、マウスの胃に残留したわけであり、しかも、その最も大きなポーションのみが10分間で腸に沿って通過したかぎりにおいて、50%の実験用動物において、腸の痙攣性(spastic)症状が観察された(P<0,001)、ということである。このようにして、ヒスタミンに対する抗体は、このモデルに対して肯定的な影響を与えるのであり、実験用動物のコントロール群と比較しても、35,3%まで腸の運動性能を加速化させたのである。
ここで、実験の結果を総括するならば、極微量のドーズのヒスタミンに対する抗体がもっている活性化形態は、ホメオパシー(homeopathic)・テクノロジーによって準備されるのであり、抗痙攣性(antispasmatic)作用を有しているのだ、ということである。」

・B5(10頁「表7」)
「 表7
ヒスタミンに対する抗体が、雑種のメスのマウスの胃の粘膜(mucous coat)においてインドメタシン(indomethacin)に起因して誘発(induction)された潰瘍をもつ胃腸管のモーター(motor)・吸引(evacuator)機能に対して与える影響



(1-3)刊行物C
刊行物Cは、本願の出願日とみなされる平成23年7月15日と同日に国際出願された、本願の請求人(本願出願人)と同一の出願人による特願2013-519174号の公表公報であって、次の事項が記載されている。

・C1(特許請求の範囲)
「【請求項1】
a)S-100タンパク質に対する活性化増強型抗体と、b)ヒスタミンに対する活性化増強型抗体と、c)TNF-アルファに対する活性化増強型抗体とを含むことを特徴とする組み合わせ医薬組成物。
・・・
【請求項22】
胃腸管の機能的病因の疾患又は状態を治療する方法であって、a)ヒスタミンに対する活性化増強型抗体、b)S-100タンパク質に対する活性化増強型抗体、及びc)TNF-アルファに対する活性化増強型抗体を、それを必要とする患者に、実質的に同時に投与することを含むことを特徴とする方法。
・・・」

・C2(【0002】?【0009】)
「【0002】
本発明は、医薬の分野に関し、過敏性腸症候群、及び腸を含めた胃腸管(GIT)の運動排泄機能の障害を含めた、GITの機能的な障害又は状態を治療するために使用することができる。
【0003】
超低用量のヒスタミン抗体に基づいて胃腸管のびらん性炎症性疾患を治療することは、当技術分野で公知である(特許文献1)。しかし、この医薬調製物では、全ての場合において、機能的腸障害を治療するための十分な治療効果を確実にすることはできない。
・・・
【先行技術文献】
・・・
【0007】
【特許文献1】露国 特許第2197266号明細書
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、組み合わせ医薬組成物並びに過敏性腸症候群(irritated bowel syndrome)及び運動排泄機能の障害を含めた胃腸管の機能的障害の治療におけるその使用方法を対象とする。」

・C3(【0024】?【0026】)
「【0024】
「活性化増強型」又は「増強型」という用語はそれぞれ、本明細書において列挙されている抗体に関しては、任意の抗体の最初の溶液のホメオパシーポテンタイゼーション(potentization)の生成物を示すために使用される。「ホメオパシーポテンタイゼーション」とは、ホメオパシーの方法を用いて最初の関連物質の溶液にホメオパシーポーテンシーを付与することを示す。そのように限定するものではないが、「ホメオパシーポテンタイゼーション」は、例えば、連続した希釈を、外部からの処理、特に垂直方向の(機械的な)振とうと組み合わせて繰り返すことを伴ってよい。言い換えれば、ホメオパシーの技術に従って、抗体の最初の溶液を連続して繰り返し希釈し、得られた溶液をそれぞれ多数回、垂直方向に振とうする。溶媒、好ましくは水又は水とエチルアルコールの混合物中の抗体の最初の溶液の好ましい濃度は、約0.5mg/mlから約5.0mg/mlまでに亘る。各成分、すなわち、抗体溶液を調製するための好ましい手順は、それぞれ100倍単位ホメオパシー希釈物(C12、C30、及びC200)に相当する、抗体の一次マトリックス溶液(母液)を100^(12)倍希釈、100^(30)倍希釈及び100^(200)倍希釈した3種の水希釈物若しくは水-アルコール希釈物の混合物を使用すること、又は、それぞれ100倍単位ホメオパシー希釈物(C12、C30及びC50)に相当する抗体の一次マトリックス溶液を100^(12)倍希釈、100^(30)倍希釈及び100^(50)倍希釈した3種の水希釈物若しくは水-アルコール希釈物の混合物を使用することである。ホメオパシーポテンタイゼーションの例は、その全体が参照により明示された目的で本明細書に組み込まれる、米国特許第7,572,441号及び同第7,582,294号に記載されている。特許請求の範囲では「活性化増強型」という用語が使用され、実施例では「超低用量」という用語が使用される。「超低用量」という用語は、ホメオパシーにより希釈され、増強された型の物質の研究及び使用によって創出された技術分野における専門用語になった。「超低用量(ultra-low dose)」又は「超低用量(ultra-low doses)」という用語は、特許請求の範囲において使用される「活性化増強」型という用語を完全に支持し、それと主に同義であるものとする。
【0025】
言い換えれば、抗体は、3つの因子が存在すれば、「活性化増強」型又は「増強」型である。第1に、「活性化増強」型抗体は、ホメオパシーの技術分野では広く受け入れられている調製プロセスの生成物である。第2に、「活性化増強」型抗体は、現代薬理学において広く受け入れられている方法によって決定される生物活性を有さなければならない。第3に、「活性化増強」型抗体により示される生物活性は、ホメオパシーのプロセスの最終生成物に分子型抗体が存在することによっては説明することができない。
【0026】
例えば、活性化増強型抗体は、最初の、単離された分子型抗体を、機械的な振とうなどの外部からの衝撃と併せて連続して多数回希釈することによって調製することができる。濃度低下の過程における外部からの処理は、例えば、超音波、電磁気、又は他の物理的因子に曝露させることによって実現することもできる。その全体が参照により明示された目的で本明細書に組み込まれるV. Schwabe 「Homeopathic medicines」、M.、1967年、米国特許第7,229,648号及び同第4,311,897号には、ホメオパシーの技術分野において広く受け入れられているホメオパシー増強の方法であるそのようなプロセスが記載されている。この手順により、最初の分子型抗体の分子濃度が均一に低下する。所望のホメオパシーポーテンシーが得られるまでこの手順を繰り返す。個々の抗体について、所要のホメオパシーポーテンシーは、中間希釈物を所望の薬理学的モデルにおいて生物学的試験に供することによって決定することができる。そのように限定するものではないが、「ホメオパシーポテンタイゼーション」は、例えば、外部からの処理、特に垂直方向の(機械的な)振とうと組み合わせて連続した希釈を繰り返すことを伴ってよい。言い換えれば、ホメオパシーの技術に従って、抗体の最初の溶液を連続して繰り返し希釈し、得られた溶液をそれぞれ多数回、垂直方向に振とうする。溶媒、好ましくは水又は水とエチルアルコールの混合物中の抗体の最初の溶液の好ましい濃度は、約0.5mg/mlから約5.0mg/mlに亘る。・・・」

