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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1369807
審判番号 不服2019-10082  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-31 
確定日 2021-01-06 
事件の表示 特願2017-560332号「撮像制御装置、撮像装置、撮像システム、移動体、撮像制御方法、及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月11日国際公開、WO2018/185939号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)4月7日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年11月12日付け:拒絶理由通知書
平成30年12月27日 :意見書、手続補正書の提出
令和元年 5月21日付け:拒絶査定(謄本送達 同年同月28日)
令和元年 7月31日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和元年11月 8日 :上申書の提出
令和2年 3月 9日付け:拒絶理由通知書(発送 同年同月10日 以下「当審拒絶理由」という。)
令和2年 4月 2日 :意見書、手続補正書の提出

2.本願発明
(1)本願の請求項1ないし18に係る発明は、令和2年4月2日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
撮像面とレンズとが第1位置関係にある状態で撮像された第1撮像画像に含まれる第1画像と、前記撮像面と前記レンズとが第2位置関係にある状態で撮像された第2撮像画像に含まれる第2画像を取得する取得部と、
前記第1画像及び前記第2画像のそれぞれのぼけ量を点像分布関数に従って算出する算出部と、
前記第1画像のぼけ量と前記第2画像のぼけ量との差が第1閾値以上の場合、前記第1画像及び前記第2画像のそれぞれのぼけ量に基づいて、前記撮像面と前記レンズとの位置関係を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、ぼけ量を算出する場合、前記撮像面または前記レンズを予め定められた移動量の範囲で移動させることで、前記撮像面と前記レンズとの位置関係を制御し、
前記取得部は、前記第1画像のぼけ量と前記第2画像のぼけ量との差が前記第1閾値より小さい場合、前記撮像面と前記レンズとが第3位置関係にある状態で撮像された第3撮像画像に含まれる第3画像をさらに取得し、
前記算出部は、前記第3画像のぼけ量をさらに算出し、
前記制御部は、前記第1画像のぼけ量と前記第3画像のぼけ量との差が前記第1閾値以上の場合、前記第1画像及び前記第3画像のそれぞれのぼけ量に基づいて、前記撮像面と前記レンズとの位置関係を制御し、
前記取得部は、前記第1撮像画像に含まれる第4画像及び前記第2撮像画像に含まれる第5画像をさらに取得し、
前記算出部は、前記第4画像及び前記第5画像のそれぞれのぼけ量をさらに算出し、
前記制御部は、前記第1画像のぼけ量と前記第2画像のぼけ量との差が前記第1閾値より小さく、かつ前記第4画像のぼけ量と前記第5画像のぼけ量との差が前記第1閾値以上の場合、前記第4画像及び前記第5画像のそれぞれのぼけ量に基づいて、前記撮像面と前記レンズとの位置関係を制御し、
前記取得部は、前記第1撮像画像に含まれる前記第1画像に隣接する第6画像及び前記第2撮像画像に含まれる前記第2画像に隣接する第7画像をさらに取得し、
前記算出部は、前記第6画像及び前記第7画像のそれぞれのぼけ量をさらに算出し、
前記制御部は、前記第1画像のぼけ量と前記第2画像のぼけ量との差が前記第1閾値以上で、かつ前記第6画像のぼけ量と前記第7画像のぼけ量との差が前記第1閾値以上である場合、前記第1画像、前記第2画像、前記第6画像、及び前記第7画像のそれぞれのぼけ量に基づいて、前記撮像面と前記レンズとの位置関係を制御する、撮像制御装置。」