・C4(【0062】)
「【0062】
例えば、12-100倍希釈物(C12と示される)を調製するために、3.0mg/mlの濃度のヒスタミンに対する抗体の最初のマトリックス溶液1部を、中性の、水を含む又は水-アルコールを含む溶媒(好ましくは、15%エチルアルコール)99部中に希釈し、次いで何回も(10回以上)垂直方向に振とうして、第1の100倍単位希釈物(C1と示される)を創出する。第1の100倍希釈物C1から第2の100倍単位希釈物(C2)を調製する。この手順を11回繰り返して第12の100倍単位希釈物C12を調製する。したがって、第12の100倍単位希釈物C12は、異なる容器内で、3.0mg/mlの濃度の抗体の最初のマトリックス溶液1部を中性の溶媒99部中に12回段階希釈することによって得られる溶液を表し、100倍単位ホメオパシー希釈物C12に相当する。関連する希釈因子を用いて同様の手順を実施して所望の希釈物を得る。中間希釈物を所望の生物学的モデルにおいて試験して活性を確認することができる。本発明の組み合わせを含む抗体の好ましい活性化増強型は、各活性化増強型についてC12希釈物、C30希釈物及びC200希釈物である。・・・」

・C5(【0071】?【0083】 実施例1)
「【0071】
実施例1
i)最初のマトリックス溶液を高希釈することによって得られ、抗原に対してアフィニティー精製した、超低用量の、ヒスタミンに対する抗体(His Ab)(100^(12)希釈物、100^(30)希釈物、100^(200)希釈物(C12、C30及びC200)の混合物、並びにii)a)最初のマトリックス溶液を高希釈することによって得られ、抗原に対してアフィニティー精製した、超低用量の、ヒスタミンに対する抗体(His Ab)(100^(12)希釈物、100^(30)希釈物、100^(200)希釈物(C12、C30及びC200)の混合物、b)、最初のマトリックス溶液を高希釈することによって得られ、抗原に対してアフィニティー精製した、超低用量の、タンパク質S-100に対する抗体(S-100 Ab)(100^(12)希釈物、100^(30)希釈物、100^(200)希釈物(C12、C30及びC200)の混合物)及びc)最初のマトリックス溶液を高希釈することによって得られ、抗原に対してアフィニティー精製した、超低用量の、腫瘍壊死因子アルファに対する抗体(TNF Ab)(100^(12)希釈物、100^(30)希釈物、100^(200)希釈物(C12、C30、及びC200)の混合物)の組み合わせ(S100 Ab+TNF Ab+His Ab)の効果を調査する3つの実験的試験。
【0072】
試験1.マウスの胃腸管(GIT)の運動排泄機能に対する効果
非近交系の雄のマウス31匹(質量17.5?26.3g、1.5?2ヶ月齢)に、蒸留水(対照、15ml/kg)か、His Ab(15ml/kg)か、又はS100 Ab+TNF Ab+His Ab(15ml/kg)を5日間にわたって胃内注射した。胃腸の運動排泄機能の状態を、「マーカー」法によって試験した[・・・1977年・・・]。最後に注射した1時間後、2%ジャガイモデンプン粘液で調製した活性炭の10%懸濁液を、マウス当たり0.5mlの量で、「マーカー」としてマウスの消化管に注射した。「マーカー」を注射してから10分以内に、胃及び腸を回収し、ガラス板の上に広げた。マーカーで満たされた腸の全体的な長さを測定した(すなわち、腸の活性炭で満たされた部分の長さの全体的な長さに対する比率、百分率として表す)。
・・・
【0075】
表1.非近交系の雄のマウスのGITの運動排泄活性に対する被試験調製物の効果
【表1】

*対照に関して、差異は統計的に有意である(p<0.05)
#His Ab群に関して、差異は統計的に有意である(p<0.05)
【0076】
試験2.マウスのGITの分泌機能に対する効果
非近交系の雄のマウス33匹(質量17.5?26.3g、1.5?2ヶ月齢)に、蒸留水(対照、15ml/kg)か、His Ab(15ml/kg)か、又はS100 Ab+TNF Ab+His Ab(15ml/kg)を4回胃内注射した。腸の分泌機能の状態を、G.V.Obolentsev法を用いて試験した(・・・1996年・・・)。各試験調製物を、10mg/kgの用量の活性炭と一緒に注射した。炭の黒色が付いた糞便の出現を陽性とみなした。実験開始から3時間、6時間、及び24時間の時点で測定を行った。・・・
【0077】
表2.非近交系の雄のマウスにおける腸の排泄機能に対する被試験調製物の効果
【表2】

【0080】
試験3.鎮痙活性
非近交系の雄のマウス30匹(質量17.5?26.3g、1.5?2ヶ月齢)に、蒸留水(対照、15ml/kg)か、His Ab(15ml/kg)か、又はS100 Ab+TNF Ab+His Ab(15ml/kg)を5日間にわたって胃内注射した。調製物の鎮痙活性を、J.Setnicar法・・・[・・・(1959年)・・・]に従って評価した。最後に注射した1時間後、マウスに、0.1%のBaCl_(2)溶液0.2mlを腹腔内注射し、2%ジャガイモデンプン粘液で調製した活性炭の10%懸濁液0.5mlを胃内注射した。10分後に動物を屠殺した。次いで、全体的な腸の長さと炭で満たされた部分の比率を決定した。・・・
【0082】
表3.「炭素マーカー」法(BaCl_(2)を用いる)による被試験調製物の鎮痙効果の評価
【表3】

*対照に関して、差異は統計的に有意である(p<0.05)
#His Ab群に関して、差異は統計的に有意である(p<0.05)
【0083】
したがって、S100Ab+TNF Ab+His Abの組み合わせが、His Abの有効性を超える鎮痙効果を保有することが示された。」

(1-4)刊行物E
(刊行物Eは英語で記載されているため、当審で作成した和訳文にて記す。)

・E1(標題)
「 ホメオパシーの臨床効果はプラセボ効果か?
ホメオパシー及びアロパシーのプラセボ対照試験の比較研究 」

・E2(726頁「要約」)
「 要約
背景 ホメオパシーは広く用いられているが、ホメオパシーのレメディの特異的効果は信じ難いように思われる。ホメオパシー及び従来医薬の双方の治験の陽性所見に対する可能性のある説明は、治験の実施及び報告におけるバイアス(bias)である。我々は、ホメオパシー及び従来医薬の治験を解析し、最もバイアスにより影響される可能性の低い治験における治療効果を評価した。

方法 ホメオパシーのプラセボ対照臨床試験は網羅的な文献検索により同定され、同検索は19の電子データベース、関連文献の参照リスト、及び専門家との接触をカバーした。疾患及び転帰のタイプがホメオパシー治験と対応する従来医薬の治験は、Cochrane Controlled TrialsRegister(1号、2003年)から無作為に選択した。データは2連で抽出されオッズ比が1indicated benefitを下回るようにコード化された。適切な無作為化を伴い二重盲検として記述された治験はより高い方法論的な質を有するものと想定された。バイアス効果はファンネルプロット及びメタ回帰分析モデルにおいて検討された。

所見 110のホメオパシー治験及び110の対応する従来医薬の治験が解析された。調査サイズの中央値は65参加者(10-1573の範囲)であった。21(19%)のホメオパシー治験及び9(8%)の従来医薬の治験がより高い質のものであった。双方の群において、より小さく質の低い治験は、より大規模で質の高い治験に比して、より有益な治療を示した。解析をより質の高い大きな治験に限定した場合、オッズ比はホメオパシー(8治験)では0・88(95%、CI 0・65-1・19)であり従来医薬(6治験)では0・58(0・39-0・85)であった。

解釈 ホメオパシー及び従来医薬の双方のプラセボ対照治験において、バイアスが存在する。これらのバイアスを解析において考慮に入れた場合、ホメオパシーのレメディにおける特異的効果の根拠は薄弱であったが、従来医薬の特異的効果を示す強力な証拠が存在した。この所見は、ホメオパシーの臨床上の効果はプラセボ効果であるという考えと適合するものである。」

・E3(726頁左欄1行?右欄10行)
「 序
ホメオパシーは、広く用いられているが物議を醸している補充又は代替療法である。^(1-3) その基本前提は、同類のものは同類のものにより治癒する(・・・) -疾患は健康な個人において同じ徴候及び症状を引き起こす物質により治療され得る、ということである。^(4、5) レメディの製法は、連続した、通常最初の物質の分子が残存しない程度にまでの希釈、及び、希釈間の激しい振とう(ポテンタイゼーション)を含む。このプロセス期間中に情報が最初の物質から溶媒に移行されると考えられており^(6)、これは現在の知識では信じ難いと考えられる。それ故に、多くの人々が。ホメオパシーのあらゆる効果は非特異的なプラセボ効果であると推測している。^(7) 治験の実施及び報告におけるバイアス(bias)が、ホメオパシー及びアロパシー(従来医薬)双方のプラセボ対照治験における陽性所見に対する可能性のある説明である。^(8、9) 出版バイアス(Publication bias)は、有意な結果を伴わない治験の公表に比してより統計上有意で有益な結果を伴う治験の、優先的でより迅速な公表として定義される。^(10) 多くの治験における低い方法論的質が、もう1つの重要なバイアスの源である。^(11) これらのバイアスは、大規模な研究に対してより、小規模な研究に対して影響を及ぼす可能性が高い; 研究がより小規模なら、結果が統計上有意であるとするのに必要な治療効果はより大きくなるが、大規模な研究は、より高い方法論的質を伴っており、結果が否定的であっても公表される。我々は、プラセボ対照知見のマッチドペア(matched pairs)にみられるホメオパシー及び従来医薬の効果を検討し、治験の質及び公表可能性及び関連バイアスを査定し、そのようなバイアスに最も影響されない大規模治験の結果を推定した。」

・E4(726頁右欄11行?727頁左欄1行)
「 方法
文献検索及びデータ源
我々は、1995年8月までの出版物をカバーするホメオパシーのプラセボ対照治験についての以前の網羅的検索^(12)をアップデートした。専門化されたホメオパシー及び補完医療の登録を含み、1995年から2003年1月までの期間をカバーする、19の電子データベース:MEDLINE、Pre-MEDLINE、EMBASE、DARE、CCTR、CDSR、CINAHL、AMED、MANTIS、Toxline、PASCAL、BIOL、Science Citation Index、CISCOM、British Homeopathic Library、the Homeopathy Abstract page、HomInform Homoeopathic library、 NCCAM、及びSIGLEを検索した。・・・」

・E5(731頁左欄14?27行)
「 以前のレビューは、メタ解析を含まなかったが、多くのホメオパシー治験が有益な効果を示しているが方法論的に質が低いことを見出した。^(20)Linde及び共同者によるメタ解析^(12)は、広範な文献検索に基づいており、これを我々が本研究のためにアップデートしたが、従来医薬の治験を含むものではなかった。これらの研究者の結論は、彼らの結果が“ホメオパシーの臨床上の効果が完全にプラセボによるものである、との仮説とは適合しない”というものであった。しかしながら、後の同一データに対するより詳細な解析^(24)において、彼らは、より厳密な治験ほどより小さい効果しかもたらさなかったこと、及び、彼らのメタ解析^(12)はおそらく“少なくともホメオパシー治療の効果を過大評価した”といことを述べている。」