(2)上記(1)によれば、特許請求の範囲の請求項1は、「第1画像のぼけ量と第2画像のぼけ量との差が第1閾値以上の場合」には、「第1画像及び第2画像のそれぞれのぼけ量(のみ)に基づいて、撮像面とレンズとの位置関係を制御する」、次の発明を含むと認められる。
「撮像面とレンズとが第1位置関係にある状態で撮像された第1撮像画像に含まれる第1画像と、前記撮像面と前記レンズとが第2位置関係にある状態で撮像された第2撮像画像に含まれる第2画像を取得する取得部と、
前記第1画像及び前記第2画像のそれぞれのぼけ量を点像分布関数に従って算出する算出部と、
前記第1画像のぼけ量と前記第2画像のぼけ量との差が第1閾値以上の場合、前記第1画像及び前記第2画像のそれぞれのぼけ量に基づいて、前記撮像面と前記レンズとの位置関係を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、ぼけ量を算出する場合、前記撮像面または前記レンズを予め定められた移動量の範囲で移動させることで、前記撮像面と前記レンズとの位置関係を制御する、撮像制御装置。」

3.拒絶の理由
当審拒絶理由は、概略、次のとおりのものである。

この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.当審の判断
(1)発明の詳細な説明の記載内容
ア 令和2年4月2日になされた手続補正により補正された発明の詳細な説明には、次の内容が記載されている。
「【0045】
撮像装置100は、AF処理を実行するために、レンズから被写体までの距離(被写体距離)を決定する。被写体距離を決定するための方式として、レンズと撮像面との位置関係が異なる状態で撮像された複数の画像のぼけ量に基づいて決定する方式がある。ここで、この方式を、ぼけ検出オートフォーカス(Bokeh Detection Auto Foucus:BDAF)方式と称する。
【0046】
例えば、画像のぼけ量(Cost)は、ガウシアン関数を用いて次式(1)で表すことができる。式(1)において、xは、水平方向における画素位置を示す。σは、標準偏差値を示す。


【0047】
図3は、式(1)に表される曲線の一例を示す。曲線500の極小点502に対応するレンズ位置にフォーカスレンズを合わせることで、画像Iに含まれるオブジェクトに焦点を合わせることができる。
【0048】
図4は、BDAF方式の距離算出手順の一例を示すフローチャートである。まず、撮像装置100で、レンズと撮像面とが第1位置関係にある状態で、1枚目の画像I_(1)を撮像してメモリ130に格納する。次いで、フォーカスレンズまたはイメージセンサ120の撮像面を光軸方向に移動させることで、レンズと撮像面とが第2位置関係にある状態にして、撮像装置100で2枚目の画像I_(2)を撮像してメモリ130に格納する(S101)。例えば、いわゆる山登りAFのように、合焦点を超えないようにフォーカスレンズまたはイメージセンサ120の撮像面を光軸方向に移動させる。フォーカスレンズまたはイメージセンサ120の撮像面の移動量は、例えば、10μmでよい。
【0049】
次いで、撮像装置100は、画像I_(1)を複数の領域に分割する(S102)。画像I_(2)内の画素ごとに特徴量を算出して、類似する特徴量を有する画素群を一つの領域として画像I_(1)を複数の領域に分割してよい。画像I_(1)のうちAF処理枠に設定されている範囲の画素群を複数の領域に分割してもよい。撮像装置100は、画像I_(1)の複数の領域に対応する複数の領域に画像I_(2)を分割する。撮像装置100は、画像I_(1)の複数の領域のそれぞれのぼけ量と、画像I_(2)の複数の領域のそれぞれのぼけ量とに基づいて、複数の領域ごとに複数の領域のそれぞれに含まれるオブジェクトまでの距離を算出する(S103)。
【0050】
図5を参照して距離の算出手順についてさらに説明する。レンズL(主点)からオブジェクト510(物面)までの距離をA、レンズL(主点)からオブジェクト510が撮像面で結像する位置(像面)までの距離をB、焦点距離をFとする。この場合、距離A、離B、及び焦点距離Fの関係は、レンズの公式から次式(2)で表すことができる。


【0051】
焦点距離Fはレンズ位置で特定される。したがって、オブジェクト510が撮像面で結像する距離Bが特定できれば、式(2)を用いて、レンズLからオブジェクト510までの距離Aを特定することができる。
【0052】
図5に示すように、撮像面上に投影されたオブジェクト510のぼけの大きさ(錯乱円512及び514)からオブジェクト510が結像する位置を算出することで、距離Bを特定し、さらに距離Aを特定することができる。つまり、ぼけの大きさ(ぼけ量)が撮像面と結像位置とに比例することを考慮して、結像位置を特定できる。
【0053】
ここで、撮像面から近い像I_(1)からレンズLまでの距離をD_(1)とする。撮像面から遠い像I_(2)からレンズLまでの距離をD_(2)とする。それぞれの画像はぼけている。このときの点像分布関数(Point Spread Function)をPSF、D_(1)及びD_(2)における画像をそれぞれ、I_(d1)及びI_(d2)とする。この場合、例えば、像I_(1)は、畳み込み演算により次式(3)で表すことができる。


【0054】
さらに、画像データI_(d1)及びI_(d2)のフーリエ変換関数をfとして、画像I_(d1)及びI_(d2)の点像分布関数PSF_(1)及びPSF_(2)をフーリエ変換した光学伝達関数(Optical Transfer Function)をOTF_(1)及びOTF_(2)として、次式(4)のように比をとる。


【0055】
式(4)に示す値Cは、画像I_(d1)及びI_(d2)のそれぞれのぼけ量の変化量、つまり、値Cは、画像I_(d1)のぼけ量と画像I_(d2n)のぼけ量との差に相当する。
【0056】
ところで、ぼけ量の異なる2つの画像から2つの画像に含まれるオブジェクトまでの距離を算出する場合、2つの画像のぼけ量の差が小さいと、図3に示すような曲線500を正確に特定できず、オブジェクトまでの距離を正確に算出できない場合がある。例えば、図6Aに示すように、画像I_(0)から得られるぼけ量C(t_(0))と、画像I_(1)から得られるぼけ量C(t_(1))との差が閾値Thより小さいと、ぼけ量C(t_(0))及びぼけ量C(t_(1))から特定されるガウシアン関数の曲線522は、理想の曲線にはならないことがある。曲線522から特定されるレンズ位置524は、結像位置に対応する理想のレンズ位置520からずれている。図6Bも同様であり、画像I_(0)から得られるぼけ量C(t_(0))と、画像I_(2)から得られるぼけ量C(t_(2))との差が閾値Thより小さい。この場合、ぼけ量C(t_(0))及びぼけ量C(t_(2))から特定されるガウシアン関数の曲線526から特定されるレンズ位置528は、理想のレンズ位置520からずれている。一方、例えば、図6Cに示すように、画像I_(0)から得られるぼけ量C(t_(0))と、画像I_(3)から得られるぼけ量C(t_(3))との差が閾値Th以上の場合、ぼけ量C(t_(0))及びぼけ量C(t_(3))から特定されるガウシアン関数の曲線530から特定されるレンズ位置532は、理想のレンズ位置520と一致する。xまたはXは、フォーカスレンズの位置を示す。
【0057】
以上の通り、BDAF方式でオブジェクトまでの距離を決定する場合には、比較対象となる画像同士のぼけ量の差が予め定められた閾値以上であることが望ましい。

イ 図3ないし6は次のとおりである。








(2)理由(特許法36条第4項第1号違反)について
当審拒絶理由では下記アないしエの点を指摘した。
ア 上記(1)によれば、「第1画像及び前記第2画像のそれぞれのぼけ量に基づいて、前記撮像面と前記レンズとの位置関係を制御する」ためには、「レンズから被写体までの距離(被写体距離)を決定する」(【0045】)必要があるとされる。
さらに、当該「被写体距離を決定するための方式として、レンズと撮像面との位置関係が異なる状態で撮像された複数の画像のぼけ量に基づいて決定する方式がある」(【0045】)として、「画像のぼけ量(Cost)は、ガウシアン関数を用いて次式(1)で表すことができる。式(1)において、xは、水平方向における画素位置を示す。σは、標準偏差値を示す。【数1】(省略)」(【0046】)とされている。
そして、「図3は、式(1)に表される曲線の一例を示す。曲線500の極小点502に対応するレンズ位置にフォーカスレンズを合わせることで、画像Iに含まれるオブジェクトに焦点を合わせることができる。」(【0047】)とされる。