・E6(731頁右欄29?36行)
「 我々の研究は、異なるバイアス源の関係及び累積的効果を強力に説明するものである。ないことを証明することが不可能であることは認めるが、^(31) 我々はホメオパシーのプラセボ対照治験にみられる効果がプラセボ仮説に適合することを示すに至った。これとは対照的に、我々は同じ方法を用いて、従来医薬の有益な効果が非特異的効果により説明されるとは思われないことを見出した。」

・E7(732頁左欄 参照文献「12」)
「12 Linde K, ・・・ Lancet 1997; 350:834-43.」


(2)刊行物A?C、Eから把握される本願出願時の当業者における理解・認識について
上の(1)で摘記した刊行物A?C、Eの記載によれば、本願発明に規定される多数回の希釈、振とう及び混合工程の繰り返し工程に係る「ホメオパシーの技術」、当該「ホメオパシーの技術」により得られるとされている「レメディー」(本願発明における「ホメオパシー希釈物」又はその「混合物」に相当)、及びその薬理作用について、当業者であれば、少なくとも次の(2-1)?(2-3)の事項を把握することができる。

(2-1) 刊行物Aは、その全体の内容からみて、本願発明に係る「ホメオパシー希釈物」及びその「混合物」の製造に係る「ホメオパシー」及びその技術について、講演形式で紹介し得る程度の知識及び使用経験を有する、ホメオパシー技術の実効性について肯定的な筆者によるものと解されるところ、当該刊行物Aをみても、「ホメオパシー希釈物」中の薬理活性成分の実体の構造(又は組成)や物性(例えば「ホメオパシーの‘気’」(A1)、「レメディ」による「刺激」(A2)、「効力」(A3?A5))等に関して、明確に把握し得る合理的な説明がなされ得ていない。
即ち、当業者の中でもホメオパシー分野に精通していると思われる一部の当業者においてでさえ、所望の薬理作用を有する「レメディー」(本願発明のa)、b)の各「ホメオパシー希釈物」又は両者の「混合物」に相当)について、その構造(又は組成)又は物性は、検証可能又は論証可能なように具体的かつ合理的に説明され得ていない。
また、実際に「ポテンシー」を具備する「レメディー」の取得は容易ではない(A3?A5)。

(2-2) 刊行物Bと刊行物C(いずれも本願と同一の出願人による特許出願に係る公報)では、いずれも、抗ヒスタミン抗体のC12+C30+C200ホメオパシー希釈物の混合物、及びそのびらん性又は炎症性胃腸管に対する運動活性化作用について記載されている(薬理作用についてはB1、B4、B5;C1、C2)ところ、当該刊行物B、刊行物Cのいずれにも、用いたホメオパシー希釈物の混合物の製造に際し用いた原材料の抗ヒスタミン抗体の種類や投与時の用量等の詳細な条件について明らかにされていない。
しかも、刊行物B、C間では、当該ホメオパシー希釈物の混合物の使用に係る薬理試験系が同等とはいえないことから、厳密な対比の上で評価することは困難であるものの、
・刊行物Bでは、抗ヒスタミン抗体のC12+C30+C200ホメオパシー希釈物の混合物が、例えば胃腸管の運動(motor)、吸引(evacuator)機能を顕著に高めることが、そのことを示す具体的な薬理試験データと共に記載されている(B4、B5);
のに対し、
・刊行物Cでは、刊行物Bの混合物と同等の物と認められる抗ヒスタミン抗体のC12+C30+C200ホメオパシー希釈物の混合物を投与しても、有意な長運動の活性化効果が奏されない(対照群である「蒸留水」投与群の効果との間に有意差が認められない)ことが、具体的な薬理試験データと共に記載されている(C5の試験例1?3の試験結果を示す表1?3中の各「HisAb」投与群と「蒸留水」投与群とを対比のこと);
という、一見したところ明らかに不整合な試験結果が示されている。
即ち、本願出願人により提示された、同種の抗体溶液に対し同じ「ホメオパシー技術」を用いて得られたとみられる、同じ「ホメオパシー希釈物」の混合物同士でさえ、有していたとされるぞれぞれの薬理作用の有無において、整合しない試験結果が得られる場合がある。

(2-3) ホメオパシーの技術については、本願出願前に広く知られており、当該技術におけるレメディ(ホメオパシー医薬)の製法は、連続した、通常最初の物質の分子が残存しない程度にまでの希釈、及び、希釈間の激しい振とう(ポテンタイゼーション)を含み、このプロセス期間中に情報が最初の物質から溶媒に移行されると考えられているが、これは現在の知識では信じ難いと考えられている(E2、E3)。
以前のホメオパシー療法のプラセボ対照治験における陽性所見はプラセボ効果と推測され、バイアスによるものと考えられる。このバイアスは大規模な研究より小規模な研究において影響すると考えられることから、そのようなバイアスに最も影響されない大規模治験の結果についてメタ解析を行ってみたところ、アロパシー医薬(従来医薬)の効果は特異的といえる一方、ホメオパシー医薬における特異的効果の存在の根拠は薄弱である、との結果が得られ、これはホメオパシー療法の効果がプラセボであるとの考えと適合する(E2、E3、E5、E6)。

これら(2-1)?(2-3)の事項を踏まえると、上述の「ホメオパシーの技術」、並びに、当該技術を用いて得られるとされる「ホメオパシー希釈物」又はその「混合物」及びそれらの薬理作用に関する、本願出願時の当業者の理解・認識は、以下の1)及び2)の程度に留まるものとみるのが相当である。

1) 希釈する前の原材料溶液中の成分(例えば、本願発明における抗IR、抗eNOSのような抗体)の種類や濃度、溶媒の種類や濃度等と、「ホメオパシー」の技術を用いて当該溶液に対する希釈・振とう処理を繰り返してなる「ホメオパシー希釈物」又はその混合物との間には、所望の薬理作用(例えば、本願発明における抗糖尿病作用)の発生について、明確な因果関係の存在を合理的に推認することはできない。
即ち、当業者といえども、希釈する前の溶液中の成分が有する薬理作用から、「ホメオパシーの技術」を用いて当該溶液に対する希釈・振とう処理を繰り返してなる「ホメオパシー希釈物」又はその混合物における薬理作用の有無、及び(有る場合でも)その質や程度を合理的に推測することはできない。