イ しかしながら、当該「曲線500」(【数1】で表されるガウシアン関数)は、「画像のぼけ量(Cost)は、ガウシアン関数を用いて次式(1)で表すことができる。式(1)において、xは、水平方向における画素位置を示す。σは、標準偏差値を示す。」(【0046】)とされるのに対して、「式(1)に表される曲線の一例を示す」「図3」(【0047】)は、上記「(2)」「イ」に示すとおり、縦軸を「Cost」とし、横軸を「レンズ位置」とするグラフであって、当該「x(水平方向における画素位置)」と横軸(レンズ位置)とは別異の物である。
したがって、明細書等における「曲線500」(【数1】で表されるガウシアン関数)に関する段落【0046】における【数1】の説明と段落【0046】における図3の説明は齟齬があり、本願明細書等の説明では、どのようにして画像のぼけ量(Cost)から、「レンズから被写体までの距離(被写体距離)を決定する」(【0045】)ことができるのか理解できない。

ウ また、上記(1)のとおり、「撮像装置100は、画像I_(1)の複数の領域のそれぞれのぼけ量と、画像I_(2)の複数の領域のそれぞれのぼけ量とに基づいて、複数の領域ごとに複数の領域のそれぞれに含まれるオブジェクトまでの距離を算出する」(【0049】)に際して、「撮像面上に投影されたオブジェクト510のぼけの大きさ(錯乱円512及び514)からオブジェクト510が結像する位置を算出することで、距離Bを特定し、さらに距離Aを特定することができる。つまり、ぼけの大きさ(ぼけ量)が撮像面と結像位置とに比例することを考慮して、結像位置を特定できる。」(【0052】)こと自体が技術的に理解できない。
例えば、「1枚目の画像I_(1)」及び「2枚目の画像I_(2)」の位置関係が、図5のように焦点位置に対して同じ側ではなく、焦点位置を挟んで位置する場合は、下記参考図1のように、単に、「ぼけの大きさ(ぼけ量)が撮像面と結像位置とに比例することを考慮して、結像位置を特定できる。」(【0052】)とはいえないと解される。
【参考図1】(本願の図5を元に当審が作成した。)


エ さらに、本願明細書等を見ても、「曲線500」に関して、「1枚目の画像I_(1)」及び「2枚目の画像I_(2)」のみからは特定できないと理解される。
したがって、「曲線500」が特定の形状のものに限定されないため、下記参考図2の522、530、参考曲線1、参考曲線2、参考曲線3のように、「ぼけ量の異なる2つの画像から2つの画像に含まれるオブジェクトまでの距離を算出する場合」(【0056】)に、「曲線500を正確に特定できず、オブジェクトまでの距離を正確に算出できない」(【0056】)こととなる。
したがって、上記本願請求項1に係る発明において、「第1画像及び前記第2画像のそれぞれのぼけ量に基づいて、前記撮像面と前記レンズとの位置関係を制御する」ことを、具体的にどのようにして実施するのか、本願明細書等を見ても理解できない。
さらに言うと、一般に2つのレンズ位置でのぼけ量がわかったとしても、結像位置は特定できない。本願の図3、図6のグラフ(上記「(1)」「イ」)の縦軸の「Cost」の極小値は、被写体のコントラストによっても変化するが、(一般的なカメラ撮影のために使用する場合)どのような被写体を撮影しているのかは通常わからないからである。また、被写体がどのようなものであるのかわかっていたとしても(通常そのようなことはないが)、ぼけ量を測定した2つのレンズ位置の間に結像位置がある(上記参考図1の場合)のか、2つのレンズ位置から離れたレンズ位置に結像位置がある(上記「(1)」「イ」図5の場合)のかは(いわゆる山登り駆動でもしない限り)判別不能であるから、やはり2つのレンズ位置のぼけ量がわかったとしても結像位置は特定できない。
【参考図2】(本願の図6Cを元に当審が作成した。)