2) そもそも、希釈する前の原材料溶液中の成分の種類や濃度等によらず、「ホメオパシーの技術」を用いて当該溶液に対する多数回の希釈、振とう及び混合処理を繰り返すことにより製造される「ホメオパシー希釈物」又はその混合物(これらの中には、上記原材料溶液中の成分はもはや含まれていない(はずである))が、何らかの所望の薬理作用を有する、とは、当業者といえども技術常識からみて合理的に理解できない。仮に、何らかの所望の薬理作用を有する試験結果が得られたとしても、それは「バイアス」によるものであり、若しくはプラセボ効果の域を出るものではなく、そのような薬理効果がみられたとされる場合でも、その当該薬理作用の質及び/又は程度は、試験条件等に依らず常に一貫して同様であるともいえない。

[ ※当審注:
なお、ここでいう「当業者」としては、例えば刊行物Aの著者のようなホメオパシー技術の有用性に対し肯定的な一部の技術者のみを指すわけではなく、当該一部の技術者より大多数の、医薬分野における通常の知識を有する者が広くこれに含まれることはいうまでもない。
本項の前後の、他の箇所でいう「当業者」についても同様である。 ]

4.小括

(1) 以上、1.を踏まえた2.?3.での検討をまとめると、概要次の(1-1)?(1-2)のように判断される。

(1-1) 本願発明において、原材料(i-1)?(i-3)、及びその処理工程(ii-1)?(ii-3)の組合せにより得られるとされている、生産物(iii)(医薬組成物(iii))中の薬効成分の実体であるa)及びb)の混合物が、確かに医薬用途に適した薬理作用(抗糖尿病作用)を有するものであることは、請求項1の規定のみから合理的に理解することはできない。
そして、本願明細書及び図面の記載をみても、本願発明における原材料(i-1)?(i-3)に対し処理工程(ii-1)?(ii-3)の処理工程を施すことで得られるa)及びb)の混合物中に、(単なる溶媒それ自体にはない)所望の薬理作用(抗糖尿病作用)を有する物が確かに在する(又は存在し得る)ことを、当業者が認識又は合理的に推測するに足る具体的かつ合理的な説明は、一切なされていない。
実施例の項をみても、それら実施例において取得し使用したとされる、本願発明のa)及びb)の混合物又はそれを含む医薬組成物(iii)の例として記載されている「ULDの抗IR+ULDの抗eNOS」溶液又はその錠剤(「Subetta」を含む)、及び、それらが所望の薬理作用(抗糖尿病作用)を有することを示すとされている試験結果についての技術事項が、全て当業者が検証し追試/再現することができる正確な(確かな)ものである、とも合理的に理解できないし、仮に正確な(確かな)ものであったとしても、それら実施例の記載やその前段の本願明細書の記載に基づいて、当該実施例において製造されているのと同等の構造(又は組成)及び物性を有するa)及びb)の混合物を製造し製剤化するための条件、並びに、その投与により当該実施例の試験結果として示されているのと同等の薬理作用をもたらしめるための、同製剤化された物の用法・用量条件を得るためには、当業者にとり許容し得る程度を超える試行錯誤等を要することになる。

(1-2) 本願発明における処理工程(ii-1)?(ii-3)に関するホメオパシーの技術は、それ自体は本願出願時当業者にとり広く知られていたものの、そもそも、希釈する前の原材料溶液中の成分の種類や濃度等によらず、当該「ホメオパシー」の技術を用いることで得られる「ホメオパシー希釈物」又はその「混合物」が、何らかの所望の薬理作用を有するとは信じ難く、そのような薬理作用の存在を示す陽性所見はバイアスか又はプラセボ効果によるものである可能性がある、というのが、本願出願時の大多数の当業者における技術常識又は通常の認識であった。
なお、かかる技術常識又は通常の認識を考慮すればなおのこと、本願明細書の実施例の各試験結果がいずれも正確(確か)であり、当業者が検証し追試/再現し得るに十分な技術事項を提示しているともいえない。

(2) してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載、及び本願出願時の技術常識を以ては、本願発明の原材料(i-1)?(i-3)及びその処理工程(ii-1)?(ii-3)により得られる、本願発明の生産物(iii)である医薬組成物が確かに医薬用途に適した薬理作用を確かに有することを、当業者が合理的に認識又は推測し得るとはいえない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本願はその明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしていない。


[4-2]理由2について

1. 特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そして、本願発明により解決されるべき課題は、請求項1の規定によれば、同項に規定される生産物(製造対象物又は製造目的物)である医薬組成物、即ち、「医薬」用途に適した薬理作用(「糖尿病及び他の代謝障害の治療及び予防」(本願明細書【0001】)作用)を有する組成物、を製造する方法の提供にあるものと認められる。

2. しかしながら、[4-1]で検討し説示したとおり、本願出願時の技術常識を併せ踏まえても、原材料(i-1)?(i-3)及びその処理工程(ii-1)?(ii-3)により得られる、本願発明における生産物(iii)である医薬組成物について、当該医薬組成物中に含まれるa)及びb)の混合物が確かに医薬用途に適した薬理作用を有することを、当業者が発明の詳細な説明の記載から理解し得るとはいえない。
そうすると、そのような発明の詳細な説明の記載を以ては、請求項1に係る製造方法が、上述の課題を解決できると当業者が認識し得る範囲のものである、ということはできないが、そうであるにもかかわらず請求項1にはそのような製造方法が記載されている。

3. したがって、請求項1に係る発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえず、サポート要件を満たさない。


[4-3]理由3について

[4-1]2.(2)(2-1)で述べたとおり、請求項1に係る医薬組成物(iii)中の薬効成分の実体である、a)及びb)の各ホメオパシー希釈物の混合物、及び当該a)及びb)の混合物の構造(又は組成)や物性は、請求項1に規定される原材料(i-1)?(i-3)及びその処理工程(ii-1)?(ii-3)に係る規定のみを以ては、当業者が明確に把握できるものとはいえない。また、当該a)及びb)の混合物が、医薬用途に適した薬理作用(「糖尿病及び他の代謝障害の治療及び予防」(本願明細書【0001】作用)を有していることが、請求項1の規定から合理的に把握又は推認できるともいえない。
そして、主に[4-1]2.(2)(2-2)で検討し述べたとおり、上記のa)及びb)の混合物の構造(又は組成)や物性、並びに、当該a)及びb)の混合物が確かに医薬用途に適した薬理作用を有することが、本願明細書の発明の詳細な説明において、当業者にとり検証しまた追試/再現し得る程度の技術事項の提示と共に、十分具体的かつ合理的に説明されているともいえない。

即ち、請求項1に係る医薬組成物中の薬効成分の実体であるa)及びb)の混合物とは、一体どのような物であるのか、について、本願明細書の発明の詳細な説明の記載や本願出願時の技術常識を踏まえても、請求項1の記載から当業者が明確かつ合理的に把握することができるとはいえない。
また、そうであれば、例えば、請求項1の医薬組成物の薬効成分の実体であるa)及びb)の混合物が、単なる原材料の一部である「溶媒」自体と対比した場合、その構造(又は組成)や物性、薬理作用等において如何に異なるものであるのか(或いは、実質的に相違しないのか)についても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識を踏まえつつ、請求項1の記載から当業者が明確に理解することができるともいえない。

そうすると、請求項1においては、その発明特定事項のうち、生産物(製造目的物)である
「a)ヒトインスリン受容体に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物と、b)内皮NO合成酵素に対する抗体のC12、C30、及びC200ホメオパシー希釈物の混合物とを含むことを特徴とする医薬組成物」
について、当業者が明確に把握することができるとはいえず、よって、かかる発明特定事項を含む請求項1の記載は、明確ではない。


[4-4]請求人の主張について

1.請求人の主張の概要
請求人は、令和2年3月3日付けの意見書(以下、単に「意見書」という)において、
・同日付けの手続補足書に添付された参考文献1?47;
・「スベッタ」を使用した2つの臨床試験:
NCT01868594(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01868594?term=NCT01868594&draw=2&rank=1)
NCT01868646(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/study/NCT01868646?term=NCT01868646&draw=2&rank=1) ;
・「超高希釈薬の25の臨床試験に関するデータ」として「https://clinicaltrials.gov/ct2/results?term=Materia+Medica+Holding&Search=Apply&recrs=e&age_v=&gndr=&type=&rslt=]
等を引用しつつ、
・「クレームされた発明の概念について」、概要以下の(1);
・「拒絶理由に対して」、概要以下の(2);
及び
・「本願出願時の当業者における理解・認識について」、概要以下の(3);
・「スベッタ」(「Subetta」)について、概要以下の(4);

を述べ、これらに基づき、[第3]の拒絶の理由はいずれも存在しないことを主張する。(下線は当審による。)

(1)「クレームされた発明の概念について」
ホメオパシー技術(またはそのバリエーション)に従って得られた製品は、下記の2点において、溶液の「純粋な溶媒」とは根本的な違いがある。
1.物理的および化学的な違い
さまざまな物質の超高希釈液は、物理的および化学的特性が溶媒とは異なる。これは、例えば、熱容量の異常、水分子の原子核の緩和、電気伝導率などとして現れる。
2.機能の違い
様々な物質の超高希釈液には、共通の特性、即ち、標的に作用してその立体構造を変化させる能力があり、その機能特性によりこれらの製品は医療に使用できる。生物学的システムのターゲットに対する物質の超高希釈の特異性は、超高希釈液の製造に使用される出発物質の構造と生物学的システムにおけるそのターゲットとの関係によるものである。

(2)「拒絶理由に対して」
(2-1) 日本特許庁は、以前にホメオパシー薬の特許を付与している(例えば、特許公報5819909B2、特許JP6495572B2)ことから、請求項に記載された組成物と「単なる溶媒」との間に差異がないことが真実であっても(これは全く真実でないが)、本願発明の特許性を妨げることはできない。
(2-2) 参考文献1?10や同11?15に示されるように、ホメオパシー希釈の構造(及び/又は物理的及び化学的特性)、並びに、ホメオパシー希釈の構造及び/又は物理的及び化学的特性が「単純な溶媒」とどのように異なるかについて知られている。
例えば、参考文献2(2009)及び3(2010)では、ヒスタミンと酸化ケイ素のホメオパシー希釈の緩和時間の変化が溶媒と比較して示されており、参考文献5(2010)では、最先端の技術(TEM、SAED、およびICP-AES)を使用して、非常に高い希釈度でも出発物質とその凝集体のナノ粒子の存在が実証されていることが示されており、参考文献1(2005)では、強化されたホメオパシー療法と強化された溶媒の間に物理的な違いが見られ、この違いは、サンプルの年齢、溶媒、容器の材料に関連することが示されている。また、参考文献4(2003)では、塩化リチウムと塩化ナトリウムの超高希釈液がX線とγ線で照射され、その後徐々に室温に戻され、その段階で、熱ルミネッセンスが研究され、アボガドロ数を超えて希釈されたにもかかわらず、放出された光は最初に溶解した元の塩に特異的であることが示されている。
(2-3) (本願発明が)どのように機能するかを説明する必要はないが、メカニズムを説明できる仮説としては、例えば最近「The Spatial Homeostasis Hypothesis」(Symmetry 2018、10(4)、103;doi:10.3390/sym10040103)や、「The phenomenon of release activity and the hypothesis of spatial homeostasis」(Uspehi Fiziologicheskih Nauk-2013.Vol.44,No3.P.54-76)が公開されている。
また、請求項に記載された組成物のデータ(実施例)、及び参考文献16?36等において知られているデータは、その薬学的活動の存在を直接示している。