(3)請求人の主張
当審拒絶理由で指摘した理由(上記「(2)」)に対して、審判請求人は、令和2年4月2日になされた手続補正において、補正前の請求項1に補正前の請求項2、3、4の構成を付加するとともに、「前記制御部は、ぼけ量を算出する場合、前記撮像面または前記レンズを予め定められた移動量の範囲で移動させることで、前記撮像面と前記レンズとの位置関係を制御し、」との構成を付加し、あわせて、発明の詳細な説明の段落【0046】において、「画像のぼけ量(Cost)」とあったものを「画像のぼけ量」と補正するとともに、段落【0047】において、「式(1)に表される曲線」とあったものを「式(1)を用いて計算した曲線」と補正することを含む補正を行うとともに、同日に提出された意見書の「【意見の内容】」「3.本願発明が特許されるべき理由」において、下記のとおり主張する。
「本意見書と同日に提出した手続補正書により、段落0046及び段落0047の誤記を訂正した。式(1)で表される画像のぼけ量を用いて計算したCost曲線が、例えば、図3に示す曲線500である。この訂正により、段落0046の式1の説明と、段落0046の図3の説明との齟齬は解消した。

ここで、ガウシアン関数が示すものは、ぼけ量の変化具合を示す。例えば、ある特定のレンズ位置で取得した1枚の画像にこのガウシアン関数を提供することでぼけ量の分布を計算できる。さらに、異なるレンズ位置で取得した他の1枚の画像のぼけ量分布を算出し、2つのぼけ量分布を用いて、図3に示すようなCost曲線を導出できる。
確かに、合焦点を超えるようにレンズを移動させてしまうと、参考図1のような状況になり、正確にCost曲線を導出できない可能性がある。そこで、ぼけ量を算出する場合には、段落0048に記載にように、例えば、レンズは、10μmなど予め定められた移動量で移動させることが好ましい。この点が明確になるように、補正後の請求項1および17では、ぼけ量を算出する場合には、撮像面またはレンズを予め定められた移動量の範囲で移動させる点を規定した。
一方で、段落0056などに記載の通り、撮像面またはレンズを予め定められた移動量の範囲で移動させても、ぼけ量の差が小さすぎると、正確にCost曲線を導出できない可能性が高まる。そこで、本願発明では、ぼけ量の差が第1閾値以上の場合に、それらのぼけ量を用いて、Cost曲線を導出している。2つの画像のぼけ量のみでは、より正確なCost曲線を導出できない可能性はあるが、少なくともぼけ量の差が第1閾値以上あれば、ある程度の精度のCost曲線を導出できる。ある程度の精度のCost曲線を得られれば、少なくともレンズをどちらの方向にどれだけ移動させれば、合焦させることができるかをある程度の精度で判断できる。そして、その判断に従い、レンズをさらに移動させながら、レンズの移動の過程で、さらに画像のぼけ量を算出すれば、Cost曲線の精度を向上させられる。そして、最終的により精度よく、合焦させることができる。

以上の通り、段落0046-0047の誤記を訂正することで、発明の詳細な説明の記載は、いわゆる当業者が本願発明を実施できる程度に明確且つ十分に記載したものとなった。これにより、特許法第36条第4項第1号に係る拒絶理由は解消した。」

(4)当審の判断
理由(特許法36条4項1号違反)について(下線は当審が付した。以下同じ。)
ア 上記「(2)」「イ」で指摘した点について
上記(3)のとおり、段落【0046】において、「画像のぼけ量(Cost)」とあったものを「画像のぼけ量」と補正するとともに、段落【0047】において、「式(1)に表される曲線」とあったものを「式(1)を用いて計算した曲線」と補正しても、「曲線500」(【数1】で表されるガウシアン関数)は、「画像のぼけ量は、ガウシアン関数を用いて次式(1)で表すことができる。式(1)において、xは、水平方向における画素位置を示す。σは、標準偏差値を示す。」(【0046】)とされるのに対して、「式(1)を用いて計算した曲線の一例を示す」「図3」(【0047】)は、上記「(1)」「イ」に示すとおり、縦軸を「Cost」とし、横軸を「レンズ位置」とするグラフであるから、当該「x(水平方向における画素位置)」と横軸(レンズ位置)との関係が不明(別異の物)であることに変わりはない。
したがって、上記補正によっても、発明の詳細な説明及び図面(以下「明細書等」という。)における「曲線500」が【数1】で表されるガウシアン関数を用いてどのように計算して導けるのかは不明であり、本願明細書等の説明では、どのようにして画像のぼけ量から、「レンズから被写体までの距離(被写体距離)を決定する」(【0045】)ことができるのか依然として理解できない。