(3)「本願出願時の当業者における理解・認識について」
(3-1)(刊行物A?Cについて)
刊行物A記載のデータは、本願の請求項に記載された構成に直接適用されない(刊行物Aは、本願の調製方法によって規定された組成物とは異なる、別の目的に使用される他の調製物についての記載のものである)。他の刊行物についても同様である。
(3-2)(刊行物Eについて)
参考文献43(1997)では、大規模なメタ分析が行われた結果、ホメオパシー療法の効果はプラセボ効果では説明できないと結論付けられている。
また、刊行物Eに関して、参考文献44(2008)では、テスト間の不均一性がメタ分析結果の信頼性を低下させるため、刊行物Eにおける結論は、刊行物Eで報告および議論されたほど明確ではないと結論付けられている。
さらに、参考文献45(1997)には、ホメオパシー治療法の臨床試験を実施することの困難さが指摘されており、この難しさは、診断を行う初期段階だけでなく、処方された治療に対する患者の反応に応じて処方を調整する段階にもある。無作為化二重盲検プラセボ対照試験を実施することは、このアプローチと矛盾する。
また、ホメオパシー療法の臨床試験を実施することの困難さが参考文献46(2017)に示されている。
いずれにせよ、刊行物Eに記載されたデータは、請求項に記載の組成物に直接適用されない(刊行物Eは、調製方法によって規定された組成物とは異なる他の調製物を指し、他の目的に使用される)。
他方、参考文献47(2014)のメタ分析の結果は、個別療法中に出現したホメオパシー療法がプラセボと比較して1.5倍から2.0倍のプラスの効果があることを示した。

(4)「スベッタ」(「Subetta」)について
ヒトインスリン受容体のベータサブユニットのC末端断片に対する抗体のホメオパシー希釈物の混合物と内皮NO合成酵素に対する抗体のホメオパシー希釈物の混合物を含む医薬組成物は、Materia Medica Holdingにより、ロシア連邦(Reg.No.LSR-007376/10;LP-N(000028)-(WG-RU))、メキシコ(Reg.No. 007H2019 SSA)、及びトルクメニスタン(Reg。No. LS-A No. 018298)において、スベッタとして、製造販売されている。即ち、スベッタとして知られる請求項に記載の医薬組成物は、上記の国々で医薬品として販売許可を受けている。
また、本願発明の医薬組成物である「スベッタ」が、インビトロで成熟ヒト脂肪細胞によるアディポネクチン(インスリン感作等に役割を果たす)の分泌を増加させることや、2型糖尿病モデルであるGK/Parラットにおいて抗糖尿病作用をもたらすことは、参考文献29や参考文献28(いずれも査読付きジャーナル)に示されているとおりである。
「スベッタ」の薬理効果については、参考文献39?42にも示されている。

2.請求人の主張についての当審の判断
請求人が引用する参考資料1?47等やそれらに基づく意見書での請求人の主張は、本願明細書又は図面の記載により何ら具体的に裏付けられたものではなく、それら主張はいずれも本願明細書又は図面の記載に基づくものとはいえない。
そして、それら参考資料等に基づく主張は、本願発明に係る製造方法により得られる任意のa)及びb)の混合物が、確かに所望の薬理作用(抗糖尿病作用)若しくはそれ以外の何らかの薬理作用をもたらす医薬組成物の有効成分として使用し得ること、及び、そのことを本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び/又は本願出願時の技術常識から当業者が確かに認識し理解し得ること、を、何ら合理的に説明し得たものではない。
よって、1.(1)?(4)の請求人の主張は、いずれも採用できない。
以下、請求人の上記(1)?(4)について述べる。

(1)主張1.(1)について
請求人のいう「物理的および化学的な違い」に関し、本願発明に係る医薬組成物中に含まれるa)及びb)の混合物が、例えば「熱容量の異常、水分子の原子核の緩和、電気伝導率」、若しくはその他の「物理的」又は「化学的」性質において、「純粋な溶媒」と如何に異なるのか、について、請求項1中では何ら具体的に規定されていない。また、この点について、本願明細書又は図面中で具体的かつ合理的に説明されている箇所を見出すこともできない。
即ち、かかる「物理的および化学的な違い」に関する請求人の主張は、請求項の記載に基づくものともいえないし、本願明細書又は図面の具体的な記載に基づくものともいえない。
また、「機能の違い」に関し、本願明細書及び図面の記載が、本願発明における医薬組成物中の薬効成分であるa)及びb)の混合物が所望の薬理作用(抗糖尿病作用)若しくはそれ以外の何らかの薬理作用を確かに有することを当業者が検証し追試・再現するための十分具体的及び/又は合理的な開示及び裏付けを欠いていることは、[4-1]?[4-2]で検討し説示したとおりである。
そして、本願発明に係る医薬組成物における、請求人のいう「標的に作用してその立体構造を変化させる能力」等については、本願明細書や図面の記載中で何ら具体的に裏付けられているわけでもない。

(2)主張1.(2)について
・1.(2)(2-1)について
請求人が引用する特許第5819909号や特許第6495572号が付与されたことは、本願についての上述の拒絶の理由1.?3.に係る[4-1]?[4-3]の当審の判断を、何ら合理的に妨げ得るものではない。
・1.(2)(2-2)及び(2-3)について
本願発明に係る医薬組成物中に含まれるa)及びb)のホメオパシー希釈物の混合物が、請求人が参考文献1?5を例に挙げて述べている「緩和時間の変化」、「出発物質とその凝集体のナノ粒子の存在」、「サンプルの年齢、溶媒、容器の材料に関連する」物理的な違い、x線・γ線照射後の「熱ルミネッセンス」等の点で、「単純な溶媒」と如何に異なるのか、について、請求項1中では何ら具体的かつ明確に規定されていない。また、それらの「単純な溶媒」との相違点について、本願明細書又は図面中で具体的かつ合理的に裏付けられている記載箇所を見出すこともできない。その他の参考資料6?36等についても同様である。
即ち、この点に関する請求人の主張は、請求項の記載に基づくものともいえないし、本願明細書又は図面の記載に基づくものともいえない。