イ 上記「(2)」「ウ」及び「エ」で指摘した点について
請求人は、補正前の請求項1に、「前記制御部は、ぼけ量を算出する場合、前記撮像面または前記レンズを予め定められた移動量の範囲で移動させることで、前記撮像面と前記レンズとの位置関係を制御し、」との構成を付加し、意見書において「確かに、合焦点を超えるようにレンズを移動させてしまうと、参考図1のような状況になり、正確にCost曲線を導出できない可能性がある。そこで、ぼけ量を算出する場合には、段落0048に記載にように、例えば、レンズは、10μmなど予め定められた移動量で移動させることが好ましい。この点が明確になるように、補正後の請求項1および17では、ぼけ量を算出する場合には、撮像面またはレンズを予め定められた移動量の範囲で移動させる点を規定した。」(上記(3))と主張するが、上記補正は、「予め定められた移動量の範囲で移動させる」と特定するにとどまり、「10μmなど予め定められた移動量で移動させること」を特定せず、「合焦点を超えるようにレンズを移動させてしまう」ことを排除しないから、上記補正によっても、上記「(2)」「ウ」で指摘した、「『1枚目の画像I_(1)』及び『2枚目の画像I_(2)』の位置関係が、図5のように焦点位置に対して同じ側ではなく、上記参考図1のように、焦点位置を挟んで位置する場合は、単に、『ぼけの大きさ(ぼけ量)が撮像面と結像位置とに比例することを考慮して、結像位置を特定できる。』(【0052】)とはいえないと解され」、「撮像面上に投影されたオブジェクト510のぼけの大きさ(錯乱円512及び514)からオブジェクト510が結像する位置を算出することで、距離Bを特定し、さらに距離Aを特定することができる。つまり、ぼけの大きさ(ぼけ量)が撮像面と結像位置とに比例することを考慮して、結像位置を特定できる。」(【0052】)こと自体が依然として技術的に理解できず、また、上記「(2)」「エ」で指摘したとおり、「一般に2つのレンズ位置でのぼけ量がわかったとしても、結像位置は特定でき」ず、「また、被写体がどのようなものであるのかわかっていたとしても(通常そのようなことはないが)、ぼけ量を測定した2つのレンズ位置の間に結像位置がある(上記参考図1の場合)のか、2つのレンズ位置から離れたレンズ位置に結像位置がある(図5の場合)のかは(いわゆる山登り駆動でもしない限り)判別不能であるから、やはり2つのレンズ位置のぼけ量がわかったとしても結像位置は特定できない」から、「第1画像及び前記第2画像のそれぞれのぼけ量に基づいて、前記撮像面と前記レンズとの位置関係を制御する」ことを、具体的にどのようにして実施するのか、本願明細書等を見ても依然として理解できない。

ウ 以上ア及びイの検討によれば、令和2年4月2日になされた手続補正による補正及び同日付けの意見書の主張を踏まえても、発明の詳細な説明の記載は、上記「2.」「(2)」に示した発明を含む本願発明の全体について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

5.むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-07-29 
結審通知日 2020-08-04 
審決日 2020-08-20 
出願番号 特願2017-560332(P2017-560332)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 雅明  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 近藤 幸浩
松川 直樹
発明の名称 撮像制御装置、撮像装置、撮像システム、移動体、撮像制御方法、及びプログラム  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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