(3)主張1.(3)について
・1.(3)(3-1)について
請求人は、例えば、刊行物A?Cにおいて記載又は引用されているホメオパシー希釈物の組成物が、「本願の調製方法によって規定された組成物」や単なる「溶媒」と構造(又は組成)等の点で如何に「異なる」物であるのか、また、そのことが本願明細書又は図面中のどの部分の記載を以て当業者が検証し追試・再現することが可能なように裏付けられているといえるのか、といった点について、何ら具体的かつ合理的な釈明をしていない。
・1.(3)(3-2)について
刊行物Eを引用した拒絶理由通知書での指摘に対し、請求人が引用した参考資料43?47の記載事項やそれに基づく主張は、本願明細書又は図面の記載により何ら具体的に裏付けられたものではないから、それら主張はいずれも本願明細書又は図面の記載に基づくものとはいえない。
また、そもそも、それら参考資料43?47は、本願発明における原材料(i-1)?(i-3)及びその処理工程(i-1)?(i-3)の組合せにより得られるとされているa)及びb)の混合物が、刊行物Eにいう「バイアス」若しくは「プラセボ」効果ではない所望の薬理作用(抗糖尿病作用)を確かにもたらす物であって当業者が検証し追試・再現可能な物である、ということを、何ら具体的及び/又は合理的に説明し得ているものではない。

なお、特に参考資料43、44、47については、以下の点を併せて付記しておく。
・参考資料43は、刊行物E中で参照文献12として引用されており(摘記E4、E5、E7)、刊行物Eは当該参照文献12(参考資料43)の内容を踏まえた上でのメタ解析の結果について述べたものである。
・参考資料44は、「Shangのメタ解析」(即ち刊行物E)を参照文献[1]として引用しており、同メタ解析の結果及び(刊行物Eの)結論は、治験間の高い不均一性故に発表された程の確かさを有するものではない旨結論付けられてはいる(要旨中の「結論(Conclusion)」の項等)ものの、文末の「5.結論(Conclusions)」欄では、併せて、(当該参考資料44で示された結果は)ホメオパシー医薬がプラセボより優れていることを証明するものではない(その逆を証明するものでもない)旨述べられている(1203頁左欄23?25行)。
・参考資料47は2014年(本願の出願日と見なされる2011年7月15日の後)に発行された文献であって、本願明細書又は図面に記載された内容のものでもなければ、本願出願時当業者にとり技術常識として知られていた内容のものでもないから、この点において、そもそも拒絶理由通知書の記載不備の解消のために参酌し得るものではない。
また、仮に、参酌したとしても、同資料47には、本願発明に係る医薬組成物の製造方法について何ら詳細に言及されておらず、少なくとも、本願発明における原材料(i-1)?(i-3)及びその処理工程(ii-1)?(ii-3)により所望の薬理作用を有するa)及びb)の混合物を含む本願発明の医薬組成物(iii)を確かに製造し得ること、並びに、そのことが本願明細書の発明の詳細な説明で十分に開示されまた裏付けられていることを、何ら具体的かつ合理的に説明し得たものとはいえない。

(4)主張1.(4)について
請求人が意見書において、ロシア連邦、メキシコ及びトルクメニスタンで医薬品として許可を受け製造販売されているのと述べている「スベッタ」(「Subetta」)が、本願明細書の実施例3で用いられている「Subetta」と同一の錠剤であるのだとしても、そのことは、本願明細書中で何ら裏付けられていない。
また、仮にそうであるとしても、そのことを以て、本願明細書及び図面の記載、ホメオパシーに関する本願出願時の当業者における認識、及びそれらを踏まえた上の[4-1]?[4-3]の当審の判断は、何ら合理的に妨げられるものではない。

即ち、参考資料29や28、及びその他の参考資料39?42等における「Subetta」が、本願明細書の実施例3で用いられている「Subetta」と同一の錠剤であるのだとしても、それら参考資料29、28、39?42等における「Subetta」に関する試験結果等の技術事項は、いずれも本願明細書又は図面中で具体的に裏付けられていたものとはいえず、本願における上述の記載不備に係る拒絶の理由1.?3.の解消のために参酌し得るものではない。
また、仮に参酌するとしても、それら参考資料等は、例えば本願明細書の実施例3の「Subetta」と同等の錠剤(医薬組成物)の具体的な製造条件や適切な用法・用量条件、及び、当該錠剤が所望の薬理作用を確かに有することについて、当業者が検証し追試・再現し得る程度の具体的及び/又は合理的な説明をなし得ているものではなく、それら具体的及び/又は合理的な説明に係る技術事項が本願明細書又は図面の記載により十分に提示されていることを何ら合理的に裏づけるものでもない。

よって、これら「スベッタ」(「Subetta」)に関する参考資料等、及びそれらに基づく請求人の主張は、本願発明の原材料(i-1)?(i-3)及びその処理工程(ii-1)?(ii-3)により、「糖尿病及び他の代謝異常の治療及び予防」(本願明細書【0001】)に有効な薬理作用を有するとされる「スベッタ」と同等の本願発明の医薬組成物を、当業者が有意な再現性を以て製造し得ること; 及び、そのことが本願明細書の発明の詳細な説明の記載により十分に開示されまた裏付けられていること; を、何ら具体的かつ合理的に説明し得たものとはいえない。

なお、請求人は、特に参考資料29、参考資料28がそれぞれ査読付きジャーナルへの掲載物であることを述べているが、それら参考資料29、28の内容に関し、各発行後に各ジャーナルから、「ホメオパシー」(「Homeopathy」)技術や試験の「方法及び報告」(「Methods and Rporting」)内容の一貫性等の点について、以下のとおり「懸念の表明」(「Expression of Concern」)」において疑義が呈されていることを付記しておく。

(いずれも、インターネット検索日:令和2年6月19日)
・参考資料29について
Hindawi
InternationalJournal of Endocrinology
Volume 2019, ArticleID 6595878, 2 pages
https://doi.org/10.1155/2019/6595878
(http://downloads.hindawi.com/journals/ije/2013/925874.pdf)
・参考資料28について
Hindawi
Journalof Diabetes Research
Volume 2019, ArticleID 2938413, 2 pages
https://doi.org/10.1155/2019/2938413
(http://downloads.hindawi.com/journals/jdr/2013/763125.pdf)


[4-5]むすび

以上のとおりであるから、本願は、
・請求項1に係る発明について、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしておらず;
・請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしておらず; また、
・請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない;
から、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は[第3]1.?3.の理由により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-06-30 
結審通知日 2020-07-07 
審決日 2020-08-21 
出願番号 特願2016-131729(P2016-131729)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A61K)
P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 貴子  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 大久保 元浩
冨永 みどり
発明の名称 糖尿病及び代謝障害を治療する組み合わせ医薬組成物及び方法  
代理人 流 良広  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 廣田 浩一  

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